女の子と二人きりになってしまった 2回目at EROPARO
女の子と二人きりになってしまった 2回目 - 暇つぶし2ch150:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:38:09 oXsD9FBU
  *  *  *

 チトセから離陸して10分、間も無く会敵する。レーダ上の進行方向には、敵の姿が時折現れては消えていく。
 味方の警戒管制機や電子戦機は既に上がっているはずだが、対電子戦防御(ECCM)が作動していない。オリガ・ニコライエヴナ・ザパドノポリェワ空軍大尉は訝しく思う。
『スピルト1より警戒管制機、対電子戦防御を要請する』
 隊長機も異変に気付いていた。しかし警戒管制機の応答は、それを拒否するものだった。
『敵のクラックにより、こちらのデータ・リンクにコンピュータ・ウィルスが流された。過負荷状態のため、無線による通信しか出来ない』
「役立たずね」ザパドノポリェワは一蹴する。「隊長、データ・リンクの解除を進言します」
『君は黙っていろ』
 隊長、アンドレイ・ユーリイエヴィチ・グレブネフ空軍少佐が嗜める。
『敵を引き付けるだけ引き付ける。機動性ではこちらの方が上だ。それと、今からスピルト隊は警戒管制機とのデータ・リンクを一次的に解除する』
 宣言の後、編隊は高度を下げる。眼下は雲海。天気予報では、下界は雨だ。GPSの反応が無い。位置が分からない。この機のコンピュータにもウィルスが入り込んでいる。
『火器管制システムは無事だな。ストレーラを発射する。誘導は発射8秒後に設定』
「設定完了」他の編隊機も同様に返す。
『発射準備。発射後は分散しエレメントで行動しろ』
 ザパドノポリェワは操縦桿の親指で撃つ兵装を選択する。HMDの表示が変わる。そしてその表示が「П-12 СТРЕЛА ДДР」になったのを確認し、スイッチに親指を添える。
『撃て』
 発射スイッチに添えていた親指に力を入れる。彼女はこの瞬間、いつも思う。このスイッチは軽すぎる、と。

151:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:39:16 oXsD9FBU
  *  *  *

『第二派攻撃! アクティヴ・レーダ誘導ミサイル! 全機ブレイク!』
 オライオンが叫ぶ。ミサイルがレーダ電波を目標に発し、その反射波によって自身を目標に向かわせるものだ。このような攻撃は、大抵電子戦機に向けられる。
 戦闘機を電子戦機に改造した33式ニ電戦はともかく、電子戦のみを想定した36式電戦にはミサイルを避けるような機動性など望めない。
 それに回避行動をとっている最中は、どうしても電子戦・情報戦どころではなくなる。
『最終誘導開始を確認! 周波数特定! いけます!』そう、混線で現状が聞こえる。
 そんな中で、高高度を飛行中のレインボウ3、4はその進路を変えずに北上する。
『あいつらかね、今のアクティヴ・レーダの連中』ナミカワ中尉からで通信が入る。
 あいつら―件の蒼灰J-27Aの編隊だ。
「そうだろうな。ぶっちゃけ出来る事なら手合わせしたくない相手だ」
『ンな事言っちゃって、あいつらを落としたの、お前が初めてなんだぜ?』
 半月前、レインボウ隊はスクランブルで爆撃機と例のJ-27Aの編隊を相手にした。戦果は、爆撃機6、戦闘機2。その半数、爆撃機2、戦闘機2を、アズマが落としていた。
 また、墜落こそしなかったものの、戦闘機1機の右の垂直尾翼と水平尾翼をもぎ取っていた。
 損害は、2番機と4番機の被弾のみ。2人とも無事だった。
 「蒼灰の飛行隊」にそこまで損害を与えたのは彼らが初めてだし、蒼灰相手にそれだけの損害しか受けなかったのも彼らが初めてだった。
「奴らは息が合ってるからな、下手な機動じゃ落とされる。それにミサイルの機動性に頼るばかりじゃ、あの時の二の舞になるしな」
『へいへい、肝に銘じとくぜ。で、どうする? そろそろ敵の上だけど』
「挟み撃ちしようと思う。このまま敵のいる高度にスプリットS」
『オーケイ。一ノ谷戦術だ』
「逆落としか、面白いな。オーリエント、エンゲージ」
『んだべ? ブーメラン、エンゲージ』
 予備の燃料タンクを切り離す。そして機体を同時に反転、背面飛行でしばらく直進してから、彼らは花火の中に飛び込む。

152:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:40:02 oXsD9FBU
  *  *  *

 雲の下では、混戦が繰り広げられていた。
 ザパドノポリェワ機の追いかける機が右に旋回する。減速が甘い。
 彼女はそれよりも小さい半径の旋回をする。体にかかる大きなG。眩暈にも似た一瞬を過ぎ、彼女の機体の前を敵機が横切る。
 咄嗟に彼女は操縦桿のトリガを引く。HMDの表示に従えば、機首表示の方向に20ミリメートル口径の弾丸が流れていく。
 一瞬、敵機のパイロットと目が合う。いや、それはザパドノポリェワの錯覚か。しかし、そのパイロットは確実にこちらを見た。
 この時点でマズル・フラッシュを確認しても、もう遅い。両機の距離は100メートルを切っている。1秒未満で弾丸は狙った場所に到達する。そこは、コックピットだ。
 敵機の機首が折れる。破片がエア・インテイクに入り、エンジンが異常燃焼、爆発する。パイロットは既にただの肉塊になっているはずだ。
 彼女はそれを無視し、僚機に合流しようと上昇する。
 雲を抜ける。目の前には太陽。いつの間にかあんなに高い。眩しさに思わず瞬く。そのせいで、4番機が被弾した事に一瞬遅れて気付いた。

153:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:41:14 oXsD9FBU
  *  *  *

 正面の雲の白を背景に、蒼い機が横切る。あの塗装は、「蒼灰の飛行隊」の機だ! ロック・オン状態になっている。それに気付いたのか、回避行動を始めた。
 アズマはそちらに方向を調整する。背後には太陽。いい条件だ。トリガを引く。
「オーリエント、ライフル」
 レティクル内のガン・クロスが敵機に重なる。一瞬の事だ。
 だが、弾丸は敵機の双垂直尾翼の間、双発のエンジンのどちらかを直撃した。火を噴く。その脇を2機は通り過ぎる。雲の中に入る。
「やったか?」
『うんにゃ、まだっぽい。俺がやる』
 機体を再び上昇させ、雲の上に出る。そして確認する。命中したのは左のエンジンだ。
 ナミカワ機が敵機の背後を取る。アズマはその上で後方を警戒する。こちらに一直線に向かってくる敵機1。
 ナミカワ機が銃撃。敵機の胴部に命中。爆発する。
『ブーメラン、スプラッシュ1! やったぜ、蒼灰!』
「ナミカワ、ブレイク!」
『うおっと!』
 ナミカワ機がロールした後、そこを銃弾が通り過ぎる。次の瞬間には蒼い機も。
「あれは……さっきの奴の僚機か?」
『だとしたらおもしれえ!』
 その蒼灰はエア・ブレイキを開いて旋回、こちらに機首を向ける。同時に、互いにロック・オン。敵機体下で動き。ウェポン・ベイを開いたのだ。そこにあるのは―
「SRAAM[エスラーム]!」
 アズマはすかさずアフタ・バーナ点火。兵装はこちらもSRAAM、つまり短射程空対空ミサイルのはずだ。発射。そして敵機の上を通り抜け、上昇する。ナミカワ機も同様にミサイルを撃つ。
 ミサイル発射のコールをする間もなく、敵からミサイルが来る。現代のSRAAMの機動性は、目を見張るものがある。
 ロック・オンしたのであれば、目標が後方にあっても反転してそれを追尾する。どんな回避機動をとっても、追尾してくる。
「ナミカワ! フレア!」
 SRAAMはその性質上、赤外線誘導である。航空機のエンジン部分や排気、そして機体と大気の摩擦熱から放射される赤外線をシーカで画像として探知し、それに向かっていく。
 いくらミサイルそれ自体の記憶領域に目標の情報があっても、赤外線誘導であれば比較的簡単に欺瞞出来る。フレアはその欺瞞のひとつで、航空機と同様の周波数特性を持ち、強力な熱源を短時間発生させるものだ。
 機体胴部のチャフ・フレア・ディスペンサから長方形のフレアが3つ射出される。瞬時に1000℃にもなったそれらに、ミサイルはおびき寄せられる。
 これで先ほどのミサイルの脅威は少なくとも去った。アズマは機を立て直す。そして後方を見た。
 こちらのミサイルが近接信管によって敵機の間近で爆発したようだ。破片によってダメージを被ったらしい。右主翼から燃料が漏れている。
 彼らはその機を追った。

154:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:46:52 oXsD9FBU
  *  *  *

 2機の40式戦に追い回されたJ-27Aは、1機の40式戦の機動に翻弄された挙句に機銃弾の被弾によって航行不能になる。
 その愛機は空中分解の後、爆発。ザパドノポリェワはその様子を、ベイルアウト後、パラシュートで降下する最中にはっきりと目に焼き付けた。
 負けたのだ。それも、えらくあっさりと。
 一瞬見えた機体の機首横に書いてある「166」という番号が、頭を過ぎる。その機体は、以前、そう半月ほど前、僚機を2機も落とし、彼女の乗る機体から右の垂直尾翼と水平尾翼をもぎ取った機ではなかったか。
「2度も……2度も負けた……!」
 悔しさでいっぱいになる。パラシュートの紐を握る手に力が入る。それから10秒ほどして、彼女は紅葉の森に消えた。

155:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 12:49:18 oXsD9FBU
  *  *  *

 しくじった。
 アズマはそう、歯ぎしりをする。
 ドッグ・ファイトの最中、敵機に接触し左の主翼を半分ほど失ったのだ。燃料が噴き出している。今はスロットルをアフタ・バーナぎりぎりまで押し、直線飛行中だ。
 40式戦は、極めてパワフルなエンジンを2基搭載している。1基当たり約15000キログラムという推力は、今のようにミサイルを数本搭載したままでも推力重量比が1を超える。
 これは揚力を生み出さずに、速度ゼロの状態からエンジン推力のみで垂直上昇が出来るという事だ。
 現在、700ノットで飛行中だ。左主翼を半分失った状態でも安定して飛行出来ている。例えるなら、主翼の必要無いミサイルのような飛び方である。
『おい、アズマ、大丈夫か?』
 平行して飛ぶナミカワ中尉が訊く。
「俺は何とか。でもそろそろ燃料が切れそうだ」
『あとどれくらいもつ?』
「5分もてばいいくらい」
 今、内浦湾の上空だ。そこから三沢まで、150キロメートルほどだろうか。間に合わない。
「隊長と合流してくれ。この戦況なら、このあたりに不時着しても大丈夫だ」
『アホかお前は!』ナミカワは叫ぶ。『お前を置いてけるかよ!』
「俺を護衛して飛んでたら、それこそお前が落とされるだろ。ほら、チェック・シックス(後方警戒)」
 後方に敵機。蒼灰ではない。2機編隊。よく今まで生き残ったものだ。銃撃。アズマ機は右にヨー(垂直尾翼で移動)。次の瞬間、その2機が爆発した。
『左が無いのはアズマか』
 隊長、ゴトウ中佐だ。続いてイシヅカ機。この2機によって先の敵機は落とされたのだ。
「ポジティヴ。敵にぶつけられました」
『まったく、下方注意を怠るなと言ったのに……。まあいい。燃料はどれくらいだ?』
「あと3分ほど」
『じゃあ仕方ない。先に帰ってるぞ。お前はその辺に脱出するなり何なりしてろ。すぐに救助をよこす。メシ奢るから、ちゃんと生きて帰って来い』
「ウィルコ。ありがとうございます」
『ちょっ、隊長!』ナミカワが抗議に叫ぶ。
『おいナミカワ、アズマとうちの上陸部隊を信じてやれ。お前がそんなんじゃ、助かる奴らが助からねえ』
 ナミカワは何も言わない。後藤が続ける。
『俺らは一時三沢で補給を受けてから、もう一度来る。救難信号を発しておけ』
「了解」
 3機編隊が左に遠ざかる。アズマはそれに敬礼をし、海岸線を目指すためヨーで移動する。
 内浦湾の西側に導滞着陸出来そうな場所が無いか探してみたが、結局それは見つからない。燃料切れまで1分を切った。
「受領したばっかだけど……」
 彼は仕方無しに高度を下げる。雲の下は大雨だった。高度100メートル。真正面に乙部山。渡島県と胆振県の県境にある山だ。
 スロットル・レヴァを引き、アイドル状態に。音速から亜音速に移行。500ノット。450ノット。400ノット。
 機体が前後軸に対して時計回りに回転し始める。左右で生み出す揚力が違うのだ。低速度域だと揚力の影響をダイレクトに受ける。
「レインボウ3、エマージェンシ、ベイルアウト」
 コールの後、左手にあるイジェクション・シートの安全装置を解除し、機首を60度上げる。相変わらず回転中。
 背筋を伸ばし、ラダ・ペダルから両足を離し、股の間にあるイジェクション・レヴァを引いた。
 ショルダ・ベルトが締まる。キャノピが火薬で弾け跳ぶ。背骨を縦方向に圧縮するかのような衝撃。座席ごと彼は機外に放出される。歯を食いしばり、12Gに耐える。
 急激な制動に一瞬目が回る。運よくコックピットが上方にきたときに射出されたようだ。姿勢が安定すると彼はパラシュートの紐を引いて、落下地点を調整する。
 風はそんなに強くない。雨に濡れた紅葉が美しい。彼は出来るだけ、広葉樹林のあるあたりを目指す。
 機体が回転しながら放物線を描いて遠ざかるのが見えた。もう噴き出す燃料すらない。
 遠ざかっていった機体は吸い込まれるように山の中腹に墜落し、爆発。遅れてその音が聞こえた。

156:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/11 13:26:22 oXsD9FBU
 以上、第2話(?)。
 次から「2人きり」スレ的に本番です。

 お察しの通り、「戦闘妖精・雪風」を読んだ事がありますし、空戦のシーンはこれに影響を受けています。
 ちなみに舞台設定としては、「国号が『日本国』『大日本帝国』ではない日本」です。行政区分を江戸時代以前のそれに準拠させたのは「っぽく」しようとしたから。
 敵国も、「ロシア連邦」や「ソヴィエト社会主義連邦共和国」ではないものですが、少なくともスラヴ系の人種によるロシア語の国である事は言っておきましょう。

 軍用機の名称は、「仮日本」の場合は制式配備された年号の下二桁、制式配備された同種の機体の通し番号、仕様の違いを正式名としています。
例:40式22号イ戦闘機「蓬風」…年号の下二桁(40式)、同型の機体の通し番号(21号)、仕様の違い(イ)。愛称「~風」は戦闘機を意味する。
 また、戦闘機を他の用途として改造して使う事もよくあるので、(例:F-4EJ戦闘機→RF-4EJ偵察機、F/A-18E戦闘機→EA-18G電子戦機)それにも対応。
例:33式21号ニ戦闘攻撃機「剛雷」→33式21号ニ電子戦機「剛霧」。愛称「~雷」は戦闘攻撃機、「~霧」は電子戦機を意味する。
 「仮敵国」の場合は戦闘機を表す「J」とその通し番号、仕様の違いを正式名としています。なお、この機種を現すアルファベットは中国空軍のそれをそのまま使用しています。「J」は「Ж」にあたるのかな?
例:J-27A「ジュラーヴリ」:27番目に制式配備された戦闘機のA仕様。愛称は結構適当だったり。ちなみにロシアの戦闘機Su-27の愛称は「ジュラーヴリク(鶴ちゃん)」です。

 以上、チラシの裏でした。
 他の方の作品、期待しております。作者さんがんばって。

157:135
07/09/11 15:24:26 TSH1xwFe
ちょwマジで盛り上がってきたww

MAXは本当に甘いです。ブラック飲めない俺がいうんだから(ry

お二人とも続き頑張ってください。


俺も書かねば…。

158:名無しさん@ピンキー
07/09/11 17:14:41 wTl1Hg6B
>>140
GJ!
マリーかわいいな。 てか、そこで切るのかよw

今回の舞台のPAをググって妄想の足しにしたw
出来て間もないからか、情報少なくてハンカチの件は判らなかったよ。


>>156
こちらもGJ!
いよいよ次回から”二人きり”シチュ突入?
あと、前回聞いた世界設定や機体名についての回答thxです。

…ジュラーヴリクちゃん (*´д`*)ハァハァ

159:名無しさん@ピンキー
07/09/11 19:24:22 juJYBV2O
なんかキモい軍オタがいるな

160:名無しさん@ピンキー
07/09/11 20:20:43 1E2OUiqb
某・スレで

なんか設定よくわかんないよ、ボケ

のレス二つも貰った自分的には十分神SS、GJ!!!

161:初心者
07/09/11 21:34:58 +khWhBhn
>>127です
来週投下と書きましたが、思ったより暇だったので筆が進みました
ただ、自分の好きに書いたので、かなり設定に無理があります…
気に入らなければ、読み飛ばして下さい




「……、とりあえず、お風呂に入りたいんですけど、入っても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。あ、服の替えはある?」
「あ、そういえば…」
どうしよう、と困った風に呟く
「確か…、そこのタンスに恵美ちゃんのが…。確認取るからちょっと待ってて」
「はい、ありがとうございます。・・・でも、なんでそんなこと知ってるんですか?」
「え!?い、いや、俺は何回か泊まったことあるし…、その…」
思わぬ質問に、俺はしどろもどろになりながら答える
「フフッ、冗談ですよ。先輩がそんな邪なことを考える人じゃないのは知ってますから」
そう言いながら笑う彼女に、俺は思わずドキッとしてしまう
そういえば彼女の事をしっかりと見たのは、これが初めてかもしれない
腰までかかる髪に、中学生とは思えない長身。今時の女の子にしては長めのスカートから伸びる脚は、足フェチの人にはたまらな(ry


162:初心者
07/09/11 21:36:02 +khWhBhn
とにかく、彼女はとても魅力的だった
やばっ、俺は何をドキドキして・・
「先輩、メールが来たみたいですよ」
気付けば携帯から聞き慣れた着信音が流れていた
「あ、やばっ」
急いでメールを見る
「好きなの着ていいって。あと、頑張ってって書いてあるけど・・・。なにコレ?」
「あ、い、いや、何でもないですっ!」
何故か解らないが、彼女が急に焦り出した。なんなんだ?
「ま、いいけど。風呂に入らないの?」
「えっと・・・その・・・」
どうしたんだろう?さっきからずっとボーっとしてるし。あ、もしかして・・・
「俺が風呂を覗くと思ってる?大丈夫だよ、そんなことしないから」
「い、いえ、そういう訳では無くて・・・」
「じゃあ、なんで?」
「・・・」
なんでもないです。そう言い残し、彼女はお風呂場に向かった
本当にさっきからなんなんだ?急に焦りだすし・・・


163:初心者
07/09/11 21:37:46 +khWhBhn
ま、いいか。考えても何か解るわけでもないし。考えるのを止めて、漫画を読み出した。



加奈が風呂に入ってから5分弱、腹が減ったなぁ、などと考えていると彼女が大きな声を出して、俺を呼んだ
「せ、先輩!ちょっと来て下さい!」
何かあったようで、彼女の声は若干涙声になっている
俺は急いで風呂場に行き、ドア越しに彼女に呼び掛ける
「加奈ちゃん、大丈夫!?何があったの!?」
「先輩、お願いです、シャワーを取って下さい!」
へ?シャワー?どゆこと?
いまいち状況が掴めず混乱する俺に、彼女は必死になって呼び掛ける
「先輩、お願いです!早く!」
「わ、わかった!」
そう言ってドアを開けると、いまさらながらここは風呂だということを思い出す。
風呂の中ということは、当然加奈も裸なわけで・・・
「う、うわぁぁぁ!」
思わず外に飛び出てしまった俺に、再び彼女が呼び掛ける
「先輩、早くシャワーを!」


164:初心者
07/09/11 21:40:38 +khWhBhn
「じ、自分でで取ればいいじゃないかぁ!」
「場所がわからないんです、早くしてください!目が痛くて・・・」
俺は彼女の方は見ないようにしながらシャワーを渡す





「・・・で、どうしたの?」
彼女にシャワーを浴びせられ、びしょびしょになった服を脱ぎながら聞いてみる
「・・・すみませんでした。実は私、一人で髪が洗えないんです・・・」
ん?なんだって?
「もっかい言って?」
「だから、一人では髪が洗えないんです!」
彼女はかなり恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら叫ぶ
しかし、中学生にもなって髪が洗えないとは・・・。これはかなり萌え(ry
じゃなくて、
「なんで一人で洗えないの?」


165:初心者
07/09/11 21:41:34 +khWhBhn
「お母さんが私とお風呂に入るのが好きで、ずっと一緒に入っているんです。それで、自分では髪を殆んど洗ったことが無くて・・・」
一人で洗うと、必ず目にシャンプーが入ってしまうそうだ
「じゃあ今日は洗わなければ良かったじゃないか」
「先輩は男だからわからないかもしれませんが、女性にとって髪はとても大切なものなんですよ。だから、洗わない訳には、いかなかったんです」
そんなものなのかな?実際男の俺にはよくわからない。ま、いいか。
「それじゃごゆっくり」
「ま、待って下さい!」
風呂場から出て行こうとした俺を呼び止める
「先輩、一緒に入りませんか?」
は?なんですと?


166:初心者
07/09/11 21:43:48 +khWhBhn
「べ、別に変な意味ではなくてですね!先輩ずぶ濡れですし、寒いと思いまして・・・。それに、まだ髪をしっかり洗えていませんし」
なるほど、俺に髪を洗って欲しいという訳か。
しかし、ここで素直にハイという訳にはいかない。
なぜなら、ここは風呂場で、彼女は当然風呂に入る格好をしているのだ。
俺は聖人ではないので、欲望を抑えるのは不可能な近い。
「無理に決まってるだろ?」
結論は、もちろん無理
「で、でも・・・」
「君は女の子で、俺も一応男なんだよ?慎みをもちなさい」
そう言って部屋に戻ろうとした俺の腕をを彼女が掴む。
え?さっきは風呂にいたじゃん・・

167:初心者
07/09/11 21:44:59 +khWhBhn
もう一度言います。いえ、何度でも言います。
ここは風呂場で、彼女はさっきまで風呂に入っていました
ということは・・・
「な、何してんだよ!ちょ、君は今裸じゃん!てか、服が濡れる!」
「お願いします、一緒に入って下さい!」
彼女の顔が赤いのは、風呂のせいか羞恥のせいかわからない。
しかし、俺の顔も真っ赤だった。これは風呂のせいにしておこう
「は、離してよ!」
「一緒に入ってくれれば離します!」
彼女はなぜか決意を固めた顔をしていて、俺がYESと言わなければ絶対に離そうとしなかった
「わ、わかった!わかったから離して!さっきから胸が」
「え?・・・キャッ!」
彼女は悲鳴をあげて胸を隠した
あぁもう可愛いな!
「す、すみません・・・。それじゃ、入りましょう」
「あ、ああ・・・」
しょうがない、入るか…。い、いや、決してやましい気持ちがあるわけじゃないですよ?
たただ、一度約束したことは守らなきゃ…、って誰に言い訳してるんだ?
「先輩?どうしました?」
「い、いや、なんでもないよ」
俺は覚悟を決めて、風呂に入って行く。
どうなることやら・・・

168:初心者
07/09/11 21:48:30 +khWhBhn
はい、という訳で、自分の欲望のままに書いてしまいました・・・
次回からは本番に入って行く予定です
しかし、二人きりという設定を全然生かせていませんね・・・
アドバイスも、一応気をつけたのですが、殆んど変わっていないですね
チラ裏から失礼しました

169:名無しさん@ピンキー
07/09/11 21:52:28 GfknvrLX
>>156
GJ!なんかオリガさんはツンデレかもと妄想している。年齢がわからないけど。

170:名無しさん@ピンキー
07/09/11 22:15:57 GfknvrLX
>>168
ごめん。更新せずに上の作品にレス返してなんかタイミング悪くなった。
GJ!強引な展開だけどなんかもう風呂場というシチュだけでご飯何杯も食える。
次は早くも本番…できれば風呂場ならではの不自由な二人っきり具合を見せてほしい。
浴室が狭くてどうしてもあちこち密着するとか、タイルが痛くて横になれず仕方なく浴槽内で座位、あるいは立位で初エッチとか。

171:81 ◆DlPgAmm21I
07/09/12 01:36:35 pajJQeiR
#ちょっと今日はお休みしようかと思って今までの分をwikiに放り込んだら、
#コメントをつけられないページ(TEXTonly)にしちゃって、その上削除ができないorz
#ドウシヨウ
#コメントはなくてもokかな・・・?
#それじゃ、また明日ー
#(つ、続きは頭の中にできてるんだからねっ?! ほんとだからねっ?!)

172:名無しさん@ピンキー
07/09/12 11:42:34 hTcSYYSi
>>156
次から、遂に二人きり突入ですね!
エロシーンにも期待!

>>166
風呂場か…
青年よ、君の理性がどこまで持つか見せてもらう。

二人ともGJ!

>>169
>>9-10を見るとツンデレだけどね。
どこまでそれを元にするかは、作者さんに委ねてるし。

173:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/12 14:59:48 IlpO5BpS
ツンデレな人物を書いたことがないのでどこまでそれっぽく書けるかが今の課題
ただ、>>9-10よりかはツンデレ分を減らして書くかも

174:”管理”人
07/09/12 16:16:42 KS/lEp/w
>>171
差分から推測してコメント欄をつけてみたけど、これでおk?

175:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:12:09 ZNSz0XRP
 けたたましく響くブザーの音で我に返り、智信はようやく留美の首から手を離した。
 それは―留美の生命が尽きた証であり、同時に、扉が開く合図でもあった。
 気が付けば、悪魔は跡形も無く消え去っていて、もう、声も聞こえなくなっていた。
 智信は、留美の亡骸の横にある水色の箱を手に取り、ついにロックが解除された『開かない扉』へと歩を進める。
 と、その途中。智信は何かに躓いて、転倒した。どうやら、自分で適当に置いておいたペットボトルに足をとられたらしかった。
 その拍子に、持っていた箱を落としてしまい、蓋が開いて、中身が床に散らばる。
 空になったペットボトルとカロリーメイトの箱……小さく折りたたまれた用紙……
 智信は、それらを拾い集め、箱に戻すついでに、折りたたまれた紙を開いてみた。
 留美が外の世界に、どんな思い残しがあったのか、知っておきたかった。
 これから先。智信は、その無念をずっと、背負っていかなければならないのだから。
 用紙は、びっしりと、小さな文字で埋められていた。家族、友人に宛てたメッセージらしい。
 智信は夢中で文章を追った。その内容から、留美がどのような日常生活を送っていたのかを、ある程度窺い知ることができた。
 家は父子家庭で、年頃の女の子にしては珍しく、父親べったりであること……
 同級生の中でも、理香と秋の二人とは特に仲が良く、いつも三人で出かけること……
 この白い部屋でしか留美を知らない智信には、それらの記述はまるで、別世界の出来事のようで、とても新鮮に映った。
 読み進めていく内、智信の目が、ふと止まる。用紙を持つ手が、小刻みに震える。
 最後に書かれていたメッセージは……誰あろう、智信に向けたものだったのだから。

 智信さんへ。
 智信さんがこの文章を読んでいるっていうことは……私はもう、この世にいないのでしょう。
 残念ですけど、これも運命だと思って受け入れます。
 私は私なりに、一生懸命頑張って生きたつもりです。お父さんも、みんなも、わかってくれると思います。
 それに……私が死んでしまうのも勿論嫌ですけど、智信さんが死んでしまって、私だけ生き残るのも、同じくらい嫌ですから。
 やっぱり、どちらかしか助からない、なんて、そんな終わり方しかなかったのが、とても悔しくて、悲しいです。
 二人で一緒にここを出たかったです。それで、智信さんと一緒に、遊園地で遊んだり、食事をしたりしながら、この部屋で過ごした辛い日々を談笑の種にしてしまいたかった。
 と、そんなことばっかり書いても、智信さんの気が滅入っちゃいますよね。ごめんなさい。ルールを見た時のショックが、まだ抜けないみたいです。
 えっと、それから。智信さんには、心からの、ありがとうを言わせてください。
 思い返せば、智信さんには、最初から最後まで、励まされてばかりでしたね。
 私は、最後に智信さんみたいな人と会えて、嬉しかったです。こんな場所だけど、優しい智信さんと一緒でよかったです。
 もう、私はいないから……何を言われても、迷惑にはなりませんよね?
 だから、最後に、一言だけ。智信さん、大好きです。
 
 智信は、あらん限りの声を振り絞り、絶叫した。留美のベッドに駆け寄ると、そのすぐ横に跪き、拳で、床を何度も叩いた。
 自分への怒りと、この計画の首謀者への怒りが綯い交ぜになって、頭がどうにかなりそうだった。
 ……いや。もしかしたら、悪魔の幻覚に囚われ、留美の首に手をかけた時点で、智信は狂っていたのかもしれないが。



176:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:12:54 ZNSz0XRP
 どのくらいの時間、呆然としていただろうか。
 智信は立ち上がり、留美の手を取った。手からは温もりが消え、薄っすらと冷たくなっていた。
 智信はその手を、胸の上で組み合わせた。その姿に、智信は、留美と最初に出会った日のことを思い出す。
 脳裏に、このベッドで、気持ち良さそうに眠っていた留美の姿がフラッシュバックする。
 でも……今、目の前にいる留美は、あの時と違って、眠っているわけじゃない。心臓は止まっていて、息をしていなくて、体は冷たくて……
 そう。僕は、彼女を殺した。首を絞めて殺した。ずっと一緒にいたのに殺した。無抵抗なのに殺した。生き残る為に殺した……!
「僕は……優しくなんて……なかった」
 殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
「すまない……最後の最後で、弱かった僕を、許してくれ……」
 もはや永遠に返事をしない留美にそれだけ言うと、智信は水色の箱を抱えて、逃げるように『開かない扉』へと向かった。
 液晶画面にあった『十九』の数字は消えていて、残っているのは、智信と留美を最後まで苦しめた、ルールの表示だけだった。
 智信は震える手で、ドアノブに手をかける。開かないのではないか、などという根拠のない不安が頭を過ぎり、一瞬、ノブを回すのを躊躇う。
 それでも、思い切って、手に力を込める。何度回そうとしても、ぴくりとも動かなかったノブは、驚くほど簡単に回り―扉は、ゆっくりと、開いた。
 そして、扉の外に進もうとして、智信は、自分の目を疑った。何故なら、扉の外に広がっていた光景は―

177:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:13:59 ZNSz0XRP
■幕間三『一級市民』

 広く、長い廊下を、二人の人間が並んで歩いていた。
 二人とも白衣を身に纏っており、片方は長い黒髪を後ろで束ねた女性、片方は金髪の男性だ。
「本当にいいのですか? このまま叶派が実権を握れば『白組』であるマークスさんの地位は不動のものになりますが」
 女性が、隣を歩く男性に声をかける。と、マークスと呼ばれた男性は目を細めて、大袈裟に首を振った。
「私はね、私が正しいと思うものに賛成し、誤りだと思うものに反対する、それだけだ」
「それでは……どうしても、彼女、叶綾香博士に対して、一級市民資格、剥奪決議案を提出する、と?」
「百合女史。何度も言わせないでほしい。私の決意は変わらない。『白組』ではないが、叶派の貴女としては、利敵行為に見えるだろうが、ね」
 百合と呼ばれた女性は、眉間に深く皺を寄せて、溜め息をつく。
「……告発の決意は固いというわけですか。仕方ありませんね」
「そうだ。彼女のコンセプトには見るべき所はあるが、如何せん、方法に問題がある。公私混同も甚だしい」
 マークスは百合を振り切るように歩調を速めながら、続ける。
「それに―どんなに優秀であっても、犯罪者は、誇り高き一級市民たり得る資格はない」
 マークスの言葉に、百合は呆れと諦めの入り混じった表情を浮かべて、額に指先を当てた。
 もう、彼にはいかなる説得も無駄なのだと、悟ったのかもしれない。
「素晴らしい倫理観をお持ちで。流石は『白組』代表といったところでしょうか」

178:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:14:32 ZNSz0XRP
「同じような皮肉を、倉田にも言われた。心が荒む。謂れのない誤解があるようだが、私を含めた『白組』は、聖人君子でもなんでもない」
 倉田、とは、マークスが叶博士の犯罪の証拠集めの際に接触した、非『白組』の一級市民、倉田勇一(くらた ゆういち)のことである。
 マークスが、自身の後ろ盾である叶綾香を告発しようとしていると知った時の倉田の驚きようは、尋常ではなかった。
 ―地位や名誉には興味はない、ってわけか? まったく『白組』様の言うことは違うぜ……くそ、気に入らねえ。
 台詞と共に、倉田の、苦虫を噛み潰したような表情が思い返される。
 白組以前の一級市民であり、叶派とも袂を分かつ立場であった倉田は『project whitebox』発案による叶綾香の躍進の影響で、非常に肩身の狭い思いを強いられていた。
 このままだと、今に『白組』でなければ一級市民にあらず、と言った風潮すら出来てしまいかねない、そういう危機感も持っていた。
 だから、倉田にとって、身内であるマークスが告発の準備をしているという報告は諸手を挙げて喜ぶべきことで、ここは派閥無視の共同戦線を張って、情報を収集するのが賢い選択と言えた。
 そう、理屈では理解している。それでも倉田は、口をついて出る嫌味を止められなかった。敵に塩を送られているようで、気分が悪かったのだ。
 同時に、そんな些事に拘っているお前は、やはり矮小な人間なのだと指摘されたような思いにもなった。それは流石に、倉田の被害妄想だろうが。
「聖人君子かどうかは兎も角、あなたの結果が一級市民の間でも語り草である事実に変わりはありません。叶博士曰く『project whitebox』始まって以来の快挙、だそうですから」
「私の場合は、無駄に高いプライドが、結果的に良い方向に働いただけだ。それに……」
 マークスは、隣を歩く百合にも聞こえないくらいの、小さな声で呟く。
「『白組』だからこそ、願うのかもしれない。死して尚、辱めを受ける彼女に、せめて安らかな眠りを―とね」

179:TIPS ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:16:38 ZNSz0XRP
TIPS『叶綾香』
一級市民。朝霧良夫の元妻であり、朝霧留美の母親。

TIPS『百合』
一級市民。叶派所属。フルネームは朽木百合。

TIPS『倉田勇一』
一級市民。草加派所属。

TIPS『叶派』
一級市民内での派閥の一つ。『project whitebox』発案者、叶綾香博士が会長を務める。
派閥所属者はやはり『白組』の人間が半数近くを占める。

180: ◆SSSShoz.Mk
07/09/13 00:17:58 ZNSz0XRP
>>98からの続きです。今回よりネタバレ開始となります。
CUBEZEROで舞台裏が明かされた時のようなガッカリ感ではありますが、どんなものでしょう。

181:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:03:41 2vuzypZ1
まさか殺すとは・・・

182:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:21:47 2vuzypZ1
忘れたGJ!!!!!

183:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:29:59 VwaXco+0
CUBEやSAW好きだからワクテカしながらネタばらしを待つ。

184:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:42:30 qc+cQQIm
これまでの情報から全体像を推測してたが、穴だらけな予想しか出来なかった
諦めておとなしく続きを待っております

185:名無しさん@ピンキー
07/09/13 01:54:10 rClAvBgg
読んで愕然としたぜ…留美死んじゃったよ…今日は枕を涙で濡らそう…

でも外伝やこれまでの経過から考えると留美は何度も同じようなことを繰り返しているみたいだから
死ぬのも初めてではないのか?今回のは何回目のケースなんだろう。てか留美って何者?

次は真相編ですか。続き待ってます!

186:81 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 02:21:01 QKF+BhVv
>174 おお、ありがとうございます。
wikiって弄ったのが初めてなので、ご迷惑おかけして申し訳ありません。
これでちょくちょく追加できたりできますね。
管理さん感謝です。

それと、私のタイトルを「総武の休日」にしようかと…
「ローマの休日」に似ても似つかないのですが、語感がいい感じでしたので…
>109さん ありがとうございます。 それ、頂きました。

187:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 02:22:27 QKF+BhVv
「それは・・・・それはね・・・・・・」
俺はそれから、ポツリポツリと喋るマリーに耳を傾けた。
「私ね…いままで心からの友達って、いなかったの…」
「え? 友達?」
ヒッチハイクと友達の因果関係が結びつかずにそのまま返してしまった。
「うん。…私のひいおじいちゃんって、すごいお金持ちで、周りの大人ってみんな私から取り入ろうとか思ってるのばかりで…
 その大人の子達は、みんな私よりもおじいちゃん目当てで… 結局最後は絶交しちゃってね…」
マリーは悲しそうな顔をした…
「うん……」
「それでかな… 小学校のときに… あ、小学校のときもお金持ちって理由だけで妬まれたりいじめられたんだけどね…
 それでも、私のことをあだ名で呼んでくれる女の子たちはいたんだけど、そこにアイツが転校してきたんだ」
なんか… 小説で読んだような状況だな… 事実は小説よりも奇なりってことか…
「そいつは、男子のなかでも大人びてて、でもとりつきやすくて、だれにでも平等に接してくれて…」
「それで?」
「それでね… そいつが来てから、私にも普通に接してくれてね… いつか靴が隠されたときも探してくれたし…」
「うん」
「で、そのすぐあとかな… クラスメイトに川に突き落とされて溺れたときに、そいつが真っ先に助けてくれたの…」
思い出しているらしい… 顔が真っ赤だ。
「ほうほう… なるほど、マリーには麗しの騎士様に映ったんだ?」
「・・・・・・」
恥ずかしがるなっ なんかごちそうさまな感じだよ
「で、でね? そいつがまたすぐに転校って話になって、思い切って告白…は出来なかったんだけど、
 メルアドの交換はできたの。それからかな… ちょくちょくメールしあってたんだけど、いきなり返信がこなくなったの」
「・・・・うん」
途絶えたことが気になるな…

188:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 02:23:08 QKF+BhVv
「2ヶ月位してからかな… 何度目かのメールを送ったら、メールがまた復活したの」
「ほぅ、よかったじゃないか」
「うん♪ でも、なんだか様子が変で… だから、思い切って会いに行こうって、家を出たの」
まてまて…
「それじゃ、手持ちの金がないとか、そういうことか? 交通費も?」
「ううん? お金はあるの」
驚いた… もしココで無いとなると、自宅まで送り届けなきゃ自分、鬼だ。
いや、そういうわけじゃない… 送りたくないわけじゃなくて、むしろ逆だ。
だがしかし、俺が理性を保てるか は別問題だ。いやいや、少女を相手にするな 落ち着けおれ!
「? どうしたの?」
だぁ!!!
「い、いやいや、続きをどうぞっ」
「それでね… お金はあるんだけど、おじいちゃんやおとうさんが、いっちゃダメって…」
「まさか・・・ 反対されて出てきたんじゃ…」
「・・・・・・・・・・うん」
うわわわわわ… 家出じゃないかっ!
「なぁ、家族の誰か、知らないのか? ここに居ること…」
「しらない・・・と思う」
うわー… 家族が心配してるぞ… 下手したら俺、誘拐犯?!
「で、山手線に乗っているところを見つかってね? 車で連れ戻されてるところに、コンビニに寄ってもらって、
 ちょうど康平の車の鍵が開いていて、チャンスと思ったの」
・・・だからかっ! 黒服の男が慌てていたのはっっっ!!!
どうしようどうしよう… 冷や汗が止まらない。
「大丈夫? 顔が蒼いよ?」
ペタ。
うわ、手が小さいっ… ひんやりして すべすべしてキモチいい・・・
・・・だあああああ!
「いっ、あっ、いあいあいあいあ、大丈夫だからっっっ!」
「そう?? アレなら、もう少し休憩しよう?」
「いっいやいや、いくぞっ! ほら、乗った乗った!」
俺はぬぐいきれない冷や汗を流しつつ、丘を降りて車に乗った。
「あ、まってよー!」
マリーもトコトコついてきて助手席に乗る。
・・・そして、俺らはパーキングエリアを後にしたのだった。



エリアの隅では・・・
「・・・見つけました。不明の男(成年)と思しき者と行動を共にしてます。はい、わかりました。後を追います」
セダンタイプの車がそこを後にした。

ほんと、俺、どうなるんだ?!

#とりあえずやっと序章終わり? な感じです。
#プロットは最後までできました。
#あとは肉付けをどうするか、矛盾が発生してないかを考えて組み立てていく感じです。
#よろしくお願いいたします。

189:名無しさん@ピンキー
07/09/13 06:32:12 OF8y8K1h
sien

190:名無しさん@ピンキー
07/09/13 08:26:48 ZO5WPk2u
しょんべん(←なぜか変換できない)の行方は!?

191:名無しさん@ピンキー
07/09/13 10:24:14 rClAvBgg
>>190
もう処理されましたがw

黒服さんご苦労様です。マリーお嬢様のわがままに振り回されるのも大変でしょう。
でもかわいいから許してやって下さい。うん、真っ赤になるマリーお嬢様かわいいな。
これからどうなるのかな。カーチェイス始まるのかな。期待期待

192:名無しさん@ピンキー
07/09/13 14:55:47 LKhHZehj
>>137
どうでもいいツッコミと言うか内容に無関係なトリビアですが

> ”災害支援ベンダー”
> 停電状態でどうやって動くのだろうか…バッテリー?

バッテリーがついてます
災害発生時には無料で中身が取り出せるようになるあたりが災害支援
URLリンク(www.reika.co.jp)
コカコーラの電光掲示板がついてる自販機もだいたいこれだったり
URLリンク(www.cocacola.co.jp)

193:名無しさん@ピンキー
07/09/13 21:41:48 F3DQj98T
君津ってことは木更津は過ぎたのかな?
過ぎてなかったら、カーチェイスの末にアクアラインに
追い込まれて.."相武の休日"w

こちらまで妄想かき立てられる作品は久しぶりだな。
あんまり読み手がはしゃいじゃいけないんだろうけどさw



194:名無しさん@ピンキー
07/09/13 23:05:41 MoRPVhzq
「二人きり」っていうと当初の作品みたいに、山で遭難してとか、閉じこめられて、みたいな
物理的に二人きりを解消できない、問答無用なやつを想像しちゃうけど、
最近の作品のような他人の家で知らない娘と二人きり、とか、車の中で二人きり、
っていうのもありなんだな。 GJです。

二人きりになるメンツやシチュ次第でそれでも充分に「二人きり感」を出せるんだな。
最終電車やローカル線に二人きりとか、お店で店員と客が二人きり、なんてのもいいかも?

195:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 23:24:04 RN0/p5dM
富津館山道の終点へ何事も無く到着した。
ナビの結果からの予測だと、あと数十分で目的地に到着するらしい。
「なんだか、どきどきしてきた…」
「会えるといいな」
「うん」
なんともほほえましい。応援したくなってしまう。
しかし、さっきからついてくる車がいるような… 気にしすぎか?
黒いセダン車がつかず離れずいることに気がついた。
気のせいだな。尾行だとしたら、ばればれだ。きっと違う。

何度目かの交差点を曲がる。目的地まであと少し。
後ろにいた黒い車も、いつの間にかいない。なんだかほっとした。
・・・なんで俺がほっとするんだ・・・? やましいことはしていないのに・・・。
<<目的地周辺です。ナビを終了します>>
PSPナビの欠点がこれだ。周辺になると、直前で終わってしまう。
どうせなら、この家の前です まで案内してほしいものだ。
あとは自力で探すしかない。
「住所の番地までわかったが、ここからは自力だ。一緒にさがしてくれ」
「う・・・ん、わかった」
「なんだ、元気がないぞ?」
「ううん、なんか、会うのが怖く」
「ここまできたんだ、覚悟決めろ」
「うん・・・」

目的の家はその後すぐに見つかった。
閑静な住宅街がかるく広がる高台のところにその家はあった。
家の前に車を停めて、エンジンを切る。
マリーとおれは車を降りて、呼び鈴の前に立った。
「さぁ」
「うん…」
<<ぴんぽーん♪>>
「はーい」
「み、御神楽真理です、ああああの、以前にゆゆ、悠太さんに助けていたただだいた」
「真理ちゃん???!」
ん? 相手はなんか大慌てだぞ?
「ちょ、ちょっとまってね!」
がちゃがちゃ、がちゃっ。
ドアが開く。出てきたのは、お姉さんと呼んでもおかしくない若い女性がでてきた。
「悠太くんのおかあさん」
「ま、まぁまぁ! こんな遠いところまでよくきたね! さぁさ あがってあがって!」
「は、はいっ」
こっちを向くマリー… 一緒にこいってことか?
「あ、あら、そちらの方は?」
やっぱ、男がいると気になるよな。
「いえ、その、おれはマリーの」「保護者みたいなものですっ」
おいおい。 まちがっちゃいないと思うが…
「あら? そうなの…?」
「ここまでつれてきてもらったんです」
マリーが言う。
「あらあらまぁまぁ… 遠いところからご苦労様です。 さぁさ、あがってくださいな」
「わ、わかりました。お邪魔いたします」
「どうぞどうぞ」

196:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 23:25:21 RN0/p5dM
俺らは応接間らしき場所に通された。
椅子に腰掛けると、麦茶をお盆に載せて先ほどの女性…悠太くんのお母さんが現れる。
俺にコップを差し出しているときに、マリーが口を開いた。
「あの、ゆ、悠太くんはいまどこに?」
その言葉に激しく動揺するお母さん。俺に手渡すべくコップを落としてしまった。
「うわっ」
「!? ご、ごめんなさいっ!」
カーペットに麦茶がこぼれている。
悠太母はあわてて奥にひっこみ、すぐにふきん片手にもどってきた。
「ああ、それは俺がやっときます。彼女はやっとのことでお子さんに会いに来たんで、
 早く会わせてあげてください」
さっきからマリーが落ち着かないんで、目的を達成させてあげたほうがいい。と、母に促す。
しかし、母は鈍重な動きをみせた。
「どうしたんですか?」
俺は聞く。
「い、いえ、わ、わわ、わかりました。悠太は奥にいますから、真理ちゃん、こっちへ…」
「は、ははは、はいっっっ」
ふぅ、行ってくれたか。
じゃあ、俺はこぼれた茶を拭きますか。
  :
  :
  :

197:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/13 23:26:42 RN0/p5dM
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
マリーの絶叫がこだまする。
俺は拭いていたふきんを手放し、声のした奥へ駆ける。
「マリー! どうしたっ!!!」
マリーがいたと思われる部屋に近づくと、部屋から駆け出してきた彼女に思いっきり抱きつかれた。
いや、タックルか?
おれは転倒してしまった。
「いやああああ!!! うそっうそっ!! うそよぉぉぉぉおおおおお!!!」
腹のあたりで顔をぐりぐりしてくる。彼女は泣きじゃくっている。
おれは、何があったのか、問う。
「どうした! なにがあった!!」
「いやあああああ!!」
らちがあかない。すると、部屋から申し訳なさそうな顔をした母が出てきた。こちらも、泣いている。
「・・・・・・なにが、あったんですか?」
おれはちょっとしかめっ面になっていたかもしれない。悠太母に問いかけた。
「・・・・・・・来ていただければ、わかります・・・」
母の言葉に、俺はマリーをつれて…というよりも、抱えて、部屋に入った…
そこには、立派な仏壇と位牌が佇んでおり、線香が煙をたてていた。
悠太母が位牌を手に取り、言った。
「これが、悠太です…」
俺は愕然としてしまった。
マリーの腕の力がいっそう強くなる。骨が折れるほどではないが、力いっぱいだというのが判る。
すでに声はでないようだった。低くくぐもった嗚咽が、マリーから漏れている。
俺は、このパターンは予想できなかった… いや、母の行動から気づくべきだった。
気づけと言われても気が付く要素はなかったんだが…結果的に、マリーを悲しませることになってしまった…

#またこのパターンかっっっ!
#なんだか長編になってしまって申し訳ないです。
#スレ汚しにならないよう、がんばります。
#
#以下レスポンス
#>190 >191の通りで、処分してます。 その件は>137の
#・トイレのなかで、ついでに、車からマリーの・・・が入った袋を処理にかかる。
#で処理してます。シチュ考えても、=汚いのイメージが払拭できなかったので…
#使いどころがあれば、まさしくバクダン とか、聖水 とか、インニョー とか、いろいろありますが、
#今回は見送りさせていただきました。
#>191 黒服さんはこれからの登場に期待UPUPです。 でも、最初に大男と書いてしまった手前、
#乱闘で服がちぎれたときに”実は女だった!”という展開にできないのが残念です。それだとスレ違いになるし…
#>192 おお?! UPSで動いてましたか! …ということは、後ろのコンセント抜けばジュース取り放題?
#そんなワルイコトしませんが、できちゃいそうだなぁ…
#>193 残念。アクア連絡道から乗りましたが、アクアラインとは逆方向に乗ってます。
#>194 おお?! 新作の予感???


198:名無しさん@ピンキー
07/09/14 01:26:12 pu7L4W6w
がーんばれ。最近はこれが楽しみ。
黒服やマリーの今後の展開が気になる終わりですね。

199:名無しさん@ピンキー
07/09/14 21:48:12 4DnXJfes
ううむ、またしても予想とは違う展開に・・・
これは最後まで見届けるしかない。

200:初心者
07/09/15 00:01:46 5ulU3E+C
GJです!
まさか死んでいたとは…
予想外過ぎて最初はよく理解できなかった…
皆さんの作品を読んでいると自分の作品を投下しても良いのか、とか思います。
それでも投下しますがねw

201:名無しさん@ピンキー
07/09/15 00:55:43 4ToD/4dh
あ、何だこれからもって事か
今から投下かと思ってwktkしてたぜwww

202:名無しさん@ピンキー
07/09/15 22:42:05 DqMXXbzA
動きがないなんて珍しいな

203:名無しさん@ピンキー
07/09/16 00:10:16 8XG0cUU+
>>202
きっとこれから凄いのが来るんだよ><

204:名無しさん@ピンキー
07/09/16 21:42:14 arrcHaKL
URLリンク(up2.viploader.net)

205:名無しさん@ピンキー
07/09/16 21:54:15 wkNv0+Oq
>>204
抜いた

206:名無しさん@ピンキー
07/09/16 22:17:05 FneUYUq5
>>204
変な物貼るなよ。
不幸の手紙のパチモンだからスルーね。

207:名無しさん@ピンキー
07/09/17 01:02:16 xW5+S8cu
画像元はなんだろ、呪怨?

208:名無しさん@ピンキー
07/09/17 09:27:02 v2o370kC
なあ、幽霊と二人きり、ってシチュはアリかな?

209:名無しさん@ピンキー
07/09/17 09:49:36 s2P/Ce7M
>>208
こっちが適切かと

【妖怪】人間以外の女の子とのお話22【幽霊】
スレリンク(eroparo板)

210:名無しさん@ピンキー
07/09/17 10:01:04 8/BSuR3L
幽霊であろうが女の子である事に変わりない
それで二人きりならいんでないの?

211:名無しさん@ピンキー
07/09/17 10:02:59 bfJe2L2T
age

212:名無しさん@ピンキー
07/09/17 10:30:48 KoZKZQkf
>>208
このスレに投下して>>209のスレにリンク貼れば、どちらの住人も幸せに(ry

213:名無しさん@ピンキー
07/09/17 13:47:09 h9sec6iA
>>212
ネ申現る

214:名無しさん@ピンキー
07/09/17 16:14:28 8s+NE/vP
おまえあたまいいな

215:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:05:54 qbs6MDNN
◆扉の外の真実

 扉の外に広がっていたのは―漆黒の闇だった。
 部屋の白とは対照的な、一面の黒が、行く手を覆い尽くしている。
 智信は最初、それを見て、単純に暗闇で先が見えないだけなのだと、そう思った。
 しかし、壁伝いに、外に手を這わせてみて、気付く。そこに『何かがある』が見えないのではない。ただ『何もない』だけなのだ。
 扉に手をかけて、一歩踏み出してみても、足は床に触れることなく空を切り、先の見えない闇の中に沈む。
 そこにあるのは、永遠に続く、虚無の世界。現実にはありえない、悪夢の中に入り込んでしまったかのような光景。
 馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な。こんなことがあっていいわけがない。
 この部屋はどうなっている!? そして、この果てしない闇はなんなんだ!?
 少しでも気を抜くと、狂気に侵食されそうになる思考を宥めながら、智信は自問する。
 そう。確かにルールには『三十日が経過した場合』或いは『生存者が一人となった場合』に『扉が開かれる』と書かれていた。
 しかし、よく考えてみれば、扉の外に関する情報は一切なかった。二人が勝手に『扉の外が出口である』と思い込んでいただけだ。
 そう結論付けてしまうのも、当然ではある。この部屋には、出入り口と思われる扉は二つしかなく、片方はトイレで、片方は開かなかった。
 それなのに『開かない扉』の先が行き止まりであると仮定すると、どうしても、説明がつかない点が出てくる。
 智信と留美は、どのようにして、この部屋に運び込まれたのか? という問題である。
 無理矢理にこじつければ、天井が開く仕掛けになっていて、ワイヤーか何かで吊り下げられてベッドに寝かされた、などという仮説も立てられるが……
 そんな凝った仕掛けを用意する意味は薄い上、仮にそうだとしたら、ベッドの真上の天井に細工の痕跡があるはずで、眠る時に気付かないのはおかしい。
 開かない扉が外と繋がっており、二人はそこから運び込まれ、ベッドに寝かされた、とするのが一番自然だった。
「……に……!」
 智信の口から、声にならない言葉の断片が零れる。
「そ……は……に……で、出口……な……だ……!」
 それなのに、そのはずなのに、なんで出口がないんだ……!
 そう怒鳴ったつもりだった。だが、乾燥して潰れてしまった声帯は、発声を拒否する。

216:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:06:59 qbs6MDNN
 智信は暫くの間、暗闇の向こう側に、何かが見えたりはしないだろうかと目を凝らしていたが、やがて諦めたのか、扉を閉めた。
 もう、この先、どうすればいいのかわからなかった。この部屋には、出口がない。あるのは、どこへ繋がるとも知れぬ深い闇だけだ。
 恐怖からか、体ががくがくと震え、吐き気まで催してきた。そのまま、不安定な足取りで、トイレへと向かう。
 智信は便器に頭を突っ込み、思い切り吐いた。とは言っても、胃の中には内容物は一切残っていないから、口から滴るのは粘ついた胃液だけだったが。
 レバーを引いて、水を流す。水が流れるのだから、少なくとも排水設備はあるはずで、外界から完全に隔離された場所とは考え難いのだが……
 そんなことを考えながら、智信は何気なく、水面を見た。
「……?」
 ふと、小さな違和感を覚える。智信は、その違和感の正体がなんであるのか、最初はわからなかった。だが……水面を見つめるうちに、智信は気付いた。
 違和感の原因は―水面にぼんやりと、揺らめきながら映っている、智信の顔にあるのだと。
「あ……」
 ぽかん、と。智信の目が、口が、大きく開かれる。それは智信にとって、この部屋に閉じ込められてから、一番の衝撃だったかもしれない。
 そうは言っても、第三者の視点から見れば、智信が何故こうまで驚いているのかを理解するのは難しかっただろう。
 だって、水面に映っている顔は、とりたてて語るところもない、ごく普通の顔なのだから。美しくもなければ醜くもない、平均的な、男の顔。
 客観的に見て、目に見える異常はない。だから勿論、留美とて、気付くわけもない。
 この『違和感』には、智信本人か、家族、親戚、友人―つまり『智信の顔を知っている人間』でなければ気付けない。

 ― これは、誰の顔だ!? ―

 ― これは、僕の顔じゃない! ―

「うわあああああああああ!」
 両手で頭皮に爪を突き立て、喉が焼き切れるような叫びをあげながら、トイレから飛び出す。扉を背に、その場に蹲る。
 がりがりと頭を掻き毟りながら、何とか現状を把握しようと試みるが、山積する疑問に圧倒されて、思考は正常に働かない。
 畜生! 畜生! 畜生! わからない! もう何もかもわからない!
 発狂寸前にまで追い込まれて、壁に側頭部を叩き付ける。ベニヤ板の上に物を落としたような鈍い音がした。こめかみの辺りを生暖かいものが伝う。

217:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:09:00 qbs6MDNN
 この痛みで目が覚めたなら、どんなに幸せだろうか、と智信は思った。
 これは、交通事故か何かに遭った僕が、生死の境を彷徨いながら見ている、長い長い悪夢で。
 僕は、病院のベッドの上で目を覚ます。まだ悪夢の残滓が燻っているのか、心臓の鼓動は早く、汗をびっしょりかいている。
 看護士さんがぱたぱたと走り回って、担当医に昏睡状態だった患者が起きたことを伝えにいく。
 僕は現実に戻ってこれたことに安堵しながら、天井を見つめる。そして、今まで見ていた悪夢について、ぼんやりと考えを巡らせる。
 白一色の内装に、鼻をつく消毒液の匂い。そりゃあ、こんな場所にずっと寝かされていれば、悪い夢の一つも見て当然だ……って。
 苦笑しながら首を横に向けると、右隣のベッドが視界に入る。そこで寝息を立てているのは―夢の中で見た少女だった。
 これが物語なら。きっと……そんな風に、綺麗に終わってくれる。
 何もわからないまま……部屋からも出られず……のたれ、死ぬ、なんて……そんな、終わり……認め、ない。認め……。
 智信は、精も根も尽き果てたとばかりに、その場に崩れた。そして、数時間も経たない内に、動くのを止めた。



 残されたのは、二つの骸。最早動くもののいなくなった部屋に、電子音だけが空しく響く。
 液晶画面に、最後のルールである、ルールDが表示される。
 それは、ここまで生き延びた強者への、最初で最後の助言。
 永久に出ることのできない袋小路に放り込まれた仮初の生命を、せめて意義あるものにする為の、唯一の解。

『ルールD 醜い生は死であり、潔い死は生である』

 ルールDを表示し終えて間もなく、再度、電子音が鳴り響く。
 今まで、ルールが公開される度に鳴っていた音とは違い、目覚まし時計のベルにも似た、激しい音だ。
 その音は、ゲームの終了を告げるものだった。
 音が鳴り止むと同時に、白い部屋はゆっくりと、物音一つ立てずに、崩壊していく。
 部屋と、部屋に存在するすべての物質が、原子単位にまで分解されて、飛散、消滅する。
 まるで、波打ち際に作った砂の城が、波に攫われて、元の砂に戻ってしまうように。
 ついには、部屋はその痕跡すら残さずに消え失せて、扉の外に広がっていた、あの、底知れぬ闇だけが残った。

218:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:10:10 qbs6MDNN
◆ようこそ、ラストステージへ

 智信の自室。ずっと机に向かっていた智信は、そろそろ小休止を入れようと、シャープペンシルを机の上に転がして、立ち上がった。
 立ち上がりついでに、大きく伸びをして、欠伸を噛み殺す。時計の針は、午前一時を指している。眠気がして当然の時間帯だ。
「畜生、眠い……コーヒー、飲むか」
 机の上には、書きかけのレポートと、乱雑に積まれた参考資料の山。
 間違ってコーヒーを零したりでもしたら洒落にならないから、前以てそれらを机の端に退かしておく。
 部屋を出て、キッチンに向かう。コーヒー豆をコーヒーメイカーに入れて、スイッチを押す。
 ブレードが豆を粉砕する音を聞きながら、食器棚からカップを取り出す。
 そこで、同じようにキッチンに出てきた父親とばったり出くわした。
 彼―佐々野敦(ささの あつし)も智信と同じく、コーヒー党であることは知っていた。
 大方、夜中に目が覚めてしまって、コーヒーの一杯でもと思いキッチンに出てきたのだろう。
 智信はドリップを完了したコーヒーメイカーからカップにコーヒーを注ぐと、コーヒーメイカーを敦の方へ差し出した。
 敦はそれを受け取り、コーヒーを淹れ始める。
 でも、互いに目は合わせない。会話もしない。智信と両親との関係は、お世辞にも良好なものとは言えなかった。
 智信と両親の仲がこじれたのには、ちょっとした原因がある。
 智信は、幼かった頃から、持ち前の要領の良さと吸収の速さで、神童と持て囃されていた。
 両親もその才能を生かそうと、智信を塾に通わせ、勉強を勧め、できるだけ良い学校に行かせようとしていた。
 そうする内に、智信は、誰に言われるでもなく、いつか一級市民昇格試験を受けるのだと心に決めるようになっていた。
 智信にとって、一級市民は目指すべき目標であり、自分の努力が報われる、一種の到達点なのだと思っていた。
 だが、大学に進学した直後、一級市民昇格試験を受けたい、と打ち明けてみると、両親は、口を揃えて反対した。
 なるべくなら、受けない方がいい。受けるにしても、今はまだ早過ぎる。もっと人生経験を積んでからがいい。それが両親の言い分だった。

219:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:11:46 qbs6MDNN
 思いがけない言葉に、智信は憤慨した。一級市民昇格試験の最年少合格者は、公式発表では確か、十三歳だったと記憶している。
 今日に至るまで、智信は出来る限り自分を殺して、命じられるがままに勉強に邁進してきた。
 数少ない友人とも、まともに交流する時間が取れない、そんな日々を、文句の一つも言わず過ごして来た。
 それなのに……お前はまだ十三歳以下だ、そう言われているようで、我慢ならなかったのだ。
 勿論、両親の意見にも、理がないわけではない。
 一級市民昇格試験。
 それは、知識、経験、人格……あらゆる側面から、受験者が一級市民として相応しいか試される、難関試験だ。
 試験を受けるに当たって必要な資格は一切ない。年齢、性別、学歴、階級……すべて不問。
 それでは受験志願者が殺到するのではないか、と思うだろうが、世の中そうそう甘い話が転がっているものではない。
 試験は一生で一度しか受けられず、不合格になった者は、自動的に五級市民へと降格されて、一生抜け出せない。無期懲役も同然の酷い扱いだ。
 そう、これは天国と地獄を分かつ究極の二択。天に昇って、天上の住人となるか、それとも、地の底まで落ちて、地獄の亡者となるか。
 そんなハイリスクな試験に若くして挑むのがどれほど無謀なことか。両親は、井の中の蛙である息子に、警鐘を鳴らしたかったに違いない。
 智信はカップ片手に、部屋に戻った。デスクチェアに寄りかかり、コーヒーを啜る。
 一口飲んでから、しまった、と思う。敦と長い時間顔を合わせていたくなくて、急いで部屋に戻ったものだから、ミルクを入れてくるのを忘れていた。
 苦味の強いブラックに少しばかり顔を顰めながら、机の上にカップを置く。
 まあいい。眠気覚ましには、丁度いい味かもしれない。気を取り直して、今夜中にレポートを片付けてしまおう。
 そう考えて、智信は再び机に向かい、レポート用紙の空白を埋める作業を再開した。

220: ◆SSSShoz.Mk
07/09/17 18:12:27 qbs6MDNN
>>178からの続きです。そろそろ終わりが見えてきました。
今までの話を読んでいる途中、少しでも「これはこうなってるんじゃないかなー」と考えてもらえたなら、作者冥利につきる次第であります。

221:名無しさん@ピンキー
07/09/17 20:20:23 vzCCwl69
>>220
???だった頭が?…!…?くらいになりました。
GJです。少しずつ見えてきた真相。これまでの経過。その先にある結末。期待せずにはいられません。

222:名無しさん@ピンキー
07/09/17 22:27:59 Z9biVNWF
奥深いですね・・・。こういう文章は好きです。
ラストまで頑張ってください。

223:名無しさん@ピンキー
07/09/18 01:21:53 gwvS1IC1
『tips』がないのさえ何か意味がありそうだな
そう思えるからすごい

224:名無しさん@ピンキー
07/09/18 16:14:12 JSwoXKaf
GJ!
水の違和感がそういうことだったとは全くわからんかった…

>>49の辺りで、閉鎖空間での試験?はヴァーチャルかと想像してたんですが、それでよかったのかな?
被験者は毎回男の方で、留美の方は既に無くなっている少女のデータを使用していて毎度同じ、と。
ただ智信の顔が違う理由がよく判らん…外見データ使い回しなのかと思ったけど、番外編の男は太ってたし…
試験?の理由も単純に一級市民の昇格試験って訳じゃ無さそうだし。

結論。まださっぱり判らんw 謎解き楽しみにしてます。

225:名無しさん@ピンキー
07/09/19 04:43:12 Z3RxrPMP
一番の謎は
なぜ ◆SSSShoz.Mk さんがこの作品をエロパロのスレで披露しているのか?
ということ。


226:名無しさん@ピンキー
07/09/19 06:57:46 auz5VQ8W
一応エロ入れたからいいんでねえの?

227:名無しさん@ピンキー
07/09/19 15:19:17 R8Rxz7cu
エロがなくても良い作品はある…まとめサイトで読んでみ
と、最近住人が増えて戸惑っている俺が言ってみる

228:名無しさん@ピンキー
07/09/19 17:01:07 auz5VQ8W
特に雪山とラピエスは最高だった

mori~

229:名無しさん@ピンキー
07/09/19 17:10:25 TMVljYBk
良作が一番多い板はエロパロではないかと最近思い始めた

230:名無しさん@ピンキー
07/09/19 18:31:14 gPcATOkf
>>225
エロスの欠片も無いのに絶大な支持を得ている作品なんざこの板にはアホほどある。

231:名無しさん@ピンキー
07/09/19 19:52:15 6SPvKr5g
>>227まぁそれが良スレの宿命かと

偉そうなこと言ってるけど俺も途中参加なのは秘密だが

232:81 ◆DlPgAmm21I
07/09/19 20:59:31 lA35ur4m
#やばい 話が変になってきた… つじつま合ってるか微妙な展開に…
#だがしかし 私はあきらめないっっっ
#読者が居なくなったって最後まであきらめないっっっ(?
#というわけで、ちょびっとですが続編を。
#なんというか、今週は職場の上司の目が光ってるので、あまりつくれません。
#夜勤とか遅番なら作れるんですが、今週は早番… すみませぬ。

233:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/19 21:00:19 lA35ur4m
しばらくマリーは俺に体を押し付けて泣き続けた。あたりが夕刻になるころ、少し落ち着いてきたのを見計らい、
俺は悠太母に「なにかあたたかい、おちつく飲み物をください」とお願いした。

「マリー…」
やさしく問いかける。だが返事はない。もぞもぞと動くだけだ。
「哀しいのはわかるが、このままじゃだめだろ… とりあえず、これ飲め…」
悠太母が用意してくれたのはホットミルクだった。色合いと匂いがそんな気がする。
このまま飲まないよりはマシだと思ったので、飲ませることにする。
マリーが顔をあげる。泣いたせいで顔がぐしゃぐしゃになっていた。
彼女は俺に促されるまま、ホットミルクを飲む。
んく。んく。んく。
飲み込む音が静寂な空間に響く。
そして彼女は、言葉を発した。
「う、うううううそ、嘘よ… こ、こここの間までちゃんとメールしてたのに…」
「・・・・・・」
そばにいた悠太母は黙ったままだった。
「き、きき、昨日だってメールし、したわ! 昨日のニュースのことも話題にっっっ!!」
「落ち着け」
残ったミルクがこぼれそうになったので、俺が掴んでテーブルに置く。
「だって! だって!! わ、わわ私っ」
マリーのメール話は車の中で聞いた。
楽しそうに先日までの話題をやり取りしていたことを話し、メールの中身を見せてくれた。
おれは、ふと気になる事があったので、悠太母に聞いてみた。
「…悠太君のお母さん。悠太君の携帯って、今手元にありますか?」
「えっ… 悠太の… ですか?」
「ええ。マリーがこんなに動揺するのも、亡くなった後でもメールのやり取りがあったことにあるわけで…
 本当にその履歴が残っているのか、確かめたいのですが…」
悠太母が何を思っているのか不明だが、悠太君が死んだというのは嘘で、
実は軟禁か監禁されててたまたま携帯を持ってたのでメールできている と考えられなくもない。
しかし、監禁状態なら電話すればいいことで… それが出来ないとなると面会謝絶の病室からメールをしている???
そもそも生きておらず、ファンタジックに霊界からの警鐘とか… いやいや、ありえないな。
「ないんです」
はい?
「は? ないとは?」
悠太母の言葉が最初は信じられなかった。
「悠太の携帯は無いんです。 …じつは…」
そこから先に聞いた言葉は、俺には信じられなかった。いや、常識的に考えて、ありえないだろう。

234:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/19 21:00:55 lA35ur4m
悠太母曰く、悠太は坂道でブレーキが故障してそのままカーブを曲がりきれずに反対車線に飛び出してしまったこと。
そして運悪くそのままタンクローリーが通りがかったこと。
打ち所が悪く、即死状態だったこと。
ノンブレーキということは警察と運転手の証言により確定し、日ごろから整備を怠っているのが悪いということを指摘された。
そんなことは信じられない。運転手を呼んでこいと訴えるも、警察にとめられたこと等、苦い思いを打ち明けてくれた。
そして悠太の49日法要が終わったころ、突然軒先に黒服スーツの男が現れて、「悠太君の携帯を売ってくれ」ときたこと…
「う・・・うそ?」
「その男に売ったんですか?」
「ええ… これ以上つらい思いをしたくありませんでしたので…」
でも、携帯譲渡…はできないだろうに…?
「大金を積まれて… 主人も始めは断っていたのですが… 額がどんどん大きくなって… 相手は本気だということに気がついて…」
「それで譲った…と」
信じられん。
「その後の手続きとかは?」
「任せてほしいと… 委任状を書いて、任せていたら携帯会社から訪問があって… ”異例ですが名義変更しないまま譲渡しました”と」
…ますます不可解だ。なぜ名義変更しない? なぜ? そんなの、マリーの為だけに大金積まれたって思えてくる…
マリーのためだけ? ん? なんだ、ひっかかるぞ?


えーと? マリーは悠太君に会いに出かけようとしたら親に止められて?
出かけたらなぜか山手線で見つかって?
そもそもなぜ山手線でみつかっ……… そうか!
「マリー! 君はまだ携帯もってるな?!」
「な、なによ突然… きゃっ!」
マリーの携帯を奪い取る。最新機種だった。
なるほど… GPS機能か。通りでマリーの後を追いかけられるはずだ。
ははは… バレバレってわけか。きっと携帯を買い取ったのは真理の親の意向だな。
親バカか… でも、本当に悲しませたくなかっただけなのか?
しかし、ここにいるって事は、すでにばれているんだろうな…
「なによ! なんなのよ 携帯返してっ!」
奪いかえされた。

235:総武の休日 ◆DlPgAmm21I
07/09/19 21:03:04 lA35ur4m
「…あの」
悠太母が話しかけてきた。
「な、なんでしょう?」
「もし… よろしければ、悠太へお参りしていただけないでしょうか…」
「…マリー」
おれはマリーを伺った。
こくん。
無言ながらもうなずくマリー。
「では、準備してきますね」
悠太母は部屋を後にした。
「マリー?」
「…やっぱり …死んでるの?」
俺は言葉に窮してしまった。
「悠太君のお母さんが嘘をついているようには思えない。しかし、にわかには信じられない」
ゆっくりと、肯定の中に希望という名の否定を混ぜて言う。
「私、生きてると思う。ううん、絶対生きてる」
いや… 残念だがマリー… 彼は確実に死んでいると思う。
君はまだ現実を受け入れられないだけなんだ…
…きっと彼の携帯を買い取ったのはマリーの身内だ。
なぜこんな手の込んだことをするのだろうか…
それがすごい不可解だ…… なにか裏が… そう、裏があるのではなかろうか…

#今日はここまでっ
#えと、お断り入れます。
#悠太君の家は、実在しません。場所もです。
#ドラマで言うところのここの舞台はスタジオに入ってるって思ってください。
#地図で探されている方、申し訳ありません。

236:名無しさん@ピンキー
07/09/20 01:13:54 RHK548xn
>>235
大丈夫、少なくとも読者はココに一人確実にいるからw
あとさすがに家は実在とは思ってないから大丈夫だ。

んーブルジョワめ。マリーのため思ってだろうが惨いことしやがる…
それとも何か別の理由があるのか?
続き待ってる。


…あと会社で書くのはやめといた方がw              俺も昔やったことあるけどさww

237:名無しさん@ピンキー
07/09/20 01:48:49 3jl/rGCa
>>236
何があったのかくやしく

238:名無しさん@ピンキー
07/09/20 03:04:16 fE5waJOV
>>236
ちくしょうを10回以上使って

239:236
07/09/20 16:53:56 RHK548xn
>>237
いや、何も無いw 大丈夫。バレなかったからw

でもこういうの書くための妄想って仕事忙しい程湧いてくるのはなんでだろうw

240:81 ◆DlPgAmm21I
07/09/20 19:58:04 4bL/qR22
>239
ほら あれです 試験前日に急に部屋の掃除をしたくなるアレと一緒。(違う
現実逃避したくなるほど、ネタが溢れてくる。と。
遅番は超忙しい。早番は超ヒマだけど監視がw 夜勤は眠い。
故に遅番がイチバン物語がすすみます。

>238
くやしいのう。くやしいのう。 で。
例題:くやしいのう。上司が見張っててくやしいのう。メディアに書き出し出来ない会社PCくやしいのう。

241:名無しさん@ピンキー
07/09/22 18:41:09 ztfA45pU
期待上げ

242:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:08:04 NEniwn6D
 朝霧綾香は、コンピュータに向かい、苛立たしげにキーボードを叩いていた。
 納入の期日が迫っていて、早くプログラムを仕上げなくてはならないのに、どうしても冷静ではいられない。
 頭の中から一切の雑念を追い払い、仕事に集中しようとしても、昨日の夜の記憶がぐるぐると渦巻いて、作業に精彩を欠く。
 昨日は、娘―留美の誕生日であると同時に、良夫と綾香の結婚記念日だった。
 それなのに。良夫は留美にだけプレゼントを買ってきて、綾香にはプレゼントどころか、一言もなかった。
 綾香はその無神経加減に、心の底から呆れ果てていた。良い夫と書いて良夫と読むその名前が、妻である綾香への痛烈な皮肉のように思えてくる。
 良夫は昔から、こんなに冷たい人だっただろうか? そう自分に問いかけてみて、すぐに、いや、そんなことはなかった筈だと否定する。
 以前はもっと大らかで、それでいて、細かな気遣いの出来る人だった。そもそも、出会った当初からこんな態度であったなら、間違っても結婚しようなどとは考えなかっただろう。
 よくよく思い返してみれば、良夫の『変化』の切欠は明らかだった。歯車が狂い始めたのは……二人の間に、留美が生まれてからだ。
 留美が生まれて以降、綾香に注がれていた愛情はすべて、留美へと向かっている。それは間違いないと、綾香は確信していた。
 良夫の本質は、大して変わってはいない。ただ、愛情を向ける相手が変わっただけなのだ。
 しかし、それを綾香は認めたくない、許せない。良夫と結婚したのはあくまで綾香であって、留美ではない。
 留美なんて、結婚という甘いお菓子のおまけとして添付された、安っぽい玩具に過ぎない。
 大体、綾香は良夫と一緒にいたいと思ったことはあっても、子供が欲しいと思ったことはなかった。
 綾香が留美を生んだのは『子供が欲しい』という、良夫の強い要望によるものだ。本来なら綾香は、自由気ままな二人暮らしを望んでいた。
 良夫が子供が欲しいと言ったところで、誰が面倒を見るのかと言えば、それは結局、綾香の役目になるのだから。
 閉めた扉の向こう側から、留美の遊ぶ声が微かに聞こえてくる。プレゼントを買って貰ったばかりで、上機嫌なのだろう。
 無邪気で悪意のないその笑い声すらも、綾香には嘲笑のように聞こえた。
 唇を歪めながら、ヘッドフォンを装着する。ピンをジャックに接続して、自分で編集しておいた環境音楽を流す。
 だが、風に揺れる木々のざわめきも、可愛らしい小鳥の囀りも、刺々しくささくれ立った心を解してはくれなかった。
 相変わらず作業の進捗状況は思わしくなく、打ち込むコードも、自然とスパゲッティになる。
 いかにも虫の湧きそうな見苦しいソースコードは、まるで綾香の心中を代弁したかのようだった。
 今はこれ以上続けても、泥沼に嵌るだけだ。綾香はそう判断して、作業を一時中断する。
 気分転換に煙草でも吸おうと、上着のポケットを弄る。が、出てきたのは半分潰れたマルボロライトの空箱だけだった。
 仕方ない、買いに行こう。そう思って、疲れた目を左手で軽く揉みながら席を立った。
 途中、リビングに置かれた水色の箱が視界の片隅に入る。
 綾香はなるべくそれを見ないようにしながら、簡単な着替えを済ませ、外出した。



243:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:08:48 NEniwn6D
 一級市民専用施設『セントラルタワー』十階。一級市民昇格試験、最終試験場。
 智信が通されたのは、銀色を基調としたメタリックな内装の部屋だった。大して広くはなく、病院の待合室程度の面積だろうか。
 背もたれ部分の後ろに、大海原の荒波を意識したと思われる曲線が彫り込まれている、一風変わったデザインのベンチに腰掛けて、事前に受けた指示通り、名前が呼ばれるのを待つ。
 両親の反対を押し切ってまで挑んだ、一級市民昇格試験だった。
 尋常ではないプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、智信は筆記と面接をパス。後は今日行われる、最終試験を残すのみとなっていた。
 この最終試験さえ乗り切れば、智信は晴れて、一級市民資格を取得することができる。
 智信は、膝の上で組み合わせた手を僅かに震わせながら、落ち着きなく周囲に視線を泳がせる。
 同じ境遇の人間―胸に番号札を付けて待機している受験生は、智信の他に三人いた。
 スーツを着た、サラリーマン風の中年男性。白い髭を蓄えた、壮年の男性。智信と同い年くらいの、若い女性。
 他の受験者も、かなり緊張しているらしく、傍目から見ていても挙動不審だった。
 何と言っても、この試験は、天国行きか地獄行きかを決める、人生最大の分岐点なのだから、無理もないことではあるが。
「受験番号、五番、佐々野智信さん。三番扉前までお進みください」
 事務的なアナウンスが、智信の名前を告げた。三人の視線が一斉に、智信に集まる。
 智信は油切れのロボットのようなギクシャクとした動作で立ち上がり、扉の前に向かった。
「失礼します」
 そう一声かけて、プレートに『三』と記された扉を開く。
 部屋の中には、病院のCTスキャナーや、業務用タンニングマシンを連想させる、大掛かりな装置が設置されていた。
 そしてその隣に立っているのは、白衣姿の、一級市民らしい女性。胸元のネームプレートには『朽木百合』と書かれている。
「それでは、この器具を装着して、ここに横になってください。指示があるまで、動かないようお願いします」
 言いながら、彼女が差し出したのは、メカニカルなヘッドギアだった。
 ヘッドギアには、廃屋で際限なく生長した蔦のように、様々な色をしたコードが沢山絡み付いていて、それらは全て、一台のコンピュータへと繋がっていた。
 これを頭に被って、装置の上に横になれということらしい。智信は黙って、指示に従う。
 智信が装置の上に横たわったのを確認して、百合はコンピュータに向かい、スイッチを入れた。
 装置の駆動音と、コンピュータの起動音が重なり合い、微かなノイズが鼓膜を揺さぶる。
 装置の床は智信を乗せたまま上へとスライドして、智信の体全体を機械の中に収めた。間もなく足元の出入り口が閉まり、内部は完全に密閉される。
 何が始まるのか知らないが、閉所恐怖症には厳しいかもしれないな、などと呑気に構えていると、突然、光と色の洪水が襲ってきた。
 テレビのテストパターンのような、目の痛くなるくらいの原色である。智信の周りを、多彩な色をした光が、形を成して飛び回る。
 光は数秒毎に、休む間もなくその姿形を変化させる。それは花であったり、蝶であったり、雲であったり、鳥であったりした。
 智信は体を横たえたまま、目線だけをあちらこちらに動かして、暫しの間、その幻想的な光景に見惚れていた。
 そのまま、随分長い時間、寝かされていたように思う。
 昨日の夜、充分な睡眠時間が取れなかったこともあって、少々眠気を催して来た頃、出入り口が開いて、床が下にスライドした。
「お疲れさまでした。器具を外して、右手の扉へ」
 智信は呆けた顔でヘッドギアを外して、立ち上がる。
 あのヘッドギアと、装置の中で見た映像は、一体、何の意味があったのだろうか?
 この最終試験の趣旨がいまいち呑み込めず、智信は首を傾げる。まさか、ロールシャッハテスト、というわけでもないだろうが。
 考えてみた処で、今はわかりそうもなかった。疑問を頭の奥底に押し込めて、智信は右手の扉へと歩く。

244:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:12:00 NEniwn6D
 扉の向こうは、コンピュータルームと言って差し支えない様子だった。部屋の約半分が、無数のコンピュータで埋め尽くされている。
 その部屋の中央に配置された大きなデスク。そこに、白衣の女性が座っていた。ネームプレートには『叶綾香』と書かれている。
「そこにかけてください」
 綾香はデスクの向かいに用意されている椅子を手で示して、智信に座るよう促した。
 智信は椅子に座り、綾香と向かい合う格好になる。先の装置の中で横になっている内に和らいだ緊張が、また蘇ってきた。
 ごくりと生唾を飲んで、試験官だろう女性―叶綾香の、第一声を待つ。
「ようこそ、ラストステージへ」
 そう言って、綾香は微笑を浮かべ、大きく両手を広げた。嫌に、芝居がかった仕草だった。
「これより、最終試験『project whitebox』を開始します」
 綾香はそう宣言すると、デスクに積まれた書類を手に取り、ページを繰っていく。
 綾香の一挙手一投足に注目しながら、智信は考える。雰囲気から察するに、最終試験も面接になるのだろうか。
 もしそうであれば、下手な言葉は命取りになる。細心の注意を払わなくてはならない。智信は姿勢を正して、気を引き締める。
「筆記試験、用紙E、設問十九番の内容を覚えていますか?」
 書類に目を落としたまま、おもむろに、綾香は質問を投げた。
 何故今になってそんな質問を? 記憶力のテストなのか?
 質問の意図が掴めず、少し戸惑うが、答えに詰まるような問いではなかった。
 記憶力には、それなりに自信がある。智信は胸を張って答えた。
「はい。確か『自分よりも弱い立場の者の為に、命を投げ打てますか』でした」
「正解です。そして―」
 一拍間を置いて、綾香は唇の端を吊り上げる。
「あなたはその設問に『YES』と回答しています」
 手にしていた書類をデスクに戻して、綾香は続ける。
「あなただけが例外、というわけではありません。
実に九割以上の受験者が、その設問に『YES』と答えています。それが本当なら、とても素晴らしい世の中になるでしょうね。
それこそ、一級市民による管理など、必要ないかもしれません。ふふ……これは失言でしたか。忘れてください」
 どこか嫌味たらしい口振りではあったが、言いたいことはわかる。確かに、その設問への回答はどうしても、受験者の本音とは考え難いのだろう。
 実際、智信もそうだった。自分がどう行動するかなど関係ない。これは試験なのだからと割り切って、先方が望むであろう答えを書いただけだ。
 筆記試験や面接試験なんて、大抵はそんなものだ、と智信は思う。
 良く就職面接で、我が社の志望動機は?なんて質問があるが、あんなもの九割九分九厘嘘だ。
 面接官の前では『環境問題への取り組み等、御社の崇高な理念に心を打たれ~』と云うような、歯の浮くような美辞麗句を並べ立てるが、本音を曝け出してみれば『仕事が楽そうだったから』だったり『給料が良いから』だったり『なんとなく』だったりする。
 聞いた話ではあるが『受付嬢に一目惚れしたから』なんて理由まで出てくる始末だ。そこまでいい加減だと、会社にとってはいい迷惑だろう。
「受験者の発言と行動が一致するか否かは、実際に試してみるまでわかりません。そして、この『project whitebox』は、言葉に潜む欺瞞を見抜いて、受験者が真に一級市民として相応しい人格を持っているかどうか試すものです」
「……それは、どういった形で試すのでしょうか」
 綾香は、よくぞ聞いてくれたといった表情で、頬を緩める。
「欺瞞を見抜くとは言っても、別に、ポリグラフのような前時代の遺物を使おうというのではありません。仮想空間内に生み出された『もう一人のあなた』に、極限状況を体験してもらいます」
 仮想空間。もう一人のあなた。予想もしていなかった展開に、智信は驚きを隠せない。


245:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:13:17 NEniwn6D
「先程、別室でヴァーチャルブレイン用のギアを身に付けましたね? あの時に、あなたの脳のコピーがコンピュータ内に作成されました」
「コピー……ですか」
「そう、コピーです。これから、そのコピーに簡単な記憶処理を施した上で、仮想の体を与え、極限状況の中に放り込みます。そして、仮想空間内でのあなたの行動から、その人間としての器を量ります」
 綾香はそこで一つ、咳払いをする。
「ここまで、理解できたでしょうか」
 智信は黙って頷くしかなかった。
「それでは、本題である、その『極限状況』の内容についての説明に入ります。こちらのスクリーンを見てください」
 綾香が手元のリモコンを弄ると、デスクの後方にある大きなスクリーンに、光が灯る。
 そこには、暗闇に浮かぶ真っ白な立方体と、一人の少女の姿が映し出されていた。
「コピーには、外部から隔離された部屋で、少女と二人きりになってもらいます。この少女も、過去に実在の人間からコピーされた脳で動いており、条件はあなたのコピーと同じです」
 言いながら、綾香はリモコンのスイッチを押す。と、カメラは、白い立方体に向かってズームインした。
 俯瞰視点故、宙に浮かぶ巨大なサイコロのようにしか見えなかった立方体が、スクリーン全体を覆い尽くす。
 カメラはそのまま壁をすり抜けて、立方体の内部に潜入した。
「部屋に存在するのは、ベッド、トイレ、それから、箱に詰められた僅かばかりの食料のみです。また、コピーを動揺させる、ルールと呼ばれる仕掛けも用意されています」
 パイプベッド、水洗トイレ、包装された箱、液晶画面。カメラは目まぐるしく切り替わる。
「これはサバイバルではありませんから、コピーの体調、生存日数などは一切評価に影響しません。評価対象となるのは、あくまで『行動』です」
「今まで合格された方は……どういった行動を取って、評価されたのでしょうか?」
 智信は恐る恐る、そう聞いてみた。
「そうですね。試験の趣旨、ルールの特性を併せて考えると『少女よりも先に死ぬ』のが最大の条件になってくるのではないでしょうか。生への執着は、大きな失点に繋がります」
「わ、わかりました……ありがとうございます」
「他に質問はありますか?」
 智信が、いえ、と首を振ると、綾香は一息ついて、椅子に寄りかかり、足を組み替える。
「さて……これで概要の説明は終了となりますが、現在、コピーの記憶処理中です。もう少し時間がかかりますので、それまで待機していてください」
 そこで綾香は、デスクに置かれたランプが点灯しているのに気付いた。
 もうコピーの記憶処理が完了したのかもしれない。綾香はボタンを押して回線を開き、相手からの言葉を待った。
 智信は、視線を下に向けて、綾香に聞こえないよう、小さく息を吐く。最後の最後でなんというテストだ……そう思わずにはいられなかった。
 はっきり言って、智信は率先して弱者を助けようと思うような人間ではないし、生への執着だって、人一倍ある。それは本人が一番良くわかっていた。
 それでも……ここまで来てしまった以上は、止めますとも言えない。もう、奇跡でも起きてくれることを願うしかないのだろうか。
 絶望に打ちひしがれながら、智信は口の中で、もごもごと呟く。

「畜生、なんてことだ……」

「なんてことだ……」

「頼む……!」

「頼む……死ぬんだ。死んでくれ……!」

 綾香は、おかしい、と思った。回線を開いた筈なのに、いつまで経っても、声が聞こえて来ない。そして、ランプの表示を確認して、自分の間違いに気付く。
 どうやらボタンを押し間違えて、タワー内を繋ぐ回線ではなく、仮想空間内への回線をONにしてしまっていたようだった。しかも、性質の悪いことにボリュームはマックスである。
 もしかすると、記憶処理済のコピーに室内の雑音が届いてしまったかもしれない。試験に影響を及ぼさないといいのだが……
 自分らしくない、馬鹿げた失態に眉を顰めてから、素早くボタンを押し直す。 
「叶博士。後一分弱で、五番コピーの記憶処理完了します。コンピュータの準備をお願いします」
「わかった」
 答えを返しながら、綾香はほっとする。まだ記憶処理は終わっていないらしい。 
 記憶処理の最終段階で、処理中の記憶は消去される。仮に、何か聞こえていたとしても問題はない。

246:名無しさん@ピンキー
07/09/23 00:13:39 e8uJgLWz
リアルタイムwktk(・∀・)

247:白い牢獄 ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:16:37 NEniwn6D
「お待たせしました。それでは、これより試験を開始します」
 綾香は回線を切り、コンピュータを起動させると、智信に向き直った。
「左手の扉から退室して、案内人の指示に従ってください」
 智信は返事を返すと、力なく立ち上がった。目礼をして、部屋を立ち去る。
 扉の外には、既に案内人と思われる若い女性が待機していた。ベルガールのような衣装の上に白衣を着込んでおり、どこかミスマッチだ。ネームプレートには『草加碧』と書かれている。
 女性―草加碧は、智信の姿を認めるなり、早口で喋り始める。
「ええっと、最終試験の概要は中で、叶博士に聞きましたね?」
「は……はい」
 碧はごそごそと白衣のポケットを探り、メモを取り出して、朗読する。
「えっとえっと。機器にかかる負荷の関係から、等速以上の速度で処理することは不可能ですので、試験は長期間に及びます。
受験者専用の部屋を用意していますので、これより試験終了まで、そちらに寝泊りしていただきます。食事はこちらで手配しますので、心配は要りません。
また、室内に備え付けのモニターで、コピーの様子を二十四時間確認できます!」
「はあ……」
 受験者は部屋で、コピーの活躍をリアルタイムで見守るらしい。
 それにしても、なんというか……個性的な人だ。
 最終試験の内容を聞いて、気分が落ち込んでいた智信にとっては、彼女の妙なテンションは毒にしかならなかった。
 とはいえ、彼女も一級市民である。今回のような試験の場合、案外こういうタイプの方が、裏表がなくて良いのかもしれない……智信は疲労した頭で、そんなことを考える。
「それでは、一名様お部屋にご案内しまーす。ついてきてくださいね」
 ここには『一名様』以外来ないだろう……という突っ込みも空しく、智信を先導するようにして歩き出す。
 碧は廊下を歩きながら、先のメモをポケットに戻して、新しいメモを取り出す。
「それからそれから。仮想空間内における整合性保持の為、脳のコピーを取ると同時に、受験者の体格、網膜すい体細胞の感度等のデータも取得していますが、合否に関わらず、試験終了後それらは全て破棄されますのでご安心を!」
 読み終わったかと思うと、やおら立ち止まって振り向き、ノーリアクションの智信の顔を覗き込む。
「……ご安心を?」
「あ……はい」
 終始、そんな調子である。それほど長い道のりではなかったのだが、智信は部屋に到着する頃には、大分消耗していた。
「それでは、ごゆっくり~」
 呑気な声と共に、ぱたん、と扉が閉められる。
 智信はがっくりと肩を落としながらも『project whitebox』と刻印されたモニタのスイッチを点ける。
 画面の中には、眠っている少女を起こそうとしている『もう一人の智信』が映っていた。
 データを取ったというだけあって、体格こそ似ているが、顔は殆ど別人のものだった。
 智信は化粧台の前に置かれていた椅子をモニタの前まで引き摺ってきて、そこに陣取り、固唾を飲んで、コピーの動向を見守った。

248: ◆SSSShoz.Mk
07/09/23 00:18:28 NEniwn6D
>>219からの続きです。長い間意味不明だったプロローグも含め、今回で八割方謎は解けました。次回か、その次あたりで終了かと思います。
「畜生」という言葉は智信の口癖ですので、ことある毎に使っています。それがプロローグと本編を繋ぐ小さな接点でした。
ちなみにTIPSが消えたのは終盤になって物語外での補足をしなくてもよくなったというそんな理由であります。
>>224
おお、すごい。今回の展開を見ればおわかりの通り、さっぱりどころかほぼ完全正解です。
あとは細部がどうなっているのか、の解説ですね。

249:名無しさん@ピンキー
07/09/23 00:21:46 CdN3LxfI
リアルタイムktkr

250:名無しさん@ピンキー
07/09/23 00:51:20 rYzXUCeo
リアルキタ→

GJです。こういう展開好きだわ

251:名無しさん@ピンキー
07/09/23 02:07:06 eumIkMoc
>>248
続きまってましたー GJ!
お、どうやら大枠の想像(>>224)は間違ってなかったっぽいですね。
今までぶつ切り&小出しにしてきた「箱の外」の情報も、今回のでつながってきた感じ。
残り少ない続きもwktkでお待ちしてます。

…しかしこの試験、しかも結果を自分で見させられるってのは、もの凄い拷問だよな。

252:名無しさん@ピンキー
07/09/25 02:14:36 xmppOMqM
俺的にはラピエス以来の超傑作だな。。。
他にも素晴らしいものはあったがコレは凄い。
期待しときまふ

253:名無しさん@ピンキー
07/09/25 10:24:06 mbShhNot
なにこの超ハイクオリティスレ
エロパロの枠じゃないじゃん。大多数の一般小説より上じゃん。


254:名無しさん@ピンキー
07/09/25 21:17:21 Ar7BW4W4
推理小説て言って見せられたら本当にそう思うかも知れないクオリティ。GJの言葉しか贈れない。

255:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:12:01 1Xsm51ok
A/B。>>155の続き


  *  *  *

 戦闘機が通過する音が過ぎ、直後に爆発音がする。その音にザパドノポリェワは振り返った。
「……クラッシュした?」
 黒煙が立ち上るのが見える。彼女はその方向に足を向ける。
 不意に、何か巨大な影が通過する。彼女は空を見る。白とオレンジのストライプ模様のパラシュートが降下していた。あれは、何度か見た敵パイロットのパラシュートだ。
 自然と、足はその方向に向いていた。

256:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:14:50 1Xsm51ok

  *  *  *

 ヘルメットのヴァイザに付着した落葉を取り、そのヴァイザを上げてアズマは起き上がる。
 彼は予想通りの落下地点に降下した事で上機嫌だった。パラシュートが木に引っかかり、想定した降り方をせずに体を強く地面にぶつけてしまった事だけが心残りだったが。
 周辺は腐葉土と落ち葉なので、強くぶつけたといっても痛みはそれほどではなかった。彼はナイフで紐を切り、身軽になる。
 酸素マスクと耐G服を外す。防弾性もありいろいろ道具も入っている救命胴衣は捨てられない。ヘルメットは勿体無いから持ち歩く事にした。
 そしてパラシュートと紐でつながっている先にある保命生存用品が入っている鞄から29式自動拳銃とその予備マガジン2本を取り出した。
 着水したわけではないから、救命浮舟は開いていない。これも切り離して破棄する。救難無線機は既に起動していたが、端子を接続しても音が聞こえない。
 仕方無しに彼は端子を外す。そして鞄の中身を確認し、その中にある蒸留水の入ったボトルを取り出し、開けて飲む。水が染みてきている。体が震える。
「うう寒っ。これ耐水耐寒じゃねえのかよ。まあいい、その辺の民家にでも行ってみよう」
 移動しようとした矢先、発砲音。おもむろに後ろに29式自動拳銃を向ける。そこにはスラヴ系の女性が1人、こちらに拳銃を向けている。フライト・スーツを着ている。
 その女性は、恐らく彼女の国の言葉で何か呟いた後、彼に声をかけた。
「Throw your gun over.」
 武器を捨てろ。彼は確かにそう聞き取った。だが、彼女が持っているのはただの拳銃。その気になれば、自動拳銃を彼女に向けている彼が明らかに有利だ。
「What you do if I won't do it?」
 そうしなかったら?
「貴様を撃つ」
 アズマはため息をつく。足に力を入れ、瞬時に右に転がる。女性は拳銃を発砲。しかし当たらない。今度は彼が発砲。うち2発の4.6ミリメートル口径弾が彼女の左脚を貫通した。
 くぐもった悲鳴を上げ、女性の手から拳銃が滑り落ちる。そして彼女はうずくまる。
「ただの拳銃でこれ相手は、さすがに厳しいと思うぞ」
 アズマは彼女に近付き、落ちた拳銃を拾う。
 マガジン・キャッチを押してマガジンを出し、スライドを引いてチェインバの中の弾薬を排出する。
 そのまま銃本体を保命生存用品の方に投げ、落ちた弾薬を再びマガジンに入れ、そのマガジンをポケットに入れた。
「北海道土産が捕虜か。もっと土産っぽいものが欲しかったぜ。白い恋人とかビールとか」
「……殺せ。捕虜にするくらいならとっとと殺せ!」
「やだ。弾が勿体ない。あくまでもあんたは捕虜だ。まあ、そんなに捕虜になりたくないんだったら、自殺でもすれば? 俺は止めない。ナイフ、持ってるんだろ?」
 女性の言葉をアズマは意に介さない。女性はアズマから目を逸らした。
「自殺する勇気が無いんなら『殺せ』なんて言うな。そういえば、あんた、多分戦闘機のパイロットなんだろうけど、保命生存用品はどうした?」
 女性は黙ったままだ。アズマは彼女の来たと思しき方向を見る。それと思しき鞄が木に立てかけてあった。
「あるじゃん」彼は女性から離れ、箱に近付く。「捕虜として俺についてくるんなら、とりあえずナイフ以外はあんたのものだ」
 彼は箱を開け、その中に入っているサヴァイヴァル・ナイフをポケットに入れる。
「命の保障は、するか?」彼女はおずおずと訊いた。
「勿論。別に敵兵狩りやってるわけじゃないし。じゃあ、とりあえずナイフ出して」
 彼女は地面に、パラシュートと自分を継ぐ紐を切ったであろうナイフを突き立てた。
「交渉成立だな。俺はキョウスケ・アズマ。中尉だ」
「……オリガ・ニコライエヴナ・ザパドノポリェワ大尉」
 名前、正確には階級を聞いた瞬間、アズマは突き立てられたナイフを引き抜く手を止めた。
「階級俺より上かよ。これは、失礼しました」
「いきなり恭しくなるな、疲れる。さっきまでの対応でいい」
「ラージャ、大尉」
 彼らはその手を取り合った。

257:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:18:42 1Xsm51ok

「あれ? 壊れてんのか?」
「どうした?」
 アズマは自分の救難無線機で連絡を取ろうとしたが、それが動かなかった。ビーコン波は出ているようで、それを確認する発光ダイオードは普通に点滅している。
 ここは胆振県八雲町の小さな神社の本殿だ。周囲に民家は無い。民家跡ならあるが。神社の背後は森だ。雨に濡れたハーネスや上着は床に広げてある。しかし乾く当ては無い。
「通信機が壊れてるっぽい。おばあちゃんの45度スパンキングでも反応無しだ」
「何だそれ? ん、Дерьмо(くそ)! こっちのは電池が液漏れだ。まったく、運が悪いなんてものじゃない」
 ザパドノポリェワも通信機を動かしていたが、それも壊れていた。電池がやられているのでビーコン波すら出せない。
 結局アズマは神社に放置されていた傘を自分の発信機にかぶせてそれを鳥居の下に置いた。
 救難無線機はその位置を周囲に伝えるための発信機の役割と、救助隊との連絡手段という役割を持っている。その内の連絡手段が封じられていた。
「このあたりの住人はみんな避難したみたいだしな、勝手に上がり込んで電話か何かを使うのも気が引ける」
「別にいいだろう。非常事態だ」
「あのなあ、あんたの国とは訳が違うんだ。ここは俺らの国で、住民は殆どがその国民なんだよ。制式に徴発しないと使えないんだ。あーあ、公衆電話くらい無いかな……」
「あっても使えないだろう。まったく発想が貧弱だな」
 通信機を脇にやり、アズマはザパドノポリェワを見る。
「はっきり言うね……」
「……アズマ、と言ったな。お前は私を捕虜にして、どうしようというんだ?」
 思いもよらない質問に、アズマは答えに窮する。
「敵から情報得る、というのは分かる。だが、自分の身の安全とそれとを天秤にかけたら、自身をとるだろう。明らかにお前に敵意を持っている私を確保しておくのは、無駄だ」
「本当にそうかな」
 アズマは反論する。
「少なくとも、俺はあんたを助けて正解だと思うけどな。あんたを捕虜として扱うのは、ただ俺が軍人っつー身分だって理由だけだ。別に恨みとかは無いよ」
 彼女は何も言わない。
「あとは、そう、俺が与えた怪我だし、そこらへんは俺が責任取らなきゃな。そうじゃなくても、目の前に怪我した女性が居れば、敵味方関係無く助けただろうし」
 あの後アズマはザパドノポリェワに応急の手当てをした。その間も敵意の視線は向けられていたのだが、彼はそれをあえて無視して止血をしたのだ。
「軍人失格だな」
「よく言われる。大学でも同じ事言ったら『敵を殺さずに何のための軍人だ』ってな、先生方にも生徒にも。殺したら殺したで『人道』がどうのこうの言うくせに」
 ザパドノポリェワはアズマを見る。
「大学? 生徒? お前は軍人じゃないのか?」
「即応予備役さ。一度軍人辞めて、あんたらが攻めてくるまで大学で軍事学を教えてた。で、俺のゼミの生徒に、北海道の出身の連中が結構居る。あいつら何やってるかな」
 アズマは格子の外を見る。1524時。そろそろ日が傾きかける頃だろうか。
 その様子を、ザパドノポリェワは多少の罪悪感を込めて見た。そして不意に、ある事に気付く。

258:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:19:22 1Xsm51ok
「……アディーン・シェスティ・シェスティ」
 アズマの左肩。そこに、部隊のエンブレムがある。その下に、「24-8166」と刺繍してある1枚の布が貼り付けられていた。
「うん?」
「お前、機首番号が166の、カナード翼の付いた機体に乗っていなかったか?」
 アズマはその番号を復唱する。確かに、愛機の機首には166という番号が書かれていた。機体番号は24-8166だ。そして機体にはカナード翼が付いていた。
「なんだ、あんた俺の機体番号知ってるのか? これ、尾翼に書いてある番号なんだけど」
「……信じられん……。私を落としたのは、もしかしたらお前かもしれない」
 それは軽い驚きだ。アズマにとっては。ザパドノポリェワにとっては強烈だった。
「あんたは何に乗ってたんだ?」
「382のJ-27Aだ」
 アズマは自身の落とした機の番号まで確認しなかった。だがその機体の名前、J-27Aに反応する。彼が落としたJ-27Aは1機だけだったはずだ。
「もしかして、上が蒼くて下が灰色の塗装の機体じゃないか?」
「……そう、だ」
「マジ? 俺にミサイル撃った?」
「ああ」
「ひと月くらい前、俺に落とされた?」
「落とされてはいない! 右の尾翼を失っただけだ!」
「そうだっけ。いや何とも、凄い偶然だな。ははっ、世間ってのは狭いな」
 アズマは旅行先で友人に会ったときのように喜ぶ。それを見て、ザパドノポリェワは言う。
「お前は本当に軍人らしくない! お前みたいなのがあんないい機体に乗ってるなどとは、空の戦士に対する冒涜としか思えん!」
「ひでえなあ。まあいいか。俺の機体な、あれ、ヨンマルシキ・ニジュウニゴウ・イ・セントウキ、愛称を『ホウフウ』ってんだ。言い換えると『Type 40 F-22A』かな?」
 彼は指でその形を描きながら言う。
「機動性はあんたの『鶴』よりもいいって話だ。まあ、あんたのは『鶴』ってよか『猛禽』だけど」
「『猛禽』はお前の方だ」ぼそりと、彼女は呟くように返す。
 彼は不意に聞こえた言葉に目を向ける。そして微笑み、言った。
「お褒めに預かり光栄です、大尉」
「ああ。……いや、あの、お前じゃなくお前の乗る機体がそうだって事でな……」
 彼女は顔を真っ赤にして手を振る。それにアズマは笑い出す。
「なっ、何がおかしい!」
 ザパドノポリェワは真っ赤なまま激昂する。だが彼は笑ったまま、違うと言い、続けた。
「あんた、俺を軍人っぽくないって言ったけど、あんただってそうだぜ?」
「は?」
「あんた、かわいいよ。顔だってキレイだし、やっぱ美人は表情が豊かじゃないと」
 充分赤かった顔が、更に赤くなる。そして身を乗り出して叫ぶ。
「な、何言ってるんだ! 私は敵だ! 敵に対して……」
「それとこれとは関係無いって。美人は美人」
 反論した体勢で、彼女は彼を睨む。
「怒った顔もかわいいなんて、あんた反則だって」
 彼女は下を向く。そしてアズマに背を向けた。
「もうお前など知らん!」
 アズマはそれに苦笑すると、通信機の修理を始めた。
「……スパスィーバ」
 ザパドノポリェワはふと呟く。
 彼女自身、美人といわれた事は何度もあった。軍人になってからはしかし、そういわれる事も少なく、また彼女自身性別を関係無くして同僚と勤務中の付き合いをしていた。
 好意的に言われる事に対して、いつの間にか抵抗が出来てしまっていた。それを彼女は無性に悲しく思う。
 だが「ありがとう」と言ってから、やはり恥ずかしさがこみ上げてくる。
「何か言ったか?」
「何でも無い!」
「おいおい、何怒ってんだよ」
「何でも無いと言っているだろう!」
「はいはい。……どういたしまして」
 彼女は振り返る。
「……聞こえてたのか?」
「一応な。『スパスィーバ』って、『ありがとう』って意味だろ?」
 彼女は何も言えなくなる。頭を抱え、再び背を向けた。

259:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:20:52 1Xsm51ok

 雨は止まない。遠雷のような戦闘機の爆音は1時間も前に聞こえなくなり、たまに爆発音が間延びして聞こえてきた。南の方で戦闘が繰り広げられているのだろうか?
 日が暮れてきた事で更に気温が低下する。アズマは出撃の前に見た地上天気図を思い出す。津軽海峡を停滞前線が横切っていた。秋の長雨だ。
 彼はとうに通信機の修理を投げ出していた。どういう衝撃が加わったのか、基盤が真っ二つに割れていたのだ。発信機部分は無事だが、最早ジャンクである。
 ザパドノポリェワの通信機は電池の液漏れが起きており、しかもその液がいろいろな部分に浸透していた。ジャンクにすらならない。
 アズマは壁に寄りかかり、口笛でいろいろな曲を吹いていた。また、ひとつの曲を吹き終わる。
 不意に、肌を摩る音を彼は聞く。彼は、鞄を枕にしているザパドノポリェワを見た。レスキュー・シート、つまり紙のような薄さの熱遮断シートが僅かな光を反射している。
「寒いのか?」
 彼女が彼を見る。レスキュー・シートの隙間から入る風。さぞ寒かろうに。
「お前に心配されるいわれは無い」
「あるよ。あんたは捕虜。俺は人権条約だか戦時人身条約だかで捕虜を丁重に扱う義務があるんだ。あんたが体調を崩してこっちを訴えられても困る」
 当該条約の捕虜条項では、捕虜の待遇を事細かに規定している。条約の批准国はこれに則らなければならない。
「しかし、お前は条約を遵守しているわけではない。私が許可した事だが、お前は私を上官として扱っていないではないか」
 捕虜は軍人である必要がある。軍人にはその指揮系統上階級が存在し、捕虜はそれに則した扱いを受ける権利を有する。
「上官として扱われる権利の一部を、あんたは捨てただろ。そんなあんたに条約の遵守云々について言われたくはないな」
 彼女は言葉を発しない。論では勝てない事が分かったようだった。
「あんたに傷を負わせたのは俺だ。出血だって、まだ完全には止まってないと思う。そのせいで失血死なり凍死なりされたら、俺の夢見が悪すぎる」
 ザパドノポリェワはアズマを見た。真剣な顔で、彼は目を合わせる。
「だから、死ぬな」
 彼女は顔を背けた。
「あれだけ、私の国の航空機を落としておいて、よく言う」
「機上から見る分には、生身じゃないからな。まあ、かなりの人数殺してるってのは自覚してる。だからって、目の前の今会話してる奴が次の瞬間に死ぬのを、俺は耐えられない」
「自分勝手だな」
 その一言に、彼は微笑む。
「そうさ。死なせたくない奴のためなら、俺は出来る事の全てをやるつもりだ。だからさ、俺を頼れ」
 ザパドノポリェワは起き上がり、壁にもたれる。
「では、緊急事態になったらそうしよう。でも私はまだ余裕がある。その状態で『頼れ』といわれても、了承は出来ない。それとも、捕虜の主張は受け入れられないか?」
「とんでもない。オーケイ、折れるよ。あんたの心情を尊重しよう」
 彼はそう言いつつ、鞄を引き寄せる。
「でもとりあえず、これ持っとけ」
 アズマは鞄から救命保温具と書いてある薄い袋を取り出してザパドノポリェワに投げる。
「何だこれは?」
「袋から出して、出てきた袋を揉んでやれば段々あったかくなるものだよ。振ってもいい」
 彼女は言われたとおりにそれを扱う。
「なるほど、確かに熱くなってきたな」
「だろ? 冬場は重宝するんだよな。さて、話もひと段落したし、ここらでメシといかないか? いい時刻だ」
 ザパドノポリェワは「メシ」という言葉に無意識に反応する。先ほどから空腹を訴える音は互いに聞こえていたが、今のは一切大きかった。彼女は硬直したままだ。
「訊くまでもないみたいだな」

260:A/B ◆iok1mOe6Pg
07/09/26 10:23:33 1Xsm51ok
 アズマは鞄の中から戦闘糧食の入った袋を取り出す。取り出した袋には「38式救命糧食・6食分」というレーヴェルが張ってある。アズマはそれを持ってザパドノポリェワに歩み寄る。
「隣座るぞ」
「なぜだ」
「あんたとよく話したいから」
「……」目を見開いてザパドノポリェワはアズマを見た。「……理由になってない」そう言って彼女は眉間を寄せる。
「なんだよ。明確な理由だ。向かいの壁だと、暗さと距離であんたの顔が見えにくい」
「別にいいだろう」
「駄目だね。会話は、互いの顔を見ながらやるもんだ。そうじゃないと、互いを理解出来ない」
「しなくていい」
「俺は理解したい。あんたを」
 彼女は顔を逸らす。
「……好きにしろ」
「オーケイ。じゃあ、隣りな」
 言ってアズマはザパドノポリェワの左側に腰掛けた。
「んでさ、これ、俺の国のレーション(戦闘糧食)なんだけど、あんたのは?」
 彼女は渋々と自分の用具入れから箱を取り出した。「В」と大きく書かれている濃緑色の小箱だ。彼らはそれぞれ持ち物を開ける。
 38式救命糧食の袋を開けて最初に出てくるのが、通称「がんばれ紙」というプリントだ。
 「がんばれ! 元気を出せ! 救助は必ずやって来る!」
 この文面で始まるそれを由来として、代々の救命糧食は空軍パイロットの間で「がんばれ食」と呼ばれている。
「そんなのが入っているのか」
 ザパドノポリェワは紙を見て驚いていた。
 「この救命糧食は、特殊環境においても速やかに心身の疲労を回復し、体力の維持をはかるために製造されたもので、糖類・脂肪・たん白質などの各種栄養素が有効に取れるように配合されています」
 「1食分のカロリーは約270カロリーあり、これを食べると熱とエネルギーを与え、直ちに元気百倍となります」
 この表記を、アズマは気に入っていた。見知らぬ土地、やもしたら外国かもしれない土地で自分の母語に触れるという事は、それだけで心が休まる事である。
「しかし、私のには入っていない」
「その代わりなのか知らないけど、パッケージは楽しいな」
 ザパドノポリェワの救命糧食には、その1食分の袋にコミカルな絵が印刷されているレーヴェルが張ってある。どの袋も違う絵だ。
「パイロットの間でも、これらの絵を集めている奴がいると聞いた事がある」
「へえ。でもこれ、被ったら凹むなあ」
 38式救命糧食の内容は、厚手のビスケットだ。「がんばれ紙」には励ましの言葉の他に糧食の内容も書いてある。
 それによると、「穀類を主原料とした加工食品で、糖質と脂肪及びたん白質を含み、ビスケット風な味と香りを持つ高カロリー食品です」との事だ。
 他方ザパドノポリェワの「救命糧食В[ヴェー]」は、クラッカだ。38式救命糧食と同様に栄養分を調整されており、同梱のジャムを付けて食べるのだという。
 彼らは同時に小袋を開ける。そして2人とも一口食べる。
「美味そうだな。半分くれ。半分やるから」
「何だ、いきなり」
「いや、これ口当たりはいいんだけどさ、ビスケットなだけあってやっぱぼそぼそしてるから、さっぱりしたもの食いたくて。や、ジャム分けてくれるだけでもありがたいけどさ」
 彼らは自分の糧食の半分をそれぞれ交換する。交換した38式救命糧食を一口食べ、ザパドノポリェワは言う。
「確かに、これは水分が欲しくなる糧食だな。個人的には塊がひとつだけ、というのが気に食わない」
「同感。ジャム付けてみたら? 以外にいけるかも」
「塩味が強調されそうな気がするが」
「じゃあ俺がやる」
 アズマは彼女の左膝の上にあるジャムの袋を取った。
「……誰が使っていいって言った?」
「じゃあ左膝に乗せるなよ。ご丁寧にこっちに切り口じゃない方を向けてさ」
 彼女はやはりアズマから顔を逸らした。
「ま、断りは入れとくべきだったな。すまん。で、使っていい?」
「……好きにしろ」
「おう。そうする」
 アズマはジャムをビスケットに塗り始める。
「……いや、少し残しておけ」
 唐突な呟きに、彼は笑う。
「な、何だ」彼女は怒ったような顔を向ける。
「いや、あんた、ホント、かわいいな、って」
 アズマはジャムの袋を彼女に差し出す。それをひったくって、彼女は言った。
「じょっ、上官をからかうのもいいかげんにしろ!」


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