08/10/19 19:38:48
人間とは脆いものだ。
第一世界ラース=フェリア人よりも闘気や身体能力に劣り、第五世界エルフレアのように天使の力もなく、第三世界エル=ネイシアのように強大なる守護者の欠片やゲボクという物量があるわけでもない。
故に技術を高め、戦術を練り上げ、武具を揃える。
それは確かに間違っていない。
人としての強さは創意工夫にこそあるのだから。
(研鑽せよ、若人)
爺臭い言葉を自然と脳裏に浮かべる己の存在に気付き、苦笑する。
今の彼はつい一週間前着ていた服装ではなく、大き目の作務衣を着ていた。
常に一定の気温に保たれるアンゼロット宮殿の領域では涼しくもないが暑くもない。修練には向かぬと用意したロンギヌスのどことなく子犬を思わせる少年は首を傾げていたが、安藤は和服を好む質だった。
あの島ぐらしでは農作業には向かないと諦めていたが、ここでならばこの格好をしていても問題はないだろうと思う。
そして、そんな彼がいるのはどことなく簡素な佇まいの巨大なる一室。
無数の結界を張られて、熟練の設計士が設計した、構造そのものが強度性を高める造りになっているトレーニングルーム。
アンゼロット宮殿の一角で作り上げられたその中で満ちる空気を安藤は嫌いではなかった。
己もまだ届かぬ剣の道を究める修行者だという自覚はある。
故に理由も道も異なるが、高みを目指して鍛錬を続けるものたちは見ていて心地がよかった。
(さて、次は誰を見るか)
あとであの二人には指導をしなくてはな。
そのことを念頭に置きながら、組み手の邪魔をするのも駄目だろうと考えて、安藤はぐるりとトレーニングルームを見渡し、次なる相手を探した。
その視線に気付き、我先にと同じ道の、それでいて遥かな高みにいる人物と気付いてか多くの魔剣使いが安藤に挑みかかり、打ち倒されていく。
しかもそれらは一息にではなく、指南するように柔らかく太刀を受け止め、或いは捌き、或いはその荒さを教えるかのように同じ軌道で打ち払い、その握りの甘さを知らせるかのように魔剣を弾き飛ばした。
267:NPCさん
08/10/19 19:39:33
さすがに支援に目覚まし時計は持ってこないですよね
268:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:42:17
「手首が強張っているな、もう少し柔らかく握るべきだ」
「魔剣に意識が同調していないぞ。もっと感応しろ、魔剣使いならばこの程度の角度の打ち込みは死角に入らん。魔剣に感覚を預け、信じろ」
「握りが甘いぞ。戦場で武器を手放すことは死に直結する愚行だ!」
息も乱さずに十数人以上のウィザードがへとへとになるまで打ちのめし、トレーニングルームにいるロンギヌス候補生たちは一週間のうちに見慣れた光景だったが、感嘆の息を吐き洩らす。
そして、少し休憩をいれるべきかと老骨には応える指南に、涼しい顔のまま安藤が考えていると……ざわりとトレーニングルームの入り口がざわめいた。
「む?」
安藤がざわめく気配に気付き、目を向ける。
数秒と立たぬうちに彼は得心した。
トレーニングルーム、その入り口に現れた銀髪の少女を見たからだ。
「皆さん、研鑽に励んでいますね」
ニコリと少女らしい笑顔を浮かべるアンゼロット。
その言葉に本性を知らぬ候補生達は心酔した表情を浮かべて、緊張に上ずった声を上げた。
そんな彼らの様子に、将来の心配を僅かにした安藤は内心ため息を洩らすと、アンゼロットの元へと歩み寄る。
「なんの用だ、アンゼロット。お前がわざわざ来るような場所でも在るまい」
「あら? 私がこのような場所に来るのはおかしいことですか?」
安藤の憮然とした言葉に、周囲のロンギヌス候補生達がいささか引いているが気にもしない。
一々アンゼロットの対応に戸惑っていては神経症に陥るのが関の山だからだ。
269:NPCさん
08/10/19 19:43:22
支援はさるさんに見つからず、投下を助けるのが第一だ
270:NPCさん
08/10/19 19:47:11
あなたに、支援を…(かないみか声で)
271:NPCさん
08/10/19 19:52:46
これは……8時の規制解除まちかな?
272:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:01:04
「まあいいでしょう。どうやら安藤さん、しっかりと教育に励んでいてくれるようですね」
「私は一度受けたものを違えるほど趣味はないのでな」
そう告げると、安藤はアンゼロットの後ろから姿を見せる数人の少女達の姿に気付いた。
「む? ……志宝エリスとマユリ=ヴァンスタイン?」
見覚えのあり過ぎる少女達、それに赤羽くれはの姿もあった。
他にも何名かウィザードらしき人物の姿があるが、その中でも一名ほど安藤が気にかける青年がいた。
白いジャケットの、私服姿らしい茶髪に染めた青年―柊 蓮司。
何故か洗い立ての髪や肌をしているが、シャワーでも浴びたのだろうか?
「……久しぶりだな、安藤のおっさん。ロンギヌスに復帰したのか?」
「客分といったところだろうな。そこの女狐にひよっこ達を鍛えなおして欲しいと頼まれた」
ほんの一時のみだが、己の神罰刀を使いこなして見せた若き魔剣使いを安藤は見据えて……ほぅっと息を吐いた。
あの日心が荒れて、未熟だった青年はどうだ。
清流の如き感情のうねりこそ感じられるものの、その瞳には真っ直ぐに前を見据える決意の光があり、その佇まいはほんの数ヶ月とは比べ物にならぬほど精錬されている。
その振る舞いには成長した力強さが有った。
「……ずいぶんな死地を潜り抜けたようだな、柊 蓮司」
「そうか? あまり意識はしてないんだが」
今更ながらに思い出す。
皇帝シャイマールを打ち倒したのは目の前の少年なのだということを。
そして、傍に佇む少女を見た。
273:NPCさん
08/10/19 20:02:29
支援再開なのだ
274:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:03:31
「久しいな、志宝エリス」
「はい! 安藤さんもお元気そうで!」
「わ、私もいるんですが……そうですよね……私なんてどうでも……」
よよよと壁の隅でのの字を描き始めるマユリに内心腹を抱えて笑うと、安藤はぐるりと首を曲げて、アンゼロットに目を向けた。
「して、何用だ」
「実は面白い……ごほごほ、素敵な趣向を思いつきまして」
「趣向?」
嫌な予感がした。
同じ感覚を読み取ったのか、柊もまたアンゼロットへと向けていた顔を青白く染める。
「柊さん、安藤さん。一手剣を交えてみてくださらないかしら」
「なっ」
「……」
アンゼロットの提案。
それにざわりと周囲の空気がざわめいた。
ウィザードの中でのエースオブエースと目される柊 蓮司。
過去ロンギヌス最高の魔剣使いとして称された安藤 来栖。
二人のウィザード、その最高峰に位置する魔剣使いの対峙と聞いて、未だに駆け出しのウィザードたちが興奮と期待に頬を染め、息を荒げた。
しかし、その引き合いに出された二人はどこか戸惑い、或いは憮然とした顔つきだった。
275:NPCさん
08/10/19 20:04:16
とっこーしえんたい!まいる!
276:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:05:22
「は? ちょっとまてよ、俺さっき海から命からがら這い上がってきたばっかりなんだぞ!?」
とある任務でスクールメイズの落とし穴から海へと流し込まれた彼はようやく生還したばかりなのだ。
シャワーを浴びて、回復魔法を掛けられたとはいえ、精神的な疲労はある。
「お遊びで剣を交えるつもりはない」
にべもなく吐き捨てると、馬鹿らしいと安藤は態度で語り、首を横に振るう。
「そうだな。個人的には決着というか、アンタとは一手指南して欲しい気もするけれど遊びでやる気はねーよ」
柊は少しだけ真剣な眼差しでアンゼロットを見つめた。
戦いに遊びは無い。
見世物にされるなど両方共真っ平ごめんだった。
バトルマニアでもない魔剣の担い手二人共が拒絶すると、アンゼロットはあらあらと困ったような顔をして、けれどもどこか意地悪な顔を浮かべた。
「でも、若いウィザードたちに可能性を見せてあげるのはよい行いではないのでしょうか?」
そう告げて、アンゼロットが指し示すと、そこには期待に胸を膨らませた候補生達の熱い視線があった。
うっと柊が呻き声を上げて、安藤は怯まずにただ沈黙する。
277:NPCさん
08/10/19 20:05:35
しえーん
278:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:07:20
「柊~、こうなったらアンゼロットさん、絶対に意見を曲げないよ?」
「ひ、柊先輩、それに安藤さんも頑張ってください!」
「お二方の戦いぶりを見れるとは、酷く光栄なことです」
三者三様の言葉。
それに加えて無数の言葉が二人の背を押し、外堀を埋めていく。
逃げるのは不可能か。
そう悟ったのは奇しくも同じ瞬間だった。
二人の魔剣使いが視線を上げて、同時に視線があった。
「……安藤さんだったよな、いつぞやの約束叶えてもらってもいいか?」
「いいだろう。あの時からどれほど成長したのか、見せてもらおう」
にやりと世界屈指の剣士は獰猛なる笑みを初めて見せると、微かに、そう本当に微かに手を振るわせた。
武者震いである。
(私が喜んでいるのか)
安藤は僅かに動揺し、それを上回る予感に心を沈めた。
剣に見入られ、剣に狂うた心が鎌首をもたげて、囁くのだ。
愉しみだと。
279:NPCさん
08/10/19 20:07:50
魔剣使いはすべからく女狐に弱い法則でもあんのかww支援
280:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 20:09:11
一旦ここまで。
一度サル規制を喰らいました。
まだこれだけで三分の一程度ですので、もしも投下予定のある方がいればお譲りします。
もしそうでなければ、また45分ごろから投下を再開します。
頭部部だけでこれだけかかったよ! ORZ
281:NPCさん
08/10/19 20:10:25
さるさんに職人の何が分かるって言うんだ!
投下乙。
282:NPCさん
08/10/19 20:41:36
さるさんの苦労は痛いほどわかるからなぁ……
泥の人投下乙。
熱くて心臓が早鐘を打つほどに、甘くて舌が蕩け落ちるような、お話の続きをお待ちしています――。
……つーか、支援はなんのネタかと思いきやアクロスかよww
283:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 20:45:10
ういうい、そろそろ時間なので投下開始します。
怒涛の剣撃応酬―付いて来れますか?(弓兵チックに
支援をお願いします!
284:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:46:36
十数分後、トレーニングルームの中央となるフロアで二人は向き合っていた。
足元は滑りにくく摩擦のかかった、されど無機質な金属にも鉱物にも似た材質の床。
そこで柊は屈伸をしながら、長い海中生活で痺れて手足に熱を与えていく。
対する安藤は目して動かず、既に候補生との指導でほぐれた体の熱を吐き出し、呼吸を整えながら疲労を抜き、集中力を高めていた。
高まる空気の圧迫感。
見守る見物客達の視線が少しわずわらしいが、戦闘に没頭すればそんなことは消え失せると確信していた。
「最初はどうする?」
柊はストレッチをしながら、安藤に尋ねる。
その周囲で見守るエリスやくれは、その他もろもろの視線がくすぐったが、出来るだけ気にしないことにした。
「無論、主は魔剣を使え。私も神罰刀を抜く」
「いいのかよ」
柊が目を見開く。
どうせ木剣程度で打ち合う程度だと思っていた。
相手になどされないと諦めていた分嬉しい誤算だった。
「ああ、だから―」
ストレッチを終えた柊を見据える安藤の瞳は鋭く冷たい。
小指から緩やかに指を折り曲げて、鷲爪のような手の平の形を作り出す、まるで柄を握り締めるかのような手の動き。
そして、構える。
安藤が構えて、息吹を発した。
無音なる息、しかしそれに乗って声が聞こえたのだ。
―一太刀で終わらせるな。
285:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:48:13
そう安藤の瞳は、気配は、息吹は語っていた。
ぞくぞくと全身の肌が泡立つような剣気、剥き出しの闘気、これが安藤 来栖の気配か。
柊は己の全身に流れる血液がドライアイスにでもなったかのような冷たく焼かれるような錯覚を覚えた。指先が痺れて、爪先が強張り、全身の肌が固められたかのように強張るのを感じた。
怖がっているのか。
恐れているのか。
魔王と対峙した時とはまた異なる鋭く、どう踏み込んでも首を刎ねられる幻覚しか見えない、斬撃の死神の姿が見える。
武者震いなどではなく、正真正銘恐怖からの震えを柊 蓮司という魔剣使いは体感し―
(いや、だからこそ)
一つの意思と可能性を見出し、柊は目をカッと見開いた。
同時に両手を握り締め、嵌めたフィンガーグローブがぎぎぎと強張った音を立てて、軋みを上げる。
「む?」
安藤はその様子に僅かに細めた瞳を広げて、和紙の向こう側に墨が滲み出るかのように喜色の念を浮かべてみせた。
なるほど、やはりこの程度の剣気で怯みもしないか。
ならばこそ、剣を抜く価値がある。
「構えよ」
「応」
共に月衣を展開。
虚空に柄が浮かぶ。
安藤の横脇には日本刀を思わせる絹糸の柄を。
柊の側面には西洋剣を思わせる錬鉄の柄を。
―引き抜く。
286:NPCさん
08/10/19 20:49:03
支援
287:NPCさん
08/10/19 20:49:43
しえん
288:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:50:26
瞬間、安藤の手に握られたのは麗しき刀身を兼ね備えた一振りの太刀。
見よ、名工の手によって打ち出された現代の魔刀の姿を。
その星流れる隕鉄を混ぜ込み、神すらも切り裂くために刃にはマリーアントワネットの血を啜った断頭台の刃を、清正を切った村正を、靖国たたらの玉鋼を持って造り上げられた最高の一振り。
仇なす凶魔に神罰下し 荒ぶる神にも罰下す
抜けば焔立ち 振るわば星流る
神剣名刀切り裂き候 妖刀魔刀神罰刀
その刃を向けられし魔は怯え、神は震え、あらゆる全てを切り伏せる背筋すらも怖気立つ銘刀。
抜けば玉散る壮絶至極極めの一刀。
安藤が振るいし、その神斬の太刀は如何なる障害をも退けるだろう。
その煌めきに、その凄絶なる気に、篭められし名工の執念が、握り締めた安藤の剣気が、心地よい気温に設定されたはずの大気を凍りつかせる。
それに抗うかのように、柊の手に引き抜かれたのは一振りの西洋剣。
巨大なる刀身、全長あわせて身の丈ほどもある剣。その柄には宝玉が埋め込まれ、その鍔はまるで飛竜が翼を広げたかのごとき形。
誰もが知る、誰もが知らない。
それは幾多の邪悪を切り裂き、一人の世界を滅ぼした魔神を傷つけ、神をも喰らった魔を葬り、三体の神を殺しせしめた神殺しの刃。
伊耶冠命神の自殺の引き金、己を殺すために埋め込まれた神殺しの呪。
その呪により金色の魔王と讃えられし裏界第一位の魔王にして古代神を引き裂いた。
さらには世界に絶望した神の分身をも葬った。
古来より伝わる伝説の一振り。
星の巫女の守護者、七本のうちの一振り、その内でも魔王の欠片たるヒルコを喰らいて進化し続ける魔剣。
それが柊の剣。
共に神をも殺せる資格を、存在を、魔王すらも恐れさせる魔剣の担い手たちに握り締められ、この世界に姿を現す。
誰かが怯えた気配を見せた。
誰かが息を飲む気配があった。
だが、知らぬ。
そんなものはどうでもいい。
その手に魔剣の感触があり、対峙すべき相手がいるのだから、他のことになど目を向ける余裕などありはしない。
289:NPCさん
08/10/19 20:52:11
ついてこれるか、じゃねえ支援
290:NPCさん
08/10/19 20:52:31
しえんの!
291:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:53:00
「相変わらず……化け物じみた魔剣だよなぁ」
柊が軽口を叩く。
かつて数秒だけ借りた魔剣。
しかし、振るい終わった後に柊はその手を握り締め続けて、エリスや他の皆には伝えなかった事実がある。
手が焼かれたのだ。
例え魔剣の振るい手が認めようとも、魔剣が認めるのはただ一人。
その拒絶反応は確かにあった。
だがしかし、それ以上に神罰刀、それが秘める凶気なる力に柊の手が悲鳴を上げた。
並みの人間が握り締めれば瞬く間にその力に溺れるか、それとも手が千切れ飛ぶか。
それほどの魔剣、魔器、妖刀魔剣すらも切り裂くとはよく言ったものだと柊は思う。
「なに、老骨の手にはいささか重いが、大したことは無い」
そう告げる安藤の瞳には自惚れも力に対する酔いなど微塵もなかった。
かつて強大なる七徳の宝玉の一つを封じ続けた魔剣、それは役目を終えて、魔剣使い安藤 来栖の手に戻ったのだ。
知る者が知れば絶叫すべき事態。
そして、柊はそれに挑みかかろうとしている。
腰を落としながら、じわりと吹き出す汗を抑えられるとは思えなかった。
(やべえ。下手に攻め込んだら―どう足掻いても斬られる)
脳裏に浮かぶ一刀の元に切り伏せられる自分の死に様。
何十種類と考える攻め打ちを思考するが、どれも失敗のイメージしか浮かばない。
じりじりと爪先で進む、間合いを計る、普段にはない行動。
そんな柊に薄く笑みを浮かべて、安藤は告げる。
「来るがいい。慣れぬ行為は無理となるぞ」
「っ」
292:NPCさん
08/10/19 20:55:59
--身体は支援で出来ている--
293:NPCさん
08/10/19 20:56:02
てめぇのほうこそ――
支援
294:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:56:16
安藤はあえて誘うかのように足を踏み出した。
とんっと恐ろしくあっけない踏み込み、されどそれは確かに互いの間合いを埋めて、そして柊には巨大地震の如く偉大なる一踏みに思えたのだ。
怯めば負け、立ち止まれば負ける。
ならば―進むしかないだろう。
「ぉ」
喉を鳴らす。
全身の細胞に気合を発し、柊は吼え叫びながら、ただ真っ直ぐに前進する。
「ぉおおおおおお!!」
それは室内全てが震えるような巨大なる声。
同時に柊の姿がほぼ全ての人間の目から消える。
プラーナを解放、足腰に叩き込み、音速を超える踏み込みを行った。
纏う月衣が音響の壁を相殺し、どこまでも無抵抗な待機の中を一足の元に詰めて。
「遅い」
振り上げられた旋風の如き一太刀を、雷光の如く放たれた一閃の斬撃が弾いて、散らした。
火花が散る、二振りの魔剣の初撃に、流星のごとく、落雷の如き火花と轟音が鳴り響く。
「うわ!」
「すごい」
ギャラリーの声が語り紡がれるよりも早く、二人の剣士の行動は次の次の次の手順まで終えていた。
295:NPCさん
08/10/19 20:58:14
行くぞ、さるさん--規制の貯蔵は充分か 支援
296:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:58:46
初撃は弾かれた、されどのその反動を無理に殺さず、柊は爪先のみで軸を返すと、その切り返しだけでブーメランのように舞い戻る斬撃を打ち放つ。
その一撃に安藤は僅かに神罰刀の尖端を揺らすと、ゆらりと亜音速で迫る剣撃を受け止め、インパクトの刹那に捻じ曲げた刀身の揺らぎのみで捌いてみせる。
完全に見切られている、舌打ちを洩らしたい気持ちを押さえ込み、柊は流されかける手の動き。
それを握り締めたもう片方の手で柄に掌打を打ち込み、無理やりに体勢を整えて見せた。追撃に迫る斬首の一刀、それを弾き上げて、柊は風に飛び去るように僅かに間合いを広げる。
安藤の眉が歪む、ほんのぴくりとした反応、完璧な動きの乱れのはずだった。
それに反応し、立て直したのは幾多の経験が故にか。
「なるほど」
得心するかのような一言。
「なんだ?」
「いや、気にするな。ただの独り言だ」
しかし、意味のある独り言だった。
今度はこちらからと告げるかのように、安藤が間合いを狭める。
ほんの僅か、されど柊が気付かないうちに―一足一刀の距離に潰されている。
「っ!?」
誰が気付こうか、注目などしない、その足元。
安藤は足袋を履いていた、さらに長い裾のある作務衣を着ていた。
これこそが不可思議な現象の秘密。
裾を持って足首を隠し、指先を持って進むすり足が技法。
人は人の動作を見て、その距離感を把握する。
まったく姿勢が変わらずに進む直線エレベーターの人間を見て、パッと見で距離感を図ろうとして失敗した経験は無いか。
上半身の体勢が変わらずに進むそれは間合いを狂わせる魔法のような動作。
そして、既にそれは互いの領域だった。
297:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:59:40
「チェストォ!」
苛烈なる声。あえて叫んだのは柊に反応を齎すためか。
振り抜く軌跡は流星の如く煌めきに満ちた神罰刀が一刀。
その太刀を、音速を超える斬撃を反応したのはもはや無意識。
動体視力では終えぬ、脳の思考では追いつけぬ、ならば肉体に刻まれた反応でしかあるまい。
故に無意識に、或いは意図的に、柊と安藤は斬撃を繰り出し始める。
金属音を響かせ、落雷の如き火花を鳴らし、轟風となる衝撃破を撒き散らしながら、斬る、斬る、斬る。
ようやくエンジンが掛かったとばかりに互いの速度が高まり、縦横無尽、変幻自在と軌跡が刻まれ、描かれていく。
その凄まじき光景は壮観の一言に尽きた。
候補生達は激しい攻防に目を白黒させて。
エリスは互いに致命傷に至るだろう剣撃の応酬に胸をはらはらさせて。
くれははわーと驚愕に顔を歪めながらも、息を呑み。
コイズミは出来うる限り冷静に二人の戦いを見続けようと考え。
マユリはついていけないとばかりに考えながらもその強さに胸を高鳴らせ。
アンゼロットはあらあらと楽しげに笑みを浮かべる。
「ぉおおお!」
言葉が行き交い、鋼鉄の爪がぶつかり合い、斬光が空間中を埋め尽くす。
己の圏内を全て埋め尽くすような斬撃剣撃一閃の刃が、柊のあらゆる角度から打ち出され。
「むぅう!!」
それを返すかのように、安藤の周囲全てを切り砕くかのような銀閃の輝きが空に瞬く流星雨のように煌めき、金属音を奏でながらその全てを弾き返す。
その応酬に柊は顔を歪め、安藤はにやりと僅かに頬を吊り上げた。
その事実に気付いたものはいない。
何故柊が顔を歪めたのか、安藤は笑ったのか。
それは打ち出される剣撃が弾き返されたことにか? 否、それだけならばいい。
問題なのはその角度、弾き返された刃の立つ角度だった。
298:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:00:23
如何なる魔技か、柊の振り抜いた刀身、その微妙に異なる角度、その方角、その全てを鏡写しのように安藤は打ち返したのだ。
僅かな0.000000ミリのズレもなく、針の先程の厚みしかない刀身のそれを一度合わせるだけでも数学者からすれば偶然の一言で片付けるしかるまい事象を数十、数百、数千回と繰り返す。
剣の極み、薩摩流剣術を学びし安藤の刃は50年の修練を重ねて神の領域に到達しているのか。
柊は汗を止めることが出来ず、安藤はただ静かに刃を交えるのみ。
勝てないのか。
力量の差は打ち合えば打ち合うほどに広がっていくのが分かる。
けれど、それでも―
「やる! やってみせる!!」
このままでは“あの背中には届かない”。
そう叫ぶかのように柊は高速のステップをさらに踏み変えて、速度のギアを上げた。
「む!?」
ぐんっとキレの上がった柊の動き、それに安藤が活目し―瞬間、脇腹に迫った刃を打ち払う。
がぁんと金属音が済んだ音を立て……それよりも早く、次なる一撃が安藤の頭頂部を叩き割らんと迫っていた。
それを躱す、さらに追撃、それを捌く、さらに叩き込む、それを弾く、さらに繰り出す。
終わらない、とまらない、息することすらも忘れた亜音速から遷音速へと速度のギアを変えて斬舞が踊り抜かれる。
如何なる無茶か、爆発的な速度の上昇に安藤は噴き上げるプラーナの輝きに、そして柊の握った魔剣の息吹を感じ取る。
感応。
それをさらに高めたか。
「ならば」
その瞬間、初めて安藤がプラーナを発した。
清浄にして鮮烈なる存在力の活性化、骨が軋み、肉が脈立ち、全身の血流が強まり、言葉に出来ぬ恍惚にも似た違和感を感じる感覚。
299:NPCさん
08/10/19 21:00:46
了解した――支援に堕ちろ、書き手。
300:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:03:05
それを用いて手首を強化し、安藤は降り注ぐ斬光の雨を切り凌ぐ。
捌き、払い、叩き、受け止め、流し、躱す。
そうして回避しながらも、安藤は手を緩めず、隙を見て斬撃を放ち、柊もまたそれを受け止めながら荒ぶる風のように渦巻き、追撃の刃を奔らせる。
踏み踊られる剣士たちの舞踏に、強固なる床が悲鳴を上げていた。
体重を乗せた剣士達の踏み込みは空手家の正拳突きにも匹敵する衝撃を与えて、それが隙間無く叩き込まれ続けるのだ。
頑強なる床が軋みを上げる、まるで人外魔剣の領域に達した二人への喝采のように。
「柊!」
何千回合目か、憶える暇もなく、興味もなく数えない一刀の果てに安藤は告げた。
「お前は私の背後に何を見る」
「っ!」
安藤は気付いていた。
柊が己を秤として、誰かを見据えていると。
強く、強くならんとする見る見る間に成長をし続けるこの若き魔剣使いが辿り付かんとする相手が気になった。
「決着をつけていない奴がいる。それだけだ」
それは一人の騎士。
かつて星降る夜の魔王と名づけられた最強最悪の魔王。
その魂と化した一人の少年を救えぬことを悔いた騎士がいた。
かつて柊の前に現れ、くれはの魂を奪った騎士がいた。
そして、和解の果てに共に度を潜り抜け、最後には柊を、そしてある少女と女性を先に行かせるために大魔王に一人で挑みかかった騎士。
大魔王を一人で葬る異界屈指の騎士、女垂らしの男だった、どこか人格として問題もあった、けれども悪い奴ではなかった。
大魔王と交戦した後の彼の消息を柊は知らない。
301:NPCさん
08/10/19 21:04:43
俺がっ、お前に使える支援を用意してやるっ!
302:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:05:54
けれども信じている。
奴は死んでいないと、どこかで暢気に剣を振るっていると。
決着を誓ったのだ。
再戦を約束したのだ。
そして、未だに柊は彼に勝てる気がしない。
その日の約束を果たし、今度こそ勝つと己を高め続ける。
「だかららぁあああああ!!」
吼える、獅子の如く。
貫く、どこまでも。
切り開く、己が未来を。
魔剣の感応をひたすらに高め、握る手すらも解けて混じり合うかのような錯覚を覚えながら、さらにさらにさらに速度を跳ね上げ、力を膨れ上がらせていく。
その一刀は魔斬神滅の一振り。
神殺しの刃、それはどこまで強大なのか。
並みの武具ならば受け止めることすらも許されない一撃、だがしかし、それを受け止めるのが神罰刀ならば?
神すらも切り伏せるための刃、現代に造り上げられた銘刀の一振り。
そして、忘れるな。
それを振るうのはこの世界最強の魔剣使いであることを。
「ならば!」
安藤は迫り行く一撃、それを真正面から挑みかかり、否挑戦を許可し、踏み込んだ。
老骨ならざる力強い踏み込み、まるで追い風にでも吹かされた木の葉のように軽やかに、されど振るう刃の重みは巨人の一振りか。
神殺しの剣と神すら仇なす刀が噛み付きあう。
衝撃がじぃいんと唸り声のように刀身を震わせて、音は漏れでない。
対した衝撃ではなかったのか? 否、その真逆である。
前へと叩き込まれた衝撃は他への露出を許さず、二人の剣気そのものを形作るかのようにその威力の全てを一振りの刃に押さえ込んでいた。
303:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:08:25
「見事」
剣気そのものを刃と成した柊の技量、気迫、その全てを安藤は褒め称えた。
「ありがとよ」
柊は短く礼を告げる。
その間にも数千回にも及ぶ攻防があった。
魔剣の尖端を、峰を、力加減を、幾度も幾度も変化させ、突き進まんとする創意工夫の応酬。
まるで激しく体をうねらせる性交の如き淫靡さ、美しさ、二振りの刃が憎悪とも言える愛を囁き、相手を蹂躙しようと唸りを上げる。
「―殻は剥がれたか」
「?」
「息吹は発したということだ。そして、私もまだよちよち歩きのひよこに過ぎん」
安藤から見れば、否、剣の道から見れば柊など所詮卵から生まれでて、ようやく殻を剥がしたばかりのひよこも同然だった。
そして、安藤もまたよちよち歩きのひよこのようなものだった。
途方もなく高みにある剣の極み。
それを極めるには才が足りぬ、時間が足りぬ、振り抜いた刃の数が足りぬ、築き上げた骸の数が足りぬ。
外道鬼人の類ならば狂いながら骸を築き上げ、未知なる剣の頂点へと達するための積み上げ続けるだろう。
剣に生きたものならば、その生涯を剣によって成り立たせ、振るい抜いた刃の一振りを持って天に届くほどの刃を生み出すことを生涯の理由と変えるだろう。
未知なる、届かぬ、途方もない剣の道。
如何なる魔王を殺そうが、それに何ら価値はない。
裏界の魔王が聞けば屈辱に喚き散らすだろうが、かの者如きは剣の道には要らぬのだ。
304:NPCさん
08/10/19 21:09:37
《支援すべき黄金の剣》
305:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:11:01
人は何故強い?
知恵があるからだ。
そして、道具があるからだ。
原初の人が生まれたときには石を持ち、或いは棒を持ち、己が欲望のために打ち殺しただろう。
それが始まり。
一つの棒、それを振るうやり方を考えて、それに殺傷力を持たすための鋭く尖った石を括りつけた。
鋭く尖った石斧は次第にその刃先に尖った刃先を造り上げ、槍と買えた。
そして、石そのものを鋭い棒に変えて、幅広い刃を手に入れた。
それが始まり。
試行錯誤の果てに生み出されし無骨なる剣。
それをもっと上手く使いこなそうと考えるのが人だった。
そんなたった一つの道具に、未知なる道を見出し、溺れるのが人の性だった。
分からぬか。
分からないだろう。
たった一振りの刃、それを振るう意味を、それを握る人生を、それのみに捧げる信仰者の如き人生を。
世界最強の魔剣使いは断じる。
私はまだ未熟だと、剣の桃源郷に足を踏み入れてはいるものの、その先は険しくどこまでも遠い。
「極めきれるか。そして、たどり着けるか、柊 蓮司」
己が生涯の半分以上をつぎ込んでもなお届かぬ、先すらも見えぬ無限の高み。
果ては無いかもしれない。
終わりなどないかもしれない。
されど、誰もが求めるのだ。
たった一振り、神ではなく、魔ではなく、世界すらも、己が心すらも酔いしれるたった一振りの刃を求めて研鑽を重ね続けるのだ。
306:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:13:51
「―さあな」
そんなのは分からない。
剣の使い手、剣士としての喜びは在る。
ないとは言わない、己の生き方に誇りすらも混じっている。
けれども、未だに柊は力を求める理由を他者に依存している。
無欲なのだ。
誰かを護り、約束を果たし、それが出来るだけの力があればいいと謙虚なる心。
求道者に必要不可欠な欲望が彼には無い。
だがしかし、しかしだ。
他者を護る、その力がどれほど難しいのか、彼は気付いていない。
果てのない、究極なる力だと気付いていない。
他者を護る?
それが世界すらも滅ぼす魔王だったのならば?
それが世界を闇へと陥れる冥魔ならば。
それをすらも退けると、退ける力が欲しいと願わんとするのはまさしく最強を求める欲求ではないか。
「なるほど。柊、お前の理念は理解した」
「そうか」
「ならば、今のなる剣、その全てを叩き込んで来い」
何を語る。
先ほどまでの一撃、その全てが柊の全身全霊を篭めた斬撃だった。
安藤はそれを見切れなかったのだろうか?
否、見切ってはいる、それが柊の全身全霊の刃だと知っている。
されど、果てではないのだ。
その言葉を肯定するかのように、同時に刀身を弾き上げ、腰を捻り、手首を返し、腕を曲げて放たれた一刀。
それは壮絶なる絶刀だった。
307:NPCさん
08/10/19 21:15:38
通りすがりに支援
308:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:16:41
神罰刀、それを握った安藤でなければ瞬く間に首が刎ね飛ばされるだろう刃。
それを回避し、安藤は笑みを深める。
薩摩流剣技、蜻蛉の構えを即座に浮かべて、薙ぎ払うかのように柊に襲い掛かるのは巨人の如き鉄槌斬打。
受けれるか? かつて侯爵級魔王でさえも止められなかった超弩級の斬撃、その一打を柊は受けれるか。
二の太刀いらず、初撃にして必殺、下手な真剣ならへし折れ、そうでなくとも押し切られる気が狂ったと称される孤剣の一振りを。
そうだ、受け止める。
刀身の脇に片手を添えて、世界すらも震撼するだろう斬撃を受け止める。
衝撃が迸る、大気に浸透する、風が唸り、一瞬誰もがアンゼロット宮殿が揺れたと勘違いをした。
この爪先の下には母なる大地はない。
地球でなければその衝撃を受け入れられないというのか、星をも振るわせる一撃だったのか。
それを受け止める柊の全身は一瞬砕けたと錯覚し、されどそれは幻覚だと、己は生きていると瞬く間に再起動し、痺れの残る手を奮い立たせて、弾き払う。
だがしかし、さらに繰り出される三連撃。
雲耀、五行、左剣。
蜻蛉を合わせて奥義の四連、常人ならば四度は死にいたる絶技の数々。
全てが殺す、全てで討ち取る、その気迫が混じった刃の数々。
音速すらも突破、超音速の刃の応酬。
もはや見えぬ、もはや捉えられぬ、それを理解した柊は―目を閉じた。
「柊!?」
「先輩!」
二人の少女の叫び声、自殺行為と思しき行動に悲鳴が聞こえる。
されど、安藤は喜びに満ちた。
剣に焦がれ続けた孤独なる刃の使い手のみが、その意味を理解する。
一秒が一時間に、一瞬が一秒に、一刹那が一瞬に、六徳が一刹那に、虚空の時間すらも捉え切る。
加速された空間の中で柊は迫る白刃の殺意を視た。
故に、柊はそれを弾き払う。
魔剣を信じて、己の相棒を信じて、その雲耀の一撃を切り払う。全てを瞬く暇に捌いて、弾いてみせた。
309:NPCさん
08/10/19 21:17:43
この支援、届かぬ道理は無い!
310:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:19:39
金属音は響かない―音よりも早いから。
火花は散らない―散るよりも早く刃が離れるから。
衝撃破は撒き散らされない―風よりも早いから。
奥義四連、全てを凌ぎきる。
それも目を閉じて、視界を封じたままの漆黒の闇。
その反応を何とすればいい。光速か、それとも神速か。
全身の筋肉が悲鳴を上げて、骨身が汚物を吐き散らすかのように痙攣を繰り返し、全身に刻まれた浅傷から血が流れるも、その感覚は彼にはない。
森羅万象。
心眼の極み、その疑似に至る。
魔剣使いに許された感覚、己以外の知覚部を頼り、それに没頭し、無意識の領域に陥る。
疑似森羅万象の極みというべきか。
正式な剣など学ばず、実戦経験のみで身につけ、磨き続けた野生の如き剣、それは途方もなく広い大河の如き剣の道を突き進み、その先にある剣の桃源郷に足を踏み入れる。
感覚がさらに削ぎ落とされて、映るのは己の剣、対峙する安藤の剣、それのみに視界狭窄に陥っていく。
「見えるか、それが魔剣使い、その初歩にして王道だ」
柊に、そして見つめる全ての存在に告げるかのように安藤は静かに言葉を続ける。
「入ったか、柊 蓮司。剣の道に、今ようやく」
「ああ」
目を見開く。
視界は晴れ、されど感覚は残り続ける。
虚ろなる瞳、それは遠くを見渡し、そして何かを掴まんとする若き獅子の震えか。
311:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:22:10
「ならば、来い。そして、私を最強と思うな。未だに先は多く、途方もない道のりだ」
彼は知る。
彼らは知らぬ。
二人の魔剣の使い手、それを同格にして、それを越える剣技の持ち主を。
安藤を越える剣の使い手、異世界ラース=フェリアに存在する剣聖クリシュ=ハーゲン。
彼女ならば安藤の剣を見て、涼やかに唇を綻ばせ、対峙するだろう。
氷魔騎士団団長バロック=ロストール。
神速の剣の使い手、その極みを確かめんと刃を交えるかもしれない。
そして、不凍湖の騎士にして柱の騎士すらも勤めた騎士、柊が宿敵たるザーフィ。
その大魔王すらも切り伏せる刃は未だに成長を止めぬ、大剣士。
千年、気の遠くなるような永劫の時より月の冥魔を封じ続けた勇者の系譜、月代一臣。
もはや役目を終えて、消え去った彼の剣技は如何なるものだったのか、知るものは既に少ない。
そしてそれを越える理不尽たる魔王、冥魔王、その中にはさらなる敵がいる。
安藤すらも太刀打ちできぬ猛者たちがいる。
そして、柊。
彼は知る。
彼が知り、知らぬ可能性もある。
青き惑星の守護、太古の昔より転生を繰り返し、偉大なる聖剣を携えた少年がいる。
今は闇に閉ざされた世界、けれどもきっと生きていると信じる森炎の騎士の愛娘である魔王殺しの剣を担う少女がいる。
月の守護者、その後継に選ばれし焔の遺産を用いた少女がいる。
剣を極め続けるもの、新たなる可能性を携えしもの、存在する剣の世界。
喜びに打ち震えるべきか。
否、狂うべきだ。
狂乱にゆがみ、酔いしれ、世界の残酷なる美しさに恍惚なるべきだ。
312:NPCさん
08/10/19 21:24:39
「支援するのは構わんが…、アレを倒してしまっても構わないのだろう?」
313:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:24:46
「越えて見せろ。そして、たどり着け。見果てぬ剣の先をぉ!」
安藤が吼える。
この日一番の気合声が大気を震撼させた。
室内全ての人間が肌を泡立たせ、その魂を震わせただろう爆雷の如き雄叫び。
そこから振り翳されるのは鍛錬を重ね、研磨を重ね、思いを重ね、年月を重ねた超重量の一太刀。
如何なるものですら逃げられぬだろう。
その一太刀、柊は怯むことを考える、けれども肉体は、魂は吼えるのだ。
進めと。
退くことは許されぬと。
「越えてみせる!」
魔剣を振りぬき、鮮烈なる刃が、重厚なる刀身が火花を散らし、魂すらも震わせていく。
登る時だ。極める時だ。
速度を上げていく、未知なる神速の領域へ。
互いに高め合い、加速し続け、さらに相手を凌駕しようと強くなる。
未だにこの老骨に振り絞れるだけの才気があったのか。安藤は喜びに狂いながら、剣撃を繰り出し。
柊は痺れの残り続ける衝撃に歯を食いしばり、頬を切り裂かれる刃の鋭さに恐れを感じ、その偉大さを噛み締める。
届かぬ、遠い、どこまでも距離がある。
だからこそ、走れ、走りぬけ。
前のめりに倒れこめとばかりに魔剣を振るいて、柊は己の限界を数瞬単位で上書きしていく。
先ほどまでの自分を乗り越えて、未来の自分に同調し、視認すらも不可能な太刀を振るい続ける。
もはや一瞬では追いつかぬ、刹那でも足りぬ、六徳で数え、虚空にて理解する。
共に剣の桃源郷、その領域に至る剣客が二人、互いに刃をぶつけ合う、先へと進むための斬撃を放つのだ。
高速斬舞空間。
誰にも辿り付けぬ、二人の領域、それに割り込めるとしたら先に上げた安藤すらも越える剣聖、神剣、剛剣、永劫の刃の担い手のみ。
故に故に故に、全て、誰もが、介入できぬ二人だけの魔境と成して、周囲を切り払う剣撃領域と成した。
314:NPCさん
08/10/19 21:35:57
止まっちゃった?
315:NPCさん
08/10/19 22:00:35
さぁ――楽しい楽しい死合いのはじまりはじまり――!
支援
316:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:01:21
「は、はわわわわ! どうしょう! これって―もう手加減とかそういう領域じゃないよね!?」
くれはが声を上げる。
されど、それは空しく目の前の二人の攻防に微塵たりとも影響を与えることが叶わない。
柊が繰り出すのは首を刎ねる斬首の一刀。
それが六連、交差に刎ね飛ばし、完全無欠に殺さんと迫る魔剣の刃。
唸りを上げる死神の鎌の如き襲来を神罰刀が迎え撃ち、空気を爆ぜさせながら、振り抜かれる閃光の如き迎撃嵐が弾いて凌ぐ。
その刃、その一刀、全てが殺意に篭められていて、見るものたちが汗を吹き出し、待ち受ける未来に焦り出す。
終わるのか? それほどの長い―実質的には短い時間だが、濃密なる攻防に錯覚を覚える。
いつ終わってもおかしくない―どちらの一撃が切り込めば、即座に致命傷。
待ち受けるのはどちらかの骸、或いは共に死に果てるのか。
単なる見物が、真剣極まる殺し合いになるとは誰が想像するだろう。
誰もが酔いしれて、候補生達は己と同じウィザード、その最高峰たる領域、人はこれほどまでに辿り着けるのか。
どこまでも強くなれるのか、その可能性に魅了されて気付かない。
待ち受けるのはどちらかの死であり、振るうは危険極まる凶器の暴力だというのに、それを巡るのが命だから故にか。
それは崇高なる芸術品にも勝る美しさ。
誰が穢せるのだろうか。
一度踏み入れば無意識のうちに両者に一撃によって切り捨てられるかもしれぬ。
僅かな大気の流動、それすらも掴み取り、半ば無意識領域にありながら、己の肉体に刻ませた千を満たし、万を凌駕し、億にも達する刃の軌跡が自動的に放たれる。
声をかけても届くまい。
それほどまでに集中しつくしている剣士が二人。
その様子にエリスが瞳を潤ませて、アンゼロットに振り返る。
「あ、アンゼロットさん! このままだと」
「……そうですね」
常識を凌駕し、剣撃の至高へと乗り上げんとする剣士が二人。
如何なる刃を重ね、その究極の一太刀を手に入れんと足掻く浅ましくも愚かしく悲しい魔剣たちの担い手。
それを見据える銀髪の少女は心をときめかせながらも、揺らがぬ表情を装い、告げた。
317:NPCさん
08/10/19 22:02:51
げきてつ、おこせ
支援。
318:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:04:20
「心配はいりませんよ、エリスさん」
「え?」
「柊さんならばともかく、安藤さんは落としどころに気付くでしょう」
賭けに近いですが。
そう考えて、アンゼロットは内心迂闊に考えた趣向に反省を浮かべながら、ゆっくりと息を吐き出した。
そして、それは実際に正しい。
決着の時は近かった。
(つええ!)
刹那を凌駕し、六徳を埋め尽くし、虚空の時を刻みながら、億にも至る刃の射出の果てに柊は内心呟いた。
如何なる太刀を繰り出そうとも、どのような奇策を用いようとも、思いの限りの力を叩き込んでも、目の前に立つ初老の男―安藤 来栖の剣は揺らがず、突き崩せない。
全身が悲鳴を上げていた。
刹那単位で剣撃を撃ち放つ全身の筋肉は断末魔の絶叫を上げて、既にぶつぶつと皮膚の下で無数の毛細血管が急激なる血流の動きに耐え切れずに千切れている。
骨は疲労により磨耗し、骨折寸前、砕け散るのも限界近い。
かつて魔王と戦ったことがあった。
その時は圧倒的な力に叩き潰されかけ、それでも諦めきれずに刃を振るい続けた。
かつて魔神と戦ったことがある。
その時は悲哀と憎悪に満ち満ちた波動に翻弄され、焼き爛れそうになる己を叱咤し、仲間と共に戦い抜いた。
かつて古代神と戦ったことがある。
桁の違う存在感、次元が違う、領域が異なる、眼前にするだけで怯え、魂が崩壊しそうな、思い出すだけで恐ろしい恐怖、奇跡のような勝利。
かつて世界を構築する神を戦ったことがある。
絶対的なる力、誰も勝てるはずのない神の領域、けれども支える少女が居た、護らねばならない誰かが居た、だから立ち向かえた。
それがない。
それとは異なる。
ただ一人だけで、ただ己の欲望のままに、ただ剣の喜びのままに戦う。
それは未体験の感覚、けれども確かな喜びであり、力だった。
319:NPCさん
08/10/19 22:05:58
もっと、もっとだ。
もっと――輝けええぇぇぇぇっ!!!
支援。
320:NPCさん
08/10/19 22:07:44
では、僭越ながら。支援させていただきます。
321:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:20:03
魔剣が囁く。
―狂えと。
魔剣が告げる。
―見出せと。
剣の道を、どこまでも天上に伸びる果て無き世界に足を踏み入れたのだ。
ならば、進め、己の限界を踏み越えて。
だから。
「おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
虚空の時、額を貫かんとした一つの刺突。
それをしゃがんで躱し、床を豆腐のように切り裂きながら、柊は前に踏み出す―否、進む、滑るように“すり足”で。
「喰らったか!」
そう叫ぶ安藤の声がしたような気がした。けれどありえない。今の領域は、今の時間は声すらも届かぬ、六徳よりも短い虚空の繰り返しなる時間の積み重ね。
二つの虚空を消費し、三つの虚空を食い潰し、合わせて五つ、六徳の時間を掛けて魔剣を空へと飛翔する竜の如く振り抜いた。
それは遥かな高み、遥かな遠き位置、トレーニングルームの窓から映る碧き惑星。
それを真っ向から両断し、切り裂いたかのように見えるのはあまりにも鋭すぎる斬撃の幻覚か。
「―勝つ!」
柊は叫ぶ、加速した意識の中で、唇を動かすよりも早く、次の動作に移りながら。
柊は考える。
如何なる太刀をも、如何なる角度でも破れなかった安藤の剣。
ならば、それを突き崩すにはどうするか?
単純だ―今までよりも強力な一太刀、それしか方法は無い。
322:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:20:55
故に柊は天へと掲げた魔剣を背負いなおし、異様なまでに高い八相の構えを取る。
その正体に安藤だけが気付いた。
そして、笑う。
薩摩示現流、蜻蛉の型。
それを使いこなそうというのか、二の太刀は要らず、初太刀にて全てを決めるかつて気が狂うたものの剣と言われた刃を。
安藤が厳つい顔を歪めた、鬼の形相、剣に狂うた剣鬼の顔を。
神罰刀、それが鬼の手に握られ、振り翳されるだろう怒涛の刃に備える。
「こい」
脇取りに構え、虚弱なる刃ならば受け止め、捌き、一太刀に切り伏せる。
そう告げる剣気、双眸、気配。
そして、柊は答えず、ただ足を踏み出して―
生涯最高の一太刀の一つと呼べる一撃を繰り出した。
ただそれだけだった。
323:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:21:41
誰もが息を飲んでいた。
柊が最後の一太刀を繰り出した、それを気付いたのは二人の剣士の動きが止まったからだった。
柊は上段からの振り下ろし、安藤は横薙ぎに振り払う一閃、交差するかのように激突した魔剣と魔剣。
そして、その二人は息すらも止めて……ピシリと軋む音がどこからともなく響いた。
「……私の負け、か」
神罰刀、その刀身に罅が入っていた。
如何なる凶魔を、魔王を切り裂いても決して傷つくことの無かった至高の銘刀がひび割れていたのだ。
そして、柊の魔剣には幾多の激突に刃こぼれを起こしてはいるものの、この程度ならば魔器自体が持つ自己修復力で再生するだろう。
「いや、武器の差だ……あのままなら、俺はアンタに斬られてた」
渾身の一刀は完全に衝撃を殺されていた。
そのままであれば、捌かれて、返す一太刀で柊の首はなかっただろう。
全身全霊を振り絞ってもなお安藤の領域には遠い。
それを柊は痛感し、だsがしかし安藤は苦々しい表情を浮かべるのみ。
「得物の良し悪しなど理由にならん。このままであれば私が負けていた、それが事実だ」
ふぅっと息を吐き、残心を済ませて、安藤が神罰刀を月衣に納める。
同じように柊もまた人心地が付いたのかと息を吐いて、月衣に魔剣を納め―瞬間、放たれた拳打を躱して見せた。
「何すんだよ!?」
「いやなに、残心を忘れていないかと思ってな」
予備動作なしで拳打を放った安藤はいつの間にか噴出していた大量の汗を手の平で拭うと、アンゼロットに向き直る。
324:NPCさん
08/10/19 22:21:50
代理……大変じゃの。
支援
325:NPCさん
08/10/19 22:21:57
支援、有効です
326:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:22:30
「アンゼロット。あとで神罰刀の修復を頼む、いささかこの老骨には答える試合だった」
「……でしょうね、それで安藤さん、貴方は柊さんをどう見ましたか?」
優雅なる顔を取り戻したアンゼロットがそう告げると、安藤は鋭く重々しく響くような声でこう告げるのだ。
「鍛錬を重ねるしかあるまい」
最強の魔剣使い。
彼が下した結論は厳しく、甘くもない一言のみだった。
されど、彼は知っている。
彼は理解している。
己が老骨を乗り越える気質を、覚悟を、経験を柊は兼ね備えていると。
いずれこの世界のみならず、さらなる異界の果てで地獄を潜り抜けるだろう若き青年に、安藤は期待に胸を膨らませた。
次なる戦いの時を待つ。
いつか天へと届く一太刀を会得するために、彼は剣を重ね続ける―
327:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:23:28
あとがき
投下完了です。
長々とすみません。
そして、アクセス規制されましたので途中から代理をお願いしました。
長い剣撃話でしたが、楽しんでもらえたでしょうか?
代理任務終了!
328:NPCさん
08/10/19 22:25:05
泥の方、代理の方、乙であります!
329:NPCさん
08/10/19 22:38:45
ありゃ。ってぇことは、明日の向こう投下はにゃいのか。残念。
規制、大変ですよねー。超わかる。
ここは規制キツいのに、大作お疲れ様です。
もー安藤さんが渋い柊が若いww
ヤバ――熱と風と刃と音で浮かされて死にそうだった。
走っても走っても届かぬ高み。登っても登っても先の見えぬ道。極みとは届かぬものとはいえど、されど人は極を目指す。
また、次回作楽しみにしておりますにゃ。
330:204
08/10/19 22:46:08
>>225 こと ゆにばの方
なれぬ接客をして女性客に受けているケイト。
それを見て嫉妬心を燃やす結希が可愛いらしくて良いですね。(脳内幻想)
今後どのような“大嵐”が訪れるのか…。wktkしながらお待ちししておりますっ!w
>>251さま
おお…! お待ちしておりました!!
すばらしく丁寧な描写で、昨今ではめずらしい(笑)神秘的な風情のアンゼロット様ですねっ♪
これは希少価値が高いかと…w
自らの在り方に疑念を持つアンゼを、あまり意識せずに諭す柊。
ところどころに「らしい」やりとりがあって、真面目な話しなのに読みながら吹いてしまいましたよw
>次に彼が目を覚ました時、このお説教の借りを返すためにどんな悪戯をしようかと企みながら。
うわぁ…w なんかもう夢(妄想)が広がる文ですね…。うひひw
大変すばらしい作品をありがとうございました。
次回作も期待しています。
>>327
泥の方、代理の方、乙でしたっ!
安藤 来栖 vs 柊 蓮司、なんて燃える対戦カード…っ!
アニメ版で約束していた手合わせってことですが、これは若手ウィザードならずとも観戦したい一戦でしょうね。
二人の魔剣使いの戦いに相応しい、緻密かつ濃密な描写でした。いやぁ、燃えるっ!
>それを見据える銀髪の少女は心をときめかせながらも、揺らがぬ表情を装い
うん、流石わアンゼロット様。面の皮が厚くていらっしゃる…w
何はともあれ、お疲れ様でした。次回作も楽しみにしております。
331:ゆにば
08/10/20 00:34:33
>>251さま
ここのところ、美しくて可憐でもう最高なアンゼ様ラッシュで嬉しい~。
もしものときは自分を斬ってくれ、なんて物凄いラヴじゃないですか!(嬉)
自分は蓮司×くれは派なんですけど、「ひーらぎ×アンゼ、ありだな………」とか、
思い始めていたりして(笑)。
お疲れ様っした!
>>327さま
ホウ………もう、溜息しか出ませんよ………
ここでもあちらでも、もう何作も拝見してますけど、相変わらず戦闘描写が秀逸。
それに、この投下スピードでまったく作品のクオリティが下がらないなんて、ありえないですよ(笑)。
ほんと、かなわないなぁ………なんか、引導渡された気分です(笑)。
(私と比べるのもおこがましいんですけど)
ともあれ、お疲れ様っした!
>>330さま
だ、だいじょうぶですかね、アレで………(汗)。
なんかもう別の作品になっちゃいそうでだけど愉しいんでやっちゃいます自分、的な
書きかたしちゃってますけど………ま、まあ、喜んでいただけたなら私はそれで………
332:NPCさん
08/10/20 02:15:10
ハートフルのファムとヴァリアス、サガのピアニィとアルという組み合わせが好みだぜ…
333:mituya
08/10/20 05:51:49
はわっ!? な、なんですか!一晩見なかっただけでこのレスの伸びっ!?
こうしてはいれません! 感想を書かねばっ!
>>225こと ゆにばの方
春日の聞いた噂の内容から、はにゃ→はんにゃ化の展開あり??とドキワクしてましたが、来ましたね!(笑)
来たよ兄弟漫才っ! いいなぁいいなぁっ! キャラをきちんと書き表せて生かせてて、素敵ですっ!続き、楽しみにしてますよ~!
ちなみに自分も柊×くれは派ですが、リクでアンゼ→柊書いて、251さんの素敵作品読んだら、柊×アンゼあり?と思ってしまった(笑)
>>251さん
うぅっ、こんなの後から出すなんて酷いッ………いや読めてものっそ嬉しいんですが、自分の作品の粗が目立って泣きたくなるっ………!(泣)
やばいな、カップリング宗旨替えしてしまいそう………(汗) アンゼ素敵過ぎ~! ゆにばさんも言ってましたが私を斬ってってラヴですよっ!vv
>泥の方&>>327さん
超大作投下、ご苦労様でした! もうGJの一言ですよ!
すごい迫力にもう鳥肌でした………安藤さんの渋さと、挑む柊の若い勢いがもうっ………もうっ!
読んでいて自分の周りの空気が震えるような臨場感溢れる描写はもう感服の一言です………
でも、安藤さんを、ザーフィを追いかける柊を見習って、同じ形ではなくとも、自分の形でその高みまでいけるよう、追いかけさせてもらいますっ!
うぅ………精進のためにも自身の柊×くれは分を補充するためにも新しく書きたいけど………時間が………(汗)
次の土曜、投下できるかなぁ………(汗)
334:NPCさん
08/10/20 09:10:14
神罰刀使いこなす為には侍の特殊能力もあったほうがいいし、安藤の攻撃力って洒落になってないよね、きっと!
335:雫の中身
08/10/20 19:39:02
レス返しに参りましたー。
>泥の方
あはは。甘いと言われてるのに……うちの柊はこれでもたぶんloveの意識はねぇという。
あれですね。柊に「属性:おにいちゃん」を与えたのは誰ですか。王子か。そうか。
天然たらしですね。一番性質悪い。
あなた様にほめられるとは思っていませんでした。ありがたいお言葉、ありがとうございます。執筆応援しています。
>>330様
あなた様のために書いたのですから、どうぞうちの話(こ)をおおさめくださいませ。ほんのお礼の気持ちでございます。
らむねとで1スレ目が終了する直前、保管庫ほしいけどまったく知識がなくて断念したのが夢のようです。ご満足頂ければ光栄です。
今回のコンセプトは『弱気なアンゼロット』。
いつも図太くイケイケノリの女王様。時に非情な判断を下す、世界を見守るもの。
そんな彼女も、きっと大事なものを自ら切り捨てることをすれば、心が揺らぐし普段は秘めてる願望も口にしたくなるというものです。
ヤンデレっぽいけど、アンゼロットが柊に自分を斬ってくれ、と言ったのには柊が神殺しなのともう一つ。
――きっとあいつが自分のことを忘れないだろう、と思っているから。
まぁ、柊にとっちゃんなこと関係ないわけで(酷)、俺の知ってる『アンゼロット』は、前提条件からしてこの世界が大好きな奴だぞ、という返し。
……酷ぇ男だなっ!?(書いたのはお前だという)けどまぁ、その在り方を確かにアンゼロットも好きだったために、その程度で許した、という話。
悪戯はご想像に、お任せです。
336:雫の中身
08/10/20 19:39:31
>ゆにばの方
おぉぉあの伝説の超長編の作者様がここにまで進出……っ!まじでか。夢じゃねぇのか。
みんなが色々なところで頑張ってた間、めげずに保守代わりに書き続けた甲斐もあったというもの。書き手氏増えないと寂しいですからね。
美しくて可憐……えぇと、そうですね。おかしいなぁ、赤みこあたりではちゃんと美しくて可憐なアンゼロットなのに。あれか。天と魔のせいか。そうか。
そのラヴをスルーするのがうちの柊です。
そういやぁゆにばの方は蓮×くれの人だもんなぁ。え?自分ですか?(聞いてねぇ) ……ラヴな柊が想像できない子です。
いつも一方通行だもんなぁ。いい加減フラグ折るのやめろよ、ってヒロイン達から突っ込まれそうな柊を今日も目指します。
……なんか今日は書き手の方々に誉められる日だなぁ……(アルを警戒するピアニィ並みの警戒)
>>332
ネタプリーズ。アリアンもダブクロも何か書きたい。
脳内だけならミナリが鳴島市に来て、柳也さんが支部長になって直後のぎくしゃくした話とかあるけど、かなりハードボイルドなんで書ききれないと思うので断念してるのだ。
>みっちゃんさん(定着)
ここは土日の盛り上がりすげーからなぁ。夢物語落としたあたりじゃ想像もつきませんでした。おかしいなぁ、あれからまだ半年ちょいしか経ってないのに……。
個人的にはトワイライトのドクトルの話がさくっと見られるようになったのがすげー嬉しい。
そんなことないですよー!おいらは教養ないんで夏目漱石のネタはわかんなくて……あそこにいたら柊と一緒に落下決定してた人間ですよ(哀)。
では、宗旨替えしてしまいそうなあなたにいい言葉を送りましょう。
つ「柊蓮司はみんなのものだ。みんなで仲良く使いましょう」
また、こんなお題ものやったら楽しそうですねー。他の書き手さんがどんな想像出してくるのか、すごく楽しみです。
……っていうか、また誉められた。あれだろ。実はドッキリだろっ!?(つかちゃん並の挙動不審)
ではまた次回作で。
……なんか、書く量むくむくと増えそうな悪寒を感じつつ執筆中ですー。
337:mituya
08/10/20 19:59:28
雫の方、お返事ありがとうございます~vv
勢いすごいですよね、前レス埋まりきる前に更に次スレ立ったりしないですよね?(汗)
自分もドクトルの話は読み返したかったので嬉しいですよvv ………ダンディ含めて(笑)
自分、決して教養あるとはいえない人間ですよ~(汗) 「蒼い月」の話は何かの小説の中で使われていたのを読んだだけ(ぉ)
だから、誰の訳かもちゃんと覚えてなかった………(汗)
そうですね! 柊は皆のものですね! まあ、自分もカップリングは柊くれ派というより、
くれはが好きなんで、くれはに報われて欲しいなぁ、っていうのが濃いんですが(汗)
そんなくれは好きーがくれはの話を書こうと画策中。
“宝玉少女後設定柊くれはほのラブ(仮)”と、“幼少期から星継ぐまでのくれは視点柊語り(仮)”………
………どっち先に読みたいですか? (アンケートかい)
338:NPCさん
08/10/20 20:20:07
>>337
汝の成したいように成すがいい!
【訳:お好きな方からどうぞ。俺的には短い方からで。】
339:ゆにば改め「ゆず楽」
08/10/20 21:25:48
>雫の中身のお方
で、伝説………? そ、そんなだいそれた称号を頂けるとは………
ハッ………! あ、あれですね !
「SSじゃねえじゃん ! 長いじゃん !」とたくさんのツッコミを入れられて(都市)伝説になったということならば納得 !
それにしても、「はっはっは。私の蓮司×くれは好きが、そんなに言われるほど際立っているはずはあるまいよ」、と
確認してみたんですが。
別板でのNWもののカップリング率、蓮×くれ圧勝でした。八本中四本、くれはヒロインでした。どんだけこのカップリング
好きなのか、自分。でもそんな自分に乾杯。
>mituyaさん
り、両方 ! 両方 !(興奮して叫ぶ私)
うーん、捨てがたい。どっちも捨てがたいんですよ、その二者択一。アニメのちびくれはめっさ可愛かったから幼少期も
読みたい。でも、成長してから仲間として過してきた二人の熟年夫婦っぷりも好きなんだなあ。
でも、みっちゃんさんのリビドーのおもむくままに書いていただければ !
340:ゆにば改め「ゆず楽」
08/10/20 21:26:32
んで。
●●の方、という呼び名もあれかなー、と思ったんで(DX終わったらまた別の名前、っていうのもなんですし)、
今回含め次回からお面を被って登場することに。以降は、「ゆず楽」とお呼び頂けたら。
昔、使っていたキャラの名前をもじっただけなんですけどね。
それと。
蓮司×くれ派の同志たちには大変申し訳ない !
別板での長期にわたる付き合いが影響したせいか、私の中のヒロイン株が急上昇した娘さんがいるんですよ。
ええ。構想固まりかけてます。執筆も少しずつ始めちゃってます。
DX終わってないのになにやってるのか、私。でも、タイトル含めて決まっちゃったんですもの。
そしたら、やるしかないですよね? ね ?
一応、「柊蓮司攻略作戦・エリスの場合」ってな感じでいこうと。エリスのヒロイン力が柊のスルースキルにどこまで
食い込めるか。乞うご期待、とか言ってみたり。裏切り者、浮気者、と罵ってください(笑)。
改名報告&予告でした~。
ではでは。
341:NPCさん
08/10/20 23:12:46
>>327
泥の方乙でした
てことは魔剣さん一時帰宅中か!
342:mituya
08/10/21 05:28:44
朝も早からレス返しに参りました~(笑)
>>338さん
短いほうからですか~………多分、ほのラブかなぁ?
つか、柊語りは十年近いくれはの胸のうちを語るから、否応なく長くなるというか………(汗)
>>339こと ゆにばの方改め、ゆず楽さん
そこまで反応してもらえると嬉しいなぁ………でも、浮気するんですね~………(<アンゼに浮気しそうだったの誰だ)
いや、エリス大好きなんで寧ろカモーン!なんですが(笑) アニメ設定なのか、小説設定なのか………この感じだとアニメかな?
………よし、ゆず楽さんにも柊くれ派な話を書いてもらえるよう、頑張っていいものを書くのだ自分!
まずは………“宝玉少女後設定柊くれはほのラブ(仮)”から!(<いい加減、正式タイトル考えろ)
343:ゆず楽
08/10/21 23:06:43
どうもです。
さっそく浮気をしに参りました(笑)。以下、投下させていただきマース。
344:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:08:11
仲間以上恋人未満。
そんな言葉が、ふと浮かぶ。
恋人、という単語が思わず自然に出てきてしまったことに驚いて、かつ大いに慌てて赤面して。
志宝エリスは、ぶんぶんと首を振る。
恋人未満 ―― 未満っていうことは恋人に等しい………ってことだから。
うーん、訂正。
(仲間以上、恋人候補 ―― だったら、いいな………)
なんて、そんなことを思ってみたりして。
頼りになる先輩。自分を大事にしてくれる男の人。こうと決めたら一直線の真っ直ぐな人で、でもちょっと鈍感。
それで。だけど。だから。私は。
憧れ。信頼。そして ―― 大好き。
私、志宝エリスは柊先輩のことが、大好き、です。
ずっと日課にしている日記書き。開いた頁の空白部分に、ただ「大好き」とだけ走り書き。
そこには柊先輩の名前も、自分の名前も書きません ―― まだ、いまは。
だけど、いつか書けたらいいな。
柊先輩のこと、もっともっと、私の日記に書ける日がくるといいな。
毎日。毎日。日記の中身が柊先輩のことで書きつくせるくらい、一緒の時間を過せたらいいな、なんて。
私、志宝エリスはそんなことを考えています。
345:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:09:19
両手の拳を握り締め、天井をぐっと見つめ。
「うんっ。頑張るっ」
なにを頑張るのかは、まだ全然わからないけど。
就寝前の自室でひとしきり、顔を赤くしてみたり微笑んでみたりしながら。
眠る前だというのに、たくさんたくさん夢を見てしまう乙女になって。
私は、とくんとくんと高鳴る胸の鼓動を心地良く感じながら、今夜も眠りにつくのでした。
「お休みなさい。柊先輩。また、明日、会えるといいな………」
※
先の大戦の決着。そしてなによりも待ち望んだ「卒業」という大イベントを立て続けにクリアした後。
柊蓮司は悠々自適のプライベートライフを満喫していた。
下がるとか不幸とか言われ続けてきたけれど、その屈辱の日々だって、この成功の味を味わうためだったのだと思えば
報われる想いである。幼馴染みに脅迫されたり、世界の守護者にこき使われたり、とにかく苦汁を舐め続けてきた柊が、
いまはなんと平穏な日々を送り続けているのだろう。卒業式直後、あの性悪若作り守護者に拉致されて、どこのどいつと
も知れないザコ魔王と戦わされたりしたけれど、それ以降は不思議とエミュレイターがらみの任務に駆り出されることはほ
とんどないに等しかった。
だから、いまならば、笑って言える。
くれはよ、俺の秘密なんていくらでもばらしてみろ !
アンゼロットよ、マジックハンドでもヘリコプターでも構わないから、俺を理不尽に拉致してみるがいい !
346:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:10:07
「………いや、さすがにそれはねーだろ………」
あまりの幸福感に気持ちが大きくなりすぎている。それに気づいて、自嘲と自戒のツッコミを自分自身にしてみせる柊で
あった。いくらなんでも、それはない。くれはに秘密をばらされた挙句、アンゼロットに無償でこき使われる。考えただけで
全身が粟立つ思いではないか。くわばら、くわばら。余計なことは考えないほうがいい。
マンションの居間で、せんべい布団を枕に寝転がりながら、柊は思う。
「平和が一番、ってことだよなー………」
世界の危機に幾度となく立会い、それを救ってきた彼だからこその感慨。
まだ記憶に新しい宝玉戦争など、それこそ世界の危機ドーム一杯分の、未曾有の大事件だったのだ。
だから少しぐらいだらけてもばちは当たるまい。いずれ、自分の平穏は打ち破られるときがくるだろう。神社の娘にはわ
はわ笑われて、赤髪の強化人間に無礼なことを言われて、世界の守護者に選択肢のない選択を迫られた挙句に、この
世界が好きなんだか壊したいんだかわからないポンコツ魔王に頭が悪い、と罵られる日々が戻ってくるのだろう。
………なんだか、悲しくないか、それ……… ?
いやいや、つまらないことを考えるな柊蓮司。
いまはただ、この天からの恵みである平穏な日々を、満喫すればいい。
そうさ、いずれ訪れる不遇の日々に耐えるための、戦士の休息なんだから ――
自分自身を納得させる。
テレビのリモコンをちゃぶ台の上から取り上げて、電源を入れた。
ブラウン管の中の、下らないお昼のバラエティがこんなに愉しいものだったなんて、いままで知る由もなかった柊である。
画面の向こう側でコメディアンが忙しなく動き回り、乾いた笑いが客席から上がるのを、柊は見るとでもなくぼんやりと眺
めていた。
347:NPCさん
08/10/21 23:13:52
SIEN
348:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:14:55
これぞ、平和。これぞ、平穏。
満足げに目を細めた柊蓮司の ―― 彼が言うところの「平穏」は。
――― わずか三秒後に破られた。
※
どか、どか、どか。
床を踏み鳴らす音が近づいてきたのが三秒前。
がちゃ、ぎい、ばたん。
居間の扉が、ぶち壊さんばかりの勢いで開かれたのが二秒前。
ぶわ、ひゅーん、どずっ !
という、音がしたのが一秒前のこと。
なんの音だかわからないと思うので解説するが。
ぶわ、というのは扉を開いて居間に突入してきた闖入者が、入室時の勢いそのままに助走をつけて宙に飛んだ音。
ひゅーん、というのは、宙に浮かんだその人影が、見事な放物線を描いて寝そべる柊めがけて飛来した音。
どずっ ! というのは言うまでもなく、柊に向けて飛んできたその人影が、角度をつけて折り曲げた肘を、容赦なく柊の
無防備な鳩尾にたたきつけた音である。
349:NPCさん
08/10/21 23:18:50
あまーい支援
350:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:19:59
「ぐぼえぇぇぇっ !」
断末魔の濁った悲鳴を上げながら、柊は芋虫のようにころころと床を転げまわった。
ウィザードである自分は月衣に護られ、科学や常識で作られた武器や攻撃を一切無効化するはずなのに。
痛い。苦しい。内臓がよじれる。
このダメージは ――
「で、でめェェェっ………なにずんだ、ばがあねぎィィィっ………」
柊蓮司に極大のダメージを与えた張本人。
咥え煙草からたゆたう紫煙が、ふわりとたなびいて。柊にフライングエルボーをかましたままの姿勢で横臥する姿は、ど
ことなく侵しがたい威厳を持っている。切れ長の瞳。長い髪。鋭い印象の美女。
だらしなく男物のシャツとジーンズを着こなした姿も、これだけの美人ならば “さま” になる。
柊京子 ―― 蓮司の実姉であり、彼が頭の上がらない「数多い」女性のうちのひとりである。
「こぉら。姉に向かって馬鹿ってのはどういう了見よ」
のそり、と身を起こしながらのたまう京子。長い指で煙草をつまみ、形のよい唇をすぼめながらメンソールの香る煙を吐
き出した。言動はやたらと男っぽい割りに、はだけたシャツからこぼれ落ちそうなほどのバストが妖艶である。
相手が実弟とはいえ無防備に過ぎるその仕草は、並みの男なら理性のたがを瞬時に破壊しかねない。
すらりと長身。脚もモデルのように長い。いま穿いているジーンズも、実は柊から強引に奪い取ったビンテージ物のお高
いものなのだが、京子は裾を折り返してすらもいない。
351:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:20:48
「い、いぎなりえるぼーがまじやがっで、ばがじゃなぎゃなんだっでんだ………」
「なに言ってんだかわかんないってのよ。はっきり喋りなさいよね」
呼吸困難に陥りながらもようやくの思いで言葉を搾り出した柊に、傍若無人そのものの物言いをする京子。
あぐらをかき、柊が回復するのを待ちもせず、「蓮司、灰皿」と煙草を持った指を突き出した。
腹をさすりながら、四つんばいになった柊が憮然とした顔で飲みかけのコーヒー缶を差し出す。ここまでの酷い目に遭わ
されても姉の要求に答えてやるのは、単に頭が上がらないだけというより、柊自身の持つ無駄に素直な性格に因るとこ
ろが大きい。コーヒー缶の飲み口に煙草の灰を落とし、ひとごこちつくと、
「ねえ、蓮司。あんたにすごく大事な話があるんだけど」
と、京子が唐突にそう切り出した。ただ話をするというだけでなぜエルボーを叩き込まれたのかはわからないが、どうに
も京子の眼差しは真剣である。なんとなく気圧されて、柊は躊躇いがちに居住まいを正した。あぐらをかきながら向かい
合う、姉弟二人。なんというか、雰囲気が只事じゃない ―― 柊はそう直感する。
十八年を共に過した姉である。様子が普段と違うことぐらいすぐにわかった。京子にしては珍しく、なんと口ごもっている
のである。言いにくいことをどう切り出そうか、と迷っているようでもあり。正面きって弟と真面目な話をしようとしている自分
に照れているようでもあり。 また、 “らしくない” 自分自身の姿に煩悶しているようでもあり。
だから、つい。
京子につられて柊も黙り込んでしまう。
むず痒いような、重たい沈黙が数秒、柊家の居間に沈殿した。
いったいなんだよ、と柊が言いかけたところで、京子のほうが思い切ったように口火をきる。
「蓮司。いまさらだけど、卒業おめでとうね」
意外と言えば意外すぎる京子の言葉に、完全に先制を喰らった形になる。肩透かしをくったというか、意表を突かれて
たたらを踏んだ、というべきか。なにを言われるのかと待ち構えていたところへ、拍子抜けの益体もない言葉をぶつけら
れて、柊にしてみれば全身に込めた力やら気合やらが空回りした状態になってしまったといえる。
352:NPCさん
08/10/21 23:21:03
支援ドゾー
353:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:21:35
「お、おー………さ、さんきゅー………」
ずいぶんとまた腑抜けた返答をしたものだ。
しかし。もしもこの会話を剣士同士の戦いになぞらえたとしたら、この瞬間に柊の敗北は決定していたといえよう。
充填させた気勢を削ぐ。腹腔に溜めた力を無駄に使わせる。合わせた拍子を外し、崩れた態勢に刃を打つ。
剣士としての、戦士としての戦術の一つでもあるのだが、これはもちろん日常生活においても例外なく役立つ交渉術の
ひとつ。相手が自分の言葉に強い構えを取っているときは、なかなか隙をついて狼狽させることは難しい。
だから、「なんだ、なにを言われるかと思ったぜ」と油断した柊が、続く京子の台詞に “一本を取られた” のは当然のこ
とであった。
「卒業したならあんたも一人前の男であり、大人なんだから、いい加減ふらふらしてないで身を固めたらどうなのよ」
びしり、と京子がなにかとんでもないことを言う。
言葉の意味が分からずに硬直する柊。ふらふら ? 身を固める ? なにを言っているんだ、姉貴は ?
「私としては、まああんたも一応柊家の長男なわけだし、ウチのことを考えればここに残って相手を迎える立場でいてもら
いたい気持ちもあるけれど、向こうは向こうで由緒のある家柄だろうから、婿養子に来て欲しいっていうならそれもありか
な、とは思うんだけど」
「ちょ、ちょっと待てっ ! おい、姉貴、なんだか話が見えねーぞ !? 残るとか婿養子とかって、いったいなんの話してんだ
よっ !?」
身を乗り出して叫ぶ柊。京子の台詞を聞いても、自分になにが要求されているのかがちっともわからない。
目の前にいる姉が実は姉の名を語る別人か、それとも姉が自分のことをほかの誰かと間違えて話を進めているのでは
ないかと、本気でそう思いかけていた。これこそ、姉が自分に対して常々抱いている思いというやつに、柊がここまで鈍感
であったということの証明でもある。
354:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:22:29
「なんでわからないのよ。くれはちゃんとのことに決まってるじゃない」
「くれは ?」
これぞ、柊蓮司の真骨頂。
幼馴染みの名前を鸚鵡返しに聞き返したかと思ったら、そのまま訝しげな表情のままで固まってしまったのである。
きょとん。ぽかん。いや、もっと言うなら、ぼけらーっ、というより他のない間の抜けた顔をして。
京子の言葉を完全に理解していないのがありありと見て取れる思案顔であった。
婿養子。くれは。身を固める。
この三つのお題から、気の利いた話のひとつもひねり出せずにいるところが、柊蓮司の恐ろしさである。
ああ、柊蓮司よ。いままで君はこのようにして、実るはずだった絆や恋を、容赦なくへし折ってきたのであろう。
いままで君はこのようにして、君の与り知らぬところで少女たちに涙を流させてきたのだろう。
罪深きもの、柊蓮司。ああ、女の敵、柊蓮司。
「蓮司、あんた………幼馴染みで、あんなに良くしてもらって、あんたみたいなトウヘンボクには勿体ない、いい娘だって
いうのに、くれはちゃんのなにが不満なの………」
こめかみの辺りをひくつかせながら、京子が弟の顔を異星人でもみるかのような顔で凝視する。
信じられない。理解できない。赤羽くれはという絶好の相手を逃したら、この弟は一生ものの大損をする。
それなのに、こいつはわかっていない。いかに自分が幸せものなのか、なにもわかっていないのだ。
逃した魚の大きさは、後で嘆いても遅いのだというのに。このおバカは、魚の大きさがわからないどころか、魚を釣ろう
とすらしていないように思えて仕方がないのである。
「だから、くれはがどうかしたのかよ ? 俺が平日の昼間からふらふらしてるのは褒められたことじゃねえかもしれねえけ
ど、そのことはアイツに関係ねえだろ ?」
そう、不満げにぼやく柊である。
355:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/21 23:23:12
これこそが、柊蓮司の得意技 !
空気を読まず、話の流れを読まず。相手の発言を文節ごとにぶった切り、自分に都合の悪い言葉はどこかに置き去りに
した上で、甘ったるい桃色要素をきっぱり排除して会話を再構築するスキル。鈍感にして朴念仁たるこの男が、潰しに潰し
てきた数々のフラグは、このようにして葬り去られてきたのである。
「蓮司、あんたねぇ………」
京子が天を仰いで嘆息する。
「これだけは言いたくなかったけど………あんた、ご近所の評判最悪なのよ ?」
「なんでだよっ !? 俺、近所になにも迷惑かけてねえぞっ !?」
姉貴の見当違い(と柊だけは思っている)に引き続いて、ご近所の皆さんまでもが俺の敵か !?
確かに、どこの誰ともわからない通行人に面が割れてたりするほど有名な柊ではあるが、世間様に後ろ指差されるよう
なことは断じてしていない、と彼自身は頑なにそう信じている。
「―― 柊さん家の蓮司くんは、女癖、最悪だって」
じとーっ、という視線を冷たく向けて言う、姉・京子。
絶句して口をぱくぱくさせている柊に、滔々と語って聞かせるように京子が言う。
柊蓮司・女垂らし説。
ここへいたってようやく、柊は自分が世間にどういう眼で見られているかを知ったといってよい。
「あっちこっちで、女の子連れて歩いてる姿を見られてるのよ、あんた。それも毎回、違う女の子。ふらふらするな、って私
が言ってるのはそういうこと。たくさんの人から、私の耳に入ってきてるんだからね、そういう噂」
巫女服姿の女の子と歩いてた(たぶんこれはくれはだ)、長い赤髪のすらりとした美人と立ち話をしていた(灯のことであろ
う)、エトセトラエトセトラ。京子がいちいちあげつらう言いがかりじみた目撃談に、柊も黙っていられなくなる。
356:NPCさん
08/10/21 23:23:59
シエン
357:NPCさん
08/10/21 23:27:16
支援ですよ
358:NPCさん
08/10/21 23:28:14
支援しやす。
359:NPCさん
08/10/21 23:35:58
これは…復旧待ちでしょうか?
…にしても、柊さんヒドイ…w
360:ゆず楽
08/10/21 23:39:13
迂闊………!
さるさん食らった………(涙)
解除待って残り投下します。スイマセン………
361:NPCさん
08/10/21 23:42:04
間に5~6レス入ると復旧することもあるぜぃ、と経験者は語る支援
362:NPCさん
08/10/21 23:53:05
ならば支援をしてみようか。
363:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/22 00:06:38
「ちょっと待てよっ ! 別にくれはと一緒に歩いてるのなんていつものことだろうがっ !? それに灯のヤツはちゃんと好きな
男がいるんだし………」
めこっ。
反論の途中で、柊の頬桁に痛烈な左フックが炸裂した。
「くれはちゃんとイチャイチャするだけじゃ物足りず、彼氏持ちの女の子にまで手を出したってことーっ !?」
「ひ、人の話を聞けーーーーっ !?」
柊家の居間に ―― 姉弟それぞれの絶叫が高らかに響き渡った。
※
いつもだったら真っ直ぐ帰る下校の時間。土曜日で半日の授業もつつがなく終わり。
学校を出た後、いまご厄介になっている赤羽のおばさまに電話を入れて、今日は夕御飯結構です、と連絡しておいたの
は、今日の炊事当番が私じゃない日、だからなんです。さすがに、当番をサボってまでこんなことできませんから、こういう
今日みたいな日を選んでの、寄り道なんです。
輝明学園から、いつもなら赤羽神社へと帰宅する私なんですが(……… “あの” 戦いの後、秋葉原のマンションは引き
払って、くれはさんのお宅にお邪魔しています)、今日はどうしても寄り道がしたくなっちゃって。
「柊先輩………今日、いるかなぁ………」
授業中にぼんやりと、そんなことをついつい思いついてしまって。
思いついたら、昨夜寝る前に日記を前にして考えていたことが思い出されてしまって。
いるかな。会いに行こうかな。会えるといいな。会いたいな ―― って。
364:NPCさん
08/10/22 00:07:55
支援っ
365:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/22 00:09:14
考えたら、止まらなくなっちゃったんです、私。
あとの授業なんて、もう身に入らなくなっちゃいました。その日の授業がすべて終わって、ホームルームも終わって。
―― 気がついたら、もう電話を手にしていました。
「おばさま、エリスです。すいません、今日はちょっと寄りたいところがあって。御飯、食べてきちゃいますからお二人で召
し上がってくださいませんか」
おばさまにお詫びをして、電話を切って。早足で校門をくぐると、はたとあることに気がついて、私は足を止めます。
「あ・・・ご、ごめんなさい、今日は部活お休みですっ」
部室棟の天文部室がある方向を向いて、ぺこり、と頭を下げて。部長の私しかいない部活動なんですけど、でも、やっぱ
りサボっちゃうことにはちょっぴり罪悪感があって。
だけど、やっぱり。
先輩、会いたいです ――
こんな、不意に湧き上がってきた衝動を、どうしても抑えることのできない、私なのでした………。
※
先輩のマンション。先輩のお家。
くれはさんの家にお世話になっているとき、先輩が訪ねてくれたことは何度もありますけど、こうやって私のほうからお
邪魔させてもらうのは初めてのこと。なんていうか………すごく緊張しちゃいます。
366:NPCさん
08/10/22 00:10:30
し~え~ん~
367:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/22 00:11:04
だって………男の人のお家なんですよ ? なんだかとてもワクワクしちゃって、なんだかとてもドキドキしちゃって、それ
でいてちょっぴり………いけないことしちゃってるみたいな、そんな気持ち。
思いつきと勢いで、先輩のマンションの扉の前に立ってしまって。
いまさらですけど………胸が破裂しちゃいそうなくらい、鼓動が早まっています。
チャイムを鳴らそうと指を伸ばすと ――
ずどーん、ばだばたばた、どかーん、ばきっ、ごきっ。
………って。
物凄い音がマンションの中から聞こえてきて、私は思わず身を引いてしまいました。
二、三歩、後ずさりした私の目の前で、不意に勢いよくドアが開け放たれたかと思うと ――
「どわああああっっ !! 馬鹿、姉貴落ち着けっ、待てって言って………うおぉぉぉっ !? あ、あぶねえぇぇぇっ !?」
なんだかとても切羽詰ったご様子で………私が眼を丸くしちゃうくらいの勢いで、柊先輩が家の中から駆け出してきた
んです。飛び出してきた先輩と、目が合います。
「エ、エリスっ !? お、おい避けろっ、避けてく………うおおおおおっ !?」
「え、先輩っ………きゃっ !?」
鈍い音と、鈍い痛みが同時に起きて。一瞬、火花が瞼にちらついて。
自分が先輩の部屋の前で、派手に転んじゃったんだ ―― と私が認識したのは、それから数秒後のこと。
情けない姿で転んでしまって恥ずかしがる暇もなく、私がもっと恥ずかしい思いをすることになったのは。
それからさらに数秒後のこと ―― 。
368:NPCさん
08/10/22 00:11:26
支援でも、撃ちますかっと。
369:NPCさん
08/10/22 00:12:12
私怨
370:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/22 00:13:36
「こら蓮司ーっ ! この外道、ロクデナシ………って、あらら ?」
柊先輩のタックルを避けきれずに、仰向けにひっくり返ってしまった私。
その上に覆い被さるように倒れこんできた柊先輩。
床に重なって倒れた私たちを見て、右手にすりこぎ棒をもった女の人(すっごく、綺麗な人 !)が、
「ちょっと、大丈夫 !?」
私のことを心配してくれたんでしょうか、覗き込むようにして私に声をかけてくれました。
「は、はい、だいじょう………っつぅ………」
ずきん、と鈍い痛みが背中を走り抜けます。倒れたとき、ぶつけたんでしょうか。思わず顔をしかめてしまいます。
「蓮司っ ! いつまで倒れてるのよっ ! いつまでも女の子下敷きにしてないで、さっさと起きな !」
「あ、あのなーっ !?」
勢いよく顔を上げて後ろを振り返り、身体を起こす柊先輩。
そのとき ―― まさに、そのとき………。
転んだときより恥ずかしい、私がする羽目になってしまった恥ずかしいこと………が、起きてしまったんです………。
私の上に覆い被さっていた柊先輩 ――
どいてくれたんです ! そこには、なにも他意なんてなかったはずなんです !
きっと、余所見をしていて気づかなかっただけで、ただ、起き上がってくれただけのはずなんです !
でも ―― 。
むにゅう。
手が。柊先輩の手が ―― その………あの………私の………む………ねに………
371:NPCさん
08/10/22 00:14:09
早く続きが読みたい支援
372:柊蓮司攻略作戦・エリスの場合
08/10/22 00:14:26
「うぉわっ !? わ、わりぃ、エリスっ !? そういうつもりじゃ……… !」
「蓮司ーーーーーーーっ、あんたってヤツはーーーーーーーーっ !?」
「き……………」
思わず。
「きゃあああああーーーーーーっ !?」
ぱしいぃぃぃぃんっ !!
柊先輩の右頬で、私の左手が高らかに鳴り響きました。
せっかく先輩に会いにきたのに。会えたっていうのに………。
柊先輩の、初めてのお宅訪問 ――
前途多難の、予感です………。
あうう………………。
(続く)
みなさま支援感謝ですー。
蓮司×エリス、一発目の投下でした。
次回にお会いするときまで、ではでは~。
373:NPCさん
08/10/22 00:16:06
エリヌかわいいよエリヌ
374:NPCさん
08/10/22 02:00:25
>>ゆず楽氏
投下乙&GJっした!
やっぱ王道的なヒロインと言えばエリスですよねっ!
こう、健気な感じの、いわゆる守ってやりたいタイプの。
そして遺憾なく発揮される柊連司の≪フラグスルー:恋愛≫スキルっ!
果たしてエリスはこれを突破できるのかっ!?
wktkして次回を待つっ!!
あと、卓ゲ板は設定的に最新投下12回中5回分が同一IPならさるさんらしいので、他板より支援は必要だと思われるのコトよ。
375:NPCさん
08/10/22 02:04:22
まあ、個人的にも本妻くれははガチでしょうけども。
くれはと柊の絡み(変な意味でなく)ってそんなに多くないように思えるので、実際くれはって柊のことをどう思ってるのかなぁ、という感じが個人的にはあるんですが。
小説版「宝玉少女」でどさまぎに告ってましたが。
誰かその辺の補完話を書いてくれぃ。
376:NPCさん
08/10/22 02:55:18
乙。
時に、柊京子×如月ジローという妄言はさすがに返品したいのです。
クロススレで柊京子×春日恭二なら、まだ行けるのですが。
377:mituya
08/10/22 05:40:02
にゃぁぁぁぁぁっ!///(注:歓声) ゆず楽さんの浮気者でもGJ~~~~~っ!
くそう、可愛いよエリスっ! ヒロイン属性だなもう! またカップリングを宗旨替えさせかねないような素敵ヒロインをっ!
っていうか、お姉さんいいなぁvv っていうか、普通、所帯持つとか言う話の前に定職に就けとかいう話は………?(言うな)
柊のフラグスルー能力の再現率が………(笑) 近所の奥さん方ー! この男はある意味たらしですが下心の欠片もありませんよー!
しかしこのままでは正妻(?)くれはの地位が! こうなったら今週末に必ずくれはの話を上げねば!(<寧ろお前の駄文で貶めるんじゃ)
378:NPCさん
08/10/22 23:54:34
スレ立てから約10日で267KBか…。
凄い勢いだな。
379:NPCさん
08/10/23 00:04:01
爆速だよなぁ……ちょっとでも長く続いてくれることを祈るぜ、俺は
380:NPCさん
08/10/23 03:17:43
柊蓮司×柊京子とかもありだと思うんですよ
幼い頃から側にいたのでフラグ耐性を持ちつつ、最古のフラグを保持し続ける姉
無論、恋愛的な意味ではない方向で
381:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/23 05:51:10
アクセス規制が解除されましたので、いまさらながらにお返事です。
沢山の支援に大感謝しています。
>>329さん
柊は若さを、安藤さんは年月の重みを重視して表現しました。
見果てぬ剣の道、彼らの剣の桃源郷、そこにたどり着き、いかなる剣を会得するのか。
それらを楽しんで書かせて頂きました。
まだまだ拙い描写でしたが、楽しんでいただけて幸いです。
そして、誰も安藤さんがさりげなく呟いている竜作爺ちゃん(かわった体質の龍使い)のことには気付いていないようでw
>>330さん
NWのアンソロジーを読んでから、安藤さんの妄想が止まりませんでしたw
確実に孤島前夜~を書いた設楽英一氏は剣術スキー。
過去に一回、現在に一回と魔王を単独でぶった切る安藤さん強いよ、強いよ!
いつかザーフィーとの再戦とかも書いてみたいのですが、空砦次第かな?(バトルマニアめ)
ガチな殺し合いの果てに、決着を付ける二人とか見てみたいです。
そして、アンゼロットさまの面の皮はどこまでも分厚いかと(ぬわー!
382:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/23 05:51:57
>>331ことゆず楽様
>>372の感想も交えて
エリスかわいいよ、エリス!
某所で自分も書いたけど、やっぱりゆず楽氏のエリスは一味も一味も違う!
あま~い! くそ、柊のくせに! いや、柊だからか!?
異世界で好意を抱く少女と数日同棲したけど何も無かっただけはあるぜ!
>>コメント
いやいやいや、そっちのほうが神でしょう!
あのエリス長編や進化し続ける戦闘描写などと比べられたらこっちが引導渡されて、首切り候ですよw
戦闘もろくに書けない馬鹿ですみません ORZ
もっとほのぼのが書きたいなぁ。
ちなみに質が落ちないのは元々大したことがないからっす! 勢い任せ、感情任せの支離滅裂文章ですので!
>>333ことみっちゃん氏
レス数を大量消費してすみません。
諸悪の根源はこの泥ゲボクです。
そちらのアンゼロット小説もときめかせていただきました。
う、くそ、アンゼロットは好みじゃないのにこの胸の動悸はなんだ!? 病気か!(恋の病です)
感想コメントありがとうございました。
渋いオッサンは大好物の泥ゲボクです。自分の領域までは結構簡単どころかあっさりと追い抜かれそうで怖いですw
>支援してくださった方々へ
大容量の投下でしたが、途中の規制にもめげることなく投下出来たのは皆さんのおかげです。
ありがとうございました!
383:NPCさん
08/10/23 13:29:22
>>380
あ、それ知り合いが今書いてるよ。投下に間に合わせなきゃって頑張ってた。あと確かみんなハン持ちになってるからそれもどうしようって悩んでた。
また同日投下するからってなんか泣きそうになりながら。
どっちかってと姉→柊のラブ無し話って聞いてるからちょっと違うかもしれんが。
>泥ゲボク氏
ヒャッハァ!謙虚なのは美徳だがあんまり過ぎると魅力半減だぜ?
好きなもんを好きなように書くのが物書きの性だ、それでできた精一杯を、作者がまず認めてやらずにどうするってんだ。
ま。ここの書き手連中は総じてそんな気質だがね。もうちょっと自分の子供(はなし)を誇れっての。
あんたの次を楽しみに待ってるぜぃ。
384:ゆず楽
08/10/23 23:04:46
>>374さま
王道ヒロイン・エリスの力が真に発揮されるよう頑張りますです(笑)。
>>377ことmituyaさま
宗旨替え ? はっはっは。オンナノコハミンナオヒメサマデスヨ……… ?
だからエリス×柊もばっちこいでオーケーです !
(とかいって、アンゼとのカップリングは書いたことありませんが)
>>382こと泥ゲボクさま
エリス好きって前に仰ってましたよねそういえば。
今回のエリスものは、どこまで甘く、どこまでベタに、どこまで王道で
書けるかを目指しています。ショートケーキにコンデンスミルクぶっかける勢いで
いきますよ ! それと、そこまで褒められるとなんかこそばゆい。
でも、純粋素直に嬉しいなあ。
で、以下投下でございますが。ちょっと短いゆにばの続編です。エリスと交互にいこうかな、と。
ではでは。
385:ゆにば
08/10/23 23:05:58
檜山ケイトが、喫茶ゆにばーさるに新人執事として勤務を開始してから七日目。
当初の見込みとはかなりズレの生じてしまった現在の状況に少なからず辟易しながらも、ケイトは日々を過ごしている。
元々は智世に諭されて、淋しい思いをさせてしまった結希と少しでも一緒の時間を増やすために始めたアルバイトであった。
自分の無頓着さゆえに、メールひとつも交わすことのなかった一ヶ月間。
それがどれだけ結希を落ち込ませ、淋しがらせてしまったか。せめてもの罪滅ぼしとして、結希が店長を務めるこの喫茶店で働
こうと決意したケイトに、「予定外」のトラブルが発生したのである。
正直に言えば、ケイトはここでのアルバイトを甘く見ていたのだった。
彼の思惑では、アルバイト中にちょっとした合間を見つけては結希とお喋りしたり、彼女の仕事を手伝ったり、また彼女が仕事を
手伝ってくれたりと、お互いの接し合う機会をたくさん作るつもりだったのである。そうやって、結希との時間を濃密なものにしてい
こう、もっと結希と触れ合おう、と ―― そう目論んでいたのだった。
しかし。
ケイトは甘かった。ゆにばーさるの人気や集客力を甘く見すぎていたのである。要するに、こんなに忙しいとは考えてもみなかっ
たという意味で、ケイトの考えは甘かったのだ。接客やメニュー運び、食器の上げ下げだけではなく、食材の運搬や買出しといっ
た裏方の仕事もこなさなければならず、それだけでもかなりの重労働なのである。それに、慣れない接客でひどく神経をすり減ら
すこともあって、仕事中に結希の姿を見失ってしまうこともしばしばであった。
ケイト自身の忙しさに加えて、結希の時間がなかなか取れないことが、二人だけの時間を取れないもうひとつの大きな要因でも
ある。
やはり、メイド喫茶の花形はなんといっても「メイドさん」だ。
ただでさえ店長という立場の結希は、なんだかんだいって他の従業員以上に仕事が多い。さらに、ゆにばーさるにおける結希
の人気は凄まじく、とにかく接客の対応に大忙しなのだ。彼女のどじっ娘ぶりが発揮されれば忙しさに拍車がかかり、自分で割っ
たカップや落とした食器の後始末などに追われて、ますます時間が取れないという悪循環。
386:ゆにば
08/10/23 23:07:07
さらに、よしんば結希に声をかけるチャンスに恵まれたとしても ―― メイド喫茶という空間で、執事である自分が花形メイドの
結希に親しげに声をかけることはお客様 ―― もとい、ご主人様方に好まれる行為ではないはずだった。
結希の立場もあるだろう。メイド喫茶としての建前もあるだろう。
だとすれば、自分が軽々しく結希に接することは慎まなければならない ――
つまり、ケイトは自重することを選択せざるを得なかったのである。かといって、自身の勤務が終わってからまだまだ忙しく働い
ている彼女の仕事終わりを待つというのも躊躇われた。自分が待っていることで結希を急かしても、それはそれで彼女に悪いこ
とのように思える。だから、ケイトはきちんとした機会の訪れを、ゆっくり待つことにしたのであった。
自分もまだこの仕事に慣れていないから、上手く時間を見繕うことも出来ないだろう。変に急いで仕事をしくじってもいいことは
ない。そのことで結希を煩わせるようなことがあれば、それこそ本末転倒といえる。
一ヶ月前に比べれば進歩じゃないか。そう、自分に言い聞かせる。
少なくとも、同じ店舗内で同僚として働いて、顔が見られる距離、声が聞ける距離にお互いがいるのである。
それならば、いまは気を急ぐまい。いまはそのときを待ち、自分に与えられた仕事を全うするだけである。
今日も忙しくなる。そんな予感があった。隣の司に、脇腹を肘で小突かれる。慌てて顔を上げれば、テーブルについたお嬢様方
がこちらに視線を配り、手を上げているではないか。
「は、はい、ただいま参ります、お嬢様方」
いまだに不慣れな執事言葉をかろうじて駆使しながら、ケイトは店内へと駆け出していく。
執事・檜山ケイトの多忙な一日は、まだ始まったばかりであった ―― 。
387:ゆにば
08/10/23 23:10:16
※
ケイトさんと一緒にお店に出るようになって、もう一週間かぁ………
喫茶ゆにばーさるのマスターメイド・薬王寺結希は、溜息混じりの呟きを漏らしていた。
午後一時を少し回った、ちょっぴり遅いお昼休み中。スタッフ専用の休憩室で、賄いのサンドイッチをはむはむとぱくつきながら、
結希はいかにもつまらなそうにひとりきりの昼食を摂っていた。脚の長いスチールの椅子に腰掛けながら、メイド服のスカートから
伸びる脚を子供のようにぷらぷらとさせているさまが、実に寂しそうである。
これじゃ、一週間前となにも変わらないですよぅ………
と。そんなことを考えている。霧谷の要請で、ケイトをゆにばーさるへ迎えることが決まった日の翌日、さっそく出会えたケイトと
面と向かって会話をしたのはほんの数分のことだった。でも、それでも構わない。だって明日からはケイトさんと一緒に働けるん
だから。明日からはたくさん、ケイトさんと一緒の時間を過せるんだから ―― と。
だけど。
現実は結希の思惑通りにはいかなかった。
仕事を頼むのにかこつけて声をかけようとしても、お客さんの呼び声ひとつ、挙手ひとつで、ケイトは風のように結希の前からい
なくなってしまう。一緒にお昼御飯を食べようと思っても、片付いていない仕事があれば昼食の時間をずらしてでもやり抜こうとし
てしまうという、ケイトの変な生真面目さが邪魔をする。おまけに、オーダーを取りに行くときや食事の上げ下げをするとき、ケイト
がなかなかお客様のところから帰ってこないのである。
388:ゆにば
08/10/23 23:13:07
たとえばそれは昨日のこと ――
「あれ、まーたケイトのやつ捕まってやがる」
そのとき、半ば面白がるように、半ば呆れながら司が発した言葉に、結希は耳をピクリと動かした。
店内の様子を素早く盗み見た結希の視界に、女子大生風の二人連れに呼び止められたケイトの姿が眼に入る。
会話の内容まで詳しく聞き取ることはさすがにできないが、メニューリストを指差しあいながら、なにごとかを一生懸命ケイトが
説明しているようであるということだけは見て取れた。おそらく、メニューの内容をあれこれ尋ねられ、詳しくはないまでも初心者
なりにケイトがひとつひとつ丁寧に受け答えをしているのであろう。そのケイトの姿だけ見れば実に微笑ましい光景であるという
ことができるのだが、結希が「むむっ !? (はんにゃ)」となってしまうのは、ケイトを同じように見つめるお客さんたちの視線が、妙に
生温かいせいなのであった。
根は真面目。だけど、俯き加減で少し翳があり、なんとなくかまってあげたくなる。どこにでもいる、ちょっと気になる近所の可愛
い男の子 ―― 檜山ケイトはそんな少年である。同世代の少女よりも、年上のお姉さんに受けが良さそうなキャラクターといえ
ようか。入店一週間にもかかわらず、まことしやかに囁かれるケイトの称号 “年下系” 。
ゆにばーさるにおける執事二強である、 “クール系” 黒須左京、 “やんちゃ系” 上月司に続いて、新たな『顔』になれる可能性
は十分ね ―― と。鈴木和美がそう漏らしていたのも知っている。
なんだか、面白くない。
ケイトがみんなに好かれて、人気者になっていくのは嬉しいけど、それだって時と場合によるではないか。
なんで女の人にばかり人気なの。それもお姉さんばかりに受けちゃって。
389:NPCさん
08/10/23 23:18:53
支援。
390:NPCさん
08/10/23 23:25:00
支援ー、足りなそうだのう。
391:NPCさん
08/10/23 23:41:03
支援~。
392:NPCさん
08/10/23 23:41:20
要、支援?
393:NPCさん
08/10/23 23:41:56
支援~、その2。
394:NPCさん
08/10/23 23:42:11
支援。
395:ゆにば
08/10/23 23:42:21
「………どーせ、年下で子供で、良くないこいのぼりですよー………だ………」
思い出しているうちに、考えることがだんだん自虐的になってきて。サンドイッチを頬張りながら、ぐしぐしと赤くなった眼を擦る。
と、そのとき ――
「………失礼しますわ………結希さん」
声をかけるのを躊躇うように、小声で智世が呼びかけた。手には結希と同様に賄いのサンドイッチセットを捧げ持っている。彼
女も遅めの休憩をこれから取るところのようであった。
「ぐすっ………あ、智世さん………はにゃ………ご、ごめんなさい私………」
泣きべそをかくところを見られて赤面しつつも、結希はやっぱり涙がこぼれてくるのを止めることができなくて。
「あ、あれ………や、やだ………どうしよ………この後、お店、なの、に………」
目を腫らしたままでメイドさんなんて出来ない。泣き顔のままご主人様を出迎えるなんてできはしない。だけど焦れば焦るほど、
涙が堰を切ったように止まらなくなる。智世がすっ、と脇に立ち。そんな結希の肩に優しく手を置いた。
「結希さん………午後は、わたくしたちに任せて少しお休みしてください」
いたわるように、智世が言う。顔つきこそ優しいが、心の中で「あの××野郎………」とケイトを念じ殺す勢いであることは言う
までもなかった。
「でも、で、も………みなさんに、迷惑………」
「そんなことお気になさらずに。午後は狛江さんもいますし、二時を過ぎれば椿さんもシフトに入りますから。人手は十分足りてい
ますよ。第一、そんなお顔でお店に出るわけにはいきませんでしょう ?」
私なら、べそかいた結希さんに涙目でご主人様、と呼ばれてみたいですけど ―― とはさすがに言わない。
「すいません………お言葉に、甘えちゃいます………」
食べ残したサンドイッチを包みにしまい、結希はすくっと立ち上がる。
396:NPCさん
08/10/23 23:43:15
支援~、その3。
397:NPCさん
08/10/23 23:45:07
支援に参加するのだ
398:ゆにば
08/10/23 23:45:18
「向こうの部屋、使わせてもらいますね………」
「みなさんには、ちょっと具合が悪そうなので仮眠室でお休みされています、とでも言っておきますわ」
智世の言葉にごめんなさい、ありがとうございます、と言い残し。結希が休憩室に隣接した仮眠室へと姿を消す。
パタン、とドアが閉められて。一分が経ち、二分が経つ。息を潜めながら昼食を摂る智世の耳に聞こえてきたのは ――
『………ケイト………さぁん………ふ………ふみゅ~~~………』
押し殺そうとして殺しきれない、結希の愛しい人を呼ぶ声と泣き声だった。
傷ましげに眉をひそめながらも、智世の背中に紅蓮の炎が吹き上がる。結希さんを泣かせた罪は万死に値しますわよ、ケイトさ
ん。彼女の流した涙ひと雫ごとに、血の一滴を搾り出してやりますわ ―― そんな危ないことを考えている。
急いで昼食を食べ終え、店内へと。
時間は午後一時三十五分。結希がいないことと、時間がお昼時であることを考慮して休憩を早めに切り上げた智世であったが
どうやらそれは杞憂に終わったらしい。この時間帯にしては珍しく、店内の人はまばらであり、厨房もそれほど慌しくはなさそうで
あった。この隙に執事たちは買出しに出かけたらしく、店内には狛江と、少し早めに店に顔を出してくれたウェイター姿の玉野椿
の二人きりがいるだけであった。なんだ、もしもケイトさんがいたなら、これ見よがしに『結希さん、具合が悪くてお休みですわよ』
と言ってやりましたのに ―― と智世は思う。
休憩終了と結希のことを伝えようと、一歩足を踏み出した智世がぴたりと動きを止める。
狛江と椿、彼女たち二人の会話が耳に入ったからだ。
会話の内容は ―― なんと、檜山ケイトのことである。
399:NPCさん
08/10/23 23:46:56
お?
支援
400:NPCさん
08/10/23 23:47:17
しえん
401:NPCさん
08/10/23 23:48:01
支援が必要か?
402:NPCさん
08/10/23 23:48:19
アンド支援
403:NPCさん
08/10/23 23:48:38
のだのだ
404:NPCさん
08/10/23 23:48:41
支援に次ぐ支援。
405:ゆにば
08/10/23 23:49:15
「あたしがファルスハーツにいたころ、噂、何度か聞いたことあるけどさー。なんか、実物見たら全然そんな感じしなくてさー」
狛江が言う。
「やっぱり有名だったの ? “ソニックブレード” 」
勤務中のお喋りなどしたこともないはずの椿が、わずかに好奇心をそそられたように狛江に応じる。
“ソニックブレード” ―― 檜山ケイトのコードネームである。
「うん。あっちにいたとき、研究員とかエージェントの人が話してるの聞いたー。なんかね、すごく大きな戦いを何度もしたことのあ
る要注意イリーガルで、いくつかは組織内でもトップシークレット扱いの資料に名前載ってるんだって」
ぺらぺらととんでもないことを喋る狛江。こんなときでもなかったら、駆けていってその口を塞いでやりたいところだ。
エージェントだの組織だの、トップシークレットだの。メイドさんが口にする単語ではないだろうに。とはいえ、話しているのが檜山
ケイトのことであれば話は別だ。 “敵” の情報は多いに越したことはない。
「この前久しぶりに伊織と電話で話したとき、そのことをちょっと聞いてみたけど………伊織、すごく驚いてた。あのソニックブレード
がゆにばーさるで ? って。やっぱり、有名なんだね、彼」
椿が、どこか感嘆したように溜息を吐く。当然、椿同様UGチルドレンである智世も、檜山ケイトの素性は知っていた。しかし、彼
に関しては『コードネーム』と『過去、いくつかの戦いで重要な役割を果たした』ということ以外の詳しい情報はあまり知られていな
い。というより、自分たちのような下っ端のペーペーには、あえて秘匿されているらしいいくつかの情報があるらしいことは、なんと
なく智世にもわかるのだ。
406:NPCさん
08/10/23 23:49:48
竹やぶのパンダ支援
407:NPCさん
08/10/23 23:50:05
さらなる波~
支援
408:ゆにば
08/10/23 23:50:06
「うん、有名、有名。だけどさー、なにが、なんで有名なのかは私も知らないんだよねー。司さんとか永斗さんとかは詳しいわけで
しょー ? だからあたし、聞いてみたことあるんだけど ―― 」
「―― 私も結希さんにそれとなく………だけど、上手くはぐらかされた」
二人揃って、オーヴァードとしての檜山ケイトには興味をそそられていたようだった。狛江はともかく椿までとは思わなかったが、
やはりチルドレンとして、またあの生真面目すぎる性格上、『ソニックブレード・檜山ケイト』は避けて通れぬ存在なのだろう。
二人の会話は続く。
「 ―― 司さんには、『あまり聞いてやるなよ』って言われちゃった。永斗さんは、『知らないほうがいい。世界の秘密に触れるこ
とになっちまうぜ』とかって、いつになく真面目な顔してたっけなー」
「………世界の、秘密………」
真面目な表情で椿が考え込んだ。情報ソースがあの永斗とはいえ、妄言ばかりの彼が見せた普段にない深刻な表情というの
は気になるところであろう。
「なんか、カッコいいよねー、そういうのー」
頬を上気させ、うっとりした表情の狛江。
「か、カッコいい………って………」
「だってカッコいいじゃんっ !? トップシークレットで世界の秘密だよっ !? あー、なんか憧れるなー」
狛江の台詞に、背後で硬直する智世であった。
いま、あの娘はなんて言った ―― ?
409:NPCさん
08/10/23 23:50:12
支援人何人いんだよしえんっ!?
410:NPCさん
08/10/23 23:50:26
一人で支援しすぎると、支援だけでさるさんくらいそうだなw 支援
411:ゆにば
08/10/23 23:51:06
「か、カッコいいかどうかはともかく………でも、あの仕事ぶりには頭が下がるかも。真面目で一生懸命なのよくわかるし………
好感は ―― 持てる。うちの“怠け者”に比べれば断然」
たぶんパートナーの高崎隼人と比べての発言であろう。とはいえ、狛江と椿両者の発言に、智世のなかでなにかよくないものが
ざわめいた。
(悪くない ―― 女性陣の評判、悪くない ―― ?)
二人のことだから、その言葉に他意はない。狛江は純粋に、ケイトの秘密めいた素性に言葉通りの憧れを抱いているだけで、
なんというか子供がヒーローを好きだというのと同じ意味合いでの好感であろう。椿もただ、ケイトの働く姿を見ての単純な評価
を下しているに過ぎず、好感が持てるという言葉の真意はそれ以上でもそれ以下でもないはずだ。第一、色恋の「い」の字も知ら
ないようなあの二人に、そういった意味での心配をするだけ無駄なのだ。
しかし、あの二人はそうじゃないとしても、他の女の子はどうなのだろう。
年上の女性にだけ受けがいいと思われていたケイト。しかし彼に対する同世代の少女たちの好意的な評価は、その前提を大い
にぐらつかせるものではないか。
秘密や翳があってカッコいいからといって、狛江がケイトを好きになることはないだろう。
真面目で一生懸命だからと言って、椿がケイトに惚れることもないだろう。
412:ゆにば
08/10/23 23:51:42
では、彼女たち以外の同年代の少女たちはどうだ ?
秘密のヴェールに包まれた神秘。翳りを帯びた伏目がちの少年。真面目で、基本的には大切な少女一筋の純情な男の子。
それが、どれだけ女性にたいしてアピールできる要素なのか、結希しか眼中にない(普通の女の子とは違う)智世にはわからな
い。だが、しかし。それでもやっぱり、檜山ケイトの持つスペックは。認めるのは悔しいが ―― 只者ではないのではないか。
敵は ―― 結希さんの敵は、お姉さまたちだけではなかったか………
結希の懊悩を思い、智世は大いに同情する。
(買出しから戻ってきたら………もう一度ケイトさんには、懇々と教え諭して差し上げなければいけないようですわね………)
智世の瞳が、猛禽類のごとく獰猛な、危険な光を帯びていた。
(to be continued)