08/09/16 02:53:38 zBmeDMDm0
■ある日の風景（ランクＣ）
「歯ブラシ、着替え、あとオセロ……あ、宿題も入れとかないと……」
高槻さんが、楽しそうにお泊りセットをドラムバッグに詰めている様子は、まるで遠足を明日に控えた
子供のようで、見ていてこちらまで微笑ましくなってしまう。
765プロもそこそこ経営が軌道に乗り、わたし達アイドルの仕事も徐々に増えてきた。
中でも、移動や宿泊にお金のかかる、遠征の仕事がぽつぽつと入るようになってきたのがいい証拠。
各プロデューサー陣は、わたし達が疲れないようにと着替えや荷物などの運搬を一手に引き受けてくれる……
（勿論、財布や下着などは自分達のカバンに入れて持つけど）そのためのドラムバッグはかなり大きく、
プロデューサー達の荷物も入るため、傍目に見ると、子供の一人くらい入りそうで……
高槻さんは比較的荷物が少ない人だけど、何故か帰りにはファンの人やスタッフから食べ物を貰う事が
多いため、満杯になってしまう。
対して、水瀬さんの場合は着替えを限界まで入れるため、重さはそこそこでも外見はパンパンに膨らんでいる。
律子に至っては、ノートパソコンやＡＣアダプタが入るので、スーツケースにした方がいいと思うくらいだ。
「これだけ大きいと、子供なら完全に入りそうね」
「あ、ホントだ……うーんっと……千早さん？ちょっと手伝ってくれますか？わたし、入れるかも！」
亜美真美に隠れてしまいがちだけど、高槻さんも本来、こういう遊びは大好きなようで……
手早く荷物を取り出すと、手足をちょこんと畳んでドラムバッグに入ってしまった。
「うっうー……千早さん、チャックを閉めてみてもらえませんか？」
可愛らしいツインテールをバッグに仕舞い、目が見える限界までチャックを閉めると……
高槻さんがすっぽりとドラムバッグにおさまり、しかもまだ若干の余裕がある。
「あはははっ……千早さんっ、ほらほら！このまま飛べますよ♪」
体育座りのような格好で、器用に飛び跳ねる高槻さんに思わず声を出して笑ってしまう。
やがて、彼女の担当Ｐからメールが入り、高槻さんは高いテンションを維持したまま出掛けていった。
「……」
そう言えば、わたしも荷物は少ない方だけど765プロのドラムバッグは担当アイドルのイメージカラーのみ別で、
大きさとデザインは統一されている。つまり、高槻さんの身体がすっぽり入ってまだ余裕があるなら……
わたしと高槻さんの体重差は約4キロで、ウェストなら1センチ。
身長差はちょっとあるけど……手足を折りたためば何とかなるかもしれない。
高槻さんの高テンションに影響されたのかもしれないわたしは、かさばる上着と革パンツを脱いで、
青い空のドラムバッグに身体を入れてみると、意外と身体は綺麗に収まっていた。
さすがに頭までは入らなかったけど、さっきの高槻さんの様に、身体だけを使って移動もできるみたい。
誰もいなくなった更衣室での一人遊びに満足したわたしは、自分で閉めたチャックを開けて……
「あ、あれ……？」
何かに引っかかったのか、思ったようにチャックが開かない！？
こんな、首だけ出た尺取虫状態でプロデューサーに発見されようものなら今週いっぱいテンション真っ黒確定です！
何とかならないかともがいているうちに、折り悪く足音が聞こえてくるではありませんか！？