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■三月の仕事(ランクB)
「こんにちは、美しいお嬢さん……いや、これは失礼。アイドルに美しいなんて、
当たり前すぎる言葉でしたね、本物のアイドルに会えて俺、緊張してるみたいですよ」
「え、えぇ?美しい……や、やだなぁもう!お世辞でも嬉しいなー♪」
「冗談を。お世辞にしては物足りなさ過ぎる言葉ですよ。あぁ……この感動をどう
表現していいか、俺の頭ではいい言葉が見つかりません……何と言うか、光栄です」
「う、うわぁ……」
【美しいお嬢さん】という言葉に、先制パンチを受けた真は早くもホストの人にペースを
握られていた。この中で唯一の大人であるあずささんも、にこやかに世間話モードに入っている。
なんでも『ホスト番組は視聴率が取れる』とかで、わたし達3人がとあるドキュメンタリーに
出ることになったんだけど、まずは法律的に一番問題ないあずささん。女性の数字を狙って真。
あとは番組の雰囲気を考慮してわたしになった、とプロデューサーは言った。
確かに、春香はホストと話すなんて雰囲気じゃないし、萩原さんの場合、お父さんが黙ってない。
律子は必要以上に相手の心を読もうとしてお互い疲れるだろうし、義務教育を終了していない
年少組をホスト番組に出すのは、視聴者からの抗議が怖いという理由でNGとなった。
……そういえば、美希ってまだ中学生だったのよね……あまりに大人っぽい外見に、つい忘れてたけど。
ただ、さすがにわたしと真を夜の町に出せるわけは無いので、昼間の歌舞伎町で疑似体験を
させてもらうだけなんだけど、昼とはいえ室内で豪華な証明が点いてるので夜と間違えてしまうほど。
わたしの隣についてくれたナンバーワンホストという人は、さすがにカッコいい顔立ちで……
慣れた手つきでジュースをついでくれる。
「では、アイドルの皆様を歓迎する意味も込めて、シャンパンタワーで乾杯と行きましょう!」
「うわぁ♪これ、TVで見たよ!生で見れるなんて、すごいなぁ!!」
「あらあら~豪華すぎて、別世界の住民になってるみたいですね~」
ちなみに、中身はノンアルコールの炭酸ジュースなんだけど、手拍子と共に盛り上がる様を見ていると、
グラスの中身はあまり重要ではない気がした。
ここは雰囲気を作る場所だ。夢のような世界で、シンデレラになれる。
顔も気立ても一級の男性達が、心からお客をもてなす場所なんだ……
だからこそ、数万円のシャンパンを頼んだり、指名を繰り返したりするんだ……
ファンの人が、アイドルのコンサートツアー全部についていったり、グッズ全てを買い漁るように。
精神的に、少しでも好きな人に近づいていたいんだ……
「やっぱり、雰囲気に慣れませんか?まだ学生さんとはいえ、女の子に楽しんで欲しい
僕達の気持ちは変わらないんだけど……トップアイドルの如月さん、ですよね?」
「あ、はい……」
「目が逢う瞬間、のCD持ってますよ。僕達だってアイドルソングに癒されてる人間ですから。
あ、そうそう。昔ピアノやってたことあるんですけど、モーツァルトじゃなくて、カール・ツェルニーが
好きだなんて珍しいですよね。僕も地味だけど好きなんですよ」
「あ…………」
プロデューサーが言っていた。『一流のホストは凄い』って。
話しながら、その女性が何を求めているかを瞬時に見抜いて会話をし、飲み物をすすめる。
ただひたすらに楽しい時間を与えてくれる。それが仕事だと分かっていても尚、求めてしまう。
あずささんは相変わらずのマイペースなので、ホストの人も苦労してるみたい。
色っぽい話より、布団を干す話で盛り上がっているのはどうかと思うのだけど。
対して真は……多分、765プロで一番この雰囲気を楽しめる女の子かもしれない。
普段王子様扱いされているだけに、全員からお姫様と言ってもらえるのが嬉しくて仕方ないのだろう。
あぁ……ジュースの一気飲みやらからあげ盛り合わせのオーダーしてる場面を見てると、
ホストクラブにはまっていく女性の一番分かりやすい例になってるかも。
せめて女の子なら、からあげの盛り合わせより、カットフルーツを頼んだらいいのに……