ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α6 - 暇つぶし2ch200:名無しさん@ピンキー
07/10/17 07:18:59 i4b5crHr
作品がよくても自虐のせいで台無しだな…。


201:名無しさん@ピンキー
07/10/17 09:56:10 vEl0YU30
そうだとしても言ってはならんこともある……。大人気ないぞ。

202:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:28:11 6zqsKeg8
>>200
いや…電気炊飯器嬢とか、名作が続いているので…。

>>201
どうもありがとうございます。

では、ちまちまと続けさせて頂きます。

203:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:29:08 6zqsKeg8
やっぱり巴の淹れてくれた茶は美味い!
少しずつすすると、お茶の軽い渋みの奥にある甘みが口中に拡がり、鼻腔をくすぐる
つんとした香りが、じんわりと沁み入ってくる。
「なあ、巴」
湯呑みを手にして、おれは正面のシングルソファに腰掛けた巴に尋ねた。
「ここに来て、そろそろ一年だけどさ…お前、ここに来る前は何をしてたの?」
両親の話だと、巴は七年前に製造された後、メーカーのモデル見本として
ショールームを廻ったものの、モデルチェンジの為に引退、その後、モデルとして
既に稼動後だった為、買い手が付かなかったので、巴に意思確認の上で、
一時機能停止、モスボールに近い状態で保管されていたらしい。
それが一年前、在庫整理の為に確認したところを見つけ出され、うちの両親が
格安で引き取り、各種のパーツを現在の仕様に直した上で再起動したと聞く。


204:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:31:37 6zqsKeg8
>>203
間違えて上げてしまいました。すみません。

205:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:32:25 6zqsKeg8
それからもう二杯、お替りをもらい、おれはシャワーを浴びる事にした。
「脱いだものは籠の中にお入れくださいね」
廊下から巴の声がした。
「着替えは今、お持ちして置いておきますから」
「はいよ」
適当に返事をしてバスルームに入る。
温度を調整して栓をひねり、少しお湯を出して手で温度を確かめてから、
シャワーホースを手にして、身体に掛けはじめた。
あ~これも適温だ。
前は調整がいい加減で、熱かったり、ぬるかったりだったのだが、巴がきちんと
季節に合わせて直してくれるようになってから、安心して使えるようになった。

…ふと、巴がこの家に来た最初の日の事を思い出した。
いきなり玄関に入ろうとして頭をぶつけ、頭を下げながら入り、顔を上げた途端に、
派手にもう一度ゴン!と。
コテコテの漫才を見たみたいで、思わず吹き出した。
本人は、ちょっと不満そうに一瞬ぷっと膨れたが…。
何を思ったか、おれの顔を暫し見つめ…それから穏やかな笑顔で優雅に一礼した。
「あらためまして…巴と申します。
ふつつか者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します」
…大型で、近代化改修されたとはいえ、当時、既に旧式なメイドロイドではあったが、
巴の仕草は普通の人間に近いもので、最新鋭のドロイドと遜色無く感じられた。
ただ…ちょっとそそっかしい所があったりするのは、どうかなぁ…と思ったりも
するのだが…それも仕様と考えれば、まあ、ありかもしれない。

206:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:34:31 6zqsKeg8
ただ…その晩、風呂に入っていた時、いきなり、何の前触れも無く巴が入り込んで
来た時は、驚きのあまり、正直、あごが外れそうになった。
「お背中…お流しします」
…と、まだそれは良い。
問題は、巴自身も一糸まとわぬ「すっぽんぽん」だったこと。
…いや、確かにつくりものの身体ですよ…でかいしね。
でも…継ぎ目ひとつ無い美しい肌…それも温かな色合いの、柔らかそうな
白い裸身をいきなり見せつけられたら…。(当然、局部にボカシもないし…)
てっきりメイド服か水着、あるいは奇をてらって三助さんの服でも着て入ってくるかと
思っていたので、その、あまりに刺激的な姿に…目が点になった上、マジで鼻血が
噴き出てしまった。
その上、風呂に入っていて体温が上がっていたものだから、頭がくらっときて、
そのまま湯船にドボン…。
「…バスタオルくらい巻いてこいよ…」
巴に介抱されながら、確かそんな事を言ったら、
「…わたしを…女性として見て下さるのですね」
と言って、満面の笑顔で思いっきり抱きつかれ…その圧縮機の様な馬鹿力で全身を
締め上げられ…そのまま気が遠くなり…辺りが真っ暗になった。

207:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:35:47 6zqsKeg8
気が付くと服を着せられ、ベッドに横たわっていた。
まだ朦朧とした意識の中、すぐ横をちらと見ると、しょんぼりと肩を落として椅子に
腰掛けている巴と、その前で苦笑まじりに、親父とお袋が話している様子が見えた。
「…まあ、そんな事もあるさ」
「本当に…申し訳ございません」
「いいわよ…元々女っ気の無いコだし、あれで結構、気に入ったとみたわ」
「ああ…あいつは、嫌ならキッパリ断るからな」
「構わないから…頃合がきたら、押し倒しちゃっていいからね」
「え゛?」
巴の声が裏返る。
「なまじヘンな所行って処理するより、貴女となら、こちらも安心だから」
「…あの…でも」
「冗談よ…メイドロイドが主を逆レイプなんて…あり得ないものね」
だが、お袋は続ける。
「でもね、半分は本音。貴女なら、絶対に安心して託せるから」
「うん…おれも同感だ」
って…何ですか、両親揃って、おれの意思は無視ですか?
なんちゅう身勝手な連中だ。
「…でも…嬉しいです」
巴の声が震えている。
「わたし…こんな姿ですし、なかなか思うように動けませんから…」
「まだ、初日が過ぎたばかりじゃない…頑張ろうよ、ともちゃん」
「は…はい」
お袋の巴に対する接し方は、まるで自分の娘に向けるようにも思えた。
て言うか、明らかにおれにたいする接し方より優しいですぞ…(苦笑)
「…ともかく、あいつが目覚めたら良く謝って…それから、これからについて、改めて
きちんと色々話し合うこと。君もあいつも、意思の疎通が不器用な所があるからな」
親父殿…何だか、いつものいいかげんな言動に、実に似つかわしくない発言です。
しかし、シャクだが確かにそう思えるし…。
ただ、一番シャクなのは、巴が予想以上に好みで、ものの見事にお袋の思惑に
ハマりつつあることだろう。
…などと、そんな事をぼんやりと考えていると…。
再び頭が朦朧として、そのまま意識が無くなった。

208:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:37:22 6zqsKeg8
…あれから一年か。
そういえば、巴が来てから、人間の女の子と、まともに付き合ってないなぁ…
などと、ぼんやり思う、
それはそれで悲しいものがある。
だが…妙なことに、以前より優しくなった…と言われる事がある。
会社の後輩とか、行きつけの飲み屋のお姉ちゃんとかが口にしていた。
何だか、女性に優しくなったみたいで、気が付いてくれる様になった…と。
まあ、だからと言って付き合うという所まではいかないようだが。
もしかすると、巴に感化されたのか?

「久しぶりにお背中…流しましょうか?」
ふいに洗面室の方から巴の声がして、おれは我に返った。
「あ、いや、もう出るよ」
「…ちっ……それは残念」
「む…何か言ったか?」
「い~えいえ…気のせいでございます」
「………」
本当に、こいつはメイドロイドなのか?
時々、妙な掛け合いをする事があり、思わず失笑する事がある。
実は中に人が入っている着ぐるみじゃないのか???
…いや、絶対に違うけどね。

209:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:38:17 6zqsKeg8
久しぶりの休みの午後…。
このままごろごろしているのも、勿体無いですよ…という巴の勧めもあり、
思い切って外に出てみることにした。
とはいえ、給料日前で、そんなに金は無いし、外食は…というと、巴の作って
くれる料理の方が、断然美味い事の方が多いので…パス。
結局、ウインドウショッピングぐらいなものだ。
最初、クルマで行こうかと思ったが、日曜では渋滞と駐車場の確保だけで
数時間かかるのが目に見えているので、結局、二駅先のドロイドショップまで
歩いて行く事にする。
ドロイドショップなら、巴も行くという事になり…当然、電車で行く事を考えたのだが、
巴が恥ずかしがって嫌がるので、結局、歩く事にしたのである。
そういえば、歩いて一緒に行くのは初めてだったりする。

210:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:45:52 6zqsKeg8
「こんにちは!トモちゃん」
「はい。こんにちはです~」
道行く途中、色々な人から挨拶され、その都度、巴は丁寧に会釈していた。
…て言うか、いつの間に、こんなに知られているのか?
確かにデカいから目立つ外観だが…。
なんだか、ちょっとしたアイドルか有名人?みたいな扱いだ。
「そちらの人は旦那さま…かい?」
ふいに、気の良さそうなおばさんが現れ、ちらとおれを見ながら訊ねた。
「はい、わたしのマスターです」
二人っきりでない時は、巴はおれをマスターと呼ぶ。
するとおばさん…何を思ったか、おれの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
そして感極まった表情でおれを見、頭を下げた。
「…本当に、この前はありがとうね!」
「え?あの、何か」
「ともちゃんのお陰で、ボヤで済んでね…」
「あ…」
とっさに思い出した。
そうか…この前、帰って来たら、上から下まで真っ黒になっていて、警察の
事情聴取を受けてたっけ。
火事があって救助の手伝いをしたとは聞いていたが…これか…。
おばさんは、何度もおれの手掴んだまま、ぶんぶんと振った。
「しかもだよ…ドサクサに紛れた火事場泥棒を捕まえてくれてさ…。
もう…本当に助かったよ…お陰で、路頭に迷わなくて済んだよ!!」
「そ、それは…良かったですね」
様は、巴のマスターだから…という事で感謝されているわけだ。
おれ自身は何も教えていないし、全く何もしていないのだが…。

211:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:46:34 6zqsKeg8
おばさんに散々お礼を言われて、あげく、果物の入った大きな袋まで渡され、
おれは半ばぽかーんとしながら、商店街を歩き続けた。
「あ、マスター…それはわたしが」
おれが袋を手にしたままである事に気付いて、巴が手を差し出す。
「いいよ…おれが持ってるよ」
「でも…それはわたしの」
「ま、確かにこれは本来、巴のものだよな」
「……わたしは食べられませんけどね…」
「て、ことは、当然、おれが食わせてもらう事になる訳だしさ、自分の物ぐらい
自分で持つよ」
「でも、わたしはマスターのものですから…!」
「…ま…まあそうだけど…」
周囲の視線に気付いて、おれはちょっとどきっとした。
気が付くと、周囲の老若男女、皆、妙な笑顔を浮かべて、好奇のまなざしで
こちらを見守っている。
…なんなんだ、このびみょーな空気は。
「ともねぇちゃん…」
ふいに小柄な男の子がやってきて、巴はしゃがんでその子の頭を撫でる。
半ズボンに野球帽なんていう、典型的なワルガキのいでたち。
誰だ…この子。
「そいつ、ねぇちゃんのいいひと?」
なんてこと言うんだこのヤロ!
「はい!この世で一番大事な方です」
また、巴の奴がぽっと赤くなって答えちまう…。
途端にわっと周囲から声が上がった。
「おー!にくいぞ、この、いろおとこー!」
男の子がにゃ~っと笑って声高に囃し立てる。
このクソガキ…。
「こ、こらっ!」
周囲に誰もいなければ、とっ捕まえて小一時間説教してやるのだが…。
この衆人環視の下では何もできない。
「と、ともかく行くぞ、巴」
おれはそそくさと退散する事にした。
「はいです」
ワルガキに片手を上げて、にこっと笑いかけながら巴も歩き出した。

212:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:47:29 6zqsKeg8
この数年で、人々の人造人間に対する意識が変わってきたとは知っていたが、
ここまで馴染んでいるのとは思わなかったので、ちょっと意外だった。
「お買い物とか、お使いに、良くここを通るんです」
おれの疑問に答えるかのように、ふと巴が口を開いた。
「…本当は…はじめ、ちょっと恥ずかしかったんです」
おれははっとした。
「でも、皆さん、とっても良い方たちで…」
いや…それだけじゃないだろう。
巴が、とても純粋で…かつ天然な事に、好感が持たれたのだろう。
目立つ外観でありながら、あまりメカメカした人造人間らしくなく、人懐っこく
感じられるからであり、しかも愛嬌があること。
それと…たぶん、ここ一年の間で、巴自身が地域住民に馴染もうと努力したに
違いない。
…おれの知らない所で、こいつは色々頑張っていたんだな…。
「ちょっと驚いたよ」
おれは振り返り、巴の顔を見上げる。
「それに…あんな生意気なワルガキにまで人気があるなんて、驚いたぞ」
「…あ、いえ、あの子は」
巴の話では、最初は色々と悪さをされたらしい。
スカートめくり…などという古風なものから、どっきりオモチャみたいなもので
驚かされたり…。
けれど、ある時、あの子が母親の大事な時計を持ち出して、それを失くして
途方にくれていた時、一緒になって探し、見つけ出してあげたことがあり、
その時から、すっかり巴に懐いたそうだ。
まあ、巴なら実にありそうな逸話だな。

213:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:51:12 6zqsKeg8
けれど…その話を聞き終えた時、ふと…何だか、懐かしい気がした。
遠い昔、そうだ…あれは、おれの幼い頃の初恋の女性との思い出だ。
…おれもイタズラ好きなワルガキで、親父の大事な懐中時計を持ち出して
原っぱで失くしてしまったのだ。
その時、半分べそをかいていたおれに、手を差し伸べてくれたのが…
「…とも…ねぇちゃん…」
思わず呟いたおれの目の前に、その少女の顔が映り…思わずはっとなる。
そして少女の顔は、一瞬後、目の前の巴の顔とダブって消えた。
「はい?…あの、マスター?」
きょとんとした顔で、巴がおれの顔をじっと見つめていた。
「あ…いや、何でもない…」
慌てて手を振りながら…おれは自分自身が口にした言葉に疑問を覚えていた。


214:名無しさん@ピンキー
07/10/17 12:52:40 6zqsKeg8
>>205>>213
今日はここまでです。

215:名無しさん@ピンキー
07/10/17 19:17:53 kgk8IB9h
これはこれは楽しみな作品ですこと
期待してます

216:名無しさん@ピンキー
07/10/18 01:32:27 0qXF8FHN
この巴ほどじゃないが、背が高くて名前の読みが同じな娘が同僚に
いる
なかなかの美人で巴とはまた別の方向に可愛いんだなコレがまた


これを読むと、なんかいろいろな意味で彼女を見る目が変わってし
まうなw

217:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:15:21 KhQ7gkPL
>>215
ありがとうございます!

>>216
「ともえ」さんですか。羨ましいですね。

…それではちょこっと追加させて頂きます。

218:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:16:43 KhQ7gkPL
ともねぇちゃん…。
さっきのワルガキが呼んでいた呼び名。
それは偶然にも、かつておれが慕っていたひとの名だ。
その名を改めて心の中で呼ぶと、ちょっと恥ずかしくも、甘く切ない思い出が蘇る。

十歳頃だったか…親父たちが、新型ドロイドの開発でオムニジャパンの研究所に
篭りっぱなしになった時、食事を作りにきてくれたのが、ともねえだった。
確か…歳の頃は十五か十六ぐらいだったと思う。
すっぴんでアイドルが出来そうな愛らしい美人で、それでいてどことなく理知的な
印象のする不思議な少女だった。
長い赤毛を左右に束ねたツーテールが、とりわけ印象的で、笑うと小首を
傾げながら口元に手をあてる癖があった。

お袋に頼まれて手伝いに来た…と言っていたが、その頃のおれは半ばガキっ子に
なっていて、一人だけで生活することに慣れかけていたので、初対面の時、
わざわざそんな事しなくてもいいから帰ってくれ…とかなんとか、色々とマセた事を
言ったと思う。
「わたしで、ごめんなさいね」
それが、初めて聞いた、ともねえの言葉だった。
「でも、あなたのお母さんは、今、大事なお仕事で、研究所から出られなくて…」
「いいよ。どうせひとりっ子だしさ…一人で何とかするから要らないってば」
今にして思えば、随分生意気で失礼な事を言ったものだ。
だが…本音を言うと、ともねえの優しく愛らしい笑顔がまぶしくて…本当は…
一目惚れに近い状態なのに…照れくささや恥ずかしさが先に立ってしまい…
つい、素直になれないでいたのだ。
あ~…本当に馬鹿でナマイキなガキだったと…今思い出しても顔が熱くなる。

219:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:17:45 KhQ7gkPL
ともねえは、そんな失礼なおれを、暫らく、じっと見つめていたが、やがて
にこっと笑い、それから、おれの頭にそっと手を載せ、優しく撫でてくれた。
「そうですね。それじゃ今日から…わたしがあなたのお姉さんになりましょう」
「へ?」
いきなり…正に突拍子も無い事を言われて、おれは面食らった。
「家族なら…おねえちゃんなら、遠慮する事なんてないでしょう?」
「ちょ…ちょっと…」
「それとも…わたしじゃ…いや?」
じっと見つめられ、おれはどぎまぎした。
言葉も表情も優しく、穏やかなのだが…どこか有無を言わせないものがあり、
それでいて…何だか、甘酸っぱい気持ちが込みあがってくるのだ。
そして…おれは…いつしか黙って「そんなことはない」と小さく首を振り、同意の
意を示していた。

はあ…その時の事を思い出すと、恥ずかしながら、今でもちょっとクるものがある。
初めて…異性というものを意識した瞬間だった。
思えば…あの日は、結局、ともねえは泊り込んで、宿題の手伝いやらゲームの
相手だの色々してくれて…。
何だか、とても心地よいものを感じたものだっけ。

もっとも……その晩…初めて夢精してしまったなんて口が裂けても言えなかったし、
てっきりおねしょかと思って、結局、最後まで、ともねえには、それからもパンツ洗い
だけはさせなかったのも…実に恥ずかしくも…懐かしい思い出だ。

220:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:19:02 KhQ7gkPL
ちなみに後で知ったのだが…ともねえは、まだどこかの学生の身分だったのに、
オムニジャパンに努めていたらしい。
何をやっていたのかは良く判らないが、かなり色々な手伝いをしていたらしい。
時々、晩にノートパソコンに向かって、色々考え事をしながら入力していたし、
両親と親しかった事を考えると…今にして思えば、プログラマーの手伝いか何かを
していた奨学生だったのかも知れない。

「……ぼっちゃま?」
暫く黙り込んでしまったおれを、巴が幾分心配そうに訊ねかけ、おれは我に返った。
「どうか、なさいましたか?」
「あ、いや、なんでもない…」
ふっと巴に笑いかけると、ともねえの言葉が蘇る。
<家族なら…おねえちゃんなら、遠慮する事なんてないでしょう?>
そうか…巴って…おれにとって、昔のともねえの位置にいるんだな。
最近、巴無しの生活が考えられなくなっている自分に、改めて気付く。
…そういえば、おれはずっと、ともねえ一筋で来たんだっけ。
理想の女性として、ずっと抱いていた想い。
だから、まともに彼女も作らなかった…というより作れなかったのだ。
いや、もちろん、巴が姉さんっていうのは、明らかに違うけどさ…。
ただ…そばにいて、心安らぐ存在という点では同じだ。

あれ…そう言えば、巴のAIって、開発コード「tomo」だったよな。
ふと、そんな事を思った。

221:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:20:09 KhQ7gkPL
商店街を抜け、某駅の前を抜けると、住宅街に入った。
目的のドロイドショップは、住宅街の一角の五階建てのビルの一階にある。
「そういえば、新しい超高速演算プロセッサが出たそうだな」
「はい。ただ、オムニ純正では無いんですよね」
「う~ん…ベンチテストが終わっていたら、巴に付けてやろうかと思ったんだが」
「え~?どうしてですかぁ」
少し不満そうに巴は口元をとがらせる。
「時々ポカするのを、それで直してやろうと思ってさ」
「これは、元からの仕様です~」
「そんな仕様、要らね~よ」
「あ~ん、これが萌えで、今の流行りなんですよ~」
小さく両手の拳を固めてふるふると振る巴。
全く、デカい図体して…可愛いじゃないか(爆)
おれは思わず吹き出しながら、わざと意地悪くにやりと笑った。
「そんなにボケるのがか?それは天然じゃね~のか」
「はい、もちろん天然です。だから良いんじゃないですか」
「良いのか?」
「はい…」
妙に自信たっぷりに巴がやり返す。
「この前も、転んだわたしを見て、ある人が萌える~って褒めて下さったんですよ」
「……それ、やっぱりヘン」
「え~ん…ヘンじゃないですよ~コアでレアなんですよ~」
これって自爆ギャグのつもりなのか?
巴のセンスはやはり時々ヘンだ。

222:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:22:16 KhQ7gkPL
ほどなく、目的地のビルに着き、おれはメンバーズカードを取り出して、出入口の
右横に設けられたセンサーに軽くタッチした。
ここは会員制になっていて、盗難や強盗防止の為、入館する時、カードを提示するのだ。
やがて、ゲートの上に「いらっしゃいませ」と文字が表示され、すっとオートドアが開いた。
「ここに来るのも久しぶり…」
そして中に入りかけ…思わず立ち止まった。
「な…なんだこりゃ!?」
「ぼっちゃま!」
巴が反射的に身構える。
…店内は、まるで嵐が吹き荒れた後の様な有様だった。
床にはメカや工具が散乱していて、何体かのドロイドがバラバラになって転がっていて、
思わず目をそむける。
「ひどいです…」
巴が両手を口にあて、おれも黙って頷く。
いくつもの陳列棚が倒され、ガラスや陶器の類は粉みじんに吹き飛ばされている。
一体…どういうことなんだ?
何があったんだ?
数歩先に進むと…カウンターの奥に店長らしき人物が突っ伏しているのが見える。
「マスター…これは?」
巴の声にも緊張感がある。
「警察だ!巴、110番だ」
とっさにおれは事件性を考えて怒鳴っていた。
「あ、はい!」
こういう時の巴は実に頼りになる。
即座に左腕に内蔵された通信機のコンソールを操作しはじめる…が。
「動くな!」
ふいに鋭い男の声がして、おれたちは振り返った。

223:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:23:28 KhQ7gkPL
「…なんだ…OJ-MD2か」
スカーフを覆面代わりにした男が、巴のシリーズ名を呟きながら、両手でかなり大きな
銃をこちらに構えつつ、店の奥に立っていた。
年齢はおれと同じか、少し上くらいか?
長身で、黒の皮のツナギを着ていて、黒豹を思わせるしなやかさと、刃物の様な鋭さを
感じさせ、一瞬、冷たいものが走った。
…こいつ…何かのプロか?  
黒い瞳がぎらりと光って、こちらを見つめる。
「…ご…強盗か?」
男の手にしている銃は…確か45口径はあるオートマチック銃だ。
<世界の銃>年鑑で、特集が組まれていたやつだ。
一発で即死か、運が良くて重症だろう。
…畜生…今になって、少しずつ足が震えてきやがった。
「マスター!」
巴がおれの前に立とうとすると、男は出し抜けに天井に向けて一発ぶっ放した。
とたんに天井のモルタルが、いくつかばらばらと崩れ落ち、軽く粉塵を撒き散らす。
…ち、本気かよ。
「動くなと言ったはずだ」
男が抑揚のない声で言い放つ。
「次は、本当に撃つぞ」
「マスターに手出しはさせません」
だが、巴はキッと男を見据えたまま、なおもおれの前に立とうとする。
「…お前…」
一歩も引かない巴の様子に驚いたのか、男の瞳に驚きの光が見えた。
銃を手にした腕が僅かに宙を泳ぐ。
と、その一瞬の隙をついて巴が男に向けて、矢のように素早く突進した。
そして、構えようとしていた銃を無造作に掴むや、指先でぐしゃりと銃口を潰し、
素早く男の両手を掴み上げた。
「マスターを撃たせやしません」
「…やるじゃないか」
巴の力には人間では抗えない。
然るに、男の瞳に微かに悪戯っぽい表情が見えた。
「だが…残念だったな…」
「?」
「動かないで!」
ふいに別の女の鋭い声がすると共に、おれは首筋に冷やりとする金属の棒を
突き当てられて、思わず歯軋りした。

224:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:24:45 KhQ7gkPL
いつやってきたのか、金髪、蒼眼に、こちらも全身黒皮のレザースーツに身を包んだ
若い女が、電撃スタンガンをおれに突きつけていたのだ。
…ち、もう一人いたとは油断した。
巴…すまん!
……しかし、気配を全然感じなかったぞ。
どういうことなんだ?
「そこの大きいの…マスターを離しなさい!」
「マスター?…ってことは、こいつは」
「…ジェーン!」
男が鋭く命ずる。
「不用意な口をきくな…」
「でも……はい」
男の言葉にジェーンと呼ばれたドロイドは少ししゅんとなった。
ちょっと外タレを思わせる端正な顔立ちのコだ。
へえ…予想外に殊勝な感じじゃない…いや、そうじゃなくて…。
「人造人間は、人間に危害を加えてはいけないんじゃないのか?」
おれはここぞとばかりに言い切った。
「お前、違法アンドロイドか?」
「!!!」
ジェーンの顔が一瞬、こわばる。
当惑したと言うか、叱られたような、複雑な表情で「マスター」の方を向く。
…あれ…これまた、意外と可愛いらしい顔をしてるじゃないか。
こんな表情もできるのか。
それにこの反応は…正常そうだぞ。
「マスターに危害が及びそうな時は例外だ…」
男が、微かに苦笑しながら言い放つ。
「現に、今、おれがその状況だし、お前のメイドロイドも同じではないか」
「……確かにな」
そう言いながら、スタンの先端をちらと見た。
…おれは…あまりおおっぴらに言っていないが…。
これでも、一応、柔道、空手、合気道、剣道と合わせて16段持っている。
腕にはそこそこ自信があるつもりだが…スタンガンを持つドロイド相手では、
やはり分が悪い。
だが…その反対に、巴も男を拘束している。
五分五分か…。

225:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:26:20 KhQ7gkPL
「で、どうする気だ…?」
おれは、覚悟を決めて尋ねた。
「このままでは埒もあかないだろう…ここで一気にケリをつけるか?」
「…そうしたいのは山々だがな…」
男は、だがどこか楽しそうな口調で続けた。
「やめとくよ。ジェーンがスタンで君を倒した途端、このチャーミングな
お嬢さんのリミッターが外れそうだ」
「ええ。マスターにそれを使ったら…容赦致しません」
巴が男の両腕を掴んだまま、いつになく凛々しい表情で男を睨む。
「…ジェーン…スタンを下ろせ」
男が静かに命じた。
「え…でも」
当惑した顔で、金髪のアンドロイド娘はちらとおれを見、再び男の顔を見る。
「よろしいのですか?マスター」
「先に手を出したのはこちらだしな…ならば、退くのもこちらが先だろう」
「で、でも…」
おれは妙な事に気付いた。
このジェーン嬢(笑)、先刻からマスターの命令に素直に従わないのだ。
いや、厳密に言うと、マスターの身を案じて、最後までマスターの指示に
従いきれないでいるのだ。
…良く言う二律背反という奴だが…。
普通は、というか、今現在存在するアンドロイドの殆どが、最終行動規程は
マスターの直接指示が第一義としてある…。
勿論、厳密に言うと、本来は法律に抵触しない範囲で…だが。
しかし、このジェーンは、マスターの身を案じて、自らの判断で躊躇しているのだ。
こいつは、相当高性能なAIを搭載しているとみた。
ならば…。
この状況を変えるには一か八かやってみるしかない。
「…巴」
おれは思い切って口を開いた。
「…もう離して良いよ」
「え…でも」
意外にも巴も当惑した表情を浮かべ、指示に反して手を離そうとしない。
「でも…マスターが…まだ…」
おいおい…巴もなのか!?
いつもなら、少し躊躇しながらも従うはずなのに…。
参ったな…これでは文字通りの膠着状態だぞ。

226:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:27:17 KhQ7gkPL
けれども…緊張感溢れる場面の筈なのに、おれはちょっとおかしく思った。
しかも、不思議な事に、次第にこの二人に対してある種の親近感が湧いて
きているのだ…。
「ふふ…どうも、お互い、大事にされているようだな」
男が静かに声をたてて笑った。
どうやら、おれと同じ考えらしい。
「仕方ない…同時に離すしかあるまい」
「そのようだな」
おれも思わず小さく苦笑した。
そして、少し表情を引き締めて改めて命じた。
「巴、手を離すんだ」
ほぼ同時に男も鋭く命じる
「ジェーン、スタンを下ろせ」

暫しの沈黙の後、巴とジェーンの視線がぶつかり合い…
やがて二人はゆっくりと指示に従った。

227:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:28:33 KhQ7gkPL
>>218>>226
今回は、ここまでです。

228:名無しさん@ピンキー
07/10/18 03:35:59 jzS22hcC
リアルタイム遭遇GJ!
続きを楽しみにしています

229:名無しさん@ピンキー
07/10/18 11:22:10 EdMMzmoW
ガキっ子につっこみつつGJ!

230:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:05:28 KhQ7gkPL
色々とありがとうございます。
では…ちょっとだけ追加です。

231:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:06:42 KhQ7gkPL
暫く無言のまま、おれと巴は、男とジェーンの二人と対峙していた。
全く…つい一時間前まで、こんなひっ散らかった店内で、二対二で命懸けで睨みあう
ことになるなどとは、夢にも思わなかった。
それに、お互い、開放はしたものの…
これでは、あまり状況は変わらない気もするが…まあ、緊張感溢れる死闘開始直前の
状態よりは断然マシか。
それに実質、どちらも切り札がアンドロイドのお嬢さんだし。
それにしても…倒れている店長を介抱しなくては…と思うのだが、おれたち自身の
安全すら保障されていない現状では、どうしようもない。
果たして…どうしたものか。

232:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:07:43 KhQ7gkPL
「君は、この店の常連だな」
ややをして、何を思ったのか、ジェーンに指先で指示しながら、男が口を開いた。
「ここに入るには、専用の認証カードが要る筈だ」
「当たり前だろ…ここはそういうシステムなんだから」
「マスター…見つけました」
ジェーンは周囲を見渡すと、奥のモニターに気付き、そちらに向かった。
おいおい…今度は何をするつもりだよ。
モニターの前にあるコンソールテーブルに就いたジェーンが男に頷きかけ、男が
小さく頷いて返すと、手早くキーを打ち始める。
なんだぁ…この場でハッキングでもする気か?
「ここで何が行われていたか…知っているな」
何を持って回った言い方をするんだ?
おれは、半ば呆れながらヤケクソ気味に言った。
「メーカーの代理店で、かつカスタムパーツの製造、販売、改造、それにメンテ…」
「違う!」
男はぴしゃりと言い切った。
「違法パーツの製造販売だ」
「え゛?」
おれは思わず間抜けな声を上げていた。
「違法…?ここが…だって!?」
ここは有名なフランチャイズのチェーンショップだぜ。
「嘘だろう?」
「しかも…その取り付けと言った、様々な違法改造もしているのさ…」
「なんだって?」
おれはちらと巴と顔を見合わせた。
「そんな馬鹿な…」

233:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:08:56 KhQ7gkPL
「常連なら、知らないはずないでしょう!」
ジェーンがこちらを向き、冷然と言い放つ。
ちぇっ…可愛い顔して…キツいコだぜ。
しかし…こいつ、ドロイドにしては随分と人間臭い反応の仕方だな。
「あのさぁ…お嬢さん」
おれは左のこめかみに指先を当て、かるく掻きながら、舌打ちまじりに言った。
「おれたちは、ただの客なの!」
気が付くと、男がいつの間にかサングラスを掛け、覆面代わりのスカーフを外している。
その素早さと手慣れた感じにちょっと驚き、改めて警戒しながらおれは続けた。
「ここはさ、『全国427店舗』を誇るフランチャイズショップのひとつなんだよ」
「もちろん知っているわ」
「会員数、老若男女合わせて20万人超…お前さん、その全員が違法改造グループの
一員だっての?仮に…『ここ』がそういうところだとして、おれが他のショップで入会した
会員だとしたら全くの無関係じゃないのか?」
…ジェーンは口をつぐみ、暫しおれの顔を見据えた。
「でも、ここに…今ここに入ってこられたわ」
「ここに?今ここに…ってどういう意味だよ?」
おれの問いには答えず、ジェーンはモニターの方に向き直った。
「おい、勿体ぶらずに教えろよ」
すると、ジェーンはこちらの方は向かずに静かに言い切った。
「…それに、マスターがここを破壊したのは、あくまで正当防衛よ」
ち…はぐらかして話さない気か?それにだぞ…。 
「正当防衛だあ?」
おれは、思わず呆れて周囲を見渡しかけ…はっと息を飲んだ。
「マスター…」
巴も気付き、床に散らばっている無数の薬莢をそっと指差す。
いきなりドタバタと立ち回ったので気付かなかったが…確かにこれは異様だ。
しかもそれらは、バラバラになったドロイドの腕に空いた穴から出た形跡がある。
「まさか…戦闘用…ドロイド!?」
悪い冗談かと思ったが…改めて良く見ると、散らばっているドロイドの、砕けたり割れた
手足の隙間から武器…この日本には似つかわしく無い重火器の銃口や銃身が見える。
…こんなものぶっ放したら…。
「うそ…だろ…」
このショップは、テレビCMでも有名な、全国規模で展開されているチェーンストアのひとつだ。
それが…裏でこんな物騒な代物を抱え込んでいたなんて…。
流石にちょっとショックだ。

234:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:10:09 KhQ7gkPL
「すると…あんたたちが先に撃たれた…のか」
どうも状況からすると、その様になる。
まだ、信じて良いのか判らないが…。
男は警察官…なのか?
いや、それは違うぞ。
それなら、先刻、通報しようとして止めたりしないはずだ。
それに45口径なんて所持する筈はない。
普通はニューナンブか、SIG230辺りの中型拳銃だろう。
と、なると…。
そう思った矢先に、ジェーンの操作していたコンソールからピーという音がした。
「マスター…」
ジェーンが頷き、男がつかつかとモニターの前に行く。
そして、表示された何かを一通り見ると、ジェーンに言った。
「ここの入場記録を消してやれ」
「…え?よろしいのですか?」
「どうやら…本当に無関係な様だからな」
訝しげなジェーンに、男がおれの方を見ながら命じた。
……何にアクセスしたんだ?…まさか!おれの個人データか?
こんなところで、いともたやすく出来るって言うのか?

235:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:10:59 KhQ7gkPL
「君の事は、今、ちょっと調べさせてもらった」
男がサングラスを外した。
整った顔立ちで、日焼けした肌の、モデルでも通じそうな風貌の男だった。
先刻までの冷徹そうな雰囲気を感じさせない、爽やかな笑みを浮かべている。
か~!伝説の松田優作とか、草刈正雄とか、そんな感じの二枚目じゃないの。
もしかして、これはドッキリとか、実はドラマか映画の撮影とかじゃないよな。
「…済まなかったな」
ふいに男は頭を下げた。
って…え?
「電子ロックしてあったんで、ここには絶対に誰も入れないと思っていたのでね」
「え…だって、それって…」
「君のカードは、ダイヤモンドカードだから…店長待遇で特別なのだよ」
「あ…」
そうだ…思い出した!

おれのカードは両親が手配してくれた物で、オムニジャパン本社・総務部発行の物だ。
このショップの会社に対しては、直接経営等に関与していないものの、資本的、人的共に
強い影響力があり、特に本社のトップで経営、開発に直接関わっている者に対しては、
ショップの店長並みの厚遇をする事になっているそうだ。

236:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:13:20 KhQ7gkPL
また…それに加えて、営業時間外であっても、中に店員がいれば入れてしまう…そんな
特別なカードだと、確か親父に聞いた事がある。
随分と無茶苦茶だな…と一笑に付したし半信半疑でもあったが…このカードは、事故や
災害等が原因で、ドロイドの緊急メンテや連絡などをする必要がある時、所持している者が
こういったショップで、より素早く中に入って行動出来る様、IDカードを兼ねているのだとか。
「そうか…中にまだ店長がいたから…」
「店長の認識と君のカードの認識で、偶然ゲートが開いたのだろう」
「でも…確かに『いらっしゃいませ』という表示が出ていましたよ」
不意に巴が口を挟み、男は静かに笑った。
「君は、実に良いパートナーを連れているな。洞察力も素晴らしい」
巴は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにはっとして頬を赤らめた。
この反応の仕方が可愛いんだよな。
とか、言っている場合じゃない。
…そうだ。まさしくその通りだ。
営業中の「看板」は出ていたぞ。
「我々が急にやってきた事もあるが…。いきなり、指定された日でも無いのに臨時休業
すると、やはりおかしく思われるだろう。営業中の表示を出しておけば、目立ちにくい」
「確かに…フランチャイズ系の店は、定休日はどこも同じだ」
「仮に客がきても…店内清掃中で一時閉めていた…とか言えば、言い訳も立つ」
「すると…最初はそのつもりだったんだな」
「ああ、だが…結局、こうなっちまったがね」
男は頷き、左手で顎をさすりながら、小さく咽喉から息をついた。
「……しかし、弱ったな」
「え?」
「君たちが善意の来客なのに、巻き込んだ上、危うく危害を及ぼす所だった。それに…」
「このまま…いっそ、おれたちが何も見なかった事にして、別れるって訳には…」
「いきませんね…絶対に」
ふいにジェーンが口を挟み、巴はきっとなってそちらを睨んだ。
「ここまで事情を知られた以上…仕方ないのよ」
「そんなのあんまりです」
両手の拳を固め、ちらとおれの顔を見てから、巴はまくしたてる。
「そちらの事情なんて知りませんけど…完璧にロックしなかったのは、そちらの責任では
ありませんか!何も知らずに来たのに…勝手なこと、言わないでください!」
巴の声が熱を帯びていき、男は微かに苦い表情を浮かべて首筋に手をやった。
「大体、貴女、さっきはなんですか!誤解とは言えマスターに武器を突きつけておきながら、
お詫びのひとつも言えないんですか!」
「あれは…だって!」
ジェーンが真っ赤になって声を荒げる。
「貴女の方こそ、マスターをあんな風に拘束するから!」
って、おいおい、随分と女の子らしい反応じゃないか。
…て言うか…何だか、巴と似た反応だな。

237:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:16:54 KhQ7gkPL
「わかった…」
男が決意を固めた表情で、口を開いた。
「君たちには…総ての事情を説明しよう。その上でどうするか考えよう」
「……それしかなさそうだな」
おれも素直に頷く
「マスター!?」
ジェーンが抗議混じりの声を上げる。
「ただし…一切、他人には口外しないこと。ここでの出来事もだ。それは約束してくれ」
「わかった。…巴もいいな?」
「はい…です」
ちらとジェーンを一瞥しながら巴が頷き、ジェーンはぷいと視線を逸らす。
…ここに来てから、いつもの呑気な巴らしくない…。
ジェーンをやりこめる辺り、何だか急に強くなったみたいな感じがする。
ひょっとして…おれを守ろうとして…なのか?
それはそれで…嬉しく思うけどな。

238:名無しさん@ピンキー
07/10/18 12:18:23 KhQ7gkPL
>>231>>237 今回はここまでです。

239:名無しさん@ピンキー
07/10/18 14:58:02 inn78k/Z
>>238
乙だったじゃないか…

240:某四百二十七 ◆mjGnt7G.D2
07/10/18 22:39:10 QuOvNgMP
GJ! どじっ娘メイド路線と思いきや、いきなりシリアスバトルな展開は少し予想外ですた。

241:名無しさん@ピンキー
07/10/18 22:42:14 XWcvedB3
わくわくだぜぇっ!

242:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:39:32 v69jJlJl
楽しんで頂けますと幸いです。
では、今日もちょこっとですが…。


243:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:40:47 v69jJlJl
数分後、おれたち四人はビルの裏口に姿を現した。
そこには一台の白いワゴンが停めてあり、男が運転席に、ジェーンが助手席に、
おれと巴が素早く後部座席に滑り込んだ。
…と言っても、巴は長身なので、乗り込む順番は巴を先にし、例によって、慌てて入り口に
激突しないよう、素早くおれが巴の頭に手をあてて、高さを押さえてやったのだが…。
……放っておくと、また、勢いよくガン!とか、ぶつけかねないからな。
これでクルマが壊れたら、修理代出さなくてはならんのか?などと、お馬鹿な事を一瞬考える。
無事に乗り込んだ巴は、あは!と小さく笑って口元に手をあて、そっと小首を傾げてみせた。
こんな時でも巴は巴だ。
…はあ…ちょっと気が抜ける…と同時に、妙に癒され…ほっとする。

それにしても、乗用車に比べると、ワゴンは格段に天井が高いので、乗り降りはやはり楽だ。
おれも、格好付けてないで、クーペを止めて、巴の為にそろそろワゴンにするかな。

244:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:44:06 v69jJlJl
…と、ふと、気が付くと助手席のジェーンが振り向いて、じ~っとこちらを見ていた。
巴をシートに付かせるまでの一連をずっと見ていたらしい。
なんだ?何か言いたそうな感じだが。
けれど、目があった瞬間、すぐについと正面を向いてしまった。
「全員乗ったか?」
男がバックミラーを直しながら訊ねる。
「ああ」
オートのスライドドアを閉じ、シートベルトをつけながら返事をする。
ワゴンは静かに走り出した。

それにしても…あの店はあのままで良かったのだろうか?
店長だって放っぽったままだし…。
ちょっと気になり、窓越しに遠ざかって行くビルを振り返って見ると、男が言った。
「…さっき、警察には連絡した。後始末は気にしなくて良い」
「え?」
男の言葉に、おれと巴は、ちらと顔を見合わせた。
「おかしく思うのも無理はない…確かに、さっきは止めたんだからな」
男は続けた。
「だが…あの状況では仕方無かった。君たちが通報すると、当然、中央センターに連絡が
行ってしまう…しかし、それでは、折角、隠密裏に調査している事が無駄になってしまう。
だから、極秘に行動してくれる部署に、改めて連絡したんだ」
「でも、それならおれたちが、違法改造に加担していないって判ってたんじゃ?」
「……もちろん、それも考えたがね」
男がミラー越しに、ちらとおれの顔を見る。
「君が『組織』の安全保持の為、『トカゲの尻尾切り』をする可能性もあったからな」
「あ…そうか」
「あのショップを切り捨てて、あの場だけで済ませる手もあるし、警察内部に協力者が
いないとも限らない…」
「…それでつまり、『ああいう事件』専門の担当に通報したと」
「察しがいいな。日本警察で、『懇意にしてもらっている部署』があってね」
「…あんた…一体、何者なんだ?」
すると、何を思ったのか、男は小さく口ごもり…一段声を落として言った。
「……休暇中のFBI捜査官……表向きはだがな」
おれは思わず吹き出した。
「…そんなベタな話、信じられないよ」
「だから…おれも…あまりしたくなかった」
男は苦笑し、それから素早く懐から、黒い手帳の様なものを取り出すと、ちらと振り返り、
おれに向かってそっと放って寄越した。
…頼むから運転しながらそういう事しないでくれよ…。
と、それはさておき、それを受け取って開くと、中に金色の徽章があり、開いた下部に
身分証明も添付されてあり、英語でつらつらと色々記してある。
マークも確かに…FBIだ。
仕事で知り合った友人の親父さんのを見たことがある。
「バン・カドクラ…」
名前を読み上げると、男は再びミラー越しにおれを見た。
「そう…それがおれの名だ」
日本で言えばカドクラバンか…。
何か、アイテムでも使って変身しそうな名前だな。
「それでバン…」
おれは遂に最大の疑問を口にした。
「あんたたちは、一体、何をしにきたんだ?」

245:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:46:17 v69jJlJl
暫し沈黙があった。
ジェーンが心配そうにバンの横顔を見、巴がおれの方を見つめている。
男…バンは正面を向いたまま、やがて静かに口を開いた。
「……ある物を捜索し、確保するか…破壊して、この国から出さない為に来た」
「マスター…それ以上は…」
「君たちに…重ねて誓ってもらいたい。この件は絶対口外しないと」
「…わかった」
やがて、クルマはある公園横の道路に横付けした。
「おれたちは…あるAIシステムを探しているんだ」
「AI…システム?」
「厳密に言うと、サポートシステムでもあり、双方向情報共有・独立連動システムでもある」
なんだか良くわからなくなってきた。
「双方向?AIとどこかでやりとりして…情報を共有しつつ…ってなんだいそりゃ」
「……シンクロイド・システムのことですか」
ふいに、巴が口を開き、おれは目を見開いた。
ジェーンが驚いた表情で振り返り、バンも少し意外そうな表情を浮かべている。
「巴…おまえ、何か知っているのか?」
おれの言葉に、巴はいつになく真剣な表情で頷いた。
「はい…わたしの記憶回路に…幾つか、かなり古いものですが…その痕跡が、あります」
「痕跡って…おまえ」
巴の黒い大きな瞳が、おれをじっと見据えている。
少し困ったような、温かで優しい笑みを微かに湛えた、年上の女性の表情がそこにあった。
巴が、ごく稀に見せる、おれを見守るかのような、落ち着いた雰囲気。
…あれ…この表情…。
昔…その昔、確かどこかで見たことがある。
「…それって…どういうものなんだ?」
だが…おれは…半ば無意識に、そう訊ねていた。
巴は頷き、普段からは考えられない、凛とした口調で言った。
「簡単に言いますと、複数のドロイドを、ひとつのマスターAIで制御する、というものです」
「???」
首を傾げながらも、そういえば、巴はかつて、ショールームモデルをしてたんだな…と思う。
いや、そうじゃなくて…ひとつのAIでっていうのは…リモコンみたいなものなのか? 
おれが判然としていない事に気付いて、巴は更に続けた。
「もっと簡単に言いますと、ひとつの意識で、同時に幾つもの身体を動かすシステムです」
「つまり、それを使えば…」
「はい…例えば…もしそれがわたしに使われたとしたら…と、この場合考えてみます。
『わたし』の意識や記憶は基本的に『ひとつ』です。でも、それと同時に、全く同じ、意識や
記憶を共有した、別の身体の『わたし』を存在させ、マルチリンクで動かすことが出来るように
なるのです」
おれの頭の中に、並んだ二人の巴が全く同じ動作をして踊ったり、掛け合い漫才をする
姿が思い浮かんだ…意味はわかるが…もうひとつピンと来ない。
「…それ…何のために作ったんだ?」
「人が…機械の身体に生まれ変わる為に…です」

246:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:48:38 v69jJlJl
巴の言葉に、車内が一瞬、し~んと静まり返った。
バンもジェーンも口をつぐみ、暫しじっとしたまま動かない。
どうやら…巴の説明で、総て事足りてしまったようだ。
「…それは…人の為に…作ったのか?」
「そういう風に…記録されています」
淡々と、だが、努めて穏やかな口調で巴は答えた。
「でも…生まれ変わるって…どういう意味だよ」
「仮に…重病で、寝たきりの患者さんがいたとします。その人にこのシステムを施術したと
したら…どうでしょう?」
「同時に…別の…ドロイドの身体を持った自分が、存在できる」
「しかも、意識そのものはひとつです」
「そうだな」
「そして、その患者さんが…亡くなったとしたら…」
「…ドロイドの身体が…残る…」
「はい。でも、亡くなった人の意識も記憶も…すべて残っているのです…それも死の間際まで
完全にリンクしたまま…」
「つまりは…その人間の『心』が移されたということなんだな」
「はい」
「でも、それって…それって、本当に生まれ変わりなんだろうか?」
「…そうですね。生身の身体にのみ魂が宿る…というのであれば、明らかに違います」
巴はそう言いながら、何故か一瞬、少し悲しげな表情を浮かべた。
「……そして…わたしの中にある記録では…臨床実験は一度だけだった様ですが…」

247:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:49:55 v69jJlJl
「それでバン…何で、あんたはそれを破壊しなくてはならないんだい?」
おれは正面を向き直った。
「……それって…重病の末期患者とかには、考えようによっては、朗報なんだろう?」
「考えようによっては…とは、言いえて妙な表現だが…まさにその通りだ」
バンは振り返り、ちらと巴の方を向き、それからおれの方に向き直った。
「…お嬢さんが、適切な説明をしてくれたから…その先を話そう」
「でも、マスター…その先は…」
またもジェーンが口を挟むが、バンは首を振った。
そして、はっきりと通る声で言った。
「うちのプレジデントは…テロの親玉どもの手に、そのシステムが渡るのを恐れているのだよ」

おれは…思わず、あっと声を上げた。
そうだ…確かにその可能性もあるわけだ。
「自爆テロも辞さないような連中だ。指導者の替え玉どころか、機械で出来た本人の完全な
分身が幾つも出来るとしたら…」
「…いくら倒しても、拘束しても無駄になる」
「ああ…」バンは唇を噛んだ「おれにはそれが…許せないんだよ」
「バン…あんた…」
おれは口を開きかけたが…。
バンの顔に、言いようの無い怒りと悲しみの表情がよぎり、言葉を失った。
…そして、ふと気が付くと、そのバンを、ジェーンが複雑な表情で見守っていた。

248:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:51:17 v69jJlJl
ともかく…無事、脱出はしたものの、これからどうするか…ということになった。
おれたちは…と言うと、とりあえず二人に協力することにした。
まあ、危ない真似などはできないし、バンもそういう手伝いはしなくて良いと言っていたが、
先刻の様子を見ていたら、このまま別れるのというのも…なんだか引っ掛かって…。
情報収集とか、補給物資の調達(武器は除くが(笑))ぐらいなら問題あるまい。
義を見てせざるは勇無きなり!とか、格好つける訳じゃないけど…それに近いかもなぁ。
それに…バンを見つめているジェーンを見ていると…何だか更に気になるんだよな。

それにしても、二人は日本に来て間もなく、まだきちんとした宿すら手配していないとの事だ。
さて、こちらはどうしたものだろう?
ここ数日間はワゴンやネットカフェで寝泊りし、銭湯に入ったりしているそうだが…。
その容姿じゃ、逆に目立ったろうなぁ。
日本語は流暢で、日本の慣習自体には問題ないようだけど…。
バンはスリムだが、骨太な印象の、役者のような二枚目だし…
また、ジェーンは…色白で、これで余計な口さえ開かなければ…(爆)、あちら風の清楚な
お嬢さまで通る美少女ぶりだ。
…ちなみにジェーンとは愛称で、本名はジェニファーと言うそうで、意外にも巴の名の
由来のひとつ「巴御前」の事を知っていて、それをネタに巴と色々やりあっていたが…。
何だか、ジェーンも巴自身も、どことなく舌戦を楽しんできているようで、おや?と思った。
…まあ、仲良きことはよき事かな。

249:名無しさん@ピンキー
07/10/19 08:53:04 v69jJlJl
>>243>>248 今回はここまででございます。

250:名無しさん@ピンキー
07/10/19 20:56:38 LwcY0jkK
いやぁ~、先日から実に面白いわ

251:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:10:13 Tf2+I9qS
>>250 恐れ入ります。

なかなか進まなくて済みませんが、少しだけ上げさせて頂きます。

252:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:21:09 Tf2+I9qS
それから、ざっと20分後…。

ご~~~ん!…という、お寺の鐘の様な、聞きなれた(爆)低く長く伸びる、えらく大きな
金属音がガレージ中に派手に響き渡り、
「ひゃん!痛ったぁい…!!」という、お馴染みの?巴の悲鳴が上がり、おれは思わず
頭を抱えてしまった。
…お~い…このシリアスな状況に…またかよ~。

正式な宿が決まるまで、おれの家を仮の宿に使ったらどうか…と提案し、最初は、そこまで
迷惑をかけられない…と、固辞していたバンだったが…。
何故かジェーンが賛成の意を示した事で、とりあえず今晩一晩の宿を…と話がまとまった。
で、そのまま家に着いたのだが…。
ダイレクトに、ワゴンをガレージに入れさせてしまったのが間違いの元だった。
…巴も迂闊だが…おれも迂闊だ。

253:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:22:21 Tf2+I9qS
「いたた…」
中腰の姿勢で、右手で天井の高さを測りながら、左手で頭をさすり、巴がばつの悪そうな顔で
おれの方を恐る恐る見つめる。
「おまえなあ…」
文句を言いかけたものの…思わず失笑が漏れてしまう。
「ごめんなさい…マスター」
頭をさすりながら、顔をくしゃくしゃにした巴が、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
ふと、気が付くと…
先に下りていたバンとジェーンが、こちらを向いたまま、目を丸く見開いて固まっていたが、
やがて、ぷっと吹き出し、くっくと咽喉で笑い始めた。
「そんなに笑わなくたって、いいじゃないですか~!」
ぷーっと膨れた巴が、右手を天井から離して、小さく拳を固め、ふるふる振って抗議する。
おれも改めて吹き出し、笑いをこらえながら言った。
「本当に…そんなに何度も頭ぶつけてると、シャレじゃなく、本当にパーになっちまうぞ」
巴のそばに寄り、黒髪の頭に手をあて、そっと撫でてやる。
「…だから…マスター…本当に大丈夫ですってば」
少し顔を上げ、巴はにこっと愛らしく笑った。
この笑顔が…クセモノなんだよな。
だって…見ていると…何だか癒されるというか…本当に萌えちまうんだよなぁ。
「頭蓋骨はチタン合金製、皮膚は特殊フォームラバーですから…」
「それは一度聞いた」
「それに、南米に行った娘は、目の前で500キロ爆弾が炸裂して、200m飛ばされても、
かすり傷で帰って来てますよ…ちなみに水平距離200mですが…」
「……さっきは高さ20mとか言ってなかったか?」
「それは、中東にいった娘です」
「………」
予想外に切り返されて、おれは一瞬、言葉を失った。
そ~っと横を向くと、バンとジェーンが口に手を当てて、笑いをこらえている。
「ああ、わ~ったわ~った…」
おれは頭を掻き…溜息まじりに苦笑しつつ、右手をひらひらと振った。
先刻の凛とした態度で説明をした時との落差が凄いけど…。
やっぱり巴は巴だな…。
良くも…悪くもだが?(笑)
「ともかく、茶でも淹れてくれ」
「はいです」
巴は満面の笑みでうなずいた。

254:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:23:14 Tf2+I9qS
いつも、巴と二人っきりのリビングに、二人の来客が増えると何だか賑やかな感じだ。
テーブルを挟んで正面の三人掛けソファに、バンとジェーンが腰掛け、辺りをちらちら
見回している。
「……独身男の家にしては広いだろ?」
厳密に言うと、当然、巴との二人暮らしだがね。
「あ、いや」バンがそっと首を振った「…本国のおれの家も、こんな感じだったんでな」
「だった…ってことは」
「…ああ…今は…もう無いがね」
あ…悪いことを聞いちまったか?
ちょっとばつの悪い感じで思わず視線を逸らすと、バンはふっと寂しげに苦笑した。
「気にするな…昔のことさ」
ちらとジェーンを見ると、やはり少し暗い表情をしている。
…昔の家のことで…何か悲しい思い出でもあるのだろうか?
今は無い…って…。
まるで、存在そのものが無いような言い方じゃないか…。
その時、何故か…ふっと、バンがテロリストへの怒りを表わした時の事が脳裏に浮かんだ。
まさか…テロリストに…やられた…とか?
だとしたら…一緒に居た家族も……まさか…。

…だが、二人の沈痛な表情に、おれにはそこまで尋ねる勇気が湧かなかった。

255:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:24:53 Tf2+I9qS
「お茶が入りましたよ~!」
丁度タイミング良く、キッチンから巴の声がして、おれはホッとした。
あくまで偶然だろうけど、巴、ナイスアシスト!!
お盆に、茶たくに載った温かそうな湯のみが四つと、らくがんの入った器がひとつ載っている。
…って、ちょっと待て、ふたつで十分じゃないのか?
『ちゃんと』飲めるのは男二人だけだろ?
思わず指先で、テーブルに置かれたお盆の上を、ひとつふたつと数える仕草をして、巴とジェーンを
交互に指差す。
「まあ…気は心ですから~」
にこにこしながら、巴が言葉で答える。
まあ…確かにね…って…いいのか?それで…。
だが、バンは、テーブルの上のお盆から、湯のみが載った茶たくをひとつ手にすると、そっと、
ジェーンに差し出した。
「折角のご厚意だしな…君も、付き合ってくれないか」
「え?」
一瞬、とまどいの表情を浮かべるジェーン、そして…一瞬後、彼女の瞳から、何だかじわっと
こみ上げてきている様に見えて、おれは思わず息を呑んだ。
「…あ……は…はいっ!」
…本当にドロイドなのかと思えるような…ちょっと何かしたら泣き出しそうなのに…それでいて、
とても嬉しそうな笑みを微かに浮かべ…ジェーンは湯のみを手にした。
まるで…感極まって嬉し泣きしそうな…そんな感じじゃないか。
……何だろう…この娘は…。
間違いなくドロイドなのだが…まるで…バンに対して、単なるマスター以上の感情を持っている
みたいに思える。
いや…バン自身も…見ていると、ジェーンが大切なのに…時々、わざと一線を引いているように
見える気がするのだが…。

256:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:26:45 Tf2+I9qS
だが、二人並んでお茶をすすっている様子を見ると…何だかちょっと良い雰囲気だ。
…こういうのって…悪くないな。

ふと気が付くと、巴がおれに、そっと湯のみを差し出していた。
黙って頷きながら受け取ると、小さく小首を傾げて笑みを浮かべてみせる。
黒い瞳が僅かに悪戯っぽく輝いている様に見え…おれは心底どきっとした。
それに対して巴は口元に手をあててくすっと笑う。
…まさか…巴の奴、ここまで読んでいたわけじゃないだろうな?

とりあえず一息、つきはしたものの…日が暮れて、今日はどのみち、これ以上の調査は無理だし、
詳しい説明をすると長くなるから…というので、ともかく今日は一旦、話を打ち切ることにした。

257:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:28:15 Tf2+I9qS
>>252>>256 今回はここまでです。
ちまちまとで済みません(汗)


258:名無しさん@ピンキー
07/10/20 12:31:39 qW+5Zrq2
>>257
まだ全部読めてないがとりあえず乙

259:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:18:32 kTEr2Kkr
それでは、続きです。
今日は、たぶん、この一回だけになるかと思います。

260:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:19:35 kTEr2Kkr
時計を見ると19時を廻っていた。
部屋着に着替えて、自室のベッドにひっくり返る。
…おれの家は借家だが、大家さんがとても良い人で、家賃もかなり安く、部屋数も多い。
しかも、巴に一部屋与えようかと思っていたら、充電ベッドを隣の書斎に持ち込んでしまい、
すぐ隣で待機すると言い張るものだから、寝室がひとつで足りてしまっているのだ。
そこで、リピングとキッチン以外は、両親や友人などが泊まれるように整えなおし、しかも
こまめに巴が手入れしてくれるので、いつでも、誰が不意にやってきても使えるのである。

…余談だが…巴が来て暫くして、天井と出入口の上部を頭突き(笑)して破壊する事故が
三回ほどあったが、いずれも大家さんは修理代を払うだけで笑って許してくれた。
かなり壊れたのだが「故意にではないから」と、本当に原価分しか受け取らなかった。
後で聞いたら、それは、巴が、常にこの家を内外共に綺麗に維持して、寝室などホテルなみに
整えてある事を、たまたま様子を見に来た大家さんが知り、巴を気に入ってくれたらしい。
ちょっとドジな所もあるけれど…巴を選んでくれた両親に、改めて感謝しなくてはな…。

261:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:21:01 kTEr2Kkr
さて、奥の、ダブルベッドのある部屋をバンたちに提示したところ、一瞬、複雑な表情をされたが、
ネットの端末が二台あるので、二人で同時に調べ物が出来るメリットがある…と説明した所、
即座に納得し、夕食までの間、二人はそこで休むことになった。
…ちなみに、その部屋を真っ先に案内したのは巴なのだが…。
どうも、いつもより、妙に気が廻るような気がしてならない。
一見、いつもの、ぽやぽやまったりした巴に変わりはないのだが…。
なんだか二人を色々と気遣っているような…そんな気がしていた。
まあ、おれ自身、二人が単なるマスターとそれに仕えるドロイドの娘…という感じに見えないで
いたのも事実なのだが。
それに、ジェーンは最初の頃は、おれたちがバンに敵対する者か、あるいは何らかの悪い意味で
影響を及ぼす者という感じで、ツンとした接し方をしていたのだが、ワゴンに乗り込む時の
おれたちを見ていた辺りから、次第にあたりが柔らかくなってきているようだ。

262:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:22:55 kTEr2Kkr
「あれが…ツンデレっていうのかね」
ふと口に出して言うと、書斎から巴がぬっと姿を現した。
「あ、ジェーンのことですか~?」
メイド服を脱ぎ、白のブラとシンプルパンツ一枚だけの、なかなか刺激的な姿である。
温かな、まるで血の通っていそうな…やはり、作り物と思えない白く柔らかな肌。
やや童顔なこともあって、大柄な割にあどけない印象にも見えるが、その整った体躯は美しく…
その上、大きくて、弾力のありそうなふたつの胸の膨らみが…これまた良い形で…。
しかも乳首がブラ越しにうっすらと透けて、そのうえぷっと布地を押し上げているのだから堪らない。
…でかいけど…何かで見た、美しい聖母像か女神像の様でもあり…
思わず…ちょっと…勃起してしまう。
あ…い、いかん
…やべ…(汗汗)
「あ、ああ…そうだが」
ちょっとしどろもどろになりながら、壁の方を向く。
朝の気恥ずかしさが蘇ると共に、巴の、先刻の凛とした姿や、いつもの笑顔が脳裏に浮かんでしまい、
なかなかセガレ(爆)がおさまらない。
いや、おさまるどころか…逆にもう自分でも情けないくらい、腫れ上がって(苦笑)いる。
「…あ……あの…」
そんなおれに気付いたのか、巴が口元に指をあて、もじもじしながら、恐る恐る声を掛ける。
「やっぱり…その…ぼっちゃま…?」
「あ~…いや、だから、気にしないでいいってば」
「…でも………もしかして…あの…」
わ~!ベッドの上で『の』の字を書くなぁ。
がばっと跳ね起き、慌てて立ち上がったおれは、カーペットの床にひざまずいた巴の顔を見下ろした。
「……よろしかったら……あの……今、ここで…させて頂きますが」
「いやだっておまえその…」
あ~!!!
1年前まで、硬派だと公言していたおれが…もうすっかり骨抜きだ。
…それも、巴が迫ってくる…というより、おれの欲求を察知して、控えめにお伺いを立ててくれるのだ。
「そうですね…もうちょっとでご飯も炊けますし…」
何か違う~!
思わず苦笑した途端、巴は恐る恐るおれの股間に手を伸ばした…って、まさか!?
「そ…それでは…あの…お、お嫌でなければ…」
「…く、口…?」
その言葉を口にした途端、おれのモノがピクンと勢い良く跳ね上がってしまった…。
だ、駄目だぁ…。

263:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:24:09 kTEr2Kkr
部屋着はトランクスの延長みたいなものなので、いともあっさりと下ろされてしまった。
…改めて巴の顔を見下ろす。
ひざまずいていても、かなりでかいが、こうして見つめると…むらむらと支配欲が湧いてくる。
あ~…畜生…!おれは畜生だ…けだものだよ…。
こうして、巴を屈服させて支配する事に、興奮し、欲情しているんだから。
そうだ…おれは、おれは巴が欲しいんだ!その総てをさ!! 
半ばヤケになってパンツからイチモツを取り出し、巴に差し出す。
…巴はと言うと、少し身を屈め、幾分上目づかいになりながら、おれの顔を見つめ、頬を
赤らめながら、両手で挟むようにおれのモノを包み込んだ。
「ぼっちゃま……とても…とても…熱いです…」
巴がそっと囁く。
「…わたしで…こんなに…こんなに…感じて下さっているのですね…」
ああ…この、せつなそうな…おれを見上げる恍惚とした表情にはかなわない。
「うれしいです…」
おれは…巴の頭を両手でそっと押さえた。
…くそ…滅茶苦茶にしてやりたくなるじゃないか。
だが、それと同時に…巴が愛しくて、可愛くて、たまらない気持ちもこみ上がってくる。
柔らかな黒髪…両手を下ろし、頬に触れると、張りのある温かな質感の肌。
「巴…」
「ぼっちゃま…」
巴は囁くようにおれの名を呼び、それから左手ですっとブラのフロントホックを外した。
途端に、こぼれるようにたゆんと、大きな双球が露わになり、おれは息を飲んだ。

264:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:25:32 kTEr2Kkr
いつ見ても…綺麗な形の胸…しかも乳輪の大きさも程よく、綺麗な桜色をしている。
あのさくらんぼを小さくしたような乳首をつまんだら…どんな反応をするだろう。
そう思うと、おれのモノはさらに怒張し、先端から更にてらてらとした物が出始めていた。
やがて巴は、右手で、その、とてつもなく大きな胸の膨らみの谷間におれのモノを導くと、
それから左手で、胸を押し潰すようにしておれのモノを挟み込ませた。
…ああ、柔らかで、温かで心地良い感触だ…。
思わず身体を巴に預けてしまいそうになる。
しかも、優しく包み込みながら、次第に身体を上下させ、じわりじわりと刺激させるのだ。
決して激しくも単調でもなく、おれの反応に合わせて、様々な動きを組み合わせて…。
あ…アタマの中が真っ白になってきやがった。
背筋から腰にかけて、ぞくぞくと痺れに似た快感が駆け巡る。
巴は両の胸を掴みながら、身体をなおも上下させる。
おれのモノの先が、胸の谷間の隙間から顔を覗かせる。
「…う……あぁ…」
その先からじわじわと透明な雫が滲み出し、同時におれ自身堪らなくなり、思わず
小さくのけぞってしまった。
…く…巴のテクニックは…絶品だ。
このまま…出て…。
そう思った瞬間、巴はそっと舌を出し、そのままおれの筒先に絡めた。
愛おしそうに…『ねぶる』ように…だが、どことなく品のある舐め方で、おれのモノの
先端から傘全体を丹念に、舌先全体を駆使して何度も何度も愛撫する。
…気が付くと、巴の舌先が柔らかく、熱く、そしてしとっている事に気付く。
人工の唾液だが…そうと感じさせないばかりか、おれの雫と混ざって、時折り
つっと糸を引いては軽く伸びて消えていく。
「と…とも…え」
巴の舌がカリ口から裏筋へと伸び、さらに傘の裏側から表に向けて、丹念に
愛撫を繰り返される。…いかん!!
「ぐ…」
おれはたまりかねて遂に軽く放ってしまった。
「あん…んん…」
すかさず巴は小さく口を開き、その中に受け止めてくれる。
そして目を閉じ「ん…」と小さく声をたて、こくんとおれの精を飲み下す。
…その時のうっとりした表情といったら…。
…たまらない!…巴…巴…!
これが…おれの大切な…。
そう思った瞬間、今度は、いきなり巴はおれのモノ全体をぱっくりと咥えた。
どことなくとろんとした表情で笑みを浮かべながら…。
そしておねだりするように小さく小首を傾げ、軽く舌で周囲を嘗め回し、そのまま
前後に抽送を始めた。
「…ん…んん…」
咽喉からくぐもった声をたてる巴。
次第に動きが早くなり、しかも筒先から、何かが吸いだされようとしていくのがわかる。
バキューム…フェラ…って…こんな感じなのか?
いや、それより…もっと丁寧な感じもする…が。でも、この刺激は…堪らない!!
熱い…次第におれの腰から巾着袋、筒先へと何かがこみ上がってくる。
肉棒全体が、巴の、その愛らしい口元を通して、その口腔に吸い込まれていくようだ。

265:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:26:47 kTEr2Kkr
…巴は口元をすぼめ、熱く滾った肉棒を前後に動かし、筒先の先端から溢れ出した雫を
一滴残らず絞り出さんとするばかりに、ちゅうちゅうと軽く音を出して吸い出していく。
腔内では、舌先が裏筋から亀頭の先端辺りがちらちらと当たり、更にじわじわ刺激される。
一度放出したばかりなのに、おれのモノは殆ど萎えるどころか再び、ビンビンに、怒張
し続けている。
あ、ち…いけね…。
ま、また…くる…!
うわ!!
「と、巴…うぁ!」
「…ん…ん…んん!」
巴も小さく声を上げる.
再び、おれのモノが、一段と派手にビクンと弾け、巴の柔らかな口の中一杯に、熱いものを
どくどくと注ぎ込んでいた…。

…結局、その後、おれはもう三発、巴の口の中に出してしまった。
それも、巴の優しくも激しいテクニツクで、もうギンギンに勃起してしまい、既に数回目だと
いうのにかなりな量を放ってしまったのだ。
…流石に、最後は、ちょっとくらっとなったが、立ち上がった巴の胸を揉みしだき、乳首から
ミルクとドリンク剤を交互に吸い出して飲み…そのままベッドに腰掛けた。
「…ぼっちゃま…」
口元に付いた白い雫を、軽く舌で絡めとって飲み下しながら、巴が熱を帯びた瞳で言った。
「…あの…あの…ごめんなさい…ごめんなさい…でも…でも、わたし…」
先刻のジェーンではないが、どことなく潤んだ瞳に見え、これが人工のものとは思えない。
「いや…巴は、おれの為にしてくれたんだし…」
「でも…わたしは…メイドロイドなのにぼっちゃまを…」
確かに主導権を握っていたのは巴だった。
巴の想いが伝わってきて、おれ自身が身を任せてしまったのだから。
でも、巴には、自分の立場を逸脱しかけた行為に思えてしまったのかも知れない。

266:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:28:01 kTEr2Kkr
やがて、巴も伏せ目がちに、おれの横にそっと腰掛け、小さく一息つく。
厳密に言うと臭気を排出して、内部を消臭しているのだが…。
さらに…ん…ん…と巴の咽喉から、小さな声に似た音が聞こえる。
…ちなみに、巴の説明では、こういう行為も想定されていて、人工唾液と消毒液が口腔内に
『散布』され、それらをすべて飲み干し、終わった後、キスしても行為の相手の精が残って
不快な感じにしない様な仕組みになっているという。
今はその「洗浄・消毒モード」なのだろう。
でも、その音は、まるでおれの精の余韻を再び味わっている様にも聞こえる。
まあ、本来、フェラ後のキスの問題っていうのは微妙だけども、男にも責任あるわけだけどな…。
…などと、まさに馬鹿そのもののことを一瞬考え、そんな事を色々考えている自分に、やっぱり
ちょっと自己嫌悪する。
でも…。
「ありがとう…巴」
俯いた巴の頬に手をあて、おれは静かに笑いかけた。
ちょっと落ち込んだ様な表情だった巴の瞳が、驚きに見開かれる。
「その…なんだ…とても良かったし…ソソられた…」
何だか言っている順番が逆みたいだが、すればするほど愛おしさが増していったのだから…
ある意味、本音だ。
「ぼっちゃま」
おれを見つめる巴の黒い瞳がやっぱり潤んでいる。
そして、嬉しそうに僅かに目を細め…にこっと笑った。
うん…巴はこの表情が一番だ!
ああ…良い娘だよ、おまえはさ。
たまらなくなったおれは…いつしか少し立ち加減になって、巴の唇にくちづけしていた…。

267:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:29:50 kTEr2Kkr
と…ふいにピーという音がして、唇を離したおれたちは、ちらと時計を見た。
もうこんな時間か。
「あ…炊けちゃいましたね」
巴が悪戯っ子の様な顔で、軽く舌を出した。
「時間…ですね」
おれも、ちょっと気取って片目をつぶり、親指を立ててみせた。
「ああ…よろしくな」
「はいです」
巴はにこっと笑いながら小首を傾げてみせた。
そうだ…やっばり巴には、明るい笑顔が良く似合う。

メイド服を着なおす為に、巴は書斎に姿を消した。
その後姿を見やりながら、おれは改めて自問自答する。
…これって、メイドロイドとの恋…だろうか。
おれの心には、正直、まだ、ちょっと複雑なものがある。
だが…巴には間違いなくおれたちと同じ『心』がある。
心がある者同士が、その心を通わせることに何の問題があるだろう…。
おれは…何があっても、巴を大切に守っていこう…と、改めて心を固めた。

…そして、それが、この後に起こった出来事について、とても重要なカギになるとは、
全く思いもよらないでいた…。

268:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:31:38 kTEr2Kkr
>>260>>267 今回はここまででございます。

269:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:40:09 a4L+TCvl
すごい時間に乙乙。続き待ってる

270:名無しさん@ピンキー
07/10/21 06:00:38 xhy4l8E2
なんと癒される・・・
こういう甘いのはいいな。
GJ!!続きも待ってる

271:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:40:26 rznyp2PK
またも少しで済みませんが…上げさせて頂きます。

272:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:40:55 rznyp2PK
その晩の食事はいつになく賑やかで、とても楽しいものだった。
ダイニングのテーブルに、おれとバンが、向かい合って腰掛け、巴とジェーンが
キッチンでテキパキと作業している様子を見守っていた。
ジェーンは紺色のワンピースに着替えてエプロンをつけ、バンもガウン姿になっている。
…そして出されたものは、ご飯に味噌汁、あじの干物!海苔 、漬物、わさび漬け…。
はあ…なんだかどこかのお宿の食事みたいだが、時間も遅くなってしまい、初めから
作ると時間がかかる上、バンが日本食も大好きだと言うのですんなり決まったのである。
ただし、ご飯の炊き方、味噌汁の味加減は絶品で、おかずも巴の見立てだけあって
味も質も逸品揃い…バンはちょっと感激している様で、巴の面目躍如だ。
また当然の如く、『ご飯』を食べられるのは、おれとバンだけで、巴とジェーンはお茶を
『たしなむ』ことしかできないのだが…。
例によって巴が幾つかボケをかまし、案の定、ジェーンがにやりと笑ってシビアに突っ込み、
巴がちょっとふくれてやり返して…みたいな展開が続いていた。

273:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:42:17 rznyp2PK
例えばこんな具合だ。
「ふふふ…真あじは~この沼津産が一番なのです~」
自信たっぷりに、両手を腰にあてて男二人を見下ろす巴。
おれもそれには異存は無い。
「ん…でも、これ、沼津で水揚げして…小田原の工場で加工したものってあるわよ」
流しの横に置かれたパッケージの表記を、暫く読んでいたジェーンが、素早く?ジト目でツッコむ。
「え?…あ…あう… 」
自信たっぷりだった顔が引きつる巴。
ジェーンが、にやり…と絵に書いた様に意地悪く笑う。
…だが、あくまで面白がっているだけで、何だか本当に『くつろいで』いるみたいだ。
それに…本来の外見相応の可愛らしい表情で…これって…
お世辞抜きに良い笑顔じゃないか…?
「それに、実際は駿河湾近海産…とあるし…」
ジェーンがちらとおれとバンの方を見ながら言う。
「これって沼津産って言えるのかなぁ」
「い…いいんです~!沼津の会社で加工したものですから」
「あ、良く見ると小田原産ってあるわ」
「えぇ…っ?」
「ははぁ…実は会社名と読み間違えたんでしょ…」
「う…うう…っ…そ、そうかも、知れないですけど~」
何も言えなくなった巴はウルウルとなりながら、エプロンの端を咥え…
箸であじの身をほぐして口に入れていたおれに、救いを求める顔を向ける.。
なんだか、姑にイジめられる嫁みたいな感じで、思わず吹き出す。
「まあ、でも…なんだ…とても鮮度が良いし…美味いよ、本当に」
苦笑いしながら、おれが助け舟を出すと、巴はぱぁっと明るい顔になる。
「そ、そうですよね~」
「あら、さっきは沼津がいっちばんなのです~…とか言ってたじゃない?」
「うう…」
「小田原の人が聞いたら、とっても気を悪くするんじゃないのかなぁ?」
にまぁ…と、さらに意地悪く笑うジェーン。
けれども、その表情は明るく、この場を楽しむいたずらっこのような雰囲気がある。
派手に突っ込まれる巴も、たじろぎながらも…妙にオーバーアクション気味で、楽しそうだ。

274:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:44:01 rznyp2PK
いや、もちろんイジめられて喜ぶ属性があるわけじゃない…はず…と思うけどね。
そういえば、ここに来た直後より、バンは明るい表情だし…何と言ってもジェーンが…
何だか巴の妹…それもボケボケな姉をイジるツンデレな…それでいて姉が好きな
妹キャラのポジションに収まっている様に見え、おやおや…と思う。

…おれたちがあんな事になっている間、二人はどうしていたのだろう?
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
「そういえば…飯が炊けるまでの間、バンたちは何をしてたんだい?」
ふと正面を向き直って訊ねると、味噌汁を飲みかけていたバンが、いきなりブッと
つっかえたかと思うや、思わず、げほげほと激しくむせてしまった。
「ば…バン?」
冷静で穏やかな二枚目でも…こんなリアクションをする事があるんだな…思う。
「ま、マスター!」
あわてて駆け寄り、バンの背中をさするジェーン。
「あ…い、いや…その…」
バンが僅かにおれの視線を外し、微かに照れ笑いを浮かべる。
なんだ?このバンらしからぬ様子は…?
ちらとジェーンを見ると…妙にこちらを意識した顔で、僅かに赤い顔をしている…って…。
お、おい…まさか!?
この反応…まさかだろ~!?

275:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:45:51 rznyp2PK
おい!冗談じゃないぜ~!!
おれは全身の血が、さ~っとひいていくのを感じた。
てっきり部屋でひとやすみしているかと思ったのに…。
あんたら、なんてことを~!!
「ま、まさか…あ、あんたら…」
「……す、すまん……そ、そんなつもりじゃなかったんだが…」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい!!」
バンがテープルに突っ伏し、ジェーンもぴょこんと頭を下げる。
おれは思わず天を仰ぎ、右手で顔を覆った。
「…そりゃないぜ~」
「ごめんなさい、ごめんなさい!わたしが巴に教えてもらいたい事があって…」
「…それで…立ち聞きかぁ?」
へなへなになって、おれは枯れた声で言った。
「い、いや、その…具体的に何をしていたかは知らないが…」
バンが全くフォローになっていない言い訳をする。
「いや…だが…本当にすまない…ことをした」
そう言ってバンは、改めてテーブルに頭をこすりつけた。
「だけどよう…」
「…でも~…事故では…仕方ありませんね~」
ふいに巴が、口元に指をあて、困ったようににっこり笑いながら、小首を傾げて口を開いた。
「……え゛?」
おれも、顔を上げたバンもジェーンも、思わず目を丸くして巴の顔を見つめた。
巴の表情はいつもと同じ様だが、その背後に妙なオーラを感じて、おれはぞくっとした。
あ、いや、これはこれで何かソソられるんですが…っておれはM属性無いけど…って
違う…これは…やばい!
「もっとも~」
巴がワンクッション置いてから続ける。
「ジェーンが気付いた後に、バンさんが来た…と言う事になりますと~…途中からは立ち聞きの
意思があったとも取れますね~~…もし、そのおつもりだったとしたら…」
「そのつもりだったら?」
一見穏やかな笑顔の巴の瞳が、異様にきらりんと輝く。
「生かしてここから…お出ししないところですが~~」
ああっ…や、やっぱりキレかかってる。
そ…そりゃそうだよ…あんな恥ずかしい…二人だけの営み?を立ち聞きされたら、
もう半殺しどころか、全殺し(なんてあるのか?)だよ…普通。
し、しかし本当に殺人はいかんぞ、殺人は。
いや、で、でも、おれだって、本音は二人の記憶から全部消したいけど。
でも…だ、駄目だ、やっぱり実力行使は駄目だよ~!
「ただし~条件次第によっては、許してあげましょうかぁ」
口調こそ、まったりぽやぽやだが、有無を言わせぬ響きがある。
「じょ…条件って、なんだよ?」
本来、おれが二人の代わりに聞くつもりも、義理立てする理由も無いのだが、巴の
異様な迫力には、おれ自身も危機感を覚えて、思わず訊ねていた。
すると、巴はにっこり笑い、こんなことを言った。
「あなたがたの関係を総てお話しください…包み隠さず、全部です」

276:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:48:14 rznyp2PK
「おれたちの…」
「関係…ですって?」
まるで二人一役のように、繋がって言葉をもらした二人は、暫し絶句した。
「…はい、その通りです~」
巴の背後にあった異様なオーラがいつの間にか消えている。
「わたしたちの大事な秘密との交換です…。
等価交換とするには~…わたしたちの方が、か・な・り・重いですけどね~」
巴…おまえ…。

バンは暫し口を閉じていたが、やがて、改めて丁寧に頭を下げ、そして静かに、
微かに、申し訳なさそうに笑みを浮かべて、重い口を開いた。
「わかったよ。…改めてお詫びすると共に…話させて頂こう」
「マスター…」
ジェーンは、小さく呟き、静かにバンを見つめていた。

277:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:50:18 rznyp2PK
>>272>>276 今日はここまでです。
本当に、ちまちまとで済みません(汗)

278:名無しさん@ピンキー
07/10/22 20:55:28 rJJcuXTt
く~~~~~~~~~~~~~~~~っ!
いつもいつもなんてトコで終わるンやっ!
気になって眠れないじゃないかw

明日から出張なんだ、だれか保管庫にまとめておいてくれよなw

279:名無しさん@ピンキー
07/10/22 21:05:47 VjDHNqKX
>>277
俺を萌え殺すだけで飽き足らず寸止め殺すのか!

280:名無しさん@ピンキー
07/10/22 21:23:50 HWBm+Ch0
>>277俺を萌え殺すだけで飽き足らず寸止め殺すだけじゃなく
地元名前出してショック死させるか!

281:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:33:55 0bmOvWLe
>>278
済みません…遅くて本当に済みません(汗)
>>279
た、確かに、仰るとおりです。
>>280
あ、地元の方でしたか…驚きましたw

…それでは、今回も少しですが…。

282:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:34:32 0bmOvWLe
「…おれとジェーンは…コンビを組んで、もう二年になるかな」
バンの声が静かにダイニングに響く。
おれの横には穏やかに見守る巴が、バンの横には複雑な表情のジェーンが腰掛けている。
対照的な二人の女性型ドロイドの様子をちらと見、おれは頷き、続けて訊ねた。
「それは…公私共に…ということかい?」
「ああ」
バンは両手を組み合わせ、ふっと小さく息をついた。
「その通りだ。おれたちは普段の生活から、FBIの任務に至るまで、総て…いつも一緒だ」
「総て…いつもですか?」
巴がにこっと笑う。
「では、わたしたちと同じなんですね~」
おれの腕をぎゅっと掴み、肩に頭を寄せてみせる。
う~ん…その念押しは、なかなか微妙だぞ…。
だって、なあ…同じってことは、つまりはその…。
「そうだな…それに………近いとは、思うよ」
バンが僅かに困ったような…照れ笑いにも似た…寂しげな笑顔を浮かべる。
「でもね…おれたちは」
「…もう一押しができない…それ以上を越えられない…とかですかぁ?」
「…え?」
バンとジェーンの二人が同時に声を上げた。
「だって…見てますと…何だかお互い、遠慮しているみたいですもの」
お…おいおい、巴さん?
随分、ストレートな球を放るじゃありませんか?
そりゃあ、おれだって知りたい…けどさ。
それは…敢えて聞かぬが花ではありません?

283:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:35:18 0bmOvWLe
何と言うか…微妙に気まずい空気が流れた。
バンとジェーンはちらとお互いの顔を見、それから慌てて視線を逸らす。
…確かに組んで二年…にしては、ちょっと不自然な反応だ。
「黙ってちゃ駄目ですよ~約束は、約束ですからね~」
巴が人差し指をたてて、にっこり笑って追い立てる。
って、それってちょっと酷じゃないのか?
「だって…わたしとマスターの仲を知ってしまったじゃないですか~…」
まるでおれの心の声に答えるかのように、巴は続ける。
「それにふたりは…とても…とても仲が良いみたいなのに、ある所まで来ると、絶対に、
今みたいに、目を逸らすじゃありませんか…」
いつしか巴の表情は、優しいが真剣なものに変わっていた。
おまえ…やっぱり二人を気遣って…わざと…。
巴の語りかけが、次第に透明感のある澄んだ響きに変わっている。
「それに…そんな時…なんだか、とても…とても悲しくて切なそうに見えるのです…」
「…おれも…そう思うよ」
思わずおれも言っていた。
「あんたたち…それこそツーカー…以上に息のあったペアなのに、一線引いてるみたいだ」
一瞬の間があった。
それはほんの数秒でもあるようで…それでいて、とても長く感じられる沈黙の間…。
…やがてバンは大きく息をついた。
そして、一度目を閉じてから、改めて決意した様に頷いた。
「確かにおれたちは…一線を引いていると思う」

284:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:37:13 0bmOvWLe
「バン…」
ジェーンが小さな…本当に頼りなげな、か細い声で呟く。
「…良いのですか…?」
微妙に口調が変わってきている。
「…むしろふたりには知ってもらった方が良いと思う」
ジェーンの金色の髪に手を触れ、優しく握る。
「君には…辛いかも知れないが…」
「…いいえ…仕方ありません」
バンの手を取り、そっと自分の頬にあてながらジェーンは首を振った。
「それに…いずれは…こんな時が来ると思ってました」
ジェーンはゆっくりと手を離し、伏せ目がちにおれたちを見た。
精一杯微笑んで、頷いてみせる。
その表情は、強気だった面影は微塵も無い。
…おれたちは、とんでもない事を言ってしまったのか?
だが、このままで良いとは思えないし、もし、おれたちの事がきっかけで、ふたりの関係が
より深く、強くなれば…と思うのだが…いずれにせよ…ひとつの賭けだ。
バンは微かにひとつ息をついた。
そしてもう一度目を閉じ、それから改めて、おれと巴を交互に見据え、はっきりと通る声で言った。
「ジェーンは、おれの大切な…許嫁の分身であり……同時に…形見なんだ…」

285:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:38:10 0bmOvWLe
その途端、遂に堪りかねたのか、ジェーンが勢い良く立ち上がり、そのままキッチンに飛び込んだ。
おれたちに背を向け、流しに手をかけ、静かにうつむいている。
肩が悲しげに小さく震え、ややをしてしゃくりあげ、涙をこらえて嗚咽しているのが見える。
その姿が何故か小さく見え、おれは切なくなった。
そうだよな…自分が最愛のひとの身代わりかも知れない…というのは…複雑だよな。
それに、バンだって、ジェーンを大切に思えば思うほど、許嫁を忘れられないだろうし、また、
それでいて許嫁の代用にはしたくないだろう…。

…と、いつの間にか巴がジェーンの後ろに立ち、まるで包み込むようにそっと抱きしめた。
まるで母親か、姉の様に…優しく、大事そうに…。
はっとした様子のジェーンが、少し振り向き、巴の顔を見上げる。
その両の瞳から一筋ずつの涙がつっと零れ落ちる!
巴はそっと頷き、小さく小首を傾げて静かに微笑む。
…途端に、振り返ったジェーンが、そのまま巴の胸に顔をうずめて、わっと泣き出した。
ずっと我慢していたものが…張り詰めていたものが切れてしまったように…
わんわんと…声をたてて。
そんなジェーンをそっと抱きとめ、そして頭を、髪を優しくいとおしげに撫でる巴…。

巴…やっぱり、おまえには、わかっていたんだな…。
おれにも、思わずちょっとこみ上げてくるものがある。
…そして、それと同時に、脳裏にピンと閃くものを感じて、こう訊ねた。
「ジェーンは…もしかして…シンクロイド・システムを使って、誕生したんじゃないのかい?」
「そうだ…」
巴とジェーンの姿を、暫く万感の思いで見つめていたバンは、そっと目を閉じた。
「ただし…実験用に日本から送られた試作品で、日本で完成したそれには到底及ばない代物だがね」
やはり…そうだったのか。
しかし、試作品ってことは…。
「それじゃ、ジェーンはオムニ・アメリカの」
バンは目を開いた。
「そう。次世代型ドロイドのプロトタイプだ」
そうか…だからここまで、ほぼ完璧と言える人間に近い情緒を持っているんだな。
おれは大きく溜息をついた。
これでいくつかの謎が繋がった…。

286:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:38:51 0bmOvWLe
「……そうか…それで判ったよ…」 
おれは、先刻までの、幾つかのバンたちの様子を思い出し、嘆息をつきながら続けた。
「あなたは…テロか何かで許嫁さんを亡くした…そしてその代わりに…どういう経緯でかは知らないが、
許嫁さんの分身のジェーンがパートナーとなって、今、こうして一緒に戦っている…違うかい?」
「どうして…君がそれを…」
バンの瞳が驚きに見開かれ、おれは、ふっと小さく、寂しく笑いかけた。
「昔…その昔…おれも同じ様なことがあったんでさ…」
「え…?」
「おれも…まだガキの頃、大切なひとをテロで失くしたんだ…」
そうだ…おれの、大切な、初恋のひと。
そして、その人の名は……。
「…おれが…柔道だ空手だ、剣道だ…なんて、無駄だとか言われながら、色々武道を習ったのは、
大切な人を守れるようになりたいっていう…その一心からだったんだ」
「君も…なのか?」
バンの言葉に、おれは黙って頷く。
そうだ。おれは、本来、ともねえを守りたくて習い始めたのだ。
…結局、それは間に合わず、役には立たなかったけど…。

287:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:39:33 0bmOvWLe
いつの間にか、ジェーンが巴の胸から僅かに顔を上げ、赤く腫らした瞳でこちらを見つめていた。
バンへの想いと、おれに対する親愛が感じられる、穏やかな表情で…。
おれは、ふと、巴の横顔を見つめた。
巴は…ジェーンを抱きしめたまま、静かに目をつぶっている。
その横顔が、一瞬、ともねえとダブり、おれは改めてハッとなる。
そうさ…もちろん…巴は、ともねえじゃない。
…だが…そうなんだ、おれもバンたちと、ある意味、同じなんだ…と思う。
「でも、ずっと、そのひとを理想とし、彼女一筋を貫き続けてきたおれの前に、その、おれより大きな
メイド姿の娘が現れたことで…おれは変わり、新しい愛に目覚めたんだと思うんだ…と思う」
あ…やべ…このおれが愛だとか…恥ずかしい事を説いてるな…。
おれだって本気で自覚したのはつい最近だし。
でも、言葉が止まらない。
「確かに、かつて想ったひとを忘れないのも大事だろう。それは、その人にとってかけがえの無い
ものだし…。忘れられるものでも、忘れて良いものでもない。でも、長い人生…ここらで新しく
出直して…また違った、忘れられない良い思い出を新たに作るっていうのも…良いんじゃないかな?
幸い…ふたりはベストパートナーみたいだし」
そう言ってから、おれは自分の発言の下手さが情けなくなった。
もっと気の利いたことを簡潔に言えない自分が恨めしい。
それに、ジェーンが許嫁の女性の分身だから…という部分については問題解決になっていないし、
もっと言えば、人間とドロイドという違いだってあるわけだし。
…だが…バンとジェーンを見ると、二人は真剣な顔でこちらを見つめていた。
「…君の方が、おれなんかより、余程強いんだな…」
バンが感動した様子でゆっくりと口を開いた。
「そうだな…彼女は彼女、ジェーンはジェーンだ…分身だとしても、おれにとってはかけがえの無い
大切な存在だ。それに変わりは無い」
「バン…!」
ジェーンが感極まった声をあげ、巴が彼女の背をそっと後押しする。
そして立ち上がったバンの胸に飛び込み、ふたりはしっかりと抱き合った。
「済まなかった…おれは、君の気持ちに気付いていながら、どうしても、踏み込めなかった」
「いいえ…わたしこそ、わたしが、あなたの大切なひとを汚してはいないか…と…」
「そんなことあるものか…」
「でも…わたしを…わたしとして受け入れてくださるのですね」
「もちろんそうだ!」
「嬉しい!…本当に…嬉しくて……幸せです…!!」
…はあ…なんだか、上手く行ったみたいだな…。
ちょっと力技で押し切ってしまったみたいだけど…(苦笑)

288:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:42:23 0bmOvWLe
二人が熱い抱擁を交わしている姿に、おれは思わずほっと一息ついた。
ふいに、ちょんちょん…と、つっ突かれて我に返ると、巴が微笑みながら廊下の方を指差している。
…二人っきりにしてあげましょう…ということらしい。
こういう時の巴は、驚くほど気が付く。
これであの二人も、これからは更に良いパートナーとしてやっていけるだろう。
ちょっと代償は大きかったけど(苦笑)、何だか気持ちが晴れやかだ。
これも、すべて巴のおかげだな。
ありがとう、巴…。

それから、おれたちは、そのまま自室に戻り、直ぐに眠りに付いた。
そうそう、巴が念のため、寝室のドアに「先に休んでいます。また明日会いましょう」と張り紙を
してくれたが…実際にはおれは、巴のいる隣の書斎に簡易ベッドを持ち込んでいた。
そして、充電ベッドに下着姿で横たわった巴の隣に並んで横になり、彼女と手を繋いでいた。
ちと恥ずかしいが…今晩はなんだかこうしていたい。
…はっきり恋人宣言…しちまったしさ。
「ぼっちゃま…よろしいのですか?」
巴が心配そうに訊ねる。
「今日は、あれだけ色々あってお疲れでしたのに」
「巴の方こそ…バッテリーぎりぎりまで頑張ってくれたじゃないか」
おれは巴の手をそっと握り締める。
「それに…メシ前は……とても気持ちよかったしさ…せめてものお返しだ」
「ご褒美…嬉しいです」
巴がにっこり笑う。
「ば、ばか」おれは慌てて言う。「こんなのが褒美になるか…それは、その、また改めてだな」
「…ありがとうございます。ぼっちゃま」
巴も優しくおれの手を握り返す。
その手のぬくもりは、人工のものだけど…握る力の意思は巴の心の表れだ。
「おやすみ…巴」
おれは目を閉じた。
「おやすみなさい、ぼっちゃま…また明日です」
巴の優しい声が心地よい。
「また明日な…」
…おれの意識は、安らかなまどろみの中に沈んでいった。

289:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:45:19 0bmOvWLe
>>282>>288 今日はここまででございます。
予定ですと、これで半分ぐらいです。
次回から、やっと翌日の話になります。
…遅筆で本当に済みません…。

290:319 ◆lHiWUhvoBo
07/10/24 01:26:56 UkvurN9D
猛烈に何かに憤りを感じ唐突に続きを投下。…何故あの時投下を中断したのだろうと自問。
するべきでは無かった。例えどんなに落胆し、激怒したとしても。SS書きは書くために居る。

自己語りは終了。さあ、キリのいい所までスレの皆様と供に、妄想と想像を愉しもうか。

291:名無しさん@ピンキー
07/10/24 01:34:31 ykSzZvVx
なんだかあちこちムズムズしてきたw

292:319 ◆lHiWUhvoBo
07/10/24 02:39:31 UkvurN9D

 「―なあ」
 「ん? 」

 自己制御を取り戻しつつあるのか、キティの表情からは興奮の色が薄れていた。『イェーガー』は背中を撫でる手を止め、
彼を丁度見上げたキティと視線を逢わせた。戦闘用ドロイドでも涙は流せる。眼球型に形成されたカメラアイ表面の洗浄の
必要もあるが…感情を付与されたドロイドには感情同調の機能により同期を取らせている。このGM製の素体『Mk-11F』も
その例外では無かった。目尻に涙が溜まっているのを、『イェーガー』はキティの右頬に左手を当て、親指でそっと拭く。

 「名前…まだ聞いてない。イェーガー、でいいのか? マスター、とかエイミーに…」
 「突撃猟兵の事は聞いていても、詳しくは聞いていなかったようだな」
 「何だ? その持って回った言い方…? 言いたく無いのなら別に…」
 「無いんだよ、俺には」

 目で続きを促すキティのカッパーブロンドを残りの4本の指で『イェーガー』は梳いた。―有機体で作られた紛い物の髪。
人間の髪とは違い、一方には滑らないと言う特性を持たない髪だ。訓練時に嫌と言う程に判別法を叩き込まれた内の一例だ。
嫌がる素振りを見せないのを良い事に、『イェーガー』は髪を梳き続ける。自分の中に未だに整理し切れないドス黒い何かが、
彼の喉元まで競り上がって来ていた。

 「生まれた時から突撃猟兵だった。認識番号SJ289306M。Sはシュツルム、Jはイェーガー、Mはメールで男性。それ以外が
 俺の名前だ。289306だぞ? 解るか? この俺は、生まれた時から爪先から頭の天辺までこの国の『モノ』だったんだよ」
 「そんな…ことって…」
 「許されない、か? 普通は、な。だが俺達は遺伝子工学の産物だ。人工的に交配をされ、兵士に最適な肉体を持ち生まれる
 よう受精卵の段階からナンバリングされて国家の研究機関で管理されてきた。だから突撃猟兵だけはな、『特別』だったんだ」
 「どう考えてもそれは…しゅ、守秘義務の範疇だぞ、それは…」
 「それが突然お払い箱さ。今は優秀な戦闘用ドロイドがゴマンと居るから人間なんぞランニングコストを食うだけだ、だとさ。
 実弾演習にかこつけて俺以外のお仲間、全部で200人の認識番号しか無い人間の野郎どもは、嫌だと涙を流す、戦闘技術を
 全て伝授し、必死に立派に育て上げていた戦闘用ドロイドに狩られて次々と死んでいったのさ。…俺一人を残して、な…」

 キティの右手が、キティの頬に当てている『イェーガー』の左手にそっと重ねられた。キティの左手が『イェーガー』のそれと同じ
ように、『イェーガー』の頬に当てられた。何時の間にか、涙の川が『イェーガー』の頬を伝っていた。

293:319 ◆lHiWUhvoBo
07/10/24 02:44:55 UkvurN9D

 「良かったらもっと…聞かせてくれ…」
 「『大隊長、もし、俺がシャバに生まれてたら…』いつもそう言ってた気のいい奴等だったんだ! あいつらが何をしたって言うんだ!
 邪魔になったのなら、せめて戦場で死なせて欲しかった! それならば国のために生まれて国のために死ねたと道理が通った!
 だが全員が廃棄物扱いはあんまりだろうが! 挙句の果てには俺達の出自がマスコミに透っ破抜かれたから処分したのだ、だと?!  
 ふざけるな! 俺達は国家のために生きて来た! 絶対絶命の死地の状況下に置いてくれればそれで良かったんだよ!」
 「…突撃猟兵は優秀過ぎたんだ。私が聞いているだけでも不可能なミッションをを95%の確率で達成に導いて来たらしいからな。
 誰もお前達を殺せない。この国の官僚どもは恐かったんだろうな…。お前達が自由の野に放たれた時に起こる地獄絵図がな」
 
 『イェーガー』は何時の間にかキティの胸に赤子のように頭を埋め啼いていた。その広く逞しい背を撫でるキティには、間違い無く
『母性』があった。キティは戦闘用『ドロイド』だ。『ドロイド』は製造段階からその用途を限定されていた。だから己の境遇に納得出来る。
だが、『人間』の『イェーガー』も自分と同じだった事に驚いていた。キティが『女性型戦闘用ドロイド』ならば、言わばこの『イェーガー』は
『男性型戦闘用人類』だ。どちらも行き場を無くし、先の事など何一つ解らない同士だった。キティは、大きく深呼吸する。

 「…なあ、道に迷った者同士…やり直しの儀式を…『して』見ないか? 」
 「? 」

 『イェーガー』、SJ289306Mが顔を上げた。まるでキティが軍の映画で見た少年のような幼げな表情をしていた。男は女の膝で泣き、
少年に戻る一瞬がある。間違い無く『イェーガー』は人間だとキティは思った。…大抵のドロイドはそんなに純粋な仕様では無い。

 「貴様さえ良ければこの私を…抱いて…欲しい」

 『イェーガー』の顎がカクン、と落ち、すぐに唇が引き結ばれた。見る見る内にその顔が真っ赤になって行くのがキティには解る。
多分相手にも同じ様に自分が頬を染めているのが見えているのだとキティは羞恥とともに思う。男のハードな告解の後に言う事では
無いこともキティは理解していた。・・・・・・だが、胸の奥に生まれたこの衝動を無理矢理に消すには…最早彼女には遅すぎた。

 「…嫌なら…!? 」

 突然キティのタンクトップが引き上げられ、小振りな双乳が外気に触れた。キティの集積回路に未知の感覚データが送り込まれる。
乳首を歯で愛撫される感覚データなど、諜報用はともかく、純然たる戦闘用ドロイドには全く不要な存在である。だが、その感覚データは…
甘美なものとして認識された。自分はこの男、根っからの兵士だった男に現在、必要とされているのだと言う喜びとともに。

294:319 ◆lHiWUhvoBo
07/10/24 02:49:03 UkvurN9D
時間的都合によりチチ舐めただけで終了。文字通り舐めてるだろテメエと言われかねん行いである。
でも続きは書きたいのでゴメンなさいと謝る。書けば書くほど上手になるが、SS書きは最低限、読ませるモノを
互いに上げたいものだ。―今度こそなるべく落胆しないようにしたい。では、オヤスミナサイ。

295:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:15:14 ykSzZvVx
>>291>>289宛て

>>290
間に入り込んでスマンかった(;´ω`)

そんで両氏共に続きを楽しみにしとります

296:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:37:13 mp0ydK4A
>>294
克明な描写が素晴らしいですね!
当方の文など稚拙で、本当にお恥ずかしい限りです…(汗)
続きを楽しみにしております!

297:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:40:09 mp0ydK4A
それでは、続きを少し…。
上手い方の後ですと、凹みますね…。

>>295
ありがとうございます!何とか頑張ってみます。

298:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:41:26 mp0ydK4A
その晩…おれは久しぶりに、ともねえの夢を見た。
どこにいるのかは判らない。ただそこにともねえが佇んでいた。
昔出会った頃の、赤毛のツーテールの少女の姿で。
彼女は悪戯っぽく笑いながら、幼いおれを見下ろし、頬に手を触れ、こんなことを言った。
わたしが、もう一人いたら…どうします?
え?だって、ともねえは一人に決まってるじゃん。
ともねえがにっこり笑うと、その顔がいつの間にか巴に変わる。
ぼっちゃま…。
わたしは…いつでもあなたのおそばにおりますよ。
いつでも…いつまでも…。
巴の姿が再び、ともねえになり、彼女はおれの方を向いたまま、すっと遠ざかっていく…。
行かないでよ!だめだよ!ともねえ、行っちゃだめだ!
思わず右手を向ける。
すると…いつの間にか巴がおれの後ろに現れ、左腕でおれを抱きしめ、右手をおれの小さな手に
重ね合わせてそっと包み込む。
わたしは…ここにいますよ。
いつでも…ここに。
ともねえと巴の声が重なって耳に響く。
…ああ、そうなんだ。
いつも…そばにいてくれたんだ
温かく優しい感触に包まれ…おれの意識は次第に消えていった。

299:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:42:17 mp0ydK4A
目が覚め、横を向くと既に巴の姿は無かった。
おれの上には温かな毛布がかけられ、ほうとひとつ息をつく。
そうだよな。
毎朝五時半には起床して朝食の仕度をするのが日課だし。
「あ…おはようございます~」
いつもの、いささかのんびりした声が聞こえ、そちらを向くと、メイド服姿の巴が寝室から出てきた。
「ゆうべは、ありがとうございました」
「まあな」ちょっと照れくさいが、軽く笑いかける。「充電完了かい?」
「はいです」
例によって小首を傾げてにっこり笑う。
それから、はたと思い出したように、手にしていた紙束を、おれに差し出した。
「そうでした。これが…リビングにありました」
まさかという思いが一瞬、頭をよぎる。
果たしてそれは…予想通り、バンの置手紙だった。

300:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:43:31 mp0ydK4A
「『色々と、ありがとう。そして、こっそり出発する非礼を許してくれ。
本当は、ご好意に甘えて昼に出るつもりだったが、本部から連絡があり、早朝には移動
しなくてはならなくなった為、申し訳ないが、書面にて失礼させて頂く。
あれだけ迷惑を掛けたのに、君たちがあそこまで親身になってくれるとは思わなかった。
ジェーンと共に深く感謝する。
お詫びの代わりと言っては何だが…昨日話せなかった事を幾つか記させて頂くことにした』」
キッチンのレンジから、ことこと鍋の音がする中、ソファに腰掛けたおれは音読を始めた。
巴がお玉を手にしたまま振り返る。
「『おれとジェーン…正式にはジェニファーだが、彼女との出会いと、シンクロイド・システムについて、
簡単に記させて頂くことにした。ただし、これは極秘事項なので、もし漏らした場合、君たちの、
大切だがとても恥ずかしい秘密を、某所に暴露させて頂く(笑)』…って、なんだよ…それ」
思わず苦笑すると、巴も困ったように笑った。
おれは続けて読み上げる。
「『ジェーンのモデルになった、おれの許嫁はジェニファーと言い、ジェーンはその名をも受け継いでいる。
…許嫁のジェニファーとは、六年前、あるテロ事件がきっかけで知り合った。
それは、違法改造したドロイドに爆弾を仕掛け、街中で爆発させるという凶悪なもので、たまたま
遺されていた部品や破片から、オムニ社が疑われ、FBIが立ち入り調査を行った際、応対に出て
来たのが、当時、若干16歳の技術主任の彼女だったのだ』」

301:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:44:42 mp0ydK4A
そういえば、今にして思うと、その頃、相次いで日米で天才少女が現れて、電子工学の修士と
博士課程を修めて、それぞれ両国のオムニ社の顧問技術主任になったと聞いたとがある。
その一人が、ジェーンのモデルになったんだな…。
「『だが、ジェニファーとの最初の出会いは最悪だった。おれも、まだ二年目…駆け出しの捜査員で、
調査を急がせるあまり、ついキツい態度を取ってしまったことで、思いっきり嫌われたのだ』」
あのバンでも…そんなことが、あったのか。
「『ジェニファーにしてみれば、ドロイドは自分の可愛い子供たちであり、研究所員たちは大切な仲間。
自爆テロドロイドなんて許せるはずも無く、とんでもない言いがかりと見えたのだろう』」
そういえば、昨日、初めて出遇った時、確かにそんな感じだった。
バンを守ろうとした時の様子が思い浮かぶ。
あれはオリジナルから受け継いだんだな。
「『だが、足しげく通ううちに、いつしか、おれたちは親身になって話し合うようになっていた。
ドロイドは本来、絶対に人に危害を加えてはならず、かつ、自分の存在も守らねばならないこと…
そう言った基本事項が、おれにも段々判ってきて、彼女の怒りや悲しみが理解できるようになった
からだ…』」
巴はレンジを切り、鍋のフタを空けた。
作業こそ続けているが、その横顔はしっかり聞いている表情だ。
「『…二年間の交際の後、おれは彼女の両親に挨拶に行き、それから実家に報告に行った。
どちらも喜んで祝福してくれて、晴れておれたちは婚約した』」
「…その頃は…とても幸せだったのでしょうね~」
お玉で中身をかき混ぜながら、巴が詠嘆するように呟く。
「『本当は、ジェニファーが18になった時点で結婚するつもりだったが、おれは主任に昇格したばかり、
彼女も新型ドロイドの開発で忙しく、目途が付くのが一年後。結婚しても、まともに一緒にいられる
時間はそう多くない。だから式と入籍は一年後にすることにしたのだ』」
その先の文に視線を落としたおれは、その先を読みかけ、絶句した。

302:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:45:37 mp0ydK4A
「ぼっちゃま?」
陶器の器に煮物を移していた巴が、手を休めてこちらを向いた。
「あ…ああ」
この先は、ちょっと辛い…だが、ここまで読んだのだし、続けるしかあるまい。
おれは…意を決して続けた。
「『そして、あの日…おれとジェニファーは、三ヶ月ぶりの休暇をおれの家で味わっていた。彼女が
食事を作ってくれるというので、楽しみにしていた。
…正午前だった。その時、裏庭に繋いであった犬が、派手に吠え立てるので、おれは様子を見に出たが、
丁度、その時、配送業者のドロイドがやってきた。
…あの時の事は、今でも忘れない…。チャイムと呼びかける声がして、ジェニファーがそれに応えて
玄関に向かった時………荷物に仕込まれていた…爆弾が…炸裂した…』」
巴は完全に動きを止め、それから祈るかのようにそっと目を伏せた。
「『玄関周りは完全に破壊され、ジェニファーは爆風で全身打撲の重症で…血まみれの有様だった…
すぐ救急車の手配をしたが、その日、おれの家以外にも、周辺で大小合わせて25箇所が爆破され
死傷者で一杯で、とてもじゃないがすぐ…来られないという』」
そうだ…確か三年程前に…テロによる大量爆破事件があった。
日本でもマスコミで大々的に報じていたっけ。
「『おれはやむなく、彼女をクルマに乗せて、FBIの病院に連れて行ったが…そこも酷いものだった。
やはり怪我人が沢山いたばかりか…先輩や同僚のうち、非番で自宅にいた三人が死亡、八人が
重軽傷を負わされたと聞かされた』」
ニュースで見た中に、もしかすると彼らが居たかもしれない。
「『ジェニファーは緊急手術を受け、その場では一命を取り留めた……だが、失血が多く、しかも負傷者が
多すぎて、血液が不足していた。…その結果、輸血のタイミングが遅れ…衰弱し切っていた』」
煮物を入れた器をおれの前に置き、巴はそっと横の椅子に腰掛け、手紙に目を落とした。
「『病院のベッドも空きが無く、おれはジェニファーを自宅に連れ帰ろうとしたが、その時、彼女は自分を
オムニ・アメリカの研究所に連れて行ってくれと言い張った。おれは猛反対したが…ジェニファーは…
自分に死期が近いことを悟っていたらしい』」
巴の瞳に、悲しみと怒りが映っている。
「『…おれは、彼女を抱いてオムニの研究所へ行った。
そして…そこでおれが見たものは……ジェニファーとうりふたつのドロイドの姿だった』」
「それが…ジェーンなのですね」
「うん。『…ジェニファーは苦しい息の中、人の意識や総ての記憶を移植して、ドロイドの分身を作る
という研究をしていた事、その実験台として、自ら被検体となっていた事を教えてくれた。
…このままでは、自分はまず助からない。それならせめて、自分の想いを受け継いだドロイドを
起動させて、おれに遺したい…そう話してくれた』」

303:名無しさん@ピンキー
07/10/24 03:48:34 wE0sekKT
>>289GJ!!
二人が本当の意味のパートナーになれたみたいで良かった。
そして所謂第一章完というところですな。
今後の展開楽しみにしてる。

>>291随分と酷な扱いされてきたんだな・・・
殺人兵器当然の人間も感情はあるんだな。
そしてエロに突入しましたな。wktkして続き待ってる。


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch