09/03/11 05:08:37 VNjgvlcY0
「あー……ゴホン。確かに、アイドルの現実的な結婚というのは、ファンに衝撃を与えるものだ。
写真集やCDの売り上げも落ちる。商業的には歓迎すべき要素ではない。それは事実だ。
だが……ファンを優先し、想い人を封印するような人生をアイドル本人に求めるのは、私の信条ではない。
歌う事で、ステージで輝く事で……まずは、君達自信が幸せになりたまえ!!
確かに会社は利潤を追求する場所ではあるが、それは私の仕事だから、任せてくれて構わんよ。それに……」
その話をするとき……いつも黒い社長に、ほんの少し赤みが差したような気がしました。
「それに……な。実は私も、人の事はとやかく言えんのだよ」
そう言って笑う社長の心に映っていたのは、一体誰の事だったのか……ちょっと気になりました。
「だから……三浦くん、もしも心の底から愛すべき運命の人を見つけたというのなら、迷う事は無い。
そして、その気持ちを……この歌に分けてもらえるかね?
日本全国、すべての恋人達を心から祝福したくなるような歌を……時代を超えて、遺してみんかね?」
そんな社長の一言で、空気が震えた。
隣を見なくとも、あずささんの心に炎が宿ったのが、すぐに分かってしまった。
彼女の心から燃え上がるのは、きっと想い人への熱烈な恋心。
すぐそばにいる、幸せの蒼い鳥にどうしても振り向いて欲しくて……
三浦あずさその人は、全身全霊を以ってこの歌に魂を込めることでしょう。
この歌のサブボーカルを務めるのは……とても光栄な事であり、また、大変難しくもあるようです。
「如月君……おそらく、昔のキミなら心のどこかに迷いがあったはずだ。
だが、今はきっと出来る。キミに翼を与えてくれた……いや、キミの翼となってくれた大切な人間に、
想いの全てをぶつけてみてはどうかね?歌の出来栄えやCDの売り上げは、今は忘れたまえ。
キミも三浦くんと同じだよ。芸能プロダクションの社長が言ってはいけない台詞かもしれんが、
本気で一緒になりたい男性が現れたなら、その本気を迷い無く、歌に乗せて欲しい。
その気持ちがホンモノだと感じたら……私は、人気や世間体に関係なく、キミを祝福するつもりだよ」
その人を【誰】と特定しないのは、多分社長としての立場から。
芸能界には素人同然だったという私のプロデューサーを勘だけで入社させたと言うこの人にも、
プロデューサーと同じくらい、いっぱい感謝したい……
業界のルールを知りながらもプロデューサーたちを自由にさせ、バックアップしてくれる、この偉大なる経営者に。
うわべだけでなく、心から所属アイドルと社員のために命を懸けている、この人に。
(……でも、似合いませんね。うちのプロデューサーが髪を肩まで伸ばすなんて)
そんな事を考えながらも、わたしの心はとてもワクワクしていた……
■
「千早、凄いぞ!!アルバムがほとんどの店で瞬殺だ!……残念ながら千早の歌はトップじゃないけど」
プロデューサーが、会社のパソコンで例のCDの売り上げおよび評判をチェックしながら言った。
「一番話題に上がっているのは、どの曲ですか?」
「ああ、千早も参加したあずささんの『結婚しようよ』だな。何ていうかその……幸せな気分になれる。
明日を生きるのが楽しみになるってさ。これは最高の誉め言葉かもな」
「ファンの方には喜んでいただけたのですね。良かった……社長のレッスンのおかげです」
「凄いなぁ……そうだ千早!社長がどんなレッスンしたのか教えてくれないか?今後の参考に是非!」
きっとそれは純粋に、会社とわたしのために言ってくれたのでしょう。
ですが、とてもあの時の事を話すなど、恥ずかしくて出来るわけもありません。
わたしは、何とか理由をつけて必死にお断りし、逃げるようにオフィスを出てトレーニングに行きました。
いつか、面と向かっていえる日が来るのでしょうか?
『プロデューサー……あなたと結婚したいと思いながら、わたしの全てを込めて歌いました』と……
……多分、その日は生涯来ないでしょうね……歌うよりずっとずっと、恥ずかしすぎるから。
※フォークソングの成分に、角砂糖を六個くらい入れたらこうなりました。
雪歩・美希・伊織はキャラ的にぴったりの曲が浮かばなくて全員分考えるのは断念orz
春香・小鳥デュオに『結婚しようよ』を歌わせたら、なんか洒落にならない真剣味が出る気がする。
上手すぎて、真剣すぎて、逆に怖いほどの情感が出て発売できないような……