07/09/28 23:12:04 XbcoJqKG
放課後の文芸部の部室。夕日を背に、古いパソコンに向かう。
カチリ、カチリ、カチリ、
右端の一際大きいキーを何度もクリックする。もちろん起動もしてない状態で押したとこで、
何かが起きるはずもない。もっとも起動していたとこで、アプリケーションの実行や、文章の
改行以上のことが起きるとは考えられないけどな。
カチリ、カチリ、カチ……
何度目か分からないクリックに重なって、部室のドアが開いた。
驚いて顔を上げると見慣れた顔があった。おそらく、いつまでも降りてこない俺を心配して
迎えに来てくれたのだろう。
「ああ、すまん。ちょっと確認したいことがあっただけだ。待たせて悪かったな、長門」
肩をすくめてから、脇に置いてあった鞄を拾い上げる。
長門はよほど待ちかねていたのか、わざわざ部屋の奥までやってきた。そして待たされた
不平不満をマシンガンのように矢継ぎ早に─なんてことは、それこそ起こるはずはない。
俺のすぐ目の前、手を伸ばせば届くところで立ち止まると、なぜか心配そうな顔をして、かと
いって何を言うでもなく、ただじっと俺を見上げてくる。
思えば、長門の顔を真っ直ぐ覗き込んだのは、あれから初めてのことだ。
何てことはない。
俺が本当の意味で目を逸らし続けてきた物こそ、目の前の少女だった。
そのまましばらく見つめあった。放課後の部室に、束の間の静寂が訪れる。
……先に唇を開いたのは俺だった。
その作り物のガラス玉のような穢れのない瞳に向かって、
「好きだ。付き合ってくれ」
脈絡もなく、いつかと同じ言葉を口にした。
夕焼けに染まった少女は、一瞬驚いたような顔をし、それから、夕日に負けないくらい顔を
真っ赤にして─小さく、だが、はっきりと頷いた。