09/06/05 01:05:04
夜の帳が落ち、星の明かりがいくつもいくつも光を投げかける。
ここはラース=フェリア。
深遠な闇に閉ざされ数多の魔の跋扈する『滅亡した』とされる世界。
しかしどこの誰が『滅亡した』と言おうと、確かにそこに人は懸命に生きていた。
常に襲いくる冥魔や、それらを統べる王達の力によって起きる天変地異という、到底生きていけるとは思えないような環境の中で。
――それでも、人は生きていた。
彼らは身を寄せ合い自身の身を守り、自分たちの生きる場を奪い返すため、より強い戦団に希望を見て集いだす。
壮絶と言うのも生ぬるいほどの戦いが起こった。
いくつもの命が失われ、数多の屍が地を覆い、涙と血がその土をぬらし、戻らぬ人への悲しみと叶わぬ帰望の声が風に混じる。
痛みを当然のように生み出し、滅びを撒く闇を纏う魔の支配。
それを、ただ人間の意志をもって覆した地域があった。
その名をフレイス。
炎の守護者ジュグラットが加護し、膨大なプラーナを持つ『紅き巫女』とその騎士たちや、強き国ラグシア新興国のある、現状唯一の人類の地。
いかにその地といえど――いや、ただ一つ人間側の地であるがゆえにか。その地を狙う冥魔は昼夜を問わず、いつ襲撃してくるかわからない。
だからこそその場に集う者たちに気の休まる日はないと言っていいのだが。
その夜は、少しだけ違った。
もちろん境の警備が緩むことはないのだが、人類陣営の戦士たちの集う炎砦には、出るものはささやかながら宴の輪があった。
宴の要員は、この世界を滅ぼそうとする冥魔七王の一柱、冥界樹と呼ばれる冥魔の巣窟を生み出し、侵攻をかけたエンダース。
それを見事打ち倒し戻った、4人の戦士の帰還だった。
471:星灯夜話
09/06/05 01:12:44
謎の仮面のカニ鎧こと、シンゴ。
彼は、人と話した経験も(記憶喪失もあいまって)あまりなかったからなのか、自分に快く話しかけてくれる戦士たちにもみくちゃにされながら飲まされ食わされている。
変態嫌いのハーフウンディーネ、リューナ。
彼女は、たしなみ程度に酒を入れつつ、有力な傭兵団や各国からの騎士の統括者らと海千山千な話をしている。
無口なアルセイルからの助っ人戦士、ディフェス。
彼女は、出される少し豪勢な食事と振舞われる酒をやはり無口にちびちび食べている。
そして、もう一人は――
472:星灯下話
09/06/05 01:14:13
***
「――宴の中心が、こんなところで何をなさっているのですか?」
柔らかな声が、炎砦の屋上に響いた。
声を発したのはまだ幼さの残る少女。深紅の髪を肩口で揃え、髪と同系統の色でまとめた神職風意匠の裾の長い薄絹を纏った少女の名はガーネット。
この砦の年若い主にして、『紅き巫女』と呼ばれるフレイスにおける反冥魔勢力のトップの一人である。
彼女に声をかけられた屋上の先客は座って夜空を見ていたものの、声の主に気づいてそちらを見た。
「あぁ、巫女さんか」
「はい。宴会場の中に柊さんの姿が見当たらなかったので、探しに来てしまいました」
そう微笑んだまま言うガーネットは、先客こと柊蓮司の近くまで行くと自分もしゃがみこんだ。
彼女はいたずらっぽく尋ねる。
「いない柊さんの分も、シンゴさんが遊ばれてるんですよ?」
「あー……そりゃ悪いことしたな。ほら、俺も一応未成年だから酒は勘弁してほしいんだよ」
「えぇと、すみません『ミセイネン』ってなんでしょう? 第八(そちら)の言葉ですか?」
「んー。酒飲んでいい年ってとこか? 一人前じゃないから飲むなってのが決められてんだ」
「第一(こちら)では、15になったらとりあえず世界の危機を一度は解決することで大人だと認められるのですが」
「相変わらずすげー世界だな、ラース=フェリア……」
呆れたような様子の柊を見て、くすくすとガーネットは笑った。
彼女と彼は異なる世界の住人だ。
そんな彼らの会話は互いの世界の常識が通用しないことも多い。
少し前までは異世界どころかこの塔の外からすら出たことのなかったガーネットは、外の話を聞くことが大好きだった。
義妹の『魔王殺し』ポーリィ=フェノールや、側近で姉代わりのリューナとともに一時期とはいえ旅をした時は毎日が新鮮で。
世界の滅亡という事態が起き、炎砦で人を導く標として望んで担ぎ上げられた後はなかなかそんなことをすることもできなかった。
だから、久しぶりにそんな事ができて嬉しかったのだ。
473:星灯下話
09/06/05 01:15:34
柊がそんな彼女を見て聞く。
「そういや、一人で出歩いてて平気なのか?
あんた今はラース=フェリアでもとんでもない重要人物なんだ、お供も連れずに一人でほいほい外に出ちゃマズいだろ」
「外、と言っても炎砦の中ですし。メイヤーもクロトワ、リューナにポーリィも中にいます。
一言呼べば来てくれますし……それに、ここには柊さんがいるじゃないですか」
「そりゃ言われなくても守るけどな。けど、俺は守るのに向いてるわけじゃねぇんだからあんまり頼りにされても困るぜ?」
「じゃあ、頼りにできるくらい強くなってください」
「言うなぁ、あんた……」
そんなことを言いながら頬をかく柊を見て、ガーネットは微笑み続ける。
彼女が『紅き巫女』である以上、この砦に集まっている者たちは誰もが命を賭して守ろうとするだろう。
けれど彼はポーリィやリューナ、元からの守護騎士たちと同じく、『紅き巫女』でなくとも彼女を守ってくれる相手だと彼女は思っている。
戦局で失ってはならない人間だからという意味ではなく、親しい間柄だからという理由で。当然のように。
彼が自分のために剣を振るってくれるかもしれない、ということに少し胸が温かくなる。
それは、家族が自分を守ってくれることとはまた違った意味で彼女に力を与えてくれる。
彼女が感じる力はなんと名づけるべきものなのか、彼女にもまだよくわからないけれど。
その力に後押しされ、ガーネットは自分でも驚くくらい積極的に隣にいる青年に話しかけた。
「それで、柊さんはこんなところで何をなさっているんですか?
柊さんのお部屋は用意してありますし、迷ってらしたならわたしがご案内しますよ」
「迷子で外来るとかどんな方向音痴だよ、ちゃんとわかってるから気にしなくていい」
「じゃあ、なんでこんなところにいらっしゃるんです?」
「来る前にはよくわからないもんに襲われて、来てすぐにバカでかい樹まで行って戦って……って、息つく間もなかったからな。
ちょっと息抜きしたかったんだよ」
常に争いに狩りだされる彼は、けれど戦いに飢えているわけではない。
むろん売られたケンカは買うし、降りかかる火の粉は払う。強い相手を見て心踊らないほど枯れてもいない。
474:星灯下話
09/06/05 01:25:16
けれど、柊はウィザードだ。
魔を叩き紅い月から夜を守る者。それが第八世界において『夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)』と呼ばれる者たちだ。
あまり本人は意識してはいないだろうが、彼は相棒である魔剣を執ったその時から常に何かを守るために戦い続けているその在り方は、紛れもなくウィザードである。
その背に守るべきものがある時やその戦いに誰かの命がかかっている時など、負けられないという思いが強ければ強いほど彼は諦めない。
すべてが終わった後に続く日常が、なによりも尊いものだと知っているから。
そんな彼も今回は、宮殿からずっと緊張感を張り詰めたままだったので、うまく緊張感を抜けなかったのだという。
そうですか、と頷いたガーネットを見て、柊はたずねた。
「ポーリィは? 出る時には姿を見なかったんだが」
「あぁ、ポーリィなら『料理が足りないにょー』と言って厨房に突貫していきましたけど」
「それは……災難だな、料理人も。っていうか、止めろよ巫女さんも」
「大丈夫ですよ。どうにもならなくなったらリューナたちが止めてくれますから」
「信頼してんだな、リューナたちのこと。ポーリィのこともか」
そう苦笑した柊に、ガーネットは以前なら決してしなかっただろう、花開くような全幅の信頼を置いた顔で笑った。
「はい。だって、家族ですから」
柊が以前この世界に来た時に見た彼女の笑顔は、どこかぎこちなく、その上涙と共にあったはずだ。
けれど、今彼女が浮かべる笑みは心からのものであり、影は見当たらなかった。
強い子だな、と柊は思う。
以前の戦いで、彼女の命がかかっていたとはいえ、彼女は実の父を亡くし、また慕ってくれていた騎士たちの大半を失い、彼女自身も傷ついた。
それだけのことがあったのに、今彼女は笑っている。
きっと、柊が帰ったあの日から今日まで、ずっと一生懸命に生きてきたからこその笑顔だった。
忘れることなどないだろうが、いくつもの悲しみを乗り越えて、かけがえのないものを築いてきたのだろうと。
475:星灯下話
09/06/05 01:34:46
「そっか。そういや、ポーリィとは姉妹になったんだっけな」
「お姉ちゃん、とは呼んでもらえませんけどね。
逆にリューナはことあるごとに『リューナお姉ちゃんって呼んでもいいんですよ?』ってすすめてきますし」
「リューナ……まぁあいつはなんかポーリィにもお姉さんみたいでしょ、って言ってたらしいしなぁ。
何かしらお姉ちゃんって呼んでほしい理由でもあるんじゃないか? 郷里(くに)では末の妹だったとか、そういうの」
共通の知人の話題を冗談めかしてそう言う柊。
それに小さく笑いながら、ガーネットは話題をつなげる。ほとんど知らない彼のことを強く知りたいと思ったから。
「そうかもしれないですね。そういえば、柊さんにご兄弟は?」
「いるぞ、上に姉貴が一人」
「お姉さん、ですか」
「言っとくけど、ポリみたいに食い意地は張ってないし、リューナみたいに変態変態言ってるような妙な奴でもないぞ。
すぐ暴力に訴えるし、妙な勘違い起こすし、イノセントのくせに人の月衣貫通して俺をボコったりできるバイクとタバコが命の不良姉」
はぁ、と肩をすくめる柊を見て、ガーネットは首を傾げた。
「柊さんとお姉さんは、仲がよろしくないのですか?」
「仲が悪いってことはないと思うぞ。
なんつーのかな、頭が上がらないっていうか、逆らえる気がしないっていうか。想像しづらいかもしれないけど、あれはあれで悪い人間ではないっつーか……」
ガーネットの何気ない一言に、困ったように弁解を始める柊。
単に世の中には色んな形の仲のよさがある、ということなのだが、柊自身言葉をうまく使い説明できるわけではない。
ガーネット自身、意味を成してるようであんまり意味のない柊の言葉ではうまく理解できない。
けれど、仲が悪いわけではないということを得意ではない口先でなんとか伝えようとしていることだけはなんとなく理解できた。
「なるほど。柊さんのお姉さんは、柊さんがそんなに一生懸命になるくらいいいお姉さんなんですね」
「……そうストレートに言われると、否定するのがバカらしくなってくるな」
ツンデレは天然に勝てないものなのである。かえるに対する蛇、ハブに対するマングース、パーに対するチョキのごとく。
476:星灯下話
09/06/05 01:42:44
閑話休題。
なんだか言いたいことがたくさんあるものの、それを噛み潰したような不機嫌そうな柊にガーネットが尋ねる。
「けど、心配じゃないんですか? こちらに来られたのは柊さん一人で、お姉さんみたいに向こうに大事な人がいっぱいいるんでしょう?」
「心配したことがないって言ったら嘘になるけどな。
それでも、信じてなけりゃ任せられねぇよ。あそこの連中は強い。そう簡単にエミュレイターなんぞに世界をくれてやる奴らじゃないさ」
そう言って、どこか誇らしげに夜空を見上げる柊。
そんな彼を見て、胸がちくりと痛むガーネット。
彼女自身は見たことはないものの、以前の危機の際、空に柊たちの住む世界が映ったことがあったと聞いている。
柊にとって、故郷はこの空の向こうにあるものなのだ。
おそらくはその向こうに思いを馳せ、無意識にこんなところに来てしまったのだろう、とガーネットは思った。
その大切なはずの場所を離れ、彼は一人ででもラース=フェリアに来てくれた。
それは確かに世界の成り立ちを知っているアンゼロットじきじきの命令もあったからではあるが、ポーリィたち昔の戦友の安否が気になったこともあっただろう。
柊が気にかけた『大事なもの』の中に、自分があってくれたら嬉しいと思う。
そんな少女の淡い思いなど気づくはずもなく、柊は笑って続ける。
「まぁ、来ちまった以上は責任持ってなんとか自力で帰れるように努力するさ。
それにこっちもなんとかしないとな。リューナもポーリィも巫女さんも、前みたいに旅したいだろ? せっかく来たんだし、ちょっとくらい手伝わせてくれよ」
柊の言葉には裏表がなくて、それでもいいか、と思えてしまう自分がなんだか現金に思えるガーネット。
「頼りにしちゃいますよ?」
「おう。あんまり無理はさせないでくれると助かるけどな」
「残念ながら無理してない人はここにはいないんです。奪わ(とら)れたものを奪い(とり)かえそうって人たちなので」
それもそうだな、と笑う柊を見て、それでもこの人は自分で無茶を背負い込むんだろうなぁ、と確信にも似た思いを抱く。
ガーネットは、以前この世界に来た柊を知っている。
477:星灯下話
09/06/05 01:45:38
その時の彼は幼馴染を助けるのに一生懸命で。
力の壁とか、世界の闇とか、立ちはだかるそんなものは全て前からぶち抜いてただ走り抜けていた。
それこそ奪われたものを奪い返すただそのためだけに。
今の自分たちは、その時の彼と同じことをしなければならないのだ。
大事なものを圧倒的な敵から奪い返す。言葉にすればただそれだけだが、どんなことが起きようと諦めず、どんな敵が現れようと最後に勝つ、酷く困難で厳しい道。
そのために、今日を生き延び、明日を見続けなければならない。
どれほどの苦難が襲い掛かろうと、どれほどの辛酸を舐めようと、それでも。
それはどれほどの熱意があれば可能なのか、今でもわからない。
けれど、唯一人間の手に奪い返したこの地は。この地に宿る熱は。希望の灯火は、何があっても消してはならない。
そのためなら、ガーネットは名の通り情熱を示す者となってこの地で踏みとどまり続けられる。
――全てを奪い返すそのために、彼がもしも自分を守ってくれたなら、と思ったことも確かにある。
自分のそばで、熱を持って大切なものを奪い返した柊がその剣を振るってくれたなら、と。
それはガーネットにとって甘美な誘いであり、しかしその思いが頭をもたげた度に頭から追い出した考えでもある。
柊の意思はあくまで故郷にある。
こんなのは不公平だ。せめて勝負はイーブンで始めたい。
彼をこんな形で奪ってしまっても、彼の心が故郷から離れることはないだろうから。
だから、ガーネットは宣言した。目の前の相手を通して、その先にいる人たちへ。
「柊さん、わたし夢があるんです。聞いてもらえますか?」
「は? おう、別に聞くくらいならいつでも」
「当面はこの世界をまた元のように皆で生きられる世界に戻すことですけど。
わたし、その後そちらといつでも行き来できるようにしたいんです」
彼女の顔は、笑顔だった。
478:星灯下話
09/06/05 01:48:24
「柊さんの世界では、こちらは闇に閉ざされた世界だって認識されてるんですよね? そういう風にアンゼロットさんが言ってました」
「あぁ……そもそも別に世界があることを知らない奴の方が多いはずだけどな」
「聞いています。もちろん、こちらに来て平気な人だけでもいいんです。
けど、この世界だってこうなる前は緑と海の豊かな土地がたくさんありました。
わたしはこの世界に住む一人として、ここがそう悪いところではないんだって知ってほしい。
同じ人間が、一生懸命に生きてる場所なんだって知ってほしいんです」
2つの世界を自由に行き来できるようになったら、もっとこの世界を知ってもらえる、と彼女は言った。
もちろん、そうなれば彼ももっと気軽にこちらにこられるのではないかという打算もないとは言わない。
けれど確かにガーネットの胸には、もっとよく自分の故郷を見てほしいという思いがあった。
この世界を愛することができるようになった彼女は、決してラース=フェリアが守られ助けられるだけの世界なのではないと知ってほしいと思う。
こんなにも強く、たくましい人間が生きているのだと知ってほしいのだというのは本心なのだ。
色んな世界を行き来したことがあるという柊にこんなことを言ったら、どんなことを言われるだろうと思っていたガーネット。
アンゼロットにすら怖くて言えなかったことだ。
危険だと止められるかもしれない。迷惑をかけるなと怒られるかもしれない。けれど誰かに知っておいてほしかった。
胸の鼓動はこれまでの人生で一番の最高潮。
半分酒の勢いと淡い気持ちの相手と二人きりという状況が彼女の行動に拍車をかけたともいえる。
そんなガーネットの途方もない夢を聞いて、柊は怒るでも止めるでもなく。
しばらく唖然とした後――楽しそうに笑った。
「はははっ! 巫女さん、あんたすごいこと言い出すなぁ。
俺じゃ考えつかないし、どうすりゃ実行できるのかもわかんねぇけど、そうだな、そういうのは面白いかもしれない」
「え……ほ、本当ですかっ!?」
「何言ってんだ、あんたがやりたいことなんだろ? 俺だっていつでもポーリィたちと会えるってのは嬉しいしな」
「ほ、本当にそう思ってます?」
「俺、嘘は下手だぞ。苦手だし」
479:星灯下話
09/06/05 01:53:17
そう言って笑った柊の顔を見て、顔が熱くなったガーネットは下を向く。
彼女の夢は困難に満ちている。
それを為すためにはさまざまな困難が待ち受けていることくらいは、彼女にだってわかっている。
まずはその技術の確立、第八との協力体制、ひいてはアンゼロットとの交渉、侵魔対策などなど、その前にこの世界を元に戻さなければならないという一番の問題もある。
それでも、その夢を果たしたいと思う。
自分を育ててくれたこの世界を、他の世界にもいいものだと思ってほしい。
色んな話を聞いて育った少女は、自分の住んでいる場所を色んな人に紹介したいと考えるようになった。
たくさんの人からたくさんのものをもらった以上、まだ見ぬ人たちにそれを与えられる人間になりたいと。
そして、今度は正々堂々とまた彼に会うためにも。
顔が熱いのを自覚しながら、ガーネットは視線を合わせないようにして、聞いた。
「じゃ、じゃあ……もしもわたしの夢が叶ったら、柊さんはこっちに遊びに来てくれますか?」
「もちろんだ。ちゃんとその時はお祝いしないとな」
「はい。お祝い、楽しみにしてます」
期待を込めてそう言った彼女は、はしごを登る音を耳にして、この二人きりの時間の終わりを感じ取る。
だから彼女は立ちあがり、柊に表情を見られないようにすぐさま踵を返して数歩歩き、立ち止まる。
「柊さん」
「なんだ? お迎え来てるんだろ?」
彼の耳にも入っていたらしいあわただしい足音は恐らくはポーリィだろう。
速さからいってもう少しだけ時間があることを知っている彼女は、構わず告げる。
「わたしの名前、ご存知ですよね?
対面を保つ必要がありますので対外的な場では『巫女』でも構いませんが、身内しかいない時くらいは名前で呼んでいただけますか?」
それは、小さな彼女のわがまま。
480:星灯下話
09/06/05 02:01:04
ポーリィだってリューナだって名前で呼んでもらっている。もちろん、彼が以前ここまで追いかけてきた『少女』も。
だから自分だけ飾りの名などで呼んでほしくはない。
そういった意図の下放たれた言葉に柊は少しばかり戸惑うものの、相手がそういうのなら、と思い直して、やや自信なさげに、その名を呼んだ。
「……ガーネット?」
呼ばれた彼女は、その場を全力で駆け出す。
さっき以上に早くなった鼓動と顔の熱から逃げるように。髪のように顔が真っ赤になっているだろうことが、鏡などなくてもわかるような気がした。
そうねだったのは自分であるものの、予想以上の自分へのダメージにも近いくらいの衝撃に、この場にいることに耐えられなったのだ。
ガーネットは、迎えにきたポーリィがはしごを登りきり、彼女に声をようとするのすら無視して全力で走り去り、はしごを落ちるように降りて、炎砦の中に逃げ込んだ。
残されたポーリィは、しばし姉には珍しいその様子に驚いていたものの、先客に目線を向けてたずねた。
「ひいらぎー、ガーネットに何したの?」
「人聞きの悪いこと言うなよっ!?
何もしてねぇ、単に話してただけだ」
「にょー……ひいらぎ、ザーフィのおっちゃんみたいなことしちゃダメだよ?」
「誰がするかっ!? あんな歩く18禁みたいなおっさんと一緒にすんなっ!」
「18禁じゃなきゃ並列攻略は許されるってわけじゃないんだよ?」
「何の話をしてんだよっ!?」
まるで自覚のない彼に少し辟易しながら、ポーリィは一つため息。
481:星灯下話
09/06/05 02:02:57
「じゃあ、あたしはまだお腹減ってるから帰るけど。
他にも見回ってる人いるんだから、少しくらいきちんと休むんだよ?」
「……うるせぇよ」
素直ではないぶっきらぼうなその言葉に、変わってないなぁ、と思いつつ。
ポーリィは戦友に気遣いの言葉を告げた口で、返事を促した。
「他に言いたいことはないのかにゅ?」
「あー……もうしばらくしたら寝る。あと、ガーネットに会ったらおやすみって言っといてくれ。言い忘れた」
了解にゅ、と言って去っていく足音を聞きながら、柊は頭をかきつつ再び星空に目を移した。
「……ポリの奴、いつの間にあんなに鋭くなりやがったかなー」
それに答えを返す者はなく。そんな青年を、星明かりだけが見つめていた。
fin
482:風ねこ
09/06/05 02:07:27
ナイトウィザードから離れてセブン=フォートレスにしてみた。変わんねーよ、というツッコミは胸に痛いからやめて(挨拶)。
どうも、風ねこです。エルクラムの精霊術師作成楽しー!
さて、今回の主役はあくまで『紅き巫女』ちゃんガーネット。
基本的に相手を名前で呼ぶ柊が珍しく巫女さんって呼んでる相手なので、こう、名前で呼ばれたらどんな反応を返してくれるのかすごい楽しみだったのだ。
いつか公式でやってくれると信じてる。
ポリは別にそういう気持ちを抱いてはいません。色気<食い気だけど家族は大事。
つーかなにゆえ炎砦一行たりともポリが出ませんか。くそ、表紙絵だけでファンが救われると思ってんなよっ(笑)!?
ガーネットは炎砦でポリに「友愛」の意味を持つ宝石の名前、ということだったはずですが、
調べてみると宝石言葉っていうのは一つにつき複数あるものも多いらしく、『情熱』って意味もあるらしい。
正確には『火』っていうのは五大石(火・ルビー/水・サファイア/地・トパーズ/風・エメラルド/空・ダイアモンド)の一つが司るもので、
ガーネットはどっちかっていうとその赤さから血、また血から生命力を連想させる石だということ。ちなみに他にも『真実』とかの意味もあるとのことです。
空砦の彼女はなんかイイ性格になっちゃってます。多少自分にわがままになってくれるのは悪いことじゃないと思う。個人的には。
ちょっと情熱的(=積極的)な行動をとるようになった彼女がどういう物語をつむぐようになるのかは、この後を楽しみにしたいところです。
柊が外にいた理由は、ポーリィの答えもガーネットの答えも正解。もちろん本人の申告も間違いではないです。
ポーリィはあれで一応長旅で一緒でしたから、大抵の柊の行動なんてお見通しです。行動も分かりやすいしな!
では。今回はこのへんで。
また何か思いついたら書きにきたいと思います。ではでは。
PS >>471のタイトルは間違いでーす。星灯下話が正解。携帯投下とかするもんじゃないね!
483:NPCさん
09/06/05 20:48:03
乙。
15歳で世界救って成人、な世界で18禁ってつーじるんだろうか?とふと思った。
まぁあの瞬間は異世界でなくきくたけ時空だった、で゙説明できるか。
484:NPCさん
09/06/05 21:07:40
乙であります。
柊の家族関係で“片親不在”が追加されていたっけ
数ヶ月行方不明でたまに帰ってきたらボロボロだったり、
ボーっと安楽椅子に揺られていても問題ないっぽいとこ見ると単身赴任なのかな
485:NPCさん
09/06/05 22:02:59
乙ー。
俺の妄想の中の柊の親は親父。筋骨隆々の大男。職業はカメラマン。龍使い。
486:NPCさん
09/06/06 00:46:59
俺の妄想の柊の親は母親。
仕事場ではやり手のキャリアウーマン。笑顔でビシバシ部下をこき使い、
強面の交渉相手にもにっこり笑ってばっさり拒絶ー、みたいな。
でも家族の前ではほにゃほにゃしてて、むしろ甘えてくるタイプ。
たまの休みに帰ってきてはジャージ姿でリビングでごろごろして、
「蓮司ー、おなかすいたー、なんか作ってー♪」みたいな。
487:NPCさん
09/06/06 07:39:06
>>風ねこ氏
乙ですー。いや~ガーネット可愛い可愛い、くそっ!柊が羨ましいぞっ!!
あと風ねこ氏も表紙だけで満足出来ない様子ですがあえて言いたい!一番我慢出来ない空砦の表紙はアイラとディフェスの二人だと!!あの表情のディフェスは萌えます、えぇ萌えますとも!!
はっ、いかんいかん暴走してしまった……べ、別に柊以外にも空砦ネタで本編を保管するカタチで書いてほしいわけじゃないんだからねっ!
488:NPCさん
09/06/09 15:09:35
空砦と言えば、第二パーティの皆様がどういうスキル構成にしてるか楽しみ。
あのメンバーで、「あの人」がアタッカーだとすると、必然的に「あの人」と「あの人」はヒーラーと
ディフェンダーになるわけですが……
「攻撃は最大の防御。ダメージを受ける前に殲滅」とか言い出しそうで……
489:NPCさん
09/06/11 21:13:53
毎度、保管庫の中の人です。
ここの所、ナイトウィザードクロスSSスレが荒らしに埋められる被害が続いてるのと、
いい機会なんでこのスレでも利用できる避難所を開設しました。
書き込み規制に巻き込まれた方等、ご利用ください。
SSスレ避難所
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
490:NPCさん
09/06/11 21:47:11
>>489
やっぱりアンタかいw