10/03/04 02:13:31 UB0vdpCuO
「あーあ、今日も疲れた。全く、バルバリシア様もいい加減にして欲しいわ」
レディガーダーはテーブルの上の鍋からお玉でシチューを取りながらぼやいた。
「まあまあ、せっかくの食事時にブーたれるもんじゃないわよ。何があったの?」
月の女神が焼き上がったパンを運びながらたしなめる。レディガーダーはパンを皿に取り分けながら話を続けた。
「今、私の勤め先に相手方を裏切って来たカインて男がいるんだけど」
「それがどうかしたの?」
月の女神の質問に、レディガーダーは薄く笑って答えた。
「バルバリシア様、『明日までに媚薬をどっさり買って来なさい』なんて言ってきたの。それで私が『どうしたんですか?』って聞いたら真っ赤な顔でムキになって『うるさいわね!黙って買って来ればいいのよ!』って」
月の女神もにやりと笑う。
「ふふ、それって…」
レディガーダーは手を叩いて答えた。
「さすが姉さん、いい勘してるじゃない。どうもバルバリシア様、カインにご執心臭いの。全く、いい年して意外に奥手なんだから。惚れ薬くらい自分で買えってのよ」
月の女神がくすくす笑いながら言う。
「ふふ、伊達にあんたの双子の姉じゃないからね。でもいいじゃない、そんな男がいるだけ。月には化け物とハゲた髭面の独居老人ばっかでまともな男すらいないんだから」
「何言ってんの、私の所だって似たようなもんよ」
ため息をつく二人。月の女神が気を取り直して明るく言った。
「さ、いつまでも暗い話してないでご飯にしましょ。今日のシチュー、きっと凄く美味しいわよ」
「そりゃそうよ。何たって私が高い金出していいダシ買って来たんだから」
シチューをよそり、おかずを盛りつけると二人は明るい声で言った。
「いただきまーす」
早速シチューをすすった二人の顔から、たちまち笑みが零れる。
「おいしーい!こんなの食べた事ないわ!」
「ほんと!近年稀に見る大成功ね!」
喜び勇んでシチューをすする二人。鍋の中がみるみる空になっていく。
「ああ美味しい…でも…何かやけに暑くない?」
「そう?熱い物食べたばかりだからじゃないの?」
「…そうかな…」
皿の残りを拭いたパンを口に運ぶレディガーダーだが、この時既に異変は起きていた。