前スレ ドラクエ3 ~そしてツンデレへ~ Level11at FF
前スレ ドラクエ3 ~そしてツンデレへ~ Level11 - 暇つぶし2ch2:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/06 09:34:28 iekCx4KMO
2ゲット!スレタテ乙

3:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/06 21:18:04 fUJqsdCv0
スレ建て乙!&新作期待保守

4:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/07 00:00:32 P4o512z30
前スレ建て乙!

5:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 04:58:08 IHhT3Wf60
っと、遅れました。3話投下したいと思います。
後、酉とハンドルつけました。以後、コレでお願いします。
後、先日のレスでageてしまいすいませんでしたorz


6:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:06:48 IHhT3Wf60
              虚救旅団
          序章の三人目「診断結果:人生が破綻しても尚のんきもの 妥当な職種:あそびにんでもやらせとけ」

「ふぅ、貴女とも長かったけど」
「ええ、ざっと……5年以上は」
「ま、色々助かったよ。で、どーするの?」
「国に帰ろうと思います」

 此処は世界でも名高いアリアハンのルイーダの酒場。老若男女の男女問わず、戦える者達が集う冒険の出発点。
 魔物が勇者オルテガを葬ってからと言うモノ、世界中に大侵攻をかけていったのは数年前。
 人間と言う種が全力で魔物たちから祖国や村、町を守り何とか守りきったと同時に国々は情報の分断をされていった。
 もはやどこか一つの国が倒れれば、ドミノ倒しの様に世界が飲み込まれてしまうギリギリの拮抗状態が続く中
 魔物の脅威から世界を救い、後一歩でバラモスの前に存在した魔王を倒す所まで追い詰めたとされる
 勇者オルテガの伝説の再来を信じたり、自ら成し遂げようとする若者達がこの街の酒場に冒険者達が集っていた。
 皆が自分達の力で世界を救い、故郷を救おうとする気概溢れる者達の活気で満ちていた。
 しかし、集う者が居れば、其処から去る者も多く現れる。それは希望と夢の為に
 命を散らす覚悟のあるパーティだけではない。それすらも実らぬ種のまま消える人間も当然出てくるのだ。

「そーねぇ。ま、今の時勢人手はどの街に行っても足りない位だし」
「はい、……ルイーダさん。今まで面倒見てくれてありがとうございました」
「気にしない気にしない。貴女も自分なりの幸せを探しなさいな?」

 彼女の名はチクハ。フルネームすら、まして彼女の精神が正常だったか
 どの様に気が触れてたり狂っていたかなど記述する必要は全くない人物だ。
 何故なら彼女はルイーダの酒場で長い時間を過ごしていたが、結果実らず此処から去る者だからである。
 大きな荷物をまとめ、質素な布の服に身を包んだ彼女が去る理由は多数ある。
 たが、そんな理由になど誰も触れる人などおらず、気に留める事も無いだろう。
 それだけ多くの人間が此処を訪れ、ここを去っているのだ。全てが全て伝説になれる訳ではない。
 死してなお伝説となっているオルテガの様なものは一握りだ。

「あら、見ない顔だね。ボk……いや、御嬢ちゃんか」
「言われ慣れてますので御気に為さらず」
「あははは。まぁーどっちにしろ、まだ此処に来るのはちょっと早いわ。
 時間も年齢もね。それともお使いか何かかしら?」
「いえ、お酒を飲みに着たのではありません。ここにくれば、冒険の仲間が集うと聞いたので」
「あーあー、なるほど。貴女もオルテガの息子さん目当て? 名簿に登録しておきましょうか?」

7:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:08:03 IHhT3Wf60
 彼女と入れ替わる様にカウンターへと入ってきて、きつい一言目に眉をぴくりっと上げている一人の背の低い少女。
 目つきの悪さと年齢に不相応な落ち着いた雰囲気を漂わせていたが
 夢や野心、様々な想いを抱いた老若男女が集まる場所の女主人ルイーダにとっては所詮小娘の一人。
 ここ数日、勇者オルテガの息子が旅を出る年になったと聞いて、それに加わろうとする若者はあとを絶たない。
 更に一つの船団が先日岸に乗りつけたらしく、入れ替わり立ち代り人が訪れていた。
 そして、それを悪用する大人達も多くいる。それらを見定めるのも女主人の大切な仕事の一つだった。
 具体的な業務を記述するとやくざ者に引き摺られて若者が道を誤らぬ様にする事
 見込みの無い人間を危険な旅に出させない様にする事などだ。
 女主人ルイーダにとって誰であろうとここに冒険者を募ったりパーティへと加わろうとするのはつーかーで言わなくても解る。
 だが、敢えて新入りの少年少女達には必ず今の様な態度を取り、自らの意思を持って冒険に赴く事を発言させ、自覚させている。
 
「いえ、パーティを募りに来たんです。此方にもイシスへの兵士募集の話は来ていますね?」
「あら? そっち? まぁーそれは良いけど、時期が時期だけに大変よ?」
「ええ、それは聞いてます。誰か他に志願している者や興味がある者が居れば、旅に出たいのですが」
「ふむ。んー、今のところは期待のルーキー次第って人ばかりね。ま、一朝一夕で集まるもんじゃないわ」
「おーぅっ、ルイーダさん? このボーズもオルテガさんとこのパーティ志願か?」
「いいえ」
「おー? そかそかー」

 突然口を挟んできたのは酒臭い息を吐き散らしながらもいかにも顔に傷があり
 がたいは良いが決して太ったマッチョという訳でもない細身の筋肉質な男だった。
 いかにも腕が立ちそうな雰囲気を出しているが、絵に描いたチンピラの様に見た目は汚らしい。
 腰に下げた鋼鉄ののこぎりがたなやボロボロで血痕をぬぐった跡が残る靴がその男の経歴の演出をしている。
 テーブルの方では食事をしながらも動向を伺っている視線がちらほら。
 男を見知っている人間達がその様子を眺めている。
 その視線に応える様にわざとらしく大きな声で女主人ルイーダへと話しかけている。
 このいかにもかませ犬的な登場をした男マフィー・アンピヤラはわざとらしくその汚い手を
 はるばる船に乗ってこの地を訪れた少女ムスチナの胸へと伸ばし鷲?みをする。
 ムスチナは苦悶の表情と共に眉をしかめながらもその鋭い視線を相手へと向ける。
 やはり、彼女も人並みの女であった為、最初は口をパクパクとさせて事態が飲み込めなかったが
 すぐにその無礼な行為を認識してこれは怒るべき事態だと気付くのに時間は掛からなかった。

「んぅ? レディーだったのかー、こりゃー失礼」
「手を離してください」
「つんつんしてんねぇ。嬢ちゃん処女か?」
「貴方に言う必要はありません」
「お、やっぱそーか。まったく、この手の奴にありがちだ。ちょっと位腕が立つからって
 いかにもそこいらの男なんかには負けないと勘違いしてるおのぼりさんって所か」
「ありがちですね。いかにも腕が立つ事を見せびらかして、アウトローを気取って
 粗暴な扱いも目を瞑らせようとするゲスな感じなんて」
「いぅねぇーなんだとごらぁ!? とでも言うと思ったかい?
 そんな典型的なゲス野郎は早死にするもんだぜ?」

8:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:10:03 IHhT3Wf60
 女主人ルイーダは二人のやり取りに特に口を出す事は無かったがあまり良い顔もしていなかった。
 マフィーは一月前からこの酒場へと来て、勇者オルテガの息子へのパーティ参加を希望していた。
 評価として決して誠実や潔さはないが常に適正な答えを動物的勘で判断する男。
 腕が立つ事からルイーダも彼が店に居座っている事を黙認している。
 それに対するは、まるで修道院から出てきたばかりの僧侶と
 山篭りで世俗と離れて修行した武道家を足して2で割った様なぽっと出の少女。
 簡潔に評するにおぼこで乳臭い汚れを知らない生娘と薄汚れた大人がどう対応するかを見ている。
 少なくとも技量的な面で自分はまだ選択肢に入っていることに確信していた
 マフィーにとってもこれはルイーダに自分をアピールする良いチャンスだった。
 女子供が旅をするというのは所謂この手の男に更に知性の無さを付随した
 どうしようもない連中にも絡まれる危険性がある。街中に限らず旅の道中でもだ。
 無論、目の前でその様などうしようもない連中がしそうな騒ぎを起こせばそれを止めるつもりだが
 この男はそんな見た目ほど短絡的な目的を定めていないのはルイーダにはわかっていた。
 抱きつく事もせずマフィーの指先は胸から腹、わき腹、背中、そして尻へと緩やかに移動する。
 ムスチナは女らしく声を上げたくないのは本人の表情でその場に居た誰にでも察せる程解り易く
 一瞬、助けを求める視線をルイーダに送ろうとしたが、ルイーダが止めさないのはなんらかの意図があると
 とっさに感じ取っていた。その点で、マフィーもルイーダもこの娘がそこそこ賢い事には気付いた。

「やめてください」
「んー、何か悪い事をしてるんか? 餓鬼を撫でるのが悪いなんて訳ないだろう?」
「餓鬼の体を撫で回して興奮する大人は注意されて然るべきです」
「そうかもしれねぇな。で、そいつは何処に居る? 俺は興奮してねぇぜ?」
「なっ!」
「それに猫可愛がりされる内は女の華ってもんさ。で、嬢ちゃんに行き先は何処だい?」
「貴方に話したくはありません」
「んー、下は未貫通だが目玉は男のナニを突っ込まれてみれなくなってるのか?
 そんなヒデー趣味の野郎は世界で数人しか見たことはねぇが」
「人を見る眼が無いと言いたいんですか?」
「見てくれだけで判断するのは悪いことだぜ、嬢ちゃん。何せ、冒険つーのは
 見たことも無い面や聞いた事も無い言葉で動いている世界を一歩一歩確かめるもんだからな。
 オレみたいな見てくれの奴が安心と信頼を得ている国もあるんだぜ?」

9:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:12:28 IHhT3Wf60
 ムスチナの正論と指摘は何処吹く風といわんばかりに耳をかっぽじりながら適当に答えていく。
 無論、一方的な愛撫の手は止まらない。女性にとっては嫌悪する行動だ。
 男性にとってもまた勇気のある行動でもある。ただ、ここにおいてその蛮勇と無礼の度合いを論ずる事は
 重要ではない。マフィーにとって眼中にあるのはこの小娘でも、あららっと困り果てている中古女のチクハでもない。
 目に映るのはルイーダの女主人のみだ。

 一人旅をして、死んだと噂される勇者オルテガ。
 その息子と旅する事は多くのメリットを生む。王との謁見や重要な仕事と報酬、支給される物資etc。
 過度の期待をされている16の小僧相手へ売り込む為、彼はルイーダに対してのアピールを続ける。
 彼の推理は至って単純であった。おそらく、アリアハン王としても親子揃って死なれては流石にばつが悪い。
 王の人材登用や人を見る目や国としての勇者輩出や支援能力諸々が疑われてしまう。
 なので優秀な人材を将来性のある人材を見繕って欲しいとは既に申し入れられており
 おそらくルイーダはこの入れ替わり立ち代り尋ねてくる老若男女を見定めている筈である。
 ならば、彼にとってアピールすべき点はこの”汚さ”である。自分ののびしろはここに来る
 少年少女に比べるとどうしても短いだろう。ならば、汚れ潰して伸ばした部分を見せるしかない。

「おしゃべりなんですね。軽く見られますよ?」
「ガードを下げてくれる方が殺り易いからな。それに嬢ちゃん?
 若い内は大人(プロ)から見聞きと見よう見まねで学ぶもんだぜ?」
「……くぅっ、説教を聞かせたいならもっとまともな態度を取ったらどうですか?」
「俺みたいな面と格好の奴を黙って聞くか? それに”上”の人間が何故へりくだらなきゃなんねんだ?
 てめぇの親が勇者だろうが王様だろうが殻のついたひよっこにはかわんねぇだろ?」

 じろりっと睨みつける視線にマフィーには全く応えない。高をくくっているとか見くびっている訳ではない。
 ムスチナの全力を出した反抗も片手で捻り潰せるという事実を経験上会得しているのだ。
 それに対しムスチナは男が何をしたいかを解っている。声を上げさせたいのだ。そして、助けを求めさせたいのだ。
 逃げて敗北させたいのだ。殴りかかってくる所を腕をひねり上げて床に叩き伏せたいのだ。
 そして、マフィーがわざとこの冒険に駆け出そうとしている小娘への教育を見せている事をルイーダは理解している。
 清濁併せ持ってこそ人という者。ルイーダはマフィーの行動を女性としては嫌悪しているが言論は評価はしていた。
 大陸を殆ど出た事も無いオルテガの息子を預けるにはこういう大人も必要なのだと考えていたからだ。
 あまり、行き過ぎてもダメなのだろうが巡礼中の僧侶の様な振る舞いや子供だけの冒険ごっこでもダメだ。
 程よく壁になり、程よく汚れており、程よく打算的で強い大人もいなければいけない。
 一方ムスチナも葛藤の中、自己嫌悪に苛付いていた。素直に悲鳴も助けも呼べない様では駄目だ。
 だが、こんな相手に挑発されて声を上げて小娘を演じたくはない。打算的にも自分の自尊心的にもだ。

10:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:14:56 IHhT3Wf60
「冒険ってのはなぁ。中々上手くいかねぇもんだ。人間ってのはバカだからよ。
 魔物の脅威があっても平気で同族殺しをしちまう。魔物に協力するバカも居る。
 だから、抜け目があっちゃいけねぇーんだぜ? 嬢ちゃんはどーやら賢い。
 だが、賢いだけ、腕だけじゃやってけねぇー時もあるからなぁー、ほら嬢ちゃんこんなときはどーするよ?」
「離しなさい」
「悪党っぽい俺がそー言われただけで離すと思うか?」
「……意思はきちんと表明しておきたいだけです」
「そうだな。何もいわねぇと感じてるのかと勘違いしちまう」
「くっ」

 重苦しい声でのやり取りは続いていく。ぎすぎすした雰囲気はテーブルで食事を楽しむほかの連中とは雲泥の差だった。
 ムスチナは男に一番効果的な打撃を与えるには何かを考えており、それも決まった。
 目標は指だ。的は小さいがわずかな力でも一本位ならへし折れると思う。
 腕一本犠牲にしても倒す事もあると思うが目の前の男が自分に其処まで価値を感じているとは思わない。
 早く治療をしないと戦士と予想される相手の商売に差し支える。
 幸い相手は自分ではなく目の前のルイーダに対しての行動なのはわかる。
 一矢報わなければと羞恥を殺してタイミングを狙う。呼吸の継ぎ目。
 会話と意識を本命(ルイーダ)へと向ける瞬間をひたすら待つ。そして、イメージする。
 男が指を庇う様にしながらも絶叫し、殴りかかる所を目の前の女主人に止められて敗走する姿を。
 勿論そんな事はマフィーには見透かされていた。そこで彼の第二幕が上がる予定だ。
 しかし、その夢想は一人の行動で水泡と化してしまう。

「……なんだ、チクハ?」
「んー。いえ、何と言うかほら。寂しいじゃないですか?
 私だってまだまだイケると思ってるんですがこんな小さい子ばっかり目の前で触られてると」
「んー、まだまだイケるって……そろそろ厳しいというか下り坂だよなぁ?」
「ルイーダさんにも言われましたねぇ。けど、私はまだ生きてるんですよぉ?
 そりゃ、おっぱいも垂れ始める時期ですし、若い子ほど肌の張りもないですけど」
「まぁ、それはそう……ってだな。俺はそういう事が言いたい訳じゃなく」
「じゃ、胸にしますか?」
「んー、あーー俺が空気読めなかったな。確かにこの場で触るべきはこの小娘ではなくお前だった」
「そうですよ? 私は女はまだ辞めてません。失礼です」

11:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:15:54 IHhT3Wf60
 明日、齢32歳を迎える事になっているチクハはマフィーの腕を掴むと自分の尻へと当てさせていた。
 ぽかーんっとする場を気にする事も無い行動に遅れて男性的な本能と共に指を動かすマフィー。
 大きな尻をぐにぐにと揉まれながら、まるでそれが日常の所作であるかの様に会話を続けていく。
 マフィーはチクハの事を酒場女位の意識で接し、認識していた。”そういえば、こいつも冒険者だったのか?”
 とかどーでも良いことが一瞬思い返した後、ルイーダにはアピールできただろうと思ってそのまま手を引く事を決定した。
 すっと肉の弾力に沈んでいた指を離し、チクハの名誉の為にその豊満な胸を一握りした後
 そのまま何事もなかったかの様に奥のテーブルへと戻っていく。
 ムスチナは何故力の弱そうなチクハがあの汚らしい男に撃退が出来たのか解らなかった。
 身は貧弱だが魔法使いで高度な呪文が使えるのか。それとも気配を察せられないだけで高い技術を持った盗賊なのか。
 何か特別な武術を会得している武道家なのか?僧侶は……それは無い。流石に無い。そう思いたかった。
 しかし、そんな考えとは別に今になってようやく体と心が先ほど男から受けた羞恥や辱めを実感させてくる。
 涙目で今にも震えて泣きそうな顔になりながらも、膝が笑ってその場にへたり込む前にするべきことをしようと口が勝手に動く。

「ありがとうございました。……あ、あのお名前は?」
「あ、ルイーダさん!ルイーダさん! こういう時こそ、名を名乗るほどの者ではありませんって言って良いんですよね?
 やったー、まさか私、生きてる間にこの言葉が言えるとは思いませんでした♪」
「チクハ・ヴィーチアヘン。今日登録をやめて国に帰る予定の子だよ」
「チクハさんですか。本当にありがとうございます」
「え? あ、そんなぁ~」
「私はムスチナと言います。……あ、あのその…ま、また明日来てお会いしたいです。……お騒がせしました」
「あ、え? ちょっと」

 ムスチナはその性格ゆえにここは一旦宿へ帰ることを決断する。顔を赤くしたのを悟られない様に
 そのまま、足早に酒場を後にする。途中、マフィーの方へときっと睨みを利かせる。
 睨み付けられた当人は敵意の視線に感付いた様だがこれ以上相手にする気はさらさら無かった。
 ふんっと僅かにムスチナが息を漏らした後、ドアが閉められて客の出入りを知らせるベルがからんからんと鳴る。
 ルイーダはムスチナが去るのを見つめた後、カウンターを乗り出してばっとチクハのスカートをめくる。
 店に居た客もその行動に驚くが、それを気にする事は無くルイーダの視線はじーーっと一部分を凝視した後、ぱっと手を離した。
 ふぁさっとめくり上げられたスカートがそのまま重力にしたがって裾が元の位置へと戻っていく。
 チクハ本人は恥ずかしがるという感情が欠落しているのか、そのまま手で抑える事も無くドアを見つめていた。
 
「もうちょっと登録削除は伸ばしておくわね。ま、最悪あの子に送って貰いなさい。
 筋はよさそーだしイシス行くなら方角は間違ってないし」
「そ、そーですね。じゃ、後ちょっとだけ」

12:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:20:03 IHhT3Wf60
 遅ればせながら冒険者としての人生のリタイアを取りやめて
 この物語に深く関わる事になる女チクハ・ヴィーチアヘン(以下チクハ)について記述する。
 彼女は稀代のダメ女である。32歳まで生きている事が奇跡の様な存在であった。
 しかし、その奇跡を起こし続ける程度の幸運を持ち合わせていたのか
 人生の殆どの運をその奇跡に費やしてきたのかも知れない。
 其処にめぐってきたこの不幸か不運かは解らない人生の岐路に
 彼女は何の根拠も無い淡い夢想を描き、感じ入っていた。

 その頃、話の種であったムスチナは店の外で一人の伝説の勇者(予定)を盛大に投げ飛ばしたり
 運命的かつ絶対適わない恋をしたりと色々あるのだがそれは次回詳しく記述する。

                    つづく?

13:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/08 05:21:28 IHhT3Wf60
以上です。ちょっと今回そのマフィーの部分を書くのに手間取ってしまい
一日遅れ+深夜投下というオチにorzでは、次は月末辺りを予定に
早ければ2週間後位に投下したいと思います。投下失礼しました。

14:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/08 12:25:08 jC269tsm0
これは続きに期待!
作者さんの思惑には外れるだろうけどチクハに萌えてしまうw

15:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/08 17:51:17 wB9X2bz30
新作うぽつ!
チクハさんエロイよwww

16:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/08 21:07:08 jLye4l7e0

俺もチクハ大好きww
こっからどうなっていくのかwktkがとまらない

17:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/10 22:15:39 uKXC+nJR0
ニヤニヤ保守

18:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/13 10:08:50 vC4W2224O
そろそろ?CC氏期待保守

19:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/16 07:44:59 9eScejali
しっかし、雑談中も続かんなー。
新しい職人も来たのに

20:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/16 18:53:31 3j+jXcoyO
忘れてたがパレンタイン単発とか投下されんかな

21:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/17 18:45:49 c6Cmawhr0
ということで、大分日にちは遅れましたが、思いついたので無理矢理バレンタインネタ単発作ってみました。
地の文が無いシナリオみたいな感じですがまぁキャラを掴む感じになれば良いかと。
では、投下します

22:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/17 18:48:01 c6Cmawhr0
虚救旅団
思いつきの単発モノ「診断結果:思いつきのでんこうせっか 思いついたネタ:成立しないヴァレンタインネタ」

「俺はヴァレンタインネタを要求する」
「は?」
「あらあら」
「……何の意味があるんですか?」
「……っ!」

 此処はルイーダの酒場、旅人が(ryな所である。
 夜の酒場、テーブルとカウンターにはチクハ、ムスチナ、ヤターユ、そしてマフィーが飲んだくれている。
 勿論、カウンターには此処の主であるルイーダが居る。それぞれのリアクションは
 ヤターユは口を開けてぽかんとし、チクハはとりあえず困った顔に手を当てて決めポーズをとっている。
 ムスチナは何か裏の意味があるのかと色々考えを巡らせている中、女主人ルイーダはずるっとずっこけそうになっていた。

「いや、折角2月14日過ぎてるんだぜ? それは甘酸っぱいもんが欲しいだろ、ああん?
 此処はサービスサービスぅ(CV三石)してこそってもんだろ?」
「あはは、旦那、そんな酒臭い息でガンつけられても。後、そげな古いネタを」
「いや、多分SFCのDQⅢの年代的に被ってるに間違いねぇ!」
「えぇー、けどもう日にち過ぎてるのに何を今更って感じですよぅ?」
「……ちょっと、待ちなさい、あなたたち。まず大事な事があるでしょう」
「そうです」
「ん? なんだ、メスガキ」
「……そもそも、ヴァレンタインとはなんですか?」
「ググレ」
「あ、えーとですねぇ。好きな人にチョコレートを贈って告白する日なんですよぉー?」
「……何故?」
「へ?」
「何故、2月14日なんですか?」
「いえ、何故と言われても」
「別に想いを告げるのにその日にする必然性が見出せません。思い立ったが吉日ではないのですか?」
「え、えーと、ほらクリスマスに子作りしたくなるのと一緒でそんなに深い意味は」
「(じーーーっ )そんな不合理を大人の癖に受け入れてるんですか? 恥ずかしくないんですか?
 そもそも、チョコレートを付随しなきゃならない理由すら解らない。明らかに得するのは御菓子屋さんだけじゃないですか。
 お菓子とは別に何か告白を手伝うものではなく、午後3時や食後の楽しみであり、あの甘いひと時のために存在するモノです。
 ……あああっ! それをそんな抱き合わせで流行を作るなんて! 不純です! 不潔です! 無粋です!」
「……うぇーん、ルイーダさーーん! ムスチナちゃんが正論で苛めるぅーー!
 むしろ、言ってる本人が無粋なのにぃーー! お祭りは楽しんでこそでしょー!」
「ああっもうっ! 32のおばさんが泣きつくな!」
「えぇー、告白やなんてぇ……う、うちはそんなぁ、いややわぁーほんまに」
「……だー、あなたたち待ちなさい!」
「そうだそうだ、俺を放置するな。つか、俺の扱いが本編でもこれでも三下過ぎてちょっと泣けてくるぞ」

23:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/17 18:49:52 c6Cmawhr0
 ルイーダの一喝で場が静寂に包まれる訳でもないが、とにかくその場に居るメンツは一斉に彼女の方を見た。

「そもそも、あなたたちはまだ顔見せが終わったばかりでキャラもふわふわしてるし、出てないキャラ半分以上居るし
 まだ、告白も何も無いでしょう……第一ね! あんたらバレンタインデーをなんだと思っているの!」
「……えぇ? 女の子がチョコに想いを込めて告白するドキドキイベントの日じゃないんですか?」
「女の子って年ちゃうやろ、おばはん(ぼそっ)」
「……うっ、まだ本編では顔をあわせてないあなたまで苛めるんですかぁ!?」
「ま、そういうハズい認識がこの国では多いけど、まぁ世の中風習なんてそれぞれだからね。
 とりあえず、起源はね。バレンタインさんが処刑された日」
「命日なんですか!? まだ、宗教の開祖の聖誕祭とかなら解りますが、人の死んだ日に祝い事とは不謹慎な」
「敵対宗教だったら祝日にはすると思うがな」
「違うわよ! えーとね、そのバレンタインさんが所属していた宗教がまだメジャーじゃなかったのよ。
 で、要するに昔ね。女の人があんまし男の人と喋れなかったり、隔離された時代があったの。
 その中で、2月14日はくじびきで男女がいちゃつける祭日があったのよ」
「くじびきてあんた。そな大雑把な」
「ふん。今の恋愛形態が出来たのは色々世相が変化してからだからな。昔はそんなもんだ。家同士とか跡継ぎとかな」
「で、まぁそれらで結婚するケースが多かったんだけど、その時の兵隊さんは色恋は士気が落ちるってその時の王様が
 男女交遊を禁止にされんだけど、このバレンタインさんは影で結婚させてたのね」
「で、それがばれてわざわざその祭日にあてつけで処刑されたと」
「国の方針に逆らったと言うのはあまり褒められる事ではありませんね。
 まぁ、そんなの禁止してどうにかなると思ってる王様もおろかですが、兵隊は国と王様の命令を遂行するのが仕事ですし」
「えー、うちはロマンチックな人やと思うけどなぁ。恋を応援するおっちゃんってええ人やん?」
「そうですねぇ。それが今のこの習慣へと繋がった感じなんでしょうしぃ」
「ま、その王様もそのバレンタインも死んだ人間だし、とやかく言うもんじゃねーさ。
 今更ウダウダ言ってもその死んだ奴が何かしてくれる訳じゃねぇし」

24:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/02/17 18:52:53 c6Cmawhr0
「……ふむ。で、結局私達にバレンタインをやれといっても出来ないと思いますが」
「適当にチョコ作ってキャッキャウフフやってりゃ良いだろ。むしろ、それが需要だろ?」
「いえ、何かそれは……いっそ、バレンタイン氏に哀悼の意を捧げれば良いのでは?」
「うーん、宗教の活動方針に乗っ取った自業自得だし、私達はその宗教を信仰してる訳じゃないしねぇ」
「チョコを渡す渡さない、告白だなんだと言うよりはよっぽど健全です」
「いや、その発想はとても不健全やと思うで? 知らん人を勝手に弔うとかもどーかと思うし」
「しかも陰気だな。パッとしねぇ」
「けどぉ、それをいったら知らない人の誕生日で大々的にクリスマスとかやっちゃってますし
 神様や開祖の生誕を祝ったり、死を悼んだりするのはお祭りの基本ですよぅ?」
「……ええい、もう良いです! どっちにしろ私はバレンタインなんて知りません!」
「あぁーあ、ムスチナちゃんが拗ねちゃいましたよぅ? どーしましょヤターユさん?」
「う、うちの所為やの!? むしろ、この兄さんが言い出した事やし、チクハの姐さんかて」
「責任転嫁して自分に非がないと思い込んでりゃ楽だぜ人間は。俺は開き直るけどな」
「私は誰の責任とかよりもムスチナちゃんのご機嫌を直したいですねぇ。やり方は解りませんけど」
「うぅー、ひどいやん。うちは、うちはぁ」
「ま、土台無理な話だったわね。このメンツでこんな話をするなんて。まだまだ、熟成が足りないのよ、お酒と一緒でね」
「来年は良いお話になると良いですねぇ」
「続いてればの話やけどねぇ」
「……ふむ。来年になれば、考えや見方も色々変わるかもしれませんね」
「では、お後が宜しいという事にして呑み直しだ」

「はーい……って、なんであんたが仕切ってるのよ!」
はーい……って、なんであなたが仕切ってるんですか!」
はーい……って、なんであんさんが仕切ってるんや!」
「ちゃんど御代を払えば、何したって、誰が仕切ったってかまわないわよ」

「ちゃんちゃんっと。ま、そんな感じでぇバレンタインでしたねぇッという事で一つ。おしまいですよぉー」

25:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/17 23:17:41 PRk3OwzJ0
ほんとにバレンタインネタ来てるよwワロタ

26:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/19 01:53:06 4nnI0h3X0
ニヤニヤ

突発でお疲れ様でした

27:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/20 01:25:46 JECuxuMsO
おお!リクエストしたもんだがGJ!単発お疲れさま

28:CC ◆GxR634B49A
09/02/24 00:40:56 oTEcG1Ay0
本編に掌編と、投下お疲れ様です。
お名前決まったんですね。
す、すみません、話題が遅くて。
ジツはあの後、すぐに新スレ立ってたんですね。
とゆうか、最後に書き込んだの先週くらいの感覚なのに、
2月のはじめだったのか。。。仕事してた記憶しかない。。。
今のところ、4月くらいから一気にヒマになる予定です。
たつきはピンチですが、投下には吉といきたいものです。

29:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/24 21:12:04 sKGZHa5H0
こっちは4月まで工場が止まって週休4日だぜ・・・
冬眠しながら気長に待ってるよ><!

30:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/01 18:24:30 XESH9vZc0
ほ、保守せねば

31:CC ◆GxR634B49A
09/03/03 22:06:49 GuHTNznm0
(・3・)アルェー
保守 ←微妙に体っぽいw

32:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/04 00:19:44 1pFnH9qo0
どうも、えーと早ければ5日。遅くて6日には4話投下できそうです。
後、前回次回予告がまだ未定気味だったので入れられなかったので今予告を。
次回は

   虚救旅団
   序章の四人目「診断結果:不幸な運命のしあわせもの 運命付けられていた職業:不幸にもゆうしゃ」

の予定です。ではでは、失礼しました。

33:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/04 00:28:42 qCd8fp8J0
ひな祭りが終わってしまった!

次は3/14のホワイトデー、その次はいよいよ4/4のおかまの節句か・・・

34:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 05:25:12 Kq7ajTh90
時間が空いたので投下失礼します。こんな朝方ですいませんorz

35:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 05:26:44 Kq7ajTh90
   虚救旅団
   序章の四人目「診断結果:不幸な運命のしあわせもの 運命付けられていた職業:不幸にもゆうしゃ」

 アリアハン。勇者オルテガを輩出した国。理由は良く解らないが昔からの慣習として
 ここが旅立ちの街とされていた。周囲の魔物が弱い事と素人でも扱い易い武器防具が売られており
 何より旅人が集まるルイーダの酒場は常に旅人が訪れてパーティを募っている。
 それは地政学的にアリアハンは他の国を攻める必要が無い島国なので人が偏っても問題ないだの
 各国はそれぞれ別の人材ルートで兵士などを募っていたなど様々な推察が出来るが詳しい事はわからない。
 ただただ、揺るがない事実としてアリアハンは旅立ちの街であり、世界中の殆どの人がそう認識していた。

 ここでルクスが登場する。彼のフルネームは記述してはいけない。なぜなら、彼への枕詞は
 ”勇者オルテガの息子”で決まっているからだ。下手な苗字など教えたら皆混乱する。
 彼の父オルテガはあまりにも有名になりすぎた為、彼の母親も勇者オルテガの妻、彼の祖父も
 勇者オルテガの父親と認識されている。彼は残念ながら気が狂っていた。
 常にあはあはと笑っている。時たま、えへえへとも笑っている。大抵笑っている。
 だが、誰も彼もこの異常な少年の気が狂っているとは思わなかった。
 なぜなら彼は勇者オルテガの息子なのだ。誰が勇者オルテガの息子が狂っていると思うだろう。
 道具屋の親父の言う。彼はきっとこれから旅に出られるという事が楽しくて楽しくて仕方ないのだと。
 防具屋の女将は言う。きっと、父親が死んだ事で気を使わせない様に必死に取り繕っているのだろうと。
 宿屋の一人娘は言う。旅が怖いし不安なんだわ。けど、それを少しでも紛らわそうと無理に笑っているのよと。
 ルクスの母親は言う。旅に出て私が寂しい時に笑った顔が思い出せる様に常に笑っているのよと。
 本人に何故笑っているか聞いた者はアリアハンの住人では一人も居ない。
 前に近所の子供が聞こうとしたが親に止められていた。

36:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 05:27:51 Kq7ajTh90
 彼ほど不幸な人物が世の中にどれだけいるだろうか? 彼は勇者オルテガの息子だから勇者になって
 世界を救わなければいけないのだ。16歳の誕生日に必ず旅に出て行かなければいけないのだ。
 誰も彼の意思など気にせずに断行される。母親は当然周りからの期待に応えてそういう風に育ててきたし
 本人にもそう告げている。武芸の稽古もさせていた。時折アリアハンの兵士や旅の戦士に剣の腕を見てもらった。
 おおむね良い返事を聞いていたので恐らく才能があるのかもしれない。
 だが、ルクス本人はそう思っていなかった。もしかしたら、自分は全く才能が無いのかもしれない。
 もしかしたら、自分は世界を救えないのかもしれない。もしかしたら、自分は道半ばで死ぬのかもしれない。
 誰も彼も期待しているけど一体何の根拠があるのだろう。父が有名な勇者だからか? おかしな話だ。
 ならば、人々に慕われた王の息子は人々に慕われる王子で将来必ず人々に慕われる王になるのか?
 ルクスの自我と自信は一瞬たりとも持つ事が無く、ゲシュタルト崩壊を起こして跡形も無く霧散する。
 だから、彼は常に笑っているのだ。むしろ笑う事しか出来ないのだ。時折ふと正気に戻る事もあるが
 すさまじい絶望とプレッシャーに泣き崩れそうになる。だが、そんなものを見せてはいけないと判断し、また正気を失う。
 恐らく生死を窮する貧困、病気、状況という特例を除けばこのルクスの件はかなりの不幸な部類だと推測させる。
 しかし、彼は勇者の父親であり、これから名声を手にいられる可能性があり
 各国の王からも手厚い援助も約束されているのでとてもしあわせものだというのが不幸な事に周りの一致した認識である。
 
 そして、彼は不幸にも出会ってしまう。勇者になるかもしれない少女ムスチナと。
 それは彼が剣の稽古を追えて、家へと帰る途中。彼の進行方向の先の右手にはルイーダの酒場があった。
 彼の進行方向の左手には自宅があった。 ルイーダの酒場への扉が開く。一人の少女が出てくる。顔が真っ赤だ。 
 ムスチナはルクスの来た方向の宿屋へと向かっていた。ルクスは自分の顔を見てより一層顔を赤くする少女を見て不思議に思う。
 彼が自意識過剰であり、自惚れており、ナルシストだった場合、自分に一目惚れしたのかと勘違いしただろう。
 だが、彼にはどんな好条件のシチュエーションでも常に懸念が残る。自分は勇者オルテガの息子なのだ。その噂は広大に広がっている。
 もしかしたら何らかの情報か伝を経て(例えば、アリアハンの人に聞いたりして)自分が勇者オルテガの息子だと相手は知っている
 という可能性を考慮すると絶望して正気を失ってあはあはとえへえへと笑っている。
 ルクスのここ数ヶ月の周囲は異常だ。16歳の誕生日を明後日に控えているのをかなりの人数に知れ渡っている。
 阿呆らしい。何故、人様の息子の誕生日など知らなければいけないのだ。
 理由は解っている。自分が16歳の誕生日の時に旅に出るからだ。自分とパーティを組みたくて尋ねてきたり
 また、母親に金銭や贈り物として武器防具を渡す物も後を絶えない。何より悲しいのがそういった恵みで
 一部生活をしている節のある自分の家がとてつもなく情けないと感じていた。

37:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 05:29:26 Kq7ajTh90
 それに対してムスチナは前話、マフィー相手に受けた陵辱と色々な感情が逆巻いてしまっていて一刻も早く独りになりたかった。
 それが不幸にも常に笑顔を絶やさないルクスと出会ってしまう。彼女は伝説の勇者オルテガの息子など最初から興味は無かったし
 目の前の薄ら笑いを浮かべている男がその当人だという意識や疑念はさっぱり無かった。
 だが、それ故に目の前の男が非常に不愉快だった。ムスチナは考える。
 何でこの男は笑っているんだ? 私を見て笑っているのか? この男は別にさっきの酒場でのやり取りを知らない筈だ。
 窓から覗いていたのか? いや、来る方向からしてそれはない。じゃあ、何故笑っているんだ。私の顔が赤いからか?
 女が顔が赤い事がそんなにこの男にとって面白いのか。私が顔が赤いという事実を肴にこの男は一体何を妄想しているんだ?
 段々彼女は男に対しての不快感を募らせて、遂には傍から見ればそれは殺意に等しい気迫を放っていた。

 それに対してルクスは目の前の少女が今にも殺さんとせんばかりの形相でじっと自分の顔を見ている事に正気を取り戻して戸惑う。
 そういった、疑念や探る様な視線を受けた事が無い訳ではない。旅人が勇者オルテガの息子がどの程度のものかと
 探る様に視線を向けられた事はある。えへえへとあはあはとその頃から笑っており
 それが言い知れぬ恐怖を相手に与えていた事を当人は全く知る事もないが
 それらの経験を経ている彼ですらこの邂逅はあまりにも異常だ。
 それに対処する為に脳みそがゲシュタルト崩壊を起こす事を許さない。生命的な危機に陥っている可能性もある為だ。
 そして、また彼はあまりにも強く貫かれる視線にドキドキと胸を高鳴らせていた。好意を含む視線を受けた事がない訳ではない。
 何せ、勇者オルテガの息子だというだけで将来結婚してくれだの、パーティを組んでくれだの、付き合ってくれだの
 子供が欲しいだの、息子にならないかなどと訳の解らん事を言い出す老若男女を何人も見ている。無論、嫉妬やらやっかみもあった。
 だが、これは彼にとっての初体験だ。何が悲しくて顔を赤面しながら殺意を向けなければならないのか。
 さっぱり想像が付かない。それゆえの興味、自分が何故こんな感情を向けられているか知る為の探究心。
 男が女に興味を持つ事には性的だったり、性別による性格の違いの探求だったりと色々あるが恋愛経験が無いルクスにとって
 これは初恋に等しかった。それほどまでに自我を維持しつつ他者を観察する事など物心ついてから今までなかったのだ。

「あ、あのお嬢さん? ああ、そう君、そうそう君であってる。時間はある?」
「……なんですか?」
「あ、えーとね。その……あー、こういう経験がないからその……あー何を話して良いのか」
「……失礼します。急ぎますので」

38:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 05:30:49 Kq7ajTh90
 ルクスは勇気を振り絞ってムスチナへと声を掛ける。所謂ナンパだ。ただ、彼は何を言って良いか解らない。
 今までは自分から最後まで何かを言ったのは恐らく食事のリクエストと買い物くらいだったかもしれない。
 大抵は相手にあれやこれやといわれて自分の言葉を最後まで完遂した経験が極端に少なかった。
 行き成り声を掛けられたムスチナも、男からこんな風に声を掛けられたことは無かった。
 何せ、遠目から見てムスチナは少年の様にも見えたし、彼女を相手にしようとしう少年は生まれ育った街には居なかった。
 聖域だと言わんばかりの潔癖さを誇った彼女に気安く話しかけられる男など地元の神父くらいなものだった。
 ムスチナは男が声を掛けてくることが不快だった。その不快に感じる面を下げて、更に会話までしようというのかこの男に驚愕した。
 もはや疑念から殺意への変化を更に飛躍させ、視界からシャットアウトしたくて仕方なくて適当に言葉を繕い宿へと急ぐ。
 それに対してルクスは必死だ。この邂逅を逃す事は、こんな運命は二度とないのではと思った。
 知らない顔だ。旅人なのかも、商人の連れなのかも、何かを伝令を受けた他国の兵士なのかも。
 様々な意味の無い推測が浮かぶがそれを確かめる間もなく目の前の少女は去ろうとする。
 困った、非常に困った。ルクスがここまで真剣に何かを考えて困るのは生まれて二度目だ。
 一回目は確か物心付いて自分が16歳の誕生日に旅に出て世界を救う事を知った時以来だ。
 取り合えず時間が欲しかった。だから、彼は引き止めようとした。すれ違おうとする相手の袖を掴もうと手を出す。

「あ、あのちょっと待って」
「……黙れ、触るな、去れ」

39:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/06 05:36:33 zlUJIp+bi
支援

40:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/06 05:41:38 zlUJIp+bi
失礼。連投規制にかかってしまいました。
少ししたら続きはなんとかします

41:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/06 10:46:28 m+iANebs0
陵辱w
支援?

42:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 11:00:57 Kq7ajTh90
 次の瞬間、ルクスの視界は宙を舞う。手を伸ばして服を掴んだ瞬間にムスチナは手を取らえて足を引っ掛けて
 そのまま、勇者オルテガの息子だと後に知る事になる男をぶん投げた。3つの端的な命令もおまけに叩きつけた。
 武道家からの修練の一環で男に絡まれたときに簡単に投げ飛ばす方法を習っていたのだが
 まさか、こんなすぐに使うとはムスチナ本人も思っていなかった。華麗に宙を舞うルクスの肉体はどさりっと
 石畳の地面へと叩きつけられる。それは結構な音がして、なんだなんだと大人達がぞろぞろと少し興味の視線を向け始める。
 ムスチナは取り合えず立ち去ろうとするがルクスはそれを許さなかった。地面へと叩き伏せられたまま
 手を伸ばして去ろうとするムスチナの足を掴む。無我夢中で掴んでいのだが、これが更なる不幸を呼ぶ。
 最早とっとと部屋に篭りたいムスチナの足早に進む予定だった足を突然とられた結果、彼女はそのまま板の様に
 びたーーんっと地面へとずっこけて顔面を強打する。丁度、周囲の大人たちの視線が合わさった時だったので
 どっと笑いが起きる。無関係な他者からの端的な感想は良く解らんが物音をして振り返れば少女が奇跡的なずっこけ方をした。
 これは喜劇なのかと周囲は目を疑った。これが更なる不幸を産む。
 さて、笑われたのはムスチナだ。もはや彼女は憎悪と憤怒と殺意の塊と化していた。
 恐らく、魔王が今の彼女を見たらスカウトを考えるかも知れない位の形相と気迫。ムスチナはゆらりと立ち上がる。
 自分の足を掴んでいたルクスの手を振り払う。彼も丁度起き上がろうとした時、彼女の顔を見る。
 さぁーーーっと血の気が引いて、ルクスの表情は再び正気を失ってあはあはえへえへと笑う顔に戻っていた。
 もはや、ムスチナを止める理性など一欠片も残っていなかった。大きく振りかぶり、その笑う男の顔面に拳を叩き込む。
 一瞬にして周囲の大人達の空気が凍る。敏感な子供はムスチナの殺意だけで泣きそうになっていた。
 そんな空気など視界に入らないムスチナはそのまま相手の首根っこを掴む様に右手を突き出してそのままルクスを押し倒す。

「お……お、おおおぅっお前に!」
「あははははははっ」
「笑われる為に!」
「あははははははっ」
「私は!」
「あははははははっ」
「赤面してた!」
「あははははははっ」
「訳じゃ!」
「あははははははっ」
「ないんだからぁああああああああああーーーーー!!!」

                   訳 が 解 ら な い 。

43:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 11:03:04 Kq7ajTh90
 ムスチナはマウントポジションを取った後、数ヶ月の船旅で鍛えられた両腕をフル稼働して、ルクスの顔面を殴り続ける。
 本能的に両腕でガードするルクスを尻目にその乱打は止まらない。
 みしみしと骨がきしみそうになる程の一撃を絶え間なく言葉と共に続けている。
 ルクスが正気だった場合、なんてひどい事を相手にしてしまったのかと詫びていただろう。
 ルクスが正気だった場合、女とはこんな重い打撃を繰り出せるものなのかと驚愕するだろう。
 ルクスが正気だった場合、暴力はいけない。そして、こんな痛いことは止めてくれと声を上げただろう。
 ルクスが正気だった場合、何で自分がこんな目に合わなければと不幸を嘆いていただろう。
 だが、残念ながら彼は気が狂っていたのであはあはえへえへと笑い続けており
 ムスチナはその笑顔を燃料に休むことなく、両腕を稼動させていた。
 それを見ていた大人達がようやくその異常な事態を止めなければいけないと理解した。
 既にそれを見ていた子供は大泣きして母親に泣きついている。
 大人の男達が数人束になってようやくムスチナの豪腕を抑え込む事が出来た。
 宿屋の一人娘は先ほどまで花にやっていた桶の水をそのままムスチナへとぶっ掛ける。
 それでもムスチナは止まろうとしない。丁度その場に居た彼女と同じ船でアリアハンに来ており
 尚且つ自分が彼女と同じ年頃の時に使っていた稽古着をプレゼントした
 女の武道家が彼女の首筋を手刀で打ち込み気絶させる。これにより事態は一旦落ち着いた。
 ルクスとムスチナ。二人の出会いは最悪だったが当然ながら物語の関係上
 二人はこれから何度も逢うことが運命付けられている。ああ、彼はやはり不幸なしあわせものだったのだ。

 次回    序章の五人目と六人目「診断結果:人生経験豊富詐欺なせけんしらず と 鬼畜でバイオレンスで妹系なおおぐらい
                       詐称された職業:魔女過程のまほうつかい と 全てを破壊する程度のぶとうか」

44:楮書生 ◆n2MzhXtooQ
09/03/06 11:04:46 Kq7ajTh90
以上です。途中規制で空いてしまってすいませんでしたorz
後2~3話前後で序章が終われば冒険が始められる予定です。
では、投下失礼しましたー

45:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/07 02:19:37 KNXFBAfm0
新作おつかれさま。
楽しませて頂きました。

話ずれるけど
5人目と6人目の診断結果と職業のところ見て
某東方の図書館引きこもりと地下室閉じこもりを想像してしまった
相当毒されているようだ

あと勇者君南無。

46:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/07 22:12:48 bc05XmFs0
おおっと、いつのまに投下されてたんだ?乙乙。
勇者のキャラ設定にわろたw

47:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/07 23:08:19 JYI2K7vZO
オツウ!妹系キタコレ

48:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/14 20:14:31 YZ04NNs+O
保守しとこう

49:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/15 02:24:29 y62pqQgr0
このスレは素晴らしい。

まとめサイトで初代1氏の作品に激しく萌えて、
ホントは好きだけど素直になれない、ちょっと勝気な女の子萌え~
がツンデレだと知り、自分がツンデレスキーであることを知った。
そして初代1氏から、YANA氏、CC氏へと続く作品を読むうち、なんか自分も書きたいという思いが
湧き起こってきた。


…ということでツンデレホイミン女人化SS書いたのだが、投下してよろしいか?
明日の夜から行きたいと思うのですが…

ちなみにホイミン女人化と書いていますが、自分はゲームやったとき人間になったホイミンは
女だと素で勘違いしておりました…orz

50:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/15 09:40:34 WjQXau4h0
>>49
別に誰も止めないし歓迎だと思うが
最近始めた人は眼中に無しか。世知辛い世の中だぜ

51:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:24:02 GG4Ax3u00
>>49だけど投下します。
実はもう完成しています。容量・レス数とも100をちょっと超えるくらい。
一気投下は無理なので、適当に千切っていきたいと思います。

>>50
書き始めたのはもう一年くらい前なんだよ~orz
楮書生氏には失礼かと思ったけど、書き始めた動機に絡めると嘘になちゃうから・・・
もちろん楮書生氏の作品を楽しみにしています。
俺のと違って長編になりそうだから、この先の展開にwktk!

52:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:26:12 GG4Ax3u00
あたしの名前はホイミン。
気が付いたときには、すでにこの森にいた。
ここに住み着いてからどれくらいの時間が経ったんだろう。

今日も森の小道を歩く。
透き通るような、長いあたしの青い髪を、さわやかな風が撫でる。
白地に青とピンクのラインの入った薄手のローブが、あたしの歩調に合わせて、
日の光を、いろんな表情に変える。
ただ歩いているだけなのに、なぜこんなに楽しいのだろう。
なぜこんなにウキウキするのだろう。
自分でも理由はわからない。

木漏れ日が描く地面の斑模様は、何処まで見ていても飽きない。
いつも通りなれた道でも、歩く度に小さな発見がある。



しかしこの日あたしは生まれて初めての大発見をしてしまった!

53:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:27:24 GG4Ax3u00
「かたじけない・・・」
ピンクの悪趣味な鎧を着た男が、慇懃に頭を下げる。
派手な鎧に反して、表情は朴訥な印象を与える。
森の中で行き倒れになっていたのを、あたしが家まで連れてきたのだ。
「べ、別に当然の事をしただけよ!」
どう答えるのが正しいのかわからず、ついこんな物言いになってしまった。
そう。あたしはずっと一人で過ごしてきたので、人と触れ合うのに慣れていない。
2人っきりで誰かと話すなんて、あたしにとっては大事件だ。
「う・・・うむ、まことにかたじけない」
男はなおさら恐縮して小さくなる。そして自分の荷物をまとめ始めた。
「いや世話になった、御礼は改めてさせて頂く。今日のところはここで。」

あたしは慌てた。初めて家に来た人。いろいろ話をしたいと思ったのに、あたしのつたない
言葉のせいで、居心地を悪くさせてしまった。何とか引き留めようと捲くし立てる。
「ちょっと待ちなさいよ!あなたボロボロじゃない!あたしホイミ使える
 からちゃんと直してあげるわよ!お腹も空いているんでしょ!
 ご飯作ってあげるから、食べていきなさいよ!」
「いや、しかし・・・」
「・・・・・・いいから休んでいきなさーい!!」

有無を言わせぬ態度に、男は呆然とあたしを見上げるだけだった。

54:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:29:30 GG4Ax3u00
男はライアンと名乗った。
ここら一帯を治めるバトランド王国の戦士をしているらしい。
口髭を生やしているのでおっさんかと思ったら、まだ20代中盤だそうだ。
ここ最近、子供が行方不明になる事件が多発しているので、その調査を行っているらしい。
その途中この森で迷い、体力を失った所で、魔物に不覚をとり倒れていたという話だった。
鈍くさっ。 あたしでもこの辺の魔物は簡単に逃げ切れるのに。

「でも一人でそんな危険な調査を行わせるなんて王様も酷よねぇ
 大体あんたみたいなタイプは、調査とか推理とか向かないと思うけど・・・」
言ってしまってからハッと口を押える。
軽口のつもりがライアン本人とその御主君様を馬鹿にしたような言葉になって
しまった。
やっちゃったと思ってライアンの顔を見てみると、特に気にした様子も無く
「たとえ困難な試練であれ、王命をまっとうするのは戦士の務めだからな。」
と誇らしげに言った。
ほっとすると同時にこう思った。(やっぱりこの人鈍いのかな?)
その他にもいろいろ聞いた。
家族がいないこと。小さな頃から王宮で戦士として育てられたこと。
奥さんか彼女は?と聞いた時は少し動揺しながら、でも平静を装って
「いない」と答えたのが印象的だった。
こりゃ女性経験少ないか皆無なんだろなーと思うと同時に、
心の奥底でなぜかくすぐったいような気持ちが湧き上がった。

55:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:31:03 GG4Ax3u00
ライアンの身の上を大体聞き終わると、次はあたしの番になった。
とはいってもライアンから聞いてきた訳ではない。普通、うら若き乙女がこんな森で一人暮らし
をしてたら、興味わかないのかなと多少憤慨しつつ、自分から話し始めたのだ。

気付いたらこの森で暮らしていたこと。それ以前の記憶が無いこと。
ここから西にあるイムルの村にはたまに行くこと。
買い物の時商店のおばさんとかと話したり、無邪気に遊ぶ子供たちを
遠くから眺めるのがとても楽しいということ。
ライアンはうんうん相槌を打つだけで、特に言葉を挟んでくる事はなかったが、これが聞き上手
というのだろうか、あたしの言葉は次から次へと出てくる。
人にじっくり話を聞いてもらえるのが、こんなに嬉しい事だとは思わなかった。

食事も終わり、すっかり話し込んだせいで随分夜も更けてしまった。
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
と聞くとライアンは何か動揺した様に周囲を見わたし始めた。
「どうしたの?」
「いや私はどこで寝ればいいのかと・・・」
「ベッドで寝ればいいじゃない」
「いやしかし、それではホイミン殿の寝る場所が無くなるではないか」
「え?あたしもベッドで寝るわよ?」
「な・・・!しかしここにベッドは一つしか・・・」
ここでライアンの顔が少し赤くなっているのに気付いた。

56:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:32:51 GG4Ax3u00
その顔を眺めていると突然、なぜライアンがこのような反応をするのかに思い至って、
あたしの顔が破裂するかと思うくらい熱くなる。
全然意識していなかったけど・・・
あたしも・・・本などの知識だけしか知らないけど・・・
愛し合う男と女が夜にベッドに入ると、裸になって・・・その・・・ニョモニョモするらしい・・・

「べっ・・・別に愛し合ってないしっ!」
「はぁ・・・?」
「とにかく早く寝なさいよ!」
そう言ってライアンをベッドに突き飛ばす。
何言ってんだあたし、何やってんだあたし。まるであたしが襲うみたいな・・・
でも混乱したあたしの暴走は止まらない。
思いっきりベッドから毛布を引っぺがす。
当然、上に乗っていたライアンはひっくりかえる。
「はい!早く隅っこに寄る!」
ライアンはあわててベッドの隅に体を寄せる。
あたしはランプを消してから勢い良くベッドに飛び込み、毛布をかぶった。
「それじゃお休みなさい!」
「う・・・うむ。お休みホイミン殿」

57:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:34:20 GG4Ax3u00
そして夜が明け・・・・・・って眠れるわけなーい!
あたしのすぐ後ろでは男が、いや野獣が牙を研いで狙っているのよ!
ちょっとでも変な動きをしたら、ぶっ飛ばしてやるんだから!
あたしは身を固めて、背後に全神経を集中していた。
しばらくすると、ガサリと後ろで身じろぐ音がした。
キタッ!あたしは拳を構えて後ろを振り向く。

・・・そこには、無防備な顔をさらして寝息を立てているライアンがいた。

こ、こいつ、あたしがこんだけ意識しているのに。
あんただってさっきは少し意識していた様子だったのに・・・
あたしは毒気を抜かれたように、呆然とライアンの寝顔を眺める。
このまぬけな寝顔・・・でも見ているとなんだか安心するような気がする。
じっとライアンの顔を見つめていると、あたしにも眠気が襲ってきた。

「今日はいい夢見れそう」
小さくつぶやくと、あたしは静かに目を閉じた。

58:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:35:47 GG4Ax3u00
いつもの森を歩く。
でも今日は2人。他愛のない話をしながら歩くのは楽しい。
ライアンは送らなくていいと言ったのだが、あたしが無理を言って付いてきたのだ。
だってこいつ、また迷って野垂れ死にしそうだし。
それに、どうしても言っておきたいことがあった。

(また、遊びにきてね)

簡単な言葉だ。でも言うタイミングが掴めない。
どうでもいい話は出来るのに、軽口は叩けるのに、一番言いたいことが言えない。
木々の隙間からのぞく空は突き抜けるように青いのに、あたしの心はだんだん
霧が濃くなっていくようだった。
そうこうしている内に、森の出口まで来てしまった。

「本当に世話になった。御礼は改めてさせて頂く。」

御礼をするということは、またあたしを訪ねて来るということだ。
でもあたしは御礼なんか要らないし、それにその物言いが形式的でイヤだった。
だからちゃんと言わないと・・・

59:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:37:16 GG4Ax3u00
「あ・・・あの・・・」
「?」
「そ、その・・・また・・・・・・また行き倒れないように気をつけなさいよね!」
ライアンは一瞬あっけに取られた顔をしたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「うむ。ホイミン殿に迷惑をかけたら、また怒られてしまうからな。
 気を付けよう。それでは失礼する。」
そう答えてから、振り向いて歩き出そうとする。

ああああそうじゃなくて、言わないとちゃんと言わないと・・・
「ちょっと待ってよ!」
ライアンがもう一度こちらを振り向く。
「だから・・・!また・・・ま・・・」
どうしても面と向かって言えない。頭から湯気が出そうだ。
その時ライアンの背後でガサリと黒い影が動くのが見えた。

「どうしたのだ?ホイミン殿。」
「ま・・・ま・・・まっ魔物よ~!!」

60:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:38:57 GG4Ax3u00
現れたのは、きりかぶおばけとバブルスライムだった。
きりかぶおばけは、力が強いが動きはそんなにすばやくない。
バブルスライムはちょこまか動き回るのは得意だが、直線的な動きは苦手だ。
簡単に逃げ切れる!一瞬で判断しライアンに声を掛けようとそちらを見ると。

「ぬおおおおおおおお!!」
すでにライアンは剣を振りかざし、魔物たちに突っ込んでいた。
「ちょっとなにやってんのよライアン!早く逃げない・・・と・・・!」
最後まで言葉をかけることが出来ずに、あたしはその動きに息を飲んだ。

魔物たちに突っ込んだライアンが目にも見えない速さで剣を一閃させると、
バブルスライムは一瞬で真っ二つにされていた。
しかし剣を振り下ろした時に出来た隙に、きりかぶおばけが攻撃を仕掛ける。
明らかに攻撃は当たっていたのだが、ライアンは気にした様子も無く
返す刃で、きりかぶおばけを一撃で仕留めてしまった。

この人滅茶苦茶強い・・・

61:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/16 00:44:00 WQgQpXbZO
さるくらった自己支援

62:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:47:39 ulO9sqhI0
この人滅茶苦茶強い・・・

あたしが魅入られたようにボーッとしているとライアンが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
あたしはハッと我に返る。
「え?別にあたし何もしてないし、見てただけだし・・・」
「そうか、それは何よりだ。」
そう言ってライアンはあたしの肩を軽く叩く。
その時ライアンの右の二の腕に痣が出来ているのが見えた。
さきほど、きりかぶおばけに攻撃を受けたところだ。

「ちょっと!怪我してるじゃない!治してあげるから見せてっ!」
「なに、こんなもの怪我の内には入らない」
「いいから早く見せなさい!」
ライアンは苦笑いを浮かべながらも、腕をあたしに向かって差し出した。
あたしはすぐにホイミを唱えた。

63:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:48:57 ulO9sqhI0
呪文をかけ終え、腕の様子を確認しながらつい愚痴のように呟く。
「なんで逃げないのよ。魔物をいちいち相手にしてたら身が持たないでしょ」
「戦士が敵に後ろを見せるわけにはいかぬ」
ライアンはさも当然という様にこう言った。
だがいくら強くたって、戦い続ければ少しずつダメージは蓄積してくる。
今の戦いがいい証拠だ。そして必ずいつかは体力が尽きる。

あたしは何故だか、だんだんイライラしてきた。
(なにそれ、プライド?命のほうが大切に決まってるじゃないの!)
怒鳴り散らしてやりたかったが、それをするとライアンの今まで生き方を
否定することになってしまいかねないので、何とか堪え、別の質問をした。
「薬草たくさん持ってるの?」
「いや、切れた」
こいつこの先どうするつもりだったんだろう・・・
「毒消し草は持ってるの?」
「いや、無い」
ここらの森やその周辺では、毒をもった魔物が生息している。
いくら強い戦士でも町から遠く離れた所で毒に冒された時、それを消し去る
手段が無ければ、死を待つのみである。
しかしライアンはそれがどうしたと言わんばかりの間抜けヅラをさらしている。

・・・あたしの訳の分からない怒りは頂点に達した!

64:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:50:27 ulO9sqhI0
「・・・あたしも付いて行く」
「へ?」
言葉の意味が伝わらなかったのか、ライアンは呆けた返事をする。
「・・・だからあたしも一緒に付いて行ってあげるって言ってんのよ!!」
今度は意味を理解しライアンは慌てて否定した。
「いや、この危険な調査にホイミン殿を連れて行くことは出来ぬ」
だがあたしは止まらない。お構いなしに捲くし立てた。
「あんたなんかほっといたら、すぐ野たれ死んじゃうんだから!
 大雑把すぎるのよ!どうせ何も考えてないんでしょ!
 あんたなんかに一人旅は無理なの!今まで生きていたのが奇跡よ!
 あんたはあたしが見てないと駄目なの!死んじゃうのっ!」

言いたい事をぶちまけて、ハッと冷静になると場の空気が凍り付いてるのに
気付いた。
ライアンは困ったような、悲しそうな顔をして無言であたしを見つめている。
そして興奮しすぎたせいか、自分の頬に涙が流れているのを意識した。


65:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/16 00:52:03 ulO9sqhI0
「ねえ、付いていったら駄目?あたしだって回復役くらい出来るし」
ライアンはなおも無言だ。断る言葉を探しているのだろうか。
「あたしだって、子供が行方不明になってるなんて事件聞いたら黙ってられない。
 助けてあげたいと思うし、子供を攫っている奴がいるならそいつらは許せない。
 ねえ、一緒に連れてって!二人で事件を解決しましょう?」
あたしは真剣な目で、ライアンを見つめる。

ライアンはあたしの目を見返しながら、しばらく考え込んだ後に、やっと口を開いた。
「ホイミン殿の気持ちはわかった。しかし、私には報酬を払うあてがない・・・」
ここで報酬の話が出てくるとは、あたしも虚を突かれた。
ライアンは、よほど生真面目な性格なんだろう。少し可笑しくなる。
「別に報酬なんていらないし・・・あっそうだ!今回の調査が無事終わったら
 ライアンの故郷、バトランドを案内して。報酬はそれでいいわよ。」
いまだライアンは迷っているようだったが、一応決心したらしい。
「・・・あいわかった、それでは協力をお願いする。共に参ろう。」
そう言って、右手を差し出す。

あたしはその手を握り返し、最高の笑顔で答えた。
「うん、一緒に行こう。これからよろしくね♪」

66:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/16 00:58:04 ulO9sqhI0
というわけで、いきなり初夜(笑)編と旅立ち編でした。
エアエッジだから回線切れば、さるさんも怖くないぜ!

ではお休みなさいませ~

67:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/16 01:49:26 /SSYRI9E0
乙でした!
王道なのにこのスレでは毛色の違うツンデレがイイ!
しかし、ホイミンw

68:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/16 07:30:57 J/jBXWSL0
投下乙~!
初夜編ってwww続きが楽しみだwww

69:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:04:03 pAfllEWB0
レスありがとうございます!
スルーされなくて良かった・・・

では続き行きます。
でも今日は電波の調子が悪いので、うまく投下出来るか・・・
もうこんな田舎イヤじゃ!

70:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:04:55 pAfllEWB0
あたし達は、まず西にあるイムルの村に向かった。
この村で子供消失事件が頻発しているらしい。
あたしもたまに買い物に来る村だ。前に来たときはそんな事件は起きていなかった。

「イムルの村へようこそ!」
いつもと同じお兄さんが迎えてくれる。
そういえばこのお兄さんは、いつもここにいるけど何の仕事をしているのだろう。
もしかして村の入口で、訪れる人を案内するのが仕事なのだろうか。
特に観光の目玉もないし、訪れる人もそれほど多くないこの村で?
うーん。だとしたら羨ましいかぎりの税金ドロボーだ。
もしあたしがこの村に住むことになったら、ぜひ替わりにやらせてほしい。
男の人よりも、あたしみたいな可愛い女の子のほうが良いでしょ?

そんな愚にもつかぬ事を考えている間に、ライアンとお兄さんの話が
終わったようだ。
「学校の校長先生に事情を伺う」
どうやら学校の校長先生が、事件について一番詳しいらしい。
まず、校長先生の話を聞きに行くことにした。

71:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:06:00 pAfllEWB0
学校に入ると、走り回る子供とそれを追い掛け回す女の先生が目に入った。
どう見ても子供の方が足が速そうだ。しかし着かず離れずで二人の距離は変わらない。
先生の方がからかわれている様に見える。
その光景を眺めて微笑ましく思いつつ、もし自分が先生の方だったら
頭にくるだろうなぁと思った。

・・・どうもさっきから「もし自分が~だったら」って考えることが多い。
いつかはこの村や、もっと大きな街にも住みたいと思っていた。
でも実際に住んでからの事を考えると、何故か言われようのない不安が襲ってくるのだ。
今こんなふうに村の人と自分を重ねて考えられるのは、やはりライアンと一緒に
居るからだろうか。ライアンと一緒に住むならあたしでも大丈夫かな・・・

などと考えている内に、だんだん頬が上気してくるのがわかる。
自分の想像に自分で照れるとかありえない。どうしてしまったんだろう。
ライアンと一緒に居られるのは楽しいが、その反面あたしがあたしじゃ無くなっていく
ような気がする。変だ。何かの病気だろうか・・・

72:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:07:06 pAfllEWB0
教室を覗くとまだ授業中だったようだ。
あたし達に気付いた初老の先生が、授業を中断してこちらにやってくる。
「おお、あなた方が王宮から派遣されてきた戦士殿ですな。
 私はこの学校で校長を務めております、ボルムと申します。
 事件のことについて分かる限りお教えしましょう。さあこちらへ」
そういって、あたし達を違う部屋へ案内しようとする。
しかしライアンが、いつもの生真面目な口調で言った。
「行方不明の子供も大事ですが、今居る子供達も大事。授業をやめさせる
 訳にはいきませぬ。」
校長先生は立ち止まり、顎に手をかけ眉をしかめる。
「ふむ、一理ありますな。しかし攫われた子供達は今も怖い思いをしているやも
 知れませぬ。出来るだけ早く救出してやりたいのですが・・・」
あたしもそう思うのだが、ここはライアンの味方をしてやろう。
王宮戦士が、自分の出した言葉を引っ込めるのは格好がつかないだろうから。
「あたし達、別の場所でも調査しなきゃならないし、話は後でいいです。
 どうぞ先生は授業を続けてください。」
「うむ、そうですか。それでは授業に戻らせて頂きます。学校が終わるのは夕方
 なので、その頃にもう一度お訪ね下さい。」
そう言うと校長先生は教室に戻っていった。


73:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:08:48 pAfllEWB0
「きゃ~コレかわいい~。見て見て似合う?」
「う・・・む。似合わんことは無いが、今はそれどころじゃないだろう」
「なによ~、ちょっとくらいいいじゃなぁい」

今あたし達は、商店街に来ている。情報収集するのに人の多い所の方が
良いだろうと判断してのことだ。
調査という目的があるのは分かっているが、二人で来ているという事実に
どうしても、あたしの方がはしゃいでしまう。
情報収集の方法として、先ずお店に入って買い物をする振りをしながら
店主と世間話をしつつ情報を引き出そうという作戦だった・・・のだが。

一方、ライアンの方は買い物をする振りだけだというのに、店主との話が終わると
毎回お礼と言わんばかりに、律儀に何か買おうとする。
大してお金を持っていない事を知ってるあたしは、全力で店主を誤魔化し
買うのを止めさせる事になる。お互いに非常に疲れることになってしまった。

そんなこんなで、世間知らず二人の情報収集は大した成果を上げられなかった。
変わった情報といえば子供みたいなしゃべり方をする男が、パンを盗んで
牢屋に捕まっているということくらい。


74:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:10:31 pAfllEWB0
商店街をあらかた探索し終わったころ、ちょうど日も暮れてきたので
再度、学校に向かうことにした。
その途中、物陰から数人の子供達が飛び出してきた。
「ねえ戦士様!アレクスをバトランドに連れて行って罰を与えるの?」
いきなりの問いかけに、あたし達は意味が分からず固まってしまう。
「アレクスはいい奴だよ!一緒に遊んだもん!」
「とても優しいやつなんだ!」
「パンを盗んだのはお腹が空いてただけだよ!」
「本当に子供だから良い事と悪いことの区別がつかないだ!」
「たくさんご飯を分けてあげられなかった、僕達が悪いんだもん!」
「連れてかないで!許してあげて!」
次々と子供達が懇願するように訴え続ける。
どうやら先ほどの情報収集で知った、変わった男のことらしい。
子供達はライアンのことを、王宮から派遣されて来た罪人を罰する執行人だとでも
勘違いしているようだ。
ライアンは完全に混乱しているようで、事態が飲み込めていない。
ここは、あたしが子供達をなだめてあげなくちゃ。

75:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:11:49 pAfllEWB0
「大丈夫よ。アレクスを連れて行ったりしないから。
 ひどいことされないようにように、偉い人にお願いしてあげる。
 それにあたし達は、行方不明になってる子供達を捜しに来たの。」
子供達の喧騒が止む。
「本当?」
「ええ本当よ。」
「じゃあ、ポポロやクルーク達も帰ってくるんだ!」
ポポロやクルークというのは行方不明になっている子供のことだろう。
絶対助けるとは約束できない。すでに最悪の事態になっている可能性もある。
それでもあたしは子供達を安心させるために断言した。
「ええ必ず連れて帰るわ。だからみんな大人しく待っているのよ。」
子供達に喜色の面が広がる。素直でかわいい子達だなあと、一番前の子の
頭を撫でようとした時、
「ありがとう!僕達待ってるよ。約束だからね、おばさん!」

ピキッっとあたしの笑顔が固まる。
お ば さ ん ・ ・ ・ ?

76:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:12:41 pAfllEWB0
確かに子供達からすれば、背の大きい人はみんなおじさんおばさんに見えてしまう
かもしれない。でもピチピチの乙女を捕まえておばさん?ちゃんと顔を見なさいよ!
あ、もう夕方で薄暗くて顔が良く見えないのかな。だとしたらそうよ!暗いのが
いけないのよ!沈んだ太陽のせいよ!太陽のバカー!!

表情を凍らせたままグルグル思考を巡らせていると、やっと話の流れに追いついた
ライアンが子供達に言う。
「うむ、約束だ。もう遅いからみんな家に帰りなさい」
「うん!がんばってね!」
子供達は元気に返事をしてそれぞれに散らばって行く。
そして怪しげにブツブツ呟く女と、それを見つめる男だけが取り残された。

「さて、と」
ライアンがあたしに向かってニヤリと言う。
「では学校に向かうとしようか。お ば さ ん 」

ビキッと音がした。今度は表情が固まった音ではない。
感情を収めておく器が破壊された音だ。

77:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:13:33 pAfllEWB0
「な・ん・で・すってええぇぇぇ!!」
あたしは背後からライアンに襲いかかり、羽交い絞めにする。
「この口か!そんな事を言うのはこの口か!!」
そう言いながら、思いっきりライアンの唇を引っ張る。
「ふふぁん、ふふぁん、いひゃい!」
ライアンは予想以上にあたしがキレたことに驚いたのか、すぐ謝罪の意を表したようだ。
だが、そう簡単に許すわけにはいかない。
「誰がおばさんよ!」
グイ!
「あたしは記憶が無いから本当の年齢は分からないけれど!」
グイ!
「どう見ても二十歳前でしょ!」
グイイ!
「でも本当の所は分からないから不安なのよ!!」
ギュウゥ!

腕の力が入らなくなるまで抓りあげて、ハアハア息をつきながら手を離す。
ライアンの唇は真っ赤に腫上がっていた。

78:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/17 00:14:48 pAfllEWB0
口元をさすりながら、ライアンが改めて謝罪する。
「いやすまん。そんなに年齢の事を気にしているとは思わなかった。
 そういえば、記憶が無いんだったな。冗談が過ぎた。」
あたしは恨めしそうにライアンを見上げながら言った。
「まったく、乙女心がわかってないんだから!だからモテナイのよ!」
「いやはや、抗弁の余地もない」
ライアンは苦笑いを浮かべながら、頭を掻く。
あたしはフン!とそっぽを向きながら、
「まあいいわ。許してあげる。ホラッ学校に向かうわよ!」
と勝手に歩き出した。
ライアンは慌ててあたしの後をドタドタと付いてくる。
そんな様子を見ていると、先ほどまでの怒りが嘘のように消え、可笑しさが込み上げて
来る。つい噴出しそうになったけど何とか堪えた。だってもっと反省させてやらないと。

でも、真面目一本槍だと思っていたライアンが冗談を言うなんて。
結構あたしに気を許してくれている証拠かな?あたし達仲良くなってるのかな?
密かに頬を染めながら、あたしは学校へ向かう道を無言で歩いた。

79:ホイミンの人
09/03/17 00:28:05 oc6t+3W/O
今日はここまでにしておきます

80:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/17 02:35:48 cp15eP1P0
うぽつ~!
ホイミンとの会話でニヤニヤしてしまったw

投下量も丁度いい感じだし、当分楽しめそうだwww

81:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/17 12:38:06 NTF9iLsm0
活気が出てきたね。良いことだ

82:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/17 12:45:46 uRETs4yg0
乙!
堅物のライアンに駄洒落ではないジョークを言わせるのがイイ!

83:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/17 15:47:06 O6jJhdNX0
なんと言うタイミングだったのでとりあえず貼ってみる
URLリンク(www.nicovideo.jp)

>>ホイミソの人
投下乙。凄いペースだけど完結させてるからこそかな。
次回も期待してます

84:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/17 18:03:27 W0fGbGjuO
ホイミソGJ!まさかホイミン擬人化でくるとは思わんかった。
しかしなんか青髪+ホイミンと聞くと3の僧侶の生まれ変わりかなんかと妄想しちまう。

85:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:32:55 /+ueDkyf0
昨日も投下しようとしたけど、全然電波が立たなかったんだぜ…orz
今日も危うい。

>>80ニヤニヤして頂けて幸いです。今後も「この作者キメェwww」って感じでニヤニヤして下さいw
>>81俺なんか居なくても、CC氏、楮書生氏はもちろん、前スレの>>772氏も控えてるんだぜ!
   もしかしたらYANA氏も・・・シコシコSSの準備しながら、「このスレ書き手がイパーイ」と一人ニヨニヨしてましたw
>>82ありがとうございます。一応ライアンもキャラがぶれない範囲で、はっちゃけてもらうつもりですw
>>83エッジじゃ動画関係は見れないの・・・orz
   一応毎日投下するつもりではいますが、時間的・電波的に出来ない日もあるかも。
>>84今回のコンセプトは「俺が萌えるツンデレ」なので、好きに脳内補完してくださいww


…うむ、全レスはやめた方がいいな。ついつい長くなってしまう。
では行きまーす。

86:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:34:06 /+ueDkyf0
校長先生に案内されたのは、棚に本がたくさん並び、立派な机の置いてある部屋だった。
おそらく、校長先生の執務室なのだろう。
「さて、事件の話でしたな。」
校長先生が、事件のあらましについて教えてくれた。
事件が起こったのはここ1ヶ月の間であること。
居なくなった子供達は6人で、特に家出とか家庭に問題を抱えていた訳ではないこと。
行方不明になるのは共通して、子供達だけで遊んでいる時だという。
子供達の話では、本当に消えるように居なくなったということだ。
中にはどこかに飛んで行ったという噂まであるらしい。
また、怪しい人間が居ないか村の内部、周辺に警戒を払っているが特に異変を見つける
ことは出来なかったと話してくれた。

「うーん、結局犯人の影すら見えないわねぇ」
ライアンも隣で頷く。結局分かったのは誘拐事件が起きていること。
そしてその原因が分からないということだけで、最初の情報から進展がない。
唯一手がかりになりそうなものは、子供達だけの時に事件が起きるということか。
「とにかく子供達だけで遊ばせるのはやめさせたほうが良いんじゃないでしょうか」

87:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:35:35 /+ueDkyf0
あたしがそう提案すると、校長先生は、
「ええ、子供達だけで遊ばせないように、なるべく大人の目の届くところに置くように
 しているのですが、やはり子供もそれでは満足出来ないようで・・・
 私達の目を盗んで、どこかでこっそり遊んでいるらしいのです。」
と困ったようにため息をついた。
「子供達に場所を問い詰めてみたのですが、誰一人話してくれなくて・・・
 ただ、秘密の場所としか言わないのです。」
ライアンは大きく頷いて
「子供同士ではありがちですな。私も小さい頃はよく秘密基地を作ったものです」
と言って、ハハッと笑いを浮かべた。

どうせあたしはそんな思い出が無いわよ。記憶が無いんだもん。
ちょっと拗ねそうになりながら、話を本題に戻す。
「でも、子供達自身に危険が迫っているのにやめさせることは出来ないんですか?
 ちゃんと言い聞かせれば・・・」
「はい。出来るだけ言い聞かせてはおるのですが、子供達にとって遊びの楽しみと
 誘拐される怖さは、別物のようでして・・・なかなか言うことを聞いてくれません。
 もうちょっと大人の考えを分かってくれれば・・・」
ここで一旦区切って、校長先生が自嘲気味に笑う。
「いや、子供なのに大人になりなさいとはおかしな話ですな」

88:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:37:25 /+ueDkyf0
子供なのに大人かあ。どうしたもんかと悩んでいると、まだ会ったことも無い
ある人物のことが浮かんだ。
「校長先生!アレクスって男のこと知ってますか?」
校長先生は突然その名が出てきたことに驚きながら
「ええ、この村で十数年ぶりに出た犯罪者ですな。といってもお腹を空かせての
 パン泥棒ですが。可哀想な男で、これまでの記憶を失って、子供のように
 なっております。」と答えた。
あたしは頭の中で繋がったある考えを、校長先生に話す。
「そのアレクスと子供達は一緒に遊んでたらしいの。食事の面倒も子供達が
 見てたそうよ。アレクスなら子供達の秘密を知ってるんじゃないかしら?」
校長先生はふむと顎に手をかけながら頷く。
「それは初耳ですな。よろしい、明日衛視にアレクスの尋問を行ってもらいましょう」
「待って!尋問なんてそんな事駄目です。子供達の事情をある程度知っているあたし達
 に話をさせてもらえませんか?アレクスという男が子供みたいになっているのなら
 尋問なんかしたら、意固地になって余計話さなくなるかも知れません」
あたしの話を聞いて、校長先生は目尻に柔和な笑みを浮かべた。
「確かにそうですな。では明日面会できるように衛視に連絡を入れておきましょう。
 ほほっあなたは子供の心がよく分かっていらっしゃる。どうですかな?わが校の
 先生になられては?」
「そんな先生だなんて・・・」
あたしは赤面してうつむく。ふとライアンを見るとニコニコしてあたしを眺めている。
てかあんた、今の話の中でなんか役に立つこと言った?
嬉しいんだか恥ずかしいんだか分からない複雑な気持ちを、あたしはライアンの足を
踏みにじることで晴らした。


89:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:38:05 /+ueDkyf0
「それではアレクスの件、いや誘拐事件の件よろしく頼みましたぞ」
校長先生に見送られて、あたし達は宿に向かう。
アレクスとの面会は明日なので、今日はもう休むことにしたのだ。

「やっと事件解決への糸口が見つかったようだな」
歩きながらライアンが話しかけてくる。
「何言ってんのよ。まだ解決するかどうか全然分からないでしょ」
「いや、ホイミンが居ればきっと大丈夫だ。先ほどの話っぷりはなかなかだったぞ。
 私一人ではこうはいくまい。ホイミンが居てくれて良かった」
そう言ってライアンは手を差し出した。
「先ほど商店街を回った時に買ったのだ。ホイミンにと思ってな」
手のひらに乗っていたのは、青いイヤリングだった。
スライムを思わせる意匠をこらしていて、とても可愛らしい。
あたしの顔がカッと熱を帯びる。
「い、いきなり何言ってんのよ!一緒に行くって言い出したのはあたしだし!
 別に、何か欲しかったからじゃないし!」
「まあそう言うな。感謝の気持ちだ。受け取ってくれい」
ライアンは、笑みを浮かべて手を差し出している。
誰かからプレゼントを貰うなんてもちろん、初めての事だ。
あたしは、恐る恐るイヤリングを受け取った。

90:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:39:13 /+ueDkyf0
手にしたイヤリングを眺めていると、素直に嬉しいと思う気持ちが湧き上がった。
心が暖かさに包まれる気がする。いや熱すぎて焼けてしまいそうだ。

「ねぇ。着けてみてもいい?」
ライアンは当然というように頷いた。
あたしは緊張で震える手で、両方の耳にイヤリングを着けた。
「ど・・・どうかな・・・?」
恥ずかしさで顔を伏せがちにしながらも、ライアンを見上げて感想を聞く。
「うむ。よく似合っておるぞホイミン」
あたり前のように恥ずかしい事を言うライアンに、もう目を合わせて居られなくなった。
「べ、別に褒めたって何も出ないんだからねっ!」
そう言ってあたしはうつむきながら後ろを振り返り、ドスドスと早足で歩き始める。
が、大事な事を言っていないのに気付いて、その場で振り向いて口を開いた。
「・・・あ・・・ありがと!」
そしてまた早足で歩き出す。
後ろでライアンが笑顔でゆっくりと、何度も頷いた。
無理にあたしに追い付こうとは思っていないみたいだ。

二人の距離が結構開いたところで、あたしはふと気付いた。
(そういえば、いつの間にかあたしの名前が呼び捨てになってる。
 ・・・ちょっと嬉しいかも)


91:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:40:07 /+ueDkyf0
今日の宿に到着し、すぐにチェックインを済ませ部屋に案内される。
うん。ちゃんとベッドは2つある。安心した。
それ以前に若い男女が同じ部屋に泊まるということ自体、間違ってるような気が
しないでもないが、気にしないことにした。

「うーん。今日は昼間っから歩き通しだったから、汗かいちゃった。
 あたし先にお風呂入ってくるね」
「うむ。ゆっくりしてくるといい」
ライアンがベッドに突っ伏しながら答える。いくら屈強の戦士といってもやはり
疲れているのだろう。
ちょっといたずら心が湧き起こった。
「そういえばここのお風呂、絶好の覗きポイントがあるんだって。
 結構覗きが出るらしいわよ~?」
と、まるっきりの嘘を教える。
「あんたも覗きに来ないでよね!」
「うむ。気を付けよう」
ライアンが突っ伏したまま答える。
なんだもっと慌てるかと思ったのに普通の反応だった。つまんないの。
でも「気を付けよう」ってなにかしら?
若干違和感を感じつつ、あたしは風呂場に向かった。


92:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:41:01 /+ueDkyf0
女湯の着替え場に入ると、まだ誰も居なかった。部屋も薄暗い。
あたしは気兼ねなく一糸纏わぬ姿になると、姿見に自分の全身を映した。
改めて自分を観察してみる。

パッチリとしたブルーの瞳とお揃いの長くしなやかな髪。
小さいがよく筋の通った鼻の下には、蕾のように可愛らしい唇が咲いている。
胸は大き過ぎず小さ過ぎず、形よく上向いている。
腰からお尻にかけては、無駄な肉が付いておらず滑らかな曲線を描いている。
そしてそこから、バランス良くスラリとした足が伸びている。
肌の色は透き通る様に白い。薄闇に浮かぶ姿は陽炎のようで、後ろの壁が透けて
見えてしまいそうな錯覚すら覚える。

この村で見た何人もの女性と自分を、頭の中で比べてみる。
出来るだけ客観的に考えてみても、あたしはかなりの上位に入る、と思う。
その気になれば、大抵の男は落とせるんじゃないかな?多分あいつだって・・・

顔が真っ赤になっているのに気付く。なっなに考えてるんだ!はしたない!
あたしは頭を左右にブンブン振って、浴室に向かった。

93:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:42:34 /+ueDkyf0
「わあ・・・」
お風呂場は明るく綺麗な檜造りだった。広くはないが、清潔感がある。
湯船にはリラックス効果を高める為だろうか、香草が浮かんでいる。
どちらかといえば田舎のこの村では、上出来の部類だ。
打ち湯をして、早速湯船に浸かってみる。
「はあ~気持ちいい~、それにいい香り~」
深く息を吐き出すように、つい間延びした言い方になってしまう。
本当に気持ちが良い。もう一生このままでいたいと半ば本気で思った。

口までブクブクと浸かったままどのくらい時間が経っただろうか。
さすがにのぼせてきたので、体でも洗おうと湯船を出ようとした時、
「ガサリ」「ドカッ!」
と窓の外で大きな音がした。恐る恐る窓から外を覗いてみると、
見覚えのあるピンクの鎧がちらりと見えた。
・・・あいつマジで・・・あたしの嘘を真に受けて来やがった。
程よく温まっていた頭が一気に沸騰した。
これは痛い目にあわせてやらなければ気が済まない。
服を着るのももどかしく、あたしはタオルを体に巻いて裏口からこっそり出た。

94:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:44:59 /+ueDkyf0
足音を忍ばして音のしたほうに近づいていくと、茂みの影にピンクの鎧が見えた。
あたしに背中を向ける形で座って、何事かをやっている。
「くっ」とか「うっ」という呻き声が漏れ、体がゆさゆさと揺れている。

・・・コレッテオトコノヒトガコウフンシタトキニジブンヲナグサメルコウイジャ?

あまりの光景に一瞬意識が遠くに飛んでいってしまった。
ハッと我に帰ると更に怒りが込み上げて来た。こんな最低な奴だったとは。
正直に頼めば見せてやる・・・訳はないが、とにかくコッソリというのが許せない。
ライアンらしくない!
足元にちょうど手頃な大きさの薪が落ちていたのでそれを拾い上げ、そっと背後から
忍び寄る。間合いに入ったところで、薪を大きく振りかぶった。
「この変態!!」
横殴りに振りぬいた薪は、完璧にライアンの兜を捕らえ砕け散る。
頭に激しい衝撃を受けた犯罪者は、横に吹っ飛んで倒れる。
「あんた自分のした事分かってんの!?反省したって許されないわよ!
 憲兵に突き出してやるんだから!!」
蹲るライアンに激しく言葉をぶつけると、
「ひい!すいません!もうしません!すいません!」
と先ほどまでライアンが座っていた所から声がした。


95:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:48:13 VnHDzT7F0
よく見てみると、知らない男がうつ伏せになって頭を抱えて震えている。
誰だこの人?予想外の展開に頭が付いていかない。
「ううむ・・・」
頭をさすりながらライアンが起き上がってきた。
「ホイミンが自分で退治したい気持ちは分かるが、私をどかす為に殴るのは
 非道いだろう」
ライアンが仏頂面をしながら言ってくる。ライアンの怒った顔は初めて見たかも。
あたしに視線を合わせてくれない。
「え?それってどういう・・・」
「ホイミンが自分で言ったのではないか。覗きが出ると。不届き者が居るなら
 捕まえようと、周囲を警戒していたのだ。」
え?あたしの嘘を真に受けて見回っていたら、ほんとに覗きが居たと?
「つまりこの人が覗きってこと?」
うつ伏せの男を指差すと、その黒い塊はビクリと大きく震えた。
「うむ。風呂場に近づこうとしていた怪しい男が居たので捕まえた。
 ちょっと締めたら、常習犯だと自供したよ。今回は覗く前に捕まえたから
 ホイミンは安心するといい」
つまりあたしの大きな勘違い。ライアンは覗くどころか、覗きからあたしを守ろう
としてくれていたのだ。

96:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:49:06 VnHDzT7F0
「あ、ありがとう・・・あと、つい興奮して殴っちゃってごめんなさい・・・」
フッと肩から力が抜け、あたしにしては珍しく素直に謝れた。
「う、うむ。気にするな。女子の気持ちは分からぬが、知らぬ男に自分の裸体を盗み
見られるのは、気持ち良いものでは無かろう。未然に防げて良かった。」
ライアンはちょっと照れながら、許しの言葉らしき事を言う。
でも言葉とは裏腹に、こちらに目線を合わせてはくれない。
やっぱり怒っているんだろうか。あたしは視線を落とし黙り込んでしまう。
そんなあたしの様子に、ライアンは優しく言ってくれた。
「こちらの後始末は私に任せておくが良い。ホイミンは風呂に戻って入り直せ。
 随分体が冷えてしまったろう」
だが、やはりこちらを見てくれない。ついに我慢出来ず問いかけた。
「ねえ、何でこっちを見てくれないの?やっぱりまだ怒ってるんでしょ!」
ライアンは慌てて手をブンブンと左右に振った。しかしまだこちらを見ない。
「ねえ、ちゃんとお詫びするから許して?何でもするから。こんなことで
 ギクシャクするのは嫌なの。」
あたしが懇願するように言うと、ライアンがなおも視線を逸らしながら観念したよう
につぶやいた。
「うむ。それでは・・・今度からそんな格好で激しい動きはしない方が良いな」
そんな格好?あたしは自分の体を見下ろした。

97:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:50:25 VnHDzT7F0
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
バチーン!
ライアンの顔を引っ叩いてその場から逃げ出す。
体に巻いていたタオルがずれて、胸が丸出しになっていたのだ。
「なんで早く言ってくれないのよバカーーーーーー!!」
走りながら叫ぶと背後から
「こうなると思っていたから黙っていたのに理不尽な・・・」
とライアンの呟きが聞こえたような気がした。

風呂場に戻り、ドボンと勢い良く飛び込む。
ああ見られた見られたどうしよう見られちゃった。
頭まで完全に湯に浸かりながら身悶える。
どんな顔して会えばいいのか見当も付かない。
むしろこのままお風呂で溺れ死んでしまいたいいいいぃぃぃぃ!


その夜、イムルの村のとある宿の一室では、
ギクシャクと腹話術の人形のような笑いを浮かべながら話す女と、
まともに目をあわすことが出来ずに、顔を赤くして見当はずれな事を言う男の寸劇が、
延々と繰り広げられたという・・・

98: ◆TOrr/8J0yk
09/03/18 23:54:14 VnHDzT7F0
というわけで、お色気?とお約束でした。

ではお休みなさいませ~

99:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/19 01:34:32 EY6mP+pBO
なんとなくスレみよっかなと思ったら続きが!GJ!
なんかあの村といえば覗きイベントこんかなーと思ってたけど、ほんとにくるとわ!ニヤニヤ

100:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/19 02:03:25 27JWI7QI0
もう書き上がってるとはいえ、連日の投下乙

101:CC ◆GxR634B49A
09/03/19 23:12:28 NCf63kBk0
おおっ、新しい方が!!素晴らしいヽ(´∀`)ノ
投下お疲れ様です。連投規制あるから、レス数多いと大変ですよね。
最近のウチに足りなさ過ぎる軽快さが素晴らしいです。
今、ちょうど半分くらいでしょうか?
残りの投下も、頑張ってください。
横から失礼しました。

う~。。。ウチも早く進めたい。。。。

102: ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:21:20 XnGxQyIp0
レスありがとうございます。
自分以外の誰かに読んで頂けてると思うと、書いて良かったなと思います。

>>101
>軽快さ
ぶっちゃけCC氏の3~4話分の量を書くだけで、一年近くかかっております…
途中3カ月以上空いたり。
正直完成する確率の方が低かったので、出来るまでコソコソしていましたw



103:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:23:33 XnGxQyIp0
次の日の朝、あたし達は早速アレクスに会いに牢屋に向かった。
校長先生から話を通されていた衛視は、アレクスのいる地下牢へと案内しながら、
「強情な奴でしてね。いくら絞めても自分の罪を認めようとしませんわ」
と薄笑いを浮かべながら言った。
あたしはその顔に嫌悪感を感じるのを禁じえなかった。

「おじちゃんたち、誰?」
年の頃は25歳前後だろうか、体格のいい男が本当の子供のように問いかける。
「あたし達はあなたとお友達になりに来たのよ」
安心させるように牢屋越しに話しかける。
だが、アレクスは更に警戒を深めるように言った。
「やだ!大人の人は僕をいじめるんだもん!だから嫌いだよ!」
アレクスの体をよく見てみると、鞭で打たれたような痣がたくさんある。
あたしがジト目で衛視を睨むと、衛視は気まずそうに目を逸らした。
どうしたものかとライアンを見てみると、なにやら真剣な面持ちでこちらに
詰め寄ってきた。
「アレクス!お主アレクスではないか!」
「ひぃ!」
強い口調でライアンがアレクスに問いかける。アレクスは小さな悲鳴を上げた。
「覚えておらんのか。バトランドのライアンだ!フレア殿がずっと心配しておった
 のだぞ。今まで何をしていた!」

104:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:25:08 XnGxQyIp0
「う・・・う・・・」
「とにかく早く帰るのだ。フレア殿が待っている。」
「うわあああん!おじさん怖いよ~、いじめないでよお~!」
ついにアレクスは泣き出してしまった。
「ちょっとライアン!なにやってるのよ」
慌ててライアンを取り押さえる。
「相手は今子供なのよ、落ち着かせないとどんどん意固地になっちゃうわ!」
「う、うむすまない。顔見知りだったのでついな・・・」
「ええ!顔見知りだったの?だったら、何で名前聞いて思い出さないのよ」
「すまぬ。間違っても牢屋に捕まるような事をする奴ではなかったのでな。
 まさかこのアレクスだとは思わなかった」
ライアンの話によると、バトランドから旅立つ際、フレアという女性から行方不明に
なっている夫、つまりアレクスを探してくださいとお願いされていたそうだ。
アレクス・フレア夫婦は、ライアンが警備を管轄していた地域の住人だという。

「うーんどうしようか・・・」
アレクスは完全におびえてしまい、牢屋の隅で小さくなって動こうとしない。
ライアンは衛視にアレクスを連れ出せないかと交渉しているが、実際に盗みを
働いているので、牢屋から出すことは出来ないと衛視は頑として譲らない。

105:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:26:24 XnGxQyIp0
おそらくアレクスは、どこかで強く頭を打ったか、何か途轍もなく恐ろしい目に
会ったのだろう。それで記憶を失った。
記憶を取り戻させるには、もう一度頭に強いショックを与えるか、心に刻まれた
傷を癒してやるかのどちらかが必要だ。
どちらの方法から試すのかと考えれば、人道的にもまず後者だろう。
そして心の傷を癒すのに一番効果的な人は・・・

「ライアン!」
いまだ衛視と交渉中のライアンに声をかける。
「フレアさんを連れて来るわよ!」
「む?」
ライアンがこちらを振り向いて訝しげに首をかしげる。
「とにかく、アレクスに記憶を取り戻させないと駄目よ。犯した罪を認めることも
 償うことも出来ないわ。それじゃいつまでも牢屋から出ることは出来ない。
 フレアさんを連れてきましょう。きっと記憶を取り戻すきっかけになると思うの。」
ライアンはなるほどといったように頷く。
「うむ、それも一つの手だな」
「じゃあ早速フレアさんを迎えに行きましょう。」
「うむ。そうだな・・・・・・おい!」
ライアンはあたしに同意すると共に、衛視に向かって大声で怒鳴った。

106:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:27:06 XnGxQyIp0
「アレクスは記憶を失って子供返りをしておる!いくら拷問しても何も吐かない
 からな!これ以上体の傷が増えていた場合は、お主達が王国から罰せられると
 覚えておくがよい!!」
あたしすら戦慄してしまうほどのすごい迫力だった。
衛視はビクリと「了解であります!」といって直立不動になる。
「ではさっそく参ろうか、ホイミン」
一転して穏やかな口調でライアンが言い、歩き出した。
衛視と一緒に固まってしまったあたしは、ギクシャクした動きでライアンについて行く。
(ラ・・・ライアンを本気で怒らせたらやばいかも・・・)
そんな事を思いながら、地上へ出る階段をライアンの背中についていった。

外に出ると、太陽は中天に差し掛かりギラつく光を放っていた。
先ほどまで暗いところに居たので、つい目を細めてしまう。
この明るさの中で見るライアンは・・・いつものライアンだ。
先ほどの魔人のような迫力は微塵も感じられない。
少し安心して、ライアンに声をかける。
「衛視もひどいわよねぇ。子供になってるアレクスに拷問するなんて」
「うむ。王国の法では不当な取調べや、私刑は禁止されている。それに見た目は大人
 とは言え、子供返りしているアレクスに拷問は無かろう。いずれ上役に厳重な注意
 をするよう言っておく。」
ライアンがあたしと同じ憤りを感じていたことに、そしてそれを晴らしてくれた
ことに喜びを感じつつ、あたし達はバトランドに向かった。

107:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:28:54 XnGxQyIp0
「へえ、ここがバトランドなの?すごーい!」
ここは王都バトランド。イムルの村とは比べ物にならないくらい大きな建物が、
目の届く範囲を遥かに越えて続く。
大通りには人がごった返し、軒を連ねる商店からは活気のある掛け声が響いていた。
だが今は、買い物を楽しんでいる場合ではない。一刻も早くフレアさんをアレクス
の所に案内しなくてはならない。
あたしは、商店に並ぶ品物に後ろ髪を引かれながら、黙々と歩くライアンの背中に
声をかけた。
「ねえ。一応断っておくけど、今回は例の報酬の『バトランド案内』には
 入らないから、勘違いしないでよね」
あたし達が森を出る時に約束した、今回の事件が解決した後の報酬の話を確認する。
ライアンはこちらを振り返りニヤリと笑みを浮かべたあと、また前を向いて言った。
「安心しろ。事件が解決した後、ホイミンが満足するまで何日でも案内してやろう」
「ふーん。ならいいけど」
あえて気の無いそぶりで返事をする。
(もし一生あたしが満足しないと言ったらどうする気なのかしら)
ありえない仮定に想像を膨らませてみる。
だって、絶対あたしは面と向かってそんな事言えないし、下手したら逆プロポーズ
するようなものだ。大体自分で本当にそうしたいのかどうかも分からない。
この気持ちが、初めて親しくなった人に対する想いなのか、それともライアンだからこそ
そう思うのか、自分の気持ちが未だ掴めないからだ。
でもライアンなら、困った顔をしながらでも言う事を聞いてくれそうな気がする。


108:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:32:03 cfaSM0Ud0
自分の思考に澱んでいると、ライアンの足が止まった。
「ここがアレクスとフレア殿の家だ」
知らぬ間に繁華街を抜け、住宅街に入っていたようだ。前を見ると妙齢の女性が
すがるような表情で、丁度こちらに駆けて来るところだった。
「ライアン様!アレク・・・きゃ!」
慌てていたのだろう、こちらに駆けて来た女性・・・フレアさんはあたし達の目の前で
派手につまづき、そしてライアンに抱きついた。
「あ。申し訳ありません!わたしったらなんて粗相を!」
「いや、気にするでない。」
「ああっ申し訳ありません!申し訳ありません!」
そんなやり取りを、二人で抱き合ったまま続けている。
フレアさんの顔は羞恥からか赤く染まっている。その羞恥は目の前でコケタせいか、
それともライアンに抱きついているせいなのかはわからない。
あたしはモヤモヤしたイラつきを感じ、多少強引に二人を引き離した。

「えっと、あなたがフレアさんね?」
あたしの不機嫌そうな様子に、フレアさんはおびえたような目でこちらを見る。
思いのほか低く出た自分の声に戸惑ったが、急に変える訳にもいかないのでそのままの
トーンで続ける。
「あなたの『旦那さん』が見つかったわよ」

109:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:32:48 cfaSM0Ud0
つい『旦那さん』を強調してしまった。無意識に言ったことだが、言ってしまってから
「あなたには別に大事な人が居るでしょ」という牽制の意味が込められていることに
気付く。あたしってこんないやな性格だったっけ・・・

おびえていたようなフレアさんの顔が、パッと喜色に輝く。
「本当ですか!?いったいどこに?一緒に連れてきて下さらなかったのですか!?」
今度は、あたしに抱きつかんばかりの勢いでこちらに向かってくる。
「は!一緒に来れないということは何か大怪我でも・・・まさか死・・・!」
「ちょ・・・ちょっと落ち着いて!」
喜んだり勝手に自分で落ち込んだり忙しい人だ。こういう人を天然というのだろうか。
先ほどのライアンに抱きついた件も他意は無さそうで安心した。
「アレクスは盗みを働いて、いまイムルの村で牢屋に入れられているのよ」
「ええ!あの人が盗みなんて!ああどうしましょう!夫の罪はわたしの罪。
 あの人の罪を一緒に償わないと!わたしも牢屋に入らないと!」
「だからちょっと落ち着きなさいってば!!」
だんだん訳のわからないことを言い出したので、大声を出してフレアさんの言葉を
さえぎった。

「アレクスはどこかで、強いショックを受けて記憶を失っているのよ。
 そのせいで心が子供のようになっているの。盗みを働いたのもお腹が空いたと
 いう単純な理由だわ。善悪の判断が付かなかっただけよ。」


110:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:34:18 cfaSM0Ud0
「今は記憶を取り戻させるのが先決よ。フレアさんに会えば記憶を取り戻すきっかけ
 になると思うの。そうすれば罪を認め償うことが出来るし、犯した罪自体は軽い
 ものだから、すぐに出てこられるわ」
取り乱したフレアさんに丁寧に説明する。その甲斐あって話を理解してくれたようだ。
「つまりわたしがアレクスに会って、記憶を取り戻すお手伝いをすればよいと?」
「そ。思いっきり頭をぶん殴るよりは良いでしょ?」
あたしはいたずらっぽい笑みを浮かべて、フレアさんにウィンクした。
それでフレアさんの緊張が解けたのか、輝くような笑みを浮かべてこう言った。
「ええもちろん。それにアレクスに会えるんですもの。すぐにでも参りますわ」
改めてフレアさんを見ると、太陽の輝きのような赤い髪に、同じく輝くような笑顔。
同性のあたしから見ても綺麗だなと思う。もともとそうなのか、それとも想い人
がいるからそうなのか・・・

言葉通りにフレアさんの仕度はすぐに済んだ。
「道中の安全はこのライアンが守るから安心してね。ねっライアン?」
ライアンの背中を叩きながら言う。突然振られたライアンは少し慌てた様子だ。
「う。うむ。もちろんだ。安心するがよい。フレア殿」
「ええ。お願いしますわ。お二人方。」
フレアさんはにっこりと微笑んでそう答えた。

111:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:36:05 cfaSM0Ud0
道中何回か魔物の襲撃を受けたが、ライアンの敵ではなくフレアさんに危険が及ぶ
ことは無かった。
旅慣れていないはずのフレアさんも、泣き言一つ言わずあたし達に付いてきてくれた。
それとなくフレアさんとライアンの様子を確認していたが、特に何も無さそうだ。
フレアさんの頭にはアレクスのことしかない様子だった。
つい疑ってしまった自分に、激しく自己嫌悪してしまう。
そんなこんなであたし達は特に問題なくイムルの村に戻ってくることが出来た。
早速アレクスが拘置されている牢屋へと向かう。

アレクスは前に見たときと特に変わった様子もなく、不安そうにキョロキョロしている。
「アレクス!」
フレアさんが止める間もなく牢屋へと駆け出す。
「おばちゃんだ~れ?」
アレクスは無邪気に問い返す。フレアさんにとっては残酷な言葉だ。
ずっと想い、待ち続けていた大事な人に、他人扱いされるのだから。
「ああアレクス。本当に覚えてないの?わたしよ。フレアよ!」
フレアさんは必死に呼びかけるが、アレクスは困ったように首をかしげるだけだ。
さすがに会わせただけで記憶が戻るというのは、考えが甘すぎるか。
でも時間をかけて何度もフレアさんと話せば、きっと記憶を取り戻すはずだ。
なんだかあたしも切ない気持ちになって、目頭が熱くなるのを感じた。

112:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:38:19 cfaSM0Ud0
「ライアン・・・」
何かにすがりたくなって、ライアンの腕に手を添える。
「行きましょう。アレクスが記憶を取り戻すには時間がかかりそうだわ。
 あたし達は、別に調査を進めなきゃ。
 ここは二人にしておいてあげましょう・・・」
ライアンの手を引き、ここを去ろうと最後にフレアさんたちを一瞥する。

するとフレアさんはブラウスのボタンを外し始めたではないか。
「な・・・な・・・こんなところで何する気?」
いきなりの大胆な行動に、顎が外れんばかりに驚く。
フレアさんはあたしの声が聞こえていないようで、動きを止めようとしない。
豊満な胸をあらわにして、アレクスに向かって両腕を開く。
「ダッ・・・見ちゃダメー!」
あたしは慌ててライアンの両目をふさぐ。
だがやはりフレアさんはこちらの様子を気にした様子もなく、
「さあ、アレクスおいで。あなたの大好きなぱふぱふよ・・・」
そう言って、戸惑うアレクスの頭を抱え込んだ。

「はいぱふぱふ・・・ぱふぱふ・・・もひとつぱふぱふ・・・」
牢屋越しにアレクスの頭を抱え込んで胸にうずめ、胸で顔をマッサージするように
揉みほぐすフレアさんを、あたしは呆然と眺めていた。

113:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:40:04 cfaSM0Ud0
ぱふぱふって言葉だけは聞いたことあるけど、こういうことするのね・・・
はじめて見た光景に動きが固まる。かろうじてライアンの目を塞ぐ手を離すこと
だけはこらえた。ライアンも状況を察してか、あたしから逃れようとはしない。

しばらくそうしているとアレクスの表情が変わった。戸惑いの表情から幸せそうな
表情・・・いや、恍惚としただらしない笑みを浮かべている。
「どうアレクス?」
様子の変化に気付いたのかフレアさんがアレクスに問いかける。
「うへへ・・・やっぱりフレアのぱふぱふは最高だ~ね~」
だらしない男の声が響いた。明らかに先ほどまでとは別人だ。
「ああアレクス!思い出したのね!」
「やや!フレア!どうしてこんなところに!」
アレクスは慌ただしく周囲を見わたして、状況を確認している。
「なぜ俺は牢屋に入っているんだ!ここはどこだ!」
状況を確認したところで、更に混乱してしまったようだ。
あたしはフレアさんが服を着直したのを確認して、ライアンから手を離した。
ライアンは混乱するアレクスに歩み寄り声をかける。
「アレクスよ。お前は記憶を失い、そして盗みを働いたのだ。」
「ああ!ライアンさん。俺が盗みを働いたって?」
更に顔見知りを見つけて安心したのか、アレクスは幾分落ちついた様子で問い返した。

114:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:41:36 cfaSM0Ud0
ライアンが、これまでの経緯を知っている限り説明する。
話を聞き終えたアレクスは神妙な顔つきで、こう言った。
「ああ、全て思い出しました。俺はイムルに妻へのプレゼントを買いに来たんだ。
 その途中で魔物に襲われてしまって・・・」
あたしは意気消沈した様子のアレクスに恐る恐る質問する。
「ねえアレクス。記憶を失っている間の事も覚えてる?」
「ええ覚えています。食べ物にも困った俺の面倒を子供達が見てくれました。」
やった!これで事件の手がかりが得られる。思い通りの展開に、アレクスに
勢い込んで尋ねる。
「じゃあ子供達の秘密の遊び場って知ってる?」
「ええ知っていま・・・え、ああいや、それは・・・」
アレクスは答えかけて、ごまかすように取り繕う。子供達の世話になっていたのだ。
恩義を感じその秘密を漏らす事に抵抗があるのだろう。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
「子供達が誘拐されている事件を知ってる?どうやら事件は子供達だけの時に
 しか起こらないらしいの。きっと秘密の場所に何かあるんだわ。子供達の
 安全がかかってるの。お願い、教えて!」
「なんとそんな事件が!一緒に遊べなくなった子がいるなとは思っていましたが・・・」
アレクスは心底驚いたように言って、そして納得したとばかりに話し始めた。

115:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:44:25 cfaSM0Ud0
「わかりました、お話ししましょう。
 子供達はそこに俺の住処を作ってくれました。そして、毎日俺の為に食い物を
 持ってきてくれました。そこには洞窟があり魔物が住んでいますが、なぜか子供達
 には手を出さないのです。安心した子供達は洞窟の奥へと探検していました。
 洞窟の奥で宝物を見つけたと自慢している子供もいました。」
アレクスの話には合点のいかない点があった。魔物が子供に手を出さないというのが
信じられない。実際は安心させて、子供が一人になったところで捕まえているのでは
ないだろうか?そうすることで餌が向こうからやってくるのだ。それくらいの知恵を
魔物が持っていても不思議ではない。だがそうだとすると行方不明の子供の安否は
絶望的になる・・・
いやな想像を振り払ってアレクスに再度尋ねる。
「で、その場所はどこなのよ。」
「場所は森の入口にある看板から、南東に向かったところです。良く調べれば下生えの
 草に子供が通れるくらいトンネルが見つかるでしょう。トンネルといっても門の代わり
 の様な物で簡単に廻り込むことが出来ます。その先に何度も子供達が通ったせいで
 できた獣道のようなものが見つかるはずです。その道をたどって行けばすぐに秘密の
 遊び場にたどり着くでしょう。」
あたしは話を最後まで聞くのももどかしく、すぐにライアンを振り向く。
「聞いたわねライアン。すぐに出発するわよ!」

こうしている間にも新たな犠牲者が出るかもしれないのだ。ライアンも状況が分かって
いるのか「うむ」と頷いて、牢屋出口の階段に向かって歩き出す。
あたしはアレクス達の方を振り向いて声をかける。
「教えてくれてありがとうアレクス。記憶喪失だとはっきり分かればきっと罪も軽くな
 ってすぐ牢屋から出られるわよ。後でライアンから衛視に口を利いてもらうように
 言っておくわ。フレアさんもアレクスに付いていてあげられる様に言っておく。」
そう言って手を振りながら、その場を後にしようとする。
「「ありがとうございました」」
夫婦は二人仲良く声をそろえてお礼を言った。二人とも幸せそうな笑顔だ。
また会うことが出来たといっても、まだ二人の間を鉄格子が阻んでいる。
それでも、会えたというだけでこんな幸せなそうな笑顔ができるなんて。
そんな二人の様子を羨ましく感じながら、先に行ったライアンの背を追った。

あたしにもそんな人が出来るのだろうかと思いながら・・・

116: ◆TOrr/8J0yk
09/03/21 01:50:08 cfaSM0Ud0
ぱふぱふってこれでいいんだよね・・・?違ってたらめっちゃ恥ずかしいわぁ・・・

なんとか半分くらいまで、投下出来ました。
前半はホイミンとライアンがイチャイチャ?してただけのような気もしますが、
やっと本筋の話が動き出した感じです。

ではお休みなさいませ~

117:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/21 19:11:02 TpwplU+j0
素晴らしいテンポだぜ!乙!

118:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/23 19:45:11 hU4UIod4O
パフパフだヒャッホオオオオイ
こうなったらホイミンのパフパフも期待せざるを得ない

119:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/23 23:46:23 MSZYtRrj0
毎日投下と豪語していたのに、日にちがあいてすみません。
ホイミンのパフパフは…まあいつかw

では始めます。

120:ホイミソ ◆TOrr/8J0yk
09/03/23 23:47:13 MSZYtRrj0
アレクスの言った通り、森の看板から南東に行った所に、繁みの中にトンネルのようなものが
すぐに見つかった。トンネル自体は小さくてあたし達が通れる様なものではなかったが、
その背後に踏み均して出来た道のようなものが続いている。
「ここみたいね。行くわよライアン」
ライアンに声をかけて繁みを廻りこみ、子供たちによって出来た獣道(子供道?)を進む。

森の中にうっすらと踏み慣らされた道は、木々の合間を縫う用に続いていた。
周囲は薄暗く、いつ魔物が出てきてもおかしくない雰囲気が漂っている。
よく子供達だけで歩いていたものだ。あたし達は周囲に気を配りながら、無言で進む。
15分ほど歩くと、不意に森が開けた。

強い日差しに手をかざし周囲を確認してみると、そこだけ森がくり抜かれたような
広場になっていた。
その中心に古びてぼろぼろになった小屋と井戸が見える。
今は子供達は居ないようだ。
「まさに秘密基地と言った佇まいだな」
ライアンが呟く。
「そうね」と相槌をうち、まず小屋の中から調べることにした。


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