09/10/09 21:25:04 2aAFWx1j
しばしの沈黙の後江櫓本が語りだした。
「なぁ、おたけ。私は本当にお前を好いて好いてならないのだ。扶持もない貧乏侍故、なかなか
来ることも適わないが、実のところ毎日でも通うて来たい位なのだ。今の状況から抜け出せ、
お前を身受け出来たらどれ程良いだろうかと考えている」
それを聞いて、おたけは分からない程度に身を震わせた。ここまで惚れてくれるのは有難い事とはいえ、
江櫓本など全く好みではなく、仕事でなければ肌を合わすのなどまっぴらごめんというのが、正直な
気持ちだったからだ。
「おたけ。ああおたけ…!この願いが適わぬのなら、一緒に身を投げてくれまいか。どう考えても
今以上のよい生活が出来るようになるとは思えない。お前と一緒に暮らせぬのなら…いっそ死んで
永遠にお前とあの世で暮らせたらと思うのだ!」
江櫓本は目を潤ませ、声を震わせながらおたけを強く抱きしめた。江櫓本の脳裏には、道頓堀川の
河辺に引き上げられ、戸板に載せられた、固く抱き合った2人の恋人の死体があった。
…だが抱きすくめられたおたけは全く違うことを思っていた。「冗談じゃないわ。私には夢があるんだよ。
自分の店をもって、若くて可愛い陰間茶屋をたくさん置き、客を取らせるのだ。もちろん場所は道頓堀沿い。
華やかな店には灯りが多く点り懐豊かな客が大勢押し掛け大金を落としていく。客がない時は自分の気に入りの
美少年を侍らせ、可愛がるのだ。
それだというのに、この貧乏人ときたら!何を言いだすやら!
「あぁ江櫓本様!なんて有難くて…おたけは嬉う御座います。そこまで思うていただけるなんて…今まで
そんな優しい方がいらしたことはなかった。身に余る幸せで…」
おたけはそこで一息ついた。「でも…でも…これでも私は遠い国に置いた父母のいる身。大恩あるお父様と
お母様を悲しませることは…私にはできかねます。送金することも適わなくなってしまいます。だから、
いくら有難いお言葉といえども、江櫓本様と心中することは…本当に申し訳なく思います」
よよと泣き崩れるおたけ。そのおたけの痩せた肩を抱きしめる江櫓本。
「悪かった。おたけ。本当に悪かった。お前にそんな思いをさせてしまうなど、男の風上にもおけなかった。
どうかこれからもご両親には良くして差し上げておくれ」
江櫓本が帰った後、おたけは自分の部屋に戻り、畳の下の壺をとりだした。おたけには両親など既にいない。
壺には貯めに貯めた小金がざくざく入っていた。
「ふん。あたしの夢を壊すなんて許せないわ」そう呟くと、おたけはにやにやと笑って小金を掻きまわした。
終わり
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腐女子先生お帰りなさい。私はお酒が全然飲めないので、羨ましいです。
先生はクニジュとクボベールのお話とか、耽美路線でお願いします。