07/09/21 21:40:47 QF+AeAOh
音楽室の中は、防音のため2重扉になっている。
物音を立てないように外扉を閉めると、先生は内扉の引き戸を少し開けて、隙間から中を覗く。
少し離れた所にあるピアノの下に真夜がいた。
(手に持っているのは・・・・・ハサミですかね?)
真夜はピアノの下で膝をついて、その裏側をハサミで擦るような仕草を繰り返している。
木を引っ掻くようなガリガリといった音が微かに聞こえた。
やがて、真夜は満足げに口元に笑みを浮かべて、ピアノの下から出てくる。
(イタズラ・・・・・・ですか?)
先生が首をひねっているうちに、真夜はピアノのカバーを外し、椅子に座って鍵盤を開いた。
音を確かめるように、いくつかの鍵盤を爪弾き、真夜は嬉しそうに微笑んだ。
きつい目付きは相変わらずだったが、喜んでいるのは分かった。
(なにやら楽しげな感じで・・・・・)
やがて真夜は、少し呼吸を整えてから、鍵盤の上に指を走らせ出した。
「・・・・・ほお・・・・」
先生は思わず溜め息をもらす。
実際、真夜の演奏は見事なもので、彼女の指が鍵盤の上で踊ると共に、心地よい旋律が紡ぎ出されてゆく。
(・・・・・・なるほど、こっそりとピアノを弾きたかったという訳ですか。しおらしい子じゃないですか。)
先生は少し笑みを浮かべると、もう少しよく見ようと身をよじる。
バササッ!
抱えていたノートが落ちる音がした。
真夜の演奏がピタッと止む。
(あちゃー・・・・・・)
引き戸の隙間に先生の姿を見つけた真夜と目があってしまい、先生は焦ってノートを拾う。
「・・・・・・や・・・いやー・・・・上手に演奏されますね・・・」
先生は頭などを掻きながら、戸を開け教室に足を踏み入れた。
愛想笑いと苦笑いの中間くらいの笑みを浮かべ、真夜の近くまで行く。
真夜は先生に視線を向けたまま、指は演奏中の状態で硬直していた。
「・・・・すみません。驚かせるつもりはなかったんですが・・・・・・・。」
真夜はじっと先生を見る。
先生は気まずそうに視線をそらした。
「ええっと・・・実は先生も、子供のころピアノやってまして。・・・・まあ、習わされたというか、たしなみ程度でしたがね・・・」
そう言って、少し苦笑を浮かべた。
「・・・三珠さんは、ピアノがお好きなんですねぇ。かなり練習されたのでしょう? いや、お世辞抜きで、とってもよかったですよ!」
先生の言葉に、表情は変えないまま、真夜の頬が少し赤くなったように見えた。
突然、ガタン! と椅子を蹴って真夜は立ち上がる。
「・・・・どうしました?」
真夜は椅子の横に移動して、無言のままピアノを手で指し示す。
「・・・・・もしや・・・・・、私にも弾いてみてくれと・・・言う事ですか?」
真夜はじっと先生を見つめている。
静かな音楽室に、時計の音だけが聞こえている。
「・・・・・えー・・・・まあ・・・・少しだけなら、まだ弾けるかもしれませんが・・・・・・・上手くはないですよ?」
無言のまま真夜にうなずかれ、先生は頭を掻いて椅子に座った。
「じゃあ・・・・・・先ほど三珠さんが弾かれていた曲を私も弾いてみましょうか。」
先生の言葉に真夜はピクッと体を震わせた。
「・・・・・・失敗しても怒らないでくださいよ? 先生、下手ですからね。」
何度も念を押して、先生もピアノを弾き始める。
451:真夜:私と好きなもの 3/4
07/09/21 21:42:07 QF+AeAOh
少したどたどしいメロディで、同じ曲が爪弾かれてゆく。
真夜は、じっと、先生の指先と横顔を見つめている。
少し指先が震えているようにみえた。
「・・・・ああ・・・やはり・・・・三珠さんの様にはいきませんねえ・・・・・」
ピアノを弾きながら先生がぽつりとつぶやくと、真夜は目を見開いた。
しゅるっ・・・・と、袖の中からバールが手の中に滑り落ち、力強く握り締めた。
ガツッ!! バジャャァァァァアアアンンッッ!!!
力いっぱい振り回したバールは先生の後頭部を打ち据え、先生は顔面から鍵盤に突っ込み派手な音が響く。
真夜は上気した顔で、先生の後頭部に膨らんだタンコブを見ている。
「・・・・・な・・・・! 何が起きたのですかぁ!?」
先生は頭を振りながら上体を起こし、真夜を見た。
真夜はバールを握ったまま、微笑を浮かべて先生を見ている。
「・・・・三珠・・・さん?」
先生は、ぽつりとつぶやいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「犯人な訳がない! あまりにも、証拠が揃いすぎています!」
天井を仰ぎ、こぶしを握り締めてそう叫ぶ。
「そうです! ここは旧校舎の音楽室・・・・・きっと怪奇現象の類いですね!」
そう結論付けると、真夜の方を振り向く。
「あなたは無事のようですね。しかし、ここは危険な予感がします! 退散しましょう!」
先生は立ち上がって宣言した。
「さあ! っと、そんな物を持っているのは危ないですよ!?」
言うが早いか、真夜の手からバールを取る。
真夜は一瞬、ぽかんとしたが、慌てて先生のバールを持った手を掴んだ。
「・・・三珠さん? 護身用なのは分かりますが、危ないです!」
そう言って、手を高く上げるが真夜は離さなかった。
背伸びをした状態で、その手首を掴んでいる。
「『転ばぬ先の杖が刺さる』と、言いましてね。 予防しすぎるのも考え物で・・・・・・・」
真夜は答えず、空いている方の手を伸ばそうとするが、それに気がついた先生がその手も押さえた。
力比べでもしているような、妙な格好になり、真夜はバランスを崩し、後ろに押される形になってしまう。
先生もそれに釣られて、真夜を押してしまう。
ガタッ!
真夜の背中が窓に当たって止まった。
「・・・・あっと・・・!」
先生は思わず真夜にぶつかってしまった。
真夜はビクッ!と目を閉じて少しうつむいた。
(・・・・・・・あ・・・・・・・・・・)
先生は思わず真夜の顔を見つめる。
窓から差し込む夕日が無ければ、その頬が赤く染まっていた事が分かっただろう。
閉じた切れ長の瞳。
そのまぶたからは、夕日に照らされ、長いまつげが頬に影を落としている。
普段の鋭い視線からは想像しなかったその姿を間近で見つめ、先生は思わず見とれていた。
真夜が薄目を開けて自分を見ている事に気がつき、先生は慌てた。
「・・・・・・・い・・・・いや・・・・その。綺麗なまつげをしていますよ、三珠さん。」
うっかりそんな言葉が口から飛び出した。
その言葉を聞き、真夜は慌てて目を閉じ顔をそむけた。
夕日に染まった教室でも判るほど、真夜の横顔は朱色に染まっている。
452:真夜:私と好きなもの 4/4
07/09/21 21:44:54 QF+AeAOh
「・・・・あっ!? す、すみませ・・・・・・・・」
ガララッ!!
「何をしているんですか? 先生?」
引き戸の開くく音と共に現われたのは、智恵先生だった。
入り口に立ったまま、こちらに冷ややかな視線を送ってくる。
先生はその場に凍りつき、自分の状況を確認する。
・薄暗い音楽室に、担当クラスの女生徒と二人きり。
・女生徒の両手を押さえ、しかも窓際に迫っている。
・その手に持つ物はバール(凶器)
・女生徒は顔をそむけ、嫌がっている(ように見える)
「・・・・し、証拠過多ですからぁぁぁぁっ!!」
絶叫する先生を無視して、智恵先生はツカツカと歩み寄ってくる。
「物音がしたから来てみたら・・・・・糸色先生が、自分の生徒に手を出すなんて。」
「ち、ちがいます、コレは・・・・」
抗議しようとした先生の手に、いつの間にか智恵先生が手錠をかけていた。
「言い訳は反省室で聞きます。」
「ちょ!? 智恵先生なぜ手錠を持ちあるいて!? じゃなくて! 反省室って・・・・・・!」
その声には答えず、智恵先生は、引きずるようにして先生を連行してゆく。
「・・・いやだぁぁぁ!! セクハラ教師で告訴されるのはいやだぁぁぁぁ!! 皆で私を白い目で・・・・・・・」
先生の叫び声は小さくなってゆき、やがて聞こえなくなった。
真夜は無言で先生を見送っていたが、やがて先生が落としていったバールを拾い上げる。
バールを両手でそっと抱きかかえ、真夜は微笑んだ。
やがて、余韻に浸るようにしばらく抱えていたバールを袖口にしまうと、真夜はスタスタと音楽室を出ようとした。
しかし出口をくぐろうとした所で足を止め、何事か考えている。
と、サッときびすを返し、すばやくピアノの下に潜り込んだ。
ポケットからハサミを取り出して、嬉しそうな表情を浮かべると、再びピアノの裏側をガリガリと引っ掻く。
しばらくして、手を止め、その場所を見て満足そうに笑う。
真夜の頬が、ぽぉっ と赤くなった。
まよ
と
せんせい
少し丸みのある文字で、掘り込まれていた。
真夜は笑みを浮かべたままで、ささっと音楽室を飛び出す。
ぱたぱたと機嫌のよさそうな足音が遠ざかっていった。
「世間に叩かれるぅぅぅ!!!」
暗くなった校内には、どこかの反省室から聞こえてくる、先生の叫び声だけがこだましていた。
453:前305
07/09/21 22:10:46 QF+AeAOh
お粗末でした。
投下おわってから規制が・・・・・ww
読んでくれた人いましたら、ありがとうです。
454:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:17:36 DXxU3uKk
ハサミでそんなかわいい事を掘っていたのか!
三珠に初めて萌えた
455:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:22:55 e5V27Hki
>>448さんGJです!!
最近神が多過ぎで全て見れないのですが、マヨと聞いて飛んで来ました。
可愛すぎます!!SSにするには正直難しいキャラと思うので、尊敬します!!(*´д`*)
456:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:48:07 v19bXw+o
>前305氏
最近本格的にマヨラーデビューした者ですが、畜生、GJとしか言いようがない
バールまで使って忍び込んで、そんな可愛らしいことを………これが惚れずにいられましょうか
457:名無しさん@ピンキー
07/09/21 23:15:17 pM3lI+wS
>>430-433
GJ! 死にたくなりましたw
>前305氏
萌え死にました
458:前スレ851
07/09/22 00:01:02 mgzufCY+
>>457
どうも。私も読み返してみて、死にたくなりました。
発想暗いですね・・・でも、こういうの好きみたいです、自分としては。
パロ小説を始めて何本か書いてみたけど、自分で考えている以上にストーリー
とかの引き出しや発想が少ないし、表現もすぐステレオタイプな繰り返しにな
ちゃいますね。書いてみて初めて分かった・・・。才能ないわ・・・。
みなさん凄いです。
430はお分かりと思いますが、年忘れのエピに影響されて思いついたのですが、
今調べてみると千里の肌年齢は28歳なんですね。なんで27歳と思い込んでい
たのだろう。28歳ならちょうど10年、と出来たのに・・・まあ、いいや。
459:名無しさん@ピンキー
07/09/22 07:50:19 pJdrHQ6/
>>444
ちょ、ま、うP主さんでしたか!
マイりストに入れて1日1回は見てます。
修正版も見てます。
ああ、これは期待せざるを得ない…けど、やっぱり泣けってことですかぁぁぁぁあ!
460:名無しさん@ピンキー
07/09/22 09:10:46 G6hXZY3S
>>458
漏れも27歳だと勘違いして憶えてたw 切ねーよぉ・・・
>>448
もみ合ってるくだりで、「このまま濡れ場に突入できんじゃん!?」
と思ってしまった漏れは、イロイロ終わってるorz
まさかマヨに萌えるなんて(*´д`)
確かにまつげがカワええ。<目を閉じたら美少女>って属性とは気がつかんかった!GJ!
461:名無しさん@ピンキー
07/09/22 10:46:03 fm6Jg5LU
よ、よんひゃくきろばいとを超え・・・る・・・?
462:名無しさん@ピンキー
07/09/22 10:49:34 Dr+sONz/
>>1がスレ立ててからまだ二週間たってないんだぜ
463:名無しさん@ピンキー
07/09/22 11:47:50 G1fS1FqB
ええい、鬱カフカの続きはまだか!!
464:名無しさん@ピンキー
07/09/22 12:50:20 VEEhwa7B
>>341氏=うぷ主と知った時点でもうすでに「真昼が雪」は涙なしには読めなくなった
465:名無しさん@ピンキー
07/09/22 13:20:43 G6hXZY3S
あと予告にあったのは、
>>146さんの可符香SS 終章
>>272さんの長編SS 続き
>>220さんの三珠SS
>>280さんの大草さんSS
>>283さんのあびるSS
>>285さんの兄妹愛SS
>>287さんのマリアSS続き(忘れたころ)
だったかね? すげー量だw wktk
スレの容量が残り103kくらいとして、全角1文字=2バイトだったけ? だと、残り、ザッと51000文字分か?
146さんの可符香中編が14kくらいで、272さんの前回の投下が16kくらい。
平均15kくらいとすれば、マリアss以外が一度に投下されてもへいきかな?
ということで、全裸待機の準備ww
466:名無しさん@ピンキー
07/09/22 13:21:06 zAwuGhKy
マジであのうp主なのか
あれはもう毎日観てるくらい大好きなんだぜ
467:名無しさん@ピンキー
07/09/22 14:22:33 JQtuU8qh
これもアニメのおかげか
468:名無しさん@ピンキー
07/09/22 17:38:17 AeTL+wLp
なんかもう毎日wktkが止まらないんですけど
469:430
07/09/22 17:53:02 2UJwpGCd
な、なんか、スレがすごいことになってるので、ラッシュに紛れてみる。
先生×可符香+久藤君×倫ちゃんで、元ネタは、人格ポータビリティです。
困ったときに使うと人気が取れるラブコメ的手法…のはずなのに
全然ラブコメになっていないという…orz
470:交換 1/8
07/09/22 17:53:39 2UJwpGCd
「…いったい全体、どうしてくれるんですか。」
街角にある急な階段の下。
望は、この上なく不機嫌な顔でクラスの女生徒を睨みつけていた。
その女生徒は、望が心から愛しているはずの少女、風浦可符香。
一方、可符香はふてくされたようにそっぽをむいていた。
何故か、可符香の横には倫がそっと寄り添っていた。
そして、望の隣ではこれまた何故か、
久藤准が困った顔をして、望を見上げていた。
望は、再び押し殺した声で、可符香に向かっていった。
「聞いているんですか、久藤君。」
「聞こえてますよ、何度も言わなくたって。」
久藤君、と呼ばれた少女はうんざりした顔で望を振り返った。
ことの起こりは本日の放課後。
可符香と望がのんびりと街を散歩していたところに、
倫とデートをしていた准が、階段で足を踏み外し、転がり落ちてきた。
そして、見事に可符香とぶつかって、その中身が入れ替わってしまったというわけだ。
「ここでは、私も以前、木村さんと入れ替わった(というより追い出された)ことが
ありますし、何かの磁力が働いているとしか思えませんね…。」
望が階段を見上げてため息をついた。
准の姿の可符香が、うーん、と腕を組んだ。
「この前に先生が入れ替わっちゃった後、みんなでいろいろ試したんですよ。
結局、2人で抱き合って飛び降りるのが、一番、成功率が高かったかなぁ。」
望の顔色が変わる。
「抱きあ……許しませんよ、そんなの!!」
「だって、じゃあ、どうするんですか!!」
471:交換 2/8
07/09/22 17:54:36 2UJwpGCd
言い争う可符香(in准)と望を見て、倫は頭を振った。
「ああ、もう、お兄様ったら…。」
准(in可符香)は、少し不服そうに口を尖らせた。
「…倫ちゃんは、僕と杏ちゃんが抱き合っても平気なの?」
「馬鹿なことを。心のこもっていない抱擁など、何の痛痒も感じん。
…私は、そんなこと、心配する必要などないのだろ?」
にっこりと問い返されて、准は可符香の顔で赤くなった。
なにやらほのぼのした雰囲気の2人に、望の鋭い声が飛ぶ。
「そこ!ラブコメしてるんじゃありませんよ!」
「…ラブコメしてたのは、お兄様の方じゃありませんか…。」
倫は小さい声で呟いた。
「で、どうするんですか、先生。僕と杏ちゃんが抱き合うのが駄目って
言うんだったら、ずっと僕らこのままですか?」
准の言葉に、望がぐっと言葉に詰まる。
「それに…僕、さっきからトイレに行きたいんですけど…。」
――間。
「ちょっと、准君、それって……やだ!」
「そんなことしてご覧なさい、あなた、明日から出席名簿に載ってないですよ!」
「だったら、どうするんですか、ここで漏らしちゃってもいいんですか!?」
かなりレベルの低い言い争いが続いた後、望が悲壮な顔で決断を下した。
「…分かりました。久藤君、あなた、目隠しをしなさい。そして、倫。
あなたが久藤君について行って、彼が可符香の体に触らないよう、
用を足すのを手伝ってあげてください。」
「なっ…!」
倫は絶句した。
しかし、准を見ると、どうやら事態はかなり切羽詰っているようだ。
「分かりましたわ…お兄様、この貸しは大きいですわよ。」
倫は、しぶしぶと、目隠しをした准を、近くの公衆トイレに連れて行った。
472:交換 3/8
07/09/22 17:55:26 2UJwpGCd
しばらく後、ぐったりとした倫が准を連れて戻ってきた。
「こんな心身ともに疲れることは、二度とごめんですわ…。」
そう言うと、その場にしゃがみこんでしまった。
「先生。やっぱり、私と准君で一回飛び降りるしかないですよ。」
「そうですよ、僕、この先、風呂にも入れないとか、嫌ですからね。」
「…風呂ですって…!?」
望の声が裏返る。
ちらりと倫を見たが、倫にこれ以上の協力を頼むのは無理そうだった。
望はしばらく腕を組んで考え込んでいたが、やがて、顔を上げた。
「分かりました。それじゃあ、こうしましょう。
まず、久藤君に可符香の体の中から出て行ってもらって、
私が可符香の中に入ります。」
「「「…は?」」」
「ですから、まずはじめに、私と、可符香の姿の久藤君が一緒に落ちます。
その後、私の姿の久藤君と可符香に、一緒に落ちてもらいます。
それで、久藤君はもとの姿に戻るでしょう。
あとは、私と可符香が入れ替わればいいんです。」
滔々と説明する望に、可符香と准は、うんざりとした顔を見合わせた。
「…なんで、わざわざそんな面倒臭いことを…。」
「よっぽど、僕と杏ちゃんが抱き合うのが嫌なんだろうね、先生…。」
「図書室でのことが、トラウマになってるのかも…。」
「はい、決まったら善は急げですよ!
またトイレに行きたくなる前に、片付けてしまいましょう。」
望と准は、階段を上ると、お互いに向き合った。
「可符香と抱き合うといっても、中身があなただと思うと非常に不愉快ですね。」
「…先生なんか、少なくとも僕の外身は杏ちゃんなんだからいいじゃないですか。
僕なんか、相手は中身も外身も先生なのに抱き合わなきゃいけないんですよ。」
「……。いつかあなたとは本気でケリをつけたいと思いますよ。」
473:交換 4/8
07/09/22 17:56:14 2UJwpGCd
階段の上で睨み合っている2人に、可符香が下から声をかけた。
「先生!准君!何やってるんですか!
今度は、私がトイレに行きたくなっちゃいますよ!」
望と准は、もう一度不機嫌な顔を見合わせると、しぶしぶ、双方の体に腕を回した。
「いいですか、久藤君。」
「とっとと降りましょう、先生。」
そう言うと、2人は階段の上から飛び降りた。
望は、飛び降りる瞬間、可符香の体を自分の体で包み込んだ。
中身は生意気な小僧であっても、体自体は大切な恋人のものである。
決して、怪我などさせてはならない。
――どすっ!
望は、体にものすごい衝撃を感じ、次の瞬間目の前が暗くなった。
「…せい、先生!?」
ハスキーな少年の声が、自分に呼びかけている。
「…っ。」
望は、起き上がろうとして、自分がセーラー服を着ていることに気が付いた。
――どうやら、成功したようですね。
顔を上げると、心配そうな顔をした准の顔が目の前にあった。
「…。」
その中身が、自分の恋人だと認識するまでにしばらくの時間がかかった。
「あー、と。大丈夫、あなたの体は、傷1つありませんよ。」
複雑な笑顔で可符香(in准)に向かって微笑んでみせる。
と、隣を見ると、青い顔をした自分が倒れていた。
「准、准、しっかりしろ!」
倫が涙声で自分の体を揺さぶっている。
どうやら、先ほどの衝撃からすると、自分の体はもろに地面に叩きつけられたらしい。
474:交換 5/8
07/09/22 17:57:03 2UJwpGCd
「…ん。」
准(in望)がうっすらと目を開けた。
「准!」
准はのろのろと起き上がると頭をさすった。
「いてて…。先生、受身くらい取ってくださいよ…。」
ぶつぶつと文句を言う。
「うるさいですね。自分の体をどう扱おうと私の勝手ですよ。」
「怪我をするのは勝手ですけど、当面、その痛みを感じるのは僕なんですからね。」
そういいながら、准(in望)は、体のあちこちをなでさする。
「准…良かった…。」
倫が、震える声で、准に寄り添った。
准は、倫の目の端に涙が滲んでいるのを見てはっとした顔をした。
「倫ちゃん…そんなに、心配してくれたの?」
「…。」
倫が赤くなって横を向いた。
「倫ちゃん…ああ、もう、君って何て可愛いんだ!」
准は、いきなり倫を抱きしめると、熱烈に口付けた。
「ちょ…っ!」
望が血相を変えて、2人を引き離そうと体を乗り出す。
と、背後から、息を飲む声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには奈美、あびる、千里の3人が立っていた。
「なんで、あなた方がここに…。」
望の呟きをかき消すかのように、奈美が大声をあげた。
「先生…!?兄妹でいったい何やってるんですか!?」
望は青ざめた。
確かに、傍目からは、望が倫を抱きしめ口付けているとしか見えない。
「…先生、不潔。」
呟くあびるの横で、千里が無言でバットを振りかざした。
475:交換 6/8
07/09/22 17:57:52 2UJwpGCd
結局、千里が暴れたために誤解を解く間もなく3人が立ち去った後、
望は准に詰め寄った。
「…なんて事をしてくれたんですか!?久藤君!!」
「せ、先生、それよりも、僕、本当に死にそうなんですけど…。」
准は、千里にぼこぼこに殴られて頭から血をだらだら流していた。
倫が、その横で、必死でハンカチで血をぬぐっている。
「情けないですね。それくらいのこと、日常茶飯事ですよ。我慢しなさい。」
「…先生って、実は思ったよりもハードな人生を生きてるんですね…。」
妙なところで感心している准の前に、望はスカートを翻して仁王立ちになった。
「さあ、今度は、久藤君に私の体の中から出て行ってもらいましょうかね。」
「…出て行けって…自分が、交換を申し出たくせに…。」
「今度は、その体に可符香が入るんですから、きちんと体を庇って落ちてくださいね。」
「それって、怪我する体も痛い思いをするのも、僕になるってことですよね。」
「当たり前じゃないですか。それが何か?」
「…なんでもありません。」
「准、余り無理しなくていいぞ…。」
倫は望に聞こえないよう、小さい声で囁いた。
階段の坂の上。
可符香(in准)は、准(in望)の腕の中で、ぎこちなさそうに身じろぎした。
慣れ親しんだ恋人の腕とは言え、中身は幼馴染、しかも自分はその彼の体、
という状況に、どうも違和感があるらしい。
望は望で、これ以上ないくらいのしかめ面で2人を見上げていた。
「さ、てきぱきと事務的にやっちゃってください。」
いくら体は自分のものであっても、准と可符香が抱き合うのは気に入らない。
倫も望の隣で、多少複雑な顔をしていた。
と、そこに、再び後ろから息を飲む声がした。
「せ、先生!?久藤君!!??」
振り向くと、そこには、藤吉晴美が立っていた。
476:交換 7/8
07/09/22 17:58:35 2UJwpGCd
望は頭を抱えた。
――なんで、よりによって一番まずい子に目撃されるんですかね…。
「やっぱり…やっぱり、久藤君と先生はリアルBLなんですね!!」
坂の上で抱き合う2人を見て、嬉しそうに目を輝かせる晴美に、
その場にいる全員が声を合わせて叫んだ。
「「「「ちがーーーーう!!!」」」」
しかし、晴美には、その叫びが全く聞こえていないようで、
「新刊、冬の祭典に間に合うかなあ…。」
と独りごとを言いながら、スキップでその場を立ち去った。
望は、引きつった笑顔で准を振り仰いだ。
「…近親相姦の次は、生徒とリアルBL、ですか…。
私、いったい、学校にいられるんですかね…。」
「と、とりあえず、僕だけでも早く元に戻りましょう…!」
准と可符香の入れ替わりは、その後、スムーズに行なわれた。
倫が、
「准!これで、全部お前に戻ったんだな!」
と嬉しそうに准に飛びつく。
その横では望(in可符香)が可符香(in望)を抱き起こしていた。
「大丈夫ですか?どこも痛くないですか?」
「千里ちゃんに殴られた跡がずきずきしますけど…あとは大丈夫ですよ、先生。」
可符香は起き上がると、逆に望を抱きしめ返した。
「あ…。」
今まで体験したことのない感覚に、望は小さく声を上げた。
小さなこの体が、すっぽりと「自分」に包み込まれる感じが、とても心地よい。
――可符香は、いつも、こんな風に感じてくれてるんでしょうか…。
見上げると、可符香(in望)も、赤くなっていた。
「な、なんか、変な感じ…。自分の体なのに、こうやってぎゅってすると、
愛しい気持ちが溢れてくるみたいで…自分相手に、ヘンですね。」
477:交換 8/8
07/09/22 17:59:26 2UJwpGCd
望は、緑がかった自分の目を覗き込んだ。
「お互い、相手の自分に対する愛情を、身をもって確認できるって言うのは、
なかなかいいですね…。」
そういうと、にやりと笑った。
「どうです?このままの姿で、より深い愛情を確認するって言うのは。」
「え…。」
可符香が一瞬きょとんとした顔をして、次の瞬間真っ赤になった。
「や、やですよ、そんなアブノーマルなの!!」
「めったにできない体験だと思いますよ?」
顎に手を当てて、にやついている望(in可符香)と、
赤く頬を染めて体をよじらせる可符香(in望)。
――端から見ると、かなり奇怪な光景であった。
と、そこに、携帯を持った音無芽留が通りかかった。
芽留は、赤い顔で身をよじり恥らっている「望」の姿を見て、
恐ろしいものを見たかのように固まった。
次の瞬間、芽留は、「望」の姿を携帯で激写すると、
稲妻のようにメールを打ちながら、その場から立ち去った。
准と倫は、その一部始終を端から見ていたが、准がぽつりと呟いた。
「…僕、だいたい、あのメールの内容、想像できるんだけど…。」
「…私もだ。想像するな。頭が痛い。」
芽留に全く気が付かずにいちゃこらしている2人を見ながら、倫と准は、
「…さて、我々は帰るとするか…。」
「そうだね、…何だか、今日は疲れたよ……。」
ため息をつきつつ、その場を後にしたのだった。
望の明日は、神のみぞ知る…。
478:430
07/09/22 18:01:36 2UJwpGCd
お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
で、この後の先生(in可符香)×可符香(in先生)のエロも一応書いたのですが、
結局、お互いが相手の体を使って自分の体と…ということになるわけで、
出来上がりを読んで、自分が微妙に引いてしまったので、本編(?)と分けました。
そんなん落とすな!と言われるかもしれませんが、まあ、スレの流れも速いし…。
という訳で、以下は、心にデッドスペースのある方だけ、お読み下さい…。
479:交換の後 1/6
07/09/22 18:03:35 2UJwpGCd
結局、階段坂の下での攻防は、望が勝利したらしい。
可符香と望は、お互いの体を交換したままの姿で、部屋で向かい合っていた。
可符香が、望の体を、もじ、とよじらせる。
「なんか…どうすればいいか、分からないですよ、先生…。」
それは望も同じだった。
「いつもは、私は、どうやって始めてましたかね…。」
「…先生は、いつも、キスしてくれますよ。」
「…。」
望は黙り込んだ。
自分の顔にキスされるのは、余り楽しくない。
「キスの次は?」
「…そんなの…。いつも夢中で、覚えてないです…。」
再び、2人の間に沈黙が落ちる。
――これは、可符香を先に点火してしまった方が早そうですね。
「とりあえず、服を脱ぎましょうか。」
「え…。」
お互い、慣れない仕組みにもたもたしながら服を脱ぐ。
可符香は、一糸まとわぬ自分の姿を見て顔を赤らめると目をそらせた。
「さて…。」
望は、可符香のものである細い指を望自身に向かって伸ばした。
「まず、あなたにその気になってもらわないと…いいですか?」
勝手知ったる自分の分身。
どこをどうやれば良いのかは知り尽くしている。
果たして、望が動かす可符香の指に、あっという間にそれは固く立ち上がった。
ふと見上げると、紅潮し、息を荒げた自分の顔がある。
「せ、先生…。」
低い声は、興奮のためかかすれていた。
480:交換の後 2/6
07/09/22 18:04:24 2UJwpGCd
しかし、望は、逆にどんどん気持ちが萎えていくのを感じた。
――あまり、見たくない光景ですね…。
それはそうだろう。
あくまでもノーマルな男として、頬を染め、自身を昂ぶらせた自分の姿など
見ていて決して楽しいものではない。
――やめますか…。
と、
「先生…どうしよう…私、これ、我慢できない…!」
可符香が、震えながら、望に抱きついてきた。
――どうやら可符香も、男の生理の切なさを分かってくれたようですね。
と冷静に分析する自分がいる傍ら、
可符香が耳元で漏らす喘ぎ声に、体の芯が潤んできていることに気が付いた。
――これは…なぜ…。
自分の声だというのに、こんな反応が起きるのは、その中身が可符香だからか。
それとも、この体が、自然と自分の声に反応するようになってしまっているのか。
――後の方だと嬉しいんですが…。
体の奥に感じ始めた疼きに、望は心を決めた。
体に回された「自分」の手を取ると、それをそっと今の自分の白い胸の上に導いた。
「そのまま突き進まれては、あなたの体が壊れてしまいますから…。
私を受け入れられるよう、この体に潤いを与えてやってください。」
可符香が望のものである頬をさらに赤く染めた。
「え、って、ど、どうすれば…。」
「あなたが、私にしてもらって気持ち良いと思うことをすればいいんですよ。」
望がそう言って微笑むと、可符香は、少し考えていたようだったが、
やがて、そっと望に…自分の体に、手を差し伸べた。
481:交換の後 3/6
07/09/22 18:05:07 2UJwpGCd
狭い部屋に、2人の息遣いが響く。
「…くっ…ぁあ!」
可符香の…自分の手の動きに、望は翻弄された。
いつも、自分が男として感じる快感とは、まったく別の感覚。
明快で分かりやすい前者と異なり、女性として与えられる快感は不安定で、
体の奥深くから湧き上がるような快感に、上り詰めそうになっては、
次の瞬間、それはふっと遠のき、もどかしい思いが募る。
――こんなんで、長時間責められたら、体が持ちません…!
普段の、自分の可符香に対する行為に、多少自省の念が浮かんだが、
そのうちに、可符香の指先に体中の感覚が集中し始め、次の瞬間、
全ての思考が吹き飛ぶような快感が、つま先から頭の先へと通り抜けていった。
「――っ!!」
望は、歯を食いしばった。
余りの刺激の強さに、いまだに足の付け根の辺りがしびれているようだった。
息が切れ、体を動かす気にもなれない。
しかし、同時に、体の芯では以前にもまして疼きが高まっており、
体は、その疼きを治める収めるための、自分を埋め尽くす何かを欲していた。
ふと、自分に覆いかぶさる影に、顔を上げる。
そこには、泣きそうな表情の、自分の顔があった。
「先生、先生、もう、私、我慢できません…!」
――私の体って、そんなに我慢がきかなかったですかね…。
ちょっと傷つきながら、望は可符香を黙って見上げた。
482:交換の後 4/6
07/09/22 18:05:52 2UJwpGCd
「先生、いい…?」
目の縁を赤く染めた「自分」が尋ねてくる。
いつもは、自分が可符香に対して発する言葉。
望は、返答に詰まった。
可符香の体は、交わることを強く欲してはいるものの、
今さらながら、どこかで及び腰になっている自分がいるようだ。
――やっぱり、さすがに、ちょっと…。
しかし、体を起こそうとした望に対し、
「ああ、もう、だめ……先生!!」
そのためらいを吹き飛ばすかのように、可符香が望を押し倒した。
「…ぅあっ!」
望は、あまりの衝撃に声を上げた。
体の中が、自分以外のものでいっぱいになる感覚。
それを待ち望んでいた可符香の体は、その異物を締め付けることで応えた。
同時に、いまだかつて感じたことのない快感が、望の背を走る。
「くぅ…っ!」
――こんな…可符香は、毎回、こんな状態なのか…!
先ほど上り詰めたばかりで敏感になっているところを、激しく突かれ、
そのたびに、可符香の白い体は跳ね上がる。
「あ、ぅっ、ぁあ!」
恥ずかしいと思いながらも、どうしても声が漏れる。
せめてもの救いは、その声が愛しい少女のものであるということだ。
一方、可符香の方も完全に余裕がないようだった。
「先生…先生…先生…!」
うわごとのように繰り返しながら、体を打ち付けてくる。
与えられる刺激の強さに、気が遠くなりそうになり、
望は、必死で意識を保とうと努力した。
そこに、可符香が、よりいっそう強く深く、自身を埋め込んできた。
「あああああああああ!」
全ての意識が、そこに集中し、痙攣する。
望は、頭の中が真っ白になり、次の瞬間、意識を失った。
483:交換の後 5/6
07/09/22 18:06:30 2UJwpGCd
目を覚ますと、相変わらず、自分の顔が覗き込んでいた。
その表情は、いくぶん、心配そうだ。
「可符香…。」
「先生、大丈夫でしたか…?私、途中から夢中になっちゃって…。」
望は体を起こした。
体の奥に、鈍痛を感じる。
「大丈夫です…あなたの方は?」
可符香は、望の首を振った。
「私は、全然…何ともないです。…でも。」
その顔がふいに赤くなる。
「何か…すごかった…。」
「ん?」
「男の人って…あんな風に、気持ちよくなっちゃうんですね。
先生の気持ちが、よく分かりました。」
望は、可符香の正直な感想に思わず笑い出した。
「分かってくれましたか…普段、私がいかに努力して自分を抑えてるか。」
「ん…。」
可符香は頷くと、顔を上げて、望の顔で口を尖らせた。
「でも、先生だって、分かってくれたでしょ。私が、どんなに大変か…。」
「…。」
望は、思わず言葉に詰まった。
可符香の言うことは、事実だった。
可符香のこの細い体が、望と交わるたびにどれだけ翻弄されているのか
まさに身をもって体験したのだから。
望は吐息をついた。
「ええ、確かに…今回の体験は色んな意味で貴重でしたね。…でも。」
可符香を見る。
「私は、やはり自分の体であなたを抱くほうがいいですね。」
可符香も、望の頬を赤く染めて頷いた。
「私も…先生に抱かれる方が、すき。」
484:交換の後 6/6
07/09/22 18:07:13 2UJwpGCd
2人は、連れ立って階段坂まで赴くと、スムーズに入れ替えを果たした。
「ああ、やっぱり自分の体が一番落ち着きますね。」
満足げに自分の腕をなでる可符香に、望が頷いた。
「そうですね…では、早速。」
望は、にやりと笑った。
「今回は、あなたの体のどこが感じるのか、身をもって学習しましたから、
その学習効果を試させていただきましょうか。」
可符香の顔が赤くなった。
「もう、大変だって言ったのに、全然学習してないじゃないですか――!!」
「男の生理は切ないものなんですよ!あなたこそ、学習したんじゃなかったんですか?」
楽しげに言い争う2人を、塀の上の猫があくびをしながら眺めていた。
485:430
07/09/22 18:10:06 2UJwpGCd
ごめんなさい、石を投げないで下さい…。
次は、正統(?)なエロを書くよう頑張ります…!
ああ、アニメが今日で終わっちゃうんですね…。悲しい。
486:名無しさん@ピンキー
07/09/22 18:16:23 xPZbs1qg
>>485
>>471の
>准(in可符香)は、少し不服そうに口を尖らせた
コノ辺りなんか変じゃないの?
487:名無しさん@ピンキー
07/09/22 18:41:28 esXwgHo6
>>485
凄い勇者を見た気分だ…GJ、自分は凄く面白かったです。
真昼が雪を投下してしまってる者ですが、量が想像以上になってきとります
下手すりゃ次スレにまで迷惑かけそうなんですけど…エロシーン一回だけなのに
今回も物凄く容量食います。11レス、約16KB?くらいです。まだエロにとどかねぇ…!
488:真昼が雪 22
07/09/22 18:43:00 esXwgHo6
昼食の後、ダラダラとお喋りをしていた為、あれから結構な時間が経ってしまっていた。
取り出した懐中時計は、午後3時半を告げている。
それでも、街に出て着物を買って帰るのに遅すぎる時間ではない。
望は可符香を一瞥する。彼女は望の前を、いつものように軽い足取りで歩いている。
見慣れた並木道。ついさっき犬を埋葬した場所に差し掛かる。
可符香は土の盛り上がった木の根元―犬の眠るその場所を、チラリと横目に見た。
それだけだ。
思わず足を止める望を置いて、さっさと先へ行こうとする。
「お祈りはしないのですか?」
予想外の態度に驚いて、立ち止まったまま可符香を呼び止めようとする。
「さっき皆で、十分お祈りしたじゃないですか」
「ですが…」
「置いてっちゃいますよー、先生」
望の声に立ち止まる事すらせず、言葉通りズンズン先へ進んでいく可符香。
慌てて追い付こうと、小走りで駆け寄り、隣へ並んだ。
可符香は相変わらずの笑顔で、ただ前だけを見つめている。望の方を見ようともしない。
「どうしたんですか、風浦さん」
「何がですか?」
問い掛けにようやく、こちらに視線を向ける可符香。
つい条件反射で目を逸らしそうになるが、ぐっと堪えて言葉を続ける。
「何がって…普通ここは、お祈りの一つもする所でしょう。不自然です」
「じゃあ先生はお祈りしてればいいじゃないですか」
答える可符香の声は、いつものそれよりやや固く響いた。
489:真昼が雪 23
07/09/22 18:43:58 esXwgHo6
妙に突き放した物言いに、怒りよりも戸惑いが生まれる。
「変ですよ、風浦さん」
「変じゃないですよ」
笑顔で答えて、可符香は歩を速めた。
最初と同じように、望の前を歩く形になる。これでまた、表情が見えなくなった。
つれない態度に思わずムっとして、望も歩を早める。
並ぶ二人。するとまた、可符香が歩を早めて望を追い越す。
追う望。追い越す可符香。それをまた追って、再び追い越される。
―――明らかに、何かから逃げている。
望から…というより、これ以上言及される事を避けるように。
最近の可符香は、少し様子がおかしかった。
よく注意しないとわからない程度にだが、稀に、望から逃げるような態度を取るのだ。
もちろん、いつもはここまで露骨ではない。
彼女の態度がおかしくなり始めたのは、丁度、望が久藤と図書室で話をしてからしばらくしての事だ。
――正しくは、可符香は態度を変えたりしていない。今まで通り望に接している。
違うのは、望の彼女を見る視点だった。
可符香が稀に何かから逃げるような態度を取っている事に、最近になって望が気付き始めたのだ。
今までは、僅かな違和感でしかなかった。
だがこうして露骨な態度を取られて、ようやく望は、彼女が逃げの姿勢を取る時に見せる、感情の色を理解した。
「何を怖がっているんですか」
その言葉に反応して、
望を追い越そうとした可符香の足が、止まる。
490:真昼が雪 24
07/09/22 18:44:58 esXwgHo6
今度は望が彼女の数歩先を行ってしまい、思わず踏鞴を踏んで立ち止まった。
振り返り、その表情を窺う。
相変わらず完璧な可符香の笑顔。
その中で、瞳だけが僅かに揺らめいていた。
「先生こそ、最近変ですよ」
質問に答えるつもりはないらしい。
話題を逸らすような言葉に、あえて乗る事にする。
「私がですか?」
「何だか最近、常月さんみたいです」
「…私が、ですか?」
それはつまり、どういう事だろう。
戸惑って言葉を失う望に、可符香はやや強い口調で続ける。
「私、先生に好かれるような事しちゃいました?
最近なんだか、よく気にかけてくれますよね」
「――……」
気付かれていた事に恥ずかしさを覚えて、熱くなる顔を隠すように、手の平で覆う。
「そ、そんな事はございませんよ」
答える声は、自分でも悲しくなるほど裏返っていた。
「安心して下さい先生。私、ちゃんと知ってますから」
だが彼女はそんな彼の様子など気に掛けず、空に視線を投げた。
「准君に言われたんですよね」
「!」
まさかの名前に驚愕を隠しきれず、望は息を詰まらせた。
「く…久藤君と、何を話したんです?」
まるで瞼の裏に久藤の姿があるように、瞳を閉じる可符香。
「私と先生との仲を、取り持とうとしてくれたんですよね、彼」
そうして、語り始める。
491:真昼が雪 25
07/09/22 18:46:06 esXwgHo6
◇ ◆ ◇ ◆
――ある日を境に、可符香は望に対して違和感を抱いていた。
本人は隠していたつもりでも、彼が確実に自分を意識し始めている事が、日頃の態度で知れた。
例えばそれが、可符香が望んで彼の心の隙間に入り込み、その心を盗んだ結果というのならば、いい。
だが可符香は意図的に望の心を盗むような真似はしていない。
確かに保健室で思わせぶりな態度を取って見せたが、それだけだ。
望の性格からして、ああいうアプローチを受けたなら、逆に身を退くようになるだろう。
だというのに、彼は突然可符香を意識し始めた。
何か、他者による介入があったのだと、可符香は判断した。
そしてすぐに、その原因となった人物に思い当たる。
というより、自分が望に明確な好意を持っている事を知る人間が、彼しかいない。
保健室の扉越しに、二人の会話を聞いていた人物。
やんわりと問い詰めると、彼―久藤は、特に隠すつもりもないようで全てを話してくれた。
「二人の恋を、応援したくって」
幼馴染の恋の行く末を思っての事だったと、微笑みながら久藤は言った。
彼が可符香の身を按じているのは、本当の事である。可符香もその事は知っていた。
「ありがとう。でも大丈夫よ」
他人からの支援で実る恋は、フェアじゃない。恋というのは、自らの力で掴み取るものだ。
そう言って微笑む可符香に、久藤は頷いて見せた。
「余計な事をしたね」
詫びる彼に、可符香は笑顔で頭を下げた。
◇ ◆ ◇ ◆
「そう、ですか」
全て筒抜け、という事らしい。
何だか久藤と可符香に良い様に踊らされている気がして、冷や汗が頬を流れた。
「だから先生は気にしないで、今まで通りにしていればいいんです」
すぅ、と瞳を開く可符香。だが、視線は降ろさず空を見上げたままである。
瞳に蒼を宿した彼女は、しかし空など見ていない風に、遠く遠くを眺めている。
492:真昼が雪 26
07/09/22 18:56:49 6tTyhO1F
彼女の見ている世界は、きっと自分の見ているそれとは違うものなのだろうと、改めて思う。
―私にも見せて欲しい。貴女の目に映る世界を。
思わずそんな恥ずかしい台詞を考えてしまって、慌てて頭を左右に振る望。
(ああああ…これでは本当に、思春期の中学生じゃないですか)
唐突に頭を振り乱した望に、可符香はキョトンと視線を向けた。
「何やってんですか?」
「何でも!―それと、風浦さん」
「はい」
気を取り直すように、コホンと一つ咳払いして、
「えぇと、ですね…。私が貴女を気にしているのは、正しくは久藤君の言葉が切欠ではありませんよ」
「それは先生がそう思い込んでるだけですよ。ホラ、恋は盲目って言いますし」
「いいからお聞きなさい」
少しだけ強い口調で、ピシャリと言い放つ。
その言い方が妙に教師らしくて、思わず口を噤む可符香。腐っても学生である。
「多分切欠は、もう少し以前――そうですね…。保健室で貴女に愛の告白をされた時です」
愛の告白、の所だけ、思わず棒読みになる。
それが照れからくるものか、それともあの言葉を告白と真正直に受け止められていないからか、望は自分でもよくわからなかった。
「一応女性にそういう事を言われた訳ですし、気にしないわけないでしょう?
ホラ、何も問題はありません。誰に強要された訳でもなく、他でもない貴女が、私に目を向けさせたのですから」
言っている間、何故かどんどん熱くなる頬。
おそらく赤くなっているだろう自分の顔を凝視される事に耐え切れず、望は着物の裾で口元を隠した。
本当は顔全て覆ってしまいたいくらいだったが、それでは可符香の表情すら見えなくなる。
「あと、最後に訂正させていただきます。
―先生、確かに貴女を意識していますが、
まだ恋とかそういった部類の感情ではありませんのでそこのところあしからずッ」
どうにか、言い切った。
思わず思い切り顔を背けてしまいたくなるが、どうにか気合で可符香の真っ直ぐな視線に耐える。
さっきまでは、むしろ積極的に自分から視線を逸らそうとしていたというのに、
何故かこういう恥ずかしい台詞を言う時に限って、可符香はじっとこちらの目を見つめてくる。
ちなみに可符香は、別にプレッシャーを与える為などではなく、
むしろ告白でも何でもない台詞を言うのに、やたら恥じらいまくる望が不思議でならなかった。
493:真昼が雪 27
07/09/22 18:58:05 6tTyhO1F
ちなみに要約すると、最後の一文はこうである。
『先生、まだ貴女の事、好きになった訳じゃないんだからね!』
(…ツ、ツンデレだ。)
その発想が自分で可笑しくなって、可符香は耐え切れず破顔した。声が、漏れる。
「――ッく、あはは!先生、加賀さんの真似ですか?人気取りですか?」
「わ、笑わないで下さい!何の事ですか、人が結構真剣に話しているというのに!」
「っ、ふふふふ…だって。あはははは!」
妙なツボに入ってしまったようだ。
引き攣る腹筋を押さえて爆笑する可符香を、心外だと言わんばかりに不満気な顔で見下ろしていた望だったが、次第にその表情は優しいものに変っていった。
さっきまでの、妙にギスギスした雰囲気が嘘のように晴れていく。
それがたとえ自分を馬鹿にしているものとしても、さっきまで浮かべていた完璧過ぎる笑顔より、望には断然魅力的に思えた。
ひとしきり笑い転げて疲れたのか、弾む呼吸を抑えるように胸を押さえている可符香に、望は改めて怒ったような表情を作って見せる。
といっても、その目は優しく微笑んでしまっているのだが、本人は気付いていない。
「失礼ですね…何がそんなに可笑しいんですか?」
「ふふ…、何でもないですよぉ。あぁ可笑しかった」
「言ってる事が矛盾してます」
目尻に溜まった涙を拭ってこちらを見上げる可符香の頬は、熱を帯びたように上気している。
そんな彼女の表情が、素直に可愛いと思った。
「――何だか、初めて貴女が笑うのを見た気がします」
「…は?」
リスを思わせる動作で小首を傾げる可符香。
望の台詞が本当に意外だったようで、キョトンと大きな丸い瞳を見開いている。
「何をお惚け言っちゃってるんですか、もー。私はいつだって笑ってるじゃないですか」
見せ付けるように、彼女は孤を描く自らの口元を指す。
望は少しばかりの罪悪感を覚えた。
せっかく和やかな雰囲気になったのに、これからまた、それを崩さなくてはならない。
それでも言わなければならない事がある。
望は意を決して言葉を続けた。
494:真昼が雪 28
07/09/22 19:00:07 6tTyhO1F
「そうですね―いつもの貴女の笑顔は…酷く痛々しい、です」
すぅ…と。
潮が引くように、彼女の柔らかな笑みが消えていく。
それでも、笑顔である事に変わりはない。
ただその笑みの持つ性質が、ハッキリと変っていた。
能面のように、ある種完璧な笑みをその顔に貼り付けた可符香は、少しばかり固い声で答える。
「先生の言ってる事が、よくわからないです」
可符香は目を逸らさない。
どうやら、彼女に妙な対抗心が芽生えたようである。
さっきからやたらと突っかかってくるこの男を、いつもの如く、完膚なきまでに言い包めてやろう。
そういう意思が、その瞳から僅かに見え隠れしている気がした。
臨むところだと、その視線を真っ向から見返す望。
「貴女はいつも、何を恐れているのですか」
「そこに話が戻るんですね」
「はぐらかしたのは貴女の方です」
少しだけ強くなった風が、二人の髪を揺らす。望の着物の裾が翻り、バサリと音を立てた。
「今日の先生はいつにも増してお惚けさんですね。私に怖いものなんてあると思うんですか?
あ、神様の事は確かに畏怖していますけど」
あくまでそれは尊敬の念ですよ。そう言って笑みを深める。
彼女はもう、完全に自分の心情を伝えないつもりなのか、笑顔の鉄火面を強くする。
以前の望なら、その変化にすら気付かなかっただろう。
だが今の彼は、そんな彼女の、どこか必死な様子を感じ取れる。
「以前の私なら、頷いていたんでしょうね。
でも今なら――もう少し、貴女の事を理解できる気がするんです」
「うふふ、そんなに想ってもらって嬉しいです。私ったらハート泥棒ですね。
とっつぁ~んさんに追いかけられちゃいますよ」
両の手首を合わせて、手錠のジェスチャーをする可符香。
何が何でもはぐらかそうとするその態度に取り合わず、話を続けようと口を開く。
「貴女は、もしかして」
495:真昼が雪 29
07/09/22 19:01:16 6tTyhO1F
「先生」
核心に触れようとした、その時。
遮るように、断ち切るように発せられた一言は、望の言葉を詰まらせるのに十分な力を持っていた。
可符香の笑みが、ほんの少しだけ崩れている。
眦が少しだけ釣り上がり、口元が僅かに引き攣る。
本当に注意しないとわからない程の、僅かな変化。
そこに浮かぶのは、純粋な怒りの感情だった。
「私はお買物に出ていたんです。
そろそろ行かないと、タイムサービスが始まってしまいます」
「まだタイムサービスまで時間はあると思いますよ」
「私の行き付けのお店は、普通のお店よりも早くに始まるんですよ」
少しだけ早口に言って、可符香はそのまま駆け出そうと足を撓ませた。
「逃げるつもりですか」
その動きを止めるのに、望の一言は十分な力を持っていたようだ。
逃げる。
彼女にとっては聞き逃せない言葉だ。
とても後ろ向きな…ネガティブな言葉だ。
「さっきから喧しいですね、本当に」
声色こそいつもの調子とはいえ、もう完全にその台詞は、こちらに怒りを伝えてきている。
それでも笑みは、剥がれない。
「私は日々の糧を、より効率的に得ようとしてるだけです。
それがどうして逃げるなんて事になるんですか?」
可符香は自分が劣勢である事を、否が応にも自覚していた。
いけない流れだ、これは。
それが判っているのに、今日の望は妙に強気で、中々言い負かされてくれない。
「貴女は」
望の唇の動きを凝視してしまう。
紡ぐな。もうこれ以上言葉を紡ぐな。そんな思いを込めて。
「貴女は怖がりだ。人よりもずっと、怖がりだ。
だからそんなに必死になって、ネガティブな事を否定するんじゃないですか。
そうでもしないと――耐えられないから」
可符香は、唇を噛み締めた。
一瞬。ほんの一瞬。
彼女の顔から笑顔が消えた。
496:真昼が雪 30
07/09/22 19:04:13 6tTyhO1F
あぁやはり、嫌な予感はしていたのだ。
出会った時から、この男は自分の何か大切なものを、壊していってしまうんじゃないかと。
初めて彼を見た時、彼女は自らの記憶を悪いものとして思い出した。
もはや心乱される事などないと思っていた所に、この不意打ち。
けれどその原因となった男は、自殺など口ばかりのくだらない男。
何故この程度の男に、心乱されなくてはならないのだろう?
そうして次に生まれたのは、怒りの感情だった。
いっその事本当に絶望させて、居なくなってもらおうとも考えた。
けれど何があっても、どんなに絶望しても、男は「死」という選択だけは選ばない。
消せないというならば、男の全てを掌握してしまえばいい。
弱みを握って、心の隙間に滑り込んで、彼の全てを掌握してしまおう。
そうしていれば何の心配もない。こんなくだらない人間に、恐れる要素なんて何一つない。
そう思っていたのに。
否定するんだ。今すぐに。
まだ間に合う。今否定すればまだ、間に合う。
(だってそんなわけないじゃないですかいったい私の何を見てそんな事を言っているんです
どの口が、どの口がそんな突拍子もない事を言うんですおかしいじゃないですか先生は何
も知らないでいいんですよだって先生のキャラじゃないじゃないですか何をいきなりカウ
ンセラーみたいな事を言い出しているんです貴方は毎日「絶望した!!」と叫んで可哀相
ぶっていればいいんですよそうして私がそれを好意的な解釈でもって訂正してあげるんで
すホラいつもそうしてきたじゃないですかどうして今更そんな私の存在全否定するような
事言うんです先生は意地悪な人だなぁ先生の癖に、先生の癖に――!)
497:真昼が雪 31
07/09/22 19:07:38 6tTyhO1F
後から後から、言葉が溢れ出てくる。
だがその量が膨大過ぎて、喉を通ってくれなかった。
外に出る事を許されなかった言葉達は、彼女の思考力を容赦なく奪っていく。
彼女は、混乱していた。
その僅かな隙に、畳み掛けるように望は言った。
「貴方のポジティブは、ネガティブに対する逃げなんじゃないですか。
犬のお墓参りを避けたのだって、もうこれ以上悲しくなるのが嫌だったからじゃないんですか」
「…やだなぁ先生。あのワンちゃんの死は悲しい事なんかじゃないですよ。
だってワンちゃんは神様の所へ行っただけ。来世で新しい命を授かって幸せになるんです。
だから今更私たちがあの子の死を悼む必要がないってだけの話ですよぉ」
どうにか思考を整理して、今度はちゃんとポジティブな意見を返す事が出来た。
それでも望は食い下がる。
「なら、どうして…―」
(どうしてあの時、あんな顔をしていたのですか?)
そう言おうとして、今度は望が言葉に詰まる。
犬を抱えて立ちすくむ、彼女の姿が蘇る。
踏み切り越しに見た彼女の笑み。
――それは今にも、泣き出しそうな笑顔だった。
◇ ◆ ◇ ◆
目前で犬が跳ねられた。
痛ましい姿を、可符香は悲しいと思った。
けれどその悲しみを直視できない。そういう風にしか、彼女は出来ていない。
真っ赤な犬を抱えて、ポジティブという言い訳を考えながら、迷子のように彷徨う可符香。
やだなぁ轢き逃げなんかあるわけないじゃないですか。
目の前でワンちゃんが弾き飛ばされたけど、轢き逃げじゃないんです。
これは、轢き逃げじゃなくて――なんだろう?
あれ。
おかしいな、今日に限って、良い解釈が思いつかない――
望に出会って、何事か聞かれた時も、彼女は何も思いついていなかった。
あの時望が台詞を遮ってくれなければ、どうしようかと思っていたくらいだ。
そうして今も、あの轢き逃げに対する言い訳を思いつけないでいる。
彼女の中であの光景はまだ、ネガティブな事として記憶されてしまっている。
だから犬の墓参りも、自然と避けてしまった。
このまま無かった事にしてしまいたかったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
498:真昼が雪 32
07/09/22 19:09:34 6tTyhO1F
「…何も問題ないって、言ってるじゃないですか」
けれど認めない。彼女はそんな自分の思考を認めない。
それらは全て無意識に行われる事だ。意識したらもう、彼女はそれに耐えられない。
意識してはいけない、気が付いてはいけない。
だからそれ以上言ってくれるな。もうその口を閉ざしてしまえ。
そんな思いを込めて、今日に限ってやたら饒舌な教師の顔を見つめた。
そこでふと、望の異変に気付く。
彼の顔色が、随分と青白いのは気の所為だろうか。
「――先生?」
さっきまでの勢いはどこへやら、突然押し黙ってしまった望の顔を覗き込む。
近くで見ると、一層顔色が悪く見える。
さっきまでのやり取りはとりあえず思考の隅に追いやって、様子を窺うように声を掛ける。
「せんせ…」
「――」
何か答えようとしたのだろう。
けれどそれは叶わず、望は突然身体をくの字に折り曲げて、地に膝を付いた。
可符香は思わず驚いて身を引くが、すぐに自分も膝を折って、俯く彼の顔を覗き込む。
「先生…、糸色先生ッ」
「…っひ、は――」
呼吸がおかしい。
苦悶の表情で腹部を押さえて、パクパクと鯉のように口を開いたり閉じたりしている。
肩に手を回と、返ってくる感触で、以前よりも彼が随分痩せている事に気が付いた。
「す…っ、すぐに、救急車呼びますから…ッ」
動揺を隠し切れず、震える声で言いながら、慌てて鞄から携帯電話を取り出す。
コールしている最中も、少しでもその苦痛が和らげばと、背中を擦り続ける可符香。
「―…ぐ…、っ…ぇッ…!」
望の身体が僅かにはねる。
望が吐いた吐瀉物には、コーヒー色の血が混じっていた。
499:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:21:34 xPZbs1qg
500:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:21:44 6tTyhO1F
ああ…書き溜めてた分がほとんど無くなってもうた。
次の投下はもうちと先になるやもしれません…というかこれからも投下して大丈夫ですかコレ?
元ネタ知ってる人が多くて唖然。
そんでもって、誰も「嘘つけ」と言い出さないスレの優しさに泣いた。
き、期待すんな!期待すんなよ!色眼鏡かけんなよ!
ウジ虫の脳味噌程も文才ない奴に期待なんかすんなよ!
501:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:25:11 AeTL+wLp
これはなんという可符香ラッシュ
430氏、真昼氏、どちらも乙です
>>真昼氏
元ネタのような欝展開になるんですね…
毎日PC前で全裸正座で待機してます
502:名無しさん@ピンキー
07/09/22 20:46:19 Mqg2UbU5
>>all
映画化決定(AA自重
503:146
07/09/22 21:41:46 QK20MM+m
神々の投稿、凄いことになってますね。皆様乙です!
>>前305さん、素晴らしいです。あの三珠さんをここまで萌えにできるとは。
>>430さん ごめん、笑った。 チェンジとか、その発想なかったw。
>>真昼氏 文章うますぎ。 投下大歓迎!すまないが、期待してしまうっ!
>>502 映画化まじですか?w
今更ながら、会話以外の行初めを1段落とすと読みやすいことに気付いた。
うん、小学校で習ったよ。
前置きはこのくらいにして、最終章(+後日談)を投下します。
>>225、293の続きになります。
注意点は>>225ご参照。
3章の終わり方には、批判も強かったようで。
いろいろ悩んだ末での決断なので言い訳はしません。
反省は少ししているかも。
全18レスほど消費予定。急展開なのでご注意。
504:4章①
07/09/22 21:43:17 QK20MM+m
4章
射精される寸前、今まで決して泣こうとしなかった、可符香の目から、
つーっと絶望の涙が零れた―と、その瞬間。
真っ黒な絶望の奥から、ムクリと何かが起き上がって……
突然激しい衝撃が可符香を犯していた男を襲い、腹に強烈な
蹴りを受けたように、後方に吹っ飛ばされる。
襖にのめり込むように倒れこむと、刺激を受けたのか、ボタボタと
だらしなく射精し始めた。
「な……ぼ…僕の貴重な子種が!!!」
「お前、何やってるんだ?……おい、逃がさないぞ!」
叔父は、可符香が口のパンティを吐き出し、這って逃げようとするのを、
見つけると再び押さえ込もうとする。
だが、少女は意外なほど強い力で猛然と抵抗した。
「う…これは、前も感じた……。オイ、何やってる。お前も手伝え!」
一瞬呆然としていた従兄弟は、目に怒りを宿して立ち上がった。
「このアマ。許さないぞ!!種付けのために溜めておいたのに!!」
激しく両者は攻防を繰り広げたが、さすがに大の男―それも特に屈強な2人
の前に、序々に可符香は不利になっていった。
―風浦さん!
突然、可符香の脳裏に『絶望先生』の姿が浮かぶ。
―風浦さん、あなたの力を見せてください!!
「私の…?私には何の力もありません!!」
―あるじゃないですか!12話くらいから片鱗を見せ始めた力が!
あなたは1話から成長したはずです。
あなたの成長した力を見せてください!
何を言っているのか分からなかったが、可符香は『絶望先生』が傍にいることで
強くなる自分を感じていた。
可符香の脳内が今までの2人の行動を素早く精査していく。
ふと気付く。
自分の足を押さえ込もうと躍起になっている従兄弟に、鋭く叫んだ。
「……お兄さん、相変わらず叔父様の後追いなのですね。」
可符香は、従兄弟の数々の行動に叔父への劣等感があることを感じていた。
何かと自分と父親を比べる、肉棒の大きさすらも。
「なに!?」
ムカッとしたように、従兄弟が顔をしかめた。
505:4章②
07/09/22 21:44:37 QK20MM+m
「無駄ですよ?私はもう叔父様の子を孕んでいますから。
お兄さんは叔父様の子どもを出産した後になさったらいかが?後に!」
「な……なんだって!!」2人が同時に声を上げた。
キッと従兄弟は自分の父親の方に目を向けた。
「父さん、可符香とヤルときはコンドームを必ずつける約束だったよね!?」
「う……、でも俺は外に出してたぞ。」
「外だしは避妊にならないんだよ!貴様はいつもそうだ!!」
「お前、誰に向かって口聞いてんだ!」
むろん、叔父の子を孕んでいるというのは嘘である。可符香は
叔父が求めてくるときはピルを飲んでいたし、最近学校で身体検査が
あったばかりだ。
だが、従兄弟の言動には何故か自分の種ということに拘りが
あるように見えた。
険悪な表情をする従兄弟に、すまなそうに謝る。
「ごめんなさい、でもしょうがないですよ。私は叔父様の物ですから。
そうそう、叔父様の行きつけのバーの山本さん。
お兄さん、あの人と仲良くやってるじゃないですか。それで我慢なさって。」
ギクリと、従兄弟が可符香を見る。
叔父の顔がみるみるドス赤くなった。
「なんだと……お前。俺の物に手ぇ出しやがったな。」
所有欲の激しい叔父は怒りに燃えて、従兄弟に詰め寄る。
「チッ。だからなんだって言うんだ!何でも自分の所有物だと思うなよ。」
「叔父様は、お兄さんの死んだお母様のことを思い出したくないのですよ。
悲しい過去ですもの、仕方がありません。」
その一言は、従兄弟を完全に切れさせた。
「そうだ!母さんは、貴様のせいで……!!!」
重みのあるパンチが、叔父に炸裂し吹っ飛ぶ。
その後は、大乱闘である。
2人は、可符香には目もくれずに殴りあいを始めた。
可符香は、急いで居間から逃げ出し、家を飛び出した。
可符香は、真っ直ぐにある場所に向かった。
―自分が始めに身を投げた場所。そこにいけば『先生』に会える気
がしていた。
すっかり夜の帳に包まれた町をさながら夜の蝶のように駆け抜け、
目的のビルに到着する。すぐに屋上に上った。
自殺未遂者が出たというのに、そのビルの屋上は変わらず鍵が
掛かっていなかった。
506:名無しさん@ピンキー
07/09/22 21:45:05 PnXA2rH0
>>485
430氏、あなたは一体何物・・・・・?
とうとう修羅の道に踏み込んだ姿を見るようでw
一気に読んで、突っ伏しましたw GJっす!!
>>500
ニコ見れないので、ようつべで見つけて観ました・・・・・・
あの映像に真綾さんの歌声は泣く・・・・
そして勝手に、430氏の「30倍悲しい・・・」には、helloがあうかな、
と、うっかり考えて・・・・・・・・・沈没いたしました。
皆さんのss見てるとホント自分も作りたくなる。
私も、また何か書いたら投下します。礼。
507:4章③
07/09/22 21:45:15 QK20MM+m
はぁはぁと息を整えながら、屋上の手すりに向かう。
鈍く鉄の色を放っている手すりに手をかけ、仰ぐように空を見上げた。
冬の寒空に広がる天球は、群青と灰色に包まれていた。
「うわぁ、満天の星空ですね。」
「そ…そうですか?私には灰色のスモッグにしか見えませんが。」
隣から少し高みのある声が聞こえた。
そちらを見ると、なにか淡い乳白色色の霧がチカチカと点滅しながら
漂っている。
目を凝らすと、その霧が少しづつ濃くなっていき、やがて人の像を結ぶ。
瞬間的に突風が吹いた―と、そこには和服姿の丸眼鏡をした
書生風の青年が立っていた。
「……先生!」
可符香は、懐かしさに胸をいっぱいにしながら、抱きついた。
彼の名は糸色望。『絶望先生』と呼ばれていた男である。
可符香が彼の胸に顔を埋めると、その体はまるで冷蔵庫の氷のように
冷たく、冷え切っていた。
思わず、身を引く。
「冷たいっ。せ……先生!これでは熱い抱擁にならないではないですか。」
可符香は小さな子どもがちょっとした抗議をするような表情で、
彼を見た。
望は真っ白な顔でかすかに微笑むと、可符香の肩にそっと手を置いた。
「私は常世の者ではないのです。もう、死んでいる身なのですよ。」
驚くべきことを淡々と述べる青年。
だが、可符香はその異様な告白を聞いても余り驚いていなかった。
何とはなくそのような予感がしていたのだ。
望は、懐かしむような目で眼下の車道を見詰めた。
この時間帯は車の通りも少なく、ポツポツと置かれた路灯が寂しげに光っている。
「かつてここは、桜の並木道だったのです。
大正の御世に、そこの1つの桜で首を吊って……まあ、早い話が自殺をしたのです。」
「どうして…。」
「私が自殺したわけなんて下らないですよ。
ただ、何となく絶望してしまったのです。
当然のように成仏できず、本を読んだり、TVを見たり、昼寝をしたり、
適当に絶望しながらこの世を彷徨っていました。」
508:4章④
07/09/22 21:46:56 QK20MM+m
「そこへあなたが来ました。
あなたを見たとき…。私はすぐにあなたの心の隙間が見えました。
そこは埋めてくれるものを待つかのように、ポッカリと開いていた
のです。」
可符香は驚いたように自分の胸を見詰めた。
自分に心の隙間があるという事を考えたことがなかったのだ。
「私の…心の隙間?」
「そうです。私は風浦さんの心の隙間にいつの間にか吸い込まれてい
ました。
あなたが深く寝ている間、私とあなたの意識は共有していて……。
後はご存知でしょう?」
可符香は小さく頷いた。
「終わらない高校時代を巡っていたのですね。」
望は少し唇をほころばせると、続けた。
「そうです。私は共有する意識の中で教師としてあなたを導こうと
しました。
人の心とこの世の現実を見せようとしました。
あなたも序々に人の心にある隙間―これは心の闇の部分です―に
気付き始めました。
しかし、私はやはり未熟でしたよ。
現実に戻ると、あなたはすっかり元のポジティブ少女に戻っていました。
私はあなたの傍で無力感を感じるしかなかったのです。」
「じゃあ、先生はずっと私の傍にいてくれていたのですか?」
びっくりした表情で可符香は顔を上げた。
「それならもっと早く助けてくれてもいいのに。」
ちょっと拗ねるような感じで呟く。
望は小さく首を振る。
白い首に痛々しい縄の跡がクッキリと付いているのが目に入った。
「あなたの心の隙間とは絶望ですよ
――そして私はあなたの絶望の中空に吸い込まれたのです。
いつもは何かしたくても出来ないのです。
涙を流して、歯噛みしているしかないのです。
風浦さんが絶望を感じるときだけ、私はこの世に現出し、あなたを
助けることができるのです。」
可符香は軽く衝撃を受けたように、一歩後退した。
そして、空を仰ぎ、曇り空に鈍く光る半月を見詰め嘆息した。
「それって、酷い話ですよね。
絶望しないように、前向きにって頑張ってきたのに…。」
509:4章⑤
07/09/22 21:47:31 QK20MM+m
しばらく、2人は黙ったまま見詰めあった。
大地を駆ける微かな風が、少女の短い髪をそよそよと揺らす。
闇の中で2人の目が、月の光を反射してチカリチカリと煌いていた。
しばらくの沈黙の後、自嘲するように望は呟いた。
「まあ、私は幽霊ですので、できることにも限りがあるのですよ。」
しばらく望の死人のような、いや死人そのものの白い顔をじっと
見詰めていた可符香はぽつりと言った。
「やだなぁ…先生…先生は、幽霊なんかじゃないですよ……。」
「え…?」
可符香は突然、びしっと望の顔に人差し指を突きつけた。
「悪霊ですよ!!悪霊!人に取り付いて祟りをなすあの恐ろしい悪霊!!」
「え……えええええ???」
「あぁああ、絶望しました!私が苛められるのを見て、悦んでいたので
すね!絶望しました!!」
「い…いや、確かに欝勃起してましたけど……ってそうじゃなくて!」
突然の展開に頭を抱える望に対して、さらに追撃が入る。
「先生のその和服姿!それなんですか!?」
「いや、大正の御世はこれが標準だった……」
「違うでしょう!!」
ピシリと可符香は望の言葉を遮る。
「スーツだと、改●と見分けがつかなくなるからでしょう!
ただの小道具です!!ああ……絶望しました!
あだ●充作品の主人公が全員同じ顔に見える現実に絶望しましたっ!!」
「ひ……ひどい!!」
「あ。見てください!あそこ!」
あうあうと涙に暮れる望をよそに、望の顔に突きつけていた指を
ぐるりと半回転して夜の帳の下りている町の方へ向ける。
指の先には、ここからそう遠くない場所にある居酒屋があった。
どうやら、まだ飲んでいる客がいるらしく、光の中に差し向かい
で酒を飲んでいる人の影が2つ、シルエットを形成している。
「まだ、酒飲んでるんですね。まぁ、酒を飲みながら語り合うの
は乙なものです。」
「何を言っているんですか。
あれは、絡み好きの上司と酒に弱い部下ですよ。
聞こえませんか、部下の慟哭が!魂の叫びが!嘆きの声が!
パワハラ(パワーハラスメント)です。
巷にはびこっているパワハラそのものです!」
「うわぁ……すごい嫌な情景ですね。」
縦線を額に走らせてどんよりする望の周りを、可符香は楽しそうにスキップを
してみせた。
510:4章⑥
07/09/22 21:48:43 QK20MM+m
望の目の前で不意に止まると、くるりと体を回転させて振り返った。
「決めました。私、もう前向きに頑張りませんから。」
「え…。」
「いつでも絶望しちゃいます。常にネガティブです。
絶望と悲しみによって目覚めた戦士、超(スーパー)ネガティブ少女、
風浦可符香です!!」
可符香が胸を張って大きく宣言する。
ズガビーンと望は仰け反った。
「な……なんですか、それ!!そういえば、髪も微妙に逆立っています!」
「これは妖怪アンテナですけどね。先生が近くにいるので反応している
ようです。」
アハハとあっけからんに笑うその表情は、とても絶望戦士には見えない。
可符香はふと真面目な顔に帰ると、そっと望の手を取った。
「私は、これからずっと絶望していることにしました。
そうすれば…そうすれば、ずっと先生と会っていられるから……。」
「風浦さん…。」
まるで自らの体温を分け与えるかのように何度も望の冷たい手を
可符香は擦っている。
望は、冬の寒空を見上げ、スモッグの中でも懸命に光っている1等星を
見詰めた。
シリウスと呼ばれるその1等星は、青白くしかしはっきりと、数千光
年前の光を地球に届けている。
「風浦さん。絶望に留まるなんて悲しいこと言わないで下さい。」
すっと望は東の方でポツンと明かりの点いている窓を指差した。
「あの家、何故明かりが点いているか分かりますか?」
「変態さんが夜遅くまでHなSS書いてるから?」
「違いますよ。あれは、さっきの酒の付き合いをしている部下の家です。
彼の妻が、夜食を作って待っているんですよ。」
「あ………。」
目を細めて、その窓の光に語りかけるように話し始める。
「私はね、人に絶望していたんですよ。
相手を妬み…争いあい…非難し合う……絶望した私はせめてもの抵抗として、
自分という『人』を殺したのです。
でも、あなたの内面に触れたとき、私は人に絶望できなくなっていました。」
511:4章⑦
07/09/22 21:50:43 QK20MM+m
そっと、自分の手を擦っている可符香の手の上に、もう片方の手を重ねる。
「絶望と希望は両輪のようなものです。
人は希望だけでは生きられない。絶望という現実は避けてはいけないんです。
でもね、絶望だけでも人は生きられませんよ。
もう一度希望を持ってください。」
可符香はとたんに苦しそうな顔をした。
いつもの楽観的な顔が急激に歪められる。
唇はかさかさに乾き、堪えるように強く結ばれ、小さな手をぐっ
と握りしめた。
彼女は必死に自分の中の何かと戦っているようだった。
突然、望の着物の襟を掴んで握り締める。
手が真っ白になるくらい襟が強く握られると、可符香は子どもがイヤイヤを
するようにショートカットの髪を振った。
「………さ……い……。」
喘ぐように可符香は声を絞り出した。
「え?」
「先生……私とボディランゲージして下さい………。」
「そ……それは!ちょっとしたハグで『こんにちは』とか、人を指差す
とアメリカでは喧嘩上等とかそのボディランゲージではないですよね!?」
可符香は必死さを目に湛えて、望を見上げる。
「先生と生徒は意思の疎通を図るべきです!!」
「い…いや、それは…その……。」
「私は先生が好きです!
最初からなんて、もう嘘はつきません。
最初は何だろうこの拗ねきった子どもは、と思いました。
次は、被害者気取りの上、段々ネタがなくなってきましたね、と思い
ました。」
どよーんと、望の額に縦線が増えていった。
「でも、いつの間にか先生が私の心から離れなくなっていました。
本当のことですよ?
こんな私でも、恋というものを知ったんです。
希望を、私でも人を愛してもいいという証が欲しいんです。」
一息にそう言うと、激しい鼓動を押さえるかのように、苦しそうに
胸に手を置いた。
その顔はいつもの冷静な笑顔ではなく、生々しい感情を表に出した、
笑顔とも泣き顔とも判別できないような複雑な表情をしていた。
と、不意に何かを思い出したように、可符香はぐったりとうな垂れる。
「……それとも……私……汚れて……います…か……?」
512:4章⑧
07/09/22 21:51:49 QK20MM+m
望には分かっていた。
自分がここに存在している事。
それ自体が彼女の深い絶望を示していることを。
可符香は必死で絶望と戦ってみたのだ。
自分を押しつぶそうとする過去…経験と。
しかし、彼女を襲った闇はあまりにも強く、圧倒的だった。
彼女は一歩踏み出す力を欲している。
―望は自分が、目の前で苦しんでいる少女を愛していることを知っていた。
最初は、自分にはないキラキラした明るさ…希望に目を奪われた。
しかし、その下に隠れた繊細でガラスのような魂が見えた時、
初めて人を愛するということ―それはたしかに希望に満ちている―
を知ったのだ。
下らない矜持に拘っている場合なのか?
自分は人に希望を与えられるような人間ではない?―関係あるか。
目の前に愛しい人が苦しんでいる。―――その人を救いたい。
単純な事だ。
人に心を見詰めよと言うならば、まず自らの心に素直になることだ。
時折、冷たい風が2人の間を駆け抜けていく。
望は意を決したように、可符香の両肩に手を置いた。
「私があなたと交わるということは、もう私達は教師と教え子ではなくなります。
あなたは、私を卒業することになりますが、それでもいいですか?」
少女の顔に一瞬逡巡するような色が走った。
が、何かを決意するように小さく、しかしはっきりと頷いた。
望はすっと腰を傾けると、優しく少女の唇に自分のそれを捺した。
「ん……。」
可符香は瞼を伏せて、静かにそれに答える。
「でも先生、ボディランゲージはしませんよ。」
「え……。」
弾かれたように望を見詰める少女に、優しく微笑む。
「あなたの定義ではボディランゲージというのは、愛のないセッ●ス
を言うのでしょう?
私達のは違うはずです。」
それを聞くと、可符香の頬はみるみる内にピンク色に染まっていった。
まるでウブな小娘のように頬を染め、コクコクと何度も頷いた。
513:4章⑨
07/09/22 21:53:09 QK20MM+m
しばらく見詰め合った後、望は気まずそうに告白した。
「ただ、先生。実は童貞で死んだのですよ。」
一瞬、可符香は石像のように固まった。
「あ、今微妙にジト目になりましたね!!20代なのにという表情
しましたね!!」
可符香は慌てたように口を開く。
「やだなぁ、童貞なんかじゃ……。」
「言わなくていいです!!天使とか妖精とか!魔法使いとか!言わ
なくていいですから!!」
ぐりぐりと手すりの棒の部分に頭を押し付ける望。
「そんな……腐らないで下さい。死人だからって。」
「うまいこといったつもりかあああああ!!!」
「先生、言葉使いが。」
可符香は笑いながら、ひょいと望の顔を覗き込んだ。
「私が先生を導いてあげます。先生も卒業式ですね。」
「う……何か釈然としませんが、お任せするしかないようですね。」
2人の唇がゆっくり近づいていき、出会う。
触れるだけの、軽いキス。
静かに2人は屋上の赤錆の目立つ手すり部分に座った。
望は喪服の背中に手を回し、ファスナーを開け、上半身を脱がせた。
夜の闇に白く光るような裸体と、神秘的な曲線を持った膨らみが露になる。
黒々とした闇と煌く白い肌がまるで、芸術作品のようなコントラスト
を描いていた。
望は一瞬、その美しさに見惚れた。
「綺麗です。汚れているなんてとんでもない。
あなたの体も魂も、手を触れる事すらためらうほどに美しいですよ。」
可符香は、望の手を取り自らの胸元に導いた。
「先生…うれしいです…。」
まるで骨董品のような乳房はしっとりとした肌触りで、
柔らかく手に押し返すような弾力がある。
望は、震える手でゆっくりと胸を揉み始めた
優しく2…3度ふくらみを揉み、チラチラと目を向けると、恥ずか
しそうに目を伏せる可符香の顔が見える。
514:4章⑩
07/09/22 21:53:55 QK20MM+m
「あぁ……なにか、不思議な感覚ですよぉ……。」
うっとりとした安心しきった表情を見せる。
望は少し緊張した表情で、胸に顔を寄せ、優しげな曲線の頂にある
小さな蕾を口に含んだ。
「ひゃう!」
突然素っ頓狂な声を上げて、可符香が跳ねた。
「ど……どうしました……??」
何か、間違ったことをしてしまったのかと焦る望。
「なんだか……むずがゆいような……電気が走るような。これは…
…うーんと、なんでしょうか?」
「そ…そんなに感じました?」
「感じ…る?」
可符香は、不思議そうにくいっと首を傾げてから、ああ!という
顔をした。
「『感じる』!これが、『感じる』という事だったんですね!
やはりボティランゲージとは一味ちがいますねぇ。」
望は思わず間抜けな顔で呆けた様になってしまう。
乳房を愛撫する手を止め、桃色に上気する少女の顔をまじまじと見詰めた。
「風浦さん、あなた……だって、1章~3章で『……あぁ…はぁーん』
とか言ってたじゃないですか?」
「あぁ…。あれ、言ってるだけですから。」
「言ってるだけ…??まさか………。」
「そういうふうに言うと、男の人って喜ぶじゃないですか。」
しれっとうそぶく可符香嬢。
「え…演技ですか!!ああ……絶望した!!
1章~3章のHシーンでハァハァした奇特な方がいたかもしれないのに、
絶望した!!」
頭を抱えながらも、望には分かっていた。
それは、可符香の防衛本能だったのだろう。
幼い頃から陵辱を受けていた彼女は、性行為における自己の感覚を
シャットダウンしていたのだ。
「あはは、やだなぁ、演技なんて。ホワイトライですよ。
ね、それより続きしてください。
なんだか、下も熱くなってきましたよぉ?」
(ああ……やはり、この娘は凄いです。)
望は暗然としながら、それでいてどこか嬉しい気分で、少女の喪服
の裾に手を入れた。
慌てて逃げ出してきたせいで、パンツは穿いていない。
叢の下に息づく花びらは、すでにしっとりと露に濡れていた。
515:4章⑪
07/09/22 21:54:53 QK20MM+m
そっと、赤く揺れる花弁に触れ、愛でるように撫でていく。
「ん…、あぁ……あ…ん、…ん。」
けして大仰ではないが、甘い甘い吐息が少女の瑞々しい唇からもれる。
愛する少女に初めての快楽を与えることができる喜びに望は酔い
しれながら、必死で蜜を滴らせる果実を掻き回していく。
そして、敏感な神経を隠しもつ真珠を探り当てると、カリカリと
刺激してやる。
「んくっ」
ひくりと体が跳ね、押し殺すような声が漏れる。
「い……痛いですか?」
「ううん、気持ち……いいです……ぅ。」
あえぐように甘く囁かれて、望の頭がカッとなったように一気に沸騰した。
可愛い―!少女に対する愛おしい感情がどっと溢れ出し、望は行為を
加速させる。
既に硬く尖っているピンクの突起物を優しく甘噛みして舌で転がす。
熱を帯びた秘密の花びらの中を円を描くように細く白い指で掻き回し
ていく。
震える真珠を指の間で愛おしそうにさすってあげると、可符香は
激しく反応して華奢な裸体をくねらせた。
「………あぁン……すごいで……す…あぁ…はぁん…。」
心は快楽に慣れないながらも、その体はすっかり開発されきっており、
強烈な快感を少女に与えていく。
激しい官能の渦に、可符香は息絶え絶えになっていた。
我慢できないというように切なげに身をよじると、艶のある瞳を
向けて懇願した。
「はぁ……先生っ……もう……。」
望のモノも既にはち切れんばかりに膨張していた。
「じゃ……じゃ……あ……行きますよ。」
急に極度の緊張が、彼を見舞う。
舌が顎に張り付いてうまく喋れない。
もし、心臓が鼓動していれば物凄い勢いで早鐘を打っていただろう。
望は、瘧にでもかかった様に体を痙攣させながら袴を解いた。
けして大きくないアソコは、ほんのり白く、それでも何かを主張する
ように反り返っていた。
2人は正常位の姿勢で向き合う。
望が自分の絶望を濡れた花弁に充てると、腰を進めようとするが、
うまく入らず、何度も滑ってしまう。
望の顔は異様に引きつり、眼鏡がカタカタと揺れていた。
516:4章⑫
07/09/22 21:58:29 QK20MM+m
(私が導いて上げるって言いましたよね。)
可符香は白雪のように透き通った細腕を伸ばして、そっと望の頬を
撫でる。
子どもをあやすように、優しく2度、3度と撫でると、望の顔は
どんどん安らかな落ち着いたものになっていった。
そして、もう片方の手でそっと望の絶棒を取り、銀色の水滴に
輝く自分の泉に導いた。
お互いの目をしっかりと合わせ、見詰め合う。
可符香は、今までしたことがないような表情で頬を上気させ、
はにかみながら小さく頷いた。
望が腰を前に進めると、何かに誘われたかのようにスルリと絶望が
蜜壷に入る。
粘膜と粘膜を擦りつけあう甘美な快感が2人を包んで、奥まで絶棒が
入り込み、寄り添うようにお互いが密着した。
どちらからともなく唇を重ね、熱いベーゼを交すと、2人はもう
教師と教え子ではなかった。
愛し合うつがいとして、何度も何度も唇を吸いあう。
望は静かに腰を動かし始めた―最初はおずおずと、だが次第に早く
なっていく。
「はぁ…あぁ…はぁ…。」
お互いの2人の息遣いが深くなり、ピンクの霧が立ち込めるように
甘い香りが辺りに漂っていく。
前後に揺られ、耐えるように吐息を吐いていた可符香が恥じらい
ながらも、望に囁いた。
「先生……声…出してもいいですか……?」
「はい…。可符香の感情…見せてください……。」
望は、自ら範を示すかのように激しく動き始めた。
一度の突きもおろそかにせず、感情を込めて強く貫く。
望の気持ちが自分に流れ込んでくるのを感じると同時に、想像もでき
ないほどの官能の炎が可符香の脳裏を、全身を灼いていった。
517:4章⑬
07/09/22 22:00:10 QK20MM+m
「あンっ…ああっ…!いぃっ…あんっ…あぁああっ…!!」
全てを解き放ったように可符香は大きく喘ぎだし、腕を望の背中に
回してしがみ付くと、白い細腰を男の動きに合わせて艶かしく振る。
可符香は、自分に広がる感情と官能にすべてを委ねて、なり振り
構わず男を受け止め、男を求めた―。強がりや演技といった呪縛
から解き放たれた、生の『風浦可符香』がそこにはいた。
望の亀頭が赤い柔肉の奥を突くと、可符香は白い裸体をくねらせて
泣き叫び、絶棒を包み込む襞が震え、望に強い満足感を与えた。
「ハァ…んっ…あぁあ!…ぁ…あン…ん!」
(先生…!先生…!)
貪るように唇を重ね、全ての感情をぶつけ合いながら何度も何度も
求め合い、絡み合う。
可符香の前髪を止めた銀の髪飾りが、まるで月の妖精のように踊り、
淫らなそれでいながらどこか神秘的な水音が響き渡ると、2人の汗と
涙がきらきらと星の光に反射し弾けていく。
「あっ…あん!あぁぁあ!あぁ!!」
望の一回一回の突き込みに反応して感情を発露していくうちに、
可符香の中の悲しみが雪のように静かに溶けて消えて行き、
代わりに暖かな光のような喜びが生まれていった。
乱舞する蛍のように次々に光が集まっていき――
それが1つの大きな輝きへと昇華していく。
「……可符香!!もう……!」
「先生っ!……来てっ!!」
望が可符香のくびれた細腰を引き寄せ体重を掛けると、可符香は望の腰に
白い足をクロスして強く絡めた。
感極まったように2人がしっかりと互いの体を抱くと、お互いの陰毛が
1本1本絡まり合うほどに密着し、可符香は深く深く貫かれる。
「……っ!!」
これ以上のない一体感の中、望は少女の一番深い部分でたっぷりと
白い命の源を放った。
「あああああああああぁぁぁあああああぁぁ…!!!」
熱く迸しる想いが体の中に注がれるのを感じると、大きな輝きが一気に
押し寄せ、可符香は天の高みへと昇っていった。
……
518:4章⑭
07/09/22 22:02:00 QK20MM+m
すっかり満たされ2人は、寄り添うように並んで横になった。
可符香が望の胸に頬を寄せると、そのつややかなショートカット
の髪を何度も梳いてあげる。
「中に出してしまって…すいませんでした。」
「大丈夫ですよ。今日は排卵日ですから。安全日です。」
ギクリと望は可符香を見て言った。
「そ…それって、危険日っていいませんか?」
「やだなぁ。大好きな人の赤ちゃんを授かる日ですよぉ?危険なわけ
ないです。安全です。大安全です。」
(大安全ねぇ…まぁ、幽霊の精子で孕む事もないでしょう。)
望がふと目を向けると、可符香は、愛おしそうにゆっくりとお腹を
さすっていた。
「ふふふ、あれだけ精子さんが生贄に捧げられたんです。先生が
転生しちゃいますねぇ。」
「あなた…まったく懲りてませんね。」
すっかり元の調子を取り戻した可符香に、望は苦笑するように笑って
天空に目を移す。
「先生ぇ……しばらくこうしていても、いいですか?」
「もちろん……。」
スモッグに包まれた灰色の闇天に、いくつもの星が瞬いているの
が見えた。
可符香はいつしか、まどろみの中に落ちていった。
目を覚ますと、いつの間にか望は消えていた。
自分の体を確かめると、喪服に乱れはなく、あの事はまるで夢の中の
できごとかのように思えた。
ゆっくり立ち上がったとき……冷たいものが落ちてくるのに気付いた。
519:4章⑮
07/09/22 22:02:50 QK20MM+m
静かに静かに
小さな白い雪が灰色の空から舞い降りてきていた。
『教師として何が一番の喜びか、分かりますか?』
『こうやって、女生徒と愛し合うことですか?』
『ち…違いますよ。あーー私は……!』
『あはは、冗談ですよ。続けてください。』
『教師はね、生徒達が学び舎を卒業し、自分を超えて行ってくれることが
一番嬉しいんですよ。』
『可符香。あなたは私を超えて行って下さい。
これからも様々な絶望があなたを襲うでしょう。
ですが、それを正面から見据え、乗り越えて行って欲しいのです。』
『――あなたは、私の一番の愛する人であり、自慢の卒業生なのですから。』
彼女の髪飾りに、白い雪が舞い降り吸い込まれるように消えていく。
可符香は、目から熱い涙が零れ落ちるのを拭こうともしなかった。
ただただ、雪が舞い降りる空を見つめた。
そして………
卒業式で卒業証書をもらうときのように
ゆっくりと礼をした。
520:後日談①
07/09/22 22:04:21 QK20MM+m
(後日談)
=================
以上が私のカウンセリグ室で彼女が語った全てである。
彼女を襲った2人についてだが、
その後の通報で警察が駆けつけたときには、2人とも頭部に極めて
強い衝撃を受けており、今では廃人同然の暮らしをしているという。
その後、風浦可符香は妊娠が発覚して高校を退学し、私のカウンセ
リングは終わった。
それからも、度々手紙のやり取りをしていたが、
なんでも男児を出産後、大検を取得し、大学に進学したとのことだった。
数年後、たまたま成長した彼女に会う機会があった。
=================
満開の桜並木とピンク色の花びらの舞散る中を、
私は彼女―風浦可符香―と彼女の息子と一緒に歩いていた。
すでに桜は開花時期を過ぎ、その多くが散り始めていた。
彼女の息子は5歳位になっただろうか。
桜の木の下を「あれは、桃色ドラゴン、あれは、桃色新幹線、
あれは、桃色しっぽ」と名づけながら駆け回っている。
「・・そう、今は高等学校の国語の教員をしているの。」
「はい。まだ2年目ですから駆け出しですけど。」
彼女はすっかり大人びていたが、トレードマークの髪飾りを
いまだ付けていた。
「夢の中で『先生』は教科書に書いてある事を教えてくれたん
じゃないんです。
世の中にある現実やそれを見た時の人の心の変動。
そういった生の声や経験を教えてくれていたんだと思うんです。」
「生の声や経験・・・。」
私は噛み締めるように繰り返してみた。
521:後日談②
07/09/22 22:05:13 QK20MM+m
「悲しさとか、苦しさとか、絶望に思えることって世の中に一杯ある。
残念ですけれど、それは確かに存在しているんです。
その事に正面から向き合って、乗り越えていくことを学ぶのもきっと
大事な事なんですよ。
私はまだ未熟だけど、そういう事も含めて教えていける先生になり
たいんです。」
彼女は変わっていた。
彼女の目線は真っ直ぐに前を向いて。
あらゆる現実と戦い、そして乗り越えていく強い意志を持っていた。
いろいろ聞きたいことはある。
あの子の父親は誰なのか。
糸色望という人物は、戸籍に残っているのか。
あれから絶望先生には会ったのか・・・・etc
でも、そのような事はほんの小さな事柄に今は思える。
(敵わないな・・。)
かつての自分は、彼女を救うことが出来なかった。
カウンセラーとして相談を受けていたのに。
私は彼女の前向きさをそのまま信じ込んでいただけだった。
だが、確かに彼女は乗り越えたのだ。
圧倒的な絶望を―。
「私も『絶望先生』みたいになれるかしら。」
ふと、呟くと、彼女は少し驚いたように私を見た。
そして、にっこり笑う。
「なれますよ。智恵先生は、人の弱さが分かる素晴らしい人ですから。」
522:後日談③
07/09/22 22:05:51 QK20MM+m
その時、強い風が吹き、さぁーーーーーーと桜が舞い散った。
桜吹雪が一斉にあたりを覆う。
「あぁーーー。桃色うすい君の花びらが散っちゃたーーー!!」
泣きべそをかいて、男の子が私達の方へ駆け戻ってきた。
「おかあさまーー。桃色うすい君がはげになっちゃうよーー。
ぜつぼうしたーー。」
彼女はちらりと私を見て、軽く微笑んだ。
「いつの間にか、あんな言葉覚えているんです。不思議でしょう?」
彼女はそっと前かがみになると、息子の涙を指で拭いてやり、優しく
語りかけた。
「望、桜の花びらが散ってしまうのは悲しいことよ。
でも桜は花びらを散らした後、また新しい芽吹きのためにしっかりと
準備して生きていくの。そしてまた、美しい花を咲かすのです。」
「そっか!!また、会えるんだね!!」
その時、彼は微かにしかしはっきりと母親の隣を見て頷いた。
彼女の隣には、和服姿の男性の姿が寄り添うように微笑んで立っていた。
慌てて目を凝らす―と、もう彼女の隣には誰もいなかった。
―季節がめぐり時が移ろう中で、人も変わり、成長していく。
一方で、変わらぬものも確かに存在するのだ。
それは、人の教えであったり、想いであったりするのだろう。
桜の舞う季節の中…、私はむしょうに嬉しくなって涙を流していた。
<終わり>
523:146
07/09/22 22:08:26 QK20MM+m
<あとがき>
読んでくださった方、スルーしてくださった方、皆様に感謝いたします。
幽霊とか・・・妄想全開だ。
可符香だと、どうしても最後は桜のシーンになってしまう上に、使い古・・
いやいや弁解はすまい。
更なる欝展開を期待していた方には申し訳ない。
救いなく堕ちて嬲られるポジティブ少女・・・うーん、何だかドキドキしてきた。
誰か、書いて?w
まあ、色々突っ込みどころはあると思いますが、
「やだなぁ、霊界の神秘ですよぉ」でお願いしたいです。
>>238さんの言うとおり、>>99で望×芽留を書いた者と同一人物です。
後から読み直すと闇鍋で釣れそうなほど、恥ですなあ(奥義ってなんだよ;)。
今回は長くならないように!と思ってたのに、結果は・・ああ、絶望した!!
今後は自重します・・。
一応題名を付けてみたり。
『可符香+絶望:その心は?』
ひねりもオチもないんだ、許して欲しい。
524:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:08:27 zAwuGhKy
やべえ
リアルタイムで追っててうるうるしっぱなしだった
こんな素敵な話を読ませてくれて、ありがとう
525:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:10:32 TZcdWCIl
初めてリアルタイムで読んだ。
最後のシーンに鳥肌たったよ。GJ!
526:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:13:17 PnXA2rH0
ごめんなさいぃぃぃ!
カキコかぶった! 日陰者やってしまいました!
こんないい話に横槍して申し訳ない。orz
あらためて乙です! GJ!
527:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:14:12 7tKUie6n
カフカ3連発だな。
ギャグ、シリアス、感動系と全部違った味わいでよかった!
みんなGJ!
そろそろ新スレ立てないとヤバイんだが、自分は規制でたてられない。
誰か頼む。
528:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:22:44 Cj+7R/qZ
倫×望とか望総受け読みたいです。。。
それか、あびる×望ですね
529:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:23:27 AeTL+wLp
可符香好きの俺にはたまらん夜だ
救いのあるラストにしてくれてありがとう
530:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:24:26 V/a2xR1f
感動した!文化レベル高すぎます!!この板でこんなクォリティの高い作品に出会えるなんて!真昼が雪の方といい430氏といい…ええい!このスレは化け物か!?
531:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:30:08 rJOOZHPc
乙、GJ!
大正時代にTVはなかったなんて無粋なつっこみする気も引っ込むほど
いい作品読ませてもらいましたw
532:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:36:44 xPZbs1qg
>>531
同感だな。
>>498の
>肩に手を回と、返ってくる感触で、以前よりも彼が随分痩せている事に気が付いた。
の「回す」の部分に脱字があることや
>>520の後日談の部分で
「カウンセリング室」じゃなく「カウンセリグ室」になってることなんか
全く気にならないほどいい作品だった
533:名無しさん@ピンキー
07/09/22 22:37:25 E355r+oL
桃色うすいがハゲになるてwwwwwwwww
534:名無しさん@ピンキー
07/09/23 00:29:35 FRKZdo26
>>523(146)
絶望的なエンディングも覚悟して読んでいただけに、可符香が救われたときの感動がハンパじゃなかったです
冗談抜きに眼の奥がじんわり来てます………ラストから後日談にかけて、本当に素敵でした
本当にありがとうございました
535:名無しさん@ピンキー
07/09/23 01:04:14 byx08FFx
感動もエロもギャグもネタも充実してて、凄のね。
536:名無しさん@ピンキー
07/09/23 01:15:20 l5Olmzew
うお、皆すげーぜ!
謹んでGJを進呈します!
そして気が付けば容量が瀬戸際であるw
537:名無しさん@ピンキー
07/09/23 01:48:20 UfIxzbYB
皆がよく使っていたが自分で使う事には躊躇いがあった表現がある
可符香SS三連発を読んで今こそ言おう
神だ
538:名無しさん@ピンキー
07/09/23 01:51:55 bO9qWXmd
絶望ガールズが真夜にアナル拡張されるSSはまだですか?
539:名無しさん@ピンキー
07/09/23 01:55:38 UfIxzbYB
良かった、
圧倒的な絶望を乗り越えられて本当に良かった
540:名無しさん@ピンキー
07/09/23 02:00:05 lpBHRHiP
>>538
百合スレいってリクしろよ
541:名無しさん@ピンキー
07/09/23 02:18:53 YWGqIsKn
>>538
アニメも終わっちゃったし、君も自分で書いて投下してみてはどう?
僕も書くから君も書け。
542:名無しさん@ピンキー
07/09/23 02:36:53 G+kkmW40
泣かないぞと思ってたのに涙が溢れて戸惑った…
しかし桃色うすい君で盛大に吹いて鼓膜吹っ飛ぶかと思った
絶望した!個人の感情までも多忙にさせる作者に絶望した!
543:名無しさん@ピンキー
07/09/23 06:09:12 z3W4j4hR
望があびるの家に誘われて尻尾料理をご馳走になると同時にあびるもご馳走になるという話を思い浮かんだが、書けない。
自分で書けといわれて書いてスルーされたのがトラウマ。
544:名無しさん@ピンキー
07/09/23 06:49:48 JhhEPFDK
スレ、1ヶ月持たなかったね・・・
アニメが終わっても、この勢いが続くことを祈る・・・!
545:名無しさん@ピンキー
07/09/23 07:19:31 V9KhkUUs
こうして並ぶと色んな可符香観が見れて面白い
546:名無しさん@ピンキー
07/09/23 09:40:49 l1dU++wT
>>146氏のSSに萌と絶望を同時に叩きつけられたんだぜ…二重の意味で。
えー、真昼を書いてる奴です。
…>>146氏と微妙に、いやむしろ思い切りかぶっとる所がごぜぇます。
書き溜めている段階ですでにそうなってたんでパクりじゃないと言い張りたい…!
あえてどこが、とは書きませんが、今後投下する分で>>146氏のパクり部分らしき所を見つけても、
可哀相な奴を見る目で視姦するか、スルーするかしてくだされ…。
というか、この分だと本当に次レスまで駄文ポータビリティしてしまいそう。
こんなもんにもホワイトライをくれる皆様に励まされつつ、執筆中でございます。
547:名無しさん@ピンキー
07/09/23 10:19:01 lpBHRHiP
元ネタが元ネタだから被るのは仕方ないって。
その辺りは全員わかってくれると思う。
548:名無しさん@ピンキー
07/09/23 10:30:46 VTGSkIYH
次スレはまだか~
549:名無しさん@ピンキー
07/09/23 10:49:54 7siGGXge
次スレ
スレリンク(eroparo板)
おっきした。空気嫁ずに勃ててごめん。
550:前スレ851
07/09/23 10:53:43 P2jpoyHF
146さんの読みましたが、どう転がっていくのか予想できない強烈なドライブ感とか
笑いの小ネタとかいいですね。面白かったです。
あと先生が何故和服なのか、説明がついているのがいいなあ。
551:名無しさん@ピンキー
07/09/23 12:49:21 PESxYJ8+
今このスレが、エロパロで一番熱い!
552:名無しさん@ピンキー
07/09/23 15:11:03 Tx+2iKhX
10巻の投稿イラストで
真夜が「満月の夜にまた会おうか」ってセリフがあるけど
これやっぱり元ネタはKOFのバイスかな?
553:名無しさん@ピンキー
07/09/23 15:27:44 0RKpmk06
てか、まさかアニメ最終話に「赤木」が居るとは・・・・・・
554:名無しさん@ピンキー
07/09/23 16:07:03 bekHLYFk
それは本当の赤木じゃないかwww
555:名無しさん@ピンキー
07/09/23 16:28:37 gIijnZn8
っでも、他の3人の組み合わせのネタを考えれば赤城だけど、
実際は名簿にも載ってる赤木だから紛らわしいな。
556:名無しさん@ピンキー
07/09/23 20:35:51 bBpbx1zq
単純なスタッフのミスだろう
557:名無しさん@ピンキー
07/09/23 21:18:18 lpBHRHiP
あそこのアニメでそこまで単純なミスは起こさないだろ。
558:名無しさん@ピンキー
07/09/23 21:43:35 V9KhkUUs
アニメは可符香のキャラが既に間違いだらけだろ
559:名無しさん@ピンキー
07/09/23 21:46:53 O+jT0Ygy
アニメの可符香はただの電波ちゃんに終わっちゃった気がしないでもない。
てか、自分で言っておいてアレだけど、そろそろスレ違いじゃね?
560:名無しさん@ピンキー
07/09/23 21:56:16 rnD+STlY
い、いやだなぁ、最終回だなんて。
来週も再来週も、深夜のお茶の間にぶれぶれコールに決まってるじゃないですかぁ…。
561:名無しさん@ピンキー
07/09/23 21:58:37 rnD+STlY
sage忘れ謝罪
562:名無しさん@ピンキー
07/09/23 22:08:38 R2NiOH/7
残念ながら、すべての物語には最終回があるのです。
そして今回、さよなら絶望先生はその最終回を迎えたのです。
563:名無しさん@ピンキー
07/09/23 22:15:08 rnD+STlY
「アヌメの」な。
564:名無しさん@ピンキー
07/09/24 00:02:35 2DolnYFx
>>549
乙
565:名無しさん@ピンキー
07/09/24 00:03:02 PESxYJ8+
あと17kb……
次の作品が事実上ラストかな。wktk
566:名無しさん@ピンキー
07/09/24 01:06:54 RkfyS4ZB
100話を読んでから霧に目覚めた俺に霧SSを!
567:名無しさん@ピンキー
07/09/24 01:39:01 0SfJ8eoV
>>566
速 さ が 足 り な い
568:名無しさん@ピンキー
07/09/24 02:22:04 MreX8Duk
今旬なのはあびるだろ
569:名無しさん@ピンキー
07/09/24 02:49:38 Pj/QKRBm
>>567
クー○ーの兄貴乙
570:名無しさん@ピンキー
07/09/24 03:01:30 WWfty1WW
正直あびるが一番かわいい
571:名無しさん@ピンキー
07/09/24 03:02:23 WWfty1WW
俺のID草生えすぎだな
572:名無しさん@ピンキー
07/09/24 03:28:30 O4zhkeMm
>>570-571
なんかきっちり半笑いできそうだな
573:名無しさん@ピンキー
07/09/24 04:28:22 eQlTHVhO
最高の作品だった
可符香好きの俺には嬉しいところ
気づいたんだ、俺は可符香が好きなんだがこの一キャラだけじゃなく
絶望先生とセットなのが好きなんだと
単体でも好きだけどさ。だから霊の絶望先生が出てきたときには感動で
画面が見えない状況だぜ
574:430
07/09/24 12:06:01 GH3wLlpc
新スレが立ったと聞いてノコノコやってきました、
自称埋め職人の430です。
まさか、1ヶ月経たずに埋め作業が再び巡ってくるとは思いませんでした。
すごすぎる。
というわけで、とりあえず、埋め用小ネタを1本。
この名曲を聴いていて、こんな妄想話が浮かぶあたり、
自分の頭も、だいぶ末期の状態のようです。
基本、先生と倫ちゃんしか出てきません。
赤木杏のシリーズとは違う世界のお話です。
575:主よ、人の望みよ喜びよ 1/4
07/09/24 12:07:26 GH3wLlpc
――子供の頃、兄に教会に連れて行ってもらったことがある。
色とりどりのステンドグラスを通る、柔らかい光に包まれた空間に、
パイプオルガンの音色が響いていた。
美しい曲だ、と思った。
兄に曲名を尋ねると、「主よ、人の望みよ喜びよ」と言う曲だと教えてくれた。
――題名に兄の名が入ったこの曲は
そのときから、私の、一番のお気に入りになった――
* * * * * * * *
コンコンとノックの音がする。
「倫、入りますよ。」
ドアを開けて、小さな控え室に望が入ってきた。
「あら、お兄様。ここは、夫となられる方以外の殿方は立ち入り禁止ですわよ。」
「兄妹で固いこと言いっこなしですよ。」
望は部屋を見回した。
「…花嫁が一人きりですか?手伝いの者は?お母様は?」
「……皆、用事で、ちょっと出ています。」
「なんですか、それは。まったく、なんてことですかね。」
ぶつぶつ言いながら、望は妹の姿の晴れ姿を眺めると、眩しそうに目を細めた。
「………きれいですね、倫。」
「ありがとう、お兄様。お兄様も、洋装姿、お似合いですわよ。」
「さすがに、教会に紋付袴は似合わないですからね。」
倫が首をすくめて笑った。
「それにしても、お兄様が素直に褒めてくださるなんて。
雨が降らなければいいのですけど。」
576:主よ、人の望みよ喜びよ 2/4
07/09/24 12:08:08 GH3wLlpc
望は、ムッと頬を膨らませた。
「私だってTPOは心得てます。こんな日に絶望的なことなんかいいませんよ。」
そう言いつつ、望は、真面目な顔になった。
「それに……。花嫁姿のあなたは、本当に、美しいですよ。」
倫は、望の言葉に一瞬目を見開くと、無言で目を伏せた。
2人の間に沈黙が落ちる。
化粧台の上のCDデッキから流れる曲が、一際大きく感じられた。
望がふと微笑んだ。
「倫は、この曲が本当に好きなんですね。」
「…ええ…とても…。」
「意外でしたけどね…お前が賛美歌なんて。」
望はしばらくその美しい旋律に耳を傾けていた。
倫は、そんな望を眺めていたが、そっと望に語りかけた。
「お兄様。」
「はい?」
「覚えてますか?子供の頃、2人で教会に行ったときのことを。」
「ええ、覚えてますよ。帰りに迷子になって、えらく叱られましたっけ。」
「…あのときに、初めて、私はこの曲を聴いたのですわ。」
「……。」
「お兄様が、曲名を教えてくださいました。」
「………そう、でしたかね………。」
2人の間に、再び沈黙が落ちた。
望が、コホンと咳払いをした。
「そろそろ、時間ですね、私はお暇しなければ…。」
「お兄様!」
帰ろうと背を向けた望を、倫が呼び止めた。
倫に向けられた望の背中がこわばった。
577:主よ、人の望みよ喜びよ 3/4
07/09/24 12:08:52 GH3wLlpc
倫は、望の背中に向けて、はっきりとした声で告げた。
「お兄様…。私、お兄様が、好きでした。」
「……。」
「子供の頃から、誰よりも、一番、お兄様のことが、大好きでした。」
望は、振り返らない。
倫の声がひび割れた。
「分かっています。今さらそんなことを言っても、詮無いことだと。
でも…私が嫁ぐ前に…他人の者になる前に、言っておきたかったのです。」
遠くの方から、人の声が聞こえてきた。
望が、前を向いたまま呟いた。
「…皆が、帰ってきたようですね。…いったい何をしていたんだか…。」
「………皆には、私が用事をいいつけたのです。
お兄様が……いらしてくれるような、気がして………。」
「――!」
望が、倫を振り向いた。
望と倫の目が合う。
2人は、そのまましばらく無言で見つめ合っていた。
バッハの対位法を生かした旋律が、2人の間に満ちて行く。
倫は、望の目を食い入るようにして見つめていたが、やがて、
ほっと息をついた。
そして――天使のような笑みを浮かべた。
望は、ただ倫の笑顔を呆けたように見つめているだけだった。
大勢の足音が近づいてきている。
望は、声を絞り出すようにして尋ねた。
「倫、あなたは、幸せになるのですよね…?」