FFの恋する小説スレPart8at FF
FFの恋する小説スレPart8 - 暇つぶし2ch632:異能者は眠らない 3  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/25 17:20:23 ymzfHq4X0
 正面からぶつかった視線を、最初にそらしたのはリーブだった。ヴィンセントに背を向けて歩き出した
リーブの背に向けて、言葉を投げる。
「作業はまだ途中なのではないか?」
「これからの作業に不足している工具を取りに戻るだけです。こちらはしばらく時間が掛かりそうです
から、あなたは適当に休んで下さって結構ですよ」
 振り返らずに言うと、扉の向こうに消えていった。


 残されたヴィンセントは扉の方に視線を向けたまま、口に出せなかった疑問を零した。
「私と同じように、お前は昔から“死の匂い”を知っているんじゃないのか?」
 戦地、あるいはそれ以外の場所で。



----------
・一応まだ続きます。(ここまではゲーム内に沿った話ですが、以降は無茶設定です)

633:異能者は眠らない 4  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/26 02:15:00 vRCx+Ykg0


 昼夜を問わず光にあふれる巨大都市、ミッドガル。
 神羅カンパニーによって計画、建設された他に類を見ない立体都市。それは豊かさと繁栄の象徴で
あり、人々の野心や欲望の集まる街である。

 リーブ・トゥエスティ。彼は神羅カンパニー都市開発部門に勤務する一流の技師である。性格は生
真面目で誠実。一見すると地味な印象ではあるが、技師としては部門内でも有数の逸材として一目を
置かれている。
 毎日朝早くから夜遅くまで、彼は一言も不平や不満を漏らすことなく働いている。その姿を見た上司
や周囲の同僚達からは、勤勉が服を着て歩いているようだ。とか、彼こそが機械仕掛けで動いている
のではないか。と囁かれるほどの働きぶりだった。以前ある同僚が「どうしてそんなに働くのか?」と
尋ねたところ、彼は笑顔でこう答えたのだという。
「ひとつの都市が成長していく様子を、こうして間近で見る事ができるんです。これほど面白くて夢中に
なれる仕事はありませんよ」
 彼は自分の仕事に誇りを持ち、心からミッドガルを愛していた。
 リーブの仕事を形容するとき、「完璧」という言葉は外せない。工期スケジュールを遅らせるような事は
絶対にしないし、内容にも手落ちがない。状況によっては無理な納期を設定される事もある、そんな時は
休みはおろか寝食を削ってでも完遂する事を常としていた。そんな仕事柄を目の当たりにすれば、担当
者がリーブというだけで誰しもが全幅の信頼を置くことになる。彼はこうして部門内で徐々にではあるが
着実に頭角を現していった。
 後に都市開発部門の統括職に就任する事になるが、それはまだ先の話である。

                    ***

 どんな物事にも、表があれば裏がある。
 ミッドガルが繁栄の象徴であるのはプレート上のみだった。プレート下―スラム街と呼ばれている
場所は、「繁栄」とはほど遠い醜態をさらしている。劣悪な環境、蔓延する貧困、悪化する一方の治安、
それらは繁栄を享受するために払った代償そのものだった。
 誰もが現状のままで良いとは思っていない。けれども様々な理由やしがらみにに阻まれて、誰も
改善に乗り出すことはできなかった。

634:異能者は眠らない 5  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/26 02:15:32 vRCx+Ykg0


 ちょうどこの頃、プレート上下を問わずミッドガル内では奇妙な事件が多発していた。社内報では
「タークスを中心とする部隊が事態の沈静化に全力で当たっているが、各自注意してほしい」という旨で、
治安維持部門から通達が出ていた。
 具体的な内容は記されていないが、どうやら狙撃事件らしい。と噂話を好む同僚が話を持ち込んで
きたのは、まだ夜も明けきらぬある日の早朝、本社の都市開発部の1フロアに設置された宿直勤務者の
詰め所だった。
「なんだか物騒になりましたね」穏やかに答えたのはリーブだった。応じるように、同じ班の同僚が続け
る。
「でも狙われているのは上役連中ばかりでしたっけ? 僕ら下っ端には関係ないですよ」ちょうど八番
魔晄炉の運転試験を控えている頃で、班内はそれどころではなかった。この運転試験を無事に通過
しなければ、八番基の本格稼働はできないからだ。
「まあ、注意するに越したことは無いけどな」七番魔晄炉の宿直だった同僚が引き継ぎ用の資料を
持って入ってくると、リーブはカップに入ったコーヒーを差し出した。
「悪いな」本当はコーヒーよりも酒が良いんだが、カップを受け取った同僚はそう言おうとしたが、リーブ
の顔を見て思いとどまった。本音をうっかり口にしたら「まだ勤務中ですよ」と、窘められるのは目に
見えている。それでも、安物のインスタントコーヒーをこれほど美味いと感じたのは、宿直明けという
状況と彼の厚意のせいだろう。
 一方、コーヒーと引き替えに同僚から資料を受け取ると、リーブは記されているデータを熱心に目で
追った。
「確かにこの時期、うちの班の誰が欠けても困りますからねー」リーブの横でのんきに欠伸をした別の
同僚に、リーブが告げる。
「ここ、やっぱり不具合と見た方がいいですね」
 七番魔晄炉は3ヶ月前から本運転を開始したばかりだったが、ここのところ小さな不具合が頻発し、
八番基の試験を控えた班内スタッフにとっては追加の懸念材料となっていた。
 指摘箇所に丸を付けて同僚に資料を手渡すと、考えられる原因とその箇所を手短に述べてから
リーブは席を立った。「ちょっと現地に行って確認してきます」
 詰め所を出る後ろ姿を見送りながら、宿直あけの同僚がカップを手に持ったままぽつりとつぶやいた。
「……特にあいつに抜けられたら困るんだよな」
「狙撃事件なんて無くても、僕ならとっくに死んでますよ」
 リーブも含めてここにいる全員が宿直あけだった。入り口横に掲示されたスケジュール表に目をやる
と、彼はいつ寝ているのだろうと思わずにはいられない。
 本当に、彼はよく働く。まるで機械みたいだと誰かが言った。まさか機械仕掛けで動いているとは
思わなかったが、たとえに異存はなかった。
 タークスが躍起になっていた狙撃事件だったが、都市開発部門の職員にとっては朝の挨拶に添え
られる会話程度でしかなく、彼らは忙しくも平和な日々を送っていた。

635:異能者は眠らない 6  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/26 02:21:29 vRCx+Ykg0

                    ***

 タークスにとっては朝も夜も関係ない。彼らの一日は任務に始まり、任務に終わるからだ。
「狙撃というのは狙撃手と、観測手の2名で行うのが通常だ。だからこの事件は単独犯とは考えづらい。
が、我々の警備網をことごとく破っている機動性から察するに、数はそう多くない」
 エレベーター奥の壁際に立っていた男は、あごに手を当てながら思案の結果を口にした。癖のある
茶褐色の頭髪と鋭い目つきの持ち主で、加えて鍛練を積んでいるとスーツの上からでも一目で分かる
ほどの体格をしていたから、見た目からでは近寄りがたい印象を与える。それもそのはずで、彼は
ベテランの域に達するタークス構成員であり、課内を取りまとめる主任職を務めていた。名前は
ヴェルド。メンバーの皆からも信頼を集め、時に畏れられる存在だった。
「せいぜい2,3名。うち最低でも1名は土地勘のある者が含まれている可能性がありますね」
 応じたのは操作盤の脇に立っていた年若い男だった。几帳面に黒髪を結い、やはり同じスーツを
着込んだ新人タークスだ。細身というわけではないが、隣にいる男と比べると華奢な印象を与える。
「ああ、狙撃地点はある程度限られてくるからな」自分の斜め前に立っていた黒髪の男に視線を向け、
さらに続けた「この時間帯とはいえ、警戒態勢中の八番街の警備任務だ。気を引き締めて行け」
 そこまで言うと、乗っているエレベーターが減速している事に気付いて言葉を止めた。扉上のパネルに
目をやるが、まだ目的階には到着していない。黒髪のタークスも不思議そうに手元の操作盤を確認
する、やはり目的階以外のボタンは押されていない。この時ようやく、これは一般社員も使うエレベーター
だったと気が付いた。
 やがてふたりが乗っていたエレベーターの扉が開くと、乗り込んできたのは詰め所を出たリーブだった。
先客、それもタークスだったと言う事を服装から知ると、リーブはにこりと笑顔を浮かべて会釈した。
「おはようございます」
 それから周囲を見やった、一般の社員とタークスが同じエレベーターに乗り合わせる機会はそう多く
ない。本来ならば次のエレベーターを待つべきだろうが、リーブとしては一刻も早く現場へ向かいた
かった。
「気にするな、俺たちも専用エレベーターを使わなかったからな」リーブの様子を察して、奥の方に
立っていた男が言った。発言を受けて操作盤の前に立っていた新人タークスはリーブに目的階を尋ね
ると、返答に従って1階のボタンを押した。お互い初対面だったせいもあり、会話にはややぎこちなさが
伺える。
 そんな若者達の様子を見かねたように、奥の男がリーブに問いかけた。「夜勤明けか?」

636:異能者は眠らない 7  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/26 02:24:51 vRCx+Ykg0
 時刻はまだ早朝、一般の社員が出社する4時間も前だ。リーブは「ええ」と頷いてから自分がこの
エレベーターに乗り合わせた経緯を、部門外だった彼らにも分かるよう簡単に説明した。
「もしかして皆さんも夜勤明けですか?」
「似たようなものだ」そう言って質問者が笑う。
「鍛練を積んでいるとはいえ、健康には気をつけて下さいね。私たちがこうして仕事に集中できるのも、
皆さんの活躍があってこそ、ですからね」言い終えたところで、エレベーターが目的階に到着したことを
告げる。開きかけた扉を背にして「では」と会釈する。
「お前の方こそな」
 開いた扉から外に出たリーブの背に声をかける。三度の会釈で応えるリーブの姿は、やがて閉まる
扉で見えなくなった。
 再びエレベーターが動き出すと、ずっと黙っていた黒髪のタークスが口を開いた。
「お知り合いですか?」
「顔見知り程度だがな」答えた後も扉をじっと見つめている上司に、ふと思いついた様に問いかけて
みる。
「私たちが警戒しているポイントとはいつも別の地点からの狙撃、ですか」
「どうした?」
「いえ。ただ彼のような立場なら、そういったポイントを割り出しやすいのではないかと思いまして」
 協力を要請してみては? という言外の提案になるほどと頷いた。
「考えておこう」

                    ***

 どんな物事にも、表があれば裏がある。
 リーブ・トゥエスティも例外ではない。神羅カンパニー都市開発部門所属の一流技師、それは表の
顔である。
 仕事熱心なことで有名な彼ではあるが、数少ない休日の行動を知る者は居ない。以前、休暇中
だったリーブに急な用件で電話をかけたが圏外で繋がらなかった。しかしその数時間後、連絡が
取れなかったにも関わらず彼は職場に姿を現し、周囲を驚かせたという。しかし常にはなく疲弊した
彼の姿を目の当たりにした上司や同僚達はその日以来、何が起きても休日の彼に連絡を取ることは
しなくなった。
(あれだけ働きづめだと死んでしまうよ)
 部内の誰もが、リーブに死んで欲しいとは思っていない。
 この日も彼は3ヶ月ぶりの休暇だった。休暇と言うよりも、上司から半ば強制的に休暇を取らされた
のだ。

637:異能者は眠らない 8  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/26 02:36:31 vRCx+Ykg0



 同じ社内だというのに、先程からすれ違う社員の視線をやたら集めている事には気付いていた。都市
開発のフロアに立っている自分は明らかに場違いなのだろうと自覚しつつも、リーブのデスクを探して
歩き回っていたのは、あの日の朝エレベーターに乗り合わせたタークスの一人だった。「顔見知り」と
いうことで、今日ここへ来たという経緯があった。もっとも、ぎこちない会話を交わしていた新人よりは
幾分かスムーズに運ぶだろうという公算もあった。
 なんとか彼のデスクまでやって来たのだが、肝心のリーブ本人が見あたらなかった。手近な社員を
つかまえてリーブの所在を尋ねると、怪訝な顔とともに回答を得ることができた。なんでも3ヶ月ぶりの
休暇だと言う。
 それを聞いて机上に視線を落とす、なるほど言われてみればよく片付いている。とは言っても、積み
上げられた資料は膨大で、作業スペースを圧迫しているのは変わらないが、それでも用途別にきちん
と整理され無駄な物は一切置かれていない様だ、というのが分野外のヴェルドにも分かるほどだった。
機能的と表現すれば良いだろうか。
「もしも用事があるなら、明日また出直してきてもらえますか?」それだけ言うと、社員は逃げるように
してその場を離れた。
(俺が緊急の用件だと言ったら、呼び出さなきゃならないからな。そうしたくない気持ちは分からなくも
ないが……)
 何も逃げることはないじゃないか。言う代わりに溜息を吐いた。
(とはいえ、最近は活動も沈静化しているからな。協力要請は後日にしよう)
 彼が今日ここを訪れた理由は他でもない、あの日エレベーターで同僚から提案された件を実行に
移そうとしたためだった。しかし当人が不在となれば出直すしかない。そう思ってきびすを返したところ
で、携帯電話が鳴った。
 ディスプレイで発信元を確認すると、かけてきたのはチームを組んでいたあの新人だった。受話口
から聞こえてきた声は、平生になく興奮した様子だった。
「どうした?」
『やられました! 現場は七番街です!』
「現地で合流する、詳細を転送してくれ」
 それだけ告げてから通話を終えると、彼はエレベーターに向けて走り出した。


----------
>>630初っぱなからお見苦しい文章ですみません。
・さらに連投気味ですみません。書けるうちに書いて投下できるうちに投下させて頂きましたー。

638:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/12/26 03:15:44 mqIjfN830
GJ!

639:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/12/28 19:50:56 ML1zwRx20
乙!

640:異能者は眠らない 9  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:22:26 IhYlQ0Qa0
前話:>>630-637
----------
 3ヶ月ぶりに発生した今回の件を含め、この半年間で起きた狙撃事件は全部で7件。うち4件が神羅
関係者、残りの3件がまったくの部外者。狙われた7人に特筆すべき共通点は今のところ見つかって
いない。
 発生地点はいずれもミッドガル内であること。また狙撃に使用されている銃が同一のものであること。
状況についてもそれ以外の共通点はなく、発生時刻にも規則性は認められない。
 目下のところ犯人に繋がる手がかりは得られておらず、はっきりとした犯人像すら見出せていないの
が現状だ。
 この件は部外に伏せたまま、引き続き調査を継続中である。
 また最初の事件発生から1週間後にはタークス、2ヶ月後には軍も投入しての警備体制を敷いていた
が、事件の発生を未然に防ぐことはできなかった。この反省を活かし新たに今後の対策を検討する必要
がある。



 連絡を受けてから現地へ向かったが、7人目の被害者は既に息を引き取っていた。狙撃地点の特定
こそできたものの、犯人に繋がる手がかりを何一つ得られぬまま二人は帰社した。
 その後、提出された報告書に目を通したヴェルドは肩を落とす課員を帰宅させた後、再び都市開発
部門のフロアに足を運んだ。さすがに夜も更けたこの時間帯、社員もおらずフロアはひっそりと静まり
かえっていた。広いフロア内を、非常灯の心細い明かりだけを頼りに進む。
 今のヴェルドにはどうしても欲しい資料があった。それは都市開発部門の統括、あるいは部署の責任
者に申し出れば入手はそれほど困難な物ではなかった。しかし正確を期するためにも部門内の誰にも
知られずに、直接それを得る必要があった。
 その資料とは、勤怠管理表である。
 あの日の朝、エレベーターの中で呟いた部下の言葉が脳裏を過ぎる。

 ―「私たちが警戒しているポイントとはいつも別の地点からの狙撃、ですか」

(考えすぎなのか? それとも)
 前回から間を空けた今日、3ヶ月ぶりの事件発生。
 たまたま重なった、一社員の3ヶ月ぶりの休暇。

 ―「いえ。ただ彼のような立場なら、
    そういったポイントを割り出しやすいのではないかと思いまして」

 都市開発部門の一技師、しかし彼はこの街の構造をより深く知る立場にあった。それは紛れもない
事実だ。

641:異能者は眠らない 10  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:26:40 IhYlQ0Qa0
 考えているだけで答えが見つけられるほど、タークスがこなす任務は単純な内容ではない。一通り
考えて当たりを付けたら、あとは行動あるのみだ。
(……さて)
 日中、一度ここを訪れていた事が功を奏した。ヴェルドが目的の机の前にたどり着くと、相変わらず
積み上げられた膨大な資料が出迎えてくれた。ペンライトを取り出すと、確認のために机上を照らした。
 そこでおや? と首をかしげる。昼間来た時とは明らかに何かが違うと感じた。何だろう? 積み上げ
られている資料の位置とか、そういった小さな問題ではないような気がするが、ひとまず目的の勤怠
管理表を探す事にした。
 机上に置かれた端末には触れなかった。電源を入れて起動したとしても、どうせロックが掛かって
いるはずだ。だとしたら、紙媒体の資料を探す方が早いと考えた。
 大体デスクマットの下などにスケジュール表が置かれているものなのだが。そんな経験則に従って、
目的の資料を探し始めた。個人用のスケジュール表があれば、上手くするとメモなどから行動履歴を
追う事もできるかも知れない。端末での情報管理が進んでいる社内にあっても、業務中に突発的に
起きる小さな案件は、リアルタイムに自筆で付箋紙やカレンダーの隅に書き留める者も未だに多くいる。
そういったデジタル化されない情報は、正式な依頼で入手する勤怠管理表には記載されていない貴重
な手がかりだ、こうして残業する価値は充分にある。
 ペンライトを口にくわえながら資料の一山を見終えると、作業スペースを確保するために、山を崩さな
いよう注意を払いながら机上から退けた。ここで、ヴェルドは最初に感じた違和感の正体を知った。
(……ぬいぐるみ?)
 資料の山の間からひょっこりと顔を覗かせていたのは、見たこともない様な猫型のぬいぐるみだった。
この机の上にあるから、持ち主はおそらくリーブなのだろうが。
(昼間、ここへ来た時にはこんな物なかったぞ?)
 資料こそ多いが、用途別に整理され無駄な物は一切置かれていない―この机を見てヴェルドが
最初に抱いた印象だった。丸一日も経過していないし、間違いない。昼間ここへ来たときは、ぬいぐるみ
は無かった。
(では誰が?)
 首をかしげながら、ぬいぐるみをまじまじと見つめる。すると、ちょうどぬいぐるみの尻に敷かれるように
して、工期スケジュール表が置かれていた。
(これだ!)
 スケジュール表を取る為に、ぬいぐるみに手を伸ばした時だった。机の上が突如として照らし出された。
 ここへ来る前にあらかじめセキュリティ類は切っておいたし、フロア警備の巡回ルートと時間も把握し
ている。となると―この一瞬の間に、ヴェルドの頭の中では状況整理が行われ、背後に立つ人物を
特定しようとした。
「こんな夜中にどうされましたか?」
 結論が出されるのと同じタイミングでからかけられた声によって、ヴェルドの推測が確信に変わった。
この席に座っているリーブ本人に見つかったのだ。伸ばした腕が何もない空中で止まる。迂闊だった。
まさかこんな時間にと完全に油断していた。周囲にもっと気を配るべきだったと後悔しつつも、平静を
装って振り返る。
 手をかざして目を細めてみたが、薄闇に慣れた網膜には刺激が強すぎる。それでも目を逸らしはしな
かった、自分の前に立つ者の姿をなんとしても確認しておきたかった。

642:異能者は眠らない 11  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:29:47 IhYlQ0Qa0
「……あなたは」夜中に自分の席を荒らしている、どこからどう見ても不審者でしかない。たとえ振り
返った人物が顔見知りであったとしても、その行動に疑問を持つべきであるのに、リーブの声音には
警戒心がまるで無かった。「ヴェルド主任?」
 相手の顔を確認したリーブは懐中電灯を足下に向けると、ヴェルドもかざしていた手を下ろす。
 どう考えても、申し開きのできる状況ではなかった。だからと言って、ここに至る経緯を正直に打ち
明けるべきなのか? ヴェルドがしばし逡巡していると、リーブが尋ねた。
「なにかお探しでしたか?」
 自分の手持ちの資料で良ければと、まったく疑いもせずに申し出た。てっきり釈明を求められるもの
と思いこんでいたヴェルドにとっては、予想外の言葉だった。
「! あ、ああ……。実は」
 ミッドガル内で起きる狙撃事件について自分達が調査任務に当たっていること。そして、ミッドガルの
構造をよく知る人物に協力を仰ぎたいと考えていたこと。そのために日中ここを訪れたが、リーブが
休暇中であったと聞かされた事。偽る必要のない範囲で経緯を打ち明けた。
「そうでしたか、せっかくご足労頂いたのに申し訳ありませんでした」話を聞いたリーブは、どこまでも
丁寧に応じた。「私なんかでお役に立てるのでしたら」
 そう言って、脇机にしまわれた分厚いファイルを8冊ほど取り出した、どうやらミッドガル、プレート部の
設計図面の一部らしい。
「これは概略になります。詳しい状況を伺えれば、もう少し範囲を限定した物をご用意できるんですが」
 その申し出を受けたヴェルドは、急場しのぎで拵えた話を聞かせた後、最後にこう付け加えた「もう少し
詳しい資料を見たい。メンバーとの打ち合わせも控えているので、なるべく急ぎたいんだが、どのぐらい
掛かるだろうか?」。
 その言葉にリーブはにこりと微笑んでこう言った。
「今少しお待ちいただけるのでしたら、ここへ資料をお持ちします」
「そうしてくれると助かるんだが、頼めるか?」
 ヴェルドの言葉を聞いたリーブはさっそく資料室へと向かいその場を離れた。フロアに残された
ヴェルドは、まさに我が意を得たりと口元を歪めた。
「……ありがとう、本当に助かるよ」
 もう一度デスクに向き直ると、先程取りそびれた工期スケジュール表に手を伸ばした。月ごとに印刷
された約1年分の資料に目を通して、彼が『休んだ日』を素早く書き写した。転写する事自体に時間は
かからなかった、圧倒的に数が少ないせいだ。日数だけを言えば、まだ自分の方が休みを取っている
とヴェルドは思った。ミッドガルの建設が急ピッチで進んでいるという事情は分かるが、それにしても
異常だった。しかしそれを考えるのは自分の役割ではないと思い直し、脇のメモの書き取りを始めた。
 一通り作業が終わると、資料を取ったリーブが戻って来る前にスケジュール表を返し、ぬいぐるみも
元の位置に戻しておいた。
 この時ふと、誰かの視線を感じたので振り返る。ペンライトをかざして周囲にぐるりと視線を向けたが、
薄暗いフロアには誰もいなかった。気のせいかと再び机上に視線を戻すと、スケジュール表の上に
置いたあの猫のぬいぐるみが、まるでヴェルドを見上げているように見えた。
 その猫のぬいぐるみは、微笑んでいた。

643:異能者は眠らない 12  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:46:37 IhYlQ0Qa0


 ―狙われた7人に特筆すべき共通点は今のところ見つかっていない。

 部下の提出した事件概要の報告書に記載された内容に、間違いはなかった。報告書提出者の認識は、
これで正しい。
 しかしヴェルドの知る現実において、この認識は間違っている。つまり狙撃された7人には、明らかな
共通点があったのだ。


 タークス構成員は、個々の能力に応じて多種多様の任務に当たっている。任務の内容により担当する
人員の数は異なるが、簡単なものなら単独という事もざらではない。また、一人が並行して複数の任務
を遂行することも常だった。任務を担当するメンバーを適材適所に振り分けるのは、主任であるヴェルド
の役割だった。
 今回の狙撃事件については、新任タークスとヴェルドがチームを組んで調査任務に当たっている。
発生当初は新人教育の一環と言う意図もあっての人選だったが、まさかここまで引きずる案件になると
は予想だにしていなかった。
 しかしもう1つ、今回の調査任務にヴェルド自身が積極的に関わった理由があった。それは、ヴェルド
が単独で遂行するはずだった任務と密接に関係している。
 ヴェルドの単独任務、それはプレジデント神羅から直々に仰せつかった極秘任務だった。
 任務の内容自体は単純なものだった。神羅に害をなす、または危険因子と判断された『要監視者
名簿』に記載されている上位14名の抹殺だった。
 狙撃事件の被害者7名は、いずれも『要監視者名簿』上位に名前の載っている者達ばかりだった。
最初の被害者が名簿の一番最初に記載されている人物だったために、ヴェルドが「新人教育」という
大義名分の元に調査任務に当たる事になった、というのが真相だ。
 狙撃事件はヴェルドにとって渡りに船とも言えたが、喜んでばかりもいられなかった。
 処分方法、時期、そのどれもが予定とは異なっていたからだ。
 名簿は危険度の高い順から記載されており、継続される監視報告を基に整理され、順位は常に変動
する。そして一定期間リストの上位に名前のあった者は、要監視から処分の対象となる。このため『要
監視者名簿』上位については『処分者名簿』とも呼ばれている。
 もっとも、その存在自体を知る者はほとんどいない。タークスですら、任務に当たっているヴェルドの
みが知るものである。
 名簿記載の対象となる者の所属は問わなかった。だから神羅カンパニー勤務者、つまり身内が名簿
に含まれていても何ら珍しいことではなかった。
 処分対象の抹殺には特に定められたルールなどは無いが、『処分』の事実が明るみに出ることだけは
避けなければならない。よって対象の処分方法、時期などを調整し関連性を疑われないようカムフラー
ジュする必要があった。
 ヴェルドが今回の狙撃事件を歓迎できない理由の1つだ。
 被害に遭った7名全員が、『狙撃』という共通点を持っている。これでは何らかの意図を持った存在が
憶測される可能性がある。そうなると、今後の任務遂行に支障を来すおそれがあった。

644:異能者は眠らない 13  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:49:43 IhYlQ0Qa0
 これ以上の被害拡大を防ぎ、なんとしてでも狙撃手を捕まえなければならない。今のヴェルドにとって、
これが最優先の任務となった。
 事と次第によっては、狙撃手の正体が誰であってもその場で処分対象となる可能性も充分あった。
これまでの7件のうち、即死が6件。残りの1件についても、被害者は未だに集中治療室で昏睡状態に
ある。そのことからも、一連の事件を起こした狙撃手は照準に定めた者の命を確実に奪う、腕は確かだ
と言う事だけははっきりしていた。今回の任務の完遂が極めて困難であろう事は安易に予測できたが、
先の見通しは全く立たなかった。


 ヴェルドの携帯に事態の急変を告げる報がもたらされたのは、この日の深夜だった。
 昏睡状態にあった被害者が、意識を取り戻したというのである。

                    ***

 およそ半年前、一連の狙撃事件で最初の被害者となった男は辛くも一命を取り留めていた。事件発生
直後に発見された男が搬送されたのは、ミッドガル地下にあるソルジャー向けの大規模な医療施設だっ
た。ここには最先端の医療機器がそろっている。ソルジャーではなかったはずの男が助かったのも、
ここに収容されたという幸運が大きく影響している。
 もちろん、この幸運は当初より仕組まれていたものだったのは言うまでもない。
 被害者が半年ぶりに目覚めたと聞いて、ヴェルドは治療棟へと急いだ。社命を受けたタークス主任と
いう事を担当医に告げ身分証を提示すると、渋々だが特別に面会を許可された。しかし容態が不安定
であるため条件付でだと、治療室へ行くまでに何度も釘を刺された。
 集中治療室で機械類に囲まれ横たわる男は、処分者名簿の最優先対象とされていた人物に間違い
なかった。ヴェルドは訊問を開始すると、後ろに控えていた担当医の表情は途端に険しくなった。
 問われた男はか細い声で、切れ切れになりながらも狙撃直前の様子をこう語った。
「『もうすぐ、死ぬで』、そう……言われた」
「いったい誰に?」
 およそ重症患者を相手にする口調ではなかった。背後から担当医が制止する声には耳を貸さず、
ヴェルドは答えを迫った。
「猫……2本足で立つ、ねこ……だった」
「2本足で立つ猫だと?」
「ご覧の通り意識の混濁があります、分かりますよね患者は危険な状態なんです! ですからこれ
以上―」担当医の訴えを無視して、ヴェルドはさらに訊問を続ける。
「猫とは何だ?! 答えろ!」
「猫が……笑った、本当だ。それから『言いたいこと、あるか?』と聞かれ……た」
「なんと答えた?」
「俺が、『なぜ死ぬんだ?』と。すると」
 ベッドに横たわっていた男は、言葉の途中でひときわ苦しそうに咳き込んだ。治療の手を差し伸べ
ようとする担当医の腕をつかんで引き留めると、ヴェルドは言葉の先を待った。
「『お前は、阻害要素、や』それで俺……は、その猫、が誰……なのか知……」

645:異能者は眠らない 14  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 00:55:19 IhYlQ0Qa0
「これ以上は本当に危険です!」ついに怒りをあらわにした担当医を一瞥し、ヴェルドは冷淡に告げた。
「今から担当医はこの俺だ、お前は出て行け」
 理不尽にも程があると反論しようとした。しかし言外に「患者が死んでもお前の責任ではない」という
意味を含んでいる事も同時に悟った。そのことに医師は良心の呵責を感じ、また横たわる重病人に後ろ
髪を引かれる思いで治療室を立ち去った。「社命を受けたタークス」がここに来たという現実、それが
持つ表面上の意味を担当医はよく理解していた。傍目には残酷と映るだろうが彼は医師である前に、
神羅社員という立場には逆らえなかった。それが神羅という会社だった。
「お前の言う猫とは誰だ?!」
「都市……開、発……部」吐き出される大量の呼気で、口から鼻を覆っていた酸素マスクが白く曇った。
その様子を見たヴェルドは躊躇いもせず男の顔からマスクを剥がした。それは呼吸を補助するための
マスク、当然この男にとっては生命線そのものだと知っての行為だ。
「お前を撃ったのは都市開発部門の人間か?! 誰だ!」
 ベッドに横たわる男は、質問に答えるどころか今や呼吸をすることで精一杯だった。ヴェルドに向けて
手を伸ばし、マスクを返してくれと呼吸を荒くして訴える。
 先に答えろ。ヴェルドはその一言だけで男の訴えを退ける。
「ま……こう炉、調せ、い……っか」引き攣った言葉がようやく零された。ベッドの横に置かれていた呼吸
数・心拍数を監視するモニターが、男の代わりに悲鳴を上げた。ヴェルドはその声に応えるつもりは
毛頭無い。ただ言葉の続きを待っていた。
 しかし、男の口からまともな言葉が語られることはもう二度と無いだろう。それを察したヴェルドは、
事務的な口調でこう言った。
「お前はこうなる理由を知っているはずだ。俺がなぜ、ここにいるのかも」
 眼窩から剥き出しにされ、白目を埋めるほどに血管の浮かび上がった眼球がヴェルドを見つめてい
た。死を目前にした命が、必死に生にしがみつこうとする姿そのものだった。
 ヴェルドはせめてもの慈悲にと、男に向けてこう告げた。
「『もうすぐ死ぬで』」
 これは本来であれば自分が殺すはずの男だ、それ以上なにかを感じるということもない。
 こうして背を向けて歩き出したヴェルドの耳に、断末魔代わりの機械音が聞こえた。呼吸と拍動が
停止したことを告げる警告音だった。振り返りもせずに治療室を出ると、ヴェルドはその足で担当医の
元に向かった。

646:異能者は眠らない 15  ◆Lv.1/MrrYw
08/12/30 01:09:01 IhYlQ0Qa0
 再びやって来たヴェルドの姿を認めると、担当医は疲労と諦念がない交ぜになった表情を向けた。
「俺の他に、奴と面会した者は?」
 担当医に向けて問うヴェルドの声には、彼に対する慰労の念はかけらも無い。
「患者は誰とも面会できるような容態ではありませんでした」治療室を追い出された担当医は、既に
結末を予見していたとでも言いたげな口ぶりだった。
「一人もいないんだな?」
「……ええ。面会に来た人間は誰もいません」それだけを言うと担当医はヴェルドに背を向けて、デスク
に向き直る。
「つまり『面会の他に何かあった』ということか?」
 耳ざとく言葉尻をとらえると即座に問い返す。再び振り返った担当医の膝の上には、ぬいぐるみが乗っ
ていた。
「面会を諦めて、見舞品を置いていった方がいました。『しばらく彼の傍に置いといてもらえますか?』と
おっしゃってましたね。しかし患者の意識が無いのだとこちらが容態を伝えると、『それでも構いません』
と。なんでもご家族から預かった物だそうで、患者と親しい方だったのでしょうか? 物腰も穏やかで、
とても丁寧な印象を受けましたよ」
「訪問者記録はあるだろう? 見せてくれ」
 ソルジャー向けの医療施設だったここに、民間人が収容される事はまずない。さらに施設に立ち入る
ことができるのは、神羅社員と関係者のみだ。見舞いなどで施設を訪れた場合は、例外なく身分証の
提示を求められる。またその記録は厳重に管理・保管されている。
 もっとも、訪問者記録を見るまでもなくヴェルドには察しが付いていた。あの猫とはつい最近、会った
ばかりだった。
「……ああ、この方ですね。都市開発部門、エネルギー開発課魔晄炉管理調整班のリーブさん」記録を
見ながら担当医が答える。やはりなとヴェルドは頷いた。
 その様子を見た担当医は、ヴェルドに尋ねた。
「お知り合いですか?」
「顔見知り程度だがな」
 ここで得られる情報がすべて整ったと、きびすを返したヴェルドの背に担当医が告げる。
「では、これを返してください。もう“必要ない”でしょう?」
 椅子から立ち上がった担当医が、押しつけるようにしてヴェルドにぬいぐるみを手渡した。
 自分の横を通り過ぎて歩き去る担当医の背を見つめていたヴェルドは、最後に振り返った担当医から
告げられた。
「ここは治療施設です、集中治療室に遺体を放置しておく事はできません」
 その言葉が意味するところをヴェルドはよく心得ていた。ひとつ頷くと出て行く担当医を見送った。

 これで処分者名簿の残りは7名になった。

----------
・書いておいて何ですが、この話に善人は一人も出てこない気がします。救いよう無くてごめんなさい。
・もし容量制限が生きているなら、500kb超えると警告文出るはずなんですが…、(出たら立ててみます)
 一応テンプレ案は>>612-615を参考にしていただければ幸いです。

647:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/12/30 01:12:08 IhYlQ0Qa0
警告は出てないから平気っぽい?(512kb容量規制無くなったのかな)

648:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/12/30 01:40:36 Gvl41rZ+O
GJ

649:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/12/31 18:52:33 MVQ+ZuGq0
今年も一年間ありがとう。
512kbの容量制限はあるはずだけど、ホスト規制で立てられないので誰かお願いします。

650:sage
09/01/01 02:48:40 sE9JsVwL0
まだ立ってないみたいなので、チャレンジしてみる。

651:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/01/01 02:53:09 sE9JsVwL0
>>650
だめだった。誰か頼む。
それと、上げちまった。すまん。

652:名前が無い@ただの名無しのようだ
09/01/01 04:12:03 kkTiYI/B0
今年もよろしくお願いします。皆さんにとっていい年になりますように。
で、やっぱり容量制限あるみたいでした。さらに自分もホスト規制中。
どなたか次スレお願いします。(テンプレは612-615)


最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch