08/11/14 01:31:20 rS+fK/1r0
>>657
ピピピピ、と鳴る無機質な電子音で俺は目が覚めた。目を開けるとそこは見慣れた天井。
何時と変わらぬ朝に、俺は落胆の色を含んだ溜息を零す。付けっぱなしの液晶テレビに目をやると
そこにお馴染みのアイドルマスターのゲーム画面が映っていた。テレビの中で舞う春香の姿を見ながら、かぶりを振った。
「やっぱり春香はいないんだな、現実には」
分り切った答えだ。天海春香はこの世にはいない。彼女は所詮0と1で構成された虚構の世界の偶像に過ぎない。
なのに、なんだろう。俺には、どうしても諦めきれなかった。
そう、あろうことか、俺はゲームのキャラクターに恋をしたのだ。
「バカだな、俺は」
自嘲しながら、布団から這い出て、時計を確認する。午前11時を指し示す秒針に、一瞬無断欠勤だと焦るが
よく考えれば今日は休日だった。溜息を漏らしながら、ひとりさびしい昼食とも朝食とも取れるご飯を食べようと
台所へと向かった。階段を下りると、良い匂いが漂ってくる。あれっ、昨日に作り置きしておいたかなと首を
傾げながらドアを開けると、そこに、見知らぬ、美少女がいた。
「君は…!?」
俺が驚きの声をあげると、朝食を作っていた彼女は、手に持っていた皿を置いて、いたずらが見つかったような
子供の様な顔をした。
「ごめんなさい、プロデューサーさん。つい、朝ごはん作っちゃいました」
「プロデューサーさん…!?」
聞きなれない呼称で呼ばれ、思わず頭がこんがらがった。
俺は、ゲームの世界でしかプロデューサーさんなんて呼ばれた事がない。
混乱する俺をしり目に、彼女は先ほどとは打って変わってしおらしくなる。
「どうしても会いたくなって、来ちゃいました……。プロデューサーさん、私が誰だか分ります?」
震えるような、か細い声でこちらに話しかける少女。
俺は彼女と一度も会ったことはない。話したこともない。だが、彼女が誰だが分ってしまった。
俺は、力一杯に、壊れるくらいに彼女を胸元に抱き寄せだ。
そして、考えるだにバカバカしい、ナンセンスな言葉を、しかし確信をもって答える。
「分らないわけないだろ、春香」
あり得ない事なんてあり得ない。想いはいつか、絶対に届く。