07/09/25 19:58:54 F+26nBaZ
救急車で望が運ばれた先は、命の居る糸色医院であった。
望の意識はハッキリしていた。だが、逆にそれは彼にとって残酷な事であったようだ。
運ばれている間も苦悶に身を捩る望を、可符香はただ傍で見つめる事しか出来なかった。
そうして気が付けば、可符香は病室の扉の前に立っていた。
望が運び込まれた後も、何やら色々あった気がする。
こうして扉の前に立ってから、どのくらい時間が経過したのだろう。
途中、看護師に「面会時間は終わっていますよ」などと注意をされた気がする。
自分は命の知り合いだと告げると、看護師は彼女がここに居る事を了承してくれた。
その会話すら、今の彼女はろくに覚えていない。夢の中の出来事にすら思えてくる。
意識がハッキリしない。混乱が、彼女の思考力を奪っていた。
ハっとして、ブンブンと勢い良く左右に首を振り乱す。
不安など、馬鹿げている。何を不安に思う事があるのだろう。
(大丈夫だよ…大した病気じゃない。お医者さんに診てもらえば、すぐ治るわ)
望の吐瀉物に混じっていた、コーヒー色の何かは―そう、きっと本当にコーヒーだったのだ。
昼食の時にでも飲んでいたのだろう。
―だが、確か自分は…彼と一緒に昼食を取ったのではなかったか。
その時彼は何を飲んでいた?少なくともコーヒーでは無かった気がする。
(…じゃあきっと、朝にでも飲んだのね)
朝に飲んだものが夕方近くまで胃に残っている不自然さには、目を瞑る事にする。
そうして悶々と扉の前に佇んでいると、中から人の話し声が聞こえてきた。
一瞬、目を覚ました望の独り言かと思った。
だがそれは確かに会話になっていて、すぐに命と望が話している事に気が付く。
二人は外見だけでなく、声も良く似ていた。