卓上ゲーム板作品スレ その3at CGAME
卓上ゲーム板作品スレ その3 - 暇つぶし2ch2:NPCさん
08/10/13 19:51:08
>>1乙!

書き手も増えてきたし、楽しみになってきたぜ!

3:NPCさん
08/10/13 21:25:23 +ErNqwVO
>>1乙。
使うのはこっちでいいんだよね?

4:mituya
08/10/13 21:44:08
来ました!ってこっちでいいんですよね?(ビクビク)
まさか二つのスレに跨ることになろうとは………

今から投下します! うりゃ~!

5:NPCさん
08/10/13 21:44:11
支援待機中ー

6:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:50:16
【裏切り者】

「──飛竜ッ!」
 聞きなれた声に名を呼ばれ、飛竜は森の中を走る足を止めた。
「………楓………」
 応えた声は、己でも意外なほどに憔悴していた。
 域を荒げて走り寄ってきた幼馴染の娘は、彼が手にした剣を──そこについた赤いものを見つめて、泣きだしそうに、顔をくしゃくしゃに歪める。
「──間に、合わなかったんだ………やっぱり………」
「………悪ぃ………」
 何に対する謝罪か、己でもわからぬままに、飛竜はそう呟いた。
「月が消えたから………わかってたけど………けど──」
 楓は何かをこらえるようにぐっと両の拳を握って、その拳で己の目元を拭う。
 そうして、飛竜の顔を真っ直ぐに見上げ、告げた。
「──飛竜、その剣、あたしに預けて」
「………なに?」
 予想外の言葉に、飛竜は目を見開く。その彼に、楓は笹の書簡を懐から取り出して見せた。──その宛名の筆跡は、確かに飛竜が笹から預かった書簡と同じ筆跡。
「笹ちゃんの手紙………遺書、かな。──ここに、書いてあったの」
 楓は飛竜に書簡を渡すことなく、懐にしまう。──ここには、笹の飛竜への思いが綴られている。彼女が最期に語ったにせよ、そうでないにせよ、見せるべきものではない。
 飛竜はそのことに異を唱えることなく、ただ一言。
「──なんて?」
 楓も、短く応える。
「“神殺し”の力を後世に残して欲しい、と」

7:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:51:32
 “神殺し”──“神子”の因果律を絶つために、笹が飛竜の剣に宿した力。

 ──運命(さだめ)打ち破る力。

 笹は、楓への手紙にそう記していた。
「その力は、神だけでなく、かつて神であった侵魔に対しても強力な刃となる。
 ──だからこそ、今ここで、万一にも“金色の魔王”の手に渡らぬように、と」
 確かに、“金色の魔王”がこの剣の存在を知れば、奪取にかかるかもしれない。
 彼の魔王にこの剣が渡れば、どのように悪用されるか──そうならなくとも、人類にとっての希望が一つ刈り取られる。
「──わかった。任せる」
 言って、飛竜は楓に剣を手渡した。──自身の身を守る術がなくなるが、それよりも笹の願いを叶える方がずっと大切だった。
 楓は剣を受け取って、気づいたように飛竜に向き直る。
「そうだ──時雨さん………時雨さんに遇わなかった?」
 問われて、飛竜は目を伏せて、答える。
「──笹の最期を、見せ付けることになっちまった」
 楓が息を呑んだ。痛々しげに顔を伏せて、ややあって、きっと顔を上げる。
「あたし、笹ちゃんが遺した時雨さんへの手紙、預かってるの。剣を封じたら、渡しに行ってくる。
 ──飛竜は、社に戻ってて。今、時雨さんに会うのは………」
 お互い、辛いでしょう──そう言う楓に、飛竜は素直に頷いて、踵を返す。
「──頼む」
 その一言に、言い表しきれぬ思いを全て込めて。
「──うん、また後でね」
 楓もまた、短く返し──二人は別れる。

 ──“また”が、もうないことを、知らぬままに。

8:NPCさん
08/10/13 21:52:02
支援を、しましょう

9:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:52:34
 “星の巫女”の社へと一人戻り、飛竜はそれに気づいた。
 ──何の騒ぎだ?
 社が妙に騒がしい。もしや、自分のしたことが伝わったのか──そう思って、庭からやや遠巻きに、中の声へ聞き耳を立てる。
「──“星の巫女”はどこにいる!」
「わかりません、一人飛び出されて──それきり──」
 ──正仁に、瑠璃か?──
 楓が一人飛び出したのが騒ぎになってるのか、そう思いかけて、違和感に気づく。
 ──“星の巫女”?
 正仁は、いつも楓のことを“楓様”と呼んでいた。もし二つ名で呼ぶにしろ、呼び捨てというのはあの男の性格にそぐわない。
 眉をしかめた飛竜に、とんでもない言葉が届いた。

「──己が危機を感じて逃げたか………災いを齎す巫女よ!」

 ──何だって?──
 意味がわからない。──災いを齎す? 誰が?
「何をおっしゃっているのです、正仁様!」
 飛竜の思いを代弁するように、瑠璃が問う。
 正仁は、いつもの温厚さからは想像も出来ない猛々しい口調で告げる。

「“星の巫女”は人々を束ね、星を読んで時を見る、侵魔に抗う我らの柱。
 ──しかし、稀に災いを呼ぶ“星の巫女”もいる! 楓はその災いを招く巫女だ!」

 ──ありえない!──
 思わず、飛竜がそう叫ぶより早く、叫ぶ声があった。

10:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:53:22
「何を言うのです、正仁様! 楓様は今まで我々を正しく導いてくださったではありませんか! それが、何故突然、災いを齎すなどと!」
 抗弁する瑠璃の声。しかし、正仁は一言の元に断言する。
「天に赤い星が昇ったのだ! あれは“星の巫女”目掛け、大いなる災いとなって地上に降り注ぐ!」

 ──赤い星──

 その言葉に、飛竜は天を仰ぐ。双月の消えた空に、金の月はなく──

 ──赤々と妖しく輝く、星の姿があった。

「──災い齎す“星の巫女”は、あの星を地上へと誘う道標なのだ!
 巫女自身の意志も、感情も関係ない! 巫女の存在そのものが世界を滅ぼすのだ!」
「………そんな………!」
 狂ったように叫ぶ正仁の言葉に、瑠璃が悲鳴のような声を上げる。
「──災いを回避するには、もはや巫女を殺すほかにない!」

 ──なんだよ、それ──

 正仁の言葉に、飛竜は呆然と立ち尽くす。

 ──楓の意思も感情も関係ない? それなら、楓は何も悪くないじゃないか──

 それで、何故──

 ──楓が死ななきゃいけない!?──

 そう、思った刹那、

 ──笹だって、何も悪くなかったのに──

 胸の中で、誰かが、そう言った。

11:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:54:04
 それは確かに自分の声で、その声は容赦なく、飛竜の罪を暴き立てる。

 ──彼女もただ、うちに宿る力を利用されただけなのに──

 ──彼女は必死に皆を救おうとしていたのに──

 ──自分(おまえ)は、彼女をすくう手立ても考えようともせず──

 ──ただ、文字通り彼女を切り捨てただけじゃないか──

 とめどなく湧き出続ける、糾弾の言葉。

 ──だって、それは、笹がそう望んだから!──

 必死で抗弁した言葉は、

 ──じゃあ、自分(おまえ)は、楓が世界を救うために死を望んだら、受け入れるのかよ──

 その一言で、打ち崩された。

 そうして、気づく。気づいてしまう。
 笹のためとか、里のためとか、世界のためとか、そんな言葉に全てを転嫁して──

 ──自分(おまえ)は、楓を守るのに一番楽な道に逃げただけだろうが──

12:NPCさん
08/10/13 21:55:01
支援で?

13:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:55:14
「──は、ははっ………」
 乾いた笑いが、喉から漏れる。
「は………はははははははははっ!」
 壊れたような、哄笑。喉から溢れて止まらない。
 その声に気づいてか、瑠璃と正仁が庭に下りてきた。
「──飛竜………!?」
「何事だ、飛竜!?」
 口々に問う二人にも答えず、飛竜はただ嗤う。
 二人は飛竜の様子を案じるように──また気味悪げに見つめ──
 瑠璃が、気づいた。
「──飛竜………服の裾………?」
 もともと、赤を基調とした色彩のために目立たないが、その服の裾に見える染みは──
「──血………?」
「──そうだよ」
 ぴたりと哄笑を止め、飛竜は答える。
 何の感情も窺えぬ──不気味な、能面じみた表情で。
「笹の──“碧き月の神子”様の、血だ」
 息を呑んで凍りつく二人に、飛竜は一転して、笑って──嗤って、告げる。

「──神子は、俺が、殺した」

 二人は、目をこれ以上なく見開き──瑠璃が叫ぶ。
「──飛竜、言っていい冗談と悪い冗談が──!」
「………冗談?」
 くくっ、と喉の奥で飛竜は笑う。
 その様に──瑠璃は絶句し、後退る。
「──あなた………誰………?」
 気味が悪いものを見るような目で問われ、飛竜は笑う。
 得体の知れぬ嗤いではなく──いつもの彼の笑みで。

「──飛竜だよ。ただ、楓を守るためだけにこの里に来た、未熟な小童だ」

14:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:56:41
 その言葉に、正仁がはっとなったように叫ぶ。
「まさか、貴様──“星の巫女”を逃がすために、神子様を手にかけたのか!?」
 飛竜はただ肩を竦める。──その仕草をどう取るかは相手の勝手だ。
「──貴様っ!」
 走り寄りざまに振り行かれた刃を後ろに飛んで躱し、着地と同時に今一度地を蹴る。
 大きく飛び上がって、背後の塀に着地。そこから、社全体に──里全体に響くように、叫ぶ。

「──我が名は飛竜! 私情にて神子を殺めし大罪人! 赦されざる裏切り者!
 仇討ちたくば──追って来るがいい!」

 そうして、ざわめく社に背を向けて塀の外に飛んで──
 森とは逆に──楓のいる場所から離れるように、駆け出した。

15:NPCさん
08/10/13 21:57:29
支援

16:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:57:57
 走り、奔り、飛んで、跳んで、回り、捻り、躱す。
 迫り来る者、迫り来る物、全て躱して、走り続ける。
 己の名の如く、飛ぶ竜のように、迅く。

 ──少しでも、少しでも遠くへ。

 何を賭しても守りたい娘から、この脅威を遠ざける。
 己の身を守る刃はない。あったとしても、そもそれを振るう資格ももはやない。

 ──俺は、楓を守るために、笹を犠牲にした──

 その時からもう、己に、正仁(かれ)らを責める資格も、留める言葉もありはしない。

 ──彼らは、世界のために楓を殺す──

 それは、飛竜が楓のために笹を切り捨てたのと同じで。
 だから、もう飛竜は彼らに向ける刃も、留める言葉も持たない。

 ──だったら、せめて、この身一つで。

 言葉も、刃もなく、ただこの身一つで、いけるところまで。

 ──彼らから、楓を守り抜く。

 例え、それで世界がどうなっても──

 ──楓が死んだら、俺の世界はどの道終わりだから──


17:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:58:41
 幼い頃から共に在った。共にあるのが当たり前で、それ以外の状態など認識の外だった。
 好きとか嫌いとか、そんな次元ではなく、もはや自身の一部だった。
 両親や姉は口々に、楓が嫁に来るのが楽しみだ、大切にするんだぞと、冷やかすように、楽しげに笑っていて。
 その言葉にいちいち、そんなんじゃないと叫び返しながら、結局彼女以外の相手と生涯を共にする姿は思い浮かばなくて、結局いつかはその通りになるのだろうと思っていた。
 けれど──その世界は三年前に、終わった。
 楓が“星の巫女”になって、手の届かない遠い存在になると知った時──彼の世界は一度、終わっていたのだ。
 それをもう一度取り戻す機会をくれたのが、“七星の剣”だった。
 ──これをもって戦えば、楓の傍にいることを許される。
 ならば、何を厭うことがあるか──

 ──そう、最初から、自分は楓(じぶんのせかい)を守るためだけに、剣を振るっていたのだ。

 それ以外は全部おまけ。楓が望むから、楓のためになるから、楓が悲しむから──でもそのどれも、楓自身の安否の前には塵芥のように吹き飛んでゆく。

 ──俺は、裏切り者だ──

 そう、裏切り者だ。世界に対して、“人”として死にたいといった友に対して、憎まれ口を叩き合った男に対して──最も大切な彼女に対しても、赦されざる裏切りを犯した。
 でも、今更取り返せない。ならば──

 ──最期まで、このまま走り抜いてやるさ。

 そう思った時──楓がいるはずの森から、赤い閃光が天へと迸った。


18:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 21:59:22
 地に剣を突き立て、楓は空を見上げる。
 この“神殺し”の刃を封じるのに、星を読もうと天の輝きを見る。
「──え?」
 まず目に付いたのは、見覚えのない赤い星。
 その気配はあまりに禍々しく──恐ろしい、と思った。
 けれど──
「──そんな場合じゃない」
 強く、一度頭を振って、楓は改めて星を読む。
 ──この剣をどこに封じるべきか。
 ──いつまで封じるべきか。
 読んで、合わせ、呪を紡ぐ。

「──“星の巫女”が命ずる。“七星の剣”よ、星の彼方にて汝が担い手を待て」

 一度、宝玉が赤く輝く。

「──“大いなるもの”が希む。“運命(さだめ)打ち破る力”よ、時の果てに未来を切り拓け」

 今一度、赤い煌き。

「──ゆけ、汝が宿命を果たすために!」

 声と共に、赤い閃光が辺りを包み──天へと奔る。

 その光が収まるまで見送って、楓は前に向き直る。
「時雨さん──今、行くよ」

 ──あなたの大切な人が、あなたに遺した言葉を、届けるために。

19:NPCさん
08/10/13 21:59:28
しえん

20:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 22:00:50
「──何だったんだ………? 今の………」
 口々に呟く追っ手たちの声に、飛竜は内心歯噛みする。
 今のはおそらく剣を封じた光で、楓に何かあったわけではないだろうけど──
 ──まずい。このままでは──
 楓の方に、追っ手が行ってしまう──そう思って、
 思考の乱れが、動きを乱した。
「──がッ!」
 振るわれた刃、それを躱しきれず、脇腹を貫かれる。
 動きを縫いとめられて、そこへ更に刃が迫る。
「──ぐッ………がぁッ!」
 次々と身を貫かれ、灼熱の痛みが全身を襲う。

 ──笹も………きっと、痛かったよな──

 そう思って、

 ──楓は、こんな思いしなければ、いいな──

 この期に及んでそう思う自分に、呆れた。


「見つけたぞ、“星の巫女”」
 聞き慣れた声が、聞き覚えがないほど冷たい声音で呼ばわるのに、楓は森を行く足を止めた。
「………正仁?」
 どうしてこんなところに──そう思った楓が問うより早く、彼が口を開く。
「──全く、もう少しで引っかかるところだった。あの男は囮だったのだな」
「………囮?」
 意味がわからない。一体、何の話をしているのか。
「忌まわしき災い招く“星の巫女”よ、世界のために──その命、貰い受ける」
 言葉と共に、振るわれた刃は、無慈悲に──否、いっそ慈悲深いほど正確に──

 “星の巫女”の名を負わされた娘の、命を一瞬で刈り取った。

21:NPCさん
08/10/13 22:01:32
支援ー

22:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 22:05:56
 全身から熱が逃げていく。痛みが、痛みとして認識されなくなってゆく。
 自分はここで死ぬのだと、嫌でも、悟る。
 けれど──

 ──今度は………

「──強く、なって…………戻、……てっ、くる……」
 荒い息の下、宣言する。追っ手に対してではない。誰が聞いていようといまいと関係ない。
 己自身に、宣言する。

「──…………っ、にっ」
 ──自身の弱さに──

 そう言ったつもりの声は、喉から溢れたものに遮られたけれど、構わず、続ける。

「……負け、ない……二度、と……」
 ──今度、生まれ変われたら、守り抜いてみせる。

 何も犠牲にしない。自分の守りたいものを犠牲にしないために、どんな犠牲も許容しない。

 ──楽な選択肢に逃げる、弱い人間になったりしない。

23:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/13 22:06:32
「──裏切り者が……!」
 誰かが低く呻いて、身体に異物が突きこまれる感触があった──もはや、痛みは麻痺してそうと感じられない。

 ──ああ、もう死ぬのか──

 そう思って、笑みが零れた。

 ──楓と、笹と、時雨と、一緒に生まれ変わってやり直せるなら──

 彼らと一緒に生まれ変わるために、この裏切りという大罪を洗い流す必要があるというなら──

 ──地獄に行くのも、悪くはないさ──

 そう思って──

 ──後世に、“裏切りの飛竜”と名を残す男は、息絶えた。


 神子の娘は、己の思いのまま、笑んで逝き──
 巫女の娘は、己が何故殺されぬかも知らぬまま、そうと悟る間もなく逝き──
 剣士の青年は、己の所業を悔いて、決意と共に逝き──
 唯一生き残った男は、無知ゆえに、怨嗟を膨らませて、記憶を捨てた。

 そうして──五百年の時が、流れる。


24:NPCさん
08/10/13 22:06:53
支援…ご入り用ですか?
…読みながらなもんで、もう目から汁が出て来たよぅ…

25:mituya
08/10/13 22:10:35
いったんここまで!
まだ終わりじゃないですよ!(<まだ続くのか)

今日中、いけるかなあ………脳みそはアドレナリン全開だけど、なんか左手首が痛いんですよ?
これ、もしかして腱鞘炎寸前?(汗)

26:NPCさん
08/10/13 22:22:56
お体はご自愛なさってください~(汗)。

ともかくGJです。
なんというのか、こう……やりきれねぇなぁ……。
この終わりはわかってるのに、苦しいですな。
時雨だけが取り残されて、一人500年過ごすわけですね。切ないなぁ。
星の勇者はやっぱり空気読めない子だった(笑)。いや、展開上仕方ないんだけども。
ちょうど「あなたは今どこでなにをしていますか この空の続く場所にいますか」ってフレーズが耳の中にある時だったからマジ泣きするかと思った。

次の更新はゆっくり待ってるんで大丈夫ですよー。


今日一日この板覗いてたから落差がすごい(苦笑)。

27:mituya
08/10/13 22:36:06
皆さん、支援ありがとうございました! ってさっき言いそびれたので言いに来ました(笑)

>>26さん
感想ありがとうございます~vv 空気読めない勇者でごめんなさい(笑)
うちの時雨は、笹を守れなかったというより、生きる理由として復讐を選んだがゆえに、その障害になる記憶を捨ててしまったって感じですかね。
だから、飛竜がつけた“笹”という名も忘れてしまっているのです。
ああ………あの曲は泣けます。寧ろ泣きます。………うぅ………(<泣くな)

完結まで、後ちょっとなんで、気長に待っていただければ………
………右手オンリーのタイピングはきついですね………(汗)

28:NPCさん
08/10/13 23:07:29
やばい、これはやばい、GJ過ぎるっ……!
飛竜の選択と、その裏にあったほんのありふれた想い、
そしてそれを裏返した時に悟った自らの真なる罪……
そして、我らが柊の魂に繋がる、強烈な悔恨……!

これはすさまじくヤバ過ぎるくらいにGJだっ!





あと何がすごいって、あの時雨に存在感を(ry

29:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/14 00:21:17
今日は凄いなぁ。
ここでも一本完結(ベル様)、三ツ矢氏もクライマックス終了(?)
地下でも長々と続いた作品が二つも完結したし、フィーバー?


しかし、マジで星の勇者空気嫁。
誰も真実を知らぬままに、金色に踊らされたままに飛竜を処刑してしまったわけで……
リプレイを見る限り、誰も500年後まで真実を知らぬまま、か。
踊らされ続けて、ただ正義を成したと信じるほうが幸せか。
それとも真実を知らぬままに愚行を犯し、その罪すらも嘆けない不幸を悲しむべきか。

色々考えさせられますねぇ。
次回もまってます!

30:NPCさん
08/10/14 00:38:42
>>29
みんなバイオリズム似てるんじゃないっすかね>書き手
つーか自分も一つ完結させてるくせに何言ってんですかい兄さん(笑)

正直前スレ立つ時は埋まるのに何年かかるかなーと思ってたし……また、このスレが完走出来ることを祈って。

31:NPCさん
08/10/14 01:34:47
アリアンロッドハートフルの話とかも読んでみたいな…
ファムとヴァリアスの微妙な関係とか実にいい

32:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/14 02:23:56
こんな時間だけど、続きを投下します!
迷錯鏡鳴 竜の巻 最後です!

33:NPCさん
08/10/14 02:27:20
無茶なww支援

34:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:27:26
 それは苦悶の声に満ちた空間。
 和式の部屋の中で、一人の少女―竜之介は上半身が裸のままに、苦悶の声を漏らしていた。

「いててて。くそ、マジでいてえ」

 布団の上、うつ伏せに倒れたまま竜之介が呟く。
 幸いなることにその白磁のような肌に抉られた傷口は浅く、まどろむように深く誘っていた疲労は抜けて、ただ発熱のみが彼女の体を蝕んでいた。

「―人影もなく、気配もなく、突如傷ついたか」

 その横で手を翳し、治癒魔法を掛け続ける竜作が呟いた。
 老人の姿、氣を巡らせて集中するまでもないということ。

「主の超感覚でも悟れなかったのか?」

 動物特有の超感覚。
 人間では決して追いつけぬほどの敏感な感覚に竜作は頼るように訊ねるが。

「ああ。私の感覚には何も感じなかった。断言してもいい、風呂場に居たのは竜之介だけだ」

 その横でパジャマを着たあげはが断言するように頷く。

「となると、竜之介の奴が転んで怪我でもしたのか?」

「んなドジしねーよ!! って、つつ~!」

 竜作の言葉に反論しようとして、涙目で喘ぐ竜之介。
 ここに別の男がいれば心拍数をすこぶる高めることになったろうが、部屋のいるのは彼の祖父である老体と人狼少女であるあげはだけだ。
 何の間違いも起こるわけがない。

35:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:29:28
「となれば……呪詛じゃな」

 顎に付いた立派な顎髭を撫でながら、竜作はぼつりと呟いた。

「呪詛、ですか?」

 唯一年長者として、或いは実力者として竜作を敬っているあげはが目を丸くし、問い返す。

「さよう。見よ」

 そう告げると、竜作は治癒魔法を止めて、竜之介の背中から手を離した。
 そこには蚯蚓腫れのようにうっすらと残った切り傷―そこから“僅かに染み出る出血”。

「本来ならばこの程度の傷は一息に完治するわい。気息を練り、新陳代謝も操れるワシらの治癒能力は人狼ほどではないが中々のものじゃぞ?」

「それが治らないと言う事は?」

「何者かがこの傷の治癒を阻害―否、保ち続けておる」

 そう告げると、竜作は傍に用意しておいた薬瓶を手に取ると、中からねっとりとした無数の薬草を練り合わせた止血剤を手に取った。
 悪臭にも似た臭いを放つ緑色の薬液。

「竜之介。しばし、歯を食いしばれよ」

「え? ま、ま―」

 ずいっと傷口に止血剤を練りこむ。


36:NPCさん
08/10/14 02:29:44
無理と無茶と無謀はほどほどにね、支援

37:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:31:06
「ガァアアアア!!!!!!!!!」

 その途端絶叫が上がった。
 暴れ出そうとする竜之介、その両手を咄嗟にあげはが押さえつける。同時にタオルを噛ませて、呻き声を殺した。
 さらに竜作は止血剤を手に取ると、たっぷりと竜之介の背中に練りこんだ。
 その度にびったんびったんと海老が跳ねる様に暴れ狂い、竜之介の髪が、乳房が、全身が激しく震える―電気ショックをかけられた蛙のような有様。

「うー!! うー!! ううぅぅううう!!!」

 血走った目で睨み続け、叫び声をあげ続ける竜之介。
 かつてないほどの殺意を叩きつけられたあげはが戸惑いながら、竜作に訊ねる。

「今の止血剤……どのようなものなのですか?」

「そうじゃのぉ。よく効くんじゃが……山葵を練りこまれたぐらいに染みるんじゃ。わしも若い頃は付けられるたびに泣き叫んだものじゃ、ヒッヒッヒ」

「……」

 もはや拷問だった。
 あげはが同情の目を竜之介に向ける。竜之介は白目を剥いて、倒れ付していた。
 しかし、それだけの成果はあったのか、止血剤を練りこまれた背中からは出血もなく、治まっている。

「まあ気絶したのは丁度ええわい。あげはちゃんはちょいと包帯を巻くのを手伝ってくれんかの?」

「あ、はい」

 テキパキと竜之介の体に包帯を巻きつけながら、竜作は告げた。


38:NPCさん
08/10/14 02:32:26
しえりますかー?

39:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:33:17
「これは一時的な処置に過ぎん」

「というと?」

「呪詛の根本を断たねば―いずれ竜之介は死ぬ」

 それは簡単に想像できることだった。
 今ならば傷の出血を一時的に食い止めることは出来るだろう。
 だが、他にも傷が増えれば?
 さらに傷口が広がれば?
 ―答えは簡単だ。
 竜之介は治療すらも空しく死に果てる。

「っ!」

「しかし、どのような場所でこのような呪いを受けたのか……あげはちゃんには心当たりはないかのぉ?」

 穏やかな声。
 のんびりとした言葉遣いだが、その声音に僅かに焦燥の色が浮かんでいるのがあげはには感じ取れた。

「竜之介が……ですか?」

 普段は家にいるあげはは竜之介の行動範囲をよく知っているかどうかと言われれば首を捻るだろう。
 一緒に出るといえば、野良エミュレイターなどを討伐する時ぐらいだ。
 しかし、それすらも今まで特に問題なく討伐を行っている。


40:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:37:00
「高倉の……いや、時期が外れすぎているな」

 高倉 幹弥。
 元輝明学園の生徒会長であり、かつて賢明の宝玉を巡って争った人物。
 今は竜之介たちによって敗れ去り、行方不明になっている。
 その従者だった二人の仕業か? と一瞬考えるが、事件が終わってからもう数ヶ月以上も音沙汰もなく、ただ高倉の帰りを待つ彼女達が何かをするとは考えにくい。
 動機はあるが確証が出来ない。
 となれば、他の呪詛を受けるような機会があるのは―

「輝明学園、かもしれません」

「ふむ?」

 顎鬚を撫でて、あげはの言葉の先を促す竜作。
 そのサングラスの下に隠された目は真剣そのものだった。

「竜之介の行動範囲は基本的に輝明学園とこの家の間だけ。エミュレイターの討伐には私も付き添っていますし、それらでは野良の下級侵魔、全て無事に討伐しています。
 あとは竜之介の幼馴染である香椎 珠実に連れまわされて新聞部の活動などもしていますが、大体学校内の活動だけの筈です」

「接触する要素は学校内しかないというわけか」

 一番可能性が高い推測だったが、確信としては曖昧すぎる推論だった。
 ないよりはマシ程度の推理、何の解決にもなっていない。
 それがあげはには口惜しい。

 しかし、竜作はぽんっとあげはの頭を撫でた。

「うむ。助かったぞ、あげはちゃん」

「……竜作老」

41:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:39:20
「すまんが、明日も登校じゃろ? 竜之介に学校に行かせてきてくれ、あげはちゃんも学校に付き添ってくれんか?」

「竜之介……をですか?」

 幾ら止血をしているとはいえ、傷もちの身である。
 休ませるべきでは、とあげはは考える。

「―降りかかる火の粉は自分で払え。出来うる限りはな」

 竜作は冷たく、或いは冷徹さを装うような口調で告げた。

「この程度のことを自分で解決出来ぬようならばどちらにしろ竜之介はいずれ死ぬじゃろう」

 それは長年にも渡るウィザードとしての戦歴が語るものだった。
 仲間とは尊いものだ。
 けれど、仲間に助けられ続けるのも違う。
 竜之介はウィザードであり、戦う力を持つ戦士なのである。
 己の災厄に立ち向かえぬようであれば先はない。
 竜作はそう告げていた。

「わしは他の原因の究明、それに呪詛の解除を出来る人物を探してみる。もしかしたら、学校内で逢うかもしれんがのぉ」

「学校内?」

 何故に学校内で出会うのか。
 あげはが首を捻ると、竜作はにやりと笑う。

42:NPCさん
08/10/14 02:39:22
勇気ある支援を

43:迷錯鏡鳴 竜の巻
08/10/14 02:43:11
「そうじゃ」

 竜作のサングラスが光る。
 鈍く、刃物のように、煌めくのだ。


「錬金術師ヴィヴィ―確か今は輝明学園のスクールメイズ、それの管理人をしておったなぁ」

 偉大なる錬金術師。
 その名を上げてる竜作に、硬直するあげはを見て、笑い声だけが木霊した。


 こうして人物と伏線は並べ終わる。

 物語は配役を揃えて、舞台の幕を引くばかり。
 
 さあ始めよう。
 
 誰かが仕組んだ茶番劇を。



44:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/14 02:46:34
投下終了です。
うっかりトリップ忘れでしたw
これにて竜の巻は終了です。

予定外ですが、冥き迷宮のバーレスクと深く関わるかもしれません(登場人物的な意味で)
とはいえ、さほど長くはならない予定ですのでご安心下さいw

皆さん投下しまくっている姿を見て、自分も投下したくなった泥げぼくでした~

45:mituya
08/10/14 06:27:38
おはようございます。今日の午前中に終わりまで投下しようと早起きしてきた子です。
手首はサポーターで誤魔化す! 昨日湿布はって寝たらマシになったし!
これから続きの執筆に入ります。これが終章になるか、もう一章増えるか………そんくらいです。
ともかく目指すは今日中完結! 書けるの昼までだけど!
多分昼の11時くらいまでに投下に来ます!その時は支援よろしくです!

で、何はともあれ感想!
泥の方GJですよ! 小説やリプレイの既存キャラをイメージを崩さす描けるのがうらやましい………
おじいちゃんはかっこいいですね! 孫をあえて谷に突き落とす、愛の鞭vv
バーレスクのキャラは皆大好きなので、楽しみにしてますよ~!

46:mituya
08/10/14 11:38:19
書き終わったーーーーーーーーーー!(絶叫)

“裏切りのワイヴァーン”終章、投下します!
皆さん、支援よろしく!

47:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:39:14
【五百年後】

「──あー、ったく………思いっきりこき使いやがって………」
 ぼやいて、歩きながらごきごきと首を鳴らすのは、年の頃十六、七の少年。
 無造作ヘアというにも無造作すぎる茶の髪に、夏物の制服の襟元も、第二ボタンまで開いている。
 どこからどう見ても、柄の悪い高校生にしか見えないが──
「くれはのやつ、何がストーカーだよ。ぜってぇ部活手伝わせる口実じゃねぇか。帰りに毎日毎日………」
 ぼやく内容は、どこか情けない。
 彼の名は柊蓮司。制服からそうと知れる通り、この秋葉原にある輝明学園高等部の生徒である。
 彼には幼少の頃から付き合いのある、いわゆる幼馴染がいた。
 それが、赤羽くれは。近所にある神社の長女である。彼はどうにも彼女に頭が上がらない。──ぶっちゃければ、一生に関る秘密を握られているので、逆らえない。
 小中だけでなく、高校も同じところに進み、去年はクラスも同じだった。さすがに高校からは彼女の部活動のことなどもあって一緒に登下校することはなくなったから、今年二年に上がってクラスが分かれた時、自然に縁が切れてもおかしくなかったのだが──
 五月頃から、登下校時に妙な視線を感じる、といわれ、半ば脅されるようなかたちで、今まで二ヶ月近く学校と彼女の家の間を毎日送り迎えしている。
 それで、帰りは決まって、彼女の部活動の手伝いをさせられている。
「あー、もう………なんであいつ部活掛け持ってんだよ………雑用多いって………」
 とか言いつつ、なんだかんだでまじめに手伝って、きちんと彼女を家まで送っているのだから、相当のお人よしである。

48:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:39:54
 部活動の後、寄り道して帰っているのだから、夏とはいえ既に日は暮れている。
 空を見上げれば、もう真ん円の満月が──
「──ッ!?」
 見上げた先に見えた、その月に柊は絶句する。

 ──あまりにも大きな、赤い紅い月──

「──なん、だ………ありゃ………?」
 呆然と、呟く。──赤い月、というのは見たことがないでもないが、それにしても大きすぎる。見慣れた月の数倍はあるのだ。
「大気の屈折とか、そういうのか? それにしたって………」
 ぶつぶつと、首をかしげて呟いた時──

 彼の歩いていた場所のすぐ脇──何かの建設予定地らしい空き地に、凄まじい勢いで何かが落下してきた。


49:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:40:36
「──あははは! ほら、さっさと“神殺し”を渡しなさいよ!」
 哄笑が、真空の世界に響き渡る。
 声の主は、まだあどけない容貌の黒髪の娘。愛らしいはずのその面に醜悪な笑みを貼り付けて、嗤う。
「──くっ! 絶対にあれを手渡すな!」
 少女の言葉に抗って叫んだのは、一人の男。
 何かの制服のような衣服を纏った聴診痩躯、声からしてまだ若い。しかし、それ以上のことを測り知るのは難しかった。なぜなら、その男の面には顔の上半分を覆う白い仮面が張り付いているから。
 その男の言葉に頷いて答えたのは、数人の男女。中には男と同じような格好──何かの制服に仮面、という姿のものもいる。
 それは、異様な光景だった。
 一人の少女に、大の男を含めた数人が圧巻されている。
 否──そんなことより、最も異常なのは──
「──コイズミ、目標は回収した! これより宇宙空間から離脱する! 早く“箒”へ!」
 一人が叫んで、仮面の男──コイズミは頷く。
 そう、彼らがいるのは、星々瞬く真空の世界──宇宙。
 彼は地表にいるときと同じような姿で、そこにいた。
 普通ではありえない。地表にいるのと同じ服装で真空空間などにいれば、窒息するか凍りつくか、いずれにせよ、即死亡。小学生にもわかる“常識”。
 だが──その“常識”は、彼らにとって何の意味も持たない。
 ──夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)。
 彼らは、常の世の法則を無視し、超常の力を持って、人知れず世界の裏側から現れる魔性を狩る者達。
 そして、今彼らの前に立ち塞がっている少女こそ、その魔性──侵魔(エミュレイター)と彼らが呼ぶ存在。
 それも、人の姿を取っているということは、相当に力あるもの──エミュレイターの中でも、“魔王”と呼ばれる存在だった。

50:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:42:05
 しかし今回、彼らの目的はこの魔王の討伐ではない。
 この座標に存在する小惑星に、五百年間封じられていた“あるもの”の回収。
 ──“神殺しの剣”。
 世界に存在するありとあらゆる因果律を断ち切る力を宿すという、とんでもない魔剣。
 五百年前に、“裏切りの飛竜”と呼ばれるとあるウィザードが、とある“大いなるもの”を殺害するのに用いた剣。
 長らくの間、その魔剣の存在は時の中に埋もれていたが、つい先日、ある古墳から発見された資料から、その存在が確認された。
 元は手紙らしいその文書は、しかし破損が激しく、読み取れたのはごく一部。
 ──“飛竜”、“神殺し”、“運命(さだめ)打ち破る力”、“剣”、“星の巫女”、“封印”──
 しかし、それらの語群と伝わっている史実と照らし合わせて、その剣の存在を推察するのは難しいことではなかった。
 ウィザード達を導く亜神、“守護者”アンゼロットは、その剣の力がウィザードにとって貴重な戦力になると判断。また、エミュレイターにその剣が渡った際のリスクも鑑みて、早急な剣の回収を自身の抱える精鋭部隊“ロンギヌス”に命じた。
 しかし、大変だったのはここから。資料には全く封印場所を示すようなことは読み取れなかった。唯一のヒントが、“星の巫女”。
 もしや、宇宙空間に封じられているのでは、と推察し、宇宙にまつわる超常事象を専門とする組織、“コスモガード”に協力を要請。
 “コスモガード”の調査の結果、この小惑星に結界らしい魔力反応を感知。
 そして今日、“ロンギヌス”と“コスモガード”の精鋭達が共同で、未だ開発途中の宇宙航行用“箒”──“魔法使い(ウィザード)”の乗り物は総じてこう称される──“シルバースター”の試運転も兼ね、彼の剣の回収に来たのである。

51:NPCさん
08/10/14 11:49:18
支援 リアルタイムでできるとは思わなかったけど・・・
 一つ突っ込み 聴診 → 長身 ? 

52:mituya
08/10/14 11:51:16
やっちゃった! 誤字そうです(汗)

53:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:52:10
 しかし──そこに、どこから嗅ぎ付けたのか、一人の魔王が剣を奪おうと彼らの前に立ち塞がったのだ。
「──逃がすと思って!?」
 仲間の言葉に“箒”へ向かうコイズミに向けて、魔王が魔力光を放つ。
「──くッ!」
 コイズミは咄嗟に躱して──己の失態に気づく。
 己の脇──魔力光の向かう先には、仲間と魔剣を回収したシルバースターの姿。
「しまった!」
 叫んだ先で、防御結界の輝きが展開、魔力光と衝突する。
 光はその場で爆散、直撃を免れたシルバースターはしかし、その爆発に大きく煽られる。
「私に構うな! 離脱しろ!」
 叫ぶと同時、魔王に向かって突っ込んでゆく。
「──っち、邪魔よ!」
 魔王はコイズミに向けて魔力光を放ち──コイズミは、今度は避けず、防御魔法を展開して受け止めた。
 爆散──閃光が辺りに満ちる。
 その隙に、シルバースターは、そこから離脱した。

54:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:52:43
「──くっ! “剣”だけでも、アンゼロット宮殿に転送できないのか!?」
「だめです! さっきの衝撃で、搭載していた転移装置がやられて──」
「くそっ! 試運転機はこれだから──」
 何とか戦線から離脱したシルバースターの中はしかし、かなりの混乱状態だった。
 所詮、試運転機というべきか。先ほどの衝撃がかなりのダメージをシルバースターに与えていたのだ。
 それでも何とか、地球の大気圏突入までこぎつけた、その時。
「──魔王級魔力反応、接近!」
「………コイズミ………!」
 コイズミが一人引き付けていたあの魔王が、シルバースターに追いつく。
 そして──

 二度目の爆撃を受けた“箒”は、半ば落下するように地上に向かう。
 引き寄せられるように── 一直線に目指すように、そこへ。
 ──日本は東京、秋葉原の地へ。

55:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:53:36
「──な、なんだあ………!?」
 突如、空から落下してきた巨大な物体に、柊は愕然と呟く。
「………ス、スペースシャトル………?」
 そう、落下の衝撃でひしゃげてはいるが、そのフォルムはどうみても、テレビなどで見知ったスペースシャトルそのもの。
「──な、何でこんなもんが振って来んだ!?」
 常識的に至極最もなツッコミを叫んで──気づく。
 ──なんで、誰も出てこねぇんだ?──
 相当の落下音が響いたのに──周りの建物からは、誰も出てくる様子がない。それどころか、外を窺う様子も──
 ──そもそも、人の気配が、ない………?──
 見慣れたはずの街並み、それが姿だけ同じの異境になった気がして、柊はうろたえる。
 ──なんなんだよ、これ!?──
 巨大な紅い月、落ちてきたシャトル、異様な雰囲気の街──全てが柊の混乱を助長する。
 と、その時──
「──ッぐぅ………ッ!」
 苦しげな呻きと共に、シャトル──らしきもの──の残骸から、幾人かの人影が這い出てくる。
「だ──大丈夫か!?」
 柊は我に返ってそちらに駆け寄る。──目の前に怪我人がいるのに、呆けている場合ではない。
「すまないな………君は、ウィザードか?」
 駆け寄ってまず助け起こした男は、意外にしっかりした声でそう言った。

56:NPCさん
08/10/14 11:54:06
すいません、細かい所に突っ込んで… 。
とりあえず支援

57:NPCさん
08/10/14 11:54:09
支援

58:NPCさん
08/10/14 11:55:15
支援の時間?

59:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:55:16
「………ウィザード?」
 言葉の意味が判らず、柊は眉を寄せる。その仕草で男は勝手に納得したようで、柊に聞かせる風でもなく、呟く。
「違うか………この異常事態に気がふれるでもなく、紅い月の元で動けるということは、その素質があるんだろうな………」
「──おい、何の話してんだよ?」
 柊が思わず訊いた、その時。

「──あらら、ちょっとやりすぎちゃった?」

 軽やかな、若い──幼いともいえる女の声が響いた。
 その声に、男の身体が強張るのを、支えていた柊は感じ取った。
「………来たか………!」
 低く呻く声も、堅い緊張の色。剣のある眼差しを空へ向ける。
 柊も、意図せずその視線を追って──目を見開く。

 ──虚空に、少女がいた。

 長い黒髪を緩やかに揺らす、柊よりも三つ四つ幼く見える少女。彼女は何の足場もない宙に、確かに浮かんでいた。
「まさか肝心の“神殺し”までオシャカになってないでしょうね? まあ、それならそれでいいけど」
 少女は地に突き刺さるようにひしゃげたシャトルを一瞥し、面白くもなさそうに言う。
「──マ、マジック………か?」
 浮かぶ少女の姿に、柊は思わず呟く。だが、そんなものでは──種や仕掛けによるものではないと、胸の奥の何かが叫んでいる。
 その声は、こうも叫ぶ。

 ──“あれ”は、危険だ──

 相容れないもの、人とは根本的に違うもの──人に仇為すものだと、叫ぶ。

 本能の警鐘──それに従い、柊は後退りかけ──自身が、怪我人を支えていることに気づく。

60:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:56:00
 怪我人を放り出して逃げるわけにはいかない──その思いで何とか踏みとどまった、刹那。
「──君は、逃げてくれ」
 言って、その支えていた相手の方が、柊から身を離した。
「な、何言ってんだ! あんたふらふらじゃねぇか! 他に怪我人もいるのに………あいつ見るからにやばそうだしっ………!」
「──“あれ”が危険だとわかるなら、なおのこと逃げろ!」
 柊の抗議に、男は怒鳴りつける。
 柊は一瞬怯み、しかし、即座に怒鳴り返す。
「怪我人放って、ただ逃げられるか!」
 その言葉に──真っ直ぐに見返すその眼に、男は何かを感じたのかのように言葉を呑み──
「………では、これを持っていってくれ」
 言うと、虚空に手を伸ばす。拳を握って引き寄せた時、その手には、一振りの長剣が現れていた。
 ──柄に輝く真紅の宝玉、その先に伸びる白銀の刃。
「………これは………?」
「──あいつの狙いはこの魔剣だ。これは決してあいつに──あいつらに渡すわけにはいかない」
 言いながら、男は柊に剣を手渡す。と──
「あら、あんたが持ってたんだ」
 少女が柊に手渡された剣を見て嗤う。
「ねぇ、お兄ちゃん。それ、あたしにくれたらあんただけは生かしてあげても──」
「──《ヴォーテックス》!!」
 言いかけたその言葉を遮って、男が掲げた手から漆黒の闇を放つ。
 同時に、柊を背後に──少女から引き離すように突き飛ばし、叫ぶ。
「その剣を輝明学園の校長の元へ! 彼なら事情を察してくれる!」
 柊は、突き飛ばされて転びかけたのを何とか立て直し、頷きかけ──

 ──だめだ──

 それを、留める声が、あった。


61:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:56:48
「何をしている! 早く行け!」
 立ち尽くす柊に、男が焦れて叫ぶ。
 男の様子からして、彼らではあの少女には敵わない。このまま自分がここに留まれば、この剣はあの少女に奪われる。
 そう、思って、柊はその場から駆け出そうとして──

 ──逃げるな!──

 胸のうちから響いた叫びに、足を止めた。

 ──男達の願いだからとか、このままでは剣が奪われるとか、そんな言葉に逃げるな!──

 柊は目を見開く。──そうだ、自分は今、ただ逃げようとした。

 ──あの少女が狙う剣を持っているのは自分。このままここに留まれば、自分が狙われる──

 ──ここで男達を犠牲にして逃げても、男の頼みで剣を守ったと思えば、罪悪感は薄れるから──

 色んなものに言い訳して、ただ逃げようとしたのだ。

「──冗談じゃねぇ………」

 呻いて、手渡された剣の柄を強く握る。
 睨むように、闇の残骸から再び現れた少女を見据える。
 決意と共に──男に告げた言葉を、繰り返す。

「怪我人放って、ただ──逃げられるかぁ───ッ!」

 叫んで、魔剣を振りかぶり──駆け出した。


62:NPCさん
08/10/14 11:57:10
し・え・ん

63:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:57:34
 真っ直ぐにこちらを見返す瞳に、圧された。
 この少年は、きっとただ逃げろといっても決して逃げない。そう、悟って。
「………では、これを持っていってくれ」
 言って、己の月衣から、そこに納めた魔剣を引き抜いた。
 ──“神殺しの魔剣”。
「………これは………?」
「──あいつの狙いはこの魔剣だ。これは決してあいつに──あいつらに渡すわけにはいかない」
 言って、少年に剣を手渡す。
 ただ逃げろといっても、正義感、もしくは義侠心の強そうなこの少年は、きっとできない。
 なればこそ、これを守って、届けて欲しいと──そう言い換えればきっと、断らない。
 そう、思った時──
「あら、あんたが持ってたんだ」
 魔王が、少年に手渡した剣を見て嗤う。
 ──この魔王は、自分達には倒せない。
 この“闇夜の魔女”は力はそれほどでもないが、満月の夜でしか倒されないという、妙な因果律を持っている。今日はあいにく、新月だ。
 ──因果律を破る剣を手にしながら──
 男は歯噛みする。だが、この魔剣は自分達には扱えなかった。
 ──魔剣は、自ら主を選ぶ。
 そうして、その主にしか、己の真の力を示さない。
 男の葛藤など知らぬげに、魔王は少年を惑わす言葉を紡ぐ。
「ねぇ、お兄ちゃん。それ、あたしにくれたらあんただけは生かしてあげても──」
「──《ヴォーテックス》!!」
 言いかけたその言葉を遮って、掲げた手から漆黒の闇を放つ。
 同時に、少年を背後に──魔王から引き離すように突き飛ばす。
「その剣を輝明学園の校長の元へ! 彼なら事情を察してくれる!」

64:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 11:58:21
 少年は二、三歩たたらを踏んで、何とか踏みとどまると、男の言葉に頷きかけ──硬直する。
「何をしている! 早く行け!」
 焦れて、促すように叫ぶ。少年は我に返ったように駆け出そうとして──再び、踏み止まった。
 その瞳が、何かに気づいたように、見開かれる。
「──冗談じゃねぇ………」
 呻くように、少年が言う。
 ぎりっ、という音と共に、手渡した剣の柄を握り締めた。
 真っ直ぐに、射抜くように、闇から再び現れた少女を睨み据える。
 そうして、先ほど男を気圧した言葉を、叫んだ。

「怪我人放って、ただ──逃げられるかぁ───ッ!」

 絶叫と共に、少年は今度こそ駆け出す。

 ──倒せるはずもない、魔性へと向かって。

「──止せ、無茶だ───ッ!?」
 叫びかけた、男の声は、

 少年の手元から放たれた赤い紅い閃光に、遮られた。


65:NPCさん
08/10/14 12:12:09
しえん

66:NPCさん
08/10/14 12:16:07
規制・・・? 支援

67:NPCさん
08/10/14 12:22:45
もひとつ、おまけにしえん。

68:NPCさん
08/10/14 12:42:51
さるさんかな?
支援しとく。

69:mituya
08/10/14 15:44:41
規制食らった後に寝落ちしました(汗) すいません、中途半端に切って(汗)

続き、いきます!

70:NPCさん
08/10/14 15:45:36
あいよっ!

71:mituya
08/10/14 15:46:48
 手にした剣の柄から──そこに埋まった宝玉が閃光を放った。
 途端、どこか冷たく拒むようだった柄の感触が、手に吸い付くように馴染むものへと変わる。

「──なに!?」
 目指す少女が驚愕の声を漏らした。
 ついで、慌てたように掲げた手に光を集わせる。

 ──しかし、そのどちらも構わず、柊は走る。

 少女の──少女の姿をした魔性の手から、己目掛けて光が放たれる。しかし、不思議と恐怖も焦りも心に生まれない。
 凪いだ心に湧き上がるのは、一つの言葉。
 ──右に──
 湧き上がった言葉に従い、僅かに進路を右にずらす。光は彼が先ほどまでいた空間を空しく灼いただけ。
「──このっ!」
 むきになったような声と共に、魔性が次々光を放つ。
 その度に柊の胸に言葉が湧き上がり、それに従えば、光はどれも空しく虚空を灼くだけ。
 その胸の言葉は、もしかしたら柊自身のものではなく、手にした魔剣のものかもしれなかったけれど──手にしっくりとなじんだその刃は、既に彼の一部で。
 だから──どちらにせよ、同じこと。
 “彼”のうちから来る言葉に、変わりはない。

 その言葉は命じる──彼の魔性を斬れ、と。
 その言葉は告げる──自分ならできる、と。

 だから、柊はその言葉に従って、地を跳んで、地に突き刺さった残骸を蹴り上がり──虚空に留まる魔性へと飛ぶ。

「──ば、ばかな───ッ!?」

 驚愕に満ちた、その声ごと──

 振るった刃は、その魔性を断ち斬った。


72:NPCさん
08/10/14 15:48:22
なんか煮えたセリフ支援でもするべきかしら支援

73:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 15:48:26
「──彼(か)の魔剣が、主を選びましたか………」
 部下の報告を受け、アンゼロットは小さく呟いた。
 穢れを知らぬかのような銀の髪、清楚な面立ち。あどけなさを残した容貌ながら、そこはかとない威厳を纏う少女は、一つため息を吐く。
 “神殺し”の力──それが、ウィザードの側の手に入ったのは喜ばしいこと。
 しかし──
「──その少年、あなたはどう見ましたか?」
 アンゼロットの言葉に、その少年と直接話したコスモガードのウィザードは、一言。
「愚直──ですね」
 笑って言う。
「退けといわれて退けない、転じろといわれても前しか向けない。後ろに、守るものがある限り──そんな印象でした」
「──そう………」
 アンゼロットは頷いて、苦笑する。
「その性格では、ロンギヌスには向きませんね」
 ロンギヌスはアンゼロット直下の精鋭部隊、アンゼロットの命のまま、アンゼロットの意のままに動く手足。
 その言葉に、男は笑う。
「では、うちで引き取っても構いませんか?」
「ええ──その代わり、こちらの協力要請には応じてくださいよ?」
「勿論です、白鳥氏にも異はないでしょう」
 日本支部代表の名を上げて、男は笑って快諾する。
 あまりにもにこやかな男に、アンゼロットは少し意地悪げに言う。
「そんなに喜んでいていいのですか? 彼の“裏切り者”が残した剣、いかにその少年が真っ直ぐでも、いつ主を惑わすかも知れませんよ?」


74:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 15:49:17
「彼は、何かに惑わされるようなタマじゃないですよ」
 あっさり返されて、アンゼロットはため息を吐く。
「随分、買ってますのね」
「命の恩人ですから」
 笑って、男はふと思いついたように言う。
「そうだ──彼に、二つ名を考えてあげようと思っているんですが………何か、いい名はありませんか?」
 問われて、アンゼロットは軽く目を見開き──どこか悪戯げに笑って、答えた。

「では──“裏切りのワイヴァーン”、と」

「──それは………」
 男は一瞬目を見開いて、笑う。
「では、そうしましょう。──しかし、アンゼロット様も存外皮肉屋ですね」
「あら、失礼な。同じ轍を踏まぬよう、訓戒のつもりですのに」
 さも心外、といえば、男は苦笑して、
「そうですか──では、私はそろそろ、失礼いたします」
「ええ、また」
 アンゼロットの言葉に送られて、男は退室する。
 残された幼くも麗しい姿の女神は、一人、目を伏せる。
「──“強くなって、戻ってくる”………ですか」
 “裏切りの飛竜”が遺したという言葉。
 五百年前のその事件に、アンゼロットは関ることがなかった。だから、その男がどんな人間だったのか知らない。
 だから、他の者が言うように、その言葉は怨嗟の声だと思っていた。

75:NPCさん
08/10/14 15:50:16
なにしてんだコイズミww支援

76:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/14 15:50:21
 けれど──

「あなたが求めた強さは、他者に打ち勝つためのものではなかったのかもしれませんね………」
 呟いて、銀の女神は謳うように告げる。
「──“裏切りのワイヴァーン”よ、裏切りなさい」

 ──彼(か)の言葉を、怨嗟と聞いた者達を──


 魂は、再び巡る。時は繰り返そうとする。
 それでも──

 一人の男が定めた決意が──
 二人の娘が遺した剣が──

 ──未来を拓いて、変えてゆく。



Fin.


77:NPCさん
08/10/14 16:08:59
しぇん

78:mituya
08/10/14 16:11:46
終わった………(ガクリ)
これにて、“裏切りのワイヴァーン”は終わりです。本当に長々とありがとうございました。
色々タイトルミスやら、誤字やら脱字やらありますが、楽しんでいただけたなら幸いです。

んで、一応裏話的なことを、ちょいと。
書き始めにも言いましたが、この作品は、このスレのその1にあった
“夢物語”“らむねと~”の作品に感動して書き始めました。
でも、話の種は脳内にその前からありました。あわせみこのリプレイを読んだときから。
GMきくたけさんの、「飛竜の印象は柊に被る」というのがきっかけでした。

印象が被る、というのは、他人じゃないということ?
つまり、飛竜=柊の可能性もあり? そう思えば、翠が柊にラブラブなのもマジで神子様が飛竜に惚れてたんじゃ………?
じゃあ、時雨があんなに柊に殺意を向けるのも前世からの嫉妬とか………!

ってな感じで膨らんだのがこの話です(笑)

あと、ナイトウィザードのテレビゲームのOPの曲が、イメージソング。
「いつか変わる未来が 居心地をよくすると信じてる この先が地獄でも」
このフレーズは、かなり、キました………

まあ、語るのはこの辺で。少しでも、この作品が皆さんに何かを残せたなら幸いです。
最後に、支援、感想をくれた皆さんに心から感謝を!
では~~~~~!

79:NPCさん
08/10/14 16:17:34
魔剣使いは魔剣を持った瞬間から戦士。しかし、このss時空だと柊は最初から注目されてたんですね。
で、二つ名を授けたのはアンゼロット。…そうか、最初からこき使う気満々だったわけか。
ともあれお疲れ様でした。良い話だったと思います。

80:NPCさん
08/10/14 16:22:55
終わってたのに支援って…ハッズカシー俺(゚∀゚) 

お疲れ様でした、今はその体を休める事だけを考えてください…特に左手の方ご自愛をば。

決して逃げない愛すべき馬鹿の手に神殺しが渡り(いや、決まってることですが)、
せめて救われた…と思いたいっす。

81:夢物語・らむねとの中身
08/10/14 18:54:38
では。長編の完結を祝ってわたくしもあえて名無しのカラを脱ぎましょう。恥ずかしいけども。

>ひりゅーさん
お疲れ様でした。ゆっくり休んでいってね(言葉まんま的な意味で)!
あはは。わかります、発想は自分も同じですので。
同じもとから派生した、まったく違う二つのお話のストーリーがあるっていうのは、なんだかTRPG的で素敵ですね。

……後からこんなすごいの出されると自分的には小一時間ほど部屋の隅っこでさめざめと泣きたくなりますが(壁に向かって独り言中)。

まぁ。『夢物語』は飛竜の話っていうより翡翠の話なんですが。まさか飛竜の話が読めると思わなかったなー当時。
人へのレス返しでやることじゃないが相違点を書いておくと
・『かえで』は『楓』と違って星の巫女ではないとか
・飛竜を殺す相手とか
・京子姉ぇは実は……だけど柊はそうじゃないとか
・最終的に『かえで』の方は赤羽神社の始祖だったりします。『ずっと待っててあげる』の約束は果たされた形になります。だから文献残ってた。
……とかかな?いや、本当にどうでもいいんだけど書いた本人が混乱してきたんで(汗)。

ひりゅーさんの書く物語は情景がとても綺麗でした。丁寧な描写で、最後まで突っ走るとこうなるんだな的な感じの。自分はタメができない性分なのでうらやましい。
またひりゅーさんの書いたお話が読んでみたいです。
大丈夫ですよ。ものっそ恥ずかしい言葉で言うと、あなたに自分(一人称)の書いたもので何かしらの衝動が起こせたように、きっとそれは誰かに伝わってるはずです。
このできたてのスレに素晴らしいお話をありがとうございます。住人の一人としてお礼申し上げます。
と、とりあえず腕はちゃんと治さないとダメですよ(照)?

ではまたここで、あいましょう。

82:NPCさん
08/10/14 22:26:14
GJGJGJGJぐっじょーーーーーーーーーーーぶ!!

もうね、今までの積み重ねから、満を持して放つ>>61の流れに、
もう全身トリハダ。

83:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/14 23:46:30
>>三ツ矢氏

裏切りのワイヴァーン、完結おめでとうございます。
いやはや凄い作品を読ませていただき感謝の極みです。
500年前からの悲劇、その物語をこれほどまでに感動的に仕上げられるともうぐーの根も出ません。
GJ! その一言だけですねw
どのキャラクターも輝いてましたw

しかし、碧き月の神子……昔はあんなにまともだったのに、今はあんな三下(ぉ)
涙が止まりませんw


感慨深い作品をありがとうございました。
うー羨ましい。
こっちはこじんまりとした内容ですので、壮大な話も書いてみたい!
ああ、けどまだ書いている途中だから出来ない!(苦悩)
などなど思いつつ、次回作を楽しみにしてます。頑張ってください。

描写が丁寧で憧れます。

84:ゆにば
08/10/15 00:42:12
別板での投下を昨夜ようやく終えて、一息ついた今夜顔を出してみたら…なんというレスの伸びだー!?
こ、これは私もこうしてはおれんっ(なんでだ)。投下に参上でございます。
>泥のお方
あなた、なんというバイタリティーですかっ!?連投に次ぐ連投、でも決して崩れぬクオリティ。
ほんと、頭下がる思いですよ…どこの板のどこの作品でも、キャラ立て上手いし、こいつは見習わなければ、と身が引き締まります。
>みつやんさん
誰もまだ言ってないから言わせてください。
なんか、アンゼロットがすてき。まるで世界の守護者のようじゃないかっ!(笑)
いや冗談はさておき、全知ゆえのしたたかさ、とか、カッコよさ美しさがそこはかとなく
感じられて、イイですね。ギャグ担当じゃない、シリアスアンゼも好きー。
ちょっとしたら投下させていただきマース。
ではでは。

85:NPCさん
08/10/15 00:52:51
あぁ……やっぱりここか(苦笑)。
向こうではなんか勘違いされてたみたいだけど、待ってたよエリス大好きな兄さん。昨日はお疲れ様。
つーか掛け持つ人多いねここ(苦笑)。前スレでは一日に100オーバーの絨毯爆撃かました翌日に投下しにきた人がいたっけか。

……ん?つーかひょっとしたら兄さんの柊vs隼人があっちで拝めるかもってこと?
うわ。ぐだぐだブクロも楽しみだがそっちも期待していいのかな(苦笑)?

86:ゆにば
08/10/15 01:00:47
 雑踏と喧騒の街を歩く、少女が二人。
 通行人たちの視線を、自覚も意識もないのにぐいぐいと引きつけながら往来を闊歩する。
 身に纏った服はメイド服。ここアキハバラではさほど珍しい光景ではなくなったのかもしれないが、ひときわ人目
を引くのはその服装のせいではない。メイド服の中身が ―― そろってハイグレードの美少女二人であったか
らである。
 ひとりはとても小柄な少女。左眉の辺りで前髪を留めたピンが質素なアクセント。唇も鼻も造りはちっちゃいが、
瞳は大きくとってもつぶら。華奢な身体に黒いメイド服がしっくりと収まり、純白のフリルつきエプロンが、その愛
らしさをことさらに強調しているよう。時折、頭の上のこれまたフリルつきカチューシャを、「んしょんしょ」と直してい
るのは、見栄えが悪くないかどうかを一生懸命気にしているせい。その度に、自分の背後を歩く連れの、すらりと
した姿を見上げるようにして、
「ねえ、おかしくないですか ? 私、変じゃないですよね、智世さん?」
 そう、何度となく尋ねるのであった。それはまるで、これから恋人に会うのに何度も身だしなみを整えるデート前
の女の子のようであり。智世さん、と呼ばれた背後の少女は問われるたびにニコリと微笑を浮かべ、
「大丈夫です。可愛いですわ、結希さん」
 そのつどそうやって、小柄な少女 ―― 薬王寺結希を安堵させるのであった。
 彼女こそが、かつて北国のとある町のとある支部で、『全滅支部長』『死神支部長』の異名を(不本意ながらも)
欲しいままにした、UGNきっての天才少女である。現在は新設されたアキハバラ支部において、陣頭指揮を取る
立場にあった。
 社会の裏から表舞台に進出を開始した敵対組織ファルスハーツ ―― 通常、レネゲイド犯罪と呼ばれるテロ
行為の立役者となることが多い ―― の新たなるプロジェクトを頓挫させるため………という名目で創設された
はずの新支部は、上層部の趣味とこの街の独特な空気が絶妙なコラボレーションを産み出した結果、なぜかは
知らぬが世を忍ぶ仮の姿として、『メイド喫茶』というカモフラージュをするに至った。


87:ゆにば
08/10/15 01:01:29
 支部で活動するエージェントやイリーガルは、女性はメイド、男性はウェイターという仮初めの姿に身をやつし、
日々、卑劣なる悪党どもの野望を挫くため、日夜『お帰りなさいませご主人様』の発声に余念がない(?)。
 結希も、本来の任務がないときは喫茶ゆにばーさるのマスターメイドとして働く日々を送っていた。
 天然、小動物系、どじっ娘という三種の神器を備えた可愛らしい店長さんの、人気はとても根強かったりする。
「ほんとですか……… ? ケイトさんに笑われたりしませんか……… ?」
 眉毛を八の字にして頬を染め。結希は、やっぱり不安げに智世に尋ねる。
 智世と呼ばれた少女は、結希の斜め後ろにつかず離れず、一定の距離を置いて彼女に同道している。
 結希と比べて背が高い。後ろで一本に編んだ豊かな長い黒髪を肩口から前へと垂らし、その口調や物腰を見
るならば、彼女がメイド服を身につけているのが至極当然に思える、優雅な立ち居振る舞いであった。
 もっとも ―― 鋭く細められた瞳に時折宿る殺気に、気づかなければの話ではあるのだが。
 頚城智世。喫茶ゆにばーさるに勤めるUGチルドレンの一人であり、マスターメイドである結希にどういうわけか
首ったけな、ちょっと危険なメイドさんである。
「大丈夫ですわ。もし、ケイトさんが結希さんを笑ったりしたら、私が叱って差し上げます」
 唇の端をひくひくさせて。こめかみにかすかに青筋を立てながら。
 智世は結希にそう言った。
 これは彼女にしてはとても控え目な表現であり、結希の前でもなければ、
「もし、ケイトさんが結希さんを笑ったりしたら、あの××野郎の■■■を▲▲して、●●●してやりますわ」
 とでも口走っていたところである。


88:NPCさん
08/10/15 01:02:07
支援を。

89:ゆにば
08/10/15 01:02:50
 本日何回目かの、智世の「大丈夫ですよ」に、ようやくほっとした表情を浮かべる結希。
 小首を傾げながら「えへへ」と照れ笑いをして、薄い桜色に頬を染めながら、両手の指をもじもじと組み合わせる
なんともいえない仕草(智世にとって)で、
「ケイトさん………」
 無意識のうちに、そうつぶやくのであった。
 ふと ―― 智世がくるり、と背後を振り向く。
 口元を手で押さえ、うつむき加減になりながら。肩がぷるぷると小刻みに震え、呼吸を乱し始める。
「はにゃっ !? ち、智世さん、どうしましたかっ !? 具合でも悪いんですかっ !?」
 特徴のある “鳴き声” を上げ、結希が智世に駆け寄った。
 うつむいてもなお届かない智世の背中に、背伸びをして手のひらを置き、優しくさする。
 なでなで。なでなで。
 智世の身体が「びくん」と跳ねた。
「はにゃっ !?」
「へ、平気ですわ、なんでもありません。ただちょっと………」

 ただちょっと、結希さんの愛らしさに身悶えていただけですわ ―― とは、さすがの智世も口にはしない。

(檜山ケイト………結希さんにあんな貌をさせることのできる男………憎らしい………)
 結希に背中をなでなでされる至福に身を任せながらも、思い浮かべてしまうのはあの少年 ―― 檜山ケイト
のどこか頼りなさそうな顔である。


90:ゆにば
08/10/15 01:03:41
(ああ………組織の命令でなければ………いいえ、あの男が結希さんの想い人でさえなければ………)

 こんな事態、全身全霊をかけて阻止してやりますのに ―― 智世は憂鬱な思いに、身をよじるのであった。



 事の発端は些細なこと。
 三週間ほど前からの、人によっては気づくことさえない微細な違和感が、すべての始まりであった。
 その違和感に最初に気がついたのは、一人の女性。
 無機質なスチールテーブルに座って事務仕事をてきぱきと片付けながら、濃い色のサングラスの奥で見えない
はずの双眸がキラリと光る。手にした書類の束を丁寧に机の角にそろえて置くと、コホンとひとつ咳払いをして室
内の中央に顔を向けた。
「 “リヴァイアサン” 」
 呼びかけた声に、一人の壮年の男がゆっくりと振り向く。
 清潔に刈り込んだ髪を整髪料で油断なく整えた長身の男。瞳に湛えた穏やかな色は、大人の男の余裕と度量
の深さを物語るようである。手にしたティーカップをゆっくりと持ち上げ、湧き上がる香気を満足げに吸い込むと、
かすかに眉をひそめながら、自分に呼びかけた女性にこう、応じる。
「なんでしょう、 “フロアマネージャー” ?」
 ここでは、自分のことを『コードネーム』で呼ばないで頂きたい ―― そんなたしなめをこめた口調である。
 いまの私はただの霧谷雄吾。喫茶ゆにばーさるの営業サポーターにすぎませんよ、と。


91:NPCさん
08/10/15 01:04:11
しえ

92:ゆにば
08/10/15 01:04:31
「失礼しました。霧谷さん」
 苦笑を漏らしながら、サングラスの女性が訂正する。そう。私もいまは、ただの鈴木和美 ―― ゆにばーさる
のフロアマネージャー、渉外担当兼一メイドにすぎないのだ。 “謎の女” のコードネームも、ひとまずは棚上げに
しておこう、と。
「いえ、お気になさらずに………では、伺いましょう。なんでしょうか、改まって」
 話の続きを促す霧谷に、和美は形の良い眉をひそめてみせた。つい口に出してしまったが、これを報告するべ
きか。いや、そもそも報告するほどのことなのだろうか、と迷っているようでもある。溜息混じりにかぶりを振ると、
「たいしたことではないかもしれないのですが………」
 そう前置きした上で、彼女の現在抱えている懸案項目についての報告を始めたのである。



 和美がそのことに気がついたのは、ゆにばーさるの営業も終わった深夜、ひとりで店舗の棚卸し業務を黙々と
行っているときのことであった。メイドやウェイターたち、そしてコックに至るまで、とにかく徹底した備品管理を行う
ように指示を徹底していた甲斐あって、スプーン一本、布巾一枚ですら在庫確認の取れているゆにばーさるでは
(こういう細かい管理の基本ができていないと営業者としては失格なのだ)、こうして週に一度、和美自らが在庫
チェックを行っている。


93:ゆにば
08/10/15 01:05:27
 帳簿と備品の現物を付け合せ、その数量誤差がプラスマイナスゼロであることに満足した和美が、従業員たち
からの『購入・補充希望備品リスト』に目を通し始めたとき、その違和感に気がついたのである。
「あら………」
 深夜の備品倉庫で、和美が不審の声を上げる。
 
『スプーン八本。コースター二十枚。カップ十個。テーブルクロス五枚。花瓶一個。ポット一個。以上、補充予算の
割り当てをお願いします。ごめんなさい。          ゆき』                   

 店長の薬王寺結希の筆跡で書かれた、補充希望品のリストであった。
 ぱらぱら、と帳面をめくり、他の従業員たちからの希望品にも目を通す。

 ………………………。

 すべてのメイド、ウェイターが、破損等の理由で購入依頼を提出している総数よりも、結希ひとりのリスト記載数
がはるかに多いのである。一応のルールとして、店内の備品を自分のミスで壊したり汚したりした場合、このリス
トには、当人が責任をもって補充依頼を出すこと、というのがゆにばーさるの不文律である。
 つまり、今週だけでこれだけ、結希がダメにしてしまった店内の備品があるということだ。
 なにかに思い至ったように、過去一ヶ月のリストをチェックし始めた和美が、唇に指を当て思案深げな表情を見
せたのは、それからわずか十数分後のことであった ――


94:NPCさん
08/10/15 01:05:28
支援、いたしますわご主人様

95:ゆにば
08/10/15 01:06:14


「ふむ………天然系どじっ娘メイドの面目躍如――というところですね」
 和美の話を黙って聞いていた霧谷が、我が意を得たりというように手を鳴らし、無駄にカッコいい声でそう言っ
た。いや、いくら渋い声で言ってもダメでしょう、と内心でツッコミ。
「各週ごとに、破損品が増えているんです。結希さんの天然ぶりはいまに始まったことではありませんから、前か
らも毎週一つや二つは備品の補充はしていました。ですが、ひとりで週四十個以上というのは ――」

 ちょっと、ただごとではありません ――
 和美はそう言って口をつぐんだ。

「なるほど。喫茶店の営業はともかく、我々の本来の任務にまでその不注意が及ぶようなことがあれば問題だ、
と貴女は言いたいわけですね」

 なかなかどうして。喫茶店で紅茶ばかり淹れちゃあ飲み飲みしていて、すっかり昼行灯が身についたかと思っ
たが、和美の言いたいこと、危惧していることはキチンと把握しているようである。

「ええ。気になって、私も先週一週間、彼女の様子を影から窺っていたんですが」

 和美の報告によれば、その週の結希の様子はそれはもう惨憺たる有様だったようである。


96:ゆにば
08/10/15 01:07:01
 歩けば転ぶ。転べば、その被害は自分ひとりにとどまらない。備品をひっくり返すわご主人様(お客様)の足は踏
むわ、同僚と正面衝突してトレイをひっくり返すわの大騒ぎ。こんなものはまだ序の口で、一番ひどかったのは結
希がキッチンでボヤを出しかけたときであった。
 それは、結希がゆにばーさる人気メニューのひとつ、『愛情たっぷりメイドさんのオムライス』を作っている最中の
こと。
 フライパンを火にかけたまま突如として “放心” してしまった結希が、卵を焦がしていることにも気がつかず、そ
のままの姿勢で十分間、硬直していたという ―― はたから見れば不可解極まりない状況が起きたのだ。
 結希が放心状態から覚めたのは、同僚のウェイター ―― 上月司が、水の入ったバケツをキッチンにぶちま
けたそのときだった、というのだから呆れ返るより他がない。
「おいおい、支部………じゃなくて、店長、しっかりしてくれよな。 “伝説のコック” はウチの馬鹿兄貴だけで十分
だぜ」
 そのときの司の言葉が、結希にどれほどの衝撃を与えたのかは推して知るべし。
 型破りと破天荒を突き抜けて、常識の枠をはみ出した司の兄と比較されたことがよほどのショックであったのだ
ろうか。

 その日のゆにばーさる店内に、結希の「は、はにゃあぁぁ~~~っ !(泣)」の声が、閉店間際まで鳴り響いて
いたという ――


97:NPCさん
08/10/15 01:07:23
援護を、射撃です支援

98:ゆにば
08/10/15 01:07:49


 事態は思ったより深刻そうですね ――

 和美から事の顛末を聞き終えた霧谷が、重々しくそう言った。
 どじっ娘メイド萌え、などと呑気なことを言っている場合ではないことは明白で、
「申し訳ありませんが、薬王寺店長の不調の原因を、それとなく探ってはもらえませんか」
 と、霧谷は正式に和美へと依頼したのであった。
「ええ、もちろん。私もそのつもりでした」
 和美の返答に淀みはない。
「ですから、できれば霧谷さんにも立ち会っていただいて、彼女から話をきいてみようと思うのですが、いかがで
でしょう ?」
 サングラスの下の瞳がかすかに笑ったようだった。そう言って指し示した扉をノックする音が、見事なタイミング
でそれに重なる。
「どうぞ。お入りなさい」
 和美の入室許可を得て、扉の向こうの人物がドアを開けた。

「失礼いたしますわ」

 UGチルドレン。喫茶ゆにばーさるのメイドの一人。
 どことなく剣呑なオーラを身に纏いながら、頚城智世が入室した ――


99:ゆにば
08/10/15 01:08:30


 ああ。
 あのとき和美さんに呼び出された結果がこんなことになろうとは。
 いまさらながらに、智世は自分の迂闊さ加減を呪っていた。
 あの日、和美に呼ばれて店舗内の事務所に顔を出したとき、霧谷雄吾までが揃って自分を出迎えたことへの
不審はあったのだ。いったい、なんの用事で呼ばれたのであろう。久しぶりの、『組織』としての仕事ではないだ
ろうか。そこまで気負っていたところに、

『最近、結希さんの様子がおかしいことに、貴女は気づいてる ?』

 と、こうきたのである。
 拍子抜けした、というのが正直な感想だった。
 しかし、ここ何週間かの結希の異変に気づいてヤキモキしていた自分が、ここへひとり呼ばれ、そんな質問を
受けたことで、
「そうか。和美さんが私を呼んだのは、結希さんのことだったのか」
 そう納得した。納得したと同時に、和美がそのことで自分に声をかけたことに、少なからず自尊心をくすぐられ
たとしても、誰が彼女を責めることができるだろう。結希さんを、ゆにばーさるで最も気にかけている自分、最も
観察している自分、最も愛でている自分、最も………キリがなくなるのでもう止めにするが、とにかく彼女のこと
で相談を持ちかけるのならば、店内広しといえども自分以外にいないと認められたような気がしたのである。


100:NPCさん
08/10/15 01:08:38
しえんなのですー!

101:NPCさん
08/10/15 01:09:07
支援。うわーだめだー。

102:NPCさん
08/10/15 01:10:03
そこは俺の領域だ(いい気になってる) 支援!

103:NPCさん
08/10/15 01:15:14
あー……規制はいったな、たぶん。
経験上、ここ二回ごとに支援入れても10投でさるさんだし。

104:NPCさん
08/10/15 01:17:57
さるさん規制の回避方法
つ OO分ごとにリセットされるので、大量投下の場合50分頃から投下開始するといいです。
それと投下は二分ごとに行うとさるさんが着難い。

最後に、この板だと知らんが特定数以上の書き込みで一時的に解除される場合もあります。
というわけで、ワーディング支援!


105:NPCさん
08/10/15 01:20:50
>>104
ほー……二分ごとの法則は知らなんだ。勉強になるなあ

っつーわけで規制解除願い支援

106:NPCさん
08/10/15 01:24:20
しえんー

107:NPCさん
08/10/15 01:26:14
つーかここ今何人いるんだww

108:ゆにば
08/10/15 01:28:46
 だから。
 よせばいいのに喋った。喋ってしまったのである。
 このところ、結希の元気がない理由。なにをするにも上の空な理由。いつも以上のどじっぷりを発揮してしまう
理由。
 いつもなにかにつけて結希のことを気にかけ、彼女にべったりな智世であればこそ、知りえた事実。
 それは ――

『最近………ケイトさんと連絡とってないな………』
 ぽそり、とこぼれたそんな言葉が思い出される。
 ある日のお昼の休憩室、智世と二人きりの昼食を済ませ、食後のお茶を飲んでいたときのことである。
 結希が、その手で可愛らしいピンク色の携帯電話をころころと転がしながら、すごく淋しそうにそんな独り言を
漏らしたのであった。
『ケイトさん、と………ですか』
『………声、聞いたのいつだったかなぁ………メールも、最近はやり取りしてなくて………』
 ふにゃふにゃと頼りない泣き笑いのような笑顔で、結希が言う。
『そ、それなら結希さんのほうからかけてみたらいかがです ? ケイトさん、そういうことはマメになさらない方の
ような気もいたしますし』
 そんな、敵(ケイト)に塩を送るようなことを言ってどうするのか、と思わないでもなかったが、目の前でこんな淋
しそうな、雨に濡れた仔犬のような結希の様子を見て「あ、そうですか、ふーん」で済ませることが出来る智世で
はない。ついつい、親身に乗って相談に乗ってしまうところが、彼女の業の深さといえようか。


109:NPCさん
08/10/15 01:30:25
あ、ここも支援解除あるんだ支援

110:ゆにば
08/10/15 01:30:33
『でも、こっちからかけるのは………うーん………なんだか緊張しちゃうんです。任務を手伝って欲しい、とかい
う連絡なら出来るのにな………おかしいですよね、私』
 些細なすれ違いで、ちょっと疎遠になり始めると、普通に連絡を取ろうとするのでさえ躊躇われてしまう ――
不思議と、そういうことはあるのである。
『もう、どれくらい会われてないんですの……… ?』
『んー………一ヶ月近い、ですかねー………』

 びしぃいいぃぃぃっ !!

 智世のこめかみに、太い血管が浮き出た音であった。

(あの▲×■野郎………)

 智世の心中に、憤怒の表情を浮かべた不動明王だかなんだかのような物騒なもんが浮かぶ。
 一ヶ月 !? つまり檜山ケイトは一ヶ月もの間、結希さんをほったらかしにしているということなのか !?
 彼女が元気がないのも当然だ。上の空なのも頷ける。
 いままで、気に入らないと思っていただけのケイトに、このとき初めて智世は『殺意』のようなものを抱いたので
あった ――


111:NPCさん
08/10/15 01:31:23
卓ゲー者は1人見たら30人はいるのさw
完全獣(けだもの)化 支援!

112:ゆにば
08/10/15 01:31:22


 ………というようなことをぺらぺらと和美の前で話してしまったのが、智世の失敗である。
 智世の憤りの告白を、なぜかニコニコしながら聞いていた霧谷が、
「そうですか。それなら話は早いでしょう」
 と、今回の一件に関する手続きすべてを済ませたのはその当日のこと。
 まさしく電光石火、有無を言わせぬ段取りの早さであった。
 つまり。
 結希がケイトと会えていないことで落ち込んでいるなら。
 強引に会わせてやればいい、と。

「そうだ。それだと公私混同だと言われてしまいますから、檜山ケイト君を正式に、この喫茶ゆにばーさるへ迎え
てしまうというのはどうでしょうか。UGNから、イリーガルへの正式な依頼ということにして」
 智世が口を差し挟む余裕などこれっぽっちもなく、あれよあれよという間に事態は進展していった。
 霧谷発、和美経由で『仕事の依頼』として結希に通達が入ったのは、それからわずか三十分後のこと。
 もちろん、結希がそれを二つ返事で承諾したのは言うまでもなかった。


113:ゆにば
08/10/15 01:32:06
                                                                      


 再び、時間と場所は秋葉原の郊外へと戻る。
 買出し帰りの二人の少女が、それぞれの明暗を心に抱きながらゆにばーさるへと帰着した。
 結希はウキウキと。
 智世は ―― 恐ろしいので割愛する。
 可愛らしい装いの、色とりどりの硝子で装飾されたチャペル付きの扉を、結希が待ち焦がれたように押し開ける。
 きょろきょろと店内を見回した結希の姿を、「なんだか餌を探す仔リスのようだ」と、智世は思った。

 次の瞬間。

「ケイトさんっ」

 たとえるなら、蕾を開いた花。
 たとえるなら、水平線から昇り来る曙光。
 たとえるなら、まあとにかく、そんな感じの超極上の笑顔であった。

「おかえり、結希さん。仕事の話なんだって ?」

 よくもまあ、いままで結希さんが落ち込んでいたことなど露にも知らぬといった風情の太平楽な顔をして。
 檜山ケイトが、店内のテーブルのひとつに腰掛けながら。
 ランチセットをぱくついている姿を、智世は憎々しげに睨み付けたのであった ――

(to be continued)


114:NPCさん
08/10/15 01:32:50
支援一丁!

115:NPCさん
08/10/15 01:33:19
俺の名はブラストハンド! 支援

116:ゆにば
08/10/15 01:33:44
た、大量支援と有難い情報に感謝です……
ここの勝手がまだよくわかってなく申し訳ありません。
>85さま
え、えーと………ひーらぎ、ばーさす、はやと………?
そ、それはきっと別人です………エリスは好きですが(笑)。
それにしてもこんな遅くに援護していただいた皆さんどうもありがとうございました。
次回の投下のときまで。
ではでは。


117:NPCさん
08/10/15 01:38:35
>>ゆにば氏
 お疲れ様でしたー。
 昨日からの投下に引き続き、精力的ですねw
 そして、死亡フラグが着実に立っているケイト乙。
 イ キ ロ。
 はにゃー死神支部長がかわいくてたまりませんw

 伝説の殺し屋とか所持金24円とかもっと出して欲しいと思いつつ、これからさらなる人物達が現れてくるのでしょうね。
 ゆにば氏の構成力に期待してます。
 次回も頑張ってください!

118:85
08/10/15 01:41:56
>ゆにばの方
GJ!智世が全開で素晴らしい。むしろフルスロットルで(さらにアクセルベタ踏みGo)。

はにゃ、人違いでしたか。
なんかタイミング的にそんなこと言ってた方がいたのでてっきり同じ人なのかと。大変失礼しました(猛省)。

では、次回更新を楽しみにしております。

119:NPCさん
08/10/15 03:01:56
>三ツ矢氏
グッジョーっ!!お疲れ様でした、手をお大事に。

>83
…マトモだった因果律も生命と一緒にぶった切られたのでは…w<三下

そしてゆにばは楽しみに続きを待とう。…椿出ないかなぁ… ・w・

120:mituya
08/10/15 08:19:03
ども! 昨日の今日でまた来ました(汗)ものすごくありがたい感想がいっぱいきてるから、まずレス返しです!

>>75さん
返答遅れてすいません(汗) コイズミは完全にネタで出しました(笑)多分きっと、「仮面がなければ即死だった」とかいいながらアンゼ宮殿に帰ってきたんだと思われますvv

>>79さん
そうですね、アンゼこき使う気満々ですねvv(笑) まあ、そもそも魔剣の力を戦力にしようと回収に動いていたわけですしね。

>>80さん
飛竜の絶望と悔恨の果てに、生まれた希望………そういう風なつもりで書きました。
救いが感じ取れていただけたなら、良かったです。

>>81こと、夢物語とらむねの方
あのような素敵な作品をいくつも書かれた方に“すごい”なんていわれると、何かそれこそ、自分悶死しそうなんですが………ッ!///
もし、自分の書いたものが誰かに何かを与えられたなら、本当に嬉しく思います。

>>82さん
この話は、ある意味あのシーンが書きたくて書き始めたとも言えるので、そこで感動していただけたなら、感無量です………

>>83こと泥の方
か、感無量………壮大………/// 過ぎたお褒めの言葉、恐縮です。描写は自分でも力を入れているつもりなので(未熟ですが)、そういってもらえると嬉しいですvv
笹>翠の変化は………貧乏が悪いんです、きっと、全部(汗)

>>84ことゆにばの方
今回は、こぐれろtt………げふんげふん、エキセントリックなアンゼ様には自重いただきました(笑)
たまには女神らしいアンゼ様もどうかと思ったのですが、お気に召していただけて幸いですvv
見切り発車とおっしゃいながら、キャラクターをきちんと立てたお話を構成される構成能力にただただ脱帽です。
はにゃ可愛いですよはにゃvv 続きを楽しみにしています。

>>119さん
ありがとうございます。
………そうか、貧乏じゃなくて、魔剣のせいだったのか………(笑)

121:mituya
08/10/15 08:19:34
と、ついでに、作中に書くつもりで書ききれなかった話を少し。

・飛竜が公の席を嫌ったわけ
本当は、【神子に生まれし~】の会話シーンで飛竜自身に語らせるつもりだったのですが、巧く入れられず………(汗)
彼が公の席を嫌ったのは、そこで楓に向けられる、“星の巫女”に対する言葉を聞いて、自制できる自信がなかったからです。
どんな美辞麗句でも、それが“星の巫女”に対してのものである以上、楓にとっては重荷になり得る言葉。
それを聞いて、怒鳴らずにいられる自信がなく、またその行為が楓の意思を踏みにじるものであるから、彼は公の席を避けていたのです。

・ベル様登場の理由
突然出てきた、といいましたが、本当に直前まで出す気はありませんでした。
もともと、村への襲撃は金色の狂言──配下の侵魔に村を襲わせ、出てきた里の人間が聞きに陥ったところを助け、
それによって里に入り込む口実を作るもの、だったのですが──
よくかんがえたら、生半の侵魔じゃ、飛竜が返り討ちにするんですよ(汗)
んで、魔王級を出そうとして──ルー派の魔王のキャラがいまいちつかめなくて(汗)
じゃあ、いっそのこと、ベルがルーの計画を潰そうと、里の戦力を分断するために行ったもの、ということにしようと。
そんなわけで、あのベル様は、ルーの計画潰すつもりが寧ろ計画の手助けをするというポンコツぶりを発揮することになってしまったのでした。

まあ、こんどこそ、語るネタもつきましたので、休ませていただこうかと思います。
以前ちらりと語った“柊くれはほのラブ(仮)”は、またいつか………
本当に、皆さん、温かいお言葉をありがとうございました。
では、お休みなさい………

122:NPCさん
08/10/15 22:08:49
とりあえず保管庫ぽいのを作ってみました。
まだ初代スレ分しか纏まってません。
てか初代スレ編集してたらSAN値がごりごり下がってく罠・・・

URLリンク(www20.atwiki.jp)

123:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/15 22:15:05
どうも泥ゲボクです。
二十分ぐらいから、迷錯鏡鳴 鏡の巻(終の巻は後ほど)を投下してもよろしいでしょうか?


124:NPCさん
08/10/15 22:19:04
>>122
おつです。

一応参考までに自分が知ってる部室シリーズ
1:URLリンク(trpg.h.fc2.com)(※18禁、地下スレ)
2:(作品スレ)
3:URLリンク(jbbs.livedoor.jp)(駄コテ板)

125:NPCさん
08/10/15 22:20:28
>>122
あなたが神か。
うわ。1スレ目に書いた身としては、「夢が現実になっちまったよどーすんだオイっ!?」的な感じ。
うわすげー。神様がいるー、具体的には神様にごほーし(リクエストSS的な意味で)しろと言われたらしたいくらいの感謝の心。ありがとう。

>>123
らじゃ!待ってる!

126:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:24:11

 宿縁というものがあるのならばこの瞬間に生み出されたのだろう。
 その日、奇なる理由において対峙する二人。
 忍者―斉堂 一狼。
 龍使い―藤原 竜之介。
 異なるスタイルの二人、顔すらも昨日まで知らなかった二人が殺し合いを行うなど誰が想像しようか。
 推測出来ぬ。
 予想し得ない。
 されど、その二つのスタイルを見合わせて、その対峙の様相を見ればおそらくは宿命だったのだろうと感嘆のうちに告げるだろう。
 それは何故か?
 求めるものは同じであれど、道を違えた決して相容れぬ流派だからである。
 忍者。
 それは古来から伝わる技巧術、鍛錬術、薬学、或いは精神操作によって越常の身体能力と技巧を手に入れたウィザードの一派。
 肉の伸縮、骨の繋ぎ、皮膚の硬度、血流の勢い、それら肉体のポテンシャルを尋常ならざる鍛錬の果てに、血反吐をぶちまけて、臓物が裏返り、肉が裂け、血が滲み出るような修行をこなし鍛え上げ続けるある種の狂人。
 指先一本で崖を登り、つま先のみで天井にぶら下がり、その一足にて風をも追い抜かす超人である。
 武術家ではなく、武道家でもなく、それらはつまるところの技巧者。
 殺すための、仕えるための、要求に応える為の、不可能を可能とするべく鍛錬を重ねるもの。
 その思想は中国武術における外家功夫に近い。
 身体能力の精錬に、技の研磨を主な修練とする“剛”の武術である。
 数多く知られる中国武術はこれに属していた。

127:NPCさん
08/10/15 22:26:01
支援にゅ

128:迷錯鏡鳴 鏡の巻
08/10/15 22:39:23
 それに対して、龍使い。
 それも九天一流は外家功夫ではなく、内家功夫に属していた。
 外家が肉体の鍛錬を主にするに対して、内家は心を精錬し、心技を極めることを修練とした“柔”の武術である。
 ただ単純に肉体を極めれば力が手に入る外家と異なり、その習得は厳しく、多くの外家武術家が大成を成すのに比べて、内家武術家の数は如何に少ないかという面から見て分かるとおりだった。
 入り口は狭く、その先もまたさらにか細い、成功するのは本の一握り。
 されど、内功を極めた者は外功に匹敵する―否、凌駕するであろう功夫を持つ。
 剣を振るえば真っ向から鉄すらも断ち切り、跳ねれば羽毛のように舞い、対峙すれば旋風の中に優雅に舞い踊る木の葉のように打たせず、捉えられず、翻弄されるのみ。
 生物である人間の肉体には少なからず限界があるが、心技には果てはない。
 外家に極限はあれど、内家には究極はないのだ。
 故に内家功夫は数が少なくとも、外家に匹敵するだけの存在意義を保有していた。
 極めれば内功に敵無し。
 それが現代武術界における認識である。
 されど、それは本当だろうか?
 心技を習得した内家功夫に、本当に外家功夫は勝てぬのか。
 外道の手段は取り、肉体置換などの果てに人外の速度を持ってすれば勝てるかもしれない。
 金剛石をも砕く手足に、跳ねればロケットのように跳び上がり、対峙すれば閃光のように砕く機構を兼ね備えれば内家は圧倒できるだろう。
 事実、肉体強化の果てに同等の性能を保有する強化人間や、設計段階から見直され、人外としての能力を保有する人造人間ならば内家をも圧倒するかもしれぬ。
 されど、試したいのだ。
 本当に肉体の鍛錬のみでは、技術の研磨だけでは心に追いつけぬのか。
 体術技巧の極みの果てにあるものと。
 心技精錬の極みの果てにあるものと。

 人は心が上なのか、体が上なのか、試してみよう。

 心行くまで。

129:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:40:21
ナイトウィザード 異説七不思議録

 【迷錯鏡鳴】 鏡の巻




 活気溢れる登下校。
 春の日差し眩しい朝の光景、輝明学園秋葉原分校へと向かう途中の坂道をふらふらと血の気の引いた顔つきで歩く人影があった。
 瓶底眼鏡に、ピンッとどこかしら寝癖が飛び出ただらしない髪型、落ち込んだかのように猫背の姿勢で歩く中肉中背の目立たない少年。
 つまるところ藤原 竜之介だった。
 登校時間としてもそれなりにギリギリな時間で、ふらついた足取りで歩いている。

「あー死ぬー……」

「しっかりしろ、竜之介」

 その横で歩いている一匹の三毛猫―猫状態のあげはが一目がないことを確認してから、短くエールを飛ばした。

「しっかりなんかできねえって……背中は痛みは感じないけど、なんか引き攣るし、熱いし……」

 制服に隠れて見えないが、その上半身には息が絞まるほどにきつく包帯が巻かれている。
 今日は体育のない日付でよかったと思うべきか。あっても見学は確定だが。
 朝気付けに飲まれたHPヒールポーションと、ぼやきながらも続けている気息によって血流を操作し、竜之介は体を動かしていた。
 体調はすこぶるよくない。
 普通なら休むべきだ。
 しかし、それを祖父の竜作は許さなかった。

130:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:43:02
「竜之介。お前には呪詛が掛かっておる。その手掛かりを自分自身で探すんじゃ」

 その一言で着替えと朝食もそこそこに放り出され、手助けをしてくれるらしいあげはと一緒にひこーらへーこらと登校するはめになっている。
 秋葉原分校への坂がこんなにもきついと思ったのは産まれて初めてじゃないだろうか?
 規則性のある呼吸を繰り返し、血流に流れる酸素分量すらも把握しながら、瓶底眼鏡の奥で竜之介は必至に前へと前へと足を進める。
 その横をとてとてと歩くあげは。
 輝明学園までの道はそんなに汚れているわけではないが、去年から活動を開始したエコ部によりゴミを毎日取り除かれており、綺麗な道となっている。
 道の端のほうをあげはと一緒に歩いても、何の障害もないといえば分かるだろうか。
 そんな調子で十分ほど歩いた頃だろか。
 坂を上り終わると、校門が目の前に見えた。

「はぁ、やっとついた」

 肩から脱力し、気息を行うことによって神経を削ったプレッシャーによる汗が竜之介の額に浮かんでいた。
 風紀委員らしい生徒がそろそろ時間だぞー! と大きな声で叫んでいる、ご苦労なことである。

「あげは。んじゃ、先に入っててくれ。放課後になったら0-PHONEで電話するからさ」

「ニャー」

 一目があるため、猫の鳴き声で一声答えると、あげはは俊敏な足取りで校門を乗り越えて、輝明学園の中へと消えていった。
 それじゃあ自分も続くかと足を踏み出した時だった。

「わるい、退いてくれ!」

 どんっと慌てて走る大柄な男子生徒が肩にぶつかる。
 瞬間、突然の驚きと衝撃で気息が乱れた。
 規則性のある呼吸が止まり、テンポが乱れる。
 ビキリと体の何処かで音がしたような気がした。

131:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:46:37
「っ!」

 走り去っていく大柄な男子生徒を見ながら、竜之介は背筋に走る激痛に呻き声を上げて、よろめいた。
 傷は開いたわけじゃない、けど気息が乱れたのが痛かった。
 支えていた体調がプツンと息が切れたように途切れて、一瞬膝の力が入らず。

「あ」

 そのまま崩れ落ちる―と思った時。
 すっと竜之介の体を支える手があった。

「大丈夫か?」

 それは男子の手だった。
 掬い上げるかのように注し伸ばされた手が、倒れこむ竜之介を支えていた。

「え?」

 細い腕の割には硬い感触を感じながら、竜之介が視界を上げると―どことなく見覚えのある中肉中背の男子学生が居た。
 その横には酷く可愛らしいと思える女子生徒……見覚えがあった。

「あれ? お前……確か藤原だよな?」

「えっと、そっちは―」

 咄嗟に名前が出てこない。
 自分の頭を殴ってでも思い出そうと焦る竜之介に、女子生徒は救いの手を差し伸ばすかのように告げた。

132:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:49:02
「あ、藤原くんだよね? 私、姫宮 空。そっちは斉堂くん。昨日からクラスメイトだけど、憶えてなかったかな?」

「あ、ああ。思い出した」

 姫宮 空。
 斉堂 一狼。
 昨日教室で見かけたカップルの二人だった。

「大丈夫? 気分が悪いんだったら、保健室に連れて行こうか?」

「呼吸が荒いけど、貧血持ちか?」

 二人の心配するような言葉。
 それに竜之介は慌てて首を横に振ると。

「いや、ちょっと昨日夜更かししただけだからさ」

 あははと笑って誤魔化した。
 幾らなんでも背中に刀傷がありますよーなんてイノセントに言える訳がない。
 それに確か保険医もウィザードだったと思うが、連れ込まれて注目なんて引きたくないのが竜之介の心情だった。

「少し休めば自分でいけるからさ。先にいけよ。時間ないだろ?」

「あ、本当だ」

 空が校舎上の大時計を見て、焦ったように声を上げた。

133:NPCさん
08/10/15 22:52:11
しまった、遅かった……orz

134:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 22:52:49
「斉堂くん」

 どうしょうっかと空が首を傾げる。
 一狼は少しだけ考えるように顎に手を当てた。

(さっさといってくれ)

 竜之介としては二人が立ち去ってくれると嬉しかった。
 気息を建て直し、少し休めば教室までは行けるだろうと思っていたからだ。

「姫宮。先にいってちょっと先生に事情を説明しておいてくれないか? 僕が藤堂を運ぶから」

「わかった」

 空が承知とばかりに頷くと、てってってと駆け出して走っていく。
 スカートを翻し、走るその後姿と眩しい臀部は綺麗だとちょっとだけ思った。

「え? いや、そんなことしなくても―」

 竜之介は焦って声を上げるが、一狼の少し冷めた目で一瞥されると何も言えなくなった。
 全身を観察するような目つき、怪しんでいるのか、心配しているのか曖昧な鋭い目。

135:NPCさん
08/10/15 23:00:09
しえん、しときますか

136:迷錯鏡鳴 鏡の巻 ◆265XGj4R92
08/10/15 23:04:44 21DvYbra
「どうみても体調が悪いだろ。ほら、肩貸してやるから」

 しょうがないなぁとばかりに息を吐くと、一狼は竜之介に肩を貸して、歩き出した。
 傍にいた風紀委員に、「この人、体調不良なんで」と一言告げた。

 こうして、竜之介は一狼に運ばれて教室まで行くことになった。


 ……なんでこんなことになったんだろう。

 そんな竜之介の疑問を挟みながら。



 竜之介と一狼の出会いはこんな始まりからだった。





137:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/15 23:07:20
ageてしまい、すみません。
投下終了です。

どうにも投下行数の制限が厳しく、回線にも嫌われたので時間がかかりました。
ご迷惑をおかけして誠に申し訳ないです。

一応迷錯鏡鳴の本番となる鏡の巻です。
沢山の容量投下は厳しそうですので、チマチマと投下していきますがよろしくお願いします。


138:NPCさん
08/10/15 23:07:43
支援かな、とか。

139:NPCさん
08/10/16 02:11:25
>>122
 乙&GJ!

 誰も名乗りでなかったら、週末にでも自分で保管庫作ろうかと思って作品をテキストにまとめてたけど、必要なかったかな…。
 とりあえず、俺は初代スレの初期の方のをまとめるのは早々に諦めてたし…。いや、コテハンネタとかわからなかったもんで。


140:139
08/10/16 03:28:09
いちお、その3の今日の分までの卓ゲネタの作品はテキストに落とし込んであるので、週末でもよければうp可能と言っておく。

…wikiって誰でも書き込めるんだよな?

141:NPCさん
08/10/16 06:42:07
泥の方、GJですよ!
少しずつ張り詰めるような緊張感が素晴らしいです。マネ出来ない………
続きを楽しみにしていますvv

>>122さん
お疲れ様です、そしてありがとうございます!
これで初代スレでの名作が気軽に読み返せるのですね!

>>139さん
うp、頑張ってください~。
………ところで、まとめサイトに上がった分は、手直しってできるんですか?

142:139
08/10/16 07:35:03
>>141
 おや、こんな時間に住人が…。文面からしてmituya嬢かな?(違ったらごめん…)

 ここの保管庫では確認してないけど、管理人しかいじれないように設定していないのであれば、誰でも登録 or 修正は可能なはず。

143:122
08/10/16 16:35:56
とりあえず誰でも書き込めるようにはしてあるんでお暇な方はよろしくw
テンプレも何も無いんでお好きなように弄って下さい。


144:141
08/10/16 16:51:43
>>142さん
ご返答ありがとうございますvv
うわ、バレバレ(笑)

>>122さん
自分の書いた文が上がったら、手直しに行きたいと思います~。
気になってる誤字脱字、文章の破綻が………山ほど………(汗)

145:ゆにば
08/10/16 19:11:24
祝・保管庫創設!
>>122さま
お疲れ様でした。そして、
>>139さま
作業、大変でしょうが頑張ってください。

三十分ごろから投下させて頂きたく、報告がてらではございますがやってきました~。
ではでは後ほど~。

146:ゆにば
08/10/16 19:43:47
 たった一ヶ月の疎遠が、永久の別離のように思えるときがある。
 顔を見ることができない。声を聞くことが出来ない。言葉を交わすことができない。
 触れてくれる温もりが。触れられる実感が。そこに居て欲しい誰かの手がかりが、ぷつんとどこかで途切れたま
まの不安な日々。結希の一ヶ月は、だからこそこの邂逅の為にあったと言っていい。
 思い浮かべてみればいい。
 そこは月も星もない夜の世界だ、と。夜の天蓋で覆われた入り組んだ迷路だ、と。
 手探りで出口を探す。おそるおそると壁に手を伸ばす。
 導いてくれる光はない。手を引いて連れ出してくれる人も ―― いない。
 そんな世界で一ヶ月もの間、結希はひとり、とぼとぼと歩き続けていたようなものだった。 
 でも、いま。
 目の前に、会いたかった人がいる。
 声を聞きたかった人がいる。
 それだけで、いままで存在の希薄だった世界に色が甦る。
「ケイトさんっ」
 名前を呼ぶのは、そこにある現実を確かに摑まえるため。私はここにいるのだ、と彼に伝えて認識してもらうた
め。そして、それ以上に ―― 大好きな彼の名前が、なにより結希の耳に心地良く響くためなのだ。


147:NPCさん
08/10/16 19:44:29
支援びーむ

148:ゆにば
08/10/16 19:45:35
「おかえり、結希さん」

 彼の声。
 どこかこちらの反応をおずおず窺うような、いつもの、あの応えかた。
 ああ、もう。言いたかったこと、言いたいことはいろいろ山盛りだけど。
 なんだかどうでもよくなってしまって、結希は彼の元へと駆け出した。
 少し遅い昼食中のケイトが座る丸テーブルの横。ぴとっ、と張り付くように彼のすぐ側に立ちながら。
「もう。お帰りなさい、をご主人様に言わせちゃったら、メイドさん失格じゃないですか」
 わざと拗ねたようにケイトに囁いた。一瞬きょとんと目を丸くしたケイトが、しばし黙考した後で、
「そういうものかな」
 と、首を傾げる。アキハバラの、もっと言うならメイド喫茶の作法というものが、いまいちしっくりこないようであっ
た。でも、すぐに慣れてもらわないと困りますからね ―― 心の中で悪戯っぽく笑う結希。ケイトを呼び出した
理由。仕事の依頼といって来てもらったわけ。ぶっちゃけて言えば、その仕事の内容を聞いたときの彼が、一体
どんな反応をするのだろうか。それを考えると、なんだか可笑しくてたまらない。
「………っと、ちょっと待って。いま、残り食べちゃうからさ」
 トレイに残った一枚のトーストにポークウィンナーをごろりと乗せ、即席サンドイッチにしたかと思うと、口を目一杯
開けてぎゅうぎゅうと中に押し込んだ。頬っぺたをパンパンに膨らませて、ミルクで流し込みながら一息に咀嚼する
姿に、「ああ、ケイトさんも普通の男の子っぽいところがあるんだなあ」と、結希はそんなことを思ってみたりする。
 普段はどことなくのんびり構えているように見え、むしろ地味で大人しい印象のあるケイトだが、こういう少し粗野
な行動をするときなど、「がさつな普通の少年」っぽく見えて。
 なんだか、新鮮かも ―― 結希は、うふふ、と小さく笑った。


149:ゆにば
08/10/16 19:46:08
「………ごちそうさま。それじゃ、さっそく………裏の、事務所のほうがいいんでしょ ?」
 ゆにばーさる従業員休憩所のさらに奥、倉庫や雑用品置き場に隣接するスタッフルームのことを、ケイトは言っ
ている。平素は鈴木和美女史がオフィス代わりに使っている部屋なのだが、彼女たちの本業 ―― つまり、対
レネゲイド事件に当たるときのUGNとしての活動時には作戦本部として活用されるのだ。
 今回、結希からの連絡で仕事の依頼だと告げられているので、ケイトは自然とそこで話があると思っている。
「はいっ。私、いろいろ用意もありますから先に行ってますけど、場所、もうわかりますよね ?」
「あ、うん」
 頷くケイトに、にこにこと笑いながら、結希がくるりと身を翻した。
「んー、と。それじゃ、お先に失礼しますね ? ご主人様」
 とてとて、と店舗の奥へと歩き去っていく結希の姿を見送るケイト。結希にご主人様って呼ばれるのは、なんだ
かとてもくすぐったいな ―― そんなことを思う。
(でも、こういう場所に通う人の気持ち、少しわかってきたかもしれない)
 甲斐甲斐しく給仕をしてくれるメイド服の女の子が結希みたいな娘だったら ――
 ………まあ、通いつめちゃうよなあ ――
 などと。素で、こんなことを考えてしまうところが、バカップルの片割れ ―― もう一方の片割れが誰なのかは
当然言うまでもない ―― たるゆえんである。

「失礼します ―― こちらお下げしてもよろしいですわね、ご・主・人・様っ」

 地の底深く、どんよりと濁った沼地の中から響くような呪詛じみた声。


150:NPCさん
08/10/16 19:46:41
あなたを、支援致しましょう

151:ゆにば
08/10/16 19:46:48
「う、うわっ。ち、智世さんっ !?」
 身をかがめながら、ケイトに覆い被さる勢いで。顔を覗き込み ―― というよりは上からケイトをねめつけるよ
うな体勢の智世が、いつのまにやら背後から回り込んでいた。ばさり、と垂れた前髪の隙間から暗い瞳がこちら
を睨みつけている様は、まるでホラー映画。ほら、アレだ。テレビからぬばーっ、と女の人が出てくるアレだ。
「よ・ろ・し・い・で・す・わ・ね・ご・主・人・様っ」
 一言一節を力強く区切り、智世が返答のないケイトに念を押す。言葉の端々に混じる「ぎしぎし」という音は、彼
女の歯軋りの音に違いなかった。
「は、はいっ、よろしいですっ」
 座ったままで背筋を伸ばし、硬直しながらケイトが答える。てきぱきとテーブルから取り上げられる食器類。
 軽く優雅に曲げられた腕にトレイやらカップやらを重ね持った智世は、そわそわしながら目線をあちらこちらに泳
がせるケイトをしばらくの間ジト目で見下ろしていたが、ついには大きな溜息を吐き出した。
「もう少し………ものの言いよう、態度のありようというものを考えられてはいかがですの ?」
 呆れ果てた口調であった。どうして私がこんなことを言ってあげなければならないのかしら、とは思うのだが、口
に出さずにはいられなかった。そして、案の定なにもわかっていない様子のケイトが、
「ええと、どういうことかな……… ?」
 本当に自覚のない顔で、助けを求めるように智世に尋ねる。
 よくわからないけど、自分がなにかまずいことをしたなら教えてほしい ―― そう言いたげな感じである。


152:NPCさん
08/10/16 19:47:43
昇竜支援

153:ゆにば
08/10/16 19:48:34
 再び鎌首をもたげそうになる殺意をぐっとこらえ、
「もっと、結希さんのことを気遣って差し上げてください、と言いたいのですわ」
 身を切る思いで言葉を搾り出す。本当ならば、結希が落ち込んだり、困ったり、助けを必要としているのならば、
誰よりも自分が彼女の側にいてあげたい ―― それが偽らざる智世の本音なのだ。だが、それはいけない。
 結希がなにより望むこと。結希にとってなにが一番なのか。結希が幸せになるために本当は誰を必要としてい
るのか。
 結希のことをよく知っているからこそ、そんなことまでよくわかってしまう。通したくても通せない想い。貫きたくて
も貫けない我儘。結局は自分が一歩身を引いて、このニブチンの背中を押してやる ―― いや、蹴り飛ばして
やるぐらいのつもりで、サポートをする羽目になるのだった。
「聞きましたわよ。このところ、お二人が連絡を取り合っていないということ。結希さん、それはそれは気にしてらし
て、とても落ち込んでいたのですわ」
 智世の言葉にはた、と考え込むケイト。慌しくポケットをまさぐり携帯電話を取り出すと、コタコタとボタンを押し始
め、なにごとかを確かめている様子。発着信履歴を調べているんですわね ―― 智世はすぐさまピンときた。
「うあ………」
 電話の発着信に引き続いてメールの送受信も確認し終えたケイトが、世にも情けない声を上げ、また世にも情
けない顔をする。たぶん、自分が結希とどれだけ連絡を取り合っていなかったのか、自分の目で改めて見て、初
めて実感したのに違いなかった。眉根を寄せ、難しい表情を造ったケイトが、ようやく顔を上げた。


154:ゆにば
08/10/16 19:50:35
「智世さん」
 うってかわって、真剣な顔。いや、真摯といってさえいい眼差しでケイトは智世と真正面から対面する。
 普段はどことなくうつむき加減の、目立たない少年。そんな印象のある彼がときどき見せる、しっかりとしたひと
りの「男の子」の顔をした瞬間だった。 
 すくっ、と立ち上がり居住まいを正すと、
「どうもありがとう。気づかせてくれて。僕、またやっちゃったみたいだ」
 ペコリ。折り目正しいお辞儀を智世に返すのだった。
 その表情から、彼が本気で結希に申し訳ないことをしたと反省していることがありありと窺える。
 基本的には、根が真面目なケイトである。しかも、結希のことをかけがえのない女の子だと大切に思っているの
も確かである。ケイトがこんな姿を思い出したように見せ付けてくれるものだから ―― 智世は本気で彼のこと
を憎めなくなってしまうのだ。こういうところが私もまだまだ甘いですわね ―― そう思う。
「私に礼をおっしゃる暇があるなら、結希さんを追いかけてはどうですの ? いまはあなたに会えたばかりで気持
ちが高揚してらっしゃいますけど、落ち着いたとき、なにかの拍子で爆発するかもしれませんわよ」
「そうだね。うん、そうかもしれないな。結希、怒らせると怖いから」
 はにかむように、ケイトが笑う。仕事の話が終わった後でキチンと話をするよ、と言いながら。
 きびすを返して結希の後を追う彼。その背中を、智世はなにか眩しいものを見るように見送った。
 レジの脇を抜けて店舗の奥へと消えていくケイトの姿が見えなくなると、智世はもう一度深い溜息を吐く。
「結希さんのためですから仕方ありませんけど………癪ですわ、まったく」
 そして誰にも聞こえないようにつぶやくと、いそいそと本来の業務へと戻るのであった ――



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