女の子と二人きりになってしまった 2回目at EROPARO
女の子と二人きりになってしまった 2回目 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
07/09/23 00:51:20 rYzXUCeo
リアルキタ→

GJです。こういう展開好きだわ

251:名無しさん@ピンキー
07/09/23 02:07:06 eumIkMoc
>>248
続きまってましたー GJ!
お、どうやら大枠の想像(>>224)は間違ってなかったっぽいですね。
今までぶつ切り&小出しにしてきた「箱の外」の情報も、今回のでつながってきた感じ。
残り少ない続きもwktkでお待ちしてます。

…しかしこの試験、しかも結果を自分で見させられるってのは、もの凄い拷問だよな。

252:名無しさん@ピンキー
07/09/25 02:14:36 xmppOMqM
俺的にはラピエス以来の超傑作だな。。。
他にも素晴らしいものはあったがコレは凄い。
期待しときまふ

253:名無しさん@ピンキー
07/09/25 10:24:06 mbShhNot
なにこの超ハイクオリティスレ
エロパロの枠じゃないじゃん。大多数の一般小説より上じゃん。


254:名無しさん@ピンキー
07/09/25 21:17:21 Ar7BW4W4
推理小説て言って見せられたら本当にそう思うかも知れないクオリティ。GJの言葉しか贈れない。

255:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:12:01 1Xsm51ok
A/B。>>155の続き


  *  *  *

 戦闘機が通過する音が過ぎ、直後に爆発音がする。その音にザパドノポリェワは振り返った。
「……クラッシュした?」
 黒煙が立ち上るのが見える。彼女はその方向に足を向ける。
 不意に、何か巨大な影が通過する。彼女は空を見る。白とオレンジのストライプ模様のパラシュートが降下していた。あれは、何度か見た敵パイロットのパラシュートだ。
 自然と、足はその方向に向いていた。

256:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:14:50 1Xsm51ok

  *  *  *

 ヘルメットのヴァイザに付着した落葉を取り、そのヴァイザを上げてアズマは起き上がる。
 彼は予想通りの落下地点に降下した事で上機嫌だった。パラシュートが木に引っかかり、想定した降り方をせずに体を強く地面にぶつけてしまった事だけが心残りだったが。
 周辺は腐葉土と落ち葉なので、強くぶつけたといっても痛みはそれほどではなかった。彼はナイフで紐を切り、身軽になる。
 酸素マスクと耐G服を外す。防弾性もありいろいろ道具も入っている救命胴衣は捨てられない。ヘルメットは勿体無いから持ち歩く事にした。
 そしてパラシュートと紐でつながっている先にある保命生存用品が入っている鞄から29式自動拳銃とその予備マガジン2本を取り出した。
 着水したわけではないから、救命浮舟は開いていない。これも切り離して破棄する。救難無線機は既に起動していたが、端子を接続しても音が聞こえない。
 仕方無しに彼は端子を外す。そして鞄の中身を確認し、その中にある蒸留水の入ったボトルを取り出し、開けて飲む。水が染みてきている。体が震える。
「うう寒っ。これ耐水耐寒じゃねえのかよ。まあいい、その辺の民家にでも行ってみよう」
 移動しようとした矢先、発砲音。おもむろに後ろに29式自動拳銃を向ける。そこにはスラヴ系の女性が1人、こちらに拳銃を向けている。フライト・スーツを着ている。
 その女性は、恐らく彼女の国の言葉で何か呟いた後、彼に声をかけた。
「Throw your gun over.」
 武器を捨てろ。彼は確かにそう聞き取った。だが、彼女が持っているのはただの拳銃。その気になれば、自動拳銃を彼女に向けている彼が明らかに有利だ。
「What you do if I won't do it?」
 そうしなかったら?
「貴様を撃つ」
 アズマはため息をつく。足に力を入れ、瞬時に右に転がる。女性は拳銃を発砲。しかし当たらない。今度は彼が発砲。うち2発の4.6ミリメートル口径弾が彼女の左脚を貫通した。
 くぐもった悲鳴を上げ、女性の手から拳銃が滑り落ちる。そして彼女はうずくまる。
「ただの拳銃でこれ相手は、さすがに厳しいと思うぞ」
 アズマは彼女に近付き、落ちた拳銃を拾う。
 マガジン・キャッチを押してマガジンを出し、スライドを引いてチェインバの中の弾薬を排出する。
 そのまま銃本体を保命生存用品の方に投げ、落ちた弾薬を再びマガジンに入れ、そのマガジンをポケットに入れた。
「北海道土産が捕虜か。もっと土産っぽいものが欲しかったぜ。白い恋人とかビールとか」
「……殺せ。捕虜にするくらいならとっとと殺せ!」
「やだ。弾が勿体ない。あくまでもあんたは捕虜だ。まあ、そんなに捕虜になりたくないんだったら、自殺でもすれば? 俺は止めない。ナイフ、持ってるんだろ?」
 女性の言葉をアズマは意に介さない。女性はアズマから目を逸らした。
「自殺する勇気が無いんなら『殺せ』なんて言うな。そういえば、あんた、多分戦闘機のパイロットなんだろうけど、保命生存用品はどうした?」
 女性は黙ったままだ。アズマは彼女の来たと思しき方向を見る。それと思しき鞄が木に立てかけてあった。
「あるじゃん」彼は女性から離れ、箱に近付く。「捕虜として俺についてくるんなら、とりあえずナイフ以外はあんたのものだ」
 彼は箱を開け、その中に入っているサヴァイヴァル・ナイフをポケットに入れる。
「命の保障は、するか?」彼女はおずおずと訊いた。
「勿論。別に敵兵狩りやってるわけじゃないし。じゃあ、とりあえずナイフ出して」
 彼女は地面に、パラシュートと自分を継ぐ紐を切ったであろうナイフを突き立てた。
「交渉成立だな。俺はキョウスケ・アズマ。中尉だ」
「……オリガ・ニコライエヴナ・ザパドノポリェワ大尉」
 名前、正確には階級を聞いた瞬間、アズマは突き立てられたナイフを引き抜く手を止めた。
「階級俺より上かよ。これは、失礼しました」
「いきなり恭しくなるな、疲れる。さっきまでの対応でいい」
「ラージャ、大尉」
 彼らはその手を取り合った。

257:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:18:42 1Xsm51ok

「あれ? 壊れてんのか?」
「どうした?」
 アズマは自分の救難無線機で連絡を取ろうとしたが、それが動かなかった。ビーコン波は出ているようで、それを確認する発光ダイオードは普通に点滅している。
 ここは胆振県八雲町の小さな神社の本殿だ。周囲に民家は無い。民家跡ならあるが。神社の背後は森だ。雨に濡れたハーネスや上着は床に広げてある。しかし乾く当ては無い。
「通信機が壊れてるっぽい。おばあちゃんの45度スパンキングでも反応無しだ」
「何だそれ? ん、Дерьмо(くそ)! こっちのは電池が液漏れだ。まったく、運が悪いなんてものじゃない」
 ザパドノポリェワも通信機を動かしていたが、それも壊れていた。電池がやられているのでビーコン波すら出せない。
 結局アズマは神社に放置されていた傘を自分の発信機にかぶせてそれを鳥居の下に置いた。
 救難無線機はその位置を周囲に伝えるための発信機の役割と、救助隊との連絡手段という役割を持っている。その内の連絡手段が封じられていた。
「このあたりの住人はみんな避難したみたいだしな、勝手に上がり込んで電話か何かを使うのも気が引ける」
「別にいいだろう。非常事態だ」
「あのなあ、あんたの国とは訳が違うんだ。ここは俺らの国で、住民は殆どがその国民なんだよ。制式に徴発しないと使えないんだ。あーあ、公衆電話くらい無いかな……」
「あっても使えないだろう。まったく発想が貧弱だな」
 通信機を脇にやり、アズマはザパドノポリェワを見る。
「はっきり言うね……」
「……アズマ、と言ったな。お前は私を捕虜にして、どうしようというんだ?」
 思いもよらない質問に、アズマは答えに窮する。
「敵から情報得る、というのは分かる。だが、自分の身の安全とそれとを天秤にかけたら、自身をとるだろう。明らかにお前に敵意を持っている私を確保しておくのは、無駄だ」
「本当にそうかな」
 アズマは反論する。
「少なくとも、俺はあんたを助けて正解だと思うけどな。あんたを捕虜として扱うのは、ただ俺が軍人っつー身分だって理由だけだ。別に恨みとかは無いよ」
 彼女は何も言わない。
「あとは、そう、俺が与えた怪我だし、そこらへんは俺が責任取らなきゃな。そうじゃなくても、目の前に怪我した女性が居れば、敵味方関係無く助けただろうし」
 あの後アズマはザパドノポリェワに応急の手当てをした。その間も敵意の視線は向けられていたのだが、彼はそれをあえて無視して止血をしたのだ。
「軍人失格だな」
「よく言われる。大学でも同じ事言ったら『敵を殺さずに何のための軍人だ』ってな、先生方にも生徒にも。殺したら殺したで『人道』がどうのこうの言うくせに」
 ザパドノポリェワはアズマを見る。
「大学? 生徒? お前は軍人じゃないのか?」
「即応予備役さ。一度軍人辞めて、あんたらが攻めてくるまで大学で軍事学を教えてた。で、俺のゼミの生徒に、北海道の出身の連中が結構居る。あいつら何やってるかな」
 アズマは格子の外を見る。1524時。そろそろ日が傾きかける頃だろうか。
 その様子を、ザパドノポリェワは多少の罪悪感を込めて見た。そして不意に、ある事に気付く。

258:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:19:22 1Xsm51ok
「……アディーン・シェスティ・シェスティ」
 アズマの左肩。そこに、部隊のエンブレムがある。その下に、「24-8166」と刺繍してある1枚の布が貼り付けられていた。
「うん?」
「お前、機首番号が166の、カナード翼の付いた機体に乗っていなかったか?」
 アズマはその番号を復唱する。確かに、愛機の機首には166という番号が書かれていた。機体番号は24-8166だ。そして機体にはカナード翼が付いていた。
「なんだ、あんた俺の機体番号知ってるのか? これ、尾翼に書いてある番号なんだけど」
「……信じられん……。私を落としたのは、もしかしたらお前かもしれない」
 それは軽い驚きだ。アズマにとっては。ザパドノポリェワにとっては強烈だった。
「あんたは何に乗ってたんだ?」
「382のJ-27Aだ」
 アズマは自身の落とした機の番号まで確認しなかった。だがその機体の名前、J-27Aに反応する。彼が落としたJ-27Aは1機だけだったはずだ。
「もしかして、上が蒼くて下が灰色の塗装の機体じゃないか?」
「……そう、だ」
「マジ? 俺にミサイル撃った?」
「ああ」
「ひと月くらい前、俺に落とされた?」
「落とされてはいない! 右の尾翼を失っただけだ!」
「そうだっけ。いや何とも、凄い偶然だな。ははっ、世間ってのは狭いな」
 アズマは旅行先で友人に会ったときのように喜ぶ。それを見て、ザパドノポリェワは言う。
「お前は本当に軍人らしくない! お前みたいなのがあんないい機体に乗ってるなどとは、空の戦士に対する冒涜としか思えん!」
「ひでえなあ。まあいいか。俺の機体な、あれ、ヨンマルシキ・ニジュウニゴウ・イ・セントウキ、愛称を『ホウフウ』ってんだ。言い換えると『Type 40 F-22A』かな?」
 彼は指でその形を描きながら言う。
「機動性はあんたの『鶴』よりもいいって話だ。まあ、あんたのは『鶴』ってよか『猛禽』だけど」
「『猛禽』はお前の方だ」ぼそりと、彼女は呟くように返す。
 彼は不意に聞こえた言葉に目を向ける。そして微笑み、言った。
「お褒めに預かり光栄です、大尉」
「ああ。……いや、あの、お前じゃなくお前の乗る機体がそうだって事でな……」
 彼女は顔を真っ赤にして手を振る。それにアズマは笑い出す。
「なっ、何がおかしい!」
 ザパドノポリェワは真っ赤なまま激昂する。だが彼は笑ったまま、違うと言い、続けた。
「あんた、俺を軍人っぽくないって言ったけど、あんただってそうだぜ?」
「は?」
「あんた、かわいいよ。顔だってキレイだし、やっぱ美人は表情が豊かじゃないと」
 充分赤かった顔が、更に赤くなる。そして身を乗り出して叫ぶ。
「な、何言ってるんだ! 私は敵だ! 敵に対して……」
「それとこれとは関係無いって。美人は美人」
 反論した体勢で、彼女は彼を睨む。
「怒った顔もかわいいなんて、あんた反則だって」
 彼女は下を向く。そしてアズマに背を向けた。
「もうお前など知らん!」
 アズマはそれに苦笑すると、通信機の修理を始めた。
「……スパスィーバ」
 ザパドノポリェワはふと呟く。
 彼女自身、美人といわれた事は何度もあった。軍人になってからはしかし、そういわれる事も少なく、また彼女自身性別を関係無くして同僚と勤務中の付き合いをしていた。
 好意的に言われる事に対して、いつの間にか抵抗が出来てしまっていた。それを彼女は無性に悲しく思う。
 だが「ありがとう」と言ってから、やはり恥ずかしさがこみ上げてくる。
「何か言ったか?」
「何でも無い!」
「おいおい、何怒ってんだよ」
「何でも無いと言っているだろう!」
「はいはい。……どういたしまして」
 彼女は振り返る。
「……聞こえてたのか?」
「一応な。『スパスィーバ』って、『ありがとう』って意味だろ?」
 彼女は何も言えなくなる。頭を抱え、再び背を向けた。

259:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:20:52 1Xsm51ok

 雨は止まない。遠雷のような戦闘機の爆音は1時間も前に聞こえなくなり、たまに爆発音が間延びして聞こえてきた。南の方で戦闘が繰り広げられているのだろうか?
 日が暮れてきた事で更に気温が低下する。アズマは出撃の前に見た地上天気図を思い出す。津軽海峡を停滞前線が横切っていた。秋の長雨だ。
 彼はとうに通信機の修理を投げ出していた。どういう衝撃が加わったのか、基盤が真っ二つに割れていたのだ。発信機部分は無事だが、最早ジャンクである。
 ザパドノポリェワの通信機は電池の液漏れが起きており、しかもその液がいろいろな部分に浸透していた。ジャンクにすらならない。
 アズマは壁に寄りかかり、口笛でいろいろな曲を吹いていた。また、ひとつの曲を吹き終わる。
 不意に、肌を摩る音を彼は聞く。彼は、鞄を枕にしているザパドノポリェワを見た。レスキュー・シート、つまり紙のような薄さの熱遮断シートが僅かな光を反射している。
「寒いのか?」
 彼女が彼を見る。レスキュー・シートの隙間から入る風。さぞ寒かろうに。
「お前に心配されるいわれは無い」
「あるよ。あんたは捕虜。俺は人権条約だか戦時人身条約だかで捕虜を丁重に扱う義務があるんだ。あんたが体調を崩してこっちを訴えられても困る」
 当該条約の捕虜条項では、捕虜の待遇を事細かに規定している。条約の批准国はこれに則らなければならない。
「しかし、お前は条約を遵守しているわけではない。私が許可した事だが、お前は私を上官として扱っていないではないか」
 捕虜は軍人である必要がある。軍人にはその指揮系統上階級が存在し、捕虜はそれに則した扱いを受ける権利を有する。
「上官として扱われる権利の一部を、あんたは捨てただろ。そんなあんたに条約の遵守云々について言われたくはないな」
 彼女は言葉を発しない。論では勝てない事が分かったようだった。
「あんたに傷を負わせたのは俺だ。出血だって、まだ完全には止まってないと思う。そのせいで失血死なり凍死なりされたら、俺の夢見が悪すぎる」
 ザパドノポリェワはアズマを見た。真剣な顔で、彼は目を合わせる。
「だから、死ぬな」
 彼女は顔を背けた。
「あれだけ、私の国の航空機を落としておいて、よく言う」
「機上から見る分には、生身じゃないからな。まあ、かなりの人数殺してるってのは自覚してる。だからって、目の前の今会話してる奴が次の瞬間に死ぬのを、俺は耐えられない」
「自分勝手だな」
 その一言に、彼は微笑む。
「そうさ。死なせたくない奴のためなら、俺は出来る事の全てをやるつもりだ。だからさ、俺を頼れ」
 ザパドノポリェワは起き上がり、壁にもたれる。
「では、緊急事態になったらそうしよう。でも私はまだ余裕がある。その状態で『頼れ』といわれても、了承は出来ない。それとも、捕虜の主張は受け入れられないか?」
「とんでもない。オーケイ、折れるよ。あんたの心情を尊重しよう」
 彼はそう言いつつ、鞄を引き寄せる。
「でもとりあえず、これ持っとけ」
 アズマは鞄から救命保温具と書いてある薄い袋を取り出してザパドノポリェワに投げる。
「何だこれは?」
「袋から出して、出てきた袋を揉んでやれば段々あったかくなるものだよ。振ってもいい」
 彼女は言われたとおりにそれを扱う。
「なるほど、確かに熱くなってきたな」
「だろ? 冬場は重宝するんだよな。さて、話もひと段落したし、ここらでメシといかないか? いい時刻だ」
 ザパドノポリェワは「メシ」という言葉に無意識に反応する。先ほどから空腹を訴える音は互いに聞こえていたが、今のは一切大きかった。彼女は硬直したままだ。
「訊くまでもないみたいだな」

260:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:23:33 1Xsm51ok
 アズマは鞄の中から戦闘糧食の入った袋を取り出す。取り出した袋には「38式救命糧食・6食分」というレーヴェルが張ってある。アズマはそれを持ってザパドノポリェワに歩み寄る。
「隣座るぞ」
「なぜだ」
「あんたとよく話したいから」
「……」目を見開いてザパドノポリェワはアズマを見た。「……理由になってない」そう言って彼女は眉間を寄せる。
「なんだよ。明確な理由だ。向かいの壁だと、暗さと距離であんたの顔が見えにくい」
「別にいいだろう」
「駄目だね。会話は、互いの顔を見ながらやるもんだ。そうじゃないと、互いを理解出来ない」
「しなくていい」
「俺は理解したい。あんたを」
 彼女は顔を逸らす。
「……好きにしろ」
「オーケイ。じゃあ、隣りな」
 言ってアズマはザパドノポリェワの左側に腰掛けた。
「んでさ、これ、俺の国のレーション(戦闘糧食)なんだけど、あんたのは?」
 彼女は渋々と自分の用具入れから箱を取り出した。「В」と大きく書かれている濃緑色の小箱だ。彼らはそれぞれ持ち物を開ける。
 38式救命糧食の袋を開けて最初に出てくるのが、通称「がんばれ紙」というプリントだ。
 「がんばれ! 元気を出せ! 救助は必ずやって来る!」
 この文面で始まるそれを由来として、代々の救命糧食は空軍パイロットの間で「がんばれ食」と呼ばれている。
「そんなのが入っているのか」
 ザパドノポリェワは紙を見て驚いていた。
 「この救命糧食は、特殊環境においても速やかに心身の疲労を回復し、体力の維持をはかるために製造されたもので、糖類・脂肪・たん白質などの各種栄養素が有効に取れるように配合されています」
 「1食分のカロリーは約270カロリーあり、これを食べると熱とエネルギーを与え、直ちに元気百倍となります」
 この表記を、アズマは気に入っていた。見知らぬ土地、やもしたら外国かもしれない土地で自分の母語に触れるという事は、それだけで心が休まる事である。
「しかし、私のには入っていない」
「その代わりなのか知らないけど、パッケージは楽しいな」
 ザパドノポリェワの救命糧食には、その1食分の袋にコミカルな絵が印刷されているレーヴェルが張ってある。どの袋も違う絵だ。
「パイロットの間でも、これらの絵を集めている奴がいると聞いた事がある」
「へえ。でもこれ、被ったら凹むなあ」
 38式救命糧食の内容は、厚手のビスケットだ。「がんばれ紙」には励ましの言葉の他に糧食の内容も書いてある。
 それによると、「穀類を主原料とした加工食品で、糖質と脂肪及びたん白質を含み、ビスケット風な味と香りを持つ高カロリー食品です」との事だ。
 他方ザパドノポリェワの「救命糧食В[ヴェー]」は、クラッカだ。38式救命糧食と同様に栄養分を調整されており、同梱のジャムを付けて食べるのだという。
 彼らは同時に小袋を開ける。そして2人とも一口食べる。
「美味そうだな。半分くれ。半分やるから」
「何だ、いきなり」
「いや、これ口当たりはいいんだけどさ、ビスケットなだけあってやっぱぼそぼそしてるから、さっぱりしたもの食いたくて。や、ジャム分けてくれるだけでもありがたいけどさ」
 彼らは自分の糧食の半分をそれぞれ交換する。交換した38式救命糧食を一口食べ、ザパドノポリェワは言う。
「確かに、これは水分が欲しくなる糧食だな。個人的には塊がひとつだけ、というのが気に食わない」
「同感。ジャム付けてみたら? 以外にいけるかも」
「塩味が強調されそうな気がするが」
「じゃあ俺がやる」
 アズマは彼女の左膝の上にあるジャムの袋を取った。
「……誰が使っていいって言った?」
「じゃあ左膝に乗せるなよ。ご丁寧にこっちに切り口じゃない方を向けてさ」
 彼女はやはりアズマから顔を逸らした。
「ま、断りは入れとくべきだったな。すまん。で、使っていい?」
「……好きにしろ」
「おう。そうする」
 アズマはジャムをビスケットに塗り始める。
「……いや、少し残しておけ」
 唐突な呟きに、彼は笑う。
「な、何だ」彼女は怒ったような顔を向ける。
「いや、あんた、ホント、かわいいな、って」
 アズマはジャムの袋を彼女に差し出す。それをひったくって、彼女は言った。
「じょっ、上官をからかうのもいいかげんにしろ!」

261:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:26:27 1Xsm51ok
 その時だった。爆発音と衝撃波が社を揺さぶったのは。
「……話する暇なんて無かったな。とっとと食っちまおう」
「ああ。同感だ」
 2人とも、軍人の顔になる。アズマは、いやザパドノポリェワも素早く糧食を完食する。アズマはそこから立ち上がり、出来るだけ足音を立てないようにしながら自らの鞄を持つ。
 そして立てかけていた29式自動拳銃を持って構える。ザパドノポリェワも鞄を閉じる。
「弾着が近い。もしこっちのだとすると、建物には必要以上に手をかける事は無い筈だ」
「だがこちらなら、容赦無く破壊するだろうな」
 意見が一致する。また爆発音。付近には戦車砲と思しき音。攻撃ヘリコプタの爆音もする。短いスパンで銃撃する音。いやでも緊張する。
 アズマは鞄の中から拳銃を取り出し、マガジンをグリップに挿入する。そしてそれを、ザパドノポリェワに渡した。
「どういう事だ?」
「ここが危険だという事だ。いくらビーコン波がレーダ波と違っても、ひと目見ても分からないかもしれない。ここがウチらの攻撃の対象になる事だって考えられる」
「逆に私たちから攻撃される可能性もある、という事か。それと私に銃を返した事と、何の関係がある」
「ここから避難しようと思ってな。あんたはまだ手負いだし、肩くらいは貸す。それで、避難の最中の互いの護身に、あんたに銃を返した、ってわけだ」
「そう、か。脚は大丈夫だ。多分。だが何処に行こうというんだ」
「もう少し標高の高い所だ。どっちの軍も、機動に向いてない場所には行かないだろ」
「分かった。だがビーコンはどうする?」
「置いていく。持って行くのは自殺行為だ」
「そうは思えない。周波数は確実に違うんだろう?」
「ああ。だが俺は戦車とかヘリとかのレーダ表示がどうなってるのか知らない。不明なものはリスクでしかない。だから切り捨てる」
「お前は馬鹿か。その不明なものがここにいるだろう」
 ザパドノポリェワは自分を指差す。
「お前は私がお前を撃たないと信じてこれを私に返したんだろう? 撃たないかどうか不明なのに。なら、ビーコンを持たないのはその主張に反する」
「人間とビーコンは違う」
「そうだ。だがな、私はこう教わった。戦場で大切な事は、憎しみを持たない事、生き残る事、そして自分の決めたルールを守り抜く事だ。お前は、そうじゃないのか?」
 アズマはザパドノポリェワを見た。そして再び社の入り口を見る。
「……アズマ……」
「俺の教官も、あんたの教官と同じ事言ってたな」
「そう、だったのか」
「思い出したよ。教官の第1声がそれだった。畜生、いい言葉じゃねえか。くそ、俺は馬鹿だな、忘れてたぜ」
 彼は空いた左手で自らの頭を叩く。
「よし、不確実なものを持とうじゃないか。俺はあんたを信じる。まあ、後ろからズドンとされればそれまでだけどさ」
 再び爆発音。至近だ。爆風で社自体が軋む。
「どっちのか知らんが、こりゃいよいよ出時だな」
 アズマはビーコンを回収して中に戻ってくる。ザパドノポリェワは既に立ち上がって待っていた。
「忘れ物は?」
「私は無い」
「じゃ、行くか。脚は?」
「歩かないと、どうとも言えないな。まだ痛むが」
「傷口が開いたと思ったらすぐに言え。無理すんなよ」
「分かった」
 言って、彼らは神社を出る。大雨が迎える。彼らは裏の森から山に入った。直後、戦車砲か何かが神社の前庭に落ち、爆風で神社が倒壊した。
「やべえ。ぎりぎりじゃん」
「命拾いしたな」
 2人は山を登っていった。

262:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:54:10 1Xsm51ok
以上、3話。

では恒例の用語解説

・救命浮舟・・・一人用の救命ボート。その形は靴に似ている。生存者の保温を意図したもの。
・4.6ミリメートル口径・・・ドイツのH&K MP7がこの口径。
・マガジン・キャッチ・・・弾倉を銃に固定しておくための装置。ここを押すと弾倉が取れるようになる。
・マガジン・・・弾倉。
・スライド・・・遊底。機関銃やオートマティック拳銃において、フレーム上部に位置し、銃身や撃発機構などを覆っているパーツ。
・チェインバ・・・「チェンバー」の方が馴染みがある語か。薬室。弾倉に弾薬が入っている状態でスライドを引くとここに弾薬が装填され、撃てる状態になる。
・レスキュー・シート・・・体を覆うアルミホイルのようなものだが、保温性は抜群である。ぺらぺら。
・人権条約だか戦時人身条約だか・・・我々の世界でいう「ハーグ陸戦条約」や「ジュネーヴ条約」といったもの。
・救命保温具・・・要はホッカイロ。
・「がんばれ! 元気を出せ! 救助は必ずやって来る!」・・・実際に書いてます。さすがに「がんばれ紙」とは言わないのでしょうが、「がんばれ食」とはちゃんといわれています。

小ネタ
>「ひでえなあ。まあいいか。俺の機体な、あれ、ヨンマルシキ・ニジュウニゴウ・イ・セントウキ、愛称を『ホウフウ』ってんだ。言い換えると『Type 40 F-22A』かな?」
F-22Aは、まあググれば出てくるわけですが、アメリカ空軍の戦闘機です。愛称は「ラプター」、つまり「猛禽」

>「機動性はあんたの『鶴』よりもいいって話だ。まあ、あんたのは『鶴』ってよか『猛禽』だけど」
>「『猛禽』はお前の方だ」ぼそりと、彼女は呟くように返す。
まあ、そういう事です。

次の投下で完結ですね
ではノシ

263:名無しさん@ピンキー
07/09/26 11:02:40 Uhr0sASB
>>262
 GJ!!!

 今回の最萌えポインツは『おばあちゃんの45度スパンキング』(w

264:名無しさん@ピンキー
07/09/26 14:18:23 TkLSr1Ps
GJ!オリガさんかわいいよオリガさん
いよいよ二人っきりですが、果たしてどうなることやら…

うん、やっぱりファーストネームの方が呼びやすいな。

265:名無しさん@ピンキー
07/09/26 20:28:06 8zxelYmi
>>262
GJ!! オリガ大尉カワユスw

> 次の投下で完結ですね
えー もうおわっちゃうんすか?ナンカモッタイナイ…
あ、第一話が完結ってことですねw

266:名無しさん@ピンキー
07/09/26 23:32:22 SN1GHgKt
>>262
GJ!
そういえばラテン語の「盗賊」がラプトル(raptor)だったな。
何がどうなって「盗賊」から「猛禽」になったんだか。

>>263
洗濯スレでそんなネタがあったなwww

267:名無しさん@ピンキー
07/09/26 23:44:52 bN8zOAIJ
>>262


ええい! くそっ! ちくしょう!
あまりの良さに身体がよじれてしまったではないか!!
ヤバいよ、ヤバいですよ! こんな萌えキャラにしてしまって!
明日は早いのに眠れないじゃないか!!
GJ! GJ!! 超GJ!!






最後に、あの時原案出して良かったと、自分を褒めたい…
ごめんなさい、あまりの良作に我を忘れた。
これ以上、よじらせないかぎり、もう出ない。

268:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/28 00:15:43 GI1AHl8r
 智信は一人、用意された部屋で項垂れる。
 智信の一級市民昇格試験は、最悪の形で幕を閉じようとしていた。
 先程まで、白い部屋が映し出されていたモニタは、黒く染まったままで、もう何の変化もない。コピー二人の死を以って、最終試験は終わりを告げたのだ。
 なまじ終盤までは期待を持たせる展開だっただけに、落胆も一入だった。
 食料を分け合い、手を取り合って過ごした。少女に手を出すこともしなかった。なのに……最後の最後、ルールCの罠にかかった。
 いくらなんでも、あれは反則だ。相手と一緒に死ぬか、相手を殺して自分だけ生き残るか、では、誰だって後者を選ぶに決まっている。
 生存本能にすら打ち勝てる強い精神力を持っていなければ、一級市民になる資格はないと言いたいのだろうが、それにしても理不尽だ。
「畜生……これで、人生終わりか」
 呟いて、窓際へと歩く。窓の外に目を遣る。セントラルタワーの十階からは、マシン・シティが一望できた。
 いつもは見上げるだけだったこのタワーから、一級市民となって街を見下ろす。それが、智信の夢だった。
 その夢はもう、叶わない。永遠に手の届かない処へと、消えてしまった。
 いっそのこと、この窓から飛び降りて死んでやろうか。冗談半分、本気半分でそんなことを考えて、智信は突き出し窓に手をかけた。
 そのまま、窓を全開にしようとしたが、半分も開かない内に止まってしまう。はめ殺しになっていて、一定以上は開かないようだった。
 腕は通るが、頭は半分も入らなくて、顔を出すことすらできない。
 もしかしたら、以前一級市民昇格試験に落ちた受験者が、ここから身を投げたとか、そんな因縁があるのかもしれない。
 と、後ろで部屋のドアをノックする音がして、智信は振り返る。
 顔を出したのは、智信をこの部屋に案内した女性―草加碧だった。
 例によって例の如く、白衣のポケットからメモを取り出して、読み上げる。
「お疲れさまでした。結果の発表は明日の朝になりますので、それまで自室で待機をお願いします」
 碧はそれだけ言うと、メモをポケットにしまって、智信の方を見た。
「……わかりました」
 智信が、大分覇気の失われた声で返事をする。碧は、ぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。
 智信は、モニタの前に置いていた椅子を化粧台の前まで戻して、ベッドの上に倒れ込んだ。
 セントラルタワーの豪華な食事とも、今日限りでお別れだ。試験中はモニタが気になって満足に味わえなかったが、今夜くらいは、料理に舌鼓を打つとしよう。
 何せ、これが……智信にとって、最後の晩餐になるのだから。明日からは、ヒエラルキーの最下層、五級市民としての生活が始まる。そしてそれは、一生終わることはない。
 ふと、智信は、ギリシャ神話のイカロスを思い出す。イカロスは蝋で固めた羽を身に付けて天を目指したが、父親の忠告を無視して太陽に近付き過ぎた結果、熱で蝋の羽が融解、墜落死した。
 その神話は、両親の忠告を聞かず、分不相応にも一級市民を目指して、五級市民に落ちた智信の境遇と重なる。
 そんなくだらない感傷に浸りながら、智信は枕に顔を埋めた。



269:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/28 00:16:31 GI1AHl8r
「碧」
「は、はい!?」
 廊下を歩いていた碧は、急に背後から名前を呼ばれて、素っ頓狂な声をあげた。
 強張った顔をして振り向くが、声をかけてきた相手の顔を確認すると、途端に表情が緩む。
「なんだ、蒼兄かあ……びっくりした。仕事はどうしたのー?」
 碧に声をかけたのは、碧の兄、草加蒼だった。
 一級市民としては、蒼は碧の先輩で、一級市民内での地位も蒼の方が高い。一大派閥を指揮する蒼と比較してしまうと、碧はまだ駆け出しだ。
 本来なら立場上、顔を合わせることすら滅多にないのだが、そこはそれ、身内の好というやつで、蒼は時折こうして、碧の様子を見に来る。
 蒼は昔からそうだった。人一倍責任感が強く、いつも年下である碧を気にかけていた。子供の頃、混雑する場所に二人で出かける時などは、碧の手をぎゅっと握って離さなかった。
 碧は、そんな兄の背中を追いかけて一級市民になったと言っても過言ではない。
「少し早めの昼休みだよ。これから昼食を食べに行くところ」
 蒼はそう言って、視線を腕時計に落とす。
「それはそうと、本日の、最終試験経過について聞かせてくれないか」
「えーっとね……」
 碧はいつものように、白衣のポケットからメモを取り出す。
「新規入室はなしで、試験終了が、十三号室と、十八号室の二名かな」
「大丈夫そうか?」
「うん。多分。一人は大人しそうな女の人だし、もう一人の男の人も落ち着いてたから……」
 蒼の言う『大丈夫そうか』とは、つまり、本日試験終了を迎える受験者が、問題行動を起こす心配はないか?ということだ。
 一級市民昇格試験は、受験者の大多数が不合格となる、難関試験である。そして、不合格となった受験者を待ち受けるのは、ともすれば刑罰よりも過酷な運命。
 必然、受験者たちの精神状態は不安定になる。以前から、試験の結果を悲観しての自殺者、脱走者などは度々出ていた。中には、食事用のナイフで職員に襲い掛かる者まで居た。
 対応に苦慮した試験管理委員会は、試験期間中、食事に微量の鎮静剤を混入するなどの策を講じたが、それでも、トラブルは後を絶たなかった。
 受験者たちの案内人兼世話役として、試験の前後、受験者に直接接触する碧は、かなり危険な立場に置かれているのだ。
 勿論、不足の事態も想定して、碧が受験者の部屋に入室する際には、外に護衛を待機させたりしてはいるのだが……そんな措置では、とても安全とは言い切れない、と蒼は思う。
 大体、こういう危険を伴う仕事は、屈強な男性が適任だ。見た目が厳ついほうが、抵抗の抑止力にも繋がるだろうに。
 何故、碧が案内人兼世話役をやらされているか、と言えば、現在、新一級市民の人事決定権の大半を握っているのが叶派だからに他ならない。
 諸々のリスクを認識した上で、あえて、綾香は碧を受験者の応対に回させている。草加派の会長、草加蒼の実妹である碧を、だ。
 まったく、陰湿な真似をする……綾香のあの、嫌らしい笑みを思い浮かべて、蒼は背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
「ならいい。頑張れよ」
 だが、そんな嫌悪はおくびにも出さず、蒼は碧に微笑んで見せる。碧も薄々勘付いているだろうが、派閥間の柵なんて、話して楽しい話題でもない。
「はーい」
 碧が元気よく返事をするのを見届けると、景気付けか、蒼は碧の肩をぽんと叩いて、廊下の奥へと消えた。



270:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/28 00:17:21 GI1AHl8r
 食堂で日替わり定食を食べていた蒼は、どこからか注がれる視線に気付いて、顔を上げた。
 見れば、蒼の座っているテーブルの真正面、食堂の入り口付近に、マークスがこちらを向いて立っていた。
 おかしい、と蒼は思う。いつもマークスは食堂ではなく、向かいのレストランで食事をするのではなかっただろうか……と。
 そんなことを考えている間にも、マークスは蒼のテーブルへと近付き、すれ違いざまに、一枚の紙切れを蒼に手渡した。
 そして、そのまま踵を返して、何事もなかったかのように食堂を後にする。
 蒼は右手で炭酸飲料の入ったカップを口元に運びながら、左手で器用に折り畳まれた紙切れを開く。
『重要な話がある 食後 誰にも見られず 八階第二会議室まで』
 八階の第二会議室と言えば、長い間使われていない部屋だった。そこならば、邪魔が入る心配はないと、そういうことだろう。
 マークスが叶派から重用される『project whitebox』導入後の合格者―通称『白組』でありながら、草加派と協力して、叶綾香が過去に犯した犯罪について調査しているのは知っていた。
 マークスから蒼に接触してくるとすれば、まず間違いなく、その件についての報告だ。
 蒼は手早く食事を終えてしまうと、急ぎ足で第二会議室へと向かった。

「一つ、頼みたいことがある」
 八階、第二会議室。入ってきた蒼の姿を見るなり、マークスはそう切り出した。
「まずは、これを見てほしい」
 鞄の中から、書類封筒を取り出して、束になった大量の書類を机の上に広げる。
 蒼はその中の一枚を手に取り、軽く内容に目を通して、仰天する。
「これは……『project whitebox』システム概要のコピーじゃないか……! 何の目的があるか知らないが、機密データをフロア外に持ち出したと知れたら大事になるぞ!?」
 書類を机に戻して、信じられないといった風に首を振る。
 マークスが持ち出していたのは、フロア外への持ち出しを禁じられている、機密データだった。仰々しく、書類の各所に赤い判が捺されている。
 これは派閥など関係なく、誰もが遵守しなければならない規律である。ただ、その規律の所為で、叶派の牙城である最終試験の暗部が隠蔽されている側面も否定できないが。
「まったく。今は叶博士告発へ向けての地盤固めをしている大切な時期なのに、何を考えているんだ? 最悪、叶博士の前に、君の首が飛ぶかもしれない」
「構わない。それより重要なことも時にはある」

271:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/28 00:18:09 GI1AHl8r
「構わない、か。剛毅なことだ」
 蒼は肩を竦めるが、マークスは構わず、話を先に進める。
「蒼は、叶博士に勝るとも劣らないくらい、プログラムに造詣が深いと聞いた」
「ああ。それなりに。使用言語も、名の知れたものは概ねカバーしている」
 蒼が答えると、マークスは、懐からプラスティックケースを取り出す。
「それを見込んで、頼みがある。このディスクには『project whitebox』の基礎データが入っている。このディスク内のデータと、システム概要が書かれた書類を参考にして―」
 マークスの頼みは、理解し難いものだった。一言で言ってしまえば、コピーして持ち出した『project whitebox』基礎データの大幅改鼠、である。
「できないことはないが……そんなものを俺に作らせて、どうするつもりだ? 持ち出された機密データから作成されたプログラムなど、公開できないだろう」
 それに、個人使用が目的だったとしても、セントラルタワークラスの設備がなければ『project whitebox』は走らない。一人で持っていても、宝の持ち腐れだ。
「できれば、何も言わずに頼みを聞いてほしい。それで、草加派への貸しは帳消しで構わない」
 マークスの言う『草加派への貸し』とは、言うまでもない、叶派であるマークスが、今回草加派に全面協力している件を指しているのだろう。
「……わかった。やってみよう。君を信用して引き受けるんだ。くれぐれも、悪用はしてくれるなよ」
「悪用などするつもりは毛頭ない。これは、私の自己満足だ。ともあれ、恩に着る」
 正直言って、腑に落ちない頼みではあったが、蒼は引き受けることにした。
 叶派のトップシークレットとして、名前とは対照的に、長らくブラックボックスになっていた『project whitebox』その中身を覗いてみたい、という知的好奇心もあった。
 尤も、この話を持ってきたのが、叶綾香や朽木百合あたりならば、機密データの持ち出しそのものが蒼を嵌める為の罠であると考え、書類に手を触れることすらしなかっただろうが。
 無愛想で、何を考えているか良くわからない男と取られがちなマークスだが、結局の処、大人の嘘―社交辞令が苦手なだけなのだ。それが、何度かマークスと顔を合わせての、蒼の結論だった。
「それでは、頼んだ」
 マークスは、机に広げた書類を手際よく封筒に戻すと、その上にプラスティックケースを重ねて、蒼に差し出す。
 蒼はマークスから受け取った書類封筒とデータディスクを自分の鞄に詰め、第二会議室を後にした。

272:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/28 00:18:52 GI1AHl8r
>>247からの続きです。おそらく次回が最終回になります。

273:名無しさん@ピンキー
07/09/28 01:27:26 oTlMAFyn
すげー。としか言い様がない。


274:名無しさん@ピンキー
07/09/28 01:48:43 uFTBrV0r
>>272
GJです。
いよいよ裏側の方のネタ晴らし開始といった感じでしょうか。
…まだ全然わからんけどw
最終回、wktkで待ってます。

275:名無しさん@ピンキー
07/09/28 02:09:45 MuEElKD9
今フジでやってるドラマそれっぽいな

276:名無しさん@ピンキー
07/09/28 04:23:20 Bqj7Pzy6
無粋なことイワナイっ


277:名無しさん@ピンキー
07/09/28 07:38:21 izPYswog
ゴメン、GJとしか言いようがないわ。

278:名無しさん@ピンキー
07/10/01 10:53:39 6mvp3Qzj
あげるよ

279:初心者
07/10/01 19:04:45 wq6uvdpp
皆さんお久しぶりです。
まぁ、ほとんどの方が覚えていないでしょうが…。
>>167の続きを書いたので投下します。




突然だが、君たちはサキュバスという悪魔を知ってるかい?
日本語では淫魔とか夢魔というらしいが、まぁ、ぶっちゃけるとエロい悪魔、ってことだ。
夢の中でエロいことをしてくるだけなのだが、そこはやっぱり悪魔なので落とし穴がある。
手を出すと、死ぬまで精を搾り取られるとか、夢から脱け出せなくなるとか、色々だ。
んで、俺の目の前にいるサキュバスの場合は、手を出すと社会的に抹殺されることは確実である。
そんな危険なことはもちろんできないな、うん。
でも…、華奢な肩とか、お湯で濡れた体とか、微妙に見えてる尻とか、思わず手を出してしまいそうで…
「先輩?手が止まってますけど…」
「あ、ああ。ゴメンゴメン、考え事してて」
彼女の声で俺に意識が戻る。
危ない危ない…。俺はもう少しで性犯罪者になってしまうところだった。


280:初心者
07/10/01 19:06:20 wq6uvdpp
「どう、痛くない?」
「ん…、大丈夫です。」
とりあえず、今の状況を説明すると…
友達の家で、友達の妹の友達(ややこしい)と、風呂に入っています(なぜ?)
まぁ、色々疑問はあるかもしれないが、作者の技量が無いのが原因なので、多少は許してほしい。
んで、今は彼女の髪を洗っているわけだが…
「また手が止まっていますよ」
おっと、また手が止まっていたようだ。
俺は彼女の髪を洗うことに集中する。
しかし、ホントに綺麗な髪だな…
一本一本がとても細く、枝毛など一本もない。髪を洗っているだけで危ない気分になってしまう…。
この髪は黒髪フェチにはたまらな(ry

281:初心者
07/10/01 19:07:54 wq6uvdpp
洗い始めてから10分弱、結構な時間もたったしそろそろいいだろう。
「髪、流すよ」
彼女は、はい、と言いながらギュッと目をつむる。
恐らくシャンプーが目に入らないようにするためだろう。
だが、その仕草が可愛過ぎて、俺の理性は飛びそうだった。
「先輩?」
「な、何?」
「さっきからどうしたんですか?一人言も多いですし…」
「いや、なんでも無いですよ!?俺は性犯罪に走るつもりは無いですから!!」
「は?」
「いやいやいや、だからなんでもないですから!」
こっち見んといてー!と叫びながら真っ赤になった顔を隠す。
しかし、こんなに狭い風呂場では、そんな行動は無意味だった。


282:初心者
07/10/01 19:13:29 wq6uvdpp
「………、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです…」
年下に対して、なぜか敬語に。
俺は何を妙なことを口走っているんだ?
全く…、相手は中学生だというのに…。
自分は高校生で、半分大人のようなものだ。
来年には大学生になるのだし、もっとしっかりしなければ。
…でも加奈ちゃんはとても中学生には見えないしな。身長は170近くあるし。
あ、そういえば友達が、彼女だ、と言って紹介してきた女の子は中学生だったな…。
そう考えると普通なのかも…。いやしかし…、でも…。
「……ぱい、先輩ってば!」
「ん、あ、あぁ。何?」
はっとして彼女のほうを向く
「早く流して下さい、髪が痛んでしまいます」
「ゴメンゴメン、今流すよ」
どうやらまた意識が飛んでいたようだ。
俺は言われた通りに、彼女の髪を流す。



今回はここまでです。
前回、次は本番とか言ってたくせに中途半端な所で終わりです。
本当に拙い文章ですみません…。
前回同様、皆さんからのご意見がありましたら、続きを書く時に反映させます。
それでは、このスレの過疎が終わることを祈りながら失礼させて頂きます。
あ、次回の投下は10の下旬になるかと思います。

283:名無しさん@ピンキー
07/10/01 22:09:28 ym3Dtj3j
初心者さんgj
次回も期待してます

284:名無しさん@ピンキー
07/10/01 22:25:26 pP3oOd03
>>282
GJ。今回は違和感なく読めました。

一応過疎ではないと思います。途中のが3つ(望みがある)ある時点で十分です。
エロパロはこんなもんだとこの板のどこかで誰かが言っていた気がします。


まったり、出来る範囲で続き頑張ってください。

285:名無しさん@ピンキー
07/10/01 23:16:46 2c67kIkK
ただ「初心者」ってコテはすごくどうかと思う

286:名無しさん@ピンキー
07/10/02 01:59:17 3EconPPa
「【初心者】は言い訳のための言葉ではない。精進のための言葉なのだ」(斎藤 1832~1912)

287:名無しさん@ピンキー
07/10/02 19:04:39 TWcxs+ib
つまり>>282氏は精進を怠らない素晴らしいネ申です←結論

288:名無しさん@ピンキー
07/10/02 19:40:48 8aXrZpMt
つまりそれを支持しなきゃならないってことさ

289:名無しさん@ピンキー
07/10/02 23:06:37 kSAosz0b
>>287
まだ神じゃないけどな。

290: ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:17:49 LjRGawoU
warning!
このSSには強姦表現が含まれています。ご注意下さい。

291:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:18:32 LjRGawoU
◆合格者と不合格者

「あああ、どうするんだよ、これ……」
 多々良朝人は、受験者用に用意された部屋のベッドの上に座り込み、頭を抱えていた。
 最終試験の経過を映し出す筈の大きなモニタは、ポルノ映画同然の情景を映し出している。
 朝人の性格は、他ならぬ朝人自身が一番理解している。昼間、試験官から試験の内容を聞いた時から、嫌な予感はしていた。
 しかし、開始一日目の夜から、不合格を確信する羽目になろうとは、誰が想像しただろうか。
「酷過ぎる……いくらなんでも、こんなのは……」
 眠っている間に悪戯をしようとして気付かれた挙句、開き直って暴力を振るい、そのまま乱暴する。
 朝人のコピーが留美のコピーに対して取った行動は、この試験の趣旨を鑑みると、最悪の行動と言ってしまって差し支えなかった。
 朝人の苦悩を置き去りにして、モニタの中の朝人のコピーは、留美の小さな口にペニスを捻じ込み、恍惚の表情で胸をまさぐっている。
 その映像を見て性的興奮を覚えている現実の自分もまた同様に、情けなくて仕方がない。
「お前は知らないだろうが、これは一級市民昇格、最終試験なんだ! 人生がかかってるんだ! どうしてくれる! クソ!」
 マットレスに拳を叩きつけながら、モニタに向かって毒を吐いてはみるが、元々が自分の思考ルーチンの集大成である。
 正に、身から出た錆以外の何物でもなく、怒りをぶつけた処で、空しさが募るばかりだった。
 と、ベッドの端でゴトリ、と何かが落ちる音がして、画面全体が乱れた。今までコピーの蛮行を映し出していた画面に、白い部屋の壁が大写しになる。
 画面右上には『AUTO→FIX1』の表示が点滅している。
「な、なんだ!?」
 慌てて、ベッドから這い降りる。ベッドの下に、リモコンらしきものが転がっていた。
 朝人はそれを拾い上げる。どうやら、ベッドを叩いた所為でモニタを操作するリモコンが床に落下。その衝撃でカメラが自動から固定に切り替わったらしい。
「ああ、ったく! なんだよ! もうどうでもいい!」
 カメラを元に戻す気にもならなくて、朝人は頭まで布団を被り、不貞寝を決め込んだ。

↓ IN ↓

 朝人は、まだうとうととしている留美を起こすと、無理矢理手を引いて、自分のベッドの前まで連れて来た。
 そのまま、目の前に立っているように命令して、自分は服を脱いでしまうと、全身を執拗に触り始める。

292:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:19:11 LjRGawoU
 髪から頬へ、頬から首へ、首から肩へ、肩から胸へ……
「また……するんですか?」 
 感情を失ったような、抑揚の無い声で、留美が聞く。
 昨夜だけで、二度も精を吐き出したのだから、今日は干渉しないでいてくれる。留美はそう思っていた。
 そもそも、こんな奇妙な状況に置かれているというのに、話し合いを持つわけでもなく、こう何度も体を求められるとは考えてもいなかった。
 軽蔑。嫌悪。忌避。羞恥。あらゆる負の感情を含んだ視線が、朝人に突き刺さる。
 しかし、異常なシチュエーションに理性の箍が外れた朝人にとっては、そんな視線は、興奮剤にしか過ぎなかった。
 返事もせずに、留美を抱き寄せて、首筋に吸いつくと、舌を這わせる。勃起した性器を、留美の下腹部に擦り付ける。

↓ OUT ↓

 朝人はのそのそと、ベッドから身を起こした。ベッドサイドに置かれた時計は、午前六時三十分を示している。
 点けっ放しのモニタは、まだ白い壁を映していて、そこから音声だけが流れてくる。
 洋服の生地が擦れる音と、拒絶する少女の声だ。
「朝から……何やってるんだ……」
 カメラは明後日の方向を映していたが、何が行われているのかは明白だった。
 肩を落としながら、リモコンを操作して、カメラを自動に戻す。
 映し出されたのは、全裸で留美に抱きついて、腰を振っている朝人のコピーと、顔を背け、それを引き剥がそうとささやかな抵抗をしている留美の姿だった。
 まるで、盛りのついた雄犬だ……そう朝人は思う。自分のことながら、ここまでくると呆れてしまう。
 確かに、女日照りだった。少女の容姿も好みだった。それにしても、人生の一大転機に、この、あまりにあまりな醜態はなんだろう。
 寝起きのはっきりとしない頭で、その様子をぼうっと眺めている内、朝人は自暴自棄になってきた。
 ああそうか、これが多々良朝人という人間の本質だっていうのか。それならそれで、上等だ。
 心の中で啖呵を切って、リモコンのボタンを連打する。
 画面右上の表示が、目まぐるしく切り替わっていく。
 ……『FIX1→FIX2』……『FIX2→FIX3』……『FIX3→FIX4』……
 固定カメラの視点を何度も動かして、留美の全身が映るアングルを探す。
 ベストのアングルを見付けると、ズボンのベルトを緩め、下半身を露出させる。
 朝人のペニスは、起床直後である所為か、或いは性的刺激を受けた所為か、最大限に勃起していた。
 画面を凝視しながら、それを扱く。直ぐに、亀頭周辺に粘液が溢れてくる。
 画面の中で、コピーが呻き声をあげた。留美を抱き締める腕に、力が籠ったのがわかった。
 朝人のコピーが留美のスカートに精液を吐き出すのと同時に、現実の朝人も果てた。



293:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:20:18 LjRGawoU
 マークスは、朝食のサンドウィッチを齧りながら、浮かない顔でモニタを見つめていた。
 モニタには、マークスの亡骸に縋って泣く、留美の姿が映し出されている。
 一緒に閉じ込められた少女を助けて、少女よりも先に逝く。マークスにとっては理想の結末で、最終試験は幕を閉じようとしていた。
 それでも、マークスの気分は晴れない。
 永遠にこの閉じられた世界―白い牢獄に幽閉されて、死を繰り返す少女。
 今まで、そしてこれからの彼女の運命を思うと、素直に合格を喜ぶ気分にはならなかったのだ。
 そういった感情を抱くのは、おかしいことなのかもしれない。所詮、彼女の存在はデジタルデータ、無機質な数字の集合体なのだから。
 彼女は血の通った人間ではないのだ―そう考えようとしても、どこか、やりきれないものを感じてしまう。
 何故なら、彼女のデータは、無から生み出されたものではない。抽出元は、人間だ。ならば、構成要素が有機物か無機物かに何の違いがある?
 これでは人間の心を、コンピュータの中に封じ込めたも同じではないか……?
 マークスは、そう思わずにはいられなかった。

↓ IN ↓

 留美はベッドの上に横たわるマークスの亡骸に縋って、泣いていた。ぽろぽろと零れた雫が、マークスの服の襟元を濡らす。
「なんで……こんなこと……」
 留美は、日に日に衰弱していくマークスに気付けなかったことを、心の底から悔いていた。
 いくらでも、気付くチャンスはあったはずだった。
 それほど日数も経っていないのに、体が動かなくなって、声も出なくなってきて……明らかにおかしかった。
 なのに『私は子供の頃から病弱なんだ』そんな、今思えば見え透いた嘘を鵜呑みにしてしまっていて、それ以上追求しなかった。
 いかに自分のことだけで手一杯だったとはいっても、これは私の怠慢だ、そう留美は思う。
 もし、彼の真意に気付けたとしたら。そんなこと止めてください、二人で一緒に助かりましょう、そう言って、彼の行為を止めることができたのに。

294:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:21:15 LjRGawoU
「私……こんなことより……マークスさんが生きていてくれたほうが……嬉しかった……」
 声をかけた処で、もうマークスは返事をしない。残されたのは、一枚のメモ。それから、水色の箱に丸々残った、水と食料。

 二人では三十日を生き延びられない。だが、水と食料を一人に集中させれば、生き延びられる可能性はある。
 ルールAを見た時点で、マークスはすぐにそう判断を下した。
 そして同時に、マークスは決意した。
 留美には秘密で、水と食料を全て残しておこう……と。
 マークスは自らの意志で、留美生存の為の捨て駒となる道を選んだのだ。
 水と食料を残しておくと一言で言っても、それは決して簡単なことではなかった。
 何といっても、殺風景な部屋である。互いの動向以外に、観察するものなどない。箱にまったく手をつけなければ、不審に思われる。
 故に、マークスは定期的に箱を開けては、水を飲んでいる振り、食料を食べている振りをしなければならなかった。
 ペットボトルに口をつけて、飲んでいる振り。カロリーメイトの箱だけ開けて、食べている振り。
 その度に、強烈な渇きと飢えに襲われた。本来の目的を忘れて、ペットボトルの中身を一気に飲み干してしまいたくなったのも、一度や二度ではない。
 それでもマークスは、何とか初志を貫徹した。折れそうになる心を奮い立たせて、水、食料を文字通り死守した。
 最後の数日間。死が足音を殺して忍び寄ってくるのを実感しながらも、恐怖は微塵もなかった。それどころか、達成感に満たされてすらいた。
 だからだろうか。マークスの死に顔は、極限状況の中で死んだとは思えないくらいに、とても安らかなものだった。

 留美はマークスの残したメモを手に取って、広げた。
『もっと一緒にいたかったが、ここまでのようだ 水と食料は残しておく 君は必ず生き残って、ここを出られると信じている』
 彼らしいと言えば彼らしい、簡潔な文章だった。でも、その飾り気のない一行に、マークスの優しさが凝縮されているような気がした。
 目の前がまた、涙で霞んで見えなくなる。
「マークスさん……」
 留美は途切れ途切れ、マークスに語りかけた。
「最初の日、マシン・シティの郊外にある小さな美術館の話、してくれたじゃないですか……」
「とっても素敵な場所なんだって。今度連れていってあげるって、約束してくれたじゃないですか……」
「だから、お願いです! 起きて……! 私を一人にしないでください……!」
 暫くの間、留美の嗚咽だけが、白い部屋に響いていた。

↓ OUT ↓

 サンドウィッチを食べ終え、皿をキャスターテーブルに戻すと、マークスは立ち上がった。
 モニタに近付いて、そっと手を触れる。微弱な静電気の感触が、手の平に伝わってくる。
「私は、ここにいる」
 そう呟いても、聞こえるわけもない。そんなことはわかっている。溜め息を一つついて、モニタに背を向ける。
 受験者である、マークスのコピーは死んだ。もうこれ以上は、蛇足に過ぎない。
 一刻も早く、モニタの中の閉じられた世界を終わらせてほしい。マークスはそう願った。
 一人残された少女の嘆きは、まるで、自分が犯した罪のようだったから。

295:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:22:30 LjRGawoU
◆牢獄の崩壊

叶派会長逮捕! 戦慄の『娘殺害依頼』

 六日未明、一級市民、叶派会長、叶綾香博士が殺人教唆の疑いで逮捕された。
 今月四日、麻薬密売容疑で逮捕された四級市民、牧田享一が、取調べの際、二年前に発生した中二少女轢き逃げ事件に関与したことを自供。
 未解決のままであった轢き逃げ事件が、朝霧留美さんの実母、叶綾香博士によって依頼された『計画的犯行』であることを明らかにした。
 叶博士は全面的に容疑を認めており、五級市民への降格は決定的となりそうだ。
 叶博士が一級市民昇格試験の試験内容にも深く携わっていることなどから、各方面からは、一級市民昇格試験の内容の妥当性、透明性を問題視する声があがっている。
 一級市民の、常軌を逸した『娘殺害依頼』に、マシン・シティ全体に衝撃が広がっている。



 一級市民昇格最終試験、第一管制室。
 蒼は感慨深げに、部屋をぐるりと見回した。
「ここにも間もなく、捜査の手が入る。叶博士が管理していた機材も全て押収されるだろう。これで『project whitebox』も終了だ。技術だけは最高峰だったというのに、勿体無い」
「これでいい。もし『project whitebox』がこのまま続いていれば、女性にも同様の試験が採用される予定だった」
 と、マークス。
「今度は『幼い少年』を生贄にした試験だ。いかに俗世と乖離した世界とはいえ、こんなプランが高く評価されていたのは、狂気の沙汰としか言いようがない」
「手段はともかく、人格適性検査としての精度だけは、俺は買っているが」
「一級市民としての器を量る、というだけでなく、他方面での利用も検討されていた。メディア有害論の検証等も行うつもりだったらしい」
 言いながら、マークスは自分が使用していた机の引き出しを開けて、鞄へと私物を詰め込む。
「……見ての通り、叶派は会長の逮捕で総崩れだ。どうだ、マークス。草加派に宗旨替えするつもりはないか?」
「今回の件で、派閥というものにほとほと愛想が尽きた。私はもう、どこにも所属するつもりはない」
「ほう。尽きる愛想なんて、あったのか?」
「……ふん」
「さて。私物は大方、鞄に詰めただろう? 撤収といこうか」
 蒼はそう言って、部屋の入り口に視線を向けた。が、マークスは首を振る。
「いや……まだ、最後の仕事が残っている」
「最後の仕事?」
 怪訝な顔をする蒼に、マークスは意味深な笑みを浮かべてみせた。
「以前、私が蒼に頼んだ『project whitebox』のデータ、覚えているか」
「ああ、覚えているが……」
「全てが終わった今こそ、それの出番というわけだ」
 マークスは叶博士のデスクへ向かうと、コンピュータを操作した。
 データディスクをトレイに入れて、保存されている『project whitebox』のデータを、蒼が改鼠したものに差し替える。
「おい―」
 何をするつもりなんだ、蒼がそう口にする前に、マークスは、プログラム実行のボタンを押した。
 コンピュータの起動音が、部屋に響く。システムモニタを、文字列が流れていく。

 virtual brain ver1.3 ……ok
 virtual body ver1.5 ……ok
 datafile loading ……ok

 project whitebox start……

296:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:24:12 LjRGawoU
◆エピローグ

 『私は誰?』
      『今どこにいる?』
              『何をしている?』

 気が付いたら、私は、大きな建物の前に立っていた。
 寝坊した朝みたいに、記憶がはっきりしなかった。
 私は……なんで、ここにいるんだろう? 暫く考えてみるけれど、どうしても思い出せない。
 そのまま、玄関の前で立ち尽くしていると、きいっと音を立てて、ひとりでに扉が開いた。
 まるで、中に入ってきてって誘っているみたい。
 私は吸い寄せられるようにして、その建物の扉をくぐった。
 建物に入って最初に目にしたのは、見るからに高価そうな調度品と、有名画家の描いた絵画。
 建物は、どうやら美術館みたいだった。
「すみませーん……だ、誰かいませんかー?」
 恐る恐る、声をあげてみるけれど、返事はない。広い館内に、私の声だけが反響している。
 受付にも、人の姿はなかった。
 今日は休館日なのだろうか? もしかして……鍵をかけ忘れてしまった、とか。
 それは、美術館にしては無用心過ぎる気もする。でも、もしそうなら、勝手に入ってしまってまずかったかなあ。
 そんなことを思いながらも、私は、美術品の数々を眺めながら、順路に従って進む。
 異変が起こったのは、順路の一番奥にひっそりと飾られた、花畑の絵を見た時だった。
「え?」
 目の前の花畑の絵が、美術館が、突然、消滅した。
 そして、その代わりに、私の目の前に広がっていたのは、一面の花畑。
「あ……」
 感嘆の声しか、出てこない。まるで、夢の世界に迷い込んでしまったみたいだった。
 そうだ。これはきっと、明晰夢なんだ。だから、美術館が消えて、花畑になったりするんだ。私は、一人で納得する。
 ふと、頬を熱いものが伝った。涙だった。
 どうして、私は泣いているんだろう?
 確かに、この花畑は、とても広くて、とても綺麗で……
 でも、泣くほどのことじゃない。それなのに……
“留美”
 不意に、誰かが私の名前を呼んだ。
 その声は、初めて聞いた筈なのに、どこか懐かしかった。
“―さようなら、留美”
 私に語りかけてくる、優しくて、少しだけ悲しい声。
 ……お父さん? いや、違う。この声は―
 その声の『正体』に思い至った瞬間、言葉を紡ぐ暇すらなく、私の意識はホワイトアウトした。

白い牢獄 ……END

297: ◆SSSShoz.Mk
07/10/03 00:25:15 LjRGawoU
>>271からの続きです。そして、白い牢獄、これにて終了です。
ここまで付き合ってくれた方、ありがとう&お疲れさまでした。

298:名無しさん@ピンキー
07/10/03 00:41:48 wgtLHr2D
なんだか胸にしこりの残る終わりだ
智信だとか碧だとか、思わせぶりに登場しておきながらいてもいなくてもよかったような立場のまま終わってしまった
急な打ち切りで連載終了した漫画を読んだ感覚と似ているなこれは

299:名無しさん@ピンキー
07/10/03 01:00:31 SXmwhmLd
ディープブルーだっけ?
サメと戦いながら深海から脱出する映画。あれ思い出した。
終盤まではどうみても主演です的な活躍をしていたヒロインが、いざ脱出というときに何の前振りも意味もなくいきなり食われて死んじゃって、
男とオモシロ黒人の2人だけが生き残って、しかも死んじゃったヒロインについて一切コメントせずそのまま幕。

300:名無しさん@ピンキー
07/10/03 02:56:10 /Pa3TbCT
>>297
S^4氏GJ
>>298の言うように、急な打ち切り喰らった漫画を読んだような印象が。
とても面白かっただけに、非常に残念でなりません。

301:名無しさん@ピンキー
07/10/03 04:02:23 IHinaSLv
そうですかね。
私はこう言う終りも好きなんですけど。
まあこういうのって人それぞれですからね。

302:名無しさん@ピンキー
07/10/03 08:18:16 EcxjkuSi
S4氏GJです!

マークスは留美との約束を守る為にコピーをとってもらったんですね。
てっきり、留美の人格を自分のコンピュータに入れたり、プログラム上の外の世界で自分のコピーと出会わせたりするのかと…
しかし実際の留美は死んでいるし、束縛されている状態からの開放が一番のグッドエンドなんでしょうね。
ただ、幸せな留美が見たかったのが心残りですが。
何はともあれ、GJ、おつかれさまでした。

303:名無しさん@ピンキー
07/10/03 12:51:29 2NqoGAye
確かにマークスまではよかったが、終わり方がしっくり来ないなぁ。はっきりしないというか…。

まあ、何はともあれお疲れさまでした。

304:名無しさん@ピンキー
07/10/03 17:54:35 prhgfxxV
アー、俺、頭悪いからよくわかんねーや。

でもたのしかったけど。お疲れさんでした。

305:名無しさん@ピンキー
07/10/03 19:06:22 sHdnakf+
マリーまだー?

306:名無しさん@ピンキー
07/10/03 21:23:32 dTOL4BBS
>>298が乳癌の件

>297 超長編お疲れさま。
本当に映画まるまる一本みてるみたいで良かった!ありがとうございました

307:名無しさん@ピンキー
07/10/03 22:07:49 765r2W1q
うん、これだけの大作、お疲れ様でした。楽しませてもらいました。
確かにその後どうなったのか気になる人々もいますけど……

308:名無しさん@ピンキー
07/10/03 23:21:26 en4Mt5QZ
少女を中心に円のように世界が、物語が広がっていって閉じていって
状況は最初から救いようがなかったわけで、ならこの終わりも妥当……でしょ?
切ないぜ

309:名無しさん@ピンキー
07/10/04 00:05:21 o9VZGFh/
二人っきりと現実とが平行に描写されるのは初感覚で楽しめた(´∀`*)

310:名無しさん@ピンキー
07/10/04 00:07:05 o9VZGFh/
すまん、あげちまったorz

311:名無しさん@ピンキー
07/10/04 00:33:35 JxRzRME8
とても切なく感じた。
この作品は最早エロパロなどではなく、そこらの小説より遥かに質の高い作品だったと私は思う。
何はともあれ、超大作お疲れ様でしたよ。

312:名無しさん@ピンキー
07/10/04 04:12:56 OgYsgspX
キャラ小説として読もうとするから文句が出るんだろうなぁ、とか

お疲れ様でした
大変楽しませていただきました

313:名無しさん@ピンキー
07/10/04 13:48:39 x4G6dnn7
キャラ小説じゃなくても、主要キャラがふっと消えて彼らのその後は投げっぱなしジャーマンなんてそうそうないと思うが。
面白かっただけに、いらんモブキャラに逐一大量な設定付け過ぎて、話のメインが紛らわしいまま終わったのは残念。

314:名無しさん@ピンキー
07/10/04 16:38:18 OgYsgspX
むぅ……そうか
感想は人それぞれだしな
要らん事言ったわ、すまん
全裸で反省させていただく


315:名無しさん@ピンキー
07/10/05 03:32:26 0pAklLVY
そういえばマークスと一緒に留美の夢に出てきた老人はどうなった?
TIPSには死んだってあったけど結局本編に絡んだっけ?
俺が見逃してただけ?

316:名無しさん@ピンキー
07/10/07 01:12:52 yC0vROdX
保管庫見てたら、途中で止まってるのやたらとあるな。。。
嫌な予感

317:名無しさん@ピンキー
07/10/07 11:27:57 xzJo1ISy
age

318:名無しさん@ピンキー
07/10/07 13:39:31 YddNkpzk
そういや保管庫誰か更新しとけよ……。
二度ほど保管したけれど、ぶっちゃけもうやりたくねぇ……。

319:名無しさん@ピンキー
07/10/07 21:23:13 ab7GjQSB
やり方が簡単なら俺がやりたいが・・・。時間もないしなぁ。

320:319
07/10/08 18:50:11 DoOGZmBl
一応「白い牢獄」だけやっといたが、メール欄がリンクになっているのはやめた方がいいのだろうか?
というか、アレでいいのだろうか?
取り敢えず他のもやっておくよ。

321:名無しさん@ピンキー
07/10/08 21:13:59 izEP0Uql
>>320
今ざっと見たらメ欄には「sage」以外に何も書いてなかったけど。
「sage」しか無いなら無視して構わないんじゃないか?
「sage」以外に何か書いてあっても、大した用件じゃあないだろうし。

322:名無しさん@ピンキー
07/10/08 22:58:58 89YgfQSi
>>321
取り敢えず消してしまったよ。苦労する作業でもないし。

全部まとめたけど、変なところあったら指摘or修正プリーズ

323:名無しさん@ピンキー
07/10/10 20:04:44 M8GqUhIM
>>322
まとめ乙です

324:名無しさん@ピンキー
07/10/14 16:53:09 66fCkUeI
保守。

聞きたいんだが、ラピエスみたいな「mori~」って主人公を呼ぶ女の子はダメか?一応今書いてるんだが

325:名無しさん@ピンキー
07/10/14 17:24:15 jwdCHTnp

w-k-tk-


326:名無しさん@ピンキー
07/10/15 21:48:21 JH1p8SwH
このスレ見て宮部みゆきのレベル7思い出した

327:名無しさん@ピンキー
07/10/15 22:46:59 CE3LZcGg
>>326
50ページくらいで投げた友人を3人知っている。

328:名無しさん@ピンキー
07/10/16 23:54:42 Vpm5f2bi
上げておく

329:名無しさん@ピンキー
07/10/20 02:54:47 QPsNSSq4
オリガさんを待ちつつ、保守

330:名無しさん@ピンキー
07/10/21 22:46:55 BQTNKnp7
だいぶ静かになったな。
俺とお前の二人きりだ。>>331

331:名無しさん@ピンキー
07/10/21 22:53:36 ZBi/jNE/
>>330
そうみたいね……

332:名無しさん@ピンキー
07/10/22 04:37:29 vDxfsES9
すまん いろいろとあって止まってるだけなんだ。
だから俺もいるぞ>330 >331。

展開を大幅に変更せざるを得ないうえ、最近のニュースで自重したほうがいいのかなとか思えてきて…
大阪までつれてきちゃだめだろ… 常考…
最近、辱める夢ばかりみるんだ… 自分の作った世界の娘なのにな… やばいだろ?

333:名無しさん@ピンキー
07/10/22 04:42:15 S0YTRur8
>>330-332
いや、俺もいるよ。
ちなみに書いてもいるんだが、処女作なので期待しない方がいい。書き終わったら投下するよ。

334:名無しさん@ピンキー
07/10/22 11:52:39 SMFuCRg0
お前らどこに隠れてたんだよ。

>>332
長崎の小六女児が大阪の20歳会社員の家に転がり込んだ事件?
少女が自分の意志で男性宅に行ったような供述を少女本人がしてるらしいよ。
自身が開設したブログで男性と知り合い、悩みを打ち明けていたらしい。
男性は自宅に鍵もかけず、少女はいつでも外に出られる状態だったとか。
八日間指一本触れなかった男性の精神力と言うかに脱帽した。

URLリンク(blog.livedoor.jp)

335:名無しさん@ピンキー
07/10/22 12:33:08 yTAlr+ay
冷静に考えて消防にゃ手は出んだろ

336:名無しさん@ピンキー
07/10/23 02:10:15 fxsyp82z
手を出す奴は出すんだよ。あ、出すのはチンコか。

337:名無しさん@ピンキー
07/10/23 02:33:02 U5FBhilq
>>336
誰が上手い事言えとw

338:81 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 02:46:38 KGgGTqQH
で、書きました。1ヶ月ぶりでゴメンナサイ。

この一月であった出来事は以下の通り
・5年勤務初の夏期休暇取得 で、四国に一般道で行ってきた。(埼玉から)
・人生初の一人でフェリー乗船(宇野高松間)
・友人が入院で四国とんぼ返りの福島直行(四国-本州は淡路明石フェリー使用)
・福島から帰ると美味しい煮魚食べに金谷までドライブ(後に浜金谷久里浜フェリー乗船)
・各親族の法要
総走行距離3000km
ボクの軽はボロボロさ…(11万km超えたorz)

ちなみに、マリーの小水を処分したときに出てきたパーキングの丘、
ついでにまた行ったので調べてきました。
「君withの丘」というらしいです。
ハンカチは夜に訪れたときは判らなかったのですが、
マジックでしっかりと「絶対幸せになれますように」などの一文が書かれていて結ってありました。
なるほど・・・だから君withか… 君津と掛けたか… そーかそーか…
URLリンク(toku.xdisc.net)
URLリンク(toku.xdisc.net)
URLリンク(toku.xdisc.net)
URLリンク(toku.xdisc.net)

339:名無しさん@ピンキー
07/10/23 02:50:26 KGgGTqQH
悠太の墓は、遠くを望むと海が見える高台にあった。
広めの墓地の一角に、海が眺められるように配置してある。
悠太家から徒歩で数分のところにあるそれは、まわりの墓と比べても大きすぎず小さすぎず、
平凡なたたずまいだった。

墓を目の前にして、マリーも現実を受け入れざるをえなかったようだ。
きゅっと俺の上着の裾を握り、隣に立つ身だからこそわかるぐらいに、震えている。
「…ゆ、ゆうたくん…」
震えていたが、泣いてはいなかった。でもその姿は、俺には…悲しく見えた。
俺は彼女に話しかけることができず、そしてそのままその場を後にした。

家にもどると、悠太母がきれいな貝殻をマリーに渡した。
「え? これは?」
マリーは質問を母にする。
「悠太の形見です… いつか、あなたに会えた時に渡すんだと言って、悠太が大事に取っていたものです」
「え」
マリーは絶句する。好きな人からの贈り物… すでに他界した人間からの贈り物。
彼女はまた… 泣き出してしまった。




他人の家にあまり長居するわけにもいかないので、帰る旨を悠太母に伝え、
「泊まっていかないのですか?」
と言う申し出に、赤の他人の俺まで厄介になるわけには行かず、丁重に断った。
「せめてマリーちゃんだけでも… お家に連絡とかしますから…」
マリーは… 泣き疲れて寝ていた。ここでマリーの家に連れ帰ってしまうと、
彼女には悔いが残ってしまうだろう… なにか、そう、なにかすぐに元気になれるようなことを
思い出として一緒に持っていってもらわないと… くそっ、こんなの自分のエゴだ…
だが…しかし……

340:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 02:51:15 KGgGTqQH
#ぐあ 名前がっ

悠太母の願いも再度断り、俺は彼女を起こさないようにそっと抱きかかえる。
車の助手席に座らせて、旅行で使う予定だった肌掛けをかけると、彼女はおきた。
「ん… んぅ…」
一瞬まどろんだ感じで起きて、またすぐに寝付いてしまう。
一気に疲れが出てきてしまったようだ。

とりあえず、悠太母に礼を伝え、悠太宅を後にした。
ゆっくりと車を走らせる。
行くあてはない。ただ、俺はこのまま悠太宅に居座ると、マリーがまいってしまうことを恐れた。
とりあえず、南下することを決定した。何も考えない、純粋に房総半島を南下するだけの…

・・・マリーがおきるまで、そっと走るか・・・

あたりはもう、完全に夜のとばりが降りていた。





341:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 02:52:09 KGgGTqQH
「ん… 康平、ここドコ?」
「ん、ここか? ここは…説明し辛いな… 千葉県の最南端に近いところだ。」
「そぅ…んー…  …すぅ」
寝ちまった… 運転してると時々あるんだが、同乗者が寝てしまうと、たまにこんなやり取りがある。
…俺の運転に安心してくれているならそれはそれでいいのだが…
そういえば、俺の友人は寝てしまうと申し訳なさそうに謝ってきたな。
俺は別に気にはしていないんだが。

それからしばらく走ると、でかい灯台の見える浜辺にやってきた。千葉県最南端の灯台が光っているのがみえる。

「ふぁ… あたし寝ちゃったの・・・?」
マリーが起きた。
「ああ、ぐっすりさ」
「…ごめん」
唐突に謝るマリー… 俺の友人を思い出した。別に謝ることでもないだろう…
「謝ることないさ。いろいろあって疲れたんだろ?」
「…うん。ごめん…」
「だから謝るなって」
「… …そういえば ここは? どこ?」
「ここか? そうだな、千葉県最南端かな? 灯台がみえるだろ? あれが最南端の灯台だ。野島崎の灯台」
「よくわかんない。 でも、波の音がきこえる…」
「ああ、暗いが、あそこは浜辺になってる。それでだろ」
俺は車外を指差した。エンジンを止めると、波のさざめく音が聞こえる。
「ふーん… ちょっと浜辺にいってきても、いい?」
断る理由がない。
「しばらく休憩するから、いいよ。」
「ありがと」
”ガチャッ… バンッ”
車の外にでていったマリー。
俺はそのまま彼女を見送った。 浜辺に座ったのを見る。 これが昼間なら絵になるんだが… 夜は…
なんというか、夜の海は怖い。吸い込まれそうで。

と、思っていると、彼女が立ち上がった。そして海へ近づいていく。
って、おいおい、海水が服につくぞ・・・・・・まて。なぜひざ下まで入る!?

彼女はどんどん海に入っていく。なにか追いかけるようにどんどんと。
俺はあせって車を飛び出した。
「マリィィィィィィ!!!!」
叫ぶ。
だが彼女は止まらない。振り返らない。
…まずい!
浜辺に足をとられつつも、必死に彼女を追いかけた。

342:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 02:54:11 KGgGTqQH
”バシャッ! バシャッ!”
俺はしぶきをあげつつ彼女に近づく。彼女は既に胸上まで浸かっている。
残暑が過ぎた頃合の夜のせいか、異様に冷たく感じた。
俺自身が胸の辺りまで浸かると、マリーは既に見えなくなっていた。
「くそったれ!! マリーどこだっ!!!」
無我夢中で沈んだと思われるあたりを手で探る。
暗くてよく見えない。…だが、糸みたいな何かが手に絡まった。
ワラをも掴む思いでその絡まったものを強引にたぐリ寄せる。

・・・ひっぱったとき、すごい重みがあった。
と同時に、腹になにかがぶつかる。それを手で確かめる。
人肌に暖かい何かが手を通して伝わってくる。
暗くてよくわからないが、マリーだと信じて、急いで浜辺に向かった。

浜辺に近づくと、掴んでいたのが彼女の髪だと判った。
彼女の服に滲みこんだ海水の重みと自分の服が張り付いている。
すごく動き辛いが、なんとか上がると、彼女を抱え、安全な浜辺に彼女を横たえる。

「マリー! おいマリー!! 起きろ!」
"ベシベシ!" っとほっぺたを叩く。意識は戻らない。
彼女にぴったり張り付いた服の、控えめな胸元を眺める。
…胸が上下していない。
いそいで、息をしているか、口元に耳を近づける。
1、2、3、4、5。 息をしていないのを確認した。
脈をとる。
”トクン…トクン…”弱弱しいが脈はある。

「くっ…」
かばんの中のファーストエイドポーチを取りに言っている暇は多分ない。
急いで教習所で習った蘇生法の準備に取り掛かる。
うろ覚えだが、この際仕方がない。
こんなことなら救命講習に参加しとけばよかった!

マリーの口(口腔)を強引に開ける。異物は… ないな。気道確保。…まだ呼吸が回復しない…
…四の五のいってられん! マウストゥマウスを実行する。

”フゥ!・・・” !? 吹き込めない!?!
慌てて口を離す。すると、口から海水が溢れてきた。
だが呼吸は回復していない。
もう一度試みる。今度は呼気を入れられた。

343:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 02:55:09 KGgGTqQH



2セットほど繰り返したくらいだろうか…
「ゲホッ! ゴホッ!!」
マリーの呼吸が回復した。と同時に、覚醒した。
「ゲホッゲホッ…ヒィィィ…ゲホッ…」
「マリー、大丈夫か?」
とりあえず、顔が鼻水と海水とよだれですごいことになってたので、手持ちのハンカチで拭ってやる…
しばらくしてマリーはつぶやいた。
「どう…して… げほっ …悠、太くんゲホッ、に、会わ…せてよぉ…」
俺は口をつぐんでしまう。
「悠、太くんがいな、い、この世界に、居たくはないの…」
すると、夕方までいい天気だったのに、雨が降ってきた…
「マリー… 雨だ… とりあえず、車に戻ろう?」
俺は彼女を促し、嫌がった彼女を強引に車に連れて行き、後部座席に乗せた。

空は、彼女の気持ちを代弁するかのように、雨風が強くなっていった・・・



344:81 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 03:05:43 KGgGTqQH
#展開が強引なのは御容赦をば…
#アクションというか、緊迫した場面って難しいね…
#こんなんで続けられるのかちょっと心配です。
#待っていた方、お待たせして申し訳ない。よろしくです。
#・・・遅れた理由にA.C.EとかA.C.E2とかエスコン6とか初音ミクとかもあったとか、言えません…
#しかし、旅先ですべて2chに書き込めなかったのは痛手だ… すごい痛手だ…

#それはそうと、A/Bがきになる今日この頃… 作者さんゲンキデスカー?
#続き楽しみにしてまってます~

345:名無しさん@ピンキー
07/10/23 04:05:07 T8EYK3jr
>>344
GJ! てか、いない間どんだけ移動してたんだwww

そして入水自殺未遂で生死の心配より、着替えor風呂イベントクルーーー
とか想像した俺は死んだ方がいい…

346:名無しさん@ピンキー
07/10/23 07:59:58 5p5l60Z/
GJ

>>355
大丈夫。俺もだ

347:名無しさん@ピンキー
07/10/23 18:46:17 7cIe8oeI
>>355の対応次第で>>346の言葉の重みが変わる。
つまり>>355が変態的な発言をすれば>>346もド変態に……ッ!

348:名無しさん@ピンキー
07/10/23 21:04:58 5p5l60Z/
うわー、やってもうた・・・。初の未来レス・・・。

そうだ、自分で取ればいいじゃん。


勿論だが、レスは>>345な。

349:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/10/23 22:38:29 U5FBhilq
>>344
おかげさまで元気ですが、リアルの多忙により全然筆が進まない。
次の回がいつになるか分からんので、忘れた頃に投下になるかと。
申し訳ない

350:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 23:17:37 +LzjmlNX
#そろそろ転かな… クライマックスにむけて盛り上げていかないと…
#というわけで、続き生きます。


-ビュウウウ… ヒュゴー… ザーー
風と雨が酷い。とてもじゃないが窓は開けられない。
フロントガラスや屋根に当たる雨の音が、バチバチいっている。

ポタ… ポタ…

マリーから滴が落ちる。涙なのか海水なのかわからないが。
俺は、彼女をそっとしておいて、
後部ハッチ(トランクルームのドア)を開け、簡易屋根として、荷物をあさる場所を作る。
こういうのを想定して購入した車だが、さすがに雨が強すぎるらしい。トランクの端がちょっと濡れてきた。
急いで目的のものを取り出して座席に放り、ハッチを閉め、外から後部座席に移動する。

「マリー、とりあえず、これで拭いとけ」
座席に投げたのは、タオルと俺の替えの服だ。座席に移動して、タオルを渡す。
「いや・・・」
「いいから拭けって。そのままじゃ風邪ひいちまう…」
「いいもん…」
「いや、よくないって」
ついさっきのことを思い出して押し問答になってしまう。
「ここでマリーに体調崩されると、君の家族に申し訳たたん」
「しらないっ!」
「ったく…」
俺はタオルを取ると、マリーの頭をぐりぐりと拭き始める。
「きゃっ! いったっ! 痛いってば!!」
彼女は抗議してくる。
「いやなら自分で拭けっ! このバカっ!」
「ばっ!?  だっ、だだだ、だれがバカですって?! あんたこそバカよっ!」
「なにぃ?! バカはお前だろう!? お前が死んで誰が喜ぶというんだよ!?」
「そんなのしらないわよ! 私は…」
「愛しの悠太くんに会うってか?」
「・・・」
「こんのバカっっっ!! そんな理由で死んだって会えるとは限らないだろう!」
「それは・・・」
マリーは黙ってしまう。
「大体だな、天国や極楽浄土があるかなんて、わからないだろう。まして、そこに彼がいるともな!」
「・・・」
「死んだ人間は二度と戻らないし、会えないんだ! かっこつけたって、思い出の中にしか現れないんだよ」
「・・・でも」
「だったら、思い出の中にいる愛しの人に恥じない人生を送るのが、供養とか、そういうのになるんじゃないのか?!」
「・・・」
「悠太君にほめられるような、そんな生き方をしろ! 自殺なんて誰もよろこばねぇよ! 悠太君もな!!」
「・・・ひっ・・ひっく・・・ひっく・・・・・・」
マリーは泣き出してしまう。
「まぁ… 気持ちはわからないでもないが… まだ人生長いんだ。安易に追いかけるとか、考えるな…
 ・・・とりあえず、そのままじゃあれだ… 着替えろ」
なきながらも、マリーはうなずいた。

351:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/10/23 23:24:39 +LzjmlNX
「しかし、まいったな… 外から丸見えだ…」
車は基本的に外から丸見えだ。この車も例外なく見えてしまう。
着替えるにしたって、女の子のストリップショーになりかねない。
俺は、トランクルームに転がり、俺の座っていた座席を折りたたむ。
こうすることにより、車の後部の半分はフルフラットになるのだ。
そこには布団のかわりに寝袋が畳んであり(車中泊でマットレス代わりに使っていたもの)
それをひろげて、そこに彼女を移動させる。
彼女も服もびしょびしょだ。・・・ぺったりくっついた服の透けて見える部分はがんばって見ないようにする。
ってかブラくらいしろと。 いかん 考えるな。般若心経・・・

なんとかもう片方の座席もフラットにすると、十分に着替えのできるスペースが完成する。
ついでにエンジンもかけ、暖房をONにする。
かばんから新聞をとりだし、ガムテープと共に窓に目隠しをする。
運転席の後ろのところは、むかしドンキ(ホーテ)でもらったレジャーシートを広げてカーテンにする。
そして照明をつければ、簡易更衣室の完成だ。
「とりあえず、室内照明はつけたから、問題なく着替えられるはずだ。君のサイズにあう物がないから、
 適当に袖とかめくってくれ。あとは下着以外は俺に渡せ。暖房でなんとか乾かすから」
「・・・ん・・・」
おい。なぜそこで顔を赤らめる。あ・・・服が透けてるのに気がついたのか。必死に胸隠そうとするな。
こっちがはずかしい。
・・・なに子供に情を抱いてんだ自分っ! おちつけ。相手はガキだ。ガキなんだ。


#短くて申し訳ない。 もっと文才がほしい… せっかくの萌えシチュなのに、萌えが足りない…
#なんか、マリーには一線を越えちゃならない気がするのですよ。自分の夢の中では天元突破してますが(まて
#というわけで、足りない萌え要素はみんなで補完ということでひとつ(こら

#ちなみに考えた>355ネタ。 355 「変態! ど変態!! 超変態!!!」 356「という言葉を釘宮ボイスでひとつ」
#しょーもないネタでスマヌw

352:名無しさん@ピンキー
07/10/24 05:09:13 LZ6Vustj
GJ!
お着替えイベント期待通りにキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!

> 自分の夢の中では天元突破してますが(まて
その夢、俺の脳内にコピーさせてくれwww

そして>>355に期待w

353:名無しさん@ピンキー
07/10/24 17:28:31 QGF5ESfL
GJ!

354:名無しさん@ピンキー
07/10/25 16:51:34 d1CCl2VI
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | 次でボケて   |
 |_______|
   ∧∧ ||
.   ( ゚д゚)||
   / づΦ

355:名無しさん@ピンキー
07/10/25 17:31:00 077WrdLb
谷亮子は俺の嫁。

356:名無しさん@ピンキー
07/10/25 18:39:51 4wIvqBL2
…………正直、微妙……

357:346
07/10/26 02:33:32 OArwzRZD
まあまあ。

>>355
頑張れ

358:名無しさん@ピンキー
07/10/26 15:34:05 rEyEZknO
山田くん、>>355の座布団全部持って行きなさい

359:名無しさん@ピンキー
07/10/26 18:41:02 +NIPUeNV
>>355
>>355
>>355
>>355
>>355

360:名無しさん@ピンキー
07/10/26 18:54:29 CiJ7/Vv4
谷を出しときゃ受けたのはかなり前の話だな
まあ今後頑張れ

361:名無しさん@ピンキー
07/10/27 21:07:31 AucSEeYO
それじゃあ>>355でどうボケるべきだったかを考えようじゃあないか。

362:名無しさん@ピンキー
07/10/28 04:04:10 c31uu3z1
あげ

と書いてるけどsage

363:名無しさん@ピンキー
07/10/28 20:36:52 VA6ZmHlN
パソコンの中に入ってしまった! そしてその中には、俺の嫁がいた!
パソコンの中はひどく狭くて暗いところだと思っていたが、逆に明るくて天国みたいな場所だった!
ずっと憧れだった俺の嫁と一緒に過ごせるのは夢見たいな時間だった!
仲良くご飯を食べたり、デートをしたりもしてみた!
だけど何日かするうちに、現実にも戻りたくなってきた!
嫁と相談した!
嫁は行かないでといってくれた!
でも俺は、その言葉を振り切るように
「もう一度会いにくるよ」といって、現実に戻ってきた!

あれから一年過ぎた!
結局、パソコンの中にもう一度入り込める方法は見つからなかった!
少しさびしい思いをした!
今では嫁の画像をデスクトップのど真ん中に飾っている!
昔と嫁は替わっているけど!



364:名無しさん@ピンキー
07/10/28 20:44:27 EJzEv84B
>>363
発想GJ

ただ、俺の場合6人いるがな!
んで、どうやって出たんだ?

365:名無しさん@ピンキー
07/10/29 01:07:41 ZlBeb9wq
そろそろあげとくか

366:名無しさん@ピンキー
07/10/29 14:04:48 lmmxV+ZR
もうYOUやっちゃいなYO

367:名無しさん@ピンキー
07/10/29 17:19:59 7+aGZZuW
何を?

368:名無しさん@ピンキー
07/10/29 17:56:42 l76IWUIh
や→ヤ

369:名無しさん@ピンキー
07/10/29 18:27:33 Ao6Tx3pe
ヤッチマイナー!

370:名無しさん@ピンキー
07/10/29 18:48:41 uCHWszLD
や→殺

371:名無しさん@ピンキー
07/10/29 20:12:01 E5hpZtAv
それはマリーを犯れと… 犯れとおおおおおお!!?!

372:名無しさん@ピンキー
07/10/29 20:19:43 ZlBeb9wq
それはやめておけ。それじゃあ白い牢獄の奴と同じだ(名前忘れたスマソ)


仲良くなってから合理的にやるのがいちb(ry

373:名無しさん@ピンキー
07/11/02 17:13:01 6ArC2kLt
>>374
なんか書いて

374:名無しさん@ピンキー
07/11/02 21:00:54 rP0n4bOs
>>373
俺物凄い遅筆だからいつになるかわからんよ。

375:名無しさん@ピンキー
07/11/02 22:32:35 K0akJAqK
つまり・・・・>>374がその気になれば 執筆は10年後 20年後ということも可能だろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!


376:手術室
07/11/03 04:19:27 sbdibNqV
>>374ではないですがいっちょ投下します。
白い牢獄という高クオリティなものがありながら、無謀にもサスペンスタッチなやつです。





377:手術室1
07/11/03 04:20:58 sbdibNqV


白い光がわたしの目蓋をこじ開け、敵意をもって侵入する。
それはやがて頭にまで達し、痛みを伴いながら次々に弾ける
わたしは不快感にうめきながら一つ息を吐く。
ついで鼻から同じく何かが侵入し、脳を揺さぶる。
「うぅ~~~~ん‥‥‥‥‥‥ぅうあ」
わたしは頭を攻撃し続ける刺激を追い出そうと、首を振り払うが、
途端に後悔と供に刺激が倍増する。
ズキズキと、光と匂いが頭痛という具体的な形となってわたしを攻める。

  何?

少しの不安とそれ以上の不快感。
風とまでも言えない微かな空気の流れが、わたしの身体を反射的にブルッと震わせる。
光に眩みまだはっきりと見えない目で一所懸命に、今自分の置かれた状況を理解
しようとする。

  まぶしい
  くさい(‥‥‥薬品の匂い?)
  なにも聞こえない
  寒い

そして、

 体が動かない

わたしは大きな椅子に座っているようだった。
両手首を肘掛の様な物に縛られて。

涙に滲む目を擦ることもできず、頭痛に揺れる頭を押さえることもできず、
苦痛がいつまでも自分を苦しめる
一通り体を揺すって現状を打破しようとするも、ただただ頭痛を増大させただけだった。
わたしは動けない。

もう一度目をつぶり、深呼吸して体と気持ちを落ち着ける。
匂いに慣れてくるとともに、頭痛も少しだけ治まる

  わたしになにがおこったのか



378:手術室1
07/11/03 04:25:07 sbdibNqV


フッとひとつ大きく息を吐くともう一度目を開けた。
今度は、視界ははっきりとしていた。何もかもが見えた。
でも、今自分のいる所がどういう場所なのかは確認できなかった。
自分がどういう状態なのかも。
なぜならわたしの目の焦点はある一箇所に固定されて外すことができなかったからだ。

そこには女がいた。

白衣を着た美しい女が脚を組んで座っており、眼鏡を通して興味深げにこちらを眺めていた。

束の間わたしを苦しめていた頭痛が吹き飛び、同じく思考が吹き飛ぶ。


  「あら、目が覚めた?」

低くも高くもない、よく通った滑らかな声で彼女は言った。
とても優しげな声で。

そう、わたしは目が覚めた。
この明るく薬品の匂い漂う白い部屋で。
身体を椅子に縛られたまま。
美しい女に観察されながら。

多大な努力を要し、女から目を離すと部屋をみわたす。
白いタイルに白い壁、緑のモルタルの床、飾りの一切ない蛍光灯の照明。
ガラスとステンレスでできたシンプルな棚。
何らかの医療機関の建物の一室だということはわかる。
薬品の匂いとあいまって自然のものは何も感じられなかった。
しかし同時に人の温かみも一切ない無機質な部屋。
右奥に見える両開きのスチール製のドアの取手は太い針金で硬く結ばれていた。
密室にわたしと白衣の女が一人。
 

二人きり
 





379:手術室1
07/11/03 04:26:29 sbdibNqV


  「大丈夫よ、落ち着いて」

ふと、思った。
わたしは一番大事なことを忘れている。一番大事なものを見ていない。
この部屋のことよりも、目の前の女よりも何よりも大事なこと。


 "わたし"だ。


そして、わたしは首を傾けてわたしをみる。
何も見えない。
わたしの身体には部屋と同じような無機質で白いシーツが掛かっていた。
ただその下が全裸だと言うことはわかる。
そして初めは椅子だと思っていたが、手術台のような物の上に乗っているようだ。

わたしはこのような状態になった時に、人が言うであろう最もありふれた、
そして面白味のないセリフを発していた。

 

  「ここはどこ?わたしは誰?」





わたしには記憶が何もなかった。




380:手術室1
07/11/03 04:28:56 sbdibNqV


自分の名前も分からない。
なぜ裸で手術台の上に縛られているのか。
この目の前にいる女は誰なのか。


  「まあ」


その女はわたしの言葉に少しだけ驚いたようだった。
その驚きの表情も美しい。
そもそも、わたしにはなぜ記憶がないのか。


  「ごめんなさいね、ちょっと強く殴りすぎたみたい」


即座にわたしの記憶がない理由は分かってしまった。
じゃあ、


  「あなたは誰なの?」

  「う~ん、それはちょっと難しい質問ね」


少しだけ面白がるように半笑いで彼女は応える。
ただ、その笑顔はあまりにも美しく整いすぎていて、あまり温かみがなかった。この部屋と同じ様に。

その態度に少し苛立ちを感じる。
が、まだ不安や恐怖のほうが大きい。


  「お願いだからおしえて、わたしはだれで、ここはどこなの?
   なんであなたはわたしを‥‥‥‥‥‥殴ったの?」



381:手術室1
07/11/03 04:30:33 sbdibNqV


その女をじっと観察する。わたしがされているのと同じ様に。
どうやら来ている白衣は医者用のではなく、科学者が私服の上に羽織るもののようだ。
その下には白いブラウスと膝上のグレーのスカートとこれ以上ないくらいにシンプルな格好。
明るい金髪を束ねて無造作に結び、度の薄い眼鏡の向こうにはブルーの瞳。
化粧はしていないみたいで、それ故に彼女の素の美しさを余計に引き立てている。

恐ろしいぐらいに。


  「ふふ、あなたらしくもない、なにをそんなに不安げな顔しているの?」


今度は苛立ちが不安や恐怖よりも大きくなる。


  「いいから教えて、わたしは誰で、ここはどこ!?
   あなたはだれなの!?」


彼女曰く、あまりわたしらしくない不安げな態度で質問をとばす。


  「本当に全部忘れちゃったのね」

  「あえて名前というものがあるのだとすれば、わたしはメイ。
   そしてあなたはジュン」


彼女の表情が消える。


  「あなたは"スペア"だった。そして"マスター"に選ばれた」

  「?」



382:手術室1
07/11/03 04:31:53 sbdibNqV


何のことかはわからない。

それで全てが説明できるかのように、彼女、メイは沈黙する。
相変わらずわたし、ジュンをブルーの瞳で見つめながら。

慎重に言葉を選び、核心とも思える質問を静かに呟く。
わたしも彼女を見つめながら。


  「あなたはわたしに何をしようとしているの?」


彼女の表情が少しだけ崩れた。
心なしか完璧だった美しさが失われたような、しかしそれでいて先程よりも生気に溢れている。

  
  これは‥‥‥‥‥笑顔?


笑顔ならば、なぜわたしは怖いと思っているのだろう。


  「さあ‥‥‥‥なにをしようかしら」


わたしはあきらめてしまった両手の拘束から逃れようと、無意識にもう一度引っ張ってみる。

メイはどこか艶かしく両脚を組みかえる。
靴下もストッキングも履いてない、必要のない、なめらかで綺麗な両脚を。


  「あなたは誰なの?」


わたしは本当にその答えを知りたいのだろうか。
ただ、記憶喪失で、素っ裸で、縛られて、閉じ込められたわたしには何もなかった。
いま手にすることの出来るものは目の前の女から望むしかなかった。



383:手術室1
07/11/03 04:33:07 sbdibNqV


メイはわたしから眼を離さないまま、手を頭に持っていくと髪留めを外した。
2、3度首を振ると豊かな金髪が、結んだクセもなくふわりと広がる。
眼鏡を外す。
やはりわたしから眼をそらさぬまま。ブルーの瞳で。
無造作に髪留めと眼鏡を床に落とす。
ふっと微かに笑むと、それを顔に貼り付けたまま静かに立ち上がる。

わたしは、身体の自由がきいたならばきっと後ずさりしていただろう
一見完璧な彼女の表情にはそうさせる何かがあった。

白衣を脱ぎながら立ち上がる。
こんな状況じゃなかったらきっとわたしも見惚れてしまいそうな見事なスタイルを晒しながら。

ふと、思い出したかのように手を腰の後ろに回すと黒光りする何かを取り出した。
デザートイーグル。
装弾数8発、シングルアクション、破壊力重視の大型自動拳銃。

 
  なぜそんなこと、わたしは知っている?


それをゴトリと今まで座っていた椅子におく。
そして振り返るとなにかを決心したかのように一歩一歩私に近づく。
どこか熱に浮かされたように口で息をしながら。
わたしがなぜ身の危険を感じていたかを理解した。



彼女は静かに興奮し、欲情していた。
わたしを見ながら。


384:手術室1
07/11/03 04:34:36 sbdibNqV


もちろんそれを知った所でわたしにはどうする事も出来ない。


  「ひゃっ」


おもむろに身体を覆っていたシーツを剥がされ、小さな悲鳴もれる。
シーツの下の自分の裸が直に空気に触れ、鳥肌と供に縮こまってしまう。

わたしは女だった。
始めてみる自分の裸体はとても綺麗だった。
小ぶりながら形の良い胸に、それに似合った薄い色の小さな突起、くびれた腰、ごくごく軽く生えた恥毛、
必死に閉じようと震えているスラリとした両脚。



  「ふふ、相変わらずキレーな身体ね。
   うらやましいものだわ」


メイはやっと顔から目線を離すと、今度は足先からじっくりと舐め回すように視線を這わせる。
舌なめずりをしたように見えたのは気のせいか。




385:手術室1
07/11/03 04:36:07 sbdibNqV


わたしは突然に激しい悪寒を感じた。
目の前の女から感じる直接的な嫌悪感なんかではなく、
そんな小さなものではなく、
この部屋全体、この世界全体から向けられているような巨大な悪意。
背中から巨大な手で握り締められているような。
世界が揺れる。
ここしか知らない世界
およそ7メートル四方の小さな世界。
光が、闇が病室の壁や床でゆらゆらと波打つ。


  わたしを狙っているのはこの女だけじゃないの?

  助けて。

  わたしは逃げたい。
  どこへ?
  ここしか知らないのに。
  何も知らないのに。
  わたしは裸。
  閉じられた密室に、わたしの身体に欲情する女と二人だけ。
  そしてそれ以上に危険で大きな何か。
  何が始まる?
  そしてそれはいつ終る?
 

  ここはどこ?


  わたしはだれ?





386:手術室1
07/11/03 04:38:12 sbdibNqV


ドン、と突然の耳元の音と衝撃にビクッと身体が弾け、我に帰る。
メイが右手をわたしの頭のすぐそばについた音だった。
いつの間にかブラウスのボタンが全て外れ、黒いブラと形のよいむねが見えている
さらに至近距離でもう一度わたしを視線で舐めまわすと、ゆっくりと見上げる。
顔を近づけてくる。
頬を微かに上気させ、今ではその荒い息使いが直接肌で感じ取れる。

腰をくねらせながら、それでも直接には手を触れずに、わたしと身体を密着させ至近距離で
目線の高さが合う。


  「あなたがだれか、
  そして、わたしがだれか知りたいって言ったわよね」


さっきまでの落ち着いたなめらかな声とは違い、喘ぎまじりに言う。
彼女の熱い息が顔にかかる。
気がつかなかったが、メイは左手に鏡を持っていた。
飾りも装飾もない実用性のみ、やはりシンプルなもの。



387:手術室1
07/11/03 04:40:24 sbdibNqV


  「さあ、自分で確かめなさい」


二人の顔の間にその鏡をかざす。
もちろん鏡は十分にその役目を果たした。
わたしの顔をはっきりと鮮明に写した。


  「?」


わたしは目が覚めてから初めて自分の顔をみた。

しかし、数秒間そのことを理解することができなかった。


  
  なぜなら、わたしの顔は、目の前にいる女、メイの顔と、まったく 同じ だったからだ。



もう一度思う。


  ここはどこ?

  わたしはだれ?

388:手術室1 あとがき
07/11/03 04:44:46 sbdibNqV
本日はここまで。エロなし&中途半端ですいませぬ。

女×女で、しかもビミョーに本来のこのスレの趣旨とは少し違うような気がしますが、
よければ続けさせてくださいませ。


また後日。

389:名無しさん@ピンキー
07/11/03 09:55:17 6aRANUlR
おkおk
今後の展開に期待だな

390:名無しさん@ピンキー
07/11/04 01:45:37 zWH1vbiO
w-k-t-k-

391:名無しさん@ピンキー
07/11/05 23:24:02 OtOqs29C
人が少ないな…。

392:名無しさん@ピンキー
07/11/07 20:04:10 5hcBCn13
…また2人きりになっちゃったわね

393:名無しさん@ピンキー
07/11/07 21:08:34 4A40y1L4
寂しいか?

394:名無しさん@ピンキー
07/11/07 21:22:59 KRKqohzm
マリーまだー?

395:名無しさん@ピンキー
07/11/07 21:50:33 4A40y1L4
ゴメン、Gを大文字にしただけで上がるとは思わなかったもんだから…

396:NIEneuNTE ◆WkbUbgPYt6
07/11/08 00:07:24 N08g9tZO
>>324です。
厨臭い作品なのは分かってますが、投下。
文体が某ラノベみたいなところがありますが、ご勘弁を。

初心者なので、文体に変なところがありましたらご指摘ください。

397:enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6
07/11/08 00:10:19 N08g9tZO
「やっぱ無茶だったか」
 すっかり暗くなった空を見上げ、俺は溜息をついた。


 覡駿光。俺の名前だ。
 ちなみに、苗字の方は〔かんなぎ〕って読むんだが、男の‘みこ’ってどうかと思わないか?

 そんなアホらしい事を考えている俺ももう大学生だ。
 ずっと同じ場所に留まっているのがイヤで、大学は上京する事をメインに考え、勉強していたと言っても過言じゃない。現に夏休みに入ってからアフリカに一人旅に来てるくらいだしな。
 こっちに着いてからは、有名都市に行ってみたり、ピラミッドなんぞに行ってみたり、ずっと北の方にいた。
 んで、南の方にも行ってみるかと恣意した結果がコレだ。

 確か昼頃に森に入ったと思ったから、6,7時間程度か?流石にもう疲れたぞ……。
 どっかで野宿でもと思い、それに適した場所を探し歩いていると、暗闇の中に開けた場所が見えた。
 気持ち早めに歩を進めると、そこには湖が広がっている。そして、水面に月が浮かんで……いや、何か他のものまで浮かんでいるような……?
 それ…いや、そいつは空色の髪の少女だった。おまけに何故か裸だ。
 うーん、暗くてよく見えない……って、何目をこらしてるんだ、俺は……。
 俺がしばらく見惚れていると、その少女は目的を果たしたのか、満足気に微笑みながら水面から上がり、森の奥に消えていった。

 気付かれてないよな?いや、本当に綺麗な肌だった…って何考えt(ry
 というか、一体何だったんだ?
 あれこれと黙考してみる。が、判るはずもなく、ただただ少女の裸体を想像するだけで、話にならない。。
 俺は気を取り直して、湖で手を洗い、夕飯の準備を始めた。




「―――(みーつけた♪)」

398:enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6
07/11/08 00:13:20 N08g9tZO
「―――」
ん?もう朝か?
「―――!」
 もうちょい寝かせろよ……。
「―――!!」
いてっ。何かがおでこに当たった。
「もう何だよ……」
俺は渋々、重い瞼を上げた。視界が黒から白に変わっていく……。
俺の眼前にいたのは、昨日の空色の髪の少女だった。身にはクリーム色の布をまとっている。
「うわっ」
当然ながら驚いた俺は、即座に後退りしようとした。しかし、木を背に寝ていたのを忘れていた為、頭を軽くぶつけてしまった。
そんな俺を少女がまじまじと見つめてくる。俺も見返してみた。
14,5歳ぐらいだろうか。何処か幼さが残っている。そして、その白瓷の顔には、何かの民族なのだろうか、赤や緑のフェースペイントが描かれていた。
体型の方はやや高めの身長と相俟ってスレンダーで、胸も中学生にしては……(ゴホゴホ
俺はそんな事を考えていて、少女の顔が眼前に迫っている事に気が付かなかった。
 互いの吐息を感じる距離。おまけに、彼女の柔らかい双丘が当たっている。
少女が頬をより一層赤く染め、瞼を閉じる。そして、俺も目を閉じ……

パチン!

「痛っ」
デコピンされた。
少女は、腰まで伸びた髪を振るわせて、腹を抱えて笑っている。
騙された。もしかしてさっきの寝起きのもか?おい、m9(^д^)ってするなよ。
くーきゅるきゅるきゅる……
ん?
少女の顔がみるみるうちに赤くなっている。腹の音だな。m9(^д^)し返してやったよ。
「ちょっと待ってろ、何か食うものを…」
野暮な事に、通じるはずもない日本語で話してしまった。
次はちゃんと現地の言葉でおはようと言ってみたが通じてないみたいで、少女は首を傾げるばかりだ。
どうしようかな、などと考えていると、少女が自分を指差しながら、
「tete」
「テテ?それがお前の名前か?」
また通じない日本語で話してしまった。それでも少女は頻りに自分を指差しながら、
「tete」
やっぱりテテが名前みたいだな。俺も自分を指差し、
「かんなぎとしみつ」
「kannagi…toshimitsu……?」
「そ、かんなぎとしみつ」
「kannagitoshimitsu…toshimitsu……toshi!」
「トシ?」
「toshi~」
まぁ、それでいいか。昔そういうあだ名で呼ばれていたこともあったし。
「tete」
「toshi~」
「tete~」
「toshi~♪」
 しばらくそのまま呼び合っていた。何か和んだ。


399:enchart×ancient ◆WkbUbgPYt6
07/11/08 00:16:13 N08g9tZO
俺はリュックの中から、密かに持ってきたプリッツを取り出し、箱を開け、テテに一本手渡した。
 テテは、それを見て数瞬訝しむ素振りをしたが、結局は口に入れ、嚥下した。
「どうだ?」
もう日本語がどうだのどうでもいいや。取り敢えず聞いてみた。
「―――♪」
美味しそうに返答(?)し、俺に向かって手を差し出した。
もっとくれって言ってるみたいだな。
俺はそれに従い、テテにプリッツを手渡した。
テテはさっきより幾分か早い動作でそれを飲み下す。

そんな動作が何回か続き、残り数本となったところで、テテがプリッツを咥えながらその先端を指差している。
何だ?まさか俺に逆側から喰えと?
頷いてやがる。って、何お前は人の心を読んでんだ。たまたま頷いただけか?
これじゃあポッキーゲームならぬプリッツゲームじゃないか。けしからん。実にけしからん。
俺は迷わずプリッツの先を口に銜み、目を閉じた。

パチン!

 ああ、何で俺は一回で学ばなかったんだろうな。再びデコピンされてしまったよ。あははは……。
けど、さっきより若干威力が小さかったのは気のせいではないよな?

結局プリッツは全部なくなってしまった。最後にテテが俺に一本くれたのが少し嬉しかった。
俺にプリッツを食べさせ満足気な顔をしたテテは、突然俺の手を取り、湖の向こう側を指差す。指差す方向には…森しかない。
「森しかないじゃないか」
テテが、何か懇願するように上目遣いで俺を見つめてくる。俺はその視線に庇護欲を抱かずにいられなかった。
「俺と行きたい場所があるのか?」
 テテがコクンと頷く。こりゃ完全に心読まれてるな。

荷物やその他雑用を片付け、俺はテテの手を取る。
「連れていってくれ」
テテは俺を確かめるように一度正視し、そして、その足を踏み出した。


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