08/10/19 19:38:48
人間とは脆いものだ。
第一世界ラース=フェリア人よりも闘気や身体能力に劣り、第五世界エルフレアのように天使の力もなく、第三世界エル=ネイシアのように強大なる守護者の欠片やゲボクという物量があるわけでもない。
故に技術を高め、戦術を練り上げ、武具を揃える。
それは確かに間違っていない。
人としての強さは創意工夫にこそあるのだから。
(研鑽せよ、若人)
爺臭い言葉を自然と脳裏に浮かべる己の存在に気付き、苦笑する。
今の彼はつい一週間前着ていた服装ではなく、大き目の作務衣を着ていた。
常に一定の気温に保たれるアンゼロット宮殿の領域では涼しくもないが暑くもない。修練には向かぬと用意したロンギヌスのどことなく子犬を思わせる少年は首を傾げていたが、安藤は和服を好む質だった。
あの島ぐらしでは農作業には向かないと諦めていたが、ここでならばこの格好をしていても問題はないだろうと思う。
そして、そんな彼がいるのはどことなく簡素な佇まいの巨大なる一室。
無数の結界を張られて、熟練の設計士が設計した、構造そのものが強度性を高める造りになっているトレーニングルーム。
アンゼロット宮殿の一角で作り上げられたその中で満ちる空気を安藤は嫌いではなかった。
己もまだ届かぬ剣の道を究める修行者だという自覚はある。
故に理由も道も異なるが、高みを目指して鍛錬を続けるものたちは見ていて心地がよかった。
(さて、次は誰を見るか)
あとであの二人には指導をしなくてはな。
そのことを念頭に置きながら、組み手の邪魔をするのも駄目だろうと考えて、安藤はぐるりとトレーニングルームを見渡し、次なる相手を探した。
その視線に気付き、我先にと同じ道の、それでいて遥かな高みにいる人物と気付いてか多くの魔剣使いが安藤に挑みかかり、打ち倒されていく。
しかもそれらは一息にではなく、指南するように柔らかく太刀を受け止め、或いは捌き、或いはその荒さを教えるかのように同じ軌道で打ち払い、その握りの甘さを知らせるかのように魔剣を弾き飛ばした。