08/10/26 21:22:24 GKuBsb8H
§4
星空の下、アールストレイムの敷地内にある庭園で二人は歩いていた。
夜風に花が揺れ、ざわざわと音を立てている。
その音は幻のように二人を包む。まるで夢の中にいるかのような錯覚。
だから、というようにアーニャはしっかりと傍らにいるライの手を繋ぎ、並んで歩く。
それが本物である事を確かめながら。
「ねえ、いい加減教えて」
アーニャは何度目になるか分からない質問をした。
「………何のこと?」
とぼけたように首をかしげるライに、アーニャはむっと口を尖らせて言う。
「絶対ライが何かやった」
「……だから何もしてないって」
でもそれ以外考えられない、とアーニャは呟いた。
(合図したら耳を塞げって言われたから……)
もういいよ、と塞いだ耳を開けられた時には、アーニャの見ていた世界は姿を変えていた。
皆が皆、自分達に祝の言葉を投げかけてきたのだ。クリスティアンも、父も、全員が「おめでとう」と。
何が起きたのかは分からないが、ライが何かをしたのは確実だった。
(なのに……)
聞けども聞けども、彼は「何もしてない」としか返さない。
「どうして教えてくれないの?」
「アーニャ…」
困ったような表情をされても、構わない。しつこいと思われても、アーニャは聞きたかった。
「言いたくないならそう言って。でも、そう言われない限り、私は何回でも聞く。だって……」
だって、ライの事は何でも知りたいから―なんて恥ずかしげもなく言えたらどんなに楽か。結局最後の方は小さくて聞き取れないほど尻すぼみ。
だがアーニャの意思は一応ライには伝わったらしく、笑みを苦笑に変え、
「本当は……言いたく無いし、アーニャには……ううん。誰の前であろうとあれはもう使わないと決めていたんだ…」
そう言ってライは草むらに腰掛けた。
アーニャは隣に座ろうとして、しかしライに手を引かれてしまう。座らされた先はライの手前。