ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6 - 暇つぶし2ch300:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:43:31 mp0ydK4A
「『色々と、ありがとう。そして、こっそり出発する非礼を許してくれ。
本当は、ご好意に甘えて昼に出るつもりだったが、本部から連絡があり、早朝には移動
しなくてはならなくなった為、申し訳ないが、書面にて失礼させて頂く。
あれだけ迷惑を掛けたのに、君たちがあそこまで親身になってくれるとは思わなかった。
ジェーンと共に深く感謝する。
お詫びの代わりと言っては何だが…昨日話せなかった事を幾つか記させて頂くことにした』」
キッチンのレンジから、ことこと鍋の音がする中、ソファに腰掛けたおれは音読を始めた。
巴がお玉を手にしたまま振り返る。
「『おれとジェーン…正式にはジェニファーだが、彼女との出会いと、シンクロイド・システムについて、
簡単に記させて頂くことにした。ただし、これは極秘事項なので、もし漏らした場合、君たちの、
大切だがとても恥ずかしい秘密を、某所に暴露させて頂く(笑)』…って、なんだよ…それ」
思わず苦笑すると、巴も困ったように笑った。
おれは続けて読み上げる。
「『ジェーンのモデルになった、おれの許嫁はジェニファーと言い、ジェーンはその名をも受け継いでいる。
…許嫁のジェニファーとは、六年前、あるテロ事件がきっかけで知り合った。
それは、違法改造したドロイドに爆弾を仕掛け、街中で爆発させるという凶悪なもので、たまたま
遺されていた部品や破片から、オムニ社が疑われ、FBIが立ち入り調査を行った際、応対に出て
来たのが、当時、若干16歳の技術主任の彼女だったのだ』」

301:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:44:42 mp0ydK4A
そういえば、今にして思うと、その頃、相次いで日米で天才少女が現れて、電子工学の修士と
博士課程を修めて、それぞれ両国のオムニ社の顧問技術主任になったと聞いたとがある。
その一人が、ジェーンのモデルになったんだな…。
「『だが、ジェニファーとの最初の出会いは最悪だった。おれも、まだ二年目…駆け出しの捜査員で、
調査を急がせるあまり、ついキツい態度を取ってしまったことで、思いっきり嫌われたのだ』」
あのバンでも…そんなことが、あったのか。
「『ジェニファーにしてみれば、ドロイドは自分の可愛い子供たちであり、研究所員たちは大切な仲間。
自爆テロドロイドなんて許せるはずも無く、とんでもない言いがかりと見えたのだろう』」
そういえば、昨日、初めて出遇った時、確かにそんな感じだった。
バンを守ろうとした時の様子が思い浮かぶ。
あれはオリジナルから受け継いだんだな。
「『だが、足しげく通ううちに、いつしか、おれたちは親身になって話し合うようになっていた。
ドロイドは本来、絶対に人に危害を加えてはならず、かつ、自分の存在も守らねばならないこと…
そう言った基本事項が、おれにも段々判ってきて、彼女の怒りや悲しみが理解できるようになった
からだ…』」
巴はレンジを切り、鍋のフタを空けた。
作業こそ続けているが、その横顔はしっかり聞いている表情だ。
「『…二年間の交際の後、おれは彼女の両親に挨拶に行き、それから実家に報告に行った。
どちらも喜んで祝福してくれて、晴れておれたちは婚約した』」
「…その頃は…とても幸せだったのでしょうね~」
お玉で中身をかき混ぜながら、巴が詠嘆するように呟く。
「『本当は、ジェニファーが18になった時点で結婚するつもりだったが、おれは主任に昇格したばかり、
彼女も新型ドロイドの開発で忙しく、目途が付くのが一年後。結婚しても、まともに一緒にいられる
時間はそう多くない。だから式と入籍は一年後にすることにしたのだ』」
その先の文に視線を落としたおれは、その先を読みかけ、絶句した。

302:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:45:37 mp0ydK4A
「ぼっちゃま?」
陶器の器に煮物を移していた巴が、手を休めてこちらを向いた。
「あ…ああ」
この先は、ちょっと辛い…だが、ここまで読んだのだし、続けるしかあるまい。
おれは…意を決して続けた。
「『そして、あの日…おれとジェニファーは、三ヶ月ぶりの休暇をおれの家で味わっていた。彼女が
食事を作ってくれるというので、楽しみにしていた。
…正午前だった。その時、裏庭に繋いであった犬が、派手に吠え立てるので、おれは様子を見に出たが、
丁度、その時、配送業者のドロイドがやってきた。
…あの時の事は、今でも忘れない…。チャイムと呼びかける声がして、ジェニファーがそれに応えて
玄関に向かった時………荷物に仕込まれていた…爆弾が…炸裂した…』」
巴は完全に動きを止め、それから祈るかのようにそっと目を伏せた。
「『玄関周りは完全に破壊され、ジェニファーは爆風で全身打撲の重症で…血まみれの有様だった…
すぐ救急車の手配をしたが、その日、おれの家以外にも、周辺で大小合わせて25箇所が爆破され
死傷者で一杯で、とてもじゃないがすぐ…来られないという』」
そうだ…確か三年程前に…テロによる大量爆破事件があった。
日本でもマスコミで大々的に報じていたっけ。
「『おれはやむなく、彼女をクルマに乗せて、FBIの病院に連れて行ったが…そこも酷いものだった。
やはり怪我人が沢山いたばかりか…先輩や同僚のうち、非番で自宅にいた三人が死亡、八人が
重軽傷を負わされたと聞かされた』」
ニュースで見た中に、もしかすると彼らが居たかもしれない。
「『ジェニファーは緊急手術を受け、その場では一命を取り留めた……だが、失血が多く、しかも負傷者が
多すぎて、血液が不足していた。…その結果、輸血のタイミングが遅れ…衰弱し切っていた』」
煮物を入れた器をおれの前に置き、巴はそっと横の椅子に腰掛け、手紙に目を落とした。
「『病院のベッドも空きが無く、おれはジェニファーを自宅に連れ帰ろうとしたが、その時、彼女は自分を
オムニ・アメリカの研究所に連れて行ってくれと言い張った。おれは猛反対したが…ジェニファーは…
自分に死期が近いことを悟っていたらしい』」
巴の瞳に、悲しみと怒りが映っている。
「『…おれは、彼女を抱いてオムニの研究所へ行った。
そして…そこでおれが見たものは……ジェニファーとうりふたつのドロイドの姿だった』」
「それが…ジェーンなのですね」
「うん。『…ジェニファーは苦しい息の中、人の意識や総ての記憶を移植して、ドロイドの分身を作る
という研究をしていた事、その実験台として、自ら被検体となっていた事を教えてくれた。
…このままでは、自分はまず助からない。それならせめて、自分の想いを受け継いだドロイドを
起動させて、おれに遺したい…そう話してくれた』」

303:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:48:34 wE0sekKT
>>289GJ!!
二人が本当の意味のパートナーになれたみたいで良かった。
そして所謂第一章完というところですな。
今後の展開楽しみにしてる。

>>291随分と酷な扱いされてきたんだな・・・
殺人兵器当然の人間も感情はあるんだな。
そしてエロに突入しましたな。wktkして続き待ってる。

304:名無しさん@ピンキー
07/10/24 04:46:42 mp0ydK4A
「自分の想いを受け継いだドロイドを完成して残す…」
巴がお終いの一節を復唱する。
おれはその時の巴の表情に何故か、少し引っかかるものを感じだが、なおも続けて読んだ。
「『シンクロイド・システム…それは巴くんが言っていた事と、ほぼ同じだが、ジェニファーの説明では、
記憶部分の複写だけが、どうしても完全に生成できないという」
「…ええと…あの…ここで完全再現できない…理由はですね…」
巴が、額に手をあてながら、何事か思い出しながら言った。、
「…人の脳って、膨大な量の記憶を司ってますけど、そのままではパンクしちゃいますよね。
だから『保管』と同時に、一時的に<忘れる>ことができますよね。アメリカに送ったプロトタイプは、
この記憶領域だけが、完全には再現できないでいたのです」
「巴?おまえ…どうして、それを知ってるの?」
「え?」
巴はきょとんとした顔で両頬に手をあてた。
「…そういえば…わたし…どうしてそんな事を知っていたのでしょう?」
「もしかして…巴…昔、親父たちの手伝いをしていたって言ってたけど…」
「そうですね~…後で、お訊きしてみましょうか」
…巴自身の記憶に、何かあるのだろうか…と、思いつつ、おれは先を読む。
「『ジェニファーは、研究所の所長に、ドロイドの自分の再起動を頼んだ。
そう、既に一度起動したことがあったという。…彼女の後頭部と首の間にはコントロールメタルが
埋め込まれ、そこから、近くにいる時は神経の筋電信号を使ってじかに…離れている時は微弱な電波と
磁力波で…ドロイドとはマルチリンクを使って意識と記憶を交感するという。だが、以前テストした時、
ドロイドのジェニファーは、意図的にマルチリンクを絶った瞬間、つい数分前のことすら思い出せなくなって
しまったそうだ』」
「………」
「『それでいて、一年前のことは克明に覚えていたり…ばらばらで…後で聞いた話しでは、終いには
ジェニファーの分身…ジェーンは、何もわからない…と、泣き出してしまったそうだ。
ただ…自意識というのはあり、感情面と、理論や原理などと言った知識面だけは複写できたらしい。
要はジェニファーとして生きてきた記憶だけ、断片的にしか移せないのだ。
だが…それでも…自分の…<ジェニファーとしての>意識さえ…心さえ、おれに遺せれば、良いのだ…と。
一人のドロイドとして改めて誕生すれば、通常の記憶システムで稼動するので、問題ないから…と』」
「…それで…ジェニファーさんは」
「『システムが稼動すると共に、ジェーンからのデータが逆にフィードバックされ、危険だというので
所長たちは止めたが、これが自分の最後の調査報告だからと彼女は強行した。そしてジェーンの
再起動は成功したが、彼女、ジェニファーは、ジェーンとおれの手を取ったまま…』」
おれは、その先を読めなかった。
…続きはあとで読もう。
手紙の束を置き、立ち上がって窓の外を見る。
「……生まれ変わったジェニファーさん…か」
「初めはきっと…二人とも、とっても…辛かったでしょうね…」
「そうだな…でも」
「でも?」
おれは次第に明るくなってくる空を見上げ、そして巴の方を振り返った。
「ふたりはきっと、新しいスタートを切ってくれた…そうじゃないかな?」
「はい…きっと…きっとそうですよね!」
巴が、僅かに瞳を潤ませながら、両手の拳を固めて小さくガッツポーズをとる。
そんな彼女を、やっぱり愛おしく思いながら、おれは頷き、すぐに言った。
「さ、ともかく朝飯だ…」
「はいです」
巴は、いつもの様に笑顔で小首を傾げてみせた。

305:名無しさん@ピンキー
07/10/24 04:51:27 mp0ydK4A
>>298>>302 >>304
途中で、ネット接続が切れてしまい、ラストだけ遅れてしまいました。
済みません…。
>>303
本当に、拙い代物なのに、過分なお言葉をありがとうございます!

306:名無しさん@ピンキー
07/10/25 17:41:37 RoRop3t4
>>294
スレ変わってから一度も来なかったから心配してたんだぜコンチクショウ!
これからもガンガン続き書いてくれよ!

307:名無しさん@ピンキー
07/10/28 05:34:17 lzvG49t1


308:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:00:41 6izs/RQj
アクセス制限に引っかかってしまいました。
これが上手く上げられたら、投稿させて頂きます。

309:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:01:24 6izs/RQj
今日は朝から仕事だ。
おれの本職は、まあ良くある電気関係の製造業のデスクワーク。そこそこ名の知れたメーカーだ。
担当は基本的にはその部署の庶務なのだが、割と数字や電算機関係に強いので、料金担当の一部も
兼ねている。でもって、今日はそのひとつで一番面倒なやつだ。
毎月一回、数日間に渡って月次作業と呼ばれるルーチンワークがあり、仕入額や人件費等を積み上げて
原価を計算し、それに利益を何パーセントか乗せて売価や売り上げを決定したり…とか、原価総額に
対して売り上げ額と比較して収支報告を上げて…なんていうものなのだが、これが結構な件数で、
しかもこれが出来ないと、請求額を出したりとか、月の締めが出来ないときている。
従って、この期間で総て終わらせなくてはならず、帰りは終電か、マイカーでと言う事になる。
ちなみにこの数日間は『地獄の五日間』と呼ばれるのだが…その裏で『参観日』という名もついている。

「全部積んだか?」
おれの愛用の銀のクーペのトランクが開けられ、巴が中をごそごそとやっている。
車高が低いので、例によってえらくお尻を突き出した格好になっていて、思わずごくりと唾を飲む。
…昨日、あれだけシてもらったのに、おれも節操ないな…。
思わず苦笑しながら運転席のドアを開けると、顔を上げた巴が、敬礼に似た会釈をした。
「えと…終わりましたぁ」
今日は紺色のワンピース姿…但し、メイドのヘッドドレスはつけている。
流石、メイドロイド…と、ちょっと感心する。
「じゃ、行くか…またアタマ、ぶつけるなよ」
「はいです」
巴は慎重にトランクを閉じた。

月曜の朝は澄み切った晴天だった。
陽光の降り注ぐ中…住宅街の続く中の幹線道路。
まだ渋滞の少し前なので、他のクルマも殆どなく、おれたちのクーペは気持ち良く街道を走り続ける。
「…バンたち、今頃、どうしてるだろうなぁ」
ちらとミラーを見ながら、ペダルを踏み、シフトチェンジする。
助手席にはシートベルトをつけてかしこまった姿の巴。
大きくて…座高も当然高いので、シートを目一杯下げて、リクライニングもある程度倒しているのだが、
それでもおれのクルマは車高が低すぎて、巴には窮屈なようだ。
それでも…おれの隣に居られるのは嬉しい…と毎度の事ながら、こそばゆい事を言ってくれる。
「そうですねえ…」
ちらと見ると、巴は腕組みしながら中空を見つめ、う~ん…と、可愛らしく咽喉で声を上げた。
「本部って事は、どこかに、対策本部とか、設けてあるのでしょうかね~」
「それも表向き休暇中ってことは…当然、おおっぴらに公表されてないんだろうな」
「そうですねえ…わたしたちに念押ししたのも…だからでしょうしねえ…」
例によって、まったりぽやぽやな巴だが、これでなかなか鋭い。
「そうだな…」
赤信号が見え、おれはシフトダウンさせながらブレーキを踏んだ。
タコメータの回転がその都度一瞬上がり、エンジン音が低くなる。
横断歩道が近づいてきて、その前の停止白線に合わせてすっと停め、小さく息をついた。
…と、ふいに、横から小さくクラクションを鳴らされ左を向く。
見慣れた赤いワゴンが止まり、運転席の窓が開く。
おれも助手席の窓をリモコンで開けて直ぐに怒鳴った。
「よう!早いじゃないか」
「おまえこそな」
茶髪で童顔の同僚…にして、今一番の「悪友」が真っ白な歯を見せた。

310:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:02:11 6izs/RQj
「トモちゃん、おはよう!」
我が悪友が片目をつぶって、キザったらしく親指を立ててみせる。
巴はにっこり笑った。
「おはようございます~」
なんだい、おれにゃきちんとした挨拶は無しかい。
って、おれもだけどな。
すると助手席から、長めのおかっぱ頭が見え、軽く手が挙げられた。
「天野さんも一緒かい」
「今日から4日は天岩戸入りだからな…色々準備があるって言うんで、乗ってもらった」
「おう…さすがは彼女を大事にしてるな」
「おうよ!」
悪友こと木下秀一は小さく胸をそらした。
「もっとも、おかげで、ちょっとしたファミリー状態だがな」
そう言って、ちょいちょいと後席を指差すと、こちらを見る幾つかの人影…。
フイルムが張られてあるので、人相が良く判らないが影はみっつ。
「皆、おはようです~」
巴の挨拶にワゴンの後席の窓が開いた。
「おはようございます」
見ると、二人の美女に、おとなしそうな美形の青年がひとり。
…いずれも、巴と同じドロイドたちだ。
「みなさま、おはようございます」
「今回も、どうぞよしなに…」
「え…と、どうかお手柔らかに願います」
美女たちは秀一…ヒデのメイドロイド。
二人とも艶やかな長い黒髪で、楚々とした雰囲気の、双子のように似た外見だが、中は
一世代違っていて、それぞれ「ネネ」と「チャチャ」と呼ばれている。
名前の由来は、木下藤吉郎こと豊臣秀吉の正妻ねね(おね、または政所)と、側室の茶々
(お茶々、または淀君とも言う)から来ていて…史実ではあまり仲が良くなかったそうだが、
その名を持つこのふたりは、性格こそ確かに正反対だが、史実の二人とは真逆に、
双子の姉妹の様に、とても仲が良い。
むしろ、時々一緒になって、マスターである秀一をツッコむほどで、秀一も二人を信頼し、
かつ、とても大切にしている。
もうひとりの、優しげな美形の青年は天野さんのサーヴァントロイド、シロー。
名前の由来は天草四郎からで、おとなしい天野さんを、いつもそっとサポートしている。

余談だが、以前はメイドロイドを連れていると、やっかみ半分なのか、色々とあらぬ詮索をして
囃し立てたり、陰口を叩くものがいたらしく、特に秀一など二人も所有しているので槍玉に
挙げられ…本人は気にしていない…と言っていたが…とても酷いものもあったらしい。
だが、そんなヒデの前で、才媛かつ美人で知られる天野さんがおおっぴらに「彼女宣言」をし、
しかも彼女自身サーヴァントロイドを持っていると告白した事で、急速に悪評が消えてしまった。
また、それがきっかけで、次第に自分のところにもドロイドがいる…とカミングアウトする者が
増え、逆に導入する者も現れ、むしろ今ではドロイドに対して、好意的な感情を持つ者が多い。

その彼らに、おれと巴が加わって七人が、4日間、チームを組んで仕事に当たるのだ。
しかも、この期間はドロイドのメンバーもれっきとした契約社員扱いとなる。
そう、「参観日」とは彼らが加わる期間を言うのだ。

311:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:03:19 6izs/RQj
ここ一年ほど、業務が逼迫しているのに、経費節減と効率の良い人的資源の活用…などと
言われて、おれたちの部署は人手が減らされてしまった。
一応、繁忙期は、人材派遣会社から五~六人やってきて助勤に就いたが、ルーチンワークとは
言え、一度や二度で覚えきれるものではないし、その上、個々の契約について色々と条件が
違っていたりで、請求額の間違いを連発してしまい、却って厄介な問題が多発してしまった。
彼らも一生懸命だったが、あまりに細かい内容が多いので、終いには音を上げてしまった。
…おれだって、人手が多かった頃、教えてもらいながらで、半年以上かかったのだ。
まして、実情を知らないで来た人には、初めから無理だったのだ。

ある日、処理が終わらず、仕方なく終電で帰った後、自宅でも出来る作業を続けていた時、
暫く見ていた巴が計算作業を手伝ってくれて、その上、個々の細かい仕様の違いも覚えて、完璧に
処理してくれたことがあった。
パソコンが無くても、当然の如く、計算は絶対間違えないし、特記事項については、一度説明すれば、
以後決して忘れないのでとてもやり易い。
そこで思い切って、秀一と天野さんにその事を話した所、彼らもテストして、その結果も良かったので、
どうせならば、正式に助勤の為に雇ってもらったら…と、上司に話を持って行った。
年配の部長など、最初はやや懐疑的だったが、派遣会社の方から、あまりの激務に正式に手を
引きたいと言ってきたので、ともかく一度テストしてみようということになった。
その結果は…実に満足いくもので、ともかくおれたちに説明すれば、彼らにも伝わるので意思伝達が
実にスムースに行く。
ただし、彼らには、本来のハウスキーパーとしての役割があり、そちらが優先なので、繁忙期、予算
・決算の時期のみ…しかも無理はさせない…という条件付ではあったが…。
それでも、派遣会社の人間を雇うよりは単価も若干安いし、逆にひと月における雇用期間が短いので
総額からすればケタ外れに安く済む。
そんなわけで、彼らはもうすっかり、おれの勤め先では、お馴染みの面々となっていた。

312:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:04:09 6izs/RQj
長い信号が青に変わった。
「じゃ、いくぜ」
秀一がそう言うや、赤のワゴンが滑るように走り出す。
おれも半クラッチからギヤを入れ、素早くアクセルを踏み込んだ。

本社前に着いたのは七時半。
地下駐車場の入り口の左右には、「シュワちゃん」「スタちゃん」のニックネームを付けられた屈強そうな
身体つきのガードドロイドが待機しており、おれたちの方に向かって、笑顔で敬礼してくれた。
毎月、この時期には早朝から深夜まで詰めっぱなしなので、すっかりお馴染みだ。
秀一のワゴンが先に入り、おれのクーペがそれに続く。

受付でカギを借りて、おれたちは六階の職場に入った。
ドアを開けると、広いオフィスルームはひんやりとした空気に包まれている。
壁のスイッチに触れると、天井の蛍光灯群が一斉に点灯し、おれたちはデスクに向かった。
両手にそれぞれ荷物を抱えているが、これから四日間入用なものばかりだ。
「マシンを立ち上げてきます」
自分のデスクに資料の束を置き、天野さんが奥のパーテーションの裏の電算ルームに向かった。
その後をバインダーを持った執事姿のシローが付いていく。
おれが自分のデスクについて引き出しを開けると、巴がノートパソコンを二台抱えて、すぐ脇の
袖机に置いて、素早くセッティングしてくれた。
「ぼっちゃま…二台ともすぐ使えますよ~」
「お、サンキュー…」
「コーヒー…淹れますね」
「ん、頼むよ」
廊下に出て行く、いつもと違うOLっぽい服装の巴も中々良い。
紺のワンピースが逆に長身を引き立て、すらりとした、かつ柔らかで出る所の出た曲線を描く。
ショールーム・モデルだった頃はこんな感じだったのかな…と、ふと思う。
一方、秀一は、白のスーツのネネとチャチャに、事細かに作業内容を指示していたが、ふと
電話の前のメモに気付いて、右手を向けた。
「…あ、マズイなぁ」
さっと目を通した秀一が小さく呟き、それをおれに向けてひらひらと振った。
「どうした?何かよからぬことか?」
「昨日の午後…アルファ電気からの請求明細一式が、今日中には出来ないと連絡があったそうだ」
「え…それ…本当か?」
おれはばりばりと頭をかきながらメモを受け取った。
「水曜の朝に連絡した時点じゃ、月曜の朝には余裕で出来るって言ってたんだぜ…」
この取引先は、今まで…少なくともおれが知る限り、四年前から一度として刻限を破った事は無いのだ。
「なんでも、その晩に、集約作業の時点でトラブルがあってリテイクになった…とある…」
秀一も、やはり判然としない様子の顔だ。
「でも妙だな…あそこ、ドロイドを大勢入れてたろ?処理がトラブったなんて、今まであったかい?」
そういわれて見れば、他所はあったが…確かにあそこは今まで一度も無かった。
「いや、確かに記憶に無いな…」
「…なんかヤな予感がするな」
「おいおい、縁起でもな…」
そう言い掛けると、奥の給湯室から、いきなり、がちゃん…という何かが落ちる音に続いて、
どが~~~んという轟音と共に「ひゃん!いったぁい…!」という聞きなれた悲鳴が…。
「あちゃあ…」
秀一が軽く顔をしかめ、おれも右手で顔を覆った。
ネネとチャチャがくすっと笑う。
「前途は厳しいか…」
「……久しぶりに聞いたよ、トモちゃんのヘッドバッドの音
秀一がくっくと咽喉で笑った…。

313:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:04:56 6izs/RQj
長い信号が青に変わった。
「じゃ、いくぜ」
秀一がそう言うや、赤のワゴンが滑るように走り出す。
おれも半クラッチからギヤを入れ、素早くアクセルを踏み込んだ。

本社前に着いたのは七時半。
地下駐車場の入り口の左右には、「シュワちゃん」「スタちゃん」のニックネームを付けられた屈強そうな
身体つきのガードドロイドが待機しており、おれたちの方に向かって、笑顔で敬礼してくれた。
毎月、この時期には早朝から深夜まで詰めっぱなしなので、すっかりお馴染みだ。
秀一のワゴンが先に入り、おれのクーペがそれに続く。

受付でカギを借りて、おれたちは六階の職場に入った。
ドアを開けると、広いオフィスルームはひんやりとした空気に包まれている。
壁のスイッチに触れると、天井の蛍光灯群が一斉に点灯し、おれたちはデスクに向かった。
両手にそれぞれ荷物を抱えているが、これから四日間入用なものばかりだ。
「マシンを立ち上げてきます」
自分のデスクに資料の束を置き、天野さんが奥のパーテーションの裏の電算ルームに向かった。
その後をバインダーを持った執事姿のシローが付いていく。
おれが自分のデスクについて引き出しを開けると、巴がノートパソコンを二台抱えて、すぐ脇の
袖机に置いて、素早くセッティングしてくれた。
「ぼっちゃま…二台ともすぐ使えますよ~」
「お、サンキュー…」
「コーヒー…淹れますね」
「ん、頼むよ」
廊下に出て行く、いつもと違うOLっぽい服装の巴も中々良い。
紺のワンピースが逆に長身を引き立て、すらりとした、かつ柔らかで出る所の出た曲線を描く。
ショールーム・モデルだった頃はこんな感じだったのかな…と、ふと思う。
一方、秀一は、白のスーツのネネとチャチャに、事細かに作業内容を指示していたが、ふと
電話の前のメモに気付いて、右手を向けた。
「…あ、マズイなぁ」
さっと目を通した秀一が小さく呟き、それをおれに向けてひらひらと振った。
「どうした?何かよからぬことか?」
「昨日の午後…アルファ電気からの請求明細一式が、今日中には出来ないと連絡があったそうだ」
「え…それ…本当か?」
おれはばりばりと頭をかきながらメモを受け取った。
「水曜の朝に連絡した時点じゃ、月曜の朝には余裕で出来るって言ってたんだぜ…」
この取引先は、今まで…少なくともおれが知る限り、四年前から一度として刻限を破った事は無いのだ。
「なんでも、その晩に、集約作業の時点でトラブルがあってリテイクになった…とある…」
秀一も、やはり判然としない様子の顔だ。
「でも妙だな…あそこ、ドロイドを大勢入れてたろ?処理がトラブったなんて、今まであったかい?」
そういわれて見れば、他所はあったが…確かにあそこは今まで一度も無かった。
「いや、確かに記憶に無いな…」
「…なんかヤな予感がするな」
「おいおい、縁起でもな…」
そう言い掛けると、奥の給湯室から、いきなり、がちゃん…という何かが落ちる音に続いて、
どが~~~んという轟音と共に「ひゃん!いったぁい…!」という聞きなれた悲鳴が…。
「あちゃあ…」
秀一が軽く顔をしかめ、おれも右手で顔を覆った。
ネネとチャチャがくすっと笑う。
「前途は厳しいか…」
「……久しぶりに聞いたよ、トモちゃんのヘッドバッドの音
秀一がくっくと咽喉で笑った…。

314:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:05:38 6izs/RQj
念のため、様子を見に給湯室に行くと、流しの周りが散らかったままになっていて、巴は例によって
身を屈め、お尻を高く突き上げた格好で食器洗いに奮闘していた。
「なんだ…おい、随分派手に散らかしたな」
巴の横に行き、中を覗き込んで呆れ気味に声を掛けると、巴は振り返り、きょとんとした顔で首を振った。
「はい?…これはわたしじゃありませんけど~」
「…だって、今、頭ぶっけたろ?」
おれが自分のこめかみに指を立てて訊ねると、巴は一瞬小さく舌を出したものの、そっと首を振った。
「食器を落として…拾おうとして頭をぶつけましたけど…でも…食器棚はカラでしたよ~」
確かに、流し台の上に金属棒で吊り下げられた、軽金属製の細長い食器棚が僅かに歪んでいるものの、
何かが載っていた形跡はない…。
と言うか、巴が何度かぶつけて中身を落として破壊して以来、食器を洗った後、一時的に水切りと乾燥に
使う程度で、基本的には脇の食器入れに仕舞う事になっている。
それに…確かに良く見ると、置かれてある食器は使用済みの物ばかりだ。
コップも皿もあるし、弁当箱らしきものまである。
…ふと、疑問に思った。
「昨日出た連中、片付けないで帰ったのかな?」
「そうみたいですね~」
前を向き直して、巴は再び洗いはじめ…それから僅かに首を傾げた。
「でも、変ですねえ…いつもならドロイドの誰かが、必ず最後に片付けておくのですけどね~」
おれも、その点はちょっと引っかかった。

結局、おれも巴の洗い物を片付ける手伝いをするハメになった。
そして終わってから、サイホンで入れたコーヒーを淹れ、それぞれのマグカップに注いでお盆に載せ、
オフィスのフロアーに入ると、秀一が血相を変えて飛んできた。
「おい…なんかやばいことになりそうだぞ」
って、いきなり何を言い出すのやら…。
「どうしたんだよ?出し抜けに…」
「昨日、休日出勤した連中が、軒並み休むと言ってきてるらしいよ」
自分のマグカップを手にしながら、課長席を指差す。
長い柔らかな黒髪と黒のシルクのスーツが見え、おれは小さく会釈する。
右耳に受話器を付けたまま、課長…別名・お局さまこと、春日課長がこちらに気付いて手を挙げた。
「あれ…課長、今日はまた早いな…」
「何でも隣の課長から、今日はどうしても行けないのでフォローしてくれと言ってきたそうだ」
「…え?…しかし、おれたちだって、手一杯だぜ。第一…営業なんて」
「ああ、来たわね」
春日課長が受話器を置きながら、おれたちを手招きした。
彼女は春日千代…下の名がやや古風な感じの、当社きっての切れ者の女課長だ。
必要とあれば率先して色々乗り出すが、不要と判断したら容赦無くばっさり切る。
部長たちですら、時々たじたじとなるほどであり、このため『春日局』に引っ掛けて「お局さま」と
裏で呼ばれていたりする。
ちなみに、巴たちのヘルプに真っ先に賛意を示したのは彼女である。
端正な顔立ちに困惑気味な苦笑を浮かべ、銀縁の眼鏡を外す。
…気心知れたおれたち以外には滅多に見せない、優しい素顔の笑顔の素敵な美人だ。
このひとを見ると、時々、ともねえを思い出す事がある。
そして素顔の時の課長を、おれたちは「お千代さん」と呼んでいる。

315:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:06:30 6izs/RQj
「おはようございます、課長」
「おはよう…」
お千代さんは頷き、おれたちの後ろにやってきた巴とネネ、チャチャにも会釈した。
そして、おれと秀一を見上げ、申し訳なさそうに口を開いた。
「早速で済まないのだけど…今日の業務…巴さんたちには、主に電話番をしてもらいたいの」
「え?…今のこの一番忙しい時に…ですか?」
「そうなのよ…あたしもね、本当は一度断ったのだけど…」
「何があったんです?」
お千代さんが眼鏡を掛け直し、課長の表情に戻る。
「…その分だと、まだニュースを見ていないみたいね」
おれと秀一は顔を見合わせ、シローを従えて遅れてやってきた天野さんの方を向いた。
彼女も判然としない顔でそっと首を振る。
皆、朝もそこそこに飛び出してきたのだ。
春日課長はリモコンを手にしてスイッチを入れた。
課長席の後ろに置かれた液晶テレビに光が入り、おれたちはそちらを向いた。
『…この為、家庭から各省庁、企業に至るまで、推定では都市部のドロイドのかなりな数が
原因不明の機能不全状態煮に陥っているとの報告が入っており…』
テレビには、眠るように倒れていたり、ぐったりした様子のドロイドたちが映っている。
ファミレスではウェイトレス姿の娘が、宅配業者の制服の少年が、そしてメイド服の娘が…。
皆、動けなくなって倒れていたり、イスに腰掛けたまま微動だにしなかったり…。
『政府は準特別厳戒態勢を宣言、各方面に対して協力を要請すると共に、ドロイドメーカーに
対し、早急の原因究明と対策を講じるよう通達しました』
ビル街で「具合の悪くなった」ドロイドを介抱しようとるす中年の女性と、それを制して収容
しようとする機動隊員の姿が映り…次の瞬間、おれは見覚えのある人物たちの姿を見出して、
思わずあっとく声を上げそうになった。
 <ぼっちゃま…あれ!>
小さく鋭く巴が囁き、おれも微かにうなずいてみせた。
…機動隊員に混じって、バンとジェーンの姿が見えたのだ。
まさか、呼び出しっていうのは…このことなのか?
「…と、まあこんな訳なのよ」
リモコンのスイッチを押し、テレビを消しながら春日課長は首を振った。
そして改めておれたちを見渡した後、巴たちの方を見、溜息をついた。
「昨日の晩から、日本中のドロイドの3割ほどが、機能停止か機能不全に陥っているのよ」
「何ですって?」
おれは巴をちらと見たが、巴も驚きに目を丸くしたままだ。
「…おかげで、各家庭のヘルパーやら各種業種、業務に色々と支障をきたしていて…」
「それじゃ、頼んであった請求が来ないのも」
「流しのお片づけがされてなかったのも…そのためですね」
巴がおれの後を受けて言い、課長は困惑し切った顔で頷く。
「昨日の休出のメンバーの話だと、昨日の昼までは支障が無かったそうだけど」
昨日の昼というと、おれと巴が商店街を歩いていた頃だ。
「午後に差し掛かった辺りで、急に『めまいがする』と言い出したドロイドがいて、それから
自力で動けないドロイドが続発したそうなのよ…」
「めまい…って、ドロイドがですか?」
「…なあ…おね、お茶々…お前達、そんな事あったかい?」
秀一が自分のパートナーたちに向き直る。
双子の様なメイドロイドの二人は、艶やかな黒髪を靡かせ、同時に顔を見合わせた。
「いいえ…わたくしは何も」おっとりした口調のネネ「淀ちゃんは、なにか感じました?」
「昨日でしょ?…その頃って、マスターとおねえちゃんと一緒だったじゃない」
チャチャが両手を開いて、小首を傾げて見せる。
要は何もなかったということだ。
「天野さんたちは?」
「いいえ…わたしも特に何も」
天野さんはシローの方を向いた。
すると、穏やかな少年の顔立ちをした彼女の執事は、一瞬何事か考え、こう言った。
「そうですね……強いて言えば…ちょっとですが…磁気を感じた様な気がします」

316:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:26:51 6izs/RQj
シローの言葉に、春日課長の顔色が変わった。
「それ…うちのアオイも言ってたのよ」
「アオイ…ああ、最近お迎えされた、最新の娘さんですね」
秀一が独特の言い回しで聞き返す。
元々はドールファンから始まった言い方だが「物」扱いで無い表現なので最近良く使われる。
「第八世代…でしたよね。……って事は、課長のお宅でも?」
「ええ」
課長は両手を合わせ、それから顔を覆った。
「同じよ…何か磁場の様なものを感じる…と言って、そのまま眠るように活動休止したわ」
「…磁場ですか」
おれは巴を見、それからネネとチャチャと見たが、三人とも微かに首をすくめるばかりだった。

ここで、現在、世間一般で活動しているドロイドについてちょっと補足する。
基本的にAI本体の基本的な構成は、確立された黎明期からそれほど変わっていないが、
ドロイド本体の構造、材質的な部分は年々改良され、サイズや動作の滑らかさ、反応速度などが
より日進月歩で向上し、現在は第八世代まで達している。
もちろん、十数年前に誕生した「大きな隣人」と呼ばれた第一世代も、アップデートされて
現役で活動している者もいるが、中にはより新しい身体に載せ換えられているケースも多い。
巴はそれからは大分小さくなった第二世代…型番から言えばかなり旧式である。
もっとも親父たちの手で中身はかなり手を加えられ、アップデートしてはいるが…
少なくともデカいままだし。
ちなみに、ネネはAIの処理速度を上げた第四世代の後期型、チャチャが躯体の運動性能を
上げた第五世代、そしてシローがサイズを更にコンパクトにまとめた第六世代である。
本格的に一般家庭に普及し始めたのは第五世代末期からで、特に第七世代の普及率は
40パーセント以上と言われ、ヒデによれば、お年寄りでも子供でも扱える簡単さだと言う。
もっと正確に言うと、来て間もないドロイドが未熟なマスターの下に来ても、ドロイドの側が
マスターに合わせて行動できると言い、その為、常時、必要な情報をマルチサーバーからの
リンクを経由して、人間で言う「経験値」を瞬時にダウンロードできるのだという。
もっとも、うちの巴やネネ・チャチャは大分前のタイプなので、システムを増設していないが…。

「ともかく…このスタッフは健在ですから、できる限りのことをしましょう」
再び眼鏡を外して、お千代さんがにこっと笑う。
…この笑顔がまた曲者なのだが、まあ、おれたちに対する信頼の証だ。
決して悪い気はしない。
「では~…わたしたちのお千代さんの為にも、みなさん、がんばりましょう~」
巴が例によって元気良く…と言っても、少々まったりだが…小さく拳を固めて振り上げる。
春日課長は片目をつぶって、おれたちに「よろしくね」という笑顔を浮かべた。
おれは秀一と顔を見合わせ、ちょっと渋い顔のまま笑った。
…結局、今日も遅くまで帰れそうにない…。

317:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:28:05 6izs/RQj
>>309>>316 今回はここまでです…。

318:名無しさん@ピンキー
07/10/28 13:32:56 6izs/RQj
…済みません…送信不良で>>312を二回送信してしまいました。

319:名無しさん@ピンキー
07/10/28 17:20:18 ffdkVTze
新たな展開ktkr
続きが楽しみだぜ!


トモちゃん俺んちに来ない?

320:名無しさん@ピンキー
07/10/28 17:27:24 K55v/GZF
『トモちゃん俺んちに来ない?』

この一言が後にあのような結果をもたらすことになるとは、
本人ですら気が付いていなかった。
発注処理をする事務方がミスタイプしたことも、誰も気が付かなかった。
数日後、>>319の部屋には50代男性ハゲ型のモトちゃんが届いたのだった。

321:名無しさん@ピンキー
07/10/28 18:34:01 6izs/RQj
>>319 わわ…えと…あの~…マスターにお問い合わせ下さいませです。

322:名無しさん@ピンキー
07/10/28 18:35:08 6izs/RQj
>>320 ナミヘイタイプの後継機ですか?

323:名無しさん@ピンキー
07/10/28 21:04:08 c+HgY4kZ
>>320
それなら、相方の妙に料理の上手いグッチ型もセットにしないと

324:名無しさん@ピンキー
07/10/28 21:17:59 ffdkVTze
>>320
せめて炊飯器タイプにしてくれw


>>321
ごめん、冗談だよ
あの幸せモンがトモちゃんを手放すワケ無いしなぁ


あ~あ、オムニに発注しよっかな…
トモちゃんと同タイプがまだあれば、の話だけど…

325:名無しさん@ピンキー
07/10/29 04:55:38 HQ+PYETs
むしろ中古ショップを漁った方が良いと思われ

326:名無しさん@ピンキー
07/10/29 20:28:26 BvKlMl3j
うちのロボ娘と結婚するって真面目に親父に言ったら、思い切り反対されたorz 孫の顔を見たいんだとさ。
親父ならわかってくれると思ったのに…(俺の母ちゃん、ロボなんだよ)

327:名無しさん@ピンキー
07/10/29 23:37:24 HhlD5tCR
そういう時は、問答無用のできちゃった婚をすれば亜qwせdrftgyふじこlp;@:「」

328:名無しさん@ピンキー
07/10/29 23:40:38 eRWxcJni
ロボ相手の出来ちゃった婚ってどうすりゃいいんだろう。

はっ、まさか幼児型のロボ娘をry

329:名無しさん@ピンキー
07/10/30 01:55:54 5hYt6DEw
あれ?
>俺の母ちゃん、ロボなんだよ
これに突っ込んじゃいけないふいんき(ry

330:名無しさん@ピンキー
07/10/30 02:06:13 p7e0OfYh
オプションの人工子宮と凍結卵でおk。

凍結卵は、ロボの外見や個性を盛り込んで遺伝子をいじられてるから、倫理的にいろいろ言われてるけど(・3・)キニシナイ!

331:名無しさん@ピンキー
07/10/30 05:50:01 MgtfMD5w
これまで恋愛がどーのとか煽った上に、イケメン以外はキモいとかのレッテル貼リ続けたメディアの連中に、
今更倫理倫理と言われても説得力ねぇよな。ブサメンには人権ねぇような扱いし続けられたし。
間接的な断種弾圧されてるよーなもんだから、ささやかな抵抗って奴だ。メディアの流行なんぞ糞くらえ。

ん、うちの嫁? 大和重工の1世代前のモデル「撫子・後期生産型」だよ。
黒髪が綺麗で、俺、ショーウィンドゥで一目惚れ。店の前で最新モデルがカタログ配ってたけど目もくれずw

人工子宮がまだ未実装な時期の奴だけど、そろそろ親に孫を見せたくてな、どこの遺伝子バンクと人工子宮がいいか、
二人でカタログ見ながら選んでる最中だ。


332:名無しさん@ピンキー
07/10/30 06:40:50 2BIkryJe
つ「デモンシード」

333:名無しさん@ピンキー
07/10/30 12:26:13 9/oBPw4p
おまいら幸せそうで羨ましい。うちは人工子宮が付けられる機種じゃないし、改造とか外付する予算もないから、嫁のAIを元にして
『娘のAI』をしこしこと作ってる所だ。素体の初期年齢設定をどうするかでちょいと意見が合わないんだが、そういうのを話す事が
出来るのがこの方法の特権だと思ってる。

334:名無しさん@ピンキー
07/10/31 02:32:02 vpid/fWN
やっと卵子バンクから卵子受け取りの許可が降りた
六回目の申請でやっとだ、必死こいて貯金した甲斐もあったよ(つд`)
妊娠キットのレンタル代もバカにならないしもうしばらくは貧乏生活だ

335:名無しさん@ピンキー
07/11/01 23:06:05 dHNKDmUy
ES細胞を望む方向に培養して,欠損した組織を再生させるってのは知ってるよな?
あれの培養プラントを,人工子宮に用いるつうのがあるんだが

元々,人工子宮のベースになった技術のうえ,脳の成長に合わせて教育も可能だ
……と言っても,天才になるかどうかは“誕生後”の環境しだいなんダケドナ

336:名無しさん@ピンキー
07/11/01 23:09:38 3ZKuwRPz
娘もロボット一択ですが何か

息子という選択肢は勿論ありません


337:名無しさん@ピンキー
07/11/02 13:07:57 C4nqQLOV
単身赴任中なんだが、うちにいるメイドロボ娘を連れてきているんだ。
気立てのいい、とても良い娘なんだが。
昨夜、コトにいたろうとしたらさ
なんとナニがステンレス鋼板で塞がれていやがってさ
彼女が言うには
「奥様から止められています。解除するには
 メーカー代理店工場で奥様の指紋認証が無いと解除できない仕組みになっています」
だとさ……。
まさにアイアン・メイデン(鋼の処女膜)ってヤツさっ!

家内のヤツ……知っててやってやがる……

338:名無しさん@ピンキー
07/11/02 13:17:27 W7/7FMW9
逆に考えるんだ。
それはつまり、口でする分にはOKというお墨付きだと考えるんだ。

339:名無しさん@ピンキー
07/11/02 14:49:24 xKTUWisD
こいつも忘れてるぜ!

おっぱい! おっぱい!(AA略)

340:名無しさん@ピンキー
07/11/02 15:15:43 F8XDoipO
後ろの(ry

341:名無しさん@ピンキー
07/11/02 22:53:34 ZVy10iP6
>>317 続きを上げたいのですが、アクセス規制でもう数日足止めです。
携帯からでは長文は無理であります…。
もうしばらくお待ちくださいませ…。


342:名無しさん@ピンキー
07/11/02 23:56:39 BBZLL4Oj
古い映画だがマイケル・クライトン監督「ウエストワールド」のガンスリンガー(ユル・ブリンナー)が、不死身のヤンデレカウガールロボ娘だったらどうしよう
勃起して夜も眠れん

343:名無しさん@ピンキー
07/11/04 00:00:29 RWVv359f


344:名無しさん@ピンキー
07/11/04 01:01:53 0HI2rh35
今アンドロイドと言ったら
アンドロイド・アナ


ロボフェチで結構!

345:名無しさん@ピンキー
07/11/04 02:03:50 CmXlnF9U
東京ローカルだけどねー

346:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:36:01 siq1EwqU
「……電気化学工業でございます」
凛と澄んだ巴の声が、広いフロアーに響く。
「はい…はい、左様でございますか…はい…いえ、当社は営業は致しておりますが、
営業三課の者は現在、ニュース等で問題に挙げられている件の影響で、本日
お休みを頂いておりまして…」
おれの真正面のデスクについた巴が、きりりと引き締まった表情で電話の応対を
している。
いつもの、まったりぽやぽやな様子は微塵も感じられない。
「はい…当課の課長の春日ならおりますが…はい、少々お待ちくださいませ」
席を立ち、奥のマシンルームに向かう巴…。
プロフェッショナルなオフィスレディの雰囲気を醸し出していて、凛々しくも美しく
見えるのだが、それに加えてポニーテールを真っ赤で大きな長いリボンで結んで
いて、それが長い黒髪の左右に揺れ、同時に愛らしさも醸し出している辺りが…。
思わずちょっとぐっときて、暫し見とれてしまった。
あ~!いかんいかん…仕事せねば。
と、途端に右から肘で小突かれ、ハッと我に返った。
秀一がニヤリと人の悪い笑いを浮かべている。
「…改めて惚れ直したか?」
「うるせ~」
慌ててノートパソコンのモニターに視線を落とした。
「おれは元から一筋だ」
「ナニ?」
秀一がモニターから顔を上げ、意外そうな声を上げた。
「ほぉ…それは新しい発言だな」
…しまった…。
「ほ~…遂にそこまで言う様になったか!」
秀一は、なおもぐりぐりとおれのわき腹を肘で小突く。
「痛ててて…!このボケ…やめんか!」
「元から一筋とは…目覚めたなおヌシ」
「余計なお世話だサル」
「ほっほっほ…図星指されて動揺しとるな…で、どこまでいったんだ?おい」
「こンの野郎…ぶっコロスぞ…」
おれが拳を振り上げようとした時、出し抜けにバインダーのびたーん!という
派手な音が隣で聞こえ、
「うぎゃ!」という奇声を上げて秀一はその場で頭を抱えた。
「マ・ス・ター…!?」
振り返ると両手を腰に当てて苦笑いのネネと、バインダー手に、腕組みしている
チャチャの二人。
「…お…お茶々…角はよせ、角は…」
完全に意表を突かれてうろたえている秀一を、チャチャはジト目で睨み、それから
おれの方を向くや、申し訳なさそうににっこり笑ってぺこりと頭を下げた。
少し遅れてネネも丁寧に一礼する。
「済みません…本当に済みません!」
「本当に…おばかなマスターで、ご迷惑をお掛けします…」
「お茶々…そりゃないぜ…」
口を尖らせて秀一が抗議する。
「おれはこの場を和ませようとだな…」
「却下です…マスターのそれは…明らかに野次馬根性丸出しです」
…だが、チャチャの表情には微かに笑みが浮かんでいる。
見守るネネはあくまでおっとりして楚々としたもので、苦笑混じりだが、やはり
どこか楽しそうだ。

347:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:39:00 siq1EwqU
「…なんでぇ…そっちこそお尻に敷かれてるじゃないの」
二人が後ろのデスクにつくや、おれは小声で突っ込んだ。
途端に秀一はバツの悪そうな顔で慌ててモニターに向き直る。
「メイドロイドに頭の上がらないマスターってのも…あやしいねえ…ヒデちゃんよ」
「う、うるせ~」
「その慌てよう…そっちこそ、ナニかしたのかなぁ?」
「………あ……あぁ…ま…な」
歯切れ悪く言葉を濁す秀一。
「ほ~…こりゃ図星か」
なんてこったい…てことは…こいつもかぁ…?
こいつは人には突っ込む癖に、突っ込まれると案外弱いのだ。ざまあみろ。
しかしそうかぁ…って、どっちか?と、思わず苦笑いしながら、ネネとチャチャを
見ると、ちらとお互いの顔を見合わせ、口元に手を当て真っ赤な顔でふふふと
笑っている。
思わずピンときた。
あ~そうですか…どちらもねえ…。
でも…ちょっと引っかかったので、小声で囁いた。
「でも…彼女は良いのか?」
「ん?…どっちの彼女だ?」
違うだろが、そっちじゃないよ。
「ばぁか……」思わずひそひそ声で言った。「天野さんだよ」
「あ…彼女な」
秀一はモニターから顔を上げ、ちらと奥のマシンルームの方に目をやった。
「もちろん公認さ」
「へえ…」
おれはちょっと意外な気がした。

348:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:39:41 siq1EwqU
長めのおかっぱ髪…というかボブカットの才媛、わが課の誇るアイドル天野さん
…優奈さんは、とても穏やかで心優しい女性だが、以前は、多少生真面目で
潔癖症に思われていたのだ。
実際に話してみると、もっと気さくでお茶目…かつユーモアも解する女性で、
確かにあの秀一の彼女を宣言する程だから、その位の理解はあるのかも
知れないが…。
「……お前だけには教えるがな……彼女とシローも…な」
秀一はそう言って、静かに笑った。
「だからさ…おれたち、基本的には、結婚するまでキスか…ペッティング止まりの
約束なんだ」
あ…!そ、そうなのか。
おれもこれにはちょっと意表を突かれた。
そして、今朝、どうして秀一が『ちょっとしたファミリー状態』などと言ったのか
改めて理解できた。
しかも、二人ともドロイドのパートナーとイタす事で、婚前交渉無しという潔さ。
「…それにな…」
さらに声を落として秀一が言う。
「シローは元々、どちらにもなれる仕様なんだ…この意味、わかるか?」
おいこら、ちょっとまてぃ!ってことは何ですか、あんたまさか…。
いや確かに、シローは顔立ちが可愛いですよ。
メイクを落としたら、長めのショートヘアの女の子みたいで、声だって女性声優が
演じている少年キャラみたいな綺麗な凛々しい声ですからね。
胸だって今は簡単に直せるし…。
でも…男の子の設定でしょう?
流石にこれには呆れて何か言いかけようとしたが、秀一は至って大真面目である。
「…まあ、モノは付いてるが、別のモノも付けられるし…なんと言っても性格が良い」
「まさか…お前…両方つけて…」
秀一は苦笑し、小さく首を振った。
「そこまではしないさ…まあ、考えた事もあるし、これからその可能性がまったく無い
訳じゃないがな」
おいおいおい…。
だが秀一の顔は至って真面目だ。
「いや、半分は冗談だがな…なんて言うか、おれ、あいつも好きなんだよ…天野さんを
…優奈の事をいつでも気遣って、おれとの連絡役を進んで買って出てくれたりしてさ、
一生懸命で健気だしさ」
…秀一はなおも続けた。
「シローは…天野さんの大切なドロイドで、彼女に言わせると、弟か妹みたいな位置
づけだし…なんて言うかさ、おれも、あの子は彼女の一部みたいな気もするんだ。
そう考えると、何か愛おしくてさ…」
「…彼女の一部か…」
「だから彼女とひとつになる時は…シローもネネもチャチャも一緒で…と本気で思ってる」
「おまえ…性別とか…種別とか超えちまってるなぁ…」
「かもしれないな…まぁ、人間の男と…っていうのだけは、絶対無いけどさ。」
「あたりまえだ。そうなったらおれは、おまえとは永久に国交断絶するぞ」
「おれも、おまえとだけは願い下げだ」
秀一はニヤリと笑い、おれも思わず吹き出し、それからモニターを指差した。
「…さて…雑談もこの辺で切り上げて…仕上げるか」
「おう…そろそろ一度締めないとな…」
ふと気が付くと、奥のマシンルームから戻ってきた巴が、右手を軽く挙げて会釈し、
小首を傾げてにこっと笑いかけてきた。
おれも右手を挙げ、親指を一本立てて合図して返す。
「…おまえらも、なかなか良いカップルだよ」
秀一が静かに笑った。

349:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:40:28 siq1EwqU
…午後九時…外がすっかり暗くなる中、このフロアーの蛍光灯群だけが煌々と輝き、
その中で、おれたち営業二課の面々はひとやすみしていた。
各種の入力処理はアルファ電気の請求額以外、総て終わった。
厳密に言うと近い額をダミーで入れてあるので、処理としては完了。
後はチェックリストさえ出せば、今日の処理は終了だ。
とりあえず状況が状況なので、大体の額を聞いて概算額を入力して、後で修正するより
手が無いのだが、この為、こちらからの請求額に誤差が出てしまう。
「この部分に関しては実費精算が原則ですから…請求先に説明して理解を頂くより他に
手は無いでしょうね」
お千代さんが湯のみを手にして、巴に小さく会釈しながら言った。
「…ここ数ヶ月の額と昨年同月の額から…そうは違わないとは思うのですが」
湯のみを左手に持ち、ネネの手にしている器から煎餅を取った秀一が口を開いた。
「ただ、細かい事を言う会社もありますからね」
「先に大目に頂いて、来月の請求額から減額するのが無難そうですね」
そう言ったおれの横に、お盆を持ったままの巴がちょこんと腰掛ける。
言うまでも無く大柄なのだが、控えめな仕草がなかなか可愛らしい。
「それに…巴さんたちのおかげで、関係各所への電話説明は終わりました」
天野さんがそっと口を開いた。
その横には寄り添うようなシローの姿がある。
「どこも似たような状況のようですね」
「幸い、どの会社からもクレームはありませんでした」
シローはそう言いながら、天野さんに湯のみを差し出した。
「むしろ、こちらから状況説明をしたのは、好判断だったかと思います」
「…あの~…逆に請求日を守る事で、色々ご迷惑をお掛けします…ってありました」
巴がちらとおれの方を見ながら口を開いた。
「こちらから先にお話ししたの…結果的には…良かったみたいです~」
「最初、ともちゃんから提案された時は…良いのかな?…って思ったんですけどね」
チャチャが巴の首に腕を巻きつけて身を寄せながら、悪戯っぽく笑った。
ストレートな黒髪が軽く巴の肩にかかる。
「まだ、正当な請求額が出る可能性もあったし、初めから間違った額です…って相手様に
知らせるの…切り出しにくいし、印象も悪くなりそうで…どうかなぁ…って」
「ん…まぁ…そうなんですけど~…会計処理って…時期が~厳守ですからね~」
「そうなのよね…向こうも経理の人が、えらく苦労して大変だって言ってたし」
「はい…後で直せる程度なら、とり合えず…金額を出してもらえると助かります~って」
「ともちゃんの機転のおかげね」
利発そうな瞳で巴に笑いかけるチャチャ。
横で笑顔で頷くネネも、静かに微笑んで見つめるシローも、無事に役目を果たせて安堵
している様子だ。
…こうしてみると、ドロイドが四人とも、今はこの職場にも無くてはならない存在になっている
ことに気付いて、何となく頼もしく…そして嬉しく思えた。
「…みんな…本当にありがとうね」
春日課長が感極まった様子で眼鏡を取り、静かに頭を下げた。
「なんとかこれで、あと3日…乗り切れそうな自信が出てきたわ」

350:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:41:41 siq1EwqU
午前零時…フロアーの電気が消され、おれはドアを閉じ、カギを掛けた。
天野さんと課長が少し遠方なので先に上がってもらい、おれと巴だけが最後に残っていた。
「ぼっちゃま…おつかれさまでした~」
巴がにっこり笑って小首を小さく傾げる。
「お疲れさん…今日は大活躍だったなぁ…きっちりOLさんか秘書さんしてたぞ」
「昔取ったなんとか…みたいです~」
巴はえへっと小さく舌を出した。
「それに…その服だと大きさが目立たないしな…」
途端に巴は小さくぷっとふくれた。
「あ~ん…それは無いです~」
「ん…そうじゃなくてさ」思わず巴の頬に手を当てた。「その格好…似合ってるからさ」
巴は一瞬、きょとんとした顔をしたが…それからはっとした顔になり…やがてニコ~っと
笑うと、両手を口にあてて照れた表情を見せた。
…どんなに疲れていても、この笑顔には本当に癒される。
本当に、まったりぽやぽな…鋼鉄の女神さまだ。

351:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:42:46 siq1EwqU
受付にカギを預けようと覗き込んだところ、例の『シュワちゃん』がふいに脇からやってきた。
「あ…済みません」
巨漢で一見こわもてだが、白い歯が見え、いつもの事ながら、その落差にちょっと笑いが
こみあがるが、考えてみると巴よりは背が低かったりする。
「ちょっと裏でトラブルがありましたもので」
カギをおれから受け取り、シュワ氏が頭を掻きながら軽く一礼した。
「ケンカか何かかい?」
「いえ…クルマを運転していたドロイドが急に倒れたそうで」
「…そいつは怖いな」
「運転代行会社と、ドロイド・サービスセンターに連絡したので事なきを得たのですが…
たぶん…今朝からの続きかと」
「そういえば、ドロイドのトラブルは、その後、どうなったんだい?」
おれの問いに、シュワ氏は複雑な表情を浮かべて首を振った。
「依然として改善されていません」
「…君たちは…無事なようだが」
「はい…幸いにも我々には何の兆候も無いので、大丈夫だろうと言われてますが…」
そう言いながら彼は巴を見上げた。
「どうやら貴女も大丈夫そうですね」
「はい…全然問題ありませんですよ~」
巴の様子に、何を思ったかシュワちゃんはほっとした様な顔をした。
「…それは良かったです…」
「何かあったのかい?」
「現在…市井の40パーセント以上のドロイドたちが、機能不全に陥ってまして…ここの
明日の業務も、大半が半身不随なままになりそうでして…」
「そういえば…ここで働いているドロイドたちは?」
「同じです…営業補佐と清掃関係のドロイドたちが軒並みダウンしていまして、我々も
これから夜間清掃の手伝いに就くことになっています」
「そりゃ、大変だなぁ…」
シュワちゃんはニャッと人懐っこい笑みを浮かべた。
「いえ…我々には大したことはありませんし、頼りにしてもらえるのは嬉しいものですよ」
そう言いながら、だが彼は少し表情を曇らせながら続けた。
「ただ…一刻も早く事態が収拾されて欲しいものですね」

352:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:44:46 siq1EwqU
帰りのクルマの中で、おれは昨日からの出来事を思い返していた。
ドロイドの違法改造ショップのこと。
そこで出会ったFBI捜査官のバンとジェーン。
彼らから聞いたシンクロイド・システムのこと。
そして今朝から起きているという、一連のドロイドの機能不全事件とバンたちの行動。
これらには何か深い関わりがあるのではないか?

…それに…。
何故、巴やネネ、チャチャ、シローたちには全く影響が出ていないのか?

これらが…何故かおれには、一本の『線』で繋がっているように思えてならない。
理由は判らない…だが…。
取り分け…シンクロイド・システムという言葉が、いつしか頭の片隅に引っ掛かっていた。

353:名無しさん@ピンキー
07/11/04 13:46:25 siq1EwqU
>>346>>352 やっと上げられました。
規制解除まで長かったです。

354:@巴のマスター
07/11/04 14:17:19 siq1EwqU
>>324さま 超カメレスで済みません(規制で引っ掛かってまして)
ほ、本当に…も、申し訳無いっす…(汗)
第一印象は、まあ何で親父たちは、こんなデカくて呑気そうなの…を…とか
思ったんですけどね…w

…あ、巴…ジト目で睨むな。デカいのは確かだろ…?って…痛てて…!
ぽかぽか叩くのやめい!…あ~…だから今はそれも魅力だって…。
お?…え、何だ…今度は?瞳うるうるさせて…って……ぶ…!
ぐぎゅ…く…く…苦し…む…胸に…押し付けるなぁ…。

はぁはぁ…>>324さん、オムニジャパンのHPをご覧下さい。
流石に生産中止されて数年ですので、まっさらの『新人』は無理ですが、
最近、新しいボディへAIを載せ換えられて返納された娘たちが、若干数
現行仕様に直されてリビルトされ、文字通り新たな心を持って嫁ぎ先を
待っているそうですので…。
巴も、妹が良い所に嫁ぐなら嬉しいです…と言ってますし。
…ちなみにベースが軍用で凄く丈夫ですから、ボディガードも兼ねて
くれますし…何と言っても飯が美味いですよ…w

355:名無しさん@ピンキー
07/11/04 16:12:12 /JlC0aId
毎回、楽しみに読ませてもらっているが
だんだん このマスターを嫉妬でくびり殺したくなってきたわw

大丈夫、巴ちゃんは俺が引き取るから♪

356:324
07/11/04 19:45:10 4AYGhb7t
>>354
みっ…見せつけやがって…



オムニのHP内を探しに探し、やっと見つけたぁっ!!
と思ったらSOLD OUTっておい……んん?

…まさかこのスレの中に抜け駆けした奴いねえよなあ……(#゚∀゚)

357:名無しさん@ピンキー
07/11/04 19:57:50 Lt0WHf6G
>>356
え?そんな馬鹿な…さっきまで出てたよ。
楓とか渚とかあった筈だけど。

358:名無しさん@ピンキー
07/11/04 20:07:18 eRHVmixl
済まん!『千里』ならおれが買った。許してくれ…。


359:名無しさん@ピンキー
07/11/04 21:12:50 k7k21VLd
喪前ら……楽しすぎですw

360:名無しさん@ピンキー
07/11/05 02:11:41 Tt7X2Mzc
何気なく覗いたら出てたんで……
「春日」なら俺のところに……

361:名無しさん@ピンキー
07/11/05 04:25:34 5EjYLcty
>>360 それって「かすが」?「はるか」とか「はるひ」とも読めるがw

362:名無しさん@ピンキー
07/11/05 04:27:32 hTSiP5FL
オムニから受注で簡易メンテキットその他の用品を扱ってるんだが、急に注文増えたと思ったら

あ ん た ら か w

在庫はかき集めとくから、必要なときはオムニの通販で注文しておいてくれ。
オムニの担当、喜ぶだろうなぁ…うちの部長もバンザイしてたし。
…体内洗浄液とかスキンオイル、医療用特殊潤滑材とか…あっち方面用の消耗品は多めに発注かけとこうかな(にやにや)

しかし誰だよ、最新素材の内蔵擬似生体膜セットを買い占めてった奴は。


363:名無しさん@ピンキー
07/11/05 09:32:39 HdyhlSMt
「中古なのに新品」ってとこがいいんじゃまいかwwww

364:@巴のマスター
07/11/05 16:20:32 LM4ny7Ol
その晩も…ともねえが夢に現れた。
赤毛のツーテールの少女の面持ちで。
瞳の色は群青…。
にっこり笑いながら、おれに両手を差し伸べる。
おれも両手を伸ばし、その手を取る…。
柔らかく、温かで、優しく心地よい感触。
と、ともねえの顔が突然、巴と重なり、おれははっとなった。
豊かな黒髪…ポニーテール…瞳の色は黒…でも…でも…?
その顔立ちは…驚くほど似ていないか!?
…いや、そんな馬鹿な…。
それとも…昔のおれの記憶が、大好きだった『ともねえ』を、今、最愛の巴と混同させているのか?
『わたしは…いつもあなたのそばにいますよ』
…おまえ……いや…『きみ』は…誰なんだ?
すると『巴』は僅かに目を細め、小さく小首を傾げて微笑んだ。
『誰だと思いますか?』
なんだって?
『「誰」だと良いのですか?』

次の瞬間、目が覚めた。
かばっと布団を剥ぎ、おれは身を起こした。
デスクの上のスタンドライトがひとつ灯っていて、カーテン越しから夜明け前と判った。
あたりは、しんと静まり返っていたが、微かにきーんという耳鳴りに似た音が脳裏に響き
思わずふうと溜息をつく。
時計を見ると四時半過ぎ…起きるにはまだ早いかな。

365:@巴のマスター
07/11/05 16:21:19 LM4ny7Ol
久しぶりに二日続けて、ともねえの夢を…それも、巴に変わる夢など見るとは…。
…おれが大好きだった『ともねえ』と、巴を重ね合わせているのだろうか?
………もし、そうだとしたら…そう考えると…少し凹む。
どちらも大切な存在だ…なのに、どちらかをどちらかの『代用』としているとしたら…
人としては最低だ…。
むしろ秀一の様に、きちんと…気が多いとは取れるが…人間の彼女一人とドロイドの
パートナーたちに平等な愛情や想いを注いでいる方が…人として正しくは無いか?
『「誰」だと良いのですか?』
『巴』の言葉と微笑みが脳裏に蘇る。
…やはり巴だろう。
それには迷いは無い。
最近では、人とドロイドが結ばれ、正式に婚姻したばかりか、卵子を提供してもらって、
それに遺伝子情報伝承処理を施して出産したケースもあると聞く。
はっきり言って、そこまで至るかは判らないが…。
巴も、『ぼっちゃまが結婚されても…要らないと仰るまでお傍におります』と言って
くれているし…おれも絶対に手放すつもりは無い。  
…でも…。
ともねえは…どうなんだ?
もし、忘れてしまったら…。
ともねえが大好きで…彼女に幼い告白をした…想いが失われてしまったら…。
彼女に…ともねえに…とても済まない気がしてならない!
でも…それでもおれは…巴が好きなんだ…。
おれは両手で顔を覆った。

366:@巴のマスター
07/11/05 16:21:53 LM4ny7Ol
ふいにカチャリとドアが開き、顔を上げると、心配そうな顔の巴がそこに立っていた。
白のネグリジェ姿で、髪は解かれ、腰まで美しい黒髪が垂れている。
「あ…の…どうか…なさいましたか?」
例によって小首を傾げる仕草で…こちらをじっと見つめている。
遠慮がちだが、それでもおれに何かあったらすぐ飛び出そう…そんな気配を感じる。
その、愛らしくも健気な表情を見つめるうちに、おれの中でひとつの決意が生まれた。
バンもそうした。
秀一も既にそうした。
…上手く行くかは判らない。
理解してもらえるかは判らない…。
でも、ここでケジメはつけておかなくてはならない。
男として…人として。
「こんな時間で悪いんだが…暫く…話を聞いてくれないか?」
いつになく…らしくないな…と思いつつ、おれは至って真面目に口を開いた。
巴は暫しきょとんとした顔をしたが、微かに笑みを浮かべた。
「わたし、ドロイドですから…時間は問題ありませんよ~」
「充電は?」
「きっちり…終わってますです」
笑顔だが、どこかおれを気遣う雰囲気が感じられ、おれは内心済まなく思った。
「あ、え…と、お茶でも…お淹れしましょうか?」
「いや」
おれはそっと首を振った。
「巴さえ居てくれれば良い」
「え?」
この際、水入りは不要だ。

367:@巴のマスター
07/11/05 16:22:44 LM4ny7Ol
ベッドの縁に、大柄な身体をちょこんと腰掛け、巴はおれの顔を見下ろしていた。
腰掛けると幾分身長差が無くなるようだが、それでもまだ巴が上だ。
「ぼっちゃま?」
流石にいつもと様子が違うと気付いたのか、巴は少し不安そうだ。
おれ自身…寝覚めでアタマがヘンになっているのかも…と思いつつも、妙な決意と
高揚感で…ともかくこう言った。
「おれは…巴に…懺悔しなくちゃならない」

暫し沈黙があった。
…と言うより、はっきり言って巴が目を丸く見開いたまま、固まってしまったのだ。

「……わたしに…懺悔って…あ…あの…」
やっと言葉を発した巴の瞳が潤んでいる。
ちょっと待て…何を考えたんだ?
巴が次の瞬間、わっと泣き出す。 
「それって…もしかして……わたし…お払い箱って…ことですかぁ…」
「ばか!」
巴はすっかり泣いている。
「それだけは絶対ない!!」
思わず怒鳴りつけ、巴を抱きしめる…ようで、逆に巴に抱きすくめられてしまった。
「…よ…よかったです~」
「おい…泣くなよ~」
何だか体格差からすると、泣き虫の姉さんをなだめる弟みたいな図だな…と思い、
それから、ふと、ある出来事を思い出してこんな事を言った。
「こうしていると…巴は泣き虫のねえさんだな」
「…だ…だって…いきなりわたしに懺悔なんて~」
瞳を赤くした巴がそっと身を離し、おれの顔を見据える。
おれは覚悟を決めて…一気にまくしたてた。
「おれが話したいのはね…その…おれが、巴以外の、ある女性にも昔から好意を持っていて…
気持ちも未だにあると…気付いてしまったからなんだ」
巴はじっと…真剣におれの顔を見据えている。
その気迫に、一瞬たじろぎそうになったが…おれは頭を下げ、なおも続けた。
「今は巴一筋だ…その気持ちに嘘はない…!でも、おれは…」
「ともねえ…も、大好き…?」
ふいに予期せぬ事を言われ…しかも巴の声が変わったような気がして、おれはギョっとなった。
「……巴?」
顔を上げ、巴の顔を見つめると、またもや瞳が潤んでいる。
「嬉しい…」
「あ…え…」
そのまま、おれは巴の唇に言葉をふさがれ、そのまま何の抵抗も出来なくなっていた。

368:@巴のマスター
07/11/05 16:24:35 LM4ny7Ol
本来ならば…おれが未だに初恋の人の事をどこかで引きずっていて、夢にまで見ている事を
巴に詫びるつもりだったのだが…。
何だか…予想外な展開になってきて、おれ自身が困惑し始めていた。

やがて恥ずかしそうに身を離した巴は、静かに頭を垂れた。
「…ご…ごめんなさい…ぼっちゃま…」
「いや…それは良いんだが…」
おれは最大の疑問を口にしていた。
「おれが…ともねえを好きだってこと…何故…。それに」
そっと顔を上げた巴は、珍しく、おれの問いには答えず、こんな事を言った。
「…わたしのAI名…ご存知ですか?」
「たしか…『tomo』」
そう…それは知っていた。
だが…あくまで偶然だと思っていたのだ。
おれの両親も、おれが、たまねえを好きだった事を知っていたし、だからこそ敢えて巴を
選んできてくれた…いつしか、そう思っていたのだ。
「わたしは…」
巴は涙を拭き、それから穏やかな笑みを浮かべて、静かにこう言った。
「『ともねえ』の…分身だったのです」

暫く時間が止まってしまったように思えた。
おれ自身が、告白するつもりが…。
とんでもない事実を知る事になってしまった。
「…それに気付いたのは昨日の晩…でも、確証を持ったのは先刻でした」
「昨日と…先刻だって?」
そういえば、おれが夢で見たのと同じ頃だ。
思わずおれは口を開いていた。
「はい…」
巴はそっと目を伏せ、それから暫し躊躇しながら続けた。
「…夢を見ました。…そこでわたしはぼっちゃまと出会いました。そこでぼっちゃまは、
わたしをともねえと呼ばれ…わたしも自分の姿が変わった事に気付きました」
「…あの夢…巴も見たのか…」
「では…ぼっちゃまも?」
巴も驚きの表情を浮かべる。
「…そして…わたしの心に…断片的にですが、幼い頃のぼっちゃまとの記憶がすっと
流れ込んできました…もちろん総てではありませんが…」
「ちょっと待て…それって…」
おれの頭に、ずっと引っ掛かっていたある単語が浮かんできた。
「シンクロイド・システムか…」

369:@巴のマスター
07/11/05 16:25:52 LM4ny7Ol
「はい」
巴はしっかりと頷いた。
「たぶん…わたしが一昨日『記録』と言ったのは、その為だと思います。…もっとはっきり
言いますと、わたし自身が、最初のシンクロイド・システムに試用されたのです」
「…ジェニファーさんとジェーンの様な関係なのかい?」
「それよりは、もっと技術的にも初歩的な物かも知れません」
こうして理路整然と話す辺りは、確かにともねえの面影がある。
「それすらも思い出せたのが、つい先刻なのですが…」
…だが、同時に、いつもの巴がきりっとした時も同じであると気付き、おれはほっとした。
「ただ…ともねえ…『朋』としての記憶は殆ど受け継がれなかったのですが、意識…心は
このわたしに遺されたのだと思います」
「じゃ…巴の心は…」
「たぶん…『朋』がベースになり、改めて巴として完成されたのだと思います」
ということは…巴は、ともねえの実の分身であり、生まれ変わった存在とも言えるのか。
ジェーンに対する巴の反応が改めて、良く判る。
おれは、安堵すると共に…それでも…やはりけじめをつけなくては…と思った。
そして巴の両肩に手を添え、それから改めて頭を下げた。
「巴…そして…巴の中に在る、ともねえの心に謝るよ…おれは…どちらも好きだ。でも、
男としては、二股掛けていたみたいで…」
そう言い掛けたおれの口を、巴は人差し指を立ててそっと制した。
「でも…『わたし』としては…幸せ独り占めみたいで…とっても嬉しいですよ」
「巴?」
「…だって…あくまで巴として見てくださって、それだけでも嬉しいのに…」
「え?」
「わたしが…ぼっちゃまの…昔からの大切なひとでもあったなんて…」
「え…あ……」
「もちろん…一部ですし~…わたしは『朋さん』みたいなしっかりものじゃないですけどね」
そう言って、小首を傾げてにっこり笑う巴。
おれは呆気に取られ…
「あ…いや…考えてみると、あれで結構、そそっかしかった気がするよ」
ついそんな事を言っていた。
「そ、そうですかぁ…それって、喜んでいいのか、悲しんでいいのでしょうかぁ?」
巴は複雑な表情で笑ったが、やがてそれは満面の笑みに変わっていた。

すっかりいつもの巴に戻っていて、おれは心底嬉しく思った。
巴の中に『ともねえ』が生きている…その事実は衝撃だったが…知ることができて
良かったと思うし…大好きな二人が、ひとつの存在として常に傍にいてくれる事の
幸せを改めて強く感じる。
…そして改めて…いつもは悪態をついているけど…
巴を寄越してくれた両親に深く感謝した。

370:@巴のマスター
07/11/05 16:28:22 LM4ny7Ol
少し早いけれど…ちょっと気持ちがすっきりしたので、完全に起きる事にした。
睡眠時間は四時間…。
まあ今日は巴が運転してくれるというから、行きの30分はクルマで仮眠するか。

食事までの間、おれと巴はすぐに出かけられるよう着替えて、リビングのソファに
向かいあって腰掛けていた。
…色々な思い出話や疑問が飛び出す。
おれの、ともねえとの思い出話は、大半は巴の『知らない』事ばかりなようだったが、
泣いているともねえを、おれが一生懸命慰めようとしていた事は思い出していた。
「…朋さんは…天才科学者で、オムニの顧問として働いていたのですが…」
巴がそっと目を閉じる。
「あの時は…研究が行き詰って、色々と辛い事があったのです」
「ともねえ…は研究員だったのか…」
てっきり、奨学生だとばかり思っていたので、これにはおれも驚いた。
「ジェニファーさんの前に日本で現れた天才少女って…ともねえだったのか」
頷き、巴は目を開けた。
「…ただし、安全の為、表向きの名前は変え、普段は学校に通っていました。
確か『愛原ともみ』って名乗っていたはずです」
「…ギャルゲーに出そうな名だな…まてよ…普段は…ってことは」
「授業が終わった後と、土日に研究所に…」
「…ハードだなぁ」
「いいえ…クラブ活動みたいな感じで…それにぼっちゃまのご両親のチームに
ご一緒させて頂きましたから、当初は苦労なんて感じませんでした」
「うちじゃ、家事もろくにしないダメ親だったんだぜ…」
「お母さまは…料理の腕前は逸品で、お母さまの夜食は皆の楽しみでした」
「え?…嘘だろう…」
「お父さまは…開発チームでは、誰よりも頼りにされていましたし…」
「それって…記憶が捏造されてないか?」
ついそんな事を言うと、巴は困ったように小さく笑みを浮かべた。
「…そんなことはありませんし…決して家庭をおろそかにはされていませんでしたよ」
「…でも…」
「どんなに遅くに帰っても、朝には衣類が用意されていたのではありませんか?」
思わずハッなる。

371:@巴のマスター
07/11/05 16:30:13 LM4ny7Ol
巴は控えめだが、はっきりと通る声で続けた。
「朝食も…簡単なものかもしれませんが、用意されてましたよね」
「…まあ…おれが食べる前に、大抵、出かけちまったがね」
「ゴミも『これを捨てて下さい』ってメモがありましたよね」
「…でも…土日だってろくにいなかったぜ」
「確かにそうです…でも…丁度、あの頃は窮地に立たされていたのです」
巴は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「オムニジャパンは『OJ-MD2』…今の、このわたしのベース機を絶対の自信を持って
発売したのですが…直後に新参入の大和重工から、完全な人型サイズになった
『YJ-SY1』こと『小百合』が発表されたのです」
「…あ…そうだったか…」
おれは、あの頃のことを思い出していた。
親父がいつになく苛立っていて、普段の『のんきな父さん』ぶりからは想像できない
怖さで近づけなかった上、お袋もいつになく暗い顔をしていた。
「…本当は…OJ-MD3を同時発売する計画だったのですが…ともかく早く発売しろという
上からの命令で…仕方なくOJ-MD2が量産され、OJ-MD3の開発は一時中止に…」
OJ-MD3とは第三世代の完全人型サイズドロイドで、当時は、YJ-SY1の宿命の
ライバルとも呼ばれるほど、両者のユーザーは多かったらしいが、当初は大苦戦を
強いられていたらしい。
「ご両親は猛反対されました…YJ-SY1の噂は聞いていましたが、仮に試作品が発表
されたとしても、こちらが先に製品版のOJ-MD2と、OJ-MD3を同時発売すれば、一気に
ひっくり返せるから…と。でも…ともかくエポックメイキングさえ先に出せば勝てると、上は
考えていたのでしょうね…。そうすれば試作品ごときに負けはしないと」
「その結果は…惨憺たるものだったと」
「出て半月で…新製品待ちで八割がキャンセルですよ」
巴が両手の拳を固めて、ぷるぷると震わせる。
「OJ-MD2の修正や生産ラインの整備が優先で…OJ-MD3の発売は結局五ヶ月遅れました。
もし順調に行けば、生産ラインを共用して二ヶ月後には発売できたのに…。OJ-MD3の
発売はYJ-SY1発売の二ヵ月後…既に新規ユーザーの七割がそちらに向いていました。
…そしてその責を、わたしたち開発スタッフが負わされたのです」

372:@巴のマスター
07/11/05 16:30:54 LM4ny7Ol
「なんだって!?」
「昼夜兼行で五ヶ月も…不満ひとつ言わずに頑張ったのにですよ…!」
いつになく巴の声が上ずっている。
「その間は…『朋さん』も…やむなく休学していました…それなのに…」
あの時…ともねえが泣いていたのは…その為だったのか。
不本意な命令を受けても頑張った挙句の、あんまりな仕打ちでは…辛いだろうし…
悔しくも悲しくもあるだろう。
「それで…親父たちや、ともねえは…」
「はい…アメリカに『研修』の名目で左遷されてしまったのです…」
「責任転嫁…トカゲの尻尾切りか…」
いちいち思い当たることがある。
いきなり『アメリカに行く』と言われ、おれは泣いて抗議した。
ろくにうちに帰ってこない両親に、今までの慣れ親しんできた環境を壊されるようで…。
親らしいこともしないで…ふざけるな!と。
だが…結局、親父達は笑って許してくれた。
あの時の二人の一瞬見せた寂しそうな表情は…。
今でも忘れられない。
「あの頃の事は、今もってご両親にとっても…悲しく辛い思いとなって残っておられます」
「ああ」
おれは大きく頷いた。
「わかったよ…っていうか…巴のおかげで、親父たちをちょっと見直した…」
「ぼっちゃま?」
「確かにさ…研究だ、仕事だに打ち込んで家庭を顧みなかった…って部分はあるけどさ…
今にして思えば、それでも精一杯の事はしてくれてた訳だし…」
そうだ…むしろ、今にして思えば、おれ自身には不自由な生活は強いられなかった。
ただケジメはつけろ、正しい責任感を持ちなさい…とは、散々注意されたもので、それが
今のおれを構成しているかと思うと、改めて感謝するまでだ。
「おれも仕事に就いてから、責任ある仕事を任されたら、どれほど厳しくてもやらなくては
ならない時がある…って、判るトシになったしさ…」
「いつかきっと…きちんと話してあげてくださいましね…」
巴の様子が、まるで乳母のようで思わず笑みを漏れた。
「その時は…一緒に行って、思い出話しでもしような」
「はいです!」
巴はいつものように、小首を傾げ…それから右手で敬礼に似た会釈をして、にこっと笑った。
…新しいスキルを身につけたかな?

373:@巴のマスター
07/11/05 16:31:45 LM4ny7Ol
朝食の間…テレビをつけてみて、おれと巴は、外で起きている様子を改めて知った。
家庭用のドロイドたちが軒並みダウンし、各種店員やメイド、サーヴァント、運輸などに勤めている
ドロイドたちが眠るように倒れていたり、僅かに痙攣を起こして苦しんでいる様子が映しだされ、
思わず何度か目をそむける。
いくらドロイドと言っても…やはり人に近い姿は生々しい。
巴も唇を噛んで暫く我慢して観ていたが、悲しそうな顔でやはり何度か目を背けていた。
「シンクロイド・システムが絡んでいるのだろうか…?」
湯のみを手にして、ふと言葉に出して呟くと、右横に立った巴は、すっとしゃがみ、テーブルに両腕を
ついて頬杖をつきながら、おれの方を向いた。
「…ぼっちゃまは、どう思われます?」
「例のショップの件や、バンたちの動きからすると…間違いない気がするが…」
そう言いながら、おれは巴が複雑な表情をしている事に気付いた。
何と言うか…ちょっと不安で、甘えたいような…。
そういえば、こんな仕草は滅多にしないな。
おれはちらとテレビを見、改めて自分の鈍さと迂闊さに呆れた。
「そうか…おまえ…自分がシンクロイド・システムの影響で、過去の記憶を取り戻したかもって…」
「わたし自身には自覚がありませんでした…で、でも~…二日とも時間的にもぴったりですし…
多少は影響が出ている気がしてならないのです~…」
いつもの元気な様子が無い。
少し自信なさげな、困ったような笑顔。
「でも…どこにも異常は無いんだろ?」
「はい…でも…」
「シローだって磁場は感じたって言ってたじゃないか…そりゃあ、記憶は戻ったかも知れないが、
おれにとっては…それはとても嬉しかった事だし」
ポニーテールの髪に手をあて、そっと撫でる。
「どうせ、シンクロイド・システムのことは、おれたちにはどうしようもないし、巴に悪い影響が出ない事が
おれには今、一番大事なことだ。…世間の事は…今は、事態を見守るしかないじゃないか?」
「は…はい…そうですよね!」
目を細め、頬を赤らめて頷く巴の頭を、おれは想いをこめて優しく撫でた。

あくまで結果的に…ではあるが、シンクロイド・システムは、おれと巴には、今のところは、良い様に
働いてくれたように思えてならないが…。
これはあくまで偶然の産物だろう。
…いや、それとも…まさかとは思うが、何かの始まりなのか?
しかし、おれは一介のサラリーマンに過ぎないのだ。
そんなことあるわけない。

それにしても、果たして、この先、世間のドロイドたちはどうなるのだろうか…?
バンたちは、上手くやってくれるのだろうか…。
おれと巴は、テレビの映像を、なおも暫し見つめていた…。

374:@巴のマスター
07/11/05 16:34:58 LM4ny7Ol
>>364>>373 今回はここまででございます。


375:@巴のマスター
07/11/05 16:50:58 LM4ny7Ol
いきなりリアルに戻って済みませんが…。
>>331さま
ライバル会社の名として『大和重工』の名前、使わせて頂きました。
いきなり第三世代から入ってきた新進のメーカーで、オムニジャパン他
数社と競っていて、かつてのホンダかソニーのようなメーカーという
設定にさせて頂きました。

376:名無しさん@ピンキー
07/11/05 21:44:43 1eIknIsI
どうなっているんだ、ここの世界観はw

とまれ、GJ! >>375

377:名無しさん@ピンキー
07/11/06 01:23:29 moO6+abU
>>376
ここに世界観なんて元から有って無いようなもの。
今更言ってもしょうがない。
自分としては「楽しいから良い」なんだが・・・何か問題があるのか?

378:@巴のマスター
07/11/06 11:07:06 BXdel8rl
午前七時…。
火曜の朝も晴れ渡った空で、思わず、う~んと伸びをする。
屋外に出されたおれの銀のクーペが陽に照らされ、きらきらと輝いている。
大きな荷物は昨日から積みっぱなしだし、後は乗り込むだけだ。
「ぼっちゃま」
振り返ると、今日は白のワンピースに身を包んだ巴が、細い瓶を二本差し出した。
「いつものスタミナドリンクです…今日は睡眠も不足がちですし~…あのぅ…よろしければ」
「お、サンキュー…この時期には欠かせないぜ」
毎月恒例の『マ○ビ○ビン』という、なかなかトンデモ名だが、これで効き目が抜群の
ドリンクが出て思わず笑ってしまう。
受け取るやすぐに一本を脇に抱え、もう一本の栓を開け、一気に飲み干した。
「しかし…これ、いつもどこで買ってるんだ?」
「え…と、駅前の薬局さんです~…」
この商標名…巴が口にしてるのかなぁ…と、思い、ちょっと吹き出すが、おれの為だし、
何か健気に思えて、逆に嬉しくも申し訳なく思った。
「今度からネット通販で買ったら?」
すると巴はそっと首を振った。
「でも~、これ、そこそこ良い値ですし…お得意さまが減ったら、お店さんが可哀想じゃ
ありませんかぁ?」
思わず言葉に詰まる。
そういえば課のメンバーからの頼まれ分も含めると、毎月2ケースは買ってたっけ。
一本…○千円だから…まぁ…確かに。
「今、小売店さんって、量販店さんに押されて…結構大変なのですよ~」
それは確かだろうが…巴も、これでうら若い乙女…恥ずかしい思いをさせるのは…。
「でも…名前が…」
思わず言ってしまうと、巴は左手に腰をあて、右手の人差し指を立ててちっちっちと舌打ちした。
…って、どこでそんな仕草を覚えたんだ?
「そういうのは~…照れずに言うのがコツなのです~…わたしが飲む訳ではありませんし、
…ぼっちゃまもまだまだ甘いです~」
「そ…そうか」
「でも…お気遣いはとっても嬉しいです~!」
にこっと笑う巴。
…まったりぽやぽやなんだけど…結構見る所は見てるし、それなりにしっかりしてるんだよな。
ま、本人がそれで良いって言ってるなら、それで良いか。
「二課の皆さんからのご依頼の分は積みました」
「じゃ…行こうか」
おれは助手席のドアを明け、素早く乗り込んだ。
「はいです」
ドアを開け、恐る恐る身を縮めて運転席に乗り込む巴。
例によってシートはぎりぎりまで後ろに下げ、リクライニングも少し倒している。
ドアを閉じ、三点式のシートベルトをつけると、おれの方を見、それから頷いた。
「ベルトも付けられましたね…行きますです」
軽やかにシフトチェンジさせて、巴はクルマを走らせた。

379:@巴のマスター
07/11/06 11:07:51 BXdel8rl
出し抜けに『ワンダバ』のメロディーが掛かり、おれははっとした。
ある特撮番組で防衛チームが出動する時の、勇壮さと決意を込めたような、それでいて
リズムの良いテーマ曲をアレンジした着メロだ。
巴は運転中だから、当然おれが出なくてはならない。
充電器から外して、すぐにスイッチを入れて耳に当てる。
「もしもし…」
『おう…おはよう…そっちは…無事か?』
久しぶりに聞く声に、おれはほっと息をついた。
親父だ。つい敬遠がちになっていたが、今日は聞けてほっとする。
「ああ…おれも巴も無事にやってるよ」
『そうか…それは良かった。この時期だと、月次処理だな。出勤の途中か?』
「ああ…寝不足なんで、巴に運転してもらってるよ」
『ともちゃんが運転か』
親父のほっとする声が聞こえ、おれは思い切って切り出してみることにした。
「…なあ、親父……巴は…ともねえの分身だったんだな」
『…え…?』
親父の声が上ずった。
「今朝…全部聞いたよ…」
『…それは…彼女からか?』
「ああ、直接ね…まあ…色々あってさ…」
『………』
「あ、いや、誤解しないで欲しいんだが…おれ、感謝してるんだよ。親父とお袋に…」
『………』
「親父達が巴を選んで、おれの下へ寄越してくれた時、おれは何でこの娘なんだ…と
思った。けどさ…一年以上暮らしていくうちに…本気で惚れた」
『…おまえ…本気でって?』
「勿論、本気で惚れたんだよ…でもな…ともねえの事、ずっと引っ掛かってたんだ…」
『わたし達が…おまえに話さなかったのは…』
「おれが、巴を巴として大事にして欲しかったからじゃないのかい?」
『…そうだ…できれば…朋くんの心を受け継いだ彼女を、お前の傍に置いてあげたかった。
だが…できる事なら、巴くんとして…おまえにもまっさらな気持ちで接して欲しかったのだ』
「今ならその意味…良くわかるよ」
おれはちらと巴の横顔を見た。
巴の聴覚からすればすべて筒抜けだ。
運転に注視しているが、音声は総て聞こえているのは間違いない。

380:@巴のマスター
07/11/06 11:09:20 BXdel8rl
「ともねえの心は受け継がれても、記憶は受け継がれない…そういうものだったんだろ?」
『…確かにそうだが…何故、おまえはそこまで知ってるんだ?』
ふいに訝るような口調になり、おれは少し探りを入れるつもりでこう言った。
「…そうだな…オムニ・アメリカのジェニファー女史の一件…知っているかい?」
おれの逆の問いかけに、電話口の親父はかなり驚いた様子だった。
『おい…あれは…一部の者しか知らない極秘の…おまえ、何故、それを…』
「親父も関係者だったのなら…秘密は守ってくれそうだな」
『あたりまえだ!あれは…彼女の最期の大切な行為だった…口外など出来ない…』
「それなら…シンクロイド・システムはどうして、こういう歪んだものになったんだ?」
「ぼっちゃま?」
驚いた様子で、素早くクルマを脇に寄せて止めながら、巴がおれの方を向く。
今、世間を騒がさせているドロイド一斉機能不全事件が、シンクロイド・システムが原因だと
いうのは、半分はアテ推量、半分は状況証拠からに他ならない。
だが、この際、はっきり知っておきたかった。
だから敢えて、はったりも交えて問い質してみる事にした。
「本来は人が生まれ変わる為のものだったんじゃないのか?」
『……電話口で話すような内容ではないが…』
親父がふっと溜めていた息をつく音が聞こえた。
『まあ良い…どうせおまえの携帯にも、重秘匿信号変換装置が付いているしな…』
「…いつ、そんなもの?」
『おまえも、まだまだ甘いな…』
ふっと親父の笑い顔が脳裏に浮かんで、おれは思わず失笑を浮かべた。
「どうせ巴を騙して、こっそり取り替えたんだろ」
『まあ…それで極秘事項のやり取りができるんだ…許せよ』
「この場合は良いけどさ…今度やったら、本当に訴えるぞ…」
『それを実証できるならな…』
「なあ…親父…ともかく、脱線してないで話を続けてくれよ」
おれは流石にイライラしてきた。

381:@巴のマスター
07/11/06 11:10:10 BXdel8rl
そうなのだ…親父とは、こういう得体の知れないやりとりが、いつも苦手なのだ。
だが、次の言葉は予想に反していつになく厳しい口調だった。
『シンクロイド・システムのことは誰から聞いた?それを教えてもらわない事には、
おまえと言えども、これ以上、一切話せんぞ』
これには、おれはちょっとカチンときた。
「…ちょっと待てよ!…身内の恥はバラしたくないってわけかい」
『なに!?』
「この一件、オムニ・ジャパンが資本提携している、かの有名ドロイドショップチェーンが
絡んでいるじゃないか…違法改造なんでもござれの…さ」
『…な……何故それを…』
「そこでのトラブルに、おれと巴は危うく巻き添えに遇う所だったんだよ…銃を突きつけ
られてさ…しかも戦闘用ドロイドまでいてさ…。この意味…判るかい?親父」
『…そんな…馬鹿な』
「おれも口止めされていてね…これ以上は口外すると、命が危ういんだよ」
勿論半分は嘘である…が、バンたちの事は、彼らの許可を貰わなくては絶対話せない。
「ま、最悪にして親父たちがオムニ・ジャパンで、その昔にされた仕打ちを考えると、
そういう連中に手を貸していたとしても不思議じゃない…」
『待て!…我々がそんな事をすると本気で思っているのか? 』
「真実を話さず、実の息子が被害に遇ったってのに…その態度…信じられると思うのかい?」
『…………』
「それに…今、親父たちは何をしているんだ?街は大変な事になっているんだぞ!」
…暫くの沈黙があった。
時計を見ると…もうかなり経っている。
親父の息づかいらしきものは聞こえるが…返事は無い。
こちらが折れるのを待っているのか?
冗談じゃない…もし彼らが本当にテロリストやエージェントだったら、おれたちの命は
無いんだぞ…ましておれは、巻き込まれた一人として訳を知りたいだけなんだ。
今回の事は何故起きたのか…と。
「…わかったよ…おれは事件の当事者として真実を知りたかっただけだが…仕方ないな」
おれはついに宣告した。
「巴の件では本当に感謝するけど…おれはもう一切、貴方とは話さないよ…これっきりだ」
「ぼっちゃま…!?」
巴が悲痛な声を上げる。
「じゃあな…」
『あ、待て…』
受話器から小さくそんな声がしたが、おれは構わずスイッチを切った。

382:@巴のマスター
07/11/06 11:11:13 BXdel8rl
「ぼっちゃま…そんな…」
巴が狭い車内にも構わず、何度も首を振った。
「いけませんです…あれでは絶縁宣言です~」
「確かにそうだ…でもな…あれは賭けなんだ」
おれも頭に血が上っていたとは思う。
でも、あくまで企業秘密をタテにガンとして何も言わない親父の姿勢には本気で腹が立った。
確かに、秘密を守る事の重要性はわかる。
だが、ここまで事実を知っている者を信じないのは…。
まして、家族なのだ。もっと信じてくれたってよかろう。
親父が企業秘密だと言うのなら、ある程度でも良いから情報公開すればよいのだ。
おれは、少なくとも…知っている情報の幾つは提示したのだ。
それなのに突然打ち切る辺りがあまりに腹立たしかったのだ。
しかもだんまりは決め込むわ…。
だからその為に、イチがバチかの大博打を打ったのだ。

暫くすると『ワンダバ』が鳴り、おれは暫く放っておいたが、巴の視線に仕方なく
携帯を手にしてスイッチを入れ、耳にあてた。
「…もしもし」
『…出てくれないかと思ったわ』
お袋の溜息混じりの声が聞こえた。
「かあさんか…なんだい?」
『なんだじゃないわよ…お父さん…すっかり凹んでるわよ』
「…信じられないな…息子たちが酷い目に遇ったってのに、その原因のひとつも何にも
話してくれないんじゃ、こっちから縁を切らせてもらうよ」
『…ひとつも話さない…ですって?』
お袋の声が一オクターブ上がった。
そして受話器の無効から、なにやらごそごそやっている音が聞こえてきた。
…うん…うん…それで?
ということで…おれは…
ばか!
お袋の一喝する声が聞こえ、おれはにやりとした。
そんな事だから、信用失くすのよ…もう良いわ!
再び受話器を取る音がして、おれは人差し指と親指で丸を作って巴に見せた。
『はぁ…ごめんね…全く、お父さんったら、ヘンに堅い上に、ジらしてたみたいよ』
こういう時は、お袋の方がよっぽどさばけている。
『でも…くれぐれも口外しないでね』
「できれば、極力そう努めるけどね…最終的な判断は…おれがする」
『……まあ、命の危険に晒された位なら…その判断はできそうね』
様は最悪の場合、黙認ということだ。
『良いでしょう…では、ともちゃんも聴力の感度を上げて一緒にお聞きなさい』
「は…はい、お母さま」
思わずそう答えた巴の声が聞こえたらしく、お袋の躊躇する声が聞こえた。
『…おかあさま?』
「あ~、そういう突っ込みはもう良いから…おれ、仕事に向かう途中だし」
慌てて言ったおれに対し、お袋がくすっと笑う声が聞こえた。
『ま、仲良くおやんなさい…そうそう、ちょっと確かめさせてもらうわね』
おれたちはちらと顔を見合わせ、思わずふっと苦笑しながらも次の言葉を待った。

383:@巴のマスター
07/11/06 11:12:03 BXdel8rl
『あのね…あなたたちがドロイドショップで遇ったっていうトラブルの事だけどね、実は
ここ最近幾つかあって、どれだか特定できないんだけど』
カチャカチャという音は、多分、キーボードかマウスを操作しているものだろう。
おれは小さく頷いた。
「それは…たぶん、ある人が、おれたちの入場記録を抹消してくれたんだろう…一昨日…
新聞沙汰にはなっていないが、警察に通報された事件で、戦闘用ドロイドの残骸が
見つかったものがあったはずだ」
『ん…これね……○○駅前店にて…』
暫し読み上げる声がした。
『確かに…あんたのうちからは一番近いわ』
「これで信じてくれるかい?」
『もちろんよ。そっか…その何者かは、データを消して貴方達の身を守ってくれたのね…』
流石はお袋…目の付け所が違う。
だが…少し気になるぞ。
「ちょっと待った…瞬時にそこまで判ったってことは…」
『もちろん…どのショップが怪しい動きをしているかは、だいたい掴んでいるのよ』
「…驚いたな…良くそんなシステムを持っているな」
『このところ、ドロイドの違法改造とか、武器を内蔵化して密売とか問題になっているからね。
それで念のために、チェーンショップの開店時には、必ずセキュリティ・システムを導入の上、
こちらで確認できるようオンラインを整備するよう、条項が加えてあるのよ。それでももちろん、
表向きは、普通のセキュリティが目的だけどね』
「…そのシステムには、警察も加わっているみたいだな」
『良いカンしてるわね。警察としても、非合法改造ドロイドや、武装化の取り締まりに苦労して
いる訳。だから、専門の部署があってこっそり対処してくれているのよ。
…正直言ってしまえば、貴方が言うように、これはウチの資本下のショップ…身内の恥。
むしろ、わたし個人としては、世間一般の社会問題として、膿を出す為にも、むしろオープンに
した方が良いのではないかと思ってはいるのよ』
お袋のこういうところは、政治的な駆け引きをしがちな親父より、ずっとすっきりしている。
『ただ、今は敢えて、表立ってそういうショップの事を明かさない事で「敵」に焦りを与え、
プレッシャーをかけて、様子を見ているのよ。じわじわと追い詰めて行こうってね…』
「…かあさんは…関係会社のセキュリティまで担当していたのかい?」
まるで警備主任のような、歯切れの良いお袋の解説には、さすがにちょっと驚いた。
『違うわよ…正確には情報処理、伝達、保存技術研究部部長…まあAIが主務なんだけど、
こういう事態が発生したときは、情報が絡んでくるでしょ?で、内密に監査もやっているわけ』
「…秘密と言った訳が判ったよ…様はそれが知られるとマズイんだな」
お袋の悪戯っぽい声が返ってきた。
『ま、そういうこと…わたしたちは本来、正規の監査役ではないからね、さしずめ隠密監査』
おれはちらと巴を見、それから思い切って重大事項のひとつを尋ねてみた、
「それで、その違法ショップの正体は判っているのかい?」
淀みない回答が返ってきた。
『テログループ・新人民解放連合の下部組織…様は武器売買と組織の資金調達をする連中』
「それは…警察に伝えてあるのかい?」
『もちろん…内密に処理しようなんて思ってないし、出来ないわよ』
「じゃ、シンクロイド・システムのことは?」
『これについては…最新技術だからね…』
流石のお袋も、少しためらった様だが、思い切った口調でこう言った。
『最悪な状況の場合…手を貸してくれるなら…話しても良いけど』

384:@巴のマスター
07/11/06 11:12:56 BXdel8rl
何をもってして、最悪な状況なのかは判らない…。
だが、お袋の言葉に駆け引きは感じられず、むしろ助けを求めているニュアンスが感じられた。
とはいえ、おれの立場もあるし…。
「一介のサラリーマンであるおれに、手助けができるようなものかい?」
まずは様子を伺ってみるか。
『…サラリーマンか…そうねえ…貴方の立場は確かにあるから、呼び出すのは難しいかな…
でもね、貴方の傍には、今、ともちゃんがいるでしょ?これって結構、大事な切り札になり得るのよ』
巴の名が出たことにおれは驚き、巴もぱちぱちとまばたきしてこちらを見守っている。
「…シンクロイド・システムの実験を受けたからかい?」
『そういうこと。そうね…じゃ、まずひとつだけ教えてあげるわ』
「あまり焦らされている時間も無いんだがな…」
『判ったわ。じゃ手短に…あれはね…テロリストに奪われて起動されたシステムが、今、周囲に存在する
ドロイド総てを、完全に思考的に自分と同化しようと躍起になっているのよ』
「思考的に同化…ってどういう意味だよ」
『つまり、自分と同じ意識に書き換えようとしてるの…すべてを自分の一部に…ってね』
「それって…なんだっけ…ほら…外国のSFであった…<抵抗は無意味だ>っていう」
『あたり!意識共同体ね…つまり総てをひとつの意思としてコントロールしようとしてる訳』
「……シンクロイド・システムって、人がドロイドの身体に意識を移して生まれ変わる…それが本来の
目的じゃなかったのか?そんな弊害があったのか?」
『もちろん、そんな事は想定していなかったし、本来あり得なかったはずよ』
「じゃ…どうして」
『…良く考えてごらんなさい。元々、シンクロイド・システムには被験者が必要なはずでしょ?今回の
騒ぎはテロリストからの声明も無いし、被害に遇っているのはドロイドたちばかり』
「…ということは…まさか」
『ドロイドが、シンクロイド・システムを使って暴走させている可能性が高いのよ』
「…そんな事、あるのかい?」
『証明はされていないわ。でも、その可能性が一番高いと思うのよ』
「…ドロイドたちには、どうして影響が出たり出なかったりしているんだ?」
お袋の苦笑いする声が聞こえ、おれははっとした。
気が付くと、かなり突っ込んだ内容を聞いてしまっていたのだ。
『結果的に…あんたの誘導尋問に引っ掛かったみたいね』
「あ…いや、そういうつもりじゃ無かったんだが」

385:@巴のマスター
07/11/06 11:13:54 BXdel8rl
『いいわ…貴方の熱意に負けて、はじめから総て話しましょう』
かなり時間が経っていたが、この際、仕方ない。
「たのむよ、かあさん」
『…シンクロイド・システムは、多分、貴方も知っていると思うけど、本来は被験者とそれに
コントロールされる、本人に、より近いドロイドと特別なユニットによって成されるものなの』
「でも、わたしは…違いますけど」
巴の声が聞こえたらしく、お袋は嬉しそうに鼻声で言った。
『ふふ…ともちゃんね…?…そうね。一次実験の時は、まだ素体が完成していなかったのと、
実験データがあまりに少なかったから…でも結果は悪くなかったの…記憶面を除けばね』
「マルチリンクがかかっている間のみ、記憶も共有できていたようです」
『正解…でも、巴ちゃんの中の、朋ちゃんの記憶はリンクが絶たれると消えてしまう…それでは
いくらなんでも可哀想だから…というので一次実験は中止になったの』
「それで通常のAIのシステムで記憶部分を構成し直して、今の巴になったんだな」
『そう。で、シンクロイド・システムの第二次試験では、より突っ込んだ研究が成されたの。
たぶん…巴ちゃんが覚えているのはそっちじゃないかな?』
そういえば、巴は確かに『臨床実験は一度だった』と言っていた。
…ともねえとリンクしていた時の記憶が欠落しているのなら、合点もいく。
『それは完成度の高いもので、朋ちゃんと、そっくりなドロイドの娘が完全にマルチリンクするばかりか、
アクセスが切り離されても記憶障害の無いものだったわ』
「じゃ…完成したのか」
『…完成したわ。でもね、オムニ・アメリカ本社に伝えた所、当時のプレジデントが、これは危険だから
これ以上の開発はやめるよう言ってきたの』
「テロリストの親玉の分身が何人もボコボコ出てくるのは困る…ってね」
『でも、勝手なものよね、その後のプレジデントが…自分の身代わりを考えて改めて開発を命じて…
それなのに、やっぱりまたボツにしたりして』
なるほど…バンたちが関わったのはその辺りだな…と、おれは気付いた。
『でも、朋ちゃんは、その考えに納得して、総てをオムニ・ジャパンに封印したの。…だけど』
「テロで重症を負い…そのまま」
『そう…シンクロイド・システムのオリジナルの存在を嗅ぎつけた連中の為に…ね』
巴がおれの瞳をじっと見つめる。
おれは大丈夫と言う様に頷き、そっと巴の頬に右手を添えた。
『巴ちゃんに一時休眠してもらったのは、その為だったの…その時は、まだリンクは切れて
いなかったから、もしかすると朋ちゃんとしての記憶が蘇る可能性がある。もしそれが
知られたら…』
「………」
『朋ちゃんは…その危険性を感じて、亡くなる直前、分身の一人である巴ちゃんにそれを頼んだの』
「だから…ずっと眠っていたんだな」
『時が経てば、シンクロイド・システムの事は忘れられ、巴ちゃんも単なる実験に携わった一人に
過ぎなくなる…そんな時、貴方が家を出ると言った…』
「それで…巴を再起動して目覚めさせたんだな」
『………』
「かあさん…」
おれは…いつに無く精一杯の感謝の気持ちを込めて…電話口ではあったが頭を下げて言った。
「ありがとう!…おれに巴を託してくれて…ともねえの心を蘇らせてくれて…」
暫くの沈黙があった。
だがそのうち、微かにしゃくり上げる音が聞こえ、鼻をすすりながらのお袋の声が返ってきた。
『…本当は…貴方が事実を知ったら… どうだろうと…とても心配だったのよ…』
「かあさん」
『父さんも言っていたけど…朋ちゃんの心は貴方に託したい。でもね、巴ちゃんは巴ちゃんとして
真っ直ぐに見てあげてほしかったの』
「今なら…多分…誰よりもそれを…おれが一番良く判る…そう思うよ」
『憎いこと言うじゃないの、我が息子殿』
お袋の泣きながらの冷やかし声が、胸にじ~んと響いていた。
巴は目を閉じ、頬に添えられたおれの手を、そっと握り締めてくれた。

386:@巴のマスター
07/11/06 11:26:32 yqxE6bPV
『…ごめん…先を続けるわ』
お袋が気を取り直して、少しだけ早口で続けた。
『それから暫くして、ある研究者から、本来のシンクロイド・システムは人間用だけど、これをドロイドが
使ったらどうなるのか…という提案があったの。もし可能なら、一体をコントロール用のメインサーバー
として一斉に命令を伝えて、様々な人海戦術を要する業務に応用出来ないか…ってね』
「…それは当初の目的と違うじゃないか」
『明らかに違うわ…でも、過去の研究結果を無駄にするべきでは無いという意見が出たのよ…』
「本来の目的以外なんて…人海戦術なんて…兵器転用だって…あり得るじゃないか」
『それに…ここが重要なんだけど…本来は、被験者の意識を新しいドロイドが得て、それから共有する
ものの筈でしょう?…それを…もし、それをまっさらでない、既に心を持ったドロイドたちに使ったら…?』
おれは愕然とし、目を開けた巴も顔色を変えた。
「…そうか…今のこの現象は…」
『わかった?…例えて言えば、ひとつのデバイスを使うのに、ドライバがふたつ以上あって干渉しあい、
動作不能に陥っているような状態なのよ…まあ、実際は『心』の部分だから、単純な話ではないの
たけどね』
そう言ってお袋は一旦言葉を切り、そして口惜しげに言った。
『で、ともかく実験してね、これは使えないって言っていた直後に、奪われてしまったのよ!』
「そいつはひどい…。……でも、一体、どうやってリンクを…」
言いかけて、おれは再びある事に思い当たった。
「…マルチリンク…システムですね。ぼっちゃま」
流石にこういう時の巴は頭が切れる。
「そうだ。常時、各種のデータをやりとりして、情報や経験値を集めるシステムだ…」
『その通りよ。あれに…シンクロイド波を情報データに変換して乗せたから…軒並み皆やられたのよ』
「…ともねえたちが心血注いで作ったシステムなのに…くそっ…」
『幸い、心ある、市井で人間達と暮らしているドロイドたちは、自我と意識を守るために、システムを
シャットダウンして、今は強制スリープモードに移行して、『待機』しているけど…社会生活は知っての
通りボロボロ。その上、まっさらな状態の、まだ心の無かったドロイド達が工場やショールームとかで
破壊活動を行っているという情報も入っているわ…』
「そうか…だからマルチリンク・システムを使っていないドロイドは無事だったんだな」
だが、そう言い掛けて、おれはふと疑問に思った。
「ネネやチャチャたちはそれで説明できるけど…どうして巴は無事だったんだ?ここ数日の様子から
すると、記憶が少し戻ったりで、多少は影響が出ているみたいだぜ…まあ、実害は無いけどさ」
巴も心配そうにこくこくと頷く。
『…その理由は…ちょっと言いずらいんだけど…』
お袋が少し苦しげな、言い難そうな口調で言った。
『たぶん…相手のドロイドは…巴ちゃんを自分と対等か、それ以上の存在と認識しているからだと思うのよ』
「対等か…それ以上って…どういう意味だよ」
『奪われたシステムは完成機…そして巴ちゃんのかつてのデータが残っていたとしたら…?』
「…そうか…」
おれはやっと理解できた。
「…改めてデータを送るのでなく、巴の事を、既に自分の一部と認識している可能性があるんだな」
『そう。ただ、問題の…今シンクロイド・システムを操っているドロイドがね…』
「ドロイドが…?」
お袋は一旦言葉を切り、それから一気に言った。
『…かつての朋ちゃんそのものの姿だったとしたら…貴方、どうする?』
「な…なんだってっ!?」
おれは、携帯を離し、改めて巴を見つめた。
黒く澄んだ瞳がじっとおれを見つめ返す。

387:@巴のマスター
07/11/06 11:32:58 yqxE6bPV
確かに…考えてみれば、シンクロイド・システムは被験者の他、本人そっくりなドロイドが最低一人は
存在する筈…しかし…しかし、こんな形で利用…しかも悪用されているなんて…。
だけど…それって…本当なら、ともねえの完全な分身では無いのか?
もしそうなら…何とかして解放してあげたい。
そして、それから…できることなら…。

…そこまで、一瞬考えかけたが…おれは、目の前の巴が、精一杯元気そうに笑顔を浮かべようと
している事に気付いて、改めて巴の髪に手を触れ、大きく頷いて見せた。
やっぱり黒く澄み切った瞳が潤んでいる。泣き虫だな…でも…おれの為にだもんなぁ。
あ~!畜生…やっぱり可愛いじゃないか!
誰よりもおれを気遣い、おれを愛し、信じ…そして…そして、そして…。
それに、この娘にだって「ともねえ」の心が生きている。
そうだ…もう迷うまい。
おれにとって、今、一番大事なのは巴なのだ。
一年以上、共に一緒に生きてきた、この娘なんだ。

問題のドロイドの解放はしてあげたい。
でも、それまで、昔のともねえの姿に騙されてはいけないのだ…。
この混乱を招いている現況である以上、あくまで、ともねえの姿を借りた亡霊だと思わなくては…。
決して惑わされてはならないぞ。
そんな言葉を自分自身に言い聞かせる。

「ぼっちゃま…」
巴が再びおれの手をぎゅっと握り締める。
「おれは、巴と居る…だから心配するな」
「は…はいです!」
巴が涙混じりの瞳で頷く。
おれも、しっかりともう一度頷いて返し、携帯を改めて耳にあて、それからひとつ、大きく深呼吸
してから、きっぱりと言った。
「わかった。その、最悪の状況を何とかする時は…手伝わせてもらうよ」

388:@巴のマスター
07/11/06 11:35:14 yqxE6bPV
>>378>>387 今日はここまでです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

389:名無しさん@ピンキー
07/11/06 12:54:18 8B6xvfLa
一番乗りGJ!
続き期待してます。

390:名無しさん@ピンキー
07/11/06 15:23:07 EJGtJ+Df
GJ
つい最近ここを発見したんだけど、完成度高いよね

391:名無しさん@ピンキー
07/11/07 12:40:14 dioKw0YV
おもしろいっ!
炊飯器の次に巴ちゃんが欲しくなったwwww

392:名無しさん@ピンキー
07/11/07 17:47:48 g+ZqJ8PL
いいじゃない
セットで買えば、いいじゃない
核戦争あっても生き残れるかもだが、巴とのセクロスは全て録画うわちょ、やめ………


BAM!BAM!BAM!

393:名無しさん@ピンキー
07/11/07 19:25:20 USnc7q52
あまりに初歩の質問で申し訳ありませんが保管庫はないですか?
よろしくお願いします


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