08/05/14 22:32:43 GvJ3hl/W0
「そんなにバカにしたもんじゃあないよ」
幾月修司は立てた人差し指で眼鏡をくいっと押し上げた。
「山号寺号って落語の演目もあるだろう?駄洒落は日本の文化なのさ」
「山号寺号とは、なんでありますか?」
アイギスの問いに、幾月はアタリの来た漁師のごとく食いつく。
「お寺を正式に号するとき、成田山・新勝寺って呼ぶだろう?そんなふうに、
なになにサン・なんとかジとゴロを合わせて駄洒落にするのさ」
伊織順平が乗ってきた。
「はいはーい!それならオレっチも知ってまーす!会社の決算・大赤字ー!」
桐条美鶴が不穏当な発言にぴくりと反応する。
得意げに山号寺号を披露したお調子者は凍てつく視線に青ざめた。
「…い、いや桐条グループのこと言ったんじゃねっスよ?」
「イマイチだな、伊織」
美鶴の冷たいコメントに、順平はすごすごと引き下がった。
「ま、まあ、例題としてはアリだよ伊織君。どうだい、解ったかな?アイギス」
機械の乙女は生真面目に考えこんでいる。
真田明彦はグラブを磨く手を休めた。
「そんなに難しく考えることじゃない。…そうだな、時計やさん・今何時?とか」
天田乾が続く。
「風花さん・オラクル失敗、大惨事。なんてどうです?」
それまで、笑顔でやり取りを聞いていた山岸風花の顔がひきつった。
ラウンジの空気が寒々しく冷えていく。天田も自分の失言を悟って口がきけない。
荒垣はうっかり口走ってしまった。
「グルタミンサン・かつお味。…とかな」
「お、おお?!巧いぞ、シンジ!」
「さっすが荒垣先輩!らしいってゆーか…」
すかさず、真田と岳羽ゆかりが褒めちぎる。二人とも安堵の表情を浮かべていた。
風花の顔にも笑顔が戻り、天田もほっとした様子で腰を降ろす。
「なるほどなー」
シャドウ特別制圧兵装の美しい貌に理解の色が刷かれる。
「できました!荒垣さん・おふくろの味。であります」
「お、おお~」
一同のどよめく声に、コロマルが尻尾を振る。
「上出来だよ、アイギス。大したもんじゃないか。ねぇ荒垣君」
幾月に返事もせず、荒垣は肩を竦めて歩き去る。
「ちっ…ガラにもねぇ」
その顔は、真っ赤に染まっていた。