卓上ゲーム板作品スレ その3at CGAME
卓上ゲーム板作品スレ その3 - 暇つぶし2ch186:166
08/10/18 19:48:40
>>185 こと mituya嬢さま
 まあ、我ながら無茶な要求だとは思いますw
 昔はアンゼヒロイン物もちらほら見かけたのですが、守護者の立場とか色々制約が厳しいですからね…。
 柊は所詮柊なので、その辺りもあって相手が誰だろうと、ヒロイン→柊という一方通行になりかねないという…(笑)

 まあ試しに言ってみただけですので、あまりお気になさらずに、まずは養生してください。

187:NPCさん
08/10/18 21:31:24
>>186
はいはーい、それみっちゃんさんでなくてもチャレンジ可ー?
ちょいとやってみたいシチュがあるのですよおいらは。
期待に添えるかはわからんが、おいらの話いくつも載せていただいたのだ、短くともお礼の一つくらいさせていただきたい。

……管理人氏にもお礼したいなぁ、と言ってみるテスト

188:mituya
08/10/18 21:50:33
>>186さん
ぜぇ、ぜぇ………っ! か、書きましたよっ!
やっぱりアンゼ→柊なっちゃったけど、ヒロインアンゼは達成した………と思いたい(汗)
アンゼの美少女っぷりを表現しようと思って、描写書き込んでたら、何かくどくなったかも………
すいません、話自体は短いです………

189:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 21:56:09
「──と、いうわけで、私の質問に“はい”か“Yes”でお答え下さい♪」
「………あのなぁ………」
 心底楽しげで軽やかな声に、どこかげっそりとした声が答える。
 眼下に青い星を臨むように、どことも知れぬ虚空に浮かぶ宮殿──その一室に、一組の男女の姿があった。
 一人は、まるで穢れなき月光をそのまま人の姿に転じたような、幼くも麗しい少女。鏡のような銀の髪に、幼い面に不似合いなほどの深い思慮を湛えた瞳。
 綻びかけた蕾を思わせるあどけない可憐さの中に、どこか成熟した色香すらも漂わせる微笑を浮かべ、目の前の相手を見つめている。
 いま一人は、青年へと移り変わる年頃の少年。上背のある体躯に、それに見合った肩幅。制服らしいブレザーの上下を纏った細身の体躯は華奢なのではなく、余計なものを削ぎ落とした刃物のような鋭さがある。
 やや眦のきついその眼差しを半眼に細めたその表情は、疲れたようなうんざりしたような、少なくとも、とてもではないが機嫌がよいとも調子がよいともいえない表情だった。
 少年は、目の前の麗しい少女の容姿に見とれるでも感嘆するでもなく、寧ろ忌々しいものを見るかのような色すら浮かべ、睨みつけるように言う。
「もう聞き飽きたんだよその台詞はよ!? 俺を学校に行かせろこらッ!?」
 事情を知らぬものが傍からみれば、柄の悪い少年が可憐な少女を恫喝しているようにしか見えない光景。しかし、少年の言葉をよくよく聞けば、恫喝の内容がやや間抜けである。しかも、後生大事とばかりに学生鞄を抱きしめているので、余計である。
「あらあら、柊さんこそ毎度毎度そればかり。それこそ聞き飽きましたわよ?」
 何より、怒鳴りつけられている少女が余裕綽々の様子でこう返せば、この場のパワーバランスが見目から来る印象とは逆であることが容易に窺い知れるだろう。

190:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 21:57:21
 柊と呼ばれた少年は、その鋭い眦にうっすらと涙すら浮かべて叫んだ。
「学生は学校行くのが務めなんだよ! 飽きるも飽きないもないだろうが!?」
「あら、それならウィザードは世界を守るのが務めですわ」
 まさに、ああ言えばこう言う。
 少女は聞き分けのない子供を諭すような口調で言い含める。
「それなのに、嘆かわしい。柊さんはそんなに世界を守りたくないのですか?」
「世界を守りたくないんじゃなくて、俺は学校に行きたいんだっての!
つか、他にもウィザードはいるだろうが!?」
 もう完全に涙声で、少年は叫んだ。
 ──ウィザード、エミュレイター。
 ごく普通に世界に生きる人々には縁のない、世界の真実を知る者たちだけがその意味を知りえる単語。
 ──世界は、常に狙われている。
 裏界──文字通り、世界の裏側から紅い月と共に現れ、この世界を侵さんとする魔性、侵魔(エミュレイター)達に。
 そして、人々に忘れられた超常の力を用い、人知れずその侵略を食い止めんとする者達が、世界の真実を知る者達からこう呼ばれるのだ──夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)、と。
 この宮殿は亜空間に浮かぶ、ウィザード達を束ねる“世界の守護者”の宮殿。その主たる亜神の少女の名を取って、アンゼロット宮殿と称される。
 その銀の髪の麗しい亜神は、目の前で今にも本泣きしそうな少年を悪戯っぽく見遣った。
「だって、柊さんを送り込むのが一番早いですし。出席日数気にして、超高速で仕事片付けてくださるじゃないですか」
「そんな理由かぁぁぁあああッ!?」
 言われた側はもはや悲鳴のように絶叫する。
 彼の名を柊蓮司。見目年下の少女──実年齢は言わぬが花──に、いいように遊ばれている様からは想像しにくいが、幾度も世界の危機を救ってきた世界有数の戦士──英雄、と呼ばれてもおかしくない戦歴の持ち主だった。
 つい先日も、紅と碧の双月を用いて世界を掌握せんとした魔性、現在裏界で最も力あるといわれる“金色の魔王”を、仲間と共に退けたばかりなのである。
 しかし、彼はその華々しい戦果の代償として、ごく普通の学校生活を多大に犠牲にしてきたのだ。──具体的には、高校の卒業が危ぶまれるくらいの勢いで。

191:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 21:58:18
「まったくもう、わがままですわね」
「どっちがだよ!? つか、他のウィザードは学校に手回しして課外授業扱いとかにしてんのに、何で俺だけ普通に欠席なんだよっ!?」
 溜息まじりのアンゼロットに、柊は結構本気で泣き入っている。
 それも無理はない。柊自身の計算では、今日の午後に入ってる教化は、単位的にもう休むことが出来ないのだ。この単位を落とすと、卒業そのものが危うい。
 いつにも増して意固地に拒否する柊に、アンゼロットは一つ嘆息して、
「仕方ありませんわねぇ………では、今回だけ特別に、柊さんに“No”の選択肢をあげる余地を与えてあげましょうか」
「──本当かッ!?」
 途端、ぱっと顔を輝かせる柊。しかし、次の瞬間顔をしかめて、
「………とかいって、別の無理難題押し付けるつもりじゃあ………?」
「失礼ですわね、私を何だとお思いなんです?」
 日ごろの行い思い返せ──さも心外というアンゼロットに、そう突っ込みそうになったのを、柊は何とか踏みとどまる。ここで機嫌を損ねて機会を不意にするのはあまりに馬鹿馬鹿しい。
「柊さんには、私の出した問題に答えていただきます。正解でしたら、柊さんに“No”の選択肢を差し上げましょう。ただし、回答権は一回こっきり。間違えたら即任務に向かっていただきますわ」
 アンゼロットの言葉に、柊は大きく深呼吸して、
「──よし来いっ!」
「………相撲の稽古じゃないんですから。──でもまあ、行きますわよ」
 妙な張りきり方をする柊に、アンゼロットは一つ嘆息してから──出題した。

192:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 21:59:45

「──今夜は、月がとても蒼いですね」

「………は?」
 目を瞬く柊に、アンゼロットは笑って促した。
「この言葉の意味を、答えてくださいな」
 柊は露骨に狼狽した様子で、待った、と手を掲げる。
「ちょ、ちょっと待て。これ、なぞなぞかっ? ──ノーヒントじゃ無理だろおい!?」
「………そうですわね、このままでは確かに難しすぎるかもしれませんね」
 軽く首を傾げると、アンゼロットは指を一つ立て、
「では、一つだけヒントを。一回しか言いませんから、よーく聞いててくださいね」
「お、おうっ」
 柊が頷くのを待って、アンゼロットは口を開く。

「私にとって、柊さんと見る月が蒼いのですわ」

 そう、告げた瞬間、柊は眉をしかめて固まった。
「………それが、ヒント?」
「はい」
 沈黙の後に搾り出すように問い──あっさり頷くアンゼロットにまた硬直した。
 ついで、ぶつぶつと呟き始める。
「蒼い月………紅い月、はエミュレイターが出てくる徴(しるし)だよな………
 その逆の蒼だから………でも、俺がアンゼロットんとこにいるときって、たいてい世界の危機だしな………
 ああ、でも、本当に危機のときはもう現場に送られてるからな………うーん、これか?」
 一応の結論が出たらしく、柊はおずおずとアンゼロットに向かって口を開く。
「──今日は、世界が平和だ………とか?」
 その答えに、アンゼロットは満面の笑みで返す。
「はい外れ。行ってらっしゃい♪」
 言うなり、どこからともなく取り出したボタンとぽちっと押した。
 瞬間、柊の立っていた場所の床が消え、
「──おい待てアンゼロットせめて答え合わせしてからぁぁぁぁ………──ッ!?」
 絶叫の余韻と、落下した反動で手から床に放り出してしまったらしい鞄を残し、柊は眼下の青い星へと落下していった。

193:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 22:01:11
 放り出された衝撃で開いてしまった鞄、そこから床に散らばった何冊もの教科書。
 白く華奢な手が伸びて、そのうちの一冊を取り上げた。
 使われた形跡の殆どないそれのページを、一枚一枚、丁寧に手繰りながら、銀の女神はこの本の持ち主に思いを馳せる。

 ──最初は、ただ“神殺し”の力は戦力として貴重、それだけだったのに。

 因果律を破る力を宿した、柊蓮司の相棒たる魔剣。その力が貴重なものだから、気にかけていた、その程度だったのに。
 どんな絶望的な現実に直面しても退かず、どんな犠牲も許容せずただ守るために走る、その様に──いつしか、惹かれてた。

 ──私は、どんな犠牲を払っても、世界を守らなくてはならない存在(もの)だから。

 どんな汚い手段を用いても、誰に恨まれようと、世界を守ることが第一で。
 だから──

 ──あの、眩しいまでに真っ直ぐな生き方に憧れた。

 その己の感情に気づいた当初、アンゼロットは狼狽した。

 ──私は、また同じ過ちを犯そうとしているの?──


194:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 22:03:56
 アンゼロットが守護者として任されたのは、この世界で二つ目だ。
 彼女は、前の世界である神に恋をした──彼女はその恋に溺れ、結果、その世界は滅びの危機に見舞われた。
 彼女自身が一度、その生を賭したことで、辛うじてその世界は滅びずに済んだ。しかし、それでアンゼロットの過ちが消えるわけではない。
 けれど──

 ──あの男(ひと)相手に、その心配は要りませんものね。

 そう、気づいた。
 朴念仁で、女心に疎くて──でも、肝心なところは妙に鋭い、あの男は、

 ──私が、私の為すべきことを疎かにしたら、黙っていませんもの。

 真っ直ぐなあの少年は、きっと自分がやるべきことを放り出すようなまねをしたと知ったら、きっと、許さない。
 叱咤して──最悪、頬を張るぐらいのことをしてでも、自分のやるべきことへと向き直らせようとする。

 ──だから、大丈夫。

 彼は、この想いに自分を溺れさせてくれるほど、甘くないから──

 ──私は、安心して彼を想っていられる。


195:あなたと見上げる蒼い月
08/10/18 22:05:30
 そう、思って、ページを手繰る指を止める。そこに書かれた文章に、微笑した。
 それはある文豪の作品本文の隅に、小さく囲われたコラムのページで、そこには、アンゼロットが柊に出題した一文が書かれていた。

 ──今日は、月がとても蒼ひですね──

 それはその文豪が、ある英文を直訳した学生を窘め、その学生に手本を求められて答えた意訳。
 その、英文は──

 ──I love you.

「──できるだけ長く、蒼い月を眺めていたいものです」

 ──だから、長生きしてくださいよ?

 その時の少女の顔は──
 見る者がいないのが惜しまれるほどに、可憐に、艶やかに、笑っていた。


Fin.

196:NPCさん
08/10/18 22:07:22
しえん

197:mituya
08/10/18 22:14:05
………ってな感じでアンゼ→柊?です
時間軸はあわせみこ直後くらい。って、こういうのは普通投下前に書きますね、すみません(汗)

“I love you”を「今日は月が蒼ひですね」と訳したのが、誰の訳だったか、思い出せない………
何か、有名な文豪だったはずなんですけど………誰だっけ~(汗)

えと、186さん、とりあえず、こんなのでご満足いただけますでしょうか………?
187さんの作品も是非読みたいので、書いて欲しいなぁ………vv

198:NPCさん
08/10/18 22:35:01
>ゆにばの人
ケイトのナチュラルな誑し台詞、見事にかわたなキャラを再現してますよ。GJです。
そんでもって最後まで気づけなかったよ春日恭二。でもDXにこの男はつきものですよね。モノローグとのギャップのひどさに吹きました。重ねてGJです。

>mituyaさん
おわ-、意欲的ですね。それだけ書きたい物があるとどれから書くか悩みそうですね。
どれかを本格的に書く前にそれぞれの一番書きたい場面などを書き出しておくと後から書く時にいいかも知れませんね。
多分ですがその方がこれを書きたいッていうなんと言うかリビドーの様な物を保存?できる気がするんですよね。

199:mituya
08/10/18 22:45:01
って、なんでもう今上げた話がまとめの方に!? 早っ!(汗)
186さん!? やったの186さんなんですかー!?
誰にしろ、やった人、すごすぎ………(汗)

200:198
08/10/18 22:57:50
って、うわーなんて間抜け。198のコメントは188まで読んだところのコメントです。まさかこのタイミングで投下されるとは。
そういや今日は土曜日。mituyaさんの活動日だった。ってなわけで感想です。
なんていうか素晴らしく乙女チックなアンゼロットですね。まるでアンゼじゃないみたいだ。(酷
柊はフラグクラッシャーですが、このアンゼも隙が無いですね。
と、いうか好きな男にここまで容赦なくできるもんなのか?と、いう疑問にも設定を踏まえてきちんと解答が示されてSSとしても隙が無い。うまい。僅か二作目にしてここまでとは、mituyaさん、あなたはただ者ではありませんね?

201:186
08/10/18 23:10:17
>>187さま
 おお…っ! それはなんかとても嬉しい申し出っ!
 といっても、アンゼも立場的に色々ありますし、柊は所詮柊なので、かなり難度の高いお題だとは思うのですが…。
 そこら辺をどう料理してくれるのか、非常に楽しみです…♪
 というわけで、ご無理でなければ是非ともお願いします。

>>188 こと mituya嬢さま
 はやっ!? て、手首とかは大丈夫なんですかっ!?
 いやぁ、あんな難解そうなお題にこうも迅速に対応されるとは…。
 しかもアンゼロットが非常に綺麗に書かれていて、物語的にもしっとりした感じでとても良いですね…!

>「だって、柊さんを送り込むのが一番早いですし。出席日数気にして、超高速で仕事片付けてくださるじゃないですか」
>「そんな理由かぁぁぁあああッ!?」
 あまりの「らしさ」に吹いたw
 うん、やっぱアンゼは希に妙に俗っぽい台詞を吐かないと…。

 何はともあれ、GJ&ありがとうございましたっ!!

>って、なんでもう今上げた話がまとめの方に!? 早っ!(汗)
 あれ…、バレてる? おかしいなぁ、こっそり(?)とやったはずなのに…(笑)

202:201
08/10/18 23:12:28
>>199 こと mituya嬢さま
 嬉しかったので、速攻で登録したのですw

203:187
08/10/18 23:15:35
うむー、そんじゃ許可も出たことだしやりますか。


……アニメ版と小説版、どっちがいい?

204:186
08/10/18 23:30:21
>>203さま
 わーい♪ …って、

>……アニメ版と小説版、どっちがいい?
 難しいですねぇ…。うーん。
 アニメ版と小説版でどう違うんだろうというか、正味な話し両方見てみたいというか…。
 ん~…………………………………………………………じゃあ、小説版でお願いします。

205:NPCさん
08/10/19 00:04:45
ところですみませんが、ここって単発の作品とかって投下してもいいんですかね?
NWでかなりマイナーな趣向なのですが。


206:NPCさん
08/10/19 00:10:36
>>205
前スレで相談してた人かな?
別になんの問題もないぜい?>単発

207:NPCさん
08/10/19 00:11:23
>>1にあるローカルルールをある程度守ればいい
マイナー?そもそもこのジャンルが(ry

208:NPCさん
08/10/19 00:11:39
>>206
いや、前スレとは別人なのですが、アニメで出てきた安藤来栖とかがめっさ濃厚な剣戟SSってどうなのだろう?
と、少し心配になりましてw

209:NPCさん
08/10/19 00:11:45
mituyaさんGJ!
相変わらず素敵な文章をお書きになりますね。

“I love you”を「つきが~」と訳せと言ったのは
私の記憶が確かならば夏目漱石だったと思います

210:NPCさん
08/10/19 00:17:32
>>208
……剣戟モノの書き手っつったら一人しか思いつかんのだが(苦笑)。
もしあんさんがあの人なら前にぽろっと言ってた不凍湖の騎士VS下がる男もみたいなーと言ってみるー

211:NPCさん
08/10/19 00:24:15
>>210
……何のことですかな?
でも、個人的には書きたい組み合わせベスト1です。
ラース=フェリアで剣聖クリシュ=ハーゲンとか凄い書きたいなぁ。
きっと不凍湖の騎士よりも強いんだ、技量だけなら。


212:NPCさん
08/10/19 05:41:04
“ブルー・アース”vs嵯峨童子とか?

213:mituya
08/10/19 08:11:30
おはようございます~。昨日はあの後すぐに寝てしまった早寝の子です(汗)
っていうわけでありがたいお言葉へのレス返しです~。

>>200さん
過分なお褒めの言葉、ありがとうございます、恐縮です(汗)
いや、そんな深く考えて書いてないです。このキャラの立場なら、こんな感じ? ぐらいにしか考えてません(<ぉ)
お言葉の通り、自分、基本ここでの活動は土曜日になるかと~(笑)

>>201&202さん
お気に召していただけてよかったですよ~。突貫工事だったんで(笑) 手首は平気ですよvv
あの後、意外にすぐネタが脳内に振ってきたので、「ネタが腐らんうちに………!」と即書き。
アンゼはやっぱりあーゆー台詞吐いて何ぼですよねっ! 共鳴していただけてよかったvv
即まとめサイトに上げてくれるほど気に入っていただけたなんて………嬉しいっ(感涙)

>>205&208さん
新しい書き手さんですか? ようこそですっ! ってあれ? 何かベテランさんの雰囲気?(汗)
おお~、剣戟っ! 自分には絶対書けないジャンルだ(汗) 安藤さんも好きなキャラなので(<オヤジ好き)楽しみにしてますっ!

>>209さん
そうか夏目漱石だ! ありがとうございます、もやもやがすっきりしましたvv お褒め戴いて恐縮ですよ~(汗)

さて、何かこれからいろんな作品が来そうでわくわくですvv 嬉しいなぁvv

214:211
08/10/19 11:23:10
……40KBを越える内容になったので、夜にでも投下開始しますね。
なげえ、長いよ 俺
ORZ

215:ゆにば
08/10/19 14:03:14
遅ればせながら。mituyaさんのアンゼ様がすごくいいんですけどー!?
神々しい美少女で、可憐で、でもしたたかで、それでいて過去の経験から
少しひねた愛情表現をしてしまうなんてもうどうすればいいんですかこの
世界の守護者様。別板でアンゼ書いた経験ありますけど、どうしてもこの
コケティッシュな部分とか、小悪魔(可愛い意味で)的な部分が出せなくて
kgrロットにしかならなかったというのは私とあなただけの秘密です(笑)。
お身体に触らぬ程度に次回作期待してます。うひひ。
>214さま。
アニメでも小説でもいい味出してましたもんね、安藤さん。
バトルものというか剣戟ものは、苦手ジャンルなんでそういうの前面に
押し出せる人は真面目に尊敬。頑張って頂きたく、夜を待ちましょう。

で、続けてしまってアレなんですが、ちょい短めの投下でーす。

216:ゆにば
08/10/19 14:04:29
 事の発端は、頚城智世のうっかり発言であったかもしれない。
 それを受けた鈴木和美が思いついた提案を、霧谷雄吾があっさりと承諾してしまったことにも問題があったのかも
しれない。
 あまりにも唐突な依頼内容は、メイド喫茶ゆにばーさるでウェイターとして働いてもらいたい、という突拍子もないも
ので、結希の導きで霧谷と事務所で引き合わされるまでは、まさか自分がそういうところでアルバイトをすることにな
ろうとは、思ってもみなかったケイトなのである。
 しかし、そういう羽目に陥ってしまった一番の原因が、実は自分にあることも十分承知しているケイトは、ことさらそ
のことについて文句をいうつもりは毛頭ない。それどころか、海よりも深い反省の気持ちで一杯なのである。
 一ヶ月もの間、出会う機会を作るどころか結希と電話ですら話をしていなかった。メールのやり取りですら忘れて
いた。しかしそれ以上にケイトが反省したのは、「一ヶ月も経ってたっけ ?」と思ってしまった自分自身の呑気さと、
それを智世に指摘されるまでなんとも感じていなかった自分の鈍さ、結希への気配りの足らなさであった。
 聞けば、ケイトと会う機会が持てなかった結希の落ち込みぶりは物凄かったらしく。
 『檜山ケイト分不足によるうっかりどじっ娘促進病』との診断を下されるにいたって、この度の要請と相成ったわけ
である。
 午後三時から、ちょっと遅れての仕事始め。執事のユニフォームに身を包み、店舗前の清掃から始まって、気心の
知れた上月司の簡単なレクチャーを受けたケイトは、
「ま、試しにやってみ」
 という、実に気楽な発言に後押しされて、ぎこちなくではあるが数人の来客対応までこなしてみせた。
 入り口の扉が開き、小さなチャペルが軽快な音を鳴らす。
 数人の女性客が、わいわいと談笑しながら店内へと入ってきた。司を初めとして、メイドやウェイター一同が声を揃
え、「お帰りなさいませ、お嬢様」と唱和する。なんとかみんなとテンポをずらさないように、ケイトもなんとか執事の
決まり文句を言うことができた。


217:ゆにば
08/10/19 14:05:31
「ほれ、オーダー取ってこいよ」
「ええっ !? つかちゃん、いきなりは無理だってっ !?」
 どすん、と背中を小突かれたケイトが、司に小声で叫ぶ。
「なーに、目ぇ泳いでんだよ。へーきへーき。お前、結構本番に強いタイプだし、それにこれは俺のカンだけど………
ま、上手くいくはずだから」
「む、無責任なこと………」
 抗議しかけるケイトをぴたりと指差し、司がドスの聞いた声を出した。
「いまさらビビんなって。ほら、待たせるんじゃねーぞ ?」
 ばんばん、と背中を叩かれた。
 ケイトが教えてもらったのは簡単な定番の決まり文句に接客時の言葉遣いや対応の仕方、それも基本中の基本
としか呼べないようなことを二、三分で叩き込まれただけなのである。「うう………ひどいやつかちゃん………」と情
けない捨て台詞を残し、ケイトがよろめくように今しがた来店した女性たちのいるテーブルへとまろびでた。
 丸テーブルに腰掛けた妙齢の女性たち。みな、二十代半ばであろうか。おそらく、仕事を終えたOLのお姉さまたち
だろう。ケイトの近づく気配に、彼女たちが揃って顔を上げる。
 どういうわけか、ケイトの顔を見るなり、
「あらっ」
 と目を丸くし、喜色を浮かべてニコニコし始める。
「……… ? お、お待たせいたしまた、お嬢様方。ご、ご注文を承りますっ」
 緊張で固くなりながら、なんとかかんとか最初の台詞は間違えずに言うことができた ―― 多分。
 いまかいまかとオーダーを待つケイトが、固唾を呑んで立ち尽くす。二秒。三秒。なぜか、お姉さまたちはなにも言
わずに、愉しそうにケイトを見つめ続けていた。


218:ゆにば
08/10/19 14:08:44
「あ、あの………」
 なにか自分はおかしなことを言ったのか。言葉遣いを間違えたり、もしかしたら失礼なことをしてしまったのか、と
背筋を冷たい汗が伝う。就業初日から、なにかとんでもない粗相をしでかしてしまったのだろうか、と息を飲むケイト
に、OLの一人が唐突に声をかけた。
「私、ケーキセットのA。ダージリンのホット、チョコケーキで ―― ねえ、キミ、新しい執事さん ?」
「えうっ、あ、は、はいっ !?」
 マニュアルにないっ !? こういう質問をされたときの対応は、つかちゃんに教わってないっ !?
「じゃあ、私も。あ、アイスコーヒーとショートがいいな。ふーん、『けいと』クンっていうんだー」
「は、はいっ、あの………」
「ダイエット中だし、私ケーキはパス。あ、これいい。玉露と和菓子のセットなんてあるんだー。私、これにするわね。
ね、『けいと』クン、これならカロリー低いよねー ?」
「え、た、たぶん、そうじゃないかな、と………」
「それじゃ私は気にしないで食べちゃおー。チョコレートパフェ、カプチーノ、それと持ち帰りでクッキーセット包んでも
らっちゃおー」
「えーっ !? そんなに食べちゃうー ?」
「あははは、後で後悔するわよ、絶対」
 賑やかで華やかな喧騒に圧倒されて、ケイトが口をぱくぱくさせた。頭の中が真っ白になる。
 ジャームやファルスハーツとの戦いでだって、ここまで自分を見失ったことはない。立ち尽くしたケイトに振り向い
たお姉さまの一人が、「じゃ、そういうことでよろしくね」とウィンクを投げてくる。まずい。非常にまずい。ケイトは自分
が絶体絶命のピンチに、いま追い込まれてしまっていることに気づいて、乾ききった唇を舐めた。


219:NPCさん
08/10/19 14:11:50
はにゃ支援

220:ゆにば
08/10/19 14:13:09
「お、お嬢様方。た、大変申し訳ありません。実は」
「んー ? なに、切れてるメニューでもあったりするー ?」
「そ、そういうことではなくてですね、あの………」
 思わず口ごもるケイトである。しかし、言わなければならない。恥を覚悟で、お客様に怒られる覚悟でこれだけは
言っておかなければならない !

「も、もう一度、オーダーを仰っていただいてもよろしいですか………」

 沈黙が、店内に落ちた。
 だってしょうがないじゃないか。あんなオーダーのされ方するなんて思ってもみなかったんだから。なにを注文され
たかなんて、言われた端から忘れていったさ、ああそうさっ !(泣)

 ああ、最初から失敗しちゃったな ―― 落ち込みかけるケイトを救ったのは、しかし意外にもオーダーを忘れら
れた当のお姉さまたちで。どっ、とみんながみんな、目に涙を浮かべて笑い出す。しかも口々に、「かわいー」「この
新人クンそれ系かー」「ゆにばにいなかったタイプだよねー」「萌えるー」となぜか非常にウケがよろしい。

「あ、あのー………」
「あはは、ああ、ごめんね。オーダーね。ホットダージリンとチョコケーキのAセット、同じくアイスコーヒーとショートケー
キ。ここまでおっけ ? で、彼女が玉露と和菓子の和風セットで、あと単品、チョコパフェ、カプチーノ。帰りにクッキー
セットのお持ち帰り………書けた ? 大丈夫 ?」
 ウィンクをくれたお姉さんが、すらすらと言ってのける。なんか面倒見のいいくだけた調子の人だ。なんとなく、ちえ
りさんに似ているな………一抹の寂寥感と懐かしさと共に、ケイトはそんなことを思い出している。


221:NPCさん
08/10/19 14:14:51
《アドヴァイス》支援

222:ゆにば
08/10/19 14:15:04
「は、はいっ、ありがとうございましたっ」
 悪戦苦闘してオーダーを取り終えて。そのテーブルから逃げるように立ち去り厨房へと向かうケイトの姿を、お姉
姉さまたちは目を細めて微笑みながら見守っていた。

「あ-、やっぱ俺の見込み通りだわ。上手くいくとは思ってたけど、まさかここまでとはなー………」

 半分呆れ、半分感心し。
 無理矢理送り出した手前、一応はケイトの初オーダーを見守っていた司がつぶやいた。
 なにか失敗しても、なにかやらかしちまっても、それを許してもらえるというのは ―― もっと言うなら、あばたを
えくぼと思ってもらえるのは、本人の資質に負うところが大きい。それはたとえば、トレイをひっくり返しても可愛いの
一言で許してもらえる結希であり、空手メイドという珍妙なジャンルを受け入れさせてしまった狛江の、天性のキャラ
クターと天真爛漫な明るさだし、口が悪くても「ツンデレ」の一言で萌えさせてしまう桜であったり、と。
 それぞれの個性を「萌え」として認識させることのできる稀有な資質の持ち主だけなのだ。
 ある意味、そういうキャラを持った人間だけが、メイド喫茶という特殊な空間で生き残ることの出来るものたちとい
えようか。
 薄々感付いていたことであったが、やっぱりケイトは ――

「ふーむ。檜山ケイトの持つぴーしーいち能力………さすが、といったところだな」
「うわっ !? て、てめえ、この馬鹿兄貴っ、なに勝手に厨房から出てきてわけわからねえこと言ってんだよっ !?」
 ケイトを見守る司の背後に、不可解極まりない言葉を吐きながら現れた上月永斗 ―― 認めたくはないが、司
の実の兄 ―― が立ち、しきりに感心している。


223:ゆにば
08/10/19 14:16:10
「弟よ。ヤツは選ばれた星の下に生まれた恵まれし男。我々のようなみそっかすが太刀打ちできる相手ではない」
 黒のロングコート。長身で痩身。鋭い眼光で辺りを睥睨する姿は、なみなみならぬ迫力があるのだが。
 普段の珍妙な言動のおかげでイマイチ軽んじられがちな男。それが、上月永斗である。
 いまは、頭にかぶった白い三角巾のおかげもあってか、なおさらコミカルに見えてしまう。喫茶ゆにばーさるの厨房
を預かる自称 “伝説のコック” は、普段に似つかわしくない思案顔をして司に声をかけた。
「こいつは………荒れるぜ。嵐の予感、だ」
「あん ? 嵐って、どういうことだよ」
 片方の眉を吊り上げていぶかしむ司。ああ、それはな………と、意味深な表情を作る永斗。
「………………」
「………………」
 がさごそ。すっ。かちっ。しゅぼっ。ふーーーーっ。
「おい、馬鹿兄貴、タバコ吹かすなよこんなところでっ !?」
「ふっ………」
「つーか、わからねえくせに気分だけでなんか言う癖、いい加減に直せよっ !?」
 電光石火のツッコミである。
 要するに、さもなにかに気づいたかのように登場し、いかにもな台詞で場を攪乱し、もっともらしい態度でカッコつけ
ているだけなのだ。別段特別な思案や意見を持っているわけではなく、ただ単に目立ちたいか、もしくは司に構って
もらいたいだけなのであろう。
 だがしかし、永斗言うところの『ぴーしーいち能力』というのが、普段の彼の妄言にしてはやけにリアリティがあるの
が不思議である。なんとなく、司も「ああ、そういうものなのかな」と納得しかけてしまうところが恐ろしい。


224:ゆにば
08/10/19 14:19:30
 店内に再び目をやると、こまねずみのようにくるくるとテーブルとテーブルの間を行き交うケイトの姿。
 不思議と、今日は女性客の入りが普段以上に盛況で、なぜか一様にケイトの『受け』がよさそうだ。

 ふと ――

 背後になにやらうそ寒い不穏な空気を感じて、鳥肌が立つ。
 この感覚は ―― !?

「………兄貴」
「なんだ弟よ」
 司が躊躇いがちに口を開く。
「兄貴の言うとおりだぜ………来るな………嵐」

 ついーっ、と目だけを動かして、その異様な感覚の出所で視線を止める。
 柱の影で。店内のケイトの様子をジト目で面白くもなさそうに ―― というか、明らかにふてくされた顔をして。

 薬王寺結希が「うーうー」と涙目で唸り声を上げていた。

「ああ………それも大嵐が、な………」

 永斗が――なぜか愉しげに、そう言った。

(to be continued)


225:ゆにば
08/10/19 14:20:31
なんか書いているうちに、DXなんだか、なんなんだかわからなくなってきました(汗)。
書いてる本人は変に楽しいんですけど、いいんだろうかこれ。
どこがダブクロなんだかわかりませんが、まあ最初に「ぐだぐだぶるくろす」って言ってたから
たぶん大丈夫(なにがだいじょうぶなのか)。
キャラが思いがけずに増えてきてしまいましたけど、最後のドタバタへむけて仕込みをそろそろ開始しようかな。
それでは、次回まで~。
ではでは。


226:NPCさん
08/10/19 17:19:31
ゆにばの方、乙です!

さすが以蔵の中身の外側だあんちゃん!PC1を騙らせれば大惨事な男だぜ!!
ダブルクロス?
ああ、ケイトがはんにゃを裏切る訳ですね!

227:NPCさん
08/10/19 18:13:51
あんちゃん「チッ、ぴーしーいちけろりあん値が尋常じゃねえぜ…」
つかちゃん「だから面妖な用語を勝手に作るなっつーの!」

>>266
智世さんが、営業が終わったらゆにばの裏で待ってるってゆってた。

228:NPCさん
08/10/19 18:14:38
レス番間違えたorz

229:203の中身
08/10/19 18:17:08
>>204

書けた。ちょっと上げます。


元ねた:ナイトウィザード 時間軸的には小説版TISとの別れ直後。
内容:柊×アンゼ……を目指したがやっぱ一方通行っぽい(汗)。
   ついでに言うならラブがあるかも謎。


んじゃ。

230:NPCさん
08/10/19 18:17:25


231:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:18:24
 これまであった光が、急に遮られる感覚。
 まどろみの中にあった体が、ゆるやかに覚醒に向かっていく。
 眠っていてもいい、と意識の奥は許可を出すが、外界が変化したことと、近くに人の気配を感じることが、彼の意識を完全に覚醒させた。

 もともと害意のあるものならば、近づいただけで熟睡していようが目が覚める程度には彼――柊蓮司は周囲へ常に気をめぐらせている。
 影が落ちるほどの近距離にいても危害が加わらない、ということは近くにいる相手は敵ではない。
 しかし、起きてしまったものは仕方ない。意識を表層まで浮上させ、やけに重いまぶたを開く。


 ――そこにあったのは、月の光を形にしたような白銀。


 窓から入っていた光は陽光ほど強くない青白い光。
 それを遮っているのは、月の光すら透かしているのではないかと疑うほどに透明感のあるしろがね。
 青く薄い影が、逆光によってもたらされ、月光を遮る人物を覆う。
 視界のピントが合わず、2、3度目を瞬かせ。ようやく、相手が誰かを理解する。

「……アンゼロット?」
「あ――起きまして? 柊さん。おはようございます」

 そう言って、彼女――『真昼の月』<世界の守護者>アンゼロットは、柔らかく微笑んだ。


 彼女が笑っているとろくなことがない、というこれまでの経験が警告を放つ。
 警告に従って後退ろうとして――体中を襲う鈍痛と体の重さに、力が入りきらず背中と頭を思い切り打ち付けた。
 思わず悶絶しつつ声なき悲鳴を上げる柊を見て、アンゼロットは少しだけ驚いたように目を見開いた。

「ひ、柊さんっ? 駄目ですよ、安静にしていなくては。
 わざわざ貴方のためにこの部屋を割り当てたというのに、本人が大人しくしていないのではまるで意味がありませんから」
「安静って……そもそもここ、どこなんだよっ?」


232:NPCさん
08/10/19 18:19:37
試演

233:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:19:51
 体中を走る痛みを、呼吸法でゆっくりと和らげ、改めて楽な体勢を心がけながらベッドに横たわる。
 ここがどこで、どうしてこんなことになっていて、今はいつで、何をすべきなのか。柊がそれを把握するには、目の前の守護者の協力が不可欠だ。
 柊のその様子に、アンゼロットは少し呆れたようにため息。

「まったくもう……そんなだから質・状態の不良な学生なんて言われるのですわよ、柊さん」
「言ってんのはお前だけだっ!?
 つーか、なんでそんなにお前に呆れられなきゃなんねーんだっ!」
「自分の成し遂げたことも覚えていないような不良品学生に、一時でも世界の命運が握られたという事態について頭を痛めていたんです」

 そう告げて、彼女はびし、と柊に人差し指を突きつけると、告げた。

「――アウェイカーを、覚えていますか?」

 その真摯な瞳と、告げられた忘れようにも忘れられない今までで最強の敵の名で。完全に意識が覚醒する。
 殺気や敵意を向けられるのには慣れている柊が。裏界最強の『皇帝』位の魔王相手ですら、剣一つ握り締め、ためらうことなく立ち向かっていく彼が。
 完全で純粋な『消滅の意志』であり、『世界の滅び』として現れた『絶対者』。
 人間側の如何な力も髪一本引っ張ることはできず、逆に向こうは指先の動き一つで完全に消失させることが可能であるという、出鱈目にもほどがある戦力差。
 『滅ぼす』という意志を持っただけで、世界中のあらゆるウィザードが力の差と存在の格の違いに凍りつき、一歩を踏み出すことさえ制限されたほどの敵(おわり)。

 そんな相手の名を忘れるはずもない。
 さまざまな幸運と、仲間たちの助力があってこそ、その『終末』への抵抗はなんとか成功した。
 そして、世界が元に戻ると先ほどのまどろみの中で、彼を世界の選択として選んだ者に告げられた。だからこそ、世界はまだ続いているはずで。

 アンゼロットは、柊の表情が一変したことで事態を把握したのだろう、と判断。現状の説明に移行する。


234:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:20:43
「ここは宮殿内部の治療室の一つです。
 世界が復元されて、アウェイカーによって滅ぼされたものは元どおりになったのですが――その前のシャイマールによる被害はそうもいきません。
 重傷者は宮殿内部の緊急治療室に運びこみ集中治療を、軽傷者は各自転送陣を使ってもらって所属地や近辺のウィザーズ・ユニオンにおいて治療をしています」
「あぁ、治療――って、くれはとエリスはっ!?」

 最終戦において、無理をおしてあの場に立ったくれは。最後の希望を届けるため、あの時点では戦う力のなかったはずなのに戦地に立ったエリス。
 その二人の仲間のどちらが欠けても、柊は『滅び』を斬ることはできなかった。
 だからこそ、彼はたずねる。自分は――彼女たちを守れたのか、と。
 その必死な様子に、アンゼロットは優しい目で呆れたように答える。

「くれはさんはもともと赤羽家にいらっしゃったんですもの、ちゃんとTISが魂を戻しておいてくれましたわ。
 エリスさんは今少し微妙な立場にありますので、精密検査、という名目でロンギヌスがお預かりしています。
 ほとぼりが覚めるまではわたくしが世界の守護者の名に賭けて、絶対に守ってみせますわ」

 アンゼロットの真剣な様子とその言葉に、心底安堵したように大きく息をついて。
 体中の傷が痛くないはずがないのに。その傷のせいで、今は動くことも難しいはずなのに。


 ――彼は本当に誇らしげに、嬉しそうに、笑った。


「……そっか。よかった」

 そのことが、アンゼロットにはほんの少しだけ苦しかった。
 しかし今は告げることを告げるべきだ。彼女は報告を続ける。


235:NPCさん
08/10/19 18:21:25
えん

236:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:21:59
「それで。
 柊さんの方の容態ですけれども、三日は絶対安静。ここから出ることはないと思っておいてください。
 言っておきますが、あの戦いが終わってもう丸一日経っているのです。
 そもそも貴方は二日ほどほとんど眠っていなかったわけですし、疲労に連戦、休憩のみで大した怪我の処置もしないまま走り回る。
 そんな無茶を続けた代償なのです、その程度の拘束は当然のものとして受けてください」

 具体的に言うと、アウェイカー戦前の時点で柊の負った傷は、そもそも動けるのが不思議なほどだったということだ。
 光条の乱舞する嵐。増幅された魔力水晶弾。最上位の攻撃魔法以上の威力を秘めた夥しい数の闇の礫。熱を奪う雨。『皇帝』の暴虐。さらには己の魔器への代償。
 それだけの負荷を受けた体を意志の力のみで振り回していたという事実は、もはや感嘆を禁じえないどころか絵空事の域ですらある。

 そんな彼女の言葉にげ、と典雅さからはかけ離れた声で柊はぼやく。

「そんなにかよ……出席日数ヤバいんだぞこっちは」
「まぁ、秋葉原全体がいまだ復興の目処が立っていません。それほど気にすることはないのでは?
 ――というか、まだ卒業できる気でいたんですね柊さん」
「するよっ!? 卒業するに決まってんじゃねぇかっ!?」
「願望と可能事項は別ですわよ?」
「知ってるよっ!?」

 あまりにいつものやり取りに、くすくす、と笑い出すアンゼロット。
 それを不機嫌そうに見ながら、柊はそれで、と今までの話をなかったことにするようにたずねた。

「こっちのことはわかったが、お前はなんでこんなとこにいるんだ?
 事後処理だのでやること満載だろ。お供も連れずに俺の様子見に来るなんてヒマはねぇはずだろうが」
「……柊さんの割に鋭いですわね」


237:NPCさん
08/10/19 18:23:32
支援

238:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:23:44
 柊の言葉に、アンゼロットの表情がこわばる。
 その通りだ。今現在も公務を続けなければならない立場に、彼女はいる。
 それが、この世界を守護する存在でありながら一時でも世界を自分の意志の不足で危機に陥らせた自身の責任であると、彼女は認識している。
 その彼女が今ここにいるのは、とある彼女の側近――ロンギヌスの一人が、自身の主の異変に気づいたからだった。
 世界の復興に向けてのあらゆる指示を飛ばしている彼女の指示に要する時間が、いつもより少し遅いことと、顔色が優れないことの二点から、彼女が疲れていると判断。
 少し休んでくださいと言われたアンゼロットは、渋々とそれに従うものの、自室に行っても眠れずに、ふらふらと宮殿内を歩き――ふと、この部屋に着いてしまった。

 寝ているだろう彼に詮無いことを話そうかと思って足を運んだので、柊が起きたのは誤算だったが。
 ふぅ、と重いため息をついて、アンゼロットは笑う。柊は、いつもとは違う彼女の様子に、真剣な瞳で彼女を見る。

「……何があったんだか知らねぇが、話くらいなら聞くぞ。大したことは言えねぇが」
「――まったく、これだから柊さんは。
 そうですわね。じゃあ――ひとつ、お伽ばなしでもしましょうか」

 彼女は月を見上げながら、一つの物語を語りだす。それは、遠い過去の物語。

「とあるところに、この世の美全てを集めたかのような美しく慈悲深い、それはもう全ての人に崇められていた、素晴らしい女神がいました」
「……なんでそんな装飾語ばっかなんだよ。どんなお伽ばなしだ」
「話の腰を最初っからぽっきり折らないでくださいな。ともかく、そんな美しい女神がいたのです」

 すました顔で、彼女は続ける。
 曰く、女神はもう一人の女神とともに世界を混乱させてしまい、最後には自らの命を持って、世界を守って死んでしまった。
 けれど、そんな女神の手を取ったものがいた。
 終わりに向かうだけだった女神に、真面目にやるのなら、お前に新たな見守る土地を与えようと、偉い神様が言ってくれた。
 必要とされた彼女は、今もその世界を穏やかに見守っている、というもの。


239:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:25:11
 それはこれまでの彼女の道程だ。
 必要としてくれた手があったからこそ、今彼女はここにいることができる。なのに――彼女は、必要としてくれた者の手を、払ってしまったのだ。
 彼女が今不調なのは、そのことに罪の意識を持っていることも、少しだけある。
 しかしアンゼロットは決めたことは振り返らない。だから、罪の意識も自身の内に秘め、いくらでも進んでいける。けれど、彼女は新たな疑念を持ってしまった。
 その疑念はどうしようもなく否定できなくて、そうなってしまう可能性がないとは言えなくて、答えは出なかった。

 そんな彼女の『お伽ばなし』を黙って聞いていた柊は、いまいちよくわかっていない表情で、それで?とたずねる。

「話したいことってのはそんなんでいいのかよ?」
「いいわけないでしょう。ここからが本番です。
 一つ――頼みごとを聞いてほしいのです」

 頼みごと?と首を傾げる柊に、アンゼロットは答えのでなかった疑念の、それでも誰かのためになる対処法として思いついたことを告げる。



「もしも――もしも、わたくしが自分の意志でこの世界を滅ぼそうとしたら、ためらうことなくわたくしを斬ってくださいませんか」



 アウェイカーことゲイザーは、より大きな世界を守るためにこの世界の人間を切り捨てようとした。
 それは、アンゼロットとて同じこと。大きなもののために小を犠牲にしようとするのは彼女の立場として当然のこと。
 この世界を守護すべき彼女が、もしもゲイザーとは理由は違えど、なにかの拍子に世界の全てを破壊してしまおうと考えることはないのかと。
 その疑念は、彼女のうちから離れてくれなかったのだ。
 あのゲイザーでさえ、理由さえあればこの世界を滅ぼすという選択をとったのだ。
 かつて一度世界を混乱に陥れてしまったことのある自分は、二の轍を踏む気はなくとも、世界を滅ぼそうという意志を持ってしまうかもしれない。


240:NPCさん
08/10/19 18:26:41
氏円で?

241:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:26:56
 だから、もしもそうなった時は。
 世界のために。自分を殺せる人間に、先にその願いを伝えておこうと思ったのだ。
 彼女には、その疑念を絶対にありえないこととして否定することができなかったから、世界のために、せめて。
 その奥には、最期が彼の顔を見ながら死ねるのなら、それも悪くないか、というほんの少しの淡い期待もあるのだが。

 柊はそのアンゼロットの言葉に一瞬目を見開き――大きく嘆息して、ぎしぎし悲鳴を上げる体を無視。両手でアンゼロットの頬を引っ張った。
 いきなりのことに、そう痛くはないもののあわてるアンゼロット。

「な――ひゃにふるんれふは、ひーらいはんっ (訳:なっ、なにするんですか、柊さんっ)!?」
「――やなこった」

 そう、一言。
 それが先の願いへの返答だと知り、アンゼロットは目を見開いて硬直した。
 それを見て両手を離し、ゆっくりとベッドに下ろす。

「お断りだって言ってんだよ。なんで俺がお前を斬らなくちゃなんねーんだ」
「だ――だって、柊さんしか、今わたくしに滅びを与えられる人間なんていませんし――」
「そうじゃねぇだろ」

 イラついたように、乱暴な声。
 アンゼロットは、その声にびくん、と震えた。まさか、殺される相手に選んだ理由を見透かされたのかとも思ったが、相手は柊蓮司である。そんなはずは当然なく。

「違うだろうが。人のこと不良品扱いするくせになんでこんなこともわかんねぇんだお前は。
 俺が言いたいのは、もっと単純なことだ。
 アンゼロット。お前は、だったらなんで――アウェイカーに逆らったんだよ?」 

 唐突なその問いに、アンゼロットは本気で問いの意味がわからずに頭が空白状態になる。
 柊は、まったくそんなことは気にせずに続ける。


242:NPCさん
08/10/19 18:27:46
下がる支援男。

243:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:27:55
「お前はさっきの話聞く限り、あいつに誘われたから今ここで守護者やってんだろ。恩感じてるのもわかる。
 けど、だったら別にあそこでシャイマール相手に大量のウィザード送る必要はねぇだろ。たぶんキリヒトの奴はやめろっつってただろうしな。
 ってことは、お前はあいつの意思に逆らったってことで――あいつの命令よりも大事なもんとして、この世界を選んだってことだろ。
 何がお前をそうさせたのかは知らねぇが、それでもお前はあいつの部下じゃなくて世界の守護者の方をとったってことじゃねぇか。
 恩感じてる奴裏切ってまで、っていうのは並大抵のことじゃないってことくらいは、不良品でもわかるつもりだぜ。
 そんなにもこの世界を大事に思ってる奴が、コマみたいにこの世界を捨石にできるかよ」

 その言葉は、アンゼロットの心の中にゆっくりと染み込んでいく。
 確かに、最初は義務感だけでこの世界を守っていた。
 二度目の生を与えてくれたゲイザーに報いようと、ただ世界を維持することに執心していた。
 けれど、この世界を見守るうちに新たな感情が生まれてきたのだ。

 自身を慕ってくれる、ウィザードたち。
 ただ意思の力で、あらゆる苦難を乗り越えようとする人間たち。
 一目で理解できる魔との力の差を、心を奮い立たせ乗り越える者たち。

 世界は。運命はこんなにも、終わりへ向けて一直線に進むのに。
 ただ自身の望む願いと大切なものを守り、未来を作ろうと必死でもがき苦しみながら、それでも人は前に進む。
 『神』という、これ以上変化することができない自分たちには、けしてできない生き方。



 それを見て、美しいと思った。
 完全であるがゆえに、欠けはなく、ゆえに突出したもののない『神』。
 しかし、見続けていた変化なきはずの彼女の心は、いつのまにかゲイザーへの忠誠心以上に、人間(セカイ)の存続を願うようになっていた。
 それもまた、人の起こした奇跡というべきか。
 だからこそ彼女は、彼女が彼女であり続ける以上。柊の知るアンゼロットである限りにおいて、絶対にそんなことをしないと、彼は答えたのだ。




244:NPCさん
08/10/19 18:29:20
支援ー。

245:NPCさん
08/10/19 18:30:39
支援は、ご入り用で?

246:NPCさん
08/10/19 18:34:26
さるさんかな?

247:NPCさん
08/10/19 18:44:12
レスがいくつかされると解除されるんだっけ?>さるさん
とりあえず一レスしておこう

248:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 18:53:13
45KB……
どうも予告していた205こと泥ゲボクです。
ちょっくら長いので支援をお願いします。
長すぎるので何個かに分けて投下したいと思います。

249:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 18:54:07
って、投下開始してる ORZ
その次の投下予告しますね 支援!

250:夜に浮かぶ月の雫
08/10/19 18:59:28
 それに気づかされて、彼女は思わず大きく目を見開き――童女のように微笑んだ。
 人の起こす奇跡は、長い時をかけて、彼女の在り方にすら変化を与えていた。それに気づいた時に、彼女は心からこの世界を愛しいと思えたのだ。

「そう、ですか。
 ……柊さんにしては、いいことを言いますのね」
「オイ、俺にしちゃあってどういうことだコラ」
「そのままの意味ですわ。まったく……世界の守護者にお説教なんて、三億年と三日と三転生くらい早いです」
「死んでからものが言えるかよっ!?」

 くすくす、といつものように笑って。
 アンゼロットは、晴れやかな思いで横たわる少年に向けて言った。

「とにかく。今回の件については、後々色々とお伝えしますわ。起こしてしまってごめんなさい、わたくしも公務に戻ります」
「話したいことってのは今ので終わりか? んじゃあ俺はゆっくり寝かしてもらうわ、この一日分ぐっすり」
「えぇ――お休みなさい」

そう告げて。
彼女はそこから踵を返す。
次に彼が目を覚ました時、このお説教の借りを返すためにどんな悪戯をしようかと企みながら。



――彼に切り捨てられた、彼女の選ばなかった『神の部下』である自分と決別して。
――柊が信じてくれて、彼女が選んだ『アンゼロット』であり続けるために。人間を愛し続ける女神でいられるように。次に成すべきことを考えながら。

彼女は、一歩を踏み出した。


fin.

251:中身
08/10/19 19:02:33
あい、以上で柊×アンゼのお題をクリアしたと言ってみる!
……無理がありますね。そうですね。

存在ってのは、自分がこう思う、っていうのと誰かにこう見られてるってのは大抵違うものです。
アンゼはこう見られる自分が自分の好きな自分だから、そうあろうって感じに心を決めたって話。

うわ、ラブねぇ。orz

さぁ、みんなさくっと泥の人の話見ようぜ!支援!

252:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 19:11:13
>>251

あまーい! 十二分に甘いですよ!
こういうシリアスの中の渋味とか、さりげない優しさとかときめきますね。
しかし、柊。
本当にラブコメの似合わない男だ、フラグが自然すぎてまったく意識できねえww


では、投下していいのかな?

一応20分から投下開始します。
支援をお願いします!


253:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:20:58
投下開始します。支援お願いします。


 大きな戦いがあった。
 幾つもの人が死に、多くの人が傷つき、世界が滅びかかるほどの巨大な戦争があった。
 マジカル・ウォーフェア。
 七徳の宝玉を巡る侵魔と魔法使い達の戦争。
 その果てを彩ったのは唯一皇帝の名を冠した偉大なる侵魔の王。
 シャイマール。
 恐ろしい、恐ろしい力の怪物。
 無限の憎悪に埋め尽くされた破壊の獣。
 禍々しき悪意と破滅を撒き散らす破壊神。
 それが退けられたのだ。
 一人の少女の想いと一人の少年の剣によって。
 神話の如き戦いだった。
 伝説に語り継がれるようなサーガだった。
 破壊を司る背徳の獣は退けられ、それを利用しようとした神の分身体は神殺しの剣によって葬られた。

 それがマジカル・ウェーフェアの結末である。

 まさしく現代の神話と呼べるものだった。
 けれども、それが物語として語り継がれるのは時が短く。
 世界はその傷跡から立ち直る暇もなく、新たな脅威と戦い続けている。
 世界は狙われ続けているのだ。
 だからこそ、人はさらなる力を求める。
 傷口を埋めるために、失った血液を作り出すために食物を噛み砕くように。


 そして、そのような現状において一人の男がアンゼロット宮殿に訪れていた。

254:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 19:23:10
「……お久しぶりですわね、安藤来栖」

 宮殿の主であり、ファー・ジ・アースの守護者でもある銀髪の少女、アンゼロット。
 彼女は玉座に座り、一人の男を出迎えていた。
 年齢57歳。初老といえる年齢の厳しい顔つきをした男である。

「出来うるならば来たくはなかったがな、アンゼロット」

 麗しき美貌の持ち主。
 美しき真昼の月、その優雅なる佇まいを見ても心震わさないのは極僅か。
 安藤 来栖。
 そう呼ばれた男は数少ない例外の一人だった。
 常ならば首に巻きつけている手ぬぐい、質素なズボンと厚ぼったい上着を着込んだその姿は単なる農夫のように一見見えるかもしれない。
 しかし、誰が知ろうか。
 その男こそは過去ロンギヌスにおいて最強と呼ばれた魔剣の使い手であることを。
 安藤の一足踏み込むたびに死地へと叩き落されるような感覚に、ロンギヌスたちは仮面の奥で息を呑み、緊張に身を強張らせる。
 安藤 来栖。
 かつてアンゼロットが行った指示により大切な女性を喪い、それ故に宝玉を持って組織から去った男。
 恨みがないわけではないだろう。
 浮かべる鋭い視線の中に暖かな感情など一欠けらも混ざっておらぬ。
 優れたる剣の使い手、さらに言えばウィザードの身体能力ならば一挙一速の間合いにまで迫った安藤を彼らは止められるのか。
 素手の男、それに対して向けられる警戒の意識はどこまでも強く、それ故に空気すらも固まり、濁りそうだった。

「ふん。ずいぶんと質が落ちたな」

 鼻を鳴らし、安藤は緊張に身を強張らせるロンギヌスたちを一瞥すると、にべもなく吐き捨てた。

255:NPCさん
08/10/19 19:23:47
支援?

256:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:25:39
「ええ。遺憾なることに、私たちの世界を護るための剣は弱体化しつつありますわ」

 ロンギヌスへの批評。
 それは従える主であるアンゼロットへの侮辱ともいえる言葉だったが、麗しき守護者は涼しげな笑みで受け流す。
 どことなくコメカミにびきっと血管が浮かんだような音がしたが、おそらくは幻聴だろう。

「それ故に貴方に頼みたいのですよ、安藤 来栖」

「貴様の任務を受けるつもりはない」

「でしょうね。既に貴方は組織より離反した身、命令を下せる立場にはありませんわ」

 常にない相手を尊重するかのようなアンゼロットの口調。
 それに付近で警戒していたロンギヌスの一人が動揺するような雰囲気を発したのを彼女は目ざとく見つけ、後でお仕置きしようかしらと考えた。
 けれども、そのような些事はさておいて。

「ですから、これは頼み事です。戦場に復帰することは是非共……本当に望みたいのですが、貴方には部下の育成を依頼したいのです」

「……かつてロンギヌスの同胞すらも手に掛けた私に預ける、と?」

 その言葉に、ロンギヌスたちに衝撃が走った。
 かつてアンゼロットの命から離反し、ロンギヌスを抜ける際にアンゼロットから追撃の命を下されたロンギヌスたちと安藤は刃を交えていた。
 魔王との激闘に傷ついていた安藤は手加減する余裕もなく、狙ったわけではないが幾人ものロンギヌスたちを閻魔帳に載せている。
 とうてい許されるような立場ではない。
 本来ならば刃持て、八つ裂きにされてもおかしくない立場だった。

257:NPCさん
08/10/19 19:26:11
毎度ありがとうございます!
今後ともごひいきにお願いします

258:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:28:06
 自殺覚悟のつもりか?
 今更になってこの宮殿に足を運んだ己をせせら笑う。
 そうかもしれない、と心の中で呟く。
 既にユウが護り、自分が護り続けた宝玉はある少女に手渡され、己の役目は終わったと理解している。
 生に執着がないわけではないが、生き続けるだけの理由もまたない。
 だからこそだろうか。
 何度乞われても足を運ばなかったことに来たのは。

「ええ。過去の罪は忘れましょう」

「都合の悪いことには目を瞑る、と? そこらの若造からは敵意が感じられるが」

 眉を上げて、一人のロンギヌスから発せられる僅かな敵意を感じ取り、安藤は息吹を洩らしながら腕を組む。
 本来ならば愚作たる両手を封じる行為。
 この瞬間襲われれば両手を解き放ち、対応を開始するまで数コンマ反応が遅れるだろう。
 それでもなお安藤は倒されぬという自信があるのか、それとも襲わせないとアンゼロットを信じているのか。
 アンゼロットには分からない。
 けれども。

(試してますね)

 胸中でそう結論し、アンゼロットは細く白い透き通るような指を動かして、敵意を浮かべていたロンギヌスを叱咤した。

「納めなさい。ロンギヌスよ。貴方たちは悪を討つための聖槍なのですよ、容易に解き放つことは許されません」

 凛とした言葉。
 それは大気に浸透し、その場一体の空気を鋭く整える。
 そして、全てのロンギヌスたちが職務を思い出したかのように背筋を伸ばし、荘厳なる気配と佇まいの騎士達と化した。
 これだ。
 このカリスマ性こそがかつて安藤がロンギヌスに入隊し、正義を信じた理由であった。

259:NPCさん
08/10/19 19:28:13
これしきの投下で規制するとは……
まったく情けない

260:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:30:44
 かつて第三世界エル=ネイシアを治める女神だった一人、アンゼロット。
 その年月による経験とその身に秘めた莫大なる力は太陽の如くウィザードたちの心に火を灯し、陶酔させるのだ。
 心頭滅却。
 長年の鍛錬により滅多なこと意外では決して揺るがぬ大樹の如き精神を持った安藤は静かに言の葉を紡いだ。

「大したものだ。アンゼロット。30年前とは変わらぬ……いや、少しは変化したか?」

「そうですか。私は何も変わりませんし、変わるとしたらそれは貴方の主観でしょう」

 永遠なる少女はニコリと月が輝くような笑みを浮かべて、安藤に告げる。

「それでは再び訊ねます。私のお願い事にハイかYESかで答えていただけるでしょうか?」

「―少し褒めるとこれだ」

 調子に乗らせたか、と安藤はやれやれとため息を吐き出し、されどその心のうちは決まっている。

「答えはハイだ」

 若いものが死ぬ。
 誰かが未熟なために命を散らせる。
 それを見過ごせるほどに安藤は朽ちた心を持たず、悲劇を見過ごせるほどに世界に絶望していない。
 それが故の答えだった。
 かつて一人の少年―若き己を被らせた魔剣使いの少年に、その心の在り方を説いたように。

「なるほど。では安藤来栖。優れた魔剣使いよ、貴方に若き彼らを任せますね」

 新雪が春の兆しに解けるかのような笑みをアンゼロットは浮かべる。

 こうして安藤は一時の間、ロンギヌスの客人となった。

261:NPCさん
08/10/19 19:30:58
支援の灯を。

262:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:33:07
 ―『天へと捧げる一刀』


 幾ら世捨て人をやっていても、風の噂というものはあるものだ。
 マジカルウォー・フェアにおける被害。
 その後に出現し始めた闇界からの侵蝕者、冥魔。
 それらとの対応に追われ、腕の立つ人間、経験豊富なウィザードは少なく、慌しく世界各地を飛び回り、どこの組織も新人育成と有能な人材の発掘に当たっているという。
 それは聞いていたが、これほど酷いとは思わなかった。

「おぉお!!」

 それが安藤としての感想である。

「甘い」

 ロンギヌス候補、魔剣使いの少年が振り抜く魔剣の一撃を、安藤は片手に持った木剣で捌き、側面から横に弾き払うと、その少年は体勢すらも整えることが出来ずに無様に体が流れる。
 なんという踏み込みの乱れ、身体バランスをもっと意識しろ、太刀の握りが甘い、弾き払えと言っているのか。
 一瞬の間に思い浮かぶ罵倒の言葉は十数種にも渡るが、安藤はそのまま木剣と魔剣の峰に沿って流すと、ぴたりと数ミリの隙間を開けて少年の喉下に刀で言うならば刃の部分を添えていた。

「ま、参りました……」

「……威勢の強さは認めるが、がむしゃら過ぎる。もっと剣を振るえ、体軸のバランスが取れてないから、この程度で体勢を崩す」

 そう告げると、ふっと風が流れる程度に安藤の脚が動き、少年の足が刈られた。
 予想すらもしていなかった衝撃に受身すらも取れずに、背中から強打し、強制的に酸素を吐き出される少年。
 苦痛の顔を浮かべる少年に、安藤は見下ろし、木剣の柄を握り締めながら、どことなく呆れたような声音で告げた。

263:NPCさん
08/10/19 19:33:14
別に礼を言われるために支援したんじゃない。
なんとなくだよ

264:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:36:24
「そして、私はまだよしとは言っていない。忘れるな、剣を持つ者はその手を離すまでは決して集中力を、警戒を切らすな。ここが戦場ならば五回は殺せるほどの隙があったぞ」

 どこか憎々しげに見上げてくる少年の瞳。
 よし、悔しさを感じるうちは伸びる素養がある。
 安藤はそのまま少年の傍から離れると、組み手を続ける龍使いと人造人間のペアを見た。
 錬気を練り上げて、次々と襲い掛かる人外の刃を捌きながら、必至に反撃の隙間を伺う龍使いの少年。
 それをどことなく無感情な人造人間の少女が、体を変化させ、歪に床を蹴り飛ばしながら、まさしく獣のように駆け巡る。
 その全方位から次々と手段を変えて襲い掛かる攻撃を往なす化剄のキレは中々のもの。

(だが、崩しが出来ていないな)

 人造人間の変幻自在な体躯に崩し方を思い付きかねるのか、少年は顔面に迫る蟹の爪の如きアームブレイドの下から打ち上げて、
 同時に手首を返して方角をずらし、下へとしゃがみこみながら、体を捻り、もう片方の手から延びる斬撃を肘から居合い抜きのように放つ手の甲で叩いて弾く。
 受けの動作ならば及第点を与えてもいいのだが、その度に気息が乱れて、打ち払う動作にいまいち氣を乗せ切れていないのが残念か。
 気息の保持が甘い、そしてもう少し踏み込みと歩法を磨けば一息に輝くだろうと安藤は判断した。
 数十年前、とある事件で共闘した奇妙な体質を持った龍使いならば一つ目の動作で気功を発してその手を弾き上げることで崩し、成すすべもなく上半身を上へと伸ばしきった少女の胴体に流れるように打ち込んだ靠撃の一撃で内臓を粉砕させていることだろう。
 そして、人造人間の少女を見る。
 動作の機敏さ、自身の肉体を変化させる速度、そのバリエーションは素晴らしい“性能”と言えるだろう。

(だが、それだけだ)

 単なる頭のない侵魔には通じるかもしれんが、魔王の使いや魔王級エミュレイターには通じないだろう。
 性能で挑む兵器は所詮己を越える性能には太刀打ちが出来ない。

265:NPCさん
08/10/19 19:37:00
あなたに支援の導きがありますように……

266:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:38:48
 人間とは脆いものだ。
 第一世界ラース=フェリア人よりも闘気や身体能力に劣り、第五世界エルフレアのように天使の力もなく、第三世界エル=ネイシアのように強大なる守護者の欠片やゲボクという物量があるわけでもない。
 故に技術を高め、戦術を練り上げ、武具を揃える。
 それは確かに間違っていない。
 人としての強さは創意工夫にこそあるのだから。

(研鑽せよ、若人)

 爺臭い言葉を自然と脳裏に浮かべる己の存在に気付き、苦笑する。
 今の彼はつい一週間前着ていた服装ではなく、大き目の作務衣を着ていた。
 常に一定の気温に保たれるアンゼロット宮殿の領域では涼しくもないが暑くもない。修練には向かぬと用意したロンギヌスのどことなく子犬を思わせる少年は首を傾げていたが、安藤は和服を好む質だった。
 あの島ぐらしでは農作業には向かないと諦めていたが、ここでならばこの格好をしていても問題はないだろうと思う。
 そして、そんな彼がいるのはどことなく簡素な佇まいの巨大なる一室。
 無数の結界を張られて、熟練の設計士が設計した、構造そのものが強度性を高める造りになっているトレーニングルーム。
 アンゼロット宮殿の一角で作り上げられたその中で満ちる空気を安藤は嫌いではなかった。
 己もまだ届かぬ剣の道を究める修行者だという自覚はある。
 故に理由も道も異なるが、高みを目指して鍛錬を続けるものたちは見ていて心地がよかった。

(さて、次は誰を見るか)

 あとであの二人には指導をしなくてはな。
 そのことを念頭に置きながら、組み手の邪魔をするのも駄目だろうと考えて、安藤はぐるりとトレーニングルームを見渡し、次なる相手を探した。
 その視線に気付き、我先にと同じ道の、それでいて遥かな高みにいる人物と気付いてか多くの魔剣使いが安藤に挑みかかり、打ち倒されていく。
 しかもそれらは一息にではなく、指南するように柔らかく太刀を受け止め、或いは捌き、或いはその荒さを教えるかのように同じ軌道で打ち払い、その握りの甘さを知らせるかのように魔剣を弾き飛ばした。

267:NPCさん
08/10/19 19:39:33
さすがに支援に目覚まし時計は持ってこないですよね

268:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 19:42:17
「手首が強張っているな、もう少し柔らかく握るべきだ」

「魔剣に意識が同調していないぞ。もっと感応しろ、魔剣使いならばこの程度の角度の打ち込みは死角に入らん。魔剣に感覚を預け、信じろ」

「握りが甘いぞ。戦場で武器を手放すことは死に直結する愚行だ!」

 息も乱さずに十数人以上のウィザードがへとへとになるまで打ちのめし、トレーニングルームにいるロンギヌス候補生たちは一週間のうちに見慣れた光景だったが、感嘆の息を吐き洩らす。
 そして、少し休憩をいれるべきかと老骨には応える指南に、涼しい顔のまま安藤が考えていると……ざわりとトレーニングルームの入り口がざわめいた。

「む?」

 安藤がざわめく気配に気付き、目を向ける。
 数秒と立たぬうちに彼は得心した。
 トレーニングルーム、その入り口に現れた銀髪の少女を見たからだ。

「皆さん、研鑽に励んでいますね」

 ニコリと少女らしい笑顔を浮かべるアンゼロット。
 その言葉に本性を知らぬ候補生達は心酔した表情を浮かべて、緊張に上ずった声を上げた。
 そんな彼らの様子に、将来の心配を僅かにした安藤は内心ため息を洩らすと、アンゼロットの元へと歩み寄る。

「なんの用だ、アンゼロット。お前がわざわざ来るような場所でも在るまい」

「あら? 私がこのような場所に来るのはおかしいことですか?」

 安藤の憮然とした言葉に、周囲のロンギヌス候補生達がいささか引いているが気にもしない。
 一々アンゼロットの対応に戸惑っていては神経症に陥るのが関の山だからだ。

269:NPCさん
08/10/19 19:43:22
支援はさるさんに見つからず、投下を助けるのが第一だ

270:NPCさん
08/10/19 19:47:11
あなたに、支援を…(かないみか声で)

271:NPCさん
08/10/19 19:52:46
これは……8時の規制解除まちかな?

272:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:01:04
「まあいいでしょう。どうやら安藤さん、しっかりと教育に励んでいてくれるようですね」

「私は一度受けたものを違えるほど趣味はないのでな」

 そう告げると、安藤はアンゼロットの後ろから姿を見せる数人の少女達の姿に気付いた。

「む? ……志宝エリスとマユリ=ヴァンスタイン?」

 見覚えのあり過ぎる少女達、それに赤羽くれはの姿もあった。
 他にも何名かウィザードらしき人物の姿があるが、その中でも一名ほど安藤が気にかける青年がいた。
 白いジャケットの、私服姿らしい茶髪に染めた青年―柊 蓮司。
 何故か洗い立ての髪や肌をしているが、シャワーでも浴びたのだろうか?

「……久しぶりだな、安藤のおっさん。ロンギヌスに復帰したのか?」

「客分といったところだろうな。そこの女狐にひよっこ達を鍛えなおして欲しいと頼まれた」

 ほんの一時のみだが、己の神罰刀を使いこなして見せた若き魔剣使いを安藤は見据えて……ほぅっと息を吐いた。
 あの日心が荒れて、未熟だった青年はどうだ。
 清流の如き感情のうねりこそ感じられるものの、その瞳には真っ直ぐに前を見据える決意の光があり、その佇まいはほんの数ヶ月とは比べ物にならぬほど精錬されている。
 その振る舞いには成長した力強さが有った。

「……ずいぶんな死地を潜り抜けたようだな、柊 蓮司」

「そうか? あまり意識はしてないんだが」

 今更ながらに思い出す。
 皇帝シャイマールを打ち倒したのは目の前の少年なのだということを。
 そして、傍に佇む少女を見た。

273:NPCさん
08/10/19 20:02:29
支援再開なのだ

274:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:03:31
「久しいな、志宝エリス」

「はい! 安藤さんもお元気そうで!」

「わ、私もいるんですが……そうですよね……私なんてどうでも……」

 よよよと壁の隅でのの字を描き始めるマユリに内心腹を抱えて笑うと、安藤はぐるりと首を曲げて、アンゼロットに目を向けた。

「して、何用だ」

「実は面白い……ごほごほ、素敵な趣向を思いつきまして」

「趣向?」

 嫌な予感がした。
 同じ感覚を読み取ったのか、柊もまたアンゼロットへと向けていた顔を青白く染める。

「柊さん、安藤さん。一手剣を交えてみてくださらないかしら」

「なっ」

「……」

 アンゼロットの提案。
 それにざわりと周囲の空気がざわめいた。
 ウィザードの中でのエースオブエースと目される柊 蓮司。
 過去ロンギヌス最高の魔剣使いとして称された安藤 来栖。
 二人のウィザード、その最高峰に位置する魔剣使いの対峙と聞いて、未だに駆け出しのウィザードたちが興奮と期待に頬を染め、息を荒げた。
 しかし、その引き合いに出された二人はどこか戸惑い、或いは憮然とした顔つきだった。

275:NPCさん
08/10/19 20:04:16
とっこーしえんたい!まいる!

276:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:05:22
「は? ちょっとまてよ、俺さっき海から命からがら這い上がってきたばっかりなんだぞ!?」

 とある任務でスクールメイズの落とし穴から海へと流し込まれた彼はようやく生還したばかりなのだ。
 シャワーを浴びて、回復魔法を掛けられたとはいえ、精神的な疲労はある。

「お遊びで剣を交えるつもりはない」

 にべもなく吐き捨てると、馬鹿らしいと安藤は態度で語り、首を横に振るう。

「そうだな。個人的には決着というか、アンタとは一手指南して欲しい気もするけれど遊びでやる気はねーよ」

 柊は少しだけ真剣な眼差しでアンゼロットを見つめた。
 戦いに遊びは無い。
 見世物にされるなど両方共真っ平ごめんだった。
 バトルマニアでもない魔剣の担い手二人共が拒絶すると、アンゼロットはあらあらと困ったような顔をして、けれどもどこか意地悪な顔を浮かべた。

「でも、若いウィザードたちに可能性を見せてあげるのはよい行いではないのでしょうか?」

 そう告げて、アンゼロットが指し示すと、そこには期待に胸を膨らませた候補生達の熱い視線があった。
 うっと柊が呻き声を上げて、安藤は怯まずにただ沈黙する。


277:NPCさん
08/10/19 20:05:35
しえーん

278:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:07:20
「柊~、こうなったらアンゼロットさん、絶対に意見を曲げないよ?」

「ひ、柊先輩、それに安藤さんも頑張ってください!」

「お二方の戦いぶりを見れるとは、酷く光栄なことです」

 三者三様の言葉。
 それに加えて無数の言葉が二人の背を押し、外堀を埋めていく。
 逃げるのは不可能か。
 そう悟ったのは奇しくも同じ瞬間だった。
 二人の魔剣使いが視線を上げて、同時に視線があった。

「……安藤さんだったよな、いつぞやの約束叶えてもらってもいいか?」

「いいだろう。あの時からどれほど成長したのか、見せてもらおう」

 にやりと世界屈指の剣士は獰猛なる笑みを初めて見せると、微かに、そう本当に微かに手を振るわせた。
 武者震いである。

(私が喜んでいるのか)

 安藤は僅かに動揺し、それを上回る予感に心を沈めた。
 剣に見入られ、剣に狂うた心が鎌首をもたげて、囁くのだ。

 愉しみだと。


279:NPCさん
08/10/19 20:07:50
魔剣使いはすべからく女狐に弱い法則でもあんのかww支援

280:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 20:09:11
一旦ここまで。
一度サル規制を喰らいました。
まだこれだけで三分の一程度ですので、もしも投下予定のある方がいればお譲りします。
もしそうでなければ、また45分ごろから投下を再開します。
頭部部だけでこれだけかかったよ! ORZ

281:NPCさん
08/10/19 20:10:25
さるさんに職人の何が分かるって言うんだ!


投下乙。

282:NPCさん
08/10/19 20:41:36
さるさんの苦労は痛いほどわかるからなぁ……

泥の人投下乙。
熱くて心臓が早鐘を打つほどに、甘くて舌が蕩け落ちるような、お話の続きをお待ちしています――。

……つーか、支援はなんのネタかと思いきやアクロスかよww

283:泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/19 20:45:10
ういうい、そろそろ時間なので投下開始します。
怒涛の剣撃応酬―付いて来れますか?(弓兵チックに
支援をお願いします!

284:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:46:36
 十数分後、トレーニングルームの中央となるフロアで二人は向き合っていた。
 足元は滑りにくく摩擦のかかった、されど無機質な金属にも鉱物にも似た材質の床。
 そこで柊は屈伸をしながら、長い海中生活で痺れて手足に熱を与えていく。
 対する安藤は目して動かず、既に候補生との指導でほぐれた体の熱を吐き出し、呼吸を整えながら疲労を抜き、集中力を高めていた。
 高まる空気の圧迫感。
 見守る見物客達の視線が少しわずわらしいが、戦闘に没頭すればそんなことは消え失せると確信していた。

「最初はどうする?」

 柊はストレッチをしながら、安藤に尋ねる。
 その周囲で見守るエリスやくれは、その他もろもろの視線がくすぐったが、出来るだけ気にしないことにした。

「無論、主は魔剣を使え。私も神罰刀を抜く」

「いいのかよ」

 柊が目を見開く。
 どうせ木剣程度で打ち合う程度だと思っていた。
 相手になどされないと諦めていた分嬉しい誤算だった。

「ああ、だから―」

 ストレッチを終えた柊を見据える安藤の瞳は鋭く冷たい。
 小指から緩やかに指を折り曲げて、鷲爪のような手の平の形を作り出す、まるで柄を握り締めるかのような手の動き。
 そして、構える。
 安藤が構えて、息吹を発した。
 無音なる息、しかしそれに乗って声が聞こえたのだ。

 ―一太刀で終わらせるな。

285:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:48:13
 そう安藤の瞳は、気配は、息吹は語っていた。
 ぞくぞくと全身の肌が泡立つような剣気、剥き出しの闘気、これが安藤 来栖の気配か。
 柊は己の全身に流れる血液がドライアイスにでもなったかのような冷たく焼かれるような錯覚を覚えた。指先が痺れて、爪先が強張り、全身の肌が固められたかのように強張るのを感じた。
 怖がっているのか。
 恐れているのか。
 魔王と対峙した時とはまた異なる鋭く、どう踏み込んでも首を刎ねられる幻覚しか見えない、斬撃の死神の姿が見える。
 武者震いなどではなく、正真正銘恐怖からの震えを柊 蓮司という魔剣使いは体感し―

(いや、だからこそ)

 一つの意思と可能性を見出し、柊は目をカッと見開いた。
 同時に両手を握り締め、嵌めたフィンガーグローブがぎぎぎと強張った音を立てて、軋みを上げる。

「む?」

 安藤はその様子に僅かに細めた瞳を広げて、和紙の向こう側に墨が滲み出るかのように喜色の念を浮かべてみせた。
 なるほど、やはりこの程度の剣気で怯みもしないか。
 ならばこそ、剣を抜く価値がある。

「構えよ」

「応」

 共に月衣を展開。
 虚空に柄が浮かぶ。
 安藤の横脇には日本刀を思わせる絹糸の柄を。
 柊の側面には西洋剣を思わせる錬鉄の柄を。

 ―引き抜く。

286:NPCさん
08/10/19 20:49:03
支援

287:NPCさん
08/10/19 20:49:43
しえん

288:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:50:26
 瞬間、安藤の手に握られたのは麗しき刀身を兼ね備えた一振りの太刀。
 見よ、名工の手によって打ち出された現代の魔刀の姿を。
 その星流れる隕鉄を混ぜ込み、神すらも切り裂くために刃にはマリーアントワネットの血を啜った断頭台の刃を、清正を切った村正を、靖国たたらの玉鋼を持って造り上げられた最高の一振り。

 仇なす凶魔に神罰下し 荒ぶる神にも罰下す
 抜けば焔立ち 振るわば星流る
 神剣名刀切り裂き候 妖刀魔刀神罰刀

 その刃を向けられし魔は怯え、神は震え、あらゆる全てを切り伏せる背筋すらも怖気立つ銘刀。
 抜けば玉散る壮絶至極極めの一刀。
 安藤が振るいし、その神斬の太刀は如何なる障害をも退けるだろう。
 その煌めきに、その凄絶なる気に、篭められし名工の執念が、握り締めた安藤の剣気が、心地よい気温に設定されたはずの大気を凍りつかせる。
 それに抗うかのように、柊の手に引き抜かれたのは一振りの西洋剣。
 巨大なる刀身、全長あわせて身の丈ほどもある剣。その柄には宝玉が埋め込まれ、その鍔はまるで飛竜が翼を広げたかのごとき形。
 誰もが知る、誰もが知らない。
 それは幾多の邪悪を切り裂き、一人の世界を滅ぼした魔神を傷つけ、神をも喰らった魔を葬り、三体の神を殺しせしめた神殺しの刃。
 伊耶冠命神の自殺の引き金、己を殺すために埋め込まれた神殺しの呪。
 その呪により金色の魔王と讃えられし裏界第一位の魔王にして古代神を引き裂いた。
 さらには世界に絶望した神の分身をも葬った。
 古来より伝わる伝説の一振り。
 星の巫女の守護者、七本のうちの一振り、その内でも魔王の欠片たるヒルコを喰らいて進化し続ける魔剣。
 それが柊の剣。
 共に神をも殺せる資格を、存在を、魔王すらも恐れさせる魔剣の担い手たちに握り締められ、この世界に姿を現す。
 誰かが怯えた気配を見せた。
 誰かが息を飲む気配があった。
 だが、知らぬ。
 そんなものはどうでもいい。
 その手に魔剣の感触があり、対峙すべき相手がいるのだから、他のことになど目を向ける余裕などありはしない。

289:NPCさん
08/10/19 20:52:11
ついてこれるか、じゃねえ支援

290:NPCさん
08/10/19 20:52:31
しえんの!

291:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:53:00
「相変わらず……化け物じみた魔剣だよなぁ」

 柊が軽口を叩く。
 かつて数秒だけ借りた魔剣。
 しかし、振るい終わった後に柊はその手を握り締め続けて、エリスや他の皆には伝えなかった事実がある。
 手が焼かれたのだ。
 例え魔剣の振るい手が認めようとも、魔剣が認めるのはただ一人。
 その拒絶反応は確かにあった。
 だがしかし、それ以上に神罰刀、それが秘める凶気なる力に柊の手が悲鳴を上げた。
 並みの人間が握り締めれば瞬く間にその力に溺れるか、それとも手が千切れ飛ぶか。
 それほどの魔剣、魔器、妖刀魔剣すらも切り裂くとはよく言ったものだと柊は思う。

「なに、老骨の手にはいささか重いが、大したことは無い」

 そう告げる安藤の瞳には自惚れも力に対する酔いなど微塵もなかった。
 かつて強大なる七徳の宝玉の一つを封じ続けた魔剣、それは役目を終えて、魔剣使い安藤 来栖の手に戻ったのだ。
 知る者が知れば絶叫すべき事態。
 そして、柊はそれに挑みかかろうとしている。
 腰を落としながら、じわりと吹き出す汗を抑えられるとは思えなかった。

(やべえ。下手に攻め込んだら―どう足掻いても斬られる)

 脳裏に浮かぶ一刀の元に切り伏せられる自分の死に様。
 何十種類と考える攻め打ちを思考するが、どれも失敗のイメージしか浮かばない。
 じりじりと爪先で進む、間合いを計る、普段にはない行動。
 そんな柊に薄く笑みを浮かべて、安藤は告げる。

「来るがいい。慣れぬ行為は無理となるぞ」

「っ」

292:NPCさん
08/10/19 20:55:59
--身体は支援で出来ている--

293:NPCさん
08/10/19 20:56:02
てめぇのほうこそ――

支援

294:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:56:16
 安藤はあえて誘うかのように足を踏み出した。
 とんっと恐ろしくあっけない踏み込み、されどそれは確かに互いの間合いを埋めて、そして柊には巨大地震の如く偉大なる一踏みに思えたのだ。
 怯めば負け、立ち止まれば負ける。
 ならば―進むしかないだろう。

「ぉ」

 喉を鳴らす。
 全身の細胞に気合を発し、柊は吼え叫びながら、ただ真っ直ぐに前進する。

「ぉおおおおおお!!」

 それは室内全てが震えるような巨大なる声。
 同時に柊の姿がほぼ全ての人間の目から消える。
 プラーナを解放、足腰に叩き込み、音速を超える踏み込みを行った。
 纏う月衣が音響の壁を相殺し、どこまでも無抵抗な待機の中を一足の元に詰めて。

「遅い」

 振り上げられた旋風の如き一太刀を、雷光の如く放たれた一閃の斬撃が弾いて、散らした。
 火花が散る、二振りの魔剣の初撃に、流星のごとく、落雷の如き火花と轟音が鳴り響く。

「うわ!」

「すごい」

 ギャラリーの声が語り紡がれるよりも早く、二人の剣士の行動は次の次の次の手順まで終えていた。

295:NPCさん
08/10/19 20:58:14
行くぞ、さるさん--規制の貯蔵は充分か 支援

296:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:58:46
 初撃は弾かれた、されどのその反動を無理に殺さず、柊は爪先のみで軸を返すと、その切り返しだけでブーメランのように舞い戻る斬撃を打ち放つ。
 その一撃に安藤は僅かに神罰刀の尖端を揺らすと、ゆらりと亜音速で迫る剣撃を受け止め、インパクトの刹那に捻じ曲げた刀身の揺らぎのみで捌いてみせる。
 完全に見切られている、舌打ちを洩らしたい気持ちを押さえ込み、柊は流されかける手の動き。
 それを握り締めたもう片方の手で柄に掌打を打ち込み、無理やりに体勢を整えて見せた。追撃に迫る斬首の一刀、それを弾き上げて、柊は風に飛び去るように僅かに間合いを広げる。
 安藤の眉が歪む、ほんのぴくりとした反応、完璧な動きの乱れのはずだった。
 それに反応し、立て直したのは幾多の経験が故にか。

「なるほど」

 得心するかのような一言。

「なんだ?」

「いや、気にするな。ただの独り言だ」

 しかし、意味のある独り言だった。
 今度はこちらからと告げるかのように、安藤が間合いを狭める。
 ほんの僅か、されど柊が気付かないうちに―一足一刀の距離に潰されている。

「っ!?」

 誰が気付こうか、注目などしない、その足元。
 安藤は足袋を履いていた、さらに長い裾のある作務衣を着ていた。
 これこそが不可思議な現象の秘密。
 裾を持って足首を隠し、指先を持って進むすり足が技法。
 人は人の動作を見て、その距離感を把握する。
 まったく姿勢が変わらずに進む直線エレベーターの人間を見て、パッと見で距離感を図ろうとして失敗した経験は無いか。
 上半身の体勢が変わらずに進むそれは間合いを狂わせる魔法のような動作。
 そして、既にそれは互いの領域だった。

297:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 20:59:40
「チェストォ!」

 苛烈なる声。あえて叫んだのは柊に反応を齎すためか。
 振り抜く軌跡は流星の如く煌めきに満ちた神罰刀が一刀。
 その太刀を、音速を超える斬撃を反応したのはもはや無意識。
 動体視力では終えぬ、脳の思考では追いつけぬ、ならば肉体に刻まれた反応でしかあるまい。
 故に無意識に、或いは意図的に、柊と安藤は斬撃を繰り出し始める。
 金属音を響かせ、落雷の如き火花を鳴らし、轟風となる衝撃破を撒き散らしながら、斬る、斬る、斬る。
 ようやくエンジンが掛かったとばかりに互いの速度が高まり、縦横無尽、変幻自在と軌跡が刻まれ、描かれていく。
 その凄まじき光景は壮観の一言に尽きた。
 候補生達は激しい攻防に目を白黒させて。
 エリスは互いに致命傷に至るだろう剣撃の応酬に胸をはらはらさせて。
 くれははわーと驚愕に顔を歪めながらも、息を呑み。
 コイズミは出来うる限り冷静に二人の戦いを見続けようと考え。
 マユリはついていけないとばかりに考えながらもその強さに胸を高鳴らせ。
 アンゼロットはあらあらと楽しげに笑みを浮かべる。

「ぉおおお!」

 言葉が行き交い、鋼鉄の爪がぶつかり合い、斬光が空間中を埋め尽くす。
 己の圏内を全て埋め尽くすような斬撃剣撃一閃の刃が、柊のあらゆる角度から打ち出され。

「むぅう!!」

 それを返すかのように、安藤の周囲全てを切り砕くかのような銀閃の輝きが空に瞬く流星雨のように煌めき、金属音を奏でながらその全てを弾き返す。
 その応酬に柊は顔を歪め、安藤はにやりと僅かに頬を吊り上げた。
 その事実に気付いたものはいない。
 何故柊が顔を歪めたのか、安藤は笑ったのか。
 それは打ち出される剣撃が弾き返されたことにか? 否、それだけならばいい。
 問題なのはその角度、弾き返された刃の立つ角度だった。

298:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:00:23
 如何なる魔技か、柊の振り抜いた刀身、その微妙に異なる角度、その方角、その全てを鏡写しのように安藤は打ち返したのだ。
 僅かな0.000000ミリのズレもなく、針の先程の厚みしかない刀身のそれを一度合わせるだけでも数学者からすれば偶然の一言で片付けるしかるまい事象を数十、数百、数千回と繰り返す。
 剣の極み、薩摩流剣術を学びし安藤の刃は50年の修練を重ねて神の領域に到達しているのか。
 柊は汗を止めることが出来ず、安藤はただ静かに刃を交えるのみ。
 勝てないのか。
 力量の差は打ち合えば打ち合うほどに広がっていくのが分かる。
 けれど、それでも―

「やる! やってみせる!!」

 このままでは“あの背中には届かない”。
 そう叫ぶかのように柊は高速のステップをさらに踏み変えて、速度のギアを上げた。

「む!?」

 ぐんっとキレの上がった柊の動き、それに安藤が活目し―瞬間、脇腹に迫った刃を打ち払う。
 がぁんと金属音が済んだ音を立て……それよりも早く、次なる一撃が安藤の頭頂部を叩き割らんと迫っていた。
 それを躱す、さらに追撃、それを捌く、さらに叩き込む、それを弾く、さらに繰り出す。
 終わらない、とまらない、息することすらも忘れた亜音速から遷音速へと速度のギアを変えて斬舞が踊り抜かれる。
 如何なる無茶か、爆発的な速度の上昇に安藤は噴き上げるプラーナの輝きに、そして柊の握った魔剣の息吹を感じ取る。
 感応。
 それをさらに高めたか。

「ならば」

 その瞬間、初めて安藤がプラーナを発した。
 清浄にして鮮烈なる存在力の活性化、骨が軋み、肉が脈立ち、全身の血流が強まり、言葉に出来ぬ恍惚にも似た違和感を感じる感覚。

299:NPCさん
08/10/19 21:00:46
了解した――支援に堕ちろ、書き手。

300:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:03:05
 それを用いて手首を強化し、安藤は降り注ぐ斬光の雨を切り凌ぐ。
 捌き、払い、叩き、受け止め、流し、躱す。
 そうして回避しながらも、安藤は手を緩めず、隙を見て斬撃を放ち、柊もまたそれを受け止めながら荒ぶる風のように渦巻き、追撃の刃を奔らせる。
 踏み踊られる剣士たちの舞踏に、強固なる床が悲鳴を上げていた。
 体重を乗せた剣士達の踏み込みは空手家の正拳突きにも匹敵する衝撃を与えて、それが隙間無く叩き込まれ続けるのだ。
 頑強なる床が軋みを上げる、まるで人外魔剣の領域に達した二人への喝采のように。

「柊!」

 何千回合目か、憶える暇もなく、興味もなく数えない一刀の果てに安藤は告げた。

「お前は私の背後に何を見る」

「っ!」

 安藤は気付いていた。
 柊が己を秤として、誰かを見据えていると。
 強く、強くならんとする見る見る間に成長をし続けるこの若き魔剣使いが辿り付かんとする相手が気になった。

「決着をつけていない奴がいる。それだけだ」

 それは一人の騎士。
 かつて星降る夜の魔王と名づけられた最強最悪の魔王。
 その魂と化した一人の少年を救えぬことを悔いた騎士がいた。
 かつて柊の前に現れ、くれはの魂を奪った騎士がいた。
 そして、和解の果てに共に度を潜り抜け、最後には柊を、そしてある少女と女性を先に行かせるために大魔王に一人で挑みかかった騎士。
 大魔王を一人で葬る異界屈指の騎士、女垂らしの男だった、どこか人格として問題もあった、けれども悪い奴ではなかった。
 大魔王と交戦した後の彼の消息を柊は知らない。

301:NPCさん
08/10/19 21:04:43
俺がっ、お前に使える支援を用意してやるっ!

302:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:05:54
 けれども信じている。
 奴は死んでいないと、どこかで暢気に剣を振るっていると。
 決着を誓ったのだ。
 再戦を約束したのだ。
 そして、未だに柊は彼に勝てる気がしない。
 その日の約束を果たし、今度こそ勝つと己を高め続ける。

「だかららぁあああああ!!」

 吼える、獅子の如く。
 貫く、どこまでも。
 切り開く、己が未来を。
 魔剣の感応をひたすらに高め、握る手すらも解けて混じり合うかのような錯覚を覚えながら、さらにさらにさらに速度を跳ね上げ、力を膨れ上がらせていく。
 その一刀は魔斬神滅の一振り。
 神殺しの刃、それはどこまで強大なのか。
 並みの武具ならば受け止めることすらも許されない一撃、だがしかし、それを受け止めるのが神罰刀ならば?
 神すらも切り伏せるための刃、現代に造り上げられた銘刀の一振り。
 そして、忘れるな。
 それを振るうのはこの世界最強の魔剣使いであることを。

「ならば!」

 安藤は迫り行く一撃、それを真正面から挑みかかり、否挑戦を許可し、踏み込んだ。
 老骨ならざる力強い踏み込み、まるで追い風にでも吹かされた木の葉のように軽やかに、されど振るう刃の重みは巨人の一振りか。
 神殺しの剣と神すら仇なす刀が噛み付きあう。
 衝撃がじぃいんと唸り声のように刀身を震わせて、音は漏れでない。
 対した衝撃ではなかったのか? 否、その真逆である。
 前へと叩き込まれた衝撃は他への露出を許さず、二人の剣気そのものを形作るかのようにその威力の全てを一振りの刃に押さえ込んでいた。

303:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:08:25
「見事」

 剣気そのものを刃と成した柊の技量、気迫、その全てを安藤は褒め称えた。

「ありがとよ」

 柊は短く礼を告げる。
 その間にも数千回にも及ぶ攻防があった。
 魔剣の尖端を、峰を、力加減を、幾度も幾度も変化させ、突き進まんとする創意工夫の応酬。
 まるで激しく体をうねらせる性交の如き淫靡さ、美しさ、二振りの刃が憎悪とも言える愛を囁き、相手を蹂躙しようと唸りを上げる。

「―殻は剥がれたか」

「?」

「息吹は発したということだ。そして、私もまだよちよち歩きのひよこに過ぎん」

 安藤から見れば、否、剣の道から見れば柊など所詮卵から生まれでて、ようやく殻を剥がしたばかりのひよこも同然だった。
 そして、安藤もまたよちよち歩きのひよこのようなものだった。
 途方もなく高みにある剣の極み。
 それを極めるには才が足りぬ、時間が足りぬ、振り抜いた刃の数が足りぬ、築き上げた骸の数が足りぬ。
 外道鬼人の類ならば狂いながら骸を築き上げ、未知なる剣の頂点へと達するための積み上げ続けるだろう。
 剣に生きたものならば、その生涯を剣によって成り立たせ、振るい抜いた刃の一振りを持って天に届くほどの刃を生み出すことを生涯の理由と変えるだろう。
 未知なる、届かぬ、途方もない剣の道。
 如何なる魔王を殺そうが、それに何ら価値はない。
 裏界の魔王が聞けば屈辱に喚き散らすだろうが、かの者如きは剣の道には要らぬのだ。


304:NPCさん
08/10/19 21:09:37
《支援すべき黄金の剣》

305:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:11:01
 人は何故強い?
 知恵があるからだ。
 そして、道具があるからだ。
 原初の人が生まれたときには石を持ち、或いは棒を持ち、己が欲望のために打ち殺しただろう。
 それが始まり。
 一つの棒、それを振るうやり方を考えて、それに殺傷力を持たすための鋭く尖った石を括りつけた。
 鋭く尖った石斧は次第にその刃先に尖った刃先を造り上げ、槍と買えた。
 そして、石そのものを鋭い棒に変えて、幅広い刃を手に入れた。
 それが始まり。
 試行錯誤の果てに生み出されし無骨なる剣。
 それをもっと上手く使いこなそうと考えるのが人だった。
 そんなたった一つの道具に、未知なる道を見出し、溺れるのが人の性だった。
 分からぬか。
 分からないだろう。
 たった一振りの刃、それを振るう意味を、それを握る人生を、それのみに捧げる信仰者の如き人生を。
 世界最強の魔剣使いは断じる。
 私はまだ未熟だと、剣の桃源郷に足を踏み入れてはいるものの、その先は険しくどこまでも遠い。

「極めきれるか。そして、たどり着けるか、柊 蓮司」

 己が生涯の半分以上をつぎ込んでもなお届かぬ、先すらも見えぬ無限の高み。
 果ては無いかもしれない。
 終わりなどないかもしれない。
 されど、誰もが求めるのだ。
 たった一振り、神ではなく、魔ではなく、世界すらも、己が心すらも酔いしれるたった一振りの刃を求めて研鑽を重ね続けるのだ。


306:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:13:51
「―さあな」

 そんなのは分からない。
 剣の使い手、剣士としての喜びは在る。
 ないとは言わない、己の生き方に誇りすらも混じっている。
 けれども、未だに柊は力を求める理由を他者に依存している。
 無欲なのだ。
 誰かを護り、約束を果たし、それが出来るだけの力があればいいと謙虚なる心。
 求道者に必要不可欠な欲望が彼には無い。
 だがしかし、しかしだ。
 他者を護る、その力がどれほど難しいのか、彼は気付いていない。
 果てのない、究極なる力だと気付いていない。
 他者を護る?
 それが世界すらも滅ぼす魔王だったのならば?
 それが世界を闇へと陥れる冥魔ならば。
 それをすらも退けると、退ける力が欲しいと願わんとするのはまさしく最強を求める欲求ではないか。

「なるほど。柊、お前の理念は理解した」

「そうか」

「ならば、今のなる剣、その全てを叩き込んで来い」

 何を語る。
 先ほどまでの一撃、その全てが柊の全身全霊を篭めた斬撃だった。
 安藤はそれを見切れなかったのだろうか?
 否、見切ってはいる、それが柊の全身全霊の刃だと知っている。
 されど、果てではないのだ。
 その言葉を肯定するかのように、同時に刀身を弾き上げ、腰を捻り、手首を返し、腕を曲げて放たれた一刀。
 それは壮絶なる絶刀だった。

307:NPCさん
08/10/19 21:15:38
通りすがりに支援

308:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:16:41
 神罰刀、それを握った安藤でなければ瞬く間に首が刎ね飛ばされるだろう刃。
 それを回避し、安藤は笑みを深める。
 薩摩流剣技、蜻蛉の構えを即座に浮かべて、薙ぎ払うかのように柊に襲い掛かるのは巨人の如き鉄槌斬打。
 受けれるか? かつて侯爵級魔王でさえも止められなかった超弩級の斬撃、その一打を柊は受けれるか。
 二の太刀いらず、初撃にして必殺、下手な真剣ならへし折れ、そうでなくとも押し切られる気が狂ったと称される孤剣の一振りを。
 そうだ、受け止める。
 刀身の脇に片手を添えて、世界すらも震撼するだろう斬撃を受け止める。
 衝撃が迸る、大気に浸透する、風が唸り、一瞬誰もがアンゼロット宮殿が揺れたと勘違いをした。
 この爪先の下には母なる大地はない。
 地球でなければその衝撃を受け入れられないというのか、星をも振るわせる一撃だったのか。
 それを受け止める柊の全身は一瞬砕けたと錯覚し、されどそれは幻覚だと、己は生きていると瞬く間に再起動し、痺れの残る手を奮い立たせて、弾き払う。
 だがしかし、さらに繰り出される三連撃。
 雲耀、五行、左剣。
 蜻蛉を合わせて奥義の四連、常人ならば四度は死にいたる絶技の数々。
 全てが殺す、全てで討ち取る、その気迫が混じった刃の数々。
 音速すらも突破、超音速の刃の応酬。
 もはや見えぬ、もはや捉えられぬ、それを理解した柊は―目を閉じた。

「柊!?」

「先輩!」

 二人の少女の叫び声、自殺行為と思しき行動に悲鳴が聞こえる。
 されど、安藤は喜びに満ちた。
 剣に焦がれ続けた孤独なる刃の使い手のみが、その意味を理解する。
 一秒が一時間に、一瞬が一秒に、一刹那が一瞬に、六徳が一刹那に、虚空の時間すらも捉え切る。
 加速された空間の中で柊は迫る白刃の殺意を視た。
 故に、柊はそれを弾き払う。
 魔剣を信じて、己の相棒を信じて、その雲耀の一撃を切り払う。全てを瞬く暇に捌いて、弾いてみせた。

309:NPCさん
08/10/19 21:17:43
この支援、届かぬ道理は無い!

310:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:19:39
 
 金属音は響かない―音よりも早いから。
 火花は散らない―散るよりも早く刃が離れるから。
 衝撃破は撒き散らされない―風よりも早いから。
 奥義四連、全てを凌ぎきる。
 それも目を閉じて、視界を封じたままの漆黒の闇。
 その反応を何とすればいい。光速か、それとも神速か。
 全身の筋肉が悲鳴を上げて、骨身が汚物を吐き散らすかのように痙攣を繰り返し、全身に刻まれた浅傷から血が流れるも、その感覚は彼にはない。
 森羅万象。
 心眼の極み、その疑似に至る。
 魔剣使いに許された感覚、己以外の知覚部を頼り、それに没頭し、無意識の領域に陥る。
 疑似森羅万象の極みというべきか。
 正式な剣など学ばず、実戦経験のみで身につけ、磨き続けた野生の如き剣、それは途方もなく広い大河の如き剣の道を突き進み、その先にある剣の桃源郷に足を踏み入れる。
 感覚がさらに削ぎ落とされて、映るのは己の剣、対峙する安藤の剣、それのみに視界狭窄に陥っていく。

「見えるか、それが魔剣使い、その初歩にして王道だ」

 柊に、そして見つめる全ての存在に告げるかのように安藤は静かに言葉を続ける。

「入ったか、柊 蓮司。剣の道に、今ようやく」

「ああ」

 目を見開く。
 視界は晴れ、されど感覚は残り続ける。
 虚ろなる瞳、それは遠くを見渡し、そして何かを掴まんとする若き獅子の震えか。

311:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:22:10
「ならば、来い。そして、私を最強と思うな。未だに先は多く、途方もない道のりだ」

 彼は知る。
 彼らは知らぬ。
 二人の魔剣の使い手、それを同格にして、それを越える剣技の持ち主を。
 安藤を越える剣の使い手、異世界ラース=フェリアに存在する剣聖クリシュ=ハーゲン。
 彼女ならば安藤の剣を見て、涼やかに唇を綻ばせ、対峙するだろう。
 氷魔騎士団団長バロック=ロストール。
 神速の剣の使い手、その極みを確かめんと刃を交えるかもしれない。
 そして、不凍湖の騎士にして柱の騎士すらも勤めた騎士、柊が宿敵たるザーフィ。
 その大魔王すらも切り伏せる刃は未だに成長を止めぬ、大剣士。
 千年、気の遠くなるような永劫の時より月の冥魔を封じ続けた勇者の系譜、月代一臣。
 もはや役目を終えて、消え去った彼の剣技は如何なるものだったのか、知るものは既に少ない。
 そしてそれを越える理不尽たる魔王、冥魔王、その中にはさらなる敵がいる。
 安藤すらも太刀打ちできぬ猛者たちがいる。
 そして、柊。
 彼は知る。
 彼が知り、知らぬ可能性もある。
 青き惑星の守護、太古の昔より転生を繰り返し、偉大なる聖剣を携えた少年がいる。
 今は闇に閉ざされた世界、けれどもきっと生きていると信じる森炎の騎士の愛娘である魔王殺しの剣を担う少女がいる。
 月の守護者、その後継に選ばれし焔の遺産を用いた少女がいる。
 剣を極め続けるもの、新たなる可能性を携えしもの、存在する剣の世界。
 喜びに打ち震えるべきか。
 否、狂うべきだ。
 狂乱にゆがみ、酔いしれ、世界の残酷なる美しさに恍惚なるべきだ。

312:NPCさん
08/10/19 21:24:39
「支援するのは構わんが…、アレを倒してしまっても構わないのだろう?」

313:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 21:24:46
「越えて見せろ。そして、たどり着け。見果てぬ剣の先をぉ!」

 安藤が吼える。
 この日一番の気合声が大気を震撼させた。
 室内全ての人間が肌を泡立たせ、その魂を震わせただろう爆雷の如き雄叫び。
 そこから振り翳されるのは鍛錬を重ね、研磨を重ね、思いを重ね、年月を重ねた超重量の一太刀。
 如何なるものですら逃げられぬだろう。
 その一太刀、柊は怯むことを考える、けれども肉体は、魂は吼えるのだ。
 進めと。
 退くことは許されぬと。

「越えてみせる!」

 魔剣を振りぬき、鮮烈なる刃が、重厚なる刀身が火花を散らし、魂すらも震わせていく。
 登る時だ。極める時だ。
 速度を上げていく、未知なる神速の領域へ。
 互いに高め合い、加速し続け、さらに相手を凌駕しようと強くなる。
 未だにこの老骨に振り絞れるだけの才気があったのか。安藤は喜びに狂いながら、剣撃を繰り出し。
 柊は痺れの残り続ける衝撃に歯を食いしばり、頬を切り裂かれる刃の鋭さに恐れを感じ、その偉大さを噛み締める。
 届かぬ、遠い、どこまでも距離がある。
 だからこそ、走れ、走りぬけ。
 前のめりに倒れこめとばかりに魔剣を振るいて、柊は己の限界を数瞬単位で上書きしていく。
 先ほどまでの自分を乗り越えて、未来の自分に同調し、視認すらも不可能な太刀を振るい続ける。
 もはや一瞬では追いつかぬ、刹那でも足りぬ、六徳で数え、虚空にて理解する。
 共に剣の桃源郷、その領域に至る剣客が二人、互いに刃をぶつけ合う、先へと進むための斬撃を放つのだ。
 高速斬舞空間。
 誰にも辿り付けぬ、二人の領域、それに割り込めるとしたら先に上げた安藤すらも越える剣聖、神剣、剛剣、永劫の刃の担い手のみ。
 故に故に故に、全て、誰もが、介入できぬ二人だけの魔境と成して、周囲を切り払う剣撃領域と成した。

314:NPCさん
08/10/19 21:35:57
止まっちゃった?

315:NPCさん
08/10/19 22:00:35
さぁ――楽しい楽しい死合いのはじまりはじまり――!
支援

316:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:01:21
「は、はわわわわ! どうしょう! これって―もう手加減とかそういう領域じゃないよね!?」

 くれはが声を上げる。
 されど、それは空しく目の前の二人の攻防に微塵たりとも影響を与えることが叶わない。
 柊が繰り出すのは首を刎ねる斬首の一刀。
 それが六連、交差に刎ね飛ばし、完全無欠に殺さんと迫る魔剣の刃。
 唸りを上げる死神の鎌の如き襲来を神罰刀が迎え撃ち、空気を爆ぜさせながら、振り抜かれる閃光の如き迎撃嵐が弾いて凌ぐ。
 その刃、その一刀、全てが殺意に篭められていて、見るものたちが汗を吹き出し、待ち受ける未来に焦り出す。
 終わるのか? それほどの長い―実質的には短い時間だが、濃密なる攻防に錯覚を覚える。
 いつ終わってもおかしくない―どちらの一撃が切り込めば、即座に致命傷。
 待ち受けるのはどちらかの骸、或いは共に死に果てるのか。
 単なる見物が、真剣極まる殺し合いになるとは誰が想像するだろう。
 誰もが酔いしれて、候補生達は己と同じウィザード、その最高峰たる領域、人はこれほどまでに辿り着けるのか。
 どこまでも強くなれるのか、その可能性に魅了されて気付かない。
 待ち受けるのはどちらかの死であり、振るうは危険極まる凶器の暴力だというのに、それを巡るのが命だから故にか。
 それは崇高なる芸術品にも勝る美しさ。
 誰が穢せるのだろうか。
 一度踏み入れば無意識のうちに両者に一撃によって切り捨てられるかもしれぬ。
 僅かな大気の流動、それすらも掴み取り、半ば無意識領域にありながら、己の肉体に刻ませた千を満たし、万を凌駕し、億にも達する刃の軌跡が自動的に放たれる。
 声をかけても届くまい。
 それほどまでに集中しつくしている剣士が二人。
 その様子にエリスが瞳を潤ませて、アンゼロットに振り返る。

「あ、アンゼロットさん! このままだと」

「……そうですね」

 常識を凌駕し、剣撃の至高へと乗り上げんとする剣士が二人。
 如何なる刃を重ね、その究極の一太刀を手に入れんと足掻く浅ましくも愚かしく悲しい魔剣たちの担い手。
 それを見据える銀髪の少女は心をときめかせながらも、揺らがぬ表情を装い、告げた。

317:NPCさん
08/10/19 22:02:51
げきてつ、おこせ

支援。

318:天へと捧げる一刀 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:04:20
「心配はいりませんよ、エリスさん」

「え?」

「柊さんならばともかく、安藤さんは落としどころに気付くでしょう」

 賭けに近いですが。
 そう考えて、アンゼロットは内心迂闊に考えた趣向に反省を浮かべながら、ゆっくりと息を吐き出した。
 そして、それは実際に正しい。
 決着の時は近かった。

(つええ!)

 刹那を凌駕し、六徳を埋め尽くし、虚空の時を刻みながら、億にも至る刃の射出の果てに柊は内心呟いた。
 如何なる太刀を繰り出そうとも、どのような奇策を用いようとも、思いの限りの力を叩き込んでも、目の前に立つ初老の男―安藤 来栖の剣は揺らがず、突き崩せない。
 全身が悲鳴を上げていた。
 刹那単位で剣撃を撃ち放つ全身の筋肉は断末魔の絶叫を上げて、既にぶつぶつと皮膚の下で無数の毛細血管が急激なる血流の動きに耐え切れずに千切れている。
 骨は疲労により磨耗し、骨折寸前、砕け散るのも限界近い。
 かつて魔王と戦ったことがあった。
 その時は圧倒的な力に叩き潰されかけ、それでも諦めきれずに刃を振るい続けた。
 かつて魔神と戦ったことがある。
 その時は悲哀と憎悪に満ち満ちた波動に翻弄され、焼き爛れそうになる己を叱咤し、仲間と共に戦い抜いた。
 かつて古代神と戦ったことがある。
 桁の違う存在感、次元が違う、領域が異なる、眼前にするだけで怯え、魂が崩壊しそうな、思い出すだけで恐ろしい恐怖、奇跡のような勝利。
 かつて世界を構築する神を戦ったことがある。
 絶対的なる力、誰も勝てるはずのない神の領域、けれども支える少女が居た、護らねばならない誰かが居た、だから立ち向かえた。
 それがない。
 それとは異なる。
 ただ一人だけで、ただ己の欲望のままに、ただ剣の喜びのままに戦う。
 それは未体験の感覚、けれども確かな喜びであり、力だった。

319:NPCさん
08/10/19 22:05:58
もっと、もっとだ。
もっと――輝けええぇぇぇぇっ!!!

支援。

320:NPCさん
08/10/19 22:07:44
では、僭越ながら。支援させていただきます。

321:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:20:03
魔剣が囁く。
 ―狂えと。

 魔剣が告げる。
 ―見出せと。

 剣の道を、どこまでも天上に伸びる果て無き世界に足を踏み入れたのだ。
 ならば、進め、己の限界を踏み越えて。
 だから。

「おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 虚空の時、額を貫かんとした一つの刺突。
 それをしゃがんで躱し、床を豆腐のように切り裂きながら、柊は前に踏み出す―否、進む、滑るように“すり足”で。

「喰らったか!」

 そう叫ぶ安藤の声がしたような気がした。けれどありえない。今の領域は、今の時間は声すらも届かぬ、六徳よりも短い虚空の繰り返しなる時間の積み重ね。
 二つの虚空を消費し、三つの虚空を食い潰し、合わせて五つ、六徳の時間を掛けて魔剣を空へと飛翔する竜の如く振り抜いた。
 それは遥かな高み、遥かな遠き位置、トレーニングルームの窓から映る碧き惑星。
 それを真っ向から両断し、切り裂いたかのように見えるのはあまりにも鋭すぎる斬撃の幻覚か。

「―勝つ!」

 柊は叫ぶ、加速した意識の中で、唇を動かすよりも早く、次の動作に移りながら。
 柊は考える。
 如何なる太刀をも、如何なる角度でも破れなかった安藤の剣。
 ならば、それを突き崩すにはどうするか?
 単純だ―今までよりも強力な一太刀、それしか方法は無い。

322:天へと捧げる一刀 代理 ◆265XGj4R92
08/10/19 22:20:55
故に柊は天へと掲げた魔剣を背負いなおし、異様なまでに高い八相の構えを取る。
 その正体に安藤だけが気付いた。
 そして、笑う。
 薩摩示現流、蜻蛉の型。
 それを使いこなそうというのか、二の太刀は要らず、初太刀にて全てを決めるかつて気が狂うたものの剣と言われた刃を。
 安藤が厳つい顔を歪めた、鬼の形相、剣に狂うた剣鬼の顔を。
 神罰刀、それが鬼の手に握られ、振り翳されるだろう怒涛の刃に備える。

「こい」

 脇取りに構え、虚弱なる刃ならば受け止め、捌き、一太刀に切り伏せる。
 そう告げる剣気、双眸、気配。
 そして、柊は答えず、ただ足を踏み出して―


 生涯最高の一太刀の一つと呼べる一撃を繰り出した。


 ただそれだけだった。


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