08/11/20 02:38:45 WC49ETNQ0
もう、一年も前になるのだろうか。
私が社長にスカウトされて、765プロダクションという芸能事務所に籍をおいたばかりの頃
その女の子は、颯爽と私の前に現れた。
「はーい!高槻やよい、11歳!小学6年生でーす!」
その時の私の目には、彼女はただ元気なだけの、普通の女の子にしか見えなかった。
(平凡すぎる・・・。こんな子がアイドルだなんて・・・)
知り合ってしばらくの間は、私はやよいに冷たかった。
こんな娘に負けてたまるか!という気持ちが強かった。嫌いと言ってもよかったくらいだ。
やよいは、健気な女の子だった。
事務所の、どんなに面倒な雑用でもあの子は嫌な顔ひとつせず、率先して引き受けた。
(どうして、あの子はあんな面倒なことをするのかしら・・・?
そんな暇があるのなら、もっとレッスンに時間を使ったらいいのに)
やよいが窓の拭き掃除をしているのを見るたび、私は思ったものだ。
「千早さんは、私のこと、嫌いなんですか~?」
ある時、やよいが私にこう訊ねた。
彼女にしては珍しく、どこか陰のある表情をしている。
「別に・・・。そんなことはないわ」
私はそっけなく答えた。
「そうでしょうか・・・。うう・・・」
「どうして、そんなことを聞くの?」
「私、千早さんのことが好きですから・・・。でも、嫌われてるのかなあって・・・。
これって、悲しいことですよね?」
「私のことが・・・好き?」
動かなかった感情が、少し動いた。
「あの・・・!千早さん、今度、私の家に遊びに来ませんか!?
うち、貧乏で・・・。狭いですけど・・・。えへへ・・・」