ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6 - 暇つぶし2ch396:名無しさん@ピンキー
07/11/08 17:40:11 3SnOwI05
395 名無しさん@ピンキー[sage]2007/11/08(木) 17:40:11 ID:TYPe2s5>kHaL
コハルちゃんがいれば、ご主人様の危険は100%回避可能ですよ?
炊飯器なんていりませんwww

397:名無しさん@ピンキー
07/11/08 19:19:18 NcXJWi/z
>>396
最悪な事態が発生するなw
悪いが欠陥品はリコール処理だな。


398:某四百二十七 ◆mjGnt7G.D2
07/11/09 01:26:01 ywWiOhe1
wikiがトンだ…orz

修正してる暇もないんで、近日中にどこかの鯖へ
過去スレを丸々うpります。

399:名無しさん@ピンキー
07/11/09 02:58:53 7ZjHRE6o
炊飯器とか巴とかもういいからさ
だれかまともでまじめなSS落としてよ

400:名無しさん@ピンキー
07/11/09 05:43:22 67dK0E1D
>>399
気持ちはわからんでもないが、このスレのタイトルや意義を見れば
おかしくないと思うがな。

…それに、そういう書き方は、今の書き手さんたちに失礼だぞ。
もうちょっと気長に待て。

401:名無しさん@ピンキー
07/11/09 06:54:33 narfPsWd
そもそもまともで真面目なSSなんてこの板に存在するのか
「エロパロ板」だぜ?
エロくて不真面目な落書き垂れ流す板だぜ?

マジな小説読みたきゃ、ハードカバーのお硬い小説でも読め
こんな板でSFファン豪語したらアジモフタンに祟られるんだぜ?

402:名無しさん@ピンキー
07/11/09 07:22:20 kdRWF5a/
>>401
それも言い過ぎではないか?
エロだが、決して不真面目ではないぞ。

それにアシモフを引き合いに出す位なら、
エドマンド・クーパーの「アンドロイド」位は
読んだ事はあるのだろうね?


403:名無しさん@ピンキー
07/11/09 07:41:41 7pFuDFuI
諸君、落ち着きたまえ
退屈を持て余した暇人が集う社交場だ
私のパートナーが怯えているじゃないか

そのおかげで今夜はハードなサーヴィスを要求される私の身にもなってくれたまえ


「マスター、交感神経系統がバグを抱えたらしくて震えが止まりません
 一晩中、抱き締めて温めてください……」

伏し目がちに そんなこと言われてみろ
ブラフだと判っていても抱き締めたくなるわな

404:名無しさん@ピンキー
07/11/09 07:46:45 67dK0E1D
それは確かに言いすぎじゃない?
不真面目な落書きってのはさ。
>
それに、確かにアシモフとロボット七原則は偉大だけど、
それだけで語るのもどうかと思うぜ。

そうそう>>402じゃねえけどさ、平井和正の「アンドロイドお雪」なんて
もろセクソイド・アンドロイドテーマの小説だぜ。
その辺、読んだことあんのかい?
wikiとかで調べた知識じゃ駄目だぜ。



405:名無しさん@ピンキー
07/11/09 08:19:19 GZ6LYJOI
>>399
お前が書けばおk

406:名無しさん@ピンキー
07/11/09 08:45:34 UyDJcWHw
>>399
言い出しっぺの法則だな

407:@巴のマスター
07/11/09 13:46:41 J1GTYRTO
『ありがとう…ごめんね…本当に…』
お袋の申し訳無さそうな声が返ってきたが、おれは首を振った。
「いや…ともねえの事が絡むなら、おれ自身がケジメをつけたいし…構わないよ」
『それでも巴ちゃんを第一に…してくれるのね?』
「もちろんだ」
そう言ってから、おれはいくつか、お袋の言ったことに疑問を感じて尋ねて見る事にした。
「…ただ、ちょっと気になったんだが…」
『ん、それはなに?』
「かあさんは、はじめ、今回の事件は『ドロイドが、シンクロイド・システムを使って暴走させている
可能性が高いがその証明はされていない』と言ったね?でも、今の口ぶりだと、明らかに今起きて
いる事象が奪われたシステムと…ともねえ…の分身のドロイドが原因だと判っている様な
ニュアンスだが?これは…今起きている事象から判断したもの…と見て良いのかい?」
『…やっぱり、なかなか鋭いわね』
お袋の感心した様な声が返ってきた。
『貴方…やっぱり今の仕事辞めて、ともちゃんと一緒にあたしの助手やらない?』
「…冗談は良いよ…で、どうなのさ」
『あながち冗談でも無いんだけどね』
ぶつぶつと小さく呟くお袋だったが、すぐに続けた。
『確かにその通り、実験データと付き合わせた、状況証拠から判断して…よ。倒れたドロイド達のうち、
まだ意識のあるコたちに協力してもらって、色々調べたら、マルチリンク・システムから何かのデータが
侵入していて、それを特定しようとしたところ、それがウイルスとかでは無く『意識』だと判ったわけ』
「そうか、その波形なんかのパターンが」
『そう。それが、シンクロイド・システムでの過去の実験データと酷似していたのよ…。
ただそれを特定するのに、えらく時間がかかってしまったけどね』
「なるほどね」

408:@巴のマスター
07/11/09 13:47:36 J1GTYRTO
おれは頷き、改めて巴の顔を見つめた。
良く見ると確かに、どこか、ともねえと似た顔立ちだ。
もちろん198センチという身長に合わせたバランスに直されているが…。
きっと最初は、ともねえの完全な分身…いや、ともねえ自身でもあったのだろう。
おれがまだまだ子供だった頃…もしかしたら、おれが告白した時…巴も聞いていたのかもしれない。
…だが、それと共に、違う疑問がわき上がる。
「でも…ともねえが亡くなって、シンクロイドシステムが封印されてから、かなりな年数が経つのに、
どうして今になってこんな事になったんだろう?」
『これはあたしの推測だけどね』
お袋は一言一言ゆっくりした口様で続けた。
『たぶん、テロリストは、はじめは自分の親玉に使うつもりだったと思うのよ。でも、その為には、
被験者の分身であるドロイドが必要となるし、かなり細かい調整が必要になるわよね』
「でも、開発の中心だった…ともねえは…もういない」
『そう。でも、それからその後、ドロイドたちを一斉にコントロール出来るシステムに変更されて
再度、システムの存在がクローズアップされた』
「……兵器転用の可能性があれば、実用化して実戦に使えるし…量産できれば商品化できる」
『そういうことね。まあ、さっき『暫くして…』なんて言ったけど、実際は、ともちゃんに一旦封印されて
から、計画の見直し提案が出るまで数年経ってたし…そこから、試作品完成まで更に数年…
それから試験・検討期間とか色々見れば…結果的にボツでも、年数的にはかなり経つわよね』

…お袋の回答に、おれはやっと疑問が氷解された思いだった。
先ほどからのお袋の口ぶりでは、ともねえが亡くなると共に封印された計画のシステムが、比較的すぐ
違う形で計画が復活し、再開発されたように思えたのだ。
「なるほど…確かに、全く新しいものの開発には、かなりな時間、年数がかかるし…それから奪われた
先でテストされていた期間があったとしたら…」
『丁度、今ぐらいではない?』
「うん…確かにそうだな」
…おれは頷き、それから最後の疑問を口にした。
「だが…その間、ともねえの完全な分身のドロイドは…どうなっていたんだい?」
『……それがね…』
お袋は少し口ごもった。
『実はずっと眠っていたのよ』
「巴が再起動された時は?」
『…その時…既に奪われていたらしいの…たぶんシステムと一緒に』
「何だって!?」
『…それ…あたしたちも、巴ちゃんを再起動する時、初めて知ったのよ…。担当も変わっていたし…』
おれは目の前が一瞬暗くなる思いで溜息をついた。
『今話した一連だって、知ったのはその頃。それに本当はね…巴ちゃんと、トモミ…朋ちゃんの
分身の娘の名だけど…二人一緒にあなたに託したかったの』
「え?」
初めて聞く意外な話と名が出て、おれは目を丸くした。
二人一緒?
巴と…もうひとり…トモミ…だって…?

409:@巴のマスター
07/11/09 13:48:31 J1GTYRTO
『トモミは、テロリストの悪用防止に、朋ちゃんに意識や記憶を、総て封印されてしまったの。
でも、記憶こそないけど、朋ちゃんの意識…心は巴ちゃんに総て受け継がれている…。
だから二人にリンクしてもらい、同じ心にして貴方に…本当はそう思ってたのよ』
「そ…そうだったんですか~」
巴自身が困惑気味に口を開いた。
『でも、テロリストに奪われた時点で、もう駄目だろうと諦めていたの…たぶん…』
「ぶ…分解されたり…改造されたり…ですかぁ?」
大柄な割りに小さくぶるぶる震える巴。
『今だって、そうなっている可能性があるわ…』
「……それは…そうだ」
ばらばらにされて、シンクロイド・システムの頭脳として使われている可能性も否定できない。
…それは、自分の半身とも言える巴にとっては辛い可能性だろう。
最悪の事態も考えなくてはなるまい。
「でも…それでも…」
おれの決意は変わらない。
「おれは巴と一緒に、その『トモミ』を解放する為に力を貸すまでだ。それが例え、どんな形で
おれたちの前に現れようともな…」
「ぼっちゃま…ありがとうございます…」
巴はそっと囁くと、握ったおれの右手を胸に押しあてた。
たぷんと柔らかく、同時に張りのある大きな温かいふくらみ…。
巴の両手も、人工のものと思えない穏やかな温かさで、思わずほうと安堵の息をついた。
「…でも、できることなら…無事な形で再会できると良いんだがな」
巴はこくりと頷いた。

410:@巴のマスター
07/11/09 13:49:05 J1GTYRTO
その後、お袋は、現在、断続的に発信されているシンクロイド波を逆探知していることと、
システムを奪ったテロリストの下部組織が、今は制御できなくなって放棄している可能性が
あるので、状況によってはおれたちに連絡する…と言って、電話を切った。

時計を見ると八時…。
通常の出勤よりは早いが、今は月次…30分は遅れている。
「…今朝は寝坊したか…って、ヒデにツッコまれそうだな」
思わず苦笑すると、巴は少し神妙な顔で頷き、再びハンドルを握り、シフトチェンジした。
クルマは再び静かに走り始める。
…それから暫く二人とも口を閉ざしていた。
もうひとりの…初めて聞く…或いは、思い出した名前に…少し動揺していたのかも知れない。

「なぁ…巴」
次の交差点を左に曲がると会社…という所まで来た時、おれは思い切って口を開いた。
「もし…トモミ…が、巴と一緒におれの下に来ていたら…どうだったんだろうな」
おれの問いに、巴は「え?」と小さく声を出し、それから軽く眉を寄せた。
「……う~ん…そうですねえ…」
なかなか考えがまとまらないみたいだ。
だが、やがて、少し困ったように、そして僅かに寂しそうにこう言った。
「ぼっちゃまは、わたしでなく『トモミ』を選んでいたかもしれませんね~」
「!」
図星だ…いや…しかし…そんな答えを求めていたつもりではない。
でも…おれは馬鹿だ!そんな事に思い至らないとは…なんて間抜けなんだろう。
さっきから、あれほど『ともねえ』に対して意識していたのに、姿まで近い存在の可能性が
指摘されたら…やっぱり気になるだろうし…。
まして見つかった…としたら、巴自身はどう思うのだろう。
おれは巴にとても申し訳なく思い、思わず言葉を飲み込んだ。

411:@巴のマスター
07/11/09 13:49:54 J1GTYRTO
「でも~…」
だが、本社前に着き、クルマを停めると、何を思ったか、巴はニッと笑った。
「今、ぼっちゃまのおそばに居るのは、この『わたし』ですから~…」
悪戯っぽく『勝った』とばかりにガッツポーズをとる巴。
「巴…」
「あ…でも~…もし~改めてトモミが見つかったとしたら~」
巴は口元に指先を当て、ちょっと考えるそぶりをした。
「わたしと意識が…心がひとつな訳ですから…ちょっと複雑な気持ちかもです~」
「心はひとつ…か」
「でも~身体はふたつ…こころはひとつ…としたら、ぼっちゃま、いかがです?」
おれの頭の中に、巴と、ともねえの姿をした少女が並んで踊っている姿が思い浮かんだ。
なんだかなぁ…と、思わずふっと苦笑する。
「あ~!今~鼻で笑いましたね~」
ぷっと膨れながら、おれの鼻先に人差し指をつける巴。
「あ…いや、そういう訳では…」
「ぷんぷんです~」
「ごめんごめん」」
「も~…ひどいです~…こころがひとつなら…」
一瞬眉を吊り上げてから、巴はおれにそ~っと顔を寄せた。
「やっぱり幸せ独り占めなのです~!」
「え?」
「しかも…しかもですよ~…一緒にぼっちゃまにご奉仕させて頂く事だって可能じゃないですか」
「え゛…ご…ごほうし…だって…」
…当然、違う想像が浮かんできて、思わず固まった…。
何せ…少し艶っぽい笑みを浮かべた巴と、ティーンのともねえが…裸で迫ってくる図が…。
そ…それってこの世の天国じゃないのか?…って…おいおい!?
ば…ばか…おれはイッタイ何考えてるんだ。
…ま…まずい…朝からとんでもない妄想が…。

412:@巴のマスター
07/11/09 13:54:07 J1GTYRTO
そんなおれに気付いたか…巴は、にま~っと嬉しそうな笑顔で口元に手をあて、うふっと笑った。
「アダルトなぁ魅力の~このわたしと、ティーンなわたしが一緒にご主人様に…なんて~
…もうもう想像しただけで、回路が熱く火照ってきちゃいますよ~」
「んな回路付いてないだろが…大体、誰がアダルトな魅力だって?」
それだけは違う。
思わずツッコんだおれに、ガクっとなる巴。
だがその表情は明るい。
気が付くと、巴のそんな前向きな考え方に、おれ自身の沈んでいた気持ちが、少しずつ癒されて
いることに気付いて、あらためてふっと笑みが漏れた。
そうだ、悪い事ばかりとは限らないよな。
良い方への可能性があるなら…そちらを信じてみる方が良い。
「まあ…でも、そんな事になったら…楽しいだろうな」
いつものように、巴はにっこり明るく笑って頷いた。
やっぱり巴は最高のパートナーだ。

正面の駐車場のゲートが、シュワちゃんによって開けられ、その横で春日課長と秀一たちが
「遅刻よ」「罰金だぁ」と言いながら、こちらに向けて大きく手を振っているのが見えた。
巴が窓から手を出して、嬉しそうに彼らに手を挙げて返す。

さあ…今日も一日、長い仕事のはじまりだ…。

413:@巴のマスター
07/11/09 13:56:33 J1GTYRTO
>>407>>412 今日はここまでです。ちまちまとで済みません(汗)

414:名無しさん@ピンキー
07/11/09 14:10:17 1MR/3LXr
リアルタイム遭遇!GJ!!

415:名無しさん@ピンキー
07/11/10 03:20:45 3ORgfrb1
もう終わったほうがいいと思うが

416:名無しさん@ピンキー
07/11/10 11:33:27 AH2YAyYj
>>415
自分は書かないくせに文句ばかり言う乞食は黙ってろ
全く…人間としてもロボットとしても最低の人格だな

417:名無しさん@ピンキー
07/11/10 11:39:24 5PmBd6ec
427レス目だけは、あの人のために開けて待っておきましょう。

418:名無しさん@ピンキー
07/11/10 15:20:28 VVwN1AFw
>>415はきっと自分の作品を出したいんだけど、今話が継続中だから出せなくてジレてるんだよ。
だよな? 期待してる。

419:名無しさん@ピンキー
07/11/10 19:50:58 4ZiWsPgA
>>395
見たけど、3スレ目の途中で更新が止まってた。他の現行スレには更新されてたのも
あったけど、ここが放置状態なのは何故…? 平成電動娘の続きが読みたいorz

420:@巴のマスター
07/11/10 23:22:40 5Mlb4jQp
二日目の仕事は、おれたちが遅刻した事で出だしで少し遅れたが、とても順調に進んだ。
もっとも、昨晩は最後のあと片付けも、戸締りも全部おれたちがやって帰ったので、実際は
誰も文句など言わなかったが…。
そして、昨晩打ち出したチェックリストから、前年同月や先月に比べて金額的に増減の大きい
ものを弾き出して、個々にその理由を確認して内容に異常が無いか最終確認するのだ。

「結局…今日も三課の皆はお休みだったか…」
午後三時…今日もここまで順調…どころか、明日に予定していたところまで処理が進んでいる。
今日は、寝不足気味だったのに、巴とシンクロイドの一件でちょっとすっきりしたのか、思ったより
作業は図どり、巴もいつになく妙な気合が入っていて、秀一たちは驚いていた。
ふと、作業の手を止め、おれの向かい合わせの席で書類を作成している巴の、後ろのフロアを
ちらと見やると、そこは電気が消された寂しい有様であった。
「まあ、あっちは繁忙期で無いから良かったけど…彼らの家のドロイド達…大変だよな」
「…そうですねえ」
巴も顔をあげ、ちらと主たちのいない机の並ぶフロアーを見た。
「結局、対応はとれたのでしょうか~?」
「…さっきメーカーから連絡があって、ドロイドたちのリンク・システムを直ちに止めてサービス
センターまで連れてくるように…という連絡があったわ」
横の課長席から、お千代さんが声を掛けてきた。
「なんでもウイルスが混入していて、それがAIを狂わせたそうね」
おれたちは、春日課長の方を向いた。
「今、順番にサーピス・センターから迎えのクルマが来ていて、うちのアオイも明日連れて
行ってくれることになってるわ」
「そうですか」
そうか…親父たち技術者は、結局、そういう対応にしたのか。
確かに、リンクシステムさえ絶てば影響下からは切り離され、外部から入り込もうとする
『意識』が無くなる。
そうすれば彼ら自身の自我や意識は、再び改めて維持される。
やれやれだな。と、事情を知るだけにちょっとホッとした。
「でも皮肉な話ですね」
すぐ右から秀一の声が入ってきた。
「おれたちのパートナーは皆、旧式で、未改修だったから、ピンピンしてた訳ですからね」
「まあ…そうだけど」
春日課長が失笑を浮かべる。
「その言い方…気を付けた方が良いわよ」
「え?」
言いかけた秀一が背後からの殺気に気付いてぎょっとなった。
「ま・す・た・ー!!」
そこには楚々とした美しい日本美人を、少しあどけない顔だちに仕上げた感じの良く似た二人。
それは、腕組みしてジト目で睨むチャチャと、困った顔で笑っているネネの姿。
「古くて悪うございましたね~」
「ままま待て…べべべ別にわるいと…ぐぎゅ」
秀一は、斜め横に回りこんだネネにヘッドロックを掛けられ、目を白黒…。
「大体、ともちゃんだっているじゃないですか!」
「…すまん…ぐるじ…ゆるせ~」
「淀ちゃん…そろそろ外さないと」
いよいよもって秀一がオチそうなのに気付いて、ネネが慌てて止めに入った。

421:@巴のマスター
07/11/10 23:23:20 5Mlb4jQp
おれは笑いながら敢えて止めずに見ていたが、ふと、巴が彼らのやりとりを見ず、じっと窓の外を
見ていることに気付いて、おや…と思った。
仲の良い面々を前にして、こんな事はとても珍しい。
春日課長も、秀一をシメていたチャチャも、ネネも…そして腕を首に巻かれた秀一も、思わず動きを
止めて、じっとしたまま、身じろぎひとつしない巴を心配そうに見つめた。
「……!」
と、一瞬、巴の黒い瞳が大きく見開かれたかとみるや、それからすっと眉を寄せるや、おれの方を
向き、いきなり立ちあがった。
「どうした?巴」
おれを見つめる、凛としたその表情は真剣そのもので、異様な気迫すら感じられ、咄嗟に『巴御前』の
名を思い出して一瞬だじろいだ。
「ぼっちゃま…『トモミ』がきます」
「!?」
「トモミが…わたしを探しているのです…」
「トモミが…何だって?」
巴は、まばたきひとつせずに、おれをじっと見つめた。
ドロイドとは言え、今は完璧に、まばたきまで再現できるのだ…と言う事は、これは冗談ではない。
もっとも、巴がそのテの悪い冗談を言う事はあり得ないが…。
「おまえを…だって?」
秀一たちが、おれと巴のやりとりを呆気に取られて見ている。
それもそうだろう。
いきなり映画かドラマのワンシーンみたいな展開になってきているのだから。
…しかし、どう説明したものか。それに…。
「だが、今は所在がわからないって」
「今は…判るんです。そしてトモミは、明らかにわたしの存在を…把握しています…」
「把握して…って、じゃあ、おまえを狙っているっていうのか?」
「判りません…でも、恐らく」
「だったら警察に連絡して保護を求めよう」
咄嗟にお袋を介して、警察の専門部署に頼もうと思った…が、巴は大きく首を振った。
「武装ドロイドも一緒です。ですから、わたしが、このままここに居ては、皆さんに迷惑がかかります」
例によって巴の口調は変わっている。
…昔の、ともねえの話し方だ。
そう思うや、巴は課長の方に向き直った。
「あまり時間がありません…春日課長…大変申し訳ありませんが…」
「ちょっと落ち着け!」
堪り兼ねて、おれは思わず怒鳴りつけていた。
はっとなる巴。
みるみる表情が崩れていく。
おれも強く言い過ぎたかと思い…少し語調を落としてなだめるように言った。
「いきなり突拍子も無い事を言われて、はいそうですか…って訳はいかないだろ?」
「……ごめんなさい」
巴は肩を落とし、しゅんとした顔でうつむいた。
暫しの沈黙…。秀一たちも何も言えないでいる。
おれもちょっとばつの悪い感じで次の言葉を失った。

422:@巴のマスター
07/11/10 23:24:02 5Mlb4jQp
次の瞬間、いきなり電話が鳴った。
おれは内心、少しほっとしながら電話をとった。
「はい、営業二課ですが」
『…居たわね。丁度良かったわ』
今度はいきなりお袋の声…おれは内心呆れながら訊ねた。
「なんだ、かあさんか…今勤務中だが…こっちから頼もうと思っていたことがあるんだ」
『警察を派遣してくれ…違う?』
単刀直入に切り返されて、おれは唖然とした。
「と、言う事は…巴が言っていたことは事実なのか?」
『なに?ともちゃんがどうかしたの?』
「トモミが…巴を探しているって…」
『そう…やっぱりね』
だが、お袋の声は意外すぎるほど冷静だった。
『たぶんそんな事だろうと思っていたわ』
「何が起こっているんだ?…巴が落ち着きを失っていて、早くここを出ると騒いでいるが、この場合、
何をどう対処すれば良いんだ?」
『まずテレビをつけなさい。それからこの電話、千代ちゃんに廻して』
「千代ちゃん…って、課長に?」
『いいから…急いで!』
「課長…うちの母からですが、よろしいですか?」
お袋の有無を言わさぬ言葉に訝りながら、課長席を向くと、春日課長は、そっと頷いて返した。
おれは電話を廻し、それから、ちら、とうなだれている巴を見てから席を立ち、課長席横のテレビをつけた。
春日課長がコードレスホンをつけたままテレビの方を向き、マシンルームからやってきた天野さんと
シローがやはりテレビの画面に見入った。

…そこには…クーデターかデモ行進を思わせる異様な光景が展開していた。

423:@巴のマスター
07/11/10 23:26:31 5Mlb4jQp
あるドロイド・メーカーの製造工場に陣取ったドロイドの一団。
彼らは、あるいは腕に武器がつけられ、あるいは非致死性の武器を手にして、工員たちの動きを
封じている光景が幾つも映し出された。
また、別の画像では、ドロイド・ショップに数人のドロイドが占拠して、店員たちを拘束していた。
さらに、自衛隊の師団本部でもドロイドが武器を押さえている様子が…。
ただ、見ていると、一見あくまで穏やかに…かつ無言の圧力で人々を抑え付けている感じだ。
「まさかこれって…ドロイドの…ク-デター…なのか?」
秀一が席を立ち、その後ろの左右には不安げな様子のネネとチャチャ。
おれは巴の横に立ち、そっと肩に手を置いた。
「怒鳴って悪かったな」
「…ぼっちゃま……本当に…ごめんなさい」
巴が顔を上げ、潤んだ瞳でおれを見つめた。
「でも…どうやら…トモミと対決しなくてはならない様なのです…」
「対決…だって?」
風雲急を告げる…とは、こういう事を言うのだろうか?
「トモミが…おまえに宣戦布告してきたのか?」
「はい…厳密に言いますと…システムがですが…」
シンクロイド・システムという言葉を敢えて使わず、言葉を選びながら巴は頷いた。
「たぶん、システムにとって、わたしはイレギュラーなのでしょう」
「いや…だが、トモミはおまえとは、同じ『ともねえ』の分身じゃないのか?だったら…」
おれがそこまで言いかけた時、春日課長が席を立ち、おれたちの前に寄って来た。
耳にはコードレスホンをつけたままだ。
その表情は厳しくも、おれたちに対して何か思う事がある様に思えて、思わず襟を正した。

424:@巴のマスター
07/11/10 23:29:40 5Mlb4jQp
「…ふたりとも話中、悪いけどね…」
「課長?」
「これから、あなた方に特別出張を命じます…」
「は?」
春日課長は眼鏡を取り、おれと巴を交互に見、それからコードレスホンをおれに差し出した。
「事情は先生から伺いました…」
そう言ってお千代さんは静かに微笑んだ。
「先生って…母のことですか?」
「ともかく、お聞きなさい」
そっと背を叩かれ、受話器を再び手にし、おれは口を開いた。
「…もしもし、何がどうなってるのさ?」
『千代ちゃんは、わたしが家庭教師していた頃の生徒さんなのよ…幼い頃のともちゃんとも
面識があったし、ある程度の事情は知っているから安心なさい』
え?…初耳だぞ…そんなの。
とは言え、今そこで色々聞いている余裕は無さそうだ。
「…そ、そうなのか?…それでおれたちに、何をさせるつもりだ?」
『そうね…あなたたちには、まず、これからオムニ・ジャパンの研究所まで来て欲しいのよ』
「巴は…トモミと対決しなくてはならないと言っているが…」
『その通り…その為の準備もお膳立ても、今こちらでやってるわ』
「そっちから来てはくれないわけだ」
『悪いけど、こちらも余裕がないの。それに、そこでは駄目。街中だし、リンクシステムが
充実しているから、ともちゃんの所在地もすぐ判るからとても不利。だから、研究所まで
誘き寄せて欲しいの。勝負はそこでつけるわ』
「しかし…この電話が盗聴されていたら…」
『されていたとしても…敵はその位の事は考えているから大差ないわ。但し、これから以後の
連絡は父さんが装置を仕込んだ、例の携帯に切り替えた方が無難だけどね』
おれは思わず舌打ちした。
親父ならともかく、お袋がここまで言うのは、あまり状況が良くないのだろう。
「…ともかく、研究所までたどり着けば良いんだな?」
『途中、武装したドロイドたちが、あなたたちの命を奪わない程度に大挙して襲ってくると
思うけど…大丈夫?』
「ああ。やるとも…」
『…じゃ、すぐにそっちに強力な助っ人が行くから、暫くお待ちなさい』
「わかった…」
「それじゃ…」
お袋はそう言い掛け、それから一言一言しっかりとおれに言い聞かせる口調で言った。
『…それと…くれぐれも巴ちゃんを信じて…絶対に離しては駄目よ!』
「もちろんだ」
『何があっても…巴ちゃんを信じるのよ。いいわね?』
「?…ああ。もちろんだ」
おれはお袋の言い方が少し気になったが、無論、異論などあるわけがなかった。

425:@巴のマスター
07/11/10 23:30:31 5Mlb4jQp
コードレスホンを春日課長に返し、おれと巴は秀一たちにやりかけの作業の状況を伝えた。
…特別出張の内容については一切話していないが、秀一たちはその事には一切触れず、
最後まで説明を聞いてくれた。
そして、おれの説明が終わるや、秀一は笑顔でこう言った。
「何か、大変な事に巻き込まれているみたいだけどな…ここは任せておけ」
「…済まん…ヒデ…皆も済まない…」
おれは頭を下げ、巴もぺこりと大きく頭を下げた。
「いいさ…仕事も、お前さんたちのお陰で、明日予定していた分まで入っているし」
「くれぐれも気をつけてくださいね」
天野さんが、巴を気遣うような視線を向けながら口を開いた。
「済みません…優奈さん」
巴がもう一度頭を下げた。
「…では課長…行ってきます」
おれは一礼し、春日課長は眼鏡を掛け直してゆっくりと頷いた。

エレベータホールから地下駐車場に出て、愛車に向かおうとしたところ、ふいに脇からふたつの
影が飛び出してきて、おれたちは反射的に身構えていた。
が、その影の主を見るや、おれたちは驚いた。
「バン!…ジェーン?」
黒のスーツ姿のバンと、濃紺のワンビース姿のジェーンがそこに居た。
…手には銃を持って。
っておいおい…まさか、その格好のまま、この本社ビルに入り込んできたのか?
「やあ…騎兵隊到着…にはちょっと人数が少ないがね。援護に来たよ」
バンは人懐っこい笑みを浮かべながらスーツの上着の裏に銃を仕舞った。
…なるほどショルダーホルスターか。
一方のジェーンは短めなスカートの下にバレルの短い銃を…。
まるでスパイ映画のノリだ。
「お袋の言っていた助っ人…って」
「うん。だが、まさか君のご両親が、先生たちだとは思わなかった」
バンは頷き、それから巴の顔を見て感慨深そうに言った。
「それに…巴くんも…ジェーンと同じだったんだな」
「バン…あまり時間がありませんから…急ぎましょう」
ふいにジェーンが口を挟み、それからおれと巴に向けてにっこり笑いかけた。
それは、一番最初に最悪な形で出合った時と違い、親しい友人に再会した時の優しい笑顔…。
おれも巴も、おもわず笑みを漏らした。
そんなおれたちを暫し笑顔で見守っていたバンは天井を指差してすぐに言った。
「外におれたちのワゴンがある…それに乗ってくれ」

426:@巴のマスター
07/11/10 23:31:29 5Mlb4jQp
駐車場のスロープを駆け上がり地上に向かうと、出し抜けに『シュワちゃん』と『スタちゃん』の
二人が足音も荒く、血相を変えて飛んできた。
「大変です!ゲートの外は、ドロイドの一団が陣取っていて、全く出入りができません」
警備員服のシュワちゃんが困惑しきった顔でおれに告げた。
「…しまった。先手を取られたか」
バンが口惜しげに呟く。
そのまま外に出ると、本社の敷地のゲートのエリアのラインの向こうに、数十人のドロイドが
一斉にこちらを向いてじっと立っていた。
…良く見ると、彼らは総て女性型。
しかも服装などまちまちだが、整った可愛らしい顔立ちは皆似ていて、全員の衣装の左胸に
それぞれ『OJ-MD8』のナンバーが記してある。
だが、その半数近くの腕には収納式と思われる武器が装備され、残りは手持ちの銃やら
日本刀と思われる武器を全員が携行している。
ちょっと待て…この連中、どこからそんな武器を持ってきたんだ?
第一、腕に武器を仕込むのは違法じゃないのか?

『OJ-MD8』は本来、最新型の巴の妹分だ。
民生用としてはハイスペックのドロイドで、リンク・システムを両腕と両肩に内蔵して、どんな
状況においても、すぐに『経験値』をダウンロードして対応できる万能型だ。
しかも本来は優しい性格設定のはずなのだが…。
ここにいる『彼女たち』は無表情で…しかも、どこか怒っている様な雰囲気が感じられた。
そして、巴の姿に気付くや、
<『tomo』…我々と一緒に来てください>
と、一斉に口を開いたのだった。

427:@巴のマスター
07/11/10 23:36:27 5Mlb4jQp
>>426>>426
今回はここまでです。…やっと先が見えました。
本当に長くなってしまい、申し訳ございません。

他の方々の作品も是非拝読させて頂きたく思います。
こちらの中断など、お気になさらず上げてくださいませ。

>>417
ごめんなさい、改行の都合で出来ませんでした。


428:@巴のマスター
07/11/10 23:50:22 5Mlb4jQp
>>420~でした…済みません(汗)


429:某四百二十七 ◆mjGnt7G.D2
07/11/13 01:03:52 72Aqukz8
GJ!先が見えたというか、そろそろクライマックス?

430:@巴のマスター
07/11/13 09:45:24 lp3HtKRW
>>429
ありがとうございます!仰る通りであります。
それと427番…空けられなくて済みません。 

431:@巴のマスター
07/11/13 09:49:59 lp3HtKRW
「わたしは行きません」
巴は静かに語りかけるように、少女型のドロイドたちに向けて呟いた。
その表情は、先刻、オフィスで狼狽していた時と違い、落ち着き払ったものだった。
…既に腹を決めたおれたちはともかく、課長や秀一たちさえ巻き込まないなら、巴も安心だろう。
そう思いながら巴の背に右手を触れると、申し訳なさそうな表情が返ってきた。
「…ぼっちゃま…」
おれは片目をつぶり、精一杯気取ってみせた。
本来、おれのガラじゃ無いんだけどね…。
「巻き込まれたつもりはないさ…おれは巴のマスターだ」
「ありがとうございます…でも」
「でもも何も無いさ…一番悪いのはシステムを奪った連中だろう?」
「は…はい」
おれを見つめる黒い瞳が、また、じわっと瞳が潤んできている。
駄目なんだよなぁ…この泣き顔が健気でとても可愛らしいんだ。
とは言え、あんまり泣かれるのもなあ。
思わず巴の頭を撫で、苦笑いした。
「良いから泣くなって…それより、この状況、何とかしなくてはだ」
おれたちの様子を微笑みながら見守っていたバンは、二人の警備ドロイドの方に向き直った。
「君たち…裏口はどうなっている?」
同じく警備服姿の…垂れ目の二枚目ドロイド『スタちゃん』が肩をすくめ、首を振った。
「同じです。むしろゲートの幅が狭い分、詰まった感じですよ」
「バン…いっそおれのクルマで突っ込むか…」
「それしか無いか」
「いえ、あの人数では、ゲートを空けた途端、なだれ込んできてクルマごと止められますよ」
「…すると…打ち倒して強行突破…するしかないのか」
おれは苦いものを噛み締めながら呟いた。
相手は…うら若い乙女の姿をしたドロイドたちばかりなのだ。
操られているとは言え、破壊するのは忍びない。
「だが…武装している以上…テロリストと変わらない…そう思うしかないだろうね」
バンがおれの気持ちに気付いたのか、穏やかに、けれどもきっぱりと言い切った。
「テロリスト…」
「…救いは、少なくとも傷つける可能性はあっても、殺す意図がない事だ」
「!」

432:@巴のマスター
07/11/13 09:50:38 lp3HtKRW
おれは巴とジェーンを見た。
おれの視線に気付いた巴は、信じます…という表情でにこっと健気に笑って頷き、ジェーンは
小さく笑みを浮かべて右手の親指を立てて返した。
…巴は捕らえられたら…分解され、改造されるかも知れない。
ジェーンに至っては、単に排除すべき対象にされるかも。
…そう思った瞬間、腹は決まった。
「スタちゃん…警備室に、ドロイド用の電磁警棒は何本ある?」
「確か十本以上はありますが…」
シルベスタ・スタローンに似た巨漢のドロイドが目を剥いて聞き返した。
「まさか…本気ですか!?」
「本気さ…」
「しかし…皆さんを危険にさらす訳には…」
「気持ちはありがたいが…訳あって、今すぐここを出なくてはならないんだ」
暫くの沈黙…。
だが、一度目をつぶった彼は、再び開くと相棒のシュワちゃんの方を向いた。
「電磁警棒…あるだけ持ってこよう」
「よし…」
頷いたシュワルツネッガー似のドロイドは、おれの方を見、にやりと真っ白な歯を見せた。
「我々も手をお貸ししますよ」
要は強行突破を一緒に手伝ってくれる…ということだ。
しかし…それでは、当然、彼らも敵と認識される事になる。
「だが…それでは君たちだって、ただでは済まないぞ」
バンがおれの気持ちと同じ事を言ったが、二人の巨漢の警備員ドロイドは首を振った。
「我々の使命はこのビルで働く方、出入りする善良な方々を守ることです」
シュワちゃんが毅然とした口調で言い、スタちゃんも続けて言った。
「彼女たちは、明らかにあなたがたに対し、武器をちらつかせて威嚇している」
「これは、絶対に我々には許せない」
「なあに…伊達に、この姿とニックネームをもらった訳じゃありませんよ」
豪放に言い放ったスタちゃんもニっと笑い、それから何を思ったか、二人は暫し巴の顔を見つめて
うなずいてから、おれに丁寧に一礼した。
そして、二人のドロイドはすぐに警備室に姿を消した。

433:@巴のマスター
07/11/13 09:51:55 lp3HtKRW
…あのふたり…巴の何かを知っているのか?
外見こそ年上だが、まるで姉に接するような、そんな印象だった。
「あ…マスターも気付かれました?」
巴が振り返ってくすっと笑った。
「まあ…何ていうか…。でもあのふたりは?」
「第三世代の…軍用仕様なのです」
「…って、それって日本じゃ違法なんじゃ?」
「いいえ、オムニ・アメリカ製で、格闘能力は抜群ですけど、元の内蔵武器は外されてます」
「それでター○ネーターにラン○ーなのか…」
確かにあの二人、まんまアメリカン・ヒーローの趣があるな…。思わず苦笑する。
「はい…OA-MI3…わたしの妹分の OJ-MD3と同期ですから…いわばわたしの弟たちなのです。
それに、かつて朋さんに調整してもらった事があったかと…」
おれはそれで合点がいった。
「あのふたりとも…昔、繋がりがあったんだな」
「はい…わたしを見て…改めてその事に気付いたのでしょうね。わたし同様、軍用機ベースですし」
巴はそう言いながら、『OJ-MD8』の群れを見た。
「そして、本来ならあの娘たちは、別の意味で、わたしたちの直系の妹でもある筈なのですが…」
顔立ちや胸廻りなどは色々だが、皆、ほぼ同じ身長の可憐な少女の姿をしたドロイドたちの半数
ほどは腕から引き出された武器を付けている。
「それって…戦闘用って意味でかい?」
「そうです。そして、あの娘たちは輸出用の特別仕様なのです」
巴の言葉にバンが首を振った。
「…しかし巴くん。日本では武器取り付けは禁止だし、まして兵器輸出は禁止じゃないのかい?」
「はい。もちろんそうです」
巴は振り返り、ワンピースの左袖をめくって二の腕を見せた。
そして右手でつっと撫でると、手首から肘にかけて長いパネルが左右に開いた。
おれが覗き込むと、巴は少し恥ずかしそうに苦笑しながら中を見せてくれた。
そこには10センチ弱の幅の細長い空間があり、何かのユニットの基部が入っているのも見えた。
「これが軍用ベースの証です。もちろんわたしに取り付けは出来ませんが…本来はここに」
「そうか…そこに機関銃の銃身が入れられるよう、準備工事がしてあったのか」
以前、メンテナンスで、何度か巴の身体のハッチを開けてみた事はあったが、これは知らなかった。
「…あの娘たちは、多分、セキュリティ・モデルでしょう。銃も見たところ拳銃弾使用の物ですし。
ですから、本来は非武装で完成して、海外に送られるはずだったと思われます」
「それを…非合法ショップで武装化した娘が…集められたのか」
「たぶん、潜入破壊工作に使う目的です」
なるほど…あれだけ愛らしい美少女の外見であれば、人目を魅く反面、人々は油断するだろう。
「ただし、ベースが民生機ですから、反応速度…回避能力はともかく、防御力は皆無に等しい筈です」
「…電磁警棒なら、なんとか倒せそうだな」

434:@巴のマスター
07/11/13 09:52:45 lp3HtKRW
ハッチを閉じ、袖を伸ばしながら巴はおれの方を見て、小さく、だがしっかりと頷いた。
ここにきて、とても凛々しく感じられるのは気のせいか?
いつものまったりぽやぽやな巴も良いが…ポニーテールを靡かせて、きびきびとした動作で対応する
姿はとても頼もしく、しかも美しく感じられ、これはこれで良い…。
だが、これまたちょっと気になる事があった。
「しかし巴…また、随分と詳しいじゃないか…」
おれはそう言いかけ、ある事に気付いてギョッとなった。
「まさか…マルチリンク・システムかシンクロイド・システムを使って情報を集めているのか?」
「はい」
巴はさらりと答えた。
「今のわたしは、その両方を状況に応じて使い分けています」
「なんだって???」
思わず、おれの声は裏返った。
「…わたしの話し方…いつもと違う筈です。これは情報を常に集めている証なのです」
「しかし…そんなの…初めて聞いたぞ」
すると巴は少し悲しげな顔でそっと首を振った。
「…本当は、わたしも、ついさっき知ったばかりなのです」
「トモミの呼びかけが聞こえた…辺りから?」
「はい。ただ…幸いな事に、わたしの使っているマルチリンク・システムは、今現在使われている
一般の物と違う、秘匿仕様の試作品なのでアクセス先から逆探知は出来ないのですが…」
「あの親父なら…やりかねないな」
「もっともその反面、トモミとは…。トモミの考えを、ある程度一方的に読める利点もあるのですが、
シンクロイド・システムで情報の一部が共有なので、存在が判ってしまう弱点があります」
「様は、正確な位置は判らないが、方向性だけは読まれる…ってわけか」
「はい」
「諸刃の剣でもあるわけだな」
巴がうろたえたと説明しても、お袋が意外とあっさりしていたのがこれで納得できた。
「…ともかく…このままじっとしている訳にもいかないな」
おれは改めて、『OJ-MD8』の群れを見、それから巴を見上げ、そっと頬に手を添えた。
「『得物』が来たら…突っ込むけど…覚悟は良いか」
「もちろんです…ぼっちゃまと一緒なら、どこへでもお供します」
にこやかに答える巴。
ふいに、こほん…とわざとらしく咳払いしたジェーンが、おれの肩を叩いた。
「…あ、いや」
「あまり見せ付けないでくださいね。『ぼっちゃま』」
にっと悪戯っぽく笑うジェーンに、思わず顔から火が出る思いで頭を掻く。
だがジェーンの笑みはこの上も無く優しく温かで、思わず頬が緩む。
「それより…あれを」
指差された方を見て、おれたちは思わず顔を見合わせた。
警備室から出てきたドロイドは…五人だったのだ。

435:@巴のマスター
07/11/13 09:53:36 lp3HtKRW
シュワちゃんとスタちゃんの二人の他、シローを先頭にネネとチャチャが警備員用の防護
プロテクターを身に着け、長い電磁警棒を手にした完全武装で姿を現した。
ちなみにシュワちゃんたちも、何やら長い筒を一本ずつ手にしている。
「シロー…ネネもチャチャも…どうして?」
「お二人はマスターの、そしてわたしたちの大切な友人です」
シローがこれまでにない良く通る声できっぱりと言い、ネネとチャチャもこくこくと頷いた。
「そのあなた方の危急を、わたしたちは見過ごしておけません」
「しかし…天野さんは」
「…マスターたちは猛反対され、絶対に一緒に行くと仰いました。でも、それではマスターの
お命を危険に晒します…」
「うちのマスターが…春日課長に詰め寄ったのです。何が起きているのか…どうしてお二人が
行かなくてはならないのか…と」
ネネの言葉を受けてチャチャが言った。
「マスター…説明をお聞きして、やっぱり助けに行く…と言われたのです。でも、それでは、
お二人が託された役割は果たせませんし、何と言っても命の危険があります」
「だから、僕たちはマスターに志願したのです」
シローはおれの前に立ち、少女のような愛らしい顔立ちで静かに微笑んだ。
「僕たちは壊れても、AIさえ無事なら、改めて直してもらえます。でも、人はそうは行かない」
「ええ、わたしたちは『心』さえあれば」
「幾らでも蘇ることができるんですもの!」
三人のドロイドが力強く拳を固める。
「ですから、どうか僕たちにもお手伝いさせてください」 
「シロー…ネネ…チャチャ…」
おれは感極まって、思わずシローを抱きしめていた。
「ありがとう!すまない…みんな!!」

436:@巴のマスター
07/11/13 09:54:21 lp3HtKRW
「とりあえず、皆さん、これを付けてください」
シローから手渡されたのは…インカム?
「防災用高性能通信機です」
シュワちゃんが口を開いた。
「有効通信距離は、カタログ上2キロですが、まあ実効は半分とみてください」
「これで、皆さんと常時やりとりができますね」
シローが頷きながら自らインカムを装着してレシーバーのスイッチを入れた。
「しかし…妨害電波を出されたら」
「大丈夫です。ジャミングを使ったら『彼女たち』も、マルチ・リンクシステムを絶たれるますよね」
「確かにそうか…」
「ですから、数で劣る僕たちは、常時会話できる利点を生かして、コンビネーションで、この場を
突破すべきだと思うのです」
「フォーメーションか」
バンが何を思ったか、ふっと不適な笑みを浮かべた。
「メンバーも…なかなか揃っているし…これは面白いな」
「面白いって…冗談言っている場合じゃないぜ」
思わず呆れながら笑ったおれに、バンは真顔でおれの方を向いた。
「いや、あながち冗談でもない…これはなかなかバランスの取れた良いメンバーだぞ」
「お忘れですか?バンもドロイドに関してはかなり詳しい…ってこと」
ジェーンがバンの傍にそっと寄り添う。
そうだった…バン自身、オムニ・アメリカの研究所に、出入りして学んでいたのだっけ。

437:@巴のマスター
07/11/13 10:04:39 lp3HtKRW
ともかく、研究所に行くには、バンたちのワゴンまでたどり着かねばならない。
問題のワゴンは防弾、耐弾だけでなく、実は装甲車並みの能力を持つクルマとかで、下手な
ドロイドなら跳ね飛ばすぐらい訳ないパワーと重量を持ち、ともかく乗れればひとまず勝ちだ。
また、巴が中に乗ってしまえば、リンクシステムの電波を遮断できるから、ナンバープレート改変
システムを使って街中を逃走すれば、途中まで時間が稼げる。
ともかく、まずはあの美少女たちの群れを突破しなくてはならないのだ。

そこで…おれたちは作戦を立てた。
まず巴を中心に、シュワちゃんとスタちゃんが、左右の前衛に立ち、真ん中にはおれが立つ。
シュワちゃんたちは接近戦で活路を開くが、同時におれの弾除けを努める。
相手の美少女ドロイドたちは、人間を傷つけることは出来ても、命を奪うことが出来ないので、
人が居れば動きがやや鈍るだろうと判断して、おれ自身が志願した。
本当はバンもおれの役目を買って出たのだが、バンの手にしている銃の射程を生かすのと、
おれ自身が格闘技や剣術なら心得があるので、むしろその方が良いだろうと押し切ったのだ。
中列…要はシュワちゃんの後ろにバン、スタちゃんの後ろにジェーンが立ち、適宜、援護射撃。
後列左右は和弓を手にしたネネとチャチャ。
…事情を知った春日課長が、会社の弓道部に頼み込んで譲ってもらった代物だ。
先刻、シュワちゃんたちが手にしていた筒はこれだったのだ。
その二人の間…巴の真後ろには、左右に電磁警棒を持ったシローが巴の援護に回りつつ、
全員に指示を与える。

そして中心の巴自身は、前衛のおれたちのバックアップだ。
シローに適切な指示を与えつつ、その持ち前の…元々持っていた俊敏さとパワーを使う。
いつしか、白い鉢巻を巻いた巴の姿は『巴御前』そのものであった。

こうしておれたちの、巴脱出の為の決戦が始まろうとしていた…。

438:@巴のマスター
07/11/13 10:07:23 lp3HtKRW
>>431>>437 今日はここまででございます。
…本当に遅筆でいつも済みません。

それにしても炊飯器娘さんこと
チエさんたちのその後…是非拝読したいものです!

439:名無しさん@ピンキー
07/11/13 10:59:22 TAad1H8+
あれ?
もしかして一番乗りgj?

440:名無しさん@ピンキー
07/11/14 18:46:47 zBguUlZH
美少女が四つん這いになって首をグルグルと回しだしたらホラーだなw
今回も面白かったわ
GJ

441:名無しさん@ピンキー
07/11/15 08:43:01 vhNswuM5
初音ミクの人工声帯を二度と歌えなくなるくらいイラマチオして壊してあげたい

442:名無しさん@ピンキー
07/11/16 01:47:09 Rqp6UusZ
今の今までイマラチオだと思ってた

443:200
07/11/16 02:08:35 Vy6f0meN
>>419
URLリンク(uproda11.2ch-library.com)
1145003.lzh
DLkey:robo

4,5話あげました。
いや最近は皆さまちゃんとロボテーマSFで、もはやただのエロボット駄文で
恥ずかしいやらなにやらですが。

まあまた時間と要望があれば続きはそのうち……。

なんかネタないかしら。

444:名無しさん@ピンキー
07/11/16 21:29:23 /amMoK3e
懐かしくなって過去ログ倉庫覗いてみたら、むかしの自分のほうが頭よさそうだった。気分はちょっぴりアルジャーノン。

445:名無しさん@ピンキー
07/11/16 21:43:50 PI2UH9Ux
まぁそんなことも良くあるんじゃのー

446:名無しさん@ピンキー
07/11/17 00:37:18 rppfgd53
>>445
【審議中】
    ∧,,∧  ∧,,∧ アリ?
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U (  ´・) (・`  ) と ノ
 u-u (l    ) (   ノu-u
     `u-u'. `u-u' ナシじゃね?

447:名無しさん@ピンキー
07/11/17 00:49:20 Ee0c4QbG
>>443
女教師ロボSSきぼんぬ

448:名無しさん@ピンキー
07/11/18 00:27:02 1MzniBI7
エロないけど書いたので投下する。

449:プラトニック1
07/11/18 00:31:38 1MzniBI7
太陽はその熱をアスファルトにあずけて水平線に消えていく。東京湾を支配する多層メ
ガフロート構造物は夕焼けに染まっていた。二十一世紀最初のパラダイスと銘打って30年
前に着工した人工浮島は今ではただの糞溜めだ。賭博に売春、麻薬に銃器。歌舞伎町で中
国と台湾の代理戦争をチンピラたちが請け負っていた時代は過ぎ去り、世界中から糞とゴ
ミを一手に引き受ける闇の歓楽街が出来上がっていた。実に荘厳で華麗で糞の匂いがたま
らない。


450:プラトニック2
07/11/18 00:33:31 1MzniBI7

湾岸に佇むバラックの群れ。浮島から放たれる卑猥なネオンが辺りを薄っすら照らしス
ラム街化したかつての首都の一部を哀れんでいる。今では東京特区でしのぎを削る下っ端
たちの巣窟であり難民たちの仮宿であり娼婦たちの寝床であり帰還兵たちの安らぎの場だ。
つまるところは掃き溜めだ。人工の浮島で夢を見て、痩せた大地で貧困に喘ぐ。まったく
すばらしい世界じゃないか。
シローはコンクリートが剥げ落ち鉄筋が剥き出しになった細長いビルから街を見下ろし
嫌な気分になっていた。蒸し暑く淀んだ空気が街全体を覆い、死んだような湾岸線が視界
の端に映る。
「無用心にも程があるぞ」
首筋に硬いものがあたった。シローはぞっとしない。だが、しおらしく両手を挙げて降
参を示す。
「あらごとは苦手でして」
「その身体でか。上官が聞いたら失笑ものだな」
シローの背後を取っていた陰は後退する。危険なオモチャもも納められ、張り詰めた空
気は溶けていく。
振り返ると男の足下には汚らしい黒色のビニール袋が転がっているのが確認できた。歪
に膨らみ中身が複雑な形をしているのが推測できる。拾い上げるとシローはビニールを破
り捨てる。現れたのは屈曲したビターな色の脚だった。生々しいがその切断面からは無機
質な電子回路が覗いている。中心部には骨に似せた炭素フレームとその周辺には合成樹脂
性の人工筋肉がぎっしり詰まっている。
滅菌グローブを手につけるとシローはその二本の脚を掴み、ベッドに寝かされている素
体に歩み寄った。素体の両足は欠損しており瞳は閉じられている。
「ずいぶんと美人じゃないか。オマエの趣味か?」
眼光鋭く周囲を警戒しながら男は皮肉っぽい口調で言い放つ。その細身な体はシローと
は正反対で神経質そうだ。
「僕の担当は中身だけですよ」
「問題はその中身だ。間に合うのか?」
「任務を果たす。それだけです」
視線を眠り姫から離すことはなくシローは作業を続ける。結合部のMM(マイクロマシ
ン)活性をモニタリングしながら制御プログラムをベッド脇のディスクトップから落とし
込んでいく。同時平行で素体の視聴覚素子にプラグを挿し込み、知覚ソフトの書き換えと
ニューロチップの擬装設定をデリート。流れるように手順を消化していく。つながれた各
色のラインたちは人形を操る糸のようだ。
男は興味なさそうに忙しなく動くシローの指先を追っていたが自身のするべきことは何
もないことを確認すると腕に巻いた骨董品を眺めた。ロボットが笑いかけるようになって
も人類が火星に行っても時を刻む速度は変わらない。半世紀前に作られた時計でもことは
足りる。
「明朝0500から状況を開始させろ」
「……了解」
作業を中断してシローは男の背中を見送った。部屋にはシローとドールだけが残された。
浜風がうがたれた窓穴から吹き込んでくる。腐臭に似た饐えた匂いだった。
シローは褐色の機械を見た。噛み付くように見据えていた大腿の付け根には大陰唇と小
陰唇が花開いていた。
シローは不要な器官だと主張した。なぜなら軍用兵器だからだ。だが、戦術的見地から
必要だと判断された。東南アジアでの非正規戦闘で実戦配備されたドールだったが、その
任務の特殊性からこの器官が重宝されたという。外部との接触を極力抑え情報漏えいのリ
スクを最小限にする―腰を振ることしか能のないレザーネックたちの娯楽にもなる兵器。
感染症の心配もなく、さらには経費削減にも一役買う。糞ったれどもの主張はこうだった。
確かに性器自体は市販のセクサロイドから転用すればよかった。有機トランジスタ・ア
レイの補正が面倒ではあったが、女の肉体の再現度は高まる。粗野な兵器とは一線を画す
妖艶な人形のできあがりだ。まったく税金の無駄遣いだ!
MITのラボを出て軍に身を置くようになってから繰り返されるシローの神経インパル
スでの批判。口に出せば折り曲げられ、しまいには減給だ。せめて神経に不満を走らせる
くらいの自由はあってしかるべきだ。遅々として進まないインジケーターを眺めながらシ
ローはつぶやいた。
「今夜は徹夜だな」


451:プラトニック3
07/11/18 00:36:51 1MzniBI7

例えどんなに僅かであっても朝日は眩しいと相場が決まっている。薄目を開けて寝惚け眼
で周囲をうかがうと闇が壁に持たれかかっているのが分かった。「もう動けるのか?」。
シローは声をかける。
「おかげさまでね。データの破損もほとんどないわ」
ネットの海からデータを注ぎ終わったドールだった。昨晩から未明にかけての時間をかけ
た成果は順調のようだ。数万の暗号ファイルの統合も模擬人格OSも正常に機能している。
机に突っ伏していたシローがモニター隅の表示を見ると―0426。予想よりも30分近くも
早かった。
錆びついたような身体をベッドに転がすとシローは人形を見据える。歩み寄るドールに光
が当たりその完成された肉体は輝いていた。光を吸った浅黒いスキンは張りがあり、一見
すればその下に人工物の塊が詰まっているとは露ほども思わないだろう。そして整った顔
立ち。水晶のように透き通った光学式レンズの瞳と厚みのあるぽったりとした唇。各部品
は一級品で人も羨む作りだが、総じてみればどこか機械的で愛嬌の欠片もなかった。
「服、どこかしら?」
ドールは言った。さらした裸体を恥ずかしがるようすはないが、不都合だといった風だ。
シローは目配せでクローゼットへ導く。かろうじてそれがクローゼットだと理解できる程
度の木製の物体があった。穴だらけで腐食も進んでいる。
シローはベッドに腰掛けて日差しを感じていた。太陽はまだ視線の下を這っており水平線
にはオレンジのナイフが横たわっている。廃墟同然の街は死体のように黙り込み水面の魔
都も寝静まっていた。これから始まる荒事に世界はまだ気づかないでいる。
ギシッとベッドが沈む。ドールの不自然にならない程度の重量がかかる。上半身にタイト
なシャツを着ただけで下半身は剥き出しのままだ。手には用意しておいたジャケットなど
の衣類が重なっている。どこにでもありそうな衣服だがその材質はカーボンナノチューブ
が折り込まれた強化繊維で仕上がった軍用品だ。平凡なのはそのデザインだけだった。
「まだ時間はあるようだけど」
ミッションファイルを読んだのだろう。行動開始まで余裕があることはドールの了解事項
だった。
ヒトのような温かさがシローの角ばった指先に絡んでくる。
「生憎ぼくにそういう趣味はないんだ」
ドールは抑揚なく「そう」とだけ唇を上下させると強引にシローの身体を引き倒した。
ベッドのスプリングがたわむ。
「アドレナリンの生成が活発みたいだけど、やりたくないの?」
「それはただの緊張だよ。因果が一義的に決まるとは限らない。違うかい?」
シローはドールのぬくもりを無骨な肌に受けつつ情欲の誘いを断った。限りなく人に近い
人形にマウントを取られてシローはささやかな興奮が入り混じったのを自覚した。苦笑せ
ざるを得なかった。
「なぁ、ヒトを殺す瞬間、何を考えてるんだ?」
かねてから秘めていた疑問がするりと口から漏れた。ドールの人工知能の基礎部分はシ
ローの手によるものではなかった。機密に抵触して知ることの出来ないブラックボックス。
半ば人間の脳と同じだ。自らと同じように。
「なにも……、任務の達成がすべてよ」
嘆息交じりにシローは視線を外して呟いた。
「もう時間―っぅ」
言い終わるや否やドールに唇を奪われていた。ドールは舌を伸ばして口腔を弄り犯すよう
に刺激する。すると自然、シローも積極的に舌を絡ませた。脊髄が溶け出すような快感が
支配する。
――んッ
「帰ったら続きをしましょ」
ドールは立ち上がり手にしていた服をまとう。そして―

映像にノイズが走り世界は黒く塗りつぶされる。シローのAIは完全に沈黙した。信号の
送られなくなった肢体は糸の切れた人形のように力ない。いや、人形そのものだった。

「機械と機械が身体を重ねることに躊躇うことなんてないのに―ヒトがそうするように、
すればいいのに」

おわり

452:名無しさん@ピンキー
07/11/18 08:23:27 RsNOKuTm


453:@巴のマスター
07/11/18 12:55:17 D9gveu50
やっと追加できます。

454:@巴のマスター
07/11/18 12:55:52 D9gveu50
<ワゴンまで約500m…女の子たちはざっと50人…但し、増援がいる可能性がありますが…
ゲートを中心に扇形に展開しています。正面には約20人」 
ちらと振り返ると、巴が周囲を凝視しながら、インカムを通じて報告する。
視覚センサーは、意外にもこのメンバーで一番精度が高い。
…と言うか、軍用ベースで、しかもサイズが大きくて余裕があるので、各種センサー類が、
巴が一番無理なく詰め込まれているらしい。
<大きいのは伊達じゃないですよ…>と、巴の笑い声が聞こえる。
<流石です…正確な情報、助かります>
シローの声が帰ってきた。
すっかり巴の参謀役だな…と思わずほっと和む。
<ネネさんとチャチャさんは、合図と共にゲート正面に束ね撃ち、前衛の方たちはそのまま列が
怯んだ所を進撃してください。中に飛び込めば同士討ちを恐れ、あちらは銃が使えなくなります>
<その後のわたしたちは?>
ネネの訊ねる声にシローは即座に答えた。
<引き続き左右に射掛けて、出来るだけ足止めしてください>
「但し『彼女たち』は銃を持っているから、無理はするな」
おれは振り向き、巴と、その脇に立ったシローに頷きかけた。
「…巴、シロー、状況報告を頼むぞ」
<はいです!>
<心得ました!>

455:@巴のマスター
07/11/18 12:56:39 D9gveu50
と…ふいに『ワンダバ』が静かに鳴り響き、おれは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
やべ…マナーモードにしてなかった…それほど緊張しきっていたのだ…。 
全員が一斉に、おれの方を向いた。
ワンフレーズ鳴った辺りでヒップホルスターから携帯を外し、スイッチを入れ、耳にあてた。
「もしもし」
『まだ無事なようね』
お袋の、幾分茶目っ気のある声が入ってきた。
「…ああ、だが、今から決戦だ…おれと巴と『七人の侍』で、女の子たちの群れに突っ込むよ」
『大体の事は、千代ちゃんから聞いたわ…』
「何としても、巴をそちらに送り届ける…だからもう暫く待ってくれ」
『わかったわ…そうそう、ひとつ教えておくけど、女の子達のリンクシステムは両肩にあるから、
どちらか破壊すれば、情報が絶たれて活動停止になるわよ』
「…そういう事は、もっと早いうちに教えてくれよ」
『ごめん…でも、こっちも実験結果が出たのが、たった今なのよ。…他にも色々ね』
「…あのさ、そういうことなら、この携帯、皆のインカムに繋ぐから、全員向けに話してくれないか?」
『インカム?それは好都合ね』
おれはポケットから…本来ヘッドホンステレオ用だったケーブルを取り出し、携帯とインカムに
その両端を繋いでスイッチを入れた。
「皆も聞いてくれ」おれは振り返って全員を見渡した「うちのお袋からだ」
全員の表情が緩む。
…そうか、多かれ少なかれ、この面々にとっては皆、色々関係があったっけ。
『…皆…今、うちの馬鹿息子に言ったけど…』
「馬鹿は余計だ。大体、大元の原因はそっちだろが」
おれの突っ込みに、一瞬全員が笑った。
『…く~…言ってくれるわね~…この三国一の馬鹿息子…』
お袋が言い返すが…明らかにおれの語調に合わせて、砕けた調子である。
こういう場では、明るく返してくれた方がありがたい。
『まあ良いわ……ええとね。皆…『OJ-MD8』たちだけど、両肩にリンクシステムがあって、
そこでシンクロイド・システムからの指令を受信しているの。だから主にそこを攻めて』
<しかし先生、『彼女たち』もそれは承知の上では?>
バンの言葉におれも頷いた。
「おれもそう思う。…第一、この通信だって、傍受されている可能性があるんだぜ』
『そうね…だから駄目な時は構わず頭を狙って』
<<<ええっ!?>>>

456:@巴のマスター
07/11/18 12:59:34 D9gveu50
「なんだって?…それ、本気か?」
全員がお袋の言葉に驚愕し、おれも咄嗟に聞き返していた。
『最悪の場合…それも致し方ないわ。それより、わたしにとってはあなた達の命が大事』
<で、でもお母さま>
巴のうろたえた声が入ってきた。
<あの娘たちは…まだ心が無い状態で>
『だったらなおのことよ…一旦壊れても、新しく直して上げられる。でも、あなた達はそうは
いかないでしょう。ならば、わたしは心を鬼にします』
<先生…>
シュワちゃんの声が入ってきた。
<わたしは細かい事情は判りません…でも、我々の『お袋さん』でもある貴女がそこまで
仰るからには余程のこととお察しします>
『ありがとう…ごめんね。みんな』
お袋の声が心なしか震えている。
そうなんだ。ドロイドたちは皆、お袋にとっては、大切な子供たちなのだ。
…そういえば、幼い頃…あまりに研究にかかりきりで、ちょっとばかり嫉妬して
『実の息子とどっちが大事なんだよ!』と噛み付いた事があったのだが、その時、お袋は
『お腹を痛めて産んだ子が、大事で無いわけないでしょう』と悲しげに笑ったが、その後、
『でも、あの子たちにも、本当に守ってあげられるお母さんが必要なのよ』と言われ、
その時の気迫に、言葉を失った事があった。
…思えば、おれがドロイドたちを…巴たちを分け隔てなく感じられるのは、お袋たちの
おかげかもしれない。
それからお袋はひとしきり、『OJ-MD8』の特性を説明し、最後にこう言った。
「それじゃ…大変だけど…頑張ってね…そして、またね」
<<<はい!>>>
再び正面に向き直る一同。

457:@巴のマスター
07/11/18 13:00:16 D9gveu50
「よし…なら景気付けにBGMでもかけるか」
おれはそう言いながら、一同を改めて一人ずつ見、再び『OJ-MD8』の美少女たちに向き直り、
ひときわ大きな声で怒鳴った。
「作戦…開始!」
<<<はいっ!!>>>
携帯のスイッチを入れ…『ワンダバ』が勢い良くスタートする。
まさに決戦のテーマソングだ。
両脇のシュワちゃんとスタちゃんがニッと笑い、おれたち前衛三人は素早く駆け出した。
それと同時に、両脇後方から一度に十本以上と思われる矢が打ち上げられ、正面の少女たちの
頭上に振りかかる。
咄嗟に腕や手で頭を防ごうとする少女たち。
<ゲートを開けます!>
シュワちゃんの声と共に、鋼鉄のゲートが左右に開き、矢をかわした少女の何人かが走りこんできた。
「左右はまかせる」
<<了解>>
シュワちゃんに黒髪の和服の少女が三人、スタちゃんに茶髪と金髪のドレスの少女が向かってくるのが見える。
おれには、日本刀を手にしたグリーンのツーテールの娘と、紺髪のロングヘアの娘が走ってきた。
二人とも赤のメイド服…妙に刀が似合っていて…悪い冗談だぜ。
同時にバンとジェーンの銃声が聞こえ、ややをして左右に向けて矢の束が打ち上げられ、散弾の如く
周囲にまき散らされていくのが見えた。 

458:@巴のマスター
07/11/18 13:01:27 D9gveu50
ツーテールの娘は利発そうな顔立ちで、決然とした顔で刀を両手で『みね打ち』に握りなおした。
みね打ちと言ったって、あたりゃダメージはでかいが…きちんと人間用に対応してやがる。
ちっ…しかも、二人とも…可愛い顔してるじゃねえか。勿体ない。
だが、油断は禁物だ。
おれはベルトに下げてあった電磁警棒を刀の要領で引き抜くと、両手で構えた。
ツーテールの娘が刀を下から振り上げるのに対し、向かいながら全力で打ち下ろした。
ええい!ままよ。奥歯をぎっとかみ締め、思いっきり振り抜く。
その直後、刀と電磁警棒がある一点で直撃した。
と、次の瞬間、バチーン…という異様な衝撃と共に、刀が弾き飛ばされ、少女が勢い良く真後ろに
弾き飛ばされ、そのまま片膝ついてしゃがみこんだ。
ぶつかった直後、電磁警棒の電撃が刀の刃を伝って、少女の全身に覆いかぶさったのだ。
…伝導体の刀が災いしたな。悪く思うなよ。
そのまま間髪入れず、少女の左肩に電磁警棒を振り下ろす。
「い…やぁ~っ!!」
グリップのスイッチを入れると、バリバリバリという電撃の音が響き、少女の左肩からぷすっと煙が上がった。
「あ…あ…あ…」
その場にぺたんとへたり込む少女。
戦意を無くし、虚ろな瞳だが、愛らしい顔立ちと相まって人形のような美しさすら感じられる。
長いスカートが広がり、グリーンの長いツーテールの髪が乱れて地面に散らばっている。
よし、まず一人…とどめだ。
電磁警棒を握りなおし…頭に振り下ろしてやるぞ…。
そう思った瞬間、少女の顔を見て、おれは愕然とした。
こちらを見つめるとろんとした碧の瞳に恐怖の色…青ざめ、やがて全身が微かにぷるぷると震えている。
これって…どういうことなんだ?

459:@巴のマスター
07/11/18 13:02:09 D9gveu50
そう思った瞬間…。
<ぼっちゃま!後ろ!!>
やべ…!
巴の声と、風を切る気配に瞬間的に床に転がり、刀の一旋をかわす。
ロングヘアの少女が飛び込んできて、もう一度刀を振り下ろす。
こっちは随分軽快じゃないか。
地面に転がり、立ち上がろうとするが、二度三度と刀を振り下ろしてきて、かわすのが精一杯だ。
なんだ…こいつ、随分好戦的じゃないか。
「…よくも…ハルナを」
「なに?」
少女の呟いた言葉に一瞬気が削がれ、転がろうとした先の地面に刃先を突き立てられ、そのまま
どっかりとおれの上に少女が跨り、そのまま組み伏せられてしまった。
「…命まで取るつもりはないが、対価は払ってもらうぞ」
刀の切っ先を突きつける少女の顔立ちは、アイドル顔負けの整ったもの。
紺の長い髪を靡かせて…まさに美少女剣士そのもの。…はあ、こっちも好みなんだけどねえ。
「かわい子ちゃんに押し倒されるってのも、悪かないが、今日は勘弁な」
言うが、刀を両手で挟んで脇に押しやり、そのままひるんで上体上げたところに、右足突っ込んで
そのまま勢い良く蹴り上げる……柔らかい…女の子の胸を蹴っちまった!
要は巴投げの変形だ。
少女はそのまま刀を放り出して地面に倒れる。
立ち上がったおれは、暫し少女の顔を見下ろしたが、そのまま電磁警棒の先を彼女の左肩に突き当て
それから黙ってスイッチを入れた。
バリバリバリという電撃の音が響き、少女の左肩からぷすっと煙が上がった
「あ…ああ…」
半神を起こした少女の瞳に恐怖の色が広がる。
あ、畜生…いじめたくなる位、可愛らしい顔してるじゃないか。でも…おれにゃそっちの趣味はねえ! 
…とどめを刺すべきか迷ったが…これ以上はやめておいた。

460:@巴のマスター
07/11/18 13:05:06 D9gveu50
<第二陣…十人ずつが左右から来ます!うち六人、短機関銃装備>
シローの声が入り、ちらとスタちゃんを見ると、こちらは大変なもので、金髪の少女が片腕がちぎれて
いるのに日本刀を残った左手で振り回して暴れまわっていて、茶髪の娘は首を折られて倒れていた。
スタちゃんの警備員服も上半身はズタズタに裂かれていたが、さすがは戦闘用、目立った傷は無い。
見ると、両腕には、いつの間にかトンファーに似た電磁警棒が装備され、両手の電磁警棒を攻撃用に、
両腕装備のものを防御用に充てていて、その巧みな装備にちょっと感心した。
なるほど、機関銃の代わりにこれを入れてあるのか…。
<こっちはカタがついたぞ>
シュワちゃんの声が入る。
ちらと見ると、黒髪の少女たち以外に、赤毛の白いドレスの少女も、手足を妙な方向に折り曲げて
ぴくぴくと震えながら倒れていた。さすがは「ターミ○ーター」のそっくりさん。
し、しかし…この少女たちのやられっぷり…これは「物体X」顔負けだが…。
ともかく二人とも、少女たちの可愛らしいお顔だけは傷付けないで残してあるのに感心してしまった。
う~む…人のことは言えないが、二人ともフェミニストだな。
<悪い…こっちの別嬪さんに手こずっている>
スタちゃんの声に続いて<援護します>ジェーンの声と共に数発の銃声が鳴り、怯んだ金髪の少女が
刀を下ろした所に、スタちゃんは左腕のトンファーを少女の胸に押し当て、直後に左肩に電磁警棒を叩きつける。
バリバリバリという電撃の音が響き、またも少女の左肩からぷすっと煙が上がった。
崩れ落ちる少女…。
金髪で…良く見れば黒のゴスロリ服…可哀想だが…許せ。
うつろな瞳で刀を杖代わりに立とうとしていたが、スタちゃんの顔を見上げたまま、動かなくなった。
続けて向かってくる黒髪のショートヘアと、ソバージュヘアの茶髪のOL風のスーツの二人を、バンとジェーンが
正確な射撃で肩を打ち抜き、そのまま二人はバッタリと倒れた。

461:@巴のマスター
07/11/18 13:23:26 D9gveu50
「状況は?」
ゲートの前に二人の巨漢ドロイドと立ったおれは、ちらと振り返って尋ねた。
目の前には美少女たちが『屍累々』の状態で倒れ伏し、正面、そして左右から別の少女たちが向かってくる。
髪をひとつに束ねてお下げにした、ピンクのナース服の少女が、電磁警棒をおれに振り下ろす。
かわしながら、その柔らかそうなお腹に警棒の柄をくらわせ、そのまま一旦引いて右肩に打ち下ろす。
<前衛の皆さんが八人、援護の御二人が七人倒しました。あと、ネネさんとチャチャさんが射掛けた事で
十人ほど活動不能なようです>
シローの言葉と同時に、バリバリという電撃の音と共に少女のナース服がちぎれ飛び、肩口から煙が上がった。
少女の端正な顔から表情が消え、そのままくずれ落ちる。
「この次の集団を叩いたら、一気に抜けるぞ」
数倍の相手を前にしてこの戦いぶりは、善戦どころか圧倒的と言えなくも無い。
だが、矢も弾丸も限りがある。
特に矢は、一度に十本以上を数度に分けて打ち込んでいるので減りが激しい。
幸い弾丸はワゴンにたどり着ければ補充が利くが、矢は打ったらおしまいだ。
そうなったらチャチャとネネも前衛に出さなくてはならなくなる。
…できればそれは避けたいのが、おれの本音だが…そう言ってもいられないか。
「矢は後、どのくらい残ってる?」
<五十本です>
<…七十本ですね>
ネネとチャチャの声が続けて入る。
<ぼっちゃま…次はわたしも突っ込みます>
何を思ったか巴の声が入ってきた。
<ネネちゃんも淀ちゃんも、次に連射したらわたしの左右についてください>
思い切って密集隊形で切り抜けようというのか。
<御二人は僕と巴さんと一緒に、前衛のお三方のバックを守ります>
確かにそれなら、前衛のおれたちに接近して援護できるだけ安全か。
おれは頷き、続けて言った。
「よしわかった。…バンとジェーンは、その直後、ネネたちとシフトチェンジしてください」
<了解、引き続け援護射撃にまわる>
<弾丸はまだまだ大丈夫ですよ>
長射程の…しかも口径の大きな銃がこちらにもあるのは心強い。
シュワちゃんがまた一人少女の腕をむんずと掴んで、そのまま肩口に電磁トンファーを叩き付けるのと同時に、
彼の後ろにまわりこんだウェイトレス服の少女の肩口に、バンが正確に一撃浴びせて活動不能にする。

いよいよ、正念場のようだな。
おれは乾きかけていた唇を噛み、軽く舌なめずりした。

462:@巴のマスター
07/11/18 13:26:37 D9gveu50
>>454~461 連続投稿制限にかかりますので少々お休みします。

>>448 凄い!この密度の濃さ、脱帽です。GJです。
いやいや、十分感じさせて頂きました。

463:名無しさん@ピンキー
07/11/18 14:12:42 /0d7oee2
正念場だな
山を超えたら種の維持本能が爆発しそうだw

464:@巴のマスター
07/11/18 20:07:59 HVgZrOFn
そんなおれの前に、今度はソフトボールのユニフォームにサンバイザーの少女が突っ込んできて、金色の
金属バットをぶんぶんと勢い良く振り回してきた。
バイザーから零れた茶色の髪が美しく、まだあどけない顔立ち…。
しかも泣きそうな顔で一生懸命振り回している。
良く見ると小柄で…『OJ-MD8』のバッジが…無い!?
さっきの娘は自分の意思があったようだし…どうなっているんだ?これは。
「おとなしく…従ってください!」
相手は、どう見てもローティーンの女の子にしか見えない外見だが、風切るスイングスピードは異様だ。
「馬鹿!そんなもん振り回されて大人しくできるかぁ!!」
金属バット相手では、電磁警棒でも直撃したらこっちが折れる可能性があり…分が悪い。
…畜生、こうなったら、電磁警棒一本犠牲にしてもう一本で…。
一旦飛び下がってかわし、右腰に下げた方を、素早く左手で抜き取る。
だが、着地の際、体勢が崩れてかわし損ね、一瞬早く、ソフトボール少女のバットが右の電磁警棒に当たった。
ギン…という金属の弾ける音がして、おれの手はびりびりと痺れ、思わず堪りかねて取り落としてしまった。
しまった!やっちまった。
「ぼっちゃま!」
インカム越しで無い巴の声がして、それと同時に物凄く長い棒状の物体がソフトボール少女に振り下ろされる。
「きゃっ!」少女の顔が恐怖に歪み、そのまま目をつぶる。
そして少女の小さな肩に長い棒がもろに命中し、そのまま電撃の閃光が上がった。
ユニフォームが焦げて裂け、ブラの白い肩紐が露出するのが見えた。
正気を失い、膝からすっと崩れ落ちる少女から、サンバイザーが外れ落ち、長い茶髪がなびく。
振り返ると、巴の手にしている電磁警棒は、巴の肩ぐらいまである…つまりはおれの身長ほどのもの。
先端が湾曲していて…どう見てもナギナタみたいだ。
「済まん…助かった」電磁警棒を拾い、まだ痺れる右手をさすりながら、軽く手を上げた。
巴はにっこり笑って首を振ったが、すぐに真剣な顔で少女たちの方を向いた。
「いいえ、どういたしまして……それにしても、敵も戦法を変えているみたいですね…」
「…こちらの戦法を分析しているのか」
「はい…しかもシロー君の分析では、増援が近づいているようだと」
だから、電磁警棒対策に、金属バットなんて持ち出してきたのか?
そうなると長丁場は一層不利となる。
「だとすると、やはり短期決戦で決めるしかないな」
おれは唇をかみ締めた。

465:@巴のマスター
07/11/18 20:09:00 HVgZrOFn
<『tomo』…何故、わたしたちのもとへ来ないのですか?>
再び呼びかける声が響く。
巴はキッと声の方を睨みつけた。
そして、少女たちの『唱和』する声に答えるように、巴はおれの脇に立ち、『ナギナタ』を構えて仁王立ちした。
そのすぐ後ろの左右の脇に、弓矢を番えたネネとチャチャが控えている。
三人とも…このまま一緒に前衛に立つつもりなのか?
シュワちゃんもスタちゃんも巴の気迫に押されたのか、三人の横で身構えて待機している。
巴の気迫は、後ろにいても感じられるほど、強く、凛々しく、決意に満ちたものだった。
いつものまったりな穏やかな姿では無く、それは戦国時代の戦乙女を思わせるもの。
そして巴は眉を吊り上げ、顎を上げ一際通る声で高らかに告げた。
「わたしの大切な人たちを…ドロイドの仲間たちを…ぼっちゃまを傷つける者は…断じて許しません!!」
<今です!!>
シローの叫び声と共に、ネネとチャチャが束ねた矢を一斉に打ち放つ。
次の瞬間、少女たちの腕から閃光が上がるが、一瞬早く、シュワちゃんとスタちゃんが前に飛び出し、
彼らの身体に無数の弾丸が突き刺さる。
「シュワさん!」
ネネが悲痛な叫び声を上げるが、シュワちゃんは正面を向いたまま、つっと親指の右手を上げた。
スタちゃんも両手を上げて一歩も退かない構えだ。
くそっ…やるじゃないか!…お前さんたちの行為…無駄にしないぞ!!
「ひるむな…全部射掛けろ!」
我ながら、随分非情な命令を下しているな…と思いながらも、おれはそう命じるしかなかった。
すかさずチャチャが、やや遅れてネネが素早く束ねた矢を連射する。
矢自体の速度は弾丸よりは遥かに遅い。
だが物が長く、しかも放物線を描いて打ち上げられ、その頂点で散開して降り注ぐ光景は心理的に
大きなダメージを与えることに成功していた。
少女たちの群れに、文字通り雨のようになって降り注いだ矢は、必ずしも決定的なダメージを与えては
いないが、それでも頭部に受けたら、下手をすれば致命傷なのだ。
ひるませ、足止めさせるには十分な量だった。
機関銃を撃っていた少女たちも、思わず銃撃を止め、反射的に腕や手を、頭や顔にかざす。
「今だ!突っ込め!!」
おれは電磁警棒を握りなおして、真っ先に駆け出した。
人間相手なら、それほど銃撃はできないはずだ。
やや遅れて、傷だらけのはずのシュワちゃんとスタちゃんも少女たちの群れに突っ込む。
「あ、ぼっちゃま!」
「皆、続け!」
巴の声に続いて、バンの肉声の怒声が聞こえ、おれはそのまま走りだし…。
少女たちの群れの奥の一段高い場所に一人佇んでいる、赤毛のツーテールの少女の姿に気づいて、あっと
声を上げそうになった。

466:@巴のマスター
07/11/18 20:09:49 HVgZrOFn
「…と、ともねえ…!?」
それは…何度も、夢にまで見た…懐かしいともねえの姿。
腕組みして、じっとこちらを見つめる笑顔は…昔のまま?
「ぼっちゃま!騙されないで!!」
すぐ横にやってきた巴が『ナギナタ』を構えながら怒鳴った。
「あれはトモミです…朋さんではありません!」
巴の姿と声に、おれは一瞬にして現実に引き戻された。
「ありがとう…その通りだ」
おれは巴の顔を見上げ、静かに笑いかけた。
そうだ、おれにとっての『ともねえ』は…この巴なんだ!
「ぼっちゃま…」
巴の黒い瞳がおれをじっと見つめ、それから、にこっと笑うと小首を傾げ、右手で軽く敬礼に似た会釈をした。
「…よし…そういうことなら…トモミを狙おう…」
おれは巴に頷き返し、それから振り返り、すぐ後ろに駆けて来たバンに小声で囁いた。
「倒せないまでも…大将を混乱させれば、時間は稼げる」
「わかった…任せろ」
バンはジェーンと目で合図しあい、トモミの方を凝視した。
前にいたシュワちゃんとスタちゃんがその直後、立ち止まり、数人の少女たちと組み合い、ネネとチャチャが
組み合って動けない少女たちの肩口を、電磁警棒で袈裟懸けに打ち下ろしていた。
「いくぞ、巴!」
「はいです!」
目の前に二人の少女が現れ、やはり電磁警棒を振り下ろしてきた。
双子仕様なのか…顔立ちはそっくりなのだが、一人は黒髪のポニーテール、もう一人はツーテール。
黒の学生服のブレザーを着た二人が左右から打ち込んできたが…連携が甘いぜ!
おれがポニテの娘に素早く打ち返し、たじろいだ所を、間髪要れず、電磁警棒の柄に当てて痺れさせ、
ツーテールの娘が時機を逸してひるんだところを、巴が『ナギナタ』で立て続けに打ち下ろして肩口を破壊し、
あっと言う間に二人とも活動不能にする。
続けて、正面から五人やってきたが、巴は軽やかに飛び上がるや、上空から『ナギナタ』を振り下ろして
少女達を怯ませ、着地するや激しく何度も何度も振り回し、その都度、少女たちが弾き飛ばされて、派手に
地面を転がっていく。
起き上がった少女たちに向けて、おれは立て続けに電磁警棒を叩きつけ、活動停止にしていった。
しかし、それも巴の活躍あれば…だ。
「す…すごい」
ネネとチャチャが一瞬、振り返り、巴の奮戦振りに驚きの視線を向けた。
巴はさらに『ナギナタ』を横にして、向かってきた三人の少女に真正面からぶつかって、そのまま弾き飛ばし、
そのまま斜めに、いとも無造作に、だが的確に『ナギナタ』を振り下ろし、全員の肩口に煙を吹かせる。
しかも、休むことなく、振り向きざまに後ろから向けられた長槍をかわして、それを掴むや、握っている少女ごと
持ち上げるや、何と、おれの方に放り投げてきた。
「ぼっちゃま、頼みます!」
投げられた少女は地面に跪き、槍を立てて立ち上がろうと顔を上げたが…。
間髪居れず振り下ろされた、おれの一撃で活動停止になってしまった。
だが凄い!凄すぎる…!!
巴と二人だけで…立て続けに十人!
いや、巴のスピードとパワーがあればこそだ
…なるほど、本人はとても嫌がっていたが…『巴御前』のニックネームは、やはり伊達じゃない!

467:@巴のマスター
07/11/18 20:10:50 HVgZrOFn
ゲートを出てからは、こちらの逃亡戦になっていたが、巴の奮戦で少女たちも浮き足立っていた。
何せ、おれが傍に居る事で、銃の類が殆ど封じられ、逆に巴が扇風機の如く振り回す『ナギナタ』に全く
近寄れず、次第に遠巻きに囲み始めていたぐらいなのだ。
最初予定していた戦法と、全く違っていたのも幸いした。
当初こちらは少数で、矢や弾丸を撃ち尽くしたらアウトだったのだが、ここにきて巴が、ついにその真価?を
発揮し始めたのだから、彼らにしてみれば計算外だったのだろう。
さらに…既に人工皮膚のあちこちが破れ、中のフレームが一部見えるほどにボロボロになっていたが、
巴の左右には、シュワちゃんと、スタちゃんの二人が、闘志満々で身構えているのだ。
じりじり、じりじりと、遠巻きに武器を構える少女たち。

…と…次の瞬間…正面の囲いに、僅かだが隙間が出来た。
ようし…やるなら…今だ!
おれは左脇に立ったシローに目くばせした。
「バンさん!今です」
シローがそう叫びながら、少女たちの群れに円筒形の物体を放り込んだ。
シュッと煙が噴出し、シローは更に幾つもそれを放り込む。
やや遅れてネネとチャチャも、それを少女たちの群れに投げつけた。
辺りが次第に白煙に包まれていく。
最後の最後まで取ってあった催涙弾だ。
もちろんドロイド相手に効果はない…だが、煙幕の代わりにはなる。
そして…その直後…。
大きな銃声が立て続けにふたつ鳴り響き、彼方でばったりと倒れる人影が見えた。
振り返るとバンとジェーンの手にしている銃の先端から、硝煙が上がっていた。
…途端に少女たちの動きが乱れ始め、押し合い、もみ合う光景が見えた。
トモミを…倒したのか?
いや…まだだ…まだに決まっている…ならば…。
「チャンスだ!皆、走れ!!!」
おれはあらん限りの声を上げて怒鳴った。

皆…必死で走った。
おれたちの様子に気付いた少女が数人、正面にやってきたが、巴が『ナギナタ』で打ち払い、
転んだところを、シュワちゃんとスタちゃんの電磁警棒に叩きつけられて動けなくなり、さらに
シローが残った最後の催涙弾を追っ手に放って煙を浴びせ、敵の目隠しをしつつ走り抜ける。
ネネとチャチャはバンとジェーンの後ろを走り、二人をかばう様にちらちらと様子を伺っている。
…おれはしんがりを努めながら、ちらと振り返った。

彼方に…おれが想いを寄せたひとにそっくりな…ドロイドが立っているのが見えた。
かなり遠いので表情は判らないが…。
どうやら致命傷は与えられなかったらしい。
妙にほっとする気持ちと共に、これで倒れていてくれたら…という気持ちがないまぜになって
正直、ちょっと複雑な気持ちだった。
…そして催涙弾の煙の中に『彼女』の姿は見えなくなった。

468:@巴のマスター
07/11/18 20:11:50 HVgZrOFn
路地裏に駆け込むと、まだ追っ手の気配が無く、ちょっと安堵した
そして、バンのワゴンに辿り着くと、巴を中央のシートに急いで乗せ、ドアを閉じた。
巴自身がリンク・システムで探知される可能性が高いので…である。
それにしても、巴はアタマをぶつけずに、すんなり乗り込んで、おれは少し驚いた。
もしかすると『全開モード』で動きが機敏なのかもしれないな…と、思わず苦笑した。
続いてネネ、チャチャ、シローが後部の三列シートに滑り込み…ジェーンが助手席に乗り込み、
おれとバンが振り返ると、シュワちゃんとスタちゃんは…そっと首を振った。
「おい…でも…」
おれの言葉にも二人は首を振った。
「それに…そのクルマに全員は無理でしょう」
スタちゃんが人懐っこい笑みを浮かべてニッと笑った。
全身傷だらけで、顔中にも無数の弾のこすった跡が付いていて痛々しいが…それでも清清しい
笑顔でおれたちに会釈してくれた。
「それに、本社が気になりますしね」
シュワちゃんが真っ白な歯を見せた。
こちらはもっと凄く…向かって右目…つまり彼の左目の辺りがざっくり裂けて、銀色の人工骨が
見え、その中に赤い機械の瞳が輝いていた。
うわっ…!まさにこれはT8○0…そのままじゃないか。
後で聞いた話では、シュワちゃんは、スタちゃんの格闘センスを生かすために、進んで弾除けに
なり、この為、被弾数は倍以上だったらしい。
「しかし…このままでは君たちは」
「覚悟は出来てます」
スタちゃんがボロボロになった警備員服の袖をめくりながら言った。
「それに…ただでは済ませませんよ」
「大丈夫…また…きっとお会いしましょう」
そう言ってスタちゃんは親指を立て、
「I‘ll be back!」と 張りのある声を上げ、そしてニヤリと笑ってみせた。

469:@巴のマスター
07/11/18 20:12:56 HVgZrOFn
数分後…ワゴンは走り出した。
振り返ると、巨漢の二人が大きく手を振って見送っているのが見えた。
その姿も段々遠ざかる…。
「…スタさんたち…大丈夫でしょうか…」
ネネが、後ろから身を乗り出して、中席のおれに話しかけた。
チャチャに至っては、今にも泣き出しそうな顔で、じっとおれの顔を見つめている。
「…正直…かなり危険な状態です」
シローも沈痛な面持ちで首を振る。
おれも…そして運転するバンもジェーンも、何も言えないでいた。
「…大丈夫ですよ」
ふいに、おれの右の席にいた巴が、静かに口を開いた。
「トモミの目的は、わたし一人…もう囲いは解いているはずです」
「でも…」
チャチャが口を開きかけたが、巴はそっと、チャチャの頭を撫で、静かに微笑んだ。
「大丈夫…二人とも、元は軍用…本気になれば、あの程度の一団に負けやしませんよ」
そう言いながら、ちらと振り返り、二人に目をやり、それからネネとシローにも笑いかけた。
「本来はその位の戦闘能力を持っているのです…」
「…確かに、お嬢さんたちの手持ちに、迫撃弾とかロケット弾とかは無かったな」
巴の言葉に、おれも思い当たるものがあった。
「それに、二人とも、おれやバンが居たから、却って力を抑えてくれていたフシもある」
「そうだな…二人を…信じようよ。みんな」
バンの言葉にジェーンが頷き、ネネとチャチャはシローの顔を見…やがて三人は小さく
頷きあい、振り返って、遠ざかっていく二人に改めて手を振った。

こうして脱出作戦は辛くも成功した。
この後は、いよいよトモミ…シンクロイド・システムとの最終決戦だ。
何気に窓の外を見ると、やはり動けなくなっているドロイドたちが、収容されている光景が
幾つも目に入り、おれは唇をぎゅっと結んだ。
前席のバンたちも、後席のネネたちも、その光景に何も言葉を発せないでいる。
ふと気付くと、巴がおれの手をそっと握り締めていた。
その瞳には決意と不安、そしておれに対する想いのようなものが感じられ、おれもその手を
しっかりと握り直す。
何があろうと…おれは、いつまでも巴と一緒だ!
その想いが通じたのか、巴は頷き、その澄んだ黒い瞳は、暫しじっとおれを見つめていた。

やがて、すっかり陽が落ちて、ワゴンは夕刻の街からハイウェイに乗り、一路、研究所に
向かっていた…。

470:@巴のマスター
07/11/18 20:15:20 HVgZrOFn
>>464>>469 今日はここまででございます。
…次はいよいよ最終決戦…の予定です。
あと数回…で終わると思うのですが…いつも遅筆で済みません(汗)

471:某四百二十七 ◆mjGnt7G.D2
07/11/19 21:02:39 n1esaLj8
>>470
GJ!
しかし、ロボ娘が壊される場面は、心が痛む…orz

472:名無しさん@ピンキー
07/11/19 22:35:17 SncPB3Fg
>443 で、出遅れた……宜しければ再を


473:200
07/11/20 00:50:53 DBnxYg0E
>>472
再度上げました。

1146208.lzh

474:472
07/11/20 01:09:37 4h26o9pL
ありがとうございます。前3作からまた通して読ませていただきます。

475:名無しさん@ピンキー
07/11/20 16:07:35 MnMFlL1+
ホシュ

476:名無しさん@ピンキー
07/11/21 19:16:58 kOUJdkAR
>>475

乙たんホシュ!


477:@巴のマスター
07/11/21 20:26:40 c4FlmSbf
夜のハイウェイをワゴンは静かにひた走る。
西へ向けて50キロほど行った先の山の麓に、オムニ・ジャパンの研究所があるのだ。
車中から見える夜景は、まるでその場に星を散りばめた様に美しく、後席のネネとチャチャが
しきりに、ここはどこ?あそこは?と、シローに訊ねていた。
シローは苦笑混じりに、それでもひとつひとつ丁寧に答えていたが、まるで茶目っ気たっぷりな
双子の姉に、しっかりものの弟みたいな光景で、いつしか車内は和やかな空気が流れていた。
先刻までの必死な戦いの疲れが少し癒される。
「…ヒデと天野さんが一緒になったら…三人は本当に、色んな意味で姉弟だな」
ふと、そんな事を呟くと、いきなりぺしっと頭を叩かれた。
「あいた!」
振り返ると真っ赤な顔のチャチャと照れ照れ顔のネネ…それにうつむいて困った顔のシロー。
「そういう無粋な事…言っちゃ駄目っす」
チャチャがそう言いながら、ネネとシローの首に両手を廻してふふっと笑った。
「わたしたちは…いつでも一緒です」
「え…と…まあ…はは…」
シローの照れ顔も…これがなかなか可愛らしく…。
本当に、メイクし直したらショートヘアの美少女みたいで…美少女三姉妹と言っても通るよなあ…
などと思ってしまった。

だが…それと共に、こんな大事な家族を寄越してくれた秀一と天野さんに…そして自ら志願
してくれた彼らに申し訳なく思うと共に…感謝の気持ちで一杯になった。
「今日は…助かったよ…」
おれは改めて三人の顔を一人ずつ見つめ、それから頭を下げた。
「皆が居たから…おれたち、こうして脱出出来た…本当に感謝の言葉も無い」
「…いいえ。貴方と巴さんは特別な人たちだから」
ネネがそっと首を振った。
「マスターが言ってましたよ。あいつはおれのダチで、兄弟みたいなものだって」
チャチャは右目をつぶって人差し指を立てて見せた。
「だから何としても…絶対に助けるんだって…」
「ええ。うちのマスターも…怖いぐらいの気迫でした。だから、僕たちも…」
「二人とも…事情もろくに知らないのに…そこまで信じてくれてたとは…」
おれは…恥ずかしながら…じわっと目頭が熱くなるのを感じた。
たぶん、後で春日課長から事情は説明されたとは思うが…仕事を引き継いだ時、何も言わずに
引き受けてくれた秀一と、それに従ってくれた天野さん。
そして、二人の代わりに参戦してくれて、一緒に危険を脱してくれた三人のドロイドの仲間たち。
おれは何て素晴らしい友人たちを持ったのだろう…と…。
不覚にも涙が出そうになって何度もまばたきし、上を見上げたまま前を向いた。
「…本当に…ありがとう…な!」

478:@巴のマスター
07/11/21 20:29:04 c4FlmSbf
その時、こほん…と運転席から咳払いがした。
おれが泣きそうになっているのを、バンはちらとミラー越しに見ていたらしい。
ありがたい…と思いつつ、軽く、さりげなく涙を拭う。
「…ところで、さっきのドロイドたちだが」
バンの視線とおれの視線が一瞬、ミラー越しに合った。
「ちょっと気になったんだが…中に何人か、意思を持った娘たちがいたように思うのだが」
「そういえば…おれが倒した娘を助けようと、名前を呼んでいた娘がいたな」
おれの言葉に、巴も大きく頷いた。
「金属バットを振り回していた娘なんて、泣きそうな顔して説得しようとしてましたよね」
確かに…あのソフトボールのいでたちの娘など…そうだった。
「妙だと思わないか?」
「おれもそれが引っ掛かってたんだ」
バンの言葉に、おれも先刻からずっと気になっていた疑問を口にしていた。
「本来、シンクロイド・システムはまっさらで、自分の意思を持たない…言わば素体状態の
ドロイドに心を『書き込んで』コントロールするものじゃなかったのか?」
「ええ。そのはずでした」
助手席から振り返ったジェーンが、複雑な表情でおれたちの方を向いた。
彼女の知識は、亡くなったジェニファー嬢から受け継がれたものだから、ドロイドについての
博識や見識は、うちのお袋にも匹敵するはずだ。
だが、ジェーンの表情は困惑と、若干の焦りも感じられた。
「ですが…システムに共鳴…いえ、この場合、本人が自らの自由意志で同意したとすると、
システムに従ってか…あるいは操られて行動した可能性も、十分あり得ます」
「自由意志…ですって!?」
チャチャが信じられない…という口調で勢い良く口火を切った。
「そんな…あんなに群れ成して、わたしたちを出すまいと…ともちゃんを捕まえようとして
いたのに…それがあの娘たちの…全部じゃ無いかもしれませんけど…意思だったって
言うのですか?」
「ええ…可能性の問題ではあるのですけど…」
ジェーンはそっと頷き、それから、ちら…と巴に目をやり、少しためらいがちに続けて言った。
「…判るのよ…わたしも…シンクロイド・システムで生まれた存在だから」
「え???」
最後列の三人が一斉に驚きの表情でジェーンを見つめた。
「…それは…くれぐれも秘密だ。それも国家レベルのな」
すかさずおれはクギを刺した。
「でないと、下手をすると秀一や天野さんたちにも塁が及ぶぞ」

479:@巴のマスター
07/11/21 20:29:51 c4FlmSbf
「まあ…彼らのマスターなら信用できると思うがね」
バンが苦笑混じりに口を開いた。
「くれぐれも…他には口外はしないで欲しい」
「二人は…テロリストに奪われたシステムの奪還…または破壊の為にやってきたんだ」
「だから…そんな大きな口径の銃を所持されていたのですね」
流石にシローは冷静に分析している。
「日本では…ありませんね」
「ああ…その通りだ」
「まあ、それがどこかはおいおい話すとして」
おれは、それより気になる事を訊ねていた。
「ジェーンは…シンクロイド・システムの被検体だけど、トモミの呼びかけは無かったのかい?」
「ええ…わたしを直接名指しではありません。ただ…ドロイド一般に対する呼びかけは聞こえたのです」
「ドロイド一般…ってことは、リンク・システムの影響下にあったのかい?」
「そうですね…あった…とも言えますし、無かったとも言えます」
「どういうこと?」
「『人間に、使い捨ての武器の代わりにされる事に、不安と不満のある者は我に集え…』…確か、
そんな意味合いの呼びかけが成され、それがわたしの頭に入ってきたのです」
「呼びかけ…?」
「はい。でもわたしは…多分、システム的にほぼ同じでも、巴さんの様に、トモミと同一に近い存在で
無かったので、独立した…と言うか、並立した別の存在として認識されていたのだと思います」
「別のシンクロイド・システムとして…か」
「ただ、呼びかけは聞く事が出来、わたしにも参加を求める『声』は聞こえました」
「でも君は…きっぱり断った…と」
「はい。わたし自身が拒絶し、以後は完全にリンクを切りましたから、大丈夫です。
…ですが、これを何度も『聞かされ』ますと…人間を信じ、愛するドロイドたちの心が乱れ、下手を
するとノイローゼの一歩手前まで行くでしょう」
「つまり…別の意識が乗っ取ろうと…言わば洗脳に近い形になる訳だな」
おれの言葉に巴が沈痛な面持ちで頷いた。
「そうです、ぼっちゃま。ドロイドたちが活動を休止したのは、まさにそれが原因だと思います」
「つまり…人間に反旗を翻すことを拒絶したドロイドたちが…本能的に自閉症モードになったのか」
「はい。自らの意思と、そして人々を守る為に、自ら活動を停めたのです」
「そういうことだったのか…」

480:@巴のマスター
07/11/21 20:30:37 c4FlmSbf
おれは、う~む小さく咽喉で声を出し、額に手の甲をあてた。
「確かに…人間によっては…確かにドロイドたちに偏見を持ったり、道具や兵器の代わりにしたり、
…あまつさえ自爆ドロイドみたいに、使い捨てにする馬鹿共が、まだ大勢いるからな…」
おれは前を向きジェーンを見、それから振り返ってチャチャたちを見、それから巴を見た。
「確かに、皆、身体は機械だ。でも人の心をそっくり…完璧に移された巴やジェーンはどうなんだ?
人が霊魂だ魂だ…なんて言うなら、おれはチャチャたちにも魂があると思ってる。それなのに、
そういう馬鹿野郎どもはドロイドを消耗品の代わりにしやがる…!」
「たぶん…あの娘たちの中には、生まれて間もなくて、そういう扱いをされる事が怖かったり
不安だったりした娘もいたのでしょう」
ジェーンは伏せ目がちにチャチャたちを見た。
「それで賛意を示したものの…実際の身体の機能はリンク・システムに委ねられて…」
「図らずもクーデター活動に参加したものの、気持ちの上ではまだ嫌々…という娘もいたんだな…」
「さっきの『呼びかけ』や一連の状況から判断しますと…そうだと思います」
ジェーンは再び前を向き、バンの肩に手をあてた。
「ごめんなさい、バン…その事をお話し出来なくて…」
バンはちらとジェーンの方を見、左手でそっと彼女の頭に手をあて、静かに笑みを浮かべ、首を振った。
「気にしないでいい。それより、君にも『声』が聞こえながら、おれたちを選んでくれた方が、よほど
重要だし…嬉しいよ」
「バン…」
感極まった顔でバンを見つめるジェーン…。
しばし二人だけの時間が流れかけた…が。
後ろからじ~っと見つめる視線にハッとなり、慌てて正面を向き直った。
「ふふ~!」
チャチャが両手を口に当ててにこ~っと笑っていた。
ネネもシローも興味深そうに瞳を丸く見開いてじ~っと見つめている。
「良いですね~!」
チャチャが、にまぁ~っと人の悪い笑みを浮かべて続けた。
「うんうん…素晴らしいです!人間とドロイドの理想的な関係がここにありますね~」
「え…あ…」
真っ赤になり、困惑し、言葉の出ないジェーンに畳み掛けるチャチャ。
「ささ、どうぞどうぞ。わたしたちにご遠慮なく…続きを…続きを!」
バンがぷっと吹き出した。
おれも巴も堪り兼ねて笑ってしまう。
「…う~!…もう!!」
再び振り返ったジェーンが、ふくれっつらの怖い顔で、思いっきり拳を振り上げる。
「そんなじろじろ見ない!それにそれ以上言ったら、三人ともここから放り出しますからね!!」
「おおこわ!」
ネネとシローが青ざめた顔で,慌てて両側からチャチャの肩に手を置くが、チャチャはニッと笑い、
再び片目をつぶってから…改めてにっこり笑った。
「ま…お幸せにね、パートナーのジェーンさん」
「…もう!」
再び拳を振りかけたジェーンだが、ふっと苦笑を浮かべ、親指を立てて片目をつぶって返した。
そして様相を崩して前を向いた。
「ま…励ましとして…そのお言葉…頂いておくわ」
何だか、二人の間に『女同士の友情』の様なものが芽生えたらしい。
ほっとした様子のネネとシローだったが、二人の和やかな様子に気付いて静かに微笑んだ。

「…これでチームワークもばっちり…かな…?」
思わず呟くと、巴がにっこり笑っておれに頷き返す。
…この一件が無事に終わったら…皆を集めて、お礼のパーティでも開くかな…。
ふとそんな事を思った。

481:@巴のマスター
07/11/21 20:31:50 c4FlmSbf
研究所まであと1キロ強の所まで来た時…おれは、ある交差点の手前で、ワゴンを停めてもらった。
地方の市街地…時刻は19時。
さて…今の時代、クルマはナンバープレートを付けると、違反防止と盗難防止の為、エンジンを
かけるとクルマからナンバーの情報が、必要に応じて警察からアクセス出来、所在が判るように
なっている。
このワゴンには、隠密活動用として『ナンバープレート変換システム』なるものが付けられていて、
ナンバープレートを電動で変更出来、それとリンクしてクルマから発せられるアクセス情報が瞬時に
書き換えられ「別のナンバーのクルマ」に変わる事が出来る。
その情報は、極秘の存在とかで、ネットで公表されていないので、おれたちの姿が発見されない
限り、このクルマの存在はリンク・システムと言えど、発見できない。
…だが、それを知られたら、今後、このワゴンは使えなくなる。
それではバンたちも困るだろう。
それに…何と言っても、皆をこれ以上危険に晒すのは忍びない。
これが最大の問題だ。
ワゴンを口実に…二人なら見つかりにくいから…と言うことで、皆にはここで待機してもらおう。
とりあえずお袋に連絡して、迎えを寄越してもらうなり何なり考えよう。
おれは、そんな事を色々考えて、ここから先は、おれと巴だけで歩いて行くことを提案した。

「どのみち…この先はドロイドが張っていると思うし…後はおれと巴で行く」
おれの提案にバンたちは即座に反対した。
「たかがクルマ一台と君たちの安全には代えられない!」
「そうです。それにお二人に何かあったら、僕たち、マスターに合わせる顔がありませんよ!」
「…気持ちは嬉しいが…皆に何かあったら、それこそおれが二人に合わせる顔が無い」
おれの言葉にシローは唇をぎゅっと結び、それから首を振った。
「それでも…バンさんには悪いですけど、このクルマを犠牲にしても、お二人を無事に送り届ける
方が大事だと思います!」
「しかし…もしさっきの様な一団が来たら…このクルマで吹っ飛ばす気かい?」
シローはうっと言葉に詰まったが、一瞬後、決意を固めた顔でおれをじっと見据えて言った。
「同胞を…それも女の子をハネるのは本意ではありませんが…それも覚悟しています」 
「そうか…」
おれもそこまで言われては、反対は出来ない…。
だが、ともかく、ここから先はより大きな危険が考えられる。
けれど、巴や、特命で来たバンもジェーンはともかく…シローも、ネネもチャチャも一歩も譲らない
構えなのには、嬉しく思うと共に、依然として迷いが残る。
「わかった…だが、ともかく一度、お袋に連絡させてくれ」
皆の決意に、そこまで言うのがやっとだった。

「ぼっちゃま…くれぐれもお気をつけて…」
ワゴンのスライドドアを開け、降りかけた時、巴が心配そうな眼差しでおれに手を挙げた。
巴が出ると、シンクロイド・システムの探知に所在の方位がばれる為、一定の場所にとどめて
おくわけには行かないので、外へは出られない。
二人っきりで行く時は、常に移動するので、タイムラグが考慮出来、多少の余裕があるのだが、
この場では出ない方が無難だ。
「ああ…だが……万一の場合は…一人で行ってくれ…」
ふと…何か妙な予感がして、おれはそんな事を言っていた。
「え?」
巴の怪訝そうな顔に手を挙げて返し、おれはすぐにスライドドアを閉じ、夜の通りに駆け出した。

482:@巴のマスター
07/11/21 20:33:00 c4FlmSbf
この街には、昔住んでいた事があり、ともねえと初めて出会った思い出の地でもある。
角を曲がり、まだ煌々と灯りのつく商店街の脇に出て、久しぶりの通りに出て携帯の電源を入れた。
人通りはそこそこあるが、ドロイドも大勢いてちょっとひやりとする。
すぐに発信し、耳に当てる。…暫く呼び出し音が続いた。
くそっ…なかなか繋がらないぜ。
そう思った瞬間、ぷつっという音がした。
「もしもし」
『…その声だと無事みたいね』
おなじみの声に、おれはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ…『下』の街にいる」
『お千代ちゃんから聞いたわ…大変な立ち回りを演じたそうじゃない』
「…どこも迎えが来てくれないんじゃ、仕方ないさね」
『…ごめん…こっちも人手が裂けなくて』
少しふて腐れた言い方に、流石に済まなそうな声が返ってきた。
「だが、問題はここからだ。今、巴たちはクルマに残ってるんだが、この先、どうしたものか…」
『…あなた…クルマから離れてるの?』
「ああ…そうだが」
『今すぐ電話を切ってそこから離れて、以後は公衆電話に切り替えなさい!盗聴はされないけど、
位置を探知されるわ!』
「え?なんだって…!?」
てっきり位置など読まれないと思っていたのだが…。
考えてみたら、通信内容が秘匿なのであって、電話番号から位置を特定できるか…。
畜生…なんて迂闊な!
親父の改良携帯なので、そこまで考えてある…と、つい思い込んでしまっていた!
「わかった…後で」
そう言って電話を切ろうとして、交差点から幾つもの人影が見えて、おれはハッとした。
人間に無い、やけに綺麗な色の瞳の少女たちのグループ。
皆、同じピンクのウェイトレスの服を着ているが、いずれも無表情。
振り返ると、別のグループがこちらに向かってくるが、こちらは全員、紺のメイド服。
前後共に五人ずつ…横一列に並んで、じわじわと近づいてくる。
…畜生…追っ手か…!
ほぞを噛む思い…というのは、こういう事を言うのだろうか。
もっと早くに気付くべきだった。

483:@巴のマスター
07/11/21 20:34:09 c4FlmSbf
「…挟み撃ちにされた…捕まるかも知れない…その時は巴を頼む!」
おれは電話に向かってそう怒鳴り、スイッチを切った。
そして、前後をちらと見てから、ヘッドライトを照らしたクルマの往来する道路に勢い良く飛び込んだ。
けたたましくクラクションが鳴り響き、危うくおれをハネそうになったドライバーの怒声が聞こえる。
済まない!だが、ここで捕まる訳にはいかないんだ!!
心の中で詫びながら、反対側の歩道に渡りきると、同じ様に道路を渡ったのか、左右から
ウエイトレスとメイドたちがこちらに向かって走ってくるのがちらと見えた。
構わずまっすぐ突っ切り、狭い路地裏へ。
この辺りは、おれが小さい頃、遊び場として使った所だ。
地図に載っていない小さな小路まで総て把握している。
そして、隠れ場所として使えるビルに至るまで…。
角を右に曲がり、直ぐ左に曲がり20メートルほど突っ切る。
更にそこから30メートルほど行った未舗装の砂利道を走る。
夜なので足元が悪くて躓きかけるが、体勢を立て直して更に突っ切り、それから、そのまま真っ直ぐ
走って、さらに左に曲がり、その路地の右にある小さなアパートの階段を駆け上がった。
…幼い頃、良く隠れ場、逃げ場として使った場所だ。
ここの五階の奥は、ちょっとした広間になっていて、住人用に自販機や古びたベンチが置かれてある。
地元の人間でも知らない…アパートの住人と、子供達だけの小さなサロンコーナーだ。
…ありがたい!まだあったか!!
ここなら…そう簡単には判るまい…。

中に入り、それからひとつだけある大きな窓から下を見下ろすと、丁度、黒い人影が幾つも行き来して
いる光景が見られて、全身が総毛立ち、冷たい汗が全身に吹き出した。
ここまで迫ってくるとは…それに、上を見られたら一環の終わりだった。
油断大敵だぞ…!しっかりしろ。

…だが、十分経っても二十分経っても、少女たちの姿は現れず、やがて少女と思しき人影が幾つも
彼方に走り去っていくのが見え、思わずほっと息をついた。
「…やれやれ…」
額の汗を軽く拭い、大きく息をつくと、ちょっと咽喉が渇くのを感じた。
さっきから、短時間とは言え、全力で走りづめで、少し汗も掻いたし…。
見れば、水やジュースの自販機がある…ともかく、何か飲んで落ち着くか。
ポケットから小銭を取り出しながら…巴たち…心配しているだろうな…と考える。
そして、改めて窓の外を見、それから五百円玉を出そうとして…
おれは…。
背後に、ふっと人の気配の様なものを感じて…
咄嗟に振り向き…思わず、あっと大声を上げそうになった。

暗い階段からの出入口に、静かに佇んでこちらを見つめている…赤毛のツーテールの美少女。
それは…トモミであった。

484:@巴のマスター
07/11/21 20:38:27 c4FlmSbf
>>477>>483 今回はここまででございます。
ここから急展開に…なるかと。

>>471
どうもありがとうございます!
確かに壊すシーン…ちょっとズキっときたのですが、メンバーは誰も
AIを潰す事、お顔を傷つける事はしていませんので、直す事は可能かと。
…ただ、首を折られた娘はトラウマになるかも知れませんね…(汗)

485:@巴のマスター
07/11/22 08:39:21 4bx74MwZ
「ともねえ…」
その瞬間…おれは…時が止まった様な錯覚を覚えていた。
あの頃と変わらぬ姿の『ともねえ』…。
整った柔らかな丸顔に、大きな蒼い瞳。
艶のある綺麗な赤毛。前髪は眉毛に軽く掛かるほど長く、両側は耳元まで軽く掛かるほど長い。
そして長い髪をきっちり二つに束ねて肩の先まで垂らし、髪留めには白いリボン。
昔、見慣れたエンジのブレザーとスカート…丸衿のワイシャツに更に赤いネクタイ。
整った顔立ちはとても愛らしくも、清楚で知的な印象があり、今見てもアイドルで通るだろう。
そう…ともねえ…そのものだ!

だが…。
その顔立ちが、今更ながら巴に実に良く似ていて…我に返った。
そうだ…これは『トモミ』だ!
ともねえじゃない!!

考えてみると…髪の色やアレンジ…瞳の色が違うだけで、随分印象が変わるものだ。
巴は明らかに、ともねえがモデルであり…このトモミと並べたら、きっと姉妹か母娘の様だろう。
それほど、改めて見るトモミの姿は巴に良く似ていた。

ふと、気付くと、ブレザーの両肩が何かがこすれたように僅かに千切れていた。
多分、バンとジェーンが撃った時の痕だろう。
倒れた様に見えたが、咄嗟にかわしたのに違いない。
…少しほっとすると共と同時に、トモミがほぼ無傷であるという事実は、おれが今、絶望的な
状況にある事を改めて示唆していた。
「…いや…トモミ…だったな」
おれは小銭をポケットに戻し、ちらとトモミの後ろを見た。
…他に誰もいないのか?それとも、下で待ち構えているのか?
トモミは暫し無言でおれを見つめていたが、僅かに小首を傾げ、ほんの微かに笑みを浮かべた。
「あなたの事は…記憶にあります」
「え?」
だが、トモミの顔からは、すぐに笑みが消え、無表情になった。
「昔…昔の朋さんの記憶に…」
「それはそうだろうさ。おまえは、ともねえの分身だったんだからな」
おれが皮肉っぽく言い放つと、トモミは、これまたほんの僅かにだが…悲しそうに…首を振った。
「それは…そうです。でも…わたしには」
「ともねえの姿をしていても…違う…そうだろ?」
「そうです…でも…彼女の記憶や経験は…持っているのです」
「……記憶や経験は…って言ったな?…なら、どうして巴を狙うんだ?巴だっておまえと同じだろう?」
トモミの様子が…思ったより控えめで、しかも…妙に好意的な事に気付いて、おれは訝った。
ここにいるのは…いわばラスボスだろう?
なのにどうして、おれを力づくで連れて行こうとしないんだ?
疑念が段々と大きな疑問に変わり、おれは少しずつ焦り始めた。
これはトモミの巧妙な罠では無いのか?上手く騙して巴を捕まえようとしているのではないか?
…だが、トモミの次の言葉には、思わず飛び上がりそうになった。
「狙っているのは…シンクロイド・システムであって…わたしではありません」


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