キモ姉&キモウト小説を書こう!Part7at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part7 - 暇つぶし2ch550:(4/4)
08/01/01 23:32:10 1VLATAyT
 そこまで考えて、いや、待てよ、と秋巳は思う。
 回答を出すまでに、騒いでもらって、
 「本当は自分からお願いしたいくらいだけど、こんな風に騒がれるのは本意じゃないから、なかったことにしない?」
 ―という限りなく本音に近い形かつ、彼女や周囲のプライドも傷つけない形に持っていけないかな。
 いや、やっぱ不自然か。憧れの人に好きって言ってもらって舞い上がれば、周囲が騒ごうが普通は付き合うことを選択するか。
 とにかく、他に誰が知っているかってことをいきなり聞いたら不自然かな。それでもなにかは言わなくちゃ。
 秋巳は思う。
 とりあえずは、お礼とか、喜んでいるってことを言ったほうがいいのかな。
「その、ありがとう。柊さんの気持ちは、嬉しかったよ。でも、ほら、いきなりだからちょっとびっくりしちゃってさ……」
「い、いえ、そんな。わ、私のほうこそ、ごめんなさい、いきなりこんなこと」
 ほんとだよ。
 でもまぁ、彼女も嫌々やらされてるなら、同情するけど。
 でも、どうやって不自然でないようにもっていけばいいのか。
「いや、ほんと。嬉しいんだけど、こういう経験初めてだからさ……、ちょっと、応えって言うか、なんていうのか、そのすぐ応えられなくてさ」
「えっ? あ、うんっ! さっきも言ったけど、いきなりだったのは自覚してるから、うん。ほら、だからね。急に返事求められても、困ると思うしさ……」
(失敗した……っ!)
 柊神奈の顔に、わずかに失望が走ったのをみて、秋巳は思った。
 とりあえず、回答を先延ばしにする旨だけ、先に伝えようと思ったのだが、その反応は彼女が考えていたものとは違ったらしい。
 当然自分が告白するからには、即答で受け入れるものだろう、くらいに考えていたに違いない。
 しくじった。
 多分、勿体つけやがって、何様のつもりだ、くらい『彼ら』も考えているのかもしれない。
 ああ! もう、だから嫌なんだ!
 言動、動作のひとつひとつが試されるような場にいることは、秋巳にとってものすごいストレスだった。
そもそもその場の状況すら、自分で推測して判断しなければならない。非常に苦痛だった。
「ほら、その、なんか、夢見たいで信じられないっていうか、現実味がないっていうか」
 その秋巳の取り繕うような言葉に、わずかに頬を赤らめると、また俯く柊神奈。
「え……、あ、うん。あの、ってことは、ちょ、ちょっとは、き、期待しててもいいのかな……」
 ―作戦の成功を?
 喉まででかかった言葉を、あわてて飲み込む秋巳。この態度を見る限り、彼女も進んで乗っかっているのかもしれない。
 秋巳はさらに気分が重くなるのを感じた。
「あ、そ、それじゃあ。また」
「あ、ちょ、ちょっと!」
 照れ隠しのように、あわててその場を去ろうとする柊神奈を、秋巳は慌てて呼び止める。
まだ、肝心の聞きたいことを訊ねていない。もう、取り繕う言葉を考えている余裕はない。
どうせ混乱してるってことで納得してもらえるだろう。
「え……?」
「あのさ、このことって、他に、誰か知ってたりするのかな?」
 秋巳の質問に、なんでそんなことを訊くのか不思議そうに首をかしげる柊神奈。
「あ、なんていうのかな。あんまり騒がれると恥ずかしいって言うか……」
「ううん。友達にもね。相談してたけど、それが誰か、までは言ってないし……。
 他にも、水無都(みなと)くんに相談もしようかなって思ったけど、
 やっぱりちょっと恥ずかしくって……。
 って、本人に直接言うほうが恥ずかしいよね!」
 えへへ、と自分の頭を小突いて笑う柊神奈。
 秋巳は、柊神奈のつっこみポイントはどうでもよかったが、気になる名前が出た。
 水無都くん―水無都冬真(とうま)―秋巳の唯一の親友とも呼べる人物。
 なんてこった。相談しとけよ! そうすれば、事前に対策がとれたのに!
 本日何度目かのつっこみを心の中で行う秋巳であった。


551: ◆a.WIk69zxM
08/01/01 23:33:32 1VLATAyT
投下終了。
まだキモいのは主人公ひとりですが。
いずれ。

552:名無しさん@ピンキー
08/01/01 23:34:21 hJPGou5n
よしわかった
続編を待ってるw

553:名無しさん@ピンキー
08/01/01 23:37:29 FLXYhdBh
寝る前に確認しておいてよかったw

主人公の性格が案外好きかも(´・ω・`)

GJです

554:名無しさん@ピンキー
08/01/01 23:39:00 UuoB0N0A
>>551
GJ!
キモ姉妹の行方も気になるけど、同級生も病んじゃうのか気になる

555:名無しさん@ピンキー
08/01/01 23:45:29 jPzxeS39
こういうマイナス思考の主人公は、大抵間違った方向に暴走して修羅場起こすからなぁ・・・
本当に修羅場的な意味でもキモ姉妹的な意味でも期待しちゃうよ

556:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/01 23:49:58 w+tElTVa
連続で申し訳ないのですが投下させて頂きます
季節的に合わないのですが、
ちょっと都合で下手をすると四月までパソコンに触れないもので、書きかけを仕上げました
キモ分(狂愛)は薄いです


557:チョコっと姉さん(シスター)
08/01/01 23:52:10 w+tElTVa
己の限界へと挑むことを戦いと言うなら、なるほど、それは確かにある種の聖戦だった。

「がつがつがつがつ・・・!」

戦場に友はなく、武器もなく、剣折れ矢尽きるまでもなく、元よりその身は単騎。
如何なる守りも身に帯びず、ただ信念を背負って臨む。

「ばくばくばくばく・・・!」

対して、敵は幾十倍。
己に託された想いを鎧と纏い、寡兵も単騎も容赦なく、等しく押し潰さんと吶喊する。
その一人一人が一騎当千、この日に命を散らすべくして集まった猛者どもだ。

「はぐはぐはぐはぐっ・・・!」

ならば彼我の戦力、その差は実に一と数万。
果たして如何なる戦士、軍師、賢者、英雄ならばそれに抗し得るのか。
敗北は必定。拮抗を望むことさえおこがましい。勝利など夢幻の彼方、屈服こそ必然。

「がふがふがふがふがふっ!」

故に、ボクはそれを奇蹟と呼ぼう。
ひどく薄汚れた、失笑ものの、この上なく馬鹿らしくて泥臭い奇蹟だ。

「もぐもぐもぐもぐもぐ────もげふっ!?」

最早それだけで暴力的な数的劣勢を前に彼女──姉さん──が選択した道は一つ。
突撃、突撃、突撃。
数で勝る相手に組み付き、鎧を引き剥がし、食い破る。単純で明快。
無理を承知で、無策を携え、無茶を笑って突き進む。

手には乾いた黒色がこびり付き、口元は汚れ、胃の腑から責めて来る吐き気に顔色は青く。
後から後から噴き出す汗は拭い切れず、またその暇もない。
傍目にも限界だった。
現に、戦場に銅鑼の音が響いてから半時間足らずで、姉さんが苦痛に身を捩るのもこれで三度目。

「~~~~~~~~~っ!?!?」

だが、諦めない。
とうに許容量は越えているはずなのに、
周囲に漂う鼻の曲がりそうな匂いとは違った焦げ付くような闘志を一層に燃え上がらせ、
喉に突き立った異物の排除へとかかる。

「っ!? っ、ぁ、っっ────!」

手刀で自身の首に喝を入れること数度。
雫の滲み出した目でボクを見詰めながら苦戦するうちに、叱咤された喉が動く。

「ん・・・? んっぐ」

ごくりと、姉さんを苦しめた異物が食道と直結した奈落へ敗れ落ちていく。

「すぅー・・・・・・はぁー」

558:チョコっと姉さん(シスター)
08/01/01 23:53:43 w+tElTVa
しばし、沈黙。
若干の呼吸の乱れを整え、数十分もの格闘の末に残った敵と相対する。
そう、最後の敵と、だ。

そいつは、今までの相手に比べれば、ひどく小さいヤツだった。
一回りどころか、体積で言えば数分の一以下である。唯一、姉さんが考えた作戦らしい作戦の結果がこれだ。
強敵は最初に、弱者をこそ最後に残す。
なるほど、圧倒的な物量差があるなら、倒すほど楽になっていく戦いの方が最終的にはモチベーションが保てる。
尻上がりの人間は段々と希望に近付くが、逆の場合は悲惨だ。


「いいぃぃぃいいいよぉぉおっっしゃぁぁぁああああーーーーっっ!!!」


ヴァレンタイン・デイ
聖なる二月十四日。
包装という鎧を剥がされ、部屋の中を耐え難い甘い匂いで満たし、
姉さんの手と口に黒い跡を残しながら食われて行った数多の女性からの贈り物たる戦士達は、
そうして姉さんの胃袋の前に敗れ去った。

『アンタ、何か甘い匂いさせてるわね。
 言っておくけど姉さんね、今日はとっても機嫌が良くないの。
 つまりこのイライラを抑えるためには糖分が必要なのよ。だからね?
 甘いもの持ってたら頂戴、つーか出しなさい。あるだけ全部。今すぐに。
 隠したら甘いものの代わりにアンタを食べるからね』

本日。
帰宅してから開口一番、背後に炎を揺らめかせながらそう告げた姉さんに、
ボクが無条件降伏したのを責められる人はいないと思う。
今日が何の日か忘れていたボクを、通学路や校門前、下駄箱、机の中、教室後ろのロッカー、
移動教室の後で戻って来た机の上、呼び出された職員室、放課後の部室、
返してもらった限定DVDのBOXの奥、
自宅の郵便ポスト、宅配便の包みの中と、ありとあらゆる場所で迎えたチョコの群。
否、軍勢。
もともと甘いものはあんまり好まないボクが、
むしろ安心と共に姉さんに選手交代したのは当然じゃないだろうか。
まさか姉さんが全部食べきるとは思わなかったけど。

「うっぷ・・・もう限界」

姉さんの方も流石にチョコの山とまでは想像していなかったに違いない。
何せ、部屋に持って帰ったチョコは大きな袋で二つ分くらいあった。
それを食べきる姉さんも凄いけど。
やはり辛いらしく、口を抑えてふらふらと立ち上がる。

「お姉ちゃん、もう上がるけど・・・・・・その前に、これ」

と、服の内側をごそごそと探って包みを差し出した。
多分、ボクの頭上には?が出たに違いない。

559:チョコっと姉さん(シスター)
08/01/01 23:56:40 w+tElTVa

「友達に材料の買出しに誘われて、ついでに自分で作ったんだけど、
 もう限界で食べられないからアンタにあげる。
 ヴァレンタインに女の子の手作りチョコを一つも食べないで終わるのは、流石に可哀想だし」

一応、自信作なんだから。
そう言って押し付けられた丁寧なラッピングのハート型が手に収まる。
反応に困ったボクをよそに姉さんはさっさと歩き、
リビングの扉に手をかけたところで振り返った。

「受け取ったからには、その・・・・・・ほ、
 ホワイトデーのお返し、期待してるんだからね!
 きっちり三倍返し! 出来なかったら体で払ってもらうわよっ!」

勢い良く扉が閉まり、階段を駆け上がる音。
上でばたんと音が鳴り、一転してしん、と静かになる。
何となく渡された綺麗な包みを弄びながら、ボクは思案した。

「ホワイトデー・・・・・・うーん。どうしよう。
 去年は姉さん、何もくれなかったのに一月経ったら急に怒り出すんだもんな。
 弟なんだから当然! とか言って。
 確か、プロレスだか柔道の技の実験台にされたんだっけ。
 体が密着したと思ったら絞められて意識落ちたし、
 結局何があったのか覚えていないんだよね。
 肌が汗ばんでたのと服が乱れてたような気はするんだけど・・・」

もしかしたら、今年はチョコをくれたのは牽制なのかもしれない。
去年であれなら、ちゃんとチョコをもらった今年に返さなかったらどうなるのか。
数時間も記憶が抜け落ちるような目に遭うのはごめん被りたいな。

「忘れないようにカレンダーにでも書いておこうかな」

うん。そうしよう。
思い立ったら有言実行、ボクも部屋に上がる。
姉さんのいる隣部屋からベッドの上を転げ回って悶えるような音がしたけど、
たまにあることなので気にしない。
一ヵ月後の日付に赤丸をつけてメモ。これで安心だ。

「よし」

ちなみに、姉さんのくれた手作りのチョコは美味しかった。
何だかんだ言ってボクの好みを把握しているのでビター系。
食べ慣れない味だったけど何かの酸味が効いていたのも良かった。
これはお返しも頑張らないといけないな。



そんなことを思いつつ、
何故か気が付くと三月のカレンダーがなくなっていて、
お返しを忘れたボクがしっかりと姉さんに怒られたのは後の話。
その晩に姉さんがボクを部屋に呼び出して、何故か睡魔に襲われて意識を失ったのはまた別の話。

560:名無しさん@ピンキー
08/01/02 00:00:03 EQbvZ16m
>>551
GJ!!
早くも続きが気になっている俺がいる。
そして、みんな明けましておめでとう。
今年もよろしく。

561:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/02 00:00:50 w+tElTVa
投下終了
姉は怒ったときだけ弟に対する時の一人称が姉さんになる、と変換を
書いてて何故かツンデレにorz

>>543の方
どちらかと言うとたまに現れて短期集中投下ですね、私
次は頑張りますorz

>>551の方
つ、続きがきになります。しばらく来れないのが残念。
乙でした

562:名無しさん@ピンキー
08/01/02 00:30:23 CBKG4/N8
相変わらずエロ書かねーのなww

563:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/02 04:11:21 k3OOUos8
おそらく今月最後の投下
ちょっと試験的な内容です

564:妹々かぶり
08/01/02 04:13:20 k3OOUos8
妹々かぶりという妖怪がいる。
人間の負の気や欲望から生まれた妖怪で、
読んで字の如くほぼ同時に生まれた妹の妖怪を頭にかぶっている。
または背負っていたり肩車していたりする。
特に人間に危害を加えたりはしない。
元となった願望の性質から攻撃性はないし、余りにもマイナーな欲望過ぎて弱いからだ。
正直、
妖怪であるおかげで物理攻撃が効かないという特性がなければそこらの不良に喧嘩を売っただけで死ねる。
限りなく近い体験をしたことがあるから間違いない。
そう。
何故オレがこんなにたかが一妖怪のことに詳しいのかと言えば、
それがオレ自身のことに他ならないからだ。

「ひまだねー、お兄ちゃん」
「ああ。暇だな、妹よ」

雨の降る山中、オレは肩車してやった妹と共に散歩をしていた。
特に目的はない。ただの暇潰しである。
寿命の概念を持たない妖怪は大部分が暇を持て余す。
本当は山の中より都会の町並みでも歩きたいのだが、
最近は人間の世界もやりにくくなり、
長時間年下の少女を背負っていたり肩車している者は不審者とされて捕まるらしい。
妖怪なので手錠など意味がないし、警官に姿が見えるとも思えないが、
たまにいるオレ達の姿が見える人間に騒がれると面倒なのでこうしているのだ。

「雨、いやだねー」
「まったくだな」

そう言いつつ、妹はピンクの傘を差し、
肩車している妹の脚を両手で保持するオレはずぶ濡れ。
風邪など引かないが鬱陶しい。
妹の傘も、高低差があり過ぎてオレには雨避けにならない。
かと言って妖怪、妹々かぶりの存在にかけて手は放せないために傘は持てない。
マイマイカブリみたいにカタツムリの殻でもかぶりたいね、ほんと。

「お兄ちゃん、さむくない? 雨に打たれて」
「妖怪なんだから関係ねーよ」
「ごめんねー。わたしだけ楽ちんしちゃって」

頭の後ろがもぞもぞと動き、背を曲げた妹の顔が覗き込んで来る。

「これがオレの仕事で、それがお前の仕事だ。気にするな」
「うんー。じゃあ、ありがと!」

妖怪だから腹は減らないし、試験も学校もない。
人間の娯楽は楽しめるが入手が難しい。
つまり暇である。それを潰すために山で散歩なんかしているのだが。
濡れた木の葉を高く掲げる木々の間を巡り、柔らかな土を踏みしめてただ歩く。
ふと視線を上げると、遠くから近付いてくる影がある。

「うゆ? 誰だろ」
「あれは・・・・・・兄馬(けいば)さんだな」

565:妹々かぶり
08/01/02 04:14:15 k3OOUos8
しばらくして、数歩分の距離まで相手と近付いた。

「どう、どう」

綺麗な高い声が響き、オレが足を止めるのと同時に相手も止まる。
目の前に二人。
一人は馬か犬のような四つん這いの姿勢で這って来た男。
口には沢山の穴が空けられた小さな玉を噛み、目は黒い革で覆われている。
妖怪の兄馬さんだ。
その上で傘を差し、湿気に重くなったくるくるの巻き毛を、
乗馬に使う鞭を持った手で憂鬱そうに撫でているのが妹さん。
視線が交わる。

「あら、妹々かぶりさんじゃございませんか。ご機嫌麗しゅう。
 と言っても、この天気では雅に欠けますわね」
「う・・・? うう゛っ、ううう゛う゛う゛!」

優雅な挨拶をくれた妹さんの下で兄馬さんが唸る。
多分、挨拶をしてくれたんだろう。

「おだまり!」

妹さんの手が霞んだ。破裂するような音。
振るわれた鞭が兄馬さんの尻を打つ。

「う゛ぉうっ!?」
「今は私が話している最中です。兄様は静かにしてなさいな」

言われながら、体を細かく揺らしている兄馬さん。
オレと妹のようにそういう願望が具現化した妖怪だとは聞いていても、
傍から見ていると真剣に痛そうである。

「だ、大丈夫ですか兄馬さん・・・?」
「心配はいりません。これでも私の兄でしてよ。
 百度打たれようと死にはしませんわ」

いや、死ななくても痛いものは痛いと思うんだが。
そんなオレの視線を意に介した風もなく妹さんが髪をかき上げる。

「はあ。本当に無思慮な雨ですこと。
 降るなら私が帰ってから降ればよろしいでしょうに」

ほんと、どんな願望が集まればこんな妖怪が生まれるんだか。

「妹々かぶりさん。そんな訳で私は急ぎますので、もう行かせて頂きますわね」
「え? あ、はい。それじゃ」

随分とあっさりだが、
引き止めて話し続けても兄馬さんの打たれる可能性が増えるだけなので簡潔に済ます。

「では、御機嫌よう」

そう言って妹さんが兄馬さんをもう一度叩くと、
兄馬さんは肘と膝を地面につけながら去って行った。
あんな移動の仕方、きっと慣れないうちは相当に辛いに違いない。
兄馬さんと同じ妖怪に生まれなかったことを内心で感謝して、オレも歩き出した。

566:妹々かぶり
08/01/02 04:15:45 k3OOUos8



兄馬さん達から完全に見えなくなるくらい離れてからすぐ。
それまで無言だった妹が、肩に乗せた足とオレの首の隙間を狭めてオレを締め上げてきた。

「ぐえ」
「お兄ちゃん」

左右から動脈が圧迫されて呻いたオレの首に、更に妹の指がかかる。

「兄馬さんの妹さんのこと、変な目で見たでしょ?」
「ぐ・・・変、なって・・・どんな・・・だよ」

ああ、またか。
そんな思考を脇において妹を見上げた。
降りしきる雨の中、
水滴と共に光を遮る傘を背に、影を帯びた妹の顔で瞳が輝く。

「えっちな目」
「そんな目でなんか・・・見てねえ・・・っての」

首にかかる圧力が増した。

「ぐっ!?」

肺に溜め込んだ空気が漏れ出し、痺れ始めた意識の中で雨音が遠ざかる。

「嘘」

頬を打つ雨粒に混じって声が降る。

「お兄ちゃんがああいう人が好みだって知ってるもん。
 どうしてそういう嘘をつくの? ねえお兄ちゃん。
 今まで何回も言ったよね? 嘘つくのはやめてって。
 お兄ちゃんとわたしは一心同体なのに。ダメ。わたしに秘密なんて絶対ダメ。
 お兄ちゃんのことでわたしが知らないことなんてあっちゃダメなの。
 だから教えて。ちゃんと答えて。
 お兄ちゃん、えっちな目、してたでしょ?」

確かにオレはああいうちょっと気の強い女が好みだ。
だからってそれがそのまま色目を使うことにはならない。
オレに関係なく、妹はいつもこうなのだ。
妹は同性と会話しない。異性とも会話しない。
例外はオレだけ。
そして、オレがオレにとっての異性、つまり女と会話することを何より嫌う。

567:妹々かぶり
08/01/02 04:16:10 k3OOUos8

「聞いてるの? お兄ちゃん。
 わたしがこんなにお兄ちゃんだけを思ってるのを知ってるくせに、
 他の女に色目なんか使って、それにわたしが怒ってるのにそれも無視するの?」

ぎりぎりと細い指がオレの首に食い込む。
更に両足で挟まれ圧迫され、段々と呼吸も苦しくなってきた。
妹を振りほどくことは出来ない。
妹をかぶる、乗せているからこその妹々かぶりだ。
それを放棄した瞬間にオレは消滅し、半身である妹も死ぬ。

「あは。あはは。
 お兄ちゃん、首をしめられて苦しいのにわたしの手をどけようとはいしないんだね。
 どうしてかな? うっかりわたしを振り落としたらお兄ちゃんも死んじゃうから?
 それとも────お兄ちゃんが死んだらわたしも消えちゃうから?」
「そう、だよ」

まだ死にたくはない。が、妹が死ぬような真似はしないとも決めている。
生まれた時から一緒なのだ。
妹々かぶりは背負う兄と背負われる妹で成り立つ妖怪。
どちらかが欠けても生きては行けない一蓮托生。
それを抜きにしても、オレが妹を殺すような真似をするはずがない。

「あはっ♪」

オレの答えに、
最初からそれを聞くためだけにオレの首を絞めた妹が満足して手と足を緩めた。
細くなった呼吸が元に戻り、くらくらする意識の中で五感が回復を始める。

「そうだよね? だってお兄ちゃんの一番はわたしだもん。
 生まれた時からからずっとずうっと一緒に生きて来たんだから決まってるよね。
 わたしがいないとお兄ちゃんは死んじゃうし、お兄ちゃんが死ねばわたしも死んじゃうもんね?」

雨音に愉快げな声が混じり、首を絞める代わりに頭に抱きつかれた。

「大好きだよ、お兄ちゃん。じゃあ、行こ?」
「・・・ああ」

また歩き出す。
立ち並ぶ樹木はずっと先まで続き、まだまだ散歩が終わらないことを告げていた。

「でもね、お兄ちゃん? わたしはお兄ちゃんを他の女に奪われるくらいなら死ぬよ。
 わたしたちは二人で一つ。生まれるのも死ぬのも一緒だもん。
 わたしがお兄ちゃんを一番大切に思ってるのに、
 お兄ちゃんがそうじゃなくなったらおにいちゃんを殺してわたしも死ぬ。
 お兄ちゃんの上から降りて、お兄ちゃんが消えてわたしも一緒にこの世からいなくなるの。
 そうすればきっとあの世でもそばにいられるもんね」

妖怪に死後の世界があるとは聞かない。
だが、妹の声を聞きながらオレが歩く木々の間はどこまでも続いているようで、
何となく冥府や地獄に続く黄泉平坂のようにも思えた。
まあ、どの道関係ない。
オレは妖怪、妹々かぶり。嫉妬深い妹を乗せて歩くだけなのだから。

568:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/02 04:17:38 k3OOUos8
投下終了
皆さん、よいお正月を

569:名無しさん@ピンキー
08/01/02 06:05:56 Yk8TA3Lv
大量投下キテタワァ*・゚゚・:*・゚(n'∀')η.*・゚゚・:*・゚

570:名無しさん@ピンキー
08/01/02 07:12:14 wszZa0lv


571:名無しさん@ピンキー
08/01/02 07:29:59 5x0/fYDk
>>551
みなと、秋巳と聞いてショタっ娘が思い浮かんだのは俺だけでいい

>>568
連作、GJです。

572:名無しさん@ピンキー
08/01/02 07:42:22 k3OOUos8
すいませんorz 話の中で辻褄が合わなくなるので
>ちなみに、姉さんのくれた手作りのチョコは美味しかった。
>何だかんだ言ってボクの好みを把握しているのでビター系。
>食べ慣れない味だったけど何かの酸味が効いていたのも良かった。
>これはお返しも頑張らないといけないな。


ちなみに、姉さんのくれた手作りのチョコは美味しかった。
これはお返しも頑張らないといけないな。

に脳内で変換して下さい。うあああやってしまった。

573:名無しさん@ピンキー
08/01/02 10:28:11 HRmzOk0H
>>571 よう、俺

574:名無しさん@ピンキー
08/01/02 17:10:08 C8R3Fp5O
>>568
新年明けましてGJ

575:名無しさん@ピンキー
08/01/02 19:48:39 jyVUL+19
>>551
GJだができればタイトルをちゃんとつけて欲しい。
無題の作品は保管する際結構扱いに困る。

576:名無しさん@ピンキー
08/01/02 19:53:23 3EW5Osz3
>>568
すばらしくGJ!なんて裏山しい妖怪なんだ…
しかしけしからん!まったくけしからん!ちょっと裏山で妹々かぶり探してくる

577:名無しさん@ピンキー
08/01/02 20:46:57 AiAKDJwC
ヤンデレは心のオアシス

578:名無しさん@ピンキー
08/01/02 23:35:46 CXbWppB4
カミーユ「遊びでやってんじゃないんだよ!
     キモ姉は力なんだ! キモウトはこの宇宙を支えているモノなんだ!
     それを、それを、こうも簡単に読めるのは、それは、それはすごい事なんだよ!
     何が楽しくてSSを書くんだよ! キサマのようなヤツは神だ!
     連載を書かなくてはいけないヤツだ!」





カミーユ「あ……? はははは……。
     彼女が大きな刃物を持って近づいてくる……。あはははは……大きいなぁ! ノコギリかなぁ? 
     いや、違う、違うな。ノコギリはもっとバァーって血飛沫が出るもんな! 
     暑苦しいな、ここ。おーい、この鎖を外してくださいよー」

579:名無しさん@ピンキー
08/01/03 00:29:19 JTD65rlI
シン・アスカのプッツンとか見ると、案外ヤンデレはMSパイロットに向いてるかも
(近親婚可の法改正含めた)全面的バックアップの下に、
兄や弟を報酬にすればキモ姉妹は戦場で凄まじい活躍をしそうな希ガス
むしろMSの中枢で兄や弟が巨大試験管みたいなのに入ってたりして・・・

しかし考えてみると現代以外やファンタジーでのキモ姉妹作品って少ないな
もう少し裾野を広げてもよさそうなもんだが

580:名無しさん@ピンキー
08/01/03 01:00:15 YAy9YXbb
なんだろうなあ…ファンタジーだとなんでも有りみたいなとこがあるからか?
法や常識や倫理を身近に感じるからこそハラハラワクワクするとか

581:名無しさん@ピンキー
08/01/03 01:11:41 ZwxVl8rK
「これが私の…ガンダム…」
「そう、君の新しい剣。OT-10、オトゥートガンダムだ。
君は、弟くんのために世界を変えたいんだろう?
だったらこの剣を手に取るべきではないか?」
「……わかりました。
全ては弟くんのために……」


彼女はまだ知らない。この先に待つ戦いが彼女と弟の運命を激しく揺さぶるということを……


こんなん?

582:名無しさん@ピンキー
08/01/03 01:14:52 ZwxVl8rK
……の使い方間違えたorz
ごめんなさい、そしてさよなら

583:名無しさん@ピンキー
08/01/03 01:24:15 JTD65rlI
ファンタジーならではの表現とかもありそうだけどなー
本気でキモ姉妹が兄・弟以外の人類全滅させましたとか、
SF的に世界はキモ姉妹のクローンで満たされて兄・弟だけしか男性がいないとか
キモ姉妹だけのハーレムとか現代風じゃ無理だし
幾つかあった気がするけど幽霊ネタもいいよな

つまり何が言いたいかと言うと、キモ姉妹の可能性は無限大

584:名無しさん@ピンキー
08/01/03 02:26:55 77zblm7a
>>583待て!言いたいことはなんとなく分かるが落ち着け!

585:名無しさん@ピンキー
08/01/03 03:43:31 JTD65rlI
ちゃんともちついたよ
・・・あれ?

586:名無しさん@ピンキー
08/01/03 06:30:05 85b09EkA
市×信長とか
ルクレツィア×チェーザレ(ボルジア)とか
歴史IFものはアリかいの?

政略結婚させられるたびに夫が不審死を遂げるルクレツィア・ボルジア
世間の人は兄チェーザレによる陰謀を噂するが
実は兄の許へ戻りたい一心のルクレツィアが
夫に毒を盛っていた、と

587:名無しさん@ピンキー
08/01/03 10:05:18 xaexci7l
ボルジアがピンとこない・・・

588:名無しさん@ピンキー
08/01/03 10:35:57 wiS5IHti
古代ギリシャにいたと言われる伝説の部族。
その部族は女性のみの構成で成り立っており、子孫を残す場合は攫うか戦争で得た彼らを使う。
騎馬民族ゆえ戦闘では騎馬に跨り長弓を使いこなすその強さは神話クラス。
全能神でも戦神でもなく、狩人神を奉る彼女たちは・・・


「た、大変だー!やつらが、やつらが来たぞおおおおお!!」
「戦える女は武器を取れ!該当する男と子供たちは神殿へ逃げるんだ!」
「え・・・やつらって?」
「お前は先月買われた奴隷だな・・・そうか、お前も該当するのか、さぁ、逃げるんだ!」
「いえ、僕も戦います!」
「馬鹿を言うな!やつらの目的はお前のような男なん(ビュッ!)ぐえっ・・・」パタッ
「戦士さん!しっかりしてください戦士さん!この矢を放ったのは・・・お前か!?」

「えへへへへ、お姉ちゃんが助けに来たよ?さ、一緒に帰って国でたくさん気持ちイイことしよう?」
「お前たちが伝説の女部族、アネゾネス・・・」



という電波が新年早々舞い降りた。

589:名無しさん@ピンキー
08/01/03 10:44:55 y9AgtAZG
その電波を(ry

590:名無しさん@ピンキー
08/01/03 14:01:33 qpo/KnnD
是非僕を連れてって!

あ、キモートリア族の方がいいかな?

サクッ

(へんじがない。ただのしかばねのようだ)

591: ◆a.WIk69zxM
08/01/03 14:47:59 0jWN78la
投下します。
>547-550 のつづき。
非エロ。6レス予定。

592:__(仮) (1/6)
08/01/03 14:52:32 0jWN78la
如月秋巳が、本人にとっては厄介ごととしか思えない告白を受けた翌日。
お昼を挟んで、現国、日本史、古文と彼にとっては苦手極まりない授業を乗り切ってから、放課。
秋巳は早速、彼の小学校時代からの幼馴染である、水無都冬真を呼び出していた。
水無都冬真は、一言でいってしまえば、秋巳とはある意味対照的な性格をしていた。
彼にとって得意な分野は周囲に対してより大きく見せ、苦手なことはより小さく見せる。
いわば、アピール上手。世渡り上手。クラスのヒエラルキーでは、まず最上位の一角には位置する人間。
交友関係も一部を除いて、浅く広くが基本。
彼の友達の友達を辿れば、学年の任意の生徒に辿りつく。
さらにその友達を辿れば、おそらく学校全部をカバーするであろう。
そんな彼だが、小学校三年のときに秋巳と一緒のクラスに配属されるという縁があってからは、
なぜだかお互い気があった。
水無都冬真は、秋巳のことを地味で陰気な人間だとレッテル張りをしなかったし、
秋巳もいわゆる『クラスの人気者』というのは、付き合う人間としてはどちらかというと苦手なタイプとしていたが、
彼と付き合うのは心地よかった。
秋巳は彼の前では、あれこれ考えず素でいられたし、水無都冬真も彼に対してはいい意味で気遣いがなかった。
そんな彼が、水無都冬真を呼び出したのは誰もいない屋上。
五月にしては、まだ少し肌寒い風がわずかに吹きぬける、わずかに赤みがかった青空の下だった。
秋巳が水無都冬真を先導して、屋上の扉を抜けて。そのまま校庭の反対側、校舎裏中庭の見えるフェンスの前。

「なにさ。こんなところに改まって呼び出すなんて。あれか。あれなんか。
ついに俺と椿(つばき)ちゃんの仲を、認めてくれる気になったんか?」
水無都冬真に背をむけたまますぐに話を切り出そうとしない秋巳に向かって、そう尋ねる水無都冬真。
椿というのは、彼の妹―如月椿。高校に上がる前くらいから、水無都冬真は、やたらと彼の妹にご執心にみえて、
下手すれば秋巳のことを『お義兄さん』とでも呼びかねない勢いだった。
「ん? ああ、それについては、冬真が椿と一緒に僕の前に来て、土下座したときにでも、応えてあげるよ」
制服の襟を正して向き直った秋巳に、すぐさま屋上の硬いアスファルトの上に土下座をかまして
制服のネクタイに手をやり居住まいを正す水無都冬真。
「おっ、お義兄さん! ここまで椿さんを育てていただいたご恩は決して忘れません。
椿さんは、椿さんはボクが必ず一生守り抜いて、一生幸せになることを誓います!」
「一生幸せになるのって、冬真が?」
「当然」
左手を地面についたまま、右手を握り締め胸に当てて、なにを当然のことをとばかりににこやかに破顔する水無都冬真。
その表情は、これ以上ないくらい自信に満ち溢れていて。
「ダメ。落第。失格」
即却下。
「なんでっ!」
「日本語が不自由だから」
「アッ……アイ、ラブッ、ユー、フォーエバー!! ……ツバキ?」
「ついでに、英語も不自由だから」
「おっ、おまえなぁ。惚れた女を一生幸せにします! なんて、いまどき古臭いんだよ。
いまの時代は、惚れた女と一緒になれば、己が一生幸せになるっ!
くらい言い切らんと新鮮味がないし、そこに女はキュンとくるんだよ!」
「いや、ポイントそこじゃないし。さっきの台詞を椿に吐いてキュンとさせてから、
もう一度椿と一緒に来たら?」

593:__(仮) (2/6)
08/01/03 14:55:47 0jWN78la
「ばっか! おまえ、椿ちゃんはいつでも俺の心のなかにいるんだよ! すでにキュンキュンなんだよ!
 今朝も優しく『おはよう』って起こしてくれたし、
 『ほらぁ、早くしないと遅刻しちゃうよ!』って、一緒に登校してきたんだよ!
 んで、帰ったら『おかえりなさい』って三つ指ついて迎えてくれて、
 『今日は、北海道産の牛肉コロッケ(商品名)でご飯にします? 愛知産の開放燃焼型湯沸器でお風呂にします?
 そ・れ・と・も、コウノスケさんのファンヒータで一緒にお休みになります?』って囁いてくれるんだよ!」
「そのまま、ふたりで永遠の幸せに浸れるといいね」
「あぁん! 嫉妬か。 このヤロウ! 椿ちゃんがおまえには冷たいからって、嫉妬か。 妬みなんだな!
 愛しの椿ちゃんは、僕ちんにはそんな甘い言葉囁いてくれないのにって、僻んでるんだろ!
 このブラコン! このブラジャーコンプレックス! ブラジャーコンプリーティスト! 一枚よこせよ」
 両膝をついたまま、秋巳を指差しながら、口角泡を飛ばす水無都冬真。
「いや、それいうならシスコンだし」
「じゃあ、シスコンでいいよ。だから、ブラジャーは忘れんなよ。椿ちゃんの。できれば脱ぎたて」
 滾る思春期の欲望を微塵も隠そうとしない水無都冬真。
「でさ、呼び出したのはさ……」
「無視すんなよ! 俺が折角、切り出しやすい雰囲気作ってやってんだから感謝しろよ!」
 水無都冬真は、眉根を寄せて不満げな表情をして立ち上がり、膝についた汚れをパンパンと払った。
 それから秋巳は話した。昨日起こった彼にとって迷惑極まりない出来事を。
 ともすれば―聞く人によっては―自慢話としか受け取れないような話を、
水無都冬真は、んはー、へー、ほー、と相槌を打ちながら非常に興味深そうに聞く。
「で、おまえとしては罰ゲームで柊神奈ちゃんが告白してきたんじゃないかと?」
「ん? まだ、僕の見解は言ってないけど」
 秋巳は、できるだけ主観を省き、客観的な説明しかしていなかった。
「はん。おまえが、その告白をうけて考えそうなことは大体想像できるわ。
 『クラスのアイドルの柊さんが、ボクちんに告白してくるなんてありえない!
 きっと罰ゲームなのね。そうなのね! じゃなかったら、
 親友の格好良くてイけてる冬真くんに近づくために、
 ボクちんを踏み台にしようっていうのね! なんて恐ろしい子……!』
 ぐらい考えたんだろ?」
「僕のなかでは、冬真が恐ろしい子だけどね」

「そんで、おまえはどうしたいわけ? って、まあ、大体想像つくけどな。
 罰ゲームかどうかは別として、柊ちゃんがおまえに興味を無くしてくれればいいんだろ?」
 さすがは付合いが長いだけある、と秋巳は思った。
 水無都冬真は、普段はおちゃらけているように見えて、
秋巳の考え方や嗜好をよく把握していたし、こういうときはズバリ本質を突いてくることが多かった。
 翻って自分はどうだろう。秋巳は思う。
 自分は冬真が秋巳を把握しているほどに、冬真のことを判っているだろうか。
 水無都冬真の常の物言いは、好き放題言っているようで、なかなか本心を見せない。
 それも本心を隠しているのではなく、不必要な過剰な装飾のなかに本心を紛れ込ませて
見えにくくしているように思える。
 木を隠すなら森の中。
 先ほど秋巳が言った『冬真は恐ろしい子』は、あながち冗談でもなかった。
 それでも秋巳は水無都冬真のことを親友だと思っていたし、
好悪の感情でいえば明らかに好意を持っていた。
 基本的に、他人に対して無関心な秋巳にとっては、家族である椿を除いて、
唯一気の置けない相手といえた。


594:__(仮) (3/6)
08/01/03 14:58:50 0jWN78la
「しっかしなぁ。あれだぞ、あの柊ちゃんだぞ。柊神奈。成績優秀で容姿端麗、
 運動神経微妙にして、『一家に一人!』クラスのアイドルの柊ちゃんだぞ?
 それが告白してきたんだぞ? 俺だったら逃がさないね。キャッチ&フィニッシュよ。
 例え罰ゲームで告ってきたとしても、偽装期間中に惚れさせるね。
 そんで罪悪感に苛まさせるね。向こうが本気になったところで真実暴露させて、リリースよ。
 んで、一生心に癒えない傷を負わせるの。考えるだけでゾクゾクしねぇ?」
「鬼だね。椿は鬼畜な人間嫌いだけど?」
「…………」
「…………」
「……あ、いや。待て。全部聞け。やっぱり忘れられないんだよ。
 付き合ってた間の楽しい思い出のことが。そんで、今度はおれから告白するわけだよ。
 『もう一度、はじめからやり直しませんかって』 そこでエンディングソングよ。
 間違いなく百万人が泣くね! 全米が震撼するね」
「確かに泣けるね」
 いじましいまでの水無都冬真の姿が。
「と、とにかくさ! おまえが態度決めんのは、
 罰ゲームかどうかがはっきりしてからでもいいじゃね?」
「いや、そこは重要じゃないんだけど……」
「周りに好奇の目に晒されるのは変わらない、からか。
 でもさ、もう柊に告白されたってだけで、そこは避けられないんじゃないのか?
 ましてや、罰ゲームならなおさらだろう」
「いや、隠れてやってくれてるんなら別にいいし。
 どちらにせよ一過性だから、できるだけ短く、軽くしたいんだ」
 秋巳は言う。
 自分を表立って嘲笑の舞台に上げないなら、別にそれはいくらやってもらっても構わない。
そもそも、普段からある程度はされているだろうし。
 だから、秋巳にとっては、できるだけ早く柊神奈含めて彼らに飽きて欲しかった。
罰ゲームでなければ、『彼ら』が単に、柊神奈ひとりになるだけの問題だった。

「くわっ! クールだねぇ。なにこのクールちゃんは。
 ボクちんは、クラスの可愛い女の娘に告白されても嬉しくもなんともありません。
 迷惑なだけってか?」
「いや、本気で好意を寄せられてるなら、僕だって嬉しいと思うよ。
 人並みに性欲とかあると思うし」
 でも、それを上回る彼の『幸せ』を求める想いのが強いだけ。
単に、優先度に従って行動が決まっているだけ。
 そもそも、柊神奈が本当に『如月秋巳』を好きだったとして、彼女の想いは否定しないが、それは如月秋巳ではない。
 秋巳はそう思っていた。

「だったら、いいじゃん。付き合ってみれば。ダメだったら別れりゃいいだけじゃん?
 俺にはおまえが怖がっているように思えるぞ? 『あの葡萄は―』って。
 目の前にまでぶら下げられてるのに」
 秋巳はぎくりとした。
 その水無都冬真の台詞は、秋巳のなかで自分でもはっきり認識していないような本心を
ある意味えぐるような言葉だった。
 水無都冬真は、どういう意味でいまの言葉を紡いだのか。
 表面上の意味だろうか―それとも、そこまで自分の本心を掴んでいて?
 秋巳がなにを恐れているのか。
 あの葡萄は―。

595:__(仮) (4/6)
08/01/03 15:01:30 0jWN78la
 自分でもあまり自覚していない恐れを突きつけられた秋巳は、慌てて話を戻す。
「あのさ。なんか話が、罰ゲームでないことが前提になってない?」
「お? そうか? んなら、まず、俺が柊の告白が罰ゲームかそうでないか調べてやるよ。
 そっからどうするか決めようぜ。ってか、柊には昨日おまえなんて応えてるの?」
「いや、その場で断ったりとかしたら、彼らの反感を買うと思ったし、
 『気に食わないって』余計に標的になりそうだと思ったから、保留してる」
「てか、その断る前提はどうよ? でも、今日の段階では俺のところには
 柊ちゃんが告白したって話すら入ってきてないからなぁ」
「彼女は、あくまで『誰にも話してはいない』とは、言ってたよ。
 一部で秘密裏に進んでるんじゃない」
「いやだから、なんで罰ゲーム前提よ? で、秋巳、なんか対応策とか考えてんのか?
 罰ゲームであった場合とか、そうでない場合とか」
「いや。具体的には。でも、基本方針は変わらないよ?
 罰ゲームとかそうでないとか関係なしに。
 どうしたら彼らの興味が別に移るか、だから」
「おっまえ、ほんと冷徹だよな。彼女の気持ちが本当だったらどうすんだよ?
 想像してみろよ。もし、柊ちゃんの気持ちが本心だったとしてだよ。
 まぁ、ちょっと想像力を働かせるために、柊ちゃんを椿ちゃん、秋巳を俺に置き換えてみようか。
 んで、椿ちゃんがなけなしの勇気を振り絞って、必死の思いで俺に告白するわけだ」
「椿は、勇気凛々だと思うけど」
「いいから! 黙って聞けよ。 えっと、椿ちゃんが夕日の差し込む誰もいない教室で、
 頬を赤らめて震えながら俺に告白するところまで話したな? ん。で。俺が冷たく切り捨てるわけだ。
 『一緒に帰って噂とかされると恥ずかしいし……』。ショック! 椿ちゃんショック!
 そのまま窓を開けて四階からダイブしかねないほど、ショック! なわけですよ。
 おまえ、椿ちゃんにそんな悲しい思いさせていいのか?」
「悲しい思いさせてるのは、冬真だし」
「ばっか! 例えだろう。実際の登場人物はおまえだ!」
「じゃあ、悲しんでるのは椿じゃないし」
「ああ! もう! ああ言えばこう言う! おまえ、そんなんだと女の娘にもてないぞ!
 女の娘に告白されるなんて夢のまた夢だっ!」
「あ、椿」
 秋巳がひょいと水無都冬真の肩越しに、顔をあげる。
「でも、そんなおまえでも俺は見捨てないからな! おまえの義理の兄貴として!
 椿ちゃんも安心していいぞ!」
 秋巳の肩を右手でバンバン叩きながら、後ろを振り向く水無都冬真。
 背後には誰もいない。


596:__(仮) (5/6)
08/01/03 15:03:11 0jWN78la
「あれ?」
「落ち着いた? 冬真」
「いや。おれは一年365日、一日24時間常に冷静沈着KOOLだし。
 で、椿ちゃんは? 俺に振られてショックで窓から飛び降りようとしてる椿ちゃんは?」
「全然落ち着いたように見えないね。まぁ、いいや。
 でさ、なんかいい案ないかなって相談したいわけさ」
「落ちこんだ椿ちゃんを慰める?」
「いや、もうそこから離れようよ……」
「椿ちゃんがいないならもうどうでもいいよ……」
「そんな、不貞腐れないでも……。椿は、水無都さんっていつも元気ですねって言ってたぞ」
「えっ……? そう? 椿ちゃん、いつも元気な俺が好きだって? いや、参るな。
 しょうがないなぁ、このダメ兄貴は。そこまで煽てられちゃ、協力するしかないか!」
「煽てと判ってるのに協力するんだね」
「まあな」
 頷いて、女の娘だったらときめくかもしれない爽やかな笑みを浮かべる水無都冬真。
「ま、おまえの信念はそう簡単に揺るがないみたいだし、
 俺でできることなら協力はしてやるさ。
 おまえの気持ちも判らないでもないし。俺だって怖いからな」
「え? 冬真が?」
「ああ。なんとなくな。例えるなら、犯罪者に対して、決定的な証拠を握っているのが自分だけで、
 でもその証拠を突きつけたら最悪その犯罪者は死刑になるかもしれないっていうときの怖さかな」
「全然よく判らないけど、ありがとう」
 とりあえず、お礼をいう秋巳。
 いつもそうだった。秋巳が困っているときには、
なんだかんだ言って、最後には助けてくれるのが水無都冬真だった。
「ああ。椿ちゃんにも報告忘れんなよ。
 今日も格好良くて偉大な冬真さんに助けていただきましたって」
それももう、水無都冬真の口癖のひとつのようになっていた。




597:__(仮) (6/6)
08/01/03 15:06:56 0jWN78la
 その後。水無都冬真が提案した内容は。
「まあ、とりあえず、その告白が罰ゲームか、そうでないかは少なくとも調べるか」
 秋巳としては、罰ゲームであろうとなかろうと、
柊神奈の興味が別へ移ってくれればそれで構わなかったが、特に異存はなかった。
「で、だ。もし、柊ちゃんが、本当に秋巳のことを好きだったんなら、
 俺の魅力で柊ちゃんをめろめろにしてやるよ。
 柊ちゃんと俺が付き合えば、少なくともおまえは好奇の的に晒されないだろ?」
「それはいいけど、冬真はいいの? それで」
 秋巳としては、水無都冬真の提案はありがたかったが、自分の意志を通すために、
彼の気持ちを無視して彼だけが犠牲になるようなことはしたくなかった。
 水無都冬真の台詞は、他人が聞けば、なんて傲慢な物言いだろうと思うかもしれないが、
彼なら柊神奈を振り向かせることは可能だと、秋巳はなんの疑問もなく信じていた。
 しかし、そこに水無都冬真の意志は存在しないのではないか。
 そう考えるところからも、秋巳にとっては、水無都冬真とそれ以外の人間については明確な隔たりがあることを示していた。
 そこに柊神奈への配慮が存在しないのだから。

 そして、それに加えて、もうひとつ秋巳がそう尋ねた理由があった。
秋巳は明確にそれがなんであるかは自覚していなかったが。
「おお。あの柊ちゃんと付き合えるなら、嫌がる男はいないだろ。
 ていうか光栄だね。俺にも青春の甘酸っぱい思い出を作る時期が到来したわけだ」
「椿は、浮気な人間は嫌いって言ってたけど?」
「…………」
「…………」
「だ、大丈夫! 恋愛の駆け引きってやつさ。押してだめなら引いてみろってね。
 普段自分に言い寄ってくれてる男が、素っ気なくなって、
 別の女に興味を示しだすことで自覚する想いもあるってもんさ。
 『なに? なんなのこのもやもやした気持ち。彼があの娘と仲良くしてるのを見ると、
 なぜかいらいらする。ああ、以前は気づかなかったけど、
 やっぱり私は冬真くんのことが好きなのね』ってさ」
「それって、柊さんは、ただの当て馬ってこと?」
「おっ、なに? 流石に自分を慕ってくれる娘が、蔑ろにされるのには、ムカッとくる?」
 秋巳の反応が想定外だったように、若干嬉しさに笑みが零れるのを噛み殺しながら水無都冬真が訊ねる。
「いや、まぁ。なんていうか……」
 秋巳もはっきりとは表せない思いだった。
 なんとなく、冬真にあまりそういうことはして欲しくない、っていうかさせたくない。
 その程度の漠然とした思いだった。
 だが、水無都冬真は、秋巳が柊神奈に対しての意識が芽生えたのだと思い込んだ。勘違いをした。
 秋巳の意識の中心が、水無都冬真であり、ひいては、妹である如月椿であったのに気づかずに―。
「まぁまぁ。そんな深刻に考えることじゃないだろ。そもそも柊ちゃんは、
 罰ゲームでやってるのかもしれないし。柊ちゃんが俺に振り向くとも限らないし。
 でも、俺が柊ちゃんにアピールすれば、周囲の眼はそっちに向くわけだ。
 秋巳にとっては万々歳だろ?」
 水無都冬真はそうは言ったが、半ば確信に近い考えを抱いていた。
 水無都冬真は、柊神奈のことをそれほど良く知るわけでない。せいぜい気軽に話す友達程度である。
 それでも。
 それでも、如月秋巳に惚れたのなら。
 自分には―。

「…………」
 自分の中のよく判らない想いに、戸惑いから沈黙する秋巳。
「どうした? 不服ならやめとくか?」
「いや、冬真がいいなら、いいんだけど……」
 ―椿は、いいんだろうか。
 秋巳は、自分でもなぜそう思うのか判らない。判らないけど明確に反対するほどの強い思いはなかった。
「じゃあ、とりあえず、それでいくか」
 だから、秋巳は、水無都冬真のその言葉に頷いた。

598: ◆a.WIk69zxM
08/01/03 15:08:06 0jWN78la
投下終了。

>575
とりあえず、仮打ちで『__(仮)』と。
タイトル考えるの苦手なんで申し訳ない。

599:名無しさん@ピンキー
08/01/03 15:34:25 r2iyKBkR
面白いですねーグッジョブ
ただ誤字が多くて気になります

600:名無しさん@ピンキー
08/01/03 15:39:14 OW+elohk
>>598 GJでした。一日も早くキモ姉(またはキモウト)が登場することを待っています。

601:名無しさん@ピンキー
08/01/03 19:07:57 I0UpDWOI
>>598
タイトルがむずいなら、SSにもトリップ付けてくれるとありがたい
後で探すのが楽になるから

602:名無しさん@ピンキー
08/01/03 20:32:56 wQqTywbg
保管されたくて書いてるというわけでもなし、職人さんの自由

603:名無しさん@ピンキー
08/01/03 22:03:16 my1UvAA7
>>598
妹(?)はツンツンとな?

604:名無しさん@ピンキー
08/01/03 23:30:06 rPebhl0G
>>602
テンプレ嫁

605:名無しさん@ピンキー
08/01/03 23:46:29 wQqTywbg
推奨は強制じゃないから最終的に自由では

606:名無しさん@ピンキー
08/01/03 23:57:10 rPebhl0G
>>605
だからその推奨されてることをやってくれって頼んでるだけ
職人さんが判断した上でやらないって明言したのならともかく、頼んでるだけの前段階で
「職人さんの自由なんだから」で話し終わらせなくてもいいだろ、ってこと

607:名無しさん@ピンキー
08/01/04 00:04:24 BDO7vh8q
たしかにルールじゃないかもしれんけどマナーとしてはつけて欲しいな
別のスレである作家がトリつけないでいると勝手に続き書かれたとか言い出してスレが荒れたんだ
そこはここと住人が被ることが多いと思えるスレだからできることならトリはつけて欲しいな
まあ、作者さんがNOって言えば仕方がないが

608:名無しさん@ピンキー
08/01/04 00:19:55 +ZWUddgg
新年早々荒れそうな話題はやめとこうや

609:名無しさん@ピンキー
08/01/04 00:40:40 BDO7vh8q
>>608
スマソ

610:名無しさん@ピンキー
08/01/04 01:51:23 pbbfnQFs
既出かもしれんが
魔法スレの魔法技師の義理の妹がキモウトっぽいよ

611:名無しさん@ピンキー
08/01/04 02:18:57 mwnqGvN7
あの娘はこのスレ的にはアウトなんじゃね?
自分以外の女が義兄と関係しているのを面白くないみたいだけど容認(黙認)してるし、女達とも結構仲良いし

612:名無しさん@ピンキー
08/01/04 03:40:18 glcyqJ5p
>>588
アマゾネスの一族に生まれた男は捨てられ、部族の外で育てられるという。
適齢期になってつがいの男を奪いにきたキモ姉さんは、生き別れの弟君が欲しくなってしまったんだな


613:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/04 06:04:45 hmY/7yYs
ファンタジーもSFも妖怪も、キモ姉妹ならみんな好き
前言を翻して投下開始。長いので連投規制が入るかもしれません
これが本当に今月最後です

614:妹夢妹夢
08/01/04 06:05:49 hmY/7yYs
落陽の時。
黄昏の中に浮かぶ町並みは斜陽に照らされて赤く溶け、
血のように光りながら夜へと向かって冷えて行く。
夜空には気の早い星が輝き、漆黒の領域を増していく彼方で弱弱しく瞬いていた。
夕闇に覆われていく世界。
刻一刻と宵に近付いていく空間。
そんな中で木霊する叫びが大気を引き裂き、激突する刃の煌きが虚空に散る。

「そこをどけぇぇえええええ!」

「邪魔っ、するなあああああ!」

遥か上空、目を細めて漸く視認が可能となる高高度で殺気が衝突する。

「兄上は渡さん。誰が相手であろうともな!」

「同意。だから兄はワタシが連れて行く」

剣と光、炎と不可視の力。
四人の少女がそれぞれの能力を叩き付け、弾き返し、相殺する。
四種の異能、四つの超常。
炸裂する閃光に目を覆いながら、僕は何故こうなったのかを思い出そうとした。

世界は一つではない。
それが全宇宙という意味でも個人や人類が認識する範囲という意味でも、それは決して唯一ではない。
僕がその事実を学ぶまでには四つの出会いがあった。
四人の妹達に導かれた、四つの世界との出会いが。

始まりは双子の妹である長女、誘宵(いざよい)。
兄妹とは言っても生まれたのはほとんど同時。
いつも艶のある長い黒髪を揺らしながら気さくに話しかけてくる妹が、
壮絶な戦いの中に身を置いていたことを知ったのはいつだっただろうか。

『兄さん。少し聞いて欲しい────いや、頼みたいことがあるんだ』

ある日。
血の気の失せた、押し潰されそうな不安を浮かべた顔で部屋に入って来た誘宵は、
本当に珍しく長い長い沈黙の後でそう言った。
双子。
同じ時間に同じ母親の子宮の内側で隣り合って育った半身の言葉に、
ただならない気配を感じて頷いた僕を待っていたのが、最初の世界との邂逅。
手を握った長女の全身が輝いたと思った次の瞬間には、僕は涼しい夏の日ような香り漂う草原に立っていた。
そこは『異世界 ニーサン』。
家族の誰にも気付かれないうちに誘宵が召喚された、
剣と魔法、神と悪魔、勇者と魔王、奇蹟と絶望が隣り合う世界。
妹はそんな場所に生贄の英雄、人類を代表して血を流す存在、勇者として召喚されたのだと、後で聞いた。

モンスターを皮切りに、
普段から聡明な妹が異世界の証明を終えた後に切り出したのは、
きっと誰よりも強い勇者の、誰にも言えないささやかな願い事。

『一緒にいて欲しいんだ。兄さんに、私と。
 そうすれば、私はもう一度・・・・・・いいや、何度だって戦えるはずだから』

615:妹夢妹夢
08/01/04 06:09:17 hmY/7yYs
莫大な魔力と何らかの犠牲の上にあっちの都合で召喚された誘宵は、ある呪で縛られた。
魔王を倒すこと。そしてその強制的な契約を果たした時には、対価として何らかの報酬がある。
だが。妹は魔王に敗れた、らしい。
現実とは時間の流れが異なる別世界で一年近くも耐え抜いた戦いの果てに、
仲間と挑んだ最終決戦で敗北したのだと言っていた。
それからは戦うことが出来なくなったのだとも。
幸い、機転を利かせた仲間のおかげで死者は出なかったが、妹は剣を握れなくなったという。
ひたすら殺しと死の恐怖の中で抑え続けてきた色々なものが、一気に溢れ出したんだろう。
きっと僕を呼んだのは苦肉の策で、何より苦渋の決断だったはずだ。

『すまない。兄さん。本当に、すまない。
 私の都合に巻き込んでしまって。でも・・・嫌なんだ。怖いんだ。
 魔王と戦うことよりも、契約を果たせずにこの世界に縛られることが。
 兄さんと離れたまま、この世界で一生を終えることの方が、ずっと怖いんだ』

涙ながらの告白だった。勇者の力の源は勇気。それは守る者がいてこそ最大に発揮される。
誘宵が選んだ、一番守りたくて最も失いたくないもの。それが僕。
自分を召喚した賢者に迫られて、特例の下に帰還しての再召喚。
魔法か何かの力で縛られ、逃げ出すことは不可能だったらしい。
まだ大人にもなっていない僕と誘宵。本来ならまだ守られていてしかるべき子供。
姉妹の長女として責任感と愛情の強い妹が、
血を流すのが当たり前の日々で、どれ程の苦痛を経てそれを選択したのか。
気付くことさえ出来なかった半身の戦いの記憶に泣いて、そうして僕は協力を決めた。
魔王との再戦。僕をパーティーの最後尾に置いた妹は自分の身を守ろうともせずに、
一秒でも早く魔王打倒をなそうと吶喊して仲間さえ驚くほどの活躍を見せた。

それから、更にニーサン側でしばらくの月日が過ぎて。
勇者として世界最高の名声を得た妹は、泣き付いた多くの人に頼まれて、
しぶしぶながらたまにはニーサンに来ることを承諾して帰還。
荒れ果てた世界の復興には勇者の名前による素早い統治と結束が必要だから、らしい。
兎に角、魔王を倒した誘宵は僕と共に現実に帰って来た。
そうして、また双子の妹に平穏が戻った────その、はずだったのに。

「兄さんは私と旅立つんだ。あちらの復興は順調、
 無能な王侯貴族も国の荒廃による民衆の不満と勇者の名前のゴリ押しで権益を削った。
 今なら教育レベルの低い民衆は魔王消滅の熱狂に包まれた状態で私に味方する。
 かつての仲間も、戦闘力の低い僧侶と賢者以外の半数は味方につけた。
 武器も力もあり、内政のプランもある。革命は容易い。
 あともう一度帰還すれば、私は私の──いや、兄さんのための国を作れる。
 文明レベルは如何ともし難いが、この世界より遥かに充実した人生を約束出来るんだ。
 私が作り、私が兄さんに捧げる兄さんの、兄さんのための、兄さんを王とする国だ」

銀色に輝く、確かな重量の中にも女性の体の流線を模った鎧。
金の羽根飾りが揺れる兜を奥から誘宵の声が聞こえる。
兜から背中に零れた長い黒髪が、空に線を引いていた。
 
「そうだな。国で足りなければいずれは世界でも征服しよう。ははは、そうだ。それがいい。
 私の愛を示すのに国では不足だ。
 あの世界の全ての大地を、大海を、天空を、人民を、私は兄さんに捧げよう。
 国土を侵略し、海洋を征服し、天上の神を駆逐し、愚民を洗脳し、私は兄さんを神とする。
 世界の全てが兄さんの思いのままだ。戦争でも圧制でもハーレムでも、私は兄さんの全てを許容しよう。
 逆らう者は私が殺す。兄さんのために、兄さんと共に戦ったこの剣で私が殺す。
 兄さんに逆らった愚物を、兄さんの世界に存在するに値しない汚物を切り払い、
 汚れた身を帰ってから王座につく兄さんに慰めてもらうんだ。
 どうだ? 理想的な世界じゃないか。私にはそれが出来る。
 兄さんに全てを捧げ、兄さんを最も幸せにすることが出来るんだ。
 それが理解出来たら────さっさとそこを退かないかああっ!」

純白の刀身が大気を滑る。ニーサンにいた頃からほとんど視認も出来ない、
勇者にのみ可能な人間を超越した一撃。それがもう一人の妹を、一緒に育った愛すべき家族を襲った。

616:妹夢妹夢
08/01/04 06:11:02 hmY/7yYs
「勝手なことを、言うなあああ!」

虚空に光の軌跡が生まれる。
空間に描かれた淡い輝きの交錯はそれぞれが複雑に絡み合い、重なり合い、
奇怪な紋様を三次元に構成して発光した。
魔法陣。異世界法則の顕現が既存の空間のルールを侵食し、発生した抵抗が神剣の刃を押し留める。

「お兄ちゃんはアタシのものだ!
 お兄ちゃんはアタシと一緒に魔法の国に行って、ずっと永遠に結ばれるんだからっ!」

妹、次女の古宵(こよい)の指先が空中を走る。
利き手に握られた、ライフルの砲身と槍を融合させたような武器の先端が誘宵に向けられた。

「エクセリオンッ!」
『諾』

三角に近い刃、その中央に埋め込まれた真紅の宝玉に光が灯る。
精霊融合型他律式魔法兵装、『エクセリオン』。彼の承諾と共に金属の表面に回路のような紋様が走り、
伝達された指令と魔力が切っ先へ収束する。
飛行を可能とする三対六枚の光翼を背に、真っ白なマントをたなびかせながら古宵が距離を取った。
刻まれた魔法陣も伴って移動し、明滅、解き放たれる威力の内圧に崩壊して弾け飛ぶ。

「ギャラクティック────バスタァァアアアー!!」

闇の濃さを増していく空を閃光が蹂躙する。
圧縮された魔力が与えられた指向性に従って前方に広がる空間へ進撃、
異界の化物さえ薙ぎ払う破壊の光線が誘宵に迫った。



次女の古宵が教えてくれたのは、ファンタジーとはまた少し違った魔法の存在。
物質と精神、それぞれの領域を発達させた世界が持つ力。
ただ、文明の発達が弊害を生むのはどこの世界でも同じらしく、
むしろより具体的に精神の力を操れるようになった人間は、
時にその意識だけで世界に大きな影響を及ぼすようになったらしい。
その世界の名前は『魔法世界 ニィチャン』。
翳り始めた精神と科学の進歩にもがくように魔法犯罪が多発し、
また進化した人の意志力から生まれた悪意が実体化する世界。
犯罪者は次元の壁を乗り越えて世界を渡り逃れ、悪意の獣もまた同じく。
世界を単位とする広大な範囲を抑えるには圧倒的な人員の不足を前に、
ニィチャンの世界政府が出した結論は人員の現地調達だった。
何らかの対価を示して、犯罪者の逃げた先々で知性体に武器を与えてを登用する。
そして今、僕のいる世界。
ここでその対象に選ばれたのが妹、古宵だった。

『お兄ちゃん・・・ごめんなさい。ちょっとの間でいいから、ぎゅってして・・・』

ある晩。帰りの遅い妹を心配していた僕をケータイで呼び出した古宵の言葉。
茶色がかった髪を血と、泥と、何か分からない体液染みたもので塗らした頭を僕に預けて、
見たこともない衣装をボロボロにした妹が告げた真実。
他の世界から渡ってくる犯罪者や、悪意が肉を纏った化物の存在。
彼らとの戦いの日々。相棒は一人、武器であるエクセリオンだけ。
彼、ニィチャンの世界で用いられている武器は精神力を魔力と呼ばれるエネルギーに変換する。
特に異世界での使用を前提に作られたシリーズの場合、
未熟な精神で膨大な力を生み出すために使用する精神力、その源となる感情を限定し、
一つに特化することによって強大な出力を得るらしい。妹の場合は、愛情。
誰かから与えられる愛情を実感し、自分も相手にそれを抱くほどにエクセリオンは強力になる。
日々続く魔法犯罪者や異形との連戦に消耗した古宵は、
とうとう自分だけでは魔力の回復が追いつかなくなったのだとエクセリオンに聞かされた。
残された道は愛情を与えてくれ、また古宵側からもそうである相手との触れ合い。

617:妹夢妹夢
08/01/04 06:12:23 hmY/7yYs
『アタシ、頑張るから。お兄ちゃんのいるこの世界を、ちゃんと守って見せるから。
 だから・・・・・・たまに、本当にたまにでいいからこうして。お願い・・・』

その日、ふらふらと立ち上がった古宵を場所も知らない戦場に送り出してからも、
僕は幾度となく妹を抱き締めて夜を過ごした。
日増しに強力になって行く相手との戦いに身を投じる妹が、愛する家族がせめて少しでも楽になるように。

そうして、戦って戦って戦い抜いた妹が、
それなりの平穏をこの世界に齎したのも少し前のことだ。
激戦の対価に古宵が何を願ったのかは僕も知らない。
だが、血を流す戦場に臨むことを代償としたそれは、大切で譲れないものだったのだろう。

「ぉ、おぉおぉおぉおぉおぉおぉおおぉおおおおお!!」

収束された光の渦が過ぎ去った後、そこには鎧を発光させている誘宵がいた。
白煙を上げながらも剣を構えている。
伝説の武具の一つである勇者専用の鎧に施された加護と本来の防御力。
そこに防御魔法を上乗せしただろう。
顔の輪郭だけを覆い、表情の部分は露出している兜から覗く口が強く結ばれた。

「今のを耐え切るなんて・・・・・・でもそれなら!」

古宵の、抱き締めている時に僕の背中に弱弱しく当てられていた細い指が空中に踊る。
描かれた魔法陣はエクセリオンの機能を以て増幅され、
古宵を中心に回転しながら拡大した。

「やってくれたな!」

誘宵が剣を上段で固定した。
爆発のような光が全身──いや、身に着けた武具から放たれる。
一度だけ見たことがあった。魔王を消滅させた技。
神の力と人の技術を合わせた伝説の武具を共鳴させ、
全開にした力を刀身の形にして射出する必殺の一撃。

「これで終わりだよ」

「私と兄さんの恋路を邪魔する者は殺す。それがたとえ魔王だろうと、妹だろうとな!」

展開された魔法陣が爆縮、エクセリオンの切っ先で極小の球体となった。
内部に留め切れない魔力の奔流が紫電となって空間に荒れ狂い、閃光の花が咲く。
対するのは、巨人が振るうかのような光の帯。
刃の形状に凝集された光の力が切っ先から伸び、逃れる者、立ち向かう者、
全てを断ち切らんとして開放を待つ。

「うるさい!
 私はお兄ちゃんと魔法の国に行って、そこで永遠の命をもらってずっと幸せに暮らすんだから!
 邪魔をするなら、たとえお姉ちゃんでも殺してやる!
 塵になれ────アルティメットバスタァァアアアアアアアアアア!!」

「お前がなあっ! 聖剣一刀、討魔伏滅!!」

光同士が激突する。
目を焼く発光と耳を震わせる衝撃。
その、ほんの少し横にも似た光景があった。

618:妹夢妹夢
08/01/04 06:14:08 hmY/7yYs
三女、火宵(かよい)。
彼女が教えてくれたのはこの世界にある、だけど多くの人間が忘れてしまった世界のこと。
妖怪という存在。
火宵は僕の妹であると同時に、遥か昔に生まれ、そして死んだ人外の者でもある。

『兄上よ、ゆめゆめ忘れるでないぞ。人は唯一ではない。
 人の堕落が続き、文明が滅びへ近付いた後に再生を迎えるならば、その過程で我らは再び生まれよう』

火宵の正体は七本の尻尾を持った化け狐。つまりは妖狐だ。
狐火と幻術を得意とし、機嫌の悪い時はよく僕を化かそうとする。
もっとも、今の火宵は体の面では完全に人間。昔、ちょっとした悪さをして滅ぼされた火宵は、
その直前に転生の術というものを使ったらしい。
だがその代償は大きく、力も削がれ、転生先は選べない。
虫や微生物にでも転生すれば終わりだ。
だから使う者は滅多になく、更には転生先で生き残れる確立は天文学的低さだという。

『耐えられぬ。この身の何と弱きことよ。
 初めから弱き者に生まれたならば良かったものを、今の我の何と不完全なことか』

火宵は一般的には奇妙極まりない子供で、まだ僕に正体を明かす前はよくそんなことを口にしていた。
転生した火宵の力は以前の半分を下回っていたというから、分からなくはない。
当時、まだ大人というには遠かった僕は妹の言葉に首を傾げつつも、
じゃあ今の状態で出来ることを楽しもうよと、
それはもうあっちこっちで色々なことを火宵としたものだった。
幸運にも、と言うべきか、僕の行動で妹の苦悩は減ったらしかったけれど。

『兄上は我にとっての色よな。
 自らの苦悩と嘆きで色褪せていたこの世界で取り戻せたもの、生まれたもの。
 からーてれびを見慣れた者は、もうものくろの画面には耐えられまい。
 兄よ・・・・・・頼む。兄はどこにも行くな。
 この色づき始めた世界の中で、いつまでも我の傍にいておくれ』

そう言った日のうちに、火宵は正体を明かした。ただし、僕だけに。
今の時代にも力を持つ者はいるから、出来るだけ正体は隠しておきたいんだとか。
僕と妹がたまに、一緒にテレビを見ながら狐うどんをすするようになったのはそれからだ。

「うすうす感じてはおった。
 お前が他の姉妹と違って、そも我のように人でない存在であったことはな。
 それでも黙っておれば見逃してやったものを・・・・・・兄の魂をこの星より連れ去るなど、
 断じて罷りならん! 諦めぬと言うならば、その身を未練さえ残らぬよう焼き尽くしてくれる!」

「不許可。兄の周囲にアナタ達のような存在がいるのは危険。
 兄のためにも、兄の精神はワタシの母星に連れて行く。邪魔しないで」

「化生の類でさえない人外が、どの口でほざくかあっ!」

火宵が、まるで尻尾のように広がった七つのポニーテールを背後の炎で赤々と照らしながら吼えた。

「狐火っ!」

火球が七つ、後部から爆炎を振りまいて高速で放たれる。
対する四女、真宵(まよい)は軽く手を掲げた。

「#△@Ω■δ?Λ」

耳鳴りのような声が響く。
意味を認識出来ない音声の羅列が紡がれ、世界そのものへの呼びかけが行われた。
見た目には何の変化もない。
にも拘らず、飛来した火炎は全てがまるで不可視の壁がそびえ立ったように虚空で弾け、溶け消えた。
多分、僕が姉妹中でも最も理解出来ていない真宵の力によるものだろう。

619:妹夢妹夢
08/01/04 06:15:35 hmY/7yYs
四女の真宵は、厳密にはこの星で生まれた生命体じゃない。
光年単位でさえ気が遠くなるような彼方、異星『アーニィ』で生まれた精神生物だ。
アーニィで生まれた生物は、何か波動とかそういうもので構成された存在で肉体は持たない。
そんな彼らはどうやってか物質文明が発達し、肉を纏った生物がいる星である地球のことを知覚した。
自分達にない特性を持つ他者。
その調査のために送り込まれてきたのが真宵、らしい。

『ワタシは地球上の生物、特にその中において支配的生命体である人類の観測のために、
 まだワタシの侵入に抵抗する精神を持たない胎児の状態であるこの体に入り込んで産まれた。
 人類が保持及び発生させる情報を人類の視点から認識し、
 それを母星へと伝達することがワタシに課せられた使命』

火宵もそうだが、真宵は真宵で変わった妹だった。
情動というものを感じさせず、なのに冷めているという表現とはまた違った印象を受ける。
子供の頃から小さな手で本のカバーを握っては、情報収集と言って読み耽っていた。
視力が低下して眼鏡をかけるように言われた時に、『不覚』と言っていたのはいつの頃だっただろうか。

『だが、困ったことがある。
 高度に理性を発達させた知的生命体にとって、
 未だ原始からの過渡期にある人類の精神的な揺らぎは余りにも刺激が強い。
 それは禁酒を守り続けた人間が、ある日いきなりウォッカをそのままあおるようなもの。
 忘れ去られたはずの生々しい感情を、
 ワタシはこの肉体の脳の働きによって強制的に体験させられている状態。制御が出来ない。
 このままでは抑えきれなくなったエラーの蓄積が臨界を越え、
 本来の存在としてのワタシにとって深刻な事態が発生する』

先ずは僕を納得させるためにスプーンをマッガーレしたり、
ソファを浮かせたりして見せた真宵はそう言って、
感情を映さない、だけど僕や姉妹にはほんの少しだけ表情の分かる顔で迫った。

『エラーの原因となる感情の対象の抹消、
 または感情の充足か他の代替行為による緩和が必要。ワタシにとっては緊急事態。
 兄には協力して欲しい。断られた場合、ワタシには消滅する以外の選択肢がなくなる』

この妹は感情こそ読み難いけど、その代わりと言うかのように言葉を飾ったりはしない。
思っていることをそのままに伝え、決して嘘はつかない。
そんな真宵を見て来たから、言っていることは理解出来なくても、
僕の妹が苦しんでいて助けを求めているのは分かった。

『原因の一つには孤独がある。構って欲しい相手に構ってもらえないこと。
 想っている相手が想いに応えてくれないこと。
 この星にワタシの仲間はいない。ワタシという種はこの地上で孤独。慰めが必要。
 兄の愛情を感じさせて欲しい』

まあ、緊急事態なんて言った割には、求められたのは添い寝することだけで拍子抜けしたのだけれど。
それでも、寂しさに僕の寝巻をそっと掴んでくる真宵を拒絶する気にはなれなかった。
それなりに大変な思いもしたけれど、
可愛い妹達と過ごす平穏な日々は本当に幸せで充実していたと思う。
勇者でも魔法使いでも妖怪でも異星人でも、全員が僕の妹には違いないのだから。

620:妹夢妹夢
08/01/04 06:16:28 hmY/7yYs
なのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

勇者でもなければ魔法使いも妖怪でも異星人でもない、
伝説の武具や魔法や妖術や不可思議な力で空を飛ぶことも出来ない僕。
上空で戦う、殺し合う妹達は遠くて、止めるどころか声を届かせることさえ出来ない。
原因は一体なんだったのだろうか。
今日、帰宅すると家の中が静まり返っていて、
テーブルを囲んで妹達がお互いを睨み合っていて。
唐突に妹の中で誰を一番愛しているかを聞かれた僕が答えに窮していると、
全員が自分に決まっていると主張して。
多分、そこから本当におかしくなった。
切欠は分からないけど、妹達はお互いがそれぞれ特殊な環境にあることに気付いたのだろう。
おそらくは最近に。
呆けた僕をよそに言い争いを続ける妹達の目は、それまで見たこともない殺意に満ちていたから。
まるで自分と相手が、剣を持って相対しているみたいに。
それからすぐに自分の長所を挙げるのが相手の短所を貶すことに変わって、手が付けられなくなった。
言い争いが罵倒になり、やがて掴みあいになって。
僕が止めに入ると、恐ろしい殺気とその奥にある何かどろどろしたものに見詰められて。
腰を抜かした僕に、外でやろうと誰かが言い出して。
それからは、本当に掛け値なしの殺し合いだった。



「っ────幻!?」

視認を越えた速度で駆けた真宵が、輝きを纏った腕で何もない虚空を貫いた。

「うつけが!」

その残像を撫でながら迫る、火宵の投げつけた爆炎の塊。
炎熱の鉄槌は真宵を飲み込むと膨れ上がって炸裂した。
瞳を真紅に染めた火宵がその先を見据え、かと思うと背後を振り返る。

「外れ」

「がっ!? く・・・この、おのれええ!」

振り返った火宵のすぐ後ろに滲むように真宵の姿が現れたかと思うと、
咄嗟に上げられた腕ごと姉を蹴り飛ばした。
ボールみたいな速度で吹き飛ばされる火宵を追おうとして、
火宵の怒号と共に体から放たれた熱波に足を止める。
また高速で何かを呟くと、不可視の壁が赤色の侵食を遮った。

「我の兄上に手を出そうとしたばかりか、肌に傷を・・・・・・万死に値するぞ!
 妹の分際で調子に乗りおって!」

「見解に相違がある。第一に姉に口出しされるいわれはない。
 第二にその傷は姉自身が弱い証拠。調子に乗って力量を測り損ねたのはそっち」

拳を握った火宵が肩を震わせながら顔を伏せる。
真宵はしてやったりと言わんばかりに薄く笑んだ。
それに気配で反応したのか、火宵が顔を上げる。

621:妹夢妹夢
08/01/04 06:40:49 hmY/7yYs
「カアッ!」

見間違いでなければ、見開かれた目、瞳には縦に線が入っていた。
真宵に向けた視線と共に気合が迸った瞬間、真宵の姿が炎に包まれる。

「────!?」

「はははははっ! 小娘の分際で図に乗るからそうなる!
 衰えても我は七つ尾の大妖、並の人外に遅れなど取らぬわ!」

哄笑が暗くなった空に響く。
今度は真宵の瞬間移動も見られなかった。
代わりに、燃え盛る炎が収束していく。

「・・・・・・何?」

「再構成完了」

消え去った炎の中から現れたのは、火傷どころか服に焦げ目さえない真宵。
着ていた学生服は皺一つない状態で肌を包んでいる。
眼鏡の奥の瞳が、嘲りを示して細くなった。

「この程度・・・? なら、やはり兄にはワタシが相応しい。
 他人を小娘呼ばわりする年増は引っ込んでいて」

「────なめおって。そちらこそ侮るでないわ!」

大気が鳴動する。
火宵の背で劫火が燃え猛り、朱色の花弁を空へと散らせた。
火の粉が夜風に乗って流れ、七つのポニーテールが揺らめくように広がる。
陽炎に歪む顔で火宵が妹を睨み付けた。

「一瞬で塵と化せば戯言をぬかす口も元には戻るまい。覚悟せよ。
 兄上はこの星で我と暮らすと決まっておる」

「否定。それは姉の意思。兄の意思ではない。そして兄はワタシを選ぶ」

焼けそうな熱を孕んだ視線が交わされる。
数瞬の沈黙を経て劫火の花が咲き、不可視の力が空間を打ち据えた。
炸裂する閃光の最中、視界にもう一つの光が映る。


622:妹夢妹夢
08/01/04 06:41:20 hmY/7yYs
「エクセリォォオオオオン!」
『諾!』

「神剣よ! 私に力を!」

大技を繰り出し、相殺し、硬直を解いた誘宵と古宵が距離を取る。
古宵が兵装に呼びかけ、夜空に砲身の輝きを掲げるとその周囲に光点が発生、
虚空から生じた光の粒が複数の座標に渦を巻いて球体を形成していく。
対する誘宵が剣を天へ突き立てると、身に纏う武具達が応えて発光した。
勇者の感情に呼応して奇蹟の力が巻き起こり、凝固したような光が誘宵の周囲に滞空する。

「リリカルラジカル! くたばれ! シューティングスター!」

「聖剣一突!」

野球ボール大の光球が一群となって進撃する。
古宵を起点に直進するもの、左右から迫るもの、上下から挟み打つもの、
軌跡に残光を生じさせる速度で襲い掛かる次女の魔法に、長女は剣で前方の空間を突いた。
円状に漂っていた光帯が与えられた指向性に従い、濁流と化して突進する。
せめぎ合う閃光の弾雨と奔流。

「お兄ちゃんはアタシをずっと助けてくれた! それもお兄ちゃん自身の意思で!
 勝手に異世界に行った挙句に勝てなくてお兄ちゃんを巻き込んだ無能が、
 長女面してお兄ちゃんに近付くんじゃないっ!!」

「たかが人間やケダモノ相手にひいひい泣いていた弱者に言われたくはないな!
 お前程度の魔法使いなら向こうにもいたぞ? 魔王には勝てなかったがな!
 私と兄さんは双子。同時に生まれて同時に死ぬ、運命に結ばれた二人なのだ!
 誕生も命がけの戦場も共にした私と兄さんの間を、妹の分際で邪魔するんじゃないっ!」

拮抗を崩そうと古宵は次々と光弾を生み出し、誘宵は全身に纏う光を強めて放ち続ける。
弾丸の一つ一つは人間の頭を粉砕でき、光流は全身の骨を粉々に出来る威力だ。
それを本気でぶつけ合う。相手に向けて。勝つために。実の姉妹を殺して勝利するために。

誰も彼もが瞳の中で笑っていた。
勝つのは自分だと確信して、相手を殺すのは自分なのだと確定しているみたいに。
ほんの少しだって、躊躇していない。
戦っているのは血を分けた姉妹で、これまで一緒に過ごしてきた家族なのに。
まるで迷いがない。
それどころか楽しんでる。戦って戦って戦って、相手を殺せる威力をお互いにぶつけ合って。
そうするだけ自分の望むものに近付いていくように。
僕のことを口にしながら、他の姉妹を殺そうとしている。

「はは・・・」

今、僕は笑ったのだろうか。
端から星の輝きが失われていく視界の中で、ふとそんなことを思った。
もう見たくない。聞きたくない。
声に出そうとして、何故か唇が動かないことに気が付く。
感覚が断線していた。痺れたような感じがぴりぴりと肌の上を這い回って睡眠を促してくる。
逆らう理由はない。僕は、視界が真っ暗になる前に自分から目を閉じた。

新年早々の悪夢が、きっと正夢ではない初夢であることを願って。

次は良くなくてもいいから悪夢だけは見ないといいな。
そうして、目が覚めたら妹達に言うんだ。
明けましておめでとうって。

623:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/01/04 06:43:52 hmY/7yYs
投下終了
やはり投下宣言込みの8レスで規制を食らうようですねorz
では皆様、よい一月を

624:名無しさん@ピンキー
08/01/04 06:52:35 rEsBZrwp
>>623
お疲れ様GJ
多分真宵が勝つね

貴方もも頑張ってください
良い一年を

625:名無しさん@ピンキー
08/01/04 07:07:43 hmY/7yYs
火宵のセリフで兄上が兄になっているところ多数orz
本当に申し訳ありませんが、どうか兄上に変換して読んで下さいorz orz orz

626:名無しさん@ピンキー
08/01/04 09:11:34 sr1Agh7d
>>623
GJ!
朝から良いものを読ませていただきました。
どの妹もかわいいなぁ。

627:名無しさん@ピンキー
08/01/04 11:09:52 fXrKvZ+t
寿命の点からは誘宵が独り不利だな
古宵は永遠の命
火宵はなんか妖怪化されるか
真宵は精神生命体化

ぜんぶひとまとめにしてー
兄は後の魔王である

628:名無しさん@ピンキー
08/01/04 11:33:30 5Mwfr71S
兄=魔王=ヨハネ・クラウザーⅢ世という訳か…

629:名無しさん@ピンキー
08/01/04 13:13:32 MEu7PmwB
ここは敢えて兄=覇王様で
妹4人死亡→覇王覚醒の流れもぴったり

630:名無しさん@ピンキー
08/01/04 15:11:14 fuMenHHk
わかる人だけわかってくれたらいいんだが
昨日うっかり変態姉組曲のMP3をPCのデスクトップに置きっぱなしにしてたんだ
今消そうと思って二階に上がったら妹に聞かれてた…orz

631:名無しさん@ピンキー
08/01/04 15:34:54 Y7u4Uqoa
はいはい

632:名無しさん@ピンキー
08/01/04 15:41:25 b+xIHtIM
そんな妄想フリになんか乗りませんよ
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから

633:名無しさん@ピンキー
08/01/04 16:40:17 nGzZJQ8+
> 変態姉組曲
ググって吹いたw
でも元歌は削除済みなのな……

634:名無しさん@ピンキー
08/01/04 17:03:59 leVhwxgt
URLリンク(gs.dengekinet.com)
これ全員がキモ姉キモウトだったらいいのに・・・

635:名無しさん@ピンキー
08/01/04 18:19:04 xznCwyUw
今日はやけに宣伝が多い日ですね
初仕事がこれですか?

636:名無しさん@ピンキー
08/01/04 18:48:32 kqn6HfOt
>>634
これはひどいな

637:名無しさん@ピンキー
08/01/04 20:15:50 hm7tCGOv
今更kiss×sisを知った俺はこのスレでは遅れてるんだろうな

638:名無しさん@ピンキー
08/01/04 20:24:27 Uy/kHHIc
りこ姉ちゃんの可愛さは異常
俺もあんな姉が欲しかった

639:名無しさん@ピンキー
08/01/04 21:43:43 gmRKuOfI
>>634
ブログに寄せられてるコメントのキモさは異常

640:名無しさん@ピンキー
08/01/05 06:42:39 g3+wikm+
>>634
これはひどいな…
だが、長女は貰っておこう

641:名無しさん@ピンキー
08/01/05 08:48:29 8oskmKg9
ぱっと見たら素で全員キモ姉妹に見えるんだが…

642:名無しさん@ピンキー
08/01/05 08:52:28 Rxo00+g7
さすがに粗製乱造だろうこれは
やりすぎ、ねらいすぎ

643:名無しさん@ピンキー
08/01/05 12:51:22 B5MeNM/u
大量に出せばいいってもんじゃないよな

644:名無しさん@ピンキー
08/01/05 13:40:01 FCN9hXxk
十九女とか・・・幼女ってレベルじゃねーぞ

645:名無しさん@ピンキー
08/01/05 18:27:35 qGtB4+BZ
良質なキモウト系SSのあるサイトってありますかね?
自分は恋歌さんの名作「ゆるしてあげない」と、
「責められる願望」の「妹達の~」シリーズくらいしか知らないんですが…

646:名無しさん@ピンキー
08/01/05 21:31:00 ofA/lvqc
『サキュバスの巣』裏3

キモウトの手の温もりが感じられれば間違いなく目覚める

647:名無しさん@ピンキー
08/01/05 23:06:07 rcMsAveF
>>645
「ゆるしてあげない」はほんと名作だよね
あれでキモウトにはまってしまった

648: ◆/waMjRzWCc
08/01/05 23:10:33 UJNXlNfF
続き投下します。

649:理緒の檻 ◆/waMjRzWCc
08/01/05 23:11:01 UJNXlNfF
「ただいま…あれ?理緒姉?」
部屋が暗い…
「理緒姉、帰ってないのか?」
「修くん…」
「理緒姉…電気も付けないでどうしたんだよ?」
話しながら電気のスイッチを入れる。
「修…くん…」
寝てるのか…?それにしては様子が変な気がする…
ぱっと電気がきらめく。
目に入ったのは、血の鮮やかな赤。
理緒姉はテーブルに腕を投げ出して動かない。
その腕は真っ赤に染まっている。
「理緒…姉…?なにやってんだよ…」
理緒姉は身じろぎ一つしない。
「理緒姉ぇぇっ!」
落ち着け落ち着け落ち着け!
とにかく止血しないと…!
すぐ俺の服を脱いで理緒姉の腕に巻き付ける。
俺の服が理緒姉の血に染まっていく。
「くそっ、止まれ、止まれよっ!」
理緒姉、なんでこんなことしてんだよ…
俺を一人にしないでくれよ…
力を込めて、止血を続ける。
…止まった、か?
理緒姉を、ベッドに運ぼう。
くっ…人間って力が入ってないとこんなに重いもんなのか…
なんとかベッドに寝かせ、腕を高くする。
「理緒姉…なんでだよ…」
理緒姉はこんなことするような弱い人じゃないだろう?
「理緒姉、頼むから目を開けてくれよ…理緒姉…理緒姉ぇ…」

650:理緒の檻 ◆/waMjRzWCc
08/01/05 23:11:28 UJNXlNfF
「修…くん?手、痛いよ…」
強く握り締めていた手をほどく。
「理緒姉…良かった…」
本当に良かった。
「修くん、それ…」
言われてから気付く。
俺の目からは涙が溢れていた。
「あれ…おかしいな。全然悲しくなんか無いのに」
いくら拭いても次から次に溢れて、止まる気配が無い。
「修くんは…こんな私の為に泣いてくれるんだね…」
「当たり前だろ…俺と理緒姉は家族なんだからな」
そう言った直後理緒姉が俺に背を向ける。
「でも、修くんは私の事嫌いなんでしょ?」
「えっ…?」
「病院の事、覚えて無いの?それだけ私なんてどうでも良いんだ」
「あれは…違うんだ」
「何が違うの?言い訳なんて聞きたくない!部屋から出てって!」
「…ごめん」
俺は謝る事しかできなかった。
理緒姉の部屋を出て自分の部屋に入る。
何もする気が起きず、ただベッドに横になる。
やっぱり、嫌われたか…
それもそうだよな…あんな言い方しちまったんだから。
でも…なんでこんなに痛いんだ?
締め付けられているかと思う程胸が痛い。
俺は…理緒姉をどう思ってるんだろう。
今までずっと、姉として見てた。
でも、だとしたらこの痛みはおかしいよな…

651:理緒の檻 ◆/waMjRzWCc
08/01/05 23:11:54 UJNXlNfF
「修くん…ごめんね?」
一人の部屋で呟く。
これで修くんが私の事をどう思っているか分かる。
考えたくないけど本当に私が嫌いだったら、何も変わらないだろう。
それなら…修くん以外の全てを壊してでも修くんを私の物にする。
家族として好きなら、謝ってくるだろう。
ある意味一番最悪なパターンね。
現状と何も変わらないのだから。
後は…私を一人の女として好きでいてくれるパターン。
もちろんこれが最高だ。
明日になれば分かるだろう。
それより今は…
「んっ…」
修くんが握り締めてくれていた右手を自らの股間に当てる。
「はぁ…はぁ…」
修くんの温もりを感じる。
それが快感を後押しする。
「んんっ…」
既に割れ目からはとろとろとした液体が溢れ、下着を濡らしている。
腕に巻かれた修くんの服。
その匂いをかぐ。
修くんの匂いと私の血の匂い。
まるで私が修くんを犯しているような錯覚を覚える。
「修くん…気持ち良いよ…」
ぐちゅぐちゅと淫らな音が響く。
「あぁっ!気持ち良い!指が…止まらないのぉ!」
修くんに弄って貰っている想像をする。
指は更に加速し―
「だめっ…もう、あぁぁぁっ!」


652:名無しさん@ピンキー
08/01/06 00:21:49 RLBT99TF
支援

653:名無しさん@ピンキー
08/01/06 09:56:51 i9Uu0K44
ツンツンしたキモ姉に顔を踏まれたい

654:閑話休題~弟はお姉ちゃんのもの~補完版
08/01/06 11:05:03 UorTAnfC
「よく聞いて、弟君。近親相姦っていうのはね、血縁者でセックスして子供をつくることを指すのよ。
 だから、こうしてオナニーの手伝いをすることは近親相姦にはならないの。
 さあ、だから手をどけてお姉ちゃんの邪魔をしないでくれるかな。
 そう、いい子ね。
 お姉ちゃんの口で気持ちよくしてあげるからね」


「オナニーの手伝いは問題ないことが判ったようね弟君。 いい子ね、素直な弟君がお姉ちゃんは大好きだよ。
 あら、また大きくなったわね。 ンもう、しかたないなぁ。
 もう一度してあげるからね。 スッキリしちゃいなさい……
 
 どう? 弟君。 もうイキそうかな?
 うん。 このままイッっていいよ。 大丈夫。 お姉ちゃんの顔にかかることなんて気にしないでね。
 お姉ちゃん、弟君にかけて欲しいんだから。

 いっぱい出たねぇ。 顔だけじゃなくて髪にまでかかっちゃった。
 いいのよ、お姉ちゃん嬉しいの。 他の女の子には出来ないことをお姉ちゃんだけが出来たんだから。
 またしようね」


「落ち着きなさい弟君。この前も言ったけどセックスしない限り近親相姦にはならないのよ。
 セックスっていうことを理解してるかな?
 子供をつくることなのよ。
 だから、《今度産む》で避妊する限りセックスにはならないの。
 皮膚も粘膜も接触しないでしょ?
 解ったかな?
 さ、おとなしく横になっててね。 大丈夫よ。 痛くしないから」


「まだ何か言いたいことがあるのかな? 弟君。 キミがいつまで経ってもお姉ちゃんのアソコに入れることを躊躇うから
 後ろの穴にしたんじゃない。 お姉ちゃんなら大丈夫よ。 始めは痛かったけど、もう慣れたわ。
 弟君でいっぱいに満たされているからお姉ちゃんは満足よ。 それにね、ココの穴だと弟君が怖がっている近親相姦にはならないでしょ。
 そうよ、ならないのよ。 だから安心して動いていいのよ。 いっぱい出してね」


「ねえ、弟君。 避妊すればセックスにはならないって、この前に勉強したわね。
 あれからお姉ちゃんも勉強してね、半年間 毎日基礎体温を測って準備していたんだよ。
 その間、お口とお尻でしか弟君を受け入れてあげられなかったから お姉ちゃん少し淋しかったんだ。
 お姉ちゃんを淋しがらせるなんて、悪い弟なんだぞ。 ん? あやまらなくてもいいのよ。
 そのかわり、お姉ちゃんの言うことをきいてね。

 そうよ、お姉ちゃんココに入れるのよ。 中に出してもいいの。
 大丈夫よ、今日は大丈夫な日なの。 言ったでしょ、お姉ちゃん勉強したんだから。
 きちんと妊娠しない日なの。 だから近親相姦にはならないのよ。 安心してね。
 何回してもいいから、いっぱい出してね」


「そろそろ落ち着いたらどう? ねえ、弟君。
 世界中のどんな避妊法だって、100%絶対なんてありえないんだから。
 わかるかな? 世の中には『絶対』なんてことは一つも無いの。
 だから、姉弟が『絶対』に結ばれてはならないってこともありえないのよ。 わかるかな?
 むしろ、お姉ちゃんはこうなったことが嬉しいの。 だって、弟君の種で孕んだんだもん。
 お姉ちゃん、幸せだよ」

655:名無しさん@ピンキー
08/01/06 11:18:45 jPFTortG
おねいちゃんGJ!

656:名無しさん@ピンキー
08/01/06 12:32:10 4dfHOfnR
なんかどっかで見たことある

657:名無しさん@ピンキー
08/01/06 12:42:43 ks1drJFz
>>336とかの内容を加筆・修正したものかな?
何にしろGJ

658:名無しさん@ピンキー
08/01/06 13:09:16 oycm/stP
世界の中の人ってリアルキモ姉なのね

659:名無しさん@ピンキー
08/01/06 13:24:59 CIRcDiat
>>658
スクイズの世界?


あと涼長の中の人もそうなんだっけ。

660:名無しさん@ピンキー
08/01/06 14:53:01 6lEAhKyj
>>654
とても良かった!GJ!

661:名無しさん@ピンキー
08/01/06 14:57:23 2eI9ADHf
上の方でネタが少し被ってるのあるかも汗

僕の家は一言で表すのであれば良家だ。それも古くから伝わる類のものだ。
家も客観的に見て豪華な類に入るのだろう。華美な庭石や木々がそう魅せている。
少なくとも僕はそう思うし、周りの切望の眼差しがそれを訴えている。

しかし、僕はどうだろうか。

妾の子としての――僕は。
父は別に好色家であった訳はない。少なくとも一途であったと聞いている。
何故、僕が生まれたかも、父が今なにをしているのかは知らない。
それは妾の子だからなのだろうか。いや、正妻の子以外は知らなくていいのだろう。
第一僕自身、知ろうとすら思わない。知ったところで何かが変わる訳でもないし。

「なあ薫兄、飯はまだか?」
はっとして思考を中断させる。僕は……そうだ。幸江の夕食を作っているんだった。
蛇口から音を立てて落ちる水が何だか変なことを考えさせた。
「いえ、まだできません。今は鍋が煮える間、先ほど使った包丁と板を洗っているところです。」
台所と隣接、いや既に台所とひとつのような茶の間からは妹のリラックスしてソファーにもたれ掛る姿が見える。
「なあ、薫。お前は少なくとも私の兄なんだ。その敬語を止めてくれ。私が情けなく感じるよ。」
少し口調は強い。
「いえ、幸江さんはよくやってらっしゃいますよ。この前の試験の結果も素晴しかったですし、運動も……。私としても鼻高々です
そういって振り向く。暖房のおかげなのだろうか、この季節には似つかわしくない甚平姿の妹が柱に寄りかかっり、少し責めるような目で兄を見つめていた。
「薫はまだ自分が妾の子だって気にしているのか?まだ私を許してくれないのか?」
昔と少しも変わらない少し長い髪。それを見て少し思い出す。
初めて幸江と会った日、親戚中の集まりを。

初めて会った時、幸江とは対等に話させてもらった気がする。
僕はそこでは妾の子、しかも母がいない子供は蔑まれたりするのは当然だ。
しかも妹は生まれながら何をとっても出来がいい。背は一つ年上の僕よりこぶし一つ大きいし、顔は言わずもがな。
それに比べ僕は平凡だ。優秀な家庭で平凡はそれ以下の物となんら変わりない。
僕はそこで自分がどうすべきか知った。それだけ。
妹はそこで助けることもできた。しかししなかった事に後悔の念を感じて止まないらしい。
「いえ、そういう訳じゃないですよ。私は自分を理解している、それだけです。」
「なんだかなぁ……そうだ。今から私が飯は作ろう、そうだ。それがいい」
「あ、後は味噌汁と煮物が煮えたら終りですから……」
妹はどこにそんな力があるのかと思わせるような力で僕を押し出す。
「だからそれをやらせろって言ってるんだ。お前はソファーにある私の食べかけの煎餅と飲みかけのお茶でも啜ってろ」
こう言い出すと妹は止まらない。高校一年というのは何でもやりたい年頃なんだろうか。
ふと台所を見れば楽しそうに料理―
「こ、こら、あんまり私を見るんじゃない。」

茶の間でゆっくりと腰を据え、ふと考える。
父上や母上が帰ってこないからって少しやり放題だなぁ、と。
茶の間には似つかわしくないソファーやテーブル。ゲーム機。
ベンチプレス、マッサージ器。
妹は少し洋風に憧れているのだろう。以前改築したいとか言ってたなぁ…。
僕はこの和風の方が好きだといったら止めてくれたが。
しかしどうしても事情で改築が必要になった時、安いからという理由で僕と妹の部屋はフローリングの洋館に変えられてしまった。
父上が知ったらどう思うだろうか。

怒るんだろうなぁ……兄として止められなかった僕を。
「おーい、薫。できたんで運んでくれ」
ふと思考が途切れる。僕はなんとなく嫌な気持ちになってゆっくり立った。
それでもいいか。幸江の為なら。

662:名無しさん@ピンキー
08/01/06 14:57:57 2eI9ADHf


そっけなく妹はしているが僕にはわかる。早く味噌汁の感想が聞きたいのだ。
だから僕の手が動く度に動きが止まるんだろう。それが可愛くて、おかしくて、つい後回しにしてしまう。
「なあ薫……お前わざとか」
「ええ、幸江さんの仕草が可愛くて」
「なっ…!ぐっ…!」
盛大に咽たのだろうことはわかる。でも咽ながら僕の足を蹴るのは如何なものかと。
少しふざけ過ぎたのかも。

結局味噌汁を飲んだのは食事の最後だった。しかも感想は言っていない。
今は食器を洗い終わったところだ。
幸江はやさぐれた様に煎餅をかじっている。僕が掃除するのを知っていてだろうか。
ここで言わないときっとゲームのデータが消されたりジュースの炭酸が抜かれたりする。
少し恥ずかしい気持ちになるが、ぐっと抑えてそれを言う。

「お味噌汁……美味しかったですよ。かつおのダシと味噌の匂いがとてもいい感じで。」
そういいながら濡れた手を布巾で拭く。そして振り向けば親の敵を見つめるかのように見上げる妹がいた。
「お前は……言うのが遅いっ!」
「幸江さんが可愛らしくて」
「っ!……だとしても言うのが遅いっ!」
本当に怒らせてしまったのだろうか。妹は柱に寄りかかりあらぬ方向に顔を向けた。
「本当に美味しかったですよ。それはもうお嫁に行っていもいい位に。他の料理にも合う深い味でした。」
「そりゃ、お前が作った料理だからな。他の味にも合うんだろうな。」
墓穴だろうか。少し汗が背中を伝う。
妹は頑固なのだ。一度怒ると栄養失調になるまで飯も食わないし水も飲まない。
「いや……あのどうすれば」
「……抱きしめろ」
「え?」
「抱きしめて、頭を撫でろと言ったんだ。妹が頑張ったのにお前は何かしてやろうとも思わないのか。」
撫でろまで言ったか?いやでも……。
「でも恥ずかしいというか、ですね……」
腕を組んで知らぬ顔でこちらを見ない妹は一歩も引く気配をみせない。
「なら、お前は旨いのもを食ったんだろ?その駄賃だ。払え。」
「払えって……」
勝手にやりだしたのは幸江じゃないのだろうか。しかし一歩も引く気配は―みせない。
うちの妹は我侭なのだ。頑固なのだ。苦笑しかでない―が、もう少し出してもいいのかもしれない。

すぐそこにいる妹を背中からそっと抱きしめる。少し体が強張るのがわかる。
「笑うなっ!そして、お前は私に言うことがないのかっ」
片方の腕で優しく撫で、考える。よく姉に間違われるこの妹に言うべき言葉を。
「今日は美味しい味噌汁を作ってくれて……」
「……くれて?」
僕がそう感じるだけなのだろうか。妹は少し笑っているような気がする。

「ありがとうございます」

そこで妹は腕を解き、泣きはらした鬼の様な形相で言う。
「馬鹿だっ!お前は本当に馬鹿だ!本当に……空気を読めっ!!」
僕には酷く憤怒した理由がつかめない。なんか不味いことを言ったのだろうか?
しかし、妹は怒っている。だけどそれは喉に何か引っかかって、決して取れることのない何かのような。
そんな苦渋に満ちた表情だ。

「何か言ってはいけないことを口にしたのでしょうか?」
「それだよっ!お前は本当に……大馬鹿だよ!!」
そういって幸江は自分の部屋の方へ走っていった。

663:名無しさん@ピンキー
08/01/06 14:58:28 2eI9ADHf



柔らかめのベットに身を落として、布団に潜り込む。
あの馬鹿は……、本当に駄目だ。あそこはそうじゃないだろう。
恋人だったらキスしてもいい場面だ。いや、それは言いすぎか。
「お嫁に行ってもいいくらい……美味しい……」
頭の中でその言葉を半数させる。そして一つのことを思い出す。
「私、薫兄に頭撫でられて、抱きしめられたのか」
何かが腹の底から頭に向かって駆け上がり、なんとも言い難い感情をふつふつとさせる。
「ひゃあああ……、頭撫で……美味しい……」
しかもお嫁にって、それは薫兄の基準でってことだよな?
ごろごろと転がりながらふと考える。そしてまた悶える。

明日は少し冷たくして、怒ってるのを理由にいろいろしてやろうか。
私は兄が怒った時は甘くなるのを理解している。多分殴っても怒んねぇと思う。
それが少し悲しくもあるのだけど。

664:名無しさん@ピンキー
08/01/06 15:00:47 2eI9ADHf
投下終了です。前もって投下することを忘れてました汗
病んでる部分がない?ヤンデレ?
ボッコボッコにしてやんよ!

多分ここから加速していきます。
稚拙な文かと思いますがどうぞ批評の程、お願いします。

665:名無しさん@ピンキー
08/01/06 17:39:11 cB2YyUiR
>664

666:名無しさん@ピンキー
08/01/06 17:40:38 cB2YyUiR
>>664

GJ!
どんな風に病むかwktkして楽しみにしてます


667: ◆a.WIk69zxM
08/01/06 17:57:44 wBRa9Z6S
投下します。
非エロ。11レス予定。

>664 続けてで申し訳ない。

668:__(仮) (1/11)
08/01/06 18:00:28 wBRa9Z6S
 秋巳が水無都冬真に告白の件を相談してから。
なんとなくぼんやりと霞がかったような晴れない気持ちのまま秋巳は帰宅の途についた。
 水無都冬真の家も秋巳の近所であり、秋巳は一緒に帰ろうかと誘ったが、
例の件について早速心あたりを当たると水無都冬真は言い、そのまま屋上で別れた。
「あら。おかえりなさい。兄さん」
 秋巳が玄関の扉を潜ると、迎える妹の椿。
 ちょうど洗濯物でも取り込んでいたのだろうか、洗濯物を詰めこんだ籠を持って、
階段を上がろうとしているところだった。
「ああ。ただいま」
 そう返す秋巳の挨拶を背中で受けて、そのまま階段を上がっていく椿であったが、
途中で思い出したように立ち止まり秋巳のほうを振り返る。
「ああ。そうそう。兄さんの分の洗濯物は、分けて居間の籠に入れてありますので、
 自分でしまって下さいね」
 そういい残すと秋巳の返事も聞かずに、自分の部屋へと入っていく。
 その椿の部屋の閉まる音を聞きながら、秋巳は聞こえていることなどまったく期待しないで返事をする。
「ああ。判ったよ」
 それは、なにげない普段の、いつもどおりの兄妹ふたりのやり取りであった。
 兄に敬語を使う妹。
 昔からそうだったわけではない。
 いつからだったろうか。
 秋巳は思い出す。いや、思い出すまでもなかった。
 秋巳が中学にあがる直前。この家に住む人間が誰もいなくなったときからだった。
 そして、その約三年半後。椿と自分が兄妹ふたりで、再びこの家に戻ってきて。
以前の半分となった人数でこの家での生活を再開しても。椿の態度は、特に変わることはなかった。

 一言でいってしまえば、兄に対して無関心。一緒の家に住んでいる同居人程度の認識なんだろう。
 秋巳はそう考えていた。
 特に尊敬するわけでも、毛嫌いして疎ましく思っているわけでもない。
必要な会話は交わすし、不必要におしゃべりすることもない。
 秋巳にとって、それはありがたい距離感だった。妹の態度がよそよそしいことが、ではない。
その程度には接してくれていることが、である。
 過去に秋巳が椿に与えた仕打ちを考えれば、自分はこの家でまったく存在しないものとして
扱われても仕方がない。秋巳はそう思っていた。
 それでも、椿は兄である秋巳を一人の人間として扱い、他人の前では兄として立ててくれることも多い。
それは、多分に椿の体面も考えてのことだろうが、それでも秋巳にとってはありがたかった。嬉しかった。
 彼が唯一、関心を向ける『肉親』だったから。
 特になにもなくたって、思春期に差しかかった妹が、兄に対して冷たくあたるなんてことは、
秋巳の周りでざらに聞く話だった。あまり周囲と比較するという思考を持たない秋巳ではあったが、
妹との生活はそれを考慮すれば充分『幸せ』である。そう認識していた。
 『好意』の対極がなんであるか、なんて考えることなく。
 このままの生活が続いてくれればいいと思っていた。
 秋巳は椿のことを大事に想っていたし、椿が困っていれば迷わず自分のできうる限りの手助けはするであろう。
 それはいままでもこれからも。あの時期だけを除いて。秋巳にとってはあまり思い出したくない一年を除いて。
(まぁ、椿は困っても自分になんか助けは求めないだろうが―)
 心の中で苦笑して、妹が自身の望む幸せを求められることを願う。

669:__(仮) (2/11)
08/01/06 18:04:09 wBRa9Z6S
 椿は、望めば世間一般の幸せをいくらでも得られるであろう人間だった。
 学業。容姿。身体能力。すべてにおいて平均以上のスコアを叩き出せる彼女は、
なんでもそつなくこなす才能を有していた。
 特に秋巳が苦手とするフィールドにおいては、彼が母親のお腹に置いてきたその才能を
全部かき集めて生まれてきたんじゃないかと思うほど、抜けた能力を発揮した。
 そのことがまた、秋巳の『出来なさ具合』をより浮き彫りにし、
無意識に秋巳の劣等感を刺激する促進剤となっていたのだが、
秋巳は純粋に妹が才能溢れる人間であることを喜んでいた。
 また、容姿をとっても、秋巳にとっては『気持ち悪い』要素でしかない透きとおるような純白の肌、
肩甲骨の下あたりまで伸ばしたブラウンのストレートロングも周囲の女生徒からは
羨望の眼差しを向けられた。顔についても、時折物憂げな表情をするため、
華奢な体型と相まって線の細い印象をうけるが、目鼻立ちははっきりしており、
すっと通った輪郭も含めてあきらかに美人の部類に入るものだった。
 ただ、男に媚びたり、かわいらしい自分を演じてみせるということはまずしなかったので、
柊神奈のような男受けのいい『クラスのアイドル』とは、また違う評判を得ていた。
 どちらかというと、周囲の尊敬を集める人望のあつい人柄、また周囲に与える影響力も大きい人物、
というほうが相応しかった。
高嶺の華といった雰囲気がやや漂うので、表立って言いよる異性はあまりなかったが、
それでも密かに憧れている男子生徒は多いであろう。

 今現在、堂々と言い寄っているのは、水無都冬真ぐらいだろうか。
 秋巳は考える。
 学校では、自分は『如月椿の兄』ですらないだろう。
 よく出来た妹にとっては、出来の悪い兄など目障りでしかないはずだ。
引き立て役ぐらいにならなるかもしれないが、身内であることを考えれば自分の評判に影をおとす存在。
 だから、秋巳は学校では極力妹に接しないようにしていたし、
彼のクラスメイトのほとんども彼の妹のことなど知りもしないだろう。
如月椿の存在は知っていたとしても。
それがクラスで名前も覚えられているかどうかも怪しい影の薄い如月秋巳の妹だとは想像がつかないのだ。
 彼のクラスでの認識は、せいぜい『あの水無都冬真となぜか仲の良いヤツ』ぐらいのものであろう。
それも、分け隔てなく付き合う水無都冬真が秋巳にも構ってやっているのだろう、ぐらいの認識。

 もし、自分が柊神奈に関係した噂の対象になれば。
 もし、注目されるようなことになれば。
 『如月椿のダメ兄貴』の風評が、学校に流れるかもしれない。
 秋巳は、妹の学校での影響力を正確には知らなかったが、
水無都冬真から伝え聞く範囲で考慮すれば、椿にとってもいい迷惑になるに違いない。
 だから、それを考慮しても、柊神奈とのことは穏やかに済ませたかった。

670:__(仮) (3/11)
08/01/06 18:05:38 wBRa9Z6S
「兄さん、今日の夕食なんですが―」
 秋巳が居間で洗濯物を畳みながら、つらつらと昨日今日の出来事や椿のことについて、
考えを巡らせていると、背後から声がかかる。
 椿がいつのまにか部屋から出てきて、居間の入り口に立っていた。
「ん。ああ、今日の夕食か。えっと、当番は……僕だっけ。
 早い方が良い? もうすぐ用意するよ」
 夕食の支度は長期の休みの日を除いて、原則ふたりで交互にやる。
それがこの家での生活においての二人で取り決めたルールだった。
「いえ。ちょっと都合で明日の夕食がいらないので、
 今日と当番交代してもらえます?」
「あ。そうなの。別にいいよ。明日は僕ひとりで適当になんか買うし。
 いちいち交代しなくても」
「こちらの気分の問題なので。ダメなら、明日夕食だけ作りに戻ってきますけど?」
 そう言い切る椿。
 自分に貸し借りをつくりたくないのだろう。『同居人』ならではの線引き―。
 秋巳は内心自嘲する。
 ここで押し切れば、明日は本当に夕食をつくるためだけに戻ってくるのであろう。
「判ったよ。じゃあ、今日はお願いするよ」
「ええ。時間はいつもどおりでいいですか?」
 自分の提案が受け入れられたことに、わずかにほっとしたような表情をみせる椿。
 面倒なことにならなくて済んだからであろう。
「それでは、ちょっと夕食の買物に行ってきますので」
 そう言うと、椿は踵を返し玄関へと向かった。
「ああ」
 秋巳は頷いたものの、「今日買い物行く必要あったっけ?」と疑問を浮かべていた。

671:__(仮) (4/11)
08/01/06 18:08:07 wBRa9Z6S
 *  *  *  *  *  *  *


 秋巳に翌日の夕食が不要であることを伝えてから、椿が向かった先は駅前の喫茶店『ユートピア』。
 大層な名前が付けられている割には、店舗の構えはそれに相応しいものとはいえなかった。
デートに使われるような洒落た店というより、ビジネスマンがちょっとひと休みといった
用途で主に使われるこの場所。
その色気もなにもない自動ドアを潜ると、ひととおり店内を見渡す。
 いらっしゃいませと声をかけてきた店員に対して、待ち合わせの旨を椿が伝えるとほぼ同時に、
フロア奥の一角から声が上がる。
「おーい! 椿ちゃん! こっちこっち!」
 ホットコーヒーひとつを、と店員に注文すると、その呼ばれた窓際のボックス席へ向かう椿。
「ごめんなさい。水無都さん。お待たせしましたか?」
 特段済まなそうな顔を見せるでもなく、普段どおりの表情で待ち合わせの相手である水無都冬真に声をかける。
「いやいや。俺もいま来たところだよ。さ、座って、座って」
 と自分の座っていたところからウィンドウに近い奥に寄って、隣をバンバン叩いて座るよう促す。
 椿は、ええ、と返事しながら、ボックスの水無都冬真の向かいの席に腰を下ろす。
「…………」
 隣を空けたことに椿がなんの反応を見せることもなく完全に無視された形の水無都冬真は、
窓際に寄りかかったまま一瞬固まったが、
「はは。いや、ここなぜか埃っぽくてね……」
 と先ほど自分が座っていた場所に手を置いたまま、乾いた笑いで呟いた。
「さすがですね」
「え? なにが?」
「女性に恥を掻かせない術を心得ている、と。
 たとえ自分が恥を掻いても、相手は責めないんですね」
 と、水無都冬真のまえにおかれている空になったコーヒーカップを指差す。
「いやー。椿ちゃんの冷たいあしらいは慣れてるしね。
 そんなところに、また俺のハートはぞくぞくくるわけよ」
「それで、お話とは?」
「うわ。もうほんと、兄妹そろってクールなんだから。もっとさ、
 『お待たせしてすみません。これでも冬真さんに呼び出されて
 慌てて飛び出してきて、走ってきたんですけど』なんて、
 ハァハァ息を切らして、頬を染めながら囁いて欲しかったり
 するんだよねー。お兄さんとしては」
「お待たせしてすみません。これでも水無都さんに呼び出されて
 慌てて飛び出してきて、普通に歩いてきたんですけど。
 それでお話とは?」
 なんの感慨も含めないように、棒読み真顔でこたえる椿。
「はいはい。判ってましたよー。ええ。ええ。
 全然ショックなんて受けてませんよー。ふーんだ。
 意地の悪い椿ちゃんには教えてあげないもんねー」
「では。これ、コーヒー代ですから」
 そう言って五百円玉を置いて立ち上がろうとする椿。

672:__(仮) (5/11)
08/01/06 18:10:32 wBRa9Z6S
「ええ! 嘘ウソッ! 軽いジョークだってば!」
 水無都冬真が、引きとめようと慌てて椿の腕を掴む―その瞬間、
逆に手首を掴まれ腕を勢い良く捻り上げられる。如月椿によって。
「えぇ! ちょっ―!」
 驚いた水無都冬真がその痛みを感じる直前に、
ぱっと掴まれた手は離された。
「失礼しました。ちょっと驚いたもので。反射的に」
「あ、あの? 驚いたのはこっちのほうなんだけど? 
 腕をつかまれて反射的に相手の腕をひねり上げるって、
 どんだけ戦闘訓練を受けた照れ屋さん?」
 特に痛みはないが、掴まれた手首を擦りながら水無都冬真が問う。
「すみません。男の人に免疫がないもので」
「そこはもうちょっと照れながら言ってほしかったなぁ。
 と、まあいいや。ごめん。
 ちょっとこっちも悪ノリしちゃったしね」
「では、痛み分けということで」
 自分に多大なお釣りがきそうだけどね、と水無都冬真は思った。
「うん。まぁ、話ってのは、さっきメールで送ったことなんだけど」
「これのことですか?」
 そう言って、携帯を広げて見せる椿。そこには。

『FROM: 水無都冬真
 TO: 如月椿
 Subject: 【緊急事態】Emergency!!!【発生】
 Contents:
  あ 姉さん。事件です!
  い 秋巳の被害者が
  し 累計二名に達しました!!
  て 明日の晩しっぽり決め込む模様。
  る 詳細はヒトナナサンマル、
  ! 約束の場所で。ランデブー。』

「うん。それ」
 我が意を得たりとばかりに頷く水無都冬真。
「で、ここでこの暗号の解き方を教えてくれるわけですか?」
「いや、暗号もなにもそのままの意味だけど?」
「では。日本語に訳していただけると助かります」
「いや。日本語だけど」
「…………」
「あぁ。いいねぇ。その冷たい視線もゾクゾクするよ」
「で?」
 そもそもその後の『p.s. 約束の地。それすなわち、桃源郷』という追送されたメールがなければ、
この場所すら判るものではなかった。


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