09/01/22 04:16:31 +5IMQL6L0
■子育て(娘15歳、息子13歳)
「野球部、サッカー部、科学部、新聞部、演劇部、茶道部、放送部、映画研究部、吹奏楽部、
落語研究部、釣り部、オクラホマミキサー部……何?この【22世紀部】って……」
ちらりと見ると、【顧問・音無つぐみ】と書かれていたのは……見なかったことにしよう。
中一になった息子の入部案内には、いろんな部活とその内容、活動予算などが書かれていた。
正直、この子は……上の子(お姉ちゃん)と違って、自分が前へ前へと出るタイプじゃない。
かと言って、コツコツと何かを集中してやるタイプでもない。
何か一つくらい特技がなくて、この先大丈夫かな……と心配してたら、この子は……何と
自分から【帰宅部員になる】なんて言い出した。
「ちょっと、本気なの!いくら本人の自由意志とはいえ……何もやりたい事は無いの?」
「あるよ。他校だけど、気になる人がいるんだ。すごく歌が好きなんだけど、ちょっと練習のやり方が
まずいから、今ひとつ伸びない人で。ボク、その学校に潜り込んで、マネージャーがしたい。
ソロになるけど、独唱部を立ち上げて全国で優勝するんだ。その手伝いをしたい」
「な!?」
言ってることは無茶苦茶だけど……その計画は大人のわたしから見ても、一応達成できるものではあった。
ただし、それには本人の弛まぬ努力と、それを支える名トレーナーでもいないと不可能なレベル。
そう。プロデュー……いや、わたしの愛する旦那様みたいな人でもいないかぎりは。
「だからね、母さん……ごめん!ボク、部活には入れない。その人、先輩だけど放っておけなくて」
「他校の生徒なのに?それにもし上手くいっても、あなたの実績は残らないわよ?」
「別にいいよ。ボクがやりたいからやる!それだけだから」
そう言って、まっすぐにわたしを見る目は……かつてのあの人と同じだった。
『会社の利益?俺の実績?……そりゃ確かに重要だけど、それだけじゃこんな仕事しないよ。
千早が気持ちよさそうに歌ってるとね……どんな疲れも一瞬で吹っ飛ぶ。それが一番嬉しい。
だからやるんだ。ワリは合わないかも知れんが、好きだからやれるし、絶対後悔しない!』
あぁ、そうか……この子は、何の特技も才能も無いと思っていたけど、あの時わたしが救われた、
一番ありがたいものを……最愛の人から血と共に受け継いだんだ。
そう感じると、とたんに目の前が涙で霞んできた。
「え……か、母さん?やっぱダメ?ボク、悪いことしてる?」
「そんな事無い……全然無いわ。精一杯おやりなさい……でも、覚悟しなさいね。
あなたはきっと、その人の人生の一部を背負うのよ。中途半端に終わらせると、一生苦しむわ」
この子は……多分この先、あの人と同じ道、同じ困難を背負う人生を生きるでしょう。
でも、わたしは初めてこの子が、自分の意思でやりたい事を見つけてくれたのが嬉しくて仕方が無かった。
「ありがとう!じゃ、早速今日から行ってきます!今日は腹筋トレーニングだから」
わたしと、あの人の血を分けた大切な子は……これからどんな風に育つのだろう?
あの人が帰ってきたら、早速伝えてあげよう。そしたらあの人は、どんな顔をするかな?
きっと照れて『きついぞ……まぁ、あいつが選んだ道なら……な』なんて言うでしょうね。
子が育つのは、見ていて楽しい。
芸能人と母親、という二足の草鞋は確かに大変だけど……それでも今、わたしは幸せだと心から思った。
■おまけ
プルルルルル
「はい、もしもし……あら、美希?久しぶり……そっちはどう?上手くいってる?……いや、
旦那さんとの仲は別にいいから。ごちそうさまな話はもういいし!そうじゃなくて、子育てとか……
あなたこの前、【娘が反抗期に入った】とか言って愚痴を言いに電話してきたじゃない?
……え?最近は上手くいってる?娘がやる気を出した?……ふぅん……そう?
……へ?下級生に恋してる!?それはまた大変ねぇ……うわぁ……しかも他校の生徒なんだ。
お互い大変ねぇ……ん?いや、こっちの話。うん、うん……そう?じゃ、次に会えるのはいつなのかな?
わたしのコンサートツアーがもうそろそろ始まるから……うん、じゃあまた時間が出来たら。またね」