07/10/25 02:05:05 IQkmbdST
それから何日か経って。
生徒の三分の一が熱血化し、大半の一年生が進路希望欄に『属性:炎』と書く様になった頃。
その事件は起きた。
その朝、慌しく教師達が廊下を走り回っていた。
いまだタバサの部屋に間借りしている才人は何事か、と手近な教師を捕まえて尋ねた。
すると。
「いや、早朝学院の宝物庫に賊が入ってね。今捜索中なんだ」
その教師の話によれば、今朝方、宝物庫の中に仕掛けられた侵入警報の魔法が発動したという。
そしてすぐに見回りの夜警が駆けつけたのだが、入り口近くにあった宝物がひとつ、盗まれたという。
その盗まれた品を現在、宝物庫のリストと照らし合わせて確認中だという。
「盗まれた物くらいすぐわかるような気がするんだけどなあ」
慌しく去っていく教師の背中を見ながら、才人は呟く。
その傍らで、いつのまにやってきたのか、タバサが説明した。
「宝物庫は普段、厳重に封印されている」
なるほど、と才人は思った。
普段封印されていて中身を見る機会がなければ、盗まれた物をすぐに判断するのは難しいのも道理だ。
しかし。
「…そういやなんでシャルロットがその事知ってんだ?」
たしかにそれも道理だ。宝物庫に入ったことのないはずのタバサが、そのことを知っている事もおかしい。
タバサは一瞬むっとすると、心の声で答える。
…私の過去知ってて、そんないじわる、言うんだ。
その声には、あからさまな不満が混じっていた。
あ。しまった。
言われて初めて、才人は思い出す。
タバサはかつて、ガリア王の尖兵、私兵騎士団『北花壇警護騎士団』の一人であったのだ。
その彼女に、トリステイン魔法学院の宝物庫への侵入指令が下されても不思議はない。
才人は心の中で慌てて詫びる。
ご、ごめん、忘れてた!
しかし時すでに遅く。
…だめ。今更遅い。
心の中で言って、タバサは才人めがけて両手を広げた。
「ん」
…って、こんな朝っぱらから…?
抱っこしろ、という意味である。
…お昼までには、許してあげるから。
才人は仕方なくタバサを抱き上げ。
そのままタバサを抱っこして、部屋の中に入ったのだった。