09/10/02 01:18:23
「----おはよう、トリエラ」
「おはよう、ヘンリエッタ」
食事を始めていると、お寝坊な甘党のおちびさんがやってきた。相部屋のリコがいないせいか、なんだかちょっと元気がない。
「どうしたの? 深刻そうな顔して。ジョゼさんに叱られちゃった?」
トレイをテーブルに置いたヘンリエッタに、私は軽い口調でからかうように言う。
「う、うーん……。そうじゃないんだけど……」
「私で良ければ、相談に乗るよ?」
「うん……」
「無理に話さなくても良いけどさ。話してしまえば気が楽になることも、あると思うし」
「うん……」
ヘンリエッタは砂糖壷に手を伸ばしながらはっきりしない返事をする。カプチーノに入れた砂糖をじょりじょりとかき混ぜながら、何か言いたそうにちょっと上目遣いで私を見ている。
「どうしたの?」
「うーん……。トリエラは何だか、機嫌良さそうだね……」
「うん? まあね」
ぱくぱくと朝食を平らげてデザートに移る。普段はブルーベリーのジャムを入れることが多いけど、今朝はこのママレードのほろ苦さがたまらない。
「あのね……。その…トリエラ、ヒルシャーさんと一緒にどこかへ行っちゃうの?」
カプチーノの砂糖が溶けきった頃、ようやく口を開いたヘンリエッタは何やら突拍子もないことを言い出した。
「はい??」
「ジョゼさんは、フラテッロには転属とかはないんだよって……」
「そりゃ、そうでしょうね」
世界中探したって、義体運用なんてけったいな仕事をしている部署は他にないだろうから。もしかして、官舎までそんなこと聞きに行ってて朝食に遅れたわけ?
「……どこにも行かない?」
「うん。任務で出かけることはあっても、いつだってここに戻ってくるよ」
「そう……良かったあ……」
ほっとしたように笑っておちびさんはカプチーノに口を付けた。ヘンリエッタのこういう笑顔は可愛い。私も砂糖を一杯だけ入れたカプチーノを飲みながら聞いてみる。
「一体、なんだってそんなことを思い付いたの?」
「え? だって、トリエラが言ってたんじゃない」
「私が?」
何のこと? 顔をしかめた私に彼女はとんでもないことを言った。
「夕べ、言ってたでしょ。『ヒルシャーさん、行っちゃいやです。私も一緒に……』って」
276:ツール・ド・名無しさん
09/10/02 01:19:05
トリエラが眠れないと訴えたのは今朝のことだ。
早朝の駐車場で自分の出勤を待っていた彼女はぬいぐるみを抱えていて、まるで幼い子供のように頼りなげな風情だった。聞けば、怖い夢を見たのだという。
いつものようにはっきりとした夢の内容は覚えていなかったが、無理に笑顔を作る姿が今にも泣き出しそうに思えて、思わずその頬にふれた。
公社の中では極力彼女にふれることは避けていたが、そうしてやらずにはいられなかった。
一瞬すがるような視線で自分を見たトリエラはほっとしたように笑い、ただの夢だから大丈夫だと答えた。
だが午後の訓練では常になく射撃が正確さを欠いていた。
優秀な彼女は勿論及第点はクリアしていたが、良い状態とはほど遠い。寝不足は全ての判断、行動に悪影響を及ぼすものだ。体調を整えるのも仕事なのだから今夜は早く休みなさいと告げると、今夜も眠れないかも知れないと再び彼女は訴えた。ひとりで眠るのは怖いのだ、と。
睡眠導入剤等の薬物を使用させたくはなかった。何より彼女が眠るために何を必要としているのかは分かっていたから、訓練の後、臨床心理を専門とする精神科医の元を訪れた。
条件付けの緩いトリエラの精神安定のために、自分が以前から音楽療法に取り組んでいることは、医師にも伝えてある。
彼女が不眠を訴えていることを説明し、対応策として今晩は自宅での音楽療法を試みたいと思うがどうだろうかと意見を求めた。無論彼はそれに対して肯定的で、外泊申請に際しての好意的な意見書を一筆添えてくれた。
礼をのべて退室した自分に、去り際カウンセラーが忠告した。ついでにスキンシップを心がけてやれよと。
静かなピアノの旋律が流れる担当官の自宅で、少女は小さく息をついた。
濃密な肌の触れ合いを終えたばかりで、まだ鼓動は早い。
「----落ち着いたか?」
いつになく積極的に行為を求めた少女に、男が問いかける。
「…っ、はい……すみませんでした」
「謝ることはないよ」
恥じ入るように褐色の頬を赤らめる少女に男は笑った。
「むしろ僕は嬉しかったがね」
「……言わないで下さい」
腕の中で益々小さくなる少女の額に男は軽く口づけた。
いつも行為のきっかけを持ちかけるのは男の方で、彼女が拒否をしないから成立するだけの一方的な関係なのかと悩んだ時期もあった。
277:ツール・ド・名無しさん
09/10/02 01:19:55
男の広い胸元に頬を寄せ、少女は囁くように男の名を呼んだ。
「……ヒルシャーさん」
「うん?」
「人間って…大切な人を失うと、後を追って死にたいなんて思うものなんでしょうか」
「え?」
ぎょっとした表情で見返した男に少女は顔を上げ小さく笑った。
「『ロミオとジュリエット』です」
「あ、ああ」
動揺を押し隠すように男は冗談めかした言葉で答える。
「君が恋愛物に興味を示すとは珍しいじゃないか」
「寝物語には丁度良いでしょう? ヒルシャー先生」
任務に必要な実地の訓練の他に、教養科目として義体の少女達に古典文学や歴史などの座学を教える担当官を、少女はからかいの口調で呼ぶ。だがその目は言葉ほどそれを楽しんではいなかった。
「……大切な人を失っても、人は生きていけるものなんでしょうか」
寝物語だと言いながら、甘えると言うよりもすがるような声音で少女は男に問いかける。
「……それはその人によるだろうな」
「あなたは----?」
少女の質問に男は直接答えなかった。男は少女の瞳を真っ直ぐに見つめ、問い返す。
「逆の立場なら、君はどうだ。……僕に後を追って欲しいか」
「------っ」
少女の瞳が大きく見開かれた。
青い瞳に浮かんだ表情は----恐怖。
自分のために死んでくれるかと言ったも同じ事を口にしながら、それを望むのかと問われて少女は恐怖した。
「----いや、です……っ」
訳もなく、昨夜の夢の後に感じた耐え難い恐怖と喪失感が少女の胸に甦る。
昨夜彼女が見た悪夢は、男の死。
義体の少女達が夢の内容を記憶していることはほとんどない。にもかかわらず、トリエラの脳裏には真紅の鮮血のイメージが禍々しく広がった。
「嫌です、あなたに死んで欲しくなんかありません----!」
他人の『死』ならばいくらでもこの手で作り出してきた。けれど目の前の男に重なったその不吉な場景は、少女を恐慌に陥れる。
必死でかぶりを振った少女に、だが男は強い口調で言った。
「------それなら、おまえも馬鹿なことは考えるな」
278:ツール・ド・名無しさん
09/10/02 01:20:37
怒ってさえいるような男の声。
少女はおびえた表情のまま男の名を呼んだ。
「ヒルシャー…さん……?」
「僕に万が一のことがあっても、決して後を追ったりするな。おまえの役目は生きることだと言ったはずだ」
男が少女をおまえと呼ぶのは、随分と久しぶりのことだった。
保護すべき子供と見ていた初めの頃から対等なパートナーとして扱うようになるにつれ、男の呼び方は『おまえ』から『君』に変わった。やがて身体を重ねるようになっても、否だからこそ、男は少女をベッドの上ですら『君』という堅苦しい呼び方で呼び続けていた。
「……それは、ラシェル・ベローの望みだから、ですか」
少女は自分を命と引き換えに救ってくれたという女性の名を口にした。同僚だった彼女の遺言を守るために、男は人生も、良心も、全てを捨てて少女の命を守ってきた。
君はラシェルの善意を体現している。
それをできうる限り長く生かしてやるのが自分の使命なのだと、男はそう言っていた。
ならば彼が自分を守ってくれるのは----愛してくれるのは、亡き女性の遺志だからなのだろうか。
だが。
「----違う」
男ははっきりと、少女に告げた。
「------僕が、そう望むからだ」
「ヒルシャー…さん----っ」
----初めて。男は、少女にそれを告げた。
義務ではなく、使命感からでもなく。自分自身の意志で少女の生を望んでいることを。
「…………泣くな」
男の手が少女の頬に触れた。
「泣くな、トリエラ。----頼むから、泣かないでくれ」
器用さなどひとつも持ち合わせていない、そんな男の言葉に少女の瞳から更に涙があふれ出す。
「…あなたが…泣きたくなるようなことを言うからです……っ」
「……すまない」
濡れた頬を指でそっと拭いながら、男は言葉を選ぶようにして言う。
「………残されて、独り生きることはつらいだろう。担当官を失えば、クラエスのように試験体として扱われる可能性も高い。……おまえの幸せを望むなら、生きていて欲しいと願うのはひどく残酷なことなのかもしれない」
かつて公社の存在を明るみにしようとし、不慮の事故で命を落とした担当官がいた。そのフラテッロであった少女がどう扱われているか、男は良く承知している。だがそれでも。
「だが、それでも生きていれば----生きてさえいれば、幸せを見つけ
279:ツール・ド・名無しさん
09/10/02 01:26:49
私は闇。そうか、だからこの胸の中は空っぽに出来ているのか。おかしなことを言う。
彼らは世界のゆがみをただすため、自らの遺志で日輪の然に集いて魂を差しだそうとしている。
それを己の光として。なら受け止めて見せてくれ。私を、この寂しさを。アキユキ。
楽しく遊んだじゃないか。穏やかに流れる風、老いた笑み、夕日に染まる給水塔。
ずっと待っていた。最初で最後の私の敵を。あの邂逅の瞬間から。今度はお前の番だ。
満たしてくれ、この空っぽの胸を。教えてくれ、私がなんなのか。与えてみろ。私に名前を。
私の敵はどこにいるの。君の敵はあれです。あなたはまだわからないのですか。
あなたは見れども見えずにいるクチですか。ナマケモノ、ナマケモノ。
君は生涯敵にあえない。君は生涯生きることがない。私は探しているのに。
私の敵を。敵は探すものじゃない。ひしひしと僕らを取り囲んでいるもの。
いいえ、私は待っているのに。私の敵を。敵は待つものじゃない。日々に僕らを犯すもの。
いいえ、邂逅の瞬間がある。私の爪も歯も耳も手足も逆立っている。敵、と叫ぶことの出来る。
私の敵、と叫ぶことの出来る、一つの出会いがきっとある。ささやかな苦しみだな。
ささかやかだ。ささやかすぎて、痛みにもならない、出口にもならない。教えてやろう。
それは私がお前の中のもう / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ もう一つのお前だからだ。そう
\お前の中の闇。私はずっとお|ありがとうアキユキ|前を愛し、憎み続けていた。 /
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∨ (゚д゚ )
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280:ツール・ド・名無しさん
09/10/03 01:24:20
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l/ ,.イ /-- ─ ─┬┬ < トト、ト、 1
l 「7 ⌒ヽム_/ノl/ ヽ┼仆ハVV〉 | おりもので下着が汚れたりして、不快な人は70%もいるよ
/// ‐{ l/ニ _.._, 1i! | そこで、サラサーティSoLaLa
〃 ソー=='  ̄ '' j.:.l | 薄いのにおりものをちゃんと吸収
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i イ:: : ヽ t -- -ァ /.:.l.:.:l |
| |:: :: ::_」> _ゝ-_'. イ`ヽl.:l.:.:l |
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URLリンク(www.sarasaty.jp)
281:ツール・ド・名無しさん
09/10/03 01:35:07
にゃんこい相関図
琴音
↓
楓→潤平←加奈子
↑
凪
282:134 ◆zxmDg9fidE
09/10/03 12:28:08 m2VY/XVx
今朝7時頃、地元では結構いい天気だったのに、みるみるうちに雲が広がって激しい雨
今は雨こそ降っていないが空はまだ厚い雲に覆われ、ゴロゴロと雷鳴が轟く
これからまだ降るのだろうか
今日は家で大人しくしていよう