07/09/21 17:12:11 nYbEN0gt
(大切なのはさりげなさ・・・さりげなさ・・・)
おまじないのように唱え、緊張のあまり手に持ってるテールスープの店のチケットを握り締め
ながら、あびるは意中の人の姿を探していた。
(みんなには負けられない・・・ちゃんと誘うんだ・・・)
その様子を頭の中で想像しながらうっとりしていると、
「うわぁあああ!!」
と叫びながら、探し求めていた人物が正面から走ってくる。
(やった!なんて好都合!!)
心の中でそう叫ぶと緊張で振るえながらも、チケットを差し出しいう。
「せ、先生・・・・今度私と一緒に・・・」
最後まで言い終わる前に望は横を猛スピードで走り抜けていった。
「え・・・・」
あっけに取られていた次の瞬間、
「うなぁああああああ!!」
まるで般若の如き形相の千里と
「先生、私と結ばれましょう!!」
などと、わけのわからないことを叫ぶまといが望を追って走り去っていった。
その後ろ姿を見ながら、
「やっぱりアピールがすごいな・・・」
と気圧されたように呟き、顔を伏せる。が、
「でも、私も負けない!」
とあびるは力強く顔を上げると、望の後を追った。
「先生、待って~!!」
424:恋の物語26
07/09/21 17:13:11 nYbEN0gt
(まさか・・・あんなことを言われるなんて・・・)
昨日の望の言葉を思い返しながら、智恵は今もまだ、顔が火照ってしまう。
が、それと同時に後ろめたい気持ちもあった。
(あびるちゃんを裏切る形になっちゃったな・・・)
彼女とて、望に恋している。それも自分より前から、それがやはり後ろめたい。
(でも・・・言おう)
今度彼女が来たら、全部話そう。智恵はそう決意していた。そして、不思議なことに
それを話しても、彼女はあきらめない気がした。根拠は何も無い。けれど、女の
直感的に、なぜか、自分に向かって宣戦布告してくるあびる、そして千里やまとい、霧の
姿も想像できる。そしてそれは確実な気もしていた。
(負ける気はないけどね・・・)
けれど、うかうかもしてられない。彼女たちだって、立派な美しさを持ってる。
いつ望が心奪われてもおかしくない。
(今度、食事にでも誘ってみようかな・・)
そう、考え、ふと昔に戻った気がしておかしくなる。
(でも、今度はちゃんとやる・・・もう昔とは違う)
あの時を繰り返しはしない。今度はちゃんと道を歩いていこう。彼と。
そう決意を固めたとき、ドアをノックする音がした。
(おっと、けど、仕事もしなくちゃね・・・!)
望がすばらしいことと言ってくれた自分の持ち続けた夢、それをないがしろにする気も
なかった。
「はい、どうぞ」
そう言うと、手早く椅子の準備をはじめた。
これは、恋の物語。そして、それはまだ・・・始まったばかり・・・
終わり
「絶望した!!きれいにまとめようとして私のことを無理やり押し出した作者に絶望した!!
・・・って、ちょっと待って、は、話せばわかります!!・・・ぎゃああああ・・・!!」
425:名無しさん@ピンキー
07/09/21 17:19:42 nYbEN0gt
ええと、ながらくお待たせしてしまいました。
これにて、終わりです。まずはすいませんでした。
しかし、ここまで停滞させたのは別に焦らしプレイとかじゃなく、(ってか待って
る人いたんだろうか?)
実際に時間が許さなかったんです。すいませんでした。
ええと、駄文な上、文章の間違いが多いと思われますが、
はよ投下しろとおしかりを受けたため、急いだので、お許しください。
ええと、このあとも多くの神作品が投下されるでしょうから、どうかそれで
目を回復させてください。そして、もし、最後までしっかりと読んでくれた
方がいたら、ありがとうございました!!
426:名無しさん@ピンキー
07/09/21 17:21:58 VIwwIGO8
糸色望 再起不能
To be continued...
427:名無しさん@ピンキー
07/09/21 17:44:18 crNY9Ylb
リアルタイムでゴチになりました!
428:名無しさん@ピンキー
07/09/21 17:53:42 uXkvlu/E
すごく良かった…GJです!
大人同士ってところで、先生×生徒とはまた違った余韻が。
最後のバタバタ感も原作っぽくて好きです。
いろいろな人がいて、いろいろなご意見もあるでしょうが、
余り気になさらずに、是非また次作をお待ちしております!
429:前スレ851
07/09/21 18:53:10 lZuVScEz
ハルチリ読んでくれた人ありがとうございます。
また発作的に小品を書いたので投下します。
「アナザーエンディング」に続いて、エロなし、世界観破壊な内容なので興味ない
方はスルーしてください。
せつない木津をイメージして考えてみました。
430:木津千里 27歳(1)
07/09/21 18:54:42 lZuVScEz
その日も残業のせいで帰宅がすっかり遅くなった。
一人暮らしを始めてからもう2年になる。いつまでも親元にいるのはどうかと思った
のと、いつも帰宅が遅く、少しでも通勤時間を減らすためにこのアパートを借りたのだ
が、結局遅く会社を出ても間に合うということで、さらに残業が増えただけの結果に終
わってしまっていた。
今日もまた、課長の終業間際の変な思いつきに振り回されて、書類作りに追われ、な
んとか逃げ出してきたのだ。
駅からアパートまでの道を早足で戻り、いつもの習慣どおりポストを覗いたとき、そ
れを見つけた。最近同級生からしょっちゅう来る「結婚しました」という報告のはがき
だ。もらうたびに、私だってと考え、また日常の忙しさにかまけて忘れてしまうことの
繰り返しだった。
431:木津千里 27歳(2)
07/09/21 18:55:35 lZuVScEz
だが今回のものにはちょっとした衝撃があった。ここしばらく感じたことの無い衝撃
が。
はがきには「結婚しました。糸色 望・杏(旧姓赤木)」と書いてあった。上半分に
は、神前結婚式での着物姿の先生と風浦さんの写真が載っていた。
「結婚したんだ・・・。」
風浦さんと先生が付き合っているという話は卒業してしばらくしてから噂で聞いてい
た。それから考えるとむしろ時間が掛かったといえるのだろう。
部屋に入り、着替えてからテーブルの前に座り、はがきの中の二人の姿をじっと見つ
めた。嫉妬の感情なんて無いはずなんだけど・・・。私は笑った。
やっぱりそうだったんだ・・・。
もうあの時からずいぶん時間が経っている。
私は式には呼んでくれなかったんだな、そう思うと少しさびしかった。でもそれは仕
方のないことだ。最後に会ったのがあんな状態では、気を使って呼ばないのが自然とい
えた。
卒業後、最後に先生のいる宿直室に行ったときの事は今でもはっきり覚えている。い
つも見回りと称して遊びに行っていたが、結局それが最後になってしまった。
その日は交君も常月さんや小森さんも部屋にはいなくて、先生は一人だった。私はそ
こで先生にこれからも交際してください、と真剣に頼んだのだ。
先生はいつものようにすぐにごまかしたり、逃げ出したりせずに、辛抱強く私にあき
らめなければならないことを説得してくれた。
432:木津千里 27歳(3)
07/09/21 18:56:51 lZuVScEz
結構な時間そこにいたと思う。それも泣きながらだ。先生は嫌がることもなく、私が
納得するまであきらめるように話してくれた。
最後になっても私は「絶対あきらめません。きちんと責任とってもらいます」と言っ
て家に帰り、大泣きした。もう終わったんだ、あきらめなくちゃいけないんだ、という
ことは良くわかってた。
考えてみると、ほとんど全てが私の思い込みに過ぎなかった。それは良くわかってい
たし、そんなおかしな私を馬鹿にせず、先生も良く付き合ってくれたものだと思う。
大学に進み、生活の大部分がそちらで占められるようになると、あっという間に高校
時代のことは忘れていってしまっていった。
そのころの友人とも疎遠になり、現在でも仲が良いのは晴美一人だけだ。晴美は公務
員になって、今でも漫画の持込みを続けている。最初は半分は馬鹿にしていたんだけど、
今ではそういう夢がある彼女がうらやましかった。
私は何をしているのだろう?
433:木津千里 27歳(4)
07/09/21 18:57:28 lZuVScEz
写真の中の先生は、高校時代には見たことがないような幸せそうな笑顔をしている。
風浦さんは昔のままだ。あのすべてに対して絶望していた先生も、ようやく希望を見
つけることができたのだろう。
はがきには先生の手書き文字で「一度気が向いたらでいいので遊びに来てください
ね。これは社交辞令ではありませんよ。」と書かれている。その横には風浦さんの字
で「本当に本当に会いたいです!」とあり、見慣れた狐の尻尾みたいな飾り文字で結
ばれている。
そうなんだ。一度晴美を誘って会いに行ってみよう、私は思った。
自分では気が付かなかったが、涙ぐんでいた。ただ、それは悔しかったとかいう気持
ちからのものではない。あの毎日がお祭りみたいだった高校時代、その懐かしさで感情
が高ぶってしまったのだろう。そうか、あれからもう10年近くが経ったのか。
私もこんな幸せなそうな笑顔の写真を送るからね、そう思った。
私ならきっとできるはずだから。
おしまい
434:341
07/09/21 18:58:54 cpTwa3je
「真昼が雪」投下中の者です。昨夜に引き続き9レス程消費させていただきます。
相変わらずエロスまで全然到達する気配なっすぃんぐ。ダラダラ長くて申し訳ない。
435:真昼が雪 13
07/09/21 18:59:50 cpTwa3je
千里とまといの暴行による傷もすっかり癒えた頃。
望はゆっくりとした足取りで、図書室に向かっていた。以前借りた本を返す為だ。
下校時間が迫っている時分なので、てっきり鍵が掛かっているだろうと思っていた。
だが、先ほど見てきたが職員室に図書室の鍵は返されていない。
という事は、まだ生徒が残っているという事なのだろう。誰かはだいたい想像できるのだが。
「失礼しますよ」
一声掛けてから戸を開く。
予想通り、一人の男子生徒が居残って本を読んでいた。
夕日の射し込む窓際の席に座り、本を読むその姿は、まるで一枚の絵のように完成されている。
つい、と顔を上げて望の姿を見止めると、親しげに微笑みを向けて、
「いらっしゃい、先生」
「すっかり図書室の主ですね、久藤君。もうすぐ下校時間ですよ?」
「あ、すみません。つい夢中になっちゃって」
「まぁ気持ちはわかりますけど」
図書委員の使うカウンターから勝手にカードを取り出して、判を押す。
元あった棚へ本を返すと、望は鞄に本を納めている久藤に振り返った。
「この間はありがとうございました」
「可符香ちゃんの事ですか?」
可符香ちゃん。その予想外に親しげな呼び方に意表を突かれつつ、頷く。
「え、ええ…。もしかして、お二人は仲が良いんですか?」
「仲良しかどうかはわかりませんけど、幼稚園の頃からの付き合いだから」
以外な事実に目を丸くする。久藤は「言ってませんでしたっけ」と素知らぬ顔だ。
「存じ上げませんでした。…どうりで、風浦さんも貴方に親しげだったわけだ」
「彼女は…誰に対してもああでしょう?」
珍しく瞳を驚きに揺らして、聞き返す久藤。
436:真昼が雪 14
07/09/21 19:02:00 cpTwa3je
「うーん、何といいますか。
何となく貴方には、他の人より心を許しているように見えたんです」
保健室での二人の姿を思い出す。
久藤の後を追う可符香の姿は、なんだか安心しているように見えたのだ。
「――………そう、ですか」
久藤は何か考え込むように目を伏せた。
「久藤君からも言ってくれませんか?私をからかうのも程ほどにして欲しいと」
苦笑交じりに言う望の言葉など聞いていないように、少し考え込む久藤。
「…久藤君?下校時間過ぎちゃいますよ」
「先生」
久藤は伏せていた顔を上げて、真っ直ぐに望の目を見る。
本心の見えない仮面じみたその表情は、望の良く知る少女を彷彿とさせた。
だが、脳裏に過ぎる彼女の絶えぬ笑顔より、幾分か人間味があるように感じられる。
不思議と目を逸らす事が出来ず、緊張に身体が強張る望。
「先生は可符香ちゃんの事、どう思ってます?」
「…どう、とは?」
「何でもいいです。何か、彼女に対して思う所はありますか?」
言われて考え込む。糸色望にとって、風浦可符香という少女はどういう存在なのか。
「そう、ですね…」
ほんの少し、間を置いてから、
「―油断ならない子だと思います。
気を抜くとすぐ人を絆そうとしますからね、彼女は」
その答が、久藤の望むものだったのかはわからない。
だがとりあえずの回答を得て、久藤は視線による束縛から望を開放した。
視線を窓の外へ移し、背を向ける事で表情を隠す久藤。
窓から見えるグラウンドは、沈み逝く夕日に染められて、
赤く燃え上がっているようにも見える。
437:真昼が雪 15
07/09/21 19:04:15 cpTwa3je
その景色を眼下に見下ろす久藤の表情が、何故だか無性に気になった。
「…ふぅん」
「な、何ですか。その意味あり気なリアクションは」
「何でもないです。ほら、下校時間ギリギリですよ。
鍵は僕が閉めますから、先生は先に出て下さい」
振り返る久藤の表情は、またいつもの薄い笑顔。
だが、退室を促す彼の様子は、どこか素っ気無かった。
「はぁ…わかりました」
望は少し戸惑いつつも、言われた通りに扉へ向かう。
戸を開けた瞬間、背後から声が掛かる。
「でも、可符香ちゃんは先生の事、好きですよ」
「え?」
肩越しに振り返る。
いつの間にか手が届く距離まで近づいて来ていた久藤は、
それ以上何も言わず、望の背を軽く押した。
「わ、と」
僅かに前につんのめり、廊下へ押し出される。
「さよなら、先生」
最後にそれだけを言い残し、ピシャリと扉を閉める久藤。
閉まる扉の隙間から、僅かに垣間見た久藤の顔は、
まるで望を責めるかのように不満気だった。
「…さよなら、って…」
もう下校時間ですよ、と。
教師としてはそう忠告して、一緒に部屋を出るべきだったはずなのに。
望はそれが出来ず、何故だか妙な罪悪感を抱えて、図書室を後にした。
438:真昼が雪 16
07/09/21 19:05:51 cpTwa3je
あれから数日。
『可符香ちゃんは、先生の事が好きですよ』
去り際にそう言い放った、可符香の幼馴染である少年の言葉が、耳から離れない。
その言葉を、どこか不満気に言い放った彼の本意がわからない。
人をからかうのが生甲斐のような少女が、一定の対象に特別な好意を寄せるとは思えなかった。
望に対する態度も、他の人間に対する態度も、そう変らないように思える。
スルリと心に滑り込み、散々掻き回して、気が付けば忽然と居なくなる。
そういう残酷な少女でしかない。そしてその残酷さは、差別なく平等に発揮される。
そんな様子から、どこをどう取れば自分への特別な好意が感じられるというのか。
そしてそんな彼女に対して、間違っても特別な好意など抱けようはずもない。
――望は気付いていない。
彼女の残酷さに気付く事こそが、既に特別な事であるという事に。
元々、彼は人の心の動きには過敏な方である。
巧みに心の隙間に滑り込んでくる可符香の気配にも、敏感に気付いてしまうのだ。
――まぁ、その気配に気付かずに絆されて、何かと酷い目に合う事も多々あるのだが。
何はともあれその過敏さが、望に彼女の本質を垣間見せる事となった。
そしてあの一件以来、彼の可符香に対する意識が少しだけ変化する。
いつもの性質の悪い冗談に、少し注意深く耳を傾けてみたり、
僅かな表情の変化を気に止めてみたりと、自然に彼女の姿を目で追うようになっていく。
少し注意を払うだけで、今まで見えてこなかった少女の新たな一面。
僅かに覗くのみだった彼女の本意が、少しずつ自分の中で浮き彫りになっていく。
その事が嬉しい。だが、同時に見えてくる彼女の本質が、悲しい。
彼女に対して芽生えてくる、ある種の情愛を、望は自覚せざるえなかった。
そうして、望が薄々可符香の「病」の正体に気付き始めた頃。
439:真昼が雪 17
07/09/21 19:07:27 cpTwa3je
◇ ◆ ◇ ◆
「…風浦さん、それは」
カンカンカンカン――
踏み切りの音が、望の呆然とした声音を掻き消した。
電車が、轟音を立てて通り過ぎる。
その間際、踏み切りを挟んだ向こう側で、何か赤いものを抱えている少女の姿を見た。
カンカンカンカン――
電車が、轟音を立てて通り過ぎた。
見間違いと思いたかったが、電車が過ぎ去った後も、
少女は変らずに赤いものを抱えている。
自らの腕の中にあるものを眺めていた彼女は、
望に気付くと顔を上げて、笑顔で走り寄ってくる。
今日は休日で、学校は休みである。
この間の、千里とまといの猛攻によってボロボロになった着物の代わりを買い求める予定だった。
彼女は薄い桃色のカーディガンを羽織り、真っ白いスカートを翻して駆けてくる。
「先生、おはようございます」
変らぬ声音。変らぬ笑顔。
「風浦さん、それは…」
おそらく彼女に届かなかったであろう台詞を繰り返す。
「あぁ、この子ですか?」
そう言って事も無げに言いながら、自らの腕の中にある「この子」に視線を落とす可符香。
おそらくは小型の犬だったであろうソレは、今は辛うじて原型を留めているにすぎない。
薄い色彩が美しい可符香の私服は、胸元だけをどす黒く赤に染めていた。
無論、血塗れの犬を抱いているからである。
望は痛ましげに表情を曇らせる。
「――…どこで見つけたんですか?」
「ついさっき、そこでです」
「そうですか…車にでも、轢かれたんでしょうかね」
その犬を撥ねたであろう運転手に、
悪意があろうとなかろうと、あまり良い感情は抱けない。
よしんば撥ねてしまっても、そのまま放置するのはあまりにも酷いと思った。
「やだなぁ。轢き逃げなんてあるわけないじゃないですか」
不愉快を露にする望に、相変わらずの笑顔で言って、赤黒い人差し指をピっと立てる可符香。
440:真昼が雪 18
07/09/21 19:10:02 cpTwa3je
「これはただの―」
「いいです。いいですから、早くどこかで休ませてあげましょう」
後に続く言葉を聞くのが何となく怖くて、望は台詞を遮るように早口に捲くし立てた。
最後まで言えなかったのが不満なのか、可符香は少し唇を尖らせつつも、反論せずに頷き返す。
結局犬は可符香の提案で、ここから近いという事もあり、
あの並木道にある、桃色ガブリエルの根元に埋める事となった。
いつもの如く望を尾行していたまといも、流石に見て見ぬフリをするのは心苦しかったらしく、
自ら手伝いを申し出てきた。そんな彼女の申し出に素直に甘える事にして、
まといに学校からスコップを借りて来てもらい、望が穴を掘る事になる。
スコップと一緒に持ってきてもらったタオルで、犬の亡骸を包んだ。
優しく穴の底に横たわらせ、そっと柔らかな土をかけていく。
「ばいばい」
その様子をじっと見つめながら、可符香は小さな声で犬に別れを告げた。
そうして少々手間取ったものの、無事犬を埋葬し終えた頃には、昼を少しまわっていた。
名も知らぬ―あるいは名も無かったであろう犬に、三人は黙祷を捧げる。
「手向けの花は、必要なさそうですね」
額の汗を拭いつつ、聳える立派な桜の木を仰ぎ見る望。
釣られるように、まといと可符香も桃色ガブリエルを見上げた。
今はまだ開花の準備期間中らしく、美しい桃色の花を見る事は出来ない。
だが暖かな春を迎えれば、いつかのようにまた、
視界いっぱいに広がる花吹雪を降らすだろう。
「ところで…」
木から視線を、おずおずと可符香の胸元―赤黒く染まった汚れに移すまとい。
可符香は自分の服を見下ろしながら、何故か得意げに、
「大丈夫、模様と思えば違和感ゼロだから!」
「違和感ありまくりです」
胸を張って断言する可符香に、即座に突っ込みを入れる望。
服のデザインによっては通用したかもしれないが、生憎真っ白いのワンピースに、
生々しい赤色は浮きすぎである。下手をすれば警察を呼ばれかねない。
結局学校でジャージに着替える事となり、三人は休日だというのに学校を訪れた。
もっとも望は学校が自宅のようなものであるし、
まといも彼の観察に休日を費やす事などざらなのだが。
441:真昼が雪 19
07/09/21 19:11:19 cpTwa3je
一人の「ただいま」の声に、二人の「お邪魔します」が続く。
返ってくる「おかえり」の声は、二人分のものだった。
三人でぞろぞろと宿直室に上がり込むと、交を膝に抱えた小森が振り返る。
二人の手にはコントローラーが握られていた。
どうやらTVゲームに興じていたようだ。
小森は少し驚いたように目を丸くして、三人の顔を順番にそれぞれ見つめた。
イベント事のある日などは、生徒が望の所に集まる事も多々ある。
だがそういう時は、不法侵入と言っていいほど強引に生徒たちが上がり込み、妙な騒ぎに発展する事が殆どだ。
小森自身も、今でこそ望の許可を得て居るものの、最初の頃は勝手に上がり込んで家事をやっていた。
こうして正面から、普通の客人として2のへの女子が招かれるとは珍しい。
「お帰りなさい。あと、いらっしゃいませ」
ぺこりと可符香に頭を下げつつも、望の背後に寄り添うまといに対して、牽制するかのように眼つきを鋭くする。
だがまといはそれには取り合わず、疲れたように視線を逸らした。
その様子に肩透かしを食らい、キョトンとする小森。
「お邪魔しまーす」
そんな彼女らの様子に気付いているのかいないのか、
可符香はマイペースにヒラヒラと手を振って答え、誰に断るでもなくコタツに潜り込んだ。
既に着替えは済ませており、今は上下共に小森愛用のジャージと同じものを着ている。
コタツに入る際、脇に置いた一見手土産にも見える紙袋の中身は、残念ながら血で汚れた私服である。
「ただいま。やれやれ…些か疲れましたねぇ」
「あ。私、お茶淹れてくるね」
「すみません。お願いします」
交を降ろし、パタパタと台所へ向う小森の姿に頭を下げて、望は礼を言った。
小森の膝から降ろされた交は、やれやれと呟きながらこたつに潜り込む叔父を一瞥する。
ゲーム機の本体を消しながら、憮然とした口調で言い放った。
442:真昼が雪 20
07/09/21 19:15:09 cpTwa3je
「着物を買いに行ってたんじゃないのか。何で手ぶらなんだよ」
「そういえば、そうでした。何ででしょうね」
外出の目的をすっかり忘れていた。
ただ着物を買いに出ただけなのに、何故自分はスコップで穴など掘って帰って来たのだろう。
「少しね、色々あったの」
いつの間にやら望と同じようにこたつに入っていたまといが、説明を始める。
その顔色は優れない。いくら彼女でも、やはり気分の良い光景ではなかったようだ。
交は話を聞き終わると、関心するどころか呆れたように溜息を付き、一言。
「何やってんだ、お前」
「本当に何やってんでしょうね」
お盆に人数分の湯呑を載せた小森が、台所から戻ってくる。
「お疲れ様」
台所までまといの声は届いていたらしく、心から労いの言葉を掛けながら、お茶を並べていく小森。
さすがにそんな事の後では、いつも妙に挑発的なまといもげんなりしようというものだ。
今日くらいは、勘弁しておいてやろう。そんな思いを込めてまといを一瞥する。
二人は目が合うと、どちらともなく気まずげに目を逸らした。
その後、皆で少し遅い昼食をとる事となり、今度は女性陣全員が台所に立つ事となった。
三人の中で一番料理が得意なのは小森だ。必然的に彼女を中心に調理が行われる。
いつもならここで負けじと自己主張するであろうまといも、気分が滅入っているのか大人しく小森の指示に従った。
そうして出来上がったのはメニューは、食欲がなくとも食べられるもので、メニューを考えた小森の気遣いが感じ取れる。
食事中は自然と犬の話を避け、他愛無い話に花を咲かせる四人。
いつもと変らぬ様子で食べ進める可符香。
他人の作った食事を残す事に抵抗があるのか、少しだけ無理をしつつ、どうにか完食するまとい。
小森は食欲が無さそうなまといと望の様子を気にしている。
交は我関せずと、にの一番に食べ終えた。やや早食いではあるが、これでも彼なりにちゃんと味わって食べている。
そんな中で、望だけはどうしても食が進まず、半分どころか三分の一も胃に収められなかった。
443:真昼が雪 21
07/09/21 19:20:34 cpTwa3je
「先生は…仕方ないですよ。気にしないで下さい」
望は犬に直接触れていた時間が一番長い。気分が優れないのも仕方ない。
せっかくの食事を残す事をすまなそうに詫びる望に、まといはそっとフォローを入れた。
今回ばかりは皆同意して、誰も彼を責めるような事はしなかった。
しばらくして、小森が席を立つ。
最近は千恵の所でカウンセリングを受けていて、
定時にはカウンセリング室に赴かなければならないらしい。
小森が宿直室を出ると、それを切欠に、可符香も帰宅すると言い出した。
「なら私も、そろそろ本当に着物の代えを買いに行きますか」
名残惜しそうにこたつを出て、望もその後に続く。
一言二言交わしながら、宿直室を出て行く二人。
まといはというと、望と一緒に部屋を出る事はせず、
望の背に「いってらっしゃい」と声を掛けるのみで、追う事はしなかった。
時間差で追いかけるのかと思いきや、その気配もない。
「一緒に出ないのか?」
問う交に、深々と溜息を付くまとい。
「いいの。ちょっと、疲れちゃって」
どうやらまだ気分が悪いらしく、その顔色は青白い。
「キツかったんなら、無理して手伝わなくてもよかっただろ」
「そうも行かないでしょ」
交はまといに良心が在った事に驚きを隠せなかった。
何せ彼がまといに持つ印象は、望の背後霊…というより、望にとり憑いた悪霊といった風だったからだ。
そんな交の様子を意に介さず、グッタリとこたつに突っ伏すまとい。
――望と女性徒が二人きりである事への危機感がないわけではない。
「…大丈夫よ。あの子なら、特に心配する事もないもの」
一緒に居るのが千里や小森ならば、体調不良をおしてでも望に付いていっただろう。
だがまといは、可符香に対してあまり敵愾心を抱いてはいなかった。
というより、可符香が誰かに敵愾心を抱かれる行動をしないのだ。
望争奪戦にも、他の女子からすれば参加していないように見える。
先日の教室での一件は、後々ちゃんと誤解は解かれたのでノーカウント。
保健室での可符香の台詞は明確な好意を表していたが、
可符香はあの時、まといが居ない事を確認した上でその発言をしたのだ。ぬかりは無い。
そんな事など知りもしないまといは、すっかりふ抜けたように目を閉じた。
「ふぅん」
何が大丈夫なのか交には理解出来なかったが、とりあえず気の無い返事を返しておく。
(気分悪いなら、保健室か医者に行けよ…)
毒づいた言葉は、胸の内だけに留めておいた。
444:名無しさん@ピンキー
07/09/21 19:27:52 cpTwa3je
また盛り上がりもなく一区切り。いつエロまで行くんだこれ。
「流石にこれは無駄に長すぎるだろ」と注意してくれれば、
いつでも自重しますんで遠慮なく言ってくださいませ。
>>358
まさかエロパロスレで知ってる人が居るとは思いませんでしたい。
元ネタは確かにそれですが…何といいますか、元ネタからして自作なんで
一応パクりって事にはなってないと思う、多分。
ニコ厨氏ねと言われそうなのでこのへんで~…。
445:名無しさん@ピンキー
07/09/21 19:30:04 IuI6Uew1
GJ!!
続きが気になる!!
446:名無しさん@ピンキー
07/09/21 19:40:05 u1PyB6ur
そろそろ◆n6w50rPfKwさんの新作を見てみたいんだがな。
447:名無しさん@ピンキー
07/09/21 20:49:49 AV+BIc/E
>>444GJです。
引き込まれるような文章。うまいなー
448:前305
07/09/21 21:35:16 QF+AeAOh
お疲れ様です。
すごい長編ラッシュ・・・・しかも、みなさん文章が・・・・・上手いです。
えーと、真夜ssが書き終わったので、投下させて下さい。
ちょうど、いいかんじに日陰ssになりそうなタイミングなのでw
短編ssになります。
・・・・・・可愛く書けてればイイナと思いつつ投下。
449:真夜:私と好きなもの 1/4
07/09/21 21:36:44 QF+AeAOh
「・・・ふう。ここも、異常は無いようですね。」
先生は化学実験教室の扉を閉めてつぶやいた。
手に持ったノートの表紙には、手書きで「死に るるぶ」と表されている。
先生はページをめくり、付箋をつけてあるページを出す。
「・・・・・学校の中では・・・・あとは、音楽室で終わりですね。うん。今日も、私の厳選したスポットは異常ないようですね。」
独り言をつぶやき、そろそろ夕暮れのせまった廊下を歩いてゆく。
特別教室の多いこちらの校舎は、人の気配は無く、静まりかえっている。
「・・・おや?」
視線の先に、音楽室のドアを目にした先生は、歩みを止めた。
そこでは、女生徒が一人、周りの様子を伺うようにキョロキョロと首を動かしていた。
先生は、とっさに、そばにあった消火栓の影に身を隠す。
(・・・あれは、うちのクラスの・・・三珠さん・・・ですよね・・・・・)
見つからないように、様子を伺っていると、彼女は袖口から短めのバールのようなものを取り出して、ドアの隙間に差し込む。
(・・・・え・・・・・? ・・・・まさか?)
もともと古い作りのドアは、隙間から数回こじっただけであっさりと鍵が外れ、ドアが開いた。
(・・・不法侵入!? しかも、そこは私が目をつけているスポットですよ!)
驚いている間に、真夜はすばやく音楽室に入るとドアを閉めた。
先生は消火栓の影から出て、ドアのそばまで行く。
(・・・・いや、まてよ・・・。単に忘れ物をしただけかもしれない。・・・・無口な子みたいですし、鍵を貸してくれと言い出せなかった
のかも知れませんね・・・・・)
先生はハッと気が付いたようにそう考えた。
(・・・・・決め付けるのは良くありません。とりあえず様子を・・・・・)
そう決めると、先生はそっとドアを開けて、教室へと入っていった。
450:真夜:私と好きなもの 2/4
07/09/21 21:40:47 QF+AeAOh
音楽室の中は、防音のため2重扉になっている。
物音を立てないように外扉を閉めると、先生は内扉の引き戸を少し開けて、隙間から中を覗く。
少し離れた所にあるピアノの下に真夜がいた。
(手に持っているのは・・・・・ハサミですかね?)
真夜はピアノの下で膝をついて、その裏側をハサミで擦るような仕草を繰り返している。
木を引っ掻くようなガリガリといった音が微かに聞こえた。
やがて、真夜は満足げに口元に笑みを浮かべて、ピアノの下から出てくる。
(イタズラ・・・・・・ですか?)
先生が首をひねっているうちに、真夜はピアノのカバーを外し、椅子に座って鍵盤を開いた。
音を確かめるように、いくつかの鍵盤を爪弾き、真夜は嬉しそうに微笑んだ。
きつい目付きは相変わらずだったが、喜んでいるのは分かった。
(なにやら楽しげな感じで・・・・・)
やがて真夜は、少し呼吸を整えてから、鍵盤の上に指を走らせ出した。
「・・・・・ほお・・・・」
先生は思わず溜め息をもらす。
実際、真夜の演奏は見事なもので、彼女の指が鍵盤の上で踊ると共に、心地よい旋律が紡ぎ出されてゆく。
(・・・・・・なるほど、こっそりとピアノを弾きたかったという訳ですか。しおらしい子じゃないですか。)
先生は少し笑みを浮かべると、もう少しよく見ようと身をよじる。
バササッ!
抱えていたノートが落ちる音がした。
真夜の演奏がピタッと止む。
(あちゃー・・・・・・)
引き戸の隙間に先生の姿を見つけた真夜と目があってしまい、先生は焦ってノートを拾う。
「・・・・・・や・・・いやー・・・・上手に演奏されますね・・・」
先生は頭などを掻きながら、戸を開け教室に足を踏み入れた。
愛想笑いと苦笑いの中間くらいの笑みを浮かべ、真夜の近くまで行く。
真夜は先生に視線を向けたまま、指は演奏中の状態で硬直していた。
「・・・・すみません。驚かせるつもりはなかったんですが・・・・・・・。」
真夜はじっと先生を見る。
先生は気まずそうに視線をそらした。
「ええっと・・・実は先生も、子供のころピアノやってまして。・・・・まあ、習わされたというか、たしなみ程度でしたがね・・・」
そう言って、少し苦笑を浮かべた。
「・・・三珠さんは、ピアノがお好きなんですねぇ。かなり練習されたのでしょう? いや、お世辞抜きで、とってもよかったですよ!」
先生の言葉に、表情は変えないまま、真夜の頬が少し赤くなったように見えた。
突然、ガタン! と椅子を蹴って真夜は立ち上がる。
「・・・・どうしました?」
真夜は椅子の横に移動して、無言のままピアノを手で指し示す。
「・・・・・もしや・・・・・、私にも弾いてみてくれと・・・言う事ですか?」
真夜はじっと先生を見つめている。
静かな音楽室に、時計の音だけが聞こえている。
「・・・・・えー・・・・まあ・・・・少しだけなら、まだ弾けるかもしれませんが・・・・・・・上手くはないですよ?」
無言のまま真夜にうなずかれ、先生は頭を掻いて椅子に座った。
「じゃあ・・・・・・先ほど三珠さんが弾かれていた曲を私も弾いてみましょうか。」
先生の言葉に真夜はピクッと体を震わせた。
「・・・・・・失敗しても怒らないでくださいよ? 先生、下手ですからね。」
何度も念を押して、先生もピアノを弾き始める。
451:真夜:私と好きなもの 3/4
07/09/21 21:42:07 QF+AeAOh
少したどたどしいメロディで、同じ曲が爪弾かれてゆく。
真夜は、じっと、先生の指先と横顔を見つめている。
少し指先が震えているようにみえた。
「・・・・ああ・・・やはり・・・・三珠さんの様にはいきませんねえ・・・・・」
ピアノを弾きながら先生がぽつりとつぶやくと、真夜は目を見開いた。
しゅるっ・・・・と、袖の中からバールが手の中に滑り落ち、力強く握り締めた。
ガツッ!! バジャャァァァァアアアンンッッ!!!
力いっぱい振り回したバールは先生の後頭部を打ち据え、先生は顔面から鍵盤に突っ込み派手な音が響く。
真夜は上気した顔で、先生の後頭部に膨らんだタンコブを見ている。
「・・・・・な・・・・! 何が起きたのですかぁ!?」
先生は頭を振りながら上体を起こし、真夜を見た。
真夜はバールを握ったまま、微笑を浮かべて先生を見ている。
「・・・・三珠・・・さん?」
先生は、ぽつりとつぶやいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「犯人な訳がない! あまりにも、証拠が揃いすぎています!」
天井を仰ぎ、こぶしを握り締めてそう叫ぶ。
「そうです! ここは旧校舎の音楽室・・・・・きっと怪奇現象の類いですね!」
そう結論付けると、真夜の方を振り向く。
「あなたは無事のようですね。しかし、ここは危険な予感がします! 退散しましょう!」
先生は立ち上がって宣言した。
「さあ! っと、そんな物を持っているのは危ないですよ!?」
言うが早いか、真夜の手からバールを取る。
真夜は一瞬、ぽかんとしたが、慌てて先生のバールを持った手を掴んだ。
「・・・三珠さん? 護身用なのは分かりますが、危ないです!」
そう言って、手を高く上げるが真夜は離さなかった。
背伸びをした状態で、その手首を掴んでいる。
「『転ばぬ先の杖が刺さる』と、言いましてね。 予防しすぎるのも考え物で・・・・・・・」
真夜は答えず、空いている方の手を伸ばそうとするが、それに気がついた先生がその手も押さえた。
力比べでもしているような、妙な格好になり、真夜はバランスを崩し、後ろに押される形になってしまう。
先生もそれに釣られて、真夜を押してしまう。
ガタッ!
真夜の背中が窓に当たって止まった。
「・・・・あっと・・・!」
先生は思わず真夜にぶつかってしまった。
真夜はビクッ!と目を閉じて少しうつむいた。
(・・・・・・・あ・・・・・・・・・・)
先生は思わず真夜の顔を見つめる。
窓から差し込む夕日が無ければ、その頬が赤く染まっていた事が分かっただろう。
閉じた切れ長の瞳。
そのまぶたからは、夕日に照らされ、長いまつげが頬に影を落としている。
普段の鋭い視線からは想像しなかったその姿を間近で見つめ、先生は思わず見とれていた。
真夜が薄目を開けて自分を見ている事に気がつき、先生は慌てた。
「・・・・・・・い・・・・いや・・・・その。綺麗なまつげをしていますよ、三珠さん。」
うっかりそんな言葉が口から飛び出した。
その言葉を聞き、真夜は慌てて目を閉じ顔をそむけた。
夕日に染まった教室でも判るほど、真夜の横顔は朱色に染まっている。
452:真夜:私と好きなもの 4/4
07/09/21 21:44:54 QF+AeAOh
「・・・・あっ!? す、すみませ・・・・・・・・」
ガララッ!!
「何をしているんですか? 先生?」
引き戸の開くく音と共に現われたのは、智恵先生だった。
入り口に立ったまま、こちらに冷ややかな視線を送ってくる。
先生はその場に凍りつき、自分の状況を確認する。
・薄暗い音楽室に、担当クラスの女生徒と二人きり。
・女生徒の両手を押さえ、しかも窓際に迫っている。
・その手に持つ物はバール(凶器)
・女生徒は顔をそむけ、嫌がっている(ように見える)
「・・・・し、証拠過多ですからぁぁぁぁっ!!」
絶叫する先生を無視して、智恵先生はツカツカと歩み寄ってくる。
「物音がしたから来てみたら・・・・・糸色先生が、自分の生徒に手を出すなんて。」
「ち、ちがいます、コレは・・・・」
抗議しようとした先生の手に、いつの間にか智恵先生が手錠をかけていた。
「言い訳は反省室で聞きます。」
「ちょ!? 智恵先生なぜ手錠を持ちあるいて!? じゃなくて! 反省室って・・・・・・!」
その声には答えず、智恵先生は、引きずるようにして先生を連行してゆく。
「・・・いやだぁぁぁ!! セクハラ教師で告訴されるのはいやだぁぁぁぁ!! 皆で私を白い目で・・・・・・・」
先生の叫び声は小さくなってゆき、やがて聞こえなくなった。
真夜は無言で先生を見送っていたが、やがて先生が落としていったバールを拾い上げる。
バールを両手でそっと抱きかかえ、真夜は微笑んだ。
やがて、余韻に浸るようにしばらく抱えていたバールを袖口にしまうと、真夜はスタスタと音楽室を出ようとした。
しかし出口をくぐろうとした所で足を止め、何事か考えている。
と、サッときびすを返し、すばやくピアノの下に潜り込んだ。
ポケットからハサミを取り出して、嬉しそうな表情を浮かべると、再びピアノの裏側をガリガリと引っ掻く。
しばらくして、手を止め、その場所を見て満足そうに笑う。
真夜の頬が、ぽぉっ と赤くなった。
まよ
と
せんせい
少し丸みのある文字で、掘り込まれていた。
真夜は笑みを浮かべたままで、ささっと音楽室を飛び出す。
ぱたぱたと機嫌のよさそうな足音が遠ざかっていった。
「世間に叩かれるぅぅぅ!!!」
暗くなった校内には、どこかの反省室から聞こえてくる、先生の叫び声だけがこだましていた。
453:前305
07/09/21 22:10:46 QF+AeAOh
お粗末でした。
投下おわってから規制が・・・・・ww
読んでくれた人いましたら、ありがとうです。
454:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:17:36 DXxU3uKk
ハサミでそんなかわいい事を掘っていたのか!
三珠に初めて萌えた
455:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:22:55 e5V27Hki
>>448さんGJです!!
最近神が多過ぎで全て見れないのですが、マヨと聞いて飛んで来ました。
可愛すぎます!!SSにするには正直難しいキャラと思うので、尊敬します!!(*´д`*)
456:名無しさん@ピンキー
07/09/21 22:48:07 v19bXw+o
>前305氏
最近本格的にマヨラーデビューした者ですが、畜生、GJとしか言いようがない
バールまで使って忍び込んで、そんな可愛らしいことを………これが惚れずにいられましょうか
457:名無しさん@ピンキー
07/09/21 23:15:17 pM3lI+wS
>>430-433
GJ! 死にたくなりましたw
>前305氏
萌え死にました
458:前スレ851
07/09/22 00:01:02 mgzufCY+
>>457
どうも。私も読み返してみて、死にたくなりました。
発想暗いですね・・・でも、こういうの好きみたいです、自分としては。
パロ小説を始めて何本か書いてみたけど、自分で考えている以上にストーリー
とかの引き出しや発想が少ないし、表現もすぐステレオタイプな繰り返しにな
ちゃいますね。書いてみて初めて分かった・・・。才能ないわ・・・。
みなさん凄いです。
430はお分かりと思いますが、年忘れのエピに影響されて思いついたのですが、
今調べてみると千里の肌年齢は28歳なんですね。なんで27歳と思い込んでい
たのだろう。28歳ならちょうど10年、と出来たのに・・・まあ、いいや。
459:名無しさん@ピンキー
07/09/22 07:50:19 pJdrHQ6/
>>444
ちょ、ま、うP主さんでしたか!
マイりストに入れて1日1回は見てます。
修正版も見てます。
ああ、これは期待せざるを得ない…けど、やっぱり泣けってことですかぁぁぁぁあ!
460:名無しさん@ピンキー
07/09/22 09:10:46 G6hXZY3S
>>458
漏れも27歳だと勘違いして憶えてたw 切ねーよぉ・・・
>>448
もみ合ってるくだりで、「このまま濡れ場に突入できんじゃん!?」
と思ってしまった漏れは、イロイロ終わってるorz
まさかマヨに萌えるなんて(*´д`)
確かにまつげがカワええ。<目を閉じたら美少女>って属性とは気がつかんかった!GJ!
461:名無しさん@ピンキー
07/09/22 10:46:03 fm6Jg5LU
よ、よんひゃくきろばいとを超え・・・る・・・?
462:名無しさん@ピンキー
07/09/22 10:49:34 Dr+sONz/
>>1がスレ立ててからまだ二週間たってないんだぜ
463:名無しさん@ピンキー
07/09/22 11:47:50 G1fS1FqB
ええい、鬱カフカの続きはまだか!!
464:名無しさん@ピンキー
07/09/22 12:50:20 VEEhwa7B
>>341氏=うぷ主と知った時点でもうすでに「真昼が雪」は涙なしには読めなくなった
465:名無しさん@ピンキー
07/09/22 13:20:43 G6hXZY3S
あと予告にあったのは、
>>146さんの可符香SS 終章
>>272さんの長編SS 続き
>>220さんの三珠SS
>>280さんの大草さんSS
>>283さんのあびるSS
>>285さんの兄妹愛SS
>>287さんのマリアSS続き(忘れたころ)
だったかね? すげー量だw wktk
スレの容量が残り103kくらいとして、全角1文字=2バイトだったけ? だと、残り、ザッと51000文字分か?
146さんの可符香中編が14kくらいで、272さんの前回の投下が16kくらい。
平均15kくらいとすれば、マリアss以外が一度に投下されてもへいきかな?
ということで、全裸待機の準備ww
466:名無しさん@ピンキー
07/09/22 13:21:06 zAwuGhKy
マジであのうp主なのか
あれはもう毎日観てるくらい大好きなんだぜ
467:名無しさん@ピンキー
07/09/22 14:22:33 JQtuU8qh
これもアニメのおかげか
468:名無しさん@ピンキー
07/09/22 17:38:17 AeTL+wLp
なんかもう毎日wktkが止まらないんですけど
469:430
07/09/22 17:53:02 2UJwpGCd
な、なんか、スレがすごいことになってるので、ラッシュに紛れてみる。
先生×可符香+久藤君×倫ちゃんで、元ネタは、人格ポータビリティです。
困ったときに使うと人気が取れるラブコメ的手法…のはずなのに
全然ラブコメになっていないという…orz
470:交換 1/8
07/09/22 17:53:39 2UJwpGCd
「…いったい全体、どうしてくれるんですか。」
街角にある急な階段の下。
望は、この上なく不機嫌な顔でクラスの女生徒を睨みつけていた。
その女生徒は、望が心から愛しているはずの少女、風浦可符香。
一方、可符香はふてくされたようにそっぽをむいていた。
何故か、可符香の横には倫がそっと寄り添っていた。
そして、望の隣ではこれまた何故か、
久藤准が困った顔をして、望を見上げていた。
望は、再び押し殺した声で、可符香に向かっていった。
「聞いているんですか、久藤君。」
「聞こえてますよ、何度も言わなくたって。」
久藤君、と呼ばれた少女はうんざりした顔で望を振り返った。
ことの起こりは本日の放課後。
可符香と望がのんびりと街を散歩していたところに、
倫とデートをしていた准が、階段で足を踏み外し、転がり落ちてきた。
そして、見事に可符香とぶつかって、その中身が入れ替わってしまったというわけだ。
「ここでは、私も以前、木村さんと入れ替わった(というより追い出された)ことが
ありますし、何かの磁力が働いているとしか思えませんね…。」
望が階段を見上げてため息をついた。
准の姿の可符香が、うーん、と腕を組んだ。
「この前に先生が入れ替わっちゃった後、みんなでいろいろ試したんですよ。
結局、2人で抱き合って飛び降りるのが、一番、成功率が高かったかなぁ。」
望の顔色が変わる。
「抱きあ……許しませんよ、そんなの!!」
「だって、じゃあ、どうするんですか!!」
471:交換 2/8
07/09/22 17:54:36 2UJwpGCd
言い争う可符香(in准)と望を見て、倫は頭を振った。
「ああ、もう、お兄様ったら…。」
准(in可符香)は、少し不服そうに口を尖らせた。
「…倫ちゃんは、僕と杏ちゃんが抱き合っても平気なの?」
「馬鹿なことを。心のこもっていない抱擁など、何の痛痒も感じん。
…私は、そんなこと、心配する必要などないのだろ?」
にっこりと問い返されて、准は可符香の顔で赤くなった。
なにやらほのぼのした雰囲気の2人に、望の鋭い声が飛ぶ。
「そこ!ラブコメしてるんじゃありませんよ!」
「…ラブコメしてたのは、お兄様の方じゃありませんか…。」
倫は小さい声で呟いた。
「で、どうするんですか、先生。僕と杏ちゃんが抱き合うのが駄目って
言うんだったら、ずっと僕らこのままですか?」
准の言葉に、望がぐっと言葉に詰まる。
「それに…僕、さっきからトイレに行きたいんですけど…。」
――間。
「ちょっと、准君、それって……やだ!」
「そんなことしてご覧なさい、あなた、明日から出席名簿に載ってないですよ!」
「だったら、どうするんですか、ここで漏らしちゃってもいいんですか!?」
かなりレベルの低い言い争いが続いた後、望が悲壮な顔で決断を下した。
「…分かりました。久藤君、あなた、目隠しをしなさい。そして、倫。
あなたが久藤君について行って、彼が可符香の体に触らないよう、
用を足すのを手伝ってあげてください。」
「なっ…!」
倫は絶句した。
しかし、准を見ると、どうやら事態はかなり切羽詰っているようだ。
「分かりましたわ…お兄様、この貸しは大きいですわよ。」
倫は、しぶしぶと、目隠しをした准を、近くの公衆トイレに連れて行った。
472:交換 3/8
07/09/22 17:55:26 2UJwpGCd
しばらく後、ぐったりとした倫が准を連れて戻ってきた。
「こんな心身ともに疲れることは、二度とごめんですわ…。」
そう言うと、その場にしゃがみこんでしまった。
「先生。やっぱり、私と准君で一回飛び降りるしかないですよ。」
「そうですよ、僕、この先、風呂にも入れないとか、嫌ですからね。」
「…風呂ですって…!?」
望の声が裏返る。
ちらりと倫を見たが、倫にこれ以上の協力を頼むのは無理そうだった。
望はしばらく腕を組んで考え込んでいたが、やがて、顔を上げた。
「分かりました。それじゃあ、こうしましょう。
まず、久藤君に可符香の体の中から出て行ってもらって、
私が可符香の中に入ります。」
「「「…は?」」」
「ですから、まずはじめに、私と、可符香の姿の久藤君が一緒に落ちます。
その後、私の姿の久藤君と可符香に、一緒に落ちてもらいます。
それで、久藤君はもとの姿に戻るでしょう。
あとは、私と可符香が入れ替わればいいんです。」
滔々と説明する望に、可符香と准は、うんざりとした顔を見合わせた。
「…なんで、わざわざそんな面倒臭いことを…。」
「よっぽど、僕と杏ちゃんが抱き合うのが嫌なんだろうね、先生…。」
「図書室でのことが、トラウマになってるのかも…。」
「はい、決まったら善は急げですよ!
またトイレに行きたくなる前に、片付けてしまいましょう。」
望と准は、階段を上ると、お互いに向き合った。
「可符香と抱き合うといっても、中身があなただと思うと非常に不愉快ですね。」
「…先生なんか、少なくとも僕の外身は杏ちゃんなんだからいいじゃないですか。
僕なんか、相手は中身も外身も先生なのに抱き合わなきゃいけないんですよ。」
「……。いつかあなたとは本気でケリをつけたいと思いますよ。」
473:交換 4/8
07/09/22 17:56:14 2UJwpGCd
階段の上で睨み合っている2人に、可符香が下から声をかけた。
「先生!准君!何やってるんですか!
今度は、私がトイレに行きたくなっちゃいますよ!」
望と准は、もう一度不機嫌な顔を見合わせると、しぶしぶ、双方の体に腕を回した。
「いいですか、久藤君。」
「とっとと降りましょう、先生。」
そう言うと、2人は階段の上から飛び降りた。
望は、飛び降りる瞬間、可符香の体を自分の体で包み込んだ。
中身は生意気な小僧であっても、体自体は大切な恋人のものである。
決して、怪我などさせてはならない。
――どすっ!
望は、体にものすごい衝撃を感じ、次の瞬間目の前が暗くなった。
「…せい、先生!?」
ハスキーな少年の声が、自分に呼びかけている。
「…っ。」
望は、起き上がろうとして、自分がセーラー服を着ていることに気が付いた。
――どうやら、成功したようですね。
顔を上げると、心配そうな顔をした准の顔が目の前にあった。
「…。」
その中身が、自分の恋人だと認識するまでにしばらくの時間がかかった。
「あー、と。大丈夫、あなたの体は、傷1つありませんよ。」
複雑な笑顔で可符香(in准)に向かって微笑んでみせる。
と、隣を見ると、青い顔をした自分が倒れていた。
「准、准、しっかりしろ!」
倫が涙声で自分の体を揺さぶっている。
どうやら、先ほどの衝撃からすると、自分の体はもろに地面に叩きつけられたらしい。
474:交換 5/8
07/09/22 17:57:03 2UJwpGCd
「…ん。」
准(in望)がうっすらと目を開けた。
「准!」
准はのろのろと起き上がると頭をさすった。
「いてて…。先生、受身くらい取ってくださいよ…。」
ぶつぶつと文句を言う。
「うるさいですね。自分の体をどう扱おうと私の勝手ですよ。」
「怪我をするのは勝手ですけど、当面、その痛みを感じるのは僕なんですからね。」
そういいながら、准(in望)は、体のあちこちをなでさする。
「准…良かった…。」
倫が、震える声で、准に寄り添った。
准は、倫の目の端に涙が滲んでいるのを見てはっとした顔をした。
「倫ちゃん…そんなに、心配してくれたの?」
「…。」
倫が赤くなって横を向いた。
「倫ちゃん…ああ、もう、君って何て可愛いんだ!」
准は、いきなり倫を抱きしめると、熱烈に口付けた。
「ちょ…っ!」
望が血相を変えて、2人を引き離そうと体を乗り出す。
と、背後から、息を飲む声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには奈美、あびる、千里の3人が立っていた。
「なんで、あなた方がここに…。」
望の呟きをかき消すかのように、奈美が大声をあげた。
「先生…!?兄妹でいったい何やってるんですか!?」
望は青ざめた。
確かに、傍目からは、望が倫を抱きしめ口付けているとしか見えない。
「…先生、不潔。」
呟くあびるの横で、千里が無言でバットを振りかざした。
475:交換 6/8
07/09/22 17:57:52 2UJwpGCd
結局、千里が暴れたために誤解を解く間もなく3人が立ち去った後、
望は准に詰め寄った。
「…なんて事をしてくれたんですか!?久藤君!!」
「せ、先生、それよりも、僕、本当に死にそうなんですけど…。」
准は、千里にぼこぼこに殴られて頭から血をだらだら流していた。
倫が、その横で、必死でハンカチで血をぬぐっている。
「情けないですね。それくらいのこと、日常茶飯事ですよ。我慢しなさい。」
「…先生って、実は思ったよりもハードな人生を生きてるんですね…。」
妙なところで感心している准の前に、望はスカートを翻して仁王立ちになった。
「さあ、今度は、久藤君に私の体の中から出て行ってもらいましょうかね。」
「…出て行けって…自分が、交換を申し出たくせに…。」
「今度は、その体に可符香が入るんですから、きちんと体を庇って落ちてくださいね。」
「それって、怪我する体も痛い思いをするのも、僕になるってことですよね。」
「当たり前じゃないですか。それが何か?」
「…なんでもありません。」
「准、余り無理しなくていいぞ…。」
倫は望に聞こえないよう、小さい声で囁いた。
階段の坂の上。
可符香(in准)は、准(in望)の腕の中で、ぎこちなさそうに身じろぎした。
慣れ親しんだ恋人の腕とは言え、中身は幼馴染、しかも自分はその彼の体、
という状況に、どうも違和感があるらしい。
望は望で、これ以上ないくらいのしかめ面で2人を見上げていた。
「さ、てきぱきと事務的にやっちゃってください。」
いくら体は自分のものであっても、准と可符香が抱き合うのは気に入らない。
倫も望の隣で、多少複雑な顔をしていた。
と、そこに、再び後ろから息を飲む声がした。
「せ、先生!?久藤君!!??」
振り向くと、そこには、藤吉晴美が立っていた。
476:交換 7/8
07/09/22 17:58:35 2UJwpGCd
望は頭を抱えた。
――なんで、よりによって一番まずい子に目撃されるんですかね…。
「やっぱり…やっぱり、久藤君と先生はリアルBLなんですね!!」
坂の上で抱き合う2人を見て、嬉しそうに目を輝かせる晴美に、
その場にいる全員が声を合わせて叫んだ。
「「「「ちがーーーーう!!!」」」」
しかし、晴美には、その叫びが全く聞こえていないようで、
「新刊、冬の祭典に間に合うかなあ…。」
と独りごとを言いながら、スキップでその場を立ち去った。
望は、引きつった笑顔で准を振り仰いだ。
「…近親相姦の次は、生徒とリアルBL、ですか…。
私、いったい、学校にいられるんですかね…。」
「と、とりあえず、僕だけでも早く元に戻りましょう…!」
准と可符香の入れ替わりは、その後、スムーズに行なわれた。
倫が、
「准!これで、全部お前に戻ったんだな!」
と嬉しそうに准に飛びつく。
その横では望(in可符香)が可符香(in望)を抱き起こしていた。
「大丈夫ですか?どこも痛くないですか?」
「千里ちゃんに殴られた跡がずきずきしますけど…あとは大丈夫ですよ、先生。」
可符香は起き上がると、逆に望を抱きしめ返した。
「あ…。」
今まで体験したことのない感覚に、望は小さく声を上げた。
小さなこの体が、すっぽりと「自分」に包み込まれる感じが、とても心地よい。
――可符香は、いつも、こんな風に感じてくれてるんでしょうか…。
見上げると、可符香(in望)も、赤くなっていた。
「な、なんか、変な感じ…。自分の体なのに、こうやってぎゅってすると、
愛しい気持ちが溢れてくるみたいで…自分相手に、ヘンですね。」
477:交換 8/8
07/09/22 17:59:26 2UJwpGCd
望は、緑がかった自分の目を覗き込んだ。
「お互い、相手の自分に対する愛情を、身をもって確認できるって言うのは、
なかなかいいですね…。」
そういうと、にやりと笑った。
「どうです?このままの姿で、より深い愛情を確認するって言うのは。」
「え…。」
可符香が一瞬きょとんとした顔をして、次の瞬間真っ赤になった。
「や、やですよ、そんなアブノーマルなの!!」
「めったにできない体験だと思いますよ?」
顎に手を当てて、にやついている望(in可符香)と、
赤く頬を染めて体をよじらせる可符香(in望)。
――端から見ると、かなり奇怪な光景であった。
と、そこに、携帯を持った音無芽留が通りかかった。
芽留は、赤い顔で身をよじり恥らっている「望」の姿を見て、
恐ろしいものを見たかのように固まった。
次の瞬間、芽留は、「望」の姿を携帯で激写すると、
稲妻のようにメールを打ちながら、その場から立ち去った。
准と倫は、その一部始終を端から見ていたが、准がぽつりと呟いた。
「…僕、だいたい、あのメールの内容、想像できるんだけど…。」
「…私もだ。想像するな。頭が痛い。」
芽留に全く気が付かずにいちゃこらしている2人を見ながら、倫と准は、
「…さて、我々は帰るとするか…。」
「そうだね、…何だか、今日は疲れたよ……。」
ため息をつきつつ、その場を後にしたのだった。
望の明日は、神のみぞ知る…。
478:430
07/09/22 18:01:36 2UJwpGCd
お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
で、この後の先生(in可符香)×可符香(in先生)のエロも一応書いたのですが、
結局、お互いが相手の体を使って自分の体と…ということになるわけで、
出来上がりを読んで、自分が微妙に引いてしまったので、本編(?)と分けました。
そんなん落とすな!と言われるかもしれませんが、まあ、スレの流れも速いし…。
という訳で、以下は、心にデッドスペースのある方だけ、お読み下さい…。
479:交換の後 1/6
07/09/22 18:03:35 2UJwpGCd
結局、階段坂の下での攻防は、望が勝利したらしい。
可符香と望は、お互いの体を交換したままの姿で、部屋で向かい合っていた。
可符香が、望の体を、もじ、とよじらせる。
「なんか…どうすればいいか、分からないですよ、先生…。」
それは望も同じだった。
「いつもは、私は、どうやって始めてましたかね…。」
「…先生は、いつも、キスしてくれますよ。」
「…。」
望は黙り込んだ。
自分の顔にキスされるのは、余り楽しくない。
「キスの次は?」
「…そんなの…。いつも夢中で、覚えてないです…。」
再び、2人の間に沈黙が落ちる。
――これは、可符香を先に点火してしまった方が早そうですね。
「とりあえず、服を脱ぎましょうか。」
「え…。」
お互い、慣れない仕組みにもたもたしながら服を脱ぐ。
可符香は、一糸まとわぬ自分の姿を見て顔を赤らめると目をそらせた。
「さて…。」
望は、可符香のものである細い指を望自身に向かって伸ばした。
「まず、あなたにその気になってもらわないと…いいですか?」
勝手知ったる自分の分身。
どこをどうやれば良いのかは知り尽くしている。
果たして、望が動かす可符香の指に、あっという間にそれは固く立ち上がった。
ふと見上げると、紅潮し、息を荒げた自分の顔がある。
「せ、先生…。」
低い声は、興奮のためかかすれていた。
480:交換の後 2/6
07/09/22 18:04:24 2UJwpGCd
しかし、望は、逆にどんどん気持ちが萎えていくのを感じた。
――あまり、見たくない光景ですね…。
それはそうだろう。
あくまでもノーマルな男として、頬を染め、自身を昂ぶらせた自分の姿など
見ていて決して楽しいものではない。
――やめますか…。
と、
「先生…どうしよう…私、これ、我慢できない…!」
可符香が、震えながら、望に抱きついてきた。
――どうやら可符香も、男の生理の切なさを分かってくれたようですね。
と冷静に分析する自分がいる傍ら、
可符香が耳元で漏らす喘ぎ声に、体の芯が潤んできていることに気が付いた。
――これは…なぜ…。
自分の声だというのに、こんな反応が起きるのは、その中身が可符香だからか。
それとも、この体が、自然と自分の声に反応するようになってしまっているのか。
――後の方だと嬉しいんですが…。
体の奥に感じ始めた疼きに、望は心を決めた。
体に回された「自分」の手を取ると、それをそっと今の自分の白い胸の上に導いた。
「そのまま突き進まれては、あなたの体が壊れてしまいますから…。
私を受け入れられるよう、この体に潤いを与えてやってください。」
可符香が望のものである頬をさらに赤く染めた。
「え、って、ど、どうすれば…。」
「あなたが、私にしてもらって気持ち良いと思うことをすればいいんですよ。」
望がそう言って微笑むと、可符香は、少し考えていたようだったが、
やがて、そっと望に…自分の体に、手を差し伸べた。
481:交換の後 3/6
07/09/22 18:05:07 2UJwpGCd
狭い部屋に、2人の息遣いが響く。
「…くっ…ぁあ!」
可符香の…自分の手の動きに、望は翻弄された。
いつも、自分が男として感じる快感とは、まったく別の感覚。
明快で分かりやすい前者と異なり、女性として与えられる快感は不安定で、
体の奥深くから湧き上がるような快感に、上り詰めそうになっては、
次の瞬間、それはふっと遠のき、もどかしい思いが募る。
――こんなんで、長時間責められたら、体が持ちません…!
普段の、自分の可符香に対する行為に、多少自省の念が浮かんだが、
そのうちに、可符香の指先に体中の感覚が集中し始め、次の瞬間、
全ての思考が吹き飛ぶような快感が、つま先から頭の先へと通り抜けていった。
「――っ!!」
望は、歯を食いしばった。
余りの刺激の強さに、いまだに足の付け根の辺りがしびれているようだった。
息が切れ、体を動かす気にもなれない。
しかし、同時に、体の芯では以前にもまして疼きが高まっており、
体は、その疼きを治める収めるための、自分を埋め尽くす何かを欲していた。
ふと、自分に覆いかぶさる影に、顔を上げる。
そこには、泣きそうな表情の、自分の顔があった。
「先生、先生、もう、私、我慢できません…!」
――私の体って、そんなに我慢がきかなかったですかね…。
ちょっと傷つきながら、望は可符香を黙って見上げた。
482:交換の後 4/6
07/09/22 18:05:52 2UJwpGCd
「先生、いい…?」
目の縁を赤く染めた「自分」が尋ねてくる。
いつもは、自分が可符香に対して発する言葉。
望は、返答に詰まった。
可符香の体は、交わることを強く欲してはいるものの、
今さらながら、どこかで及び腰になっている自分がいるようだ。
――やっぱり、さすがに、ちょっと…。
しかし、体を起こそうとした望に対し、
「ああ、もう、だめ……先生!!」
そのためらいを吹き飛ばすかのように、可符香が望を押し倒した。
「…ぅあっ!」
望は、あまりの衝撃に声を上げた。
体の中が、自分以外のものでいっぱいになる感覚。
それを待ち望んでいた可符香の体は、その異物を締め付けることで応えた。
同時に、いまだかつて感じたことのない快感が、望の背を走る。
「くぅ…っ!」
――こんな…可符香は、毎回、こんな状態なのか…!
先ほど上り詰めたばかりで敏感になっているところを、激しく突かれ、
そのたびに、可符香の白い体は跳ね上がる。
「あ、ぅっ、ぁあ!」
恥ずかしいと思いながらも、どうしても声が漏れる。
せめてもの救いは、その声が愛しい少女のものであるということだ。
一方、可符香の方も完全に余裕がないようだった。
「先生…先生…先生…!」
うわごとのように繰り返しながら、体を打ち付けてくる。
与えられる刺激の強さに、気が遠くなりそうになり、
望は、必死で意識を保とうと努力した。
そこに、可符香が、よりいっそう強く深く、自身を埋め込んできた。
「あああああああああ!」
全ての意識が、そこに集中し、痙攣する。
望は、頭の中が真っ白になり、次の瞬間、意識を失った。
483:交換の後 5/6
07/09/22 18:06:30 2UJwpGCd
目を覚ますと、相変わらず、自分の顔が覗き込んでいた。
その表情は、いくぶん、心配そうだ。
「可符香…。」
「先生、大丈夫でしたか…?私、途中から夢中になっちゃって…。」
望は体を起こした。
体の奥に、鈍痛を感じる。
「大丈夫です…あなたの方は?」
可符香は、望の首を振った。
「私は、全然…何ともないです。…でも。」
その顔がふいに赤くなる。
「何か…すごかった…。」
「ん?」
「男の人って…あんな風に、気持ちよくなっちゃうんですね。
先生の気持ちが、よく分かりました。」
望は、可符香の正直な感想に思わず笑い出した。
「分かってくれましたか…普段、私がいかに努力して自分を抑えてるか。」
「ん…。」
可符香は頷くと、顔を上げて、望の顔で口を尖らせた。
「でも、先生だって、分かってくれたでしょ。私が、どんなに大変か…。」
「…。」
望は、思わず言葉に詰まった。
可符香の言うことは、事実だった。
可符香のこの細い体が、望と交わるたびにどれだけ翻弄されているのか
まさに身をもって体験したのだから。
望は吐息をついた。
「ええ、確かに…今回の体験は色んな意味で貴重でしたね。…でも。」
可符香を見る。
「私は、やはり自分の体であなたを抱くほうがいいですね。」
可符香も、望の頬を赤く染めて頷いた。
「私も…先生に抱かれる方が、すき。」
484:交換の後 6/6
07/09/22 18:07:13 2UJwpGCd
2人は、連れ立って階段坂まで赴くと、スムーズに入れ替えを果たした。
「ああ、やっぱり自分の体が一番落ち着きますね。」
満足げに自分の腕をなでる可符香に、望が頷いた。
「そうですね…では、早速。」
望は、にやりと笑った。
「今回は、あなたの体のどこが感じるのか、身をもって学習しましたから、
その学習効果を試させていただきましょうか。」
可符香の顔が赤くなった。
「もう、大変だって言ったのに、全然学習してないじゃないですか――!!」
「男の生理は切ないものなんですよ!あなたこそ、学習したんじゃなかったんですか?」
楽しげに言い争う2人を、塀の上の猫があくびをしながら眺めていた。
485:430
07/09/22 18:10:06 2UJwpGCd
ごめんなさい、石を投げないで下さい…。
次は、正統(?)なエロを書くよう頑張ります…!
ああ、アニメが今日で終わっちゃうんですね…。悲しい。
486:名無しさん@ピンキー
07/09/22 18:16:23 xPZbs1qg
>>485
>>471の
>准(in可符香)は、少し不服そうに口を尖らせた
コノ辺りなんか変じゃないの?
487:名無しさん@ピンキー
07/09/22 18:41:28 esXwgHo6
>>485
凄い勇者を見た気分だ…GJ、自分は凄く面白かったです。
真昼が雪を投下してしまってる者ですが、量が想像以上になってきとります
下手すりゃ次スレにまで迷惑かけそうなんですけど…エロシーン一回だけなのに
今回も物凄く容量食います。11レス、約16KB?くらいです。まだエロにとどかねぇ…!
488:真昼が雪 22
07/09/22 18:43:00 esXwgHo6
昼食の後、ダラダラとお喋りをしていた為、あれから結構な時間が経ってしまっていた。
取り出した懐中時計は、午後3時半を告げている。
それでも、街に出て着物を買って帰るのに遅すぎる時間ではない。
望は可符香を一瞥する。彼女は望の前を、いつものように軽い足取りで歩いている。
見慣れた並木道。ついさっき犬を埋葬した場所に差し掛かる。
可符香は土の盛り上がった木の根元―犬の眠るその場所を、チラリと横目に見た。
それだけだ。
思わず足を止める望を置いて、さっさと先へ行こうとする。
「お祈りはしないのですか?」
予想外の態度に驚いて、立ち止まったまま可符香を呼び止めようとする。
「さっき皆で、十分お祈りしたじゃないですか」
「ですが…」
「置いてっちゃいますよー、先生」
望の声に立ち止まる事すらせず、言葉通りズンズン先へ進んでいく可符香。
慌てて追い付こうと、小走りで駆け寄り、隣へ並んだ。
可符香は相変わらずの笑顔で、ただ前だけを見つめている。望の方を見ようともしない。
「どうしたんですか、風浦さん」
「何がですか?」
問い掛けにようやく、こちらに視線を向ける可符香。
つい条件反射で目を逸らしそうになるが、ぐっと堪えて言葉を続ける。
「何がって…普通ここは、お祈りの一つもする所でしょう。不自然です」
「じゃあ先生はお祈りしてればいいじゃないですか」
答える可符香の声は、いつものそれよりやや固く響いた。
489:真昼が雪 23
07/09/22 18:43:58 esXwgHo6
妙に突き放した物言いに、怒りよりも戸惑いが生まれる。
「変ですよ、風浦さん」
「変じゃないですよ」
笑顔で答えて、可符香は歩を速めた。
最初と同じように、望の前を歩く形になる。これでまた、表情が見えなくなった。
つれない態度に思わずムっとして、望も歩を早める。
並ぶ二人。するとまた、可符香が歩を早めて望を追い越す。
追う望。追い越す可符香。それをまた追って、再び追い越される。
―――明らかに、何かから逃げている。
望から…というより、これ以上言及される事を避けるように。
最近の可符香は、少し様子がおかしかった。
よく注意しないとわからない程度にだが、稀に、望から逃げるような態度を取るのだ。
もちろん、いつもはここまで露骨ではない。
彼女の態度がおかしくなり始めたのは、丁度、望が久藤と図書室で話をしてからしばらくしての事だ。
――正しくは、可符香は態度を変えたりしていない。今まで通り望に接している。
違うのは、望の彼女を見る視点だった。
可符香が稀に何かから逃げるような態度を取っている事に、最近になって望が気付き始めたのだ。
今までは、僅かな違和感でしかなかった。
だがこうして露骨な態度を取られて、ようやく望は、彼女が逃げの姿勢を取る時に見せる、感情の色を理解した。
「何を怖がっているんですか」
その言葉に反応して、
望を追い越そうとした可符香の足が、止まる。
490:真昼が雪 24
07/09/22 18:44:58 esXwgHo6
今度は望が彼女の数歩先を行ってしまい、思わず踏鞴を踏んで立ち止まった。
振り返り、その表情を窺う。
相変わらず完璧な可符香の笑顔。
その中で、瞳だけが僅かに揺らめいていた。
「先生こそ、最近変ですよ」
質問に答えるつもりはないらしい。
話題を逸らすような言葉に、あえて乗る事にする。
「私がですか?」
「何だか最近、常月さんみたいです」
「…私が、ですか?」
それはつまり、どういう事だろう。
戸惑って言葉を失う望に、可符香はやや強い口調で続ける。
「私、先生に好かれるような事しちゃいました?
最近なんだか、よく気にかけてくれますよね」
「――……」
気付かれていた事に恥ずかしさを覚えて、熱くなる顔を隠すように、手の平で覆う。
「そ、そんな事はございませんよ」
答える声は、自分でも悲しくなるほど裏返っていた。
「安心して下さい先生。私、ちゃんと知ってますから」
だが彼女はそんな彼の様子など気に掛けず、空に視線を投げた。
「准君に言われたんですよね」
「!」
まさかの名前に驚愕を隠しきれず、望は息を詰まらせた。
「く…久藤君と、何を話したんです?」
まるで瞼の裏に久藤の姿があるように、瞳を閉じる可符香。
「私と先生との仲を、取り持とうとしてくれたんですよね、彼」
そうして、語り始める。
491:真昼が雪 25
07/09/22 18:46:06 esXwgHo6
◇ ◆ ◇ ◆
――ある日を境に、可符香は望に対して違和感を抱いていた。
本人は隠していたつもりでも、彼が確実に自分を意識し始めている事が、日頃の態度で知れた。
例えばそれが、可符香が望んで彼の心の隙間に入り込み、その心を盗んだ結果というのならば、いい。
だが可符香は意図的に望の心を盗むような真似はしていない。
確かに保健室で思わせぶりな態度を取って見せたが、それだけだ。
望の性格からして、ああいうアプローチを受けたなら、逆に身を退くようになるだろう。
だというのに、彼は突然可符香を意識し始めた。
何か、他者による介入があったのだと、可符香は判断した。
そしてすぐに、その原因となった人物に思い当たる。
というより、自分が望に明確な好意を持っている事を知る人間が、彼しかいない。
保健室の扉越しに、二人の会話を聞いていた人物。
やんわりと問い詰めると、彼―久藤は、特に隠すつもりもないようで全てを話してくれた。
「二人の恋を、応援したくって」
幼馴染の恋の行く末を思っての事だったと、微笑みながら久藤は言った。
彼が可符香の身を按じているのは、本当の事である。可符香もその事は知っていた。
「ありがとう。でも大丈夫よ」
他人からの支援で実る恋は、フェアじゃない。恋というのは、自らの力で掴み取るものだ。
そう言って微笑む可符香に、久藤は頷いて見せた。
「余計な事をしたね」
詫びる彼に、可符香は笑顔で頭を下げた。
◇ ◆ ◇ ◆
「そう、ですか」
全て筒抜け、という事らしい。
何だか久藤と可符香に良い様に踊らされている気がして、冷や汗が頬を流れた。
「だから先生は気にしないで、今まで通りにしていればいいんです」
すぅ、と瞳を開く可符香。だが、視線は降ろさず空を見上げたままである。
瞳に蒼を宿した彼女は、しかし空など見ていない風に、遠く遠くを眺めている。
492:真昼が雪 26
07/09/22 18:56:49 6tTyhO1F
彼女の見ている世界は、きっと自分の見ているそれとは違うものなのだろうと、改めて思う。
―私にも見せて欲しい。貴女の目に映る世界を。
思わずそんな恥ずかしい台詞を考えてしまって、慌てて頭を左右に振る望。
(ああああ…これでは本当に、思春期の中学生じゃないですか)
唐突に頭を振り乱した望に、可符香はキョトンと視線を向けた。
「何やってんですか?」
「何でも!―それと、風浦さん」
「はい」
気を取り直すように、コホンと一つ咳払いして、
「えぇと、ですね…。私が貴女を気にしているのは、正しくは久藤君の言葉が切欠ではありませんよ」
「それは先生がそう思い込んでるだけですよ。ホラ、恋は盲目って言いますし」
「いいからお聞きなさい」
少しだけ強い口調で、ピシャリと言い放つ。
その言い方が妙に教師らしくて、思わず口を噤む可符香。腐っても学生である。
「多分切欠は、もう少し以前――そうですね…。保健室で貴女に愛の告白をされた時です」
愛の告白、の所だけ、思わず棒読みになる。
それが照れからくるものか、それともあの言葉を告白と真正直に受け止められていないからか、望は自分でもよくわからなかった。
「一応女性にそういう事を言われた訳ですし、気にしないわけないでしょう?
ホラ、何も問題はありません。誰に強要された訳でもなく、他でもない貴女が、私に目を向けさせたのですから」
言っている間、何故かどんどん熱くなる頬。
おそらく赤くなっているだろう自分の顔を凝視される事に耐え切れず、望は着物の裾で口元を隠した。
本当は顔全て覆ってしまいたいくらいだったが、それでは可符香の表情すら見えなくなる。
「あと、最後に訂正させていただきます。
―先生、確かに貴女を意識していますが、
まだ恋とかそういった部類の感情ではありませんのでそこのところあしからずッ」
どうにか、言い切った。
思わず思い切り顔を背けてしまいたくなるが、どうにか気合で可符香の真っ直ぐな視線に耐える。
さっきまでは、むしろ積極的に自分から視線を逸らそうとしていたというのに、
何故かこういう恥ずかしい台詞を言う時に限って、可符香はじっとこちらの目を見つめてくる。
ちなみに可符香は、別にプレッシャーを与える為などではなく、
むしろ告白でも何でもない台詞を言うのに、やたら恥じらいまくる望が不思議でならなかった。
493:真昼が雪 27
07/09/22 18:58:05 6tTyhO1F
ちなみに要約すると、最後の一文はこうである。
『先生、まだ貴女の事、好きになった訳じゃないんだからね!』
(…ツ、ツンデレだ。)
その発想が自分で可笑しくなって、可符香は耐え切れず破顔した。声が、漏れる。
「――ッく、あはは!先生、加賀さんの真似ですか?人気取りですか?」
「わ、笑わないで下さい!何の事ですか、人が結構真剣に話しているというのに!」
「っ、ふふふふ…だって。あはははは!」
妙なツボに入ってしまったようだ。
引き攣る腹筋を押さえて爆笑する可符香を、心外だと言わんばかりに不満気な顔で見下ろしていた望だったが、次第にその表情は優しいものに変っていった。
さっきまでの、妙にギスギスした雰囲気が嘘のように晴れていく。
それがたとえ自分を馬鹿にしているものとしても、さっきまで浮かべていた完璧過ぎる笑顔より、望には断然魅力的に思えた。
ひとしきり笑い転げて疲れたのか、弾む呼吸を抑えるように胸を押さえている可符香に、望は改めて怒ったような表情を作って見せる。
といっても、その目は優しく微笑んでしまっているのだが、本人は気付いていない。
「失礼ですね…何がそんなに可笑しいんですか?」
「ふふ…、何でもないですよぉ。あぁ可笑しかった」
「言ってる事が矛盾してます」
目尻に溜まった涙を拭ってこちらを見上げる可符香の頬は、熱を帯びたように上気している。
そんな彼女の表情が、素直に可愛いと思った。
「――何だか、初めて貴女が笑うのを見た気がします」
「…は?」
リスを思わせる動作で小首を傾げる可符香。
望の台詞が本当に意外だったようで、キョトンと大きな丸い瞳を見開いている。
「何をお惚け言っちゃってるんですか、もー。私はいつだって笑ってるじゃないですか」
見せ付けるように、彼女は孤を描く自らの口元を指す。
望は少しばかりの罪悪感を覚えた。
せっかく和やかな雰囲気になったのに、これからまた、それを崩さなくてはならない。
それでも言わなければならない事がある。
望は意を決して言葉を続けた。
494:真昼が雪 28
07/09/22 19:00:07 6tTyhO1F
「そうですね―いつもの貴女の笑顔は…酷く痛々しい、です」
すぅ…と。
潮が引くように、彼女の柔らかな笑みが消えていく。
それでも、笑顔である事に変わりはない。
ただその笑みの持つ性質が、ハッキリと変っていた。
能面のように、ある種完璧な笑みをその顔に貼り付けた可符香は、少しばかり固い声で答える。
「先生の言ってる事が、よくわからないです」
可符香は目を逸らさない。
どうやら、彼女に妙な対抗心が芽生えたようである。
さっきからやたらと突っかかってくるこの男を、いつもの如く、完膚なきまでに言い包めてやろう。
そういう意思が、その瞳から僅かに見え隠れしている気がした。
臨むところだと、その視線を真っ向から見返す望。
「貴女はいつも、何を恐れているのですか」
「そこに話が戻るんですね」
「はぐらかしたのは貴女の方です」
少しだけ強くなった風が、二人の髪を揺らす。望の着物の裾が翻り、バサリと音を立てた。
「今日の先生はいつにも増してお惚けさんですね。私に怖いものなんてあると思うんですか?
あ、神様の事は確かに畏怖していますけど」
あくまでそれは尊敬の念ですよ。そう言って笑みを深める。
彼女はもう、完全に自分の心情を伝えないつもりなのか、笑顔の鉄火面を強くする。
以前の望なら、その変化にすら気付かなかっただろう。
だが今の彼は、そんな彼女の、どこか必死な様子を感じ取れる。
「以前の私なら、頷いていたんでしょうね。
でも今なら――もう少し、貴女の事を理解できる気がするんです」
「うふふ、そんなに想ってもらって嬉しいです。私ったらハート泥棒ですね。
とっつぁ~んさんに追いかけられちゃいますよ」
両の手首を合わせて、手錠のジェスチャーをする可符香。
何が何でもはぐらかそうとするその態度に取り合わず、話を続けようと口を開く。
「貴女は、もしかして」
495:真昼が雪 29
07/09/22 19:01:16 6tTyhO1F
「先生」
核心に触れようとした、その時。
遮るように、断ち切るように発せられた一言は、望の言葉を詰まらせるのに十分な力を持っていた。
可符香の笑みが、ほんの少しだけ崩れている。
眦が少しだけ釣り上がり、口元が僅かに引き攣る。
本当に注意しないとわからない程の、僅かな変化。
そこに浮かぶのは、純粋な怒りの感情だった。
「私はお買物に出ていたんです。
そろそろ行かないと、タイムサービスが始まってしまいます」
「まだタイムサービスまで時間はあると思いますよ」
「私の行き付けのお店は、普通のお店よりも早くに始まるんですよ」
少しだけ早口に言って、可符香はそのまま駆け出そうと足を撓ませた。
「逃げるつもりですか」
その動きを止めるのに、望の一言は十分な力を持っていたようだ。
逃げる。
彼女にとっては聞き逃せない言葉だ。
とても後ろ向きな…ネガティブな言葉だ。
「さっきから喧しいですね、本当に」
声色こそいつもの調子とはいえ、もう完全にその台詞は、こちらに怒りを伝えてきている。
それでも笑みは、剥がれない。
「私は日々の糧を、より効率的に得ようとしてるだけです。
それがどうして逃げるなんて事になるんですか?」
可符香は自分が劣勢である事を、否が応にも自覚していた。
いけない流れだ、これは。
それが判っているのに、今日の望は妙に強気で、中々言い負かされてくれない。
「貴女は」
望の唇の動きを凝視してしまう。
紡ぐな。もうこれ以上言葉を紡ぐな。そんな思いを込めて。
「貴女は怖がりだ。人よりもずっと、怖がりだ。
だからそんなに必死になって、ネガティブな事を否定するんじゃないですか。
そうでもしないと――耐えられないから」
可符香は、唇を噛み締めた。
一瞬。ほんの一瞬。
彼女の顔から笑顔が消えた。
496:真昼が雪 30
07/09/22 19:04:13 6tTyhO1F
あぁやはり、嫌な予感はしていたのだ。
出会った時から、この男は自分の何か大切なものを、壊していってしまうんじゃないかと。
初めて彼を見た時、彼女は自らの記憶を悪いものとして思い出した。
もはや心乱される事などないと思っていた所に、この不意打ち。
けれどその原因となった男は、自殺など口ばかりのくだらない男。
何故この程度の男に、心乱されなくてはならないのだろう?
そうして次に生まれたのは、怒りの感情だった。
いっその事本当に絶望させて、居なくなってもらおうとも考えた。
けれど何があっても、どんなに絶望しても、男は「死」という選択だけは選ばない。
消せないというならば、男の全てを掌握してしまえばいい。
弱みを握って、心の隙間に滑り込んで、彼の全てを掌握してしまおう。
そうしていれば何の心配もない。こんなくだらない人間に、恐れる要素なんて何一つない。
そう思っていたのに。
否定するんだ。今すぐに。
まだ間に合う。今否定すればまだ、間に合う。
(だってそんなわけないじゃないですかいったい私の何を見てそんな事を言っているんです
どの口が、どの口がそんな突拍子もない事を言うんですおかしいじゃないですか先生は何
も知らないでいいんですよだって先生のキャラじゃないじゃないですか何をいきなりカウ
ンセラーみたいな事を言い出しているんです貴方は毎日「絶望した!!」と叫んで可哀相
ぶっていればいいんですよそうして私がそれを好意的な解釈でもって訂正してあげるんで
すホラいつもそうしてきたじゃないですかどうして今更そんな私の存在全否定するような
事言うんです先生は意地悪な人だなぁ先生の癖に、先生の癖に――!)
497:真昼が雪 31
07/09/22 19:07:38 6tTyhO1F
後から後から、言葉が溢れ出てくる。
だがその量が膨大過ぎて、喉を通ってくれなかった。
外に出る事を許されなかった言葉達は、彼女の思考力を容赦なく奪っていく。
彼女は、混乱していた。
その僅かな隙に、畳み掛けるように望は言った。
「貴方のポジティブは、ネガティブに対する逃げなんじゃないですか。
犬のお墓参りを避けたのだって、もうこれ以上悲しくなるのが嫌だったからじゃないんですか」
「…やだなぁ先生。あのワンちゃんの死は悲しい事なんかじゃないですよ。
だってワンちゃんは神様の所へ行っただけ。来世で新しい命を授かって幸せになるんです。
だから今更私たちがあの子の死を悼む必要がないってだけの話ですよぉ」
どうにか思考を整理して、今度はちゃんとポジティブな意見を返す事が出来た。
それでも望は食い下がる。
「なら、どうして…―」
(どうしてあの時、あんな顔をしていたのですか?)
そう言おうとして、今度は望が言葉に詰まる。
犬を抱えて立ちすくむ、彼女の姿が蘇る。
踏み切り越しに見た彼女の笑み。
――それは今にも、泣き出しそうな笑顔だった。
◇ ◆ ◇ ◆
目前で犬が跳ねられた。
痛ましい姿を、可符香は悲しいと思った。
けれどその悲しみを直視できない。そういう風にしか、彼女は出来ていない。
真っ赤な犬を抱えて、ポジティブという言い訳を考えながら、迷子のように彷徨う可符香。
やだなぁ轢き逃げなんかあるわけないじゃないですか。
目の前でワンちゃんが弾き飛ばされたけど、轢き逃げじゃないんです。
これは、轢き逃げじゃなくて――なんだろう?
あれ。
おかしいな、今日に限って、良い解釈が思いつかない――
望に出会って、何事か聞かれた時も、彼女は何も思いついていなかった。
あの時望が台詞を遮ってくれなければ、どうしようかと思っていたくらいだ。
そうして今も、あの轢き逃げに対する言い訳を思いつけないでいる。
彼女の中であの光景はまだ、ネガティブな事として記憶されてしまっている。
だから犬の墓参りも、自然と避けてしまった。
このまま無かった事にしてしまいたかったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
498:真昼が雪 32
07/09/22 19:09:34 6tTyhO1F
「…何も問題ないって、言ってるじゃないですか」
けれど認めない。彼女はそんな自分の思考を認めない。
それらは全て無意識に行われる事だ。意識したらもう、彼女はそれに耐えられない。
意識してはいけない、気が付いてはいけない。
だからそれ以上言ってくれるな。もうその口を閉ざしてしまえ。
そんな思いを込めて、今日に限ってやたら饒舌な教師の顔を見つめた。
そこでふと、望の異変に気付く。
彼の顔色が、随分と青白いのは気の所為だろうか。
「――先生?」
さっきまでの勢いはどこへやら、突然押し黙ってしまった望の顔を覗き込む。
近くで見ると、一層顔色が悪く見える。
さっきまでのやり取りはとりあえず思考の隅に追いやって、様子を窺うように声を掛ける。
「せんせ…」
「――」
何か答えようとしたのだろう。
けれどそれは叶わず、望は突然身体をくの字に折り曲げて、地に膝を付いた。
可符香は思わず驚いて身を引くが、すぐに自分も膝を折って、俯く彼の顔を覗き込む。
「先生…、糸色先生ッ」
「…っひ、は――」
呼吸がおかしい。
苦悶の表情で腹部を押さえて、パクパクと鯉のように口を開いたり閉じたりしている。
肩に手を回と、返ってくる感触で、以前よりも彼が随分痩せている事に気が付いた。
「す…っ、すぐに、救急車呼びますから…ッ」
動揺を隠し切れず、震える声で言いながら、慌てて鞄から携帯電話を取り出す。
コールしている最中も、少しでもその苦痛が和らげばと、背中を擦り続ける可符香。
「―…ぐ…、っ…ぇッ…!」
望の身体が僅かにはねる。
望が吐いた吐瀉物には、コーヒー色の血が混じっていた。
499:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:21:34 xPZbs1qg
500:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:21:44 6tTyhO1F
ああ…書き溜めてた分がほとんど無くなってもうた。
次の投下はもうちと先になるやもしれません…というかこれからも投下して大丈夫ですかコレ?
元ネタ知ってる人が多くて唖然。
そんでもって、誰も「嘘つけ」と言い出さないスレの優しさに泣いた。
き、期待すんな!期待すんなよ!色眼鏡かけんなよ!
ウジ虫の脳味噌程も文才ない奴に期待なんかすんなよ!
501:名無しさん@ピンキー
07/09/22 19:25:11 AeTL+wLp
これはなんという可符香ラッシュ
430氏、真昼氏、どちらも乙です
>>真昼氏
元ネタのような欝展開になるんですね…
毎日PC前で全裸正座で待機してます
502:名無しさん@ピンキー
07/09/22 20:46:19 Mqg2UbU5
>>all
映画化決定(AA自重
503:146
07/09/22 21:41:46 QK20MM+m
神々の投稿、凄いことになってますね。皆様乙です!
>>前305さん、素晴らしいです。あの三珠さんをここまで萌えにできるとは。
>>430さん ごめん、笑った。 チェンジとか、その発想なかったw。
>>真昼氏 文章うますぎ。 投下大歓迎!すまないが、期待してしまうっ!
>>502 映画化まじですか?w
今更ながら、会話以外の行初めを1段落とすと読みやすいことに気付いた。
うん、小学校で習ったよ。
前置きはこのくらいにして、最終章(+後日談)を投下します。
>>225、293の続きになります。
注意点は>>225ご参照。
3章の終わり方には、批判も強かったようで。
いろいろ悩んだ末での決断なので言い訳はしません。
反省は少ししているかも。
全18レスほど消費予定。急展開なのでご注意。
504:4章①
07/09/22 21:43:17 QK20MM+m
4章
射精される寸前、今まで決して泣こうとしなかった、可符香の目から、
つーっと絶望の涙が零れた―と、その瞬間。
真っ黒な絶望の奥から、ムクリと何かが起き上がって……
突然激しい衝撃が可符香を犯していた男を襲い、腹に強烈な
蹴りを受けたように、後方に吹っ飛ばされる。
襖にのめり込むように倒れこむと、刺激を受けたのか、ボタボタと
だらしなく射精し始めた。
「な……ぼ…僕の貴重な子種が!!!」
「お前、何やってるんだ?……おい、逃がさないぞ!」
叔父は、可符香が口のパンティを吐き出し、這って逃げようとするのを、
見つけると再び押さえ込もうとする。
だが、少女は意外なほど強い力で猛然と抵抗した。
「う…これは、前も感じた……。オイ、何やってる。お前も手伝え!」
一瞬呆然としていた従兄弟は、目に怒りを宿して立ち上がった。
「このアマ。許さないぞ!!種付けのために溜めておいたのに!!」
激しく両者は攻防を繰り広げたが、さすがに大の男―それも特に屈強な2人
の前に、序々に可符香は不利になっていった。
―風浦さん!
突然、可符香の脳裏に『絶望先生』の姿が浮かぶ。
―風浦さん、あなたの力を見せてください!!
「私の…?私には何の力もありません!!」
―あるじゃないですか!12話くらいから片鱗を見せ始めた力が!
あなたは1話から成長したはずです。
あなたの成長した力を見せてください!
何を言っているのか分からなかったが、可符香は『絶望先生』が傍にいることで
強くなる自分を感じていた。
可符香の脳内が今までの2人の行動を素早く精査していく。
ふと気付く。
自分の足を押さえ込もうと躍起になっている従兄弟に、鋭く叫んだ。
「……お兄さん、相変わらず叔父様の後追いなのですね。」
可符香は、従兄弟の数々の行動に叔父への劣等感があることを感じていた。
何かと自分と父親を比べる、肉棒の大きさすらも。
「なに!?」
ムカッとしたように、従兄弟が顔をしかめた。
505:4章②
07/09/22 21:44:37 QK20MM+m
「無駄ですよ?私はもう叔父様の子を孕んでいますから。
お兄さんは叔父様の子どもを出産した後になさったらいかが?後に!」
「な……なんだって!!」2人が同時に声を上げた。
キッと従兄弟は自分の父親の方に目を向けた。
「父さん、可符香とヤルときはコンドームを必ずつける約束だったよね!?」
「う……、でも俺は外に出してたぞ。」
「外だしは避妊にならないんだよ!貴様はいつもそうだ!!」
「お前、誰に向かって口聞いてんだ!」
むろん、叔父の子を孕んでいるというのは嘘である。可符香は
叔父が求めてくるときはピルを飲んでいたし、最近学校で身体検査が
あったばかりだ。
だが、従兄弟の言動には何故か自分の種ということに拘りが
あるように見えた。
険悪な表情をする従兄弟に、すまなそうに謝る。
「ごめんなさい、でもしょうがないですよ。私は叔父様の物ですから。
そうそう、叔父様の行きつけのバーの山本さん。
お兄さん、あの人と仲良くやってるじゃないですか。それで我慢なさって。」
ギクリと、従兄弟が可符香を見る。
叔父の顔がみるみるドス赤くなった。
「なんだと……お前。俺の物に手ぇ出しやがったな。」
所有欲の激しい叔父は怒りに燃えて、従兄弟に詰め寄る。
「チッ。だからなんだって言うんだ!何でも自分の所有物だと思うなよ。」
「叔父様は、お兄さんの死んだお母様のことを思い出したくないのですよ。
悲しい過去ですもの、仕方がありません。」
その一言は、従兄弟を完全に切れさせた。
「そうだ!母さんは、貴様のせいで……!!!」
重みのあるパンチが、叔父に炸裂し吹っ飛ぶ。
その後は、大乱闘である。
2人は、可符香には目もくれずに殴りあいを始めた。
可符香は、急いで居間から逃げ出し、家を飛び出した。
可符香は、真っ直ぐにある場所に向かった。
―自分が始めに身を投げた場所。そこにいけば『先生』に会える気
がしていた。
すっかり夜の帳に包まれた町をさながら夜の蝶のように駆け抜け、
目的のビルに到着する。すぐに屋上に上った。
自殺未遂者が出たというのに、そのビルの屋上は変わらず鍵が
掛かっていなかった。
506:名無しさん@ピンキー
07/09/22 21:45:05 PnXA2rH0
>>485
430氏、あなたは一体何物・・・・・?
とうとう修羅の道に踏み込んだ姿を見るようでw
一気に読んで、突っ伏しましたw GJっす!!
>>500
ニコ見れないので、ようつべで見つけて観ました・・・・・・
あの映像に真綾さんの歌声は泣く・・・・
そして勝手に、430氏の「30倍悲しい・・・」には、helloがあうかな、
と、うっかり考えて・・・・・・・・・沈没いたしました。
皆さんのss見てるとホント自分も作りたくなる。
私も、また何か書いたら投下します。礼。
507:4章③
07/09/22 21:45:15 QK20MM+m
はぁはぁと息を整えながら、屋上の手すりに向かう。
鈍く鉄の色を放っている手すりに手をかけ、仰ぐように空を見上げた。
冬の寒空に広がる天球は、群青と灰色に包まれていた。
「うわぁ、満天の星空ですね。」
「そ…そうですか?私には灰色のスモッグにしか見えませんが。」
隣から少し高みのある声が聞こえた。
そちらを見ると、なにか淡い乳白色色の霧がチカチカと点滅しながら
漂っている。
目を凝らすと、その霧が少しづつ濃くなっていき、やがて人の像を結ぶ。
瞬間的に突風が吹いた―と、そこには和服姿の丸眼鏡をした
書生風の青年が立っていた。
「……先生!」
可符香は、懐かしさに胸をいっぱいにしながら、抱きついた。
彼の名は糸色望。『絶望先生』と呼ばれていた男である。
可符香が彼の胸に顔を埋めると、その体はまるで冷蔵庫の氷のように
冷たく、冷え切っていた。
思わず、身を引く。
「冷たいっ。せ……先生!これでは熱い抱擁にならないではないですか。」
可符香は小さな子どもがちょっとした抗議をするような表情で、
彼を見た。
望は真っ白な顔でかすかに微笑むと、可符香の肩にそっと手を置いた。
「私は常世の者ではないのです。もう、死んでいる身なのですよ。」
驚くべきことを淡々と述べる青年。
だが、可符香はその異様な告白を聞いても余り驚いていなかった。
何とはなくそのような予感がしていたのだ。
望は、懐かしむような目で眼下の車道を見詰めた。
この時間帯は車の通りも少なく、ポツポツと置かれた路灯が寂しげに光っている。
「かつてここは、桜の並木道だったのです。
大正の御世に、そこの1つの桜で首を吊って……まあ、早い話が自殺をしたのです。」
「どうして…。」
「私が自殺したわけなんて下らないですよ。
ただ、何となく絶望してしまったのです。
当然のように成仏できず、本を読んだり、TVを見たり、昼寝をしたり、
適当に絶望しながらこの世を彷徨っていました。」
508:4章④
07/09/22 21:46:56 QK20MM+m
「そこへあなたが来ました。
あなたを見たとき…。私はすぐにあなたの心の隙間が見えました。
そこは埋めてくれるものを待つかのように、ポッカリと開いていた
のです。」
可符香は驚いたように自分の胸を見詰めた。
自分に心の隙間があるという事を考えたことがなかったのだ。
「私の…心の隙間?」
「そうです。私は風浦さんの心の隙間にいつの間にか吸い込まれてい
ました。
あなたが深く寝ている間、私とあなたの意識は共有していて……。
後はご存知でしょう?」
可符香は小さく頷いた。
「終わらない高校時代を巡っていたのですね。」
望は少し唇をほころばせると、続けた。
「そうです。私は共有する意識の中で教師としてあなたを導こうと
しました。
人の心とこの世の現実を見せようとしました。
あなたも序々に人の心にある隙間―これは心の闇の部分です―に
気付き始めました。
しかし、私はやはり未熟でしたよ。
現実に戻ると、あなたはすっかり元のポジティブ少女に戻っていました。
私はあなたの傍で無力感を感じるしかなかったのです。」
「じゃあ、先生はずっと私の傍にいてくれていたのですか?」
びっくりした表情で可符香は顔を上げた。
「それならもっと早く助けてくれてもいいのに。」
ちょっと拗ねるような感じで呟く。
望は小さく首を振る。
白い首に痛々しい縄の跡がクッキリと付いているのが目に入った。
「あなたの心の隙間とは絶望ですよ
――そして私はあなたの絶望の中空に吸い込まれたのです。
いつもは何かしたくても出来ないのです。
涙を流して、歯噛みしているしかないのです。
風浦さんが絶望を感じるときだけ、私はこの世に現出し、あなたを
助けることができるのです。」
可符香は軽く衝撃を受けたように、一歩後退した。
そして、空を仰ぎ、曇り空に鈍く光る半月を見詰め嘆息した。
「それって、酷い話ですよね。
絶望しないように、前向きにって頑張ってきたのに…。」
509:4章⑤
07/09/22 21:47:31 QK20MM+m
しばらく、2人は黙ったまま見詰めあった。
大地を駆ける微かな風が、少女の短い髪をそよそよと揺らす。
闇の中で2人の目が、月の光を反射してチカリチカリと煌いていた。
しばらくの沈黙の後、自嘲するように望は呟いた。
「まあ、私は幽霊ですので、できることにも限りがあるのですよ。」
しばらく望の死人のような、いや死人そのものの白い顔をじっと
見詰めていた可符香はぽつりと言った。
「やだなぁ…先生…先生は、幽霊なんかじゃないですよ……。」
「え…?」
可符香は突然、びしっと望の顔に人差し指を突きつけた。
「悪霊ですよ!!悪霊!人に取り付いて祟りをなすあの恐ろしい悪霊!!」
「え……えええええ???」
「あぁああ、絶望しました!私が苛められるのを見て、悦んでいたので
すね!絶望しました!!」
「い…いや、確かに欝勃起してましたけど……ってそうじゃなくて!」
突然の展開に頭を抱える望に対して、さらに追撃が入る。
「先生のその和服姿!それなんですか!?」
「いや、大正の御世はこれが標準だった……」
「違うでしょう!!」
ピシリと可符香は望の言葉を遮る。
「スーツだと、改●と見分けがつかなくなるからでしょう!
ただの小道具です!!ああ……絶望しました!
あだ●充作品の主人公が全員同じ顔に見える現実に絶望しましたっ!!」
「ひ……ひどい!!」
「あ。見てください!あそこ!」
あうあうと涙に暮れる望をよそに、望の顔に突きつけていた指を
ぐるりと半回転して夜の帳の下りている町の方へ向ける。
指の先には、ここからそう遠くない場所にある居酒屋があった。
どうやら、まだ飲んでいる客がいるらしく、光の中に差し向かい
で酒を飲んでいる人の影が2つ、シルエットを形成している。
「まだ、酒飲んでるんですね。まぁ、酒を飲みながら語り合うの
は乙なものです。」
「何を言っているんですか。
あれは、絡み好きの上司と酒に弱い部下ですよ。
聞こえませんか、部下の慟哭が!魂の叫びが!嘆きの声が!
パワハラ(パワーハラスメント)です。
巷にはびこっているパワハラそのものです!」
「うわぁ……すごい嫌な情景ですね。」
縦線を額に走らせてどんよりする望の周りを、可符香は楽しそうにスキップを
してみせた。
510:4章⑥
07/09/22 21:48:43 QK20MM+m
望の目の前で不意に止まると、くるりと体を回転させて振り返った。
「決めました。私、もう前向きに頑張りませんから。」
「え…。」
「いつでも絶望しちゃいます。常にネガティブです。
絶望と悲しみによって目覚めた戦士、超(スーパー)ネガティブ少女、
風浦可符香です!!」
可符香が胸を張って大きく宣言する。
ズガビーンと望は仰け反った。
「な……なんですか、それ!!そういえば、髪も微妙に逆立っています!」
「これは妖怪アンテナですけどね。先生が近くにいるので反応している
ようです。」
アハハとあっけからんに笑うその表情は、とても絶望戦士には見えない。
可符香はふと真面目な顔に帰ると、そっと望の手を取った。
「私は、これからずっと絶望していることにしました。
そうすれば…そうすれば、ずっと先生と会っていられるから……。」
「風浦さん…。」
まるで自らの体温を分け与えるかのように何度も望の冷たい手を
可符香は擦っている。
望は、冬の寒空を見上げ、スモッグの中でも懸命に光っている1等星を
見詰めた。
シリウスと呼ばれるその1等星は、青白くしかしはっきりと、数千光
年前の光を地球に届けている。
「風浦さん。絶望に留まるなんて悲しいこと言わないで下さい。」
すっと望は東の方でポツンと明かりの点いている窓を指差した。
「あの家、何故明かりが点いているか分かりますか?」
「変態さんが夜遅くまでHなSS書いてるから?」
「違いますよ。あれは、さっきの酒の付き合いをしている部下の家です。
彼の妻が、夜食を作って待っているんですよ。」
「あ………。」
目を細めて、その窓の光に語りかけるように話し始める。
「私はね、人に絶望していたんですよ。
相手を妬み…争いあい…非難し合う……絶望した私はせめてもの抵抗として、
自分という『人』を殺したのです。
でも、あなたの内面に触れたとき、私は人に絶望できなくなっていました。」
511:4章⑦
07/09/22 21:50:43 QK20MM+m
そっと、自分の手を擦っている可符香の手の上に、もう片方の手を重ねる。
「絶望と希望は両輪のようなものです。
人は希望だけでは生きられない。絶望という現実は避けてはいけないんです。
でもね、絶望だけでも人は生きられませんよ。
もう一度希望を持ってください。」
可符香はとたんに苦しそうな顔をした。
いつもの楽観的な顔が急激に歪められる。
唇はかさかさに乾き、堪えるように強く結ばれ、小さな手をぐっ
と握りしめた。
彼女は必死に自分の中の何かと戦っているようだった。
突然、望の着物の襟を掴んで握り締める。
手が真っ白になるくらい襟が強く握られると、可符香は子どもがイヤイヤを
するようにショートカットの髪を振った。
「………さ……い……。」
喘ぐように可符香は声を絞り出した。
「え?」
「先生……私とボディランゲージして下さい………。」
「そ……それは!ちょっとしたハグで『こんにちは』とか、人を指差す
とアメリカでは喧嘩上等とかそのボディランゲージではないですよね!?」
可符香は必死さを目に湛えて、望を見上げる。
「先生と生徒は意思の疎通を図るべきです!!」
「い…いや、それは…その……。」
「私は先生が好きです!
最初からなんて、もう嘘はつきません。
最初は何だろうこの拗ねきった子どもは、と思いました。
次は、被害者気取りの上、段々ネタがなくなってきましたね、と思い
ました。」
どよーんと、望の額に縦線が増えていった。
「でも、いつの間にか先生が私の心から離れなくなっていました。
本当のことですよ?
こんな私でも、恋というものを知ったんです。
希望を、私でも人を愛してもいいという証が欲しいんです。」
一息にそう言うと、激しい鼓動を押さえるかのように、苦しそうに
胸に手を置いた。
その顔はいつもの冷静な笑顔ではなく、生々しい感情を表に出した、
笑顔とも泣き顔とも判別できないような複雑な表情をしていた。
と、不意に何かを思い出したように、可符香はぐったりとうな垂れる。
「……それとも……私……汚れて……います…か……?」
512:4章⑧
07/09/22 21:51:49 QK20MM+m
望には分かっていた。
自分がここに存在している事。
それ自体が彼女の深い絶望を示していることを。
可符香は必死で絶望と戦ってみたのだ。
自分を押しつぶそうとする過去…経験と。
しかし、彼女を襲った闇はあまりにも強く、圧倒的だった。
彼女は一歩踏み出す力を欲している。
―望は自分が、目の前で苦しんでいる少女を愛していることを知っていた。
最初は、自分にはないキラキラした明るさ…希望に目を奪われた。
しかし、その下に隠れた繊細でガラスのような魂が見えた時、
初めて人を愛するということ―それはたしかに希望に満ちている―
を知ったのだ。
下らない矜持に拘っている場合なのか?
自分は人に希望を与えられるような人間ではない?―関係あるか。
目の前に愛しい人が苦しんでいる。―――その人を救いたい。
単純な事だ。
人に心を見詰めよと言うならば、まず自らの心に素直になることだ。
時折、冷たい風が2人の間を駆け抜けていく。
望は意を決したように、可符香の両肩に手を置いた。
「私があなたと交わるということは、もう私達は教師と教え子ではなくなります。
あなたは、私を卒業することになりますが、それでもいいですか?」
少女の顔に一瞬逡巡するような色が走った。
が、何かを決意するように小さく、しかしはっきりと頷いた。
望はすっと腰を傾けると、優しく少女の唇に自分のそれを捺した。
「ん……。」
可符香は瞼を伏せて、静かにそれに答える。
「でも先生、ボディランゲージはしませんよ。」
「え……。」
弾かれたように望を見詰める少女に、優しく微笑む。
「あなたの定義ではボディランゲージというのは、愛のないセッ●ス
を言うのでしょう?
私達のは違うはずです。」
それを聞くと、可符香の頬はみるみる内にピンク色に染まっていった。
まるでウブな小娘のように頬を染め、コクコクと何度も頷いた。
513:4章⑨
07/09/22 21:53:09 QK20MM+m
しばらく見詰め合った後、望は気まずそうに告白した。
「ただ、先生。実は童貞で死んだのですよ。」
一瞬、可符香は石像のように固まった。
「あ、今微妙にジト目になりましたね!!20代なのにという表情
しましたね!!」
可符香は慌てたように口を開く。
「やだなぁ、童貞なんかじゃ……。」
「言わなくていいです!!天使とか妖精とか!魔法使いとか!言わ
なくていいですから!!」
ぐりぐりと手すりの棒の部分に頭を押し付ける望。
「そんな……腐らないで下さい。死人だからって。」
「うまいこといったつもりかあああああ!!!」
「先生、言葉使いが。」
可符香は笑いながら、ひょいと望の顔を覗き込んだ。
「私が先生を導いてあげます。先生も卒業式ですね。」
「う……何か釈然としませんが、お任せするしかないようですね。」
2人の唇がゆっくり近づいていき、出会う。
触れるだけの、軽いキス。
静かに2人は屋上の赤錆の目立つ手すり部分に座った。
望は喪服の背中に手を回し、ファスナーを開け、上半身を脱がせた。
夜の闇に白く光るような裸体と、神秘的な曲線を持った膨らみが露になる。
黒々とした闇と煌く白い肌がまるで、芸術作品のようなコントラスト
を描いていた。
望は一瞬、その美しさに見惚れた。
「綺麗です。汚れているなんてとんでもない。
あなたの体も魂も、手を触れる事すらためらうほどに美しいですよ。」
可符香は、望の手を取り自らの胸元に導いた。
「先生…うれしいです…。」
まるで骨董品のような乳房はしっとりとした肌触りで、
柔らかく手に押し返すような弾力がある。
望は、震える手でゆっくりと胸を揉み始めた
優しく2…3度ふくらみを揉み、チラチラと目を向けると、恥ずか
しそうに目を伏せる可符香の顔が見える。
514:4章⑩
07/09/22 21:53:55 QK20MM+m
「あぁ……なにか、不思議な感覚ですよぉ……。」
うっとりとした安心しきった表情を見せる。
望は少し緊張した表情で、胸に顔を寄せ、優しげな曲線の頂にある
小さな蕾を口に含んだ。
「ひゃう!」
突然素っ頓狂な声を上げて、可符香が跳ねた。
「ど……どうしました……??」
何か、間違ったことをしてしまったのかと焦る望。
「なんだか……むずがゆいような……電気が走るような。これは…
…うーんと、なんでしょうか?」
「そ…そんなに感じました?」
「感じ…る?」
可符香は、不思議そうにくいっと首を傾げてから、ああ!という
顔をした。
「『感じる』!これが、『感じる』という事だったんですね!
やはりボティランゲージとは一味ちがいますねぇ。」
望は思わず間抜けな顔で呆けた様になってしまう。
乳房を愛撫する手を止め、桃色に上気する少女の顔をまじまじと見詰めた。
「風浦さん、あなた……だって、1章~3章で『……あぁ…はぁーん』
とか言ってたじゃないですか?」
「あぁ…。あれ、言ってるだけですから。」
「言ってるだけ…??まさか………。」
「そういうふうに言うと、男の人って喜ぶじゃないですか。」
しれっとうそぶく可符香嬢。
「え…演技ですか!!ああ……絶望した!!
1章~3章のHシーンでハァハァした奇特な方がいたかもしれないのに、
絶望した!!」
頭を抱えながらも、望には分かっていた。
それは、可符香の防衛本能だったのだろう。
幼い頃から陵辱を受けていた彼女は、性行為における自己の感覚を
シャットダウンしていたのだ。
「あはは、やだなぁ、演技なんて。ホワイトライですよ。
ね、それより続きしてください。
なんだか、下も熱くなってきましたよぉ?」
(ああ……やはり、この娘は凄いです。)
望は暗然としながら、それでいてどこか嬉しい気分で、少女の喪服
の裾に手を入れた。
慌てて逃げ出してきたせいで、パンツは穿いていない。
叢の下に息づく花びらは、すでにしっとりと露に濡れていた。