ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6 - 暇つぶし2ch464:@巴のマスター
07/11/18 20:07:59 HVgZrOFn
そんなおれの前に、今度はソフトボールのユニフォームにサンバイザーの少女が突っ込んできて、金色の
金属バットをぶんぶんと勢い良く振り回してきた。
バイザーから零れた茶色の髪が美しく、まだあどけない顔立ち…。
しかも泣きそうな顔で一生懸命振り回している。
良く見ると小柄で…『OJ-MD8』のバッジが…無い!?
さっきの娘は自分の意思があったようだし…どうなっているんだ?これは。
「おとなしく…従ってください!」
相手は、どう見てもローティーンの女の子にしか見えない外見だが、風切るスイングスピードは異様だ。
「馬鹿!そんなもん振り回されて大人しくできるかぁ!!」
金属バット相手では、電磁警棒でも直撃したらこっちが折れる可能性があり…分が悪い。
…畜生、こうなったら、電磁警棒一本犠牲にしてもう一本で…。
一旦飛び下がってかわし、右腰に下げた方を、素早く左手で抜き取る。
だが、着地の際、体勢が崩れてかわし損ね、一瞬早く、ソフトボール少女のバットが右の電磁警棒に当たった。
ギン…という金属の弾ける音がして、おれの手はびりびりと痺れ、思わず堪りかねて取り落としてしまった。
しまった!やっちまった。
「ぼっちゃま!」
インカム越しで無い巴の声がして、それと同時に物凄く長い棒状の物体がソフトボール少女に振り下ろされる。
「きゃっ!」少女の顔が恐怖に歪み、そのまま目をつぶる。
そして少女の小さな肩に長い棒がもろに命中し、そのまま電撃の閃光が上がった。
ユニフォームが焦げて裂け、ブラの白い肩紐が露出するのが見えた。
正気を失い、膝からすっと崩れ落ちる少女から、サンバイザーが外れ落ち、長い茶髪がなびく。
振り返ると、巴の手にしている電磁警棒は、巴の肩ぐらいまである…つまりはおれの身長ほどのもの。
先端が湾曲していて…どう見てもナギナタみたいだ。
「済まん…助かった」電磁警棒を拾い、まだ痺れる右手をさすりながら、軽く手を上げた。
巴はにっこり笑って首を振ったが、すぐに真剣な顔で少女たちの方を向いた。
「いいえ、どういたしまして……それにしても、敵も戦法を変えているみたいですね…」
「…こちらの戦法を分析しているのか」
「はい…しかもシロー君の分析では、増援が近づいているようだと」
だから、電磁警棒対策に、金属バットなんて持ち出してきたのか?
そうなると長丁場は一層不利となる。
「だとすると、やはり短期決戦で決めるしかないな」
おれは唇をかみ締めた。

465:@巴のマスター
07/11/18 20:09:00 HVgZrOFn
<『tomo』…何故、わたしたちのもとへ来ないのですか?>
再び呼びかける声が響く。
巴はキッと声の方を睨みつけた。
そして、少女たちの『唱和』する声に答えるように、巴はおれの脇に立ち、『ナギナタ』を構えて仁王立ちした。
そのすぐ後ろの左右の脇に、弓矢を番えたネネとチャチャが控えている。
三人とも…このまま一緒に前衛に立つつもりなのか?
シュワちゃんもスタちゃんも巴の気迫に押されたのか、三人の横で身構えて待機している。
巴の気迫は、後ろにいても感じられるほど、強く、凛々しく、決意に満ちたものだった。
いつものまったりな穏やかな姿では無く、それは戦国時代の戦乙女を思わせるもの。
そして巴は眉を吊り上げ、顎を上げ一際通る声で高らかに告げた。
「わたしの大切な人たちを…ドロイドの仲間たちを…ぼっちゃまを傷つける者は…断じて許しません!!」
<今です!!>
シローの叫び声と共に、ネネとチャチャが束ねた矢を一斉に打ち放つ。
次の瞬間、少女たちの腕から閃光が上がるが、一瞬早く、シュワちゃんとスタちゃんが前に飛び出し、
彼らの身体に無数の弾丸が突き刺さる。
「シュワさん!」
ネネが悲痛な叫び声を上げるが、シュワちゃんは正面を向いたまま、つっと親指の右手を上げた。
スタちゃんも両手を上げて一歩も退かない構えだ。
くそっ…やるじゃないか!…お前さんたちの行為…無駄にしないぞ!!
「ひるむな…全部射掛けろ!」
我ながら、随分非情な命令を下しているな…と思いながらも、おれはそう命じるしかなかった。
すかさずチャチャが、やや遅れてネネが素早く束ねた矢を連射する。
矢自体の速度は弾丸よりは遥かに遅い。
だが物が長く、しかも放物線を描いて打ち上げられ、その頂点で散開して降り注ぐ光景は心理的に
大きなダメージを与えることに成功していた。
少女たちの群れに、文字通り雨のようになって降り注いだ矢は、必ずしも決定的なダメージを与えては
いないが、それでも頭部に受けたら、下手をすれば致命傷なのだ。
ひるませ、足止めさせるには十分な量だった。
機関銃を撃っていた少女たちも、思わず銃撃を止め、反射的に腕や手を、頭や顔にかざす。
「今だ!突っ込め!!」
おれは電磁警棒を握りなおして、真っ先に駆け出した。
人間相手なら、それほど銃撃はできないはずだ。
やや遅れて、傷だらけのはずのシュワちゃんとスタちゃんも少女たちの群れに突っ込む。
「あ、ぼっちゃま!」
「皆、続け!」
巴の声に続いて、バンの肉声の怒声が聞こえ、おれはそのまま走りだし…。
少女たちの群れの奥の一段高い場所に一人佇んでいる、赤毛のツーテールの少女の姿に気づいて、あっと
声を上げそうになった。

466:@巴のマスター
07/11/18 20:09:49 HVgZrOFn
「…と、ともねえ…!?」
それは…何度も、夢にまで見た…懐かしいともねえの姿。
腕組みして、じっとこちらを見つめる笑顔は…昔のまま?
「ぼっちゃま!騙されないで!!」
すぐ横にやってきた巴が『ナギナタ』を構えながら怒鳴った。
「あれはトモミです…朋さんではありません!」
巴の姿と声に、おれは一瞬にして現実に引き戻された。
「ありがとう…その通りだ」
おれは巴の顔を見上げ、静かに笑いかけた。
そうだ、おれにとっての『ともねえ』は…この巴なんだ!
「ぼっちゃま…」
巴の黒い瞳がおれをじっと見つめ、それから、にこっと笑うと小首を傾げ、右手で軽く敬礼に似た会釈をした。
「…よし…そういうことなら…トモミを狙おう…」
おれは巴に頷き返し、それから振り返り、すぐ後ろに駆けて来たバンに小声で囁いた。
「倒せないまでも…大将を混乱させれば、時間は稼げる」
「わかった…任せろ」
バンはジェーンと目で合図しあい、トモミの方を凝視した。
前にいたシュワちゃんとスタちゃんがその直後、立ち止まり、数人の少女たちと組み合い、ネネとチャチャが
組み合って動けない少女たちの肩口を、電磁警棒で袈裟懸けに打ち下ろしていた。
「いくぞ、巴!」
「はいです!」
目の前に二人の少女が現れ、やはり電磁警棒を振り下ろしてきた。
双子仕様なのか…顔立ちはそっくりなのだが、一人は黒髪のポニーテール、もう一人はツーテール。
黒の学生服のブレザーを着た二人が左右から打ち込んできたが…連携が甘いぜ!
おれがポニテの娘に素早く打ち返し、たじろいだ所を、間髪要れず、電磁警棒の柄に当てて痺れさせ、
ツーテールの娘が時機を逸してひるんだところを、巴が『ナギナタ』で立て続けに打ち下ろして肩口を破壊し、
あっと言う間に二人とも活動不能にする。
続けて、正面から五人やってきたが、巴は軽やかに飛び上がるや、上空から『ナギナタ』を振り下ろして
少女達を怯ませ、着地するや激しく何度も何度も振り回し、その都度、少女たちが弾き飛ばされて、派手に
地面を転がっていく。
起き上がった少女たちに向けて、おれは立て続けに電磁警棒を叩きつけ、活動停止にしていった。
しかし、それも巴の活躍あれば…だ。
「す…すごい」
ネネとチャチャが一瞬、振り返り、巴の奮戦振りに驚きの視線を向けた。
巴はさらに『ナギナタ』を横にして、向かってきた三人の少女に真正面からぶつかって、そのまま弾き飛ばし、
そのまま斜めに、いとも無造作に、だが的確に『ナギナタ』を振り下ろし、全員の肩口に煙を吹かせる。
しかも、休むことなく、振り向きざまに後ろから向けられた長槍をかわして、それを掴むや、握っている少女ごと
持ち上げるや、何と、おれの方に放り投げてきた。
「ぼっちゃま、頼みます!」
投げられた少女は地面に跪き、槍を立てて立ち上がろうと顔を上げたが…。
間髪居れず振り下ろされた、おれの一撃で活動停止になってしまった。
だが凄い!凄すぎる…!!
巴と二人だけで…立て続けに十人!
いや、巴のスピードとパワーがあればこそだ
…なるほど、本人はとても嫌がっていたが…『巴御前』のニックネームは、やはり伊達じゃない!

467:@巴のマスター
07/11/18 20:10:50 HVgZrOFn
ゲートを出てからは、こちらの逃亡戦になっていたが、巴の奮戦で少女たちも浮き足立っていた。
何せ、おれが傍に居る事で、銃の類が殆ど封じられ、逆に巴が扇風機の如く振り回す『ナギナタ』に全く
近寄れず、次第に遠巻きに囲み始めていたぐらいなのだ。
最初予定していた戦法と、全く違っていたのも幸いした。
当初こちらは少数で、矢や弾丸を撃ち尽くしたらアウトだったのだが、ここにきて巴が、ついにその真価?を
発揮し始めたのだから、彼らにしてみれば計算外だったのだろう。
さらに…既に人工皮膚のあちこちが破れ、中のフレームが一部見えるほどにボロボロになっていたが、
巴の左右には、シュワちゃんと、スタちゃんの二人が、闘志満々で身構えているのだ。
じりじり、じりじりと、遠巻きに武器を構える少女たち。

…と…次の瞬間…正面の囲いに、僅かだが隙間が出来た。
ようし…やるなら…今だ!
おれは左脇に立ったシローに目くばせした。
「バンさん!今です」
シローがそう叫びながら、少女たちの群れに円筒形の物体を放り込んだ。
シュッと煙が噴出し、シローは更に幾つもそれを放り込む。
やや遅れてネネとチャチャも、それを少女たちの群れに投げつけた。
辺りが次第に白煙に包まれていく。
最後の最後まで取ってあった催涙弾だ。
もちろんドロイド相手に効果はない…だが、煙幕の代わりにはなる。
そして…その直後…。
大きな銃声が立て続けにふたつ鳴り響き、彼方でばったりと倒れる人影が見えた。
振り返るとバンとジェーンの手にしている銃の先端から、硝煙が上がっていた。
…途端に少女たちの動きが乱れ始め、押し合い、もみ合う光景が見えた。
トモミを…倒したのか?
いや…まだだ…まだに決まっている…ならば…。
「チャンスだ!皆、走れ!!!」
おれはあらん限りの声を上げて怒鳴った。

皆…必死で走った。
おれたちの様子に気付いた少女が数人、正面にやってきたが、巴が『ナギナタ』で打ち払い、
転んだところを、シュワちゃんとスタちゃんの電磁警棒に叩きつけられて動けなくなり、さらに
シローが残った最後の催涙弾を追っ手に放って煙を浴びせ、敵の目隠しをしつつ走り抜ける。
ネネとチャチャはバンとジェーンの後ろを走り、二人をかばう様にちらちらと様子を伺っている。
…おれはしんがりを努めながら、ちらと振り返った。

彼方に…おれが想いを寄せたひとにそっくりな…ドロイドが立っているのが見えた。
かなり遠いので表情は判らないが…。
どうやら致命傷は与えられなかったらしい。
妙にほっとする気持ちと共に、これで倒れていてくれたら…という気持ちがないまぜになって
正直、ちょっと複雑な気持ちだった。
…そして催涙弾の煙の中に『彼女』の姿は見えなくなった。

468:@巴のマスター
07/11/18 20:11:50 HVgZrOFn
路地裏に駆け込むと、まだ追っ手の気配が無く、ちょっと安堵した
そして、バンのワゴンに辿り着くと、巴を中央のシートに急いで乗せ、ドアを閉じた。
巴自身がリンク・システムで探知される可能性が高いので…である。
それにしても、巴はアタマをぶつけずに、すんなり乗り込んで、おれは少し驚いた。
もしかすると『全開モード』で動きが機敏なのかもしれないな…と、思わず苦笑した。
続いてネネ、チャチャ、シローが後部の三列シートに滑り込み…ジェーンが助手席に乗り込み、
おれとバンが振り返ると、シュワちゃんとスタちゃんは…そっと首を振った。
「おい…でも…」
おれの言葉にも二人は首を振った。
「それに…そのクルマに全員は無理でしょう」
スタちゃんが人懐っこい笑みを浮かべてニッと笑った。
全身傷だらけで、顔中にも無数の弾のこすった跡が付いていて痛々しいが…それでも清清しい
笑顔でおれたちに会釈してくれた。
「それに、本社が気になりますしね」
シュワちゃんが真っ白な歯を見せた。
こちらはもっと凄く…向かって右目…つまり彼の左目の辺りがざっくり裂けて、銀色の人工骨が
見え、その中に赤い機械の瞳が輝いていた。
うわっ…!まさにこれはT8○0…そのままじゃないか。
後で聞いた話では、シュワちゃんは、スタちゃんの格闘センスを生かすために、進んで弾除けに
なり、この為、被弾数は倍以上だったらしい。
「しかし…このままでは君たちは」
「覚悟は出来てます」
スタちゃんがボロボロになった警備員服の袖をめくりながら言った。
「それに…ただでは済ませませんよ」
「大丈夫…また…きっとお会いしましょう」
そう言ってスタちゃんは親指を立て、
「I‘ll be back!」と 張りのある声を上げ、そしてニヤリと笑ってみせた。

469:@巴のマスター
07/11/18 20:12:56 HVgZrOFn
数分後…ワゴンは走り出した。
振り返ると、巨漢の二人が大きく手を振って見送っているのが見えた。
その姿も段々遠ざかる…。
「…スタさんたち…大丈夫でしょうか…」
ネネが、後ろから身を乗り出して、中席のおれに話しかけた。
チャチャに至っては、今にも泣き出しそうな顔で、じっとおれの顔を見つめている。
「…正直…かなり危険な状態です」
シローも沈痛な面持ちで首を振る。
おれも…そして運転するバンもジェーンも、何も言えないでいた。
「…大丈夫ですよ」
ふいに、おれの右の席にいた巴が、静かに口を開いた。
「トモミの目的は、わたし一人…もう囲いは解いているはずです」
「でも…」
チャチャが口を開きかけたが、巴はそっと、チャチャの頭を撫で、静かに微笑んだ。
「大丈夫…二人とも、元は軍用…本気になれば、あの程度の一団に負けやしませんよ」
そう言いながら、ちらと振り返り、二人に目をやり、それからネネとシローにも笑いかけた。
「本来はその位の戦闘能力を持っているのです…」
「…確かに、お嬢さんたちの手持ちに、迫撃弾とかロケット弾とかは無かったな」
巴の言葉に、おれも思い当たるものがあった。
「それに、二人とも、おれやバンが居たから、却って力を抑えてくれていたフシもある」
「そうだな…二人を…信じようよ。みんな」
バンの言葉にジェーンが頷き、ネネとチャチャはシローの顔を見…やがて三人は小さく
頷きあい、振り返って、遠ざかっていく二人に改めて手を振った。

こうして脱出作戦は辛くも成功した。
この後は、いよいよトモミ…シンクロイド・システムとの最終決戦だ。
何気に窓の外を見ると、やはり動けなくなっているドロイドたちが、収容されている光景が
幾つも目に入り、おれは唇をぎゅっと結んだ。
前席のバンたちも、後席のネネたちも、その光景に何も言葉を発せないでいる。
ふと気付くと、巴がおれの手をそっと握り締めていた。
その瞳には決意と不安、そしておれに対する想いのようなものが感じられ、おれもその手を
しっかりと握り直す。
何があろうと…おれは、いつまでも巴と一緒だ!
その想いが通じたのか、巴は頷き、その澄んだ黒い瞳は、暫しじっとおれを見つめていた。

やがて、すっかり陽が落ちて、ワゴンは夕刻の街からハイウェイに乗り、一路、研究所に
向かっていた…。

470:@巴のマスター
07/11/18 20:15:20 HVgZrOFn
>>464>>469 今日はここまででございます。
…次はいよいよ最終決戦…の予定です。
あと数回…で終わると思うのですが…いつも遅筆で済みません(汗)

471:某四百二十七 ◆mjGnt7G.D2
07/11/19 21:02:39 n1esaLj8
>>470
GJ!
しかし、ロボ娘が壊される場面は、心が痛む…orz

472:名無しさん@ピンキー
07/11/19 22:35:17 SncPB3Fg
>443 で、出遅れた……宜しければ再を


473:200
07/11/20 00:50:53 DBnxYg0E
>>472
再度上げました。

1146208.lzh

474:472
07/11/20 01:09:37 4h26o9pL
ありがとうございます。前3作からまた通して読ませていただきます。

475:名無しさん@ピンキー
07/11/20 16:07:35 MnMFlL1+
ホシュ

476:名無しさん@ピンキー
07/11/21 19:16:58 kOUJdkAR
>>475

乙たんホシュ!


477:@巴のマスター
07/11/21 20:26:40 c4FlmSbf
夜のハイウェイをワゴンは静かにひた走る。
西へ向けて50キロほど行った先の山の麓に、オムニ・ジャパンの研究所があるのだ。
車中から見える夜景は、まるでその場に星を散りばめた様に美しく、後席のネネとチャチャが
しきりに、ここはどこ?あそこは?と、シローに訊ねていた。
シローは苦笑混じりに、それでもひとつひとつ丁寧に答えていたが、まるで茶目っ気たっぷりな
双子の姉に、しっかりものの弟みたいな光景で、いつしか車内は和やかな空気が流れていた。
先刻までの必死な戦いの疲れが少し癒される。
「…ヒデと天野さんが一緒になったら…三人は本当に、色んな意味で姉弟だな」
ふと、そんな事を呟くと、いきなりぺしっと頭を叩かれた。
「あいた!」
振り返ると真っ赤な顔のチャチャと照れ照れ顔のネネ…それにうつむいて困った顔のシロー。
「そういう無粋な事…言っちゃ駄目っす」
チャチャがそう言いながら、ネネとシローの首に両手を廻してふふっと笑った。
「わたしたちは…いつでも一緒です」
「え…と…まあ…はは…」
シローの照れ顔も…これがなかなか可愛らしく…。
本当に、メイクし直したらショートヘアの美少女みたいで…美少女三姉妹と言っても通るよなあ…
などと思ってしまった。

だが…それと共に、こんな大事な家族を寄越してくれた秀一と天野さんに…そして自ら志願
してくれた彼らに申し訳なく思うと共に…感謝の気持ちで一杯になった。
「今日は…助かったよ…」
おれは改めて三人の顔を一人ずつ見つめ、それから頭を下げた。
「皆が居たから…おれたち、こうして脱出出来た…本当に感謝の言葉も無い」
「…いいえ。貴方と巴さんは特別な人たちだから」
ネネがそっと首を振った。
「マスターが言ってましたよ。あいつはおれのダチで、兄弟みたいなものだって」
チャチャは右目をつぶって人差し指を立てて見せた。
「だから何としても…絶対に助けるんだって…」
「ええ。うちのマスターも…怖いぐらいの気迫でした。だから、僕たちも…」
「二人とも…事情もろくに知らないのに…そこまで信じてくれてたとは…」
おれは…恥ずかしながら…じわっと目頭が熱くなるのを感じた。
たぶん、後で春日課長から事情は説明されたとは思うが…仕事を引き継いだ時、何も言わずに
引き受けてくれた秀一と、それに従ってくれた天野さん。
そして、二人の代わりに参戦してくれて、一緒に危険を脱してくれた三人のドロイドの仲間たち。
おれは何て素晴らしい友人たちを持ったのだろう…と…。
不覚にも涙が出そうになって何度もまばたきし、上を見上げたまま前を向いた。
「…本当に…ありがとう…な!」

478:@巴のマスター
07/11/21 20:29:04 c4FlmSbf
その時、こほん…と運転席から咳払いがした。
おれが泣きそうになっているのを、バンはちらとミラー越しに見ていたらしい。
ありがたい…と思いつつ、軽く、さりげなく涙を拭う。
「…ところで、さっきのドロイドたちだが」
バンの視線とおれの視線が一瞬、ミラー越しに合った。
「ちょっと気になったんだが…中に何人か、意思を持った娘たちがいたように思うのだが」
「そういえば…おれが倒した娘を助けようと、名前を呼んでいた娘がいたな」
おれの言葉に、巴も大きく頷いた。
「金属バットを振り回していた娘なんて、泣きそうな顔して説得しようとしてましたよね」
確かに…あのソフトボールのいでたちの娘など…そうだった。
「妙だと思わないか?」
「おれもそれが引っ掛かってたんだ」
バンの言葉に、おれも先刻からずっと気になっていた疑問を口にしていた。
「本来、シンクロイド・システムはまっさらで、自分の意思を持たない…言わば素体状態の
ドロイドに心を『書き込んで』コントロールするものじゃなかったのか?」
「ええ。そのはずでした」
助手席から振り返ったジェーンが、複雑な表情でおれたちの方を向いた。
彼女の知識は、亡くなったジェニファー嬢から受け継がれたものだから、ドロイドについての
博識や見識は、うちのお袋にも匹敵するはずだ。
だが、ジェーンの表情は困惑と、若干の焦りも感じられた。
「ですが…システムに共鳴…いえ、この場合、本人が自らの自由意志で同意したとすると、
システムに従ってか…あるいは操られて行動した可能性も、十分あり得ます」
「自由意志…ですって!?」
チャチャが信じられない…という口調で勢い良く口火を切った。
「そんな…あんなに群れ成して、わたしたちを出すまいと…ともちゃんを捕まえようとして
いたのに…それがあの娘たちの…全部じゃ無いかもしれませんけど…意思だったって
言うのですか?」
「ええ…可能性の問題ではあるのですけど…」
ジェーンはそっと頷き、それから、ちら…と巴に目をやり、少しためらいがちに続けて言った。
「…判るのよ…わたしも…シンクロイド・システムで生まれた存在だから」
「え???」
最後列の三人が一斉に驚きの表情でジェーンを見つめた。
「…それは…くれぐれも秘密だ。それも国家レベルのな」
すかさずおれはクギを刺した。
「でないと、下手をすると秀一や天野さんたちにも塁が及ぶぞ」

479:@巴のマスター
07/11/21 20:29:51 c4FlmSbf
「まあ…彼らのマスターなら信用できると思うがね」
バンが苦笑混じりに口を開いた。
「くれぐれも…他には口外はしないで欲しい」
「二人は…テロリストに奪われたシステムの奪還…または破壊の為にやってきたんだ」
「だから…そんな大きな口径の銃を所持されていたのですね」
流石にシローは冷静に分析している。
「日本では…ありませんね」
「ああ…その通りだ」
「まあ、それがどこかはおいおい話すとして」
おれは、それより気になる事を訊ねていた。
「ジェーンは…シンクロイド・システムの被検体だけど、トモミの呼びかけは無かったのかい?」
「ええ…わたしを直接名指しではありません。ただ…ドロイド一般に対する呼びかけは聞こえたのです」
「ドロイド一般…ってことは、リンク・システムの影響下にあったのかい?」
「そうですね…あった…とも言えますし、無かったとも言えます」
「どういうこと?」
「『人間に、使い捨ての武器の代わりにされる事に、不安と不満のある者は我に集え…』…確か、
そんな意味合いの呼びかけが成され、それがわたしの頭に入ってきたのです」
「呼びかけ…?」
「はい。でもわたしは…多分、システム的にほぼ同じでも、巴さんの様に、トモミと同一に近い存在で
無かったので、独立した…と言うか、並立した別の存在として認識されていたのだと思います」
「別のシンクロイド・システムとして…か」
「ただ、呼びかけは聞く事が出来、わたしにも参加を求める『声』は聞こえました」
「でも君は…きっぱり断った…と」
「はい。わたし自身が拒絶し、以後は完全にリンクを切りましたから、大丈夫です。
…ですが、これを何度も『聞かされ』ますと…人間を信じ、愛するドロイドたちの心が乱れ、下手を
するとノイローゼの一歩手前まで行くでしょう」
「つまり…別の意識が乗っ取ろうと…言わば洗脳に近い形になる訳だな」
おれの言葉に巴が沈痛な面持ちで頷いた。
「そうです、ぼっちゃま。ドロイドたちが活動を休止したのは、まさにそれが原因だと思います」
「つまり…人間に反旗を翻すことを拒絶したドロイドたちが…本能的に自閉症モードになったのか」
「はい。自らの意思と、そして人々を守る為に、自ら活動を停めたのです」
「そういうことだったのか…」

480:@巴のマスター
07/11/21 20:30:37 c4FlmSbf
おれは、う~む小さく咽喉で声を出し、額に手の甲をあてた。
「確かに…人間によっては…確かにドロイドたちに偏見を持ったり、道具や兵器の代わりにしたり、
…あまつさえ自爆ドロイドみたいに、使い捨てにする馬鹿共が、まだ大勢いるからな…」
おれは前を向きジェーンを見、それから振り返ってチャチャたちを見、それから巴を見た。
「確かに、皆、身体は機械だ。でも人の心をそっくり…完璧に移された巴やジェーンはどうなんだ?
人が霊魂だ魂だ…なんて言うなら、おれはチャチャたちにも魂があると思ってる。それなのに、
そういう馬鹿野郎どもはドロイドを消耗品の代わりにしやがる…!」
「たぶん…あの娘たちの中には、生まれて間もなくて、そういう扱いをされる事が怖かったり
不安だったりした娘もいたのでしょう」
ジェーンは伏せ目がちにチャチャたちを見た。
「それで賛意を示したものの…実際の身体の機能はリンク・システムに委ねられて…」
「図らずもクーデター活動に参加したものの、気持ちの上ではまだ嫌々…という娘もいたんだな…」
「さっきの『呼びかけ』や一連の状況から判断しますと…そうだと思います」
ジェーンは再び前を向き、バンの肩に手をあてた。
「ごめんなさい、バン…その事をお話し出来なくて…」
バンはちらとジェーンの方を見、左手でそっと彼女の頭に手をあて、静かに笑みを浮かべ、首を振った。
「気にしないでいい。それより、君にも『声』が聞こえながら、おれたちを選んでくれた方が、よほど
重要だし…嬉しいよ」
「バン…」
感極まった顔でバンを見つめるジェーン…。
しばし二人だけの時間が流れかけた…が。
後ろからじ~っと見つめる視線にハッとなり、慌てて正面を向き直った。
「ふふ~!」
チャチャが両手を口に当ててにこ~っと笑っていた。
ネネもシローも興味深そうに瞳を丸く見開いてじ~っと見つめている。
「良いですね~!」
チャチャが、にまぁ~っと人の悪い笑みを浮かべて続けた。
「うんうん…素晴らしいです!人間とドロイドの理想的な関係がここにありますね~」
「え…あ…」
真っ赤になり、困惑し、言葉の出ないジェーンに畳み掛けるチャチャ。
「ささ、どうぞどうぞ。わたしたちにご遠慮なく…続きを…続きを!」
バンがぷっと吹き出した。
おれも巴も堪り兼ねて笑ってしまう。
「…う~!…もう!!」
再び振り返ったジェーンが、ふくれっつらの怖い顔で、思いっきり拳を振り上げる。
「そんなじろじろ見ない!それにそれ以上言ったら、三人ともここから放り出しますからね!!」
「おおこわ!」
ネネとシローが青ざめた顔で,慌てて両側からチャチャの肩に手を置くが、チャチャはニッと笑い、
再び片目をつぶってから…改めてにっこり笑った。
「ま…お幸せにね、パートナーのジェーンさん」
「…もう!」
再び拳を振りかけたジェーンだが、ふっと苦笑を浮かべ、親指を立てて片目をつぶって返した。
そして様相を崩して前を向いた。
「ま…励ましとして…そのお言葉…頂いておくわ」
何だか、二人の間に『女同士の友情』の様なものが芽生えたらしい。
ほっとした様子のネネとシローだったが、二人の和やかな様子に気付いて静かに微笑んだ。

「…これでチームワークもばっちり…かな…?」
思わず呟くと、巴がにっこり笑っておれに頷き返す。
…この一件が無事に終わったら…皆を集めて、お礼のパーティでも開くかな…。
ふとそんな事を思った。

481:@巴のマスター
07/11/21 20:31:50 c4FlmSbf
研究所まであと1キロ強の所まで来た時…おれは、ある交差点の手前で、ワゴンを停めてもらった。
地方の市街地…時刻は19時。
さて…今の時代、クルマはナンバープレートを付けると、違反防止と盗難防止の為、エンジンを
かけるとクルマからナンバーの情報が、必要に応じて警察からアクセス出来、所在が判るように
なっている。
このワゴンには、隠密活動用として『ナンバープレート変換システム』なるものが付けられていて、
ナンバープレートを電動で変更出来、それとリンクしてクルマから発せられるアクセス情報が瞬時に
書き換えられ「別のナンバーのクルマ」に変わる事が出来る。
その情報は、極秘の存在とかで、ネットで公表されていないので、おれたちの姿が発見されない
限り、このクルマの存在はリンク・システムと言えど、発見できない。
…だが、それを知られたら、今後、このワゴンは使えなくなる。
それではバンたちも困るだろう。
それに…何と言っても、皆をこれ以上危険に晒すのは忍びない。
これが最大の問題だ。
ワゴンを口実に…二人なら見つかりにくいから…と言うことで、皆にはここで待機してもらおう。
とりあえずお袋に連絡して、迎えを寄越してもらうなり何なり考えよう。
おれは、そんな事を色々考えて、ここから先は、おれと巴だけで歩いて行くことを提案した。

「どのみち…この先はドロイドが張っていると思うし…後はおれと巴で行く」
おれの提案にバンたちは即座に反対した。
「たかがクルマ一台と君たちの安全には代えられない!」
「そうです。それにお二人に何かあったら、僕たち、マスターに合わせる顔がありませんよ!」
「…気持ちは嬉しいが…皆に何かあったら、それこそおれが二人に合わせる顔が無い」
おれの言葉にシローは唇をぎゅっと結び、それから首を振った。
「それでも…バンさんには悪いですけど、このクルマを犠牲にしても、お二人を無事に送り届ける
方が大事だと思います!」
「しかし…もしさっきの様な一団が来たら…このクルマで吹っ飛ばす気かい?」
シローはうっと言葉に詰まったが、一瞬後、決意を固めた顔でおれをじっと見据えて言った。
「同胞を…それも女の子をハネるのは本意ではありませんが…それも覚悟しています」 
「そうか…」
おれもそこまで言われては、反対は出来ない…。
だが、ともかく、ここから先はより大きな危険が考えられる。
けれど、巴や、特命で来たバンもジェーンはともかく…シローも、ネネもチャチャも一歩も譲らない
構えなのには、嬉しく思うと共に、依然として迷いが残る。
「わかった…だが、ともかく一度、お袋に連絡させてくれ」
皆の決意に、そこまで言うのがやっとだった。

「ぼっちゃま…くれぐれもお気をつけて…」
ワゴンのスライドドアを開け、降りかけた時、巴が心配そうな眼差しでおれに手を挙げた。
巴が出ると、シンクロイド・システムの探知に所在の方位がばれる為、一定の場所にとどめて
おくわけには行かないので、外へは出られない。
二人っきりで行く時は、常に移動するので、タイムラグが考慮出来、多少の余裕があるのだが、
この場では出ない方が無難だ。
「ああ…だが……万一の場合は…一人で行ってくれ…」
ふと…何か妙な予感がして、おれはそんな事を言っていた。
「え?」
巴の怪訝そうな顔に手を挙げて返し、おれはすぐにスライドドアを閉じ、夜の通りに駆け出した。

482:@巴のマスター
07/11/21 20:33:00 c4FlmSbf
この街には、昔住んでいた事があり、ともねえと初めて出会った思い出の地でもある。
角を曲がり、まだ煌々と灯りのつく商店街の脇に出て、久しぶりの通りに出て携帯の電源を入れた。
人通りはそこそこあるが、ドロイドも大勢いてちょっとひやりとする。
すぐに発信し、耳に当てる。…暫く呼び出し音が続いた。
くそっ…なかなか繋がらないぜ。
そう思った瞬間、ぷつっという音がした。
「もしもし」
『…その声だと無事みたいね』
おなじみの声に、おれはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ…『下』の街にいる」
『お千代ちゃんから聞いたわ…大変な立ち回りを演じたそうじゃない』
「…どこも迎えが来てくれないんじゃ、仕方ないさね」
『…ごめん…こっちも人手が裂けなくて』
少しふて腐れた言い方に、流石に済まなそうな声が返ってきた。
「だが、問題はここからだ。今、巴たちはクルマに残ってるんだが、この先、どうしたものか…」
『…あなた…クルマから離れてるの?』
「ああ…そうだが」
『今すぐ電話を切ってそこから離れて、以後は公衆電話に切り替えなさい!盗聴はされないけど、
位置を探知されるわ!』
「え?なんだって…!?」
てっきり位置など読まれないと思っていたのだが…。
考えてみたら、通信内容が秘匿なのであって、電話番号から位置を特定できるか…。
畜生…なんて迂闊な!
親父の改良携帯なので、そこまで考えてある…と、つい思い込んでしまっていた!
「わかった…後で」
そう言って電話を切ろうとして、交差点から幾つもの人影が見えて、おれはハッとした。
人間に無い、やけに綺麗な色の瞳の少女たちのグループ。
皆、同じピンクのウェイトレスの服を着ているが、いずれも無表情。
振り返ると、別のグループがこちらに向かってくるが、こちらは全員、紺のメイド服。
前後共に五人ずつ…横一列に並んで、じわじわと近づいてくる。
…畜生…追っ手か…!
ほぞを噛む思い…というのは、こういう事を言うのだろうか。
もっと早くに気付くべきだった。

483:@巴のマスター
07/11/21 20:34:09 c4FlmSbf
「…挟み撃ちにされた…捕まるかも知れない…その時は巴を頼む!」
おれは電話に向かってそう怒鳴り、スイッチを切った。
そして、前後をちらと見てから、ヘッドライトを照らしたクルマの往来する道路に勢い良く飛び込んだ。
けたたましくクラクションが鳴り響き、危うくおれをハネそうになったドライバーの怒声が聞こえる。
済まない!だが、ここで捕まる訳にはいかないんだ!!
心の中で詫びながら、反対側の歩道に渡りきると、同じ様に道路を渡ったのか、左右から
ウエイトレスとメイドたちがこちらに向かって走ってくるのがちらと見えた。
構わずまっすぐ突っ切り、狭い路地裏へ。
この辺りは、おれが小さい頃、遊び場として使った所だ。
地図に載っていない小さな小路まで総て把握している。
そして、隠れ場所として使えるビルに至るまで…。
角を右に曲がり、直ぐ左に曲がり20メートルほど突っ切る。
更にそこから30メートルほど行った未舗装の砂利道を走る。
夜なので足元が悪くて躓きかけるが、体勢を立て直して更に突っ切り、それから、そのまま真っ直ぐ
走って、さらに左に曲がり、その路地の右にある小さなアパートの階段を駆け上がった。
…幼い頃、良く隠れ場、逃げ場として使った場所だ。
ここの五階の奥は、ちょっとした広間になっていて、住人用に自販機や古びたベンチが置かれてある。
地元の人間でも知らない…アパートの住人と、子供達だけの小さなサロンコーナーだ。
…ありがたい!まだあったか!!
ここなら…そう簡単には判るまい…。

中に入り、それからひとつだけある大きな窓から下を見下ろすと、丁度、黒い人影が幾つも行き来して
いる光景が見られて、全身が総毛立ち、冷たい汗が全身に吹き出した。
ここまで迫ってくるとは…それに、上を見られたら一環の終わりだった。
油断大敵だぞ…!しっかりしろ。

…だが、十分経っても二十分経っても、少女たちの姿は現れず、やがて少女と思しき人影が幾つも
彼方に走り去っていくのが見え、思わずほっと息をついた。
「…やれやれ…」
額の汗を軽く拭い、大きく息をつくと、ちょっと咽喉が渇くのを感じた。
さっきから、短時間とは言え、全力で走りづめで、少し汗も掻いたし…。
見れば、水やジュースの自販機がある…ともかく、何か飲んで落ち着くか。
ポケットから小銭を取り出しながら…巴たち…心配しているだろうな…と考える。
そして、改めて窓の外を見、それから五百円玉を出そうとして…
おれは…。
背後に、ふっと人の気配の様なものを感じて…
咄嗟に振り向き…思わず、あっと大声を上げそうになった。

暗い階段からの出入口に、静かに佇んでこちらを見つめている…赤毛のツーテールの美少女。
それは…トモミであった。

484:@巴のマスター
07/11/21 20:38:27 c4FlmSbf
>>477>>483 今回はここまででございます。
ここから急展開に…なるかと。

>>471
どうもありがとうございます!
確かに壊すシーン…ちょっとズキっときたのですが、メンバーは誰も
AIを潰す事、お顔を傷つける事はしていませんので、直す事は可能かと。
…ただ、首を折られた娘はトラウマになるかも知れませんね…(汗)

485:@巴のマスター
07/11/22 08:39:21 4bx74MwZ
「ともねえ…」
その瞬間…おれは…時が止まった様な錯覚を覚えていた。
あの頃と変わらぬ姿の『ともねえ』…。
整った柔らかな丸顔に、大きな蒼い瞳。
艶のある綺麗な赤毛。前髪は眉毛に軽く掛かるほど長く、両側は耳元まで軽く掛かるほど長い。
そして長い髪をきっちり二つに束ねて肩の先まで垂らし、髪留めには白いリボン。
昔、見慣れたエンジのブレザーとスカート…丸衿のワイシャツに更に赤いネクタイ。
整った顔立ちはとても愛らしくも、清楚で知的な印象があり、今見てもアイドルで通るだろう。
そう…ともねえ…そのものだ!

だが…。
その顔立ちが、今更ながら巴に実に良く似ていて…我に返った。
そうだ…これは『トモミ』だ!
ともねえじゃない!!

考えてみると…髪の色やアレンジ…瞳の色が違うだけで、随分印象が変わるものだ。
巴は明らかに、ともねえがモデルであり…このトモミと並べたら、きっと姉妹か母娘の様だろう。
それほど、改めて見るトモミの姿は巴に良く似ていた。

ふと、気付くと、ブレザーの両肩が何かがこすれたように僅かに千切れていた。
多分、バンとジェーンが撃った時の痕だろう。
倒れた様に見えたが、咄嗟にかわしたのに違いない。
…少しほっとすると共と同時に、トモミがほぼ無傷であるという事実は、おれが今、絶望的な
状況にある事を改めて示唆していた。
「…いや…トモミ…だったな」
おれは小銭をポケットに戻し、ちらとトモミの後ろを見た。
…他に誰もいないのか?それとも、下で待ち構えているのか?
トモミは暫し無言でおれを見つめていたが、僅かに小首を傾げ、ほんの微かに笑みを浮かべた。
「あなたの事は…記憶にあります」
「え?」
だが、トモミの顔からは、すぐに笑みが消え、無表情になった。
「昔…昔の朋さんの記憶に…」
「それはそうだろうさ。おまえは、ともねえの分身だったんだからな」
おれが皮肉っぽく言い放つと、トモミは、これまたほんの僅かにだが…悲しそうに…首を振った。
「それは…そうです。でも…わたしには」
「ともねえの姿をしていても…違う…そうだろ?」
「そうです…でも…彼女の記憶や経験は…持っているのです」
「……記憶や経験は…って言ったな?…なら、どうして巴を狙うんだ?巴だっておまえと同じだろう?」
トモミの様子が…思ったより控えめで、しかも…妙に好意的な事に気付いて、おれは訝った。
ここにいるのは…いわばラスボスだろう?
なのにどうして、おれを力づくで連れて行こうとしないんだ?
疑念が段々と大きな疑問に変わり、おれは少しずつ焦り始めた。
これはトモミの巧妙な罠では無いのか?上手く騙して巴を捕まえようとしているのではないか?
…だが、トモミの次の言葉には、思わず飛び上がりそうになった。
「狙っているのは…シンクロイド・システムであって…わたしではありません」

486:@巴のマスター
07/11/22 08:41:57 4bx74MwZ
「ちょっと待て!…システムがどうして巴を狙うんだ?それにおまえの本当の目的は何なんだ?」
すると巴はそっと両手を胸にあて、静かに首を振った。
「シンクロイド・システムは…巴がわたしの精神状態を乱す物として捉え、封印するか、改造しようと
しています。…でも、わたしは違います」
「どう…違うって言うんだ?」
おれは少しずつ…トモミに対する警戒心が薄れていくのを感じていた。
明らかに敵意は感じない。
だが…信用するには、まだ早すぎる。
「わたしは…巴に会いたいのです…システムの一部としてで無く、同じひとの分身同士として」
「会って…どうするんだ…旧交でも温めるつもりかい?」
これまた皮肉混じりに言ったが、トモミは初めて満面に笑みを浮かべて、小首を傾げながら頷いた。
…これって…巴と同じリアクションじゃないか?
そしてトモミは目をつぶり、祈るようにおれに囁いた。
「わたしは…わたしの欠けているものを…巴に分けてもらいたいのです」
「…欠けている…もの?」
「はい」
「それは…何だ?」
「それは」
トモミは僅かにためらいながら…静かに、小さな声で言った。
「朋さんの…心…です」

暫くの沈黙があった。
おれの頭の中に、巴の言葉が蘇る。
<ただ…ともねえ…『朋』としての記憶は殆ど受け継がれなかったのですが、意識…心は
このわたしに遺されたのだと思います>
<じゃ…巴の心は…>
<たぶん…『朋』がベースになり、改めて巴として完成されたのだと思います>
「…それは…無理だろう」
おれの言葉に、トモミは目を見開き、どうして?という抗議混じりの表情を浮かべた。
「ともねえの心は…今は巴自身のものだ。ともねえの記憶が無くなって以後、巴自身が自分で
得たものであって…元のままではない」
「…それでも…それでも良いのです!!」
いつしか、トモミの声に悲痛なものが感じられ、おれは、何か胸をつかれる思いがした。
「それでも良いって…だってそれじゃ…君は巴と同じに…いや巴自身になるって意味だぞ?」
「そうです…わたしの望みは…それなのです!」
…トモミの言葉に、おれは暫く言葉を失った。
これが演技だとしたら…アカデミー賞…オスカーものだろう。
当然、そのまま信じられやしない…そう、言い切りたいところだか…。
気が付くと、トモミの蒼い瞳が僅かに潤んでいる事に気付いて、思わず吐息をついた。
「おいおい…泣くなよ。…って言うかさ…どうしてそんな事を言うのか、理解出来ないんだよ」
正直…先刻まで皮肉っぽい事を言っていたおれが、何だか意地悪しているような気がしてきて、
少しずつ…妙な罪悪感が心の奥底からこみ上げてきていた。

487:@巴のマスター
07/11/22 08:43:35 4bx74MwZ
「だって、君は今、既にこうしてここにいるじゃないか。何故、今更…」
「わたしには朋さんの記憶や知識、経験はあります。…でも、朋さんとしての意識や人格といった
決定的な『心』の部分が無いのです」
「でも…君自身の…今の君の人格は…」
「わたしには…ご覧のように意識はありますが、生まれたての赤子と同じく、不完全なものしかありません。
…と言いますか…改めて目覚めて以来…この胸の奥底に、ぽっかりと穴が開いたような…常に寂しい思い
しか無いのです…」
「ぽっかりと空いた…穴だって?」
確かに…この時代のドロイドにしては、やや感情に乏しい気はしていたが…。
それでも…普通に会話する分には、支障なく感じられていたのだが。
トモミ本人にとっては…とても大事なものなのだろうか?
「記憶も経験もあります…でも、朋さんの心が無いと…それはただの知識でしかありません。何故、
そうしたのか、何故そう思い、感じたのか…それが『良く判らない』…理解できない。それが悲しく、
寂しく…そして、そして、それがとても辛くて…怖いのです」
「まてよ…それじゃ…ここが判ったのも」
「はい…過去の記憶から…殆ど無意識に判りました。」
「…そうか…そうだったのか…」
おれはこの『隠れ場所』を、何故トモミが見つけたのか、改めて理解できた。
ここは、ともねえに教え、こっそり、一緒に遊びに来たこともある場所だった。
だから、おれが逃げ込んだ時、トモミだけが迷わず追ってこられたのだろう。
だが、それと同時に、トモミにとっては、まるでそれらは『本能』のようなものでしか無く、ただの
知識としてしか理解できない、不思議で異質な事象でしか無いのに違いない。
それはおそらく…ともねえ自身が、かつて封印し、テロリストたちも、シンクロイド・システムも、
それが不要であると判断して元へ戻さなかった『ともねえの自意識』や『心』であり、トモミは、
それを取り戻したい…そう言っているのだ。
…なまじ、ともねえの記憶や知識、経験を持っている為に…巴とは反対に、自分の心に
自信が持てず…自分が不完全なもの…という思いに、常に苦悩していたのに違いない。
「わかったよ」
おれは頷き、小さく苦笑した。
「…おれから巴に頼んでみるよ」
え?という顔で、潤んだ瞳のままトモミはじっとおれを見つめ、それから、おずおずと口を開いた。
「本当…ですか?」
「ああ…ただし、巴が自分の心は、自分のものだ…とか言い張ったら、その時は、オムニ社の
技術者に頼んで、ともねえが施した封印の解析待ちになるが…」
途端に、ぱあっと明るい表情になり、トモミはおれの両手を取ってぎゅっと握り締め、それから
自分の胸に押し当てた。
「ありがとうございます!」
トモミがきらきらと瞳を輝かせながら、おれを見つめ、なおも握った両手を自分の胸に押し当てる。
や、柔らかな感触…巴ほどじゃないが、程良く張りのある弾力と柔らかさに、思わずどきっとした。
ち、ちょっと待て…ティーンの女の子の姿で、それはマズかないか?
…けれどトモミはそのまま、おれの手を頬ずりし、静かに目を閉じた。
「わたしは朋さんでは無いですけど…懐かしい…思いがします」
ごめん…おれは今…とても邪な想像をしていた。
おれは自分を恥ずかしく思った。

488:@巴のマスター
07/11/22 08:45:08 4bx74MwZ
「それにしても…これからどうしたものかな…」
トモミがそっと手を離すと、おれはちらと窓の外を見、腕組みした。
「それに…さっきの娘たちはどうしたんだ?」
「わたしが…向こうで見かけた…と、システムに伝えたので、大通りに向かっています」
「嘘を教えたのか…」
「偽電は…情報戦では良くあることです」
そう淡々と答えるトモミに、おれは少し空恐ろしいものを感じたが、感情に乏しいのだから仕方ない。
「巴たちは…見つかったのか?」
やはり巴たちの事が気になる。
「…どうなんだ?…シンクロイド・システムは把握しているのか?…教えてくれ!」
思わず、少し強い調子で問い詰めて、トモミを見据え、組んでいた両手を解いた。
トモミの蒼眼がじっとおれを見つめ、それからそっと首を振った。
「いいえ、大丈夫…まだです」
トモミはそう言いながら少し横を向き、それから何を思ったか、ちらちらとおれを上目遣いで見た。
「やはり…心配ですか?」
「当たり前だ…巴はおれにとって…」
「貴方にとって…何ですか?」
「え?」
トモミが問い質す様な聞き返し方をしてきたので、おれは少々面食らった。
大体…トモミは、昔の、ともねえの姿や声のままである。
ともねえ一筋で来たおれに…この質問は正直酷だし、しかもトモミには…事によると全く理解し難いかも
しれないが…ともねえの記憶は…理屈どおりなら、総て残っている筈だ。
そうなると…おれがともねえに…幼い頃とはいえ…愛の告白などした事を覚えている事になる。
それが…両方とも分身とは言え、おれにとっては巴が総てだ…と、決めたばかりなのだ。
う…これは厳しい。
だが…巴とは既に…何度も…その…愛し合った身…やはり、彼女を裏切る訳にはいかない!!
だけどなあ…。
トモミが…ラスボスか…という予想に反して全然悪意が無い…どころか、何だか不憫になってきて。
この上、トドメを刺すような事は…本当は言いたく無いのも本音だ。
「教えてください…」
上目遣いに見つめる仕草が、何だか哀願するように見えて、本当に困ってしまった。
だが…ケジメをつけるのも…男だ。仕方が無い…。
おれは溜息をつき、そして一度目を閉じて深呼吸してから、一気に言った。
「今…一番大切な…存在だ」
目を開けると、案の定…落胆した様子のトモミの顔が見え、罪悪感で切なくなったが…悲しいかな…
出会った順番が悪かった。
ごめん…ともねえ…。ごめんよ…トモミ!

489:@巴のマスター
07/11/22 08:46:49 4bx74MwZ
…トモミは、小さく吐息をついた。
ドロイドには、本来必要の無い行為だが、ここ十年来のAIは、人間の行為と同じく、感情に合わせて
全く同じように再現出来るようになっている。
つまり…それだけガッカリしている現れなのだが…。
ふと…おれの顔を見上げると、何を思ったか、そっとおれに身を寄せてきた。
「トモミ?」
意図を測りかねて聞き返すが、それには答えず、トモミはいきなりおれの背中に両手を廻して、
おれの胸に顔を埋めてきた…。
「ちょ…おい…何するんだ!?」
引き離そうとするが…トモミの腕は、まるで万力か…超合金の拘束具の様な力で、おれの身体に
しっかり…ぎっちりと巻きついたまま離れない。
…幸い、締め上げてはいないので、苦しくは無いのだが…これでは…身動きできない!
「おい…悪い冗談はよせ!離せ…離れろ!」
巴の顔がおれを見上げる。
上目遣いで…ちょっと悲しげで…申し訳無さそうな…そして切なそうな…。
蒼く濃く澄んだ瞳がうるうると滲んでいる。
…うわぁ…そんな顔で見ないでくれぇ!
大体…その顔…巴とそっくりじゃないか!!
あ…い…いかん…巴を思い出したら…しかも…この柔らかな感触は…。
やべ…いかん…こんな所で…勃起しかかってやがる。
全く…おれの身体ときたら…この節操なしめ!!
「やめろ!おれは巴一筋なんだ!!」
アパートの中のフロアだと言う事も一瞬忘れて、おれは叫んでいた。
「離せ!トモミ…正気を取り戻せ!!」
「確かに…わたし…寂しさのあまり…どうかしているのかも知れません。でも…どうか今だけでも
こうしていてはくれませんか?」
もしかすると、トモミの記憶の中で、特に印象の強い存在の一人がおれなのかも知れない。
だから失われた『心』を、埋め合わせたいと思っているのかもしれないが…しかし。
「き…気持ちは判らないでもないけど…おれは巴だけと決めてるんだ…許してくれ!」
だが、トモミの次の言葉に…おれの理性は飛びそうになった。
「…でしたら…わたしも…『巴』になります!!」

490:@巴のマスター
07/11/22 08:48:17 4bx74MwZ
トモミは両手を離して、素早く髪を解き始めた、
しめた…離れた…と思った途端、いきなり当身を食らわされ、後ろのソファに倒されてしまった。
いや…決して乱暴にでは無いのだが…まるで柔道か合気道の師範の様な巧みさで…。
両手が塞がっているのに…なんて器用な奴だ…って…それどころじゃない!!
トモミの髪がストレートに下ろされ、そのままおれを見下ろすや…間髪入れず、ソファから下ろした、
おれの膝の上に跨り、そのまま両脚の間隔を狭めて身動きを封じたではないか。
「や…やめろ~!」
何とか立ち上がって跳ね除けようとしたが…逆に両手をトモミの両手で押さえつけられてしまい、
これでは昆虫か蛙の標本状態だ…。
「そんなに…わたしがお嫌ですか?」
トモミがうるうると瞳を潤ませて、おれにその可愛らしい顔を近づけ、そして小首を傾げて訊ねる。
「違う!…ともかく巴が先だと」
ふいに両手が離され、トモミが上体を起こした。
はっと気が付くと、長い髪を器用に、丁寧にひとつに束ねて、後頭部のやや上できゅっと絞っている。
そして…トモミが両手を下ろした時…ふぁさっと長いポニーテールが脇にこぼれ…。
そこには…赤毛でやや童顔な『巴』の姿があった。
そして、切り揃えられた前髪の下の瞳を輝かせてにこっと笑った。
…あ~…こんなの反則だ…馬鹿野郎…こん畜生!
い…いかん!今度こそ…げ…限界だ!!
ともねえと…巴がひとつになったような…こんな…
おれの理想の姿では…テも無くイっちまいそうだ!
思わず目を閉じ、横を向こうとしたが、優しく…だが少しずつ顔を正面に向けられてしまった。
そして、少しだけ腰を浮かせた巴はスカートの中に右手を入れ、ごそごそと何か始めた。
スカートが僅かにめくれ、ちらちらと純白の布がずらされていくのが見える。
…ほ…本気だ…。
なおもブリッジの体勢で逃れようとしたが…そのままトモミは改めて膝の上に跨り直し、今度はズボンの
ベルトを苦も無く外して、そのままファスナーに手をかけた。
そこはもうギンギンにテンぱって、大きく膨らんでおり、触れた瞬間、トモミは一瞬驚きに目を丸くし、
それからすっと目を細めて、まるで獲物を前にしたネコのように小さく舌なめずりした。
こ、こんなリアクション…嘘だろう!?

491:@巴のマスター
07/11/22 08:49:36 4bx74MwZ
清楚で可愛らしい顔立ちなだけに、まるで何かに取り憑かれた様なその姿は、愛らしくも淫靡だった。
両手で必死に抵抗するが…トモミの白魚の様な美しい両手は、その外観に反して物凄い力で、おれの
抵抗などものともせず…ファスナーをひき下ろし、ズボンまで下ろし、そのままブリーフの上から、
おれの大きく勃起したモノに手を触れ、それからそ~っとつまみ上げた。
「く…よ…よせ…トモミ」
ちょんと摘んでは、あは…と小さく嬉しそうに微笑むトモミ。
そしてそっとブリーフの腰ゴムを掴むと、ゆっくりと引き剥がしていった。
その途端、ブリーフで抑えつけられていた、おれの肉棒はピンと勢い良く弾けながら屹立した。
「あん…」
トモミが無邪気に、満面の笑みを浮かべてそれをじっと見つめる。
…結局、全然抵抗できなかった。
トモミが、位置を整えるべく、時折り腰を浮かせているのに…である。
そしてトモミは、おれの膝に跨ったまま、おれの…隆々と勃起したモノを暫しじっと見つめ続けた。
血管まで浮き出し、先端からからじわりとカウパー腺液が滲み出し…びくびくと弾け掛けている。
「とっても大きい…」
まるで視姦されているようで…恥ずかしいのだが、トモミの視線が妖しい可愛らしさでたまらない。
おれには本来そういう趣味は無いし、情けないことに…股間廻りを完全に丸出しにされているのに、
トモミに見つめられて、もう爆発寸前に膨れ上がっているのだ。
とろんとした…僅かに恍惚とした…熱い瞳で、肉棒からおれに視線を向けるトモミ。
やめろ~!ともねえの…巴の顔で…そんな…そんな淫靡な表情をしないでくれ!!
…だけど…その表情が、おれ一人に向けられたものだと思うと…可愛くて愛おしくて…たまらない!
「うふ…」
トモミが手に口をあて、愛くるしく、くすっと笑った。
「…とっても嬉しいです…こんなわたしに…こんなに、こんなに大きく弾けて……感じてくださって…」
そう囁くや、腰を浮かし、スカートの前裾を浮かして…おれの逸物の上に静かに…跨っていった。
おれのモノが…美少女のスカートの中で、まるで別な淫靡な生き物に吸い込まれ食べられて行く様な、
妖しい錯覚を覚えて、背筋から腰にかけてぞくっとする快感が走り抜けた。
温かく…そしてねっとりと湿った生き物の中に、飲み込まれ、優しく口の中で咀嚼されるような感触で、
それでいてきっちり…包み込むように…温かく、じんわりした甘美な感触で締め上げられ、うねうねと
淫らに、おれの反応に合わせて、刺激を加えるようにくねらせながら、おれの理性を狂わせていく…。
いつしかトモミは胸をはだけさせ、意外と大きな乳房をぽろんと取り出して、おれの両手をあてがい、
恍惚とした表情で「あん…」と、可愛らしく声をあげた。
赤く長いポニーテールが左右に垂れて激しく揺れ、大きな胸の谷間に赤いネクタイが下りている。
そして次第にトモミ自身が腰を使って、ゆっさゆっさとピストン運動を行い、時おり激しく声を上げた。
さらに動きは上下、前後左右に…と、微妙なグラインドをかけ、その都度おれのモノは亀頭や竿を
優しく嬲られ、愛撫され…心地よく締め上げられ…もうギンギンに怒張しきっていた。

492:@巴のマスター
07/11/22 08:50:38 4bx74MwZ
「あん…まだ……駄目…ですぅ」
そう言うや、トモミの唇がおれの唇と重なり、小振りな舌が伸びておれの口の中に入り込んできた。
そしておれの舌に絡ませると、さらに口腔の中を貪るようにねっとりと舌を這わせ、おれの唾液を
からめとると、こくん…と、小さく咽喉で音を立ててそれを飲み干した。
そしてうっとりした顔でおれの胸に顔を埋めると、きゅっとおれのモノを締め上げ、再び動き始めた。
今度は再び身を起こし、おれの股間の上で、膣から子宮の奥深くまで肉棒を突き刺して…。
おれのモノがすっぽりトモミの中に入りきり…まるで少女を串刺しにして激しく攻めている様な錯覚を
覚え…おれの頭は……それでも…何とか…理性を…取り戻そうとしたが…。
トモミの優しい締め上げ方は巧みで、かつ異様に濃密で、その甘美なテクニックに段々朦朧としてきた。
しかも、それと同時に、時おり見せる切なそうな、あどけなく清楚な少女の面立ちが一層そそられるのだ。
ぼんやりとした頭の中、次第に、心地よい快楽がじわじわとこみあがる。
大好きだったともねえと、最愛の巴が、ひとつになり、トモミの姿になって降臨し、今おれと交わっている。
優しくも激しく、まるで貪るようにおれの上で乱れ、甘く切ない声を上げ続ける愛らしい少女の姿が、
ともねえになり、巴になり、そしてトモミに重なる。
「とも…と…とも…」
三人の誰を呼ぼうとしていたのか判らない。
トモミがゆっさゆっさと腰を優しく激しくグラインドさせる度に、時おりのけぞり、切なげに声を上げる姿が
たまらなく愛おしく…。
手を伸ばし、トモミの果実を思わせる張りのある乳房に両の手を掛け、半ば無意識に揉み上げ、そして
サクランボを思わせる乳首を摘み上げた途端…。
「ひゃん!」という嬌声と共にトモミが一段とビクンと弾け、おれはその仕草に、ついに耐え切れずに
異様に大きく感じる肉棒の先端から、この上も無く熱くて濃くて、どろりとしたマグマを噴き出させ、
少女の子宮の奥まで一杯に流し込まれ、それが果てしなく吸い込まれて行く様に感じた。
ああ…トモミの中は…熱くて…柔らかで…ほど良くしとっていて…何て気持ち良いのだろう。
理性を失ったアタマの片隅で、そんな言葉が走る。
「う…」
思わず声を立て、腰を引きそうになったが…トモミは逆におれの両手を胸からそっと離すや、自分から
しがみつき、無意識のうちに、おれはトモミを抱きしめる姿勢になっていた。
「もう一度…もう一度だけ…シて…ください」
おれの胸に顔を埋めたトモミの声が悲しげに震えている。
「それで…終わりで構いません…」
そう言いながら…きゅっとおれのモノをそっと締め上げ、萎えかけていたのに、再び力を取り戻していく。
ああ…また込み上げてきた…何ていう…テクニシャンなんだ…。
駄目だ…このままじゃ…また。
そう、ぼんやりと思った時…トモミは哀願するように言った。
「どうか…最後のおねがいです…ぼっちゃま…」
え!?
その言葉に、おれの頭は…瞬時にして理性を取り戻した。
「おまえ…今…」
顔を上げたトモミは悲しげに微笑む。
どういうことなんだ?
ぼっちゃま…って呼ぶのは…巴だけじゃないか?
ともねえだって…おれをそうは呼ばなかったし…。

…おれは…一瞬、逡巡した。
だが…その面持ちに、悲しい決意の様なものを感じて…受け入れてやることにした。
巴…ごめん!
謝って許される事じゃ無いと思うけど…おれは…トモミに、もうひとりのおまえの姿を見た。
とても切なく…愛おしくなってしまった。
これが最後だと言うのなら…これは…おれの意思で…。
「わかったよ…これっきりだからね…」
おれは…精一杯の優しさをこめて、トモミをの頬に手をあて、そして優しく唇を重ねた。
その瞬間…悲しげだが、それでも精一杯の笑顔を浮かべ、トモミはゆっくりと目をつぶった…。

493:@巴のマスター
07/11/22 08:52:10 4bx74MwZ
…行為が終わり…持っていた、ありったけのティッシュで余韻の後始末をし、
少々ためらったが…丸めて共同ゴミ箱に捨てて、二人並んで洗面台で手を洗った。
住人さん…ラブホテル代わりにして本当にごめんなさい!
それに…幼い頃の聖地をこういう形で汚してしまうなんて…。
その事実を改めて実感するとちょっと凹んだが…
トモミが…穏やかで、満足そうな笑みを浮かべている事に気付いて…良しとする事にした。
あのままじゃ…確かに悲しげで…可哀想だったしな。

改めて二人並んでベンチに腰掛け、窓の外の夜空を見た。
すっかり星空で、時計を見ると21時を廻っていた。

暫くの沈黙の後、おれは思い切って口を開いた。
「君は…これからどうするつもりだ?」
行為が終わってから…初めておれは本題に入った。
「シンクロイド・システムのブレインである以上、おれたちの敵になるわけだろう?」
「わたし個人としては、あなたに敵対する意思も理由もありません」
トモミは目をつぶり、それから左手をこめかみにあてた。
「ただ…システムは、今はわたしの上位に立ち、かつ必要不可欠な存在としていて、常にわたしに
アクセスしています」
「それじゃ…さっきまでの…あの行為は…」
トモミは眼を開き、くすっと笑って首を振った。
「いいえ。あれはわたしと…あなただけの秘密です」
ほっとすると共に、初めに会った時に比べて、トモミがごく自然に笑う様になっている事に
気付いてちょっと驚いた。
…恋はひとを成長させる…って…そりゃ違うよな。
でも…ごく自然に女の子らしく話せているような気がしてならない。

494:@巴のマスター
07/11/22 08:53:25 4bx74MwZ
「でも、だからこそ、巴を狙っているのです」
トモミは、そう言いながら、僅かに不思議そうにおれの顔を見ながら何度もまばたきした。
…おっとっと…今は関係ない。
「もしかして、君が巴とリンクすると…シンクロイド・システムが不要になるから…かい?」
「そうです。そうなると、わたしの知識も記憶も、総て使えなくなるのです」
「では…君が…リンク・システムのエリアから出れば済むのではないのかい?」
少なくとも巴はシステムの探知の届かない所にいて成功している。
だが、トモミは首を振った。
「わたしとのアクセスが途絶えた途端…シンクロイド・システムは、今現在コントロールしている
総てのドロイドたちのAIのデータを破壊して…道連れにします」
「おい…何だって?…それじゃ…人質じゃないか?」
おれの言葉に、トモミは沈痛な面持ちで頷き、再び眼を閉じた。
「シンクロイド・システムを奪ったテロリストたちが…そう仕掛けたのです」
「道連れ自爆…か。いかにもテロリストらしいな」
「はい…でも、もうひとりのわたし…巴が、わたしとリンク出来れば、シンクロイド・システムの
存在が不要になり、活動停止のコマンドを送る事ができます」
「つまり…ともねえの代わりに『シンクロイド・システムの上位者』として、巴が君と直接アクセス
出来れば、システムは存在意義を失くし…総てを切り離されるわけだな」
「そうです」
トモミは眼を開き、おれの方に向き直った。
「巴には、朋さんの意識や『心』が残っています。正確には、巴も分身ではあるのですが、本来、
シンクロイド・システムは『心』を写し、リンクするもの…だからオリジナルの『心』を持つ巴にしか
出来ない事なのです」
「しかし…それでこの騒ぎは収まるのか?」
「それは大丈夫です」
トモミは揺ぎ無い自信に満ちた視線でおれに答えた。
「元々は、人とドロイドを繋ぐ為の物…それが開発の過程で違う使い方が出たに過ぎず、本来の
上位命令権はこちらにあるのですから」
「でなければ…あんなに躍起になって巴を追い回すわけは無い…か」
そう言ってから、おれはふっと苦笑した。 
「巴は君が呼びかけているもの…と思っているけどね」
「それは」
トモミは困惑気味に首を振った。
「仕方が無いと思います。…システムがわたしに偽装してメッセージを送っているのですから」
「おれも…君にこうして会うまでは…とても信じられなかった」
「では…今は?」
トモミがじっとおれの眼を見つめる。
「信じるよ…君自身は無実だってね」
おれを見つめる蒼い瞳が僅かに細められ、トモミはにっこり笑った。
ああ…穏やかで安心した…とても良い笑顔だ。

「しかし…一体…なんでこんな事になっちまったんだろうな?」
おれは…この事件についての最大の疑問を口にしていた。

495:@巴のマスター
07/11/22 08:57:34 4bx74MwZ
>>485~494 今日はここまででございます。

…誤字脱字が結構ありまして…済みません(汗)
急いで打っていると、本当に見落としてしまいます、
>>486の二行目冒頭…巴でなくトモミでした。…実にお恥ずかしい…(恥)

496:名無しさん@ピンキー
07/11/22 10:17:44 QJ5FtGxO
仕事中に席から立てなくなったぞなw
どーしてくれるw

497:名無しさん@ピンキー
07/11/22 11:42:34 LTd+PwPc
立ってしまって立てなくなったわけかw

それはさておき、GJ!>495

498:名無しさん@ピンキー
07/11/22 12:09:11 fQW96jQ/
GJ!
こんなタイミングでエロを持ってくるなんて反則だ…っ(嬉しい悲鳴)

499:名無しさん@ピンキー
07/11/23 17:18:35 25QQa2PH
やっとか、早く終わらせろよ






別に、結末が早く読みたいわけじゃないからな、勘違いするなよ?

500:名無しさん@ピンキー
07/11/23 17:32:06 GJjM+mt+
>>499
うぜえぞ。嫌ならここへ来るなよ。
折れは楽しみにしてるんだ。

501:名無しさん@ピンキー
07/11/23 18:02:21 VSia3vjT
まあ落ち着け…。

>>499
とは言え、オレも楽しみにしてるしさ。
そう言う心無い書き方は好かんな。

別に他の人が、間に話を書いても良い訳だしさ。
むしろ尻切れトンボが多い、このカテで良くやってるじゃん。

書き手の気持ちを萎えさせる様なカキコは、すべきじゃないと思うがね。


502:名無しさん@ピンキー
07/11/23 18:19:47 aZaNitJZ
おまいら落ち着いて>>499のメル欄を(ry

まぁ、もうちっと書き方は考えた方がええんでない?と思ったけどね・

503:名無しさん@ピンキー
07/11/24 00:17:52 rdWAlrru
結論:>>499はもっとツンデレの修行を積むべし。
以後さらに精進するよーに

504:名無しさん@ピンキー
07/11/24 00:35:30 unTe/lkl
>>499

「やっと投下終わったのぉ?それより早く連載終わらせなさいよね。べ、別に結末が気になるんじゃないんだからね?
す、少しは気になるけど……期待なんてしてないんだから!ヘンな勘違いしないでよね、このバカ!」

505:名無しさん@ピンキー
07/11/24 02:19:51 9SlXPiiU
本当に早く終わらせてほしいね
そして二度とスレに投下するなと本気で思うよ
炊飯器とワースト2トップ争いの有力候補だ


506:名無しさん@ピンキー
07/11/24 02:57:49 +6H9f0Vo
>>506
なら、お前が二度と来るなよ。

507:名無しさん@ピンキー
07/11/24 03:04:05 DZjqlSuD
俺は>>506をどう受け止めれば良いんだ?

508:名無しさん@ピンキー
07/11/24 03:39:26 hrNVwbLw
抱きしめてやれ

509:名無しさん@ピンキー
07/11/24 06:58:54 YjaUespq
>>505
コハル定時自演乙ww



そろそろコハルヒロインに外伝書いても良いと思うんだ
ヤラレキャラとは言え不敏過ぎる

510:名無しさん@ピンキー
07/11/24 09:05:14 d6veSuyF
>>505
市ね

511:名無しさん@ピンキー
07/11/24 09:25:26 9zzh/Or8
>>509
通信機能がない(つまり並列化出来ない)コハルが人間を守るため他のロボットと一緒に戦う
という電波を受信した

512:名無しさん@ピンキー
07/11/24 11:04:53 cjqCJrZC
>>511
ターミ姉ちゃんと呼びたいw

513:名無しさん@ピンキー
07/11/24 12:46:28 G2apABO3
つまんない、自分に合わないと思うんなら、
読まなけりゃいいだけの話。
とは言っても、書き手としては賛美より批判のほうが
参考になって役立つのは事実。
だから、厳しい意見も必要。
しかし、建設的意義を持つ厳しい意見なのか、
単なる中傷なのかの違いは重要。
後者であれば、作者も周囲も気分が悪くなるだけ。

514:名無しさん@ピンキー
07/11/24 15:01:11 ra9gBlwA
スルーを憶えなされ。最も効果的な手段でもあるんだからして。

515:名無しさん@ピンキー
07/11/24 16:47:05 wf2m0Wzv
なんだよ。投下されたのかと思ったら外野が騒いでるだけかよ
続きマダー?

516:名無しさん@ピンキー
07/11/24 17:33:53 YjaUespq
[516] 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/11/24(土) 17:34:05 ID:c0HA1kTKRwWW
コハルちゃんが大怪我をして動けないご主人様と、半永久的に愛の巣で幸福に暮らすという電波を受信しましたwww
というか、予測…なんですけどwwww

517:名無しさん@ピンキー
07/11/24 22:09:06 xilt9U8R
流れを読まずに投下。

「うー、さむ…明日は朝っぱらから仕事か、行きたくねぇー」
「いきなり労働の放棄宣言ですか」
「行くけどな。お前のローンで色々切り詰めてるのに、職を失ったらどうしようもねぇし」
「…暖房とかの光熱費も切り詰めないといけないのは事実ですが、反応に困るコメントはなさらないで下さい」
「早めに寝るに限る。ってことで添い寝よろしく♪」
「わかりました。体温調整します」
「うはー、ほかほかしてあったかい。ぐっすり寝れそうだ…おやすみ」

真夜中に置きだそうとする主。

「こんな夜更けに…どうされました、マスター?」
「いくら暖かくても先に冷えてた分がな…え、お前何やってんだ?」
「大丈夫、物理物体以外の飲食機能と水分のろ過フィルターは優秀ですから♪」
「これ飲食物違うし! 掴むな、含むn…だめだ、だm、漏る! HA★NA★SE! あう、あ…出…」
「! んぐ…ぶぷ…ごく…ごく…じゅ…ふう、あとはいつものを…安眠のために。ほら、大きくなってきました」
「え、ええい、出したらぁ!(ヤケ)」

次の日。朝ごはんの時間。

「咥内洗浄状況確認、クリア、フィルタ良好。健康状態チェックしましたんで、お弁当作っておきました」
「(ぶつぶつ)お、俺は変態だ…変態になっちまっただ…親父、お袋、ごめんよ…」
「夏は一杯されましたから…もしかして、目覚めちゃいましたか?(にこにこ)」
「そっち方面のケは無い、と思いたい(涙目)」

夏とは逆パターン書いてみた。スカったりトロったりするネタ嫌いの人はスルーで。

518:名無しさん@ピンキー
07/11/25 09:07:25 /cN5BW7q
いいwwwww

519:@巴のマスター
07/11/25 20:23:31 fwqnTuep
「元々…シンクロイド・システムは、君が言ったように、人とドロイドを繋ぐものだったんだろ…」
そう言ってから、おれはトモミの顔を改めて見つめた。
ここに居るのは、本来のシステムの完成体…つまりは、ともねえの完全な分身となるべき
はずであった少女型のドロイドなのだ。
「不滅の命を得るため…ドロイド部隊を自在に動かすため…何て言うか、どれを聞いても、
裏で、薄汚い連中たちの思惑が駆け巡っていた様に思えてならないんだ」
「…だから…完成型はわたし一人なのです」
トモミが寂しそうに眼を伏せながらそっと首を振った。
「各国の首脳や軍隊関係者に…その都度、秘密裏に開発状況を公表されていました」
「…つまりは…輸出も考えていたわけか」
そういえば、バンは合衆国大統領の命で来たのだっけ…。
「でも、朋さんは大勢の分身ドロイドによる『不滅の独裁者』が現れてしまう危険性を説き、
合衆国大統領を説得して、開発中止の指示を出してもらい…表向き、それに従った事に
したのです。大統領でしたら、説得力がありますからね」
「お袋の説明では、ともねえは大統領の開発反対に納得して中止した…と言っていたが」
「本当の所は逆、朋さんから出た話しです。…ただ、真実を知られると、お母さまにも危険が
及ぶ…ですから、敢えて伝えられなかったのです」
「そうだったのか…」
「その後…これは、テロリストに再起動されて目覚めた後に得たデータでは、大勢のドロイドを
自在にコントロールする為のシステムに改変されましたが、起動に失敗しています」
「その辺りも…おれは聞いたが…何故、テロリストは失敗した物を持って行ったのか…」
おれの問いに、トモミは眉を寄せ、ふっと小さく溜め息をついた。
その仕草はとてもドロイドとは思えず…かつてのともねえを彷彿させた。
「テロリストにも…技術者がいます。オムニ社に研究員として潜り込んでいた者もいたほど
ですから、シンクロイド・システムが『不完全な』物だったとしても、兵器に転用できる可能性の
高い研究資料としては…」
「色々な意味で有益だったわけだ」
「仮に起動に失敗しても…リンクシステムを持つドロイドたちを、一度に大勢を機能不全にして
しまう事が出来ますし、完成出来れば、自在に動く軍隊も出来ます」
「なるほど…そういう事なら…無駄になるどころか…十分使える」
「さらに、本来のシンクロイド・システムを完成できれば…」
「一石二鳥か…いや、三丁だ」

520:@巴のマスター
07/11/25 20:24:13 fwqnTuep
おれの言葉に、トモミは真剣な表情で頷き、続けて訊ねた。
「独裁者が、完全なシンクロイド・システムを利用できたら…どうなると思います?」
「多くの分身を持ち、多数のドロイドを自在に操り、しかも命令に従わないドロイドをまとめて
機能不全にして封じることができる…」
「はい」
トモミは両手を組み、そして祈るような形で額に当てて眼を閉じた。
「ある意味…今回は、テロリストに操られなかっただけ、まだマシだったのかも知れません」
「ああ…皮肉な話だが…システムが暴走した今回の方が…被害は少ないな」
「……でも、こんな形で目覚めたくなかったです」
手を離し、そのまま両頬にあてたトモミは、ほう…と小さく溜息をついた。
「しかも、システムの情報中枢を担っているなんて…」
「…この件が解決したら…改めて…その…初めからやり直すと良いかもな…」
「え?」
トモミはおれの方を向き直った。
「…折角、こうして目覚めたんだしさ…」
「ぼっちゃま…」
トモミは感極まった声を上げ、両手を合わせて胸にあて、それから口元に持っていった。
「その時は…わたし…」
「ちょ…ちょっと待て」
妙な予感がしておれは少し慌てて言った。
また、さっきみたいな濡れ場になってしまったらシャレにならないからな。
それに気になることがある。
「なあ…どうして君は、おれを『ぼっちゃま』って呼ぶんだい?」
…その時になって…初めてトモミはその事に気付いたらしく、ちょっとキョトンとした顔になり、
それから首を傾げた。
「そういえば…そうですね…」
「そう呼ぶのは…巴だけなんだが…」
「巴が…ですか」
不思議そうに…だが、巴の名が出た時、ちょっと拗ねた様な顔でトモミはぷいと横を向いた。
「トモミ?」
「わたし……きっと巴に嫉妬してるんです」
そう言ってから、ちょっと寂しそうに笑みを浮かべ、それから何を思ったか、右手でコツンと
自分の頭を叩いてから、トモミは悪戯っぽく軽く舌を出し、おれの方を向いた。
「ごめんなさい…これっきり…って言いながら…やっぱりまだ、未練があるみたいです」
「でも…さっきみたいなのは勘弁してくれよ」
「……やっぱり…お嫌でしたか?」
少し上目遣いになって、おずおずとトモミが聞き返す。
おれは…大きく溜息をつき、顔に手をやった。
「…あのなぁ……嫌じゃないから…凹んでるんだよ」
「え?」
「おれはさ…それでもやっぱり『巴』が一番大事なんだよ」
「………」
「だけどさ…顔立ちは一緒で…そんな風に髪型までそっくりに変えて…迫られて…何だか
段々訳がわからなくなっちまった。けどさ…本質的に…君が巴と同じだと思ったから…」
「もう一回…されてしまったのですね?」
ふいに出入口の方から聞き覚えのある少女の声がして…
おれとトモミはそちらを向き、本当に洒落でなく、飛び上がりそうになった。
階段ホールに、一人の人物がいた。
それは、白のコートに身を纏い、フードを頭からすっぽり被った大きな少女の人影…。
…まごうことなき…巴の姿だった。

521:@巴のマスター
07/11/25 20:25:13 fwqnTuep
「…と、巴…」
おれは次の言葉を失った。
全身に冷たい汗がたらたらと流れ…背筋が一瞬にして凍りついた。
じょ…冗談だろ…!?
正直…何と言うか…浮気現場を…それも行為の最中踏み込まれた亭主の心境と言うか…。
「ぼっちゃま…」
フードを被っているので表情が良く見えないが、中から黒い瞳がふたつ、こちらに向けて
らんらんと輝いている。
おれは…覚悟を決めた。こ、怖いが…や、やっぱり…責任は取らなくてはならない!
「…おれは…その……済まん!!」
立ち上がり、それから、殆ど地面に頭を付けんばかりに勢い良く頭を下げた。
「ぼっちゃま!!」
え!?
ふいに嬉しそうな巴の声がして、次の瞬間…
どか~ん…という、やけに聞き覚えのある轟音が鳴り響き…。
何が起こったのか、一瞬判らずに呆気に取られて顔を上げると…。
出入口の上部が凹み…その下でアタマを抱えてしゃがみこんでいる巴の姿があった。
「あいたたぁ…」
「お…おい…巴」
ちらと横を見ると、呆気にとられているトモミと視線が合い、慌てて駆け寄ると、巴は頭を
抱えて、う~と小さく唸っていたが、やがて顔をあげ…ちょっと顔をしかめながら、やがて
トモミをちらと見、それからおれを見上げて、穏やかに、にこっと笑った。
「…ごめんなさい、ぼっちゃま…またやっちゃいました~」
「…住人さんが飛んでくるぞ」
思わずそんな事を言ってから、おれは眼をつぶり、頭を下げた。
「いや、それより、おれは…」
ふっと気が付くと、巴の柔らかな手がおれの左の頬に当てられ、眼を開けた。
巴が穏やかな…まろやかな微笑を浮かべて、おれをじっと見つめている。
そして…何を思ったのか、そっと左右に首を振り、それから改めて頷いた。
その黒く深く澄んだ瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚え、おれは我に返った。
「え…?…巴?」
「すべて…『感じて』いましたよ…ぼっちゃま」
「え?」
巴はそれからトモミの顔をじっと見つめた。
「巴…」
トモミが複雑な表情で巴の顔を見下ろし、それから、そっと頭を垂れた。
「ごめんなさい…」
涙混じりの声…。
だが、次に、巴の手がおれから離れたかと思った瞬間…。
いきなり巴は、おれとトモミに両手を伸ばし…そのまま力強くも優しい力でおれたちを
引き寄せ、そのまま自分の両側に抱き寄せたではないか。
「え?…え!?」
何が起こったのか判らず…トモミも涙を溜めたまま、おれの左で唖然としている。
…気が付くと、おれたちは、しゃがんだ姿勢の巴に、並んで抱きしめられていた…。

522:@巴のマスター
07/11/25 20:26:16 fwqnTuep
柔らかく…温かで弾力のある巴の胸の感触が心地よい。
だが…おれに、巴に抱きしめられる資格があるのか?
そう思いながら顔を上げると、巴は静かに微笑み、口を開いた。
「ぼっちゃまが出られた後…バンさんに絶縁加工コートをお借りして、すぐ飛び出したのです」
「おれが…出た直後に?」
巴は頷き、申し訳無さそうに苦笑した。
「一人で行けって仰いましたけど…やっぱり駄目でした。ぼっちゃまも一緒で無いと…嫌です」
「しかし…ここに来るのは危険だ。第一、追っ手が…」
「ですから…このコートをお借りしたのです」
「だから絶縁コートなのね…」
トモミがふっと口を開き、巴は再び頷いた。
「ええ。電磁波を極力遮断して、リンク・システムの探知から逃れたの」
…気が付くと、身長差こそ大人と子供以上に違うが、顔立ちの似た、まるで姉妹のような二人。
巴はなおも続けて言った。
「ぼっちゃまが駆け出すのが見え、わたしも直ぐ後を追いました。…その時…」
「わたしの『気配』を感じたのね」
トモミの言葉に巴は静かに微笑み、大きく頷いた。
「たぶん…あなたが、驚くほど近くにいたから…リンク出来たのだと思うの」
巴の言葉に、おれは少し疑問を感じて訊ねた。 
「リンク・システムは封じられてるのにかい?」
「ダイレクト・リンクは短距離にしか使えませんが、半面、クリアーにアクセスできますし、周波帯も
特性もまるで違います。そう…携帯とPHSの違いみたい…でしょうか」
すかさずトモミが解説してくれた。 
「…でも…わたしは気付かなかったけど…」
「多分、シンクロイド・システムか…テロリストが、あなたからわたしにアプローチできないよう
システムをいじったのだと思うわ」
「え?わたしからあなたに出来ないってことは…あなたは…」
…次の瞬間…
トモミは、まるで湯気でも吹かんばかりに真っ赤になって俯き、そして…
巴もポッと頬を赤らめ…それから、きゃっと小さく声を上げて…
おれとトモミは巴の腕の中で、改めて力いっぱい優しく抱きしめられていた…。

523:@巴のマスター
07/11/25 20:27:10 fwqnTuep
…それから、おれたちはまたもベンチに腰掛けなおした。
おれの右にトモミ、左に巴…。
そういえば、本当は、お袋は二人ともおれに贈るつもりだったとか言ってたっけなぁ…。
などと、ふと、ぼんやり思い出していた。
「…ですから…わたし…今は、トモミでもあるのです」
巴がにっこり笑っておれたちに笑いかけた。
「…じゃ…じゃあ…さっきまでの一連は…すべて」
巴はこくりと頷き、それから、はあ…と、少し気だるげに息をついた。
「わたしも…とっても…感じちゃいましたよ…」
「え゛???」
思わずおれとトモミの妙な声が重なる。
「わたしも直接参加させて頂きたかったです~…歩いていて…その場で頭が真っ白に
なって危うく…イっちゃうところで…慌てて…そっちの回路、切っちゃいました~」
「え゛え゛っ!?」
巴はふふっと笑い、それからトモミに両手を差し出した。
「ごめんなさいね…わたし、今、あなたの意識や考えが…わたしのものとして…わかるの」
巴の言葉にトモミは絶句した。
「…それじゃ…」
「うん…だから…あなたの気持ちは…凄くわかるの」
「…本当に…あなたがとても羨ましい…でも、どうして…」
「だって…わたしも…あなたと同じ存在でしょう?」
「でも、わたしには『朋』さんとしての自意識が無いわ…」
「わたしも『朋』さんの記憶が無いから…同じ事でしょ?」
そう言って巴はにっこり笑い…やがてトモミも巴の優しさに表情を和らげ、頷いた。
「そうなんだ……あなたも…過去の記憶が無いことに」
「…やっぱり…本当はちょっと悲しいな…って」
「そっかぁ…」
「わたしたち…同じ分身なのに…持っているものは丁度、正反対なのよね」
「…それじゃ二人合わせて」
「ぴったりひとつ…よね」
おれを間に挟んで、巴とトモミはお互いの両手をぎゅっと握り合った。
そしておれを挟み込む様に身を寄せつつ、やや身体を前に出し、左右からおれの顔を見つめた。
おれの前に、左に巴、右にトモミの愛らしい顔がある…。
黒髪に黒い瞳の巴、赤毛に蒼眼のトモミ。
二人の澄み切った瞳がきらきらと輝き…おれを見つめている。
たまらず両手を左右に伸ばして、二人の背に手を触れた。

524:@巴のマスター
07/11/25 20:28:21 fwqnTuep
「ぼっちゃまにお願いします」
巴が決然とした面持ちで静かに頭を下げた。
「この件が解決したら…トモミも一緒にお傍に置いてください!」
「え?…でも」
おれが答える前に、躊躇いがちなトモミ。
「わたしはぼっちゃまを誘惑して…」
「ううん。…いずれ『思い出す』と思うけど…わたしも…ぼっちゃまを押し倒した前科があるから…」
巴の言葉に思わずおれの顔は火照り、トモミは、まんまるく眼を見開き、おれたちを交互に見た。
そうなのだ…結局、巴はお袋のススメに従って…落ち込んでいた時のおれを慰めてくれたのだ。
それも…身体を使った…予想外に強引な方法で…。
「あ~…その話しは、またにしてだな」
困って口篭ったおれを見、巴がしてやったり…という悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それに…トモミの気持ち…わたしの気持ちでもあるんですよ」
「おれは…」
トモミの気持ちは判っている。だが…。
「…おれは巴を選んだ…その気持ち自体は変わっていない…それでも…良いのかい?」
「トモミとわたしの心も、記憶もひとつになれば…わたしたちは同じです」
巴が淀みなく答えたが、トモミはまだ躊躇っている様子だ。
「確かに…マルチタスクという形で、完全に独立して考え、行動できますけど、巴のわたしも
トモミのわたしも同じ心を共有できるんです。それではいけませんか?」
確かにそれは判る…だが…トモミの顔を見ていると、まだ釈然としないものが残った。
「…おれにとっては…二人の恋人を得られるわけだけど…それって、おれにばかり都合の良い…
そんな話じゃないかって…そんな気がしてならないんだよ」
「ぼっちゃま?」
「おれの貞操観念が古いのかも知れないが…一夫一婦というのがやっぱりあってさ…」
おれの言葉に、巴は一瞬顔色を変え…言葉を失った。
つまりおれは…一生、巴、ただ一人と共に生きる…そのつもりだった…と告げていたのである。
巴はそれから、ひとつ息をつき、それからぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます…」
顔を上げ、上気した顔で笑みを浮かべた巴だが、続けて言った。
「でも、もし人間の方で、ぼっちゃまに釣り合う方がおられたら…わたしは、お傍に仕える身と
しての立場に退く…そのつもりです。だから…」
「トモミが居ても問題ない…そう言いたいのか?」
「はい…」
「ばか…」
おれは、左手を巴の頭に掛けた。
「身体は機械でも…心は…ともねえじゃないか」
「………」
「でも…そうなると…トモミが居ても問題ない訳か」
おれの言葉に、トモミは驚きの眼差しを向けた。
「…それに…本気で巴になる…って言ってくれたよな…。その気持ちに変わりはないかい?」
「はい。ありません」
ぶれない、真っ直ぐな瞳。
「なら…これからは…いつまでも三人で一緒に行こう」
おれは覚悟を決めた。

525:@巴のマスター
07/11/25 20:29:58 fwqnTuep
それにしても…当面の問題をどうしたものか。
巴とトモミがリンクできれば、この事件は解決できるはず…なのだが、二人の意識と記憶が、
どうやっても上手くシンクロ出来ないので、どうしたものか…正直弱ってしまった。
「…あなたの意識は入ってくるけど…あなた中の…朋さんの記憶は…断片的にしか読めなくて…」
「わたしも…少しずつ何か感じはするのだけど…」
お互いの両手を広げて触れ合わせ、データ交感を図っていた巴とトモミだったが、やがて諦めた様に
同時に首を振った。
「…ダイレクト・リンク…やはり完全には繋がっていないのね」
「ええ。わたしからあなたへも、少しは繋がってはいるけど…」
「…そっか…それで…わたし『ぼっちゃま』と…」
「でも、所々…予備知識的にしか入っていないみたいね。…あなたの気持ちが判るのに…とても
歯がゆいなあ…」
「やはりシステムがいじられているみたいね」
「お母さまに調整して頂かなくては…駄目かしら」
「でも…ここから研究所までは、まだ遠いし」
おれは二人のやりとりを、腕組みをして暫く黙って見ていたが、ある事に気付いて口を開いた。
「なあ、トモミ…シンクロイド・システムについてもう一度だけ教えてくれ」
「はい?何でしょう」
「シンクロイド・システムの成立に不可欠なものは被験者、被験者の分身のドロイド、そしてシステム
本体…この三つだよな…被験者の分身はこの場合、トモミだよな」
「はい。そうです」
「ともねえがおらず、分身としてもトモミのみ存在することで、シンクロイド・システム自体が上位の
位置に立っている…これも間違いない?」
「はい。間違いありません。ですからわたしはこうして、自由に『泳がされて』いるのです」
「だとしたら…被験者の代わりになっているものって…何なんだ?」
「「あ…」」
巴とトモミが全く同じタイミングで声を上げ、顔を見合わせた。
「「被験者のダミーシステムです…」」
直後にこちらを向いた二人の声が綺麗にハモり、二人は再び顔を見合わせ、ぺろっと舌を出した。
…この絶妙なタイミング…癒されると共に、妙に心強く感じる。
「シンクロイド・システムの機能を止めるとしたら、そのどれかが欠けても駄目だが、トモミのアクセスは
無くてはならない。だとしたら、本体の所在が判らない以上、ダミーシステムを探して破壊する方が
てっとり早いんじゃないかな?」
「ダミーシステム…」
トモミが、その言葉を噛み締めるように呟き、それから大きく頷いた。
「それなら…どこに存在するか判ります…でも、今まで、どうしてその事に気付かなかったのかしら…」
「朋さんの心を…人としての意識をもたないからじゃないかしら」
巴の言葉に、トモミの顔色が変わった。
…巴自身も頷きつつ、厳しい表情になる。
「でも…巴…自己保存、防衛本能はあるわ」
「だから…。そうね!そういう事なのね」
「テロリストの命令で自爆させられたり、戦闘に参加させられたドロイドたちの意識がフィードバックされ」
「こんなのはもう嫌だ…誤った扱われ方はしたくない…その意識が人間を危険と判断して…」
「こんな叛乱を起こしたのね…」

526:@巴のマスター
07/11/25 20:31:24 fwqnTuep
二人の言葉は、まるで一人の言葉のように流暢に繋がり、おれは思わず暫し見惚れてしまった。
だが、ぼんやり眺めている余裕は無い。
「ならば…それを叩こう」
「武器なら…ありますよ」
コートの中にごそごそと手を突っ込み、巴はにっと笑った。
「これまたバンさんが貸して下さったんです」
トモミはキョトンとしておれを見、おれは変わらぬ巴の明るさに思わず…やっぱり笑ってしまった。
とはいえ…出てきたのは…デザートイーグル!?笑顔のつもりがちょっと引きつる。
「それ…でか過ぎないか?」
呆れ気味に訊ねると、巴はにっと笑った。
「大丈夫…50AEでは無く、44マグナム仕様ですから、ぼっちゃまなら片手で撃てますよ」
それに電磁警棒が6本…って、これらはどうやって、しまってたんだ?
巴は銃とマガジンを3本取り出しておれに差し出し、電磁警棒のうち2本をトモミに差し出し、2本は
ベンチに置くや、残った2本を手際よく上下で繋ぎ合わせて1本の長い棒にした。
そして、立ち上がると、くるりと水平に一回転し、孫悟空の如意棒の如くくるくると振り回した。
長いポニーテールがその都度たなびき、やがて、ばっと長い電磁警棒を構えて静止する…。
それは中国あたりの剣舞を彷彿させた。
「…ず、随分と手慣れてるな」
前に観たアクション映画で、戦闘前にヒロインが武器の確認をするシーンがあったが、巴のそれは
それよりも全然滑らかな仕草で、戦闘のプロを思わせた。
「わたしは…ご存知のように、元々軍用機ベースですから…ぼっちゃまの身に何かあった時、
こうしてお仕えできるよう、お母さまにお願いして、様々なデータとスキルを頂いたのです」
「いいなあ…」
トモミが文字通り、指をくわえるような仕草で、溜息まじりに呟いた。
…ちょっと羨ましそうな仕草…ドロイドとはとても思えない可愛らしさで、思わず頬が緩む。
「そのスキル、わたしももらえるよね」
「うん…ひとつになったらね」
く~…!何と言うか…心和ませ…まさに癒される光景。
一人と言うか…仲の良い姉妹みたいじゃないか…。
こんな甘甘な姿を、これからも守り続けてやりたい。
この二人の為にも…一刻も早くカタをつけてやるぞ。
おれは両腰に電磁警棒を差し、両手でパンパンと自分の頬を思いっきり叩いて…首を振った。
…頬がじーんと熱く沁みるが眼が覚める。
そして、音があまりに派手だった為か、巴とトモミは吃驚しておれの方を向いた。
「気合だ…気合!」
おれは拳を固めて、右目をつぶってみせた。

527:@巴のマスター
07/11/25 20:32:36 fwqnTuep
アパートの玄関口を出て、おれたちは五階の窓を見上げた。
幼い頃の思い出の場所が…今また、新しい思い出を加えた場所に変わった。
トモミと出会え、巴と合流できるなんて…。
本当におれはツイていたと思う。
しかも、トモミが偽の情報を流している事で、シンクロイド・システムの追っ手は誰もこない。
おれたちは、路地裏を静かに歩き始めた。

時刻は22時半…。
大通りは、深夜営業の飲食店やコンビニ以外、すべてシャッターが閉じられている。
念のため周囲を確認し、携帯の電源を入れた。
今度は通信目的でなく、GPSの使用が目的だ。
トモミが眼をつぶり…彼方を指差す。
GPSで現在地点を表示させ、方角を北に揃えて、表示倍率を変え、それからトモミの示した方向に
スクロールさせる。
…それはやはり…オムニ・ジャパンの研究所のある方角だった。
「ドロイドたちは市街地の外れに誘導してあります」
トモミが眼を開け、ちらと交差点の方を見ながら言った。
「シンクロイド・システムのダミー・システムは、二十人ほどの警備ドロイドに守られて、トレーラーで
移動しているようです」
「…そこまで判るのに…何故、君のことを泳がせているんだろうね」
「罠とお思いですか?」
「う~ん…あ、いや、トモミを疑っている訳じゃないが…」
するとトモミはやや自嘲気味に苦笑した。
「わたしが裏切れないと判断しているのでしょう。わたしの所在自体は今も常に把握していますし、
わたしの持っているデータさえ吸い上げる事が出来れば、心なんて関係ないでしょうから」
「ダミー・システムと君とは…あくまでシステムを構成する為の繋がりでしか無いんだな」
「ええ…」
トモミは巴の顔を見上げ、眼を細めて笑った。
「巴とわたしのような繋がりは、全くありませんし…何も感じません」

528:@巴のマスター
07/11/25 20:33:51 fwqnTuep
途中のコンビニで握り飯を5個、ペットボトルのお茶を2本、それにバッテリーパックを6本買い、
おれたちは夜道を歩き続けた。
賑やかな市街地を出、閑静な…と言っても深夜だから当たり前なのだが、きらきらと街灯の輝く
新興の綺麗な住宅街を通り抜け、舗装された山道に入る。
途中、歩きながら握り飯をほお張ると、巴とトモミもバッテリーパックをぱくっと飲み込んだ。
気が付くと、二人ともこれでそれぞれ2本目ずつ。
その都度、元気になるみたいに思えるが…気のせいか?
しかし…何と言うか…お袋のセンスときたら…。
本来、ドロイドは、エネルギー補充の際は専用のベッドに横たわって、身体の数箇所に設けられた
端子からエネルギーを充電するか、市販のドロイド用バッテリーパックを簡易充電器に繋いで
手足のどこかの端子から繋ぐのだが…。
お袋の手がけたドロイドたちは、緊急時はバッテリーパックを丸呑みして、体内にある充電ユニットに
セットして簡単に補充できるようになっているのだ。
傍で見ると…物を食べているようにしか見えず、パックを何本か一度にまとめて体内に保管できる他、
充電ユニットが露出しないという安全面も考慮されて、一見良い事ずくめなのだが…。
もっとも…この方式の最大の欠点は…カラになったバッテリーパックの回収方法にあり…。
後は想像にお任せするが…『そういう』趣味のある者には堪らない…らしい…とだけ言っておこう。
まあ、カラになったパックがお腹の中でゴロゴロしているのは…彼女たちも気持ち悪いだろうがね。

おれたちの直上には綺麗な満月が光を放ち、澄んだ秋風が軽く吹く中、並んで歩いていると、
どこか夜中のピクニックにでも来ているような…そんな感じすらあった。
…もっとも…三十分後にはどうなっているか…わかりゃしないが。
最後の握り飯を食べ、ペットボトルのお茶も飲み干すと、巴がそっと手を差し出して、空いた容器を
受け取るとビニール袋に入れ、それからコートのポケットに押しこんだ。
うんうん…とトモミが頷く。ゴミはきちんと持ち帰りましょう…というわけだ。
…と言うわけで、三人とも、エネルギー充填完了だ。

529:@巴のマスター
07/11/25 20:35:33 fwqnTuep
山道は段々と寂しくなっていき、左右に雑木林が生い茂り、その黒い影が不気味にざわめいている。
歩く途中の街灯の数もまばらになって行く。
長い影を三本引きながら、おれたちは歩き続けた。
…これぞまさしく真夜中の決闘…か?
本当なら緊張する場面の筈だが、巴とトモミが左右に居る…それだけで心強く、むしろ、俄然勇気が
湧いてきていて、恐れも怖さも感じない。
ただひたすら…システムを『叩いて』止める、それだけだ。
本当はお袋に連絡しようか…とか、バンたちに援護してもらうか…とも考え、実際、行動する寸前まで
行ったのだが…通信手段は押さえられている可能性が高いし、バンたちが動けば、当然シローたちも
一緒に行動すると言って聞かないだろうから、止めることにした。
武器はある。
それに、さっきの巴の奮戦ぶりから考えれば、油断は禁物だが、20人位なら何とかなる。
今度はトモミもいるし…。
そう思った先に…研究所の灯りが見えてきて、おれたちは互いの顔を見合わせた。
そして…ゲートの前に、大型のトレーラーと思しきシルエットが数台見えた。
「あれだな…」
良く眼を凝らすと…トレーラーの周囲に、服装もバラバラな少女のシルエットが幾つか見える。
その手には棒状の物が握られ、中には腕に『じか付け』されているのも見える。
「トレーラーの外に11人居ます」
トモミがこめかみに手をやり、暫し眼をつぶりながら教えてくれた。
この場合、トモミは早期警戒システムの役割となるので、ありがたい。
「他には…トレーラーの中に数人います」
「シンクロイド・システムの発信源は…もしかして、あれかい?」
見ると、数台のトレーラーの屋根の上に、かなり大きなアンテナが載っている。
その数は4基…。
…どうにもトレーラーに不釣合いな大きさで、ちょっとしたテレビ局の中継車よりも大きそうだ。
「……そのようです」
眼をつぶったまま、トモミは答えたが…少し青ざめた顔になってきた。
「…アクセスを…拒否されましたから…たぶん、間違いありません」
「だとしたら…あれを潰せば、リンク・システムへのアクセスは出来なくならないか?」
「一時的には可能ですが…サブの簡易システムが1時間後に起動します」
「わかった。トモミ…ありがとう。もう良いよ」

530:@巴のマスター
07/11/25 20:38:09 fwqnTuep
緊張が解け、肩の力を抜いたトモミの頭をそっと撫で、おれは巴の方を向いた。
「…巴から見て…44マグナム弾で、あのアンテナの通信機能を完全に潰せるかな?」
「そうですねえ…送信機能ってデリケートではありますけど…」
巴はう~ん…と唸り、それから彼方のトレーラーを見、困った顔をした。
考えてみたら、うら若き乙女にこんな質問をするのも変なのだが…。
この際、戦闘用ベースだったという事で、思わず訊ねてしまっていた。
「中継ターミナルボックスを破壊出来れば完全に止められますが、そうでないとアンテナへの
ケーブルが生きている限り、アンテナを破壊しても、微弱ですが、電波は送信されます」
「だが、出力も送信距離も下がるね」
「そうですね…リンク・システムへのアクセスは出来なくなるかも知れません」
「ええと…そうだ。レーザー通信とかはどうだろう?あそこにあると思うかい?」
ともかく思いつく限りの問題点を洗い出さなくては…。
チャンスは一度しかないのだから。
「あれは基本的に固定局同士のもので、可搬式だと調整に手間取りますので、多分
あれには無いはずです」
ともかくシステムからの送信を止められれば、リンク・システムによる全国のドロイドたちへの
悪影響は止められるはずだ。
…そうすれば、嫌でもボスキャラが現れるに違いない。
「よし…まずはあれを潰そう」

531:@巴のマスター
07/11/25 20:41:30 fwqnTuep
>>519~530
連続投稿規制に掛かりそうなので、一旦切らせて頂きますが、直ぐ続けます。

ご迷惑をおかけ致します…。
短編のつもりが、世界観を描いていこうとして長文になってしまいました。
なお、今日投下分と、次回分で完結します。

532:@巴のマスター
07/11/25 20:45:00 fwqnTuep
デザートイーグルなんて持つとは思わなかった。
しかも、グリッピングがもうひとつ合わない気がして、一抹の不安も残るが、威力の点からすると
この際、仕方ない。
…実は数年前、アメリカのツアーで射撃体験ツアーがあって、旧友に誘われて嫌々撃った
ことがあり、その時使ったのが、確かベレッタの92の…三点バースト出来るモデルだった。
まさか、こんな所で、それが役に立つなんて思わなかった。
そう言えば、マグナムピストルと言えば、オートマグなんてとんでもない骨董品があったけど、
手入れが大変な上、すぐジャムるとかで、結局使わなかったっけ。
44マグナムと言えば、ダーティハリーでお馴染みの、S&WのM29リボルバーだった。
言われたほど反動はキツくなかったが、それでも結構、衝撃があった。
…こいつはオートピストル…スライドアクションで衝撃が多少和らぐと言うが…上手く行くか?
「大丈夫…格闘技で鍛えたぼっちゃまなら…問題ありませんよ」
おれの不安に気付いたのか?巴が小声で囁いた。
「但し、総弾数は八発ですから、注意してくださいね」
「わかった…」
おれは振り返り、雑木林の方を向き、右手を挙げた。
木立にトモミが隠れ、左手を振り返す。
もし、おれたちが発見されても、トモミの姿は見えない方が良いだろうと考え、敢えて離したのだ。
ともあれ…トモミ…上手く誘導してくれよ!
作戦開始だ…!!
おれたちが、木々の陰から陰伝いに進んで行くと、真正面で張り込んでいた少女のドロイドたちが、
ふいに、おれたちの逆方向に向かって一斉に走り始めた。
トモミからシンクロイド・システムに向けて、侵入者が向かってくる…という情報を送るよう命じて
もらったのである。
…コントロール下におかれたドロイドたちを『人質に取られている』トモミが、実はおれたちの為に
偽の情報を送っているとは夢にも思わないのだろう。
わらわらと走っていく姿を見るや、おれと巴は素早く駆け出し、トレーラーの前に姿を現した。
走りながら安全装置を外し、スライドを引いて装填し、両手で構えて一台の屋根上に向ける。
「ぼっちゃま!」
巴の鋭く呼ぶ声がしてそちらを向くと、お団子頭にお下げのチャイナ服の娘が二人、両手に
トンファー型の電磁警棒を手にして向かってきた。
「ちっ…他にも待機していたか」
忌々しげに舌打ちしながら、赤いチャイナ服の娘の打ち込んできた一撃をかわし、デザートイーグルの
安全装置を掛け直す。…下手に暴発したら危ない事、この上ないからな。
一台のトレーラーを背に、今度は青いチャイナの娘の素早い蹴りをスレスレにかわして、左に一回転し、
体勢を立て直そうとしたが、その直後、おれの鼻先を電磁警棒がかすめ、トレーラーの外板に激しく
火花を散らして激突した。

533:@巴のマスター
07/11/25 20:46:04 fwqnTuep
…やべえ…こいつら…本当に容赦ないぞ。
パッとその場を離れるが、すぐ左右に赤と青のチャイナ服の美少女が、武器を構えつつ、じりじりと
近づいてくる…。
しかも気が付けば、二人の『チャイナさん』の履くハイヒールの先端や、爪先に、月明かりに反射して
鋭い光がぎらりと…って、こいつら…まさか…ホンモノの暗殺用か!?
ちらと横を向くと、巴にも白と黄色のチャイナ服の美少女ドロイドが向かっていて、その俊敏な動きと
パワーに、さしもの巴も手こずっている様子だ。
…仕方ない、悪く思うな。
安全装置を外し、デザートイーグルを構え直す。
…だが、どちらを狙う?
一人を撃ったら…もうひとりが打ち込んでくるぞ。
ちらと見ると、巴がコートを羽織ったまま、如意棒型の電磁警棒で黄色のチャイナの少女と激しく
火花を散らして打ち合っている。
だが、その後ろに白いチャイナの娘が…。
危ない!!
おれは咄嗟に、躊躇うことなくそちらに銃口を向けた。
ズンという重い衝撃が腕全体にかかり、思わず奥歯を噛み締める。
低く通る銃声と共に、マグナム弾は少女の肩口から首筋を吹き飛ばし、少女の整った体躯が
そのままもんどり打って地面に転がっていくのが見えた。
やった…と、思う間もなく、二人の…怒りにぎらぎらと瞳を輝かせたチャイナの少女二人が
左右から交互にトンファーを打ち込み、蹴りを入れてきた。
シュッという鋭利な、嫌な音がして、おれのジャケットの袖が裂かれ、全身に冷たいものが走る。
やばい…これは…本当にやられるかもしれない。
再びトンファーが振り上げられるが…完全にはかわし切れない…!
そう思った瞬間、いきなり銃声が立て続けに鳴り響き、赤いチャイナの少女が弾け飛び、その場に
舞うように、ゆっくり回りながら地面に転がった。
しめた!と思う間もなく殆ど反射的に、銃声に躊躇い、横を向いた青いチャイナの少女の腹に
銃口を向けて引き金を引いた。またも…キツい衝撃が返ってくる。
轟音と共に少女のお腹に子供でも入りそうな穴が空き、驚愕の表情を浮かべながら、そのまま
真後ろに弾け飛び、どさっと倒れた。
それとほぼ同時に、巴の一撃が黄色いチャイナ服の少女の肩口に、閃光を上げて命中していた。
「今だ!早く…アンテナを潰せ!!」
雑木林の方からバンの怒鳴る声が聞こえ、おれと巴は頷きあい、それぞれの前に停まっている
トレーラーの荷台をよじ登った。

534:@巴のマスター
07/11/25 20:47:59 fwqnTuep
…正直、このステップが狭くて、とても上りにくかったのだが…もう必死でよじ登った!
それと共に、またもチャイナ服の少女たちが、いつのまにか数人、姿を現している。
だが、おれたちがトレーラーの上に上りきるのと同時に、バンたちがトモミと共に、おれたちの前に
姿を現し、それぞれの武器を構えて立ちふさがる。
「バン…みんな!」
「訳は彼女から聞いた!構わないから早く潰せ!」
返事の代わりにトリガーを引き、アンテナから伸びている線に繋がっているボックスに向けて一発放った。
轟音と共に、ボックスどころか、周囲の屋根までぽっかり穴を空けて吹き飛ばし、中まで見えたが、
それを見ている余裕は無い。
また、轟音が幾つも鳴り響き、振り返ると後ろのトレーラーの屋根上の巴が、仁王立ちになって
電磁警棒の先端を、何度も振り下ろしているのが見えた。
ようし…あと二基だ!
おれは両手でデザートイーグルを構え直し、左に停めてあるトレーラーの屋根に向けた。
距離は20メートルほどあり…今から下りて向かうのは無理だ。ここでやるしかない。
…だが、はっと気付くと、ネネとチャチャが二人のチャイナ娘の猛撃に防戦一方で苦戦している様だ。
シローも軽快に飛び回って一人と打ち合っているが、こちらも決定打が無さそうだし…。
「僕らに構わないで…」
「早く!」
おれの視線に気付いたシローとネネが叫ぶ。
「こんの~っ!」
チャチャがいきなり叫ぶや、チャイナの少女に鋭く足払いをかけた。
劣勢でも、三人の闘志は衰えていない…ありがとう!みんな…。
「済まない、頼む!!」
おれは、身をかがめ、その場で片膝ついて、デザートイーグルを構え直した。
ターレット越しに目標の…アンテナに信号を送るボックスが見える。
息を呑み…トリガーを引いた。
またもズンという重い衝撃が腕全体に返り、轟音と共にボックスの辺りがごっそり吹き飛んだ。
あと一基…!!
そう思った瞬間、後ろのトレーラーから少女のシルエットが宙を舞い、そのまま左後ろのトレーラーの
屋根の上に着地し、そのまま何かを叩きつけるのが見えた。
金属をスパークさせる金色の閃光が上がり、その瞬間、煌々と照れされる巴の姿!!
「やった!」
閃光が消え、巴がこちらに手を振るシルエットが見えた。
それと同時に、下の方から、どさっ、どさっという音が幾つも聞こえ、それからほうという息が聞こえた。
見ると、チャイナ服の美少女ドロイドたちが一斉に活動を停め、その場に崩れ落ちていた。
「可哀想だが…リンク・システムを潰すんだ」
バンの声がして、あちこちから銃声や閃光が上がり…やがて辺りは静かになった。

535:@巴のマスター
07/11/25 20:50:52 fwqnTuep
全てが終わり、ステップを下りると…おれの右横に、ひらりと巴が舞い降り、綺麗に着地した。
「…巴…おつかれさん」
「皆さんのおかげで…たすかりましたぁ」
ホッとしたのか、普段のまったりな口調で、巴はにっこり微笑んで頭を下げた。
「手伝えなくて…ごめんね…巴」
トモミが済まなそうに、もじもじしながら姿を現した。
「ううん…あなたには戦闘は無理だし…システムにばれたらまずいもの」
「それに…バンたちを案内してくれた」
おれはそう言いながら、バンとジェーンの方を向いた。
「でも…どうして、ここが?」
するとジェーンがくすっと笑いながら、巴の横に行き、そのまますっと何かを外してみせた。
「…発信機か!」
「初歩的なやり方だが、効果はあったろう?万一の事を考えて…コートに付けてあったんだ」
バンがにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
流石は現役のFBI捜査官だ。
「ただ、巴くんが君だけでなく…トモミ…くんだっけ?…彼女と出会っているとは思わなかった」
「でも、酷いですよ…僕たちを置いていくなんて…」
いつになく口元を尖らせて、シローが眉を八の字にして抗議した。
「暫く街中で動かなくなったので、敵をやり過ごしていたのかと思ったら…こうですもの」
「まあまあ」
ネネがなだめるように、いささかゆったりした口調で入ってきた。
「それでも…皆さんの危機には間に合いましたから…良かったではありませんか」
「うん…正義の味方は、ピンチに現れて、味方の窮地を救う…ものね」
ネネが、ぽんと巴の肩を叩きながら、もう片方の手でVサインを送る。
「…済まなかった…でも…」
言いかけたが、バンがおれの背を叩き、笑顔でそっと首を振る。
「ありがとう…みんな」
今回もまた、皆に助けてもらった…。
本当に何とお礼を言ったら良いものやら…。

周囲を確認したところ、倒れているチャイナ服の美少女ドロイドたちは全部で12人…。
そのどの娘も、全身のあちこちに武器だの暗器だのが仕込まれ、あるいは内蔵されていて、
今更ながら、良く勝てたものだと、後でぞっとなった。
そして、意を決してトレーラーのドアを開けたが…
…中には…誰も居なかった…。

536:@巴のマスター
07/11/25 20:52:25 fwqnTuep
トレーラーの中は、いずれも中継車としての最先端の機能が満載されていて、バンとジェーンは
一目見るや、某国で開発された管制システムであると看破した。
どうやら、暗殺、破壊工作仕様の先刻の『チャイナさん』ドロイド達が守っていたらしいが、総て
車体の下部ハッチから出てきて応戦してしまった為、もぬけの殻になっていたらしい。
結果的には、残っていた全員を総て倒すことができたわけだ。
その車内で、リンクシステムを確認し、残っていた予備システムを、念のためおれとバンの二人で
次々とデザートイーグルで撃ち込んで粉々に破壊し、再度の送信が出来ないようにとどめをさした。
「これで、全国のドロイドたちの意識が戻るはずだし、操られていた娘たちも動きを停めるだろう」
バンの言葉に、皆、一様に安堵の表情を浮かべた。
「良かった…これで、皆、無事なのね」
チャチャとネネが手を取り合って喜びの声をあげ、シローがうんうんと頷いている。
トモミは静かに微笑みながら、ジェーンと見つめあっていた。
…かつてのともねえと、ジェニファーさんの…直接の分身の再会なのだろう。
「春日課長のアオイちゃんも…きっと今頃は」
「そうだな」
巴の言葉に、おれもふうっと息をついた。
だがまてよ…
まだ大事な事をやり遂げていないぞ!
最大の破壊目標が残っている!!
「…トモミ…ダミーシステムはどこなんだ?」
あ…と声を上げ、トモミは頷き、こめかみに手をやり、暫し動きを止めた。
祈るような…念じるような、そんな仕草を、皆が神妙な面持ちで見守る。
だが、やがて眼を開け、両手を下ろしたトモミは、怪訝な顔で首を振った。
「おかしいです…今は何も感じられません」
「ついさっきまでは…ここに存在したんだよな?」
「はい…でも…今ここには…全く」
トモミが困惑しきった顔で首を振った。
「活動を停止したのでしょうか?」
だが、そう言うジェーンも自信なさげだ。
「いや、シンクロイド・システムの発信は停まっているが、本体はダイレクト・リンクで繋がって
いる筈だ。それならトモミに探知できる筈だし…絶対におかしいな」
皆、改めて不安そうに、注意深く辺りを見回した。

537:@巴のマスター
07/11/25 20:53:26 fwqnTuep
トレーラーの中は、既に隅々まで確認した。
周囲も一通り見たが、他に人影も気配も無い。
…おれたちがチャイナ服の少女ドロイドと戦っている間に…消えてしまったのか?
だが…一体…どこへ?
「ともかく…後始末を頼まなくてはならんな…」
漸くバンが口を開き、携帯電話を取り出した。
「…例の…特別担当かい?」
「うん…このドロイドたちもそうだが…このトレーラーは大変貴重な資料になるしね」
「暗殺用…しかもチャイナさん…」
「テロリストの出所が…中東辺りだけじゃ無い可能性もあるから…本当に驚きだよ」
バンは携帯を耳に当てた。
…そうだ…おれもお袋に一報入れるか…。
その後…まだ本社に残っているか判らないが、課長たちに…。
そう思いながら、携帯の電源を入れ、ボタンを押していき耳に当てた。
軽い呼び出し音が続く。
やがてぷつっという音がして、おれは口を開いた。
「もしもし…」
『無事?…今、どこにいるの?』
いきなりお袋の声が入ってきて、おれはフッと苦笑した。
「どこだかねぇ…まあ、何とか生きてるよ」
『…巴は無事なの?』
「え?」
ふと…ある事に気付いて、おれは眉をひそめた。
「あ…ああ…なんとかね」
『それは良かったわ。巴は今度の一件では絶対に外せないからね』
「…うん。確かにな」
『迎えを寄越したいんだけど…今の場所、教えてくれない?』
「え?…だってさっきは、無理とか言ってなかったかい?」
『…状況が変わったのよ。何とか迎えに行くから…急いで!』
…おれはちらと時計を見た…。
もし…おれのカンが正しければ…。
「今、『下』の街の駅前の交番近くにいる…わりぃが、後でまた連絡する…じゃあな!」
そう言い捨てて電話を切った。
2分50秒…逆探知を免れるギリギリか…。
「「ぼっちゃま?どうなさいました?」」
巴とトモミが、全く同時にハモって訊ねた。
おれは右手の拳を左手のひらにバシっとぶつけ、唇を痛いほど噛み締めながら言った。
「研究所が…奴らに占拠されている…」


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