コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 30at GAL
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 30 - 暇つぶし2ch1:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 15:03:02 aR6M7c0M
ここはPS2/PSPソフト「コードギアス反逆のルルーシュ LOST COLORS」SS投稿スレです。
感想等もこちらで。このゲームについて気になる人はゲーム本スレにもお越しください。
基本sage進行で。煽り・荒し・sageなし等はスルーするか専ブラでNG登録して下さい。

■SS保管庫 URLリンク(www1.ocn.ne.jp)

■前スレ(0029) スレリンク(gal板)
 (これ以前のスレは保管庫にてhtml形式で格納済みです。“スレッド一覧”からいつでも閲覧できます)

■関連スレ
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS 20 (本スレ)
スレリンク(gal板)
コードギアス ロスカラのライは闘う王様 ピコハン無双5戦目 (主人公スレ)
スレリンク(gamechara板)
【PSP】コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS
スレリンク(handygame板)
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS 攻略スレ4
スレリンク(gameover板)

■公式サイト URLリンク(www.geass-game.jp)
■アニメ公式サイト URLリンク(www.geass.jp)

■攻略wiki URLリンク(www9.atwiki.jp)

2:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 15:04:18 aR6M7c0M
■SSを投下される方へ
1.投下前後に開始・終了の旨を書いたレスを入れて下さい(または「何レス目/総レス」を名前欄に)
2.規制に掛かりやすくなっていますので、長文の場合は支援要請の旨も冒頭に書いて下さい。
 逆に2~3レスほど使用の場合、支援は要らない旨を書いてください。レス毎の投下間隔は2分~3分程度がベストです
3.投下前は、他作品への割り込みを防ぐ為に必ずリロード。尚、直前の投下完了宣言から15分程度の時間を置いてください
4.投下許可を求めないこと。みんな読みたいに決まってます!
5.ゲーム内容以外で本編放送前バレ情報があるSSは始めに注意書きを。
6.なるべくタイトル・カップリング・分類の表記をして下さい。(特にタイトルはある意味、後述の作者名よりも重要です)
・読む人を選ぶような内容(オリキャラ・残酷描写など)の場合、始めに注意を入れて下さい。
7.作者名(固定ハンドルとトリップ)について
・投下時(予告・完了宣言含む)にだけ付けること。その際、第三者の成りすましを防ぐためトリップもあるとベスト。
トリップのつけ方:名前欄に「#(好きな文字列)」#は半角で
・トリップがあってもコテハンがないと領地が作れず、??????自治区に格納されます

■全般
1.支援はあくまで規制を回避するシステムなので必要以上の支援は控えましょう
2.次スレ建設について
・950レスもしくは460kB近くなったらスレを立てるか訊くこと。立てる人は宣言してから
・重複その他の事故を防ぐためにも、次スレ建設宣言から建設完了まで投稿(SS・レス共に)は控えることが推奨されます
※SS投稿中に差し掛かった場合は別です。例 940から投稿を始めて950になっても終わらない場合など
3.誤字修正依頼など
・保管庫への要望、誤字脱字等の修正依頼は次のアドレス(geass_lc_ss@yahoo.co.jp)に
    ※修正依頼の際には 作品のマスターコード(その作品が始まる際の、スレ番号-レス番号。保管庫の最優先識別コード)を“必ず”記述して下さい
    例 0003-0342 のタイトルを ○○ カップリングを ○○
(↑この部分が必須!)
  マスターコードを記述されず○スレ目の○番目の……などという指定をされると処理が不可能になる場合があります
4.睡眠は1日7時間は取りましょうw


3:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 15:05:46 aR6M7c0M
■画像投稿報告ガイドライン

ロスカラSSスレ派生画像掲示板
 PC用  URLリンク(bbs1.aimix-z.com)
 携帯用(閲覧・コメントのみ)  URLリンク(bbs1.aimix-z.com)

1.タイトルとコテハン&トリップをつけて絵を投稿する。尚、コテハン&トリップについては、推奨であり強制ではありません。
・挿絵の場合は、誰の何のSSの挿絵と書く
・アニメ他公式媒体などにインスパイアされた場合は、それを書く(例:R2の何話をみてテンさんvsライを描きました)

2.こちらのスレに以下のことを記入し1レスだけ投稿報告。
例:
「挿絵(イメージ画像)を描いてみました。
画像板の(タイトル)です。
・内容(挿絵の場合は、SSの作者、作品名等。それ以外のときは、何によってイメージして描いたのかなど)
・注意点(女装・ソフトSM(首輪、ボンテージファッションなど)・微エロ(キス、半裸など)・ゲテモノ(爬虫類・昆虫など) など、
絵はSSに比べて直接的に地雷になるので充分な配慮をお願いします)
以上です。よかったら見てください。」
画像掲示板には記事No.がありますので、似たタイトルがある場合は記事No.の併記をおすすめします。
*ただし、SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。

3.気になった方は画像掲示板を見に行く。
画像の感想は、原則として画像掲示板に書き、SSスレの投稿報告レスには感想レスをつけないこと。
画像に興味ない人は、そのレスをスルーしてください。

4.SSスレに投稿報告をした絵師は以下の項目に同意したものとします。
・SSスレに投稿報告した時点で、美術館への保管に同意したものと見なされます
・何らかの理由で保管を希望しない場合は、投稿報告時のレスにその旨を明言してください
・美術館への保管が適当でないと判断された場合、保管されない場合もあります
(不適切な例:ロスカラ関連の絵とは言えない、公序良俗に反するなど)

----テンプレは以上です----

4:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 15:29:31 l/B/OWND
遂に30いったか……
>>1乙!

5:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 15:40:04 GKuBsb8H
>>1
こっちでも乙!

ちょっと早めの仮の投下予告です。
めちゃくちゃ長いのを書いてしまい、しかし話の都合上どうしても1日で投下したいのです。

そのため予め今日の夜8時頃(都合で上下する可能性あり)を目処に投下予告しておきます。
また、他の職人様で投下したい方は、遠慮無くこの時間付近でも投下して下さって構いません。あくまでも仮の予告なので。

そしてもしお暇な方は、猿回避のため支援をお願いしたいです。
まだしっかり数えていませんが、解りやすく言えば某民主主義を超える分量になっています……

6:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 17:34:58 b5iwbbvq
予告だけで期待度が高まってしまうw
支援します。

7:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 17:50:06 AxTKmVfD
自分も支持します。


8:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 18:59:23 hZPARdgu
前スレのナナリーにはぷにぷにがない件についてだが、マリアンヌを見るに将来性は期待していいと思うんだけどなぁ

>>5
支援

9:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:06:30 GKuBsb8H
「ピンクオン・ストラもふ、SSを執筆するぜ」
「もふルヤ・もふティズム、SSを推敲する」
「ピエリア・アーデふ、SSを投下する」
「もふもふ・F・ピンク、投下を支援する」

こんな風に4人いたら楽なのにね。
では投下宣言です。

まえがき     1レス
アバン&タイトル 1レス
§1       10レス
§2       7レス
§3       7レス
§4       15レス
§5       3レス
あとがき     1レス

字数制限及び行数制限に引っかからない限りこれでいきます。
怒涛の45レス、余裕で60KB超えてますが何か?

10分後に投下開始します。支援準備よろしくねがーい

10:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:07:43 l/B/OWND
もふもふマイスターズwww 全力で支援させていただきます!

11:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:09:35 xMRcFEnd
了解。支援準備OK

12:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:11:40 gQ8c2mis
支援準備完了。いつでもどうぞ!

13:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:14:32 ojtiYlof
支援します
>>12のトーマス卿!あなたは保管に専念したほうがいいのでは?!

14:そのSSさばき…もっふーだ ◆0rhUU6uqDE
08/10/26 20:16:21 GKuBsb8H
「さあ、始まるザマスよ!」
「いくでガンス」
「では、注意事項をよく読んでから本編をお楽しみ下さい」
「まともに始めな……あれ?」



注意事項
・作者はご存知ピンクもふもふ。。。通称もっふー。もうこの名で呼ぶ方が多数派だったり。
・カップリングはいつもの如くライ×アーニャ。。。もはや代名詞。もっふーと言えばこれだよね。
・ジャンルはシリアス気味で大真面目に恋愛物。。。ギャグ要素は皆無。いつものもっふーを想像していると残念な結果に。
・本文43レスです。。。非常に長いですが大目に見て。分けんの面倒だし。
・オリキャラ注意。。。結構重要な立ち位置で登場します。いいじゃねえかよ。


支援よろしくお願いします。

15:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:16:51 l/B/OWND
支援

16:モザイクカケラ
08/10/26 20:18:07 GKuBsb8H
 少女は求めていた。
 少年は求めてはいけなかった。

 自分を闇から救い出してくれる存在を。
 他の何を失っても守りたいと思う存在を。

 記憶などお構いなしに、誰かに依存して生きる。
 罪を重ね、誰かを守る事で生きる。

 格好悪いけど、それができたらどれだけいいだろう。
 最低だけれど、それができたらどれだけ楽だろう。

 少女は見つけた。
 少年は見つけてしまった。

 彼となら、生きていける。
 彼女となら、生きていきたいと思ってしまう。

 それは、少女にとって知られざる世界。
 それは、少年にとって許されざる世界。


 互いのココロを埋めるカケラ。
 そのカケラを敷き詰めた時、映し出されるモザイクは如何なる答えを世界に見出すか。



     ‡モザイクカケラ‡





17:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:18:09 /3jph9Ui
支援

18:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:18:27 xMRcFEnd
支援

19:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:19:11 gQ8c2mis
支援

>>13 よく私とわかりましたね、IDを見たんですか?懸念はごもっとも、ですが……
この保管システムを甘く見てはいけない!リアルタイム保管を敢行するのでピンクもふもふ卿の領地に着目せよ!

20:モザイクカケラ
08/10/26 20:20:58 GKuBsb8H
 §1


 十月二十六日、広がる空の色は一面の漆黒。
 黒の中に一つだけ浮かぶ青白い光は丸い月の輝き。
 帝都ペンドラゴンもまたその闇に染まっていた。街灯や家々の光は暗さに敵う事なく、儚い。
 風も無く、音も無く、静かな世界に―しかし、雄弁に存在を示す空間があった。
 巨大な屋敷だ。
 帝都の中でも一際目立つ広大な敷地。
 次々と車がその豪邸に集まっていき、屋敷全体が人で溢れている。
 集まる車のライトが輝き、無数の窓からは照明が零れ、庭という庭が灯火に包まれ、空から見るとそこだけが光を持ってるかのように明るかった。
 その敷地の中心からやや外れた辺りに、光の中心となる大きな建造物がある。
 豪勢で意匠の凝った装飾品が飾られ、それらがまた光を反射し鮮やかな色合いを見せる。
 忙しなく人が行き来するその建造物の正体は、パーティーホールであった。
 ホールの中は外見に負けることなく、豪華な飾り付けが成されている。
 見るだけで美味と分かる料理群が至る所に置かれ、壇上では楽団がクラシックの音楽を奏で、それに合わせてホール中央にある広い空間ではダンスが行われていた。
 正に貴族のパーティーだと言わんばかりのこの会場には、勿論ブリタニアにおいて有力な貴族でごった返しだ。
 皆が皆、金のかかった衣装を身に付けている。
 その中で色を失う事なく存在を示し、人々の群れが向かう所があった。
 群れの視線の先にいるのは、桃色の髪の少女である。
 髪の色より少しだけ濃いピンク色の、胸元の大きく開いたフリル付きのシンプルなドレス。
 美しく着飾った彼女の周りには笑顔を張り付けた人々が。しかしそれとは反対に、彼女の表情は至って不機嫌だと示すかのように眉尻が下げられていた。

   ●

「お誕生日、おめでとうございます」
 誰かがアーニャに向かってそう言った。
 知らない人だ。それだけ確認し、アーニャは軽い会釈を返す。
 無愛想な性格なので、これが最大限の返事。
 だが、これでいい。どうせ相手も形だけ。そう思い、頭を上げた後はその誰かから離れるのだが、すぐに次が来る。
「アーニャ様ももう十五歳ですか。どうですかな?私のせがれなんかは……」


21:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:21:16 l/B/OWND
支援!

22:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:21:28 xMRcFEnd
支援

23:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:22:04 gQ8c2mis
支援

24:モザイクカケラ
08/10/26 20:23:13 GKuBsb8H
(鬱陶しい……)
 露骨に媚びを売る人もいればさり気なく近付く人まで、様々な人物が寄ってくる。
(正確に言うと私じゃなくて―)
 皆が寄るのはアーニャ・アールストレイムという名前に、だ。
「はぁ……」
 何度目か分からない吐息を漏らす。
 辺りを見渡せば、広いホールの中には大勢の人だかりが出来ていて、それがまた不機嫌さを倍加させるのだ。
(……いけない)
 表情が堅くなってくるのが解る。
 我慢、我慢と自分に言い聞かせ、アーニャは儀礼をそつなくこなす。
(もう帰りたい……)
 ここから逃げて、部屋に戻って、ベッドに沈む自分を想像する。何と素晴らしいアイデアだろうか。
 しかし、その望みは叶わない。何故なら、これはアーニャのためのパーティーであるから。
(今日は、私の誕生日)
 この余りにも豪勢なパーティーは、単なる自分の誕生会なのだ。
 だが、それだけならいいとアーニャは思う。憂鬱の理由は、このパーティーの隠された目的の方にこそあるのだ。

   ●

「アーニャ、ヴァインベルグ家だぞ」
「はい……」
 隣に立っていた父からの言葉にアーニャは頷く。
 少しだけ緊張を解き、示された方に視線を向け、
「よく来て下さいました、ヴァイン―」
「よう、アーニャ~誕生日おめでとさん」
 丁寧な挨拶を心掛けていたのだが、一瞬で崩壊させられる。
 気の抜けるような軽い、聞き馴染んだ同僚の声。格式張ったパーティーの中では随分と新鮮に感じる響きだ。
(馬鹿……)
 この男はいつもこうだ。へらへら笑顔でのん気に生きている。
 最悪だと思う。羨ましい、とも。


25:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:24:35 gQ8c2mis
支援

26:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:24:56 xMRcFEnd
支援

27:モザイクカケラ
08/10/26 20:25:42 GKuBsb8H
「ジノ、アールストレイム家の御息女に何たる挨拶か」
「うるさいな、おやじ…父上は。いつもアーニャとはこんな感じなんだよ」
「まったくお前という奴は……すまないな、アールストレイム」
 と、ジノの父親がこちら側に頭を下げ詫びた。確かにこういう場での貴族同士の会話としては、ジノの無礼はそうそう許される物ではない。
 が、自分の父親はそういう事には寛容であるとアーニャは知っている。何しろ、ジノ以上に、自分は満足に敬語すらも扱えないのだから。
 案の定父は笑いながら、
「いやいや、仲が良くていいじゃないか。どうだ、君のところも……」
「ああ、ジノもそういう年だからな。どうせならそちらのアーニャ殿と―」
「ははは、アーニャでは勿体ないだろう。それより―」
 どんどんと話にのめり込む父親二人からそれとなく離れていき、アーニャはジノと改めて挨拶する。
「どうだ、アーニャ。私の親父殿はお前と結婚しろと言っているのだが」
「最悪」
 考えるだけでも嫌だ。
 最悪という気持ちをそのままに、アーニャは苦い物を口にしたかのように顔を歪めた。
 ジノも肩をすくめるだけで、こちらの返事は予想の範疇だったのか気にしていない。
 彼は手近な使用人から飲み物を受け取り、
「しかしアーニャも大変だな。婚約者探しとは」
「ジノの所はいいの?」
「まあな。……一昨日もお見合いだったが」
 軽い感じでそう言うジノにアーニャは内心で舌打ちする。
(結婚だなんて……)
 考えたこともない。
 だが、自分は貴族。それもブリタニアでは五本の指に入る名門貴族のアールストレイム家だ。
 当然、そこの一人娘となれば嫁ぎ先には問題が出てくる。
 このパーティーは確かにジノの言う通り婚約者探しの一環だ。しかも本日発表予定。
 自分に選択する権利がある分まだマシだが、周りにいる男達の中にに選ぶ価値がある人物なんて一人も見当たらない。
(本当、最悪……)
 今日という日も、何もかも。
 そもそも記憶が無いのに、貴族の意識なぞあるわけが無いのだ。
 父親にしても顔を合わせる事が少ないからなのか、自分の娘が記憶を失った事さえ気付かない始末。


28:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:26:15 hZ0lKNLb
支援
保管庫見てみました。
同時保管すげぇw

29:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:26:26 xMRcFEnd
支援

30:モザイクカケラ
08/10/26 20:28:16 GKuBsb8H
(私も男に生まれれば良かった…)
 と、眩しそうにアーニャはジノを見上げた。
 こんな事で悩まなくていい彼が羨ましく感じる。まあ、彼はどんな状況でも同じスタンスなのだろうが。
 同じ名門貴族でありながら、何故女性であるというだけでこうも違う扱いなのか。
 そんなアーニャの複雑な思いを乗せた視線に気付いたジノは、にんまりと頬を緩ませ、
「なんだ。やはり私と結婚するのが一番楽か?」
 愉快げに問うジノを、アーニャはどこか呆れたような顔で見た。
「それ、モニカに言い寄った時と同じ」
「知ってたか」
「モニカに何度も聞かされた」
「ああ、そっか」
 ジノはなるほど、と呟いた。
 そしてアーニャの耳元に顔を寄せ小声で話しかける。
「そういえば、“相手”は誰になったんだ?」
 それを聞いた瞬間、アーニャの表情が今までで一番険しい物になった。
(やっぱり聞いてきた…)
 この“相手”について聞かれる事が嫌だったのだ。モニカや一部の人しか知らないそれを。
 すぐバレるにせよ、できることなら誰にも教えたくない情報だ。
「スザクか?ルキアーノとか?」
「違う」
 スザクはともかくルキアーノは無いだろう。そう思うが、ジノの想像がラウンズ内に限定されているようで、“相手”の名が告げられるのも時間の問題だと気付く。
 アーニャはただドレスの裾をぎゅっと握りしめ、ジノをあしらう。
(むぅ……はやく来て…)
 いつになく弱気な自分に嫌になるが、背に腹は代えられない。この場で救世主になるはずの“相手”を待つ。
「なあ、誰なんだよ。ビスマルクか?……そりゃないか。って事は……ラ―」
「ごめん、遅れた」
 ジノの言葉に重なるように、背後から別の声で謝罪が飛んできた。
(来た……)


31:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:28:32 gQ8c2mis
支援

32:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:29:06 xMRcFEnd
支援

33:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:30:32 hZ0lKNLb
支援

34:モザイクカケラ
08/10/26 20:31:12 GKuBsb8H
 その声が誰かはすぐに分かった。だからアーニャは立ち止まったまま、軽く深呼吸をして、
「遅い」
 振り返ると、そこに立っていたのは思った通り、申し訳なさそうな表情をしたライだった。
「だからごめんってば」
「むぅ……でも遅いもん」
「おっと」
 ぷくっと膨らましかけたアーニャの頬をライが慌てて両手で押さえる。彼は「この感触が好きなんだ」とこちらのほっぺに良く触れる。
 口の中から空気が抜けていく感覚を楽しみつつ、アーニャは改めてライの服装を見て言った。
「馬子にも衣装…」
「失礼な!……まあ、誉めてるからいいのか?」
「いいの。でも、ライって貴族の服着慣れてるの?」
「……そう見える?」
「うん」
 今日のライはラウンズの制服とは違って、緩やかな金と銀の装飾が付いた白い上下。そこに銀色の髪が映え、すっきりしているのにどこか高位な品格を漂わせている。
 馬子にも衣装と評したアーニャだったが、その実、ライはブリタニア貴族特有の艶やかで煌びやかな一張羅を完璧に着こなしているように見えた。
 ひょっとしなくても、“カッコいい”と思える。―絶対に言わないが。
「まあ、僕も昔はこういうのを着ていたりも……したからね。こっちの方が自然体かも。でも…」
「?」
 しかしそんなアーニャに対し、ライはというと、
「でもアーニャは綺麗というか可愛いというか……見違えたよ」
「う……」
 手放しで賞賛され、思わずアーニャは後ずさってしまう。「どうかした?」というライの無垢な瞳が痛い。
(忘れてた……)
 こういう男だった。改めてライの性格を思い知る。
 天然で真面目でぼけぼけで、加えてこうやって恥ずかしげもなく気持ちを表現してくるのだ。
 女の子と仲が良い事を指摘されると「まんざらでもない」とか答えちゃう性格なのだ。
「むぅ……」
「アーニャ?」
 そしてこういう状態になると、アーニャは自分が素直に褒める事ができないでいるのが居心地が悪く感じる。
 まるで、ライの方が大人であるかのような錯覚。事実として彼の方が年上ではあるが、しゃくに障るのだ。


35:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:31:29 l/B/OWND
支援

36:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:31:51 gQ8c2mis
支援

37:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:32:07 xMRcFEnd
支援

38:モザイクカケラ
08/10/26 20:33:42 GKuBsb8H
(よし……)
 せめて「似合ってる」くらいは言おうと決意したその時、アーニャは後ろにいるジノの存在を完全に忘れていた。
「ライも……その、似合っ……て……」
「どしたアーニャ、顔真っ赤だぞ―ぐはっ!いきなり殴るなよ!?」
「ジノ……空気読んで」
「いや、読めと言われてもなあ。さっきから二人だけで話してるから」
「そう。でも、ジノに用は無いから」
「んあ?じゃあライにはあるのか?……あるんだな?くっくっくっ…」
 ジノは突然何かに気付いたようで、腹を抱えて笑い出した。
 怪訝な表情をするアーニャに一言、
「ライが“相手”か」
「っ……!」
 しまった、と思った時にはもう遅かった。指摘された瞬間、アーニャは顔を真っ赤にしてそれを事実上認めてしまった。
 ジノは心底愉快そうに、
「やっぱりなー!いやぁ、ライ!お前はフラグ立てるのが本当に巧いなあ」
「褒めてるのかい、それ?……まあ、アーニャを放っておく訳にもいかないし」
「そうかそうか…くっくっくっ…そうかライか…!」
 ツボに入ったのか、ジノは必死に腹を押さえて笑いを堪えている。
 ライも若干困った様子は見せているが、特にそれ以上の反応は無い。
 だがアーニャの方は、
「くぅ……」
 と、下唇を噛んで恥辱に震えている。
「アーニャ~、別にライが“結婚相手”ならそう悪い話じゃないだろう。何ならいっそのこと…」
「うるさい。ジノはあっち行って」
「へいへい。ライ、後で例の物は書いておくから受け取っておけよ。ではお二人でごゆっくり~」
 言って、背中を向け人の群に溶け込んでいくジノを見ながら、アーニャは突き付けられた現実を直視していた。
(ライが……結婚相手)
「どうする?ジノも行ったし…踊ろうか?」
「……わかった」
 ここでじっとしててもしょうがない。アーニャは渋々承諾した。


39:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:33:55 gQ8c2mis
支援

40:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:34:20 hZ0lKNLb
支援

41:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:35:58 ojtiYlof
支援
トーマス卿すごすぎるw支援と保管を同時にこなすとは…!

42:モザイクカケラ
08/10/26 20:35:58 GKuBsb8H

   ●

 二人は手を繋いでホール中央まで歩き、そして白とピンクのコントラストが並び立つ。
 お辞儀。
 すると、アーニャは周りから人の気配が退いていくのを感じた。
 パーティーの主役が今夜初めて踊るのだから、注目されるのは当然だ。
(何か変な感じ…)
 モーセの杖の気分、と変な思考に突入するのはライが目の前にいるからか。
 “婚約者となる人物”が前に立っていると考えると、流石に緊張してしまう。―たとえ本物ではないにしろ。
(とりあえず、ライのおかげで何とかなる……)
 アーニャは目の前にいる救世主に、心の中で感謝の言を述べた。

   ●

 ―1ヶ月ほど前、モニカに相談を持ち掛けたのが始まりだった。
 どこから間違ったのか。恐らくは相談相手か。モニカにも似たような事があっただろうと適当に考えたのが問題だった。
 彼女は面白がって協力してくれた。その結果が、ダミーの婚約者。
(それがライ)
 ライは今、クルシェフスキーの家名を受け継いでいる。
 彼はエリア11からノネットに連れて来られた経緯を持つが、しかしエニアグラム家の保護下にあったというだけ。ラウンズという身分以外、出身すら不明の謎だらけだった。
 モニカはそんなライをクルシェフスキー家に養子として招き入れる事によって、アーニャの婚約者として相応しい立場に押し上げた。
(だけど……それは一時的なもの)
 アーニャは今日、ライを婚約者として選ぶ。
 だがその後―ライがクルシェフスキーの養子でなくなったら?
(ライはアールストレイム家に釣り合わなくなる…)
 アーニャにとって、家の地位で結婚が左右されるのは本来ならごめんだ。そもそもそれが原因なのだから。


43:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:36:14 xMRcFEnd
支援

44:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:36:19 gQ8c2mis
支援

45:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:38:30 hZ0lKNLb
支援

46:モザイクカケラ
08/10/26 20:38:42 GKuBsb8H
 だが今回はそれを利用する。
 後日、ライは何らかの事情で養子から外される事になる。
 そうすれば自然とライとの婚約は解消となり、晴れてアーニャは自由の身。
 不安要素があるとすればその後のクルシェフスキー家の立場にあるが、それについてはモニカも承諾してくれた。それくらい構わない、と。
 元々ライは出身不明者であるから、上手く理由を付ければクルシェフスキー家に責任は及ばない。
(だけど……)
 ライの立場は微妙になる。これは避けられない事だ。
 養子になって、婚約者になって、しかし養子から外され、婚約も解消。元に戻るかと言ったらそうはならない。
 今後ライが他の貴族に関わる事は非常に難しくなるだろう。たとえラウンズであろうと。
(なのに……)
 ライは躊躇せずにその役目を引き受けてくれたのだ。

   ●

「あ」
 考えごとをしていたせいで、アーニャは足を踏み外した。慣れないヒールだったせいもある。
「おっと」
 軽やかなステップ一つでライが踏み込み、ダンスの流れを途絶えさせないままにアーニャを支えた。
「……ありがとう」
 アーニャは少し恥ずかしくなりながらも礼を言った。ライは頷き、
「どういたしまして」
「……」
「どうかした?」
 別に、と首を振って返す。
 言いたい事はあった。だけど、何から言えばいいかアーニャは分からなかった。
(ありがとうって……)
 支えられた時みたく、自然に出される感謝の言葉以上を伝えたいと思う。
 ライからすれば、何のプラスにもならない事だ。なのに彼はこうまで自分の為に―。
(どうして?)
 どうして彼がこんな役目を引き受けたのか。不意にそんな疑問が頭をよぎった。
 最初に思い浮かぶ理由は、彼の“性格”だ。頼まれたら断れない性格。


47:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:38:54 gQ8c2mis
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48:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:40:49 xMRcFEnd
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49:モザイクカケラ
08/10/26 20:41:22 GKuBsb8H
(だけど……)
 アーニャはそれを、性格だと思いたくはなかった。もし性格だとすれば、それはつまり彼は頼まれたら誰の婚約者にでもなってしまうという事。
 それは、何となく嫌だ。そんな物に感謝したくはないし、第一そんな人物ではないとアーニャは知っている。
「ねえ、」
「ん?」
「何で引き受けてくれたの?」
 くるくる踊りながら、二人だけの世界でアーニャは問う。
 ステップ、ステップ、ターン。ステップ、ステップ、ターン。
「さあ、僕にもよく分からないよ。何でこんな事してるのか」
「迷惑かけて……ごめんなさい」
「いいよ。だって……」
「だって?」
 ステップ、ステップ、ターン。

 ―アーニャには、幸せになってもらいたいから。

「…かな?うん、それが引き受けた理由だと思う。……そうだ、言うのを忘れていた。誕生日おめでとう、アーニャ」
 爽やかな笑顔で言われ、その笑顔を見てアーニャは押し黙る。
 思う事は一つだ。
 嬉しい。
(どうして…)
 今までアーニャに声を掛けた貴族にだって、似たような台詞を言った者はいた―と思う。あまり覚えてないから分からないが。
 それなのにどうしてこうまで彼の言葉は真っ直ぐに自分の心に響いてくるのか。
「どうして私に幸せになって欲しいの?」
 答えは聞かなくても分かってる。
 でも、その答えをアーニャは聞きたかった。ライの口から、直接。
 何故なら、
(天然で真面目でぼけぼけで……だから)
 だから、ライは嘘をつかない。少なくともこういう場では。
 それが分かっているからこそ、彼の言葉はアーニャに響く。心地よい音色で心を揺らしていくのだ。
 ステップ、ステップ、ターン。


50:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:41:40 gQ8c2mis
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08/10/26 20:41:50 xMRcFEnd
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08/10/26 20:42:14 hZ0lKNLb
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53:モザイクカケラ
08/10/26 20:42:42 GKuBsb8H
「どうして幸せになって欲しいかって……勿論、アーニャが好きだからだよ」
(馬鹿……)
 アーニャの思った通りの台詞が来た。
 これから婚約者の立場になると分かってて言っているのだろうか。たぶん、分かっていない。
 普通に聞けば告白だ。
「本当、馬鹿」
「ええ!?」
「でも、……ありがとう。嬉しい」
「え……あ、うん。どういたしまして……?」
 ステップ、ステップ、ターン。ステップ、ステップ、ターン。



54:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:43:14 gQ8c2mis
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08/10/26 20:43:46 xMRcFEnd
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56:モザイクカケラ
08/10/26 20:45:21 GKuBsb8H
 §2


「は?」
 父に呼び出され、ライとのダンスを中断してやって来たアーニャは自分の耳を疑った。
「今……なんて?」
「だから、この方がお前の婚約者だ」
「クリスティアン・ローゼンクロイツです。初めまして、アーニャさん」
 と、馴れ馴れしくもいきなりファーストネームで呼んできたのは、如何にもキザったらしいお坊っちゃんという風情の男だった。
 アーニャの父親はそんな得体の知れない男を、あろうことか婚約者だと紹介してきたのだ。
「ローゼンクロイツ伯爵は各方面にも顔が利いてな。婚約の後、所領の譲渡についての事も決まっている」
 それを聞いて、アーニャは声が上擦るのが抑えられなかった。
「な……私を売るって事!?」
 所領の譲渡。これだけで、アーニャは全てを理解した。自分の父親は、爵位目当てに娘を売ろうとしているのだと。
 ブリタニアにおいて爵位の度合いは、基本的には所領の大きさで決まる。
 そしてアールストレイム家の所領は現在アーニャの父がその大半の権利を保持。
 アーニャとてラウンズであるため貴族制度では皇族に次ぐ地位にあるが、世襲制ではなく一代限りの襲名となっているため、父の地位には結び付かないのだ。
 そして今、アーニャの父は自分を嫁がせる事によって新たな、自身の領地を得ようとしている。
 アールストレイムとラウンズという、他からは喉が出るほど欲しい自分を売って、公爵から大公爵へと位を上げるつもりなのだ。
(そんなの……!)
 許せる訳が無い。
 たとえ初めからこの結婚が政略に絡む物だと解ってはいても、誰を選ぶかという最後の権利まで奪われる事なんて。
 アーニャはすぐにでもその事を撤回させようとしたが、
「少しいいですか、アーニャさん。どうやら勘違いしているようなので…」
 にこやかな笑顔を浮かべるクリスティアン。だが、アーニャの良く知る“にこやかな笑顔”とは打って変わって嫌悪感しか抱かれない。
「勘違い? 私の父は大公爵の位を、あなたはアールストレイム家と繋がりができる」
 それが目的、ときっぱり告げるアーニャに、しかしクリスティアンは首を振った。
「違います。私の目的はあなたを妻にする事なんですよ」
「なにを……」


57:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:45:48 gQ8c2mis
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58:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:46:27 hZ0lKNLb
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08/10/26 20:46:37 xMRcFEnd
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60:モザイクカケラ
08/10/26 20:47:47 GKuBsb8H
「あなたを愛しているんです」
「っ……」
 言われた瞬間、動揺がアーニャの中に走った。
(何…これ……)
 胸がむかむか、焼けるように相手を拒めと訴えかけてくる。
 今まで自分に対して「愛している」と言ってきた男なら星の数ほどいる。そのどれもが気にも留めない物だった。
(違う……)
 だが、違う。
 この男からその言葉を言われた瞬間、いやもっと前から、アーニャは何かに囚われていた。
「いや」
 感情そのままの言葉を発する。
「おい、アーニャ。何を言って―」
 言うことを聞かせようとする父親を、しかしクリスティアンが止めた。
「アーニャさんは突然の事に照れてしまっているんですよ。少しお話しすれば理解していただけますよ。私にお任せ下さい、アールストレイム“大公爵”」
「む…分かった」
 引き下がる父を後ろに、クリスティアンがアーニャの前に立つ。堂々とした様子で、
「アーニャさん、もう一度言います。私はあなたを愛しています」
「……あっそう」
 興味なさげに呟くアーニャに、しかしクリスティアンは酔ったように続けて言う。
「強く、美しく、しかしそれでいて儚さを持つあなたは砂漠に咲く一輪の花。初めて見た瞬間、雷が落ちたようでしたよ」
 一言一言が張りぼてのような薄っぺらい言葉に、うへぇ、とアーニャはジノのようなリアクションを取りそうになる。その雷で頭のネジが飛んでいる、と。
「ありがとう。でも私は、あなたと結婚なんかしない」
「ほう、ではどなたと?」
「む………」
 言おうとして、しかしアーニャは口を閉じた。
 呼べば、きっと彼は来る。そして自分を助けようとしてくれる。
(だけどこの状況で呼んだら…)
 彼の立場は最悪に近くなる。それは駄目だ。これ以上、迷惑を掛ける訳にはいかない。
 だから、
「ねえ」
「なんでしょうか?」


61:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:48:09 gQ8c2mis
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62:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:49:08 hZ0lKNLb
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63:モザイクカケラ
08/10/26 20:49:30 GKuBsb8H
「あなたは、私を幸せにしてくれるの?」
 問われたクリスティアンは質問を反芻するように深い頷きをする。そして真剣な表情で、
「勿論。愛する女性に幸福を届けるのは男の役目です。それに―」
 一息。笑顔を作り、
「私はローゼンクロイツ伯爵。この名に懸けて、決して不自由な思いなどさせませんよ」
 言って、クリスティアンはアーニャの手を取り、優雅な仕草で手の甲にキスを落とした。
 その様子に、周囲からは「おぉ…」という類の感嘆の吐息が漏らされる。
 まるでおとぎ話の姫と王子のような魔法がかかった世界。
 皆がその世界に酔いしれる中で、一人だけ十二時の鐘を告げられ魔法が解かれている者がいた。
 アーニャだ。
 周りにいた貴族も、目の前にいたクリスティアンも気付かない。クリスティアンの台詞に、微かに眉尻が下げられていたのを。
(そっか……)
 そして今、アーニャの目は虚ろ。何も映してはいなかった。
 深い思考の中にいたのだ。
(わかった)
 理解する。自らに潜んでいた感情を。
 クリスティアンが現れてからずっと感じていたえもいわれぬ不快感。その正体を。
(私は、この男を何とも思っていない)
 クリスティアン自体はアーニャにとってどうでもよかった。ただ、
(婚約者って言われたから……)
 婚約者はあなたじゃない。そう言いたかったのだ。自分を幸せにしてくれる人物は、きっと他にいる。
 そして、与えてもらった幸せを返したいと思う人がいる。
 彼と一緒にいたいと思う。
(わかった……)
 感情のカケラが、ココロにかっちりとはまる。埋まる。満たされる。
(私は―)

 私は、ライの事が―。



64:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:50:12 gQ8c2mis
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65:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:50:57 xMRcFEnd
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66:モザイクカケラ
08/10/26 20:52:26 GKuBsb8H
「っ!?」
 何かが弾けたような苦しみに襲われアーニャは胸を押さえた。
(なに、これ……!?)
 眠っていた感情の爆発。
 理屈や理性、論理的な思考では説明がつく事なく、鼓動による波紋が自分を中心として津波となって無限大に広がり、そしてその行く先はたった一人の少年の下。
 アーニャのココロは、その莫大な感情の奔流に耐えられなかった。
(どうして……)
 どうして、自分は彼の側にいないのか。何故、こんな男と話しているのか。自分の世界に入り込んでいるこの邪魔者は何なのか。
 今まで以上に他者を疎ましく感じる。
(いやだ……)
「どうかされましたか? アーニャさん」
 苦い表情をするアーニャを気遣っての行動か、もしくはそう見えるようにしただけか。
 どっちにしろ、今のアーニャにとっては煩わしい。
「私は、あなたを選ばない」
 明確な意志を持つ拒否。それを拒絶と言う。
「私は……私には、心に決めた人がいるから」
 その言葉を聞いて、初めてクリスティアンは今までとは別の顔を見せた。獲物を前にした獰猛な獣のような表情。
「ほう……それは誰ですか?」
「それは…」
 言い淀む。
 恥、という考えがある訳ではない。
 言ってしまったら、恐らく彼は来るだろう。きっと助けてくれる。アーニャの望む通りに。
 だが、だからこそ名前を呼べない。
 好いているが故に、これ以上自分のわがままで彼を巻き込みたくはなかった。
(でも……)
 助けて欲しい。
 それでも助けて欲しい。
 彼には待っていてと言ってあるが、こちらの様子くらいは伺っているはずだ。
(助けて…)


67:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:52:47 gQ8c2mis
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68:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:53:55 xMRcFEnd
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69:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:54:13 hZ0lKNLb
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08/10/26 20:54:40 Pmgx1z3E
>>19
どうやったらこんな離れ業を出来るんだ支援

71:モザイクカケラ
08/10/26 20:54:36 GKuBsb8H
「誰なんですか?私以上にあなたに相応しい人なんて」
(助けて―ライ!)

「僕ですよ」

「何だ…君は?」
 目の前にいるクリスティアンが怪訝そうにアーニャの背後を見た。
 後ろにいる―ライを。
(ああ……)
 来た。来てしまった。
 優しい響きに促され、アーニャは振り返る。そして呼ぶ。ありったけの想いを込めて、
「ライ!」
 駆け寄り、そのままライの胸に飛び込む。嬉しさのあまり涙が零れ落ちるが気にはしない。
「おっと」
 ライはアーニャを優しく受け止め、そっと抱き締めた。
「ごめん。呼ばれない限り出て来ない約束だったけど、我慢できなかった」
 アーニャはライの胸に顔を埋めながら首をぶんぶん振る。
「いい。遅いくらい」
「あはは、今日は遅れてばっかりだ」
 申し訳なさそうに笑うライを見て、アーニャはそうじゃないと言いたかった。
(言いたい事は…もっといっぱいあるのに)
 言葉が見つからない。先に涙の方が出てしまうくらいだ。
「ライ……わた、私…」
「ん?」
 ライに見られるだけで体が熱くなる。
 焼けるように赤くなった頬そのままに、アーニャはしどろもどろになりながらも感情を口に出した。
「私……もっと言いたい事…あって。ライの服、似合ってる…とか。迷惑かけてごめんなさい…とか。もっと…もっと……あぅ」
 喋り出したら止まらなくなった。今までのツケが回ってきたのか、話したい事が沢山ありすぎた。


72:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:55:25 gQ8c2mis
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73:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:55:40 xMRcFEnd
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74:モザイクカケラ
08/10/26 20:57:04 GKuBsb8H
 ライはそんなアーニャの唇に人差し指を添え、口を閉じらせた。
「わかった。僕も君と沢山話したい。でも、それは後だ。今、アーニャが僕に一番して欲しい事。それだけ言って」
「一番…して欲しい事…」
 今のアーニャにはそれだけ伝える事も難しい。
 ただ言うだけではなく、想いも伝わるように。
 流れる涙を拭う事さえ忘れ、アーニャは言う。自分の気持ちを。
「助けて……あと、もし良かったら…わ、私と……けっこ―」
「そこまでにしませんか?アーニャさん」
 アーニャの懸命な努力によって発せられた言葉に、別の物が覆い被さった。クリスティアンだ。
 彼はこちらの様子を辛抱強く待っていたらしい。律儀だとは思うが、かと言って邪魔であることに変わりない。
 アーニャは文句の一つでも言おうとして、しかし先に悪態をついたのはライだった。彼はクリスティアンを一瞥し、
「まったく邪魔な奴だ……なに、アーニャ?鳩が散弾銃食らったみたいな顔をして」
「え……私、そんな変?」
 ライが人に敵意を向ける事などなかなか無いから驚いていたのだが、思わず顔を触って確かめる。
「大丈夫だよ。……そして受け取った。『助けて』という君の願いを僕は叶える」
「う、うん」
 アーニャが頷くと、ライは急に顔を逸らした。心なしか、彼の頬が赤い。
 どうかしたの。そう言おうとしたところで、
「もう一つの願いは……後で僕から言うよ」
「あ…………」
 じわっと再び心が満たされる。
 絶対、今自分の顔はにやけている。そう確信できるほどに幸せに溢れている。
「わ、笑うなよアーニャ」
「笑ってないもん…」
 頬はだらしなく緩み、ぴくぴくと震えている自分は間違いなく笑っている。
(だって…だって…)
 ライは耳まで真っ赤になっていたのだ。これをどうして笑わずにいられよう。
(ライも、私と一緒)
 悩んで、怒って、悲んで。色々な感情を持っていて。そして、恋をする。


75:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:57:51 gQ8c2mis
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08/10/26 20:58:20 xMRcFEnd
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77:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:59:37 hZ0lKNLb
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78:モザイクカケラ
08/10/26 20:59:49 GKuBsb8H
「じゃあ、後は邪魔者に消えていただくとしよう。アーニャ、僕が合図したら……」
 耳元で告げられた言葉を頭の中で復唱する。
「?……そうすればいいの?」
「それだけでいい。後は僕がやる。予定とは違うけど、何とかしてみるよ」
「わかった」
 アーニャはしっかりと頷き、ライに全てを任せると決めた。
「さて、お待たせしましたクリスティアンさん」
 そしてライはアーニャの頭を一撫でした後、クリスティアンに向き直った。



79:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:00:05 xMRcFEnd
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80:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:00:25 gQ8c2mis
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81:モザイクカケラ
08/10/26 21:02:03 GKuBsb8H
 §3


「さて、お待たせしましたクリスティアンさん」
 言って、彼は頭を下げた。
 誰からも一目で優雅と感じられる傾頭。更に上げた表情もまた柔和で人に親身な感情を抱かせる。
 一方、クリスティアンは同じ微笑でももっと狡猾で、何かを秘めているようなギラつきを持っている。
「まったくだよ。まあ、私も大人だ。何やら面白い話をしていたようだけど…」
 流れるようにライへの叱責と自らの賞賛を同時にこなす。慣れているのだろう。続く言葉に淀みは無い。
 一方のライは笑みを崩す事なく、そのことですか、と頷いた。
 ここで皆が気付く。彼は表情こそ柔和さを醸し出しているが、その実表情の裏に激しい怒りを帯びている事に。
 そしてライは自身の言葉を待つ人々全てに向けて、皮肉っぽい笑顔を浮かべ、よく通る声で堂々と言った。
「ああ、2人の愛を確かめ合っていただけですよ」

   ●

 言った瞬間、周囲にどよめきが走るのをライは見た。
 クリスティアンの表情も穏やかな笑みを見せてはいるが、口元がひきつっている。無駄に大きそうなプライドを傷つけられたからだろうが。
 その表情を見てライは笑みを濃くする。屈辱だろう? と。だが、
(これくらいで済むと思うな。アーニャの婚約者と名乗った事を後悔させてやる)
 ライは非常に怒っていた。激昂、と言ってもいいかもしれない。
 思うのは自分の事とアーニャの事。
 今アーニャは、自分が抱き寄せた腕の中で小さく震えている。安心しきったのか、全体重をこちらに預けている状態だ。
(どうしてこんなになるまで呼ばなかった…)
 恐らくは自分に迷惑を掛けないため。それはライにも分かっていた。故にその意図を汲んでライは動かなかいでいようとした。
 また、それ以上に動かせない自分の意志も存在した。
 アーニャに手を差し伸べる事を、自分は恐れていた。いや、今も恐れている。そんな資格は自分には無いのに、と。
 誰かのために立ち上がり、そして幸せになる。それは、
(僕がそれで罪を犯し、失敗した事だ……そして、今また同じ事をしているんだと)
 そう思い、ライはアーニャの所へ行こうとする自分を必死に縛り付けた。
 だが、できなかった。


82:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:02:31 hZ0lKNLb
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83:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:03:34 gQ8c2mis
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84:モザイクカケラ
08/10/26 21:04:09 GKuBsb8H
 飛び出した理由は、色んな感情が渦巻いて説明できない。罪の意識だってある。ただ一つ確かな事は、
(僕がアーニャを好きだという事…)
 それだけだ。
(初めから分かっていた事だったんだ…)
『何で引き受けてくれたの?』
『アーニャには、幸せになってもらいたいから』
(そう思ったのは、何故だ?)
『どうして私に幸せになって欲しいの?』
『それは勿論、アーニャが好きだからじゃないか』
 あの時、もう答えは全て出ていたではないか。
 あの時、ライは『嬉しい』と返してもらえた事を喜んでいたのだから。
(馬鹿だな……僕もアーニャも)
 最初から二人の関係は進んでいた。自分も、そしてアーニャもその事に気付いていなかっただけ。
 婚約者という役目を引き受けたのは、きっとそうなる事を望んでいたから。
 たとえ彼女をこの手に掴む事が、自分には許されない事だとしても。
(僕はまた、罪を重ねる)
 その事はきっとまた自分が生きて背負う上で、枷となるのだろう。正直、これ以上の罪悪に押しつぶされないかは不安だ。
 だがアーニャには、あの自分の過去の過ちを見せたくない。彼女を巻き込みたくはない。
(でも……アーニャは見たいと思うのかな)
 その先に見えた微かな自身の救いを否定する。これ以上望む物は無いのだと。
 今はまだ、どうなるかは分からない。躊躇いもある。後悔もある。しかし、
(アーニャを放っておくなんて出来ない!)
 目の前にいる男を見る。
 ―敵だ。
 その後ろにいるアーニャの父を見る。
 ―敵だ。
 周りにいる貴族達。
 ―敵だ。
 どれもがアーニャの枷となる存在だ。そして、自分は助けてと彼女から言われた。
(だから……)


85:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:06:00 xMRcFEnd
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86:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:06:44 gQ8c2mis
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87:モザイクカケラ
08/10/26 21:06:59 GKuBsb8H
 助けてみせる。アーニャを苦しめる世界から、彼女を救い出す。
 ならばどうするか。ライの頭脳は単純かつ明確な解答を―既に弾き出していた。
 そのための下準備も、アーニャには済ませてある。
(僕は……やれるのか―)
 しかし、それをやる覚悟は未だに決まらない。

   ●

「そういえば君の名前を聞いてなかったね」
「ライ・クルシェフスキーです」
 クルシェフスキーの名を聞いて、クリスティアンは興味深げにライを見た。
「ライ……確かラウンズだったね。だが、クルシェフスキー家に属しているなど聞いた事も無いが?」
「僕は最近養子に迎えられたので、あまり知られてないかもしれませんね」
 一息。ライはにっこりと、
「でも安心して下さい。―僕もローゼンクロイツなんて聞いた事無いですし」
 再び周囲が息を呑む。
「っ……無礼な!」
「ではこちらも同じ言葉をお返します」
 言われ、クリスティアンは押し黙った。家名はまだしも、個人の地位はラウンズが上だ。まともな言い争いでは分が悪いと判断したのだろう。
 襟に手を当てて首元を緩めて彼は、
「なかなか面白いね、君は。しかし…例えクルシェフスキーと言っても養子。こんなやり方で彼女を手に入れて、本当に幸せにできるとでも?」
 問われたライは、初めて笑顔を崩してクリスティアンを睨んだ。
 相手の心の奥まで見透かしてしまうような蒼炎の瞳が周囲を威嚇する。
「どういう意味でしょうか…」
「養子程度の君と結婚などしても、アールストレイム家にメリットは無い。元々彼女もラウンズなのだから」
「それが?」
「分からないかな。君と結婚したら、アーニャさんの立場は非常に悪くなるだけさ。だが私ならそうはさせない。決して不自由な思いをさせないよ」
 言って、クリスティアンは勝ち誇った表情で身を横にずらした。


88:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:07:31 hZ0lKNLb
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89:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:08:01 xMRcFEnd
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90:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:08:33 gQ8c2mis
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91:モザイクカケラ字数制限orz
08/10/26 21:09:15 GKuBsb8H
「そうだな…」
 クリスティアンの後ろから穏やかな声を挙げ現れたのはアーニャの父。無精髭をさすりながら残念そうに彼は言った。
「君のアーニャを想う気持ちは父親として嬉しいと思う。ただ、君もアーニャの真の幸せを願うなら……分かってもらえないか」
 真の幸せを願うなら。
 それはつまり、ライとアーニャの想いなど一時的な感情に過ぎないのだと。そして、ライではアーニャを幸せにできないのだと、そう告げられたようなものだ。
 だが、
「父親として? 真の幸せ……?」
 ライはアーニャの父を睨んだ。怒りと悲しみが混じり合ったような色を灯して。目尻には涙さえ浮かべて。
「なら……なんでアーニャの意思を無視するんですか。なんで話を聞いてあげないんですか! なんで……アーニャを売ろうとした!!」
「く……勝手によその家の事情に首を突っ込まないでくれないか」
「違う! これは家の事情じゃなくてアーニャの問題だ!」
「君達は子供だから分からんかもしれんが、こうする事が一番なのだ!」
 アーニャの父親も声を張り上げた。
 今やホールに集まる人全てが、この言い争いの行方を見守っている。
 アーニャもまたライにしがみつきながら、決して視線を彼から逸らさない。
 そのアーニャの肩を痛いくらいに強く抱き寄せ、ライは叫ぶ。
「その子供を結婚させようとしているのがあなただ! 偽りの善意を押し付け、自分一人が全てを手に入れようとして……ふざけるな! アーニャはあなたの道具じゃない!」
 放たれる激情に、アーニャの父親は息を詰めて返す言葉を失った。
 アーニャの幸せを望んで、という善意の嘘は二人には通用しない。
 感情という物ではもはやライとアーニャは揺るがない。何よりも強い結束が二人にはあった。
 ならば、その二人を揺るがせる物は別の物。
「だが君のそれは理想論だ」


92:モザイクカケラ
08/10/26 21:10:06 GKuBsb8H
 再び前に立ったクリスティアンが告げる。事実は変わらない、と。
「事実、親が子を道具として扱う事もある。私はそれを利用したとも。悲しい事だがそれが現実さ」
 それはつまり、
「……僕達は現実を理解しようとしない子供だと?」
「そう。これは……貴族として生まれた者としては当たり前の事なのだから」
「アーニャはそれを望んでいない!」
「それが子供だというんだ! 望んでいない? だからなんだ。世の中にはどうやっても貴族になれない生まれの者が沢山いるぞ!」
 逆もまた然り。クリスティアンは感情ではなく理性と理屈でもってライに立ちはだかる。


93:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:11:03 gQ8c2mis
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94:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:12:43 hZ0lKNLb
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95:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:13:08 xMRcFEnd
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96:モザイクカケラ
08/10/26 21:13:14 GKuBsb8H
「庶民には庶民の、貴族に生まれたからには貴族なりの、それぞれに伴う義務がある。それがノーブル・オブリゲーション。この世界のシステムだ!」
 貴族に生まれた誇り。庶民の上にある立場としての義務は、確かにブリタニアの制度を形作る物だ。
「だがそのシステムに相容れない人はどうすればいい! 抗う事すら許されないと言うのか!」
「抗うなら抗えばいい―だが、見ろ」
 クリスティアンは両腕を左右に大きく広げた。
 その先には、ホールには有力な貴族達が集まっている。システムの中心が。
 ライが、敵だと認識した存在が立ちはだかっている。
「君は私を含めここにいる全員を、そして世界というシステムを敵にすると言ったのだよ?」
「…………」
 ライは言葉を詰まらせた。顔を俯け、ただ悔しそうに唇を噛む。
「それでどうやって彼女を幸せにできる! 全てを失って2人だけでどうやって幸せを掴む!? 私より彼女を幸せにできる保証が、どこにある!!」
 これが理性。これが理屈。
 ライとアーニャがどれほどの想いを抱えようと、逃げる事のできない現実。
 アーニャには失った記憶を取り戻したいという願いがある。日記に書かれた彼女の姿は、確かにアールストレイムとしてのもの。
 ライには犯した罪を償いたいという願いがある。そのために今の立場はどうしても彼には必要なもの。
 両者とも、全てを無くして進むには途方もなく厳しい道のりだ。
 いくら抗っても、それが今の彼らの頼どころである以上勝ち目は無い。
「それでも……」
 その時、黙っていたアーニャが突然口を開いた。
 皆は聞く。ライにしがみつき、俯いたまま放たれる言葉は力無く、覇気は欠片も見当たらなかった。
 しかし、
「それでも私は……」
 現実に打ちのめされようと、理想が夢と共に打ち砕かれようと。彼女は揺るがない。
「ライといられるなら、私はそれだけで幸せ……そう思う」
 笑顔。アーニャは顔を上げて笑顔でそう言った。
 弾かれたようにライはアーニャの顔を見つめる。
「アーニャ…!」
 それが二人の答えだった。
「馬鹿馬鹿しい…!」
 クリスティアンは吐き捨てるように声を荒げた。それが彼らの答えだ。


97:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:13:54 gQ8c2mis
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98:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:14:45 xMRcFEnd
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99:モザイクカケラまた字数制限orz
08/10/26 21:16:08 GKuBsb8H
 だが、というようにライとアーニャは並び立って言葉を返した。
 クリスティアンとアーニャの父に。その他周囲に立ち並ぶ貴族達に。
「あなたは、あなた方は、僕達の答えを馬鹿馬鹿しいと思う。それが普通なのでしょう」
「でも、それが私達が出した答え。例えそれが馬鹿にされるような物でも―あなた達に否定する事はさせない。それに……」
 アーニャがライに視線を向け、彼は促されるままに懐から束になった羊皮紙を掲げた。
 皆の視線が集まるその紙の束を―、
「僕達は何も世界に喧嘩を売る訳じゃない。認めてくれる人たちだって確かにいるんです」
 言って、バラまいた。
 なんだ、という疑問の声が発せられるが、羊皮紙は停まらない。空気に圧され、ひらひらとその場に舞い落ちる。


100:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:16:27 gQ8c2mis
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101:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:16:51 xMRcFEnd
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102:モザイクカケラ
08/10/26 21:17:29 GKuBsb8H
 そして散在した羊皮紙を、貴族の一人が拾う。すると、一瞬でその顔を青ざめて言った。
「これは……婚約の推薦文…しかもヴァルトシュタイン家の!?」
 告げられた言葉に、皆に緊張と動揺が走る。
 そして羊皮紙を拾った別の人物が、
「こっちはエニアグラムだ!」
 また羊皮紙を拾った別の人物が、
「おいおい、ブラッドリーにエルンスト家まで…」
 次々と挙がる名前は、皆アールストレイムに負けず劣らずの名門貴族のもの。
 ラウンズに属する名家と、更にその家と深い繋がりを持つ名前まで。
 更には別の羊皮紙を拾ったアーニャの父が、
「ヴァインベルグも……一体どういうつもりだ!?」
「いや、ジノがどうしてもと言うから先ほど……名前はあいつが書いておったし、まさかこういう使い方をされるとは……」
 喧騒が輪となってホール全体を包み込む。皆が恐ろしい物を見るかのように羊皮紙を前に驚愕している。
「何だこれは……!」
 クリスティアンが叫ぶ。焦りを帯び、怯えたような声だ。
 如何に伯爵の名であろうと、いや、逆に伯爵という地位で相手にした事がここに来て仇となる。
 相手はラウンズ。クリスティアンよりも楽に有力貴族との繋がりが持てるのだから。
 誤算としては、まさか他家の婚約に別の家が介入するなど考えもしなかった事か。
 アールストレイムの息女一人の話ならまだ大丈夫だった。しかしもう伯爵の地位如きで相手取るには敵が強大過ぎる。システムで相対していた彼の方が、逆に追い詰められる結果がそこにはある。
 クリスティアンは自分の足下に落ちていた最後の羊皮紙を手に取った。
 そこに書かれた名は―、
「『ライ・クルシェフスキーとアーニャ・アールストレイムの婚約を我が名において推薦する』……な、ナナリー・ヴィ・ブリタニア!? 皇族までが、何故だ!!」


103:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:18:48 xMRcFEnd
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104:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:18:48 hZ0lKNLb
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>>96
頼どころ は”よりどころ”だと思うけど漢字が違うような気が・・・

105:モザイクカケラ
08/10/26 21:19:05 GKuBsb8H
 どういうことか、という周囲の疑問がライに向けられる。
 だがライは何食わぬ顔でただ事実を突き付けるのみ。
「僕はあなたよりもアーニャを幸せにできる立場にあるみたいですよ。だから…あなた方はそこで僕達の歩みを黙って見ていればいい。―アーニャ!」
 ライが突然叫び声を上げてアーニャに呼び掛けた。
 すると、アーニャはそれに対して一つの行動を見せた。
 耳を塞ぐ。
 次の瞬間、皆は見た。だがそこまでだった。
 何を見たのか、何を言われたのかは記憶に一切残っていない。

『ライが命ずる――!』

 赤の鳥が羽ばたいて、闇に消えた。



106:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:19:58 gQ8c2mis
>>104 “拠り所”ですね

107:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:20:10 xMRcFEnd
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108:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:21:12 peRYU9Za
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109:モザイクカケラ>>106任せたぜトーマス!
08/10/26 21:22:24 GKuBsb8H
 §4


 星空の下、アールストレイムの敷地内にある庭園で二人は歩いていた。
 夜風に花が揺れ、ざわざわと音を立てている。
 その音は幻のように二人を包む。まるで夢の中にいるかのような錯覚。
 だから、というようにアーニャはしっかりと傍らにいるライの手を繋ぎ、並んで歩く。
 それが本物である事を確かめながら。
「ねえ、いい加減教えて」
 アーニャは何度目になるか分からない質問をした。
「………何のこと?」
 とぼけたように首をかしげるライに、アーニャはむっと口を尖らせて言う。
「絶対ライが何かやった」
「……だから何もしてないって」
 でもそれ以外考えられない、とアーニャは呟いた。
(合図したら耳を塞げって言われたから……)
 もういいよ、と塞いだ耳を開けられた時には、アーニャの見ていた世界は姿を変えていた。
 皆が皆、自分達に祝の言葉を投げかけてきたのだ。クリスティアンも、父も、全員が「おめでとう」と。
 何が起きたのかは分からないが、ライが何かをしたのは確実だった。
(なのに……)
 聞けども聞けども、彼は「何もしてない」としか返さない。
「どうして教えてくれないの?」
「アーニャ…」
 困ったような表情をされても、構わない。しつこいと思われても、アーニャは聞きたかった。
「言いたくないならそう言って。でも、そう言われない限り、私は何回でも聞く。だって……」
 だって、ライの事は何でも知りたいから―なんて恥ずかしげもなく言えたらどんなに楽か。結局最後の方は小さくて聞き取れないほど尻すぼみ。
 だがアーニャの意思は一応ライには伝わったらしく、笑みを苦笑に変え、
「本当は……言いたく無いし、アーニャには……ううん。誰の前であろうとあれはもう使わないと決めていたんだ…」
 そう言ってライは草むらに腰掛けた。
 アーニャは隣に座ろうとして、しかしライに手を引かれてしまう。座らされた先はライの手前。


110:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:23:08 xMRcFEnd
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111:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:24:17 hZ0lKNLb
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112:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:24:41 gQ8c2mis
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>>109 修正したぜ!

113:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:07 Y8vQwxLM
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114:モザイクカケラ
08/10/26 21:25:10 GKuBsb8H
 アーニャは隣に座ろうとして、しかしライに手を引かれてしまう。座らされた先はライの手前。
「あっ……ら、ライ?」
 すっぽりとアーニャはライの腕の中に収められてしまった。
 覆い被さるようにライが背中にのし掛かる感触が鼓動を速くする。
 この時ばかりは、小柄な体格で良かったなどと思ってしまう。
 まとめた髪に乗る重さは心地よく、耳にかかる彼の吐息はくすぐったい。
 全身でライを感じる。
(でも……ライの顔、見えない…)
 それだけを残念に思い、次の瞬間はっとする。それがライの目的ではないか、と。
 今から彼は何かアーニャに秘密を明かそうとしている。言いたく無い事を話すのだ。きっと、見られたくない表情をするのだろう。
 ならば自分はこのままでいい。そう考え、ライの言葉を待った。
 そして待つこと数分、やがてライはアーニャの頭に顔を埋めながら、ぽつりぽつりと呟くように話し出した。
「ある所に―魔法使いの少年がいました」

   ●

 ―ある所に、魔法使いの少年がいました。
「魔法?」
 そう。彼は魔法で何でもする事ができたのです。彼の望んだ通りに人を操り、従わせる。
 全ては彼の思いのままに動かせたのです。
「その魔法で、やりたい放題?」
「それは違う。彼も一応力の使い所は考えていたさ」
 彼には大切な家族がいました。生まれのせいで不憫な思いをしながらも大切に育ててくれた母と、幼い頃から共にいた妹です。
 彼は2人のためにだけ魔法を使いました。
 2人を傷つける存在を敵と見なし、逆らう者は全て葬り去る。
 全ては2人を幸せにするために。
 少年はそれを悪行だと分かっていながらも、しかしその行為を続けました。
「どうして?」
「たぶん……それしか知らなかったんだよ。2人を幸せにする方法は、他に無かったんだ」
 それ程、彼らの生きる世界は悲惨だったのです。
 偽善と嘘に満ちたその世界で、彼は自らの目的のために敵を殺し続けました。魔法で、力で幸せを勝ち取ろうと。


115:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:28 b5iwbbvq
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116:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:56 gQ8c2mis
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117:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:56 Y8vQwxLM
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118:モザイクカケラ
08/10/26 21:27:10 GKuBsb8H
 たとえ、他者の幸せを奪う事になろうとも。
 それしかできなかった。彼は罪を重ねる事でしか―、

   ●

「―現実には抗えなかったのです」
 月の光の下、銀の髪がそれを反射して踊っている。
 銀の色を靡かせているのは、すぐ真下にある桃色の髪をいじっている少年だ。
 彼は空を見上げた。
 遠くの、月よりもずっとずっと遠くの何かを見るように。
 そしてぽつりと、風に消えてしまいそうなほど儚い声で呟いた。
「アーニャは、そんな魔法使いの少年をどう思う?」

   ●

 話を切り、問い掛けられた内容をアーニャは何度も頭の中で繰り返した。
 彼はどんな答えを求めているか。
 彼がどんな答えを望んでいるか。
 アーニャは考え、しかし止めた。
(そんなの、ライは求めてない…)
 ライはどんな思いで問うたのか。
 自分の素直な感想。そして素直な気持ちを、ライは聞きたいのだ。そう思う。
 だから、
「酷いと思う」
「っ……」
 一瞬、ライの体がびくりと震えたかと思うと、アーニャの体から離れていこうとした。
 だがアーニャは腕を掴んでそれを許さない。
(逃げないで)
 言葉は必要無い。
 アーニャはただ、今ライはどんな表情をしているだろうか、と思い馳せる。


119:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:27:15 gQ8c2mis
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120:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:27:48 xMRcFEnd
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121:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:28:26 Pmgx1z3E
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>>112
すげえw しかも前スレのぷにぷに卿のもすでに保管完了だとおお?!!

122:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:29:18 hZ0lKNLb
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123:モザイクカケラ前スレ>>886GJ
08/10/26 21:30:24 GKuBsb8H
 掴んだ彼の腕はそれはそれは弱々しく震えていた。
「どうして―」
 そして口から紡がれる言葉も、同じく弱々しい。
「どうして、酷いと思う?」
 アーニャは即答。
「だって、他人の幸せを踏みにじって、自分だけ幸せになろうとしたんでしょ?」
「それは、……そうだけど」
「でも、」
 声を低く沈ませるライに、アーニャは優しく話し掛ける。
 一旦言葉を切って、掴んだ腕を撫でながら言う。甘える子供に聞かせるように、素直な気持ちを言葉に乗せて。
「もし私がそのお母さんと妹なら、嬉しいと思う。……たぶん、悲しいとも思う」
「……悲しい?」
 うん、とアーニャは小さく頷く。
「だって、その魔法使いの子が大切に思う人達だもん。自分達のためにしてくれた事に嬉しくて喜んで、だけどその事で傷付いていく姿を見るのは……たぶん悲しい」
 そんな感じ、と言うとライは黙った。
 力が抜けたように息を吐き、
「そっか……そうか…悲しい、か」
 何度もアーニャの言葉を噛み締めるかのように呟きを繰り返す。
 そして再びアーニャの背中に体を預け、また「そうか…」と呟き続ける。
 そんなライに、今度はアーニャが問い掛けた。
「ねえ、ライ……私も、そうなの?」
「え?」
「だって私はラウンズ。人を殺して、たくさん幸せを奪ってきた…」
 言ってから、その事を今まで一度も考えていなかったと気付く。
 幸せを掴み始めて、だからこそアーニャは初めて知る。他の人にもこんな幸せが無い訳ではないのだと。
 自分は、そんな幸せをいくつも潰してきた。ラウンズとして。
 敵だからという理由で、簡単に命を奪ってきた。
 それを思うと、自分は何て酷い人間だと感じる。
 人を殺す意味を全く知らなかった自分は、もはや人間ですらないように思える。


124:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:31:00 gQ8c2mis
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125:モザイクカケラ
08/10/26 21:32:42 GKuBsb8H
「ライも……こんな気持ちだったの?」
 問うと、ライはアーニャの頭を撫でた。
 アーニャは、大丈夫、と言われた気がした。安心した訳ではないが、とにかく心が落ち着いたのだ。
 さら、という風と髪が流れる心地よい音の後、
「アーニャは、ここで気付けたから大丈夫だよ。ちゃんと前に進めるさ」
「……でも」
 本当にそれが可能とは、今は思えない。
(だって、こんなに……)
「辛い?苦しい?悲しい?……そうだね。でも、それだけなら良かった。耐えられる。だって全てを幸福に向かわせるなんて事、できないくらいは現実を知っていたから」
「え……?」
 不意に、ライは再び顔をアーニャの頭に埋めた。先ほどと同じく、いやそれ以上に弱々しく体を震わせながら。
(あ……)
 アーニャは理解した。ここからがライの闇なのだと。
 先ほどまでの問い掛けは、単に自分を次の事を話すに値するものにしただけだと。

 ―彼はまだ、深い傷を抱えている。

「続きがあるんだよ。その愚かな魔法使いの少年の話には」

   ●

 ―魔法使いの少年は、魔法の力でその夢を叶えました。
 理想のように美しく手に入れた物ではないけれど、それでも母と妹には平和な暮らしをさせる事ができたのです。
 だけど、その幸せも長くは続きませんでした。
 彼らの前には、現実が、世界がやはり立ちはだかったのです。
 彼は母と妹を守るために魔法を使い続けました。
「だけど……いつしか、彼は自分を見失っていたんだ」
「自分を?どういう事?」
「どうして自分は人を傷付けて、罪を重ねているのか。何をしたかったのか。……忘れてしまったんだよ」


126:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:33:39 Y8vQwxLM
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127:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:33:57 xMRcFEnd
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128:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:34:31 gQ8c2mis
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129:モザイクカケラ
08/10/26 21:34:35 GKuBsb8H
 魔法の力に囚われた彼は、それからも魔法を使い続けました。
 人の思いを操り、尊厳を踏みにじるという卑劣な手段で、彼は敵を滅ぼしていきました。
 しかし世界は強く、広い。どれだけ魔法の力を使っても、現実を打ち砕くには至りませんでした。
 そして彼は遂に魔法の力に呑まれ、とんでもない事をしてしまったのです。
「とんでもない事って?」
「…………」
「ライ?」
「大切な、大好きな母と妹を………殺してしまったんだ」
「っ!? そんな……!」
 過ちに気付いた時には、少年は全てを失ってしまいました。
 周りには敵も味方もありません。等しく死が与えられ、彼は一人になってしまったのです。
 どうしてこうなったのか。答えの出ないまま、少年はその罪を背負い、永遠の眠りについたのです。
「それで…?」
 しかし少年は目覚めてしまいました。何もかも失って、それ故に、少年の道のりは誰かに与えられる事によって成り立っていました。
 誰かに幸福を与えるという事を、彼は知りました。
 そして彼は誓ったのです。
 もう過ちは繰り返さないと。可能な限り、人々に自分が貰った幸せを返そうと…。
 ですが、少年は再び見つけてしまった。
「何を?」
「自分にとっての幸せ。大切な存在を」
「あ……」
 少年は自分には幸せになる資格なんて無い事を知っていました。
 しかし、それでも、かつての母や妹と同じくらい大切な存在を見つけてしまった。
 そして、気付いた時には再び魔法を使っていました。
 もう過ちは繰り返さないと誓ったというのに。少年はその大切な存在欲しさに、誓いなど忘れ、いとも簡単に魔法を使ってしまったのです。
「今、その少年は大切な人を……アーニャを、幸せを手に入れている」


130:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:35:15 hZ0lKNLb
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131:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:35:39 gQ8c2mis
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132:モザイクカケラ
08/10/26 21:37:09 GKuBsb8H

   ●

 アーニャの頭の上、そして頬に水滴が落ちてきた。
 雨、と思いすぐに違うと気付く。
「ライ……泣いてるの?」
「……アーニャ。僕は…僕は……またやってしまったんだ」
 悲しみと、憤りと、嗚咽混じりにライは続ける。
「もうしないと…過ちは繰り返さないと決めたのに……!」
「そんな事……」
 ない、とは言えなかった。ライは確かに、その魔法か何かで人の意思をねじ曲げたのだろう。
 誓いを破った。誰の責任かと問われれば、それは彼以外には無いのだろう。
「僕は怖いんだ」
「……何が?」
「いつか……君まで殺してしまいそうで」
 反射的にアーニャは叫んでいた。
「ライはそんな事しない!」
 前に回された腕を振り払い、ライの方に向き直り、
「そんな事しないって信じてる!」
「だが僕はそれで一度失敗した! そして今もそれを繰り返している!」
 ライはこちらを見ようとはしない。顔を俯け、叫び続ける。
 負けじとアーニャも叫ぶ。慣れない大声に裏返ってしまうが構わない。
「でも信じてる!」
「その信頼が魔法の力かもしれなくてもか!?」
「っ…」

   ●

 ライはアーニャが押し黙るのを見た。
 返す言葉が見つからない事を悔しがるような、そんな表情だ。


133:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:37:52 xMRcFEnd
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134:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:38:30 gQ8c2mis
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135:モザイクカケラ
08/10/26 21:39:05 GKuBsb8H
 それを見て思う。
(アーニャは、僕の事をこれほど思ってくれている…)
 だが、だからこそライは言いたくなかった。ギアスの事を。
 ―手放したくない。
 自分の中に湧き上がる衝動を必死に抑え込む。
 どす黒い感情が心に滲み、アーニャを求めてさ迷い歩く。
(駄目だ……このままじゃ…)
 いつか彼女にも使ってしまう。そんな最悪の可能性も無視できない。
 今はいい。彼女の気持ちは、自惚れではあるが、確かに自分に向いている。
 だがいつかアーニャの気持ちが自分から離れていったなら。
(たぶん……僕はギアスを使う)
 それだけは避けたい。
(だから言いたくなかった…)
 本当は全て自分が背負おうと決めていたのに。
 しかしアーニャの優しさや想いが心地よく、つい話してしまった。
(いけない)
 これ以上アーニャに依存してしまう事が。
 一緒に罪を背負って欲しいなどという思考がじわじわと音をたてて忍び寄る。
(それは駄目だ!)
 そう思った時だ。

   ●

「ねえ、ライ……」
「なに―」
 ご、とライの頬が鈍い音をたてた。
(は?)
 音の後に続いて感じるのは視界の転倒。正面に向けていた視線がぐらりと右に揺れた。
 更には刺すような痛みが頬を焼き、苦い味が口の中にじわりと広がる。


136:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:40:09 xMRcFEnd
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137:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:40:14 gQ8c2mis
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138:モザイクカケラ
08/10/26 21:41:37 GKuBsb8H
(はい?)
 殴られた、と理解したのは再び正面を向いてアーニャの突き出された右拳を見た時だ。
「アーニャ…?」
 ぽろり、とアーニャの目から何かが零れ落ちた。
 涙だ。
「アーニャ?」
 もう一度呼び掛ける。だがアーニャは返事をせずに、
「他には?」
「え……」
 こちらの呆けた返答に、アーニャは眉尻を下げ、真剣な表情で問う。
「他に…話さなきゃいけない事は無いの?」
「え……と、とりあえずは」
 ライはこくこくと頷く。
 まだ犯してきた罪の具体的な話はしていないが、一通りの流れは伝えたはずだ。
 すると、
「馬鹿」
 といきなり罵声が浴びせられた。
 ライは返す言葉を失っていると、
「ドジ、マヌケ、天然、ぼけぼけ、……女たらし」
「おい」
 いきなりどうしたというのか。思い付いた罵声を片っ端からアーニャはまくし立てる。
 一頻り罵詈雑言を尽くした後、
「どうして……それを一人で背負おうとしたの?」
「っ……それは…」
 ライは思わず顔を逸らし、
「逃げないで、こっちを見て」
 アーニャがライの顔をむんずと両手で押さえ、正面に向けさせた。
「アーニャ…」


139:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:42:39 gQ8c2mis
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140:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:44:12 xMRcFEnd
支援

141:モザイクカケラ
08/10/26 21:44:26 GKuBsb8H
 ライの目の前には、涙に濡れ、怒ったアーニャの顔。
 吐息が鼻にかかり、少し近付ければ唇が重なってしまいそうな距離にそれがある。
 しばしの間考えていた事を忘れ、ライはただ両頬に感じるアーニャの手の感触に酔い、そしてこちらを見つめる真っ直ぐな深紅の瞳に見入っていた。
「やっと、ライの顔が見れた」
 笑みを浮かべ、アーニャはそっとライの目元に溜まった涙を拭いながら言う。
「私は、ライが一人で罪を背負って、それで私だけ幸せになっても嬉しくない」
「なら…どうするんだ。僕の罪は僕の罪だ。アーニャには関係無い」
 ライは押さえられたままの頭を振る。
 アーニャを幸せにする事自体を諦めた訳ではない。アーニャと生きていく事はもはや揺るぎない決意となっている。
 しかし、
(アーニャに僕の罪を背負わせる事なんて出来ない)
 それはアーニャの望む物ではないだろうが、これはどうしようもない現実だ。
 だがライは、これでいいと思う。
「僕は君を幸せにする。約束するよ。それでいいじゃないか」
 アーニャはいやいやをするように否定する。
「良くない。ライも幸せになってくれなきゃだめ」
「僕はアーニャといられるだけで充分幸せさ」
「そんなの嘘」
「本当だよ」
 嘘、とアーニャはもう一度言って、
「じゃあ……何で“過ち”なんて言ったの?」
 言われ、ライは肩を震わせた。動揺を悟られないよう顔を逸らそうとするが、アーニャの手がそれを許さない。
「ライは…後悔してる。私を助けた事を過ちだと思ってる。そんなの、嫌」
 アーニャはこちらから目を逸らさない。その潤んだ瞳を見てライは思う。
(何をやってるんだ僕は…)
 幸せにしようと言っているのに、先ほどから彼女を泣かせてばかりいる。
 だが、自分には何も出来ない。この場で彼女を笑顔にする術を持たない。
 だから聞いた。
「アーニャは僕にどうして欲しいんだ?」
 違う、とアーニャは首を振る。


142:モザイクカケラ
08/10/26 21:46:57 GKuBsb8H
「ライは私にどうして欲しいのか。それが知りたい」
「僕……が?」
 考える。自分がアーニャに何をして欲しいか。
(一緒にいてくれるだけでいい)
 それだけで、充分自分にとって許されない救いだ。
 更には罪まで明かしてしまった。その上で側にいて貰えるなど、本当はあってはならない事だ。
(これ以上望む事なんて無い…)
 無いのに、
(どうして……こんなに辛いんだ)
 そして気付く。
 自分はこの痛みに耐えられないのだと。穢れを祓う事に疲れたのだと。
 一人でしか背負えない罪。
 余りにも重いそれに、目の前にまで現れた救いを見て、自分は屈してしまったのだ。
(助けてくれ、アーニャ…)
 その望みは言えない。それを望んではいけない。だが、ライがアーニャにして欲しいのはそれだ。
(一人で背負うのは疲れたよ…)
 ライは、救いを求めていた。

   ●

 ライが何かを言おうとして、しかし、次の瞬間口を閉じた。
 アーニャは黙ってそれを見つめていた。
 薄暗い視界の中、月明かりに照らされた彼の表情は今まで見た事が無いほど弱々しい。
 アーニャはその姿を知っている。
 ライが助けに来てくれるのを待っていた自分の姿と同じだ。
 肩はがくがく、唇はかさかさで、目の奥がちりちりする。
 そんな感覚にあった自分を救い出してくれたのがライだ。
(今度はきっと、私の番)
 ライは助けを求めている。


143:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:47:10 xMRcFEnd
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144:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:47:23 gQ8c2mis
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145:モザイクカケラ
08/10/26 21:49:13 GKuBsb8H
(絶対、私を助けた事を後悔させない)
 だから、
「ライ……」
 アーニャはライの頭の後ろにそっと腕を回し、優しく胸に抱いた。
 するとライが、
「アーニャ……助けて」
 消え入るような、小さな声でそう呟いた。
 聞き間違いではなく、確かにアーニャはそれを聞いた。
(大丈夫、助けてあげる)
 甘えるようにライの腕がこちらに回される。
 可愛い、と場違いな感想を胸に仕舞い、
「大丈夫。ライは私といていい。罪になんかならない」
 なぜならば、
「私は―許してあげる」
 アーニャは、懐にしがみつくライを安心させるために、回した腕に力を込める。
「あなたがこれまで犯した罪も、これから犯す過ちも何もかも許してあげる。私が、私だけが」
 この過去を、恐らくライは自分以外には話していない。話さない。自惚れと言われればそれまでだが。
(けど、話してもらった私だけが出来る事がある)
「許……す?」
 胸に押し付けたライが震える声を上げた。
 アーニャは頷いて、
「そう、私はあなたの全てを許す。―そうする事で、あなたという罪人を許した、大罪人になる」
「そんなの……ぶっ」
 何かを言おうとしたライを無理やり黙らせる。薄い胸にぎゅっと力を込め押し付ける様子はまるで、
(首絞めてるみたい…)
 もう少し胸があったら雰囲気が出るのにと思う。
「勘違いしないで。許すのは私だけ。あなたの罪は、決して消えない。だけど…」
 一息。
「ライが幸せになる罪の分くらいは、それよりかは……私もその罪を背負ってあげる。あげられる」
 だから、
「ライは……幸せになってもいい。私という罪を背負うだけだから」


146:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:49:33 gQ8c2mis
支援

147:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:49:51 F1aGh/Hn
忠義の支援!

148:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:50:08 xMRcFEnd
支援

149:モザイクカケラ
08/10/26 21:51:23 GKuBsb8H

   ●

「あ……」
 ライは、アーニャの身に包まれながら、じっと彼女の言葉に聞き入っていた。
 聞き終わった後も、しばらくは動けずにいた。
 そして、
「はは……」
 湧き上がるのは笑い声。空気を切るような短い笑いが、ライの体を揺らす。
「なんだよ……それ…」
「何かおかしい?」
 真面目に問うアーニャの様子が更に可笑しくて、ライは笑う。
「だって……結局、何も変わらないじゃないか」
 そう、そうなのだ。
 アーニャがライを許すという罪となり、その新たな罪をライは許された分背負う。―アーニャごと。
 結果、ライの罪に変わりはない。それなのに、
「それなのに、幸せになってもいいって……あはははは!」
「な…何で笑うの!? 私は真剣に…!」
「だ、だって可笑しくって……ははは!」
 ライは笑った。こんなに笑うのは何日、何年―何十年、何百年ぶりだろうか。母や妹の前でも、これ程笑わないのに。
(アーニャらしいよ、本当に)
 彼女は自分の居場所をライに見出した。ただ、自分の願いを叶えるために。
 こちらの都合なんてお構いなしだ。適当に理由を付けてアーニャはライの所に居座ろうとしている。
 こっちはアーニャの事ばかり考えていたのに。
(でも、)
 自分には出せない結論だと思う。
 いつも間違っている自分が出せない答えはつまり、
(逆意で正しいという事なのかな…)
 そう思う。
 それに、許された以上、ライはその分アーニャの罪を背負わなければならない。


150:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:51:46 gQ8c2mis
支援

151:モザイクカケラ
08/10/26 21:53:05 GKuBsb8H
 勝手にアーニャがこちらの罪を奪ったのだから、こちらも放っておげばいいかと言うと、
(そんな事、僕には出来ないし…)
 選択肢は残されていない。全て、アーニャの思いのまま。
(話した時点で、僕の負けは決まっていたのかも)
 ライは過去を明かした時、全ての罪の行方を、無意識のうちにだが、アーニャに委ねていた。
 そして、アーニャは何が何でもこちらと一緒に幸せになれるよう結論付けるというのは、考えてみれば当たり前の事で。
「本当……アーニャって…」
「なに…」
 笑われた事に腹を立てたのか、むすっとした表情でアーニャが返す。
(可愛いな)
 そう思い、笑顔で、
「好きだよ」
「っ!?」
 続けて、
「大好きだ」
「っっ!!?」
 最後に、
「愛してる」
 そう言って、ライはアーニャの唇に自分のそれを重ねた。
 触れる、押し付ける、長い長いキス。
 目を開けて見れば、アーニャは顔を真っ赤にして瞼をきゅっと閉じている。
 その表情も何もかもが愛らしいとライは思う。
 そして許しをもらった今、ライは薔薇の蕾のような柔らかな唇の感触を存分に味わい、幸せを摘み取った。
 息が続かなくなると、離し、息を吸ってまた重ねる。
 それを何度も何度も繰り返し、やがてライはアーニャからそっと体を離した。
「はぁ…はぁ…あはは、アーニャ顔真っ赤」
「それはライも……はぅ」
 アーニャはくねくねと悶えながら、キスの感触を思い起こして惚けていた。
 そんなアーニャの頭を愛おしそうに撫でながら、ライは懐から小さな手のひらサイズの小箱を取り出した。


152:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:53:19 gQ8c2mis
支援

153:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:53:37 xMRcFEnd
支援

154:モザイクカケラ
08/10/26 21:55:10 GKuBsb8H
 我に返ったアーニャがそれを見て、
「なにそれ?」
「開けてごらん」
 手渡して、アーニャを促す。
 アーニャはゆっくりとラッピングされた小箱の封を開け、
「これ……指輪?」
 中に入っていたのは、飾り付けのないシンプルな銀の指輪が二つ。
「モニカがクルシェフスキー家の紋様を刻んだ指輪を渡そうとしてくれたんだけどね……何となく断って、それを街で買ったんだ」
「私にくれるの? 誕生日プレゼント?」
「それも込み。だけど、これは僕の分」
 言って、ライは自分の指―左手の薬指に、片方の指輪を嵌めた。
 そしてもう一つの指輪を右手で取り、開いた手でアーニャの左手を持ち上げる。
「あぅ…ライ…もしかして、それは…その…!」
 アーニャは顔を真っ赤にさせ、あたふたと手を揺らして抵抗する。
 そんなアーニャを逃さぬようライは覗き込んで言う。
「もう一つの願いは僕から…そう言ったよね?」
「こ、心の準備が……!」
「駄目」
 有無を言わさず、ライはアーニャの左手の薬指に指輪を通した。
 すっと固定出来る位置まで持っていき、しかしそこから少しだけ引く。
 怪訝な顔をするアーニャをおいて、ライは深く深呼吸。ドクンドクンと高鳴る心臓を必死で宥めて落ち着きを保つ。
(緊張するな……)
 アーニャ以上に顔が赤らんでいるのが解る。
 気恥ずかしさを懸命に振り払い、ライは言った。
「アーニャ。僕と、結婚して下さい」
 問うて、ライは差し込んだ指輪を掴んだまま止まった。
 すると僅かな時間の後、アーニャはライの右手に、自分の右手を添えた。
 そして次の瞬間、力を込め指輪を己の左の薬指にしっかりと嵌め、固定した。
 そして頷いて、簡潔に、
「うん…!」



155:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:56:01 gQ8c2mis
支援

156:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:56:16 xMRcFEnd
支援

157:モザイクカケラ
08/10/26 21:57:34 GKuBsb8H
 §5


 アールストレイム家の庭園にて、二つの影が動いていていた。
 ライとアーニャだ。
 二人は今、夜も深まったので家路についているところ。
 ライはどこか力が抜けて、ゆったりとした様子で前を歩くアーニャを見ている。
 そしてそんなライの少し前を歩くアーニャはというと、
「えへへ……」
「アーニャ、さっきからにやけ過ぎだ」
「だって……えへへ」
 アーニャはライに指摘されても、にやけ顔を戻さない。と言うより、出来ない。
 視線の先にあるのは己の左手の薬指に嵌められた、銀色の指輪だ。
 月明かりに照らされ、美しい反射の色で存在を示している。
 アーニャはそれを見てまた、
「えへへ……」
 と先ほどからずっとにやけ続けている。
 ライは再び呆れた様子でため息をつき、
「他の人に見せびらかしたりするなよ。僕が恥ずかしい」
「むぅ、そんな事……してもいいかも」
「おいおい」
 アーニャは、はっきり言ってモニカあたりには見せびらかす気満々だった。
(だって……)
 女の子の憧れ、結婚指輪を手にしたのだから。それも大好きなライとの。
「ライ、ありがとう」
「はいはい。そう思うなら、ちゃんと僕の罪も背負ってくれよ」
 分かってる、とアーニャは頷き、
「私はライの罪を全部許すから―浮気以外」
 最後に付け足した言葉に、「ありゃ?」と妙な声を上げてライがこけそうになった。
「何だ、その浮気以外って。まるで僕が女たらしみたいじゃないか……ってそういえば、さっきもそう言われた気がするな」


158:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:58:14 b5iwbbvq
支援

159:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:58:16 gQ8c2mis
支援

160:モザイクカケラ
08/10/26 21:59:57 GKuBsb8H
「だって事実」
 いつもライの周りは女の人でいっぱいだ。悔しい事に、自分よりスタイルのいい人ばかりが。
 その時は気にも留めなかった事だが、今思うと非常に腹立たしい。
「絶対、浮気は許さない」
「僕だって、アーニャが浮気したら許さないさ」
「私が? 浮気?」
 アーニャは首をかしげた。自分の方が浮気する可能性など、これっぽっちも考えていなかったからだ。
 そんなアーニャにライは眉をひそめて、
「そうだよ。僕だってアーニャが他の男と話してたら……たぶん、これからは面白く思わない」
「ふぅん……」
 アーニャは何となく、自分がジノやスザクらに囲まれて話している様を想像した。
 その様子を、遠くの方でライが見つめている。
 そして話し終えた自分を捕まえて、ライがやきもきしながら、何を話していたかをしつこく問うてくるのだ。
「いいかも…」
 単なる思いつきだが、焼き餅をやくライというのを見てみたくなった。
 今度試してみようと思った瞬間、アーニャは後ろからライに抱きかかえられた。
「ひゃっ」
「いいかも、じゃない。僕だってそれなりに独占欲はあるんだから」
「それを見たい」
 と、適切に自分の意思を伝えるが、
「駄目だ」
 と、ライにあっさりと否定される。


161:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:00:26 gQ8c2mis
支援

162:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:01:17 xMRcFEnd
支援

163:モザイクカケラ
08/10/26 22:01:25 GKuBsb8H
 やがてライに下ろされたアーニャは、安心したように息をついた。
 そして未だに不満そうな顔をするライに、笑顔で告げる。
「大丈夫、私はライから離れない。ずっと側にいて、ライが魔法を使わないように見張っていてあげる」
 するとライは少し驚いた後、「ありがとう」と礼を言ってアーニャに顔を寄せた。
「なら僕も、ずっとアーニャを幸せにする―ううん。アーニャと、幸せになるよ」
「うん」
 アーニャは頷き、目を閉じて顔を上にあげた。
 身長差があるため、爪先立ちになる自分が少し恥ずかしい。
 互いの吐息を交換した後にライが告げた。
「アーニャ、愛してる」
 アーニャは少し逡巡した後、
「………私も」
 と言うと、アーニャは閉じた瞼の奥にライの苦笑が見えた気がした。
「アーニャ」
 責めるような口調。
「むぅ…」
 ライが何を言いたいのかは分かっている。だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 キスをする寸前の状態でずっと固まったまま、やがて決心したアーニャは深呼吸をして言った。
「私も、ライを愛してる」


 瞬間、二人の唇が重なった。


                fin.

164:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:02:14 gQ8c2mis
支援

165:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:02:32 xMRcFEnd
支援

166:ピンクもふもふ ◆0rhUU6uqDE
08/10/26 22:03:57 GKuBsb8H
 せーの! アーニャ誕生日おめでとう!
 アーニャ誕生日記念SS投下終了。読んで下さった方、及び支援して下さった方ありがとうございました。保管も乙。

 しかし何つー真面目な話。。。こんなの私のキャラじゃないと思うんだがどうだろ。
 でもまあ、たまにはこんなのも書くんです。
 色々な都合で書ききれなかったところもあり、決して満足いってる訳では無いのですが……。
 アーニャの「許す事が罪」って結論は大好き。かなり自分勝手ですけど。ライも言ってたけど、それがアーニャらしいかなって。

 この二人が今後どう世界と相対していくかを想像しても面白いかもしれない。
 ここからR2の世界に旅立ったとするなら、たぶんロスメモとは違った答えに着地するんだろうなあ。あっちはライの記憶が無い分、互いの依存関係がこの話より深いし…。

 では今回はこんなところで。
 次回の投下はいつになるか分からんが、多分大作戦を終わらせるんじゃないかな…? 今は5話を書いて、でもちょっと長くなったので適当に肉付けして分けて6話(最終話)に突入中。
 え? どんな話か忘れた? ソンナノシルカー ヽ(`Д´)ノ コッチガオボエテルカライインダー!

 じゃあ皆さん、感想書くなら「アーニャ誕生日おめでとう」を忘れずに。
 感想書かなくても忘れずに「アーニャ誕生日おめでとう」。
 もうぶっちゃけ感想は「アーニャ誕生日おめでとう」だけでもいいから忘れずに。

 オールハイル ヽ(`Д´)ノ モッフー!

167:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:07:39 gQ8c2mis
アーニャ誕生日おめでとう

まあしかしすっさまじいボリュームですこと!そして途中で全然飽きない。
保管のしごたえがあるわ~、GJ乙です!

168:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:11:47 sloXOM87
今から読もう。
アーニャ誕生日おめでとう

169:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:11:51 OZVbEWhp
GJ!
貴公の書くライアニャは俺のツボにぴったりと当て嵌まるんだ何故だろう。
我が儘なアーニャが大好きです。後ろ向きなライに前を向かせるアーニャが大好きです。照れてるアーニャが大好きです。貴公の書くアーニャが大好きです!
アーニャ誕生日おめでとう!



ラウンズ大作戦?
確かライアニャレクの接続をしようとするシャルルんを、ルルが止めようとするって話だったっけ?

170:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:12:53 xMRcFEnd
>>166
大作乙&GJ! 二時間…。本当にお疲れ様です。

アーニャ可愛いよアーニャ。
中盤の不利な状況から一気に形勢逆転するところに非常にすかっとしました!
二人にとってはそこからが本当の戦いだったわけですが。
罪とそれを赦すことと向かい合って、前に進んで行こうとする二人に幸あれ!

アーニャ誕生日おめでとう!

171:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:19:45 b5iwbbvq
アーニャ誕生日おめでとう

そしてもっふー万歳!
泣きました、萌えました、震えました。
アーニャ誕生日おめでとう。

172:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:20:25 Y8vQwxLM
え? アーニャ誕生日だったの!?
不味いぞ……テンさんなど書いている場合ではなかったのか……
しかし今からでは……とりあえず「アーニャ誕生日おめでとう!!」

173:171
08/10/26 22:29:20 b5iwbbvq
途中で投下してしまったorz
卿のライアニャはどこまでも自分のど真ん中を突き抜けてくれる。
そして願わくば2人の進む道に小さな幸せと一握りの優しさを…

最後にもう一度、アーニャ誕生日おめでとう。

174:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:37:37 l/B/OWND
アーニャ誕生日おめでとう!!!
そしてオォォォーーール・ハァァァイル・もっふー!!!!
>>166
ピンクもふもふ卿、超GJでした!
涙腺が、涙腺が……あぁ……太陽系に生まれて良かったーーー!!!
圧倒的な分量ながら飽きずに読み進められる面白さ!
ライが過去を語る所など蝶サイコーと叫び回りたくなるくらいの感動が私を襲いました!
ラウンズたちの推薦文なども我が胸は激しく打ち鳴らされました!
そして、再びアーニャ誕生日おめでとう!
貴公の次の投下を我が全力を挙げてお待ちさせていただけますか!

175:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:56:42 S556ESnD
まったく、毎度毎度もっふーは……俺をもふもふさせやがるぜ。
ブラボーもっふー。
俺もこの流れに乗って投下しよう。長さは、どれくらいかな。6~8レスくらい?
次から諸注意など書き始めます

176:千葉はライの嫁
08/10/26 23:00:33 S556ESnD
これから投下するのはコードギアス The reborn worldの番外的な話です。

・わりとふまじめです。特に後半。
・一部独自設定です。
・微妙にライを有能にし過ぎたかもしれないです。
・そういうのが嫌な人はスルー侍でお願いします。

177:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:02:33 pTCt02xY
支援

178:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:06:33 S556ESnD
ミレイが用意してくれた新品の制服に身を包んだライは、そこで改めて自分に与えられた部屋を見回した。
先程までライが眠っていたシングルベッドの以外でこの部屋にあるのは、部屋の隅に置かれた胸ほどの高さの棚と姿見、
備え付けの机の上にはノートパソコン以外には本の一冊もなく、セットの椅子とともにただ置いてあるだけの状態になっている。
そしてクローゼットを開いてみれば、ライがゲットーで老婆から貰った粗末な服が一着あるのみである。
「生活感の無い部屋だな」
だからと言って特に思うところがあるわけではない。ただ事実を言ったまでのことだ。
ライがアッシュフォード学園に暮らすことが決まってから一週間。今日から、ライは学校に通うことになっている。

コードギアス The reborn world 4.5話

「おはよう、咲世子さん」
清潔感溢れる白いエプロンが、ライの声に合わせて翻る。
朝食の準備をしていた咲世子はライに気付くと手を止め、メイドらしい丁寧なお辞儀を返した。
「おはようございます、ライ様。
 ルルーシュ様とナナリー様は既に席に着かれておりますので、ライ様もどうぞお早く。
 料理はすぐにお持ちしますので」
咲世子はライのことも様付けで呼ぶ。彼女曰く「お客人」だかららしいが、ライとしては非常に落ち着かない。
落ち着かないのだが……ライが本調子でないときに咲世子は色々と世話をしてくれ、その度に様付けはやめてくれと頼んでも折れなかったのでライは諦めている。
「手伝おう」
「ありがとうございます。ですが、そのお気持ちだけで十分です。
 お客人に手伝いをさせるわけにはまいりませんから」
淡々とした口調でそう言われては、ライとしては返す言葉が無い。咲世子の言うとおり、席について大人しく待っていることにした。
先にいたルルーシュ、ナナリーの二人と挨拶を交わして、定位置となったルルーシュの隣、ナナリーと向き合う形になる席に座る。

179:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:08:53 pTCt02xY
支援

180:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:08:55 l/B/OWND
支援

181:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:09:16 S556ESnD
「ライさんは、今日から学校に行かれるのですよね」
「ああ。ルルーシュ達と同じクラスだよ」
ライの答えを聞くと、ナナリーは安心したように頬を緩めた。
「そうですか。それを聞いて安心しました。
 記憶が無いことで色々と大変だと思いますが、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。
 私はお話を聞くことくらいしか出来ませんが、お兄様は優しくて、とっても頼りになりますから」
純真無垢なナナリーからの手放しの称賛。隣のルルーシュが微かに身じろぎしたことをライは感じ取ったが、
敢えてそちらを見ようとはしなかった。見なくても分かる。きっとルルーシュは今、照れて赤くなっているだろう。
ルルーシュがある程度平静を取り戻すのを待って、ライは言葉を発した。
「何かあった時は頼らせてもらってもいいかな、ルルーシュ」
「……勿論だ」
そのそっけない物言いに微かな笑みを口元に浮かべながら、ライは咲世子が運んできてくれた料理に目を移した。
ほかほかと湯気を立ち昇らせているつやつや輝く白米に、ごぼうが多めのきんぴらごぼう、そして鼻孔をくすぐる香り漂うお味噌汁。
以外にも和食が好みだったライのために、咲世子が気を利かせてくれたようだ。
ルルーシュ達と一緒に手を合わせながらライは、今日一日頑張ろうと思った。

登校後、一先ずルルーシュと別れて職員室で一通りの説明を受けたライは、自分のクラスへと案内されていた。
クラスの担任の後を追いながら、ライは緩やかに視線を周囲に巡らせる。
エリア11屈指の名門校の名に恥じぬ規模と設備を備えた広大な学校、私立アッシュフォード学園。
休み時間にはその規模に相応しい数の生徒達で賑わう廊下も、ホームルーム中の今はライ達以外の人影は無い。
(妙な気分だ)
窓から見える様々な態度で教員の話を聞いている生徒達を観察しながら、ライは一人眉をひそめた。
違和感があった。自分が今ここで、こうしていることへの言い様の無い違和感が。
自分がこの学び舎に相応しくない、酷く場違いな人間に思えて仕方が無かった。
そしてそう感取している不可解な自分への不審。その思考に埋没していたせいで、
クラスに着いたことを告げる担任の声にライが気づくまでに僅かなりとも時間を要した。


182:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:10:03 pTCt02xY
支援

183:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:12:45 5w8l3g/j
支援

184:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:14:29 S556ESnD
「緊張してるのかい?」
人の良さそうな顔立ちの担任の問いに、「いえ」とライは短く答えた。
緊張しているわけではない。ただ、釈然としない何かを感じているだけだ。
しかしその態度は担任を勘違いさせたらしく、担任は励ますようにライの肩に手を置いた。
「安心しなさい。うちのクラスの生徒達は良い子ばかりだからね。
 このクラスには君と同じように最近編入してきた名誉ブリタニア人の生徒もいるんだが、彼はクラスの連中と仲良くやれているよ。
 だから君も大丈夫さ。それに、君は中々の色男だ。きっと女子達にもてるぞ?」
「はぁ……だと良いんですが」
教員のわりに妙に気安い担任に曖昧に頷くライ。世辞を額面通りに受け取るほど、彼は単純ではない。
担任はライにさらに何かを言おうとしたが、思いなおして教室の扉に手をかけると一度ライに視線を向け、一気に開いた。
担任が入り、続いてライが教室に入ると、ざわざわと多少騒がしかった教室が一気に静まり返る。
ライはその生徒達の反応に疑問を抱いたが、見知らぬ人物が入ってきたことで戸惑っているのだろうと解釈した。
「おや、急に静かになったな。流石に驚いたか?
 えー、今日からこのクラスでお前達と共に授業を受けることになったライ君だ。
 じゃあライ君、軽く自己紹介をしてもらえるかな」

185:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:15:52 l/B/OWND
支援!

186:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:17:33 S556ESnD
頷き、教卓の前に立つライ。自分に視線が集中していることを感じながら、ライは教室を見渡した。
ひょうきんな笑顔を浮かべているリヴァルに、小さく手を振ってくれているシャーリーとぎこちなく頭を下げたニーナ。
眼が合うと軽く微笑んでくれたのはカレンで、ニコニコと人懐っこく笑っているスザクは、特に反応を示さなかったルルーシュに手振りで何やら促している。
そして彼等以外の生徒達の驚きや興味に彩られた顔を一通り見た後、ライは出来る限り自然な口調で言葉を発した。
「ライ・ウーティスです。色々と至らない点があると思いますが、どうぞ宜しく」
そう言ってライが頭を下げたのと、教室が生徒達の喧噪に包まれたのとは同時だった。
勿論ファミリーネームの「ウーティス」は偽名である。適当な身分をでっちあげる際コンピュータがランダムで選出したものなのだ。
そしてウーティスの意味を知ったミレイは別の名前にしようとしたが、ライが望んでそのままにしてもらった。
ウーティス……意は"誰でもない者"。
記憶を失った自分には、これ以上無いほどぴったりな名前だとライは思ったのだ。その時ミレイは、複雑そうな顔をしていたが。
ちなみに、その後の残り時間を利用して行われたライへの質問では生徒達は授業では見られないほど積極的に挙手をし発言していた。
言うまでもないことであるが。自分に向けられる質問に予め考えていた答えを返していたライが、質問しているのが女生徒ばかりである理由に気が付くことはなかった。

187:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:19:50 S556ESnD
「ほっほ~。そんなに凄かったんだ、ライの人気は」
「そりゃもう! 放課後は私達が学校を案内してあげようかな~って思ってたんですけど、
 他の子達が勝手にやってて出番がないくらいでしたから。ね、ニーナ」
「うん、すごかった。特に女の子が」
放課後の生徒会室。書類整理の手は止めずに行われていた女同士のお喋りは大盛り上がりだった。
話題の中心は当然、今日から学校に登校することになったライのことだ。
「なんとなく予想は出来てたけど、恐るべし美形パワーね。
 でもまあ確かに、転校生が美青年ってのは王道よねぇ。そりゃ放っておかれないか。
 それに彼、なにか人を惹きつけるところがあるし」
「そうですね。あの様子なら、すぐに友達も出来ると思うなぁ」
「でもライさん、ちょっと困ってたみたいだけど……」
心配そうなニーナとは対照的に、ミレイはとても楽しげに笑って見せた。
「良いの良いの! 女の子に囲まれて困るのって、男の子にとってはご褒美みたいなもんよ!」
「そうかなぁ? なんか、本気で困ってる気がしたけど……。
 そういえば、リヴァル遅いね」
けらけらと笑い続けるミレイに首をかしげつつ、ニーナは生徒会室のドアに目をやる。
生徒会室のドアは開かれる様子もなく、きっちりと閉まったままだ。
「スザク君が軍の仕事で早退で、カレンはもう帰っちゃったからねぇ。
 これでルルーシュにまでサボられたら堪らないから、ルルーシュ捕獲に向かわせたんだけど」
「というかルルが来なかったら、この書類今日中には終わらないですよ」
眉間にしわを寄せるミレイに、嫌そうな顔でシャーリーが生徒会の大きな机の上を指差す。
あちこちに付箋のついた書類の束で、ちょっとした山が出来ていた。さっきから作業しているのだが、ちっとも減っている気がしない。
改めてそれを見て流石に気になってきたのか、ミレイが携帯に手を伸ばす。

188:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:20:33 pTCt02xY
支援

189:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:25:22 S556ESnD
「遅くなりましたぁ……」
噂をすれば影とでも言うべきか。今まさにミレイがリヴァルに連絡しようとしたところで、
当のリヴァルが生徒会室のドアを開けてやってきた。その後ろに、ルルーシュの姿は無い。
「リヴァル、ルルはどうしたの?」
「それが……ごめん。だめだった。逃げられたよ」
「ルルーシュのアホー!!」
面目なさそうなリヴァルの言葉に、思わずミレイが悪態をついた。
そして次の瞬間には繋がらないと知りつつも、ルルーシュの携帯に電話をかけるが。
『お客様のおかけになった番号は、現在……』
無情にも答えたのはルルーシュではなく、留守電用のアナウンスだった。
「あーもう! あーもう!! あのサボリ魔ったら、帰ってきたらナナちゃんに叱ってもらうんだから!」
そう言いつつミレイの指は高速で携帯のキーを打ち、
『このシスコン! むしろナナコン! もやしっこ! 恩知らず!!』
等々、サボったルルーシュへの怨嗟の声をメールにして送信していた。
「ルルったら、前からサボってたけど最近はひどすぎ!!」
「どうするの、ミレイちゃん?」
「どーするもこーするも、私達だけで仕事やるしかないっしょ」
「や、やっぱりっすか。でもルルーシュ無しでこの量はキツイですよ……」
うげぇ、と言わんばかりの表情で書類の山の一角をピラリと持ち上げるリヴァル。
シャーリーもニーナも、頼りにしていたルルーシュが来ないと知って表情を暗くせずにはいられなかった。
漂う嫌な空気を振り払うように、ミレイが大きく手を叩く。
「はいはい、暗い顔しない。こーなったからにはしかたがないでしょ?
 ルルーシュには罰ゲームを受けてもらうとして、とにかくやれるだけやるわよ!
 アッシュフォード学園生徒会ぃぃぃ~~~ガァァァッツ!」
気合を込めて、ミレイが高々と右腕を掲げる。

190:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:27:05 S556ESnD
皆の視線がミレイに集中した瞬間、頃合いを見計らったようにノックの音が響いた。
即座に、その場の全員が一斉にドアの方に視線を向ける。
「会長、手伝いに来たんだけ、ど?」
やや躊躇いがちに開いたドアからひょっこりと顔をのぞかせたライは、ミレイ達の視線を一身に受けて戸惑いの表情を見せた。
反応に窮しているライを知ってか知らずか、ミレイはツカツカとライに歩み寄る。
「あの、かいちょ」
ライは最後まで言葉を続けることが出来なかった。何せ、ミレイの豊満な胸に顔をふさがれていたのだから。
それこそ、ぎゅー! と力強く、だけどもふにふにと柔らかく。
何やら感動した面持ちのミレイは、更にライを抱きしめる腕に力を込める。
ライがばたばたと悶えているのには、どうやら気付いていないようだ。
「ライ、あんたって子は……なんて良い子なの! ぎゅーしてあげちゃうんだから! ぎゅー!
 さぁ皆! ライという援軍も加わったことだし、気合い入れてやるわよ! ガアァァァッツ!!」
「ガアァァァァッツ!!」
ミレイに合わせて、メンバー達もまたガッツの魔法を唱えた。その顔には、失われていたやる気が満ちている。
しかしながらライだけは、軽い酸欠状態に陥って顔を蒼くしていた。
後にライは語る――あの胸は、凶器になり得ると。


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