嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その38at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その38 - 暇つぶし2ch126:名無しさん@ピンキー
07/09/05 20:46:37 DiGYr5Ua
しかし、言葉様のあの一途さに比べて、このSSのヒロイン共は
一途さが足りないんじゃないの?

127:名無しさん@ピンキー
07/09/05 20:48:57 AC4RQSBj
【審議中】
      _,.ヒXナ,、
 ( (  ,'´/~⌒^ヽ
    ( ll( ノハノ) )
     (リ( ゚ ヮ゚ノ∩
     (,,)つ()<iソ
     ,'´ソW厄ヽ  ) )
     `(ノ"i_ツ"´


128:名無しさん@ピンキー
07/09/05 20:50:13 lTp64vaP
【審議継続中】

マーマー ∧,,∧  ∧,,∧オマエラヤメ
 ∧∧(´・ω・)(・ω・`)∧∧
(´・ω・)  U) (U とノ(ω・` )ケンカイクナイ
|し U∧∧    ∧∧と ノ
 u-u( ・ω・)=つ);:)ω・`)  
    (っ ≡つ=つ⊂⊂) 
    ( /∪ バババ∪ ̄\_)
     オラオラ!!


129:名無しさん@ピンキー
07/09/05 21:03:59 rzdDnoVX

【審議中】
    |∧∧|       (( ) )(( ) ) ((⌒ )
 __(;゚Д゚)___    (( ) )((⌒ ) (( ) )
 |⊂l>>126 l⊃ |     ノ火.,、 ノ人.,  、ノ人.,、
  ̄ ̄|.|.  .|| ̄ ̄    γノ)::)γノ)::) γノ)::) 
    |.|=.=.||       ゝ人ノ ゝ火ノ  ゝ人ノ
    |∪∪|        ||∧,,∧|| ∧,,∧ ||  ボォオ
    |    |      ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
    |    |      ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
   ~~~~~~~~     | U (  ´・) (・`  ). .と ノ
              u-u (    ) (   ノ u-u
                  `u-u'. `u-u'

130:名無しさん@ピンキー
07/09/05 21:10:07 rNr1R1pB
-----------------┐┌---------------------------┐┌--------------
LIVE    【審議中】| | LIVE           【審議中】| |LIVE:::::::::::::【審議中】
  ∧,,∧        | | ∧,,∧          ∧,,∧   .| |::::::::::::::::::::::::::::::::::::
 (・ω・`)∧,,∧  ∧ | | ´・ω) ∧,,∧  ∧,,∧(・ω・`    | |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::
 ∧∧ (´・ω・)∧,,∧| |  ∧,,∧´・ω・)(・ω・`∧,,∧    .| |;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヘ⌒
( ´・ω)∧,,_∧(  ´・ | | ( ´・ω) つと  |  U (・ω・`)   | |   .ヘ⌒ヘ  (´・ω・
.U   (´・ω・`)    | | (  ´・) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ(・`  )  | |  (´・ω・`) ,ノノ川川
     (    )    | | (  ´・)/ 旦     旦 丶(・`  .| |  ノノ川川レ
      埼玉支部 | |      旦       旦NY支部 | |     火星支部
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                      ∧,,∧ zZZ
   ∧∧  .∧,,∧  ∧,,∧    (´-ω-`)    ∧,,∧   ∧,,∧   ∧,,∧
  (ω・` ) (´・ω・) (・ω・`)  ___(____)___ (・ω・`) (´・ω・`) (´・ω・)
  (  U)  ( つと) (   )  E======ヨ  (  U)  ( つと)  (   )
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  議 長  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
/______________|        |_____________ヽ
 ∧∧ ∧∧            |        |  ∧,,∧  ∧,,∧  ∧,,∧
( ´・ω)(ω・` )  ∧,,∧ ∧,,∧  ∧,,∧     ( ´・ω) (ω・` ) (´・ω・)
| U |と   (´・ω・)(´・ω・`)(・ω・`)  (  ´・) ∧,,∧ (・`  ) ( ´・ω)
(  ´・)  (・`  )|   U) ( つと ∧,,∧U)    | U (    ) |と   (


131:名無しさん@ピンキー
07/09/05 23:16:38 AbxXPm16
【審議終了】
            ∧,,∧     ∧,,∧
    ∧ ∧    (    )    ( ・ω・)
   (ω・ )     (  U)     ( つ日ノ   ∧,,∧
   | U       u-u       u-u     ( uω)
    u-u                    (∩∩)

        ∧,,∧      ∩ ∧_∧ 審議結果
        (・ω・')    ⊂⌒( ・ω・) 「はいはいわろす」
       ⊂∪∪⊃      `ヽ_∩∩

132:名無しさん@ピンキー
07/09/05 23:49:35 MnINOWTB
お前らの団結力に感動した

133:名無しさん@ピンキー
07/09/05 23:51:43 kkRM/let
火星支部ってどこだよwwワロタww

134:名無しさん@ピンキー
07/09/06 01:36:18 fmo5P3xA
ワロスwww

135:名無しさん@ピンキー
07/09/06 13:27:53 a210eGOp
クァー

136:名無しさん@ピンキー
07/09/06 13:56:44 UX3wkrGP
てか、1週間もSS投下がないなんて
黄金期が懐かしいのぅ

137:名無しさん@ピンキー
07/09/06 16:45:49 sYfotAcT
今日の木曜洋画劇場は嫉妬関連だってさ

138:名無しさん@ピンキー
07/09/06 22:53:12 wSjn/jyP
嵐の前の静けさ・・・

139:名無しさん@ピンキー
07/09/07 00:29:25 rEcGOC2f
最近のスレ鎮静化は
埋めてさえもらえなかった37,5(皆殺し)ちゃんが
次々と住人をSATSUGAIしている
と妄想した。
あれ…こんな時間に誰か来たみたいだ?
ちょっと行ってくる。

140:名無しさん@ピンキー
07/09/07 02:10:38 PEdv8nxI
このスレを愛して止まない住人なので、保守替わりに投下します(^-^)/

141:狂った世界の誕生日
07/09/07 02:13:12 PEdv8nxI
俺は今にも踊りだしそうな気分で帰途についている。
ふと油断すれば、にやけてしまいそうな顔を必死に抑えようとするものの、これからの事を考えるだけで叫びたくなる。
そう、年齢=彼女いない人生だった俺にもやっと春が来たんだ!!
誕生日が来るたびに妹から言われる嫌みの数々、例えば・・・。
「あらお兄ちゃん、今年も家族でお祝いですか?」
とか・・・。
酷い時は誕生日の朝、俺の顔を見るなり溜め息をつかれた事もあった。
確かに妹は可愛いと思う。
何度か仲介頼まれた事もあったし、兄の俺でさえドキッとした時が何度もある。
だけど、妹が付き合ってるとかいう噂は聞いたことがない。
そんな事考えているうちに家に着いたらしい。
鍵を取り出し、中に入ると玄関に妹がいた。
その様子からして、どうやら俺を待っていたのだと思う。
「お兄さん、早いお帰りですね。」
玄関に立っている妹は腰に手を当てて。
口の端がひくひくしている。
間違いなく怒っているのだろう。
「何してるんだ?そんなとこで。」
「な・・・」
顔に朱色が刺し、今度は青色に変わる。
器用なやつだ。
「ま、まぁ良いでしょう。」
コホンと少し咳をして間を置くと、俺をしっかりと見据えて続ける。
「問題です、今日は何日でしょう?」
「何日って・・・今日は8月8日・・・あっ!?」
あまりに嬉し過ぎて忘れていたらしい。
「我が家の決まり事は忘れてしまいましたか?お兄さん」
我が家の決まり事は数あるが、例外を除いて誕生日は可能な限り家族で祝うことなどが盛り込まれている。
「分かったのなら早く着替えて来なさい。」
「りょーかい。」
俺は服を着替える為に二階へと向かう事にした。
俺が着替えを済ませ、テーブルに着くとそこには普段以上に豪華な料理が陳列しており食欲が刺激される。
「うおお、豪華だなぁ・・・」
「当たり前です、私が作ったのだからこれぐらいは当然。」
「そういや親父達からは連絡あったのか?」
目の前に広がる料理にを堪能しながら尋ねる。
「はい、二人とも遅くなるそうです。」
「そか。」
あの二人はいつも帰りが遅いし、今更とやかく言うつもりはない。
そんな事を考えてると妹の顔が不意に勝ち誇った勝者みたいな顔になる。
そろそろか・・・。
「お兄さん、また今年も家族で誕生日祝いですね。」
きた!!!
今から話す事を聞くとこいつはどんな反応するか容易に想像できる。
きっと間抜けな顔しながら驚くのだろう。


142:狂った世界の誕生日
07/09/07 02:17:53 PEdv8nxI
「あ~それなんだけどな、来年から大丈夫だ。」
「え・・・?」
箸を握っていた妹の手が大きく揺れると箸がその手から滑り落ちる。
「ど、どういうこと?」
バンと強くテーブルが叩かれ、皿が音を奏でた。
うむ、予想以上に動揺しているな。
「彼女が出来たんだ。」
妹は一際目を大きく開くと言いかけた言葉を飲み込むと、静かに顔を俯かせ、テーブルを見つめた。
「だから、来年からは心配する必要ないからな。」
これでやっと愚痴から解放される。
なんと素晴らしい誕生日なのだろうか!!
「・・・相手・・誰なの?」
依然顔は俯かせたままで、小さく呟く。
「あ、ああクラスメートの川島さんだよ」
「ぃゃ・・・」
「え?」
「いやあぁぁぁぁ!!」
子供の様に体を丸め耳を塞ぎながら叫び続ける。
普段の妹からは想像できない程の動揺ぶりに俺は内心焦っていた。
何が原因なんだ?
分からない。
とりあえず今は妹が先だ。
「おい、落ち着けって!!」
「お兄さんが取られる・・・いゃ、いやあああ!!!」
無理やり妹を立たせると、正気に戻ってくれる事を願いながら頬をビンタする。
乾いた音が鳴り響くと共に叫び声が止んだ。
俺は妹が元に戻ったか確認する為に瞳と瞳を合わせる。
恐怖・・・。
妹の瞳を見たとき直感でそう感じた。
いや、恐怖という言葉しか浮かばなかった。
男女共に魅了して止まないあの美しい瞳ではなく、濁った瞳。
そう、これは死んだ魚の濁った瞳に非常に酷似している。
その濁った瞳が俺を見つけるとニタリと笑う。
「ねぇお兄さん、お兄さんはずっと私と居たら良いのよ。」
妹の手が妖しく俺の頬を滑り唇辺りで動きを止める。
本来ならば嬉しい筈の行為なのだが、俺には死神が手を延ばしている様に感じてならない。
目の前に居るのは本当に妹なのだろうか?
「ひぃ・・・」
反射的に後ずさった俺は壁にぶつかり動きを阻まれる。
妹が一歩また一歩と俺に近寄る、本能は逃げろと警鐘を鳴らすのだが体が動かない。
やがて、目の前に妹背中に壁と完全に退路が絶たれた状態になった。
「お兄さんは騙されてるのよ。」
妹は必要以上に接近し、妹との距離が数ミリになる。
「ひっ・・・」
妹は濁った瞳のままニタリと笑いながら、太ももを俺の足にこすりつける様にして強く抱きつく。


143:狂った世界の誕生日
07/09/07 02:21:11 PEdv8nxI
双丘はいびつに形を変え妹から漂うシャンプーの匂いが否応無しに本能を刺激する。
「・離れ・・ろ」
「そっか、アイツが邪魔してるのね。」
妹は急に離れると、背中を向けながら続ける。
「私ね分かった事があるんだぁ。」
「・・なにが・・だ?」
余りにも日常から離れた恐怖に、気が遠くなりながらも堪えて聞き返す。
「私と兄さんの邪魔する雌猫はお掃除しないといけないよね?」
雌猫?掃除?
一体何を、言ってるんだ?
「それじゃ、行ってくるね。」
台所から出てきた妹の手には鈍い輝きを放つ包丁が握られていた。
「・・・何をするつもり・・なんだ?」
妹が笑った。
今までで見たことがない最上の笑いで、ただ一言だけ紡ぐ。
「お掃除よ、お 兄 さ ん 」
俺はただ妹の背中を見ている事しかできなかった。
やがて、妹の背中が視界から消え同時に俺は得体の知れない恐怖から解放された為か、気付けば涙を流していた。
誕生日、それは皮肉にも壊れた世界の始まりとなった。
きっと、俺はもう抜け出すことが出来ないだろう。
そう、それはまるでメビウスの輪みたいに・・・。

144:名無しさん@ピンキー
07/09/07 02:25:35 PEdv8nxI
以上です、お目汚しすいません。。
暇つぶしにでも楽しまれたら幸いです。

「草」の作者様、いつも楽しみながら読んでます。
ゆえ可愛いよ、ゆえ(σ・∀・)σ


145:名無しさん@ピンキー
07/09/07 02:44:11 s8gg/TFw
GJ!!!やっぱキモウトの嫉妬はいいねー

146:名無しさん@ピンキー
07/09/07 03:56:51 rEcGOC2f
>>144
たいへんありがたいです。
乙です。

147:優しさと愛しさの不協和音 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:31:47 QBLImUXW
久しぶりに投下します
ちなみにタイトルは苦しくて(仮)じゃなくて
以後「優しさと愛しさの不協和音」でおねがいします


148:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:35:33 QBLImUXW
ぼくがいて、かのじょがいて、かーさんがいて、とーさんがいて、おばさんがいて、おじさんがいて。

だけどあのひから、そうあの時から僕の世界は真っ暗になった。
前が見えなくて、昔に戻りたくて、母さんが恋しくて、
誰かに甘えたくて、だけど誰も傷つけたくなくて、僕はそんな世界に閉じこもってしまった。
「ゆーくんあそぼ?」
「ゆーくんごはんたべないとだめだよ?」
僕を心配する彼女の気持ちを軽く見て、誰にも僕の気持ちはわからないと決め付けて。

そしてとうとうある日、僕は決定的に彼女を傷つけてしまった。
その時になってやっと気づくのだ。
僕が母さんの事で苦しんでいたように、彼女も僕の事で苦しんでいたのだと。
まだ幼かった僕はそんな事にも気づけずに、ひたすら彼女を傷つけていた。
いや幼かったなんて言い訳にならない。
自分が傷ついていたからといって、誰かを傷つけていいはずがない。
そんなことに僕は初めて気づいた、いや気づかされた。

だから僕にとって彼女はひたすらに大切な存在なのだ。


149:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:36:54 QBLImUXW
------------------------------------

小鳥がさえずり、目がまどろみ、頭がぼーっとする。
なんだか変な感じで目覚めてしまった。
窓の外はもう明るくて雲ひとつない晴れ晴れとした空だ。
いつもは朝が弱くて目覚ましも効かないから、直に起こしてもらっているというのに
今日はなぜか早起きしてしまった。
なんだか目の辺りに違和感を覚えて触れてみると、水滴がつく。

「涙?」

よく小説なんかで悲しい夢を見ると涙を流すシーンがあるが、僕は悲しい夢でも見たのだろうか?

わからない

ただ昨日の裕美が見せた寂しそうな笑顔が気になって、感傷的になってたのかもしれない。
僕にとって裕美は大切な人なのだ
それに嘘偽りなどない。

だから裕美がなぜ寂しそうにしてたのかはわからないが、僕にとっては気にかかることだったのだ。
だけど悲しいことに僕に他人の感情は掴めない。
考えを理解できない。
鈍いのだ、決定的に他人の感情に。
こういうときそういうのが恨めしい。
彼女の考えてることがわかれば、助けて上げられるというのに。


150:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:37:35 QBLImUXW

「兄さん?もう起きてたんだ?」

ふと考えにふけっていると、いつのまにか部屋の中に直がいた。
というか僕が一人で起きてることに驚いて、開いた口がふさがらない様子だ。
そんなに僕が一人で起きたことが信じられないのかと、少しショックを感じながらも
直に僕の感情を悟られないように、少し声を明るくしながらベッドから降りる。

「おはよう直。そんなこんなに晴れなのに今すぐ雨が降るなんていうような顔しないでよ。
 僕が起きてたことがそんなに珍しい?」

直も立ち直ったように見えて、まだまだ完全には立ち直れてないのだ。
こんなことで直を心配させてはいけない。

「うん。兄さんってこの世が終わっても一人じゃ起きれない気がしたから。」

なんか直が言うとそれ冗談に聞こえないぞ?
というか朝には弱いが、目覚めはいいほうだぞ僕。
というかなんでそんな残念そうな顔してるんですか直さん。
僕が起きてた事がそんなにショックだったんですか。
それって兄としての威厳を尽くつぶされる感じがするんですが。

「っとこんな事言ってる場合じゃないね。せっかく早く起きたんだし、余裕をもって学校に行こう。」

そういいながらまだ残念そうな顔をする直を半ば強制的に部屋の外に出すと、僕は着替え始めた。



151:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:40:01 QBLImUXW
------------------------------------------

教室に着くと、いつものように須藤が現れる。
それもいつものように呪いの言葉付で。

「よっ、優磨。憎いね色男。今日も美女二人を引き連れて登校ですか。」

とか大声で言ってくるのだ。
僕としてはたまったものではない。
そのたびに教室中の男子から憎しみと嫉妬が混じった視線を受けることになるし、
隣の裕美は裕美でなんか恥ずかしそうにするしで居心地が悪い。

というか裕美、そんな態度とられるととっても困るんですが。
なんだか僕が直と裕美に二股かけてるダメ男みたいじゃないか。
全く須藤じゃあるまいし、僕に二股する勇気もできるような顔も持ってない。
そんなことを思いながらも自分の席に着く。
須藤が僕の後ろの席なのが恨めしい。

まあ裕美については昨日の出来事だったのでいつものように心配していたのだが
家から出たとき、裕美が待っていてくれたのだがいつものような笑顔で

「おはよう、優磨君。」

と言ってくれたので安心したのだった。

やっぱり彼女は僕にとって大切な人だから、笑って隣にいてほしかったのだ。
とはいっても裕美は大切な幼馴染ではあるが、恋愛対象ではないし、
義妹の直についてはいわずもがなだ。
まさかいくら血がつながってない美人の義妹とはいえ、漫画や小説じゃあるまいし
恋愛対象になるはずがない。

152:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:40:52 QBLImUXW
全く須藤のやつ、僕の考えてることを見透かしてるくせにこういうとこ面倒なんだよな。
なんか昨日とか起きてすぐとか、須藤に相談でもしようかと実は悩んでいたのだが、
こいつにわざわざ餌を与える必要はない。
与えてしまったが最後また僕はクラスで針のムシロになるのだ。

というか僕こんなやつに相談しようとしたのがあってるのか心配になってきた。
須藤のやつ何を考えてるのかわからないくせに、時々妙に鋭いことを言って密かに尊敬したりするのだが、
そんなに鋭いのなら女の子の気持ちくらい気づけという話だ。
毎年のようにあんな悲劇にあっちゃ僕の身が持たない。
それともあいつ女の子の気持ちを知りながらもあえて受け流しているのか?
それならそれで幻滅する話だが、なんとも掴めないやつだ

それでも付き合っているのはあいつといるのが気楽なせいか。
クラスのみんなは用がないのにべらべらと世間話をし、放課後になると毎日のように街へ繰り出す。
それが悪いとは言わないが、いかにもうすっぺらすぎて僕にはあわない。
どうでもいいような周りと話すのは最低限にしたい。
もちろん大事な人である裕美や直や詩織さんや父さんとの何気ない日常は大切だ。
だけどそれをどうでもいいような他人に適用できるかといえば、僕には無理だ。
せいぜい世間話をして、笑顔で周りと合わせるだけ。

須藤もそこらへん同じなようで、みんなのまえでは僕を困らせてはいるが、基本的に僕個人には興味はない。
だから僕と須藤二人きりになると会話はない。
会話する必要がないほど仲がいい、以心伝心とか言葉がある。
だけれども僕と須藤の仲は逆だ。
会話しなくていいからこそ仲がいい。疲れないでいい。
だから僕と須藤が二人きりになってるところを見た人が言うには
「お前らの空間はいれねえ」「須藤君と弘瀬君ってあれなの?」「三角関係?ってもえるねー」
とかいわれてちょっと顔がひきつったことがある。
あれ以来あんま二人きりにはならないようにしてるが。

153:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:41:33 QBLImUXW
------------------------------------------------

いつものように昼休みを裕美と直と須藤といっしょに屋上で食べた。
またいつものようになぜか裕美と直がかみ合わないのはちょっと諦めていた。
裕美が
「今日のも食べて」と箸であーんとしてくるし、
直はちょっと不機嫌な顔で
「兄さん」とか言ってくるし、
須藤は須藤でいつものように、全てを見透かしたようなすました目で笑いを堪えていた。

ちょっと個人的には勘弁してもらいたい状況だったけど、昼休みの恒例行事にでもなってしまうのだろうか。

まーそれはいいとして
本題は帰りのホームルームだ。
全く勘弁してほしい。
今は二学期で、僕らは二年生で、来年受験だから今年ちゃんとしたものがしたいのはわかる。
それで劇をしようといったのもわかる。
わかるのだが勘弁してほしい。
配役を決めるとき僕は主役になった。
気乗りしないが主役になった。
だがそこまではいい。問題はそこからだ。
いくら僕が女顔で、いくら須藤と仲良く見られてるとはいえ、なぜ須藤を主人公の男役で
なぜ僕が「ヒロイン」役なのですか。
しかも一部の女子は妙に熱っぽい目で僕と須藤を見くらべてるし、須藤は須藤でまたいつもの笑いをしているし、
一部の男子と女子は哀れんだ目で僕を見てるし、裕美は少し思いつめた目で僕を見ている。

僕が一体何をしたんだ。なんでこんなことになるんだ。
というか須藤とラブシーンなんて想像しただけで吐き気がするし怖気がする。







神は死んだ


154:優しさと愛しさの不協和音3 ◆3t1YD77Mg6
07/09/07 09:42:55 QBLImUXW
投下終了です
久しぶりに投下しました
これから微妙に修羅場を計画してます
でも今回もまだ修羅場ないです
すいません

155:名無しさん@ピンキー
07/09/07 21:27:28 6EBv+bwl
GJ

156:名無しさん@ピンキー
07/09/08 00:00:11 WugRgcj+
gj

&草町wktk

157:名無しさん@ピンキー
07/09/08 00:16:30 Y/sdnknM
ようやく言えるGJ

158:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:17:26 3tw8LxCW
投下します。

159:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:18:01 3tw8LxCW
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +



 夕陽に照らされ、暮れなずむ王都に聳えるジウ改め、ヒラサカ国本城。

「ウォーレーン地方にリザニアからの使者が来たようだ」

 来たか、…予想より少し遅かったな。

 先の騒乱でヒラサカの手に落ち、女王直々に国が誇る辣腕宰相に任命されて一月半。執務室にて部下
数人と書類の処理を行っているデコーズが、判を押しながらそう言った。

「向こうの話では君に用らしいが、今度は何をしでかしたのかね?」
「以前の所属がリザニアだった。それだけだ」
「ほう……独立した、という事か」

 素知らぬ顔で答える私に対し、おおよそそんな所だろうと思ったよ、と、デコーズ。

「しかしまあ、君も大概その手のやり口が好みだな。全く恐れ入る」
「意味の無い犠牲は国を弱らせる。血を流すだけが戦ではないだろう」
「確かに、それは同意せざるを得まい」

 忙しなく書類を捌く両手とは裏腹に、彼の顔は至って涼しげだ。私が見込んだだけあって、戦後処理
による連日の労働を物ともしない余裕振りである。

「さて、それで結局どうするかね」
「行って来よう。まだ時間は掛かるが、ここの復興はお前とユエが居ればとりあえず回る」
「なるほど、では出掛ける前に女王陛下への許可は君自身が取ってくれたまえ。我輩や他の者が言った
ところで、聞く耳など持つまい」

 自国の足場を固めるまでの間は、警戒は怠らずとも、他方への侵攻もしばらくは控えた方が良い。ウ
ォーレーンの様子見も兼ねて、今が時期的にも安定している。

「わかった。……ところで、用とは具体的に何だ」

 相変わらず目線を書類に走らせているデコーズに、私はそう尋ねた。あちらも子供の使いという訳で
もなし、それぐらいは聞き及んでいるだろう。

「同盟の誘い、との事だ。…が、事情を聞いた限りでは君を指名する辺り」

 言葉通りに受け取るのは如何なものか、口にせずともそう言っているのがわかる。

「くれぐれも気を付けたまえよ」
「ああ」

 そんな短いやり取りを終えると、私は使者の待つウォーレーンへ向かうべく、執務室を後にした。



「お待ちしてました、アレクサンドロ殿」

 こいつか…。

160:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:18:36 3tw8LxCW
 準備を整え、ジウ地方から馬を飛ばして約四日。城の応接間で私を待っていたのは、リザニアの外
交官の一人、ハーマイン。
 エイブル将軍率いる軍においても時に参謀役として働き、武力優先なリザニアの将兵には珍しい頭
脳担当の男。イスト、イストリア属国化の際にも各種手続きを手伝う為に現れたりと、記憶に残って
いるのは専ら各地を奔走する姿だった。

「最後に会ったのは、あなたがあの方へ報告をしに行った帰りでしょうか」
「そうだな」

 再度軽い会釈をしてくる相手に、こちらも愛想程度に付き合う。
 ここの城主を任せていたツガワに頼んだお蔭で、辺りに他の人間の気配は無い。室内には私と護衛
に連れて来たタルワール、そして目の前のハーマインのみ。

「話を聞いてここに居るものだとばかり思っていたのですが、ご足労頂き申し訳ありません」
「前置きはその辺で良い、用件を言ってくれ」
「……わかりました」

 互いに世間話をしに来たわけではない。挨拶を続けようとするハーマインに対して先を促すと、向
こうも折り込み済みなのだろう、入室時からの真剣な面持ちのまま一つ頷く。

 さて、一体何を言いに来たのか。

「アレクサンドロ殿、リザニアへ戻るつもりはありませんか?」

 彼の口から出た台詞は、私が予想していた幾つかの内容に当て嵌まるものだった。

「無いな。少なくとも、この場で戻るのは有り得ない」
「それは我々の敵に回ると、そういう事でしょうか」

 敵、その単語一つで、どちらからともなく不穏な雰囲気が漂う。

「現段階ではそれも無い。例え今リザニアへ攻め込んだ所で、特に旨味があるとは思わん」
「つまり、いずれは攻め込むと?」
「あの将軍に隙が出来ればの話だが、どうだかな。逆にこちらへと攻め込むならば、迷わず剣を執ら
せてもらおう。
 ……要するに、以前のウォーレーンと概ね変わらない、不可侵状態だ」

 問い掛けに対して、半分本音で答える。
 そんな私の返事もとっくにお見通しなのだろう、ハーマインはやはりといった表情で、ソファに浅
く掛けていた腰をゆっくり据え直した。

「仕方がありませんね。それでは当初の目的通り、改めて同盟の申込をさせて頂きましょう
 まず内容についてですが…」
「…ちょっと待て」

 さり気なく発せられた言葉に違和感を覚え、咄嗟に続きを遮る。……当初の目的?

161:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:19:22 3tw8LxCW
「聞くが、さっきの話はお前の独断か」
「はい」

 真顔のまま、将軍の指示を受けてやって来た筈の使者は、はっきりとそう答えた。
 命令違反。与えられた職務は意にそぐわぬものでも忠実に実行する、ともすれば私の体裁用の外面
よりも地で生真面目なこの男が。

「…話術の一環として、とうとうジョークを覚えたか」
「冗談を口にした覚えはありませんし、覚えようと思っても、あれだけは未だに理解出来ません」

 だろうな。

 その驚くほどの生真面目さ故に、言葉遊びはともかく、軽口や冗談の類が全く通じないのもまた確
かな話。一切余分の無い理路整然とした交渉が売りなだけあって、ハーマイン本人もまた、遊び心を
何処かへ置き忘れた様に融通の利かない性格と認識している。

「考えてみれば、普段からいきなり本題に入っていたお前が、あれだけ前置きをしたというのも珍し
い。…どういう風の吹き回しだ?」
「国内、特に西側での情勢が芳しくありません。要であるエイブル将軍に、以前の様な活力が失われ
てしまいました」

 唐突に。

「あなたのせいです」

 ハーマインが、硬質な声でそう言った。

「おいおい」

 他国の将に自らの弱みを晒す様な発言をするのも驚きだが、その内容もまた衝撃的である。リィス
隊長等ならいざ知らず、よりにもよってあの将軍がやる気を失っている、と。

 ………ほう。

 センスの欠片も無い、冗談にもならない戯言だとしたらまだ聞き流す事も出来た。
 しかし、反射的に覗き込んだハーマインの目、その瞳の奥底には、どんな嘘の思念も感じ取れない
。視線を通じて心を読んだ私にとって、それは何よりも決定的な事実を意味していた。

 将軍が演技をしていて、こいつが真に受けたのだとしたら話は別だが。

 そんな事をするメリットがそもそも無い。

「幸い、今はどうにか落ち着きを取り戻しています。とは言え、本調子には程遠い状態ですが」
「それがどうした。まさか私を情で釣ろうとなどと思ってるわけではないだろう」
「将軍にそのつもりは無いようです。プライドの高い人ですから」

 まるで、自分はその限りではないと言わんばかりの口調。

162:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:20:14 3tw8LxCW
 …ああ、成る程。

 強い意志を込め、真っ直ぐにこちらを見据えるハーマインの目。私の思考は、そこでようやく一つ
の結論に至った。

「つまり、提案者はお前。今日までの間は、渋る爺さんを説得する準備期間だった訳か」
「そうなります」

 白々しい態度で頷く外交官。……面白い。

「意外だな。もう少し固い奴と思っていたが」
「時と場合によるかと。あなたのような相手ならば、特に」

 どんな事を喋ったのか、このとんだ食わせ者のせいで、爺は既にヒラサカへの戦意を殆ど失いかけ
ているらしい。

「同盟を結びましょう、アレクサンドロ殿。大陸を自分の手にする為に動いているあなたにとって、
決して損は無い条件を用意します」

 ソファから立ち上がり、こちらへ向かって、そっと片手を差し出すハーマイン。

「エイブル将軍が同じ理由で居るとしてもか」
「先の事など、誰にも分かりはしません。それならば、現状において、より有利な方向へ運ぶべきだ
と思います」
「リザニアとヒラサカ、双方が凌ぎを削るのは無益だと?」
「わたしには、あなたが裏切った最初からそう示唆しているように見えました」

 不意に、喉から笑いが零れる。

「わかるか、お前も」
「あの方と比べても、あなたは大分捻くれてます。…今のリザニアは、あなたの的になりますか?」

 いいや、射程にはまだ遠いさ。

「くくっ…」

 仕掛けた見えざる罠を察知して、己が身と共に釘を刺す。流石は知将といったところか。

 隙あらば取り込んでやろうと思っていたのだがな…。

 他の邪魔者を排除したければ、互いに協力する価値がある。内々に仕込んだ手を尽くして、もっと
切羽詰まらせてから持ち掛けてやるつもりだったが、やはりそこまで甘くはない。

「……?」

 首を小さく傾げ、横に立ったきり、さっぱり話の流れに付いて行けてない様子のタルワール。
 キルキア大陸統一同盟。ハーマインの提示した矛盾を孕む題に、私は言葉ではなく、笑みと握手を
以って返した。

163:「草」 ◆yNwN3e7UGA
07/09/08 02:23:59 3tw8LxCW
投下終了。最近サンドロの言動が大人の嘘まみれです。

164:名無しさん@ピンキー
07/09/08 02:26:06 WnTqa87S
>>163
GJ!
スレ開いたら投下真っ最中なんて・・・今日は良い事があるに違いない

165:名無しさん@ピンキー
07/09/08 02:36:55 u35E/sly
GJ!!
今回は野郎ばっかだったけど二人の駆け引きがかっこいい!
このスレじゃやっぱメインは女性だけど男性でも魅力的なキャラを作れる作者の素晴らしい才能に嫉妬w

166:名無しさん@ピンキー
07/09/08 02:40:01 Y/sdnknM
ひもじい時に食べるご飯ってなんでこんなにおいしいんだろ
GJ

167:名無しさん@ピンキー
07/09/08 03:03:32 UY0sCEYW
GJ
同盟か、「彼女達」はどう動くのかな?

168:名無しさん@ピンキー
07/09/08 23:32:11 dL4frbSN
昼間に書き込みなしかよ!!!!!

169:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:49:15 An7luKAf
これより投下します。
今回から新しいタイトルということで、前回のとき同様まずはガイダンス的なものから。

 このお話は Bloody Mary の三つ目のお話に当たります。
例によって初見の方を度外視して書いてしまっているので、
先に1st、2nd containerをお読みいただくことをお勧めします。
なお、その上でもし「気に入った」という奇特な方がいらっしゃいましたら、
『ぶらっでぃ☆まりぃ』にも目を通してもらえると後々いいことがあるかもしれません。


では投下開始。今回は導入部のみになります。

170:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:50:07 An7luKAf

 人というのは他者と切り離して生活しない限り、どうあっても思う様生きるなんてことはできない。
人間は生きていく過程で常に必ず何かと折り合いをつけて妥協している。
それがたとえ貧困に喘ぐ者であっても、富める者であっても。
―大陸指折りの大国を統べる、一国の主であったとしても、だ。

 正直に言えば、自分の立場に絡み付くしがらみにウンザリしていた。
政略結婚で娶った妻にも。僕を心の底から憎んでいる弟にも。神でも崇めるかのような眼で見つめてくる民たちにも。
日々生きることで精一杯な人たちから見れば、贅沢な悩みだと言うだろう。いや、自分でもそう思う。
それでも―唯一安らげるのは、"彼女"の存在だけ。そう思っていた。

 だから彼女をダシに、それらを切り捨てた。
何より一番大切だから……そう言っておきながら、その実は彼女を利用しただけなのだ。
ただ、自分が国を束ねる重責から逃げたかっただけなのだ。

 そうやって皇帝の座から逃げ出して、初めて気付いた大切なもの。
あれだけ嫌がっていたしがらみの中にこそあった、その大切なものを捨ててしまったことに僕は後悔した。

だけどもう一度拾いに戻るためには、かつて最も大切だと言った彼女を置き去りにしなければならず。
かと言って一旦気付いてしまった大切なものを、そのまま捨て置くことも到底できず。


 だからこれは、どちらも捨てたくないと欲張った結果なのだ。







 霞む視界。ぼんやりした頭に響く馬の蹄の音。
体温は既に自覚できるほどにまで下がっているというのに、脇腹だけはまだ依然として燃えるように熱い。

「はぁ…っ。はぁ…っ」

 滴る冷や汗を拭う。
馬の背で揺らされる度に傷口に響き、その都度激痛が全身を襲う。

「そろそろ……国境か……」

 そう呟くと、一瞬だけ気が抜けて危うく失神してしまいそうになった。
脇腹に手を当てる。一際強い痛みが脳髄を駆け抜けて青年は目を細めた。

その痛みを引き金にして、泣いている少女の顔が脳裡に浮かぶ。
瞬間的に来た道を引き返したくなったが、ぐっと手綱を握って振り返るのを堪えた。

(戻って何の意味がある?どっちに行ったって裏切り者のくせに)

「あ……?」
 地平の向こう。
かすかに見え始めた建物を目にして彼は弱々しく声を上げた。

171:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:51:49 An7luKAf









 大陸の勢力を二分する、北の北方大教国と南のグレイル帝国。
その大国同士が戦争を始めて早三年が過ぎた。
当初は帝国が優勢だったこの戦争も、今や帝都にまで敵軍の手が伸びようとしていた。

 そんな中、帝国側に立ちこれまで何度も国を助けてきた一人の傭兵が、辺境の駐屯地でひとり酒を煽っている。
その男はまだ二十歳前後だったが、体格の大きさと強面のせいで実年齢より上に見られることが間々あった。
だが屈強なその肉体に反して、今の彼の瞳はあたかも死人のように濁っている。

「…んぐ……」
 生気の宿らない瞳で酒を喉に流し込む。
男は、本来ならば国に貢献した人物として称えられるべき者だった。だが今の彼の表情にその頃の面影は少ない。

 グレイル帝国、北西の国境駐留警備。
帝都の貴族連中に煙たがられ、追い出されるようにそこの警備を任されたのが彼の部隊だ。
大してすることもなく、ただ苛立つ毎日。戦争中にも関わらず戦いに駆り出されないのは、男にとってこの上ない屈辱だった。
本当の戦火はもっと東なのだ。

 敗戦寸前でも己の兵力を―傭兵とはいえ――遊ばせておくってことは、よっぽどオレたちを帝都に呼び戻したくないらしい。
ただでさえ皇帝不在で国が不安定だと言うのに……あいつらは自分の国が蹂躙されることになってもいいのか?

 募る苛立ちを抑えきれず、男は八つ当たりするように空になった杯を机に叩きつけた。

「…くそったれが」

 『剣帝』とまで謳われ、先頭に立って国を率いていた皇帝が行方を眩ませておよそ一年。
 兵士たちの士気の源になっていた彼を失い、戦争は敗退の一途を辿っている。
国を統率する為政者とはいえ、たった一人の人間がいなくなるだけでこうも見事に戦況が逆転するとはあまり考えられない事態だが、
これには別の、もうひとつの理由がある。
 皇弟を始めとする一部の貴族連中が、皇帝不在に託けて自分の国を食い物にしているのだ。
それでは勝てる戦いも勝てないというものだろう。
それに皇帝が姿を消したせいで皇妃の気が触れてしまったことが事態を更に悪化させている。
…帝国が滅ぶのは時間の問題だ。

「何処行ったんだよ…お前は」
 呟くように、消えた戦友に問いかける男。

 ただの一傭兵だった彼を引き抜き、自分の傍らに置いて共に戦うように言ったのが皇帝だった。
傭兵と皇帝。身分こそ大きく違うが、幾多の戦いを重ね二人は親友と呼べるまでの間柄になっていた。

 その皇帝が行方不明になったのは戦場ではない。…城内なのだ。
戦場であれば人知れず命を落とした可能性も考えられるが、帝都の…しかも城内で行方を眩ませたのは不可解すぎる。
しかもあれほどの男が、安易に暗殺なり誘拐なりされたとは考えられない。

……とすれば不慮の事故か、自分の意志で蒸発したか。
最後に目撃されたのが城内だとすると、後者の可能性の方が遥かに高い。

――なら、何故オレに一言も言わなかった。
 男はもう何度脳裡に浮かべたか知れない問いを、戦友に投げかける。

172:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:54:16 An7luKAf


「ふぅ……」
 これも今日何度ついたか解らない溜息。
もはや男にできることなど何もなかった。


皇帝が消えたせいで既に帝国は虫の息だ。

……このまま、帝国が滅ぶまで此処で腐っているんだろうか。
僻地に飛ばされてから既に半年以上が経ち、男はすっかり意気消沈していた。
沈んだ気分をアルコールで誤魔化そうと、再び杯に酒を注いでいたとき。


「隊長ッ!!」

 部下のひとりが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
その騒々しさにも大して驚かず面倒くさそうに一瞥する男。

「あん?なんだよ」
「そ、それが……それが……」
 かなり興奮しているらしく、部下は言葉を何度も詰まらせる。
その様子を黙って見ていた男は鬱陶しげにチッと小さく舌打ちしてから「早く言え」と急かした。


「陛下が――皇帝陛下が見つかりました!!」


「………ハァ?」
 あまりに突飛な部下の発言に一時的に思考が固まる。だが、それも一瞬。
次の瞬間には冷や水でも浴びせられたかのように椅子を蹴飛ばしていた。
一人の青年が別の部下の肩を借りて部屋に現れたからだ。
脇腹を庇うようにして姿を見せたその青年。多少顔色は悪かったが、間違いなく一年前に行方知れずになったグレイル帝国の皇帝だった。

「ガラハドッ!?」
 部下を押しのけて、土気色した青年の肩を担ぐ。
「テメェ、今まで何処に居やがったんだよ!
戦時中だってときにフラッと消えやがって―いや、今はンなことよりも……」
 彼に訊きたいことが山ほどあった。だが、青年が脇腹に負っている傷を見て男は口を噤む。
頭を切り替えてすぐに診療所に足を向けようとした刹那。
「待った……ベイリン。
手当ては要らない。それよりも―」
 やっと青年の口を開かせた言葉は、とても正気の沙汰とは思えないものだった。

「バカかッ、さっさと手当てを………って…おい、これ…」
 青年を叱責しながら担ぎ直した拍子に、彼の怪我の不自然さに気付いた。
「この傷、いつのだ…?なんで今まで放ったらかしにしていた!?」
 真っ赤になった彼の衣服に触れても自分には全く血が付いていない。
衣服に付着している血は、表面的には大部分が既に固まっている。負傷してからどれだけ時間が経っているかを想像して、男はゾッとした。

「いいんだ……これは。
……気軽に塞いでいい傷じゃない」
 息も絶え絶えで男にそう答える青年。
怪我自体はそれほど大したものではなかったが、手当てせずに放置していたことで青年の体力を根こそぎ奪っていた。

173:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:55:00 An7luKAf


「それよりベイリン。
済まないが、馬車を用意してくれ。帝都まで戻りたい」
「ざけんなっ!だから手当てが先だろうがッ!」
 青年の無謀な申し出に、彼が手負いなのも忘れて怒鳴り声を上げた。

「…時間が惜しいんだ。もう帝都のそばまで前線が下がってるって聞いたぞ?
議論している暇なんてない」
 死に体の身体にも関わらず、鋭い瞳で男に訴えかける。
彼が頑固者であることを知っていた男はその眼を見て説得を諦め、「くそ」と悪態をついてから部下に馬車を用意するように命じた。

「…ありがとう」
「但し、馬車の中で手当てを受けさせるからな。それが条件だ」
 自分を担ぎ上げる男を見ながら、青年はフッと力なく笑った。



「…だけどよ、その傷。誰に付けられたんだ?」
 男が青年に問う。
男の知る限りでは、青年を手負いにさせるほどの人物に心当たりがなかった。
いかに過酷な戦場であろうと、彼がかすり傷すら負うことはなかった。だからこそ『剣帝』と呼ばれているのだ。
敵国のどんな名将をも一太刀で屠ってきた青年を傷つけることができる者など、この世には存在しないと数分前まで確信していたのに。
男は不思議でたまらなかった。

「ははっ……剣を握ったこともない、ただの侍女だよ」
 青年が掠れた声で答える。
肩越しに青年の顔を覗くと、彼は少し淋しげな表情をしていた。

「本当に、戦い方なんて何も知らない……ただの女の子だよ……」

 男は、自嘲気味に笑う青年の言葉に耳を傾けながら。
皇帝と同時期に姿を消した、使用人の少女の名を思い出そうとしていた。





 こののち。
落城寸前だった帝国は、皇帝が帝都に戻ってから約半年で敵国の猛攻を退け。
両国の痛み分けで戦争は終結することになる。


―――――そして、時が流れて………

174:Bloody Mary the last order 『prologue』 ◆XAsJoDwS3o
07/09/08 23:57:38 An7luKAf
以上。
第一話とセットで投下する予定でしたが、
一話がかなり長くなってしまったのでそちらは次の機会ということで。

今までに増して亀更新になるかと思いますが、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

175:名無しさん@ピンキー
07/09/09 00:04:16 muG8djL1
まつでよ

176:名無しさん@ピンキー
07/09/09 00:04:47 NT5V31JW
GJ!!
再開は嬉しい限りです、これからも頑張って下さい!

177:名無しさん@ピンキー
07/09/09 01:35:46 wH7eiGnZ
何ヶ月でも待つよ。
GJ。

178:名無しさん@ピンキー
07/09/09 03:25:00 bzTuFa0L
ブラッディマリーが!!
待ちますとも、いつまでも

179:名無しさん@ピンキー
07/09/09 10:46:16 DvJn5fBH
侍女の名前はアイスソードだな

180:名無しさん@ピンキー
07/09/09 12:18:01 FOO1luca
ころしてでもうばいとる

181:名無しさん@ピンキー
07/09/09 12:50:33 HXl4Odko
貴方を待って毎日スレを見ていたんだああああああああああああああああ!!111111111


182:名無しさん@ピンキー
07/09/09 17:36:57 kj/kyHAx
ブラッティマリーキタ━━(゚∀゚)━━!!
GJ!続きwktkして待ってます!

しかし…皇妃の気が触れたとか侍女に刺されたとか…
業の深いことでw

183:名無しさん@ピンキー
07/09/09 18:54:21 LoH60/Mj
しかし同作品で二人の修羅場体質な男が出るのは初めてじゃないかね

184:名無しさん@ピンキー
07/09/09 18:57:07 CruRH7HA
つredpepper

185:名無しさん@ピンキー
07/09/09 20:44:21 UVMH7+HR
阿修羅様保管庫更新お疲れ様です
サイトがどんどん凄くなっているわけだが(*´д`*)
それにしても・・・買ったのか、あの本w

186:名無しさん@ピンキー
07/09/09 21:04:58 wH7eiGnZ
>>184
読んだが、これから修羅場ってとこで寸止めのままか…続き読みてぇぇeeeeeee!!


187:名無しさん@ピンキー
07/09/09 22:05:27 Wmz6KpvC
>>182
まだ前日譚だな。親代わりのベイリン隊長がまだ騎士だし。
主人公の出自をやるんだろうと期待。

188:名無しさん@ピンキー
07/09/09 23:39:38 OsJP8/5z
新参の俺はまだ旧作を読んでないから新作は読めない・・・(´・ω・`)

189:名無しさん@ピンキー
07/09/10 00:43:49 ZgHnphvK
>>188
一週間夜更かしすれば保管庫の作品は読み切れる
頑張れ


190:名無しさん@ピンキー
07/09/10 09:00:36 QNgQwpM3
>>1も読めない悪い子やもしれん

191:名無しさん@ピンキー
07/09/10 11:23:12 Xur/kS9t
タランチュラの話はSSまとめにないと思ったら、名レス名シーンのとこのプロットにあった…

192:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:00:14 2mxX3x6P
こんにちは
>>28の続き投下します。

193:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:01:13 2mxX3x6P
 今日は早めに学校を出た。なぜかというともうすぐ期末テストが控えているわけだから
だ。先輩の成績は全く問題ないのだけれど、僕のほうがヤバい。
 
 先輩と一緒に学校を出ると、いつもの風景に一つ見慣れないものが入り込んでいるのを
見つけた。

「何すかね? アレ」
「さあ……何だろうね」

 黒塗りのベンツ、そして黒いスーツに、黒いサングラスの男が数人。
 どう見ても怪しいその集団は、校門の脇から学校の中を覗いていた。

「怪しいっすね……」
「うん、怪しいね……」

 僕も先輩も自然に声を潜めていた。
 
「とりあえず、触らぬ神に」
「祟りなし……っすね」

 僕らはその脇をそそくさと通り抜けて、さっさと退散することにした。

 が、しかし

「君、ちょっといいかね」

 そのどすの効いた声は明らかに僕に向けられていた。

「は、はい……何でしょう?」

 恐る恐る振り返る。
 僕の顔を確認してから、男はおもむろに上着の内ポケットに手を突っ込んだ。

194:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:02:35 2mxX3x6P
 ――まさか、銃!!??

 僕は慌てて駆け出そうと方向転換をした。このままじゃ殺される!!
 だが、僕の目の前には別の黒尽くめがいて逃走経路は絶たれていた。

「くっ………」

 気付くと僕の周りはいつの間にか黒尽くめに囲まれていて、先輩とは隔離されていた。

「ふむ、やはり間違いないな……」

 先ほどの男が、手元の紙と僕の顔とを交互に見比べて言った。銃は持っていないようだ
った。少しだけ僕は安心した。

「あの、一体……」
「ご同行願えますか?」

 黒尽くめは無表情に、平らな声でそう言った。

「は?」

 理解できていない僕を無視してことは進んでいた。両腕を黒尽くめに掴まれて、僕は車
の中に押し込まれた。

「ちょ、ちょちょちょちょっと!!」

 僕の抗議もむなしく、ベンツは発進した。

「遼君!!!」

 ドアが閉められるときに、先輩の声が聞こえた……ような気がした。


195:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:03:54 2mxX3x6P



 車に揺られて僕が連れて行かれた場所は、立派なお屋敷だった。この街の高台に位置す
る壮大な屋敷。いかにも金持ちが住んでそうな建物だった。
 一体全体、どうして僕はこんなところに連れてこられたのだろうか? 今までの人生で、
こんなデカイ屋敷に住んでいる人と知り合いになったことはないと思う。
 うわ、内装もかなり豪華だ。壁にかかってるこの絵なんかは、きっとかなり高いんだろ
う。

 と、僕は大きな扉の前に着いた。

「失礼します」

 黒尽くめの一人がドアをノックして言った。

「うむ、入れ」

 中からは、低く厳つい声が返ってきた。その声に僕は緊張してしまった。

 ――もしかして、ヤクザの屋敷!?

 だとすれば、最悪。人生終わった。

 重い扉が、ゆっくりと開かれる。

 扉が開いていくと共に、僕の緊張も高まる。

「ようこそいらっしゃった!! 歓迎いたすぞ」

 扉の先の広間の豪華なソファーにどっしりと構えているのは、白髪の老人だった。着物
なんかを着込んでいて、やけに威圧感があった。


196:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:05:35 2mxX3x6P
「は、はあ……」

 僕は何も言えなかった。歓迎なんて言われても、別に招待状とかを貰った訳でもないし、
それにこんな知り合いはいない。親戚でもなければ、もちろん友人でもない。恐らく、初
めて会った人だろう。

「昨日は本当にお世話になった。なんとお礼をしていいのやら……」

 昨日? はて、この老人と昨日僕は何か係わりをもっただろうか。

 考えるまでなく、ノー。電車で席を譲った覚えだってない。まあ、普段からそんなこと
はしないけれど。

 ――と、僕はその老人の横に見覚えのある顔を見つけた。圧倒的な存在感の彼にすっ
かり、彼女は隠れてしまっていた。

「あ、昨日の店員さん」

 気付くのに時間がかかったのは、昨日と服装が違ったのも原因の一つだろう。

 僕がそう言うと彼女の顔はパアっと明るくなった。

「はい! 覚えていてくださいましたか!!」

 昨日のことなんだから忘れているわけないだろう。それにこんな可愛い娘なんだし……。

「君がいなかったら、家の娘はどうなっていたことか」

 この時点で、僕の頭の中で色々なことが繋がった。

 昨日の店員さんはここの家に住んでて、あのいかつい爺さんはあの店員さんの父親か何
か。それできっと、今日僕がここに連れてこられた理由は、昨日のお礼をするためなんだ
ろう。




197:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:06:44 2mxX3x6P



 あの時のこと、昨日彼が私を助けてくれたときのことを思い出すと、今でも体が熱くな
ってくる。
 強盗の狂気に満ちた目から私を救ってくれた彼は、本当に格好よかった。まるで、悪の
魔王に捕まったお姫様を助け出す、『王子様』みたいだった。

 家に帰ってから、彼の名前を聞いておかなかったことを後悔した。かろうじて分かるの
は、制服から通っている高校くらい。何年生で、どこに住んでいて、どんな生活を送って
いるのか、それらは全くわからなかった。

 気になって気になって仕方がなくて、私は家の者に彼を探してもらうことにした。何と
してもキチンとお礼がしたかったしそれに――もう一度彼に会いたかった。

 感じたことのない胸の高鳴り。彼のことを思うだけで、鼓動は自然に速まった。
 初めての経験。これがいわゆる『恋』なのだろうか?

 私は小学校も、中学校も、そして今通っている高校も全部女子校だったから、同年代の
男の子と接したことがほとんどなくって、だからよく言う『恋愛』の経験なんかは一切な
い。

 だから、もう一度彼と会いたかった。もう一度会ってこの感情の正体を確かめたかった。
 家の者たちには手がかりとして、昨日のコンビニの監視カメラから抜き取った彼の顔写
真を持たせた。

「あの、中原さん」

 二人きりでは間が持たなくなって、私は彼に話しかけた。

「は、はい?」

 彼も少し固くなっているようだった。
 全くお父さんたら何考えてるんだか……。いきなり、

『それじゃあ、後は若い者に任せて……』

 なんて言っていなくなるなんて。それで私たちは今、広間で二人っきりになってしまっ
ている。お見合いじゃないんだから変な気を遣わなくていいのに。

「今日はその、少し乱暴なやり方になってしまったみたいで、申し訳ないです」

 使用人たちは一体何を勘違いしたんだか……。あんな連れて行き方をしたら、彼もビッ
クリするに決まってるのに。

「いや、そんな気にしなくていいからさ」

 困ったような笑顔で彼は笑った。

「それにさっきから、綾瀬さん頭下げてばっかりだし」

198:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:08:52 2mxX3x6P

 彼の一言で、私はハッとした。

「そ、そういえば」
「ね?」

 思わず笑いがこみ上げてきて、私たちは二人で笑った。このお陰で、場の空気が少し緩
んだ気がした。

「それにしたって立派なお家だよね」

 彼は周りをきょろきょろ見回しながら言った。

「そうですね、無駄に大きいですよね」

 ホントに無駄に大きな家だと思う。家族は私と父親だけだから、部屋は大量に余ってい
る。残りは住み込みの使用人が使ったり、たまに来るお客様用の部屋になったりしている。

「物凄い大家族でもないと使いきれそうにないよね……」
「そうですね」

 また少しの沈黙が訪れてから、中原さんが口を開いた。

「あのさ、俺と綾瀬さんって同い年なんだよね?」
「はい、そうですが……」

 そのことはさっきの軽い自己紹介で話したのだけど、どうしたのだろう?

「じゃあさ、敬語とかじゃなくっていいんじゃないかな?」

 にこりと笑いながら彼は言った。その姿もやっぱり爽やかで、胸がドキンと鳴った。

「い、い、い、いえっそのっ」

 声が上ずっているのが自分でも分かった。顔が赤くなってしまう。そんな私を見て中原
さんはまたにっこり笑ってくれた。

「あの何て言うか、これはクセみたいなもので、私も無意識のうちにそうなってしまうん
です」

 焦っている自分が本当に嫌になった。

「そっか、なら別に無理しなくていいんだけどさ」

 優しく笑う中原さんは、本当に格好よかった。

「あの、本当に昨日はありがとうございました」

 改めて私はお礼を言った。

「別にそんなに大したことじゃないからさ、ホントに頭あげてよ」

 困ったように彼は言う。それでも、何度感謝したって足りないくらいだった。

199:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:10:51 2mxX3x6P

「何かお礼をさせていただきたいんですけど」

 だから別に気にしなくっていいって、と彼は笑った。

「そういう訳には」
「じゃあ、もう一杯このお茶貰える?」

 私の言葉を遮って中原さんはそう言った。

「俺、こんなおいしい紅茶飲んだことなくってさ。流石だね」

 私は急いでお代わりを彼のカップの中に注いだ。

「綾瀬さんはさ、何であそこのコンビニでバイトしてたの?」

 新しく入ったお茶を一口飲んでから、彼はそう尋ねてきた。

「社会勉強です」
「社会勉強?」

 確かにこんな家に住んでいるのに、わざわざアルバイトするのは疑問に思うだろう。

「はい、今までずっと学校と家の往復だけの生活だったので、ちょっと私世間知らずだか
ら」

 なんて言うと聞こえは良いかもしれないけど、本当はお父さんに強制されただけだった。

「へ~、偉いんだね」

 やった、中原さんに褒められた。思わず頬が緩む。

「でも今回の一件で、お父様がもうあんな危ない仕事はだめだって」
「ありゃりゃ、大変だね」
「はい………」

 あのままあの店で働いていられたら、これから中原さんと沢山会えるのに。

 それから、私と中原さんは互いの趣味だとか血液型だとか誕生日だとか、そういう他愛
ない話をした(中原さんの誕生日は四月だそうだ。覚えておこう!!)。


200:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:12:26 2mxX3x6P
「お嬢様、そろそろお時間が……」

 ノックをして執事が入ってきて言った。確かにもう結構な時間だった。

「あっ、ごめんなさい。こんな時間まで引き止めてしまって」
「別に帰ったって何にもするわけじゃないから大丈夫だよ」

 中原さんはまた、笑って言った。まだ数時間しか一緒にいないのに、この人は本当に優
しい人なんだと、心から思った。

 帰ろうとする中原さんに私は勇気を振り絞って言った。

「あの……ま、また会ってくれますか?」

 頷いてくれた彼を見て、私は今までに感じたことのない程の幸福感に包まれた。





 帰りも僕は黒塗りのベンツに乗せてもらった。こんなの一生に何回あるだろうか?

 ああしかし綾瀬さん可愛かったなあ。彼女の姿を思い返して僕は思わずため息を吐いた。
 まるでお人形さんみたいに彼女は可愛かった。
 あんな可愛い娘にあんなに感謝されて、もうマジで言うこと無し!! って感じだった
りした。

『あの……ま、また会ってくれますか?』

 あんなの顔赤くしながら言うなんて、反則に決まってる。

 鞄から携帯を取り出すと、先輩からメールが来ていた。何やら黒尽くめに拉致された僕
を心配してくれているらしい。

『大丈夫でした~
 詳しいことは明日学校で話しますね』
と、先輩にはこれだけ送っておいた。

201:愛しさと心の壁  ◆oNTNicc3Mg
07/09/10 14:15:07 2mxX3x6P
以上で今回分終了です。
これにて二人のヒロインが出揃いました。
これからちょっとずつ嫉妬成分が入っていきます。
次回もよろしくお願いします。

202:名無しさん@ピンキー
07/09/10 14:22:56 nt5A+eC5
リアルタイムでGJ!
これからの展開にwktkが止まらんw

203:名無しさん@ピンキー
07/09/10 14:34:31 ZgHnphvK
wktkが止まらないッ!
GJ!GJ!GJ!


204:名無しさん@ピンキー
07/09/10 16:40:05 lQuUJKkP
GJ!!
先輩がこれからどう出るかが激しく気になるぜ!

205:名無しさん@ピンキー
07/09/10 17:59:50 lH+n/ZnG
これはナイスなキュンキュンだぜ

206:名無しさん@ピンキー
07/09/10 18:06:42 2QulM1+z
>>201
GJ!!!!!
激しくwktk!

207:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:26:27 7kyV1rLT
では投下致します


208:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:28:12 7kyV1rLT
 アナザー4『バトル』

 夏の暑い陽射しが私の長い艶やかな黒髪に容赦なく降り注ぎ、意識は朦朧としてきた。
それは単に私が桧山さんのお弁当が食べてないから、元気が出ないんじゃあありませんよ。
単純に言うと体の悪そうなインスタント食品を食べていると、さすがに胸元が気持ち悪くなってきました。
お母さんが帰ってくるまで、栄養不足で私は死ぬかもしれません。
 本当なら、この夏休みは家で一人きりで過ごして、飢えを防ぐ予定でしたが。
 今年の夏は違うんですよ。
 この一週間、桧山さんの家の前で含み笑いをしながら眺めているんです。
 家事を一通り終わらせてから、昼頃に桧山さんのお宅の前でずっと立ち尽くすんです。
建物と敷地を見ながら、桧山さんがどのような一日を過ごしているのか想像します。
もう、それだけで私は頬が緩んで楽しい気持ちになれます。
 えへへ。
 
 まるで、どこぞのストーカーのようですけど。
 私はどこぞの犯罪者と一緒にしないでください。
 正面堂々と桧山さんの家の入り口に立っているだけですから。
 招き猫ならず招き雪桜の効果に桧山さんも私にメロメロです。
 うにゅ。
 それにしても、今年の夏はちょっと暑いかな。
桧山さんに誘惑するためにちょっと短いスカートを履いてきて、上は清純な白いブラウスを着ているんですけど。
もし、夕立とか来て、びしょびしょに濡れたとしても、
私のブラが透けて見えているところを桧山さんが一生懸命見てくれるなんてことがあれば……。
 私を襲ってくれるかも。

 さてと、隣の飼っているワンちゃんが私に向かって吠えているので黙らせてきますよ。
少しだけ待ってくださいね桧山さん。
 と、私は桧山さんの部屋がある辺りに投げキッスを送ると、犬退治へ向かった。


209:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:30:36 7kyV1rLT

★桧山家
 五月蝿い獣を標的にして、俺はナイフを投げる訓練を続けていた。
もう、怒りとか憎しみ以前にこの異常な状況に俺の頭をすでにパニックを起こしているかもしれない。
 そのストレス解消のために虎を思う存分に虐めていた。

「つ、つ、つ、剛君。い、い、い、今、頬をかすったよぉぉ!!」
「一週間前に買い漁ったナイフをそろそろ広い集めないとな」
 虎を吊るために服の隙間にナイフが固定されて、見事な標的として完成していた。
各急所に当たれば……恐らく、即死するだろう。

 狙う箇所は。
 頭。左腕。右腕。右足。左足。胸。目。股間。その他、虎の肉体箇所。

 その部分に当たれば、点数が貰える。外れたら、点数は貰えない。
 このゲームは『闇の虎殺しゲーム』と俺は名付けた。

 ルールは簡単だ。

 手持ちのナイフを投げて、虎が死ねば、俺の勝ち。手持ちのナイフがなくなると画面にコンティニューが出来るので
虎の足元に落ちているナイフを集めて、再スタートだ。
 まあ、ゲームクリアしても何の意味はないけどな。

「それにしても、ライトのせいで全く当たらないな」
「つ、剛君、これ、は、は、犯罪だよぉ~!!!!」
 と、虎が何か涙目になりながら、反対を訴えているが。俺はそれを当然のように無視して、ナイフ投げを続行した。
軽く余所見しながら、的を狙わずにナイフを投げた。
 そのナイフは鋭い金属音と共に虎の胴体のスレスレに突き刺さる。
「うぎゃぁぁぁぁぁーーーーー!!」
「当たってない。当たってない」
「当たってなくても、死ぬ。これは死にます!!」
「まあ、運が悪かったら死ぬことはあるんじゃない?」
「ひ、酷い。酷すぎるでしょ。オイ」
「酷いだって……」
 俺は的になっている虎を軽く睨み付けて、窓の方向に指を差して大声で叫んだ。
「瑠依が恋人宣言したせいで雪桜さんを傷つけた。そして、この有様だ!! 
毎日毎日、雪桜さんが玄関前でうふふふって笑っているんだぞ。
そのおかげで外に出られることも出来ないし、この時間になると……」


「ワンちゃん。聞いてくださいよ。私の桧山さんはとてもとても優しい方なんですよ。
私は彼の事がとても大好きなのに桧山さんはちっとも私の事を見てくれないんです。
いつも、玄関前に立っているのに声の一つもかけてくれないのは私のことを嫌いなんでしょうか? 
ううん。違います。桧山さんは私のことを愛しているんです。間違いありません。
 ワンちゃんはどう思いますか?」
「ワゥ? ク~ン」
「やっぱり、ワンちゃんも桧山さんは私のことが大好きって思いますか。えへへ」

「って感じに隣に飼っている犬にまで恋話に相談する始末。おかげで近所の皆様の俺を見る視線がちょっと冷たい。
てか、犬の飼い主ですらも恋人の雪桜さんを引き取ってくれと嘆願書まで提出してきた。
さすがに年頃の女の子が毎日毎日犬と相談する奇妙な出来事に精神が壊れたそうだ」
「全然、私のせいじゃないよ。あの泥棒猫が勝手にやっていることでしょ。さっさと警察を呼べばいいのでは?」
「警察なんて裏金作りに必死だ。どうせ、女の子に言い寄られている奴は豆腐の角に頭をぶつけて死ねとか念仏を唱えてくるだろう」
「だったら、私が剛君のために排除してくるわよ」
「できるのか?」
「私は剛君のためなら、何でもやれます」
「だったら、行け。犬の飼い主が俺に抗議と苦情を言って来る前に!!」
「その前にナイフを外してから~」
 と、磔にしていたナイフを俺は嘆息しながら無表情に抜いてやった。


210:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:32:29 7kyV1rLT
「そ~こ~のど・ろ・ぼ・う・ね・こ~~~!!」
 抜いた途端に瑠依は勢い良く玄関まで飛び出していた。
常人ではない脚力に虎の野性を感じずにはいられなかったが、近所迷惑になるから大声で叫ばないで欲しい。

俺は惰性で彼女の後を追うと隣の家の前で犬と恋相談している雪桜さんと虎が対峙していた。
以前にガチで対面していたのは夕日の屋上以来だろうか。犬は虎の表情に恐がり、大人しく犬小屋に退避。
 虎と雪桜さんの熱い目線が繰り広げられていたが、外は猛暑なのでいい加減に俺は家に戻りたかった。

「何ですか? 東大寺さん」
「剛君の命令であなたを排除しようと思って。ねぇ、剛君?」
「俺としては穏便に雪桜さんを玄関の前でうろつくのは辞めさせて欲しいのだが」
「にゃーにゃーにゃーにゃー桧山さんです。一週間ぶりに桧山さんと口を聞きました。
私に会いに来たんですよね? ね?」
 空を飛びそうなぐらいに雪桜さんの見えない尻尾は振っていた。
嬉しそうに蔓延なる笑顔を浮かべ、俺に駆け寄ろうとするが瑠依が立ち塞がる。

「剛君は私の恋人になる予定なんだから。あんたみたいな女に指一本を触れさせてたまるもんですか!!」
「東大寺さんが恋人になる予定でしたら、私はひ、桧山さんの妻になるんですから!! 
これは予定じゃなくて。確定事項だもん」
「泥棒猫……。がるるる。生かしておくわけにはいかないわ」
 虎も雪桜さんもここで熱くならないでくれ。ただでさえ、肌を焼きそうな陽射しの下から一秒でも早く抜け出したいというのに。
何で俺のことでこんなに熱くなれるのか逆に感心していたりする。
「剛君。いいよね!!」

「俺がバトルスタートと言えば、二人は存分に戦ってくれ。
勝負はどちらかが気絶するまでだ。もし、雪桜さんが勝てば、俺の家のフリーパスをやろう。
虎が負けたら、今晩の飯は抜きだ。それでいいな?」 
「ブ-ブー。私が勝った時の商品はないの?」
「また、『闇の虎殺しゲーム』をやりたいのか? 今回の騒動の責任を取るために俺がせっかく手筈を整えたのにな」

「ううっ……。頑張って全力を尽くしますよぉぉぉ」
 それでこそ。虎だ。


(東大寺瑠依さえ倒せば。私は桧山さんのお家に入ることができるんです。
このチャンスを絶対に逃すことは出来ません。見ていてください。桧山さん。私はきっと勝ちますからね)

 二人は少し距離を離れて、互いに睨みながら構えを取る。


211:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:33:47 7kyV1rLT
 憎めない猛獣・虎
         東大寺瑠依
              VS  
             愛らしい猫ストーカー
                  雪桜志穂

『バトルスタートだ!!』

「私は桧山さんのためなら。東大寺さんの一人や二人ぐらい皮を剥ぎ取って、明日のおかずにしてあげます!!」
 雪桜は猫耳装備を着用した。
 攻撃力UP
 防御力UP
 素早さUP
 尻尾攻撃力UP
「今こそ、泥棒猫の決着の時が来たのよ。いざ、目覚めよ。眠っている潜在能力をここに解放する!!」
 瑠依は虎の野性を完全に解放した。
 全てのステータスがUP。
「貴女には明日の朝日を拝むことすら許されません!!
 てぃっ!!」

 雪桜の攻撃!!
 雪桜は尻尾を振り回した。

 瑠依に15のダメージ。
 瑠依に15のダメージ。
 瑠依に15のダメ-ジ。
「舐めるんじゃないわよ!!」
 瑠依の攻撃!!
 瑠依は爪で引っ掻いた。
 雪桜に50のダメ-ジ。
 雪桜に50のダメ-ジ。
 雪桜に50のダメ-ジ。
「私は絶対に負けません!!」
 雪桜の攻撃。
 雪桜は肉球を虎の顔に押し付ける。
 瑠依に25のダメ-ジ。
 瑠依に25のダメ-ジ。
 瑠依に25のダメ-ジ。
「泥棒猫のくせに剛君と口を聞くなんて生意気すぎだよ!!
 大人しく、粗大ゴミになりさい!!」
 瑠依の攻撃。
 瑠依の遠吠えが鼓膜に響く。
 雪桜は30のダメ-ジ。
 雪桜は30のダメ-ジ。
 雪桜は30のダメ-ジ。

 雪桜は力尽きた。


212:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:35:22 7kyV1rLT
「おとといきやがれですぅ」

(東大寺さんみたいな人に負けてしまうなんて私は本当にダメダメです。
桧山さんと一緒に居られる機会をこんな形で見逃すなんて)

「負けるな。頑張れ雪桜さん!!」

(桧山さん……)

(いつも、あなたの声は私に力をくれる)

(ありがとう。大好きです)

 なんと、雪桜は起き上がった。

 雪桜の攻撃。
「天翔猫閃!!」
 超神速の尻尾が瑠依に襲いかかる。
 瑠依に9999のダメ-ジ。

 瑠依は倒れ去った。
「愛は必ず最後に勝利するんですっ!! にゃっっっーー!!」
 WIN 雪桜。

 と、女の熾烈な戦いはこうしてあっけなく決着は着いた。
雪桜さんの目に映らない速さで放たれた尻尾が虎に炸裂した途端に瑠依は空を飛んだ。
一体、何Mぐらい飛んだのかは測定器もないのでわからないが、地面に鈍い音と共に落下する姿は滑稽であった。
 正直、雪桜さんに声援を送るつもりはなかったが。人として虎に負けるのはどうであろうかと疑問を覚えたので、
劣勢だった雪桜さんに軽く応援をしただけでこの格闘ゲ-ムの超必殺技コマンドを入力したのような技を虎にお見舞いするとは。
少しだけ反省している。
 その勝利者の雪桜さんは蔓延なる笑顔を浮かべて、こっちにやって来た。
「これで桧山さんの家に入ってもいいんですよね?」
「わかった。約束だもんな」
「はいっ。今日からまたよろしくお願いしますねっ!!」
 と、雪桜さんは俺の腕に抱きついた。腕の辺りに柔らかな感触を感じるが、心地良かったのであえて何も言わなかった。
そのまま、足は俺の家に向かうが。
 哀れな敗北者の末路を大人しく見物していた。雪桜さんの強烈な一撃を喰らい、
立ち上がることもできずに熱いアスファルトの上で置き去りにされた虎は口を開けて、よだれを垂れ流していた。
 それでも、俺は虎の介抱することなく、雪桜さんと共に一緒に家に入っていた。


 いつか、流せるだろうか?
 完璧な涙を。



 ちなみにアスファルトに倒れているのが雪桜さんならば優しく救急車を呼び、
名医に診察しろと五月蝿く注文するのだが。虎はこんな程度で死なないから別によし。

 さて、勝利者になった雪桜さんに美味しい物でもご馳走しようかな


213:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/09/10 22:37:59 7kyV1rLT
以上で投下終了です。
ついに猫ストーカーが桧山宅に侵入です
まあ、ストーカーネタでお約束と言えば
家に帰れば、両親とストーカーが仲良く談笑して凍り付く
ってのは一度やりたいと思っていますw

後、近い内に桜荘にようこそを投下します。

では。次回もよろしくお願いします

214:名無しさん@ピンキー
07/09/10 23:26:22 mHTSZPkI
ギャグとはいえ、剛ひどすぎないか?
剛に対する評価がガラッと変わったよ…

215:名無しさん@ピンキー
07/09/10 23:31:20 Nu/zWgQe
色んな意味で男主人公が強いなら、修羅場にゃならんわけでな…

216:ニコ動から来ました
07/09/10 23:40:53 vklqFiw+
これなんてスレ?

217:名無しさん@ピンキー
07/09/10 23:43:43 py6DtwJs
>>216
どこから来たんですか?

218:名無しさん@ピンキー
07/09/11 10:32:05 +GBLqRyI
ニコニコ動画からってオイw

219:名無しさん@ピンキー
07/09/11 11:15:58 IMt3F8jo
頭の弱い子は相手にするな

220:名無しさん@ピンキー
07/09/11 14:30:28 CQhItHY1
>>213
雪桜さんが飛天の技を使えるとは
GJ

221:名無しさん@ピンキー
07/09/11 22:46:33 QR7XWkNT
>>213
神林ネタかよw

222:名無しさん@ピンキー
07/09/11 23:42:16 NjEeFd+P
>>213
これ、リトルバスターズのバトルシステムネタかよw


223:名無しさん@ピンキー
07/09/12 08:09:20 kh10mSh2
今週の絶望先生にちょっとときめいたw

224:名無しさん@ピンキー
07/09/12 16:01:38 u+pq5GV8
wktk

225:名無しさん@ピンキー
07/09/12 21:38:33 dFz9dh1Q
人が全くいないのは何故なんだ?

226:名無しさん@ピンキー
07/09/12 23:03:30 3X/jT4T9
まぁ今は一休みってところじゃない?

227:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:09:24 p8/YkcbM
投下します

228:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:10:20 p8/YkcbM

<一>

 仕事に出れば、千里耳の我儘に振り回され、何故か厄介ごとに巻き込まれ。
 かといって、屋敷に戻れば、姉の叱責と妹の罵詈が容赦なく降り注ぐ。
 それらに耳を塞いで剣の鍛錬に没頭し、疲れ果てて眠る。
 夕方になれば、起床し、再び仕事に赴く。
 畢竟、右庵の一日といえばその繰り返しであった。

 忙しさに追われてただその日常を繰り返すことしかできない。
 右庵自身が何かを変えたい、と思っても、そのような暇は、意識してもなかなか作れないのである。
 その元凶とも言えるのが、右庵が都廻において受け持っている役目である。
 千里耳から受取った書を詰め所へと送るという役目は、一日たりとて休むことを許されないのである。

 右庵にしても、やってみたいこと、あるいはやらねばならないと考えていることは幾つかあった。

 その最たるものが、紗恵と十夜の嫁入り先を探すことであった。
 紗恵は二十六、十夜もすでに十九である。
 さすがに、そろそろ嫁入り先を探さなければいけない歳ではあった。

 とはいっても、二人とも婚期を過ぎているわけではないし、器量も悪くない。
 右庵自身が使用人を雇っていないせいもあり、家事全般もそつなくこなす。
 唯一つ問題があるとすれば、少々家格が低い、ということぐらいであろうか。
 とはいっても、木下家程度の家格で嫁を探している家などいくらでもある。
 だから、右庵自身がその気になれば、縁談などすぐにまとまるはずである。

 一般的に考えればそのはずであったし、右庵自身も都廻になったばかりの頃はそう思っていた。

「お断りします」

 右庵がその言葉を聞いたのは、役目を終え、屋敷に戻ってきた時のことであった。
 目の前に座っているのは紗恵である。
 彼女は、いつもと変わらぬ冷たい瞳でそう言い放った。

「…しかし、姉様」
「断る、といったはずですが。
 これで何回目ですか?」

 説得を試みようとした右庵の出鼻をくじくように、もう一度紗恵は同じことを言った。
 その瞳に、右庵は背筋が冷たくなる。まるで刃を突きつけられているかのような感覚に、一瞬息が止まる。
 とはいえ、そこで退くことはできなかった。

「相手は勘定方の役目についている方で…」
「もう何度も聞きました。
 その上で私は、この事はお断りする、と言っているのです。
 それとも、貴方はそこまでして私をこの屋敷から追い出したいのですか?」

 私が家長である以上、貴女もいつまでもこの屋敷にいるわけにはいくまい。
 そんな言葉が右庵の頭を過るが、口にはしなかった。
 代わりに、紗恵の要望に沿うような話を持ち出す。


229:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:11:24 p8/YkcbM

「…相手方は婿入りも吝かではない、と仰っております」
「木下の家を他人のものにする気ですか?
 私の婿、ということはその男が長男の扱いを受けることになるのですよ」
「それも已む無しかと」

 今度の言葉は、本心からのものだった。
 どうしても紗恵が屋敷を出て行かぬ、というのなら右庵は家長の座を放棄することすら覚悟していた。
 幸い、都廻の役目は、木下家に与えられたものではなく、右庵本人に与えられたものである。
 屋敷を出ていったとしても、どうにかなるという考えが右庵にはあった。

 しかし、崖に飛び降りるほどの覚悟で言った右庵の言葉は、姉には相手にもされなかった。

「話になりません」

 今回も駄目だったか、という弱気の虫が声をあげる。
 だがそれでも、右庵は頼まないわけにはいかなかった。

「…せめて、会っていただくだけでもできないでしょうか」
「この事については、これ以上話すことはありません」
「そこをどうにか、お願い致します。
 会えば、悪い男ではない、ということも姉様にご理解いただけると思います。
 どうにか…」

 右庵は頭を下げた。
 そこで、紗恵の言葉が止まった。
 考えを改めてくれたのだろうか。
 そんなわずかな希望とともに右庵は頭を上げた。
 しかし。

「…」

 紗恵は、すでに右庵の前にはいなかった。
 溜息をつくでもなく、右庵はただ黙り、視線を宙に彷徨わせた。



230:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:11:59 p8/YkcbM

<二>

 紗恵が、嫁入りを拒否するのは初めてのことではなかった。
 右庵自身が具体的に嫁入り先を探してきた時だけで二回目である。
 それこそ、遠まわしに嫁入りを勧めた回数も含めれば、十は軽く越えるだろう。

 右庵は紗恵の態度が、愛着のある屋敷を出たくは無い、という意志の表れかと考えていた。
 だからこそ、婿入りも許容できるような相手を探してきたのだ。
 しかし、それでも紗恵は頭を縦に振らなかった。

 何か別のところに紗恵の本意はあるのか。
 右庵は考えてみたものの、全く思い当たることはなかった。

「…」

 どうしたものか、と思ってもどうすることもできない。
 体が疲れているだろうか、頭にもやがかかっているような感覚もある。  

 くらり、と足がもつれそうになったところを、どうにか踏みとどまり、頭を振る。
 これはただ眠たいだけか、と考え、右庵は諦めて床に入ることに決めた。 

 滅多にしない長話をしてしまったせいで、いつも右庵が眠る時刻はすでに過ぎ去ってしまっている。
 間もなく正午ではある。良くて二と半時程度しか眠ることはできないだろう。

 寝ぼけた頭の中で、何とはなしに、右庵は一つのことを思い出した。

 確か、紗恵は一度縁談がまとまりかけたことがあったのではないか。
 あれは、いつだったか。
 父と母が死ぬ、少し前だったような気がする。

 あの頃のことは色々ありすぎて、一つ一つのことを具体的に思い出すのが難しい。
 しかし、確かに紗恵はあの時にまとまりかけた縁談があったはずだ。

 とはいえ、そのことを紗恵本人に聞くわけにはいかないだろう。

 ならば、十夜に聞くべきか。
 しかし、彼女は八年前は十を過ぎたばかりの幼子だった。
 縁談のことなど、覚えているかどうか以前に、耳にしているかも怪しい。

 では、誰なら知っているだろうか。
 そもそも、何でそんなことを知ろうというのか。

 そうか、と右庵は己のうちで頷く。
 以前上手くいった経験があるなら、そこを辿れば答えが見つかるかもしれない、と思ったのだ。

 思考は混乱し、まどろむ。
 目を閉じると、あっさりと眠りにつくことができた。 


231:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:14:02 p8/YkcbM

<三>

「姉様?まだ起きてるのですか?」
「ええ…寝付けないのです」

 時刻は正午を過ぎた頃である。
 十夜が姉の部屋をのぞくと、そこには紗恵がいた。
 平常であれば、部屋にいる右庵同様、紗恵も床についている時刻である。
 だが、何故か紗恵は眠ることもなく、彼女の部屋でただ座っているだけだった。

「何かあったのですか?」
「…十夜には隠せませんね」

 紗恵が困ったように微笑む。
 紗恵の話の内容は、縁談を右庵が持ち込んだ、という話であった。

「それで、縁談を受けるのですか?」

 話が終わると同時、十夜は思わず前のめりになってそう聞いた。
 だが、紗恵は首を横に振るだけであった。

「話を聞く限りではいいご縁であるように私には思われるのですが」
「…右庵殿もそうおっしゃっていましたね」

 先ほどとは違う、物憂げな笑みを紗恵は浮かべる。
 十夜は紗恵の表情に、内心右庵に対して苛立ちながらも、どうにか言葉を継いだ。

「では、何故。
 このような縁談を兄様が持ち込むなど、滅多にありません。
 ここで断れば、次は無いのかもしれないのですよ!」

 語気が荒くなったことを、十夜は言葉を口にしてから悟った。 
 紗恵がどこか驚いた顔をしたのを見て、しまった、とも考えた。
 しかし、紗恵が驚いたのは別のことについてであった。

「…右庵殿は、頻繁に縁談の話を持ち出されます。
 十夜は気づいていなかったのですか?」
「…え?」
「つい三ヶ月ほど前など、今回と同じように、縁談をある程度まとめて私に紹介したのです。
 その時も断ったのですが」
「……」

 紗恵の言葉に思わず、十夜は呆けてしまった。
 縁談があったことなど、初耳だったのである。
 同じ屋敷で暮らしている以上、些細な会話まで全て知っているはずなのだが、紗恵の縁談や結婚に関する話は聞いたこともなかった。

 妙な疎外感を覚えると同時、何故そのことを右庵が自分に言わないのか、という腹立たしい思いが浮かんできた。

 しかし、そのような怒りなど今はどうでもういいことのはずであった。
 十夜はどうにか自分の心を落ち着けて、もう一度、紗恵に本題を問いただした。

「と、ともかく。
 何故それらの縁談を断ったのですか?
 せめて、相手に会うぐらいすればよかったではないですか」
「そうもいきません。
 一度会ってしまえば、相手方は私にもその気がある、と勘違いしてしまうでしょう」


232:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:15:39 p8/YkcbM
 十夜は黙り込む。
 紗恵も、次に言うべき言葉を思いつかなかったようであった。
 暫くして、十夜は、紗恵の意図を率直に聞いた。

「姉様は、結婚なさるおつもりが無いのですか?」
「ええ」
「何故ですか?
 このようなところにおられても…」

 十夜の言葉に、紗恵の表情が一瞬無くなる。
 不意に背筋に寒気が走ったように十夜は感じた。
 それは、幼い頃から時折感じていた、紗恵に叱られる前触れのようなものであった。
 十夜は、反射的に目を閉じる。

 しかし、何も紗恵は言わなかった。
 十夜が目を開けると、紗恵は、いつもの微笑みを浮かべていた。

「…そうですね。
 正直、嫁ぐということに否定的な気持ちは私にもありません。
 しかし、木下の家や、貴女のことが私は心配なのです」

 ほう、と息をする紗恵の言葉には嘘は無いようであった。
 紗恵の、自分のことを思いやる気持ちに、十夜は暖かいものに包まれる感覚を覚えた。

「十夜がどこかいい家に嫁げれば、私の心配も一つなくなるでしょうか」

 その言葉は、どこか冗談染みたもののように聞こえた。
 ただ、確かに自分が嫁入りでもすれば、紗恵の重荷も少しは軽くなるだろう。

 とはいえ、木下の家のことは、どうにもなるまい。
 後一郎が家を任せられるほど立派な人間であれば、と考え、紗恵は正直にそのことを口にした。

「兄様がもう少ししっかりしておられれば…」
「…全くその通りです」

 その時、姉妹の間で同じ意図が通ったように、十夜には思えた。

 話がやむ。
 そこで十夜は、紗恵の部屋を去ることにした。

 とりあえず、やるべきことができた、と十夜は考えた。
 紗恵の負担にならぬよう、立派な家に嫁ぐ。
 とはいえ、自分ではそんな縁など作ることもままならない。
 少々不満ではあるが、家長である後一郎に頼む必要があるのだ。

 さて、どう言ったものだろうか。
 十夜はそう考えつつ、掃除の続きをすることにした。


233:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:16:16 p8/YkcbM

<四>

「と、いうわけです」
「…私にはわかりかねるのですが」
「よいですか!?
 姉様は、今まで長女としてこの家を支えてこられました!
 ですから!!そのご恩を返すためにも、私は立派な家に嫁がなければいけないのです!!」
「…とりあえず、貴女のために縁談をもってこい、ということでしょうか」
「そういうことです」
「…姉様の縁談を先にまとめなければならないのですが…」
「姉様が言ったのです!
 私が嫁に行けば、安心して嫁に行ける、と!!」
「…」

 夕方に目を覚ました右庵は、起床と同時に持ちかけられた、十夜の頼みに面食らっていた。
 彼女自身の勢いもそうだったが、内容自体も今まで聞いたことのないような頼みだったからである。

「…とはいえ、一朝一夕というわけには」
「わかっています!ですから、とりあえず姉様より先に、私の縁談をまとめて欲しいと言ったのです!」
「…」

 そう上手くいくものだろうか、と右庵は考えたものの、十夜に逆らっても彼女の機嫌を損ねるだけだということは良く知っていた。
 とりあえずその場は頷いておいたものの、実際にその通りにできるとは考えにくい。

 ただ、十夜のことを心配して紗恵は家に残っている、ということはそこそこ興味深い話であった。
 そうであれば、確かに十夜の言うとおり、十夜の縁談を纏めれば、紗恵も嫁にいくことを承諾してくれるのかもしれない。
 それは、今まで考えもつかなかったことである。

「右庵殿、食事ができました」

 部屋の外からそう声をかけた紗恵にも、朝の様子を引き摺っている様子は見られなかった。
 紗恵に今参ります、と答えてから。

「…ありがとうございます」
「はい?何か言いましたか、兄様」
「…いえ」

 妹に頭を下げ、右庵の一日は始まった。


234:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:18:27 p8/YkcbM

<五>

「上手く言ったものだな。
 妹を屋敷から追い出せば、後に残るのはお前とあ奴だけ」

 夜の庭。
 投げかけられた不快な言葉に、刃を構える。
 月光を受けるその刃は、見事なまでに輝いていた。

 闇を払い、妖や魔を退けるはずの光。
 だがしかし、目の前にいる存在は何も感じてはいないようだった。

「私を切れば、王命が下るぞ?
 下手人を探せ、とな」

 冗談に聞く耳を持つ必要は無い。
 相手は、人ではない。
 これを殺したところで、何ら問題はないはずなのである。
 そもそも、殺せるとは思っていない。

「右庵がいなければ、言葉を交わす意味も無い、ということか」
「…その名を呼ぶな」

 口にされた名に、思わず言葉が先に出た。
 相手もそれを狙っていたのだろう。

「奴をそう呼んでいいのは自分だけ、か?
 自分の物にでもしたつもりか」

 嘲る様子の口調に、腹が捩れる感覚を覚える。
 それこそが相手の意図するところなのだとわかっていても、どうしようもない。

「やっと満足してもらえる相手が見つかった、と奴もほっとしていたのに。
 全く、あまり弟に迷惑をかけるものではないぞ」
「…黙れ」
「奴から離れるつもりはない、か。
 邪魔になる者は、八年前のように全て消す気か?」

 何故それを、とは聞かない。
 ただ、刃を振ることで答えた。

「魔を退ける煌き、とはいったものの。
 残念ながら妖魔の類ではないのだが」

 刀を振りかぶった時点で、標的はいつの間にか間合いの外にいる。
 しかし、それが無駄な行為であっても、敵意を失くすつもりもなかった。

「しかし、右庵に惚れた女でもできた場合はどうする気だ?」

 そんなことがありえるはずがない。
 もしあったとしても、どうなるかは知れている。

「それこそ愚問か。
 邪魔者を全て消す、と先ほど私が言ったとおりになるだけだな」


235:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:19:42 p8/YkcbM

 表情は浮かんでいないはずだ。
 考えを読まれたか、とも思う。
 と、相手は頭に手をあて、やや大げさに首を振った。

「私の苦労もわかって欲しいのだが。
 今回のこともそうだが、あまり無茶はしないようにしてほしいものだ。
 あれ程頑丈で、しかも色々と都合のいい男はそうはいない。
 それこそ、私の相棒が務まるような男は、な。
 だからこそ、お前が何かをして、奴が王都にいられなくなりでもしたら、厄介なのだ」
「…貴様」
「だからお前が怒るなというに。
 男女の情愛をかわすようなつもりは私にもないぞ」

 そうは言うものの、油断はならない。
 いつ、何がどうなるかなどわからないのだ。
 この女にそのつもりがなくとも、男の方がそのつもりになってしまうことだってある。

「気持ちもわからんではない。
 お前との付き合いも、そう短いものではないのだからな」
「…貴様が右庵殿を引き回さなければ、私もこのようなことはしない」

 それはそうだ。
 自分の敵わない相手に、意味もなく刃を向けるほど愚かにはなれない。

「そうもいくまい。
 私にも色々と都合がある。お前に都合があるようにな」
「ならば、せめて右庵殿に付き纏うのは止めてもらおうか。
 あのように身を寄せ合う必要などないだろう」
「そうは言っても、な。
 商売女のような格好の者と、騎士が並んで歩くのなら、あのような関係が自然だろう」
「いつも袴姿でいればいいだろう」
「あの格好をしていると、右庵が窮屈そうなのだ」

 くく、と笑った女に、さらに怒りが膨れ上がる。
 自分の方が、彼のことをわかっているとでも言うつもりなのか。

 が、相手は自分の怒りになど興味はないようだった。

「…間もなく時間か。
 私は戻るぞ。そろそろあ奴が書の催促に来るのでな」

 当て付けそのものの言葉に、ぐ、と刀の柄を握り締める。
 しかし、相手は涼しい顔でひらひらと手を振るだけだった。

「よいか?重ねて言うが、無茶はするなよ。
 特に、あ奴が持ち出した縁談の相手に手出しなどするな。
 今と昔は違う。
 あれで、あ奴は切れ者だぞ…そういったことに関してはな」

 最後に聞こえたのは、ひどく具体的な忠告だった。
 だが、それも声だけである。
 自分が相対していたはずの女は、すでに屋敷の庭のどこにもいなかった。


236:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:22:45 p8/YkcbM

 夜もとうに深くなり、肌寒さを感じる。

 きっと、「彼」は今夜も王都の中を巡っている。
 そして、明日の朝まであの女に振り回されるのだ。

 そう考えると、気が気ではない。
 だが、何もできない。

 彼がいない間、屋敷を守るのが自分の役目。
 彼が働けるよう、補佐をするのが自分の役目。

 そも、自分の体はそこまで頑丈ではない。
 この寒空の下、彼について回ったところで、体を悪くするのが関の山だろう。

 叫び出したいような思いを無理やり押し込め、屋敷の中へ、そして自分の部屋に戻る。

 灯をつける。

 暗闇に、わずかな光が生まれた。
 弱い光の下、浮かび上がったのは、最愛の人の着物だった。


237:或騎士之難儀4 ◆CjaIRU0OF.
07/09/12 23:24:46 p8/YkcbM
以上で投下終了です。
前スレ>>535さんの質問ですが、直後に張られていた説明で間違いありません。
説明に従えば右庵=忌み名、後一郎=字、といったところです。
もっとよく知りたい人は、武士 名前 などで検索するといいかもしれません。

238:名無しさん@ピンキー
07/09/12 23:27:37 EjWXO4As
リアルタイムGJ!
何というツンヤンデレ……
間違いなくツボにジャストミート
妹の方も右庵に対してどうにかなるんだろうか
うーん先が気になるな

239:名無しさん@ピンキー
07/09/13 00:24:04 /okrvE0F
GJ
八年前に何があったのか…両親は、相手先は……気になるな

240:名無しさん@ピンキー
07/09/13 00:37:55 of+BOp2m
>>237
やベー、姉様の性格がめっちゃツボだわ・・・
それにしても千里耳と紗恵の間にどんな確執があるのか・8年前に何があったのか、滅茶苦茶気になるし
早く続きが読みたいのでがんばってください!!

241: ◆WIhkQEicx2
07/09/13 00:54:57 n3n5fsiJ
投下します。

242:鬼 ◆WIhkQEicx2
07/09/13 00:57:28 n3n5fsiJ
明かりなど何もない夜の教室で、ぼう、と何かが揺らめく。
煙が漂っているようでもあり、袋の中に何か光を出すものが入っているようでもある。
しかしそれは煙でも光でもない。魂である。鬼、といってもいいかもしれない。
よくよく見れば、その姿が現代の教室にはまるで似合わぬ、刀を身につけた侍風であることが分かる。
和装に身を包み、しかし髷は結わず自然に流している。
その魂は生前の名前を、森巣誠一郎といった。彼は、この場所を訪れたことを後悔していた。
最初に外観を見た時から、陰の気が濃い、と感じた。
最早人の身ではない彼にとって、それはむしろ心地いい場所であることを示す。自然、足が向いた。
この時代の子供たちの学び舎であるということは分かっていたが、
既に使われていないということは、草の生え始めた外壁を見てもはっきりしていた。
そこの住人であるかのように、何の躊躇もなく建物に立ち入った。

(迂闊だった。)
と、彼は思っている。
彼が心地よい場所とは、つまり他の息をしなくなった者たちにとっても心地いいということだ。
既に人の姿かたちとか意思といったものを捨て、何か不透明なもの、といった程度のものになった者なら、
無視もできるし襲ってくるなら切り捨てることもできた。

しかし、彼がその日出会ったものは、完全な人の形を保ったままの、しかも少女の霊だった。
数えることもなく何階か上った先の廊下で出くわしたその少女は、座り込んで泣いていた。
女子学生のよく身に着けている服と同種のものを身に着けている。この学校で死んだ者の魂だろうか。
その少女に、彼は、
「どうした。」
と、声をかけた。死んだものにどうしたも糞もない、ということもあるが、
彼はそういうことができない性分である。見捨てて立ち去る自分に負い目を感じる。
少女は、青白い顔を森巣の方に向け、しばらくその姿を見つめていた。
立ち上がりはしない。突然に言い放った。
「私を切って。」


243:鬼 ◆WIhkQEicx2
07/09/13 00:59:26 n3n5fsiJ
予想していなかった言葉に、少し目を見開き少女を見る。
少女は、たじろがなかった。
双方何も言わないままでいると、しばらくして少女がぽつりぽつりと語った。

何人と落ちても誰も自分の傍にはいてくれない。皆自分とは別のところに逝ってしまう。
もう落ちるのには飽きた。今度こそ誰かに終わりにしてほしい。

少女は転落して果てたものであり、これまで何人か人を道ずれにして見たものの、
浮かばれることも満足することもできない、という、おおよそのことは森巣にも分かった。
そして、自分が何をすべきかといえば。立ち去るか、切るかしかないのだろうということも見当がつく。
元気を出せ、という言葉ほどその場で滑稽なこともないし、念仏を唱えてやることもできない。
その身に大小を帯びている森巣の様子を見て、彼女は切られようという思考に至ったのだろう。
切ってやれば、この少女の未練とか無念といったものも断ち切れるのだろうか。
魂の行き着く先などは彼には分からなかった。が、刀を抜いた。
それを見て、少女はそっとうなだれる。首を、差し出した。
その細い首に、森巣の刀が走った。

そういうことがあって、彼は自分の行動を後悔している。
こういう場所には、少女のような思いを抱えた先客がいるということを思い出すべきだった。
(あの少女は、自分のような者に出会うべきではなかった。)
そういう思いが強い。
自分の無念が何であるかも知れずただただこの世をさ迷っているような、そんな男に出会わず、
何かを諭してやるような人物と出会っていれば。
無常といった気持ちを、改めて彼は覚えていた。

が、不意にそういった気持ちが消えた。
生きているものの匂いを嗅ぎつけたからである。
どこからか、漂ってくる。彼のような虚ろのものではない、確かな息遣い。
(どこかに、いる。しかし姿が見えない。)
妙だった。彼の目は、反射した光を網膜で捉えるのでなく、ものの魂を感じ取る、といったように見える。
それなのに、何も見えない。


244:鬼 ◆WIhkQEicx2
07/09/13 01:02:12 n3n5fsiJ
すっと再び刀を抜き、下段に構え、左踵を上げる。
(遁甲で身を隠しているのか。)
彼のいた時代にも、この時代にも、そういう術士たちは生き続けている。
生きている頃にはむしろ疑っていたが、闇夜に住むようになってからは否応なしに出会う連中だ。
「誰だ。」
見えないものに向かって、声をかける。
「分かるの?大したものね。」
果たして、どこからか返事があった。返事をするとは、相手はどうやら素直な人物のようだ。
しかし、声から相手の位置は分からない。空気が震えるというよりは、頭の中に直接響いているだけだ。
「何の用かは分からないが、私は誰かに害を成すつもりはない。」
だから放っておけ、という意味だった。術士は大抵悪霊を払うか生きている人間を呪うかで、
無害な霊をいちいち成仏させてやるのは僧の仕事というのが相場である。
「抜け抜けと。肝試しに訪れる人を突き落として殺す、地縛霊の癖に。」
ふん、と笑うように声は言う。彼には一瞬何のことだか分からなかった。
が、すぐにそれが先ほど自分が切った少女の霊のことだと解した。
「人違いだ!」
咄嗟に、大声で弁解したが、声はそれ以上響いてこなかった。どうやら説得はできそうにもない。
油断なくあたりを見渡す。
きゅ、と、微かに床と砂利が擦れて鳴るような音がした。すぐにその方向に目をやる。
そこには何もなかった。ただの暗闇である。しかし、何かがいる。
少し離れたその位置にどう対処しようか思案していると、相手の方から動いた。

ただの暗闇の中から、いきなり手が生えた。いや、手だけが現れた。
見るとその手は白い何かを指で摘んでいる。それを、森巣に向かって振り放った。
大した速さではない。体にたどり着く前に、刀を跳ね上げて切り払う。
しかし。
(重い!)
鉄の腕に刀身を握られて、思い切り押されているような感覚。
それでも何とか押し返し跳ね返した。ひらひらと下に落ちたそれを見ると、ただの紙片である。
(ただの紙に、呪をかけているのか!)
相手はかなりの呪術者か陰陽師であるらしい。
再び暗闇から紙片を掴んだ手が現れる。目をこらすと、紙片のすぐ横に顔らしきものも見えた。
ぶつぶつと口が何かを呟いているようだが、不可視の術のせいかおぼろげにしか見えない。
再び投げつけられたそれを今度は上段から叩き伏せるが、やはり尋常な重さではない。
が、ぎりぎりで押しのけて進めないということはない程度の重さだった。
次々と投げつけられるそれを牛の群れを掻き分けるような気持ちで押し分けながら、
彼は暗闇の方へと歩を進める。


245:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:04:18 n3n5fsiJ
「嘘!?く、来るなぁ!!」
暗闇の方も、自分の間合いに森巣が侵入してくるのがわかるだけに、
一歩一歩と必死で遠ざかりながら紙片を投げようとする。
しかし、うまくはいかないようだった。どうやら、何か布のようなもので身を包んでおり、
それが霊である森巣の目から逃れることが出来るのと同時に、身を包むものの動きを阻んでいるらしい。
森巣は、襲撃者の後ずさる動きが鈍いことに気づくや否や、渾身の力で床を蹴りつけた。
右足が地に着くのと同時に、切っ先は紙片を摘む手のその紙片だけを正確に貫いていた。

紙片と共に、襲撃者の身を包む布のようなものも巻き込まれたらしい。
はらり、とそれが落ちる。
現れたのは、白い小袖に緋袴の巫女だった。
年は20にも満たぬだろう。大きく見開かれた黒い瞳が、こちらを呆然と見つめている。
白い頬に、つ、と赤い血が流れた。どうやら、切っ先が顔にも触れたらしい。
彼が刀を引く前に、芯を抜かれたようにどすんと巫女が床に尻餅をつく。
何事か、と思っていると、巫女の大きな目から涙が流れ出した。
彼は、慌てた。それを顔には出さなかったが、こんな年端もいかない娘相手に必死に応戦し、
挙句刀を向けて泣かせてしまったとあっては、なにやら恥ずかしくもある。
君が調伏しようとしていたのは別の霊であり、自分は君にも他の人間にも危害を加えるつもりはない、
ということを何とか説明しようと思ったが、
しかしそれを考えていたせいで、手に持つ武器を鞘に収めるのを忘れていた。

彼女にとって、自分の眼前に刀をつきつけ、何かを考え込んでいる森巣の姿は、
彼女をどうやって殺そうかと思案している悪霊の姿にしか見えなかった。
生きたまま切り刻まれるのか、あるいは一撃で首を落とされてしまうのか。
もしかしたら、散々に嬲られ犯され殺されるのかもしれない。
ここで何人も殺しているだろう悪霊なら、そういうことをしても何も不思議ではなかった。
自殺した学生の霊か何かだろう、と高をくぐっていた挙句、自分の術が通じない敵に出会ってしまった。
不意に股が濡れているのに気づく。恐怖に耐え切れず漏らしてしまったのだ。
ああ、なんて情けないのだろう、と絶望する。しかし、彼女にはもうこう懇願するしかない。
「お願い。殺さないで。」

彼の目の前で助命を願う巫女の姿は、たまらなく痛々しかった。
抱きしめて、大丈夫だと言ってやりたいほどだったが、しかし先ほどまで彼女とは命のやりとりをしていたのである。
結局、ここでも彼は去る以外の何も方法が思い浮かばなかった。
刀を引き納め、振り返ると、心もち急ぎ足でその場を後にした。
昇降口と呼ばれる門を出ると、空は白みかけていた。
結局、彼はこの日二回も女の涙を見ながら、そのどちらにもたいしたことをしてやることはできなかった。
(俺が誰かにしてやれることなど、もう何もないのだ。)
何を果たせば満足できるのかも分からないままに、諦めだけが身に積もっていく。
太陽に晒され、さらに薄くなっていく自分の体を見ながら、森巣はため息をついていた。

これが、森巣誠一郎と鏡春菜との、最初の出会いになる。


246: ◆WIhkQEicx2
07/09/13 01:04:55 n3n5fsiJ
ここまでです。続きます。

247:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:05:29 4hwrR9rc
GJ!
>234の初っ端の千里耳の台詞に吹きましたw
姉さんの静かなる策謀にwktkです!

248:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:11:05 n3n5fsiJ
おお、俺も言い忘れてた。
>>237、GJ!妹が展開され始めるのが楽しみです。

249:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:19:29 /okrvE0F
何やら長編の香りがして戻ってきました
本日二回目ですけどGJです


250:名無しさん@ピンキー
07/09/13 15:01:41 HU+82/tx
>>237>>246
乙です!!続きを楽しみ待ってます。
まとめサイトの管理人さん、仕事早すぎw乙です!いつもお世話になっとります。

251:ふすまの奥で ◆KJPplSAabQ
07/09/13 18:47:42 Osjl1vaE
「…真里菜、起きてる?」
トントンとふすまをノックしながら、制服姿の少年は尋ねた。
しばらく待っても返事は無い。

…寝ているのだろうか?
だったら起こさない方がいいかな。
そう思い、静かにふすまを開ける。

和室の中で、布団で横になってる少女を見る。
すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。
やはり眠っているようだ。

足音を立てないように気をつけながら、布団の横に座る。
そして、少女の右腕に眼をやり、点滴の針が外れてないか確認する。

「…よし、大丈夫だな」
やれやれと一息つくと、少年は少女を見る。

…今日も綺麗だなあ、こいつは。
肌こそ、病的に青白いが、その少女はまるで人形のようだ。
しかも人形の中でも、超一流の職人が精魂込めて作り上げたような、
見事な一品だ。

ぼんやりと少女を見続けていると、少女の顔に変化が現れた。
怖い夢でも見ているのだろうか、少女は苦しげに顔を歪ませ、微かなうめき声を
立て始めた。
穏やかだった寝息も苦しげなものに変わり、起こすかどうか迷っていた少年も、
少女のまぶたに、涙が浮かび始めた事に気付くと、慌てて少女の体を揺すり、
声をかける。

「真里菜、真里菜!」
必死に少年は少女の体を揺する。
「…う、あ?」
目が覚めたのか、少女は瞳を開けた。

「……お、にい、さま…?」
まだ意識が戻りきってない、焦点の合ってない瞳だったが、
少女はまるで縋るような手つきで、少年の手を握った。

「…あのね、またね、夢見たの。
 あの時の、夢。お母さんに、刺されたときの」
「…うん」
震える少女――植田真里菜の頭を撫でながら、その少年、
白井真太郎は答える。

「もう、忘れたいのに、思い出したくないのに」
「…うん」

「…怖いの」
「…うん」
無言で、真里菜の頭を撫で続ける。


252:ふすまの奥で ◆KJPplSAabQ
07/09/13 18:48:29 Osjl1vaE
どれくらい、無言のときが過ぎただろうか、
「…お兄様」
唐突に真里菜が立ち上がり、真太郎に抱きついた。

「なっ!ちょ、真里菜!」
真太郎はとんでもなく慌てた。
今まで布団に隠れて見えなかったが、真里菜の格好はネグリジェ一つだった。
ほぼ下着姿の女の子に、とんでもない綺麗な子に、例えそれが血の繋がった
妹でも、抱きつかれたのだから当然焦る。

「真里菜!ちょ、離れなさい!」
大慌てで引き剥がそうとするが、真里菜はぎゅっとしがみついたまま離れない。

「真里菜!離れろって!離れた方がいいぞ!
 このままじゃお兄ちゃん、ちょっと」
「……震えが、」

焦りまくっていた真太郎だが、
「…震えが、止まるまででいいから…
 お願い、こうさせていて…」
か細い、真里菜の声を聞くと、沸騰しそうだった脳みそもすぐに
常温に戻った。

真里菜の背中に手を回し、そっと抱きしめ、優しく背中をたたいてやる。
そうすると安心できるのか、震えていた真里菜が、徐々に落ち行いてゆくのが
解った。

そうやって、しばらくの間、真里菜と抱き合っていたのだが、
「ッん…」
真太郎の手が真里菜のわき腹に当たると、真里菜が艶かしい声を上げた。

その声で、頭から飛んでいた劣情が再び頭に上ってきてしまった。
そうだというのに、真里菜はよりいっそう、真太郎に抱きついてくる。

顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。
鼻息が荒くなりそうで困る。
やばい。勃ちそう。
ダメだ。妹だぞ。こいつは。実の妹。
そりゃ、実感なんて無いけど。
妹。妹。妹なんだぞー――!!


253:ふすまの奥で ◆KJPplSAabQ
07/09/13 18:49:52 Osjl1vaE
「…お兄ちゃん。
 なにやってるの…」
「おわっ!!」
 
ビクッと振り向くと、そこにもう一人の妹、シノがいた。
「…いつ帰ってきたんだ」
「…ついさっき。
 ご飯できたから来いってお母さんが」
「ああ、わかった。真里菜連れてすぐいくよ。
 先行っててくれ」
「うん…」

そう言ったのに、シノは部屋から立ち去らなかった。
「どうした?シノ」
「…いつまで、抱き合ってるの…」
拗ねたような、泣きそうな顔のシノに指摘され、改めて自分の状態に慌てる。
今度は真里菜もすぐに体を離した。


真里菜を支え、真太郎は廊下を歩く。
その二人を見ながら、シノは後ろからついていく。

悔しい。ねたましい。離れて欲しい。
そう思ってしまう自分がいやだった。

真里菜さん。
真太郎の本当の妹。

まだ子供の頃、真太郎と真里菜は両親の離婚で離れ離れになった。
真太郎がついていったのは父親の方で、その父の再婚相手が、シノの
母親だった。

真太郎とシノはすぐに仲良くなった。
一緒に遊んだし、シノが泣いていたらすぐに飛んできてくれたし、
いい事をすれば沢山褒めてくれた。

シノは本当に真太郎が好きになった。

けど、どうしても受け入れられない事が一つだけあった。
真里菜のコト。

真太郎はよく真里菜の事を話した。
何が好きだったか。何が嫌いだったか。
どんなときケンカしたか。どうやって仲直りしたか。

懐かしそうに話をする真太郎を見ると、シノは怖くなった。
お兄ちゃんは、いつか、私じゃなくて、本当の妹の所に行っちゃうのではないか。


254:ふすまの奥で ◆KJPplSAabQ
07/09/13 18:50:22 Osjl1vaE
だから、思い切って聞いてみた。
私と、その妹、どっちが好き?と。

真太郎は決められないよ。と答えた。
それを聞いて、シノは思いっきり泣いた。
泣けば、真太郎はすぐにシノの思うようにしてくれるから。
今度もすぐに、自分の方が好きといってくれると思った。

それなのに、真太郎は答えを変えなかった。
何度聞いても、何度聞いても自分の方が好きだといってくれなかった。

その日から、決定的にシノは真里菜を憎んだ。
会ったこともない、真太郎と血の繋がりを持った真里菜が許せなかった。


その真里菜が、今、この家にいる。
真太郎に支えられて歩いている。


つらい事があったんだから。
真里菜さんの支えは、真太郎しかいないんだから。
そう思っても、胸の苦しみは取れなかった。

「シノさん?」
気がつけば、真里菜さんがこっちを見て、不安そうな顔をしていた。
いけないいけない、と思い、不快な感情を沈めて、笑顔を向ける。

ホッとしたような表情で、真里菜は微笑み返す。
その微笑に、何か引っかかるものを感じる。

なぜか、真里菜の微笑が、仮面のように感じる。
まるで、彼女もまた、心の奥に、どろどろとした情念を隠しているかのように。

255:名無しさん@ピンキー
07/09/13 19:39:47 ViWAd6uG
投下終了・・・かな?
>>251
付き合いの長い義妹vs突然現れた実妹か
大好物です。

256:名無しさん@ピンキー
07/09/13 19:42:48 5ZCw72zE
GJ!!!

続きも楽しみに待ってます!!


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