ドラクエ3 ~そしてツンデレへ~ Level12at FF
ドラクエ3 ~そしてツンデレへ~ Level12 - 暇つぶし2ch104:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/01 03:17:18 56PmcsevO
乙です!
プリンwww

これでCC氏と楮書生氏も戻って来てくれれば

105:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:01:03 4+9FFbmP0
●第15話 『“ちゃん”』

 船を降り、陸に上がって半日。丘陵に吹く乾いた風に目を細めながら、砂塗れのタイルを踏みしめる。
 見渡せば、遮るもののない、全方向の地平線と水平線。遠くに見える山々だけが、勾配皆無の風景に僅かばかりの変化を加えていた。
 鼻で一つ息をつき、後ろの二人に振り向く。
「ここで間違いない…のだが」
 ラダトームの店主の情報や、記憶の中の文献などから導き出した“竜王の城”の位置を反芻しながら、俺は確認のために呟いた。
「…そうですね。そのはず、ですけれど」
「でも、にーさま…ここ」
 俺と同様に足を止める二人――歯切れの悪い返答をするプリンとランドは、辺りに視線を巡らせながら、疑念を俺に投げかける。
 無理もない。俺たちが今いるこの場所には、城跡などありはしない。あるのは崩れかかった柱と、無造作に積み上げられているようにしか見えない石の塊など、申し訳程度の人工物の名残だけ。
 雨風を凌ぐ屋根も、風を遮る見上げるような壁もない。これではここにかつて城があったなどとは、想像できない。ここは既に、ただの荒れ果てた砂地だった。
「城の探索も何も、城そのものがないのでは探しようが無いな」
 切り揃えられたいくつもの石で出来た、城壁だったかもしれないモノを右手で撫でると、それは何の手応えも無くぼろりと崩れ落ちた。雨風に晒され続けて、既に寿命は尽きかけていたのだろうが…果たして百年やそこらの年月で、石製の人工物がこうも朽ちるだろうか?
 俺は竜王の城の存在や、幼いころ読んだ文献に疑問を抱き始めた。だが、プリンの意見は少し違ったらしい。
「いえ…まだ分かりません。店主さんのお話では、竜王の宝は地下の迷宮に眠っているとのことですし。
 …師父様の遺した手記でも、竜王の城には地の底に続く隠された道があったとありました」
 静かに考えるような仕草をとりながら、彼女は進言した。…確かに、そんなものがあったとすれば、地上のコレがただの飾りで、地下が本当の竜王の根城だということも有り得る。
「…そうだな。船で一週間かけて湾内に回りこんで無駄足だった…では堪らん。
 手分けして、下に続く通路…階段でも穴でもいい、探してみるとしよう」
 三人で互いに頷きあってから、俺たちは辺りに散開する。ただ、俺はこの辺りも魔物の息づく地域であることを思い出し、再び振り返った。

106:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:03:03 4+9FFbmP0
「そうだ二人とも。くれぐれも俺から離れすぎないように気をつけ――」
「うわあっ!?」
 俺が注意を言い終わるより早く、何かが崩れ落ちる凄まじい音と、間の抜けたランドの悲鳴が辺りに響き渡った。
 …辺りに魔物の気配はない。だが、まだ十数秒程度しか経っていないのに、彼の姿は影も形もなくなっていた。悲鳴を聞きつけたのだろう、プリンもすぐさま元の場所に駆け戻ってきた。
「もょもと様」
「ああ。…見てくれプリン」
 分かれる直前にランドが向いていた方向と彼の歩幅などから、彼が消えた位置を割り出し、俺はそこに屈みこむ。プリンが俺の脇にまで寄ってくるころには、悲鳴の原因は見つかっていた。
 そこには、崩れ落ちた石の塊に塞がれていた、小さな穴が口を開けていた。
「階段、ですね」
 底の見えない暗闇を覗き込みながら、プリンは淵から下へと伸びる石の段を見つめて呟いた。
「瓦礫が邪魔して見えなくなっていたようだ。脆くなっていたのに気づかずに、ランドが乗ってしまったのだろう。
 …下に降りるぞ。彼が心配だ」
 静かに首肯するプリンを視界の隅に捉えながら、返事を待たずに階段の周りの邪魔な残骸を砕き散らす。そうして、どうにかまともに人が体を通せるくらいの間口を確保する。
 俺は迷うことなく階段に体を滑り込ませ、プリンもその後に続いた。
 一段降りるごとに視界が悪くなってゆく中、壁に手をつきながらなんとか足を踏み外さずに下っていく。やがて軽く二十段以上は踏みしめた頃、足元の感触が石から土に変わった。地下フロアに到着したのだ。
「ランド、居るか」
「…はい~…にーさま」
 真っ暗闇の中でランドの名を呼べば、丁度足元から弱々しい返事が聞こえてきた。階段を転がり落ちたままの格好で倒れているのだろうが、こう視界が悪くては診てやることも出来ない。俺はプリンに松明の用意をするように告げ、気配を頼りにその場に屈む。
「怪我はないか」
「はい…ちょっと頭を打ってがんがんしますけど…多分、大丈夫です…はぅ」
 ランドはそういうが、上からここまでは結構な高さがあるように見受けられた。地上の明かりが満足に届いていないのがいい証拠だ。それだけの高さを階段伝いとはいえ転がり落ちて、無傷とは考えにくい。念のため、確認せねばならない。

107:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:04:21 4+9FFbmP0
「プリン。明かりはつきそうか」
「申し訳ありません。手元がよく見えませんので…と、点きました」
 背後でプリンが視界の悪さに難儀している気配を認め、訊ねる。そうして返事とともに鳴ったかち、かちという火打石の音の直後、松明に火が灯った。
「…洞窟…のようですね」
「…迷宮、などどいう大それたものには思えないな。自然物にしか見えないが」
 ぼんやりと俺たちの周囲だけを照らす灯火から、辺りを見回して感想を漏らす。
 剥き出しの岩肌に、まるで整備されていない土の床。壁には燭台の類も見当たらない。人工物の名残は、全くないといっていい。…地上と違って雨風の侵食がない地下に迷宮とやらがあったのなら、こちらのほうがまだ建築物としての形跡が残っていそうなものだが。
「…よし。深刻な傷はなさそうだ。かすり傷はいくつかついているが…」
「平気です!このくらいなら、へっちゃらですからっ」
 一通りランドの体の具合を診て、目立った異状がないことを確認してから、俺たちは立ち上がる。そうして、改めて地下フロアの先――松明の明かりの届かない、暗がりへと続く道に視線を向ける。
「にーさま。この先に、進むんですよね?」
「無論だ。だが…どうやら魔物の気配も遠からずあるようだ。暗がりからの奇襲に備えた隊列を組もう。
 …俺がいつものように先行するから、君たちは少し下がって、脇を固めるようについて来てくれ」
「いつもみたいに一列じゃ、駄目なんですか?」
「こう視界が悪くては、背後からの敵の接近に気づかなかった場合のことも、考えなければならない。音の反響も酷い、足音で位置を特定するのも難しいしな。
 …その場合、もし俺の察知が遅れたら真っ先に標的になるのはプリンだ。一列に並んでいたら、この狭さだ、いくら俺でも対応は後手後手にならざるを得ん。
 だが、二人で脇に広がれば敵を分散できる。俺との距離も縮まるから、対応も早くなる」
「…つまり、にーさまを挟んでプリンさんと横並びになれば…ボクが、プリンさんを危険から遠ざけられる…ってことですか…?」
 新たな隊列の理由を説明してやると、ランドは真剣な面持ちで聞き届けた末、そう口にした。

108:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:05:24 Ca4G/u3n0
「…成る程。確かに、そういう見方も出来るな」
「…っわかりました!頑張りますっ!」
「よろしくお願いしますね、ランドさん」
「はいっ!」
 俺が少しばかりその解釈について考えた末肯定すると、ランドはとても張り切って元気のよい返事をした。プリンもそんな彼に穏やかな笑顔を向け、確認を終える。
 そうしてやっと、俺たちは全ての準備を終えて地下迷宮を進み始めたのだが…結果として、当初危惧していたようなことは何も起こらなかった。
 元々静謐な環境ということもあり、俺の直感は普段より冴え渡り、ほぼ全ての敵襲を事前に看破できた。何より、この地下フロアは迷宮と呼ぶには程遠いくらい構造が単純――ほぼ一本道といっていいほどに――だったため、挟撃や奇襲を仕掛けられることもなかったのだ。
 道中の魔物たちとの戦いの内容自体も、過去類を見ないほど順調だった。プリンはもとより、ランドも今日は調子がいいようで、その動きは普段よりいくらも洗練されていた。…時折ヘマをするのは相変わらずだが。
「好調なようだな、ランド」
「はいっ!ありがとうございますっ」
「上から落ちたときの傷の浅さといい…体捌きも、だいぶ上達してきているんじゃないか」
「え?…そ、そう、ですか?…えへへ」
 俺が感想を述べると、彼は照れくさそうに頭を掻いた。…一応、釘もさしておくか。
「だが、血気に逸って無茶をする癖は相変わらずだ。自分を抑えることも、忘れないことだ」
 戒めの言葉を続ければ、今度は決まりが悪そうにはい、と小さく返事をする。…彼はこうして、いつでも素直に俺の言葉を受け止め、一喜一憂する。素直に教えを受けるのはいいが、感情に関してはもう少し安定したモノが戦士としては好ましいのだが。
 そんなことをおぼろげに考えつつ、もういくつめかの階段に足をかける。
「随分深いところまで続いてるんですね…」
「俺の数え間違いでなければ、この下はもう地下六階だ。…本当に、何かが眠っているのかもしれん」
 不安そうに、俺の後から階段を下りるランドに、俺のここまで来ての見解を告げる。…尤も、その何かが俺たちにとって有益か無益かは分からない。
 或いは待っているのは地獄の釜…ということも有り得るが、それは徒に二人の不安を煽るだけなので口にしないでおくか――。

109:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:06:10 Ca4G/u3n0
「――待て」
 僅かばかり弛緩した思考をしながら階段を降りきった直後。そのフロアを包むただならぬ空気を感じ、後ろの二人を制する。
 きょとんとするランドと、すぐに俺の意図を察して息を殺すプリンにそれ以上は言葉を告げず、五感を研ぎ澄ます。
 …フロアの形はこれまでと違う。空気の流れからいって、おそらく一つの大部屋のような構造だ。プリンの持つ松明では、フロアの面積の二割も照らせていないだろう。自然洞窟そのものの外観は相変わらずらしいが。
 フロア自体の情報はこんなところか…だが、それより気になるのは。
「…にーさま?」
「…魔物の気配だ。一匹や二匹じゃない。軽く見積もって…二十はいる」
「え、ええっ!?大変じゃないですかっ松明を消さないと…っ!」
「いや、いい。それより、下手に動くな」
 慌てるランドの口に手を当ててながら、俺は意識を暗がりに向け続ける。…そう、おそらくは、魔物の群れが蠢いている暗闇にだ。
 だが、連中は俺たちのほうに見向きもしない。こんな分かりやすい絶好の“的”まで掲げているというのに、気づく気配さえない。何か別のモノに意識がいっているのか、それとも――。
「――動いた」
 仮説を立て終わるのと殆ど同時に、暗闇の中の気配に変化が訪れた。この位置では、ぐしゃ、とか、みしっ、とかいう、鈍い音が間断なく聴こえてくるばかりで何も見えないが、魔物の呼吸の数だけが凄まじい勢いで減っていくのが読み取れる。
「…もょもと様」
「誰かが――いや。“何か”が魔物たちと戦っている………とんでもない強さだ」
 そう。魔物たちは、俺たちがここに来るよりずっと前から、敵と対峙していたのだ。凄まじい勢いで魔物たちを蹴散らしているその敵の力量からいって、魔物たちが俺たちに気づこうが気づくまいが、背後になど振り返っている余裕はなかったはずだ。
 俺たちがここに降りてきたのがきっかけになったのか、魔物と“何か”のどちらが先に動いたのか。何もかも定かではないが…いずれにせよ、決着はすぐにつきそうだった。
 気配が減った今ならはっきりと分かる。魔物たちが戦っている相手は、単騎だ。たった一体のソレは、あの暗がりで今まさに、瞬く間に戦力差十倍以上もの数の魔物を相手取り、壊滅させているのだ。
「ひっ――!?」
 瞬間、暗闇から何かが弾け飛んでくる。ランドに激突する寸前、俺は腰の銅の剣を抜き放ち、それを刺し貫いて止めた。
 短い悲鳴を上げて固まってしまった彼を尻目に、俺は視線だけを右手の剣の先に向ける。いくつもの蛇の頭の張り付いた、緑色の鱗が彩る肉塊――ゴーゴンヘッドが無残な遺骸となって、串刺しになっていた。ぽたぽたと地面に滴る、紫色の体液が生々しい。

110:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:08:25 4+9FFbmP0
「…終わったようだ」
 …いつの間にか、ずっと聴こえていた鈍い音は鳴り止み、辺りには静寂が戻っていた。俺は再び視線を暗闇に向け、二人に事の終焉を告げる。
だが、それは新たな緊迫の始まりでもあった。固まっていたランドは更に身を硬くし、プリンもいつもは穏やかな呼吸を、僅かに詰まらせる。
 暗闇の中から、足音が聴こえてきたのだ。おそらくは、このゴーゴンヘッドだった肉塊を作り上げた張本人の足音が――ざっ、ざっ、と俺たちのほうへと近づいてくるように。
 剣から肉塊を落とし、二人を背後に匿う様にして構える。足音は、すぐそこまで来ている。等間隔に聴こえて来るそれはやがて松明の光が照らす範囲にまで近づいて――。

「―――――何じゃ。もうここまで来ておったのか」

 姿を現したのは、一人の少女だった。
 松明の光がぎりぎり届く位置で立ち止まったため隅々までは見て取れないが、混じりけのない黒色の髪の端が、肩口で静かに揺れていた。
 年の頃は、十を数えるかどうかというくらい幼い風貌。紫を基調とした暗色のローブを小さな体に纏い、妙に短く裁断された裾からは素肌がむき出しの四肢がすらりと伸びている。彼女は俺たちと対峙するや不思議そうに小首を傾げて、何やら年寄りじみた言葉を吐いた。
「………」
 俺も、ランドも、プリンも、呆然とする他なかった。当然だ。…あれほど圧倒的な制圧を、ものの数十秒でやってのけたのがどんな怪物かと思って待ち受けていたら、現れたのはただの幼い女児。悪い冗談としか、思えない。
「ふむ。まあよいわ、立ち話も何だしのう。ついてまいれ」
 俺たちの反応などまるで気にしていない風に、少女はくるりと踵を返した。全てを悟っているようなその立ち振る舞いと、有無を言わせず随行を命ずる言葉に、俺はどうすべきか様々な考えを巡らせる。…だが、その結論を待つより早く、ランドが叫んだ。
「待って!」
 こちらを意に介さない態度から、彼女がランドの言葉にどんな反応をするか予測できずに、俺は反射的に背中の剣にも手を伸ばした。…だが、彼女は意外にも素直に歩みを止め、くるりと振り向いた。

111:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:09:47 4+9FFbmP0
「何じゃ?ここに用があって来たのじゃろ?…我が家に招いてやるといっておるんじゃ。続くがよい」
 少女は呆れたように溜息を一つついて、またすたすたと暗闇へと歩き始めた。…どうやら、彼女には俺たちに対する敵意はないらしい。
「にーさま…どう…しましょう?」
「…ん。プリン。どう思う」
 魔物巣食うこんな地の底で我が家、などといわれても怪しさしかない。俺も考えを決めかねて、首を捻ってしまう。
 俺はランドに訊ねられた疑問を、そのままプリンに丸投げする。だが、彼女もまた困ったように黙りこみ、首を傾げてしまった。
「…仕方ない。ここまで来て引き返すわけにもいかん。ついて行ってみるか」
 俺が提案すると、ランドは意見を求めた手前異議を唱えるわけにもいかず、怖がりながらも承諾し。プリンもまた、複雑な面持ちで静かに頷いたのだった。
 見合わせていた顔を、三人揃って少女が消えた暗闇へと向け、足を踏み出す。そして、一歩進むごとに松明が照らしてゆく、魔物の肉片・亡骸の山が形作る殺戮の嵐の跡をみて、ランドは息を呑んだ。
「…凄いな。遮蔽物のない暗所でこの数を相手に…これは真似できん」
 胴から上が捻じ切られたようなサーベルウルフ。四肢を千切られたグレムリン。羽を毟られて地面でぐったりしているドラゴンフライ。
 技や呪文で為したのではない――恐らくは純粋な力でやってのけたのだろう荒業の数々に、俺は一人感嘆を漏らした。
 加えて、あの少女には外傷らしきものが何一つ見当たらなかった。つまり、ここで繰り広げられたのは彼女による完膚なきまでの蹂躙だったということだ。…世の中には底知れぬ戦い方があるのだと、己が未熟を痛感する。
 戒めを胸に歩いていると、やがて魔物の死体が彩る道は終わりを告げ、更に下へと続く階段へと辿り着く。…俺たちは、覚悟を決めてそこに足をかけた。

 その先に広がっていたのは、紛れもない“城”だった。
 階段を下るや無骨な自然洞窟は嘘のように鳴りを潜め、代わりに姿を現したのは重厚な内壁。そそり立つ何本もの大理石の柱。丁寧な装飾が施された燭台には火が灯り、長い回廊を挟む壁に等間隔で配置されている。
 天井は見えないほど高く、ここが人間の住まう領域ではないことを静かに誇示していた。
「………すごい」
 ぽつりと感嘆を漏らし、それらに見とれたのはランドだった。だが、先を行く俺が少女の気配を見失うまいと急いでいるのを思い出したのか、慌てて開いた距離を縮めてくる。
 プリンはというと、そんな彼につかず離れずの距離を自然に保ちつつ、それでも注意深く城の景観を観察しているようだった。

112:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:11:49 4+9FFbmP0
「…さ、着いたぞ」
 半刻も歩いた頃、先行している少女の声が響いた。相変わらず姿は見えなかったが、気配の歩みは既に止まっている。俺たちは急いで広い回廊を抜け、大部屋へと躍り出た。
「………玉座」
 自然、目の前にした光景に対する印象が口をついて出た。
 回廊が開けて、まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央に据えられた玉座だった。そして、そこにはそれ以外、何もなかった。まるで闘技場のように円を描くその雄大な景観に、ただ玉座だけが鎮座していたのだ。
「うむ。あまりモノを近くに置くのは好きではなくてのう。さっぱりしていていいじゃろう?」
 幼いながら、不思議な存在感のある声が再び響いた。声の主の姿を探せば、何故見落としていたのだろう、当の玉座の正面に得意げな笑顔で少女は仁王立ちしていた。
 まだ状況を掴みきれず目を白黒させる俺たちなどまるで意に介さず、彼女はくるりと回ると、軽いステップでローブを翻す。
「――さて。では改めて歓迎しよう。ようこそ我が城へ!ランド!プリン!…そして、もょもと!」
 少女は背後の玉座に軽やかに腰を下ろすと、大仰にふんぞり返って俺たちの名を呼びつけた。
 俺は警戒に眉を顰め、少女に問い掛ける。
「…おまえは何者だ。何故、俺たちの名前を知っている」
 すると少女は、一拍ほど間を置き、尊大な態度のまま頬杖をついて、笑った。――そうして紡がれた答えは、俺たちを驚愕させるに十分なものだった。
「そなたに知恵があらば、今一度、この城の名を説くがよい。…わしがここの主、王の中の王、竜王のひ孫じゃ!」
 そう高らかに宣言した少女の背中から、一対の翼が伸びてぱたぱたと小さく羽ばたいたのだった。

URLリンク(rainbow2.sakuratan.com)

113:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:12:50 4+9FFbmP0

 ◇ ◇ ◇

 竜王のひ孫――を名乗った少女が、どこからか持ってきた酒や果物の数々を、玉座の前にずらりと並べる。大き目の絨毯は少女と食料の全てを載せても余るほどの面積で、俺たちに間口を広げていた。
「さ、堅苦しいのはなしじゃ。腹が減っておるじゃろう?遠慮せずにかけるがよい」
 少女はにっと八重歯を見せて屈託なく笑うと、絨毯の上にあぐらをかいて座る。その足にはやはり何も履かないまま、ぺたぺたと素足のまま絨毯を踏みしめた。
 俺もランドたちも、まだ今ひとつ目の前で起きている状況を頭の中で整理しきれず、少女を見下ろす形で固まってしまっている。
 そんな俺たちの心中を察しているのか、彼女は別段気を悪くした風もなく微笑む。
「ふふっ。警戒することはないわ。皆、人里から調達したものじゃ。おかしなものは混ざっておらんよ」
 そういって、彼女は青々とした林檎を一つ手にとってがぶりと齧って見せた。その姿は、翼が生えているのと頭のヒレ――さっきは暗がりで気づかなかったが――以外はどこから見ても人間の子供そのものだった。
 俺は、意を決して口を開く。
「おまえは、本当に、」
「信じられぬか?」
 穏やかで、それでいて途方もなく強い意志の篭った、少女の短い問い。だが、俺はそれに阻まれて先を続けるのを憚ってしまった。
 少女は不敵に微笑み、傍らの酒瓶のコルクを素手で引っこ抜くと、そのまま煽った。
「曽祖父殿は百年前に確かに滅んだよ。そなたらの先祖の手によってな。間違いない。
 …だが竜の一族とて神の落とし子じゃ。血筋も残せば家族も作る。わしは偶さか、その摂理に便乗して生きておる。それだけの話じゃ」
 淡々といい終えて、少女は一気に酒瓶のブランデーを空にし、静かに脇に置く。その振る舞いには、欠片の戦意も、敵意もない。だが、それでも俺の不信は消えない。
「いいだろう。それに関しては信じよう。…だが、それならばおまえは俺たちロトの血筋を憎み、復讐しようとするのが自然ではないのか。俺たちを酔わせて、隙をついて襲うつもりかも――」
「どうでもいいのう。アレは曽祖父殿が仕掛けた喧嘩で、その結果がたまたま敗北だった。
 …身内の者であろうが、自ら売った喧嘩の結末に関して外様が因縁をつけるなぞ、無粋じゃろうが?」
 言って、少女はまた新たな酒瓶――今度はラム酒――に手をかけた。
 …そうだろうか。俺もランドもプリンも、祖国が受け継ぐ師父の意志を現実のものとするために、今旅をしている。先祖のために子孫が戦うのは当たり前のことではないのか。
 俺が少女の言い分に関して黙考していると、彼女は酒瓶から口を離して尚も続ける。

114:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 00:14:51 4+9FFbmP0
「曽祖父殿が挑んだ。ロトに敗れた。…百年前の戦いは、それで仕舞いじゃ。わしはケリのついた喧嘩になぞ縛られとうない。
 祖父殿と父上には随分反感を買っていがみあったがのう。復讐、支配、破壊…いずれもわしにとっては詮無き事よ。…わしはそれより、そなたら人間を見るのが堪らなく面白い」
「…面白い、ですか?」
 少女の言葉尻に、プリンが不思議そうな声を上げて反応した。少女は静かに笑いを漏らして、俺の背後に立つ彼女に視線を向ける。
「面白かろう?…そなたたちが打倒しようとしている邪教じゃよ。
 アレに入信している人間がどういう願いを持って集まっているか知っておるか?」
「…世界の、破滅…でしょうか」
 プリンが、真剣な面持ちで応える。
 …ハーゴン率いる邪教は、魔物の軍勢であると同時に一つの宗教なのだ。なればこそ、人心を集める何らかの思想や、目的がなければならない。彼らの掲げる最終目標。それが、この世界の破壊だ。
「そうじゃ。加担すれば自分達の築いた世界が滅亡しかねん組織だというのに、連中の仲間になろうという輩は後を絶たん。
 …彼らは何も、狂人や自暴自棄の集まりではない。それなりの考えがあってそうしている。何故だか分かるかの?」
 問い返されて、プリンは押し黙る。答えに窮しているのか、はたまた分かっていても口に出したくないのか、その沈痛な面持ちからは推し量ることは出来ない。やがて少女はまたくくっと短く笑って、後を続ける。
「既存の秩序の崩壊。…それが彼らの願いじゃ。そなた達の信仰する教会の絶対的な圧力。排他的な王権の支配。
 それらに対して鬱憤を溜めている連中が少なからずいるのじゃよ。じゃから彼らは、一度全てを破壊して、真っさらな世界にしたいのじゃろう。…金も、権威も、意味を成さない。何もない、力と策略だけが蔓延る世界。
 待っているのがそんな混沌でも、今よりはマシだといって、それまで恐怖の対象だった魔物の軍勢と手を結ぶのも厭わない。…こんなことをするのは、神も竜もおいて、そなたら人間くらいのものじゃ」
「そんな…でも、世界が壊れちゃったら困る人も、沢山います!ボクらだって、それを止めるために…!」
「無論よ。それ故に面白い」
 静かに語りながら、少女は用意した三つのグラスに葡萄酒を注いでいく。淡々としてまるで身じろがない少女の受け答えに、激昂したランドは逆に押し黙ってしまった。

115:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 01:03:19 4+9FFbmP0
「魔族の中にもまあ、派閥争いくらいはあるが…世界規模でやらかす内ゲバとなれば、そなたら人間の独擅場じゃろ。
 世界の存続をかけて真っ向から人間と人間がぶつかり合う。果てに待つのはいずれか。…どちらに転んでもその過程はわしを楽しませてくれそうじゃよ」
 ランドもプリンも、既に反論する気概を失ってしまったらしく、語りながら酒を注いでゆく少女をただただ見つめている。そんな重苦しい空気を悟ったのか、彼女はついと顔を上げて朗らかに微笑んだ。
「そう難しい顔をするでない。わしは別に、人間を蔑んでいっているのではないぞ。寧ろある種の、尊敬の念すら抱いている。
 いくら現状の体制が不服だとて、世界の命運を引き換えにするほど強い願いや行動力など、我らは持ち合わせんからの。いや、興味深いことよ!」
 グラスになみなみと赤い液体を注ぎ終えると、少女はからからと笑って残りを飲み干した。直後。
「…プリン」
 突然、プリンが無言でつかつかと俺の前に歩み出る。そして、手早く靴を脱ぎ去ると、絨毯の上――少女の前に陣取るように、腰を下ろしてしまった。
「よく来たの、ムーンブルクの。わしの話は退屈せずに聞いてもらえたかの?
 …何分、人に講釈を垂れるのなぞ初めてでな。不手際があったのなら許せ」
「いえ。大変実のあるお話でした。…宜しければ、もっと色々な意見を伺いたく思います」
 それは何より!と可笑しそうに笑いながら、少女はグラスをプリンに勧める。俺があまりにも突飛な、彼女らしからぬ行動に驚いていると、プリンは振り返って微笑を浮かべる。
「もょもと様。どうやらこの方は、嘘言や騙まし討ちを使うような性分をお持ちではないようです。
 …少なくとも、こちらから戦意を向けない限りは大丈夫かと」
「あの、にーさま。ボクも、この子の話を、ちゃんと聞いてみたいです。
 …何だか、ボクらじゃ知らないような大事なこと…沢山知っているような、そんな気がして…」
 理路整然と意見を述べるプリンと、それに倣う様に沈黙から脱するランド。
 …俺は二人に決定を求められて暫く考えた末、どうしても捨てきれない問いを以って、決断することにした。
「一つだけ答えろ。竜王の末裔であるはずのお前が、何故そんな…人の、子供のような姿をしている」
 そう、俺はずっと、それが気になっていた。
 伝え聞く竜王の姿は、雄大な竜とも、禍々しい魔道士のものだったともいわれている。だが、この少女の外見はそんな邪悪なものとは程遠い、か弱いものだ。…その実態がどうであるかは別にして。

116:YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 01:04:29 4+9FFbmP0
 縦しんば魔道の業による化生だったとしても、竜王の眷属というのが本当ならば、彼女がそんな姿である理由がない。こればかりは、いくら可能性を模索しても答えらしい答えに至れなかった。
 彼女の意図を理解できる、納得のいく説明がされなければ、同じ卓につくことなど出来ない。
 押し黙って返答を待つ。だが、少女はぽかんと呆気に取られたような顔をして、首を傾げてしまった。そして――。

「――何故って。だって、こっちの方が可愛いじゃろ?」

 そんなことを、呆れたような口調で言った。
 ………俺は、三拍ほども彼女の言葉を意味も分からず反芻した。だがやがて、こんなことをまるで息をするように口にしてしまう相手の思惑を勘ぐっている自分がとても滑稽に思えてしまい、思考を中断する。
「…わかった。同席する。おまえのことを、信用しよう」
 一語一語区切りながら、俺はやっとのことで少女を受け入れる旨を伝え終える。…ここまで考えを読めない相手は、生まれて初めてだった。
 俺の返答を待ち侘びていたのだろう、少女は同席の承諾を聞き入れるや、また特徴的な八重歯を覗かせて、嬉しそうに笑った。だが、俺がランドを連れ立って絨毯に上がる素振りを見せるや、手を掲げて制した。
「何だろうか」
「いや何。これから杯を交わそうというのに、呼び方が“おまえ”や“そなた”ばかりでは余所余所しかろう?
 わしはそなたの要求に応えたし、そなたもわしの要求を呑んでくれんかの?」
「…努力しよう。いってくれ」
「うむ!わしのことは、今から“リュウちゃん”と呼んでくれ!」
 瞬間――両脇のランドとプリンが固まるのが、俺にははっきりと見て取れた。それぞれ、プリンはいつもの朗らかな笑顔を張り付かせたまま動かなくなり、ランドは目を丸くして大口を開け、冷や汗まで浮かべている。
「…まあ、構わんが。――リュウちゃん」
 更に、二人の姿勢が強張るのが手に取るように伝わった。…呼び名の指定くらいなら、何でもないと思うのだが。この要求は、ランドたちにとってそれほど面食らうものだったのだろうか。
 少女――リュウちゃんは満足そうにけたけたと笑うと、掲げていた手で膝を叩いて喜んだ。
「わははっ!堅物かと思ったが、存外にノリがよいではないか。よし、わしもそなたのことを“もょもとちゃん”と呼ぶことにしよう!」
 そなたらも遠慮なくリュウちゃんと呼ぶがよいぞランドちゃんプリンちゃん!と、リュウちゃんは二人にも笑顔を振りまいた。
 何故か凍りついたまま動かない二人を置き去りに、豪放に笑う彼女と俺だけが、その場でかちんとグラスと酒瓶を打ち鳴らしたのだった。

117:※YANA  ◆H.lqZohyAo
10/07/04 01:07:18 4+9FFbmP0
●リュウちゃん URLリンク(rainbow2.sakuratan.com)
 竜王の一族の末裔。百年前、アレフガルドを舞台にロトの血を引く若者と死闘を繰り広げたドラゴンのひ孫。
 個人的な趣味で人間の少女の姿をとっているが、その実態は豪放にして破天荒な、好奇心の塊。そして一たび火がつけば悪鬼羅刹の如き力と苛烈さで立ち塞がるものを殲滅する血の気も併せ持つ。
 とある事情から、自分の城を訪れたもょもとたちにハーゴン打倒を持ちかけるが、甚く彼らを気に入った彼女は互いを“ちゃん”付けで呼び合うことを提案する。…リュウちゃん、というのもそのとき自分から言い出した愛称で、本名は謎に包まれている。

◇ ◇ ◇

…というわけで十五話をお届けしました。いつぞやいってた仕込みのお披露目回でした。
まさか絵描きの友人達を総出で駆りだして、この子の完成のために半年を費やしていたなんて誰が予想したろうか…!

何かもう、色々いわれるの覚悟で釈明めいた駄文も書いてみましたが、史上最悪にイタイ長文になってしまったので、この件についての反論あるまでソイツは仕舞っておきますw

あとまたPixivのほうにもいくつか上げておきますね。なんだって竜王のひ孫ちゃんがこんなことになったかの概略は、そっちを見ていただけると、俺はあくまで原作準拠に拘る姿勢を崩していないことをご理解いただけるかと思います。

118:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/04 02:00:45 8ugwD6fY0
ついさっき投下されたばかり・・・だと・・・
取り敢えずお疲れです 個人的にはリュウちゃんより参考画像のもょもとの顔が気になった

119:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/05 02:57:08 mgixyN1SO
お疲れ様です!
今回も面白かった
リュウちゃんと結婚したいです

120:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/05 22:40:03 ejDk++340
キテタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!ウレシスギル!!!!!

リュウちゃんは期待通りというか期待以上ですよw
味方側のキャラになるなら、かわいいほうが正義!
最後の方、言っても詮無きこととわかりつつも、もょもとに「空気嫁www」と突っ込まずにはいられないw


あとランドの悲鳴は「ひゃあああん!」でお願いしますw


121:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/06 13:27:24 9gGzwQnc0
>だって、こっちの方が可愛いじゃろ?

竜王の眷族といえど、やっぱり女の子は女の子なんですな

122:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/06 16:54:33 f41U8mAI0
>121
ひとことも自分が雌だとは言っていな(ry


123:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/07 19:44:47 EhLhbMouO
>>122
私は一向に構わんッッッ

124:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/07 20:57:29 ePqkal7v0
>>123
期待しているところ無粋かも知れんが一言。
>>117の紹介文ですでに「彼女」と書かれてる……。


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