【総合】新ジャンルでエロパロpart4【混沌】 at EROPARO
【総合】新ジャンルでエロパロpart4【混沌】 - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
08/01/13 10:32:31 kK5krbLG
>シングルで北京鴨と渡り合える実力者。
これに吹いたw

401:名無しさん@ピンキー
08/01/13 10:46:24 /WKQK9IE
>>369好評すぎて吹いたw
書き手としては冥利に尽きる

>>359はぜひ頑張ってくれ

402:名無しさん@ピンキー
08/01/13 23:28:54 cc2+zO1C
>>399
たいしたことじゃない。
剣道部部長・洋人(ヒロト)と副部長・巻(ローラ)、謎の転校生・璃羽(リュー)が織り成す
学園生活というネタを思いついただけだ。
というかバン○ーブレード見ててヒロトの剣道着の臭いに興奮するローラを思いついただけだ。
でも別にそのネタでわざわざスピンオフやんなくてもいいよなーっていうことに気付いてしまったから
別に頑張らないことにする

403:名無しさん@ピンキー
08/01/14 00:09:11 aMKO/ZWW
なるほど
ならオリジナルな世界観でも描けるわな
しかし臭いフェチな姫君とはマニアックなww

…なんとなく小手あたりは臭いが凄そうな気がする

404:名無しさん@ピンキー
08/01/14 04:06:35 Ph+htZ6k
>>402
実をいうとそれを奈良シリーズでやろうとしたのが東大寺浩斗なんですが
それを俺がやっちゃイカンだろってことで、人としてダメ教師の相手役にw
名前だけでまだ出てこない春日乃詩香はローラ役だったんですけどね。
チラウラスマ

405:名無しさん@ピンキー
08/01/14 10:34:25 3RIiCEMZ
>>404
そうなのかー
ちょっと見る目変わるな
そっちもwktkるぜ

だが今は俺のターン
前やった妹モノはリリアン女学園的な義兄妹だったけど、
今回目指したのはガチで爛れた姉弟モノ

投下します

406:おかえり ダメ姉さん(1/9)
08/01/14 10:35:59 3RIiCEMZ
 
ぼくの姉さんはいわゆるダメな大人である。
どれくらいダメかっていうと、お酒が大好きな癖にビールは炭酸だから飲めないし、
惚れっぽくて好きな男の人がコロコロ変わるし、
夜中に一人でトイレに行けないくらいダメな大人である。
一応社会人になったんだから独り暮らししたいなぁと口癖のようにいっているけど、
姉さんみたいなのが一人暮らしなんかしたら三日で干物になると思う。
なにせコールスローさえ満足に作れない姉さんだ。
そりゃあ付き合った男と端からフラれるってもんである。

まあ、ダメな人間は傍から見てて勉強になるからいいんだけど。反面教師的な意味で。

「まーくぅぅぅぅん」

姉さんが帰ってきたようだ。おかえり、ダメ姉さん。
この時間帯に帰ってくるってことは、どうやら新しい男とは別れたらしい。
七日か。まあ、平均だな。

「姉さんねぇ、彼氏に振られちゃったよぉぉう」
「見ればわかるよ姉さん。鼻水拭きなよ。汚いから」
「うぅ、ごめんねぇ……」

姉さんはティッシュを五、六枚引き抜くと、ズビビと豪快に鼻をかんだ。
姉さんは繊細に見えて意外とこういうところが男らしい。
そこがギャップとなってますますダメに見える。
逆なら萌えポイントなのにね。

「で?今回はなんて言ってフラれたの?」
「ギャフン!なんでまーくん、姉さんが振られたって知ってるの?」
「さっき姉さんが言ったんだろ」

姉さんは若年性痴呆症のケもあるようだ。今度病院に連れて行ってみよう。
あの頭の輪切り写真と撮る機械で視てみたら、案外脳みそが虫並みにしかないのかもしれない。
………虫に脳みそってあったっけ?
まあどっちでもいいけど、男を見れば恋に落ちる程惚れっぽい姉さんより
一応相手を選ぶセミとかの方が賢い気もする。
セミに謝れ、姉さん。

「………生まれてきてごめんなさい」

よろしい。

407:おかえり ダメ姉さん(2/9)
08/01/14 10:37:05 3RIiCEMZ
 
「ねえまーくん、なんで今姉さん謝ったの?」
「生まれてきたからだろ」
「そっかー。ってまーくん酷い!!」

よーし、姉さんはとりあえず泣き止んだようだ。
これで事情が聞けるぞ。どうでもいいけど。

「はっ!もしかしてまーくん、姉さんを元気付けるためにわざと姉さんを罵ったというの!?」

その通りさ姉さん。

「さすがねまーくん!だから大好き!」

姉さんはダメな大人だ。
何かあるとすぐに抱きついてくる。よくこんなんで社会人が務まるもんだ。
姉さんの仕事は良く知らないけど、よっぽどやることない部署に違いない。

「ふーんだ。それはまーくんの前だけだもん。外では姉さん、結構ピシャッとしてるのよ?」
「……だったら家でもピシャッとしてなよ姉さん」
「やーですー。姉さんはまーくんに甘えるために生きているのですー」

歳が離れているせいだろうか、小さい頃から姉さんはよくぼくを構っていた。
そりゃあもう、昼も夜もないくらいに。
おかげでぼくはかなりの姉さんっ子であり、姉さんがいないとすぐ泣くようば少年だったそうな。
……それがはっきりと逆転したのはぼくが中学生に進学した頃だったと思う。
その頃から姉さんは以前から悪かった男癖がますます悪くなり、
しょっちゅうぼくに泣きつくようになった。
そして、それが起きたのだった。

「………ねえまーくん、慰めてくれないの?」

胸元にすがりついていた姉さんがぼくの首に腕を絡め、甘く囁く。
その唇は濡れ、息は熱い。頬はうっすらと紅をさしたように染まっている。
どうやらぼくの体臭を嗅いでいるうちにスイッチが入ったらしい。

――そう、姉さんはとことんダメな大人なのだ。
なにせ、弟の身体を求めてくるんだから。

社会の常識も慎みもない、本当に救いようのない、ダメな姉さんなのである。

408:おかえり ダメ姉さん(3/9)
08/01/14 10:38:03 3RIiCEMZ
 
「――慰めるって、慰めてるじゃないか」

だから、ぼくは意地悪をする。
姉さんの頭を優しく撫でて、それで終わろうとする。
もちろん、ダメな姉さんはそれで泣きそうな顔をするのを知ってのことだ。

「違うの。まーくんの身体で、慰めて欲しいの」

――懇願の言葉はひどく生臭く、濃厚な雌の匂いがした。

ぼくは嗜虐の笑みを自覚しながら、勿論すぐに姉さんの求めに応じるなんてことはしない。

「ダメだよ、姉さん。何をどうして欲しいのか、ちゃんと言わないとわからないよ?」

囁きながら姉さんの胸をまさぐり、すでにこりこりに硬くなっている乳首を捻る。
姉さんの喉から、反射のように小さく声が漏れた。そのまま背中に手を伸ばし、
下着の止め具を外すとゆっくり円を描くように腰の辺りを撫で、火照っていく熱を感じた。
姉さんは切なそうにしている。
ぼくの手は段々降下してゆき、尾てい骨にも届きそう。
でも、ここから先へは進まないことを姉さんは知っていた。
これはまだ愛撫とさえ言えないような触れ合いであり、そこから先どうするかは姉さんが決めることだ。
ぼくは近親相姦なんて人の理を外れた行為を甘受するつもりはない。
ただ、姉さんがあまりにも憐れに思えるからこそ、情けをかけてあげるのである。

「ああ、まーくん。まーくん」

姉さんは切なそうに腰を振り、ぼくの頭を包み込むようにして抱きかかえる。
すぐ傍で熱い息がかかり、少しくすぐったい。ぼくの耳を甘噛みして、何度も名前を呼ぶ。
懇願の声は語らずとも何を求めているのかわかるほどだ。
でも、ちゃんと口に出さないと伝わらないこともあると思うよ?ねえ、姉さん。

「お願い――まーくんのおちんちんで姉さんのおまんこ、たくさん擦って気持ちよくしてほしいの……。
 姉さん、まーくんしかいないの……まーくんじゃなきゃダメなのぉ………」

ぞくぞくとした快楽が背筋を駆け上っていく。
ぼくの口元はきっと、三日月のようになっているに違いない。

弟であるぼくが言うのも何だが、姉さんは美人だ。
口を開けばダメ人間であることはすぐにわかってしまうけど、
黙っていたらなかなかのものだと思う。
でも、ぼくは知っている。
姉さんが一番綺麗に見えるのは、こうやって涙を浮かべてひざまづいて、
惨めな捨て犬のように媚びへつらう姿だということを。

――ぼくだけが、知っている。

409:おかえり ダメ姉さん(4/9)
08/01/14 10:38:56 3RIiCEMZ
 
「ああ、仕方が無いなぁ。姉さんは本当にダメなんだから」

柔らかい胸の感触を鼻っ面で楽しみながら、一点、硬く存在を主張している部分を口に含み、吸う。
そうして胸に意識を向けさせておいて、知られず背中に回していた手をつつっとスライドさせ、
不意打ちのような形で尻肉を鷲掴みにした。

「ひゃぅ」

愛撫は少し痛いくらいが丁度いい。姉さんはそれが一番興奮するのをぼくは知っていた。
それだけじゃない。姉さんの身体の嗜好なら、ぼくが一番よく知っている。
服は自分で脱ぐより脱がされるほうが好きだとか、脇の下、肋骨の辺りを舐めなぞられると弱いとか、
キスするときに呼吸が苦しくなるほど唾液を流し込まれるのが好きだとか。
さながら、ぼくはヴァイオリニストのようだ。
姉さんを巧みに扱い、鳴かせて、淫靡な調べを奏でていく。
でも――こうやって姉さんを悦ばせるのも、
突き放したときに姉さんの情けない泣き顔を見るための下準備に過ぎないのだ。

「あ、はぁ、あン、まーくん、わたし、イく――」

姉さんの声が一段高くなる、その瞬間にぼくは愛撫を止めた。
姉さんは思ったとおり極上の、嗜虐心をさらに加速させる顔でぼくを見る。
もう少しだったのに、ひどい――そう言いたいのかい?姉さん。でも違うだろう?
一人だけで気持ちよくなろうなんて、姉さんのほうがよっぽど酷いと思わない?ん?

「ご、ごめんなさい、わたし――」
「いいさ。姉さん、ぼくで感じてくれて嬉しいよ」

笑い出しそうになるのを堪えながら、細かく震えている姉さんの肩を抱き寄せる。
姉さんは安心したように微笑んで、やっぱりまーくんは優しい、なんてのたまった。


ああ、

本当に、

姉さんは可愛い。


410:おかえり ダメ姉さん(5/9)
08/01/14 10:39:56 3RIiCEMZ
 
姉さんはお詫びにと、今度はぼくの身体全身にキスの雨を注いでいる。
ついばみ、跡を残す口付けなんてさせない。舐めるような奉仕だ。
てらてらと自らの唾液が糸を引く様子を見て満足そうに目を細め、
姉さんは味蕾で直接ぼくの身体を味わうように舌を蠢かせる。
そのおぞましさときたら、土砂降りの雨の中アスファルトの上を這いずる蚯蚓の方がまだ上品に感じるほど。
あまりの浅ましさにくらくらする。

姉さんは愛撫を下へ下へを進め、ついにその部分にたどり着いた。
求めるぼくの膨れ上がった部分に、姉さんは喉を鳴らす。
姉さんの痴態をさらに引き出す鉤は未だ下穿きの中に潜み、
しかしその存在は最早隠せないほどになっていた。

餌をねだる小動物のような目で姉さんが見上げてくる。
雄に媚びる雌の貌。
熱に浮かされたようにとろりと濁ったそれは、ぼくの好きな姉さんの表情のひとつだ。
ぼくがつま先で姉さんの茂みの奥をつつくと、
そこは案の定、既にしたたるかと思うほどにぐっしょりと濡れていた。

「――なんだ、姉さん。まだちんこ食べてもないのに、
 こんなにびしょびしょになっちゃったのか。いやらしいなぁ、姉さんは」

くすくす笑うも、姉さんはもうぼくの言葉なんかほとんど耳に入っていない様子だった。
焦点は揺れ、口元はだらしなく開いて涎を垂らし、ひくひくと時折痙攣している。

「あ、は――なの、だめ、な――おちんちん、ないと、どうにか――なっちゃうのぉ……!」

興奮しすぎてろれつも回らないのか。潮時だな。
これ以上焦らしたら、我を忘れた姉さんに組みしかれかねない。
ぼくはやれやれと肩をすくめると、ジーンズとトランクスを脱いで姉さんに向き直った。

「さあ、おあがり。姉さん――」
「あ、あぁ……おちんちん、まーくんの――おちん、ちん――」

むわ、と解き放たれた熱気が濃厚な異臭となって姉さんの鼻腔を満たし、
その理性のひとかけらも残さずに砕いていくのが目に見えてわかる。
姉さんは飢えた獣のようにぼくの下半身にむしゃぶりついた。
そそり立つペニスに頬ずりするようにして根元から裏筋を舐め上げる。
恥垢を味わえないのが不満なのか、えら張った亀頭を転がし、口に含んで歯に軽く引っ掛け始めた。
舌とは違う硬い感触が心地いい。

411:おかえり ダメ姉さん(6/9)
08/01/14 10:40:46 3RIiCEMZ
勿論ひとつ力加減を間違えればぼくは激痛に襲われることになり、
そんなことになれば姉さんには金輪際フェラチオをさせてあげないと脅してある。
その時の姉さんは真っ青になり、世にこんな絶望があるものか、と涙を浮かべて許しを乞うてきた。
大丈夫、ヘマをしなければまだ姉さんの相手をしてあげるから、と安心させるのもひと苦労な程に。
まったく、手間のかかるダメな姉さんだ。本当に。
まあ、そのおかげか、姉さんはフェラチオが格段に上手くなったのだけど。
じゅぽ、ぶぽぽ、と唾液とカウパー液のカクテルをすする姉さんにマナーなんてない。
あるのはただ、水では癒せない喉の渇きを潤そうとする色欲だけだ。
けだものを躾けるには罰――それもフェラチオをさせないという罰は、
この精液中毒者にとって致死にも勝る罰則である。
そりゃあ神経も使うってものだろう。

――射精感がこみ上げてきた。
姉さん曰く、射精の兆候は味変わるのでわかるようで、
全体を舐るのではなく亀頭のさらに先端、鈴口をちろちろと細かく刺激して白濁を催促する。

「欲しい、あ、あぁ、はぁっ!まーくん、欲しいのぉ、ぐぽ、精子、せいしぃいぃィ!!」
「出すよ――たっぷり味わいな、姉さん――!!」

びゅくるるっ!びゅるるっ!!

発射する直前、姉さんの喉の奥に自ら性器を突っ込んでスペルマを叩きつけた。
咽喉から食道へ、胃へ――味わう間もなく直接臓腑に注ぎ込んでいく。
姉さんにしてみれば陸で溺れるような感覚だろう。肉体の反射として腹から内容物が逆流するのを、
それでも意思の力で吐き出すことなく、反芻して逆に味わい、飲み干す。
うん、それでいい――自分から欲しがったものを吐き出すなんて失礼にも程があるからね、姉さん。

「げほ、ごほ、まーくん……おいしいよぉ」

咳き込み、苦しみながらも満足げに目を細める。
でも、まだその熱は醒めずにらんらんと瞳の奥で揺らめいていた。
そりゃあそうだろう、まだ姉さんのお願いをぼくは叶えていないのだから。


412:おかえり ダメ姉さん(7/9)
08/01/14 10:41:58 3RIiCEMZ
 
『お願い――まーくんのおちんちんで姉さんのおまんこ、たくさん擦って気持ちよくしてほしいの……』


――なんて穢らわしい、ぼくの愛しいダメな姉さん。

胃袋では満たされない、そのもっと下。
子宮が満ちてこそ静まる欲望に身を焦がし、自制もきかずに股を開く。

雄を、求める。

馬鹿な女だ。貴方を満たせる男なんて、このぼく以外にいないのに。

……まあ、別にいいけどね。

「あの、まーくん。あのね、わたし……」
「わかってるよ。さあ、おいで。姉さん――」

――それを理解しているからこそ、ぼくは姉さんの男好きについて諌めようとはしない。
放っておいても、どうせすぐここへ帰ってくるとわかっているからだ。
ぼく自身、姉さん程抱き心地のある女を知らないし。
姉さん以外の女など、どいつもこいつも途中で腰が抜けてしまう話にならない肉袋だろう。
姉弟だからか。いや、姉弟なのに、というべきだろうか。
ぼくたちの相性は66億分の一の確立で出会うツガイのようにぴったりなのだった。
傍にいられる幸運に感謝するべきだろう。
とうに、結ばれない不幸などこの快楽の前には些細なものとなっている。
ああ、今おかしな言い方をしたな。
結ばれない?違うだろう。
ぼくたちは、今こうして結ばれているじゃないか――。

「はいる、はいってくよぉ、まーくんっ!」
「いいよ、姉さん――気持ちいい」
「まーくんも!?まーくんも!?嬉しい、わたしも――姉さんも、気持ちイイよ!
 挿入(イ)れただけで、もぉ、ずっと、イッてるのぉぉ―――!!」


413:おかえり ダメ姉さん(8/9)
08/01/14 10:43:26 3RIiCEMZ
 
姉さんがぼくの上で跳ねる。
腰を動かすたび、ぱちゅん、ぱじゅん、と水音が弾けて飛沫が散る。
膣内の襞が肉棒を愛撫し、子宮口が亀頭とキスをしているのがわかる。
カリが愛液を掻き出し、もう下腹部の上はびしょびしょに濡れていた。
よく見ると、ストロークのたびに潮を吹いているらしい。
件の姉さんといえば、よがりすぎてほとんど何を言っているのかわからない。
上体を支えるだけの力がないのか、ぼくの上に覆いかぶさって、
それでも腰だけはがくがくと別の生き物のように止まらずにいた。

「は、ぐ、ぉあひ、気持ち、イ――あ、まーくん、おまんこぉ、すご、ひぐぅぅぅっ!!?」

恥骨が砕け、火花が飛ぶ。

「いいのぉ、いいのぉ、コレ、が――ぁぁああッ!?あ、ひぁ、一番――あぁ、狂っちゃ、あ、ああッッ!!」

腰から下が融解して、離れなくなる。

「もぉらめッ!もぉらめッ!ひんじゃぅ、ひ、死んじゃ――ン――るぅ、くるぅうッ!
 来るの、来る、すごいの、狂ぅッッ!!」

もう腰を振っているのかがくがくと痙攣しているのかわからない。
しかし快楽を得られるのならそんなことは関係なく、
ただ、この肉壷を破壊するように抉る肉槍を貫き穿つ―――!!

「あ」

そして、

奥に、

届き、

「あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああああああああ―――ッッッ!!!!」

放つ。

襞という襞が肉棒を絞り上げるように蠢き、ぼくは姉さんの子宮にたっぷりと精を注ぎ込んだ。
満たす悦び、満たされる悦びが重なる。
ぼくと姉さんはお互いを抱きしめあい――しがみ付きあい。
やがて、くたりと力が抜けてずるずると倒れこんだ。

414:おかえり ダメ姉さん(9/9)
08/01/14 10:44:48 3RIiCEMZ
  
「――はぁ、はぁ――出る……」
「え?」

脱力した姉さんがうわ言のように呟く。
と、まだ繋がっていた下半身に温かい感覚が広がっていった。
おもらしだ。
どうにもここ最近、姉さんに変な癖がついてしまったようで頭が痛い。
事の最中での粗相は興奮しないこともないけど、終わった後はちょっと困る。
後片付けが大変なのだ。
おまけに――。

「姉さん、ちょっと」
「……ん、くぅ……」

姉さん寝るし。
ということは、ぼくが処理しなければならないということか。
まったく、姉さんのダメっぷりにはあきれ果てる。トイレもまともに行けないなんて、
オムツからやり直したほうがいいのではないか。
こんなでかい赤ん坊の面倒を見るなんてぼくはご免被るが。

「はやくいいパートナー見つけて、ぼくの手を煩わせないようにしてくれよ」

なんて、呟いてみる。

――多分、そんなことにはならないだろうな、と思いながら。

すぅすぅと寝息を立てる姉さんが、んむ、と唸って寝返りをうった。


きっと、この関係に得られるものはなにもない。
倫理も禁忌も家族愛も情欲さえも、全ては圧倒的な悦楽に翻弄されくらげのように漂っている。
行為は性交というより、他者を使った自慰に等しい。
きっとお互い、異性として姉を、弟を見ていないのだから。
それがわかっているからこそ、姉さんもぼくも何も変わらずにいる。
姉さんはぼく以外のオトコを求め、ぼくは適当に彼女でも作って遊び呆けるだろう。
ただ、それで満足することもないに違いない。
禁断の果実は蕩けるほどに美味で、それに比べれば他の食べ物など砂にも等しいと感じてしまった。
ぼくらはきっと、そういう星の下に生まれてきたから。
ダメな弟はずっとここにいて、いつだってダメな姉を迎えるだろう。


――おかえり、ダメ姉さん。

そう、静かに微笑みながら。


                 おかえり ダメ姉さん~新ジャンル「姉」妖艶伝~ 完


415:名無しさん@ピンキー
08/01/14 14:22:56 ogle0LEV
まったく朝から何てものを。
GJ!

416:名無しさん@ピンキー
08/01/14 16:00:11 sBsoNApr
お陰で目がさめたぜ、GJ!

417:名無しさん@ピンキー
08/01/14 17:31:50 tjdDan/7
エロくてイイ!んだが

>セミに謝れ、姉さん。

に吹いたWW

418:名無しさん@ピンキー
08/01/14 22:59:16 bCye9kK9
(校門前)

ロ「わたしはしんじゃんゆがくえんこうのてんこうせいです」
教息「…じゃりっ娘じゃねえか。ここは高等部だっつーの。少等部は隣だよ」
ロ「むー。わたしはじょしこうせいー!!」




教息「…ったく。あれで本当に高校生かよ…
はぁ…疲れた」
ロ「あ、さっきのめつきとくちのわるいひと」
教息「…人を指差すな。あと案内してやったんだから、悪口で人を呼ぶんじゃねぇよ」
ロ「なまえしらないですし、とくちょうでよんだだけです」
教息「…じゃりっ娘、名前なんて言う?」
ロ「きくときはまずじぶんからなのるべきです」
教息「…」
ロ「…」



新ジャンル「君の名は」
新醤油学園 青春編



名前がないといまいち…

あ、番長と最初の転校生(♀)も名前ないよね?

419:名無しさん@ピンキー
08/01/14 23:03:00 3RIiCEMZ
なんか新シリーズ始まったwwww

YOU勝手に名前付けちゃえYO!

420:名無しさん@ピンキー
08/01/14 23:24:21 NSochYwP
そりゃ……真智子と春樹だろう

421:名無しさん@ピンキー
08/01/15 01:52:29 Uxx2QZxQ
校長室に差し込む自然光を遮る分厚いカーテン。
薄暗い部屋に鮮やかな絨毯。その上に直立した4つの影と、これらに向かいあう1つの影が伸びている。

そして影の一つ、この部屋の主が口を開く。
恥女クール校長(以下恥) 「報告を。」

これに答える4つの影。
トウバンジャン(以下豆) 「はっ。本日0800時、ターゲットが監視レベル3の生徒と接触しました。」
四天王が筆頭、私立新醤油学園生徒会会長は答える。

テンメンジャン(以下甜) 「接触した生徒は初代教頭の子息です。…しかしターゲットも監視対象も互いの立場に気づいていない様子でした。」
四天王が一人、私立新醤油学園生徒会副会長も続ける。

チーマージャン(以下芝) 「………………………。」
四天王が一人、私立新醤油学園生徒会会計は顔を赤くしてモジモジしている。どこかの誰かを妄想してるらしく、上の空のようだ。
豆が振り下ろしたハリセンでこちら側には戻ってきたが、ちょっと涙目だったりする。

エックスオージャン(以下X)「………………………。」
四天王が一人、私立新醤油学園生徒会書記の立ち位置にはマネキンが立っている。
その手にはボイスレコーダが握られており、動作中であるランプが点灯している様子に甜は眉をしかめる。

どうやら仕事に対するモチベーションの個人差は大きいようだ。そんな様子の生徒会幹部に対し、校長が再度口を開く。
恥「すぐに私に逆らう様子はないか…。しかし監視は絶やすな。不穏な動きがあれば身柄を拘束してこい。」

豆 甜 芝「「「はっ!」」」
そして消える3つの影。マネキンが握っていたボイスレコーダーも共に姿を消していた。

そして手元の冊子に目を落とす校長。
恥「ふふふふ。不穏な動きがあった時はコレに役にたってもらうか。」
そのページにはSMグッズの品々。ギャグボールと手錠の項目に付箋が貼られていたりする。
おもむろに席を立ち、窓際のカーテンを開ける。視線を向けた先には一組の男女の姿があった。
恥「児童ポルノ法施行以来ご無沙汰だからな…ハァハァ。」

新ジャンル「わるだくみ」新醤油学園野望編

422:名無しさん@ピンキー
08/01/15 02:04:36 E86FPm5l
その頃、喧嘩番長こと男は―――


「た、助けてくれー!」
「折角だから俺は逃げるぜー!!」

「ハッ、この程度かよ…最近の族ってなァなっちゃいねーな、おい」

「っと…アンタ、大丈夫か?」
「…はい、ありがとうございます」
「気をつけな、あーいうのはこの辺ワンサカ居るんだ…じゃあな」


弱きを助け、強きを挫いておりました。
礼は勿論要りません。族が慰謝料代わりにお金とか置いてってくれますから。

新ジャンル「喧嘩番長」新醤油学園乃男の章

423:名無しさん@ピンキー
08/01/16 11:40:50 dJUB5Vzn
>>388のメイドシリーズが来ないので勝手に二次をば…
気に入らなかったらスルー願う


男友「はぁ~…男の奴には美少女メイド+豪邸が来たのに、俺には何もない…オンボロアパートでエロDVDでも見るとすっか…」
メ「お困りの様ですね、男友様」
男友「お、男のメイドさんではないですか」
メ「お願いがありますので…」
男友「???」



男友「こ、これは………
美少女メイドロボwithきよぬー!!しかも3体も!!」
メ「先日ご主人様にご依頼を受けて作った物ですが」
男友「…すげー」
メ「余りにも出来が良すぎまして…私の存在価値が霞んでしまう恐れが」
男友「…もらってもいいんですか?」
メ「是非お持ち帰りを」



男友「という訳でお持ち帰りさせてもらったが…起動スイッチはやはり」
(ぽちっとな)
メ1「ご主人様」
メ2「マスター」
メ3「男友様」

男友「うほー!オパーイがスイッチかよ!!お約束だね!!」

メ1「ご主人様、早速ですが…」
メ2「ご奉仕させて」
メ3「頂きますわ」

男友「うおー!正に男のロマンだぜ!」

新ジャンル
「SHIMAIDON」


「…というネタはどうだろうか?」
「ネタとしてはパクりの上、使い古し。洒落としては論外、ボツ」「あ~もうOSHIMAID…」
「DAまれ」

424:名無しさん@ピンキー
08/01/16 13:10:07 RvJQ5VYw
>>369にしろメイドにしろ勇者シリーズにしろ、自分の出したネタをまた別の人が拾って
話を広げてくれるってのはいいもんですねー

あ、でも醤油学園は本人さんかな?

425:名無しさん@ピンキー
08/01/16 22:03:36 8xbXN3VG
>>423
ちょww姉妹丼wwwwwww

426:名無しさん@ピンキー
08/01/17 00:33:57 chGODr9y
だが断る!w

427:名無しさん@ピンキー
08/01/17 11:31:07 sz2p3XC7
教息「…今朝は変なのと関わったなぁ。お陰で朝からヘトヘトだぜ」

ガラッ

先生「こらー席につけ!!
…いつもの事ながら転校生を紹介する」
教息「ほんとこの学校転校生多いよな…」

ガラッ カツカツ

教息「!?」

ロ「こんど、てんこうしてきました『囲炉裏真智子(いろりまちこ)』ですー。よろしくおねがいします」



ロ「…まさかおなじくらすだとはおもいませんでした」
教息「…こっちもな。何か困った事有れば相談しな」
ロ「え?」
教息「知り合ったのも何かの縁だしな、仲良くしようや」
ロ「えーと…」
教息「青山春樹(あおやまはるき)だ。…よろしくな」
ロ「はるきくん、よろしくですー(ギュッ)」
教息「いきなり名前で呼ぶな。あと手を握るな!」
ロ「はるくんて、はずかしがりやさんですねー」
教息「あだ名に変えりゃ良いって訳じゃねぇ!(////)」



新醤油学園 青春編
「純情きらり」

く、苦しい…

>>424
私が書いてるのは「青春編」のみです。元ネタ及び野望編、男の章は他のかたが執筆されています。

428:名無しさん@ピンキー
08/01/17 12:18:34 2Tiphl1O
>>427
よきかなーよきかなー
速攻懐かれてるはるくんいいなw

429:名無しさん@ピンキー
08/01/17 22:41:46 4W1bTgF5
喧嘩番長編は俺な


「いいから蓮華の話も書け」


430:隠密、推して参る[前編](1/10)
08/01/18 01:06:12 QbbYGUFp
 
さて、クシャスの街はちょっとした騒ぎになっていた。
昨夜突如現れた、それまで見たことも無い、灰色のドラゴンの強襲である。
そのドラゴンは古代の結界を食い破り、温泉を襲撃して一人の少女をかどわかし飛び去っていったという。
そんな龍が出没するとなれば聖堂教会は嬉々としてこの異教徒の街に介入するだろうし、
温泉街として築き上げてきたクシャスの信頼も地に落ちることとなる。
さらに警備隊の調べでは、少し離れたカルデラ湖が丸ごと消滅しているという
とんでもない事態になっていた。
いったい何が起きたというのか、というか何をどうすればこんな『根こそぎ』の破壊が可能だというのか。
クシャスの町の長は頭を抱えた。
こんな危険な魔獣が現れたとあってはもう気に食わないだの何だの言っていられない。
一刻も早く国なり聖堂教会なりに協力を要請して、
聖堂騎士団を――いや『勇者』を派遣してもらわなければ。
あのカルデラ湖のように、クシャスがまっさらなクレーターになってからでは遅いのだ。

それに、その少女は今どれほど心細いだろう。
いや、状況から考えて生きているとは限らない。
あの少女の連れ添いの人たちは、今頃どんな気持ちでいるのだろう。
絶望と希望の狭間に置かれ、ごりごりとやすりで身を削られるような思いの中でただ祈っているに違いない。
しかし、現実は冷たく、残酷だ。
もし、などという言葉は圧倒的な現実の前には大時化に翻弄される小船のようなもの。
それが無事港に着く可能性は限りなく、低い――。
ああ、ここで奇跡でも起きて、偶然にも勇者がこの街に滞在してくれていたら……。
この絶対的絶望の暗黒に、光が差し込むというものなのに。
おお、勇者よ。
君は今、何処にいる………?

「ここにいるぜッ!」

突然、ばがん、と町長室が蹴破られる。
悩めるクシャスの民の前に飛び込んできたのは短髪の男、小柄な少女、長身の女性のシルエットであった。
バサァ、と翻るマフラー。背には大きな十字手裏剣、バンダナには額当て。
白い歯がキラリと光を放つ、そう、彼らこそは誰が呼んだか異色の勇者。
その名は……!


431:隠密、推して参る[前編](2/10)
08/01/18 01:07:46 QbbYGUFp
 

「………と、いうわけで、お客様の捜索には『勇者』リューマ・イシカワ様のご協力を頂ける事になりました」

呼び出された町長室。ドラゴン襲撃について察知できなかったことを謝罪され、
しかし幸運にも救いを求めるものには救いの手が差し伸べられるというか、
救出作戦は決行されると拳を握り締め熱く語られたヒロトとジョンは
揃ってアゲハ蝶の幼虫を噛み潰したような顔をした。

………なんか、大事になってる。

ドラゴン襲撃て。
まあ傍目にはそう見えたかも知れないが、あれはなんというか、
焦りとすれ違いと早とちりの三拍子揃った不幸から引き起こされた悲劇であり、
しかもとっくに解決して件のかどわかされた少女も宿に戻って今はくぅくぅと寝息を立てているのだ。

しかも勇者?
勇者ならここに二人もいますけど、なんでまた増えるんだ?

ジョンはこめかみを押さえた。
一箇所に勇者が三人も集結する、そんな事例は今まで何度あったことか。
しかも偶然。教会に召集をかけられたとかならまだわかるが、
何の打ち合わせも無くこんな温泉街で勇者が三人もフラフラしてるなんて、一体誰が思うだろう?
ちゃんと仕事しろ!
などと、自分たちのことは棚に上げて怒るジョン。

「………ええと、勇者…」
「リューマ様です」

リューマ・イシカワ。

ヒロトの出身国でもあるヒイヅルに選定された一人目の勇者だ。
なんでもかなりの気分屋で、風が吹いたから南に行こう、というようなマイペース至上主義らしい。
また極度の戦闘好きでもあり、本来勇者は参加できないはずの
闘技都市のコロシアムに飛び入り参加して優勝を掻っ攫い、
賞金はお客さんたちに!と派手なマイクパフォーマンスをして喝采を浴びたかと思えば
どこからか飛んできた苦無を後頭部に受け失神、
リングに上がってきた無表情の女の子に引き摺られ去っていったとかなんとか。

432:隠密、推して参る[前編](3/10)
08/01/18 01:08:48 QbbYGUFp
 
勇者の義務であるところの各街にある教会巡礼もサボりがちで、
一時期行方不明どころか死亡扱いにさえなっていたという有名な不良である。
品行方正、マジメに勇者をやっているヒロトやジョンとは対極にいる存在とさえ言えた。

「……それでも、聞く限りでは実力は確かです。その神速は誰の目にも捉えられないとか」
「ううん、そりゃあね。俺にスピードで勝てる奴はそういないわなぁ」

ならば余計にタチが悪い。
だいたい、こっちも勇者だと知られたら戦闘狂のリューマのこと、嬉々として挑みかかられるに決まっている。
ジョンは武勲という点ではパッとしない研究職の勇者だからまだいいが、
ヒロトなんかは完全に戦士職。しかも『始まりの勇者』の再来とさえ謳われる『龍殺し』である。
きっと目を輝かせながら噂に聞く神速でどこまでも追いかけてくるに違いない。

………正直なところ、ヒイヅルの話には興味が尽きないがそれ以上にリスクが大きすぎる。
ここは丁重にお断りするのが吉だろう。

ジョンとヒロトは視線で会話し合い、頷いた。
短髪の男があからさまに不満そうな顔をする。
そんな顔をしても駄目だ。厄介事は煙に巻いてとっととドロンが一番なのである。

「――って誰だ!?」

びっくりした。
いつの間にか会話に紛れ込んでいた、この軽薄そうな男。
黒髪に黒い瞳、ヒロトと同民族系の顔立ちだが、なまじパーツの造型が似ているため逆に全く似ていない。
こいつは確か昨日のコーヒー牛乳を奪っていった男ではあるまいか。

「リューマ・イシカワ。行方不明のお嬢さんは必ず俺が助けるぜ!」

ヒロトとジョンは顔を見合わせ、はあ、と溜息をついた。


433:隠密、推して参る[前編](4/10)
08/01/18 01:09:30 QbbYGUFp
 

「――で?結局そのリューマとやらと一緒に助けにいくことになったというのか。
 ………我を」

宿に戻った二人はとりあえず残っていた女性陣に事情を説明した。
昨日の一件が外でなにやら勝手に尾ひれはひれが付き、妄想の大洋を突き進んでいること。
間の悪いことにそこに勇者が居合わせて、騒動は収束するどころか後戻りできない領域に入ってしまったこと。
このままとんずらしてしまうのはどうにも難しそうだということ。

「考えてみたら、クレイドラゴンが本物の龍だと思われてるということは、
 このまま逃げたらこの土地のヌシに迷惑が掛かることになるしな」

ヌシとは地域ごとに生息する魔獣の管理人でもある。
クシャス一帯のエリアのヌシは岩猿スクナ・ハヌマーン・クシャス。
彼にとってはこの事件は正に寝耳に水だろうし、せっかく友好的な関係を築いているのに
人間の町にドラゴンをけしかけたのではと疑われるのも忍びない。

「良いではないか。ここはスクナに任せて行方をくらませてしまえば」
「………だから、関係ないヤツを巻き込むわけにはいかないだろう。
 それに元はといえば騒ぎを起こした俺たちが悪いんだしな」

部下に押し付ける気マンマンな魔王を半目で睨むヒロト。そこに、ローラが皮肉げに続ける。

「そうですとも。……というか、腹いせに湖を吹き飛ばすなんて何を考えていますの?
 廃墟街のときと成長がまるでないのではなくて?」
「違うわ馬鹿者!ヒロトが我の告白をスルーしたからだな!」

―――。

つむじ風が一陣、どこからか葉っぱを運んでくるりと舞わせ、そして去っていった。
凍結。硬直。数秒たって、解凍。

『えぇぇぇぇぇえぇぇぇええええぇぇええ!!!?』

さらに絶叫。
リューは己の失言に気付いて真っ赤になり、ヒロトは眉根を押さえ――
でも頬がちょっと染まっている――ローラがビシィッ!とリューを指差す。

434:隠密、推して参る[前編](5/10)
08/01/18 01:10:25 QbbYGUFp
 
「裏切り者!!」
「なんでだ!貴様、告白どころか求婚していたではないか!!」
「ねぇねぇ!リュリルライア様!なんて言って告白したんですか?ねぇ教えてくださいよぉ!」
「っていうかスルーですか。ヒロトさん、それはちょっと」
「……いや、スルーはしてないぞ。俺は思ったことを言っただけだが」
「なんだとこの天然スケコマシが!堂々と二股とはどんな身分だ!!」
「あら、王になるというお方なのですから妾の一人くらいかまいませんわ。無論、正妻はわたくしですが」
「ローラ貴様ァァァァアアアア!!!!」

リオルがきゃいきゃいとはしゃぎ、ジョンがそれに振り回され、
ローラが何故か勝ち誇り、リューがこめかみに血管を浮かび上がらせる。
ヒロトは――。

「………リューマ・イシカワの対策はどうするんだ……?」

遠くを見つめていた。
それにしても。

「ヒイヅル、か……」

それはまだ見ぬ自分の故郷の名だ。
口にしてみると、そのなんと遠いことか。
実際の距離だけではない、それが自分の故郷だということが輪郭を持てずにいる。
おそらくはヒイヅルを訪ねたところで、それは自分にとって異国の地でしかないに違いない。
そんな場所に自分のルーツがあるとは、なんだかむず痒かった。
しかも始めて会ったヒイヅルの人間が自分と同じ勇者だとは。
数奇なものである。

「リュリルライア様を選べー!」

黄昏ていたヒロトの顔面に、リオルの投げた枕が直撃した。


第一次枕投げ大会はヒロトとリューの決着が付かないという結論に達した時点で中断された。
“天輪”vs.“豪剣”は幾度と無く繰り返された対決だが、
まさかエモノが枕になってまでぶつかるとはあきれ果てる。
といっても、リューの基礎体力はパーティ中最弱なので投げた枕は誰も仕留めることができず、
ただ魔法障壁に拠る絶対防御(反則)で最後まで音をあげなかっただけということは明記しておこう。

435:隠密、推して参る[前編](6/10)
08/01/18 01:11:07 QbbYGUFp
 
「とりあえず、スクナに話を合わせてもらうことは必須だと思う」
「同感です」

煎餅布団を積み上げて作ったバリケードの上に腰掛けて、ヒロトはぴっと指を立てた。
それにジョンが頷く。

クシャスの民はスクナを土地神と崇めている。
いわゆる神族ではなく、この土地土着の信仰対象としての『神様』だ。
その信頼は今さら説明するまでもなく高い。
こちらにはその神様を従えることが出来る魔王様がいるのだから、
これを利用しない手はないというものである。
……といっても、極力巻き込むわけにはいかないので協力を得るのではなく、
無関係でいてもらうという方向ではあるが。
もしリューの姿を見て「魔王様!」などと叫ばれた日にはまた話がこんがらがること必至だからだ。
ドラゴン襲撃事件は首を突っ込まずに洞窟の奥でおとなしくしておいてください、なのである。

「で、ジョンとも話し合ったんだが話がここまで大きくなっている以上、
 いっそ本当にドラゴンはいるという腹で話を進めたほうがいいと思うんだ」
「え?」

生真面目なヒロトが積極的に他者を騙そうとする、その意外な姿勢にローラは声をあげた。
そこに、ジョンがボクの発案です、と続ける。

「……問題は、結界を壊したのがリューさんであるということです。クレイドラゴンを召喚したのもね。

あの程度、リューさんにとって手品レベルのことでしかないとボクらは知っていますが、
それを他者に説明しようとするとこれが大変に難しい。
結界を破壊し、あの精度を持つゴーレムを召喚して使役する。
それだけで既に“湖”の魔導師クラスのやることですから。

何故あの状況でそんな強大な魔力の要ることをしたのか――普通はその場から走り去るだけのこと。
魔導師の名家でもないリューさんは一体何者なのか――そもそも人間ですらないじゃないか。
カルデラ湖を消し飛ばしたのはいったい何者なのか――地形を変えるほどの魔法を
痴話喧嘩で行使するなんてありえない。

………などなど、取り繕おうとも探られればボロが出ることは目に見えています。
ならいっそ、はじめっからドラゴン襲撃事件として片付けさせてしまえばいいのではと思いまして」

436:隠密、推して参る[前編](7/10)
08/01/18 01:11:58 QbbYGUFp
 
なるほど、確かに後ろめたいことは何もないくせに
世間に隠しておいたほうがいい秘密はやたらあるのがこのパーティである。
それを見ず知らずの勇者にペラペラ明かしていいものかは、今さら考えるまでもないだろう。
バカ正直なヒロトもそこは納得したようで、うん、と頷き、

「と、いうわけでリューにはもう一度クレイドラゴンを召喚して
 こっそり普通のドラゴンとして振舞わせて欲しい。適当に退治したらリューマも納得するだろうし」
「いや、適当に退治したらって。一応アレ、そこらのヌシなんか話にならない位強いんだが。割と硬いし」

ちなみにクレイドラゴンは決して傷つかない金属ミスリルと同じ硬さを持っている。
以前ヒロトにバラバラにされたが。

「……それは貴様の規格外が問題だ。本来なら攻城弓(バリスタ)の直撃を受けても
 毛ほどの傷も付かぬというものを」
「と、いうわけでいざというときは俺がクレイドラゴンを仕留める。
 リューは適当にゴーレムを暴れさせていてくれ。
 クレイドラゴンをやっつけたら、適当に助けだされておしまいだ」
「………………了解」

リューはなにやら納得がいっていないようだったが、頷いた。
なんのかんのいっても惚れている相手の頼みだ。断るという選択はない。

「リオルはスクナのところまで飛んで事情を説明してきてくれますか。
 終わったらリューさんと合流してフォローに回ってください。
 リオルの体質を知られるとまた面倒なことになりかねませんから」
「いえすさー」
「ローラは……救助メンバーだな。
 口が回るから、できればリューマが何か気付きそうになったらかく乱してくれ。
 これはあくまでドラゴンにさらわれた女の子の救出劇、それで納得させるんだ」
「わかりましたわ」

てきぱきと指示を出す勇者二人。その辺のリーダーシップは流石というべきか。
昨日の説教が少しは効いているのかと思うと、ローラは少しおかしかった。

「さて、行くか。リューを助けに」
『おー!』

ヒロトが立ち上がり、一同が続く(リュー含む)。

平和な温泉街に突如現れた謎のドラゴン。その魔獣はうら若き乙女を襲い、連れ去ってしまった!
果たして少女の運命は!?捜索に繰り出した勇者たちは、見事少女を救い出すことができるのか!?
その答えはまだ、誰も知らない!!

437:隠密、推して参る[前編](8/10)
08/01/18 01:12:42 QbbYGUFp
 

そして――ローラがふと、部屋を出ようとする足を止めた。
リューがクレイドラゴンを召喚したのは結界を壊した後のことだ。
しかし、噂ではドラゴンが結界を壊したことになっているらしい。
口伝いに話を広げる過程でそう切り替わっていった、それは間違いないだろう――しかし。

「……………?」

頭をよぎった違和感についてローラは考え込もうとしたが、
ヒロトの呼ぶ声がしたのでそれ以上は一旦中断せざるを得ない。
……もしその場にジョンがいたなら、こと民衆に関しては勘の働く
ヴェラシーラ王女のローラを知っている彼なら、
その違和感についてもっと考えるべきだと言っただろう。
しかしその時、彼はもう宿を出て、勇者リューマとの合流地点へ歩き始めている最中だったため、
彼女の違和感はやがて砂のように崩れ、散っていくことになる。



街の入り口、恐ろしい形相をした二匹の猿が向かい合う石像の上にリューマはいた。
黒い装束に口元まで隠れるマスク。鉢金――というのだろうか、
額に金属のプレートをあしらった長い鉢巻を巻き、背には大きな十字手裏剣を背負っている。

「シノビスタイル、ですわね」

ほう、とローラがため息をついた。それは果たして、感動しているのか呆れているのか。
シノビはヒイヅルが生んだ独自の情報工作のスペシャリストである。
手裏剣や特殊なカタナなど特徴ある道具を使い、
忍術と呼ばれる『言霊を用いない』魔法を操る彼らは世界で最も有名なスパイだとされている。
しかし実在するかもあやふやであり、未だまともにその姿を見たものはいないようだ。
それが、今、ここにいる――。

「忍べよ」

ヒロトのツッコみである。

438:隠密、推して参る[前編](9/10)
08/01/18 01:13:27 QbbYGUFp
 
「お、きたきた」

ヒロトたちの姿を認めると、リューマは口元のマスクを顎まで下げて
ニカッと人懐っこそうな笑顔を浮かべた。
そうして跳躍すると、次の瞬間にはもうヒロトたちの前に現れている。
綿がふわりと落ちるように着地の時音を発しない、それはあきらかに闇夜に働くシノビの業だ。
それだけで見事と感じるほどだが、こうも目立った恰好をしていては台無しだと思うヒロトであった。

「うわぁぁ、リューマさんはシノビだったんですね!」
「そだよ。あんたたちは何、もう準備できたの?」

シノビに感動しているらしいジョンに親指をたてるリューマ。
ヒイヅルのことは良く知らないヒロトだが、シノビについては聞いたことがある。
シノビは一流の戦士としても有名なのだ。
主に絶対の忠誠を誓い、命令を遂行するためなら
死すら作戦の一部として扱う様は世界規模で見ても類のない冷徹さを持っているという。
だが、なんかイメージと違うなぁ、というのが正直な感想だった。
………シノビって、こんなに軽いものなのか?

「案外、ただのコスプレかも知れませんわね」

ローラが懐疑的な目を向けている。
確かに、リューマは相当なてだれであることは間違いないだろうが、
それが噂通りの強さかというとそうではない気がする。
なんだか拍子抜けした気分だった。

「おおぉ!美人がいる!!」
「はい?」

今ローラに気付いたらしいリューマは、両手両足をあげて大げさに驚いている。
じろじろと無遠慮にローラを見つめて、大きく頷いた。

「うむ、スリーサイズは上からきゅうj」

何かがリューマのこめかみに突き刺さり、リューマは満足そうな笑顔のまま
吹っ飛ばされて地面をズザザザザと転がっていった。
その何かはくるくると回転すると、音もなく着地する。
女の子だ。
リューマと同じ装束を着た小さな少女である。
長いバンダナがひらひらと舞い、ふわりと落ちた。
突然のことに一同は声も出ない。
なにより、あれほどの飛び蹴りだというのに、その気配を全く察知できなかったのが驚きだった。
敵か。
いや殺気は感じない。
なによりこの黒装束、もしかしなくとも。

439:隠密、推して参る[前編](10/10)
08/01/18 01:14:45 QbbYGUFp
 
「な、なにすんだよクルミ!」

砂埃を振り払って憤るリューマ。やっぱり仲間だったか。
クルミと呼ばれた少女は感情の読み取れない半目でリューマを黙らせたあと、
ゆっくりとローラ、そしてジョンに視線を移していった。

「――9回、6回」
「え?」
「……リューマがその気になったら………さっきまででそれだけ死んでる」

……なんというか、返答に困る言葉だった。
ヒロトたちが絶句していると、クルミはぷいとそっぽを向いた。

「……リューマは、弱く…ない」
「あ……」

どうやら、リューマの軽さを侮っていたことが気に食わなかったらしい。
いきなり蹴り飛ばすから何事かと思ったが、彼女は彼女でちゃんとリューマを信頼しているようだ。
それにしても『死んでる』とは物騒な。
と、ふと思い立つ。
回数は二人分。
向けられた視線から考えるに、ローラとジョンのことだろう。
では、ヒロトは?

「うぉぉぉぉい、何いってんの!?――悪いな。こいつ人見知り激しくって。
 こいつはクルミ。俺の連れだ。お仲間探索に参加するってことになってたんだけど、
 なぁ、お前今までどこにいたん?」
「…………………」

ぐりぐりと頭を撫で付けられるクルミ。
彼女は答えず、じっとされるがままになっていたが、
やがて解放されるとそれまで一瞥もしなかったヒロトを真正面から見つめた。
ヒロトは、知らずに息を飲んでいた。
クルミは相変わらずの無表情。しかし、まぶたが下りていた半眼は今やぱっちりと見開いて、
爛々とした黒がヒロトを映している。

「あなたは――」

それはまるで、予言のように。
薄い唇が、滑らかに動く。

「1回」



                 隠密、推して参る~新ジャンル「暗殺者」英雄伝~[前編] 完


440:名無しさん@ピンキー
08/01/18 02:11:52 5IUdYbZP
>>430
一番槍GJ! しかしレベルの高そうな枕投げだことで…
ともかく続きwktk

>>427
また勝手に話を被せてみた

青山春樹と囲炉裏真智子が再び巡り合った教室。
幼女にじゃれつかれて狼狽する少年の姿を冷ややかに見つめる一対の瞳があった。
そして、彼女はおもむろにバースト通信を開始する。

甜「ブラボーよりビッチ。ターゲットと監視対象が再度の接触を開始した。」
恥「………(目下の人間から雌犬呼ばわりとは……濡れてきたな)」
甜「…ビッチ?聞いているのかビッチ!」
恥「………ああ、すまない。で、内容は把握できているのかね?」
甜「えーと…ターゲットが監視対象の腕を掴んだ状態で
  『■■■■て、はずかしがりやさんですねー』『●●●●●●●●●●●●●じゃねぇ!(////)』
  ともかく、ターゲットの言葉に監視対象が激しく狼狽しているようだ。」

恥「ほぅ……。あの幼女、初日から言葉責めとは過激な…(いかん、鼻血が止まらんな)。
  ともかく、監視を続行してくれ(どくどくどく)。う……………が…ま(昏倒)」
甜「何だ今の断末魔は?おい?どうしたビッチ!?応答しろ!!」

新ジャンル「MISSION FAILED」新醤油学園野望編

441:名無しさん@ピンキー
08/01/18 11:25:51 pcXwg/Do
>>440
四天王はコードネーム?
それとも本名?クラスメートで甜を匂わす様な子を出してみたいんだが?


ロリ校長こと囲炉裏真智子が転校してきて1週間
夏休み後の実力テストが返却された

女1「すご~い!真智子ちゃんて頭いいんだ!」
真「たまたまです」
女2「全教科95点以上なんて学年ベスト3よ…
たまたまで取れる点数じゃない」
女3「可愛くて頭いいなんて…はぅ~お持ち帰りしたいよお」


真『はるくんに【できるおんな】をあぴーるするちゃんすですね』

男友「ハル…相も変わらず面白味のない点だな」
春「…悪いかよ」
真「(キュピーン)はるくん、てすとどうでしたか?」
男友「あ、囲炉裏さん。
見ない方がいい、面白味ないハルのなんか」
真「みせてください」
春「…ほれ」



(食堂)
女1「真智ちゃん…泣きながらカレーとA定、うどん三人前と焼きそばパン食べてる…」
女2「…一体何が?」
女3「あんなに食べても変わらなくて可愛いままなんて…はぅ~お持ち帰りしたいよお」

真『ぜんぶひゃくてんなんて…どこのかんぺきちょうじんですか…!』


新醤油学園 青春編
「まんてん」

442:名無しさん@ピンキー
08/01/18 20:57:24 QbbYGUFp
>>440
がまww
どうした校長、最期の瞬間にライバルの嫌な笑みでも見たのかwwwww

>>441
レナっ娘が気になる俺

443:名無しさん@ピンキー
08/01/18 21:13:24 QbbYGUFp
女 「おっはよぉ~~男くぅ~~ん♪」
男 「……あ、ああ。女さん、おはよう」
女 「あっはぁぁああ♪憂鬱な朝だけど男くんのあいさつのおかげで便秘が治りそう!
   男くん、今日も大好きマジで!」
男 「………は、はぁ…。女さん、学校ではハグはその、やめようよ」
女 「だ~め!あたしは男くん分が足りないと眼球がパーンて破裂するの!」
男 「怖いよ生々しいよ女さん!」
友 「ケッ!見せ付けやがって、勘弁しろよなぁ!」
後輩「女先輩、男先輩にあんなにくっついて……妬ましい!」


翌日、校内でも有名な別れさせ屋に依頼が舞い込んだ……さて、依頼主は誰でしょうか?

A 「女さんは嫌いじゃないけどちょっと距離を置きたいんだ……」
B 「あたしと男くんに足りないもの、それは障害よ!恋は障害が多ければ多いほど燃えるのよ!」
C 「だってあいつらウゼえんだもん」
D 「男先輩はわたしのです!」

貴方の回答で物語が変わる!


新ジャンル「別れさせ屋」

444:名無しさん@ピンキー
08/01/18 21:38:49 QbbYGUFp
男「なー、どっか行かねー?のだめ全部読んじゃったよ」
女「やー。今日は家にいるー」

男(なんで今日に限って……しかも微妙にアンニュイだし……ハッ!まさかこれは
  今日は家にいたい→家でできる遊びがしたい→でも飽きた→オトナの遊び、しよ?→セクロス
  の流れではッッ!!?)
女(鳥が低く跳んでたから今日は雨だね……髪の毛くるくるになっちゃう)

男「じゃ、じゃ、じゃあ、俺ちょっとコンビニ行ってくるから(コンドーム買いに)」
女「えー。なんで?」
男「なんでって!つけなきゃダメだろ?俺、お前が大事だし……」
女「(ワックスかな……?)う、嬉しいけどコンビニにあんまりいいの売ってないよ?」
男「だからってないよかマシだろ!?」
女「だいじょーぶだよー。(家の)中から出なきゃ」
男「(膣内に出さなきゃ!?)え?そ、そうなの?そんなもんなの?え、でも、保健体育じゃ……アレ?」
女「(天然ウェーブの髪の毛のことなんて)保健体育でやるわけないでしょ」
男「ガーン!じゃあ経験か!経験からか学んだのか!!」
女「そーだよ?」
男「ガガガガーン!!!!」
女「どしたの、男くん」
男「このビッチが!!」
女「なんで!?」


新ジャンル「雨降りそう」

445:隠密、推して参る[後編](1/13)
08/01/18 22:09:19 QbbYGUFp
 
ドラゴンは通常、獲物を狩るときはその場で首なり頭なりを噛み砕き、絶命させる。
その後その場で貪るなり、巣に持ち帰るなりをするのだが、
昨日リューが攫われた場合はそうではなかった。
ドラゴンは生きたままリューをかどわかしたのである。
資料によるとそういった前例は、実は多々あるようなのだ。
古い童話に、悪いドラゴンに連れ去られたお姫様が王子に助けられるというものがあるが、まさにそれ。
あるドラゴンには美しい少女を巣に連れ帰り、そのまま生かしておくという奇妙な習性があるらしい。
そのドラゴンに見初められた少女はそのまま巣に放り込まれ、
果物や肉などを食事として与えられ、殺されることはない。
それどころか、財宝を集めてプレゼントするというから驚きだ。
目的は不明だが、研究者たちはこれを『龍の異種求婚』と呼んでいる。

「――つまり、お仲間はまだ助け出せるってことだな?」
「ええ。攫われたのが昨日ですから、食べられてしまっているということはまずないでしょう。
 あとはドラゴンを見つけて、リューさんを連れ戻すんです」

ジョンはもっともらしく説明している。
――曰く、人を騙すときは、口にする全てが嘘ではいけないという。
多くの真実の中に数滴の偽りを混ぜることで、初めてそれは嘘をして機能するのだ。
もちろん、『龍の異種求婚』という不可思議な行動は存在する。
リューが生きていることも、連れ帰ることも本当だ。
ただ、昨日ドラゴンにリューが攫われたという大前提が間違っているだけの話。
リューは今頃先回りして元・湖の近くに潜み、クレイドラゴンと一緒にスタンバイしているに違いない。
昨日あれだけ大暴れして、まだなお何かしようというのだから
この地のヌシたるスクナはあからさまに嫌な顔をするだろうが、
そのためにリオルが黄金色の饅頭(クシャス名物温泉ひよこ饅頭)を持ってなだめに行っていた。

「………………」

半眼で無表情の少女クルミはあれ以来一度も喋っていない。
何を考えているのか、あるいは何も考えていないのか。その表情から思考を読み取ることはできなかった。
普通に考えればこのパーティは一日限り、それも偽りのものなのだからわざわざ気に掛けることではない。
だが、なんとなく気になる………。

446:隠密、推して参る[後編](2/13)
08/01/18 22:09:56 QbbYGUFp
 
「……心配ですわね」
「え?」

不意にローラに声を掛けられて、ヒロトは我に返った。

「リューさんのことですわ。話ではまだ無事とのことですが、それでも………」
「――あ、ああ。そうだな」

頷く。
そう、そういえばリューを助けに行くという名目なのだった。
心配そうにしていなければ怪しまれてしまうだろうというのももっともだ。
上の空だったことについて反省していると、ローラが半目で睨みつけてきた。
そしてぼそぼそと呟く。

「………昨夜のことを考えていたんですの?」

一瞬、何を言われているのかわからない。
リューに告白されたことを言っているのだ、と気付いたとき、
ヒロトは自分の中に苦いものがこみ上げてくるのを感じた。

――俺は昨日のことを、極力思い出さないようにしている。

卑怯な。
リューは大切な人だ。それはまず、間違いない。
だがそれはリューが望むような『好き』なのだろうか?
どう接してやるのがいいのか、ヒロトには見当がつかないのだ。
ローラにしてもそうだ。
今はヴェラシーラに帰るわけにはいかないが、
ローラはそれでもなおこうやってヒロトの旅に付き合ってくれている。
それがどんな意味を持つのか、自分は今まで考えたことがあったろうか?
もっと、彼女たちが望むことをしなければ。
しかし、どうすればリューやローラが喜ぶのだろう?

それが、よく、わからない。

だから、いつも通りにするしかない――なんて、情けない。

「ローラ、ごめんな」

そう言うと、ローラはにっこりと笑った。

447:隠密、推して参る[後編](3/13)
08/01/18 22:10:32 QbbYGUFp
 
「嬉しいですわ」
「え?」
「ヒロト様が、そうやって心根を話してくれること――それが、わたくしには、とても嬉しい。
 別に気負うことはありませんわ。
 わたくしたちは貴方を好きになったのだから、貴方は貴方以上のことをしなくとも良いのです。
 そもそも女の子の扱いが上手いヒロト様なんて不気味ですもの。
 ただ――少しは、甘えさせてくださいね?」

ぱっちりとウィンクする。
ヒロトは目を丸くして、呼吸も忘れていた。
色恋についてはやはり疎いヒロトだが、これだけはわかる。
この少女の器は破格である、と。

「わたくしも、貴方を愛しています。あの娘には負けていなくてよ?」

そう挑むように笑って、ローラは小走りにヒロトから離れていった。

「………ああ、そうか」

しばらく呆然としたあと、天を仰いで息をつく。
なんだかとんでもない少女たちに惚れられたものだ、という嘆息だった。
しかし、わからない。リューもローラも、とても美しく、一所懸命で魅力的な女の子だと思う。
それが、なんで自分のような人間を好きになったのか。

……そこが、なんとなく腑に落ちなかった。

448:隠密、推して参る[後編](4「/13)
08/01/18 22:11:10 QbbYGUFp
 
「………ところで兄さん、アンタただもんじゃないだろ」

はっと気が付くと、ローラと入れ替わるようにリューマが近づいてきていて、
ニカニカと明るい笑顔を浮かべていた。
ただもんじゃない。
まあ、そう言われてみれば確かにただもんではないのだろう。
少なくとも、世界に七人しかいない勇者という肩書きを持つ冒険者なのであるし。
ヒロト自身はそのことについて特に深く思うところを持っていないのだが、
一応、世界最強を謳われる剣士なのであるし。
――しかし、それは勿論、このリューマには話していない。
名前を名乗ったときも、これはジョンの提案だが、偽名を使った。
ここにいるのはただの冒険者、その名もモョモトである。
……そう名乗ったとき、ローラとジョンがものすごい顔をしたのは言うまでもない。

「偽名だしな」

しかもバレていた。
突然鼻っ面をつつかれた蝦蟇蛙のような顔をするヒロトに、リューマが思わず吹き出す。
そうして、別に責めちゃいねーよ、と言った。

「名前を呼ぶとき一瞬反応が鈍る。『ああ、俺のことか』みたいなな。
 あんた、人を騙すのに向いてないんだ。その辺、あの嬢ちゃんは見事なもんだけど――」

リューマが視線を送ったのはローラである。

「ま、そんなことはどーでもいい。
 ただ、ウチのクルミがあんたのこと気にしてるみたいだからちょっとな。
 ああ、アイツは俺のだから手ぇ出すなよなー」

クルミ、というとあの半目の無表情少女か。
ヒロトにはそうは見えなかったが、きっと仲間内で感じることもあるのだろう。
ヒロトがなんとなくクルミを気にするのは、クルミがヒロトを気にしているのを
なんとなく察していたからだろうか。
ひとつ言えることは、それはどうあれ決して色恋に通じるものではないということである。

……なんとなく、うなじの辺りがちりちりした。



449:隠密、推して参る[後編](5/13)
08/01/18 22:12:04 QbbYGUFp
 
そんなこんなで、一同が湖までたどり着いたのは午後になってからだった。
いや、元・湖か。一応川の水が絶えず流れ込んでいるものの、
未だあちこちに空いたクレーターに溜まっているという状態だ。いわば少し大きな水溜り。
噂ではドラゴンはこの辺りに潜んでいることになっているので、
彼らはまず二手に分かれて、ドラゴンの巣を発見次第他のメンバーを呼ぶことにした。
またこれは一方がドラゴンを引き付けておいて、
もう一方がそのスキに囚われのリューを助け出すという二段階の作戦でもある。

………まぁ、そんなことは別にする必要もなかったのだが。

「いますね」
「いるなぁ」
「丸見えですわね」

元・湖であるところの大きな穴。
すっかり露出したごつごつした岩肌の上にそれはいた。

昨日クシャスを襲った(ことになっている)灰色の龍。
クレイ・ドラゴンである。

体長は尻尾を含めて大体10メートル程か。
ドラゴンとしての大きさは普通だが、リューの術であるクレイドラゴンとしては小型のそれは、
救助隊を待ち構えていたように腕を組んで大穴の底で仁王立ちをしている。
その脇には、なぜかモノリスのような形の岩に磔にされたリュー。
両手は【緊縛】の魔法で縛られ、ぐったりしている。

「………なにやってるの、あの娘」

ローラがぽつりと呟いた。
口にこそ出さないものの、ヒロトもジョンも同じ思いであった。
リューは弱々しく顔をあげると、悲痛な叫びをあげた。

「嗚呼、どうして来たのだ?我なんかのために!今すぐ帰れ!
 こやつは、貴様らが敵う相手ではない!」

450:隠密、推して参る[後編](6/13)
08/01/18 22:12:39 QbbYGUFp
 
大根も大根、カイワレ並の安っぽい演技である。
ようするに、リューは気付いてしまったのだった。
今回の自分が、いわゆる囚われの美女的ポジションであることに。

城にいたころは魔道書以外ほとんど読まなかった彼女だが、
ヒロトと共に旅をするようになって好きな本のジャンルに少しだけ変化があった。
………ズバリ、恋愛小説である。
その中にはヒロインが怪物に攫われてしまい、
主人公が命をかけてヒロインを救い出すというものもあった。
それを思い出したのである。

あまりにべったべたな展開。しかしそれ故に、

『GRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOWWWW!!!!』

クレイドラゴンの強さはやたらにリアルだった。
翼を広げ、一度羽ばたいたかと思うとその巨体は既にヒロトたちの目の前にまで迫っている。

「――なにやってるのあの娘ォォォォォォオオ!!」

ローラの悲痛な叫び声は叩きつけられた尻尾の衝撃で最後まで聞き取れず、地面と一緒に砕け散った。
捲れ上がった岩盤に乗り上げて、バランスを崩しながらも電撃で反撃するが
ドラゴンはぶるんと身震いしただけでそれを跳ね除ける。
そしてローラに噛み付くと、ポーンと空中に放り投げた。

「ひぇぇぇえええええ!!?」

高い。
空を飛ぶ術を持たないローラはなす術もなく落下していく。
このまま地面に叩きつけられたら、死にこそすまいが骨の二、三本は覚悟しなければならないだろう。
――それを、跳んで受け止める。

「あ、れ……?」

ヒロトがローラをその腕で受け止めていたのだった。
お姫様ダッコ。全国の乙女が憧れるダッコである。

451:隠密、推して参る[後編](7/13)
08/01/18 22:13:13 QbbYGUFp
 
「あー!!」

何故か囚われのリューが声をあげた。
精神は繋がっているのか、ドラゴンが歯軋りして地団駄を踏む。なかなか面白い光景である。

「ジョン、ローラを頼む。……っていうかホント、何やってるんだリューは」
「ま、まぁだいたいわかりますが……いいんじゃないでしょうか。
 設定上このドラゴンは強いにこしたことはないというか」
「そうですわ。ナイス、リューさん!ナイス!!」

電撃の効かない相手と見て、ローラはさっさと戦線離脱。
また、クレイドラゴンには対生物攻撃である“霊拳”は効果を持たないのでジョンも撤退。
二人でリューの『救出』に向かった。
さて――。

『VVVVRRRRRWWWWW!!!!』

クレイドラゴンの機嫌はすこぶる悪そうだった。
腹からこみ上げる憤りを示すように、尻尾をムチのように地面に叩きつけて頭を何度も振る。
――その首が、ぎしっ、と止まった。

『GGRRR……ッ!?』

首周りに何事か呪刻が浮かび、クレイドラゴンの頭を固定していたのだ。
これはまぎれもない、【緊縛】の魔法。
いや呪文を用いず、手と指の組み合わせ『印』で術の発動を行う
ヒイヅルの魔術形式のひとつ、“忍法”である。

452:隠密、推して参る[後編](8/13)
08/01/18 22:13:47 QbbYGUFp
 
「ナイス、クルミ!!」

クルミのサポートを受けて、リューマは跳んでいた。
背に負っていた巨大手裏剣。その刃をたたんでひとつにすると、その形状は紛れもない大剣。
それを、固定されたクレイドラゴンの脳天に叩き付けた。

『――GRR……ッッ!?』

直撃を受けたクレイドラゴンがぐらりと揺れる――が、倒れない。
【緊縛】に拘束されたまま、長い尾でリューマを払いのける。
しかしリューマも攻撃がたいして効いていないと見るやすぐに身体を捻り、
叩きつけられた尻尾に逆に自ら足をかけて大きく飛びのいていた。

「か、硬ぇ~ッ!なんだありゃあ!?」
「リューマ、もう抑えきれない。………術、解く」

ぱきん、と軽い音を立てて刻印が砕ける。
龍の懐に飛び込んで一撃を見舞ったリューマもリューマなら、
そのサポートをし、短時間ながらもドラゴンを押さえ込んだクルミもまたかなりの実力者だった。
クレイドラゴンの方も、標的に足る相手と定めたのかギロリと黒曜の瞳を二人に向ける。

「うわー、おっかねー」
「……がんば」

次の瞬間にはシノビたちはもうそこにはいない。
奔り、跳び、高速で巨獣を翻弄する。
クレイドラゴンにしてみれば竜巻の中にいるようなものだろう。
傍から見ているヒロトでさえ眼で追うのがやっとの神速だ。
クレイドラゴンには――リューには、なにが起きているのか認識できているのかも怪しい。
打撃を、斬撃を、魔法を、雨のように受けるクレイドラゴンはしかし、反撃すらままならない。
なにせ爪を振り回してもリューマにはかすりもせず、逆に背後からクルミの鎌鼬を浴びるのだ。
いかにクレイドラゴンが高いパワーを持とうとも、
触れられないスピードを前には意味すら持たないだろう。
クレイドラゴンにはなす術もなかった。


453:隠密、推して参る[後編](9/13)
08/01/18 22:14:30 QbbYGUFp
 
(――ええい、こんなはずではッ!)

リューにしてみれば、まったくの予想外の出来事である。
彼女にしてみれば、クレイドラゴンの相手ができるのはあくまでもヒロトだけであり、
リューマなど昨日食べたお刺身の上に乗っていたタンポポのようなものだったのだ。
ドラゴンを倒し、囚われのリューを助け出す王子様はヒロトだったはず。
なのに蓋を開けてみればクレイドラゴンはリューマとその連れの少女に翻弄され、
リューのところに駆けつけてくるのはにっくきローラと理屈屋のジョン。
きっと乙女のロマンなど理解しようともせずに説教をしてくるに違いない。
ああ、リオルならわかってくれるだろうが今彼女はきっとスクナと杯を交わしている最中だ。
そうなると、もうマジメに捕まっているのもバカらしい。
リューは手元の拘束を解除すると、カッカとした頭でクレイドラゴンにさらに魔力を注ぎ込んだ。


『GGSSSSYYYAAAAAAAAA!!!!』

クレイドラゴンの様子が変わった。
黒かった瞳が見る見るルビーのような紅になり、全身から放たれた魔力の波動で地面が隆起する。
それだけではない。大口を開けたクレイドラゴンの舌先が波紋のように歪み、
そこから超・高密度の魔力波が放たれたではないか。

―――“天輪”!?

恋乙女の想いなどまるっきりわからないヒロトは仰天した。
魔力波は地面の上をなぞったかと思うと、一瞬の間を置いて大爆発を起こす。
山の頂上、カルデラ湖跡地の地形がまた少し変わった。
――間違いない、リューはクレイドラゴンを強化したのだ。
なりは小型だが、こと性能に於いてはかつて魔王城で召喚されたそれを上回るかもしれない。
あんなものを作るとは、本当に邪悪なドラゴンでも演出するつもりか!?
もし手違いでリューマが死んでしまったらどんな最悪よりもなお悪い事態になってしまう。
勇者殺しの魔獣となると聖堂教会は威光を保つためにも総力をあげてこの地に押し寄せてくるだろう。
無論ヒロトやジョンを含む他の六人の勇者にも『使命』が下り、
勇者リューマを葬った邪龍の殲滅が行われる。
勿論、調査の過程でことの発端であるヒロトたちにも疑いの目がかかるに違いない。
そうなったら――考えたくもない結果が待っている。

454:隠密、推して参る[後編](10/13)
08/01/18 22:15:11 QbbYGUFp
 
「あいつ……ッ!」

ヒロトは、それまで傍観していた彼はついに剣を抜き、地を蹴った。
リューが本気でリューマを殺してしまおうとしているとは考えられない。
と、いうことはまた何かしらの理由で癇癪を起こしているということか。
クレイドラゴンを叩き斬ったら、また正座で説教してやらないと――。
ヒロトは柄を握る手に力を込め、呼気を吐いた。

「覇ァァァァァァァァアアッッッ!!!!」

――その隣を、高速で何かが駆けていく。

「悪いね、兄さん!」
「な………ッ!?」

リューマである。
ヒロトを追い越しながら、印を組む――
――『静かに』のジェスチャーのように立てた指をもう片手で握り、同じように指を立てる――
その、クレイドラゴンを挟んだ反対側では彼の相棒が同じ印を組んでいた。

「「喝ッッ!!!!」」

声が重なり――そして術が発動する。
地面に突き立てられた五本の苦無が共鳴し、りん、と涼やかな音を立てた。
描かれる五芒星。
東の地で編み出されたその図形はあらゆる魔を滅する祓えの刻印だ。
それは無論、洋の東西に関係はなく――。

『GYAGGGOOOAAAAAAAAAA!!!!』

クレイドラゴンの身体に亀裂が走る。
神速の猛攻は苦無を地面に打ち込むためのブラフに過ぎない。
彼らは、最初の一撃が効かなかった時点ですぐに物理攻撃を捨て、
この術印による祓えに切り替えたのである。
果たして、クレイドラゴンは肉体に満ちた魔力を『祓』われて断末魔の叫びをあげた。
そしてミスリルの強度を持つ最高位の魔獣はただの粘土に戻ってぼろぼろと崩れ、土塊となって倒れ臥す。

――ヒロトが出るまでも無かった。

455:隠密、推して参る[後編](11/13)
08/01/18 22:16:16 QbbYGUFp
 
強い。
特殊な武具を使いこなす技術に以心伝心のコンビネーション、
鍛えられた技と相手を見切り、有効な攻撃手段に切り替える判断力。
そして何より、疾風のような身体能力。
そこまでに至るには巌を玉になるまで磨くような努力が必要だったに違いない。
ただただ、感服した。

しかし、それでも。
彼らはただ、『知識』という一点を欠いている。

『GGGRRRRRROOOOWWWW!!!!』

「――な……!?」

破壊された肉体を再構成して、クレイドラゴンは立ち上がった。
そもそも魔王の傀儡であるクレイドラゴンに死という概念はない。
破壊はできるが、魔王が再び魔力を注げば元通りだ。
もし完全に消滅させたくば術者であるリューの魔力が枯渇するまで破壊し続けるしかないのである。
あるいは魔王城の時のように、彼女が再生するのを止めればそれまでだが――。
わざわざ強化までしたクレイドラゴンが斃されたとあっては、
ますます頭に血が上っているだろうことは想像に難くない。


(――喰らえぇぇぇぇぇぇぇいッッ!!!!)


収束する魔力に歪む空間。
直死の砲台である“天輪”が広がり、無防備なリューマの背を狙う。
彼の神速を持ってすれば直撃を免れることはできるだろう。
だが、地形を変えるほどの破壊そのものから逃れられるかといえば、それは――。

456:隠密、推して参る[後編](12/13)
08/01/18 22:17:05 QbbYGUFp
 
故に、ヒロトは踏み込んでいた。

「――修……ッ!」

昇り一文字。地から天へ振り上げるように放たれた斬撃は魔力波を受け止め、
そのまま軌道を逸らして弾き返す。
スマッシュをカットで返すような滑らかな剣撃はかつてのように自身を傷付けることさえなく、
正確にクレイドラゴンの頭を吹き飛ばしていた。

『……………!!……!………』

首から先のなくなったクレイドラゴンはぐらりと揺れ、今度こそ地面に倒れこんで動かなくなる。
ヒロトが介入したことでリューも我に返ったのだろうか、
ギロリと睨みつけると、ばつが悪そうに目を逸らした。
それでも、駆けつけたローラを睨むほどの元気は残っていたようだが。
よっぽどお姫様ダッコされたローラが憎らしかったのだろうか。

「す、す、す」

――ああ、そういえば。
ヒロトはひゅんと剣を一度振ると、鞘に収めた。

「すっげぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!何だ今の!なぁ、何だ今の!!」

リューマがきらきらした眼で駆けつける。
………まあ、一撃で地形を変えるような破壊光線を
剣一本で弾き返すなんて芸当をしたのだから当然のことか。
『強い者』が好きなリューマならばなおさらである。

「おいおいおいおい!兄さん!あんた何者?ただの冒険者じゃないとは思ってたけど
 まさかここまでとは――もしかして、兄さん。俺と同業だったりしない!?」

………ヒロトは少しだけ考え、頬を緩めた。
知り合って僅かだが、少なくともリューマは警戒すべき人間ではない。
もし勝負を持ちかけられたら、その時は正々堂々と受けて立とう。
リューマは単純に戦いを好むタイプだ。
戦闘狂といっても、命のやりとりまで望むような狂戦士ではないことはわかる。
後先引くようなことはあるまい。
ヒロトは肩が軽くなったような調子で、改めて名乗った。

「――ああ。翼と稲妻の国ヴェラシーラに選定されて勇者をやっている。ヒガシ・ヒロトだ」

騙してすまなかった、と。
ちっとも騙せてないくせに、ヒロトは続けた。――続けようとした。



その身体がぎしっ、と動かなくなる。



「………え?」

457:隠密、推して参る[後編](13/13)
08/01/18 22:17:48 QbbYGUFp
 
それは、誰の言葉だったろうか。
ヒロトか、不貞腐れながら歩を進めていたリューか、リューを連行していたローラか、
ジョンか、それともリューマか。


刻印が浮かんでいた。


それは先刻クレイドラゴンを縛り上げた【緊縛】の呪刻。
それがヒロトの首に、腕に、脚に。四肢に刻まれ、自由を奪っていたのだった。
無論、こんな術を使う人物はこの場に一人だけしかいない。

「――五乗封印……!?クルミ、一体なにやって――」

リューマが相棒をたしなめようと振り返った、その背後で音がする。
とつ、と。
何かが――たとえば毒針が、ヒロトの首筋に突き刺さった音が。


それは、ヒロトにとってまったくの奇襲だった。

そもそも彼は、リューマたちのことをまったく知らないに等しい。
シノビとはリューマが異例中の異例であり、基本的に暗殺を生業とする者たちであることも。
気配どころか、姿すら消してしまう術を使うことも。
リューマの仲間がもう一人いることも。
その一人が、誰あろうヒロトを暗殺すべくヒイヅルから使わされたことも。
クルミに協力を要請し、リューマが知らずヒロトを懐柔したその瞬間を狙うよう指示したことも。

――何故自分が命を狙われたているのかも、何も知らなかったのだから。


がくん、と膝から力が抜け、ヒロトはその場に倒れこんだ。
身体が痺れている。無理もない、一滴で鯨を殺すような猛毒なのだ。
ゆらり、と何もなかった虚空が蜃気楼のように揺れ、そこに毒針を放った少女が姿を現した。

リューマはその姿を認めると、彼には珍しい怒りに満ちた形相でその少女を睨みつける。

「――どういうつもりだ、フミナ」
「………………………」

フミナと呼ばれた少女は答えず、ただ何かを堪えるように倒れたヒロトの身体に眼を落とした。



                 隠密、推して参る~新ジャンル「暗殺者」英雄伝~[後編] 完


458:名無しさん@ピンキー
08/01/18 22:56:48 QbbYGUFp
男「………ハッ!ここはどこだ!?何で俺は目が覚めたら銀色の空間に縛られているんだ!?」
女「目が覚めましたか」
男「だ、誰だアンタ!アンタ誰だっていうかクラスメイトの女さん!?
  何やってんのこんなところでっていうかここどこ!?」
女「ここはわたしの家。宇宙船の中です」
男「……うちゅ……は?」
女「白状すると、わたしは地球人ではありません。金星からやってきた金星人なんです!」
男「ウソォ!!?」
女「……はい。実は嘘です。見栄張りました。本当はガニメデ出身です。田舎者で悪かったわね!」
男「知らねーよそんな宇宙事情!!いいから離してよ!っていうか宇宙人って!女さんもしかして電波の人?」
女「ガニメデビーム!」
男「ビーム出た!宇宙人だ!」
女「わたしは地球人の調査のためにやってきました。長い調査の末、ついに体液搾取によります実験に移りたいと思います!」
男「体液搾取?」
女「キャトルミューティレーションって知ってます?牛の血をカラッカラになるまで抜くってやつ」
男「……………まさか」
女「ま、それは関係ないんですけどね。カラッカラになるまで抜かせていただきます♪」
男「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

女の調査書
 『ついに地球人との交配実験に移りました♪お相手はおなじみ、男くん!初めてだったけど上手くできたかな?
  試行錯誤してるうちになんやかんやで二桁イッちゃって、男くんは黄色い太陽が見えるとか言ってたけど大丈夫かな?
  コンビニで一本1000円の健康ドリンク買ってあげようっと♪』

女「主任、これ経費で落ちますかね?……あ、落ちない。んー…500円のにしよっと」


新ジャンル「未確認知的生命子」

459:名無しさん@ピンキー
08/01/18 23:09:34 pcXwg/Do
時事ネタなんで外伝扱いです



真「…ん」

真「…ふー」

真「…こうですか?」

春「鏡の前でさっきから何やってんだ?」
真「あ、はるくん。あしたからせんたーしけんですよ」
春「ああ。でも俺達は再来年になるぞ」
真「ちがいます。ことしうけるかたのやるきをだすため、せくしーぽーずのけんきゅうちゅうなのです」
春「…ロリのセクシーポーズでやる気が出ても困るし、第一それは違う」
真「むー」
春「とはいえ、人の為にできるとは感心だ。
…ちょっと見直したぞ(なでなで)」
真「えへへ…じゅけんせいのみなさまが、べすとがだせますように…」


新醤油学園 青春編
外伝「ファイト」


という訳で受験生の皆様
ご武運を…

460:名無しさん@ピンキー
08/01/19 00:27:49 xB+Dsoc1
>>458
そのタイミングは卑怯だろwww

461:名無しさん@ピンキー
08/01/19 01:30:04 ILwKI6lA
>>443
ちょwwwおまい頑張りすぎwww
勇者に短編にGJ過ぎるが無茶だけはすんなwww

…あとBに一票

>>441
コードネームのつもりだが、名前どーしたものだかね
豆と芝とX(豆妹)の本名はなんとかなりそうだが甜だけは適当そうなのが思いつかんのよ
使って頂くのはもちろん、良い案があれば命名しちゃって下さいなww



目の前の現実(赤点)に、思わず燃え尽きそうになる。
しかし自分の心は灼熱…。この心が折れない限り、不死鳥の如く蘇る。
そして現実逃避に成功した女は廊下へ進み、任務を開始する。

豆「アルファよりビッチ!現在ターゲットと監視対象が接触してるぞ!!」
恥「了解した。そのまま監視を継続せよ。……(アホっぽい大声で雌犬呼ばわり。…コイツだと感じないな)」
豆「お!!何かターゲットが泣きながら飛び出して行ったぞ!!!」
恥「何だと?…すると『お前、もう俺に付きまとうなよ。』『酷い!!私の事、遊びだったの!?』
  とか、『堕ろせよ。…お前だって、無理な事ぐらい判るだろ?』『馬鹿っ!!私たちの子供なのよ!?』
  のような会話が交わされていたのか?」
豆「知るか!!…ともかく追跡する!!!」

そして数分後…
豆「アルファよりビッチ!!ターゲットは今食堂だ!!!」
恥「ほう。…で、何をしている?」
豆「やけ食い…だなアレは。しかしカレーに定食、うどんに焼きそばパン…(ぐきゅるるる)。
  おーいおばちゃん!!丼物を上から全部、あと単品でから揚げとシーザーサラダ、味噌と豚骨のラーメンな!!!」
恥「おい?どうしたアルファ?応答しろ。」

………………………………………………

恥「餌に釣られて任務放棄か…。…駄目だこいつ、早くなんとかしないと。」

新ジャンル「Food fight」新醤油学園野望編

462:441
08/01/19 01:55:41 e5reqqTM
>>443
内容及び執筆量、ともにGJ以外の何物でもない

ラブコメ派なんでDでお願いします


>>461
ありがとうございます
で女1~3、或いは新キャラで登場させたいなと考えてます

そろそろネタが痛くなってきたんだけどさ…

463:名無しさん@ピンキー
08/01/20 00:54:45 ep9crHNa
「………男くんってさ。やっぱりあたしのこと何とも思ってないのかな?」

女はぽつりと、小さくそう言った。
実際にはそれは聞こえるか聞こえないかの声だったろう。
しかし男にはそれは耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえた。

「え?」

思わず聞き返す。

「………そうだよね。あたしなんてさ、色気もないしバカだし、女の子って見てもらってないよね」
「な、何言ってるんだよ女?」

男は女の顔を覗き込んで、息を飲んだ。
泣いている。
いつも陽気に笑っていた女が、ぼろぼろと涙を零していた。

「……あ、はは。ごめんね、変なこと言って。あたし、今日は変だ。だ、大丈夫。ちょっと寝たら治るから――」

無理に笑うな。
俺こそ、無防備なお前に何度抱きしめたいと思ったかわからない。
でも、お前はただ無邪気なだけだからと、そう自分に言い聞かせて――。
そう言いたかった。でも、言葉が出ない。

「ごめんね。あたしから無理に来てくれって頼んだのに……ごめん」

これが正しいのかわからないけど、男はこの少女を泣き止ませる方法を、ひとつだけ知っている気がした。

「女」
「――え?ん……!?」

柔らかな唇を、とうとう、奪う。

「俺、女が好きだ。女に、……その、触りたい」

男は女の肩を抱いて、自分の心うちを正直に口にした。
ずっと言いたかったこと、ずっと言えなかったことを、やっと伝えられたのだ。
女はますます涙を滲ませて――でも、これは嬉し涙だ――俯き、言った。

「全てを読むにはここにワッフルワッフルと」
「そういうオチかよ!!」


新ジャンル「わっふる」

464:名無しさん@ピンキー
08/01/20 06:17:24 CFw4mKqL
>>463
ワッフルワッフル!

465:名無しさん@ピンキー
08/01/20 08:50:13 q/yLaR5J
>>463
ワッフルワッフルワッフルワッフルワッフルワッフル!

466:腕に抱くもの 背に負うもの(1/14)
08/01/20 15:11:31 ep9crHNa
 
ヒロトが倒れ臥すのを見て、リューは空白となった。
眼球が理解するのを拒み、神経が理解するのを拒み、脳が理解するのを拒む。
彼女にとってヒロトとは絶対なるもの、恋愛を通り越して崇拝の対象ですらあった人物だ。
ヒロトを屠れるものがいるのならそれは他ならぬ自分以外にありえないと、そう確信していた。
それが、どうして、ぴくりとも動かないのだろう。
いきなり何もなかった空間から現れて、ヒロトを刺していた女は一体誰で。
ヒロトに、ヒロトに、ヒロトにヒロトに、一体何をしたのか。
何故ヒロトは倒れたまま動かないのか。

それが、わからない――。


ローラは絶叫した。

「ヒロト様ぁぁッッッ!!!」

駆け寄る、躓く。それでも倒れず、走る。
ジョンも同じだ。ただし、こちらは拳を握り締めていた。

「――ヒロトさんから離れろッ!」

ヒロトを刺した少女――フミナは特に抵抗しようとせず、あっさりと退いた。
しかし逃がさず、リューマが立ちふさがる。

「答えろフミナ、なんのつもりだ!こいつが俺たちに何をしたってんだよ!」
「………………」

フミナは答えない。
その瞳は氷のようで、リューマが知る普段の明るく能天気な彼女とはまるで別人のようだった。
いや、リューマは確かに『この』彼女を知っている。
それは昔見たシノビとしての姉の貌。忠実に任務をこなす血も涙も無い裏社会に棲む者の貌である。

「フミナ、お前………」
「………そのひとは、ヒイヅルにとって危険なひとだから」

言葉を発したのはフミナではなく、クルミだった。
フミナの奇襲を【緊縛】でサポートした彼女は、勿論事前にこのことを知っていたのだろう。
しかし何故?
ヒイヅルにとって危険?
この、ヒガシ・ヒロトと名乗った剣士が、どうしてヒイヅルの危険因子になるのだろうか。
ヒガシ・ヒロトといえば知らぬものはいない、最強の勇者の名である。
リューマが最も手合わせしたかった人物の一人だ。
そして虚偽ではないということは、あのとんでもない剣技から見るに明らかだろう。
ヴェラシーラの勇者がヒイヅルの敵となる?なにがなんだか――。

467:腕に抱くもの 背に負うもの(2/14)
08/01/20 15:12:18 ep9crHNa
 
「説明はあとでするわ。一旦引く。リューマも来て」
「お、おい」

フミナは跳躍しようとする、その足元を稲妻が襲った。

「くっ!」
「――させると思いまして?」

ローラがボルテックを抜き払い、憤怒と殺意の形相でフミナを――フミナたちを睨みつけている。

「やってくれましたわね。おかしいとは思いましたわ。
 あの時、温泉にはあきらかに私たちとは別に、リューさんの魔力の強大さを認識している人物がいた。
 加えて極めて短時間で広まった事実と食い違いのある噂。
 わたくし一晩中ヒロト様たちの帰りを待って起きていましたけど、一度もそんな話は聞きませんでしたわ。
 もっと早くに気付くべきだった。ドラゴン襲撃という噂は、端から意図的に広められたものだということに。
 偽りの情報を流すのは諜報のお決まりですものね。
 初めから噂をダシにヒロト様に近づく――そういう目論見だったのですね?」

「………………まぁね」

フミナは口元を歪めて呟いた。
まぁね、だと――?
腹の底は煮えくり返っていても頭は努めて冷静でいようとしたローラだが、
こればかりはかっと視界が赤く染まった。

「こ、の――!」

ローラは衝動のままに駆け出していた。
ヒロトを手にかけたこの女、とても許せるものではない。
見ていろ。今すぐその首に剣を突きたてて、ヒロト様にしたことを思い知らせてやる……!!

「―――ッッ!!?」

しかしその途中で、ローラの疾走は止まった。
上っていた血が頭から音を立てて引き、紅潮していた顔が真っ青になる。
ばしっ、ばしっ、と足元の石ころが弾け砕けた。無論、ローラは何もしていない。
それどころかフミナも、リューマも、クルミもジョンも、
ただ彼女の波動の前に愕然と身体を硬直させていたのだった。
蛇を前にした蛙でもまだ余裕があるだろう。
それはまるで、認識した瞬間に発狂しそうなほど、深い絶望の具現だった。

468:腕に抱くもの 背に負うもの(3/14)
08/01/20 15:13:00 ep9crHNa
 

リューが、

啼いていた。


「ア、あ、ぁあアあaぁあアアア、あァAaァアアああAあ――!」


天が逆巻き、大地が堕ちる。
圧倒的な闇の力の前に世の全てを形作る理ががらがらと崩れていく。
魔王の咆哮に世界が共鳴しているのか。
そも、魔王とは混沌の化身である。
リュリルライアという人格は、言ってしまえばその混沌に張り付いた薄皮に過ぎないのだ。
リュリルライアは自らの意思を以って、その混沌から
わずかに魔力を汲み上げて操ることが出来る――その『わずか』でさえ世界最強の“海”。
では、リュリルライアという『蓋』を無くした時、いったいどれほどのマナが荒れ狂うことになるのだろう?

そこに、意思も感情もない唯の暗黒が溢れようとしていた。

かつてヒトは一度だけ、それを経験している。
魔王侵攻。
勇者によって食い止められたその時もごく小規模ながらも同じことがおこったという。
万物が闇に溶け、存在する確立が変動して消滅するという世界の終わり。


すなわち――事象崩壊である。


「リューさん!」

ようやっとジョンが叫ぶも、荒れ狂う轟風にかき消されて自分の耳にすら届かない。
ローラもフミナのことを忘れ、ひとまずリューを正気に戻そうと駆け寄ろうとする。
が、身体がぴくりとも動かない。
魔力に当てられて竦んだか?
いや違う。まるで身体がぴったりと収まる鋼鉄の箱に入っているような、
そんな閉塞感に肺が締め付けられるよう。
おお、なんということか。その戒めの正体は普段魔法障壁とよばれているものだった。
リュリルライアが闇の片鱗を以って自らに害を成す全てを拒絶する、
それが一帯に幾重にも幾重にも張り巡らされ、
空間を埋め尽くしてその場にいる全ての人間の行動を阻んでいたのである。

「ああァァアあ、Aぁあアああぁぁ、ああAaaああああァ―――!!!!」

全員、心臓を動かすのがやっとの中で――
しかし一人だけ、例外がいた。

469:腕に抱くもの 背に負うもの(4/14)
08/01/20 15:13:44 ep9crHNa
 
症状を診ていたジョンの足元からゆらりと立ち上がり、
魔力圧で千切れそうな嵐の中を踏みしめ、リューの元へと歩み寄る。

「ひゅ、ひゅうっ……は、ぁっ――」

ヒロトは血の気の失せた顔を歪め、それでも足を止めることなく、行く。

「嘘ぉ………」

絶句しているのは未だ動けずにいる全員、しかしフミナは愕然と呟いた。
信じられない。
フミナが毒針に使ったのは、かつて国ひとつを死の沼に変えたという
伝説の魔獣の牙から採取された史上最強の猛毒だ。
不死殺しとさえ言われるそれを直接体内に注入されてなお動くとは、あの男は何者だ?
――と、いうより『何』だ!?

事象崩壊が止まり、荒れ狂う闇が静まり始める。
リューは目を見開いてヒロトを見つめていた。その両頬を、涙がつたう。

「ヒ、ロ……ト?」
「……なに、やってるんだ。………ばか……」

小さなその少女を抱きしめ、笑った。
自分は大丈夫だと。そう示して、ヒロトは改めて気を失った。

「ヒロト!」

――どこかで、誰かが叫ぶ声がした。



………そもそも、ヒガシ・ヒロトなる人物は本来存在しない。
幼馴染みたるローラなら知っているだろうが、
ヒガシ・ヒロトとは読んで字の如く「東から来たヒロト」の意であり、
元々の彼は苗字となる家名を持っていなかった。
しかし仮にもヴェラシーラ王城に出入りするものとして
苗字がないのは不恰好だという意見からつけられた仮の名がヒガシなのである。
ヒロトはそれをそのまま外の世界でも名乗っているのだった。
だが、彼自身知らないのだろう。ヒロトの生まれと、本当の名を。
彼の出生を考えれば、父親がそれを知らせなかったのも頷ける話だった。

ヒロトの本名は――いや、本来名乗るはずだった名はヒロト・アヅマ。
それは、現ヒイヅルを治める王朝アズマに仕える武家に生まれた子の名でもあった。

470:腕に抱くもの 背に負うもの(5/14)
08/01/20 15:14:56 ep9crHNa
 
ヒイヅルは昔から内乱の絶えない国だった。――いや、それはもう過去の話だが。
ヒイヅルは海に囲まれた島国であり、その国には世界でも類を見ないほどの多くの土地神が棲んでいる。
その数、一説には八百万とも言われているほどだ。
その中には高名な魔獣だけでなく、天使や神族なども入り混じり、
しかもそれが狭い土地の中共棲していたというからとんでもない話である。

有名なところで言えば天使と同種族であるテング、聖獣コマイヌ、水龍ヤマタノオロチ、
北の大地にコロポックルがいれば、南の島にはシーサーがいた。
灼熱龍リオレイアにも負けないほどの強力な魔獣もいれば、人より遥かに小さな下級神族まで、
ここまで多岐に渡る土地神を持つ国は他に例がない。

その中で、隣人や身内には寛容な反面、他の部族に厳しいヒイヅルの民はそれぞれの土地神に仕え、
自らの領地を広げようと争っていたのだった。
中には鬼神シュテンドウジのように自ら長として戦場を駆けた土地神もいるというから驚きである。

だがある時、海を越えやってきた聖堂教会の使者が介入し始めたことにより、
ヒイヅルの世界観は一変した。

聖堂教会のもたらした知識と技術は、
狭いクニで暮らしてきたヒイヅルの民にとって仰天することばかりだった。
たとえば、魔王侵攻と勇者の物語だとか。
神族が司る奇跡の業だとか。
自分たちにはない圧倒的な魔法技術、
遥か遠くの景色を観る水晶や空を飛ぶ箒などのマジックアイテムだとか。

世界の広さを、知ったのだ。

そうなればもう、狭い国で争っている場合ではない。
ヒイヅルの勢力図は見る見るうちに変わり、統合と分裂を繰り返し、強い国を作るのだと躍起になった。
そして最終的には最も力のあった一族が他の一族たちを取り仕切る形となり、
ひとつの王朝が生まれたのである。

――それこそが、アズマ。

しかしヒイヅルを開かれた国にしようとするアズマに対し、
逆に国を外国の穢れから護るため、また仕えてきた神々のために
国を閉ざすべきだと考えるものたちも現れた。
サイと名乗る彼らは彼らでコミューンを作り、アズマに対するレジスタンス軍として対立を始めた。
これがヒイヅル最後の内戦といわれるセイホウの乱である。
アズマ軍は辛くもこの戦いに勝利を収め、統一を宣言したのだが、
サイはまだ各地でゲリラとして現れ、ヒイヅルの国政の悩みのタネとなっているのが現状だ。
それでも、彼らの中核となっていたサイの一族が絶えたことにより
彼らは事実上ただの烏合の衆となったのである。

471:腕に抱くもの 背に負うもの(6/14)
08/01/20 15:15:43 ep9crHNa
 
が。

近年になってヒイヅルより大陸へ渡り、遥か、遥か西にある大国ヴェラシーラから
サイの血を引く者が、よりにもよって勇者として世界に解き放たれたことを知ることになった。

ヒロト・アヅマ。

アヅマ家の裏切り者キョウと、そしてサイ家の恥晒しユウの間に生まれた忌み子だった。



「………と、いうことは……」
「そう。キョウとユウはお互い結ばれない恋をし、そして生まれたヒロトくんを連れて外国に逃れた。
 そりゃあそうよね、ヒイヅルにいたら親子共々八つ裂きだもの」
「……………………」

クシャスの旅館にため息が満ちる。
あの後、リューは我に帰り、ジョンに説得されクレイドラゴンを再召喚して
クシャスの宿までひとっ飛び戻ってきたのだった。
フミナも放っておく手はないのだが、とにかく今はヒロトを安静にさせなければならない。
何を使われたのかわからないが、症状から診るにおそらく高位幻想種の神経毒だろう。
それはジョンの“霊拳”と同じく体内のマナに異常をきたす最悪の毒物である。
いわば『生命』そのものに毒を流し込まれたに等しいのだ。

ジョンが看病し、ヒロトがひとまず落ち着いたとき、
観念したように抵抗もせずついてきたフミナがとつとつと語り始めたのは歴史の話。
それが、ヒロトが命を狙われた理由。
ヒイヅルのシノビである彼女が知る、ヒロトの出生の秘密である。

「対立するふたつの家に生まれた子だから、命を狙われたのか!?そんな――」
「……そう。でも、少し違うわ。重要なのは、ヒロトくんがサイの血を引いてるってことよ。
 さっきも言ったけどサイの一族は事実上、もう滅んでる。
 ヒロトくんはサイに生まれた最後の子ってこと。だから」
「サイの一族を根絶やしにするということか……何故、そこまで――」
「………………」

悲痛な面持ちで俯くリュー。
それもあるだろう。だが、本質は違う。
それは、王族であるローラには予想が付くことだった。

「ヒイヅルが恐れているのは、ヒロト様がサイとしてレジスタンス軍を統率しようとすることでしょう?
 いえ、そうじゃない。サイの末裔が生き残っていると知ったことで
 レジスタンスの勢いが増すのではないかと懸念している。
 少なくとも、存在するだけで王朝を脅かしかねない存在だと……」

472:腕に抱くもの 背に負うもの(7/14)
08/01/20 15:16:29 ep9crHNa
 
その冷静な口調に食って掛かったのはリューマであった。
その影にはクルミもいて、大人しくしている。

「は?なんだそりゃあ!?ヒロトにそんなつもりはねぇんだろ?だったら放っておいてやれよ!」
「ヒロトくんの意思は関係ないわ。レジスタンスがどう思うかだもの。
 それにわざわざ火の近くに油を置いておくような真似は見逃さない。それが古老たちってものよ」
「………………!!」

リューマは、覚えがあるのだろう。
ギシリ、と音がするほど奥歯を噛み締める。

「クソ爺どもが……!」
「同感。だから気が進まなかったんだけど……出会っちゃったからねー。本人に」

仕方ない、と肩をすくめるフミナ。
ローラは眉根を寄せた。
王族として、フミナの言うことはわかる。
ヒイヅルにとってヒロトは、居るだけで危険因子となりうることもわかる。
だが――やはりわかるだけだ。ヒロトを殺そうとしたこの少女を許す気にはなれなかった。
それに、フミナは何も許してもらおうなどと微塵も思っていないだろう。
彼女は彼女で、シノビとしての筋を通そうとしただけだ。

「――で?言い訳はそれだけか?」

だから、リューが紅の眼を向けても表情ひとつ変えないのである。

「貴様の事情、ヒイヅルの事情など知ったことか。
 ヒロトを殺そうとしたその報い、まさか受けずに逃げられるとは思っておるまい?」
「………まあね。あーあ、失敗したなぁ。焦らずに仲間のことも調べてから殺るんだった」
「貴方……!」

あまりに軽い物言いに、ローラのツインロールは怒りのままに帯電する。
リューも顔を歪め、漆黒のオーラを立ち上らせた。

「待ってくれ。フミナを殺そうっていうのなら、俺がそうはさせない。
 これは本来俺がやるべきことだったんだからな」
「……リューマ」

リューマはフミナを庇うように立ちふさがる。弟の広い背中を見て、フミナは目を丸くした。

473:腕に抱くもの 背に負うもの(8/14)
08/01/20 15:17:06 ep9crHNa
 
「さっきの話でやっとわかった。なんでフミナが里を抜けた俺たちを連れ戻しに来たのか。
 里に必要ってことは、俺たちにしかできない任務があるってことだ。
 でもサイの力が衰えてる今じゃそんな任務、そうそうない。
 ……でも、世界最強の勇者の暗殺、とかなら話は通る」

フミナは息を飲んだ。図星だった。
フミナ本来の任務は暗殺の引継ぎ。そのために、ここまで来た――。

「抜け忍っていっても俺は勇者として、クルミはその付き人としてちゃんと王朝に認められてるからな。
 今さら抜け忍だからどうのなんておかしいと思ったんだ」
「………………………」

リューマの隣に、寡黙な少女も立つ。

「クルミ、お前」
「……わたしも、暗殺に手を貸した………それに」

それに?

「相棒」

クルミは相変わらずの無表情――ではない。
少し、ほんの少しだけ、微笑んでいる。
それで、覚悟は決まった。

「ってわけだ。俺たちは逃げる。どうやら任務は失敗したみたいだし、
 何よりお嬢さんたち、おっかないしな。女の子は笑ってる方が可愛いぜ?」

逃げる?
可能だろうか。
この少女たち――いや、この燃えるような赤い髪の少女がとんでもない化物だということはさっき知った。
あれは敵うとか敵わないとかそういうレベルの存在ではない。
出会ってしまったが最期、生きるも死ぬも相手次第となってしまう絶対の捕食者である。
生き残るにはまず出会わないことが前提となり、そして状況は絶望だ。
彼女はここにいて、そしてリューマたちに殺気を放っているのだから。

………参ったな。

リューマは心の中で頭を掻いた。
この怪物少女の前では、捨て身でかかっても逃げる時間が稼げるかどうか。
それでも、命と技の全てを以って惚れた女とたった一人の肉親を護る。
ならば上等――男冥利に尽きる死に様だろう。

リューマは身を低くして腰の忍者刀に手を添え、
リューは変わらず、構えもせずに王者の風格でシノビたちの死を見つめる。

両者の緊張が弓を引き絞るようにぎりぎりと高まっていき、そして――。


474:腕に抱くもの 背に負うもの(9/14)
08/01/20 15:17:50 ep9crHNa
 
「………よせ。リュー、ローラ」


静かな声が、緊迫した部屋に響く。

「ヒロトさん……!?」

医者として患者を護らんと傍で拳を固めていたジョンが、驚いてヒロトを見る。
はたしてヒロトは、おぼつかないながらも身を起こし、
押し殺した、しかし聴くものを制する声で二人の少女の怒りを静めていた。

「ヒロト、だが!」
「いいからやめてくれ。俺は、お前たちにそんなことはしてほしくないし、する必要もない。
 ――俺は、生きてるんだから」

確かに、その顔色は悪いながらも死相は浮いていない。
呆れ果てた生命力である。完全な回復はまだ先だろう、しかしあの完璧な暗殺でも殺すことができないとなれば、
この青年を始末する術がいったいどこにあるというのか。

それにこの物言い。自分を殺そうとしたフミナたちを見逃すとでも言うつもりか?
力が全てと本能に刻み込まれている魔獣でもあるまいし、いったいどういう神経をしているのだろう。

「なんとでも言え。俺たちの仲間に一人そういうヤツがいてね。見習っただけだ」

リュー、ローラ、ジョンの脳裏にとあるドラゴン娘の顔が浮かんだ。
けらけらと明るく笑うその少女はご存知リオルである。
確かにリオルは過去ヒロトに殺されかけた、というか殺されたにもかかわらず
ヒロトと同じパーティで能天気に旅をしているが、
それはヒロトを許したわけじゃなくてジョンと一緒にいる間に
恨みつらみなんかどうでもよくなったというか、
そもそも状況が違いすぎるというか一緒にするなというか。
だいたい、リオルは初めの頃ヒロトに復讐しようとして襲い掛かっていなかったっけ?

「………とにかく、俺はフミナをどうこうする気はない。勿論、リューマやクルミもだ」

そういう、都合の悪い部分は全てすっ飛ばしてヒロトはそう言い切った。
お人良し、というのだろうか。こういうのも。
いやどっちかというと馬鹿とかアンポンタンとか土手南瓜とかそういう言い方のほうが合っている気がする。
とはいえ。

「参ったなー」

475:腕に抱くもの 背に負うもの(10/14)
08/01/20 15:18:36 ep9crHNa
 
フミナはふっと笑った。
許されてしまっては敵わない。
元々気の乗らない任務であり、久方ぶりに弟と再会したテンションに任せて
抜け忍宣言までしたというのにそのターゲットがのこのこ現れたために観念して任務再開、
なんとか弟の手を汚さずに済んだと思ったら暗殺に失敗して、しかもターゲットには許される始末。
アズマ王朝お抱えの諜報機関、月影の里で名を馳せたフミナとあろうものがこの無様とは、
忍の矜持もボロボロではないか。
――ま、それもいいか。
失敗してなんとなく気が晴れた。
肩の荷が下りたとはこのことだろう。
しかし任務が失敗、そして放棄したとなれば、この先フミナはどうなることやら。
やれやれである。でも、とりあえずなるようになるだろう。多分。

フミナはううん、と大きく伸びをするともそもそと座り込んでちゃぶ台のミカンを食べ始めた。
その余りにリラックスした行動に、リューたちはおろかリューマとクルミでさえ目を瞬かせている。

「お、おい貴様!何をくつろいでいる!?」

リューが激昂するも、フミナはひらひらと手を振って、

「んー?だってそっちの大将はあたしのこと許すんでしょ?だったらもうこの話は終わりじゃん」
「な!ヒロト様!あんなこと言っていますわよ!?」
「いいんじゃないか?その通りなんだし」

あんまりな態度にローラが抗議する。しかしヒロトは事も無げ。

「ローラ、ダメだこいつ!だいたい、放っておいたらまたヒロトを殺しに来る気だろう!」
「あはは、そんなことしないよ。だって虎の子のヒュドラの毒使っちゃったもん。
 アレで死なないんじゃ、あたしにゃヒロトくんを殺せる手段がないってことさね」
「ヒュド……なんですって!?」

その言葉にジョンが目を剥いた。

「知っているのかジョン?」
「ヒュドラですよ!
 かつて小国レルネに現れた伝説の大蛇で、
 あまりに強力な毒を持っていたためにレルネの地を死の沼に変えてしまったんです!
 その毒はヒュドラが倒されて500年たった今でも消えてなくて、
 レルネでは未だに草一本生えない不毛の大地が広がっているっていう!」

476:腕に抱くもの 背に負うもの(11/14)
08/01/20 15:19:13 ep9crHNa
 
ヒイヅルではとうてい手に入らない、伝説級の猛毒だ。
これには流石のリューマも半目で冷や汗である。

「………フミナ、ヒロトにそんなもん使ったのか?」
「うん」
「殺す気か!」
「だーから、殺す気だったんだってば」
「ヒロト様ー!あんなこと言ってますわよ!?」
「落ち着け、ローラ」
「……お茶………飲む…?」
「あ、ありがとうございます」

いつの間にかクルミはお盆を持って働いていた。
よく気が付くいい娘だ。きっといい嫁さんになるだろう。

「すまない、俺にもお茶をくれないか」
「俺は酒がいいなぁ」
「くつろぎすぎだろ!で、貴様は何みかんの筋をスッゴイ丁寧に取ってるんだ!」
「フミナは…………意外と几帳面……」
「クルミちゃん『意外と』って何さ!?」
「あら、お茶美味しいですわ」
「………存外……几帳面……」
「言い直した!しかも意味同じだ!!」

ぎゃあぎゃあ。

とてもさっきまで息をするのも苦しいほどの殺気で満ちていたとは思えない。
一部ぷりぷりしている少女もいないこともないが、
もうここに殺意だとか決死だとかそういう物騒な単語とは縁遠い、ただの賑やかな空間になっていた。
その変わりようがなんだかおかしくて、ジョンは思わずぷっと吹き出した。
無論、彼の仲間で一番陽気なあの少女が山から帰ってきて
部屋の襖を蹴り飛ばして乱入するのはそう遠くないことであり、
今夜この部屋はほとんど宴会会場になるのだが。


477:腕に抱くもの 背に負うもの(12/14)
08/01/20 15:19:47 ep9crHNa
 

騒がしかった彼らも疲れ果てたのかようやく静かになった頃、
空には大きな月が夜を煌々と照らしていた。
ここは旅館の屋根の上。
勇者たちはその天に浮いた杯を肴に、静かに酒を傾ける。

「……しかし、噂は本当だったんだな。最強の勇者ヒロト。ああ、この巡り合わせに感謝するぜ」
「感謝するのは俺の方だ。ヒイヅルの話、聞かせてくれてありがとう。不思議なもんだな。
 見たこともない、聞いただけの故郷を懐かしく思うのは」
「ん、感謝するならさー。俺とひと勝負」
「ダメです。ヒロトさんは、まだ全然本調子じゃないんですから」
「………主治医のセンセがそう言うなら仕方ねーけどさ」

男三人の酒盛りだった。
少女たちは寝静まったのか、それともひそひそと話しこんでいるのか。
まあ、こちらもお互い様なのだからどうあろうと知らん振り、である。

「ん。もう一杯いくかい」
「ああ、すまない」

清酒辛口、銘は奇しくも『魔王殺し』。
縁起でもない名前だが、実際にその魔王がひと舐めしただけで
目を回してひっくり返ってしまったと知ったら酒造の職人たちはどんな顔をするだろうか。
ヒロトは杯に満ちた酒をあおって、そんな想像に一人目を細めた。
そこへ、リューマが真面目な顔を向ける。

「ところでヒロト、あんたは本当にヒイヅルをどうこうする気はないんだな?」

その眼は鷹。
おちゃらけていたリューマのものとは違う真剣な眼差しは、
ヒロトの返答次第ではこの場での戦闘も辞さないと語っている。
たとえ相手の不調を突いての、彼の流儀から外れる戦いであったとしても。
それを受け止め、ヒロトは頷いた。

「ああ。俺はそんなことは望まない。サイを先導してアズマを潰すなんて――俺には遠い話だ」

それを聞きながら、ジョンはずず、と酒を啜る。

478:腕に抱くもの 背に負うもの(13/14)
08/01/20 15:20:20 ep9crHNa
 
実のところ、サイの思想とヒロトの願いは似ているのかも知れなかった。
ヒイヅルの民はもともと同じ土地に住む者とは結びつきが深い。
それはヒトに限らず、神族も魔族も関係なしだったという。
それが本当なら、まさにヒロトが望む世界そのものとも言えた。
ところがアズマがヒイヅルを統一してからはヒトは土地に棲む神々を遠ざけ始める。
聖堂教会の恩恵を受けるアズマは魔獣と神族を同格に崇めることはできなかったというわけだ。
土地神に仕えるサイにしてみればそれは純然たる裏切りである。
そこに、似たような思想を持つヒロトが介入したら――。

……だが、ジョンは何も言わずに月を眺める。
ジョンも今日、はっきりと認識した。ヒロトはそんなことに心を砕いている場合ではない。
ヒロトの役割はとんでもなく重いのだ、と。

「……そうか。ま、あの娘の傍にいてやんなきゃいけないもんな」

リューマは酒徳利を逆さまにして振りながら、ぼそりと低い声で呟いた。
ヒロトの目がすっと細まる。

魔王リュリルライア。
その意味は彼らが知っているよりも――おそらく、本人が自覚するよりも遥かに大きく深い。

なにせ、今日世界は滅びかけたのだから。

比喩でも誇張でもない、あのままリューが正気に戻らなかったら全ては無に帰っていた。
信じられない、しかし事実である。それを確信させるだけのことが起きたのだ。
この、たった一人の青年を喪っただけで、リューの心は簡単に闇を解放する。
おそらくはヒロトがリューを拒絶するだけで――リューは世界を滅ぼすだろう。

この勇者の双肩に、世界の命運がかかっているのだった。

「………別の意味で、ですけどね」
「大丈夫だよ。俺はそんなことしないし、リューだって世界を滅ぼしたりなんかするもんか」
「するする。っつか、今日したろ」
「それはあれだ。ちょっとびっくりしただけだって」
「びっくりして世界が滅んでたまるか!」

ヒロトの暢気な言葉に目を三角にするリューマとジョン。
そのサウンドのツッコミに、杯に浮いた円い月がゆらっ、と揺れた。



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