FFDQバトルロワイアル3rd PART14at FF
FFDQバトルロワイアル3rd PART14 - 暇つぶし2ch337:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/27 22:03:06 8BADUm2O0
マスコミは連日のように麻生批判を繰り返しています。
その低レベルな報道に、ネットと無縁の世代も含めた半数以上の人が
疑問に思っている事が最近の調査で分かりました。
民主党が政権を取ると誰が得をするのか?
民主党を推し進めるマスコミは何の目的があるのか?
マスコミが全く報道しない「なぜ?」を知る事によって、
日本の恐ろしい実態が浮かび上がってくるのです。
それでもあなたはマスコミを信じますか?

『国民が知らない反日の実態』
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.nicovideo.jp)

338:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/02/27 22:51:27 DWZYKFut0


339:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/02 10:36:36 r5t5z+GjO


340:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/02 18:09:46 Qq1fHS4TO
まとめサイトでいくつか見れないんですけど・・・

341:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/02 23:34:42 iFg0gSWhO
URLリンク(p02.fileseek.net)

342:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/05 22:00:38 1+qfUyK9O


343:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/08 19:54:16 rJPybFerO


344:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/11 13:42:08 ejmD4hxpO


345:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/13 23:06:24 Y3TeHAIw0


346:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/14 01:47:06 AfcNlI5C0


347:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/14 19:24:39 V1vA546a0


348:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/15 21:50:27 v5vnVRDjO


349:終幕は思い描くよりあっけない 1/8
09/03/16 00:35:04 KhZqa7ho0
デスマウンテンのふもとから湧き出るのが、闇の世界唯一の水源。
山脈のどこかに抜け穴があるのか、デスマウンテンを二重に囲んで沼地が広がる。
だが、ここは地下。これ以上はどこにも流れ得ない。
ただでさえ、流動することがなく澱みきった水。
闇の世界の熱気に当てられたうえに、この世界特有の植物の毒素が流れ込み、そして蓄積した沼地に自浄作用ははたらかず、
瘴気を放って生物をむしばむ毒の沼地へと変貌するほかはない。
人間がその中に浸かってしまえば、ゆるやかに体力を奪われ、やがては骸と化してしまうだろう。
けれども、その沼地を敢えて進む奇特な人間らもいるらしい。
二人は重い足取りを見せるどころか、まるで平地を進むように軽やかに沼の上を進む。
それもそのはず、レビテトの魔法を使って、毒の沼地の上空を浮遊しているのだ。

「それにしても不思議な呪文ですな。宙を浮く呪文など見たことがない」
パパスが、感嘆の思いを込めてつぶやく。
レビテトはトラマナのようなバリアを張るものではない。ゆえに、沼地に入ることそれ自体を避けることができる。
厳密には、宙に浮くというよりは1メートル程度上空を歩行しているようなものなので、深みに行けば沈んでしまう。
けれども、この程度の深さの沼なら障害になりえない。

「しかし、このようなことで魔力を消費してよかったのですかな?
 向こうの茂みの中を通ったところで、多少の手間はかかれど、問題なく目的地にたどり着けますが」
「そんなに消費の激しい魔法じゃありませんよ。
 このムシアツイ中、むんむんした草むらを通ったら体がかゆくなっちゃいますしねえ。
 まあ、早く目的地に着けるんですからよしとしませんか」


350:終幕は思い描くよりあっけない 2/8
09/03/16 00:36:24 KhZqa7ho0
もちろん、二人の言う目的地とはデスキャッスル。だが、目的はまったく違う。
パパスのそれは、もっとも人が集まると思われるデスキャッスルを押さえ、そこでタバサの情報を集めること。
ケフカのそれは、もっとも人が集まると思われるデスキャッスルを押さえ、そこでピサロの噂を広めること。
パパスが急ぐのは、タバサが万が一デスキャッスルにいた場合にすれ違うことがないように。
ケフカが急ぐのは、ピサロより先にデスキャッスルを押さえて、包囲網を作られないように。
ターゲットが今どこにいるかどうかは分からない。だからこそ急ぐ。
もっとも、ケフカは本当に茂みに入りたくないという気持ちが大いに強いのも確かだけれども。
多少の魔力を消費しても、無駄な体力の消費を避け、時間を大幅に短縮できるのは大きい。
ケフカを気遣って、パパスは陸路を主張していたものの、時間が惜しいのは彼も変わりない。
おおよそ30分ほど歩いたところで、二人は沼地を通り抜け、対岸の茂みにまで達する。

「……視線を感じるねえ」
「何者かが潜んでいるようですな。敵意は感じませんが……」
とはいえ、好意的なものでもない。内情を探ろうとするような視線があまり気持ちよいものではないことは確か。

「偵察? だが、わざわざ人の通らないようなところに偵察など置きますかな」
「向こうが先に気付いたんでしょうねえ。接触する前に様子でも見ておこうって感じでしょう」
「なるほど。確かにこの蒸し暑さでは気が乱れる。気配を察知されても仕方がないということですか。
 さて、どうやら向こうもこの場を離れていったようですな。接触してみますか?」
「私は構いませんよ。いきなり向こうから吹っ掛けてくることはないでしょうから。
 ピサロになにか吹き込まれたのなら、私達に気付かれる前に何か行動を起こしているでしょうし」

二人は僅かに揺れる茂みをたよりに、後を追う。

351:終幕は思い描くよりあっけない 3/8
09/03/16 00:42:03 KhZqa7ho0
しばらく進んだところで、パパスが草葉の陰から一人と一匹の姿をとらえる。
ケフカも自身のものとはまた異質な魔力の流れを嗅ぎ取る。
一度感じたことのあるそれをまとわせている人間は、一人しか知らない。
「あれは、少年と……犬、ですか? 雲に乗って…?」
「私の知り合いですよ。前の世界で少し行動を共にしました。
 ああ、そうそう、確か魔物使いとか魔物と話せるとか言ってましたよ。
 あの犬は魔物なんですかねえ? とにかく、彼らなら問題ないでしょう」
「ふむ……」
魔物使い、動物と話せる、というあたりに何か思うところがあったのか。神妙な表情を見せるパパス。

ケフカは、そんなパパスを見てちっちっちと指を振る。
「おおっとぉ、パパスさん、そんな仏頂面ではいけませんよ。
 相手は子供なんですから。ほうら、もっと笑って?」
「こ、こうかな?」
パパスがぎこちなく口角を上げる。表情筋が少しピクピクと動いている。
歴戦の強者であるとはいえ、パパスは不器用でまっすぐな人間だ。
感情表現や感情作り、それにともなう駆け引きはまだまだ苦手。
「表情が固いですねえ。そのようなこわ~い顔をしていると、お子様達は怖がって逃げちゃいますよ?
 ほら、私みたいににっこりと。1+1は?」

「ケフカさん何やってんの?」
アンジェロから報告を受けたルカが目にしたのは、草影で中年近い男二人が笑顔作りをしている光景。
傍から見ると怪しいことこの上なかった。


352:終幕は思い描くよりあっけない 4/8
09/03/16 00:45:59 KhZqa7ho0
「ほんっとにもうびっくりしたあ。
 怪しい人が近付いてきてるってアンジェロが言ってたからなあ。
 ケフカさんだって分かったから見にきたら、二人でにらめっこして遊んでるし」
「むっ、怪しいとか遊んでるとは失敬ですねえ。私はいつも真面目ですよ。
 せっかく緊張感をほぐしてやろうという心遣いだったのに。
 やはり子供ではそういう気配りは理解できないものなのですねえ、ヒャヒャヒャ…」
ケフカが肩をすくめる。パパスは小さくため息をついた。
にらめっこという表現は、それほどまでにおかしな顔だったということを表すのか?
なんということはない、取るに足らない黒歴史が1つ増えただけのことだが。

「ところでケフカさん、テリー見なかった? もしかしたら向こうに行ったのかもしれないんだけど…」
「見てませんねえ。この世界で出会ったのが、パパスさんとルカ君の二人だけですから」
「そっかあ、ありがと。…ところで、シャナクって使えたりしない?」

ルカから不意に投げかけられた質問に、二人とも首をかしげる。
「シャナク? なんですかそれは?」
「解呪の呪文です。なかなか貴重な呪文で、私も扱うことはできませんが。
 ルカ君は誰かに呪いでもかけられたのかね? それに、よくよく見れば君は随分と怪我をしているようだが?
「あ、うん、呪いはそうなんだけど、怪我のほうは気にしないで。
 呪いのほうをどうにかしないと意味がないし、まだ大丈夫だから…」
「大丈夫なはずはないだろう。おじさんに見せてみなさい」
半ば強引に、パパスがルカに近付き、ホイミによる治療を始める。
ルカは、テリーを早く追わないといけない、というようなことを続けて言うつもりだったが、実際に行動を起こされると断りづらい。
アンジェロとて、呪いを解く重要性は分かってはいるものの、しきりにルカの体を心配する。
(お城なんだから、すぐに追いつけるかな…)
こういうことを思うのは、やはり体が治療と休息を求めているということだ。

353:終幕は思い描くよりあっけない 5/8
09/03/16 00:48:31 KhZqa7ho0
(ふむ、しかしどうやればこのような傷が付くのか…)
ルカの傷は外からの攻撃によってというより、内部からひび割れるように生じたものとも見える。
パパスが疑問を抱くその隣で、ケフカはじっとルカの手に はめられた指輪を見つめる。
「その指輪は、あのモヒカンが着けていたものなのかな?」
ルカは答えない。あまり思い出したくはない部分なのだろう。
今回の無言は肯定の証。ルカの言葉を代弁するかのように、巨大なエメラルドが不気味に輝く。

「ケフカ殿、この指輪がどうかしたのですかな?」
「動くと爆発するらしいんですよ。しかも一度身に付けると外れない。
 はめたら最期、歩くたんびに指輪がドン、だ。よっぽどの物好き以外、誰も寄ってきやしませんよ。
 もっとも、最近その物好きをたくさん見かけましたけどねえ」
「……なんともえげつないものを支給する」
危険なものと仮定して改めて見てみれば、確かにそのようにも思えないことはない。
もっとも、前情報がなければやはりただの指輪にしか見えないであろうが。

「こうなるのは分かってて着けたんだ、仕方ないよ。こうしなきゃ生き残れなかったんだから。
 でも、もしかしたら、ハッサンを見捨てて、バチが当たったのかもしれない」
ルカが若干低めのトーンで、一連の流れを自嘲気味に話す。
それをパパスが神妙そうに、ケフカも大人しく聞いていたが、突如けたたましい笑い声が発せられ、響き渡る。
「ヒャヒャヒャ! いかにも大人になったつもりのガキが考えそうなことだねえ。
 カッコいいカッコいい! じゃあ私からも一つ豆知識を伝授してさしあげましょう!
 バチなんてもんはこの世にチリほども存在していないのだ~!
 君のいうバチというものが、どれほどあっけなくて小さなものなのか、私が教えてさしあげましょう。ほれっ」
いつの間にか高まっていたケフカの魔力が、あまりにも軽い掛け声と共に打ち出される。
すると、ルカの手にひし形の模様が浮き出て、指輪が裏返る。

「……んえ? なんだこれ?」
ルカはなにが起きたか分からずにしばらく呆けていたが、コトと指輪が地面にぶつかる音を聞いて、ようやく現状を把握する。
引き抜けないはずの指輪が肉体から離れ、足元に落っこちていた。

354:終幕は思い描くよりあっけない 6/8
09/03/16 00:58:08 KhZqa7ho0
「この魔術の大大だーい天才ケフカ様がそんなチンケな呪いをどうにかできないわけがないじゃないですか。
 昨日はどんな呪いなのかよく分からなかったけど、一日考えればこんなもんさ!」
ケフカが使ったのはデスペルの魔法。主に魔法の効果を解除するものだ。
あやつりの輪を取り扱っていたことの経験から類推したものだ。
それ以外にも、この手の呪術を解除する薬がデスペルの魔法を使って作られたという記録もある。
呪い自体は消えないため、装着しなおせばまた呪われてしまうのは欠点といえる。

してやったり、という顔をしたケフカは、未だ何が起こったか分からないルカの目には映らない。
目をパチパチさせる。恐る恐る腕を伸ばしてみる。目をこすってみる。
ジャンプしてみる。歩いてみる。腕を振り回してみる。爆発しない。
こんなにあっさりと外れてしまうのに驚いて、もう一度手に取ってみようと腕を伸ばす。
しかし、ケフカにその手を止められる。
「あーあー、これだからお子様は困ります。
 せっかくケフカ様が膨大な魔力を使ってその指輪を外してあげたのに、それを無駄にする気ですか?
 こーゆー危険な物体はこの私が没収です」
ケフカはちゃっかりと指輪を自分のザックにしまう。

「ルカ君、まだ気分が晴れないようだが、大丈夫かね?」
「あ、ちょっと疲れちゃっただけだよ。爆発しないか、ずっとひやひやしてたから……」
ルカがごろんと雲の上に転がり倒れる。ぴんと張り詰めていた気が緩み、疲れが全身をむしばむ。
眠気だけは一向に襲ってこないが、体はあまりいうことを聞いてくれない。
「ケフカ殿、少々休みますかな?
 いずれにせよ、彼をここに放置するわけにもいきませんのでな」
「仕方ないですねえ。まあ、いいでしょう。ここなら城に行き来する人間を見渡せますしねえ」

355:終幕は思い描くよりあっけない 7/8
09/03/16 00:59:49 KhZqa7ho0
ケフカがルカを解呪したのには二つの理由がある。
二日目と違い、今単独行動をおこなうのはあまり賢明なことではないということ。
ピサロが殺人者だと広めるとして、自分一人ならば見知らぬ相手が信じる確率は半々。
ピサロを見知っているならば一割を切る。だが、三人、しかも純粋そうな子供も混じったメンバーならどうか。
見知らぬ相手なら7~8割、ピサロを見知っていてさえ3割ほどの確率に上げることができよう。
ピサロが殺した男、イザはルカやハッサンの仲間だったと耳に挟んだこともある。
となれば、味方に付けておいて損はない。


そして、もう一つは指輪の実用性。いわば爆発の指輪は無限の兵器。
多少痛いが、自分ではめて使ってもいいし、誰かを爆弾にしてもいい。
まさかこんな小さな指輪が武器になるとも気付くまい。
ピサロにこの指輪をはめさせてみるのも面白いかもしれない。
あのいけすかない、koolなハンサム顔が屈辱と焦燥と困惑で歪むのだ。想像しただけで楽しくなる。

ピサロは手ごわい。接近戦、魔法戦共に相当な実力だ。接近戦に持ち込まれてしまえば、一人では勝ち目は薄い。
だが、大勢で取り囲んでしまえば多勢に無勢。なす術はない。無闇に死を恐れることがない、勇猛な人間ならなおのこといい。
ただし、一度に戦闘するのは3人、多くとも4人だ。
そこそこ戦闘ができるやつが3人もいればピサロは殺せるだろう。だが、6人いれば楽勝だ。
そうなると、生け捕りなんて選択肢が出てくる。これはマズい。
こちらの手勢が一人二人死んで、ぎりぎりで殺せるのが一番望ましい。
ピサロは冷静な振りをしたイノシシだ。ケフカを見つければまっすぐに突っ込んでくるだろう。
ピサロとケフカ、他人から見てゲームに乗っているのはさてどっち?

356:終幕は思い描くよりあっけない 8/8
09/03/16 01:01:48 KhZqa7ho0
【パパス(軽度ダメージ、MP2/3程度)
 所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
 リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
 第一行動方針:タバサを探す/ピサロを警戒する
 第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ケフカ(MP1/4程度)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 爆発の指輪(呪)  アリーナ2の首輪
 第一行動方針:ルカやパパスを(見つかればタバサも)利用する、あわよくばピサロと戦わせる
 第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ルカ (HP1/10、あちこちに打撲傷、不眠状態)
 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ オリハルコン
 満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと二種類)
 第一行動方針:体力の回復
 第二行動方針:テリー、もしくはラムザと合流する
 最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
 基本行動方針:ルカについていき、その身を守り、戦う】
【現在位置:デスキャッスル南の草原】

357:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 1/14
09/03/20 10:50:38 2UPh9DVaP
濁った空と湿った草むらの間をすり抜け、絨毯が飛んでいく。
その上に鎮座しているのは、青髪の少女と茶髪の青年だ。
「スコールさん……みんなは、無事なんでしょうか」
何度目になるかわからない呼びかけに、青年はため息をつく。
彼の言葉を守り、健気にも前を向き続けたままの少女に返すのは、先と全く同じ答え。
「信じるしかないさ。心配したってどうにもならない」
そう言って、スコール―に化けた飛竜・スミスは、その手に携えていた杖を強く、強く握り締める。

変化の杖。
先端の宝玉に数多の生き物の影を閉じ込めていると言われ、一振りすれば様々な物の姿に変われる魔法の杖だ。
魔術に長けた者ならば望む姿に化けられる。
不動の体勢を守り、無闇に意識を散らさなければ、数時間単位で変化を保持することもできる。
詳しい効果こそ知る由もなかったが、老魔術師の死体を貪って手に入れた魔力のお陰か
スミスは感覚的に杖の効力を理解することができた。
だからこそ、今もこうして、初対面の少女を欺き通すことに成功しているのだ。

「会いたいな……早く、会いたい」
「そう思うならしっかり前を見て探すことだ。
 俯いてメソメソしているだけじゃ、何も掴めやしない」
「……はい」

心の表層を読み取りながら、望む答えを返すだけの会話。
それで少女―ターニアの心が癒されているのかと問われれば、否定するしかないだろう。
心を読む力があろうとなかろうと、誰でもわかることだ。
繰り返された言葉の回数こそが、何よりも雄弁に、彼女の不安と恐怖を物語っているのだから。

(面倒だなぁ)

スミスはもう一度ため息をついた。
いくら心が読めたところで、女性の、それも怯えきった気弱な少女の機嫌を取るのはどうにも難しい……

358:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 2/14
09/03/20 10:53:18 2UPh9DVaP
「どこに行ったんだろ、あの金髪カッコマン」
「見つからないねぇ~、あの逃げ足だけは達者な青バッタ」
金髪の少女と白魔導師姿の青年が軽口を叩き合う。
その声を背にしながら、魔族の青年は茂みに覆われた道なき道を進んでいく。
「同じ場所にずっといるとは思ってなかったけどさ、こんなに見つからないなんて予想外だよ~」
「ホントだよねー」
(…そうやって喋っているから察知されて逃げられたとは考えないのか)
魔族の青年、ピサロはこめかみを抑えながら、咽元まで出かかった一言を飲み込む。
何しろ、口だけは良く回る二人だ。言い争いになって足を止めては本末転倒である。
それに何より、ピサロは見つけていた。
カインではなく、彼と同罪と断じた相手―アルガスが残したであろう道筋を、だ。

乱暴に踏み拉かれた雑草の葉。
無闇やたらに切りつけられ、あるいは手で千切られている草。
地面に刻まれた足跡は明らかに男のものであるし、
これだけの痕跡が残っていること自体、"その人物は酷く焦った状態で何かから逃げていた"ことを物語っている。
後ろの二人、リルムとアーヴァインも、あるいはそのことに気づいていて、
だからこそピサロの進路に口を挟まず、後を追ってきているのかもしれないが…

「二人一緒にいるんだったら、話は早いんだけどね~」
「あの青い竜が一緒にいたら厄介だけどね。
 ドラゴンライダーだっけ? 心が読めるとか反則だって」
「そう? プサンさんの方が反則だと思うけど。
 魔力追跡とか、ホントに人間なの?」
「自称天空人って言ってるんだし、人間じゃないんじゃない?」
「天空人……天使を想像したくなる言葉の響きなのに、現物はアレとかねーよ~」
(………)
うるさいというほどの大声ではないのだが、気にならない程度の声量でもない。
十数メートルも離れれば風が起こす葉擦れの音に紛れるであろうけれども、時折、無用心と誹りたくなる。
一体、何を考えているのだろう。
時折ピサロの脳裏を掠める疑問は、答えに辿りつくこともなく、消えることもなく、ただ澱のように溜まっていく。
それを、霧散させたのは―

「ピサロさん!」

359:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 3/14
09/03/20 10:54:38 2UPh9DVaP
低空とはいえ、空を飛んでいたことが幸いした。
地を歩いていたのなら、深い茂みに阻まれて、すれ違いを起こしていただろう。
けれども、タバサという恐怖に怯え、頼るものを必死に探していたターニアの目は、
緑の間でわずかに煌めいた銀の輝きを見落とさなかった。

「ピサロさん!」
もう一度呼びかける。返事はすぐに戻ってきた。
「ターニアちゃ~ん?!」
間延びした声はピサロのものではなかったけれども、ターニアの知る声である事には変わりない。
「あんたの知り合いか?」
「はい! ピサロさんと……多分、アーヴァインさんだと思います」
"スコール"の問いかけに、ターニアは笑顔で答える。
「……早く見つかってよかったな。
 だが、今の声で誰かに気づかれたかもしれない。
 絨毯から降りて、茂みの中に紛れて向こうに近づこう」
「はい!」
"スコール"の指示に従い、ターニアは地面に降りた。
しかし、当の"スコール"は彼女の後をすぐに追いはしなかった。

『ぽわわわわん』
奇妙な音がターニアの耳を打つ。
不審に思って振り向くが、そこには中空に浮く絨毯と、"スコール"の姿があるだけだ。
「あの、スコールさん…今、なんか変な音がしませんでした?」
「ああ……絨毯を止める呪文を唱えたんだ。
 こいつ、放っておくと勝手に動き続けるみたいだからな」
"スコール"はそう言って飛び降りると、絨毯を端からくるくると巻く。
厚い布地を小さく丸め、ザックの中に仕舞いこんでから、彼はターニアの傍らに寄り添った。

「こんなことは言いたくないが、油断だけはするな。
 心変わりは誰だってある。それを忘れた者から死んでいく」
「そんなこと…! ピサロさんは…!」
「この世界に絶対はない。そうだろう、……アーヴァイン」
「さっすがはんちょ~、よーーーーくわかってらっしゃる」

360:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 4/14
09/03/20 10:55:46 2UPh9DVaP
草をがさがさと掻き分けながら出てきた男の姿に、スミスは思わず眉を潜めた。
所々が破け、血や泥で汚れたローブ。
それは、昨日見かけたばかりのものであったから。
彼の記憶を証明するかのように、やはり見覚えのある隻眼の子供が、アーヴァインの後ろからひょっこりと姿を見せる。
気づけば、ターニアが名前を呼んだ銀髪の男もすぐ近くに立っていて、
胡散臭げな眼差しを彼に―そして、彼が携えている杖に向けていた。

(うーん……もしかして、僕、ピンチ?)
銀髪の男は誰がどう見ても、明らかに高位魔族。
いくらドラゴンライダーから進化を遂げたとはいえ、スミス単身で勝てる気はしない。
おまけに、変化の杖を知っているようだ。
仮に杖を離せなどと言われたらどうやって切りぬければいいのか……
高速で思考をめぐらせるが、上手い言葉は思い浮かばない。

「つーかさ~、探したよはんちょー!
 僕、ど~しても相談に乗って欲しいことがあってさ~」
「相談……?」
変身が解けないよう、杖に意識を集中させながら、スミスは問い返す。
「そう、相談。
 まあ深刻な話じゃないから、ゲームでもしながらちょちょいとね」
「ゲームだと?」
苛立ち混じりの声を上げたのは、スミスではなくピサロだ。
「貴様、アルガスはどうするのだ? 遊んでいる暇などあるものか」
「ゲームたってTriple Triadだよ。
 デッキはリルムが持ってるし、話もゲームも5分ありゃ十分さ」
「あ、あのカードの束、もしかしてこの人の?」
「そうだよー。はんちょー、遊ぶのも集めるのも極めてたからさ」
アーヴァインはくすくすと笑いながら、リルムからカードの束を受け取る。
だが、その目が笑っていないことに、スミスは気づかざるを得なかった。

361:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 5/14
09/03/20 10:57:44 2UPh9DVaP
『班長は……僕が……カード…やらない……知ってる……
 それに……ゲームを受ける がない……』
強い疑念と暗い殺意に彩られた心の声、そして、翼を広げた竜のような黒いもやのイメージがスミスの脳に映る。
『偽物だったら……リノアと同じように…すぐには死なないように……!』
底なしの闇に似たどす黒い思念に薄ら寒いものを覚えながら、
スミスはひとまず差し出されたカードを受け取り、こう返した。
「カードをやらない奴が何を言ってるんだ…
 これは返してもらうが、初心者にルールを説明してまで遊ぶ気はないぞ、俺は」
「え~~~? その言い草はひどくね~?
 僕だってルールぐらい知ってるよ!」
「じゃあ言ってみろ」
「セイム!」
「それだけか?」
「……うん」
「話にならないな」

スミスは肩をすくめ、やれやれと首を振ってみせた。
それでようやく、アーヴァインの思考が揺らぎ始める。
『本当にスコールなのか……? だったらなんで……
 まさか、乗ったのか……そんなはず……』

「…はんちょー。単刀直入に聞くけどさ」
アーヴァインが口を開く。
そこに続くであろう台詞は、単純にして、スミスにとっては最も厄介な質問だ。
『あんた、誰か殺したのか』

ターニアから読み取った情報では、スコールは殺し合いに乗っていないし、誰も殺めていないはずだ。
だが、それはあくまでもターニアが知る範囲であって、実際にどうだったかはわからない。
目の前の相手がどちらの確証を―
『スコールは人を殺さない』のか『スコールは人を殺した』のか―抱いているのかで、ベストな回答は変わってくる。
慌てながら心を読んでみたものの、今までのようにはっきりとした言葉やイメージが見透かせない。
警戒心の強さのせいか、本人も揺らいでいるのか、そのどちらかではあるのだろうが……
イカサマ無しのノーヒントクイズ、ペナルティは死。
そんなフレーズが脳裏に過ぎった瞬間だった。
スミスが、その声を聞いたのは。

「あ……さっきのお姉さん!」

362:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/20 11:04:19 q6U9/mFM0
 

363:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 6/14
09/03/20 11:05:25 2UPh9DVaP
逃げろ、と、彼女の父は言った。
お逃げください、と彼女の仲間が言った。
眼前の相手は父の親友で、けれども、最早彼女の味方ではなかった。
少なくとも彼女は―タバサは、そう信じた。
父の言うことはいつだって正しかったのだし、仲間はいつだって頼りになる存在だったのだから。

父の後を追い、仲間の後を追う。
彼女はそう思い込んでいるけれども、現実は実体無き闇が、他の闇に引き寄せられているだけ。
その先に彼らがいたのは、偶然でもなんでもなく、必然的なこと。

「あ……さっきのお姉さん!」

草の間から垣間見えた青い髪の少女の姿に、タバサは声を上げた。
怯えきってはいたけれど光の教団とは無関係な人間だ、と判断した相手だ。
故に、攻撃すべき相手だという認識は抱かない。
あるのは、無力な人を巻き込むわけにはいかない、という思い。
「悪い人が追ってきてるんです! 早く逃げてください!」
けれど―

「ふざけんな」

ズドン、と低い音が響き、タバサは反射的に足を止める。
つま先から一センチほど離れた地面に小さな穴が開いていた。
(銃…!?)
一瞬、タバサの意識に無骨な武器を携えたデールの姿が浮かぶ。
けれども、それが意味するものを思い出す暇は、決して与えられない。
「あんたより悪い奴なんていないだろ、魔物使いのお嬢ちゃん」
硝煙を吐き出す銃口と、殺意に満ちた眼差しを向けたまま、アーヴァインは呟く。
「リノアもゼルもあんたが殺したようなもんなのに、まだ猫被って善人気取りとかさぁ……
 許せないね、そういうの。ぜぇぇぇったいに許せない」

364:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 7/14
09/03/20 11:07:22 2UPh9DVaP
トリガーが引かれる。爆音が再び大気を震わせる。
銃弾はタバサの耳を掠め、わずかな血を地面に滴らせた。
その赤い色彩が、硬直していたターニアの思考を呼び戻させた。

「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」

どこにそんな力が残っていたのか、ターニアはスミスを突き飛ばし、走り出す。
「待て、小娘!」
「ターニア!」
ピサロの制止もスミスの呼びかけも、彼女の耳には届かない。
記憶に刻み込まれた恐怖が身体を動かす。
逃れたいという意識が、数時間前の出来事を思い出させる。
『いいか? 何かの理由でお前が一人の時に、危ねぇ奴に襲われたら―』
(ピンを抜いて、"それ"を投げてすぐに耳を塞ぎ、そして逃げろ!)
その言葉通りに、彼女の身体は動いていた。

―ドォォォォォォォォン!!!

瞬間、スタングレネードの閃光と爆音が周囲を包む。
感覚の許容量を越えた衝撃は五人の意識を数秒間途絶えさせる。
皆が棒立ちになる中、青髪の少女が走り出す。
そして次に我に返ったのは―

「ひどい……! やっぱり、みんな光の教団の手先なんですね……!」

(そうだ こいつらは敵だ! 早く殺してしまうんだ、タバサ!)
「わかってる、お父さん!」
彼女だけにしか聞こえない声に従って、タバサは手を振り上げた。

365:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 8/14
09/03/20 11:08:53 2UPh9DVaP
「!?」
行く手で瞬いた光と、空気を震わせた爆発音に、ヘンリーは思わず足を止めた。
旅の扉を潜るまで気絶していた彼は、エリアが使ったスタングレネードと同じもの―だとは気づかない。
だが、草むらの向こうに消えていったタバサと今の爆発が無関係だと考えるほど愚かでもない。
「タバサ……!」
呟いた言葉は、少女の無事を祈るものであり、少女に出会った人物の無事を祈るもの。
邪魔な草を押しのけながら、ヘンリーはがむしゃらに走り出す。
(まだ間に合う。気が触れていたとしても、きっと助けられるはずだ!)
彼の胸中を占めているのは、そんな、あまりにも儚い希望。
そして、どうしようもない焦り。
(早まるな……早まらないでくれ!)

「タバサちゃん!」

刹那、茂みの向こうに蜂蜜色の輝きを見た。
立ち尽くす三つの影を見た。
そして、小さな手の先に浮かぶ、無数のきらめきを見た。
「止め……!」
ヘンリーが叫ぶより早く、それが、周囲に降り注ぐ。
僅かな光を乱反射して輝く、怜悧な氷の刃が。

「きゃああああっ!」
タバサではない少女の悲鳴と、押し殺した呻き声が上がる。
「この、クソガキっ!」
憎悪の叫びと共に銃声が轟く。
だが、先ほどの閃光で目がくらんだのか、銃弾はタバサを射抜くことなく地面に突き刺さる。
それを見た少女は、人影から素早く距離を取り、新たな呪文を紡ぎ始めた。

366:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 9/14
09/03/20 11:11:01 2UPh9DVaP
「「マヌーサ!」」
二つの声が唱和する。
一つはタバサのもの、そしてもう一つはヘンリーのもの。
紫色の霧はたちどころに三人を、そしてタバサを包み、無数の幻影を映し出す。

「ヘンリーさん……!!」
「「ヘンリー!?」」
見覚えのある黒いローブ姿。そして服装は違っているものの、忘れようにも忘れられない顔。
彼らを探すことを放棄したヘンリーが先に二人を見つけるとは、なんという運命の皮肉だろうか。
「ピサロ、アーヴァイン!
 頼む、その子には手を出さないでくれ!」
「……正気で言っているのか?」
うずくまった少女を庇うように剣を構え、タバサがいる方向を凝視しながら、ピサロが呟く。
「狂気に飲まれた魔術師の小娘など、貴様ごときの手に負えるものか」
「ど・う・か・ん!!」
腕に突き刺さった氷を引き抜こうともせず、銃の引き金に手をかけたまま、アーヴァインが口を開く。
「自分の手はギリギリまで汚さないで、親父も仲間も使い捨てたクソガキ。
 あんたに保護できる相手じゃないね」
「……なんだって?」
「何、言ってるの…!? 何言ってるの!?」
タバサが叫ぶ。その表情には、明らかな怯えの色が見て取れた。
それで、ヘンリーはある仮説に思い至る。
家族と仲間の死を認めず、現実全てを否定する言動―その理由は、傍にいるという父親の死を、間近で見たからではないか?
捜し求めた父親が目の前で死んでしまったとなれば、ショックで心を閉ざしてもおかしくない。
(……だけど、使い捨てたというのはどういうことだ?)
その疑問の答えは、すぐに提示された。

「すっとぼけないでほしいなぁ……
 あの緑ぷよを利用して自分の兄貴も僕の友達もぶっ殺した挙句、
 用済みになったら親父もろとも殺しておいてさ!」

367:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 10/14
09/03/20 11:13:36 2UPh9DVaP
「……!」
タバサの呼吸が変わる。
表情がみるみる青ざめ、手が小刻みに震え出す。
唇がわずかに動いた。「そんなことはしていない」と言いたかったのかもしれないが、真相はわからない。
そしてそれは、ヘンリーも同じだった。
タバサが殺し合いに乗っているかもしれないという覚悟はしていたが、彼女が父親を殺すなどというのは―

「有り得ねぇ……有り得ねえよ!
 この子はそんなことをする子じゃない!」
「したんだよ。やったんだ」
ヘンリーの抗議を、しかしアーヴァインはにべもなく切り捨てる。
「リュカとタバサの二人が魔物を操って人を殺したって証言があるし、
 緑ぷよとリュカが一緒に死んでて、二人と一緒にいたこのガキだけが生き残ってる。
 証言はデタラメで、こいつ一人生き残ったのも偶然だとかいうつもり?」
「リュカがこの子を庇ったのかもしれないだろう?!
 この子は父親を殺したりしない、絶対にだ!」
「へ~え。虫も殺せないような弟さんは殺人鬼になってたけど、それについてはどうお考えなんですか~?」
「……っ!」
痛いところを突かれ、ヘンリーは思わず押し黙る。
アーヴァインは肩を竦め、苦笑しながら言葉を続けた。
「この世界じゃ、人が化物になる病気が流行ってるんだよ。
 あんたの弟もそのガキも一緒で、しかも、も~う手・遅・れ、なんだよね~。
 なあ、そうだろ? 忌々しい魔物使いのお嬢ちゃん!」
嘲りか、挑発か、純粋な憎しみか。その意図するところは、ヘンリーにはわからない。
「いっくら頭がおかしくなってるとはいえ、自分の身内に親兄弟を殺させるなんて、とんだ化物だよ!
 そんで今度はお父さんのお友達まで殺して、それでも自分は悪くないって言うんだ!
 本当は何もかも壊すのが楽しくて仕方ないだけなのに、言い訳用意して自己正当化とかさ!
 すごいねえ、僕にはとても真似できないよ、サイッコーにサイテーなお嬢ちゃん!」

「―言いたいことは」
タバサが呟いた。
静かに。冷たく。
「言いたいことは、それだけですか」

368:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/20 11:15:18 q6U9/mFM0
 

369:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 11/14
09/03/20 11:16:15 2UPh9DVaP
少女の問いかけに、アーヴァインはククッ、と咽を鳴らすように笑った。
「僕からはこんだけだね。残りは地獄でお父さんと緑ぷよに聞きな。
 ホントはお兄ちゃんに直接恨み言聞いた方がいいと思うけどさ~、
 お嬢ちゃんみたいなクソガキが天国の人に出会えるわけないもんね!」

「お父さんとピエールを馬鹿にするなぁッ!」

詠唱もないまま、巨大な火球が形を成す。
メラゾーマ。タバサの母が得意とし、しかし、タバサ自身は扱えなかったはずの呪文だ。
(この人"だけ"は許さない……絶対に許さない!!)
誰かを―例えば近くにいるヘンリーを―巻き込むこともなく、ただ一人だけを確実に焼き尽くす、煉獄の炎。
その呪文を行使できたのは、ビアンカの血を引いているからというだけではなく、
悟りの書によって引き出された賢者としての才があったからだろう。
だが……それでも、届かない。
「リフレク!」「マヒャド!」
リルムとピサロ、二人分の声が響く。
タバサの渾身の一撃を、光の壁が阻み、周囲に現れた巨大な氷柱が相殺する。
そして―

「幻は見えるし、人型のもやもやもいくつか見えるしで、当てられる自信なかったんだ~。
 ―でも、今のではっきりわかったよ」

ヘンリーの耳に、カチャリという音が届く。
「タバサ!」
アーヴァインを止めることはできないが、タバサを死なせるわけにはいかない。
その思いが、彼を動かした。
己の息子よりもさらに小さな身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きかかえる。
「ヘンリーさん……!?」
明らかに狼狽した声が、懐で響く。
かつて、ラインハットの城で聞いたのと同じ、幼くて甲高い声。
しかしその思い出も銃声によってかき消され―
背中と腹部に灼熱の痛みを感じる暇も無く、ヘンリーの意識は闇に飲まれた。

370:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 12/14
09/03/20 11:19:06 2UPh9DVaP
「ちぇっ……面白くないの」

杖を口に咥えたまま、スミスは呟く。
ターニアがスタングレネードを持っていることを知っていた彼は、
得意のテレパシーで彼女にそれを使わせ、手榴弾が爆発する前に目と耳を塞いだ。
そして皆の気がそれた数秒のうちに、人や竜よりもはるかに小さく、草原で目立たない魔物―
スライムに化け、草の間に逃げ込んで距離を取っていたのだ。

(リュカの真似して煽ってやったりもしたのに、結局死んだのは"一人"だけか)
つまんないの、とスミスは息を吐く。
(まあ、ぐちぐち言ってもしょうがないね。
 "あいつ"が死んだだけオッケーってことにしとかなきゃ)
標的の思念が途絶えたことを確認したスミスは、悟られぬよう、静かにその場を後にする。
どこに行くか、は考えていない。
適当にその辺りをうろついて、ターニアがいたならもう一度スコールに化けて回収してもいいし、
カインがいたなら元の姿に戻ってコンビを組んでもいい。そんな程度。
(どうせ僕一人じゃ、あいつらに敵いっこないし…
 手駒か仲間を用意しておかないとね)
残された者の声を遠くに聞きながら、スミスはぴょいんと飛び跳ね、草むらの向こうに姿を消した。


(それにしても……
 『お父さん、ピエール…一緒に、お母さん達とお兄さんを探そう!』ねえ。
 最期まで妄想にすがって現実見なかったとか、笑えるよねー!)

371:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 13/14
09/03/20 11:21:09 2UPh9DVaP
「殺し、ちゃったの……?」
リルムが呆然と呟く。
「死んだんじゃない? 
 人殺し相手なら殺したってティーダも許してくれるだろうし、せめてもの情けで、一発で死ねるように心臓狙ったから」
アーヴァインはそう言って、倒れた二人に歩み寄った。
ヘンリーの身体を乱暴に押しのけ、下の少女を引きずり出して瞳を覗き込む。
「オッケーオッケー。ちゃーんと即死してるよ」
「……」
「どったの、二人とも? 苦虫噛み潰した顔してさ~。
 ここは僕の腕前を万雷の拍手で褒め称えるシーンじゃないの?」
「貴様、ヘンリーまで殺したのか…?」
怒気を孕んだピサロの言葉に、アーヴァインは一瞬だけきょとんとした表情を浮かべ、慌ててヘンリーの手首を握った。
「……だ、だいじょーぶ。まだ生きてるよ、ほら、脈もあるし。
 い、一応、角度とか計算したし……銃弾抜けてるから、超ダッシュで手当てすれば助かるって、きっと!!」
引きつった笑いを浮かべるアーヴァインに、リルムとピサロは揃って頭を抑えた。
「小娘、貴様の手当ては後回しでもいいか…?」
「うん……リルムも手伝うよ」
「ぼ、僕も、手伝うよ……」
「「当たり前だ!」」

【スミス@スライム(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
 所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル  スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
 基本行動方針:ターニアが近くにいれば、合流して利用する
 第一行動方針:カインと合流する
 最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:南東の祠・北の茂み→移動】

【ターニア(血と銃口とタバサへの恐怖 錯乱)
 所持品:スタングレネード×3 ちょこザイナ&ちょこソナー
 第一行動方針:とにかく逃げる
 基本行動方針:リュック達と合流したい】
【現在位置:南東の祠・北の茂み→移動】

372:闇は闇に惹かれ、報われることもなく 14/14
09/03/20 11:22:14 2UPh9DVaP
【ヘンリー (重傷、気絶)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
     キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
 第一行動方針:?????
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、軽傷)
 所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
 第一行動方針:手当てを手伝う/アルガスの口を塞ぐ
 第二行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【ピサロ(軽傷)
 所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
 第一行動方針:ヘンリーを治療する/カイン、アルガスを始末する
 第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
 第三行動方針:ケフカへの復讐】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー 黒マテリア 
 攻略本(落丁あり) 首輪×2 研究メモ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:ヘンリーを治療する
 第二行動方針:仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在地:南東の祠・北の茂み】

【タバサ 死亡】
【残り 32人】

373:夢に描く世界は、現世とは交わらない 1/9
09/03/23 03:27:13 03fCePNu0
右方向すぐに見えるは毒の沼。左方向は深い茂み。
後方には無防備にねむりこけた男女三人、そして前方には敵が一人。
左目には、青灰色の鉱物で縁取られた黒い眼帯。
両手でがっちりと握り締めているのはアークボルトの国宝、雷鳴の剣。
心に抱くは、自分がみなを守らなければならないという強い使命感。

肺に限界まで空気を入れ込む。
剣のイメージ。友達のモンスターは、お城の兵士は、そしてあの謎の剣士はどうやって振るっていたか。
移動のイメージ。獣系のモンスターたちは、どうやって敵に近付き、敵を攻撃していたか。
それを思うと、初めて持つ剣なのに、まるで自分の手足のように使えるような気がした。
茂みは移動の邪魔。沼地の淵、草が生えずぬかるんでもいない地形を選び、そこを走り抜ける。

「うりゃあああ!!!!」
雷鳴の剣の切っ先が向かう方向は前方左斜め前。
前かがみの姿勢を保ってサラマンダーに走り寄りながら、同時に両腕を左に振りかぶり、遠心力を生かして横薙ぎにはらう。
テリーの切り込みは気迫こそ凄まじく、だが子供故の非力さか、速度も威力も本職には大きくおとる。
そんな一撃ではあるが、得物は一国の国宝。
大きく孤を描いた軌跡は、空気を切り裂くかのように草々を切り払っていく。それによって勢いをそがれることはまるでない。
人体に当たれば、研ぎ澄まされた刀身がそれをやすやすと裂いてしまうのだろう。
それでも。


サラマンダーとテリーとでは戦いにたずさわってきた時間が絶対的に違う。
しかも、テリーの切りかかりは他人目でも殺害を第一目的としたものではないと分かる。
追い払えればそれでいい、守りきれればそれでいい、そのような甘っちょろいもの。
荒削りだが筋はいい、このまま鍛えれば剣豪と呼ばれる使い手にもなりうる。それでも、素人は素人。
サラマンダーにとって、テリーの一撃をかわすことは、あかんぼうの突進をかわすくらいに簡単なことに思えた。

374:夢に描く世界は、現世とは交わらない 2/9
09/03/23 03:28:14 03fCePNu0
全身を使った、居合いのような軌跡を描いて振り放たれる剣閃。
それに対するサラマンダーの対応は、人間一人分程度後ろに下がるだけ、というもの。
手を抜いているわけではない。
大振りの一撃は威力こそ高いが、行動後の隙も大きい。
そのような攻撃こそ、回避後即座に行動できるように、最小限の動きで対応すべきなのだ。
剣を振りぬき、テリーの体勢が崩れたところ、ここを狙ってまずは一撃を加えるのだ。
一撃といえど、身体能力が優れているわけではない子供がまともにくらえばそれで戦闘不能。
回避と同時に、サラマンダーは両腕に力を溜める。
テリーの剣が振りぬかれた。予想通りに体勢は崩れる。
だが、サラマンダーの一撃が放たれることはなかった。

拳を放つ、そのために力強い一歩を踏み込もうと意識を足に向けるサラマンダー。
そうしたところで、彼は太腿に大きな違和感を感じる。まるで電撃が流れたかのような痺れ。
見れば、かすめとられたかのように右腿の正面から外側への部分の肉が切り裂かれ、血がほんのわずかに漏れ出ていた。
連敗を重ねるうちに、勘も大きく鈍ってしまったのか、そんな忌々しい予感は胸のうちに押し込める。
すでにテリーは体勢を立て直している。考える間もなくやってくるであろう次の一撃に備える。

「うらああっっ!」
テリーはスタイルこそ変えないものの、先ほどよりさらにぐっと踏み込んで、先ほどよりさらに鋭い一閃を放ってくる。
同じ避け方では、足をやられると判断、心外ではあるが、より大きな回避行動をとる。
しかし今度は反対側の足の正面からとろっと血が流れ落ちていく。
テリーの着けている眼帯は、サラマンダーの見たことがないものといえど、何らかの効果があることくらいは予想できる。
目に付いているのだから、当然『見』に関係する能力だと予測はできる。
それにテリーが天賦の才を持ちあわせているのも理解している。
それでも、この体たらくは 腕がなまったということの あらわれではないか。
心の奥底へ押し込めたくなるような思いが、苛立ちと共にサラマンダーの表層へあらわれる。

375:夢に描く世界は、現世とは交わらない 3/9
09/03/23 03:29:17 03fCePNu0


テリーの猛攻は止まらない、すでにサラマンダーの体には細かい切り傷がいくつも作られている。
当然、スナイパーアイの補助は受け付けている。それでも、サラマンダーに明確な傷を付けられたのは、
モンスターマスターとして戦闘に関わってきたテリーの実力、そして天性の素質といっていい。
自身の剣の実力のなさを自己暗示とイメージで補い、戦闘における司令塔として培った経験を生かして相手の次の動きを読む。
それは偶然か、才能の開花か。とにもかくにも、テリーはサラマンダーにくらいついていた。
決してサラマンダーの実力が劣化しているわけではない。
手になじむ武器の存在、サラマンダーにとってのタイムリミットの存在、装飾品の効果。
これらの状況が相乗効果となり、テリーに味方するのだ。
当然、一撃は浅い。サラマンダーの肉体に与えたダメージは、一ケタといって差し支えないだろう。
だが、一撃当てれば自分の技術は上がる。一撃当てれば相手の精神力も削れる。
剣を振ることだけに精一杯だったテリーに、わずかに余裕が生まれる。
後ろの仲間を気にする余裕、相手の動きを見る余裕、そして剣の声に耳を傾ける余裕。
(いける、自分を信じるんだ)
まだこの剣の力はこんなもんじゃない。感じたままに、剣へと命じる。力を解放するようにと。



376:夢に描く世界は、現世とは交わらない 4/9
09/03/23 03:30:16 03fCePNu0


ふと、サラマンダーの脳裏に仲間の顔が浮かぶ。
別に頼りたいと考えたわけではなく、テリーがそちらを気にする素振りを見せたためだ。
エリアと一戦交えたときの光景ともまたリンクする。
ここでサラマンダーには一つの考えが浮かんでしまった。

裏稼業NO1だったころは、サラマンダーは仲間とは無縁の存在だった。
それでも己の強さにはかなりの自信を抱いていたが、ジタンらと行動してから、さらに実力がぐんぐん伸びていった。
それ以降はいつも心のどこかに仲間がいた。一人で戦ったときでさえ、そうだった。
数だけでは決してなく、多分に心力というものがプラスされていたはずなのだ。
では、迷いを取り去り、仲間と決別して、ジタンらと旅をしていたころの実力が出せるのか?
いや、ジタンらと出会う前の実力にリセットされるだけだ。
今の実力こそが、自分ひとりの実力。こんなはずではない、という幻想に振り回されてはいけないのだ。
同じ世界から来た者がすべて死に絶えた時点で、戻ることは物理的に不可能。
何年もの間実践し続けてきた、一人で生き残るための戦いを演じなければならない。
だが、それでいいではないか。もとより、それが本当の強さだと思っていたのだから。

左方向は毒の沼。右方向は深い茂み。
前方には敵が一人。その先には、無防備にねむりこけた男女が三人?
敵の左目には、青灰色の鉱物で縁取られた黒い眼帯。
両手でがっちりと握り締めているのは、魔力さえ感知できる業物の剣。
敵は手が休まったかわりに、剣をかかげて何かを念じているようだ。
これより、確実に何かが来る。魔力の流れは上方。
ことを起こす前に仕留められる可能性は低い。
一秒間に得られた、現在の状況。
肺にためていた空気をすべて入れ替え、新しい酸素を脳に回す。
考えるのは、これからどう動くかということ。


377:夢に描く世界は、現世とは交わらない 5/9
09/03/23 03:31:03 03fCePNu0


雷鳴の剣への命令が届いた。剣に込められた魔力が反応し、紫電の光の雨が無差別にテリーの前方へと降り注ぐ。
サラマンダーはすんでのところでそれをかわす。
特に集中して落ちた場所からは、ぶすぶすと黒い煙が立ち昇る。
直撃すれば死こそせずとも、戦闘不能は確実だろう。
威力は上々、そして範囲も文句なし。というより予想以上。
サラマンダーとて、ある程度の攻撃は予期はしていたとはいえ、さすがにこの範囲と威力は想定外。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけテリーはその力に心奪われた。

テリーの気分が高まる。
テリーは動かず、ただ雷鳴の剣の効果を連発する。
(このまま逃げられてまた襲われてもいやだし、
 だったらいっそここでやっつけて捕まえたほうが!)
いつしか浮かべていた不気味な笑みを絶やさず、サラマンダーは雷光をギリギリで回避する。
完全に防戦一方のサラマンダー、負けている演技をしているというわけでもない。
なのに剣で直接接近戦を挑まれたときよりも、その表情に余裕ができている。
だって、今テリーは一つの行動しか取っていないのだから。

「おい小僧、これはなんだと思う?」
戦いが始まって以降、ずっと無言だったサラマンダーからの、突然の問いかけ。
サラマンダーの手には、いつの間にか何かの粉末が入ったビンが握られていた。
テリーに薬の知識はない。だが、先ほど投げつけられた粉末が睡眠薬というのは分かる。
つまり、人体に有害な薬品だということは考えるまでもなく思いつくこと。
だが、何故それを問うのか。存在をバラすのか。答えはすぐに出た。テリーの後ろには動けない仲間がいる。
上半身を大きく捻るサラマンダー。踏み込み、遠心力、体のバネ、手首の力。これらを生かした投げが来る。
粉末の詰まったビンが、テリーの左目めがけて、豪速で迫り来る。
テリーの眼力では見えないほどの速度。でも、スナイパーアイを着けている左目には細部まで見えてしまう。
目を背けることもできず、避けることもできない。
使い勝手のいい必殺技を見つけてしまい、そればかり使ってしまったテリーに、
剣でそのビンを打ち払うなどという発想は湧かない。
「あっ!!」
かろうじてできたのは、ヒットした際に短い悲鳴をあげることだけだった。

378:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/23 03:32:45 IGbfAY1uO
 

379:夢に描く世界は、現世とは交わらない 6/9
09/03/23 03:34:17 03fCePNu0
結果だけなら、スナイパーアイのフレームにビンがぶつかっただけのことだ。それでも衝撃自体が相当なもの。
スナイパーアイは はじかれて毒の沼の中へ落ち、テリーもバランスを崩して後ろによろめく。
そこに、ビンの口から吹きこぼれ出てきた粉末が立ち込める。
慌てて息を止め、立ち込めるこの粉末を少しでも払おうと、その手をぶんぶん振るが、それでどうにかなるわけがない。
「即効性がないということは、やはり敵に使う類のものではなかったか」
なのにサラマンダーは何のためらいもなく、粉末の中を移動してくる。
それは当然、イクサスは目的からして、即効性のない攻撃薬など作るはずがないと理解しているからだ。

サラマンダーが、まるで大山のような圧倒的な存在感で、テリーの前にそびえたつ。
テリーにこれを越えるすべは、もう、ない。
敗因はただ一つ。
経験の差。

「う、うあああ!!」
テリーは慌ててもう一度雷を呼び起こそうと雷鳴の剣に念じるが、その前にサラマンダーが剣を持つ右手を強く握り締める。
「ああ あ ……」
血流を止められ、マヒした腕は脳からの命令を実行できず、あっさりと剣を手放してしまった。
そのままの流れで、もう片方の腕を使ってテリーの首根っこを掴み、持ち上げる。
「終わりだ」
短い宣告。
たった一手ですべての武器を奪われ、無力化され、気力も根こそぎ絶やされた。立場はもはや逆転した。
深い茂みの中から、鉄の刃が飛んでくるが、軽くかわす。
次に放たれた広範囲にわたる風の刃も、処刑を中断させるには及ばない。

一撃。



380:夢に描く世界は、現世とは交わらない 7/9
09/03/23 03:37:38 03fCePNu0


テリーは痛みすら感じない。意識すら飛ばない。
しかし、秘孔を突かれた。もう助からない。
ただ、死が目前に迫っているという確信めいたものだけが植えつけられた。
身の丈ほどもある大剣を持った男が茂みから飛び出してきたのはそのときだった。
サラマンダーはテリーをわしづかみにしたまま、案外器用にザックを剥ぎ取る。
そのままの流れで、ザックから鋼鉄の剣を取り出し、テリーに突きつける。
サラマンダーにとって、テリーは敵ではなく、もはや盾でしかなくなっていた。

「その子を放せ」
「ああ、俺の用が済めば放してやる」
サラマンダーはそういいながら、テリーの落とした雷鳴の剣を回収しようとする。
が、突然飛んできた黒いオーブが弾け、雷鳴の剣をガチガチに凍りつかせてしまった。
サラマンダーが忌々しげに眠っていたはずの三人の方向に目をやる。
「タイムリミットか!」
女性の目が明らかにこちらに向いていた。強力な武器だけは渡さないということだ。

この隙を逃すザックスではない。
一瞬でサラマンダーに迫りより、鋭い突きを繰り出す。
サラマンダーが熟練だからこそ分かるその威力。
テリーを盾にしたところで防げるものではない、だからこそ重荷となるテリーは手放すしかない。
この判断は早かった。大きく横に跳ぶ。元々、剣を回収すればテリーは離す予定だったのだ。

(なるほど、この男は強い。仲間も目覚めた。引き際か。だが緒戦としては上々だな)
成果は出た。
自分の意思で、自分の獲物を仕留める感覚。
放置し、錆び付かせていた感覚を再び取り戻す。

ザックスはテリーを後方に、サラマンダーに向かい剣を構える。
が、すでにサラマンダーの逃亡態勢は整っていた。
イクサスが残した最後の薬品を投げつける。
粉末が辺りに舞うが、先ほど投げつけたものと形状が同じことからも、即効性のあるものではないのは明らか。
それでもザックスたちは警戒して振り払わざるを得ない。
辺りが晴れたときには、サラマンダーはすでに茂みの中へ姿を消していた。

381:夢に描く世界は、現世とは交わらない 8/9
09/03/23 03:39:00 03fCePNu0
乱入してきた人間が敵か味方かは目を見れば分かる。
テリーはみんなの命を繋ぐことはできた、ということだ。
けれど、テリーの心には決して満足などという感情は湧かなかった。
未来も奪われ、持ち物も奪われ、テリーに残ったのはポケットに入った竜のうろこだけ。
テリーが生きているのは見た目だけだ。
実際には、もう死のカウントが始まっている。
サラマンダーのせめてもの情けだろうか。
苦しくはないし、痛くもない。眠いだけだ。
けれども世界の輪郭はぼやけ、色も薄れている。
耳もおかしい。助けに来てくれた人が何か言っているのに、聞こえない。
体の感覚も消えて、まるで体が宙に浮いているみたいだ。

うぬぼれていたわけじゃないけれど、みんなを守ることくらいできると思っていた。
この世界に来て守られてばっかりなのは、ちょっぴり悔しかった。
けれども、それで正しかったのだ。自分は守られる側、だったのだ。

友達や知っている人たちが目の前を通り過ぎていく。
みんなが一言ずつ、俺に言葉を残していく。
王様、モンスターじいさん、ピエロの二人、プリオ、テト兄ちゃん、サンチ、マチコ姉ちゃん、ルカ、イル、わるぼう。
スラぼう、ホイミン、ドランゴ、ゲレゲレ、ファング、まつかい、ゆきのふ、ヘルード、グレンザ、ゴルゴ。
牧場の仲間達が次々と通り過ぎていく。
(もうみんなと冒険できないんだ。そうかあ……)

近所の人たちや、魔女に連れてこられた世界で出会った人たち。
義父さん、義母さん、ミレーユ姉ちゃん…。そして、わたぼう。
泣いてる。姉ちゃんやわたぼうが泣きながらこっちに手を伸ばしてる。
手を伸ばそうとしても、体が動かない。死の世界に引き込まれる。

(…いやだ)


(いやだ! 死にたくない! 誰か助けて! 義父さん、義母さん、姉ちゃん!
 連れて行かないで! まだ俺には…‥                                



382:夢に描く世界は、現世とは交わらない 9/9
09/03/23 03:40:21 03fCePNu0
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(12) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 第一行動方針:?
 第二行動方針:金髪の少女(タバサ)を始末
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】

【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
 天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
 第一行動方針:ザックスに対応、ティーダらをたたき起こす
 第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【ティーダ(変装中@シーフもどき、睡眠)
 所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
 第一行動方針:アーヴァインを追う
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ロザリー(睡眠)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:ピサロを追う
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※雷鳴の剣は氷漬けになっています
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】

【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP2/5)
 所持品:チョコボの怒り 突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 鋼鉄の剣 包丁(FF4)
 第一行動方針:ザックスたちから離れる
 第二行動方針:スコールを探し、再戦し、倒す】
【現在位置:デスキャッスル北西の茂みから移動中】

【テリー(DQM) 死亡】
【残り 31人】

383:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/03/29 12:32:56 H6q2jz8l0
保守するぞッ

384:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/05 21:27:35 /dVuOrqp0
念の為ほす

385:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/08 14:33:37 CWYYGLqQO
捕手

386:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/12 19:31:11 NIofSKXXO
ほしゆ

387:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/15 11:42:40 bd1Jav9X0
なかなか受からないのでまだ保守だけ

388:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/18 00:55:14 hBFivNKn0


389:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/21 11:08:42 ALQxcTeuO


390:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/22 22:00:15 M1XDzIPM0


391:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/24 17:35:44 dXbKme9sO


392:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/04/29 18:37:37 4ABs/429O


393:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/03 02:52:53 87UQsPMXP


394:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/06 06:25:40 LLz2Q5xgO


395:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/10 16:46:15 jvLrXVB70


396:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/12 01:13:29 YORCyQojO


397:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/13 15:35:57 7BxromcBO


398:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/15 23:10:56 HLhC6FrK0


399:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/17 04:06:44 B32UgoQPO


400:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/18 02:31:57 xfw23VddO
矢印厨多すぎw

401:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/18 07:52:38 4E0zv99S0


402:狂人になれない狂人の思考 1/9
09/05/21 23:34:52 W1akKkDxP
ヘンリーの傷は、思っていたよりは深かった。
そりゃあそうだ。子供の心臓を真っ直ぐ狙う射線の上に、身を晒したんだ。
もうちょっと屈んでいたら、タバサと同じ死因で即死してたかもしれない。
だけど、二人ともエリクサーを使おうとは言い出さなかった。
とどのつまり、命に別状が無い程度の重傷でしかなかったってことさ。
放っておいたら死ぬかもしれないけど、手当てをすれば余裕で助かる……
彼にとっては幸運なことに、あるいは残念なことに、『そんな程度』の。

「う…うう……」
良くわからない魔法の詠唱と、時折もれるうめき声。
それ以外は、静かだ。
静か過ぎて、口を挟む余地を与えてくれない。
けれど、何かを考えるには、最適だった。

スコールとターニア。
二人はどこへ行ってしまったのだろう?
それ以前に、あいつは本当にスコールだったのか…?

ティーダ。
結局、約束、破っちゃったな。
でも、仕方なかったんだ。
タバサには死んでもらう必要があった。
ゼルやリノアの復讐とかそういうことを差っ引いても、
絶対に、ぜーったいに、ここで死んでもらわなければならなかった。
理由は二つ。一つは、タバサ自身が危険だから。
災いの芽となる要素があるなら、被害が出る前に踏み潰すべき。
そういう考え、間違ってる?
いーや! 僕の方が正しいってことは、確定的に明らかじゃないか!
下らない情けや義理に縛られて死んだ人が何人いるのか、気づかないほど間抜けじゃないだろ?
それでもあんたは子供を殺せるほど冷酷じゃないし、それ以上に、僕みたいなゲス野郎にはなってほしくない。
汚れ仕事は、汚れた手の持ち主がやるべきだ。違うかい?

403:狂人になれない狂人の思考 2/9
09/05/21 23:43:10 W1akKkDxP
それに……利用する価値もないゴミがばら撒いた噂を塗りつぶす真実が、僕には必要なんだ。
どうせ、このガキも、僕と同じ人種。
人を利用するだけ利用して、自分の手を汚すことも厭わない、薄汚れた人殺しだよ。
そんな奴に、一つぐらい罪状が増えたって、誰も大して気にしないだろ。
『同じ森の中にいた殺人者のグループが、通りすがりの男を撃った』
こんなシナリオの方が、誰もが優しいと信じてる回復役の女性が裏切って殺した、よりも信憑性は高いだろ。
第一、実際に錯乱した小娘が、通りすがりの三人組に向こうから襲い掛かってきたんだ。
二度あることは三度ある。
そう言い張るには最高のシチュエーションで、大人しく見逃してやる意味なんて、ある?
さっさと返り討ちにして、言い訳できないように永遠に黙らせるのがベストだろ。
ジョーシキ的に考えて、さ。

さて、問題はこれからのことだ。
僕はヘンリーに目をやった。
相変わらず、意識は戻っていないようだ。
それでも顔色は着実に良くなっている。
魔法ってスゴイね。浮かんだ感想は、そんなもの。
いっそ手遅れってコトでくたばってくれれば、手間の一つが省けたもんだけど。
まあ、文句を言っても始まらない。
ピクピクと瞼が動いているのを確かめてから、僕は、自分の持っている銃に目を落とした。

「ねえ、リルム」
呼びかけたところで、彼女は振り向いてくれない。
相当怒ってるんだろう。仕方がないことだけど。
だから僕は、銃を地面に放り投げた。
「預かっててよ、これ」
「……」
リルムが黙って振り向いた。
その表情と目を直視するのが辛くて、僕は膝を抱えて俯いた。
「わかってるよ。ホントは、僕にあの子供を裁く資格なんてなかったってことは。
 だから、預かってほしい」
重要なのは、リルムの信頼を取り戻すこと。
そのためなら銃を一時手放すぐらい、ワケもない。
本当に必要な時は、ザックを摩り替えるなり、盗むなり、最悪は実力行使すればいいのだし。

404:狂人になれない狂人の思考 3/9
09/05/21 23:44:03 W1akKkDxP
「わかってたんだ。だけど、あの子が従えてた緑ぷよに、ゼルやテリーの仲間が殺されたんだと思うと……
 憎くて憎くて、仕方なかったんだ」
みどりぷよ…もとい、ピエール。
リルムだって、あいつのことは覚えているだろう。
なら、こう言えば、僕の行動を真っ向から誹ることは難しくなるはずだ。
"目には目を、歯には歯を" "血は血をもって贖う"
銀幕の中でも現実でも、さんざん使い古されてきた錦の御旗にして、単純明快なマーダーライセンス。
仇討ちって理由と行動を完全に否定できる人間なんて、そうそういない。
だけど―リルムは言った。
「…それでも、間違ってる!
 本当に悪いのは、みんなをこんな目に合わせたケバケバおばさんでしょ!?」

ああ。
きっと、ティーダも、そう言うんだろうな。

「殺さなくたって…許す道だってあったはずだよ!」
的外れな意見と、思い描く結果にたどり着くまで何回もサイコロを振れると信じてる、子供の理屈。
"バ~~~~~~~~~~~~~~~ッカじゃないの?"
他の奴らが言ったならそう吐き捨てるのに、何故か、心の奥にちくちくと突き刺さる。
それで、ちょっとだけ顔を上げた。
リルムの顔が、くしゃくしゃになっているのが見えた。
青い眼からぽろぽろと涙を流して、そのくせ、こちらをぎゅっと睨みつけていた。

止めてよ。
そんな目で、僕を、見ないでくれ。

405:狂人になれない狂人の思考 4/9
09/05/21 23:45:24 W1akKkDxP
「そこまでにしろ、小娘」
ピサロの声が聞こえたけど、そっちを向こうとは思わなかった。
あいつのことだ。どうせ、スコールみたいに、取り澄ました顔でもしているんだろう。
それに、タバサが危険だってことも、ヘンリーに抑えられるほど大人しいガキでもないってことも、わかってるはずだ。
ヘンリーを巻き込んだという一点を除いては―それにしたって殆ど不可抗力―僕の行動は間違ってない、ってことも。
僕はただ、うずくまったまま、ろくに動かない右腕を握り締めた。
ピサロもリルムもそれっきり口をつぐみ、奇妙な静寂が場を支配した。

セルフィ。君だったら、なんて言うんだい?
そんな疑問が頭の端を掠めたけど、すぐに、思い直す。
"誰にどんな目で見られようが、どーでもいいことだ"って。
"大事なのはそんなことじゃない"って。

「………」
僕は、膝と額に挟まれていた左腕を少しだけ上げる。
そうして出来上がった隙間から、ヘンリーの様子を伺い見る。
少し前まではうーんうーんって唸っていたけど、今はとっても静かだ。
リルムとピサロへのアピールタイムは終わった。
あとは、『ぷるぷる、僕は悪い奴じゃないよ、仲間を殺された恨みで衝動的に[ピーー]しちゃっただけだよ』
…と、そんなカンジでヘンリーに僕の行動を納得させて、情報を得るだけ。
今までどこにいたのか、どこかでアルガスを見かけてないか。
それを聞いておかないと、スコールを追うかアルガスを探すか決めようがない。

だから、さっさと起きて欲しいんだけどね。
いつまで死んだフリしてるんだろ、この人。

ああ、勘違いはしないでよ? 別に非難してるつもりはないから。
向こうにしたって、情報を得たいのは一緒だ。
起きてたら聞けない話でも、意識を失ってると思われていたりすると、案外簡単に聞けるもんね。
誰だってそーする。僕だってそーする。
だけど、だからこそ、さっさと起きてくれって話でさ。
チラチラ薄目開けたり、痛いのを我慢して黙ってたりするぐらいなら、
さっさと『うぃーっす、はよーっす』って言ってくれればいいのに……

406:狂人になれない狂人の思考 5/9
09/05/21 23:47:30 W1akKkDxP
「あっ! 気がついた!?」
不意に、リルムが弾んだ声を上げた。
数秒ほどしてから、「ああ……」と、少しばかり気まずそうな返事が響く。
首を動かしてみると、ヘンリーが複雑な表情を浮かべて身を起こしていた。
「タバサ…ちゃんは?」
「死んだ」
「…そうか」
わかりきったことでも、一々聞いて確かめたくなるのは、僅かな希望にすがりたい人間のサガなのか。
それとも、このオジサンがドMで、現実に打ちのめされてみたいだけなのか。
正直どっちでも、どぉ~でもいい。
「ごめんなさい…」
僕はわざと肩を震わせながら、力なく呟いてみせた。
残念ながら、アルガスの行動を鑑みると、僕には恐怖で人を縛る才能がなかったみたいだ。
だから、善意で縛りつける。
武器を手放し両手を挙げて無力さをアピールし、懺悔を請うことで哀れみを誘う。
スコールやサイファーならあるいは逆上して殴られるかもしれないが、ヘンリーぐらいの歳になれば、そこまで血気盛んじゃないだろう。
「許せなかったんだ。
 あの子のせいでみんなが死んだって思ったら、許せなかったんだ」
同じ事を何度も繰り返して、かつ、詳しいことは話さない。
そうやって軽くパニックになった人間のフリをして、あとは、周りのフォローに任せればいい。
「ヘンリー」
「………わかってる」
ピサロの呼びかけに、ヘンリーは小さく答えた。
何がわかってるんだか。
タバサは死ななきゃいけないってこと? それとも、僕が悪くないってこと?
後者だとしたら、何もわかってない。
ふう、と息をつきたくなるのを我慢して、僕はひたすら、泣いているフリをする。

「アーヴァイン」
ヘンリーがいきなり僕の名前を呼んだ。
声音に込められた感情は、―悲しみと、諦めと、それ以上に強い何か。
いっそ罵声でも飛んでくればいいのにと思いながら、僕は、言葉を待つ。
けれど、彼が告げたのは、予想だにしなかった事実だった。

407:狂人になれない狂人の思考 6/9
09/05/21 23:49:31 W1akKkDxP
「アーヴァイン……スコールがお前のこと、気にしてたぞ。
 事情があって南の祠に残ってるけど、会ったら連れてきてくれって―」

その瞬間、反射的に顔を上げてしまった。
「はあ?!!!」
そう叫んだ後で、今の今まで泣きマネをしていたことを思い出し、慌てて眼をこすってみせる。
どこまで誤魔化せたかはわからないけど……驚いたのは、ピサロやリルムも同じだったようだ。
「南の祠……って、それ、ホントなの?」
「あ、ああ。色々やりたいことがあるから祠に残るって、あいつが言い出して」
リルムに詰め寄られ、ヘンリーはうろたえながら答える。
「じゃあさっき女の人と一緒にいた黒服にーちゃんは誰だっていうの?!
 嘘つきはドロボーの始まりだよ、オジサン!」
「え? は? ちょ、ちょっと待ってくれ!
 女の人と黒服にーちゃんって…うぐっ!」
リ、リルム……数分前まで気絶していた人間の肩を掴んでガシガシ揺さぶるのは人としてどうかと思います。
ああ、傷口でも開いたんだろーか、ヘンリーの顔色がみるみるうちに面白いコトに……

「…やはり、偽者か」
さすがに止めないとマズイと思ったのか、空気を読まないだけなのか。
ピサロが唐突に口を開いた。
「え?」
リルムもさすがに手を止めて、彼の方を見やる。
「離れた場所に同一人物が二人いるなど有りえん。
 少なくとも片方は偽者だ。そして」
「…ターニアちゃんと一緒にいた方は本物じゃないってこと?」
僕は、さっき見たスコールの姿を思い返す。
額の傷、黒い服とアクセサリー。いつもと同じ、見慣れた姿。
でも、一つだけ違うことがあった。
黒い靄だ。
翼を広げた怪物のようにわだかまる黒い靄が、あいつの周りを覆っていた。
それが何を意味するのか、あの時は、はっきりとはわからなかったけど……

408:狂人になれない狂人の思考 7/9
09/05/21 23:51:32 W1akKkDxP
「我々が見た男は変化の杖を携えていた。
 それにアーヴァイン。貴様も怪しいと感じていたから、カードとやらを持ち出したのだろう?」
僕は頷いた。
「本物のはんちょーはカードコレクターだし、僕がゲームやらないってこと知ってるし……
 ゲームの誘いに乗ったり、カードデッキを受け取らないようなら、偽者だって言い切れたんだけど」
「なるほどな」
ピサロは、『何がなんだかわからない』って顔のリルムと、『とりあえず痛い』って顔のヘンリーを交互に見やりながら、顎に手を当てる。
「ヘンリー。その南の祠とやらまでの道のりで、誰かに出くわしたか?」
「い、いいや。タバサちゃんとお前らだけだ」
「金髪で、兵士姿の人間の男などは? 見かけなかったか?」
「さあ……見てないな。お前らの知り合いか?」
ヘンリーは首を振りながら答えた。

……なーるほどね。
どうやらピサロは、ターニアを探しに行きたいみたいだ。
長い間一緒に過ごした相手だし、さすがに心配なんだろう。
それとも、アルガスが言ってた『ピサロがターニアのお兄さんを殺した』って話が関係してるのかもしれない。
スコールに会うだけだったら、ヘンリーとリルムがいれば問題なさそうだけど……
アルガスが一緒にいるとしたら、僕の代わりに手を下すピサロの存在は必須。
そしてピサロにしても、カインと手を組んでいる上、自分に不利な噂をばら撒くアルガスを見逃す気にはなれないはずだ。
だからこそ、ヘンリーに確認してみたんだろう。

「……」
「そんな睨まれたって、会ってないもんは会ってねえよ。
 それにGFはスコールに渡してきたんだ、いまさら物忘れなんかするか」
ヘンリーは左手で額に滲む汗を拭いながら、呆れたように右手を振る。
その仕草や表情からは、嘘かホントか判断できない。
「ホントに知らない? ラムザっていうんだけど」
カマをかけるつもりで言ってみる。
これで『アルガスじゃねーの?』とか『そいつは"本当に"知らない』とか言ってくれれば良かったんだけど…
「だから俺は知らないって」
ヘンリーの答えはそれだけだった。

409:狂人になれない狂人の思考 8/9
09/05/21 23:54:24 W1akKkDxP
―それで、結局どうなったかって言うと…

「……はぁ」
妙に暗い空の下、僕は盛大にため息をついた。
「そんなに気に病むな。
 お前が悪いわけじゃないってことは、わかってる。
 仕方なかったんだ……なにもかも」
ピサロから渡された変な指輪を嵌めた途端、みょ~に元気になったヘンリーが、何を勘違いしたのか、慰めの言葉を送る。
違うから。
僕の気分が沈んでるのは、ピサロっていう最強の手駒を失ってしまったから。
おまけにピサロが何を考えたのか、僕の銃を借りたいとか言って、幾つかの道具と一緒に持って行ってしまったせいだから。

―うわ~~~~~~~~~~ん!
僕のパーフェクト☆プランが物凄い勢いで台無しじゃんか、バカーーー!!
これでアルガスが南の祠にいたらヘンリー潰す! 真っ先に潰す!
ほら、嘘ついたらサボテンダーごと針千本飲ませていいってママ先生も言ってたし!
手元にでっかい針が60本ほどあるから、こいつを丸呑みしてもらうもんねーだ!

あーあ。

……スコール。
南の祠にいるっていうあいつは、今度こそ本物なんだろうか。
そして、いつかみたいに、僕の迷いを晴らしてくれるのだろうか。
できることなら、セルフィも、ティーダも、どちらも裏切らないで済む答えが欲しい。
ああ、でも、もしそれができないなら―

壊すしかないよね。仲間でも、友達でも、さ。

410:狂人になれない狂人の思考 9/9
09/05/21 23:55:35 W1akKkDxP
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
     キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E)
 第一行動方針:アーヴァインを連れて祠へ戻る
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、軽傷)
 所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
 第一行動方針:スコールに会い、行動方針を再考する。それまで脱出の可能性を潰さない
 第二行動方針:アルガスの口を塞ぐ、場合によってはヘンリーに仕返しする
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、攻略本(落丁あり) 首輪×2 研究メモ
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:ヘンリー達と同行する
 第二行動方針:仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在地:南東の祠・北の茂み→祠へ移動】


【ピサロ(軽傷、魔力消費)
 所持品:エクスカリパー スプラッシャー コルトガバメント(予備弾倉×3)、祈りの指輪 黒マテリア
 第一行動方針:ターニアを探して保護する
 第二行動方針:可能ならロザリーを救出する/カイン、アルガスを始末する
 第三行動方針:ケフカへの復讐】
【現在地:南東の祠・北の茂み→移動】

411:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/26 10:34:51 VWzkp4xzO


412:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/28 21:11:34 hn+A6B+/0
保管庫の更新が無いが、いつもこんなものなのか?

413:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/29 00:36:46 YhZfFlwj0
保管庫はアク禁になったときに使うもんだよ
まとめサイトのことならいつもこんなもん

414:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/29 03:41:04 x7eadMLOO
まとめサイトは突然一気に更新されるよな

415:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/05/31 01:44:46 BCO1xDOAO
こいつザンデ↓

416:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/04 00:20:21 6KjkhXMSO
保守する

417:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/07 19:45:53 YVuqs6o/O


418:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/09 23:40:29 LYB8ne8bO
保守ー!

419:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/12 16:24:21 XqqBWkxn0
あげ

420:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/13 17:27:08 SY+ti8dOO


421:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/16 00:58:10 6SCCng0bO
|    ( \/ /_    <./|   /|       /\___
└―  ヽ/ /Д`/⌒ヽ  / .| / /     /    //
      / /\/ ,ヘ  i   ̄ > \_/   /____//
      し' \_/    i  />      ̄ ̄ ̄ ̄
         i⌒ヽ  ./   ̄>__         .|| |::  矢印だ!危ない!!
     /⌒ヽ i  i  \(    .|/  / /\    .|| |::
     i    | /ヽ   ヽ   __/   ̄       .|| |::
     ヽ ヽ| |、 \_ノ  >   <>       || |::
       \|  )  ̄  ./V       ___    ..|| |::
____  .ノ ./⌒)  /  ...____[__||__]___||___
     / し'.ヽ ( .     /\________|__|
    //    し'  / /\   ̄::::::::::::::::::::::::::::

422:自治スレにてローカルルール変更審議中
09/06/20 09:19:16 yBs8tWkoO


423:自治スレにてローカルルール変更審議中
09/06/22 22:13:03 GbRl2PnGO


424:自治スレにてローカルルール変更審議中
09/06/26 17:32:46 PqWsEv69O


425:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/06/30 22:44:01 3Db5bNkvO

|  ≡  ∧_∧
|≡   (・∀・ ) ひゃっ!
|  ≡ /  つ_つ
|≡  人   Y
|  ≡し'ー(_)


426:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/04 21:31:54 7k6UW7fiO


427:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/06 04:15:07 lrCiRozDO


428:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/10 02:08:07 xJYL6iZB0
DQ9対策保守

429:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/11 01:42:29 8ioVOsW00
DQ9スレ乱立中

430:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/13 08:24:35 rZqM41lnO
ほしゅ

431:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/15 23:56:53 UjuVjIp10
保守

432:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/18 15:34:27 +dZjACkT0
保守

433:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/20 02:53:09 v9HwWfa90
sage

434:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/23 00:11:25 4EXoTWUp0
うわあ最後の投下が二ヶ月前だ。

435:神の悪意と掌の上で 1/9
09/07/23 23:59:35 qzu32CncP
『セフィロスがここにいる』
その言葉に秘められた絶望の重さが如何ほどか、私には量ることはできない。
不幸にして、あるいは幸いにして、私はその人物に出会ったことがないのだから。
ただ、眼前に立つ青年達の焦りと、隣に立つ賢者の表情を以って、察するだけだ。

「最低でもリルムと合流して、彼女の安全を確保したいんです!
 『バリアの先の隠し部屋』に心当たりがあるならば教えてくださいッ!」
焦りを隠そうともせず、ラムザが捲くし立てる。
本来の姿であれば少女の居場所など容易く探し出せるのだが、今の私ではそうはいかない。
あるいは地上の建築物であれば、構造を思い出すこともできたが……
闇に覆われたこの世界は魔王の領域であり、天空の王座から視認できる場所ではなかった。
「そう言われても、我々はこの部屋の外は探索しておりませんからね……
 リルムさんが特別な魔力を秘めたアイテムを持っているならば、話は別なのですが」
「特別な? ―そういえば、黒のマテリアを持っています!
 サロニアの遺産と呼ばれたあのアイテムなら、きっと、相応の魔力が込められているはずッ!」
……マテリア? アレは確か、異界の生命と知識の結晶とやらではなかったか?
「まあ……やってみなければわかりませんし、試してみるとしましょうか。
 ちなみに、どの時点まで、リルムさんと一緒に居ました?」
「城門のところまでは」
「では、そこから調べてみるとしましょう。
 皆さんは一先ずここに留まって、もしもの時に備えてください。
 逃げるところを襲われるよりは、万全の状態で戦いを挑む方が生き残れるでしょうから」

私はそう言って、部屋を出て行こうとした。
その時だ―銀の輝きが視界に移ったのは。
「ちょ、ちょっと待てよオッサン!
 まさか一人で行くつもりか?!」
呼び止めたロックに、私は向き直り、笑顔を作りながら答えた。

436:神の悪意と掌の上で 2/9
09/07/24 00:00:55 qzu32CncP
「私一人が欠けたところで戦力的な問題はないでしょう。
 むしろ、私の護衛のために戦力を割いて、各個撃破される方が危険です」
「いや、だけど……」
「なあに、いざとなったら逃げるから大丈夫ですよ。
 これでも体力と逃げ足には自信があるんです」
どん、と胸を叩いてみたが、それでもロックは何か言いたげな表情で私を見やる。
しかし、彼よりも先に、ラムザが口を開いた。
「申し訳ありませんが、お願いします」
「ラムザ!」
「ロックさんの言いたいことはわかります。
 けれど、この人の言うとおり、戦力を消耗する可能性は減らした方がいい」
「……」
納得がいかないといった様子で押し黙るロック。
弱い者を守ろうとする意思は立派だが、状況を判断する冷静さも、生き延びるためには必要だ。
「はっはっは、これぐらいしか役立てることなどありませんからね。
 気になさらないでください。
 あ、半刻経っても戻らなかったら、死んだと考えて下さって結構ですので」
私はそういい残して、今度こそ部屋を後にした。


魔王ピサロの居城、デスキャッスル。
天空の城にいた時も、人に紛れて下界で暮らしていた時も、ここに足を踏み入れる時が訪れるなど考えもしなかった。
ましてや一人で中を歩くなど、天空人達が聞いたら間違いなく腰を抜かすことだろう。
薄暗い城内に、コツン、コツンと足音が響く。
光を吸い込む素材で作られた廊下は、邪悪な気配に満ち、息苦しささえ感じる。
どうせなら、エルフの娘が好む内装に変えてしまえば良かったのに。
そんな無責任な感想を抱きながら、私は適当な所で足を止めた。
「さて……この辺りがいいですかね」
ここならば、誰の声も届かないだろう。
そして誰にも、私達の声を聞かれないだろう。

437:神の悪意と掌の上で 3/9
09/07/24 00:02:51 qzu32CncP
「セフィロスさんと仰いましたか。
 そろそろ、姿を拝見させていただきたいのですが」

空気が張り詰める。
数秒の間を置いて、柱の影から押し殺した笑い声が響いた。
「……いつから気がついていた?」
足音どころか衣擦れの音すら立てず、銀髪の青年が姿を現す。
気配は見事なまでにこの城の空気に紛れ、歴戦を経た戦士の感覚すら欺ききることだろう。
『ほぼ』完璧な陰行術だ。
魔石を通じてロックを監視している時と、部屋を出る時に、長い髪の端をほんのわずか覗かせてしまわなければ。
「部屋を出る直前、ですかね。
 しかし、私の後を追ってくるとは少々意外でしたよ。
 てっきり、貴方はあちらの様子を伺うものとばかり思っておりましたので」
「仲間を囮にして逃げるつもりだったならば、賢い選択だと言いたいが―
 少々、当てが外れたな」
抜き身の剣を手にしたまま、セフィロスは口の端をゆがめる。
ぼんやりと光る緑色の目と猫のような瞳が、彼の素性と、胸中に眠る邪悪な夢を雄弁に語っていた。
なるほど―中々に危険な男だ。
「逃げるというのは不正確ですね。
 時間を稼いでもらっている間にこの城の主を呼びに行くつもりでいましたので。
 偽りとはいえ、懐かしき我が家を無断で壊されては、ピサロ卿もさぞ不愉快になるでしょうしね」
「クックック……あの生意気な小娘は連れてこなくていいのか?」
「貴方の捜し求める黒マテリアと一緒に、ですか?」
私の言葉に、セフィロスはわずかに目を細める。
その表情、そしてわずかな殺気と無言は、肯定の表れと受け取って良さそうだ。
「私を追ってきたので、その可能性があると思い、言ってみただけなのですが……
 大当たりのようですね。
 ついでに、もう一つの目的も当ててみましょうか」

いつの時代でも、駆け引きというものは変わらない。
相手の行動から狙いを読み、その上で虚実を織り交ぜ翻弄し、
己が舞台に引きずり上げ、主導権を握った者が勝利するのだ。
そして―

438:神の悪意と掌の上で 4/9
09/07/24 00:04:52 YvPr7KSzP
「進化の秘法。―どうです?」
指を突きつけながら放った言葉に、セフィロスは静かに目を伏せる。
「……正解、と言っていいのだろうな」

彼は乗った。私の創り上げた舞台に。

「ラムザさんに戦いを仕掛けなかった理由が気になりましてね。
 怪我をしているようにも見えませんから、この城での情報収集を優先したかったのかと。
 そして、この城にあってもおかしくない書物で、貴方の目を引きそうなものとなると―
 進化の秘法しか思いつきませんでした」
警戒心を崩すため、少しばかり大げさに身振りしながら、推論を披露する。
わざと隙を見せることも忘れてはならない。
『いつでも殺せる、故に、話を聞くことが先決』と思わせることが重要なのだ。
こうしてやれば、彼は―
「月並みな台詞で悪いが……命が惜しければ、秘法とやらについて教えるのだな」
剣を構え、喉元に狙いを定め、脅迫という手段で情報を聞き出そうとするだろう。
全て、思い描いた通りに。
だから私は、あえて作り笑いを消し去り、真っ直ぐにセフィロスを見つめた。

「教えずとも、既に貴方は見たのではないのですか?
 闇の力に飲み込まれたまま死の淵に堕ちることで、不完全ながら進化を遂げた存在を」
闇による進化。その言葉で私の脳裏に浮かぶのはアーヴァイン一人。
しかし、傷つき倒れていった者達の中で、あるいは今生きている残り三十余名の中で、
闇に触れ、進化の兆しを見せたものがたった一人だけだとは考えにくい。
それに、闇を目視できる程度の進化しか知らぬのであれば、そこに力の可能性を見出しはしまい。
断言する。この男は、どこかで見たのだ。
アーヴァインとは比べ物にならないほど闇に侵された、限りなく完成形に近いイレギュラーを。

439:神の悪意と掌の上で 5/9
09/07/24 00:08:59 YvPr7KSzP
「過酷な環境に適応し、子孫を残すために、あらゆる生命が秘める力。
 最終的には消滅に向かう物理法則の中で、ただ一つ、生という希望に向かう光。
 それが本来の"進化の力"であり、進化の秘法もまた、元は命の可能性を引き出すための技術に過ぎませんでした」
己で用いたことはなくとも、理論ぐらいは知っている。
対抗策を編み出すには、対象となる術の知識が必要となるからだ。
退化の秘法というものは、ついに完成しなかったが。
「しかし……絶望、憎悪、畏怖、そのような暗き感情から生まれ、世界の理を否定し全ての有様を歪める―
 "闇の力"を己が魂に取り込み、その上で内なる"生に向かう光"を完全に目覚めさせることができたなら、
 それは不滅の生命を持ち、神をも超える存在に"進化"するのではないか。
 そう考えた者が、進化の秘法を恐るべき邪法へと発展させたのです」
嘘で誤魔化す必要もない。
夢と欲望は、表裏一体。
勇者に道筋を示し、希望に満ちた未来へと導くことも、
邪悪な夢を煽り立てて手駒のごとく操ることも、本質は同じだ。
飾る言葉の違い、ただそれだけのこと。
「特別な術を施さずとも歪んだ進化を遂げる者が出るほどに、闇の力に満ちた世界。
 そして、かつて魔王が進化の秘法を用いた大地を元にした、この世界。
 進化の秘法を行うならば、これほどにうってつけの場所はありません。
 ―しかし」
私は言葉を切り、翠緑の目を真っ直ぐに見据えた。
「残念ながら、貴方の心は強すぎる。
 今のままでは、進化の秘法の恩恵に与ることはできますまい」

時には希望をちらつかせ、時には絶望を垣間見せ、歩む道を狭めていく。
もちろん、選ぶのも、歩むのも、彼自信の意思。
しかし道を定めるのが私であるなら、行く末を決めるのはすなわち私の意志だ。

「ほう、どういう意味だ?」
「道具に頼らず、闇の力を取り込めるのは、心の弱い存在だけなのですよ。
 闇は、心の隙間や欠落に入り込み、そこから同化していきます。
 そのものが正義か邪悪かは問いません。隙があるかどうか、ただそれだけなのです」

440:神の悪意と掌の上で 6/9
09/07/24 00:14:57 YvPr7KSzP
私の言葉に、セフィロスは無表情のまま、『やはりな』と呟いた。
遥かに少ない情報しか持ち得ておらぬのに、そのことに気づいていたというのだろうか。
なるほど、ラムザやギードが恐れるだけのことはある。
果たしてこの城の主とどちらが賢しいのだろうか―そんな下らない疑問が脳裏をよぎった時だ。
セフィロスが一歩間合いを詰め、私の鼻先に得物の切っ先を突きつけたのは。

「残念だが……みすみす力を逃すほど、私は諦めのいい性格ではない。
 ましてや『神を超える』などと聞かされれば、何としてでも欲しくなる」
「血気盛んなのですねえ」
ため息と、喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。
力を手にして何を為す?
下らぬ夢を見るのは、魔王も人も同じか。

「……私の知る限り、己が心を弱める手段は一つ。
 夢の貴方を分離するしかありません」
「夢?」
「人は誰でも、"夢に生きる自分"を持っています。
 それを分離されれば、残された肉体は、弱い意志と自我しか持ち得ない―文字通り、夢の抜け殻となる。
 その状態ならば、貴方の望む進化も遂げられることでしょう。
 ……なに、肉体を進化させた後、夢を呼び戻せば、精神は元に戻ります」
ここまでは真実だ。
偽りを混ぜるのは、この先。
「最も、今の私には、夢と現実を分かつだけの力はありません。
 "カズスで青い飛竜に奪われた"、竜の紋章が刻まれた黄金のオーブ。
 それさえあれば、貴方の望みを叶えて差し上げることもできますがね」

ドラゴンオーブは、間違いなくこの世界に存在する。
しかし、存在を確信している理由を言葉で説明することはできない。
『私が神でオーブが神の力だから何となくわかる』など、天空人相手でも戯言に取られる。
『持っていたが奪われた』、そういうことにした方が、話が早い。
それに、魔女の魔力に取り付かれ、下僕と成り果てた竜を、いつまでも放ってはおけぬ。
敵同士、喰らいあって潰しあえば重畳。
この男がドラゴンオーブを手にして舞い戻ってくるならば、それはそれで―

441:神の悪意と掌の上で 7/9
09/07/24 00:17:27 YvPr7KSzP
「―そこまで話す、貴様の目的はなんだ?
 小娘や、仲間とやらの命を乞うためか?」

……確かに、それもある。
特にギードとクリムトがいなくなれば、首輪の解析は限りなく不可能に近づくだろう。
だが、それだけではない。
「私の最終的な目的は二つあります。
 一つは幼き私を育ててくれた魔女のために、彼女が愛した大地を守ること。
 そしてもう一つは……"魔女"の称号を汚した愚かな人間を滅ぼすこと。
 その夢を達成できるならば、手段など問いませんよ」
私怨に走ることが許されぬ立場であることは百も承知だ。
しかし、それでも、アルティミシアの存在は許すことが出来ぬ。
世界の在り様を歪め、運命を歪め、私の知る"魔女"と"勇者"の命を絶った人間を捨て置くことなど出来るはずがない。
あの女を滅ぼせるならば、私は魔王とも手を組んでみせよう。
「貴方の星と、私の世界は、本来であれば交わることのない位置に存在している。
 あの忌まわしき魔女さえ滅びれば、私の夢は叶うのです。
 貴方の星が滅びようが、そちらに住む人間が死に絶えようが、それは私の知ったことではありません」

私の言葉に、セフィロスは目を伏せた。
微動だにしなかった切っ先が、ゆっくりと下がっていく。
「フン……私が貴様の言うなりになって、魔女を倒すと思うか?」
「魔女に仕えることを選ぶ傀儡ならば、最初から力など求めないでしょうよ」
肩を竦めて見せながらそう答えると、彼は、「確かにな」と己を嘲笑うかのように言った。

「良かろう。貴様の誘い、乗ってやる」

442:神の悪意と掌の上で 8/9
09/07/24 00:20:25 YvPr7KSzP
「……信じてくれたのはありがたいですが、途中で裏切るとは考えないのですか?」
「その時は貴様の首を貰い受けるまでだ」
私の問いに、セフィロスは漆黒の衣装を翻しながらそう答えた。
自らに対する絶対的な自信と、傲慢と謗られるべき態度を正当なものとする実力。
揺るぎなき心に抱きし邪悪な夢さえなければ、まさしく英雄と呼ぶに相応しい男だ。

    ・・・・・・・
そう、『夢さえなければ』―


剣士は音も無く闇に溶けて行く。
その後姿を見送ってから、私は小さく息を吐いた。
上手いこと、ドラゴンオーブに関心を向けることができたといえ、黒マテリアとやらへの執着は失っていないようだ。
『多少の犠牲』は厭わないが、『余計な犠牲』を出すことは私の本意ではない。
ここの城主が傍にいるなら心配はないが、そうでないというなら、早めにリルムを保護してやらねばな。

【セフィロス
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
 第一行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
 第二行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスキャッスル1F→移動】

【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣
 第一行動方針:リルムを探す
 第二行動方針:アーヴァインが心配/首輪の研究
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【現在位置:デスキャッスル1F】

443:神の悪意と掌の上で 9/9
09/07/24 00:21:28 YvPr7KSzP
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
 所持品:首輪 
 第一行動方針:セフィロスの対策を練る
 第二行動方針:首輪の研究
 第三行動方針:アーヴァインが心配/ルカと合流】
【クリムト(失明、HP2/5、MP2/5) 所持品:なし
 第一行動方針:???
 第二行動方針:首輪の研究
 基本行動方針:誰も殺さない
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
 魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:セフィロスの対策を練る
 第二行動方針:ギード達の研究の御衛
 第三行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:リルムを見つけ、セフィロスから逃れる
 第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル2Fの一室】

444:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/07/30 12:38:02 sTbxLWA8O
ほしゅ

445:迷走ロンド ―A「彷徨」― 1/4(21)
09/08/03 23:53:13 NlJtPbhzP
『ヘンリーが、一人で?』
花弁の向こうから響く声には、当然のように戸惑いの色がにじむ。
「しょうがねえだろ? あの状況で止められるかよ」
サイファーは細い茎を握り締め、遠くに居る―彼にしてみれば目前にいる―相手に聞こえるように、舌を打った。
『……あんたがそう判断したなら、仕方ないんだろうな。
 で? ターゲットは見つかったのか?』
「間抜けなことを聞くんじゃねえよ!」
見つかっていたらとっくに連絡している。
そう言い放ってから、サイファーはひそひ草をコートの内側に仕舞う。
僕はため息をつき、ヘンリーと、スコールの無事を祈りながら、周囲をぐるりと見回した。
「どこにも居ませんね」
「どうせ、最初ッから追ってなんかいなかったんだろ?
 そうじゃなけりゃ、どっかですれ違ったか、だ」
破邪の紋章を刻んだ刀身が、持ち主の身長すら凌駕するほどに伸びた草達を薙ぐ。
限りなく茂みに近い草むらは、かつても仲間との連携を阻み、魔物の襲撃を助けていた。
この領域の主と同じだ。―人間にはやさしくない。
「後者でないことを祈りましょう」
僕はそう呟いて、行く手を阻む草を押しのけた。


……どれほど歩いただろう。
急に、視界が開ける。
群生する草が途切れ、平野に出たのだ。
南を向けば、茫洋とかすみ、豆粒のように小さく見えるものの、架け橋の名を関した塔が聳え立っている。
反対側を見やれば、天に仇名す剣のごとき山と、塔と同様ミニチュアサイズの城影がある。

「あれが例の―ロザリーの彼氏の持ち家か?」
サイファーが呟いた。
意味合いは間違っていないが、正直、その表現はどうかと思う。

446:迷走ロンド ―A「彷徨」― 2/4(21)
09/08/03 23:55:19 NlJtPbhzP
「デスキャッスル。魔王ピサロの居城にして、魔族の本拠地です。
 さすがに魔物は居ないでしょうが……この城自体が、人を拒む造りになっています」
「回りくどい言い方なんざしなくていい。
 要するに、罠だらけってことだろ?」
サイファーは自信たっぷりに笑いながら、大げさに両手を広げる。
「魔王と裏切り者を捕らえに、罠に飛び込む若き勇者二人……
 映画だったらクライマックスのシーンだぜ」
くるくると剣を回しながらポーズを決めるという道化じみた所作。
しかし、彼の顔に浮かぶ不敵な笑みと、双眸に宿る光が、滑稽さというものを完全に打ち消していた。

(勇者二人……かあ)
勇敢なる者、という意味でならば、サイファーもまた確かに勇者と呼べるのだろう。
一瞬、自分の装備を身につけたサイファーを想像してしまったのは内緒だけれど。

「…何、にやついてんだ?」
「あ、い、いや、何でもないです」
目が合った。
僕は慌てて首を振り―それから、ふと、それに気づく。
どこからともなく聞こえる、ぼそぼそとした声。
「あの、サイファー、ひそひ草は?」
「あ? もちろん、ここに仕舞って……」
そう言いながら、彼はコートの内側に手を伸ばし―
花弁が僕の視界に現れた途端、聞こえるはずのない声が響いた。

『ソロ! サイファー! 無事か!?』
「ヘ……ヘンリー?!!」

珍しく、サイファーが狼狽する。
そりゃあそうだ。タバサを追っていったヘンリーさんが、なんで、ひそひ草の片割れを持っているのだ?
混乱する僕らを他所に、草はかすかな物音を伝え、そして、
『落ち着け、三人とも』
スコールの冷静な声が、ため息混じりに響いた。

447:迷走ロンド ―A「彷徨」― 3/4(21)
09/08/03 23:57:28 NlJtPbhzP

――


「……つまり、こういうことですか?
 僕らはピサロ達と行き違いになり、タバサちゃんの説得は失敗し、
 君の偽者がターニアと一緒にいて、ピサロがそれを追いかけて、
 それでヘンリーさんとアーヴァインと、リルムちゃんって子が、祠に戻ってきたと」
『そうらしい。……正直、俺にも把握しきれていないがな』
額を押さえながら言った僕の言葉に、呆れ交じりの返事がかけられる。
ちらと隣を見てみれば、サイファーは不機嫌極まりない様子で、左足のつま先をとんとんと地面に打ち付けていた。
「無駄骨になってしまったわけですね。
 せっかくデスキャッスルの近くまで辿り着いたのに……」
さすがに、ため息が止まらない。
しかし『そんなことはない』と、スコールが言った。
「いや、無理に慰めてくれなくてもいいですよ。
 すれ違ったことに気づかなかった僕らのミスですから」
『そうじゃない。
 あんた達には、そこからさらに西に移動してもらいたい』
「え?」
当惑する僕に、スコールの声はあくまでも冷静に告げる。
『ティーダとユウナ、それにロザリーと…テリーだったか。
 アルガスの話じゃあ、その四人が、デスキャッスルから西に向かったらしい。
 帰還する前に、そいつらの保護を頼みたい』
「ロザリーが!?」

448:迷走ロンド ―A「彷徨」― 4/4(21)
09/08/03 23:58:54 NlJtPbhzP
エルフの少女の名前に、サイファーは僕の手からひそひ草をひったくる。
「おい、その話、マジなのか?」
『リルムがとんでもない手段で脅してくれた上で聞いた話だ。
 信用していいと思う』
「なんだ? そのとんでもない手段ってのは」
『アルガスの似顔絵を書いてみせた上で、本当の事を喋らないとアーヴァインの似顔絵を描くってな。
 ……全く、子供ってのは大人以上に残酷だ』
「似顔絵だぁ?」
何を言っているのかわからない、といった様子で、サイファーは頭を横に振る。

「元からクソ生意気でいけすかねえ上、子供の絵を見てブルっちまうようなチキン野郎、
 そいつの言うことを信じてさらに西に行けってのか?!
 余計な無駄足を踏まされるだけじゃねえのか?」
『その四人組がいなくても、他に保護すべき相手がいるかもしれないだろ。
 エリアとか、……な』
「ハッ! 自分から殺人鬼についてった女なんか保護してどうすんだ」
サイファーは肩を竦め、それから僕を見た。
青い瞳は、どうする? と問いかけていた。
「……行ってみましょう。
 リュックのためにも、ピサロのためにも、そして僕らのためにも」

449:迷走ロンド ―B「帰還」― 1/5(5/21)
09/08/04 00:01:51 NlJtPbhzP
ヘンリーと別れた。
その判断が正しかったのかどうかは、多分、放送まで待たねばならないのだろう。
少なくとも俺はそう思ったし、たまたまこちらの様子を伺いに来ていたバッツも、
「早まった真似にならなきゃいいけどな」
と、零したほどだ。
しかし現実は、俺達の予想を簡単に嘲笑ってくれた。

「おーい、スコール! 戻ったぜー!」
まるでどこぞの大統領のように軽い声が、上階から響いた。
俺とバッツは当然のように顔を見合わせ、同じタイミングで同じ言葉を口にした。
「「なあ……今の声、ヘンリーだよな?」」
しばしの沈黙。
俺の物真似でもしてるのか、と言いたくなるのを堪えながら、代わりに指示を出す。
「……バッツ。悪いが、確認してきてくれ」

だだだだ、と硬い石畳を蹴って、走り去っていくバッツの後姿を見やりながら、俺は額に手を当てた。
タバサという少女を追ったというヘンリーが、何故、こちらに戻ってきたのか。
考えられる理由は三つ。
その少女を保護することに成功したか、帰還は可能だが再合流することは出来ない程度の怪我を負ったか。
あるいは―少女とは別の、保護対象を見つけたか、だ。
そして最後の可能性であるとすれば、その、保護対象は……

「うわ! ホントに居たぁ!」

甲高い声が俺の思考を遮る。
面を上げてみれば、絵描きのようなベレー帽をかぶった金髪の少女が、目をまんまるくして立っていた。
その後ろには、苦笑というにはぎこちない笑みを浮かべたヘンリーとバッツがいる。
「キモチわるーい。分裂してるみたい」
初対面のはずの少女は、真っ直ぐ俺を見つめたまま、好き勝手なことを言っている。
きもちわるい、だと? ……一体俺が何をした?
分裂ってなんだ? 単細胞とでもいいたいのか? ところで誰が単細胞だ。
こちらの釈然としない表情に気づいたのか、ヘンリーが口を開く。

450:迷走ロンド ―B「帰還」― 2/5(6/21)
09/08/04 00:04:42 NlJtPbhzP
「なんか、この子、お前の偽者を見かけたらしいんだ。
 ターニアと一緒に居たらしい、ってんだが」
「らしいじゃなくて、居たの!
 モヤシだってピサロだって見たって言ってるでしょ?
 ジャクネンセーチホーショーなんじゃないの?」
ずいぶんとまあ、口の減らない子供だ。
そういえば誰かに、そんな奴の話を聞いたような気が……
「……リルム?」
そうだ、そんな名前だったな、と俺が思い出すより早く。
少女は声の主に気づき、そして、弾丸のように飛びついた。

「マッシュ! マッシュ!!」
満面の笑みは、しかし、すぐに陰り、泣き顔へと変わる。
強がりが剥がれ落ちて、本当の心が出てきてしまったのか。
それとも、マッシュの右腕に気づいたのか。
あるいは両方ともが理由なのか―俺にはわからない。
「良かった、無事で……本当に良かった」
マッシュはそういって、左手で少女の髪の毛をくしゃくしゃとなでた。
「なあ、今まで誰と一緒にいたんだ?」
その問いに、少女は両手で目を擦りながら、答える。
「んとね、最初はロランってにーちゃんと会って、それからゼルってトサカ頭やユウナ達が一緒になったの。
 それからユウナのカレのティーダってニブチン男と、アーヴァインってヘタレのモヤシがついてきて、
 それからテリーに会ったんだけど、緑のプリンに乗っかった魔物とキョーボーまな板女に襲われて、それから……」
「「ち ょ っ と 待 て」」
……今度はマッシュと台詞が被ってしまった。
無邪気に喋っていた少女は、遮られたことが嫌だったのか、ぷうと頬を膨らませる。
「何よ、まだ途中なのに」
「待て待て待て待ってくれ。
 今、アーヴァインって奴の名前を聞いた気がするんだが、俺の気のせいか?」
無理やり笑顔を作りながら―完全に引きつって口の端が痙攣している、普通の子供なら泣くぞ?―マッシュが問いかけた。
リルムはきょとんとした表情で、人差し指をくわえる。
「気のせいじゃないよ? 今も一緒だし。
 ヘタレでいろいろあぶねーヤローだけど、悪いのは全部ケバケバおばさんだもんね!」

451:迷走ロンド ―B「帰還」― 3/5(7/21)
09/08/04 00:07:50 /uSUQCr2P
ケバケバおばさん……アルティミシアのことか。
そんな一番どうでもいい下りに反応してしまうぐらい、どこから問いただせばいいのかわからない。
呆気に取られる俺とマッシュと、ついでにバッツを気にも留めず、リルムは何故か、えっへんと胸を張ってみせた。
「魔獣使いの才能もあるリルムさまにかかれば、ケバケバおばさんのセンノーを解くなんて朝飯前だもん!
 ヒゲがなくたって、いざとなったら操り返してやるもんね!」
「……あー。ずいぶんげんきなお子さんだな、あんたの仲間」
バッツが呟いた。完全に棒読み口調だが、気持ちはよくわかる。
俺は頭を抱えるマッシュと、ひたすら苦笑を浮かべるヘンリーを見やり、そしてあることに気づいた。

「アーヴァインはどうしたんだ?」
リルムは言った。『今も一緒にいる』と。
しかし、この場には、あいつの姿はない……
「外で待たせてる。二人で話したいこともあると思ってな」
答えたのはヘンリーだった。
右手で後ろ髪をがりがりと掻きながら、反対側の手をくいっとひねり、親指で部屋の外を指し示す。
思惑を察し、俺はゆっくりと立ち上がった。
そして、マッシュとバッツに目配せしてから、ヘンリーと共に回廊部分へと出た。

「……で、どうしたんだ?」
淀んだ空気と暗闇が占める通路で、俺は改めてヘンリーに問う。
部屋に残してきたリルムや、さらに奥に居るアルガスが聞きつけないように、あくまでも小声でだ。
「なあ。アルガスが言ってた事、覚えてるか?」
ヘンリーの意図を掴めなかった俺は、「は?」と間抜けな声を返すしか出来なかった。
アルガスが言っていた事といえば、ユウナのことと、アーヴァインが俺を呼んだことぐらいしか思いつかない。
値踏みをするように、あるいは探るように、ヘンリーは躊躇いがちに言葉を継いだ。
「人が化物になる病気、なんてあると思うか?
 アンデッドとかじゃなくて、さ」
俺は首を横に振った。
アンデッドモンスターを除けば、人が化物になるなんて、映画か御伽噺の中だけだ。
ヘンリーは俺の仕草にため息をついてみせたあと、ゆっくりと話し出した。

452:迷走ロンド ―B「帰還」― 4/5(8/21)
09/08/04 00:09:04 /uSUQCr2P
「あいつが言っていたんだ。
 この世界には、そういう病気が流行っていると。
 ……弟も、タバサも一緒で、手遅れだと」
(あいつ?)
「アーヴァインだよ」
俺の思考を呼んだかのように、ヘンリーはその名を口にした。
眉をひそめた俺の前で、彼は腕を組み、右手の人差し指でとんとんと自分の衣服を叩き出す。
「アルガスはあいつを化物と呼び、あいつは化物になる病気があると言った。
 ……これは偶然なんだろうか?」
翳った瞳と、寄せられた眉に、俺はかける言葉を見失う。
短い沈黙を破ったのは、行く手にわだかまる闇の中から響いた、かすかな笑い声だった。

「偶然じゃないよ、きっとね」
こつん、と石畳が音を立てる。
そして、純粋に懐かしいとは喜べない声が、静かに反響する。
「待ちくたびれちゃった。
 リルム、一緒に待つって言ってくれたのに、無理やり連れてっちゃうしさ」
姿は見えない。
けれど、気配はある。声もする。
光さえあれば、十数メートルほど離れた先に、あいつの―アーヴァインの姿を見て取れたのだろう。
「中に、あの子の知り合いがいてな、早く会わせてやりたかったんだ。
 それに、お前をいきなり連れてったら、袋叩きにされても文句言えないだろ?」
ヘンリーの言葉に、闇の奥に立つ男は「まあね」と答えた。


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