07/12/15 21:24:47 Wx41CoMD
四草×喜代美、小話投下。
エロ無し。
「誰か引っ越して来るまで待つがな。…あなた、気が短いのか長いのか、わかりませんなぁ」
稽古部屋で一人、『天災』を頭の中で反芻しつつ喋っていると、声をかけられた。
「おはようさん」
「おはようございます、四草にいさん」
稽古部屋の入り口から、四草は喜代美と視線もあわさずにすたすたと入ってくる。
師匠に命じられたにも関わらず一向に喜代美の面倒を見ようとしなかった四草は、先日の寝
床での落語会での失敗以来、一転して兄弟子としてのつとめを果たすようになった。
口数は少ない。そうかと思えばさらっと毒は吐く。人使いは荒い。何かと賭けをもちかけてくるし、
平兵衛の世話も押しつけてくる。
やりづらいことこの上ないが、とにかく何だかんだと稽古はつけてくれるようにはなったのだから、
喜代美だって嬉しくないわけがない。
四草は稽古部屋にどんと据えられている大きな本棚の前に立つと、何冊かを選んで棚から抜き
取った。そのまま喜代美の前にぺたりと腰を下ろすと、本を差し出す。
「すぐに読まんでもええから、これも読んどけ」
「ありがとうございます!」
喜代美は笑顔で本を受け取る。
こうやって最近は落語の勉強になりそうな本を選んでは渡してくれる。
それは古典文学だったり、高名な落語家による落語に関するよろず噺だったり、能や狂言、文
楽などの伝統芸能を特集した雑誌のバックナンバーだったり、固い内容のものから柔らかいも
のまで様々だ。
同じ兄弟子でも草原とは違って懇切丁寧でもないし、素っ気ないけれど、こういう四草の心遣い
はやっぱりありがたいし、嬉しいものだと喜代美は思う。