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しかし、見つけたのは従兄弟である王子の側だった。
王位を取られるばかりか、後に謀反の嫌疑をかけられた姫はそのまま打ち首にされて
しまった。件の剣でである。
騎士は、その位を追いやられ、唯一である愛しい君をも失った。
彼は嘆き渡る。なぜ神は自分を独りにさせるのかと。届く声ももはや雑言に他ならず、
闇の中をたださまよい続ける。
そして数百年の時が流れたが、その者は生きていた。
哀傷が彼を変貌させたのかはたまた初めからそういう者として生を受けたのか。ただ、
時が来るのを堪え忍んでいたのである。
否、違った。
長い年月の間に、この絶無の世界に己が存在する理由がわかったのだ。そして今とい
うこの瞬間を待ち続けた。
彼を満たすのは狂喜で、それもそのはず、自分を苦しめた伝説の剣に再び、いや三度
会えることが出来るのだから。
入り日の光に射されたその者は、己の眉間に両手をかざしていた。
一本の剣が深く突き刺さっているのを感じた彼は、それを一息に抜く。血肉がほとば
しる音を他所に、立ち上がって、己の身体を確認する。
一国の騎士でありながらその主を無くし、落ちに落ちて今は魔族の女帝として君臨す
る者の姿があった。
多くの貴女をも魅了しつつも、決して弛むことなく磨き続けられた身体は健在。その
居所を甲冑から皇帝鎧へと移すも、なお雄勁で艶麗な、兼備の様相を醸していた。
そして、その者は相対する男へと口を開く。
「く、くくく……っ! 思い出したよ勇者ァ!! 久しぶり、いや、貴様にとっては数
瞬に足らんか。まあまた会えたことに感謝するとしよう。そしてさようならだ。我が積
年の苦しみ、今ここで晴らさせてもらう!!」
かつてどれほど切望し欲したか、そして、君を自身を貫いて意識を暗い奥底へと閉ざ
させた伝説の剣。
どれほどの思いを胸にか、彼女はその剣を手にし、今一度、勇者へと戦いを挑むので
あった。