卓上ゲーム板作品スレ その2at CGAME
卓上ゲーム板作品スレ その2 - 暇つぶし2ch214:NPCさん
08/09/23 14:39:38
今日はなんか暑いね!あまりの暑さに目から汗が止まりませんよ畜生、GJ!!!


215:mituya
08/09/23 17:15:47
150です。丁寧なご返答、ありがたくも恐縮です(汗)
213さん、魔剣ちゃんの話、素敵でした感動しました!!
前スレの二作に出会わなければ、自分はきっとお話を書こうなんて思いませんでした。
作者である213さんと、このスレッドに大感謝ですvv
柊と魔剣の出会い……自分は公式版の方を読んでないんですよね(汗)っていうか何に載ってるんですかー!?(泣)
ただ、星継ぐとやや矛盾する、という話を聞いたんで、ならば矛盾しない出会いを描こうか、と(笑)
というわけで、自分の話は、公式の出会い編とは違う形になると思います(汗)
っていうか、自分も公式なんか知るかの勢いで投下しますから、その秘蔵のお話読ませください(笑)

あ、言い遅れましたが、今自分が書いてる話、星継ぐ前の辺りまで行く予定ですvv

216:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:17:14
【神子に生まれつきし娘、巫女となりし娘】

 娘とその供は、ただ呆然とその光景を見つめる。
 道の先、森の木々がやや開けた一角。そこにいる一組の男女。
 つい先刻まで娘の社の集いに参加し、しとやかな振る舞いを見せていた“星の巫女”。
 見知った“七星の剣士”の装いながら、見覚えのない顔の武人の青年。
 “七星の剣士”は“星の巫女”を守護するが使命、故に、共に居るのはごく自然なことなのだが──
守られるべき巫女が、守る側の剣士を追い掛け回しているのは如何なる事か。
「……と、いうか……あれは、本当に……楓さん……?」
「……あの衣、ご容貌、まさしく“星の巫女”殿のものですが……」
 娘とその供は、呆然と言葉を交わす。それでも、目の前の人物と自身達が知る“星の巫女”が同一人物として認識できない。
 しとやかに笑み、深い思慮と慈愛を感じさせる振る舞いを見せていた彼女が、
 “七星の剣士”を従え、彼らに埋もれることなく、威徳を身に纏っていた彼女が、
「くぉら、逃げるなぁーっ!今日という今日は勘弁してやるもんかー!」
 口汚く叫びながら、重厚な衣の裾をたくし上げて青年を追い掛け回しているなど、この目で見ても信じられない。というか、信じたくない。
 そんな二人の心境など知る由もなく、そも、やや離れて佇む二人の存在に気づいた様子もなく、追いかけっこは終わる気配を見せない。
 寧ろ、より激化していき──ついには、追う側が武器を手に取った。
 虚空から忽然と現れた漆黒の弓が、巫女の左手の甲から肘にかけて篭手のように装着される。
 ──月衣。限度を越えぬ限り、人知れず武器や荷をしまうこともできる個人結界。常の世の法則を断ち、纏うものに超常の力を許すもの。
 巫女は、そこから武器を取り出したのだ。──矢の代わりに呪符を番え、呪の力を増幅する魔道具を。

217:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:19:10
 青年が顔色を変える。制止するように両手を巫女へと突き出した。
「待て待て楓、それは本気で死ぬ!つーか、殺す気かっ!?」
「莫迦は死ななきゃ直らない!いっぺん死んで矯正しなさい飛竜!」
 無茶なことを叫んで、弓を構える巫女。と、その聞き覚えのある名に、娘は自失から覚めて叫んだ。
「飛竜──って、“流星の飛竜”!?」
「──へ?」
 間の抜けた声を上げて、巫女に向けて両手を掲げた姿勢のまま、青年が娘を振り返る。ついで、弓を構えたままの巫女も。
「──み……神子、様……?」
 そう呟くなり、ざぁっ、と音がしそうな勢いで、巫女の面から血の気が引いた。
 その言葉に、青年もぎょっとしたように目を見開いた。
「みこ──って、まさか伊耶冠命!?」
「──神子様の御名を呼び捨てにするとは何事か!」
 反射で叫んだらしい青年の言葉に、やはり反射のように怒鳴りつける時雨。
「うわすんません!」
「謝って済むか無礼者が!」
「──飛竜!」
 身を竦ませて叫ぶように謝罪する青年に、時雨は月衣から引き抜いた己の武器たる杖を向ける。先程まで彼に武器を向けていたはずの巫女が、悲鳴のような声を上げた。
 まさに一触即発の空気が辺りに満ち──
「──やめなさい、時雨!」
 当の神子に制止され、時雨は主を振り返る。
「神子様──」
「構いません。彼に他意があったわけではないでしょう」
 言われて、時雨はしぶしぶといった様子で武器を収める。青年は気が抜けたようにその場に腰を落とした。巫女もその場にへたり込み、自身の左手につけたままだったものを、慌てた様子で月衣に収める。
 一触即発の空気が消えると、ついで何ともいえない気まずい空気が辺りを支配した。いたたまれない沈黙が一同の間に流れる。

218:NPCさん
08/09/23 17:19:58
しえるいんどー

219:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:20:36
 ややあって──その沈黙を破り、神子が口を開く。先ほどの問いを再び繰り返す。
「──それで……あなたが、“流星の飛竜”ですか?」
「お、おう──じゃなくて、はい」
 反射のように返してから、慌てて言葉遣いを改める。
 その返事を受けて、神子はまじまじと彼を見つめた。
 ──“流星の飛竜”。
 幼少の頃より“星の巫女”と共にあるという“七星の剣士”が一人。“七星”最強と謳われ、世界でも屈指の技倆を持つ、稀代の剣豪。
 その名の通り、剛なること竜の如く、身のこなしは飛ぶが如し。その刃の軌跡は流星の如き煌きと速さを誇るという。よって、ついた異名が“流星の飛竜”。
 しかし、彼は稀代の剣豪とは別の、些か困った一面も持っていた。
 とにかく公の席に顔を出さない。周りの人間が何とか彼を引っ張り出そうと奮闘しても、いつの間にやら姿を消しているのだという。
 “天に飛んで雲に隠れ、流星の如く瞬く間に姿を消す”──こちらが彼の異名の真の由来では、と囁かれるほどなのだ。
 故に、前線に出て戦うことのない彼女は、彼の顔を見るのも初めてだった。
そして、それは常に彼女と共にある時雨も同様である。疑わしげに呟いた。
「──こんな男が、“七星”最強……?」
「時雨、失礼ですよ」
 窘めつつも、実のところ、神子も同じ感想を抱いていた。
 見目だけみるなら、やや鋭い眼差しの偉丈夫で、確かに凄腕の剣豪というに相応しいかもしれない。しかし、自身より頭一つ小さい娘にいいように追い掛け回されていた姿を見た後では、いやでも情けない印象がつこうというものだ。

220:NPCさん
08/09/23 17:21:50
支援

221:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:22:00
 と、そこまで考えて、新たな疑問に行き着く。というか、無意識に目を逸らしていた疑問に意識が戻った。
「──というか……楓さん?……は、何をなさっていたんですか?」
 微妙に呼びかけが疑問系になる。やはり自身の知る彼女との差異に、無意識が同一人物と認めかねているらしい。
 彼女はいたたまれない様子で目をそらし、えーと、そのぅ、などと意味のない口の中で繰り返す。
 代わりに、飛竜が溜息混じりに口を開く。
「俺が今日、神子様んとこでの集まりふけたんで、切れて暴れてただけっすよ。
 慣れてるとはいえ、今回ほど暴走するのは珍しいんで、ちょい助かりました」
「──は?」
 いつものこと、というように告げる飛竜の言葉に、神子とその供は声を揃えた。
 飛竜は苦笑気味に肩をすくめて、
「楓が普段、神子様たちの前でどんだけ猫被ってるかしらねぇっすけど、さっきまでの言動の方が地ですよ」
「──うううううるさぁいっ!片っ端から公の席ふける不良剣士が言うなぁ!」
 楓が顔を真っ赤にして叫ぶ。ついで、はっとしたように神子達の方を見て、更にいたたまれない様子で身を縮めた。
 半眼で傍らの剣士を睨み、低く呻く。
「……覚えてなさいよ、飛竜」
「何でだよ。俺は最初っから言ってただろうが、どうせボロ出るんだからやめとけって。
 俺もお前も三年前までただの田舎者だったんだ。いきなり威厳だ品格だって言われたって、身につけられるようなもんじゃない」
 言われて娘は、だって、と呟く。
「みんなが“そういう”あたしを期待してるんだもの。
 “そういう”あたしを信じて戦ってくれてるんだもの。
 みんなが戦って、守ってくれてるのよ。ととさまや、かかさまや、若葉を。飛竜のとこの都姉だって……
 信じて戦ってくれるみんなの期待、裏切りたくなかった……」
 言って項垂れる幼馴染の頭を、剣士はごく自然なしぐさで慰めるように撫でた。
「もういい、無理すんな。三年、よく頑張ったよ、お前は」
 途端、娘は幼馴染に抱きつくようにして、堰切ったように泣き出した。

222:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:22:56
 楓と飛竜は、元々ごく当たり前の農村に生まれた、ごく普通の子供だった。
 家族や友人に囲まれ、平凡だが優しい日々の中で育った。
 それが、三年前に楓に“星の巫女”としての才が見出され、飛竜が“七星の剣”に選ばれ、その日常は一変した。
 家族と別れてこの隠れ里に迎え入れられ、“巫女様”と敬われ、崇められる。
 里で引き合わされた同士と共に戦いへ放り込まれ、ただ巫女と里のために剣を振るう。
 不満はなかった。優しい日々をくれた人々を、それで守れるなら。
 それでも、一抹の寂しさ、降って湧いた重責への不安は消えなかった。
 ──自身に対する期待を、失望に変えたくなかった。
 ──未熟者といわれ、高みに祭り上げられた幼馴染から引き離されることを恐れた。
 そうして、威徳を纏う“星の巫女”と、最強の“七星の剣士”が生まれた。

223:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:24:12
 飛竜に抱えられて泣きじゃくる楓を、神子と呼ばれる娘はただ見ているだけしか出来なかった。
 娘は生まれたときから神子として扱われ、この里で敬われ崇められ育ってきた。
 ──神子は神の力を宿せし大いなるもの。人々を導き、魔を退ける。
 その扱いに不自由を覚えることはあっても、それすら当たり前だと思ってきた。
 与えられるものも、代わりに与えられないものも、全て。
 ──“星の巫女”は里の皆を束ねる柱。星を読んで時を見る。
 けれど、目の前で泣きじゃくる彼女には、そんな力も、人々の畏敬も、要らなかった。
 では、何が必要だったのか。ここでの生活しか知らない娘には、わからない。
 ただわかるのは、彼女が欲してもいないものを押し付けられて、与えられるはずだったものを取り上げられたということ。
 それでも、守るという思いと、ただ一人の存在を支えに耐えてきたこと。
 ──強い、と思った。
 ただ世界に盲目で、本当の意味での自由も不自由も知らずに、ただ決められた役目をこなしていた自分より。
 そして、気づく。
 ──本当の意味で、自分は守ろうと思ったことがあるのだろうか。
 守ることは、自身に課せられた義務だった。そこに──自身の意志は、あったのか。
 不意に、自身が途方もなく空ろな存在に、思えた。

224:NPCさん
08/09/23 17:24:42
支援びーむ

225:“裏切りのワイヴァーン” by mituya
08/09/23 17:28:53
きょ、今日はここまで。次の投下はきっと早くても土曜日になります(汗)

これからお仕事(夜勤)なので、感想やご指摘をもらえても返事は明日の朝になるかと。
では、失礼します!

226:NPCさん
08/09/23 20:19:53
>>213
投下乙。このスレのブックマークをはずさぬまま、毎日巡回した甲斐もあったというもの。
八面六臂のご活躍に閲覧者として頭が下がります。
でも読者としてはもっと読ませろ。

あと柊、TISじゃないがもうちょっと物考えて喋れ、この天然フラグばら撒き野郎w


最後に、陣中見舞い。
つ 平行世界
つ ありえた可能性
つ 矛盾はネタになる
つ 全然関係ないけど、昔聖刻1092って小説あってなー、そこでライバルキャラに
唐突に身も心も捧げて尽くす恋人キャラが発生してなー。そのライバルキャラの
陣営は理詰めで動く連中ばっかでそいつだけなんでこんな情を通わせてるんだと
思ったけど、あとで外伝で「以前に二人で任務をこなした時に心を通わせあったけど、
それは二人の運命を捻じ曲げ自分に都合よく世界を動かすために黒幕の打った布石で、
その後その時の記憶は消される……でもその時の思いは無意識に残ってたから
恋人キャラは(本編的には)唐突に献身的になったんだ」っつー超展開があってなー。
いや全然関係ないんだけどなー。


227:NPCさん
08/09/24 02:00:07
>>215
横からだけど
ファミ通PS+、ファミ通PSP+PS3に三ヶ月集中連載された「柊蓮司第一の事件」だな

時期は柊が高校一年。くれはがすでにウィザードに覚醒してる状態からスタートして、魔剣に選ばれ、くれはに助けられてウィザードになるまでの話
星継ぐだとくれはが柊をウィザードだと知ったのはその最中だからな。矛盾だって言われてるのはそれだ
>>213の前スレのは柊が小学生時点ですでに魔剣に出会ってるから、お蔵入りの理由ってのはそのへんなのでは?

ともあれ、両人ともGJ。

228:“ワイヴァーン”の中身
08/09/24 07:48:23
227さん、ご返答、ご感想を頂き、ありがとうございます!
ファミ通……単行本化されてないとなると、読むのは難しそうですね(汗)

また、遅ればせながら、投下中にご支援くださった皆様にも深く感謝です。

ついでに、名前をハンドルネームから作品名(+中身)の表記にシフトをば。
皆さんの書き込みを見ていると、それがここの流儀というか、自然な形のようなので。

229:三部作ラスト
08/09/26 16:33:27
……正直、ホントにネタ以上の意味はないんだが……。
公式とかんっぺきにかけ離れてしまうからアレなんだが……。

まぁいいや。せっかく「べ、別に見てあげてもいいんだからねっ!?」って奇特なうれしいこと言ってくださる方がいるんだし、投下しておこう。


元ネタ:ナイトウィザード ネタ的にあと色々。
内容:公式とかけ離れてるがやっぱり主人公はヤツ。

注意:公式とは完全に設定が離れてます。前スレの「らむねと」を読んでおかないと状況が把握できないかもしれません。
   「公式から離れた話なんぞ読みたくねーっての」、という方や「掲示板でそういうことしないでくれる?」という方は見ないほうが無難。申し訳ない。



OKですか?
では。

230:風の巡り・前編 <Predawn>
08/09/26 16:34:57
夜の帳が落ち、高層ビルの明かりが照らすだけの、ほとんど光源のないその部屋には、一人の男がいた。
彼は高級そうな机につき、ただ人を待つ。
ほどなくして、部屋のドアが2、3度ノックされて開かれる。その戸を開けたのは、140センチ半ばくらいのやや小柄な少年だった。
薄めの茶色の髪、悪い目つき。輝明学園の秋葉原校中等部制服。親子と言っても頷けるほどの年齢差のあるその少年は、男の待ち人でビジネスの相手でもある。
こんな子どもを相手にこれからさせることを考えると、やはり気が重い。
彼がさせようというのは命のやりとりだ。けして、本来ならばこんな子どもを巻き込んでいいところではない。
しかし仕方がない。彼がもっとも適任だと、すでに結論は出てしまっている。
そんな気持ちを知った様子もなく、少年は呆れたように呟く。

「目ぇ悪くなるぜ、明かりくらいつけたらどうなんだよ」
「……毎回、君には同じことを言われている気がするな。
 すまないね、少しだけ感傷にひたっていただけだ。すぐにつけよう」

明かりが点されると、その部屋が趣味のよい調度に包まれていることがわかる。
もっとも、少年には上流階級的な知識がないためそんなことはわからないのだが。

「その台詞も毎回同じだから飽きてきたんだけど」
「そういじめないでくれ、これでも繊細なんだ」

そう苦笑しながら言う男に、ため息をつきながら少年は言う。

「ともかく、依頼ってことは仕事なんだろ?場所と内容、さっさと言ってくれよ」
「いいだろう。今回は――」



231:NPCさん
08/09/26 16:37:15


232:風の巡り・前編 <boy meets woman>
08/09/26 16:38:26
補佐官ー、という声が響く。それが自身を呼ぶ声なのだと気づき、彼女――ミリカ=シュトラウスは藍色の髪をポニーテールをゆらしながらそちらを向いた。

「どこかへ行かれるんすか、補佐官」
「うん。迎えに行けって隊長から言われたの」

声をかけてきたのは、今回の作戦の部下だ。ミリカによく懐いている魔術師で、ダンガルドを卒業後すぐにシュトラウスに登録した娘である。
『シュトラウス』というのは北欧を拠点としているウィザード専門の傭兵組織だ。
絶滅社が傭兵斡旋会社の中にウィザード部門を持つのに対し、『シュトラウス』はウィザード専門の傭兵組織。
規模は小さいものの、欧州では知らぬ者なきウィザーズ・ユニオンである。
彼らはウィザードとして侵魔を狩り、夜を駆け、世界を守るのを大本とする。その総指揮をとるのはシュトラウス家の後継者だ。
ミリカはシュトラウスの娘であるため、指揮官に近い位置に送られることが多い。
しかし、それで彼女が努力をしていないわけではない。彼女が卓越したウィザードであることは部隊の全員が知っている。
三つ編みに銀縁メガネの娘は、たずねた。

「迎えにって……誰を? 本国から増援でも来るんすか?」
「んー、なんだっけ。確か、コスモガードのとある支部から遊撃部隊のウィザードが来るらしいよ」
「コスモガード、すか? あそこは確か宇宙関係の侵魔に対応するのがメインで、今回は普通に魔法災害(マジカルハザード)じゃないすか。
 それがなんでこんなところに派遣が決まるんすか?」
「ほら、あそこって科学的に宇宙に関わる一方で星詠みなんかも未だにいるじゃない。
 その支部にいる星詠みが予見でもしてたんじゃない?」

昔から星の運行は天脈とも呼ばれ、洋の東西を問わず標を示すものとして見られてきた。
宇宙に行った者のその後の異常生活の話なども聞いたことのあった娘はそんなものすか、と納得する。
合流地点へと歩むミリカに話しかけながら彼女も同じ方へと歩き出す。ミリカについてくるようだ。彼女としても特に止める意味がないと思ったのか、止めはしない。


233:風の巡り・前編 <boy meets woman>
08/09/26 16:39:08
「というか、そんなウィザードを派遣されても困りますよね。
 こちらより数が多いわけでもないっしょうし、連携を乱すようなことがあれば支障をきたします」
「けど、ウチも軍隊っていうより寄せ集めだしねぇ。そんなに気にすることもないんじゃない?」
「それはそうかもしれませんが……あぁ、そうだ補佐官。その『とある支部』ってぇのはどこの支部なんすか?」
「えー? たしか、日本だったかな?」

ミリカの言葉を聞いて、娘の動きが止まる。にほん、すか。と呟いて彼女は表情を堅くする。
ミリカは不思議に思いたずねる。

「どうかした?」
「日本、って言ったらあれすよね。極東の島国の」
「そこ以外に日本っていう地域を私は知らないけど。それがどうかした?」
「だって、日本って言ったら世界でもぶっちぎりの人外魔境じゃないすか。
 年に一度は世界滅亡の危機の発信地になる国なんてあそこ以外にどこにあります?ちょっと怖いなぁ、どんなバケモノが来るんすかね」

本当に怖がっている様子の娘を見てミリカがくすりと笑い、日本に対するその(酷く失礼な)先入観を解消してやろうと声をかける、その一瞬前。

「……バケモノで悪かったな」

少し低めの男の声がした。
二人があわててそちらを見ると、そこにあるのはぴこんと風に揺れる、茶色く染まった一房の毛。
目線を下にずらすと、なにやら微妙そうな表情をしている目つきの悪い無愛想な東洋人の男の子供が一人。
酷く嫌な予感がするものの、ミリカは問うた。

「え、えーと……君は、なに?」
「……なにって聞き方もすげーな、ねーちゃん。
 会話ができるみたいだから聞くけどよ、しゅとらうすってゆーのはねーちゃん達か?
 コスモガードの日本支部からよこされた、柊蓮司だ。よろしく」

少年――柊蓮司はどこか困ったような表情でミリカを見た。

234:風の巡り・前編 <Concert>
08/09/26 16:40:07
悪態をついて、通話状態でなくなった0-Phone の向こうへ呪いの言葉を吐く大男。
頬には傷があり、いかにも歴戦の勇士と言わんばかりの風貌の男は、この村に派遣されてきたシュトラウスの指揮官兼責任者・ラルフ=ヘーゲンだ。
ラルフの激昂ぶりは周りの人間が近寄ろうと思えないほどだった。
彼は直情的であるものの、部下にはフランクに付き合うことで知られている。少し頭に血が上りやすいところはあるが、そんなところも部下としてはわかっているはずだ。
そんな彼が、周囲の人間を近づかせないほどの怒りを顕にしたせいで近づけない、というのは珍しいことだった。
彼は、怒りのもと――と言っても、その直接の原因ではないのだが――に近づく。
怒りのもととなった少年は、しかしその怒りをわかっているのかいないのか無愛想な表情を崩すこともなく真っ向からラルフを見る。
ラルフは言う。

「おい、ガキ。お前とんだ上司に付き合わされてんな、任務終了までお前は返すなだとよ」
「だろーな。だから言っただろ、ムダだって」
「あぁ。一度派遣を決めた以上は他勢力の圧力に屈して派遣を取り止めてたら組織としての面子が保てねえっていうのはわかるさ。
 だがな、お前みてぇなガキを戦場に立たせるほど俺らは腐ってねぇんだよっ!」

ばんっ、と破裂するような音を立てて、ラルフが壁に拳をたたきつけた。
音に驚いた様子もなく、少年は男を見返す。その諦めきったようにも見える表情を見て、ラルフは何も言わずにのしのしと部屋を出て行った。
少年――柊は、ため息をついた。
それを見て、その部屋にいた最後の一人であるところのミリカが彼に声をかける。

「隊長のこと、悪く思わないであげてね。怖いところもあると思うけど、悪い人じゃないから」
「わかってる。あのおっさん、俺みたいなガキが戦場に立って死んでくのなんか許せないだけだろ」

そう言って、柊は少しだけ嬉しそうに微笑いながら部屋の外へ向かう。
子どもだと侮られるのは心外だが、子どもだからと心配してくれる大人は嫌いではないのだ。
侮るのと心配するのは違う。彼にだって守りたいものがあるから、その気持ちはくすぐったくもありがたい。
ミリカはあわててたずねた。


235:NPCさん
08/09/26 16:40:36


236:風の巡り・前編 <Concert>
08/09/26 17:00:11
「ちょ、ちょっと待って。どこに行く気?」
「外に行こうかと思ってるけど、どうかしたか?」
「待ってってば。君、今ここがどういう状況かわかってるのっ!?」
「一応頭じゃわかってるつもりだ。
 ……っつか、アンタがヒマなら付き合ってほしいんだけど。俺はこの辺よく知らないし」

そう言われて放っておくわけにもいかず、ミリカは少年の後を追った。

***

「結局、作戦の開始はあさっての昼間ってことなんだな?」

閑散とした村を歩きながら、柊がたずねる。それに応じて頷きながら、ミリカは内心この少年が何者なのかに対して自問自答を繰り返していた。
柊が外に出てしたことは、ベースとなっている村の地形を把握することだった。今はそれも終わり、周辺の森を歩いている。
今回の事件の発端は、とある魔術師の知的好奇心の暴走だった。
彼は合成獣の研究の権威だった。生物同士を融合させ、より高みに在る存在を作ろうとしていた。
その結果生まれたのは、食らったもの全てを融合し、己の力と化す暴食の王。シュトラウスはそれを『gula』と命名。七つの大罪の一つ、暴食の意である。
その合成獣に戯れに犬の死骸を食わせてみたところ、創造主である魔術師を食い、暴走。
近くにあったこの村の生あるものを全て食らっているところを、近くにいたシュトラウスの一団に見つかり結界弾により動きを封じられることになった。
結界弾により村から出ることはなくなったが、可及的速やかにこれを処分する必要がある。そこで現場の一団は本部に連絡を取り、ラルフ率いる小隊が動くこととなった。
結界による封印の効果が切れるのと同時に殲滅を開始する、それが作戦の全てだった。
ミリカは困りつつ頷く。

「う、うん。けど、君はなんでこんなことしてるの?」
「戦場で地形の把握は当然だろ、ねーちゃん達もキャンプ張ったのが今日の朝なら村の探索の一つや二つやっといた方がいいんじゃねぇの?」
「確かにそうだけど……君、どっちかっていうとそれが目的じゃないんじゃない?」


237:風の巡り・前編 <Concert>
08/09/26 17:01:36
彼女がそれを聞いたのは、少年が燃え尽きた家々の一軒一軒を、目に焼き付けるように見ていたからだった。
その顔には何も浮かんでいないように見えた。その表情は、この年の子供にしては酷く不似合いで。
そして彼は、大量の血痕の傍にあったおもちゃのペンダントを、宝物を拾うようにひろってポケットにいれたりしていた。
一連の行動は、地形の把握と言い切るにはあまりに感情に満ちたものだったような気がしたのだ。そしてそれは当たっていたのか、驚いたように目を見開く柊。
ふてくされたように目を細めつつ、彼はぼやく。

「……たんにガキだな、と思っただけだよ」
「どういうこと?」
「わかってるんだ。
 俺の力なんかちっぽけなもんで、守れるもんなんか限られてて、背負えるもんなんかほんとに少ししかないんだって。
 それでも。もしこの手が届いたなら――いや、手が届くなら助けてみせるのにって」

それは、どこか寂しそうな、なにか大切なものをなくした目だった。
彼女もシュトラウスの娘。それこそ、物心ついた時からたくさんの傭兵を見てきた。
傭兵課業というのは、それぞれすねに傷を持つものが多い。そして、その内でも多いのが、この目をする人間だったように思う。
人外との戦闘を続けていく人間達は、いつ命を失ってもおかしくはない。
そんなことは日常茶飯事だし、戦いを続けるもの達のほとんどは自分の命がいつ失われてもおかしくないという覚悟がある。
けれど、それはあくまで自身の覚悟だ。他人が消えてしまっても、何の感情も抱かずにいられる人間は少ないだろう。
と、不意に柊が何かに気づいたようにまったく異なる方を見た。
ミリカはたずねる。

「ど、どうしたの?」
「……声が、聞こえる気がする」


238:NPCさん
08/09/26 17:02:24


239:風の巡り・前編 <Concert>
08/09/26 17:03:28
え? とミリカが聞き返すよりも早く、柊はその場から全力で駆け出す。
切実な、いっそ悲痛なまでの声。『たすけて』と、今にも泣き出しそうな声がした気がしたのだ。助けを求められている、とわかった瞬間、駆け出さずにはいられなかった。
森の中にも関わらず、その動きが阻害された様子はない。まるで動物のような動きに、ミリカは目を見張る。
人狼か何かなのかとも思ったが、その特徴たるしっぽも耳も見当たらないため、これはもともとの彼の身体能力なのだと知る。野山を駆け回っていた経験でもあるのだろう。
その背中を追いかけていたミリカが追いついた時、柊は切り立った崖の下に立っていた。

「待ってよもう、君足速いんだから」
「ここからだったと思うんだけど、声」
「声? 私には聞こえなかったんだけど……」
「……そっか。それはともかくとして、ここの奥に人がいるのはホントみたいだぞ」

言われ、ミリカもプラーナを感じようと目を細める。
すると、確かにこの崖の奥から微弱ながらプラーナを感じる。

「ほんとだ。けど、こんな崖の奥にどうやって……」
「これだろ?」

そうやって柊が指すのは小さな穴だ。
ミリカでも通り抜けるのが難しそうなその穴に、柊はすたすたと近づいていく。

「ちょ、ちょっと待ってってば!君どうするつもりなのっ!?」
「言ったろ? 手が届くなら助けてみせるってよ」

そう言って不敵に笑い、ミリカが止める間もなく彼はするりと穴の中に滑り込んだ。

泣いてる顔は見たくない。誰かが悲しむことなんかあってほしくない。
だから――彼は手を伸ばす。自分がそれを見たくないから、とうそぶいて。


240:風の巡り・前編 <Invasion>
08/09/26 17:04:37
ベースに帰ってきたミリカは、柊の左手に白い包帯をぐるぐると巻いていた。
救護室にいるのは柊とミリカだけではない。柊よりさらに小さな、10歳に届くか否かというところの少女と少年がいた。
彼らは柊が潜った穴にいたのだという。
彼らを連れて出てきた柊は左手が血に染まっていた。何があったのかと聞いても、柊はそこで転んだとしか答えなかった。

(どう見ても刃物を握って止めたようなケガなんだけどね)

そんな嘘でだませるとは彼自身思っていないだろうけど、とミリカは内心で付け加える。
しかしその対応はミリカとしては好みではないため、ほんの少し嫌がらせの意味も込め、包帯を巻き終えた手を(彼女視点で)軽く叩く。
柊はみぎゃっ、と猫のような悲鳴を上げ、目の端に涙すら浮かべ抗議した。

「いってーな怪我人だぞこっちはっ! 何すんだねーちゃんっ」
「男の子でしょー? これくらい我慢しなさいって」

そう言いつつ、彼女は包帯の上から手を掲げて力ある言葉を解放する。

「高きより人の子を見守りし女神よ、我が友の傷を癒したもう……<アイ・オブ・ゴッデス>」

包帯を柔らかな金色の光が包み込む。
やがてその光は消えたが、ミリカはその目を厳しいものから変えることはなかった。

「一応癒しの魔法はかけたけど、あんまり無茶はさせないようにね。
 明日になったら包帯とってもいいけど、今日中は絶対取らないこと」
「わ、わかった。約束する」
「素直でよろしい。
 とりあえず、話を聞かせてくれる? 君が話し終わったらここにある君の分のご飯をあげるから」

言いながら、ミリカは連れてこられた少年少女に白パンと野菜スープを渡す。
むー、と子供らしくふてくされる柊はとても年相応に見え、思わず笑ってしまう。


241:NPCさん
08/09/26 17:04:57


242:風の巡り・前編 <Invasion>
08/09/26 17:05:48
「なんで俺に聞くんだよ、本人達に聞けばいいだろ」
「君に聞いた方が早いと思ってね。ある程度聞いて推測が終わったら本人にも話を聞くよ」

ほらほらご飯食べたくないのー?とからかうように言うミリカ。
柊は、しばらくふくれっつらをしていたがやがて観念したかため息をついた。
言葉はわからないながらも、大体の身振りや片言の英語っぽい会話とで把握した状況を話す。

「村がでっかい何かに襲われて、火に包まれる家から親が逃がしてくれたんだと。
 しばらく家の周りで親を助けようとしたんだけど、怖くなってばらばらに逃げちまって、森に逃げ込んだらしばらくして合流できた。
 んで、村の近くで遊んでて見つけた穴に逃げ込んだのが昨日の夜。姉貴の方が持ってたチョコレートで食いつないでたらしい」
「……そう。それじゃあの子達は、この村のたった二人の生き残りってわけか。
 それも、君がいなかったらあの子達は結局飢えで死んでたかもしれなかったんだね。ありがとう」

自分達の部隊の非を認めるようにミリカが礼を言うと、照れたのかぷいとそっぽを向く柊。
どうやらこの少年、真っ向から純粋な感情を向けられるのが苦手のようだ。そんな様子を見て苦笑するミリカに、じろりと苦虫を噛み潰したような視線を送る。

「……なんだよ、何かおかしいことでもあったか?」
「ううん。君って優しいんだなって思って」
「うるっせぇなっ。ほら、夕飯よこせ夕飯っ!」

電光のようなスピードでミリカがキープしていたトレイを奪い取る柊。
あっという間の出来事に目を丸くするミリカを尻目に、彼は食事を始める。
もう、とミリカはため息をついて、少年少女の方へと向かう。

「いきなりこんなところに連れてきてごめんね?
 わたしはミリカ、君たちの名前もおしえてくれる?」

そう笑顔で聞いたミリカをじっと見て、少女が答える。


243:風の巡り・前編 <Invasion>
08/09/26 17:06:32
「……わたし、リアラ。こっちは弟の、リィン」
「リアラちゃんとリィン君、ね。リアラちゃんたちは、この村の人以外に知り合いはいる?」
「わかんない。村から出たことなかったから。ね、リィン」
「うん。ぼくたちむらからでたことなかったよ」

こくこく頷いてそう言うリィン。ミリカが再びリアラに話を聞こうとするが、リィンはそんなことを気にもせずにぱたぱたっ、と駆け出した。
ミリカの視線がリィンを追うと、彼は柊の服――輝明学園の中等部制服だ――のすそをひっぱり、懸命に何か訴えていた。
しかし、柊は当然純正な日本人で。トルコの公用語など理解できるはずもない。翻訳機の類を持っていないのか、彼はミリカに助けを求めた。

「ねーちゃん、ちょっと助けてくれー。俺こいつが何言ってんのかさっぱりわかんねぇ」
「はいはい。それで、リィン君この目つきの悪いお兄ちゃんに何か用なの?」

月衣があるためウィザードが何を言っているかはわかるわけで、ミリカのあまりの言いように内心愚痴をもらす柊。
しかし彼女はそんなことは構わない。リィンはなおも柊の制服のすそを引っ張りながらミリカに言う。

「このおにーちゃんのポケット。これ、おねえちゃんのペンダントなの」

ミリカがそのまま伝えると、柊はポケットからチェーンがはみ出していたペンダントを取り出す。
これか?と問うと、リィンは目をきらきらと輝かせて首を上下に振る。
リィンに手渡せば、彼はそれをリアラの前へと走って持っていく。リアラは一瞬驚いたような表情をして、すぐに笑顔に戻った。
それを微笑ましく見ているミリカに、柊は真剣な表情で言った。

「おい、ねーちゃん。そいつらの検査とか一応した方がいいんじゃねぇの?」
「検査? ……あぁ、結構ハードだっただろうしね。そうだね、必要かもしれないね」
「んじゃ、ちょっとたのむな。俺は外に出てくる」
「ちょっと。もう日も落ちてるし、子供の一人歩きは認められないわよ」
「大丈夫だよ、10分くらい村の中うろついてくるだけだし。心配なんだったら昼間一緒にいたちっこいメガネのねーちゃんつけりゃいいだろ。
 ――それに、いくら年下だからって女の着替え見るのはまずいだろうし」


244:NPCさん
08/09/26 17:07:10


245:風の巡り・前編 <Invasion>
08/09/26 17:07:53
頬を赤く染めてそっぽを向く柊。
確かにそれもそうかもしれない、と納得して、ミリカは責めるようなまなざしから一転、面白いおもちゃを見るように目を緩ませて言った。

「それじゃあ仕方ないか。わかったけど、あの子からも逃げたりはしないようにね?」
「わかってるよっ」

そう語気荒く言い、柊はばたんっと勢いよく3人のいる扉を閉める。
それと同時に爆笑するミリカの声を聞きながら、なんなんだあのねーちゃん、と毒づいて――視線を力強いものへとシフトさせる。

「――俺のかんちがいなら、いいんだけどな」

そう呟いて……彼は拳を強く握り締めた。



246:風の巡り・前編 <Fugal>
08/09/26 17:08:55
まったく、楽なものだと『それ』は闇の中で笑った。
得るものを得るべくその現場に行ってみれば、忌々しい人間共が『それ』のほしいものを封印しようとしているところだった。
ほしいものはやや大きく、『それ』が手に入れるには少々の時間を要する。
しかも結界というものが何よりも苦手だった『それ』は、仕方なく近くにあった死に体の精神を食らい、傷を治して活動できるように調整し、隠れることにしたのだ。
誰もが寝静まった後、『それ』は行動を開始する。結界を破壊するために必要な準備をするためだ。
いかに破壊する力が弱かろうと、『それ』はこの世にあらざるもの。準備さえすればあの程度の結界を崩すことは造作もない。
白い白い月の輝く夜の瀬に、『それ』は結界に向けて歩を進め――

「そこまでだ」

強い意志を込めた声に、その足を止められた。

「夜中にガキの一人歩きは薦めねぇぞ。戻れ」

その言葉に言い返そうかと思ったが、この相手には殻の言葉が通じないことはわかっている。
かと言って、『こちら側』の言葉で話せば相手にこちらの素性がバレてしまう。そのため、どうすべきか考えながら曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
しかし相手は無愛想な表情のまま、話しかけてくる。

「どうせ俺のしゃべってることわかってんだろ?いい加減猫かぶんのやめたらどうだよ」

その言葉に、背筋を凍らされたような気がした。
この相手は気づいている。何故だかわからないが、自分の正体に気づいている、と『それ』は思う。
『それ』が死体に入っていることを、訓練された傭兵の群れの誰一人として気づくことはなかったというのに。
どうしてこんな所にいるのかもわからない、『それ』の今の体とそう変わらない様子の東洋人の子供。
ウィザードの素質を持っていたがために、殺そうとナイフを取り出した、その一瞬でナイフの刃をつかんで止めて見せた、異様ながらもただの子供のはずの子供。
じり、と後ずさる『それ』に、特に表情を変えることもなく右手を横にかざす。おそらくは月衣から何かを取り出そうとしているのだろう。
敵とはいえ子供、対処できなくもないと思った『それ』は、会話によって意識をそらそうとする。


247:NPCさん
08/09/26 17:09:22


248:風の巡り・前編 <Fugal>
08/09/26 17:10:16
「なんで気づいたの?お兄ちゃん」
「ペンダント。あのペンダントな、血だまりの近くに落ちてたんだ。ペンダントにも、血が飛び散ってた。
 ……どう考えても、子供の体から出たなら致死量だった。それが決定打だな。
 一応、初めてあった時にも殺意がちらっと漏れてたぜ。弟守るためならそんなこともあるかと思ってたんだけどな」
「そう。それで、私を殺すの?
 お兄ちゃんに殺せる?それに、『私』が殺されればリィンはどうなるかわかってるでしょ?」

小賢しいが子供は子供。結局そこまでの覚悟はないだろうと罪の意識を逆なでする。
しかし。――少年は。苦い表情を飲み込むように歯を食いしばり、その悪魔の問いに答える。

「殺す。
 その姿の主は死んでるんだ、これ以上死んだ奴を振り回すことは俺が許さねぇ。
 それに、弟が自分の姿をした誰かにだまされてるなんて、死んだそいつが悲しすぎるだろ」

その決意に、『それ』はぞくりと背筋を逆なでられた。
今のは失敗だ。この少年の覚悟を決めさせてしまったらしい。ならば、殺しあうしか道はなくなる。
けれど、頭の中で警告音が鳴り止まない。相手は子供で、どう見てもこのベースにいる傭兵ほどの力はないだろうと理性は訴えるのに。

――彼女は、少年に勝てるイメージを抱けなかった。

じわり、と止まらない悪寒に頭を支配されそうになったその時。
全てをぶち壊す轟音が響いた。


249:前編終了
08/09/26 17:21:59
とりあえず、本日はここまで。

秘蔵……ってほどの秘蔵でない気がするけども柊の話で書き溜めてたのはこの「風の巡り」でラスト。
『夢物語』が補完系、『らむねと』が決意編だとすると、『風の巡り』は柊の任務風景です。
ぶっちゃけいつもの柊。『たまには冒険活劇が書きたくなる病』が発病します。その時書いた話。
時代的にまだ0-Phoneが高級品で支給されてなかったりとちょっとギャップ楽しんでいただけたらな、と思います。

年齢的には柊中学一年。ただし、公式では魔剣さんのまの字もない時期だったり。公式無視しまくりで申し訳ない。
脳内設定的にはくれはが覚醒すんのが高二の夏(柊が半年任務就いてすぐ)だったりするのでまだくれは未覚醒。


周りが全員大人のこの状況、柊はこの任務をどのように超えるのか?中編を待っててくれる人がいたら嬉しいなぁ。
そんじゃ、このへんで。

PS
みっちゃんさん、中身とかは別にルールじゃないんで使わなくても平気なのですよー(汗)?
作品名だけいれて去るとかも普通ですよー。あとはトリップいれたりとか。

250:NPCさん
08/09/26 22:32:11
言うべきことは、端的に言って二つ。
GJ。
そして早く続きを読ませろ。はりーはりーはりー!


相変わらず柊節がステキ。中学ですでに柊の魂は完成されていたか!
それ以外のゲストも、キャラ立ちしててよい。
とりあえずラルフは赤いバンダナをしててクラークと言う相棒がいる気がした。
矛盾? それこそ記憶喪失ネタですよ!
中学の頃にすでに魔剣と契約していたが、記憶喪失になってウィザード
としての能力を使えず魔剣とも一時期契約が切れていたけど、
第一の事件の直前にウィザード能力の復活の萌芽を感じた魔剣は
矢も盾もたまらず柊の元に駆けつけストーカーまがいに契約を迫ったとか!

251: ◆MIOV67Atog
08/09/27 00:41:51
『支援するんなら例えば厨房スレとか棄てプリスレなどの
どうでもイイスレにてきとーにレスすりゃいいはずだったはず』
『いや、ちゃんと練ったレスをまともなスレに投げてもいいんだけど』
『板全体での新しいほうからのレス数の中での個人の投稿数を勘定してるんじゃなかったかな確か』
『といいかげんな情報を』

252:NPCさん
08/09/27 01:15:30
専用の支援用スレがあるならともかく、
いかに過疎とはいえヨソのスレにテキトー書くのはどーかなー。

253:NPCさん
08/09/27 01:26:31
>>251
つーかむしろ澪がこんな過疎スレ見てたこと自体が驚き

254:中編
08/09/27 10:59:20
別にはりー連呼されたからってわけでもないが今日も投下。

では。

255:風の巡り・中編 <awaking>
08/09/27 11:01:47
すさまじい轟音と地響き。村を揺らすそれに、シュトラウスの精鋭たちが気づかないはずもない。
ミリカはオペレータールームに駆け込みながらオペレーターに鋭く声を放つ。

「何が起きたのっ!?」
「こ、これは……っ!『gula』、結界を突破しましたっ!」

信じられない言葉に、一瞬部屋が騒然とする。それを黙らせたのは、鈍く太い男の声だった。

「うるっせぇ静かにしやがれっ!!」

このベースの最高指揮官たるラルフの声に、水を打ったように静まりかえる室内。
それを見やり、彼は小動物なら一睨みで心臓を止めてしまいそうな凶悪な目線を投げてオペレーターに問う。

「――それで? 結界弾は明後日まで持つはずだったんだろ、なんで2日も早まってんだ」
「報告しますっ。結界の有効期限についての試算ですが、これは結界を張った後の経過を観察した結果、今朝に試算を出したものです。
 そして、結界を張った後目標、『gula』は一切の身動きをとっていませんでした」
「つまり、暴れてなかったから長く保つと試算が出てただけで、実際はいつでも破られる可能性があったってわけか。
 情報部の連中、終わったら雪中行軍やらせてやる」
「賛成。ついでに雪中迷彩服のポケットというポケットに5kgの錘をいれてやりましょう。
 それで部隊長、指示をお願いします」


256:風の巡り・中編 <awaking>
08/09/27 11:03:57
ミリカが意識を切り替えさせるようにそうラルフに声をかける。
ラルフはわかっている、と呟き30人ほどの部隊員に向けて、告げる。

「野郎共っ!ちょっとばかし気の早ぇ馬鹿のお出ましだ!
 サンタクロースみたいに真っ赤にデコレーションしてやろうぜ!各員装備確認と同時にチームごとに集合!1分以内に済ませろ!
 アルファ、ベータは村の東方向へ!狙撃隊はあらかじめ言っておいた狙撃ポイントで俺の命を待て!衛生術士隊はここで待機!
 残りの連中は正面突破に備えて陣形を組んでベース前に立ちやがれ!」

了解っ!と異口同音に傭兵達は言い、オペレーションルームから出て行く。
ラルフは、オペレーター以外に部屋に残ったミリカに向けて声をかける。

「さて行くか補佐官どの。フォローよろしく頼むぜ」
「わかってますよ。……あ、その前にちょっと心配なことがあるんでいいですか?」

何かに気づいた様子のミリカがそう声をかける。ラルフが何のことかわからないというように目を見開く。
それに苦笑を返しながら、彼女は言った。

「いえ、ちょっと目を離したくない子がいまして。その子を捕まえたらすぐ行きますから」



257:NPCさん
08/09/27 11:04:38
はにゃ

258:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:05:16
激しく揺れる村。それに動揺したのは、さきほどから睨みあっていた柊もだった。
一瞬の思考の空白。それは、目の前の相手から注意が逸れることでもあった。侵魔はいっそいさぎよいほどきびすを返し、その場から思い切り駆け出す。
一歩遅れて柊もその後を追う。この村に起こっている異変が何かわからないことに悪態をつこうとして――すぐにその原因に行き当たる。
村の奥にドーム状に展開されていた白い光の帯が、解け散るように一本、また一本と虚空に解け消えていく。
それと負位置の比例をするように、だんだんと村の奥から巨大なプラーナの反応と猛烈な悪意が吹きつける。
ち、と舌打ちして彼は憤りをそのままに叫ぶ。

「もっろい結界張りやがって、後で文句言ってやるっ!」

おそらくはこれだけ大きな反応なのだ、シュトラウスもこれに気づいているだろうと彼は判断。そのまま『リアラ』の追撃を続行する。
今この場で逃がすのは本物のリアラに対して申し訳がたたない。
幸い、『リアラ』はそこまで身体能力に優れているわけではないらしく、じわじわと距離が縮まっていく。
『リアラ』を自身の攻撃範囲内に納め、月衣から相棒を引き抜こうとしたその時だった。
『リアラ』は膝に力をこめ、大きく跳躍し、そのまま叫ぶ。

「天の息吹よ、我に空舞う翼を与えん――<フライト>っ!」

光が集い、その体を宙へと持ち上げる。

259:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:05:58
柊は空を飛ぶ魔法を覚えていない。よって、空に逃げられると対処が困難になるのだ。
それで一応は安堵する『リアラ』。彼女は一旦落ち着くため深呼吸をして――眼下に、ほしかったものが開放されているのを視認した。

「あれ……結界が解けるのって明後日なんじゃなかったっけ」

そう疑問に思うものの、結界が破れている理由など、命が助かったという極限状態から生還したばかりの彼女からすればどうでもいい。
もともとまともに戦う力があまりない彼女にとっては、高いスペックを持つ僕が手に入るのならばなんでもいい。
それに、『リアラ』はエミュレイターだ。人間ごときにコケにされたとあっては裏界におめおめ戻ることもできない。
だからこそ彼女は最悪の選択を選ぶ。

「まぁいいか。ちょうどいいオモチャも手に入るし――ついでに、ここにいる連中のプラーナ全部奪っちゃおうか」

特にあのおにいちゃんは丁寧に殺してあげないとね、と酷薄な笑みを浮かべ、彼女は彼女を象徴する能力を解放する。

――夜闇に紅い月が昇る。

エミュレイターである彼女が本領を発揮すれば、世界を切り取る匣が完成する。
紅い月の発生に、遠くの方から人間達の怒号が木霊する。それを聞いて、彼女は満足そうに笑みを深めた。

「さぁ、はじめましょうか。
 ニンゲンに生み出された哀れな哀れなできそこない、このわたしがあなたに場所をあげるわ。
 わたしの僕という、存在意義(レゾンデートル)を」

そう言って、彼女は手を紅い月ゆらめく天へと掲げる。

260:NPCさん
08/09/27 11:06:41
にゅ

261:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:12:47
手のひらから伸びたのは、紅色の光。それは白銀の棘を全身から生やした狼のような『gula』の首をぐるりと一周した。
獣の咆哮が、村中に響く。びくりびくりと2度3度痙攣し、おとなしくなる『gula』。
その姿に満足そうに笑顔を浮かべながら、『リアラ』はリードのように紅色の光を掴み、銀の狼に語りかける。
「いい子。ご主人様が誰か、理解したわね?」
彼女の能力は『支配』と呼ばれるものだ。
一つの対象の行動を思うがままに操る能力であり、夢使いの傀儡糸を強化したものだと思えばわかりやすいだろうか。
それ以外の力は低位エミュレイターにも劣りかねない弱い侵魔だが、こと精神の支配においては彼女は爵位とはいかずとも、その直接の配下に比肩しうる力を持つ。
もちろん欠点もある。
人間にも適用することができるが、精神力が彼女を勝る存在である場合はその効果を及ぼさない場合もある。
上位侵魔と肩を並べるほどの力に抗える人間がいるかと言われれば、それは確かに考えづらいのだが、彼女が失敗を恐れているため試したことはない。
そして――今回はこれが一番大きな理由となるのだが、対象が『一つの精神』に対する支配でなければ力を存分に振るえない、ということが彼女の致命的な欠点だった。
びしぃっ、と何か硬質なものにヒビが入る音がした。
え?と彼女がその音の意味を理解するよりも早く。
彼女の華奢な体の腹部を、白銀の銛が貫き通した。
絶叫が、響く。

262:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:13:33
***

ミリカは、ベースのそばをうろついていた。
結界の破壊を確認したため、コスモガードから派遣されたあの少年が何かまたやらかすのではないかと考えて先に手綱を握ろうと探しているはいいのだが、見当たらない。
しばらく探し回ってみたのだが、その姿は救護室にもなく、最後にその姿を見ただろう相手に連絡を取ってみても、仮眠室に案内した後は知らないと言われた。
やはり監視の一つもつけておくべきだったか、とため息をつく。

「……まさかと思うけど、最前線にいたりしないでしょうね」

そう口にすると、あの少年ならありえる、と思えてしまう。
となれば、場所を知るためには狙撃手たちのいるベース近くのやぐらに行ったほうが見つかる確率もあがるかと考えなおしたその時だった。
夜の闇に覆われたはずの空間が、一気に紅い異界へと塗り替えられた。ミリカは驚愕と共に叫ぶ。

「月匣……っ!? こんな時にエミュレイターまで!」

あの少年のことも心配だが、ウィザードとしてまず対処すべきは紅い月だ。
彼女は口元にあるインカムに向けて叫ぶ。

「ちょっと何事っ!? あんまり杜撰なことしてると最前線にすっ飛ばすわよっ!?」
『いい加減な仕事をしてるわけじゃないのでごめんこうむりますっ!
 この村一帯に月匣が張られました!エミュレイターの仕業と思われます!』
「そんなのは見ればわかるわよっ! それで、コアかルーラーはっ!?」
『今解析してるんです待ってくださいっ!』
『目標のやや高い位置にエミュレイター反応! おそらくはそれがルーラーかと思われ……』

違うオペレーターが解析結果を口にしようとした時だった。
ガラスが砕け散るような澄んだ音をたて、紅い世界は終わりを告げる。甲高い、細かなガラス同士が砕けてこすれあう音と共に、赤い世界の粒子が夜の闇に解けていく。
次から次に起こる異常事態に、オペレーターは半分混乱しながら叫ぶ。


263:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:14:20
『エミュレイター反応、いきなりロストしましたっ!? 月匣、解除されますっ!』
「今度は何っ!?」
『わかりませんっ! とりあえずエミュレイターが消えたってことしか……っ!』

そうオペレーターが言いかけ、何かに気づいたらしく全回線へと向けて叫ぶ。

『伏せてくださいっ!』

声にほとんど時をおかず。夜闇に突如として生まれた目を灼くまばゆい白い光の柱が、周囲の木々を消し飛ばしながら虚空を打ち抜き。
それを追うように、もはや衝撃波に近い爆風が吹き荒れた。



264:NPCさん
08/09/27 11:14:41
みぅ

265:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:15:29
***

目の前で、信じられない光景が広がっていた。
少女の体が銀色の槍で串刺しにされ、空へ高々と持ち上げられている。
彼女は恐怖に涙すら浮かべながら、引き裂かれたように叫ぶ。

「な、によぅ……っ、なにが、ぁっ!」

いやいやと首を振りながら、彼女は必死に手を伸ばしながら叫ぶ。

「やっ……食べないでたべないでたべないで食べられるのは嫌、いやイヤぁぁぁぁーっ!」

銀の狼は外部にあるものを『食べる』ことにより己のものとする生き物だ。
これまで食ったものは、魔術師に与えられたものと魔術師、そして村一つ分の人間。
それだけの生物の精神野とプラーナを食らった怪物を制御することなど、彼女にはできなかった。
逃れようと必死に手を伸ばす。しかし、死にかけの侵魔を助けようとするものなどあろうはずがない。
ただただ、食われて死ぬ。

そのはずだった。

「お――おぉおおおぉぉぉぉっ!」

彼女の目線よりも下、村の中に生えている一本の木。
その大きくしげる茂みの中から、青いプラーナを吹き上げながら柊が飛び出した。
木に登り、その上からプラーナを使って彼女に向けて跳躍する。懸命に手を伸ばし、届かないことなど考えず、ただ一心に彼女に向けて手を伸ばす。

――まるで、この手が届きさえすれば彼女さえ助けられると信じているように。



266:風の巡り・中編 <crimsonair-darknight>
08/09/27 11:15:59
ありえない。手が届いたところで、助けられるのとは別だ。そもそも、先ほどまで剣を向けていた相手を助ける意味など欠片もない。けれど――
その手は、確かに彼女にとっては助けだった。藁にもすがる思いで、彼女は自身の手を伸ばす。

指先が触れる、その寸前。
『リアラ』がひょい、と銀の狼により持ち上げられた。
空を切る手。
希望から絶望に変わる表情。

そして、銀の狼はがぱりと大きく口を開け、虚空に向けて巨大な光の柱を吐き出す。
効果範囲内にいた柊は、反射的に自分の相棒を引き抜き、襲いくる光の柱に向けて振りぬく。
別に斬ろうとしたわけではない。巨大なエネルギーの塊に硬質なものをぶつけることで反発力により効果範囲外へと逃れるためだ。
振りぬいた刃は巨大な光の柱のエネルギーにおされ、上空に向けて体ごと横回りの独楽のように回転しながら弾かれる。
柱から何とか離れた柊は、正体不明の怪物に食われる少女を目に焼きつける。エミュレイターである彼女は、足元から虚空に溶けて消えていく。
最後に、拳を強く握り締める。
それと同時に吹き荒れた余波の暴風で、成す術もなく彼は吹き飛ばされた。



267:NPCさん
08/09/27 11:16:20
はわ

268:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 11:16:58
オペレータールームは、今まさに戦場と化していた。
次々に上げられる現場からの被害報告。担ぎ込まれる重傷を負った傭兵達は後を絶たない。
ラルフは苦々しげに呟いた。

「……バケモノが」

活動を開始した怪物は、たった30人のウィザードの手に負えるような相手ではなかった。
白銀の毛皮はすべての魔法攻撃を無効化してしまうらしく、どんな一撃もその身に傷一つ与えられない。
物理攻撃ならば多少は意味があるらしいが、作った魔術師が多重発動を使えたらしく、大量の魔法を乱打してくるためそも近づくことが困難だ。
かと言って、銃撃だけではまともなダメージが望めない。ライフル弾でも大量にぶち込んでやれば沈むかもしれないが、相手は大口径のビームを放ってくる。
位置を気づかれてしまえばそれで多くの命が失われてしまうだろう。
指揮官であるラルフは、大きな決断を迫られていた。
この人数で戦える相手ではない。一部を撤退させ、広範囲殲滅に適した部隊を派遣してもらうのが部下を失わない意味では最善だ。
しかしここで相手をしている人間がいなくなれば、この怪物はほぼ間違いなくこの廃墟の村から出て世界に破壊を撒き散らすだろう。
ではどうするか。
指揮官は答えの出ない問いを繰り返す。



269:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 12:04:30
***

救護キャンプの近くまで来たミリカは、刻々と悪くなっていく戦況を見ていた。
と、その時だ。すぐ近くの林の中に何かが落ちたらしく、ばきばきと小枝が折れる音が響く。
警戒を怠らずそちらに目を向けると、そこには先ほどまで探していた少年がいた。彼はほこりを払いつつ呟く。

「いってぇ……くそ、結構飛ばされたな」
「ど、どこから現れるのよ君はっ!?」
「あれ、ねーちゃんじゃねぇか。なんでこんなとこにいるんだ?」

あくまで本気で不思議そうに言う少年に、あらゆる力が抜けてその場に脱力したくなる。しかしそんなこともしてられない。

「まず質問に答えなさい。君、今までどこで何してたの?」
「エミュレイターを見かけたから追いかけてたんだよ。
 それでうっかりあの馬鹿でかい犬の近くまで行っちまって、さっきのビームの余波で吹っ飛ばれてここまで落ちてきたんだ」
「ま、また勝手なことを……まぁいいわ。今から君は私から離れないようにね」
「それはいいけど、リィンの奴はどこだ?」

心ここにあらずと言った様子の柊に問われ、ミリカはきょとんとしつつ答える。

「リィン君?救護室に泊まっててもらうつもりだったけど、この騒ぎだから。
 ここにいると邪魔になるから、ちょっと外に出ててもらってるけど、それがどうかした?」
「外の、どこにやったんだって聞いてんだけど」
「今はそこだよ」

と、テントを指すミリカ。
そのテントの横には、リィンが確かに立っていた。彼は呆然と銀色の狼を見つめている。
彼の姿を視認すると、柊は駆け寄りリィンの視界をふさぐように抱きしめた。


270:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 12:06:43
「――見るな」

柊の拘束を振りほどこうとばたばたと暴れるリィン。
串刺しにされ、消えゆく姉の姿など視認できる距離ではない。
それでも彼は暴れ続ける。まるで、そうしなければ姉がいなくなってしまうと思い込んでいるように。
同じ、姉を持つ身としてそれが失われることの喪失感は理解できる。自分でもそんなことに直面したら認めたくはない。何も出来ないとわかっていても抗おうとするだろう。
なくしたくはない。しかもたった一人残った肉親を、たった一人の姉を、失うことなんか考えたくもない。その抵抗が無為でも、そうする気持ちは絶対に否定しない。
リィンはしきりになにか叫んでいるが、柊に意味は理解できない。それでもその声を刻みつけようと思った。

ひとしきりばたばたと暴れたリィンは、不意に電池が切れたように動きを止めた。
閉じられた目の端には涙が溜まっていた。柊は意識を失ったリィンを担ぐ。
まだ生きている彼を守るために、歩き出そうとしたその時だ。

ふわりと。

目の前に、なにか靄がかかったように薄れた存在ながらも『リアラ』にそっくりな少女が現れたのは。
『リアラ』は食われた。消滅を彼が見届けた。だからこんなところに存在するはずはない。
それ以上に彼女からはエミュレイターとしての悪意あるプラーナは感じられなかった。
唐突な登場に柊が硬直するのを見て、少女は笑った。

『おにいちゃん、ありがとう。わたしの声に気づいてくれて。弟を、守ってくれて』

リィンたちが隠れていた穴へ誘導するように助けを求める声がしたから、柊はリィンを助けることができた。
その声は、すでに死んでいたこの少女が本当に弟を助けたかったゆえの、必死の呼びかけだったのだろう。
そして少女は――魂だけの存在になったリアラは、柊に言う。


271:NPCさん
08/09/27 12:06:58
きゃ

272:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 12:08:11
『おにいちゃんに、もう一つお願いがあるの。
 私は食べられずにすんだけど、あのオオカミさんのお腹の中に、パパやママが食べられちゃってるの。
 このままじゃ、パパもママも村の皆もみんなお星様のところへ行けない。だから、お願い。あのオオカミさんの中から、みんなを助けてあげてほしいの』
「――おいおい、俺は猟師じゃねぇんだぞ?」
『うん。けど、おにいちゃんはリィンを助けてくれたもの。オオカミさんに連れて行かれそうなあかずきんを助けてくれたもの。
 だからおにいちゃんにはできるよ。おにいちゃんは諦めないから、おにいちゃんは手を伸ばし続けられる人だから』

その舌っ足らずな言葉にく、と笑いをこらえて、彼は不敵な笑みを浮かべて答える。

「わかった。約束だ、お前のパパもママも村の連中も……ついでにお前とリィンも。全部助けてやるよ」
『絶対だよ。約束破らないでね?』
「当たり前だろ。
 ……ついでだ。弟に、何か言いたいこととかあるか?」

兄が妹を見るように、暖かな目でそう告げられた少女は目を見開く。
次の瞬間、嬉しそうに微笑みながら胸を押さえて歌うように答える。

『うん……いつでも、わたしはリィンと一緒にいるから。だから、忘れないで、って』
「わかった、伝えとく。……じゃあな」
『うん。またね』

それだけ言って、靄のような姿だったリアラは消えた。
また会えるはずもないとわかっているはずなのに、それでも彼女は笑ってまたと告げた。その野に咲く花のような温かい笑みは、とても綺麗だった。

273:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 12:09:13
柊は、開いた手のひらを握り締める。何かを掴み取るように。
それを端から見ていたミリカに、彼はリィンを手渡しながら言う。

「ねーちゃん、こいつ夢使いのとこに連れていってやってほしいんだけど」
「待って。君はどうするの?」

ミリカは真剣な表情で問う。柊は困ったような表情になりながらも、ミリカから視線を外して言った。

「約束しちまったからな、あのバケモノぶっ倒すって。だから、行ってこようかと思ってさ」
「馬鹿言わないで。ウチも撤退しようかって敵相手に君一人で対処させるわけにいかないでしょ」
「あぁ。……でも、約束しちまったからな」

瞳は前に。ただ魔法を乱発する銀の狼をただ睨む。
止めてもムダだと、その姿が全身から語っている。だから、とミリカはなおも食い下がろうとするが、柊はひらひらと手を振りながら答える。

「大丈夫だ。それなりに考えはあるし、死ぬつもりなんざカケラもねぇよ」

その言葉に、文句が言えなくなる。
何度も何度も、そんな顔をした相手を見てきた。帰ってきた者もいたし、もう会えなくなった相手もいる。
けれど彼女はここで引かない。それが。それこそが、ミリカ=シュトラウスの矜持だ。


274:NPCさん
08/09/27 12:10:07
うわーもうだめだー

275:風の巡り・中編 <Pray>
08/09/27 12:10:26
「……君、何か考えがあるのね?」
「まぁな。ともかく、なんて言われようと俺はあいつと戦ってくる。止めるだけ無駄だぜ?」
「わかってるわよ。だから、君はちょっとこっちに来なさい。その考えについて話してもらうわ」

そう言って、柊をずるずると引きずっていくミリカ。
予想外の行動に柊があわてる。

「ま、待てねーちゃんっ! 俺これから戦いに行くっつってんだろうが!? 人の話聞いてたのかアンタ!?」
「聞いてたわよ、だから連れて行こうとしてるの。
 君がどんなウィザードか知らないけど、一人でできることなんて限られてるの! そしてウチはまだ戦える連中が残ってる!
 いい!? 一人でなんでもなんとかなると思ってんじゃないわよこのマセガキっ!
 人を頼りなさい! ここにいるのは君一人じゃない! まだ何かができる連中がそろってるのよ!」

ミリカの剣幕に、思わず黙る柊。
おとなしくなった柊を、ミリカは容赦なく司令室へと連れて行くのだった。



276:中編完了
08/09/27 12:15:54
はい、以上中編終了でありますー。
……今回はほんとにアレじゃな、うん。ネタっつーかむしろ色々と。まぁいいか。
とりあえずは忘れてた(爆)分も含めてレスを返しておきますかっと。

>>214
あの日ほんと暑かったですもんねー。
……そこまで言っていただけたなら嬉しいです。自分はまだまだ未熟ですが、物書き冥利につきるってもんです。

>>215
人の心を動かすものが作れたと言っていただけるのは嬉しいことです。これからも精進していきたいです。
>>215さんもお忙しいでしょうが、ご自身の執筆、頑張ってください。同じくこのスレを使わせてもらってる者として応援しています。

>>226
あはは(笑)。まぁ、できる限りはがんばろうと思います。この話終わったらストック切れるんでしばらく先になると思いますが。
柊はもの考えてしゃべらないからいいんですよ。決まってるじゃないですか(笑)。
まぁ、平行世界あたりでファイナルアンサーってことで。

>>250
>>226さんと同じ人かな? 違ってたらすみません。
柊は小学生から柊でしたよ。フレイスでそうだったじゃないですか(笑)。
ラルフに関してはその通り。あと今回のラスボスは某今四期やってるアニメの魔獣がイメージソースといえばそうかも。結果論だけど。
いやー、記憶喪失ネタだとちょっと魔剣さんが切なすぎるんで……やっぱ平行世界あたりでファイナルアンサーで。っつーか魔剣さんそれだとヤンデレになるじゃないですかっ(笑)!

>>251
わ、びっくりした。みおさんこんなところにもいらっしゃるんですねぇ。
んー……ただここ連投規制厳しいんで、やっぱ携帯の自力支援がないと投下難しいです。他の方もめったに投下時にいらっしゃいませんし。
気にかけていただきありがとうございます。
自分が2ちゃん見だす前からいらっしゃる古参のコテの方がいらっしゃるとは思いませんでした。でっかいびっくりです。

277:中編終了
08/09/27 12:16:38
このあたりかな?
さて、後編投下は明日――といきたかったんですが。ねぇボス、「急に一人休むことになったから明日よろしくー」はないんじゃなかろうか……(涙)。
そんなわけではやくて来週末になるかと。そんじゃこれからちょっとリアルに行ってきますにゃ。ではではまた。

278:NPCさん
08/09/27 22:50:22
投下乙。
続きを楽しみに待つ。

相変わらず目の前の奴を片っ端から見捨てない奴だw
弟を思う姉の魂に、不覚にも目から汗が。

279:NPCさん
08/09/28 02:55:50 a0ICOrQJ
素敵! さすが柊だぜ!
ところで、一つ質問してもいいだろうか?

ここって鏡の迷宮のグランギニョルとかヴァリアブルウィッチのキャラとかも平気だろうか?
確かマジカルウォーフェア中で、グランギニョルの主人公斉堂 一狼とヴァリアブルウィッチの藤原竜之介が同じ一年だったはずだから。
二人共、同学年生だよね?

マイナー過ぎるがこの二名を登場させたいと思うんだ。

280:NPCさん
08/09/28 02:57:58
sage忘れた ORZ
すまない。


281:NPCさん
08/09/28 07:39:37
>>279
いいんじゃないかな?
その二人も>>1でいう「公式キャラ」の枠内だろう

そういうこと言ってたらオリジナルキャラとか出せないしねー

282:NPCさん
08/09/28 08:45:05
>>279
個人的には超アリだ!
どっちも木っ端ウィザードなので下っ端の悲哀みたいなもんが見られると面白いかもw

283:NPCさん
08/09/28 09:21:16
>>279
問題ないと思うー
悪いが今からwktkして待たせてもらうぜ

284:NPCさん
08/09/28 16:24:43
ニンジャボーイ×竜之介(女)………だと?ゴクリ(馬鹿は妄想が止まらなくなった)

285:NPCさん
08/09/28 17:37:56
×をつけるなw
しかし、素バージョンでは普通に話せるけど、(友人にはなってるかなぁ?
 ニンジャボーイは普段クラスでは意図的に埋没してるし)
変身すると途端にキョドる一狼という構図も面白そうだw
大いに期待。

286:NPCさん
08/09/28 18:06:47
つーか、ここ意外に人いるのねw
いつも作家+1くらいしかいないのかと思ってたw

287:NPCさん
08/09/28 19:07:17
はっはっは、ROMは一人見かけたら30人は居ると(ry


288:NPCさん
08/09/28 19:24:14
いやぁはっはっは(ごまかし笑い)。

……しかし、一年前からは考えられん現状だよなぁ。なにこの盛況っぷり。
まさか前スレもこの板に珍しく容量オーバーになるとは思ってなかったし。ずっと落ちて終わると思ってた

289:NPCさん
08/09/28 20:04:34
>>285
いや、新聞部のヒロインのせいで忘れがちだが竜之介も結構目立たないよう心がけてるみたいだぞ?ドキドキすると変身しちゃうから普段はやる気のない学生を演技してるみたいだし

俺はむしろ竜之介が変身しても元が男だから平気なニンジャボーイが、女になった竜之介と男友達な感覚で接していたせいで周りやクラスメイトや空に誤解され目立ってしまうという妄想が浮かんだw

290:NPCさん
08/09/28 20:16:11
そして早とちりした人造人間に縊り殺される、と

291:NPCさん
08/09/28 22:30:43
「鍋に切らない野菜を放り込んで煮込む」から、
「鍋に何も入れないで煮込む(?)」にレベルアップですね!

292:NPCさん
08/09/29 01:32:13
>289
俺はむしろ、竜之介が男状態の時の感覚ままで接しようとしてしまい、大あわてするニンジャボーイというのを。
で、任務中に庇われたりして事故で密着。

次の日から男状態の竜之介の顔を正面から見れないニンジャボーイ。
挙動不審、目を合わせると顔が真っ赤っか、明らかに怪しいので事情を知ってるクラスメイトにあらぬ疑いを掛けられたりする。
事情を知っているウィザードのクラスメイトにはもっと深刻な疑いを掛けられたりする。

293:NPCさん
08/09/29 22:15:49
つまり総合するとネコミミの描く竜之介の胸と脇はエロ可愛いとry(馬鹿は地下に引き摺りこまれた)

294:NPCさん
08/10/02 07:16:02
どちらにしろ誤解されるニンジャボーイvv哀れ・・・vv

295:mituya
08/10/02 07:41:30
やっと書き込めた………!ご無沙汰しました、“裏切り”の小娘です!(<どうなんだこの名乗り)
アクセス規制って何ですか。荒らし規制のとばっちり?誰だ自分と同じホストで荒らししたの!(泣)

そんな訳でリクエストに答えてくださった“風の巡り”の作者さんに、お礼も感想も書き込めず………!
遅ればせながら、GJと叫ばせていただきますvv!ちびらぎ、かわかっこいいvv
そして、わざわざ追伸でのご丁寧なご指導・ご指摘、更には暖かいご声援をありがとうございます!(感涙)
でもごめんなさい、まだ投下できそうにありません(泣)ちょっとリアルが立て込んでで………
っていうか、呼びかけがリアルの愛称と被ってちょっとどっきりしましたよvv(本名もじったHNなんで)

そして、何だかお話が盛り上がってますね!竜之介君と一狼君ですか!二人ともいいキャラですよねvv
この組み合わせはなかなかなさそうですから、279さん、ぜひ書いて下さいvv

ところで、現在投下中の話も終わってない奴が何ほざく、と言われるかもしれませんが………
“宝玉の少女”直後設定の、柊×くれはのほのぼのラブというかラブコメというか………そんな感じの話し、需要ありますか?(汗)

296:NPCさん
08/10/02 08:38:59
どんとこーい。待ってる

PS
ここは匿名掲示板だから、個人が特定するヒントっぽい発言は控えた方がいいよ?
誰が見ててなにに利用されるがわかったもんじゃない。
つかむしろネチケ。性別、出身ですら公にすべきじゃないし、名前なんてもってのほか。
暇があるようならネチケットで検索かけてちゃんと勉強してみてください

297:mituya
08/10/02 08:57:17
はわ、ご忠告・ご指導ありがとうございます(汗)
すみません、不注意な上に不勉強で………気をつけます。

えと、亀の歩みになるでしょうが、“裏切り”と“柊くれはほのラブ(仮)”、頑張って書いていこうと思います。
どっちか、土曜日にでも投下できたら………いいな………(希望)

298:NPCさん
08/10/02 15:06:26
なんだろう、この流れ裏切りの人がTRPG初心者PCで周りがフォローする経験者PCに見えてきたw

299:NPCさん
08/10/02 15:42:54
>>298
つまりみっちゃん(仮)は力丸ボイスってことですね!わかります!

300:279あるいは泥ゲボク ◆265XGj4R92
08/10/02 23:48:23
取っ掛かり部分ですが、竜之介と一狼のSSの頭部分が出来ました。
いささか未熟な点が多いでしょうが、受け入れてもらえるかどうかビクビクしながら投下します。
よろしくお願いします。

タイトルは【迷錯鏡鳴】です。

301:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:50:23
 
 紅い赤光に飲み込まれた世界がある。
 時刻はまだ夕方なのにも空には紅い満月が輝いていた。
 嗚呼、なんという恐ろしい月夜なのだろう。
 それは紅く、赤く、破瓜の血のように鮮血に染まっていた。
 大気すらも紅く、呼吸するたびに血に染まっていくような錯覚すら覚える世界。
 紅い月の光に満たされた空間―月匣と呼ばれる異空間。
 そこに三人の人影がいた。
 暗い、薄暗い校舎の中で対峙するものたちがいる。
 一人は少年。
 輝明学園秋葉原分校の制服を身に纏い、両手に無骨な形の両刃の刃物を握っている。黒塗りの刀身、刃渡り20センチほどのそれはクナイと呼ばれる得物。
 右に一本、左にも一本、逆手に握る少年。
 その眼光は鋭く、不気味なほどに身じろぎもせずに、ただ目の前に二人をにらみつけ、硬質な殺意を放っていた。
 空気が凍りつきそうな、歩み寄るだけで首が切り落とされそうな殺意。
 それを受け、それと対峙するのは二名の少女。
 一人は色素の抜けた茶髪をツインテールに結い上げた少女。
 輝明学園秋葉原分校の女生徒用の制服を身につけ、両手には巨大なるトンファー―否、それはトンファーではなく、“箒”。
 ドラゴンブルームと呼ばれるトンファー型の箒、それを構えた少女はただの常人か?
 否である。
 この月匣内で怯みもせずに、ただ眼前の少年を射殺さんとばかりに睨み付けている少女が常人なわけがない。
 そして、その横で佇む少女もまた常人ではなかった。
 彼女は人ですらなかった。
 その手は異形の如く鋭い爪を生やし、耳に当たる部位は猫のように大きく肥大化し、臀部からは猫の尻尾を生やした、それを人類と呼べるわけがない。
 瞳孔は細い亀裂のように縦に長く夜闇を見通す獣の瞳。
 バンダナを頭に身につけ、後ろ髪をリボンで括った少女は人間ではない。
 人狼―デミ・ヒューマン。亜人間と呼ばれる種族の一人、猫と人間の混ざったようなそれは猫人と呼ぶべきか。
 それらが一同に会し、互いに対峙している。

302:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:51:47
 
 まるで漫画か幻想のような光景。
 夢のような、趣味の悪い悪夢。
 しかし、その夢は決して覚めぬ夢。
 確固たる現実なのだから。

「   」

 少年が呟く。
 しかし、その言葉は少女達には届かない。
 互いに敵だと既に認識し、放たれた言葉はむなしく大気に希薄化し、消失する。
 ゆらりと少年の身じろぎ一つしなかった体が崩れ、揺らいで、瞬間―音もなく、少年の位置が移動した。
 体勢はそのままに、ただ位置のみが移動する。
 前へ、爪先でだけで蹴飛ばし、移動するその歩法。
 すり足と呼ばれる剣道の歩法、その亜種、恐るべき速さでの前進。

「っ!?」

「  !!」

 トンファー使いの少女が驚きに目を見張り、亜人の少女が警戒の咆哮を上げる。
 二人の少女が動き出す。
 ツインテールの少女が呼気を洩らしながら、力強く前に踏み込み、そのしなやかなる手足を流れるように用いて、ぶぅんと大気を両断するかのようにドラゴンブルームを横なぎに振り抜いた。畳み掛けるように亜人の少女が右手の爪を一閃させ、十字に切り裂くかのような疾風。
 防ぐか、止まるか。
 どちらを取るかと少女達は考えて―第三の選択を少年は選んだ。
 少年の頭部を粉砕するかのような残酷なる軌跡、しかしそれを少年はさらに踏み込み、低い体勢で躱す。
 地面と頭が平行になるほど低く、蜘蛛のような姿勢。爪先と指先のみで床を引っ掛け、疾走する移動法。
 なのに、速い。
 飛び出した少女たちと少年の軌道が交差し、位置を真逆に変える。
 少女は前へ、少年は少女の背後を取った。

303:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:52:48
 
 驚愕にツインテールの少女が硬直したのは一瞬、即座に建て直し、旋回するようにトンファーを背後に振り抜いた。
 横薙ぎの一閃。
 風すらも切り裂く閃光の如く殴打は再び空を切る。
 少年は振り返るよりも早く、ただ上へと跳んだ。
 恐るべき身体能力で天井へと跳んで、クルリと天井へと―“立った”。
 重力を操作した?
 否、違う。
 天井からぶら下がった蛍光灯、それを足先で掴み、ただ引っ掛けたのみ。
 少年の靴は普通の革靴―多少改造されているとはいえ、本来の戦闘服である装束ではなく、僅かなくぼみを掴むための足先がない。
 故の代理、そして空を切った少女へと少年の両手が閃いた。
 二条の投擲、人差し指で支え、中指で押し出した独特の投擲術でクナイが弾丸の如き速度で撃ち出される。
 少女は息を呑み、片方を咄嗟に構えたトンファーで弾き、もう一つは首を捻って躱す。
 顔の真横を突き抜けるクナイ、風を切る音が鼓膜を震わせ、ドスンとクナイの先端が廊下の床に半ばまでめり込んだ。
 その威力に戦慄する。
 弾いたトンファーに確かに残る衝撃に手が痺れていた。まるで砲撃の如き投射術。

「あげは!」

 瞬間、言葉が意味を持った。
 あげは、そう呼ばれた少女が人外の速度で天井に佇む少年へと爪を伸ばしていた。

「はぁああああ!」

 僅かな挙動、助走すらもない跳躍で二メートルを超える高みへと登る身体能力、まさしく人外。
 少年の手元に武器は無く、自然落下で避けるには遅い、絶好のタイミングでアゲハと呼ばれた亜人の少女は唸りを上げて、爪を少年へと叩き込み―金属音を響かせた。

304:NPCさん
08/10/02 23:54:10
あんたかいっ!支援

305:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:54:18
 
「っ!?」

 確かに爪は命中した。
 少年の胸元へと振り抜かれた爪は紛れも無く必中のタイミングと軌道を描いて打ち込まれ―受け止められていた。
 少年の袖から飛び出したクナイによって。
 手首を曲げればもう一本、瞬時に飛び出し、その手に握られていた。
 バギンッと蛍光灯が二人分の体重に破損し、二つの人影が落下した瞬間、斬光が交差した。
 二本の爪が、二本の刃が、瞬くような瞬間を重ねて煌めく。
 互いに殺意を向けて、刃が振りぬかれて―弾かれたように吹き飛んだ。
 互いに人外、鍛え抜かれた、或いは常識外れの身体能力を持って、体勢を整え、まるで羽毛のような軽さで着地する。
 見ていなければ今着地したのだと分からぬほどの静かな音。
 アゲハはぐっと短い苦痛を洩らして胸元を押さえて、少年は歯を食いしばりながら手の甲で頬についた爪痕を拭う。
 互いにその速度と鋭さを認識し、油断は出来ないと判断した瞬間だった。

「どけ、あげは!」

 独特のテンポ、リズムで息を吸い上げたツインテールの少女が腰を捻る。
 膝を曲げて、手首を曲げて、しなやかに踊るように体を前に投げ出し―あげはが意図に気付いて飛び退いた瞬間、虚空を切り裂くかのようにトンファーを振り抜く。
 刹那、大気が奇怪な破裂音を奏で上げて、陽炎の如く歪んだ。
 ―伏竜。
 そう呼ばれる技術がある。
 龍使い。
 “氣”、すなわちプラーナの操作技術を極限まで編み上げ、体を鍛え抜いたウィザードの一派。
 体内に巡る経絡の流れと龍(ロン)と称し、大地に巡る霊脈―竜脈と呼ばれる大地の流れと同調し、己の中に龍を宿した武術家たち。
 内力を練り上げ、丹田を通し、己の経絡を全てにプラーナすなわち氣を巡らせ、錬気を練り上げた彼女には見える、感じる、悟れる。
 大気の流れを、その硬直した位置を、打点すべき位置を。
 故に無駄なく、迷い無く、その一点を叩いて、大気に衝撃の波紋を広げた。


306:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:55:34
 
 世界は彼女にとっての水面。
 指を突いただけで波紋が広がる、大気もその時の彼女にとっては液体も同然。
 風の如く、音の如く、衝撃が大気を伝達し、少年の体を打ち据えた。
 少年には意味が分からなかっただろう。
 大気が歪んだと思った瞬間、5メートル以上は離れていた少女が振り抜いた一撃が不可視の衝撃となって少年を打ち抜いたのだから。
 見た目は十代半ばの少女。
 けれど、振り抜いた一撃は鉄をも砕く剛力無双。
 六十キロ前半の十代少年の体をトラックの直撃の如く吹き飛ばし、遥かな廊下奥へと転がすのには十二分の一撃だった。

「竜之介、やったか!?」

「いや、まだだ!」

 あげはが呼んだ少女の名、それは不可思議なことに男の名前のようだった。
 けれども、竜之介と呼ばれた少女は一切の疑問も浮かばせず、ただ厳しく前を見る。

「手ごたえが浅え!」

 手ごたえの弱さに、竜之介は厳しく目を細めていた。
 よくよく考えれば、派手に吹き飛びすぎていたのだ。
 幾らなんでも竜之介の一撃を受けたとはいえ、廊下の奥にまで吹き飛ぶなんてありえない。
 むしろ、わざとその方向に自ら跳んだとしか言いようがないほどに。


307:NPCさん
08/10/02 23:56:00
ここ規制厳しいんで頑張ってください支援

308:迷錯鏡鳴 序の巻 ◆265XGj4R92
08/10/02 23:56:19
 
「まだケリはついてねえ」

 じわりとこめかみに汗を浮かばせ、竜之介は静かに呟いた。


「来るぞ!」


 廊下の奥から煌めき、打ち込まれてきた無数の白刃。
 それらを打ち払いながら、竜之介は赤い夜空に響き渡るほどの咆哮を上げて、足を踏み出した。



 ナイトウィザード 異説七不思議録

  【迷錯鏡鳴】



 忍の巻に続く


309:NPCさん
08/10/02 23:57:29
ふにゃ支援

310:泥げぼく ◆265XGj4R92
08/10/03 00:02:18
投下完了です。
なんで頭部分だけで8KBもあるんだろう? 不思議不思議。
25(+5)行の制限は厳しいですね。
レス数がどうしても多くなってしまいました。誠に申し訳ない(土下座)

一応次回、忍の巻、龍の巻、終の巻の全四本で終わらせる予定でしたが、
レス数が膨大に多くなり、一部上下編にするかもしれません(汗)

他の職人様と比べると雲泥のへぼSSですが、どうか楽しんでもらえると幸いです。
ああ、恥ずかしい(真っ赤)
それでは近いうちにまた続きを投下させていただきます。
今後は泥げぼくとここでは名乗らせていただきます。

一狼とか竜之介やらあげはがおかしい! という指摘は全て自分の未熟さ故です。
すみませんでした!!

311:NPCさん
08/10/03 00:13:56
>>310
相変わらずだなぁあんさんは(苦笑)。
つーかどんだけ平行する気だいあんた。おいらの知ってるだけでいつつはある気がするんだけどね。
読む側としちゃ、ありがたいの一言だがね。据え置かれてるのの続きも読ませてくれんかね、地下とか。

いろんなデータ見てると書きたくなりますよねー。
次回更新もお待ちしています。

ここも、賑やかになるなぁ(遠い目)。

312:NPCさん
08/10/03 00:19:31

GJ!……なんだが、この上手いが独特な戦闘描写、そして泥げぼくという名前……もしや地下のマッドマン氏?w

313:泥げぼく ◆265XGj4R92
08/10/03 00:29:01
レス返しです。

>>311
一応こちらのはあまり長くなく終わる予定です。
竜之介と一狼などの習作のつもりで書かせていただいてます(とはいえ、本気でかいてますが)
色々と書き溜めていますので、少しだけお待ち下さい。
あと何故に遠い目にw?

>>312
ナ、ナンノコトデショウ?
単なる新人ですよー

314:NPCさん
08/10/03 00:44:21
>>313
いや、昔の話さ。
半年前には、アニメ板の方はスレごと暴れてるほどだがこっちは静かなもんでね。投下もとうに途切れてた頃。
前スレが無くなるときに立ち会ったから、次は立つのかどうかでかなりやきもきしたわけさ。
立った後も使い切れるのかとね。色々心配したもんだ。

昔は読んで感想くれる人間も一人二人いりゃあいい方でね。方々で宣伝した甲斐もあったと思うとねぇ。
それが今じゃたくさん書き手がいてくれる。時ってなきちんと流れてるもんだなと思ったのさね。

いや、もちろん書いてくれる作家さん方がいてこそなんだがね。感慨深いね。

315:巡りの中身
08/10/03 16:52:18
しみじみしてるところアレじゃが投下しにきましたー。
支援できる人いますかねー?

いなくてもするけど。

316:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 16:56:16
司令室で、ラルフは難しい顔をして腕を組んでうなっていた。
彼の前にいるのは、まだあどけない顔をした子供と子供の頃から面倒を見ていた娘。
ラルフは、ミリカに引きずられてきた柊の思いつきについて彼の口から聞いていたのだ。
しばらくうなった後、彼は少年にたずねる。

「おいガキ。今の作戦、お前どれくらいで考えたんだ?」
「どれくらいも何も。そこのねーちゃんが文句も言わせず人を引きずっていきやがるから、最低限の決め手以外は引きずられてる間になんとか辻褄合わせただけだ」

明らかに不機嫌そうな表情で柊が答える。ミリカは特に悪びれもせず、ふふん、と楽しげに笑っている。
ほう、と感嘆の声をあげ、ラルフは言葉を次いだ。

「お前作戦立案の才能があるかもしれねぇな。どうだ、コスモガードなんぞやめてウチにこねぇか?」
「部隊長っ!?」
「いや、俺日本離れる気はまだねぇし」
「そうか、惜しいなぁ。ウチに来れば退屈しねぇぞ?人種なんぞ気にする奴もいねぇし。
 なぁミリカ、この小僧のために日本支部立てるような余力は本家にはないのか?」
「ありませんっ!なにを非常識なこと言ってるんですかっ!?」

食ってかかるミリカに、ラルフが両手を挙げて勘弁、というポーズをとってみせる。
そんなやり取りを眺めながら、呆れたように柊に言う。



317:NPCさん
08/10/03 16:57:44
はわ

318:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 16:57:50
「んで、おっさん。言ったモンは用意できんのかよ」
「あぁ、もちろんだ。
 ミリカ、お前はハンガーに行ってリッドじいさんから例のアレを受け取って狙撃班に届けろ。今すぐだ。
 で、ガキ。お前は俺と一緒に来い。俺も戦線近くまで移動する。ここの状況は逐一伝えろ、いいな?」
「それはいいですけど『アレ』、一体誰に撃たせるんです?」
「決まってる。この部隊に随行してる最高の狙撃手っつったら『銀弾』のロベルトしかいねーだろ」
「ロベルトさんをそこに使っちゃったらこの子のフォローどうするんです?」
「心配いらねぇ、あいつは『銀弾』だぜ?その程度できなくてんなあだ名つかねぇよ」

それもそうですね、とミリカが気安く頷く。
ラルフがだろう?と男らしいふてぶてしい笑みを浮かべ――オペレータールームを通じて、全軍に指揮を飛ばす。

「さぁ野郎ども、勝ちにいくぞっ!!」

村中に、鬨の声が広がった。



319:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 16:58:53
***

断続的に続けられていた魔法が止む。
それを確認し、銀の狼は移動を開始――しようとして、箒に跨って横合いから一直線に飛び来るものを視認した。

獣は笑う。あれだけの数を使ってなお、自分に有効な一撃を与えることもできなかった生き物共がたった一匹で何ができるのか。
全方向に向けて大量に放っていた魔法を、その一匹に向けて幾つも放つ。
闇色の弾丸が、風の刃が、炎の龍がまっすぐ前を見据える少年に向かって放たれる。
柊は自分の属性である風の魔力反応を感知、自身の跨るテンペストを慣性の法則を無視して横にドリフトしながら避けた。
しかしそれでは後に迫り来る闇の弾丸と炎の龍をしのぐことは不可能。そのはずだった。

――もしも、彼が一人で戦っているのであれば。

柊の飛び立った辺りには、十数人の魔法使いが己の杖を構えて立っている。
その内の2人が魔法を発動させた。

「<マジック・シェル>っ!」
「……<ノー・リーズン>」

白い光の膜が柊を包み、放たれた闇の弾丸をその薄い光が逸らし弾く。
襲いくる炎の龍は、もともと存在しなかったかのように火の粉となって散り、消え去った。
怪物は目を見開く。



320:NPCさん
08/10/03 16:59:49
みぱ

321:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:00:31
***

「ひゅう♪本当にアレ子供かい?俺も作戦会議は聞いてたけどサ、あの年の状況判断じゃないよネ、絶対」

そう言ったのは、『銀弾』のロベルトと呼ばれる狙撃手。
ラテン系のなまりのある彼は、目の前で繰り広げられる光景を楽しげに眺めている。
その目線の先にあるのは、まるで花火のようにいくつもいくつも一人の少年に向かって飛ぶ攻撃魔法の数々。
炎が爆ぜ、水が逆巻き、光が奔り、闇が塊となって打ち出され――その全てが、柊の曲芸じみた箒操作と後方より放たれる支援魔法により意味を成さないものとなる。

箒などほとんど乗ったことのない柊が回避に成功しているのは、襲いくる魔法を感じているからだ。
世界に満ちる力――プラーナを術者のもとに集め、自らの思い描く現象へと魔力を用いて束ね上げ、発動という手順をとって魔法はこの世界に一時的に顕現する。
世界に満ちるプラーナにも属性がある。水分のない砂漠で水の魔法を扱うのは不可能と言っていい。
個人の資質と対応するプラーナが多く存在するほど魔法使いには有利になる。
今柊がやっているのは、その逆説的な証明だ。近接専業の魔剣使いとはいえウィザードのはしくれ、魔法を扱うための手ほどきはある程度受けている。
風を第一属性とする魔法使い(ウィザード)は、大気を己が味方に変える。
自らの感覚を大気の流れを『読む』ことだけに集中させ、通常のウィザードが回避するのよりもさらに一瞬早く箒を操作、正確に回避しているのだ。

ロベルトが褒めているのは、風読みに裏付けられた箒操作と支援魔法のタイミングを読むことだけではない。
もともとこの作戦を提案したのは柊だ。
曰く、「魔法を受ける対象を一人に絞ってしまえばそいつだけに防御だの打消しだのを使える人数分集中させることができる」
そして、もう一つ。

「全力の援護を受けながら真正面から向かってくる敵を見れば、他への注意が薄くなる、か」


322:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:01:39
その通りだ、と呟きながら彼は照星を目標に合わせる。
彼の隣にたたずむミリカが、絶対の信頼を込めて問う。

「――いけそうですか、ロベルトさん」
「ミリカちゃんも意地が悪いネ」

そう言って、彼は口元に笑みを浮かべながら――やぐらに突貫工事で取り付けられた箒。その超巨大砲口は、銀色の狼に向けられている。
その箒のトリガーにかかった指を引く直前、彼は女好きの顔から、男らしい不敵な笑みへと移行させながら言葉を続けた。

「――誰に向かって言ってるのサ」

トリガーは果たして引かれ、極太の光の渦が砲口より放たれる。
ストロングホールドに搭載された超ロングレンジライフルは、今その猛威をここに発揮した。



323:NPCさん
08/10/03 17:02:21
きゃ

324:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:03:42
***

光の嵐が狼の背中に直撃し、爆風と破壊を撒き散らす。一瞬ゆるむ集中砲火に、ここが勝負どころと確信した柊は叫ぶ。

「<エア・ダンス>っ!」

爆風によって乱れた風、己の魔法によってそれすら味方につけ、彼は加速、突入する。
さまざまな光に取り巻かれ駆け抜ける彗星。それは、狼により放たれる破壊の暴虐を、ドリフトし急降下し急上昇し木の葉落とししバレルロールし避けかわして前へ。
痛みに苦悶の声を上げながらも、獣は近づくうざったい生き物に対し攻撃を仕掛ける。

狼にとって、一切の魔法攻撃が無効化されることがわかった今、頼れるものは数少ない。加速した生き物に対し、己の堅い毛を槍と化して放つ。
そんなものをものともせず、彼はただ前へと進む。
何発かは柊の体をかすめ血をあふれさせるが、直撃するものだけを回避、他を無視。ただただ狼に向けて高速で突っ込む。
止まらない相手に対し、本能的な恐れが獣を襲う。狼は、先ほど虚空をなぎ払った巨大な光を吐き出すことで、恐怖のもとを絶たんと口内に光を集中させて大口を開く。

その光を放とうという直前、何かが光を貫いた。爆発寸前の光に衝撃が加えられ、口内で破壊のエネルギーが荒れ狂う。
悶絶する狼。光を貫いたのは、未だやぐらの上にいたロベルトが放った、備え付け式のアンチマテリアルライフルの放つ弾丸だ。

狼のすぐ傍まで来ていた柊は、それまで乗っていた箒を蹴り、自由落下に身を任せる。
獣の上に着地するため態勢を整え、その動作も含めて捻りを加えながら月衣から己が相棒たる、紅い宝玉の魔剣を引き抜き振りかぶる。
プラーナを注ぎ込み、先ほど銀色の槍にえぐられた箇所から流れ出る血を媒介に己の生命力を食らわせ――

――落下と着地の衝撃も含め、ロングレンジライフルで陥没した箇所に、思い切り刃を叩き込む。



325:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:08:12
鉄壁と思われていた白い毛皮が、光の渦に焼きちぎられ、皮膚が焼き固められた背中は、二重の強化を受けた魔剣によって、こんどこそその鉄壁を崩される。
深々と切り裂かれ、獣が絶叫をあげる。
しかし、この程度では銀色の狼は死にはしない。むしろ、これだけの攻撃を叩き込んでようやく鉄壁を一部分だけ崩せた、というのは普通絶望的な状況でしかない。
けれど、彼の策はここで終わりではない。暴れる狼の背から振りほどかれまいと、必死に剣を突き刺してその暴虐に耐えながら、貸与されたピンマイクに向かって叫ぶ。

「頼むっ!」

その声は、オペレーターを通してラルフに伝わり、ラルフは目の前の杖を構えた部下達に叫ぶ。

「今だ、思いっきりやりやがれ!」

その号令に、いくつもの声が重なった。

「<トンネル>!」

発動したのは、地面に穴を掘る魔法だ。
掘削用に開発された魔法だが、シュトラウスのように任務で野営を組むような組織の構成員としては覚えておくと便利な魔法である。
そのため、地属性のウィザードの中でもルーンマスター系でないものは習得していることが多い魔法だった。
声の分だけ発動された魔法が、獣の四肢の下にあった地面に大穴を開ける。
突然なくなった足場ではふんばりも効かず、獣は成す術もなく動きを封じられる。
柊はすぐさま魔剣を引き抜き、ミリカから預かった水晶の塊を2本、獣の傷口に埋め込む。水晶の尖っていない方は少しだけ傷口から出しておく。
その痛みにまだ柊が自分の上にいることを気づいたのか、獣は銀の体毛を槍のようにねじり、柊の左足を貫く。

激しい痛み。
それ以上に、その毛槍はこれまでの飛ばしてきたものとはまったく別種のものだった。

326:NPCさん
08/10/03 17:08:47
にゅ

327:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:10:49
狼は、一匹の侵魔を食らっている。
そしてこの狼は食らったものの力を操ることができる。これまでは魔術師の技である魔法と、イノセントの多量のプラーナ程度しか使えるものがなかった。
だが、侵魔を食らった以上は侵魔の力すらも『それ』は扱うことができるようになっていた。
狼の食った侵魔の能力は――『支配』。
個体の精神を奪い操る能力。
それが、銀色の槍を通して柊の精神を蝕んでいく。

『奪い取れ。飲むように喰らうように侵すように貪るように踊るように殺すように齧るように冒すように狩るように辱めるように。
 奪え。名もなき頃のように楽しんで愉しんで喜んで悦んで歓ぶように奪えうばえ略奪えウバエ奪え――!』

泥のようなものが自身の周囲を覆う感覚。
周囲の全方位から放たれる圧倒的な悪意。
おぞましいものに精神にもぐりこまれる。
拒否反応なのか、体がびくりと痙攣した。

「っぁ――」


『くう。食らう。クウ。飲み干す。くウ。啜る。クう。齧る。食う食う食う食う食う食わせろっ!』

食への大合唱。
巨大で虚ろでほんの少しの停滞もなく澱んでいる矛盾。
泥のようにおぞましいソレが、柊の中に侵食する。
恐ろしさよりもおぞましさ。冷たい汚泥がどろり、どろりとしみこんでいく感覚。
息をのむ。
巨大すぎる敵。精神世界において数十人の精神そのものを繋ぎ合わせた闇にたった一人で抗うのは、大時化の海に小船で立ち向かうようなものだ。

「あ」


328:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:11:51
けれど。

――だから、なんだ。
その程度の闇が、絶望がなんだっていうんだ。

「あぁ」

それで、それを前にした程度で、自分が自分を諦める理由になるのか。
幼馴染の笑顔。それをもう見られなくなることを認める理由になるのか。
死に向かう泣き顔の少女の慟哭。それを忘れることを許す理由になるのか。
同じ顔の少女が最後に託した願いごと。それを手放していい理由になるのか。

――いいわけねぇだろうが。

「じゃ……」

諦めない。
認めない。
許さない。
放さない。
絶望が襲ってくるのと、自分が諦めないのとはまったく別の問題だ。
幾千の夜が、幾億の闇が襲おうと、心にある意地を失うのとはまったく別の問題。諦めるのは己の意思を捨てること。けして他に負けることではない。
手を伸ばす。何一つ、諦めたくはない。諦めていいものなんか、なくしていいものなんか何一つ彼は持っていない。だから手を伸ばし続ける。
伸ばした先にあるものを、自分に背負える限り背負い、どれだけ傷つこうが、自分の守りたい何かを守り抜くための、その意地だけを張り通す――っ!
だから。

「……ますんな、どけぇぇぇぇぇっ!」



329:NPCさん
08/10/03 17:13:07


330:風の巡り・後編 <Small tactician>
08/10/03 17:14:02
一喝。
魂からの咆哮に、闇が柊の中から怯えて飛び出る。
その隙を彼は見逃さない。
唇に犬歯を穿ち、意識を保つ。再び同じことをされて耐えられるとは限らない。機はここにしかない。だからこそこの機は逃さない。
相棒を再び高く振り上げ、自身の生命力を吸わせ――

「――<魔器、解放>ぉぉぉっ!」

吼えた。

ごう、と魔剣より巻き起こるは凶悪なまでの暴風。やがてそれは炎とプラーナをまとい、青き爆炎の大嵐と化す。
これまでの戦いの間ずっと共にあった最高の相棒を。彼は絶対の信頼を持って、炸薬の仕込まれた魔力水晶弾に、ひいてはその先の獣の体に向けて振り下ろす――!
直後。

その日一番ド派手な。
爆発するように膨らみ、それでいて収束された青白い光の柱が現出。
それは夜天を灼き、狼の体内を荒れ狂って穴という穴から飛び出し、それでも足らず体内から狼を引き裂き――そして、それを放った少年をも、巻き込んだ。



331:風の巡り・エンディング <no tear,give smile>
08/10/03 17:18:35
夜が明けて、数日がたった。
リィンは、年が近いこともあってなのか姉がいなくなった日からずっと柊に付きまとっていた。
それはまるで本当の兄弟のようで、シュトラウスの部隊員達を大いに和ませた。
リィンが無邪気にひよこのように柊の後ろをついていくのも、それをたまに困ったような笑みを浮かべながら見ている柊も。
夜に寝付けないのをため息交じりに一緒にいてやったり、悪夢を見て泣いていれば黙って頭を撫でてやっているのも。
あれだけの戦いを見せた柊が年下のリィンに引きずられたりしているのを、年上の隊員達に揶揄られてやや彼が不機嫌な様子になるのも含め、である。
けれど、別れの時は来る。リィンは魔法災害を生き延びたが身寄りはない。孤児として孤児院に預けられることになる。
その日は、すぐにやってきた。シュトラウスの手配した迎えの人間が来たのだ。

「……リィン」

柊は、困ったように自分の服のすそを掴んで離さない年下の少年を見た。リィンはいやいやと言うように必死に首を横に振る。
彼もわかっているのだろう、この別れは、もう二度と取り返すことのできない別れであることを。
困ったような表情は変えず、柊はぽん、とその頭に手を置く。

「リィン、これ。お前の姉ぇちゃんからの預かりもんだ」

そう言って、彼は鎖だけ新しくなったオモチャのペンダントを渡す。
柊が放ち、また巻き込まれた爆発の中、彼は見覚えのあるものを見つけた。
それは、『リアラ』が持っていたペンダントだ。手の届くところにあったそれを掴み――そして、そこで柊は意識を手放した。
次に起きたのは、医療キャンプのベッドの上だ。手が届くから、手を伸ばしただけの話。
リアラの墓に備えてやろうかとも思ったが、彼女のいる場所は彼女自身に聞いた。だから、持ち主のいるところに返すべきだと思った。

「あいつは、ずっとお前と一緒にいるってさ。だから、忘れてやるなよ」

俺はお前の姉ぇちゃんにはなれねぇからさ、と言いながら、困ったように笑って。新しくなった鎖をリィンの首にかけてやる。
うつむいてぼろぼろと泣きながら、リィンは何度も何度も頷いた。
だから心配はしない。そして、彼らの道は再び分かれた。


332:NPCさん
08/10/03 17:19:10
らー

333:風の巡り・エンディング <Re:air>
08/10/03 17:20:29
「あーあ、行っちゃった」

ミリカは、キャンプに降り立ち、柊を回収していったヘリを見てそう呟いた。ラルフが揶揄するように問う。

「なんだ、お前年下趣味だったのか?」
「そんなわけないでしょうっ!?」

拳を振り上げながらツッコミをいれるミリカに、両手を挙げて冗談だ、と答えるラルフ。
もう、とため息をついた彼女を見ながら、部隊長は空を見上げて呟く。

「まぁ、確かにあの才能はかなり得がたいしな。シュトラウスの娘として惜しくなるのもわかるさ」
「確かにその通りですけど。
 けど、れんじ君は私達のところにいちゃいけない気がするんです」
「あいつがダメになるってのか?それはねぇだろ。あの手のガキはしぶといぜ」
「えぇ。もちろんそういうことじゃなくてですね」

彼女は、自分の予測を笑いとばすように言った。

「あの子、世界を救うような気がするんです。だから、ここにいるとそれができなくなっちゃうでしょ?」
「世界、だぁ? またそりゃでかく出たな。
 そもそも世界なんつーもんは人間一人に背負えるようなモンじゃねぇだろ」

傭兵として至極正しい発言をするラルフに、苦笑いでミリカも返す。

「だから、単なる予感ですってば。ラルフさんもしつこいですよっ!
 それに、会おうと思えばまた会えますしね」

この仕事をしてる限り、と彼女は呟く。彼女の長いポニーテールが、青い空に吸い込まれるように風に巻き上げられた。


334:NPCさん
08/10/03 17:28:16
ぷにぷに

335:風の巡り・エンディング <Home>
08/10/03 17:28:54
「おはよっ、ひーらぎっ!」
「……お、おう」

幼馴染の視線が怖い。
学校に登校復帰したその日のことだ。笑顔ではある。あるのだが――

「それで、この連休中はどこに行ってたの?」

来ると思った。
しかも、なんだかちょっとこっちをうかがうような表情だ。
もともと言葉に表すのが苦手な彼としては非常に困る。しかも、彼女が気づくその時までは隠しておきたいそのことを聞かれるのは非常に困る。
えーと、としばらく悩んでから、答える。

「……プチ家出、とか?」
「そんなことであたしと遊ぶ約束すっぽかしたんだ、へー」

視線が痛い。
いや確かにすっぽかしたけども。
仕事がいきなり入ったんだから仕方ないっつーか。
仕事の電話を姉貴がとりかけてエラいことになりかけたっつーか。
むしろ帰った弟にいきなり飛びつき腕ひしぎとかどうなんだ姉貴とか。
いい加減上司に姉貴と連絡とったりくれはに連絡取ったり翻訳機ついてたりする0-Phone よこせって言っとくかなぁとか。
色々と言いたいことはあるが、彼女に言えることではなかったため、心にとどめておく。最後のは願望だし。

336:風の巡り・エンディング <Home>
08/10/03 18:44:11
様々な葛藤を飲み込んだ後、彼にできることはたった一つしかなかった。
すなわち、平謝り。

「……悪ぃ」
「――よし、許す。ただし、今日はちゃんとウチに来なさいよ」

りょーかい、と力なく答えるしか出来ない柊。
まぁ、もともとくれはの家には呼び出されるとは思っていたし、そこはいい。
どうせだし、くれはのご機嫌を一日とることに集中しよう。ヒマがあったら青葉にグチでも聞いてもらいつつ。

ため息。
けれど、それはなんだか心地いいため息のような気がした。
またなんとか。日常に戻ってこれた、という実感の欠片のようなものが彼の心に落ちてくる。
少なくとも、あの時闇に屈していれば得られなかったまぶしさ。
それは、ひどく暖かくて。悪くない、と思えた。

だから彼は戦える。またここに戻ってくるために。この場所を守るために。
そして――また風は、世界を巡る。


fin

337:巡りの中身
08/10/03 18:49:05
はい。以上で風の巡り終了でございます。
いかがでしたでしょうか。柊はきっと最初っから最後まで柊蓮司です。では、ちょいと作中補足。公式じゃないんで聞き流していただきたい。

・年齢的には柊中一、12歳くらいの出来事。この頃はまだくれはの方が身長高くて(くれは148、柊145あたり)柊としてはちょっと不満。成長期は中学後半から。
 くれは未覚醒。一応家のお手伝いはしてるのでそういう学問自体は学んでいるものの、まだ魔法が存在するものだとは思ってない。
 実は青葉はもう使えてたりする。しかしもちろん実践経験はない。
 ……実は、柊も近くに出たエミュレイターを積極的に狩りにいってるのだけど。それもあってかいまだに月匣内に入ったことのないくれはは未覚醒。ちゃんと守ってます。

・コスモガードに在籍した……というか雇われになったのは中学生から。「らむねと」からは魔剣さんと一緒に近所の小さな事件を解決してた模様。修行期ですな。
 ハウスルールになりますが、ウィザーズユニオン間の取り決めで「純正の人間」(使徒・人狼・吸血鬼などは除く、という意味)の雇用可能年齢は満12歳ってルールが。
 学生生活とかでもっとたくさん経験を積んでからにしてくださいってことです。あくまで「雇用」なので勝手に動いたり巻き込まれたりするのは別。つまり夢子供はOK。
 つまり在籍自体はいつしてもいいよってこと。柊は在籍はしてないけど雇用はされてました。つまりは雇われ。傭兵みたいとも言う。


338:巡りの中身
08/10/03 18:49:46
・リィンはこの後修道院に併設されてる孤児院に入るもののすぐにウィザードに覚醒。銀十字に編成されかけたので修道院を脱走し、コネを頼ってシュトラウスに。
 シュトラウス少年部に入り、魔術師としての適正を見出されて、ただ一つの憧れを胸にひたすら己の魔術の腕を上げることに。
 今では相棒のストライカーズブルーム「遊星(シューティングプラネット)」を駆り、移動型大鑑巨砲になってたり。性格は素直で面倒がり。
 13歳の四月になった2nd 環境下、初めての任務で日本の秋葉原に行くことに。曰く
 「日本の秋葉原がいろいろときなくさくなってきててねぇ。陰陽師の名家は関係冷え切るわとある学校に異界に繋がる門があるって噂は立つわで滅茶苦茶。
  色々ありすぎて現地調査員が一月で三人倒れちゃって。まったくもうあの世界の危機大国が。そんなわけでさ、学校に入れる身分も必要だから、ちょっと行って来い」
 とのこと。もともと日本に来たかった彼は一も二もなく了承。憧れの輝明学園秋葉原校中等部制服に袖を通すことに。
 そして彼は任務先の日本で――最近御門所属の陰陽師(どうぎょう)からハブられるようになってちょっと寂しい赤羽青葉と同級生になったりする。
 夢はとある火属性レベル6魔装を購入すること。子供の頃見た狼を叩き切ったように見えた閃光によく似ているらしい。憧れ憧れ。ちなみに属性は天/火。

・柊がこの時点で使えるはずのない魔法とか使ってるのは仕様です。本編では使えるけど使わなかっただけなんだZe。とか言っておく。
 あと魔力水晶弾については……まぁ、ルールだと使えないけどSSだとこんな使い方したら面白いんじゃねって試験的なもの。
 直接薬莢ぶち叩きつつ魔器解放してるから狼さん一たまりもなかったらしいよ。グロ。


339:巡りの中身
08/10/03 18:50:17
そんじゃ、レス返しー。

>>278
待っててくれてありがとうございます。
柊蓮司は最初っから最後まで柊蓮司です。柊っぽく書けてたら嬉しいなぁ。
リアラはそのまま育てば美人さんになっただろうちょっとそばかすの多いかわいらしい女の子でした。きっとペンダントがリィンを見守っててくれることでしょう。

>>279
そうですねー。柊はいい奴です。
個人的にはOKだと。むしろ書き手さんが増えてくれるのは嬉しいですし。と思ってたら箱庭で泥の人でしたかっww
楽しく続きを待たせていただきますー。

>>295
2ちゃん見てる以上はアクセス規制はある程度覚悟するべきものですよー。よくあることなんで気長にいくのは大事ですよ。
うーん……呼称が難しいんだよなー。フレイスやアニメ6話を「ちびらぎ」とすると、一応十台の今回の柊はなんと呼ぶべきか……。
こどらぎ? みにらぎ?(原型ない)どーでもいいですわな。
ゆっくりいきましょう。ゆっくり。


さて。しばらくのお別れでございます。
日記も終わったし、ほかのとこのも終わったし、ストックも使いきったし……しばらくは猫抱いて日向ぼっこしてようかなぁ。

340:NPCさん
08/10/04 02:18:04

GJ&乙かれー、本当に良い書き手が増えてきてくれたよな~

所で、こういう格好良い柊の話をくれはが誰かに聞かされても

はわっ、こうして見ると柊がまるで凄いみたいだよ~

とゲーム版みたいな事を言いそうな気がするのは俺だけだろうか?w

341:mituya
08/10/04 09:45:21
なんかいない間にイメージボイスがついちゃってますよ?(汗)>299さん
早くレベルアップしてミソッカスを卒業ですよ!?

っていうか、“巡り”の方GJすぎですよ!?なんかもう………この後に投下するのが気が引けるくらいに(汗)
ちびらぎ………そうか、この年にこの呼び名を使うとその下がなくなっちゃうんですね(汗)うーん、何かあるかな………


んでもって、予告してた投下です。“裏切り”の方の続き。“柊くれはほのラブ(仮)”はまだお待ち下さい………(汗)
………っていうか、ホントにこの良作の直後に投下するのはビクビクもんですよ………?

342:“裏切りのワイヴァーン”
08/10/04 09:47:42
 神子の娘が飛竜に出会い、楓の生来の性を知ってからも、里は何も変わることなく、十日が過ぎた。
 思い切り泣きじゃくっていた楓は、予定されていた里の重役との集いにきちんと顔を出し、今までと変わらず“巫女”として振舞った。飛竜も、やはりいつもの“流星”ぶりを発揮し、結局顔を出さなかった。
 変わったことといえば、楓が神子やその供と目が合った時、懇願するような表情をむけてきたことくらい。
 ──何も言わないで。
 声にはせずとも、そう告げていると知れるその表情から、彼女がこれからも耐える道を選んだのだと、容易に知れた。
 それは、里にとっては良いことなのだろう。いきなり彼女が態度を豹変させれば、皆が戸惑い、混乱するのは目に見えている。
 だが、楓の涙を見てしまった娘には、それが酷く痛々しいものに思えた。


 どこか重い気分で会合を終え、社に戻る途中、娘はふと思いたち、供を説き伏せて寄り道を許してもらう。
供と共に森の中を歩んでゆくと、ややあって聞き覚えのある声が聞こえてきた。先日飛竜が楓に追いかけられていたその場所に、並んで腰を下ろす二人の姿が遠目に見える。
「………今日くらい、来てくれたって良かったんじゃない?」
「ぜってぇごめんだ。堅苦しいのは嫌なんだよ、かしこまらなきゃいけねぇだろが」
 拗ねたように言う楓に、飛竜は溜息をつくような声で答えた。しかし、楓は納得しかねる様子で、
「かしこまれないわけじゃないでしょ。“七星”のみんなの前では、あたしに対して敬語使えてるんだから」
「………それとこれとは話がちげぇよ」
「どう違うってのさ?」
「──なんだって良いだろ。それより、挨拶した方が良いんじゃねぇか?」
 楓の追求に飛竜は話を逸らすように言った。立ち上がって神子達の方を振り返る。
 先日は楓の暴走から逃げ回るのに必死だったせいで気づかなかったようだが、元々彼は世界でも屈指の戦士だ。森の中で姿が見えるほどに近づけば、気配に気づかぬはずがない。
 彼の視線を追った楓が、歩んでくる神子達の姿に気づいて、慌てて飛竜に倣って立ち上がる。


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