07/09/18 01:13:55 gu9zPD4M
「う…」
触手は彼女の体に絡みつくとかすかに振動を始め、彼女の体を心地よく刺激する。
その感触は見た目に反して柔らかく、彼女は両手をだらりと下げ、口を開き為されるがままとなる。
「んん…ああっ…」
その触手は耳や口などといった部分に入り込み、彼女の頭脳や脊髄、半身に音と振動で「何か」を伝え始めた。
その衝撃が彼女の意識体に影響を与え、彼女を変質させていく。
「優美…さあ、君は強くなっていく。強ければ何でも許されるんだよ…」
耳元の甘い声が何倍にも増幅され、彼女の心身は快感と共に嫌でも変わらざるを得なかった。いや、むしろ変わるのが心地よかった。
癒し、慈悲、優しさ…そういった彼女の元の精神に代わって、悦楽、攻撃性といった性質が付与されていく。
「わ…わたしはっ…強い…強くなってく…強ければ、な…なんでも…うあっ」
もはや完全に体をナイトメアに預けきった優美の手足に、彼女を変えていく触手とは別の針金が絡みついた。
彼女の腕や足に薄い金属としてまとわれたそれは、細い手足や胸元を強調するように体全体へ巻き付くと
最後に優美の目の前で束ねられ、ひとつの結晶体を作った。
「さあ、朝倉優美…この結晶体を飲み込み、力を君のものにするんだ。完全体となるためにね」
「ち・か・ら…かんぜん…た、い」
もはや彼女はナイトメアに支えられている状態ではなかった。
ナイトメアの大半は彼女の体に絡みつくか、彼女の体内へ入っているかで、その針金の一部が地に突き立ち、倒れない程度に支えるだけ。
残りの大部分が結晶体となっていた。それを飲めば、ナイトメアのほぼ全てが体内に入り込むのだ。
だが優美は心地よさげに目を細めたまま、口を開いた。その中に結晶体が挿し込まれる。
意思を持っているのか、それは彼女の口の中で少し動くと、こくんと音を立てて体内深くへと入り込んだ。
びくんと優美は一瞬体を大きく震わせ、怯えるように目を見開いた。だが、ほんの一瞬だった。
夢心地でその場にしゃがみこんだ彼女の指先や体から金属糸が伸びだし、イデアのあちこちに広がっていった。
それに反応し、崩壊寸前だった彼女の精神世界は蘇っていった…。
ただし、とげとげしい植物と、冷たい金属でできた人工の植物、そして不自然な光に照らされた異形のイデアとして…。
リバースエナジーが完全に消えた一室で、再び御剣晃と朝倉優美は向かい合っていた。
だが御剣…「タナトス」を見つめる優美の瞳には、以前のような怯えの色はない。
「元の精神体は完全に変え尽くしたんだな?」
「はい、すべて…」
心地よさそうに優美は目を細めた。
「ふふ…お前は僕の分身だ。僕と一緒に強力な分身を作るために動くんだ」
「はい、タナトス様」
にこりと笑う優美は、陶酔した目で彼を見つめた。
いや、それとも生まれ変わった自分への陶酔かもしれない。
「お前は片山弘樹と親しいらしいな。いや、親しかったと言うべきか」
それを聞いて、今まで外見上は変わっていなかった優美に、冷たい笑みが浮かんだ。
「はい。あいつに関しての情報ならお任せ下さい。なんなら私がすぐにでも手を…」
「いや、それはまだ早い」
優美の顔に不満の表情が浮かんだ。
「どうして野放しにしておくのですか?あいつは他の奴とは違います。早めに消しましょう、邪魔にならないうちに」
感情を抑えきれないのか、口調が激しくなる優美。
御剣はそれには答えず机から書類を取り出し、何か書き付けて彼女に渡した。
「お前にはやってもらうことがある。片山を消すのはそれからでいい。僕の言うことに従うね?」
優美の険しい顔が、一転してとろけるような表情に変わった。
「はい、タナトス様。この朝倉優美、分身たるあなたのおおせのままに」
「よし。それではまずこれを使い、アカデミア学院の特化コースに転入しろ。
あそこは科学庁に選ばれたエリートが個人教育を受ける場だし、お前は成績もそこそこ優秀だ。
それほど怪しまれることはないだろう。
そして片山の『仲間』とやらを…1人1人こちらに引き込むのだ」
「はっ」
「ああ、…それから」
御剣は薄く笑って言った。
「特化コースは基本的に制服というだけで、アレンジは個人裁量に任される。目立たない程度に好きにしろ」
それを聞いて、優美…いや、かつて朝倉優美であったタナトスのしもべは色っぽく微笑んだ。