07/09/22 19:09:34 6tTyhO1F
「…何も問題ないって、言ってるじゃないですか」
けれど認めない。彼女はそんな自分の思考を認めない。
それらは全て無意識に行われる事だ。意識したらもう、彼女はそれに耐えられない。
意識してはいけない、気が付いてはいけない。
だからそれ以上言ってくれるな。もうその口を閉ざしてしまえ。
そんな思いを込めて、今日に限ってやたら饒舌な教師の顔を見つめた。
そこでふと、望の異変に気付く。
彼の顔色が、随分と青白いのは気の所為だろうか。
「――先生?」
さっきまでの勢いはどこへやら、突然押し黙ってしまった望の顔を覗き込む。
近くで見ると、一層顔色が悪く見える。
さっきまでのやり取りはとりあえず思考の隅に追いやって、様子を窺うように声を掛ける。
「せんせ…」
「――」
何か答えようとしたのだろう。
けれどそれは叶わず、望は突然身体をくの字に折り曲げて、地に膝を付いた。
可符香は思わず驚いて身を引くが、すぐに自分も膝を折って、俯く彼の顔を覗き込む。
「先生…、糸色先生ッ」
「…っひ、は――」
呼吸がおかしい。
苦悶の表情で腹部を押さえて、パクパクと鯉のように口を開いたり閉じたりしている。
肩に手を回と、返ってくる感触で、以前よりも彼が随分痩せている事に気が付いた。
「す…っ、すぐに、救急車呼びますから…ッ」
動揺を隠し切れず、震える声で言いながら、慌てて鞄から携帯電話を取り出す。
コールしている最中も、少しでもその苦痛が和らげばと、背中を擦り続ける可符香。
「―…ぐ…、っ…ぇッ…!」
望の身体が僅かにはねる。
望が吐いた吐瀉物には、コーヒー色の血が混じっていた。