08/11/19 01:25:23 Iey6jEbX0
「私はね、春香ちゃん、アイドルになんてならなきゃ良かったんだ…」
衝撃的な言葉が小鳥さんから飛び出した。何となしに、小鳥さんの過去を聞いてしまったのを、私は瞬時に後悔した。
まるで呪詛のように一言呟いた小鳥さんは、まるで全てに疲れ果てしまった旅人の様な表情を浮かべていた。
「すみませんっ。私、とんでもない失礼な質問しちゃってっ！！」
「いいのよ、別に。そうね、せっかくだから話を聞いていかない？ 一人の、元アイドルの話を…」
そう言って話してくれた、小鳥さんのアイドルの頃の物語。
一人の平凡なアイドル候補生と、新米ながら天賦の才能を持った若きプロデューサー。
彼女は、担当のプロデューサーのおかげもあって、Ｓランクアイドルにまで上り詰めた。
当時の小鳥さんの人生はまさに絶頂だった。一年の契約期間の後、プロデューサーに告白する日までは。
アイドルを引退する時に、交際の話の続きをしよう、と、そう言われて告白を断られた小鳥さん。
「結局、私は心の奥底のどこかでプロデューサーさんの才能を、自分の才能だと勘違いしていたのね。
だから、その時に、アイドルを引退するっていう選択肢を選べなかった」
別の事務所に移籍した小鳥さんは、アイドルを続けた。けれど、片翼を失った鳥はもう昔の様には飛べなかった。
結局、かつての輝きを失った彼女は一年も経たずにトップアイドルの座から転落した。
それでも、プロデューサーさんに会わせる顔が無いと愚直にアイドル活動を続けた彼女に
プロデューサーの死という、残酷でどうしようもない現実が突き付けられた。
「死因は過労死、ですか…」
「私は、自分自身にかまけ過ぎて、大切な人の死を止められなかった…。
きっとね、当時の私がもっと彼を見ていてあげたら、彼の死は止められたんだ。
だけど、昔の私は自分の幸せだけしか見ていなかった……最低な女ね。
貴女は私みたいになっちゃいけない……天海春香は、絶対に音無小鳥になんかなっちゃだめよ？」
そう語ってくれた小鳥さんに、私は只々頷くことしかできなかった。