コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 30at GAL
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 30 - 暇つぶし2ch50:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:41:40 gQ8c2mis
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51:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:41:50 xMRcFEnd
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08/10/26 20:42:14 hZ0lKNLb
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53:モザイクカケラ
08/10/26 20:42:42 GKuBsb8H
「どうして幸せになって欲しいかって……勿論、アーニャが好きだからだよ」
(馬鹿……)
 アーニャの思った通りの台詞が来た。
 これから婚約者の立場になると分かってて言っているのだろうか。たぶん、分かっていない。
 普通に聞けば告白だ。
「本当、馬鹿」
「ええ!?」
「でも、……ありがとう。嬉しい」
「え……あ、うん。どういたしまして……?」
 ステップ、ステップ、ターン。ステップ、ステップ、ターン。



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08/10/26 20:43:14 gQ8c2mis
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08/10/26 20:43:46 xMRcFEnd
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56:モザイクカケラ
08/10/26 20:45:21 GKuBsb8H
 §2


「は?」
 父に呼び出され、ライとのダンスを中断してやって来たアーニャは自分の耳を疑った。
「今……なんて?」
「だから、この方がお前の婚約者だ」
「クリスティアン・ローゼンクロイツです。初めまして、アーニャさん」
 と、馴れ馴れしくもいきなりファーストネームで呼んできたのは、如何にもキザったらしいお坊っちゃんという風情の男だった。
 アーニャの父親はそんな得体の知れない男を、あろうことか婚約者だと紹介してきたのだ。
「ローゼンクロイツ伯爵は各方面にも顔が利いてな。婚約の後、所領の譲渡についての事も決まっている」
 それを聞いて、アーニャは声が上擦るのが抑えられなかった。
「な……私を売るって事!?」
 所領の譲渡。これだけで、アーニャは全てを理解した。自分の父親は、爵位目当てに娘を売ろうとしているのだと。
 ブリタニアにおいて爵位の度合いは、基本的には所領の大きさで決まる。
 そしてアールストレイム家の所領は現在アーニャの父がその大半の権利を保持。
 アーニャとてラウンズであるため貴族制度では皇族に次ぐ地位にあるが、世襲制ではなく一代限りの襲名となっているため、父の地位には結び付かないのだ。
 そして今、アーニャの父は自分を嫁がせる事によって新たな、自身の領地を得ようとしている。
 アールストレイムとラウンズという、他からは喉が出るほど欲しい自分を売って、公爵から大公爵へと位を上げるつもりなのだ。
(そんなの……!)
 許せる訳が無い。
 たとえ初めからこの結婚が政略に絡む物だと解ってはいても、誰を選ぶかという最後の権利まで奪われる事なんて。
 アーニャはすぐにでもその事を撤回させようとしたが、
「少しいいですか、アーニャさん。どうやら勘違いしているようなので…」
 にこやかな笑顔を浮かべるクリスティアン。だが、アーニャの良く知る“にこやかな笑顔”とは打って変わって嫌悪感しか抱かれない。
「勘違い? 私の父は大公爵の位を、あなたはアールストレイム家と繋がりができる」
 それが目的、ときっぱり告げるアーニャに、しかしクリスティアンは首を振った。
「違います。私の目的はあなたを妻にする事なんですよ」
「なにを……」


57:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:45:48 gQ8c2mis
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08/10/26 20:46:27 hZ0lKNLb
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08/10/26 20:46:37 xMRcFEnd
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60:モザイクカケラ
08/10/26 20:47:47 GKuBsb8H
「あなたを愛しているんです」
「っ……」
 言われた瞬間、動揺がアーニャの中に走った。
(何…これ……)
 胸がむかむか、焼けるように相手を拒めと訴えかけてくる。
 今まで自分に対して「愛している」と言ってきた男なら星の数ほどいる。そのどれもが気にも留めない物だった。
(違う……)
 だが、違う。
 この男からその言葉を言われた瞬間、いやもっと前から、アーニャは何かに囚われていた。
「いや」
 感情そのままの言葉を発する。
「おい、アーニャ。何を言って―」
 言うことを聞かせようとする父親を、しかしクリスティアンが止めた。
「アーニャさんは突然の事に照れてしまっているんですよ。少しお話しすれば理解していただけますよ。私にお任せ下さい、アールストレイム“大公爵”」
「む…分かった」
 引き下がる父を後ろに、クリスティアンがアーニャの前に立つ。堂々とした様子で、
「アーニャさん、もう一度言います。私はあなたを愛しています」
「……あっそう」
 興味なさげに呟くアーニャに、しかしクリスティアンは酔ったように続けて言う。
「強く、美しく、しかしそれでいて儚さを持つあなたは砂漠に咲く一輪の花。初めて見た瞬間、雷が落ちたようでしたよ」
 一言一言が張りぼてのような薄っぺらい言葉に、うへぇ、とアーニャはジノのようなリアクションを取りそうになる。その雷で頭のネジが飛んでいる、と。
「ありがとう。でも私は、あなたと結婚なんかしない」
「ほう、ではどなたと?」
「む………」
 言おうとして、しかしアーニャは口を閉じた。
 呼べば、きっと彼は来る。そして自分を助けようとしてくれる。
(だけどこの状況で呼んだら…)
 彼の立場は最悪に近くなる。それは駄目だ。これ以上、迷惑を掛ける訳にはいかない。
 だから、
「ねえ」
「なんでしょうか?」


61:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:48:09 gQ8c2mis
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62:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:49:08 hZ0lKNLb
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63:モザイクカケラ
08/10/26 20:49:30 GKuBsb8H
「あなたは、私を幸せにしてくれるの?」
 問われたクリスティアンは質問を反芻するように深い頷きをする。そして真剣な表情で、
「勿論。愛する女性に幸福を届けるのは男の役目です。それに―」
 一息。笑顔を作り、
「私はローゼンクロイツ伯爵。この名に懸けて、決して不自由な思いなどさせませんよ」
 言って、クリスティアンはアーニャの手を取り、優雅な仕草で手の甲にキスを落とした。
 その様子に、周囲からは「おぉ…」という類の感嘆の吐息が漏らされる。
 まるでおとぎ話の姫と王子のような魔法がかかった世界。
 皆がその世界に酔いしれる中で、一人だけ十二時の鐘を告げられ魔法が解かれている者がいた。
 アーニャだ。
 周りにいた貴族も、目の前にいたクリスティアンも気付かない。クリスティアンの台詞に、微かに眉尻が下げられていたのを。
(そっか……)
 そして今、アーニャの目は虚ろ。何も映してはいなかった。
 深い思考の中にいたのだ。
(わかった)
 理解する。自らに潜んでいた感情を。
 クリスティアンが現れてからずっと感じていたえもいわれぬ不快感。その正体を。
(私は、この男を何とも思っていない)
 クリスティアン自体はアーニャにとってどうでもよかった。ただ、
(婚約者って言われたから……)
 婚約者はあなたじゃない。そう言いたかったのだ。自分を幸せにしてくれる人物は、きっと他にいる。
 そして、与えてもらった幸せを返したいと思う人がいる。
 彼と一緒にいたいと思う。
(わかった……)
 感情のカケラが、ココロにかっちりとはまる。埋まる。満たされる。
(私は―)

 私は、ライの事が―。



64:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:50:12 gQ8c2mis
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65:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:50:57 xMRcFEnd
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66:モザイクカケラ
08/10/26 20:52:26 GKuBsb8H
「っ!?」
 何かが弾けたような苦しみに襲われアーニャは胸を押さえた。
(なに、これ……!?)
 眠っていた感情の爆発。
 理屈や理性、論理的な思考では説明がつく事なく、鼓動による波紋が自分を中心として津波となって無限大に広がり、そしてその行く先はたった一人の少年の下。
 アーニャのココロは、その莫大な感情の奔流に耐えられなかった。
(どうして……)
 どうして、自分は彼の側にいないのか。何故、こんな男と話しているのか。自分の世界に入り込んでいるこの邪魔者は何なのか。
 今まで以上に他者を疎ましく感じる。
(いやだ……)
「どうかされましたか? アーニャさん」
 苦い表情をするアーニャを気遣っての行動か、もしくはそう見えるようにしただけか。
 どっちにしろ、今のアーニャにとっては煩わしい。
「私は、あなたを選ばない」
 明確な意志を持つ拒否。それを拒絶と言う。
「私は……私には、心に決めた人がいるから」
 その言葉を聞いて、初めてクリスティアンは今までとは別の顔を見せた。獲物を前にした獰猛な獣のような表情。
「ほう……それは誰ですか?」
「それは…」
 言い淀む。
 恥、という考えがある訳ではない。
 言ってしまったら、恐らく彼は来るだろう。きっと助けてくれる。アーニャの望む通りに。
 だが、だからこそ名前を呼べない。
 好いているが故に、これ以上自分のわがままで彼を巻き込みたくはなかった。
(でも……)
 助けて欲しい。
 それでも助けて欲しい。
 彼には待っていてと言ってあるが、こちらの様子くらいは伺っているはずだ。
(助けて…)


67:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:52:47 gQ8c2mis
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68:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:53:55 xMRcFEnd
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69:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:54:13 hZ0lKNLb
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70:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:54:40 Pmgx1z3E
>>19
どうやったらこんな離れ業を出来るんだ支援

71:モザイクカケラ
08/10/26 20:54:36 GKuBsb8H
「誰なんですか?私以上にあなたに相応しい人なんて」
(助けて―ライ!)

「僕ですよ」

「何だ…君は?」
 目の前にいるクリスティアンが怪訝そうにアーニャの背後を見た。
 後ろにいる―ライを。
(ああ……)
 来た。来てしまった。
 優しい響きに促され、アーニャは振り返る。そして呼ぶ。ありったけの想いを込めて、
「ライ!」
 駆け寄り、そのままライの胸に飛び込む。嬉しさのあまり涙が零れ落ちるが気にはしない。
「おっと」
 ライはアーニャを優しく受け止め、そっと抱き締めた。
「ごめん。呼ばれない限り出て来ない約束だったけど、我慢できなかった」
 アーニャはライの胸に顔を埋めながら首をぶんぶん振る。
「いい。遅いくらい」
「あはは、今日は遅れてばっかりだ」
 申し訳なさそうに笑うライを見て、アーニャはそうじゃないと言いたかった。
(言いたい事は…もっといっぱいあるのに)
 言葉が見つからない。先に涙の方が出てしまうくらいだ。
「ライ……わた、私…」
「ん?」
 ライに見られるだけで体が熱くなる。
 焼けるように赤くなった頬そのままに、アーニャはしどろもどろになりながらも感情を口に出した。
「私……もっと言いたい事…あって。ライの服、似合ってる…とか。迷惑かけてごめんなさい…とか。もっと…もっと……あぅ」
 喋り出したら止まらなくなった。今までのツケが回ってきたのか、話したい事が沢山ありすぎた。


72:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:55:25 gQ8c2mis
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73:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:55:40 xMRcFEnd
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74:モザイクカケラ
08/10/26 20:57:04 GKuBsb8H
 ライはそんなアーニャの唇に人差し指を添え、口を閉じらせた。
「わかった。僕も君と沢山話したい。でも、それは後だ。今、アーニャが僕に一番して欲しい事。それだけ言って」
「一番…して欲しい事…」
 今のアーニャにはそれだけ伝える事も難しい。
 ただ言うだけではなく、想いも伝わるように。
 流れる涙を拭う事さえ忘れ、アーニャは言う。自分の気持ちを。
「助けて……あと、もし良かったら…わ、私と……けっこ―」
「そこまでにしませんか?アーニャさん」
 アーニャの懸命な努力によって発せられた言葉に、別の物が覆い被さった。クリスティアンだ。
 彼はこちらの様子を辛抱強く待っていたらしい。律儀だとは思うが、かと言って邪魔であることに変わりない。
 アーニャは文句の一つでも言おうとして、しかし先に悪態をついたのはライだった。彼はクリスティアンを一瞥し、
「まったく邪魔な奴だ……なに、アーニャ?鳩が散弾銃食らったみたいな顔をして」
「え……私、そんな変?」
 ライが人に敵意を向ける事などなかなか無いから驚いていたのだが、思わず顔を触って確かめる。
「大丈夫だよ。……そして受け取った。『助けて』という君の願いを僕は叶える」
「う、うん」
 アーニャが頷くと、ライは急に顔を逸らした。心なしか、彼の頬が赤い。
 どうかしたの。そう言おうとしたところで、
「もう一つの願いは……後で僕から言うよ」
「あ…………」
 じわっと再び心が満たされる。
 絶対、今自分の顔はにやけている。そう確信できるほどに幸せに溢れている。
「わ、笑うなよアーニャ」
「笑ってないもん…」
 頬はだらしなく緩み、ぴくぴくと震えている自分は間違いなく笑っている。
(だって…だって…)
 ライは耳まで真っ赤になっていたのだ。これをどうして笑わずにいられよう。
(ライも、私と一緒)
 悩んで、怒って、悲んで。色々な感情を持っていて。そして、恋をする。


75:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:57:51 gQ8c2mis
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76:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:58:20 xMRcFEnd
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77:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 20:59:37 hZ0lKNLb
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78:モザイクカケラ
08/10/26 20:59:49 GKuBsb8H
「じゃあ、後は邪魔者に消えていただくとしよう。アーニャ、僕が合図したら……」
 耳元で告げられた言葉を頭の中で復唱する。
「?……そうすればいいの?」
「それだけでいい。後は僕がやる。予定とは違うけど、何とかしてみるよ」
「わかった」
 アーニャはしっかりと頷き、ライに全てを任せると決めた。
「さて、お待たせしましたクリスティアンさん」
 そしてライはアーニャの頭を一撫でした後、クリスティアンに向き直った。



79:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:00:05 xMRcFEnd
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80:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:00:25 gQ8c2mis
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81:モザイクカケラ
08/10/26 21:02:03 GKuBsb8H
 §3


「さて、お待たせしましたクリスティアンさん」
 言って、彼は頭を下げた。
 誰からも一目で優雅と感じられる傾頭。更に上げた表情もまた柔和で人に親身な感情を抱かせる。
 一方、クリスティアンは同じ微笑でももっと狡猾で、何かを秘めているようなギラつきを持っている。
「まったくだよ。まあ、私も大人だ。何やら面白い話をしていたようだけど…」
 流れるようにライへの叱責と自らの賞賛を同時にこなす。慣れているのだろう。続く言葉に淀みは無い。
 一方のライは笑みを崩す事なく、そのことですか、と頷いた。
 ここで皆が気付く。彼は表情こそ柔和さを醸し出しているが、その実表情の裏に激しい怒りを帯びている事に。
 そしてライは自身の言葉を待つ人々全てに向けて、皮肉っぽい笑顔を浮かべ、よく通る声で堂々と言った。
「ああ、2人の愛を確かめ合っていただけですよ」

   ●

 言った瞬間、周囲にどよめきが走るのをライは見た。
 クリスティアンの表情も穏やかな笑みを見せてはいるが、口元がひきつっている。無駄に大きそうなプライドを傷つけられたからだろうが。
 その表情を見てライは笑みを濃くする。屈辱だろう? と。だが、
(これくらいで済むと思うな。アーニャの婚約者と名乗った事を後悔させてやる)
 ライは非常に怒っていた。激昂、と言ってもいいかもしれない。
 思うのは自分の事とアーニャの事。
 今アーニャは、自分が抱き寄せた腕の中で小さく震えている。安心しきったのか、全体重をこちらに預けている状態だ。
(どうしてこんなになるまで呼ばなかった…)
 恐らくは自分に迷惑を掛けないため。それはライにも分かっていた。故にその意図を汲んでライは動かなかいでいようとした。
 また、それ以上に動かせない自分の意志も存在した。
 アーニャに手を差し伸べる事を、自分は恐れていた。いや、今も恐れている。そんな資格は自分には無いのに、と。
 誰かのために立ち上がり、そして幸せになる。それは、
(僕がそれで罪を犯し、失敗した事だ……そして、今また同じ事をしているんだと)
 そう思い、ライはアーニャの所へ行こうとする自分を必死に縛り付けた。
 だが、できなかった。


82:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:02:31 hZ0lKNLb
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83:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:03:34 gQ8c2mis
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84:モザイクカケラ
08/10/26 21:04:09 GKuBsb8H
 飛び出した理由は、色んな感情が渦巻いて説明できない。罪の意識だってある。ただ一つ確かな事は、
(僕がアーニャを好きだという事…)
 それだけだ。
(初めから分かっていた事だったんだ…)
『何で引き受けてくれたの?』
『アーニャには、幸せになってもらいたいから』
(そう思ったのは、何故だ?)
『どうして私に幸せになって欲しいの?』
『それは勿論、アーニャが好きだからじゃないか』
 あの時、もう答えは全て出ていたではないか。
 あの時、ライは『嬉しい』と返してもらえた事を喜んでいたのだから。
(馬鹿だな……僕もアーニャも)
 最初から二人の関係は進んでいた。自分も、そしてアーニャもその事に気付いていなかっただけ。
 婚約者という役目を引き受けたのは、きっとそうなる事を望んでいたから。
 たとえ彼女をこの手に掴む事が、自分には許されない事だとしても。
(僕はまた、罪を重ねる)
 その事はきっとまた自分が生きて背負う上で、枷となるのだろう。正直、これ以上の罪悪に押しつぶされないかは不安だ。
 だがアーニャには、あの自分の過去の過ちを見せたくない。彼女を巻き込みたくはない。
(でも……アーニャは見たいと思うのかな)
 その先に見えた微かな自身の救いを否定する。これ以上望む物は無いのだと。
 今はまだ、どうなるかは分からない。躊躇いもある。後悔もある。しかし、
(アーニャを放っておくなんて出来ない!)
 目の前にいる男を見る。
 ―敵だ。
 その後ろにいるアーニャの父を見る。
 ―敵だ。
 周りにいる貴族達。
 ―敵だ。
 どれもがアーニャの枷となる存在だ。そして、自分は助けてと彼女から言われた。
(だから……)


85:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:06:00 xMRcFEnd
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86:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:06:44 gQ8c2mis
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87:モザイクカケラ
08/10/26 21:06:59 GKuBsb8H
 助けてみせる。アーニャを苦しめる世界から、彼女を救い出す。
 ならばどうするか。ライの頭脳は単純かつ明確な解答を―既に弾き出していた。
 そのための下準備も、アーニャには済ませてある。
(僕は……やれるのか―)
 しかし、それをやる覚悟は未だに決まらない。

   ●

「そういえば君の名前を聞いてなかったね」
「ライ・クルシェフスキーです」
 クルシェフスキーの名を聞いて、クリスティアンは興味深げにライを見た。
「ライ……確かラウンズだったね。だが、クルシェフスキー家に属しているなど聞いた事も無いが?」
「僕は最近養子に迎えられたので、あまり知られてないかもしれませんね」
 一息。ライはにっこりと、
「でも安心して下さい。―僕もローゼンクロイツなんて聞いた事無いですし」
 再び周囲が息を呑む。
「っ……無礼な!」
「ではこちらも同じ言葉をお返します」
 言われ、クリスティアンは押し黙った。家名はまだしも、個人の地位はラウンズが上だ。まともな言い争いでは分が悪いと判断したのだろう。
 襟に手を当てて首元を緩めて彼は、
「なかなか面白いね、君は。しかし…例えクルシェフスキーと言っても養子。こんなやり方で彼女を手に入れて、本当に幸せにできるとでも?」
 問われたライは、初めて笑顔を崩してクリスティアンを睨んだ。
 相手の心の奥まで見透かしてしまうような蒼炎の瞳が周囲を威嚇する。
「どういう意味でしょうか…」
「養子程度の君と結婚などしても、アールストレイム家にメリットは無い。元々彼女もラウンズなのだから」
「それが?」
「分からないかな。君と結婚したら、アーニャさんの立場は非常に悪くなるだけさ。だが私ならそうはさせない。決して不自由な思いをさせないよ」
 言って、クリスティアンは勝ち誇った表情で身を横にずらした。


88:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:07:31 hZ0lKNLb
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89:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:08:01 xMRcFEnd
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90:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:08:33 gQ8c2mis
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91:モザイクカケラ字数制限orz
08/10/26 21:09:15 GKuBsb8H
「そうだな…」
 クリスティアンの後ろから穏やかな声を挙げ現れたのはアーニャの父。無精髭をさすりながら残念そうに彼は言った。
「君のアーニャを想う気持ちは父親として嬉しいと思う。ただ、君もアーニャの真の幸せを願うなら……分かってもらえないか」
 真の幸せを願うなら。
 それはつまり、ライとアーニャの想いなど一時的な感情に過ぎないのだと。そして、ライではアーニャを幸せにできないのだと、そう告げられたようなものだ。
 だが、
「父親として? 真の幸せ……?」
 ライはアーニャの父を睨んだ。怒りと悲しみが混じり合ったような色を灯して。目尻には涙さえ浮かべて。
「なら……なんでアーニャの意思を無視するんですか。なんで話を聞いてあげないんですか! なんで……アーニャを売ろうとした!!」
「く……勝手によその家の事情に首を突っ込まないでくれないか」
「違う! これは家の事情じゃなくてアーニャの問題だ!」
「君達は子供だから分からんかもしれんが、こうする事が一番なのだ!」
 アーニャの父親も声を張り上げた。
 今やホールに集まる人全てが、この言い争いの行方を見守っている。
 アーニャもまたライにしがみつきながら、決して視線を彼から逸らさない。
 そのアーニャの肩を痛いくらいに強く抱き寄せ、ライは叫ぶ。
「その子供を結婚させようとしているのがあなただ! 偽りの善意を押し付け、自分一人が全てを手に入れようとして……ふざけるな! アーニャはあなたの道具じゃない!」
 放たれる激情に、アーニャの父親は息を詰めて返す言葉を失った。
 アーニャの幸せを望んで、という善意の嘘は二人には通用しない。
 感情という物ではもはやライとアーニャは揺るがない。何よりも強い結束が二人にはあった。
 ならば、その二人を揺るがせる物は別の物。
「だが君のそれは理想論だ」


92:モザイクカケラ
08/10/26 21:10:06 GKuBsb8H
 再び前に立ったクリスティアンが告げる。事実は変わらない、と。
「事実、親が子を道具として扱う事もある。私はそれを利用したとも。悲しい事だがそれが現実さ」
 それはつまり、
「……僕達は現実を理解しようとしない子供だと?」
「そう。これは……貴族として生まれた者としては当たり前の事なのだから」
「アーニャはそれを望んでいない!」
「それが子供だというんだ! 望んでいない? だからなんだ。世の中にはどうやっても貴族になれない生まれの者が沢山いるぞ!」
 逆もまた然り。クリスティアンは感情ではなく理性と理屈でもってライに立ちはだかる。


93:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:11:03 gQ8c2mis
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94:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:12:43 hZ0lKNLb
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95:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:13:08 xMRcFEnd
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96:モザイクカケラ
08/10/26 21:13:14 GKuBsb8H
「庶民には庶民の、貴族に生まれたからには貴族なりの、それぞれに伴う義務がある。それがノーブル・オブリゲーション。この世界のシステムだ!」
 貴族に生まれた誇り。庶民の上にある立場としての義務は、確かにブリタニアの制度を形作る物だ。
「だがそのシステムに相容れない人はどうすればいい! 抗う事すら許されないと言うのか!」
「抗うなら抗えばいい―だが、見ろ」
 クリスティアンは両腕を左右に大きく広げた。
 その先には、ホールには有力な貴族達が集まっている。システムの中心が。
 ライが、敵だと認識した存在が立ちはだかっている。
「君は私を含めここにいる全員を、そして世界というシステムを敵にすると言ったのだよ?」
「…………」
 ライは言葉を詰まらせた。顔を俯け、ただ悔しそうに唇を噛む。
「それでどうやって彼女を幸せにできる! 全てを失って2人だけでどうやって幸せを掴む!? 私より彼女を幸せにできる保証が、どこにある!!」
 これが理性。これが理屈。
 ライとアーニャがどれほどの想いを抱えようと、逃げる事のできない現実。
 アーニャには失った記憶を取り戻したいという願いがある。日記に書かれた彼女の姿は、確かにアールストレイムとしてのもの。
 ライには犯した罪を償いたいという願いがある。そのために今の立場はどうしても彼には必要なもの。
 両者とも、全てを無くして進むには途方もなく厳しい道のりだ。
 いくら抗っても、それが今の彼らの頼どころである以上勝ち目は無い。
「それでも……」
 その時、黙っていたアーニャが突然口を開いた。
 皆は聞く。ライにしがみつき、俯いたまま放たれる言葉は力無く、覇気は欠片も見当たらなかった。
 しかし、
「それでも私は……」
 現実に打ちのめされようと、理想が夢と共に打ち砕かれようと。彼女は揺るがない。
「ライといられるなら、私はそれだけで幸せ……そう思う」
 笑顔。アーニャは顔を上げて笑顔でそう言った。
 弾かれたようにライはアーニャの顔を見つめる。
「アーニャ…!」
 それが二人の答えだった。
「馬鹿馬鹿しい…!」
 クリスティアンは吐き捨てるように声を荒げた。それが彼らの答えだ。


97:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:13:54 gQ8c2mis
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98:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:14:45 xMRcFEnd
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99:モザイクカケラまた字数制限orz
08/10/26 21:16:08 GKuBsb8H
 だが、というようにライとアーニャは並び立って言葉を返した。
 クリスティアンとアーニャの父に。その他周囲に立ち並ぶ貴族達に。
「あなたは、あなた方は、僕達の答えを馬鹿馬鹿しいと思う。それが普通なのでしょう」
「でも、それが私達が出した答え。例えそれが馬鹿にされるような物でも―あなた達に否定する事はさせない。それに……」
 アーニャがライに視線を向け、彼は促されるままに懐から束になった羊皮紙を掲げた。
 皆の視線が集まるその紙の束を―、
「僕達は何も世界に喧嘩を売る訳じゃない。認めてくれる人たちだって確かにいるんです」
 言って、バラまいた。
 なんだ、という疑問の声が発せられるが、羊皮紙は停まらない。空気に圧され、ひらひらとその場に舞い落ちる。


100:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:16:27 gQ8c2mis
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101:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:16:51 xMRcFEnd
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102:モザイクカケラ
08/10/26 21:17:29 GKuBsb8H
 そして散在した羊皮紙を、貴族の一人が拾う。すると、一瞬でその顔を青ざめて言った。
「これは……婚約の推薦文…しかもヴァルトシュタイン家の!?」
 告げられた言葉に、皆に緊張と動揺が走る。
 そして羊皮紙を拾った別の人物が、
「こっちはエニアグラムだ!」
 また羊皮紙を拾った別の人物が、
「おいおい、ブラッドリーにエルンスト家まで…」
 次々と挙がる名前は、皆アールストレイムに負けず劣らずの名門貴族のもの。
 ラウンズに属する名家と、更にその家と深い繋がりを持つ名前まで。
 更には別の羊皮紙を拾ったアーニャの父が、
「ヴァインベルグも……一体どういうつもりだ!?」
「いや、ジノがどうしてもと言うから先ほど……名前はあいつが書いておったし、まさかこういう使い方をされるとは……」
 喧騒が輪となってホール全体を包み込む。皆が恐ろしい物を見るかのように羊皮紙を前に驚愕している。
「何だこれは……!」
 クリスティアンが叫ぶ。焦りを帯び、怯えたような声だ。
 如何に伯爵の名であろうと、いや、逆に伯爵という地位で相手にした事がここに来て仇となる。
 相手はラウンズ。クリスティアンよりも楽に有力貴族との繋がりが持てるのだから。
 誤算としては、まさか他家の婚約に別の家が介入するなど考えもしなかった事か。
 アールストレイムの息女一人の話ならまだ大丈夫だった。しかしもう伯爵の地位如きで相手取るには敵が強大過ぎる。システムで相対していた彼の方が、逆に追い詰められる結果がそこにはある。
 クリスティアンは自分の足下に落ちていた最後の羊皮紙を手に取った。
 そこに書かれた名は―、
「『ライ・クルシェフスキーとアーニャ・アールストレイムの婚約を我が名において推薦する』……な、ナナリー・ヴィ・ブリタニア!? 皇族までが、何故だ!!」


103:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:18:48 xMRcFEnd
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104:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:18:48 hZ0lKNLb
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>>96
頼どころ は”よりどころ”だと思うけど漢字が違うような気が・・・

105:モザイクカケラ
08/10/26 21:19:05 GKuBsb8H
 どういうことか、という周囲の疑問がライに向けられる。
 だがライは何食わぬ顔でただ事実を突き付けるのみ。
「僕はあなたよりもアーニャを幸せにできる立場にあるみたいですよ。だから…あなた方はそこで僕達の歩みを黙って見ていればいい。―アーニャ!」
 ライが突然叫び声を上げてアーニャに呼び掛けた。
 すると、アーニャはそれに対して一つの行動を見せた。
 耳を塞ぐ。
 次の瞬間、皆は見た。だがそこまでだった。
 何を見たのか、何を言われたのかは記憶に一切残っていない。

『ライが命ずる――!』

 赤の鳥が羽ばたいて、闇に消えた。



106:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:19:58 gQ8c2mis
>>104 “拠り所”ですね

107:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:20:10 xMRcFEnd
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108:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:21:12 peRYU9Za
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109:モザイクカケラ>>106任せたぜトーマス!
08/10/26 21:22:24 GKuBsb8H
 §4


 星空の下、アールストレイムの敷地内にある庭園で二人は歩いていた。
 夜風に花が揺れ、ざわざわと音を立てている。
 その音は幻のように二人を包む。まるで夢の中にいるかのような錯覚。
 だから、というようにアーニャはしっかりと傍らにいるライの手を繋ぎ、並んで歩く。
 それが本物である事を確かめながら。
「ねえ、いい加減教えて」
 アーニャは何度目になるか分からない質問をした。
「………何のこと?」
 とぼけたように首をかしげるライに、アーニャはむっと口を尖らせて言う。
「絶対ライが何かやった」
「……だから何もしてないって」
 でもそれ以外考えられない、とアーニャは呟いた。
(合図したら耳を塞げって言われたから……)
 もういいよ、と塞いだ耳を開けられた時には、アーニャの見ていた世界は姿を変えていた。
 皆が皆、自分達に祝の言葉を投げかけてきたのだ。クリスティアンも、父も、全員が「おめでとう」と。
 何が起きたのかは分からないが、ライが何かをしたのは確実だった。
(なのに……)
 聞けども聞けども、彼は「何もしてない」としか返さない。
「どうして教えてくれないの?」
「アーニャ…」
 困ったような表情をされても、構わない。しつこいと思われても、アーニャは聞きたかった。
「言いたくないならそう言って。でも、そう言われない限り、私は何回でも聞く。だって……」
 だって、ライの事は何でも知りたいから―なんて恥ずかしげもなく言えたらどんなに楽か。結局最後の方は小さくて聞き取れないほど尻すぼみ。
 だがアーニャの意思は一応ライには伝わったらしく、笑みを苦笑に変え、
「本当は……言いたく無いし、アーニャには……ううん。誰の前であろうとあれはもう使わないと決めていたんだ…」
 そう言ってライは草むらに腰掛けた。
 アーニャは隣に座ろうとして、しかしライに手を引かれてしまう。座らされた先はライの手前。


110:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:23:08 xMRcFEnd
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111:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:24:17 hZ0lKNLb
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112:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:24:41 gQ8c2mis
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>>109 修正したぜ!

113:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:07 Y8vQwxLM
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114:モザイクカケラ
08/10/26 21:25:10 GKuBsb8H
 アーニャは隣に座ろうとして、しかしライに手を引かれてしまう。座らされた先はライの手前。
「あっ……ら、ライ?」
 すっぽりとアーニャはライの腕の中に収められてしまった。
 覆い被さるようにライが背中にのし掛かる感触が鼓動を速くする。
 この時ばかりは、小柄な体格で良かったなどと思ってしまう。
 まとめた髪に乗る重さは心地よく、耳にかかる彼の吐息はくすぐったい。
 全身でライを感じる。
(でも……ライの顔、見えない…)
 それだけを残念に思い、次の瞬間はっとする。それがライの目的ではないか、と。
 今から彼は何かアーニャに秘密を明かそうとしている。言いたく無い事を話すのだ。きっと、見られたくない表情をするのだろう。
 ならば自分はこのままでいい。そう考え、ライの言葉を待った。
 そして待つこと数分、やがてライはアーニャの頭に顔を埋めながら、ぽつりぽつりと呟くように話し出した。
「ある所に―魔法使いの少年がいました」

   ●

 ―ある所に、魔法使いの少年がいました。
「魔法?」
 そう。彼は魔法で何でもする事ができたのです。彼の望んだ通りに人を操り、従わせる。
 全ては彼の思いのままに動かせたのです。
「その魔法で、やりたい放題?」
「それは違う。彼も一応力の使い所は考えていたさ」
 彼には大切な家族がいました。生まれのせいで不憫な思いをしながらも大切に育ててくれた母と、幼い頃から共にいた妹です。
 彼は2人のためにだけ魔法を使いました。
 2人を傷つける存在を敵と見なし、逆らう者は全て葬り去る。
 全ては2人を幸せにするために。
 少年はそれを悪行だと分かっていながらも、しかしその行為を続けました。
「どうして?」
「たぶん……それしか知らなかったんだよ。2人を幸せにする方法は、他に無かったんだ」
 それ程、彼らの生きる世界は悲惨だったのです。
 偽善と嘘に満ちたその世界で、彼は自らの目的のために敵を殺し続けました。魔法で、力で幸せを勝ち取ろうと。


115:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:28 b5iwbbvq
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116:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:56 gQ8c2mis
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117:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:25:56 Y8vQwxLM
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118:モザイクカケラ
08/10/26 21:27:10 GKuBsb8H
 たとえ、他者の幸せを奪う事になろうとも。
 それしかできなかった。彼は罪を重ねる事でしか―、

   ●

「―現実には抗えなかったのです」
 月の光の下、銀の髪がそれを反射して踊っている。
 銀の色を靡かせているのは、すぐ真下にある桃色の髪をいじっている少年だ。
 彼は空を見上げた。
 遠くの、月よりもずっとずっと遠くの何かを見るように。
 そしてぽつりと、風に消えてしまいそうなほど儚い声で呟いた。
「アーニャは、そんな魔法使いの少年をどう思う?」

   ●

 話を切り、問い掛けられた内容をアーニャは何度も頭の中で繰り返した。
 彼はどんな答えを求めているか。
 彼がどんな答えを望んでいるか。
 アーニャは考え、しかし止めた。
(そんなの、ライは求めてない…)
 ライはどんな思いで問うたのか。
 自分の素直な感想。そして素直な気持ちを、ライは聞きたいのだ。そう思う。
 だから、
「酷いと思う」
「っ……」
 一瞬、ライの体がびくりと震えたかと思うと、アーニャの体から離れていこうとした。
 だがアーニャは腕を掴んでそれを許さない。
(逃げないで)
 言葉は必要無い。
 アーニャはただ、今ライはどんな表情をしているだろうか、と思い馳せる。


119:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:27:15 gQ8c2mis
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120:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:27:48 xMRcFEnd
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121:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:28:26 Pmgx1z3E
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>>112
すげえw しかも前スレのぷにぷに卿のもすでに保管完了だとおお?!!

122:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:29:18 hZ0lKNLb
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123:モザイクカケラ前スレ>>886GJ
08/10/26 21:30:24 GKuBsb8H
 掴んだ彼の腕はそれはそれは弱々しく震えていた。
「どうして―」
 そして口から紡がれる言葉も、同じく弱々しい。
「どうして、酷いと思う?」
 アーニャは即答。
「だって、他人の幸せを踏みにじって、自分だけ幸せになろうとしたんでしょ?」
「それは、……そうだけど」
「でも、」
 声を低く沈ませるライに、アーニャは優しく話し掛ける。
 一旦言葉を切って、掴んだ腕を撫でながら言う。甘える子供に聞かせるように、素直な気持ちを言葉に乗せて。
「もし私がそのお母さんと妹なら、嬉しいと思う。……たぶん、悲しいとも思う」
「……悲しい?」
 うん、とアーニャは小さく頷く。
「だって、その魔法使いの子が大切に思う人達だもん。自分達のためにしてくれた事に嬉しくて喜んで、だけどその事で傷付いていく姿を見るのは……たぶん悲しい」
 そんな感じ、と言うとライは黙った。
 力が抜けたように息を吐き、
「そっか……そうか…悲しい、か」
 何度もアーニャの言葉を噛み締めるかのように呟きを繰り返す。
 そして再びアーニャの背中に体を預け、また「そうか…」と呟き続ける。
 そんなライに、今度はアーニャが問い掛けた。
「ねえ、ライ……私も、そうなの?」
「え?」
「だって私はラウンズ。人を殺して、たくさん幸せを奪ってきた…」
 言ってから、その事を今まで一度も考えていなかったと気付く。
 幸せを掴み始めて、だからこそアーニャは初めて知る。他の人にもこんな幸せが無い訳ではないのだと。
 自分は、そんな幸せをいくつも潰してきた。ラウンズとして。
 敵だからという理由で、簡単に命を奪ってきた。
 それを思うと、自分は何て酷い人間だと感じる。
 人を殺す意味を全く知らなかった自分は、もはや人間ですらないように思える。


124:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:31:00 gQ8c2mis
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125:モザイクカケラ
08/10/26 21:32:42 GKuBsb8H
「ライも……こんな気持ちだったの?」
 問うと、ライはアーニャの頭を撫でた。
 アーニャは、大丈夫、と言われた気がした。安心した訳ではないが、とにかく心が落ち着いたのだ。
 さら、という風と髪が流れる心地よい音の後、
「アーニャは、ここで気付けたから大丈夫だよ。ちゃんと前に進めるさ」
「……でも」
 本当にそれが可能とは、今は思えない。
(だって、こんなに……)
「辛い?苦しい?悲しい?……そうだね。でも、それだけなら良かった。耐えられる。だって全てを幸福に向かわせるなんて事、できないくらいは現実を知っていたから」
「え……?」
 不意に、ライは再び顔をアーニャの頭に埋めた。先ほどと同じく、いやそれ以上に弱々しく体を震わせながら。
(あ……)
 アーニャは理解した。ここからがライの闇なのだと。
 先ほどまでの問い掛けは、単に自分を次の事を話すに値するものにしただけだと。

 ―彼はまだ、深い傷を抱えている。

「続きがあるんだよ。その愚かな魔法使いの少年の話には」

   ●

 ―魔法使いの少年は、魔法の力でその夢を叶えました。
 理想のように美しく手に入れた物ではないけれど、それでも母と妹には平和な暮らしをさせる事ができたのです。
 だけど、その幸せも長くは続きませんでした。
 彼らの前には、現実が、世界がやはり立ちはだかったのです。
 彼は母と妹を守るために魔法を使い続けました。
「だけど……いつしか、彼は自分を見失っていたんだ」
「自分を?どういう事?」
「どうして自分は人を傷付けて、罪を重ねているのか。何をしたかったのか。……忘れてしまったんだよ」


126:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:33:39 Y8vQwxLM
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127:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:33:57 xMRcFEnd
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128:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:34:31 gQ8c2mis
支援

129:モザイクカケラ
08/10/26 21:34:35 GKuBsb8H
 魔法の力に囚われた彼は、それからも魔法を使い続けました。
 人の思いを操り、尊厳を踏みにじるという卑劣な手段で、彼は敵を滅ぼしていきました。
 しかし世界は強く、広い。どれだけ魔法の力を使っても、現実を打ち砕くには至りませんでした。
 そして彼は遂に魔法の力に呑まれ、とんでもない事をしてしまったのです。
「とんでもない事って?」
「…………」
「ライ?」
「大切な、大好きな母と妹を………殺してしまったんだ」
「っ!? そんな……!」
 過ちに気付いた時には、少年は全てを失ってしまいました。
 周りには敵も味方もありません。等しく死が与えられ、彼は一人になってしまったのです。
 どうしてこうなったのか。答えの出ないまま、少年はその罪を背負い、永遠の眠りについたのです。
「それで…?」
 しかし少年は目覚めてしまいました。何もかも失って、それ故に、少年の道のりは誰かに与えられる事によって成り立っていました。
 誰かに幸福を与えるという事を、彼は知りました。
 そして彼は誓ったのです。
 もう過ちは繰り返さないと。可能な限り、人々に自分が貰った幸せを返そうと…。
 ですが、少年は再び見つけてしまった。
「何を?」
「自分にとっての幸せ。大切な存在を」
「あ……」
 少年は自分には幸せになる資格なんて無い事を知っていました。
 しかし、それでも、かつての母や妹と同じくらい大切な存在を見つけてしまった。
 そして、気付いた時には再び魔法を使っていました。
 もう過ちは繰り返さないと誓ったというのに。少年はその大切な存在欲しさに、誓いなど忘れ、いとも簡単に魔法を使ってしまったのです。
「今、その少年は大切な人を……アーニャを、幸せを手に入れている」


130:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:35:15 hZ0lKNLb
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131:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:35:39 gQ8c2mis
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132:モザイクカケラ
08/10/26 21:37:09 GKuBsb8H

   ●

 アーニャの頭の上、そして頬に水滴が落ちてきた。
 雨、と思いすぐに違うと気付く。
「ライ……泣いてるの?」
「……アーニャ。僕は…僕は……またやってしまったんだ」
 悲しみと、憤りと、嗚咽混じりにライは続ける。
「もうしないと…過ちは繰り返さないと決めたのに……!」
「そんな事……」
 ない、とは言えなかった。ライは確かに、その魔法か何かで人の意思をねじ曲げたのだろう。
 誓いを破った。誰の責任かと問われれば、それは彼以外には無いのだろう。
「僕は怖いんだ」
「……何が?」
「いつか……君まで殺してしまいそうで」
 反射的にアーニャは叫んでいた。
「ライはそんな事しない!」
 前に回された腕を振り払い、ライの方に向き直り、
「そんな事しないって信じてる!」
「だが僕はそれで一度失敗した! そして今もそれを繰り返している!」
 ライはこちらを見ようとはしない。顔を俯け、叫び続ける。
 負けじとアーニャも叫ぶ。慣れない大声に裏返ってしまうが構わない。
「でも信じてる!」
「その信頼が魔法の力かもしれなくてもか!?」
「っ…」

   ●

 ライはアーニャが押し黙るのを見た。
 返す言葉が見つからない事を悔しがるような、そんな表情だ。


133:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:37:52 xMRcFEnd
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134:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:38:30 gQ8c2mis
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135:モザイクカケラ
08/10/26 21:39:05 GKuBsb8H
 それを見て思う。
(アーニャは、僕の事をこれほど思ってくれている…)
 だが、だからこそライは言いたくなかった。ギアスの事を。
 ―手放したくない。
 自分の中に湧き上がる衝動を必死に抑え込む。
 どす黒い感情が心に滲み、アーニャを求めてさ迷い歩く。
(駄目だ……このままじゃ…)
 いつか彼女にも使ってしまう。そんな最悪の可能性も無視できない。
 今はいい。彼女の気持ちは、自惚れではあるが、確かに自分に向いている。
 だがいつかアーニャの気持ちが自分から離れていったなら。
(たぶん……僕はギアスを使う)
 それだけは避けたい。
(だから言いたくなかった…)
 本当は全て自分が背負おうと決めていたのに。
 しかしアーニャの優しさや想いが心地よく、つい話してしまった。
(いけない)
 これ以上アーニャに依存してしまう事が。
 一緒に罪を背負って欲しいなどという思考がじわじわと音をたてて忍び寄る。
(それは駄目だ!)
 そう思った時だ。

   ●

「ねえ、ライ……」
「なに―」
 ご、とライの頬が鈍い音をたてた。
(は?)
 音の後に続いて感じるのは視界の転倒。正面に向けていた視線がぐらりと右に揺れた。
 更には刺すような痛みが頬を焼き、苦い味が口の中にじわりと広がる。


136:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:40:09 xMRcFEnd
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137:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:40:14 gQ8c2mis
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138:モザイクカケラ
08/10/26 21:41:37 GKuBsb8H
(はい?)
 殴られた、と理解したのは再び正面を向いてアーニャの突き出された右拳を見た時だ。
「アーニャ…?」
 ぽろり、とアーニャの目から何かが零れ落ちた。
 涙だ。
「アーニャ?」
 もう一度呼び掛ける。だがアーニャは返事をせずに、
「他には?」
「え……」
 こちらの呆けた返答に、アーニャは眉尻を下げ、真剣な表情で問う。
「他に…話さなきゃいけない事は無いの?」
「え……と、とりあえずは」
 ライはこくこくと頷く。
 まだ犯してきた罪の具体的な話はしていないが、一通りの流れは伝えたはずだ。
 すると、
「馬鹿」
 といきなり罵声が浴びせられた。
 ライは返す言葉を失っていると、
「ドジ、マヌケ、天然、ぼけぼけ、……女たらし」
「おい」
 いきなりどうしたというのか。思い付いた罵声を片っ端からアーニャはまくし立てる。
 一頻り罵詈雑言を尽くした後、
「どうして……それを一人で背負おうとしたの?」
「っ……それは…」
 ライは思わず顔を逸らし、
「逃げないで、こっちを見て」
 アーニャがライの顔をむんずと両手で押さえ、正面に向けさせた。
「アーニャ…」


139:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:42:39 gQ8c2mis
支援

140:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:44:12 xMRcFEnd
支援

141:モザイクカケラ
08/10/26 21:44:26 GKuBsb8H
 ライの目の前には、涙に濡れ、怒ったアーニャの顔。
 吐息が鼻にかかり、少し近付ければ唇が重なってしまいそうな距離にそれがある。
 しばしの間考えていた事を忘れ、ライはただ両頬に感じるアーニャの手の感触に酔い、そしてこちらを見つめる真っ直ぐな深紅の瞳に見入っていた。
「やっと、ライの顔が見れた」
 笑みを浮かべ、アーニャはそっとライの目元に溜まった涙を拭いながら言う。
「私は、ライが一人で罪を背負って、それで私だけ幸せになっても嬉しくない」
「なら…どうするんだ。僕の罪は僕の罪だ。アーニャには関係無い」
 ライは押さえられたままの頭を振る。
 アーニャを幸せにする事自体を諦めた訳ではない。アーニャと生きていく事はもはや揺るぎない決意となっている。
 しかし、
(アーニャに僕の罪を背負わせる事なんて出来ない)
 それはアーニャの望む物ではないだろうが、これはどうしようもない現実だ。
 だがライは、これでいいと思う。
「僕は君を幸せにする。約束するよ。それでいいじゃないか」
 アーニャはいやいやをするように否定する。
「良くない。ライも幸せになってくれなきゃだめ」
「僕はアーニャといられるだけで充分幸せさ」
「そんなの嘘」
「本当だよ」
 嘘、とアーニャはもう一度言って、
「じゃあ……何で“過ち”なんて言ったの?」
 言われ、ライは肩を震わせた。動揺を悟られないよう顔を逸らそうとするが、アーニャの手がそれを許さない。
「ライは…後悔してる。私を助けた事を過ちだと思ってる。そんなの、嫌」
 アーニャはこちらから目を逸らさない。その潤んだ瞳を見てライは思う。
(何をやってるんだ僕は…)
 幸せにしようと言っているのに、先ほどから彼女を泣かせてばかりいる。
 だが、自分には何も出来ない。この場で彼女を笑顔にする術を持たない。
 だから聞いた。
「アーニャは僕にどうして欲しいんだ?」
 違う、とアーニャは首を振る。


142:モザイクカケラ
08/10/26 21:46:57 GKuBsb8H
「ライは私にどうして欲しいのか。それが知りたい」
「僕……が?」
 考える。自分がアーニャに何をして欲しいか。
(一緒にいてくれるだけでいい)
 それだけで、充分自分にとって許されない救いだ。
 更には罪まで明かしてしまった。その上で側にいて貰えるなど、本当はあってはならない事だ。
(これ以上望む事なんて無い…)
 無いのに、
(どうして……こんなに辛いんだ)
 そして気付く。
 自分はこの痛みに耐えられないのだと。穢れを祓う事に疲れたのだと。
 一人でしか背負えない罪。
 余りにも重いそれに、目の前にまで現れた救いを見て、自分は屈してしまったのだ。
(助けてくれ、アーニャ…)
 その望みは言えない。それを望んではいけない。だが、ライがアーニャにして欲しいのはそれだ。
(一人で背負うのは疲れたよ…)
 ライは、救いを求めていた。

   ●

 ライが何かを言おうとして、しかし、次の瞬間口を閉じた。
 アーニャは黙ってそれを見つめていた。
 薄暗い視界の中、月明かりに照らされた彼の表情は今まで見た事が無いほど弱々しい。
 アーニャはその姿を知っている。
 ライが助けに来てくれるのを待っていた自分の姿と同じだ。
 肩はがくがく、唇はかさかさで、目の奥がちりちりする。
 そんな感覚にあった自分を救い出してくれたのがライだ。
(今度はきっと、私の番)
 ライは助けを求めている。


143:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:47:10 xMRcFEnd
支援

144:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:47:23 gQ8c2mis
支援

145:モザイクカケラ
08/10/26 21:49:13 GKuBsb8H
(絶対、私を助けた事を後悔させない)
 だから、
「ライ……」
 アーニャはライの頭の後ろにそっと腕を回し、優しく胸に抱いた。
 するとライが、
「アーニャ……助けて」
 消え入るような、小さな声でそう呟いた。
 聞き間違いではなく、確かにアーニャはそれを聞いた。
(大丈夫、助けてあげる)
 甘えるようにライの腕がこちらに回される。
 可愛い、と場違いな感想を胸に仕舞い、
「大丈夫。ライは私といていい。罪になんかならない」
 なぜならば、
「私は―許してあげる」
 アーニャは、懐にしがみつくライを安心させるために、回した腕に力を込める。
「あなたがこれまで犯した罪も、これから犯す過ちも何もかも許してあげる。私が、私だけが」
 この過去を、恐らくライは自分以外には話していない。話さない。自惚れと言われればそれまでだが。
(けど、話してもらった私だけが出来る事がある)
「許……す?」
 胸に押し付けたライが震える声を上げた。
 アーニャは頷いて、
「そう、私はあなたの全てを許す。―そうする事で、あなたという罪人を許した、大罪人になる」
「そんなの……ぶっ」
 何かを言おうとしたライを無理やり黙らせる。薄い胸にぎゅっと力を込め押し付ける様子はまるで、
(首絞めてるみたい…)
 もう少し胸があったら雰囲気が出るのにと思う。
「勘違いしないで。許すのは私だけ。あなたの罪は、決して消えない。だけど…」
 一息。
「ライが幸せになる罪の分くらいは、それよりかは……私もその罪を背負ってあげる。あげられる」
 だから、
「ライは……幸せになってもいい。私という罪を背負うだけだから」


146:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:49:33 gQ8c2mis
支援

147:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:49:51 F1aGh/Hn
忠義の支援!

148:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:50:08 xMRcFEnd
支援

149:モザイクカケラ
08/10/26 21:51:23 GKuBsb8H

   ●

「あ……」
 ライは、アーニャの身に包まれながら、じっと彼女の言葉に聞き入っていた。
 聞き終わった後も、しばらくは動けずにいた。
 そして、
「はは……」
 湧き上がるのは笑い声。空気を切るような短い笑いが、ライの体を揺らす。
「なんだよ……それ…」
「何かおかしい?」
 真面目に問うアーニャの様子が更に可笑しくて、ライは笑う。
「だって……結局、何も変わらないじゃないか」
 そう、そうなのだ。
 アーニャがライを許すという罪となり、その新たな罪をライは許された分背負う。―アーニャごと。
 結果、ライの罪に変わりはない。それなのに、
「それなのに、幸せになってもいいって……あはははは!」
「な…何で笑うの!? 私は真剣に…!」
「だ、だって可笑しくって……ははは!」
 ライは笑った。こんなに笑うのは何日、何年―何十年、何百年ぶりだろうか。母や妹の前でも、これ程笑わないのに。
(アーニャらしいよ、本当に)
 彼女は自分の居場所をライに見出した。ただ、自分の願いを叶えるために。
 こちらの都合なんてお構いなしだ。適当に理由を付けてアーニャはライの所に居座ろうとしている。
 こっちはアーニャの事ばかり考えていたのに。
(でも、)
 自分には出せない結論だと思う。
 いつも間違っている自分が出せない答えはつまり、
(逆意で正しいという事なのかな…)
 そう思う。
 それに、許された以上、ライはその分アーニャの罪を背負わなければならない。


150:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:51:46 gQ8c2mis
支援

151:モザイクカケラ
08/10/26 21:53:05 GKuBsb8H
 勝手にアーニャがこちらの罪を奪ったのだから、こちらも放っておげばいいかと言うと、
(そんな事、僕には出来ないし…)
 選択肢は残されていない。全て、アーニャの思いのまま。
(話した時点で、僕の負けは決まっていたのかも)
 ライは過去を明かした時、全ての罪の行方を、無意識のうちにだが、アーニャに委ねていた。
 そして、アーニャは何が何でもこちらと一緒に幸せになれるよう結論付けるというのは、考えてみれば当たり前の事で。
「本当……アーニャって…」
「なに…」
 笑われた事に腹を立てたのか、むすっとした表情でアーニャが返す。
(可愛いな)
 そう思い、笑顔で、
「好きだよ」
「っ!?」
 続けて、
「大好きだ」
「っっ!!?」
 最後に、
「愛してる」
 そう言って、ライはアーニャの唇に自分のそれを重ねた。
 触れる、押し付ける、長い長いキス。
 目を開けて見れば、アーニャは顔を真っ赤にして瞼をきゅっと閉じている。
 その表情も何もかもが愛らしいとライは思う。
 そして許しをもらった今、ライは薔薇の蕾のような柔らかな唇の感触を存分に味わい、幸せを摘み取った。
 息が続かなくなると、離し、息を吸ってまた重ねる。
 それを何度も何度も繰り返し、やがてライはアーニャからそっと体を離した。
「はぁ…はぁ…あはは、アーニャ顔真っ赤」
「それはライも……はぅ」
 アーニャはくねくねと悶えながら、キスの感触を思い起こして惚けていた。
 そんなアーニャの頭を愛おしそうに撫でながら、ライは懐から小さな手のひらサイズの小箱を取り出した。


152:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:53:19 gQ8c2mis
支援

153:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:53:37 xMRcFEnd
支援

154:モザイクカケラ
08/10/26 21:55:10 GKuBsb8H
 我に返ったアーニャがそれを見て、
「なにそれ?」
「開けてごらん」
 手渡して、アーニャを促す。
 アーニャはゆっくりとラッピングされた小箱の封を開け、
「これ……指輪?」
 中に入っていたのは、飾り付けのないシンプルな銀の指輪が二つ。
「モニカがクルシェフスキー家の紋様を刻んだ指輪を渡そうとしてくれたんだけどね……何となく断って、それを街で買ったんだ」
「私にくれるの? 誕生日プレゼント?」
「それも込み。だけど、これは僕の分」
 言って、ライは自分の指―左手の薬指に、片方の指輪を嵌めた。
 そしてもう一つの指輪を右手で取り、開いた手でアーニャの左手を持ち上げる。
「あぅ…ライ…もしかして、それは…その…!」
 アーニャは顔を真っ赤にさせ、あたふたと手を揺らして抵抗する。
 そんなアーニャを逃さぬようライは覗き込んで言う。
「もう一つの願いは僕から…そう言ったよね?」
「こ、心の準備が……!」
「駄目」
 有無を言わさず、ライはアーニャの左手の薬指に指輪を通した。
 すっと固定出来る位置まで持っていき、しかしそこから少しだけ引く。
 怪訝な顔をするアーニャをおいて、ライは深く深呼吸。ドクンドクンと高鳴る心臓を必死で宥めて落ち着きを保つ。
(緊張するな……)
 アーニャ以上に顔が赤らんでいるのが解る。
 気恥ずかしさを懸命に振り払い、ライは言った。
「アーニャ。僕と、結婚して下さい」
 問うて、ライは差し込んだ指輪を掴んだまま止まった。
 すると僅かな時間の後、アーニャはライの右手に、自分の右手を添えた。
 そして次の瞬間、力を込め指輪を己の左の薬指にしっかりと嵌め、固定した。
 そして頷いて、簡潔に、
「うん…!」



155:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:56:01 gQ8c2mis
支援

156:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:56:16 xMRcFEnd
支援

157:モザイクカケラ
08/10/26 21:57:34 GKuBsb8H
 §5


 アールストレイム家の庭園にて、二つの影が動いていていた。
 ライとアーニャだ。
 二人は今、夜も深まったので家路についているところ。
 ライはどこか力が抜けて、ゆったりとした様子で前を歩くアーニャを見ている。
 そしてそんなライの少し前を歩くアーニャはというと、
「えへへ……」
「アーニャ、さっきからにやけ過ぎだ」
「だって……えへへ」
 アーニャはライに指摘されても、にやけ顔を戻さない。と言うより、出来ない。
 視線の先にあるのは己の左手の薬指に嵌められた、銀色の指輪だ。
 月明かりに照らされ、美しい反射の色で存在を示している。
 アーニャはそれを見てまた、
「えへへ……」
 と先ほどからずっとにやけ続けている。
 ライは再び呆れた様子でため息をつき、
「他の人に見せびらかしたりするなよ。僕が恥ずかしい」
「むぅ、そんな事……してもいいかも」
「おいおい」
 アーニャは、はっきり言ってモニカあたりには見せびらかす気満々だった。
(だって……)
 女の子の憧れ、結婚指輪を手にしたのだから。それも大好きなライとの。
「ライ、ありがとう」
「はいはい。そう思うなら、ちゃんと僕の罪も背負ってくれよ」
 分かってる、とアーニャは頷き、
「私はライの罪を全部許すから―浮気以外」
 最後に付け足した言葉に、「ありゃ?」と妙な声を上げてライがこけそうになった。
「何だ、その浮気以外って。まるで僕が女たらしみたいじゃないか……ってそういえば、さっきもそう言われた気がするな」


158:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:58:14 b5iwbbvq
支援

159:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 21:58:16 gQ8c2mis
支援

160:モザイクカケラ
08/10/26 21:59:57 GKuBsb8H
「だって事実」
 いつもライの周りは女の人でいっぱいだ。悔しい事に、自分よりスタイルのいい人ばかりが。
 その時は気にも留めなかった事だが、今思うと非常に腹立たしい。
「絶対、浮気は許さない」
「僕だって、アーニャが浮気したら許さないさ」
「私が? 浮気?」
 アーニャは首をかしげた。自分の方が浮気する可能性など、これっぽっちも考えていなかったからだ。
 そんなアーニャにライは眉をひそめて、
「そうだよ。僕だってアーニャが他の男と話してたら……たぶん、これからは面白く思わない」
「ふぅん……」
 アーニャは何となく、自分がジノやスザクらに囲まれて話している様を想像した。
 その様子を、遠くの方でライが見つめている。
 そして話し終えた自分を捕まえて、ライがやきもきしながら、何を話していたかをしつこく問うてくるのだ。
「いいかも…」
 単なる思いつきだが、焼き餅をやくライというのを見てみたくなった。
 今度試してみようと思った瞬間、アーニャは後ろからライに抱きかかえられた。
「ひゃっ」
「いいかも、じゃない。僕だってそれなりに独占欲はあるんだから」
「それを見たい」
 と、適切に自分の意思を伝えるが、
「駄目だ」
 と、ライにあっさりと否定される。


161:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:00:26 gQ8c2mis
支援

162:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:01:17 xMRcFEnd
支援

163:モザイクカケラ
08/10/26 22:01:25 GKuBsb8H
 やがてライに下ろされたアーニャは、安心したように息をついた。
 そして未だに不満そうな顔をするライに、笑顔で告げる。
「大丈夫、私はライから離れない。ずっと側にいて、ライが魔法を使わないように見張っていてあげる」
 するとライは少し驚いた後、「ありがとう」と礼を言ってアーニャに顔を寄せた。
「なら僕も、ずっとアーニャを幸せにする―ううん。アーニャと、幸せになるよ」
「うん」
 アーニャは頷き、目を閉じて顔を上にあげた。
 身長差があるため、爪先立ちになる自分が少し恥ずかしい。
 互いの吐息を交換した後にライが告げた。
「アーニャ、愛してる」
 アーニャは少し逡巡した後、
「………私も」
 と言うと、アーニャは閉じた瞼の奥にライの苦笑が見えた気がした。
「アーニャ」
 責めるような口調。
「むぅ…」
 ライが何を言いたいのかは分かっている。だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 キスをする寸前の状態でずっと固まったまま、やがて決心したアーニャは深呼吸をして言った。
「私も、ライを愛してる」


 瞬間、二人の唇が重なった。


                fin.

164:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:02:14 gQ8c2mis
支援

165:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:02:32 xMRcFEnd
支援

166:ピンクもふもふ ◆0rhUU6uqDE
08/10/26 22:03:57 GKuBsb8H
 せーの! アーニャ誕生日おめでとう!
 アーニャ誕生日記念SS投下終了。読んで下さった方、及び支援して下さった方ありがとうございました。保管も乙。

 しかし何つー真面目な話。。。こんなの私のキャラじゃないと思うんだがどうだろ。
 でもまあ、たまにはこんなのも書くんです。
 色々な都合で書ききれなかったところもあり、決して満足いってる訳では無いのですが……。
 アーニャの「許す事が罪」って結論は大好き。かなり自分勝手ですけど。ライも言ってたけど、それがアーニャらしいかなって。

 この二人が今後どう世界と相対していくかを想像しても面白いかもしれない。
 ここからR2の世界に旅立ったとするなら、たぶんロスメモとは違った答えに着地するんだろうなあ。あっちはライの記憶が無い分、互いの依存関係がこの話より深いし…。

 では今回はこんなところで。
 次回の投下はいつになるか分からんが、多分大作戦を終わらせるんじゃないかな…? 今は5話を書いて、でもちょっと長くなったので適当に肉付けして分けて6話(最終話)に突入中。
 え? どんな話か忘れた? ソンナノシルカー ヽ(`Д´)ノ コッチガオボエテルカライインダー!

 じゃあ皆さん、感想書くなら「アーニャ誕生日おめでとう」を忘れずに。
 感想書かなくても忘れずに「アーニャ誕生日おめでとう」。
 もうぶっちゃけ感想は「アーニャ誕生日おめでとう」だけでもいいから忘れずに。

 オールハイル ヽ(`Д´)ノ モッフー!

167:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:07:39 gQ8c2mis
アーニャ誕生日おめでとう

まあしかしすっさまじいボリュームですこと!そして途中で全然飽きない。
保管のしごたえがあるわ~、GJ乙です!

168:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:11:47 sloXOM87
今から読もう。
アーニャ誕生日おめでとう

169:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:11:51 OZVbEWhp
GJ!
貴公の書くライアニャは俺のツボにぴったりと当て嵌まるんだ何故だろう。
我が儘なアーニャが大好きです。後ろ向きなライに前を向かせるアーニャが大好きです。照れてるアーニャが大好きです。貴公の書くアーニャが大好きです!
アーニャ誕生日おめでとう!



ラウンズ大作戦?
確かライアニャレクの接続をしようとするシャルルんを、ルルが止めようとするって話だったっけ?

170:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:12:53 xMRcFEnd
>>166
大作乙&GJ! 二時間…。本当にお疲れ様です。

アーニャ可愛いよアーニャ。
中盤の不利な状況から一気に形勢逆転するところに非常にすかっとしました!
二人にとってはそこからが本当の戦いだったわけですが。
罪とそれを赦すことと向かい合って、前に進んで行こうとする二人に幸あれ!

アーニャ誕生日おめでとう!

171:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:19:45 b5iwbbvq
アーニャ誕生日おめでとう

そしてもっふー万歳!
泣きました、萌えました、震えました。
アーニャ誕生日おめでとう。

172:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:20:25 Y8vQwxLM
え? アーニャ誕生日だったの!?
不味いぞ……テンさんなど書いている場合ではなかったのか……
しかし今からでは……とりあえず「アーニャ誕生日おめでとう!!」

173:171
08/10/26 22:29:20 b5iwbbvq
途中で投下してしまったorz
卿のライアニャはどこまでも自分のど真ん中を突き抜けてくれる。
そして願わくば2人の進む道に小さな幸せと一握りの優しさを…

最後にもう一度、アーニャ誕生日おめでとう。

174:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:37:37 l/B/OWND
アーニャ誕生日おめでとう!!!
そしてオォォォーーール・ハァァァイル・もっふー!!!!
>>166
ピンクもふもふ卿、超GJでした!
涙腺が、涙腺が……あぁ……太陽系に生まれて良かったーーー!!!
圧倒的な分量ながら飽きずに読み進められる面白さ!
ライが過去を語る所など蝶サイコーと叫び回りたくなるくらいの感動が私を襲いました!
ラウンズたちの推薦文なども我が胸は激しく打ち鳴らされました!
そして、再びアーニャ誕生日おめでとう!
貴公の次の投下を我が全力を挙げてお待ちさせていただけますか!

175:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 22:56:42 S556ESnD
まったく、毎度毎度もっふーは……俺をもふもふさせやがるぜ。
ブラボーもっふー。
俺もこの流れに乗って投下しよう。長さは、どれくらいかな。6~8レスくらい?
次から諸注意など書き始めます

176:千葉はライの嫁
08/10/26 23:00:33 S556ESnD
これから投下するのはコードギアス The reborn worldの番外的な話です。

・わりとふまじめです。特に後半。
・一部独自設定です。
・微妙にライを有能にし過ぎたかもしれないです。
・そういうのが嫌な人はスルー侍でお願いします。

177:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:02:33 pTCt02xY
支援

178:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:06:33 S556ESnD
ミレイが用意してくれた新品の制服に身を包んだライは、そこで改めて自分に与えられた部屋を見回した。
先程までライが眠っていたシングルベッドの以外でこの部屋にあるのは、部屋の隅に置かれた胸ほどの高さの棚と姿見、
備え付けの机の上にはノートパソコン以外には本の一冊もなく、セットの椅子とともにただ置いてあるだけの状態になっている。
そしてクローゼットを開いてみれば、ライがゲットーで老婆から貰った粗末な服が一着あるのみである。
「生活感の無い部屋だな」
だからと言って特に思うところがあるわけではない。ただ事実を言ったまでのことだ。
ライがアッシュフォード学園に暮らすことが決まってから一週間。今日から、ライは学校に通うことになっている。

コードギアス The reborn world 4.5話

「おはよう、咲世子さん」
清潔感溢れる白いエプロンが、ライの声に合わせて翻る。
朝食の準備をしていた咲世子はライに気付くと手を止め、メイドらしい丁寧なお辞儀を返した。
「おはようございます、ライ様。
 ルルーシュ様とナナリー様は既に席に着かれておりますので、ライ様もどうぞお早く。
 料理はすぐにお持ちしますので」
咲世子はライのことも様付けで呼ぶ。彼女曰く「お客人」だかららしいが、ライとしては非常に落ち着かない。
落ち着かないのだが……ライが本調子でないときに咲世子は色々と世話をしてくれ、その度に様付けはやめてくれと頼んでも折れなかったのでライは諦めている。
「手伝おう」
「ありがとうございます。ですが、そのお気持ちだけで十分です。
 お客人に手伝いをさせるわけにはまいりませんから」
淡々とした口調でそう言われては、ライとしては返す言葉が無い。咲世子の言うとおり、席について大人しく待っていることにした。
先にいたルルーシュ、ナナリーの二人と挨拶を交わして、定位置となったルルーシュの隣、ナナリーと向き合う形になる席に座る。

179:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:08:53 pTCt02xY
支援

180:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:08:55 l/B/OWND
支援

181:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:09:16 S556ESnD
「ライさんは、今日から学校に行かれるのですよね」
「ああ。ルルーシュ達と同じクラスだよ」
ライの答えを聞くと、ナナリーは安心したように頬を緩めた。
「そうですか。それを聞いて安心しました。
 記憶が無いことで色々と大変だと思いますが、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。
 私はお話を聞くことくらいしか出来ませんが、お兄様は優しくて、とっても頼りになりますから」
純真無垢なナナリーからの手放しの称賛。隣のルルーシュが微かに身じろぎしたことをライは感じ取ったが、
敢えてそちらを見ようとはしなかった。見なくても分かる。きっとルルーシュは今、照れて赤くなっているだろう。
ルルーシュがある程度平静を取り戻すのを待って、ライは言葉を発した。
「何かあった時は頼らせてもらってもいいかな、ルルーシュ」
「……勿論だ」
そのそっけない物言いに微かな笑みを口元に浮かべながら、ライは咲世子が運んできてくれた料理に目を移した。
ほかほかと湯気を立ち昇らせているつやつや輝く白米に、ごぼうが多めのきんぴらごぼう、そして鼻孔をくすぐる香り漂うお味噌汁。
以外にも和食が好みだったライのために、咲世子が気を利かせてくれたようだ。
ルルーシュ達と一緒に手を合わせながらライは、今日一日頑張ろうと思った。

登校後、一先ずルルーシュと別れて職員室で一通りの説明を受けたライは、自分のクラスへと案内されていた。
クラスの担任の後を追いながら、ライは緩やかに視線を周囲に巡らせる。
エリア11屈指の名門校の名に恥じぬ規模と設備を備えた広大な学校、私立アッシュフォード学園。
休み時間にはその規模に相応しい数の生徒達で賑わう廊下も、ホームルーム中の今はライ達以外の人影は無い。
(妙な気分だ)
窓から見える様々な態度で教員の話を聞いている生徒達を観察しながら、ライは一人眉をひそめた。
違和感があった。自分が今ここで、こうしていることへの言い様の無い違和感が。
自分がこの学び舎に相応しくない、酷く場違いな人間に思えて仕方が無かった。
そしてそう感取している不可解な自分への不審。その思考に埋没していたせいで、
クラスに着いたことを告げる担任の声にライが気づくまでに僅かなりとも時間を要した。


182:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:10:03 pTCt02xY
支援

183:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:12:45 5w8l3g/j
支援

184:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:14:29 S556ESnD
「緊張してるのかい?」
人の良さそうな顔立ちの担任の問いに、「いえ」とライは短く答えた。
緊張しているわけではない。ただ、釈然としない何かを感じているだけだ。
しかしその態度は担任を勘違いさせたらしく、担任は励ますようにライの肩に手を置いた。
「安心しなさい。うちのクラスの生徒達は良い子ばかりだからね。
 このクラスには君と同じように最近編入してきた名誉ブリタニア人の生徒もいるんだが、彼はクラスの連中と仲良くやれているよ。
 だから君も大丈夫さ。それに、君は中々の色男だ。きっと女子達にもてるぞ?」
「はぁ……だと良いんですが」
教員のわりに妙に気安い担任に曖昧に頷くライ。世辞を額面通りに受け取るほど、彼は単純ではない。
担任はライにさらに何かを言おうとしたが、思いなおして教室の扉に手をかけると一度ライに視線を向け、一気に開いた。
担任が入り、続いてライが教室に入ると、ざわざわと多少騒がしかった教室が一気に静まり返る。
ライはその生徒達の反応に疑問を抱いたが、見知らぬ人物が入ってきたことで戸惑っているのだろうと解釈した。
「おや、急に静かになったな。流石に驚いたか?
 えー、今日からこのクラスでお前達と共に授業を受けることになったライ君だ。
 じゃあライ君、軽く自己紹介をしてもらえるかな」

185:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:15:52 l/B/OWND
支援!

186:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:17:33 S556ESnD
頷き、教卓の前に立つライ。自分に視線が集中していることを感じながら、ライは教室を見渡した。
ひょうきんな笑顔を浮かべているリヴァルに、小さく手を振ってくれているシャーリーとぎこちなく頭を下げたニーナ。
眼が合うと軽く微笑んでくれたのはカレンで、ニコニコと人懐っこく笑っているスザクは、特に反応を示さなかったルルーシュに手振りで何やら促している。
そして彼等以外の生徒達の驚きや興味に彩られた顔を一通り見た後、ライは出来る限り自然な口調で言葉を発した。
「ライ・ウーティスです。色々と至らない点があると思いますが、どうぞ宜しく」
そう言ってライが頭を下げたのと、教室が生徒達の喧噪に包まれたのとは同時だった。
勿論ファミリーネームの「ウーティス」は偽名である。適当な身分をでっちあげる際コンピュータがランダムで選出したものなのだ。
そしてウーティスの意味を知ったミレイは別の名前にしようとしたが、ライが望んでそのままにしてもらった。
ウーティス……意は"誰でもない者"。
記憶を失った自分には、これ以上無いほどぴったりな名前だとライは思ったのだ。その時ミレイは、複雑そうな顔をしていたが。
ちなみに、その後の残り時間を利用して行われたライへの質問では生徒達は授業では見られないほど積極的に挙手をし発言していた。
言うまでもないことであるが。自分に向けられる質問に予め考えていた答えを返していたライが、質問しているのが女生徒ばかりである理由に気が付くことはなかった。

187:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:19:50 S556ESnD
「ほっほ~。そんなに凄かったんだ、ライの人気は」
「そりゃもう! 放課後は私達が学校を案内してあげようかな~って思ってたんですけど、
 他の子達が勝手にやってて出番がないくらいでしたから。ね、ニーナ」
「うん、すごかった。特に女の子が」
放課後の生徒会室。書類整理の手は止めずに行われていた女同士のお喋りは大盛り上がりだった。
話題の中心は当然、今日から学校に登校することになったライのことだ。
「なんとなく予想は出来てたけど、恐るべし美形パワーね。
 でもまあ確かに、転校生が美青年ってのは王道よねぇ。そりゃ放っておかれないか。
 それに彼、なにか人を惹きつけるところがあるし」
「そうですね。あの様子なら、すぐに友達も出来ると思うなぁ」
「でもライさん、ちょっと困ってたみたいだけど……」
心配そうなニーナとは対照的に、ミレイはとても楽しげに笑って見せた。
「良いの良いの! 女の子に囲まれて困るのって、男の子にとってはご褒美みたいなもんよ!」
「そうかなぁ? なんか、本気で困ってる気がしたけど……。
 そういえば、リヴァル遅いね」
けらけらと笑い続けるミレイに首をかしげつつ、ニーナは生徒会室のドアに目をやる。
生徒会室のドアは開かれる様子もなく、きっちりと閉まったままだ。
「スザク君が軍の仕事で早退で、カレンはもう帰っちゃったからねぇ。
 これでルルーシュにまでサボられたら堪らないから、ルルーシュ捕獲に向かわせたんだけど」
「というかルルが来なかったら、この書類今日中には終わらないですよ」
眉間にしわを寄せるミレイに、嫌そうな顔でシャーリーが生徒会の大きな机の上を指差す。
あちこちに付箋のついた書類の束で、ちょっとした山が出来ていた。さっきから作業しているのだが、ちっとも減っている気がしない。
改めてそれを見て流石に気になってきたのか、ミレイが携帯に手を伸ばす。

188:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:20:33 pTCt02xY
支援

189:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:25:22 S556ESnD
「遅くなりましたぁ……」
噂をすれば影とでも言うべきか。今まさにミレイがリヴァルに連絡しようとしたところで、
当のリヴァルが生徒会室のドアを開けてやってきた。その後ろに、ルルーシュの姿は無い。
「リヴァル、ルルはどうしたの?」
「それが……ごめん。だめだった。逃げられたよ」
「ルルーシュのアホー!!」
面目なさそうなリヴァルの言葉に、思わずミレイが悪態をついた。
そして次の瞬間には繋がらないと知りつつも、ルルーシュの携帯に電話をかけるが。
『お客様のおかけになった番号は、現在……』
無情にも答えたのはルルーシュではなく、留守電用のアナウンスだった。
「あーもう! あーもう!! あのサボリ魔ったら、帰ってきたらナナちゃんに叱ってもらうんだから!」
そう言いつつミレイの指は高速で携帯のキーを打ち、
『このシスコン! むしろナナコン! もやしっこ! 恩知らず!!』
等々、サボったルルーシュへの怨嗟の声をメールにして送信していた。
「ルルったら、前からサボってたけど最近はひどすぎ!!」
「どうするの、ミレイちゃん?」
「どーするもこーするも、私達だけで仕事やるしかないっしょ」
「や、やっぱりっすか。でもルルーシュ無しでこの量はキツイですよ……」
うげぇ、と言わんばかりの表情で書類の山の一角をピラリと持ち上げるリヴァル。
シャーリーもニーナも、頼りにしていたルルーシュが来ないと知って表情を暗くせずにはいられなかった。
漂う嫌な空気を振り払うように、ミレイが大きく手を叩く。
「はいはい、暗い顔しない。こーなったからにはしかたがないでしょ?
 ルルーシュには罰ゲームを受けてもらうとして、とにかくやれるだけやるわよ!
 アッシュフォード学園生徒会ぃぃぃ~~~ガァァァッツ!」
気合を込めて、ミレイが高々と右腕を掲げる。

190:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:27:05 S556ESnD
皆の視線がミレイに集中した瞬間、頃合いを見計らったようにノックの音が響いた。
即座に、その場の全員が一斉にドアの方に視線を向ける。
「会長、手伝いに来たんだけ、ど?」
やや躊躇いがちに開いたドアからひょっこりと顔をのぞかせたライは、ミレイ達の視線を一身に受けて戸惑いの表情を見せた。
反応に窮しているライを知ってか知らずか、ミレイはツカツカとライに歩み寄る。
「あの、かいちょ」
ライは最後まで言葉を続けることが出来なかった。何せ、ミレイの豊満な胸に顔をふさがれていたのだから。
それこそ、ぎゅー! と力強く、だけどもふにふにと柔らかく。
何やら感動した面持ちのミレイは、更にライを抱きしめる腕に力を込める。
ライがばたばたと悶えているのには、どうやら気付いていないようだ。
「ライ、あんたって子は……なんて良い子なの! ぎゅーしてあげちゃうんだから! ぎゅー!
 さぁ皆! ライという援軍も加わったことだし、気合い入れてやるわよ! ガアァァァッツ!!」
「ガアァァァァッツ!!」
ミレイに合わせて、メンバー達もまたガッツの魔法を唱えた。その顔には、失われていたやる気が満ちている。
しかしながらライだけは、軽い酸欠状態に陥って顔を蒼くしていた。
後にライは語る――あの胸は、凶器になり得ると。

191:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:27:24 pTCt02xY
支援

192:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:30:40 l/B/OWND
支援

193:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:31:45 S556ESnD
「ごめんごめん。ちょっと感動しちゃって、つい」
「いや、大丈夫だ。それで、僕は何をすればいい?」
ばつが悪そうなミレイの隣の席に腰掛けながら、ライは書類の山に目を向けた。
ライは学園内の構造は把握していても、学園内の事情についての知識は殆ど無い。出来る仕事は限られていた。
「そうね……それじゃあこのアンケートの集計と、学園に対するご意見箱の中身のまとめ、
 それからちょっと数が多いけど、この今月の予算関係についての書類をお願いできる? 出来るだけで良いから」
ミレイは書類の山の一角をライの横に置いて、窺うような眼差しをライに向けた。
ライは結構な量がある書類に軽く目を通してそれが学園の知識は不要であり、根気と頭を使うことを必要とする物であることを確認して頷いた。
「分かった。慣れるまでは少し質問をすると思うが」
「オーケー、分からないことがあったらじゃんじゃん聞いてちょうだい。
 それじゃ皆、いっちょ頑張っていくわよ!」
「おー!!」
「ほら、ライもやって」
「僕も? ……お、おー」
少し恥ずかしそうなライの掛け声を聞いて満足そうに頷いた後、ミレイは自分の作業を始めた。
ライもすぐに書類に視線を落とす。
(まずは学園祭のイベントについて、か。ふむ。
 ナイトメアでスモー、スシドー展示会、ギネス級の超巨大ピザ……なんでこんな変なのばかりなんだ?)
珍妙な提案の数々に内心首をかしげながらも、ライの手は淡々と動き続けて提案を別紙にまとめている。
ライもこうして作業をして初めて気付いたが、こうした事務仕事は得意分野らしい。
書類を読み進めるライの眼は驚くほど早く正確に要点を把握し、動き続ける手は的確に内容をまとめあげている。
現時点でもライの処理速度は異常なほど速いがまだまだ限界には程遠いらしく、慣れてくるにつれ益々その速度は速くなる。
集中して取り組んでいたということもあるだろうが、気が付けばライは任されていた書類全てを片付けていた。
一先ずミスが無いか軽くチェックし、確認したうえでライは作業に没頭しているミレイに声を掛ける。
「会長」
「ん、なに? どこか分からないところあった?」
「いや、問題なかったよ。それで書類が全部片付いたんだが、次は何をすればいい?」

194:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:31:58 pTCt02xY
支援

195:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:39:15 S556ESnD
「……は?」
ライの報告を聞いた途端、机の書類に視線を固定したままだったミレイが顔を上げる。
その視線はゆっくりと横にスライドし、ライが処理した書類の山に向けられる。
「片付いたって、それ全部?」
「ああ」
「アンケートだけとか、意見まとめだけとかじゃなくて、全部?」
「そうだ」
「……」
疑念混じりの顔で、ミレイは山から一束書類を引っ掴んで目を通しだしたが、チェックした書類の枚数が増すにつれその表情が驚愕に染まりだす。
当然である。ライの言葉通り、書類は全て処理されていたのだから。それも、機械がやったのかと疑うほどに完璧に。
「ちょ、本当にこれ全部やったの?」
「だからそう言ってるだろう」
「信じられない……」
半ば呆然としているミレイの様子に気付いた他の面々も、ライが処理したという書類の量を見て目を丸くしている。
それほど驚くことだろうか、とライは思う。寧ろライとしては、もう少し早く終えられただろうにと不満なくらいなのだから。
「ミスは無いと思う。不安ならもう一度確認するが」
「あ、いや、うん。大丈夫。今私もちょっと見てみたけど、もう完璧。文句のつけどころなし!
 いやー、驚いた。ルルーシュもビックリね。この調子で、頑張ってちょうだい」
「ああ。世話になっている分、これくらいはやらせてもらうよ」
そこからのライは、最早呆れる他無いほどの能力を発揮した。
ライ自身の処理速度も驚きだが、それ以上にミレイ達が度肝を抜かれたのはライが人を上手く動かすことに長けていたことだった。
初めは事務が苦手なリヴァルに請われ助言をしていただけだったライが段々とリヴァルに指示を与えるようになってゆき、
続いて細かいところでミスをするシャーリーのフォローまでするようになった。
その結果ミレイとニーナの負担が減っただけでなく、これまでばらばらだった作業に連携が生まれたことで無駄が無くなった。
更にその結果として作業効率が上がり、気が付けばあれほど大量にあった書類がその姿を消していた。

196:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:39:27 pTCt02xY
支援

197:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:42:06 4spIhClW
支援

198:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:42:59 S556ESnD
「きゅ、救世主……!」
「ん、今何か言ったか? って、なんだ?」
最後の書類を仕上げたライが顔を上げると、四対八つのキラキラと輝く瞳が尊敬の眼差しでライを見ていた。
たじろぐライを尻目にミレイは万歳のようなポーズをすると、その体勢のままライを拝むように頭を下げた。
そのミレイの行動に倣って、シャーリー達もライを拝み始める。頭を下げては上げ、下げては上げ。
「救世主! 救世主ライ様のご降臨よ!」
「ありがたやありがたや……!」
「へへー!」
「ありがとうライ様! これ、つまらない物ですがお納めください!」
そう言って生徒会のおやつ棚から取った可愛らしい小瓶を恭しい手つきでライに差し出したのはシャーリーだ。
思わず受け取ってしまったライだが、いつまで経っても終わらないライ様コールに焦れたように叫んだ。
「な、なんなんだいきなり。やめろ、拝むんじゃない! 様付けもよすんだ! 頼むからやめてくれ!!」
滅多に感情を顔に出さないライが、堪え切れず悲痛とも言える表情で懇願する。
そんなライの願いも虚しく。ミレイ達が本来のノリに戻るまで、ライはライ様コールを受け続けた。

後に生徒会の中で『救世主(メシア) が 生まれた 日』と語り継がれるこの日以降、
生徒会では時折ライのことを救世主と呼ぶようになった。特にルルーシュがサボってそのカバーをライがした場合はかなりの高確率で呼ばれている。
救世主たるライ本人は「何かもやもやした気分になる」らしく、全力で嫌がっているが。
尚この出来事により、カレンが色々な意味で伝説となった、
「ライがいれば大丈夫……じゃあサボってばかりのルルーシュは、"いらない子"ですね」
という言葉を残しているが、明言されたルルーシュが本気でへこんだこともあって『ルルーシュいらない子発言』は生徒会内ではタブーとなった。
また同じ頃、何故か暫くの間ゼロがカレンに冷たくなるということもあったらしいのだが、それはまた別の話。

199:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:43:08 pTCt02xY
支援

200:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:45:26 4spIhClW
支援

201:コードギアス The reborn world 4.5話
08/10/26 23:48:15 S556ESnD
おまけ的な物。

ライの部屋の情報が更新されました。
今現在ライの部屋には、
・ゲットーで貰った服
ライがゲットーで世話になった老婆から貰った服。捨てられない。
・チョコレートが詰まった小瓶←New!
綺麗に包装された一口サイズのチョコが詰まった、美味しいと評判のチョコレート専門店の人気商品。シャーリーのお気に入り。

があります。


202:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/26 23:48:28 4spIhClW
支援

203:千葉はライの嫁
08/10/26 23:52:59 S556ESnD
投下終了です。おまけとか、ちょっと番外編とはいえふざけすぎたかなと思いましたが、
アニメのサヨーシュのはっちゃけぶり見てたら気にならなくなりました。
すいません、次回はたぶんまじめな話です。

それでは、救世主ライ……メシア、ライ……メシアライザー……プッ。
という連想を一人でやってた千葉はライの嫁でした。

まぁたみぃぃてぎぃあすぅぅぅ!!

204:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 00:00:36 l/B/OWND
>>203
千葉はライの嫁卿、GJでした!
ライの事務処理能力がヤバいwww
いらない子認定なルルーシュ哀れwww
あと、気になったんですが留守電なら「おかけになった~」ではなく「只今電話に~」だと思うんですが……どうだったかな?
貴公の次の投下を全力を挙げて待たせていただきます!

205:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 00:04:07 BqYPe3Uz
>>203
GJ! このシリーズ、本当に楽しみにしているので読めて幸せです
小瓶の中身が気になるなあと思っていたら、おまけで明かされたw
ライの処理能力の有能さは各社に一人欲しいところですなw
有能だけど、いらない子!まじ凹みしてるルルーシュが目に浮かびましたwww

206:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 07:50:47 dyD38P9k
>>204
原作でもルルの電話のメッセージは「おかけになった~」だったよ。
作中でシャーリーが2回ほどこのメッセージ食らってた記憶があります。

207:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 08:07:27 5Gl9ijpq
たしかそうだったね

208:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 13:31:33 3qcg2J0x
ルルーシュの携帯電話って海底でも使えたけど、あれって蜃気楼の中だから?国際電話にしても無理がありすぎると思うけど。

209:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 14:41:57 AVLReSTN
>>208
7話でも潜水艦に向けて電話してたね。
一応考えたけど、これ以上は別のスレでになるか。

ものすっごく周波数が低いのか…減衰しようが関係無いくらいの強い電波か。
若しくは全く別の通信方式か。軍用ならあまり知られてない方法もあるかも。
ただ、コードギアスの携帯電話はサクラダイトを使って、バッテリーが無駄に高容量だから何かあっても不思議ではない気がする。

因みに、蜃気楼のいた神根島の近海は、一期を見る限り大して深くはないっぽい。


210:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 16:56:12 7WJm+3ya
誤字報告
181の14行目
「以外」は「意外」かと

211:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 18:32:11 uzNyvr7p
>>208
曳航ブイで解決

212:うにゃら…
08/10/27 20:03:13 MMY+45/g
アッシュフォード生徒会の何気ない日常~バレンタイン編~

僕が生徒会室に行くと、ミレイさんが何か配っていた。
リヴァルにルルーシュ、スザクにそれぞれなにやら渡している。
みんな花柄の紙でラッピングされた小箱で赤いリボンが丁寧に巻かれている。
リヴァルなんか貰って感激して涙を流している。
他の二人、スザクは照れているし、ルルーシュも貰って悪い気はしてないみたいだ。
何なんだ?
そう思っていたら、ミレイさんが僕に気がつき近づいてきた。
「はい・・・。ライの分ね」
ミレイさんから手渡された小さな小箱。
花柄の紙で綺麗にラッピングされ、青のリボンが巻かれていた。
「あの…これ、なんですか?」
僕はきょとんとして聞き返す。
僕にしてみればいきなり渡されても面食らうだけだ。
それに僕のだけリボンの色違うし・・・。
「あ・・・そっか…」
一人で納得するミレイさん。
きょとんとしたままの僕を見て苦笑している。
そして、説明しようとミレイさんが口を開きかけたとき、ルルーシュが先に説明を始めた。

213:うにゃら…
08/10/27 20:05:20 MMY+45/g
「バレンタインだよ、ライ」
「ばれんたいん?」
聞き返す僕に、ルルーシュも苦笑する。
仕方ないな…。
そんな感じで、でも解りやすく説明してくれるルルーシュ。
そういう風に見せるのは照れくさいというのもあるのだろう。
ほんとは、他人想いのいいやつなのだ。
で、説明を受けていたら、リヴァルが復活して会話に入り込んできた。
「ところでさ、ライのやつだけ、リボンの色が違うぜ。なんで?」
その言葉に誰も答えず、沈黙がその場を支配する。
どう考えても、空気読めよっていう雰囲気だが、リヴァル本人はわかってないらしい。
それどころかとんでもないことを言い出した。
「いいなぁ。俺のと交換してくれよ」
その瞬間、ミレイさんの声が響く。
「駄目ぇっっっっつつ」
皆の視線がミレイさんに集まる。

214:うにゃら…
08/10/27 20:07:49 MMY+45/g
あたふたとして言葉を続けるミレイさん。
「えーっと・・・ほら・・・ライのはたまたま赤のリボンが無くなったので代用で使ったのよ。
中身はみんな一緒なんだから・・・」
どう考えても怪しさ大爆発な態度と言葉だが、リヴァルは気にしなかったらしい。
「ならさ・・・いいじゃん・・・」
おろおろしているミレイさん。
その姿を見て溜め息をひとつしてルルーシュがリヴァルに言葉をかける。
「おいおい、せっかく手渡しで貰ったものを変えるなんて。無粋だな、お前は…」
「そうだよ…。失礼だよ」
スザクがそれに続いて言う。
こういう処は、実にいいコンビネーションだと思う。
「あー…そうか…。すみません、会長」
素直に謝るリヴァルとホッとした表情のミレイさん。
「あ・・・リヴァル、ちょっと用事があった。付き合ってくれ」
ルルーシュがいきなりそう言うとリヴァルを引きずるように連れて行く。
「そうだ、僕も軍の用事があったんだ。お先に失礼します」
スザクも二人に続いて部屋から出て行く。

215:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 20:08:56 tJwTera0
支援

216:うにゃら…
08/10/27 20:10:09 MMY+45/g
何なんだ・・・いったい・・・。
そして、皆が出て行き、二人きりになった生徒会室。
普段とは違う雰囲気が漂っている。
何をしゃべったらいいのか解らず黙り込んでしまう。
するとその沈黙に耐えられなくなったのだろう。
ミレイさんが意を決したように表情を引き締める。
そして、真っ赤になりながら、しっかりと言葉を紡ぎ出していく。
「ライ、そのチョコ手作りなのよ。
だから、チョコの感想、後日聞かせてよね」
ミレイさんは、そう言い終わるとそのまま生徒会室を出て行った。
僕は、どうしたにいいかわからずにその場にしばらく立ち尽くしていた。
だが、思い出したように小箱のラッピングを空けて中身を確認する。
そして、その箱の中には、ホワイトチョコで「貴方を愛しています」という文字の書かれたハート型のチョコがあった。

おわり

217:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 20:12:33 tJwTera0
なんというゲリラ的投下w 乙です

218:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 20:48:05 KwwEp+Di
>>216
何故でしょう…胸がキュンとしまし

219:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 20:49:34 KwwEp+Di
『た』が抜けた…orz
すいません

220:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:00:30 6zd/ehaw
>>216
うにゃら…卿、GJでした!
空気の読めないリヴァルと空気を読んだスザク……なんか新鮮w!
というかリヴァルは一体どうなってしまうのかw
しかし、このミレイさんは真に可愛い。
貴公の次の投下を全力でお待ちしております!

221:食卓
08/10/27 21:39:04 zHvYTzmW
5分後ぐらいから投下します。

・多分最初のSS以来のまともな内容?
・オリジナルナイトメア注意。
・「戦神の目覚める日」(保管庫参照)の続きと思って下さい。
・13レスぐらいの予定です、可能な範囲で支援お願いします。

222:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:45:45 6zd/ehaw
支援

223:食卓
08/10/27 21:45:49 zHvYTzmW
「誰か、誰でもいい、彼女を救ってくれ!」
天帝八十八稜に黎星刻の悲痛な叫びが木霊する。
間断無く注がれるガン・ルゥの砲撃を2本のハーケンで防ぎ続ける星刻と神虎の技は既に人の域を超えた絶技。
だがそれでも目の前の少女を、天子を救うことは叶わない。
そして無情かつ非情にも彼の願いを聞き届ける者も、叶える事の出来る者もこの場には存在しない。それでも星刻はそれを願わずにはいられない。
かつて交わした約束のため、命を救って貰った日の誓いのため、何より目の前の彼女自身の為に。

砲撃に耐え切れず、先に負傷していた神虎の右翼の守りが崩れる。
最早奇跡という神の御業によってのみ動かすことが許されるこの戦況。
だが奇跡とは起こり得ぬ偶然の産物。叶わぬ願いを抱く人々が創った最後に縋る拠り所。
元より存在しないものが今この場で都合良く起こるなど、遙かな夢物語でしかない。
だがもしも、今この場で奇跡を起こせる者がいるとするならば――

『分かった。我らが聞き届けよう、その願い』

降り注ぐガン・ルゥの砲撃が天子と神虎のみならず、彼らが足を着ける斑鳩さえも爆炎で覆いつくした。
誰もが戦いを忘れ、爆炎が治まり煙が晴れるのを見守る。
そこにはあれだけの爆発にも拘らず、それまでと変りのない光景が、否。
斑鳩艦首の先端に、まるで神虎と天子を守るかのように2機のKMFが立っていた。

――それは奇跡の再現すら可能な神か魔か、はたまた必滅の戦場をも力で覆す戦鬼の所業か………

224:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:47:06 6zd/ehaw
支援!

225:dis illusion
08/10/27 21:49:30 zHvYTzmW
 dis illusion



迫り来る中華連邦とブリタニアの連合軍。
圧倒的な数の中華連邦と、3人のナイトオブラウンズに加え次世代の量産機ヴィンセント・ウォードを投入するブリタニア。
質と量を備えたKMF軍団の後ろには、ブリタニアと中華連邦の旗艦、アヴァロンと竜胆が空地に陣取っている。
この強大すぎる連合軍に対し、孤立無援の状況下に追い詰められた黒の騎士団は圧倒的不利な状況にいた。
『こちらの航空戦力は限られている、一騎当千の気構えで当たれ!』
『『承知!』』
藤堂の斬月を先頭に千葉と朝比奈が暁で続く。
「私も暁で出る」
ブリッジでは普段は決して自分から前線には出ようとしないC.C.が出撃を口にする。それほどに状況は切迫しているのだ。
『C.C.』
そんな彼女をゼロが呼び止める。
『不利になったら、脱出しろ』
「その前に手を打っておけ」
そんな2人の会話を聞いたライは立ち上がる。
「ゼロ、僕も―」
出撃を口にしようとして、
『ライ、お前の出撃は許可できない』
それを阻まれた。
「どうして?今は少しでも戦力がほしいときだろう!」
思わずライは叫んでしまう。
ブリッジにいる扇たち幹部とオペレーターたちが一斉にライたちを見る。

226:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:49:55 6zd/ehaw
支援

227:dis illusion
08/10/27 21:51:31 zHvYTzmW
確かに戦力は必要だ。
 だが、この場にお前を投入することはリスクが大きすぎる。
 相手が中華連邦や並みのブリタニア兵だけならば問題はないが、ここにはナイトオブラウンズが3人もいる。
 ジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイム、そして枢木スザク。
 お前がこの1年、ブリタニアにラウンズとして潜入した中で最も各地で戦線を共にし、模擬戦を繰り返した3人だ。
 特に枢木スザクは実戦での戦闘も多々ある相手だ。
 お前ほどの腕をもつパイロットの動きならば、相手に覚られている可能性は低くない。
 ナイトオブイレブン、ライ・ランペルージは今は日本にいることになっている。
 気持ちは分かるが、ここは藤堂たちを信じて静観しろ、ライ』
「でも、ゼロ―」
『これは命令だ』



(我ながら酷なことを言う…)
心の中でルルーシュは呟く。
(ライの性格を考えれば多くの仲間が不利な状況で命がけで戦っているときに、自分は安全な場所から見ているだけなど行動の選択肢に入ってなどいる筈がない。
 こういう状況でこそ真っ先に飛び出し、最前線にその身を置き仲間の被害を抑える。それがライのやり方。
 バベルタワーで記憶を取り戻し、卜部と仙波が死んでからはよりその傾向が強くなっている。1年前の責任を感じていることもあるだろう。
 卜部が俺を含めた3人の為に命を散らし、仙波の時は止むを得なかったとはいえ自らもラウンズとして黒の騎士団の殲滅に関わっていた。
 そして今回の一件。到底我慢できることではないだろう。
 だがライ、お前には討てるのか?
 偽の記憶を植えつけられていたとはいえ、1年間苦楽を共にした新たな仲間を、ジノとアーニャを。
 俺ならば目的のためには非情に徹することに苦はない。
 だがお前は違う、今のお前はそこまで非情になり切ることは出来ない。そこがお前の良い所であり、羨ましいとさえ思える。
 しかし今はその優しさがお前の命を奪うかもしれない。だから俺はお前を行かせるわけにはいかない。
 どんな事をしてでも!)

228:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:52:53 6zd/ehaw
支援!

229:dis illusion
08/10/27 21:54:31 zHvYTzmW


「悪いけどゼロ、その命令には従えない」
静かに、しかし揺ぎ無い決意を籠め、ライはゼロを見据える。
「僕のことを配慮してくれたことには感謝する。
 けど、今はカレンも捕まっているし戦力に差がありすぎる。
 例の手を打つにしたってまだ時間が要る。その間に犠牲が増えるのが僕は嫌だ。
 我侭なのは分かっている、とても戦闘総隊長の言葉ではないということも。
 それでも例えどんな責めを負う事になっても、僕は出る!」
そう言ってライはゼロ以外には見えないように右目の遮光コンタクトを外し、ギアスの宿る瞳を彼に向ける。
相手の聴覚に訴える以上、さしたる意味はないが己の本気を伝えるために。
『行かせない、と言ったら?』
ゼロの仮面の一部が開き、ギアスの宿るルルーシュの左目がライを睨む。もちろんライ以外の団員達からは見えないように。
「行かせてもらう、絶対に!」
ライとルルーシュが同時に命令を発しようとしたとき、
「いい加減にしろ、お前たちが争ってどうする?」
C.C.がライとルルーシュの間に割り入った。
「『C.C.?』」
「まったく呆れた連中だな。
 だが、どちらの言い分も…まぁ最もだ。
 それにお互い譲る気はないんだろう?
 なら、平和的に多数決で決めたらどうだ?
 幸いここには幹部が揃っている」
C.C.は2人を交互に見ながらそんなことを言った。
『「………」』

230:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:55:19 6zd/ehaw
支援

231:dis illusion
08/10/27 21:57:17 zHvYTzmW
思いもしない提案だったが、2人は暫し考えその提案を了承した。
ギアスの使用を避けて事を解決するにはそれしかないと考えたのだ。
『聞いてのとおりだ。
 今ここでライを出撃させるべきか否かについて、幹部たちの意見を聞きたい。
 ただし、現在の感情ではなく今後の大局も考えて言ってくれ。それによって騎士団の未来も左右されることも忘れないでほしい。
 それでいいな、ライ?』
仮面を閉じて左目を隠したゼロが全員に問う。
ライもコンタクトを素早く戻し、無言で頷く。
「今のところは僕とゼロでそれぞれ賛成1、反対1となっているけど…」
「私は反対です。
 この場はゼロの言うことがもっともです。まだ貴方というカードを切るには早すぎます。
 そもそも、戦闘総隊長の貴方が感情でものを言うのは軽率すぎるのでは?」
すぐさまディートハルトが反対する。
「すまないゼロ、俺はライに賛成だ。
 ライに動いてもらえばカレンを助けられる可能性だって上がる」
ディートハルトに割り込むように、扇がライに賛成する。
『ラクシャータ、君はどうだ?』
「アタシもとりあえずは賛成。あの2機の実戦データがほしかったのよ、丁度」
寝そべったままラクシャータが言う。
『そういう訳だだが、援軍は必要か?藤堂』
ゼロが手元の通信装置を通して藤堂に聞く。
『ライ、君の気持ちだけありがたく受け取らせてもらおう。
 しかし、君は今後の騎士団、ひいては日本の奪還には欠かせない人間だ。
 ここは我々が何としてもくい止める、だから今は耐えてくれ』
反対こそされたが藤堂の気持ちは痛いほどライに伝わる。
『これで3対3か』
「………」
無言でライとゼロがにらみ合う。互いに継ぐべき言葉を模索していると、

232:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:58:55 tJwTera0
支援

233:dis illusion
08/10/27 21:59:02 zHvYTzmW
「では私は賛成だ」
突然C.C.がそんなことを言った。
『な、C.C.お前何を―』
「忘れたのか、こいつをスカウトしてきたのは私だぞ?
 だからこいつのことに関しては私も幹部待遇でいいと思うが、どうだ?」
C.C.がルルーシュに視線を向ける
「何を馬鹿な、今はそんな感情でものを言っている場合では―」
『止むをえん、いいだろう』
ディートハルトの反論を遮ったのは以外にもゼロだった。
「ゼ、ゼロ?」
ディートハルトをはじめ、C.C.を除くブリッジの全員が驚く。
『ただし、出撃のタイミングはこちらに任せてもらう。
 それとナイトオブラウンズとの戦闘は極力避けろ、最悪後方支援か敵を撹乱する程度でもいい。
 お前だと分かるような戦い方をするな。この条件でなら出撃を許可しよう。どうだ?』
「それはありがたいけど、本当にいいのかいゼロ?」
『多数決で負けたのだ仕方があるまい』
かつての彼からは到底考えられない発言だったが、ライは
「ありがとう、ゼロ」
友の変化を内心喜びながら感謝した。

「あいつは変ったな」
格納庫でライの前を歩いていたC.C.が不意にそんなことを言った。
「ルルーシュのこと?」
ライが聞き返す。
「他に誰がいる?1年前からしたら考えられないことだ。お前もそう思うだろう?」
「そうなのかな?」
「変えた本人は自覚が無しか…」
小さな声でC.C.が呟く。
「何か言った?」
「なんでもない。私は先に出ているから早くこいよ」
そう言ってC.C.は暁に、ライはその隣の青いナイトメアに乗った。

234:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:59:47 UL6wDcti
sien

235:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 21:59:52 6zd/ehaw
支援!

236:dis illusion
08/10/27 22:03:38 zHvYTzmW


かたや見た目何の武器も持たない黒いナイトメア。
かたや左腕には紅蓮と同じ輻射波動の腕、背部の腰に暁のものより小さめの廻転刃刀、両脚にスラッシュハーケン、右肩にはランスロットのハドロンブラスターと同様、発射時には展開されるであろう折畳まれた砲身を担いだ青いナイトメア。
「何だあの2機のナイトメアは!?」
「天子だけでなく、星刻も守ったと?」
予期せぬ乱入者たちに驚く大宦官たち。ブリタニアにも少なからず動揺が広がる。
そんな両軍を前に黒いナイトメアから問いが投げられる。
『中華連邦ならびに、ブリタニアの諸君に問おう。まだこの私と、ゼロと戦うつもりだろうか?』
ゼロ自ら最前線に出てきたことに誰もが驚き、黒いナイトメアを注視する。
しかしその中に1人だけゼロが乗る黒いナイトメアと同じくらい、その傍らに佇む青いナイトメアに強い視線を向ける人物がいた。ナイトオブセブン枢木スザクである。
(左腕に輻射波動の青いナイトメア! ライ…なのか?)
1年前、ブラックリベリオンの時、機体性能で勝るランスロットを相手に巧みな戦術と緻密にして大胆な戦略で、終始互角に渡り合った月下のパイロット。
(まさか記憶が戻っているのか!? いや、そんな筈はない。さっき学園に電話した時ルルーシュ共々生徒会室に居るのを確認している)
そんな筈はないと自分に言い聞かせる一方で、目の前のナイトメアと先ほど電話で話したライの声がスザクの中で重なる。

「何をしている、一斉射撃で撃ち落とせ!」
ゼロが出てきたことを絶好の好機と思った大宦官が攻撃の命令を下す。
この戦況、司令官自らたった1機の供と出てきたところで覆るような状態ではない。
止んでいた砲撃の雨が再び降り注ぐ。
だが、
「成る程、それが大宦官としての返答か」
瞬時に展開されたエネルギーシールド、絶対守護領域によって砲撃は全て防がれる。
更に砲撃が途切れた一瞬に黒いナイトメアより拡散構造相転移砲が放たれ、大量のガン・ルゥが撃墜された。

その様子を斑鳩で寝そべりながら見ていた黒いナイトメアの製作者、ラクシャータは満足気に立ち上がった。
「ナイトメアフレーム『蜃気楼』、その絶対守護領域は世界最高峰の防御力なのよぉ。 そして、」

237:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 22:03:58 UL6wDcti
支援

238:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 22:03:57 6zd/ehaw
支援

239:dis illusion
08/10/27 22:08:45 zHvYTzmW
次いで地上のガン・ルゥに代わり、空中から3機のヴィンセント・ウォードが蜃気楼に迫る。
それに対し蜃気楼は迎え撃つでも絶対守護領域を展開するでもなく、
『では後は任せたぞ、我が半身よ』
傍らの青いナイトメアを一瞥し、迫り来るヴィンセント・ウォードたちに背を向けた。
(半身って…大げさだな)
相変わらずの過度な物言いに苦笑しつつも、ゼロが自分を「半身」と呼んだ意味と責務を頭の中で噛み締め、ライは自分の乗るナイトメアを飛翔させる。
敵は中央、左、右にそれぞれ展開しライフルとロケットランチャーを撃ちながら接近してくる。
それに対しライは瞬時に思考を巡らせる。
本来の自分ならここは相手を分散させ1機ずつ確実に潰すところ。
しかしそれではルルーシュの危惧が現実になる可能性が高い。
(だから!)
飛来する相手の砲弾を機体を巧みに操り、紙一重で回避する青いナイトメア。
それは太平洋でトリスタンの攻撃を回避した紅蓮の動きそのものであった。
(カレン、君はいつもこんな動きをしてるのか。 まったく、恐れ入るよ)
実際にやってみて改めて彼女の操縦技術とそれを可能にする度胸にライは感服した。

「あの動きはカレンの!」
「おいおい、あいつもラウンズ並の腕前か?」
「少しだけ、やっかい…」
離れた位置でそれを見ていた3人のラウンズから驚きと賞賛が青いナイトメアに送られた。

240:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 22:09:09 6zd/ehaw
支援!

241:名無しくん、、、好きです。。。
08/10/27 22:09:56 UL6wDcti
支援

242:dis illusion
08/10/27 22:12:46 zHvYTzmW
敵の砲撃を回避しきったライは腰の廻転刃刀を抜き取り、中央のヴィンセント・ウォードに接近する。
青いナイトメアの予想を越える動きと速度にヴィンセント・ウォードのパイロットは僅かに対応が遅れる。
そしてそれはライにとって十分すぎる隙だった。
敵がソードを抜き取るよりも早く廻転刃刀を胸部に突き刺し、そのまま下方に切り裂く。
切り裂かれたヴィンセント・ウォードは爆散する。
しかし右に展開していた別の1機が仲間の死を無駄にせんと、ソードを抜き払いながらライのナイトメアに突撃する。
充分に距離を詰めた時点で振るわれた一撃は右腕の廻転刃刀に阻まれる。
そして次の瞬間には交差する2刀の横から伸びた青いナイトメアの左腕が、ヴィンセント・ウォードの頭部を掴む。
掴んだと同時にライが輻射波動を出力を最大に上げる。
ヴィンセント・ウォードは成すすべなく爆ぜ散った。
その姿を見ていた最後の1機は再び間合いを取るべく距離をとろうとするが、青いナイトメアの右肩の砲身が展開される。
だが充分に距離はある、あの位置から動くナイトメアに当てるなどラウンズでも簡単に出来る芸当ではない、筈だった。
青いナイトメアより放たれた弾丸が一直線にヴィンセント・ウォードに直撃し、3機のブリタニアの次世代量産機は1機のナイトメアにより瞬く間に撃墜された。

「すごい…蜃気楼の絶対守護領域も驚いたけど」
「戦闘総隊長のナイトメア、紅蓮や蜃気楼のような派手さはないですけど」
「的確素早くに1機ずつ倒しているのは流石ですね」
斑鳩のブリッジでオペレーターの3人、双葉、日向、水無瀬がそれぞれ感嘆を述べる。
ラクシャータ以外のメンバーも口にこそ出さないが驚きは隠せていない。
「ナイトメアフレーム『新月』。
 遠近中すべてに対応した武装から繰り出される多様な攻撃に坊やの腕が加われば、新月の射程はさながら絶対攻撃領域ってトコかしら?
 あと、新月の輻射波動は紅蓮みたいに飛ばしたり拡散したりは出来ないけど、出力は紅蓮のを上回るわよ~」
斑鳩のブリッジに上機嫌なラクシャーの声が響いた。


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