08/12/17 17:41:59 C7qNtg2C
定期船発着場から少し離れた裏路地で、おでんの屋台を引いて歩くエステルの姿を見たとき
私は懐かしい顔との再会による喜びよりも、みすぼらしい姿で屋台を引く彼女の姿に
強いショックを受けてしまった。
一通り再会の挨拶を交わした後 「どうして発着場前で商売しないの?」と私が問うとエステルは、
「あんな場所で商売してたら知った顔に会っちまうかもしれないだろ」
とスレた喋り方で言い、根元まで吸い尽くしたタバコを地面に捨てて足で火を消した。そして、
「それよりさ、アンタ女は間に合ってるの? アタシで良かったら安くしとくよ」
と体をクネクネさせながら迫ってきた。
おでん屋なのに、おでんよりも先に自分の体を売ろうとするその姿は、
この数年、エステルがどんな生活をしていたかを物語っているようで悲しくなってしまう。
「やめなよ、子供だって居るんだし」
(そう!エステルは背中に赤ん坊をおぶって屋台を引いていたのだ!)
と私が言うとエステルは、
「いいんだよ、どうせこの子も誰の子か、わかりゃしないんだ」と自虐的に笑った。
正直、もう見てはいられなかった。だけどなんとか気持ちを落ち着かせて、
「ねえ、おでんを食べさせてよ。お腹減っちゃってさ」
と精一杯の笑顔で言うとエステルは「ふうん」とどうでも良さそうに鍋のふたを開けた。
様々なおでん種にまぎれ、鍋底に沈んでいるパンティ。これがこのおでんのダシなのか…。
とどめを刺された気分だった―。
私は小銭入れの中のミラを全てカウンターの上に置くと逃げるようにその場から去ったのだった。