08/11/19 18:36:39 2dGbwyra0
「……」
高槻さんたちが出て行った後のレッスンスタジオで、千早はまだ信じられないと言った顔をしてる。
そりゃそうだ。こう言っちゃ悪いけど、高槻さんはボーカル性能は事務所内で下から数えた方が早い。
それがこれだけの成長ぶりを見せてるんだ。普通の神経なら、俺が魔法でも使ったと思うだろうな。
「さて、千早……【好きに生きる】のと【好きなことをして生きる】は別モノだと、分かってもらえたかな？
ボーカル強化のためなら、10キロのロードも、200回の腹筋もこなすその根性は立派なもんだ。
なら、より多くの人に歌を聞かせるために、営業周りや水着撮影も、本気になってみないか？
大局的に見れば、水着写真集だって歌を聞かせるために充分、プラスになるよ。
高槻さんは家族のため、自分のためにアイドルになりたいと思ったからこそ、俺の厳しい指導を
本気で受けてくれた。本人に疑いがあったり、やる気がないと実力は伸びないからね」
「プロデューサー……その、すみません……手を抜いたつもりはなかったのですが、
ボーカル以外の仕事に対する取り組みが甘かったのはよく分かりました」
「なら、今日からビジュアル面を強化するぞ！どうしていいか分からんとは思うが、まずは人を信じること。
自分に合わなかったり、辛かったりしても、一定の成果が出るまではやり切る事だ！」
「はい、よろしくお願いします！」
……こうして、俺の企みは成功した。正直、高槻さんがあそこまで伸びるとは思わなかったけど、嬉しい誤算だな。
やっぱり人間、好きなことが絡むと伸びがいいんだろうな。
多少卑怯なショック療法ではあったけど、結果的に千早が真剣にボーカル以外に取り組んて良かった……
■夕方・事務所■
千早「それでは、お先に失礼します。お疲れ様でした」
Ｐ 「おう、車に気をつけてな」
小鳥「あの……プロデューサーさん？やよいちゃんのパワーアップが事務所で噂になってるんだけど、
一体どんなクスリを飲ませたんですか？」
Ｐ 「そんな事しません！！あくまで彼女の興味を引いて、聴力を強化しながら得意な部分と声を関連付けして、
それが定着するまで続けてみただけです」
小鳥「なんか難しいですね……具体的にどうやったんですか？」
Ｐ 「そうですね……あ、高槻さん！ちょっと久しぶりにアレ、試してみるよ」
やよい「あ、はーい！」
ジャラジャラジャラ……
Ｐ 「……どう？」
やよい「えっとぉ……500円二枚、100円四枚、10円五枚、5円一枚、１円四枚と、たぶん他のコインが一枚の音です！」
Ｐ 「はいご名答！衰えてないね」
やよい「はい！今なら金属音以外にも、声とか楽器の聞き分けもできるようになりました！」
Ｐ 「……こういう事です」
小鳥「なるほどね。まずは興味のある……っていうか、必然的に得意なものから興味を拡げて、
コインの音を判別させる……つまり、聞き分ける能力を強化した、と」
Ｐ 「そうです。500円なら大きさと重さ。10円は銅の音だし、5円なら真鍮、1円ならアルミ…と特徴があるでしょ？
それを正確に聞き分けたなら、次は自分の声を把握させて、補正と調律の技術を身に着けさせたんです。
でも、『れぅ～』とかの魅力的な部分は削りたくないから、そこは担当Ｐとの相談で、
任意に調節してます。天然ならではの魅力も捨てたくないですから」
小鳥「それはそうと、日本以外のコインも判別するのは大したモンですね……信じられません」
Ｐ 「興味あるジャンルなら、誰でもできることですよ」
小鳥「あたしは無理ですねー。ご覧の通り、なんの特技も無い事務員ですし」
Ｐ 「……ここに御見合い写真のカタログがあります。３秒だけ見て５０人中３人ピックアップしてください」
小鳥「えっと……（キラリ！）この人と、この人、あと……この子！！」
Ｐ 「……ほら。裏にプロフィール載ってるけど、ルックスと年収と趣味の合うベストメンバーを選んでるでしょ？」
小鳥「あら？凄い偶然！！」
社長「……うーむ……小鳥君を鍛えて、なんとか経営に参加させられんかなぁ……」
律子「無理だと思いますよ」