09/01/25 21:34:13 i17jBS1P
県境の長いトンネルを抜けるとペンション「シュプール」であった。
夜の底が白くなった。
駐車場にランドクルーザーが止まった。
向側の座席から真理が乗り出して来て、透の前のガラス窓を落とした。
雪の冷気が流れ込んだ。
娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「おじさあん、おじさあん」
明かりをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は襟巻で鼻の上まで包み、
手に血のついた包丁を垂れていた。
もうそんな寒さかと透は外を眺めると、
ペンションのオブジェらしい木彫のふくろうが玄関に寒々と飾られているだけで、
雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。