【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】 - 暇つぶし2ch550:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:43:04 2W4pIRPE
 幼馴染のままの関係を脱出すべく私からした告白に、なんとも言えない表情をしつつも彼女は首を縦に振った。
 やや焦った面はあるものの昼に告白した後放課後に私は彼女にデートの約束を取り付けた。
 あまり感情を顔に出さない彼女は無言で首を縦に振り、私とは違う方向へと岐路に着いた。
 携帯なんて便利な物をもっているわけでもなく。彼女の電話番号にさえ掛ける勇気もない私は、
焦燥と浮かれで気付かなかった彼女の確固たる了承を得ていないことに気づき、心の底から不安になっていた。
 待ち合わせ場所と時刻を言った後に首を、軽く揺れるように振っただけなのだ。
 その首振りも見間違いだったかもしれない。もしかしたその後に何か言ったかも知れない。
 私は風呂上がりの後すぐにベッドに飛び込み布団を抱きしめながら激しく身悶えた。
 そうして寝ぐせだらけになって朝日を迎え、頭横に置いていた目ざましの時刻を見て目を見開く。
 もし過去に戻れるとしたら昨日デートに約束を取り付けようとした私をぶん殴り、袋詰めにして海へと流してやりたい。
 何故に一日も冷却時間を置かずに次の日に約束を取り付けてしまったのか、そんなその時の自分にしかわからない疑問を頭の中で延々と繰り返し私は身支度を整え家を飛び出した。
 夏の暑い日差しも焦る私にとっては毛ほどの気にもされず、拗ねた顔で流れる雲に身を隠してしまった。
 空の機嫌も悪くなって着始めた頃に私は待ち合わせ場所のバス亭へとついた。
 その時には彼女も着いていて、白いワンピースに麦わら帽子というさっきまで天気ならさぞ似合っていた格好をした井出達自分が着くのを待っていた。
 昨日の約束は自分の思いすごしでは無かったことに安著した私は、時間より遅れてきてしまったことを彼女に詫びると両手を前でブンブンと振られる。

「……早起きだから」

 ―彼女が早起きだと遅れてきた自分は謝らなくていいのか?

  などと頭に疑問符を浮かべる私を前髪がかかった目で見て彼女は酷く困惑した様子を見せた後、腕に掛けた鞄の中に弁当があることを告げてそのまま首を下に向けて黙り込んでしまった。
 かける言葉が見つからず二人して屋根つきのバス亭から容赦なく降り注ぐ雨をを見つめ、私は傘を持ってきてないことに気づく。
 彼女にそのことを告げすぐに取りに帰ろうとしたが、袖を掴まれて私は両足を落ち着かせて後ろを振り向く。
 そこには精一杯という言葉を体現したように首を大きく左右に振る彼女があり、訳を聞くと折りたたみ傘を持ってきているとのことで私は動かなくていいとうことらしい。
 遅刻に忘れ物と男の面目丸つぶれな私は自分の不甲斐無さに気分を沈めた。
 特に会話もなく日に両手で数えるほどしかないバスが着き、バスの一番後ろの横に四人が並んで座れる場所へと二人で腰かけた。
 バス内はお婆ちゃんやお爺ちゃん数人と子供が一人、自分の町は田舎だしこんなものだろうなと私は思った。
 山々を背景に変わり行く田んぼを眺め、流石にそればかりで首が疲れた私は恥ずかしながら反対側へとおずおずと首を向ける。
 ゆっくりと視界に入った彼女は落ち着かない様子で目を右下へと向けて、椅子の上で指を躍らせていた。
 彼女のそんな行動も分からないほど朴念仁でもない私は、彼女の小さな手の甲に自分の手を重ねた。
 案外ひんやりとした手を覆った途端、彼女は痙攣したようにビクリと跳ね上がりこちらを見つめてきた。
 私としてはクールで物静かな態度でかっこつけたかったが、現実では思うようにいかず彼女の潤んだ瞳に見つめられ私は口を開いた。
 
「嫌だった?」

「……そんなこと、ない。……昨日言えなかったけど、私も明人君のこと昔から好きだったから」

 一気に私の頬は熱くなり、確実に自分は今赤面したのだと確信した。
 なにもこんな所で、と思いつつも私の心は歓喜に震え、頭の中では神輿を担いだ筋骨隆々な男達が私のことを祝いに祝ってくれた。
 前方では年甲斐もなくニヤついた老人達がこちらチラチラと見つめ、お爺さんに至っては口笛を鳴らしていた。彼女もやっと状況を理解したのか、二人ともども赤面した。

551:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:43:25 2W4pIRPE
 重ねた手が絡み合い最終的に恋人繋ぎへと落ち着いたところでバスは自分達の目的地に着き、
どこで降りるかもわからない老人達の好奇な視線を浴びつつ大勢の乗り込んでくる人達と入れ替わりにバスから私達は退場した。
 流石に都会なだけあって、人通りは私達の町とは比べモノにならないほど凄いもので一度逸れたらもう二度と会えないんじゃないか
と思えるほどだった。実際自分は子供の頃に一度それを体験している。
 都会へと踏み込んだことの無い彼女は不安からか恋人繋ぎを解除して一転、腕を絡めてきた。
 彼女の控え目な胸が腕に当たるたびに何か色々と限界を突破しそうになる自分を必死で抑えて目的地へと向かった。
 
 目的地は都内の百貨店の最上階にある映画館で、女っ気の無い私を心配してか義妹がくれたチケットを有効に使うことにした。
 バスから降りたときには雨が降っており地下道を通ることで難を逃れたがそこから出て来た時には雨はすっかり晴れ上がっていた。
 少々残念な気もするが、相合傘は動きづらいだけと友人が言っていた気がする。それでも腕は絡められたままで、童貞の私にとってはそれだけで十分お釣りが返ってくるものだ。
 百貨店内に入ると彼女の服装の印象もかなり変わってくる。麦わら帽子は外して手に持ってマシになっては居るが、この都会の町中人並みだと田舎上がりのオノボリさんに見えてしまう。
 そのある意味目立つ服装に注目を感じたのか心なしか私に回された彼女の腕の力が強くなる。ある意味こちらとしては嬉しいような嬉しくないような。
 映画館内で規格外に高い飲み物とポップコーンを買い席に着く。最初は空いていたが後からワラワラと人が入り始め映画が始まる頃には空き席は一つも無くなっていた。
 映画の内容は私が読んだ本にもよくあった悲愛物で、本でさえ見るたびに涙していた私にとって映像になったそれは私を号泣させるのに十分なものだった。
 
「明人君の泣き顔見れてよかった」

 映画が終わって感想を尋ねてみると、彼女は涙目になった瞳で私に対する感想を何の恥ずかしげもなくそう言った。
 子供の頃は二人して本屋の彼女の家で本を読み漁り、見事なまで双方無言のまま門限まで本を読むと別れの挨拶だけして家に帰っていた。
 今思えば不健康な上に不思議な関係極まりない。
 一通り百貨店内を回り彼女に栞をプレゼントした後、屋上のビーチパラソルが刺さった机で彼女の弁当を広げることにした。
 屋上に上がった時には天気は晴れ晴れとしすぎパラソルで遮ってそれでも光が透過して机を淡く照らす。
 弁当の中身はサンドイッチで、このまま店に出しても大丈夫そうなほど出来だ。
 その感想を帰りのバスで言うと君しか買わないでしょ、と嬉し恥ずかしそうな顔で返してきた。表情の変化が乏しい彼女の珍しい顔だ。
 ハムスターのように少しづつ齧る彼女とは対照的に一つ三口で食べきる私にとっては物足りなさを感じさせたが、
 腹八分目が体にいいとどこかで聞いたような気がしたのでそういうことにした。
 デートコースかは微妙だが、幼い頃からの私達共通の趣味であるため帰りには本屋に寄った。
 田舎の彼女の店とは品揃えも格段に違い、無表情な彼女の顔も僅かながら興奮してるような変化が見られた。
 多分他人が見てもわからないが、そこは長い付き合いの私だからこそだろう。
 胸いっぱいに本を抱えた彼女と乗り込んだ帰りのバスは流石田舎行きのバスだけあって中はスッカラカンだった。

552:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:46:19 2W4pIRPE
幼馴染とやりたいこと書き連ねて溜まったものを物語風にしてみたらこんなになった。
お互いのことは隅々まで理解しときながらもエッチまではいかずプラトニックな関係が理想です
でわ。

553:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:49:46 F+RW9TBd
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!

筋骨隆々ではないが、祝わせてもらおう。

GJ !!

554: ◆U3SZPcxj.U
07/12/24 16:59:02 KKgFLKaW
クリスマスネタ投下します。

保管庫にある1/365というSSの続き。
前作を読まなくても内容はわかるようになっています。
エロ無し、長文注意。好みでない方は、スルーをお願いします。

他の投下の作者様にかぶせてしまう形で申し訳ありませんが、クリスマスイブなので許してください。

555:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:00:20 KKgFLKaW
 12月21日。

 そうだな。
 世の中には色々な幼馴染みの形があると思う。
 親友もあるだろうし、ロマンティックな恋人の関係もあるだろう。

 オレにとって上原優希は、ちょっとバカで気のおけない、小学一年生のノリそのままで付き合える親友だった。

 「ごめん」の一言で解決しないケンカなんてなかった。
 口にできない言葉なんてなかったし、言葉にならない想いなんてありはしなかった。
 つまるところ、オレはあいつのことをいつまでもTシャツと短パンで走り回っていたガキンチョのままだと認識していたのさ。

 時は過ぎ、いつの間にかオレ達はそれぞれに青い季節を迎え、互いに知らないことが増えていった。
 貧乳の出目金とこきおろすのがもっぱらだったあの男女は、いつの間にか目元のぱっちりしたスレンダー美人という定評を得た。
 オレの方はといえば小学生以来の「アホ」という称号に「スケベ」「へたれ」という不名誉なタイトルが加わわり、負の三冠王に輝くのが精一杯という有様だった。

 クラスの誰にでもかまわない。優希の評判を聞いてみるがいい。
 可愛らしくていつも明るく、スポーツもできて勉強もできる。それでいて気取ったところもない……。
 おそらくステレオタイプの「身近なアイドル」の評価を聞けるだろう。
 実際、そうに違いないぜ。天真爛漫な笑顔と気さくなキャラクターは、親しみやすいクラスのアイドルそのものだ。


 「ねえねえ、純一っ。あたし、また告白されちゃった」
 高校一年生の時に陸上部のキャプテンに告られて以来、優希は律儀にもそんな報告をオレにするようになった。
 そして、何かを期待するようなキラキラした目でオレを見てくる。
 「……告発されちゃった? それは大変だな。実刑が出ないように祈ってるぞ」
 「違うよ。告白されちゃったって言ってるんだよ」
 「独白されちゃった? そいつは面倒くさいな。聞いている振りして頷いておけばいいんじゃないか」
 「……耳が遠いの? おじいちゃん」
 「ちぇっ。聞こえてるよ。告白されたんだろ?」
 白い目で見てくる優希に向かって、オレは手を振って言った。
 「それで、オレにどうしろっていうんだ?」
 「あたし、どうすればいい?」
 優希はいつも真っ直ぐな瞳でオレを見つめてくる。
 「そんなこと、オレに聞いてどうするんだよ。オレが断れって言ったら断るのかよ?」
 「うん」
 「じゃあ、オレが付き合えって言ったら付き合うのかよ」
 「うーん……」
 幼馴染みは考え込んだ。
 「ふん、だったら断ればいいじゃねえか」
 面倒くさくなってオレが投げやりに言うと、
 「うん、そうする!!」
 クラスの身近なアイドルは顔を輝かせて頷いた。

 ……ちぇっ。この女の考えてることはまるでわからんな。

556:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:01:09 KKgFLKaW

 「─なぁ、浅野」
 オレがある日の放課後帰宅しようと席を立った時、声をかけてきたのはクラスメイトの男子生徒である八木だった。
 「おまえ、上原と仲が良いんだろう?」
 「そうだな。仲が良いという見方もできるかも知れんな」
 オレが言うと、八木は言い出しにくそうな様子を見せていた。
 「なんだ、優希がどうかしたのか?」
 「その─、上原って、彼氏いるのかな?」
 奴はもじもじしながらやっと言った。
 「オレの知る限りでは、いないな」
 「そ、そうかっ」
 八木の顔がぱっと明るくなった。
 「で、その……」
 と、再び奴はもじもじと身をくねらせる。男のくせに気持ち悪い野郎だな。
 「浅野は、上原のことをどう思ってるんだ?」
 オレは、不意をつかれて口ごもった。
 「どうって……、言われても」
 「上原のことが好きなのか?」
 八木は真摯な瞳でオレを見てくる。
 「ば、バカ。そんなわけないだろ。誰があんなバカ女……」
 「そ、そうなのか?」
 「おうよ、こっちからお断りだ。あんな貧乳女、洗濯板代わりが良い所だぜ。がさつで乱暴で口は悪いし、女らしさっていうものがまるでない。私服になったら男だか女だかわからないぜ」
 「そ、そうか」
 オレのまくし立てに若干困惑気味ではあるが、八木は安心した様子を見せた。
 「じゃあ、悪いが上原に俺を紹介してくれないか?」
 「……な、なんだって?」
 オレは絶句した。
 「俺、上原のことが好きなんだ。でも、なかなか話しかけるきっかけがないんだよな。幼馴染のおまえの方から紹介してもらえないか?」
 八木は手を合わせて頭を下げた。
 「や、やめとけよ」
 オレはやっと言った。
 「あんなアホと付き合ったら大変だぞ。デリカシーはないし思いやりもない。おまえみたいな奴はせいぜい締め上げられて尻に敷かれてたかられて、泣くのがオチだぞ」
 「そ、そうか?」
 「そうだよ! あいつと来たら屁はくせぇし、いつも大股開いて座ってやがるし、腹も出てるし足も太い。家に帰ったら百年の恋も冷めるぞ。いつもいつもオレの背中をどつきやがって─」

     どんっ!!

 「─そうだよ、こんな感じに……」
 はっとなって振り返り、オレは目の玉が飛び出した。
 「足が太くて悪かったわね……」
 そこには、大魔神のようにまなじりを吊り上げた親愛なる幼馴染みが立っているのだった。
 「げ、優希……」
 「げ、じゃないわよ。人のいない所で散々悪口を言ってくれちゃって……」
 不機嫌そうな優希。
 八木が肘でオレを小突いた。
 ちっ、アイコンタクトしなくたってわかってるよ。


557:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:03:26 KKgFLKaW

 オレはコホン、と咳払いした。
 「優希」
 「なによ?」
 「─ここにいる八木が、おまえのことが好きなんだってよ」
 「お、おいっ」
 八木は顔を真っ赤にしてオレに掴みかかる。
 「性急すぎるだろっ」
 「別にいいだろ。さっさと済ませればいいじゃねえか」
 「……で? あたしにどうしろって言うの?」
  優希はさらに増して不機嫌そうな表情になっている。
 「八木のことが気に入ったら、付き合ってやれば」
 オレはぶっきらぼうに言った。
 優希の顔は悪鬼のようになった。
 「あーそう!! じゃあ、八木くんと付き合っちゃおうかなぁ!!」
 可愛くない幼馴染みはオレに顔を近づけると、あてつけのように大声を出し
て言った。
 「良かったじゃねえか。おまえと付き合ってくれるようなマゾヒストがこの
世に存在しててくれてよ!!」
 「はん! 純一と付き合ってくれるようなマニアは当分出て来ないかもしれ
ないけどね!!」
 思い切り顎を突き出してくる優希。くそっ、なんて可愛くない女だ。
 「ちっ、好きにしやがれこのアホ!!」
 「いいよ!! 八木くんと付き合ってやるよ、バカ純一!!」
 「あーそうかい。良かったな、八木!!」
 空中で火花が飛びそうな勢いて睨みあうオレと優希。
 オレ達は同時に「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。優希はどかどかと大
きな足音を立てて歩き去って行った。ちっ、このガニマタ女。
 ふと見ると、八木がうらめしそうにこっちを見ていた。
 「─良かったな。付き合うってよ」
 「アホ、あんなの口だけに決まってんじゃねーか。鈍感ヤローが。おまえに
頼んだ俺がピエロだったよ……」
 八木は肩を落として歩き去った。
 ちっ、どいつもこいつも……。

 もう誰でもいいから、男と付き合っちまえよ、優希。
 そして、頼むから馴れ馴れしい態度でオレのそばにいるんじゃない。
 そうじゃないと、オレは……。

 ちぇっ、くそっ。



558:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:04:01 KKgFLKaW

 12月22日。

 次の日オレが帰宅しようと下駄箱に降りていくと、そこには優希が立ってい
た。
 「どうしたんだ?」
 「待ってたんだよ、純一を」
 そう言って、生意気で可愛らしいオレの幼馴染みはにやっと笑った。そこに
は、昨日の怒りやわだかまりは微塵も残っていない。
 「純一、ショッピングに付き合ってよ」
 それは、いつもの天真爛漫な優希だった。
 この女はまるでわからんな。笑ったと思ったら泣き、泣いたと思ったら次に
会った時には喜んでいる。
 要するに、優希はまだまだその場の感情のみで動いているお子様だっていう
ことなのさ。そうだろ?
 オレは、いいぜ、と言った。


 「─明後日はクリスマスイブだよ、純一」
 浮かれた装飾にあふれた街を歩きながら、優希は言った。うきうきとした雰
囲気に影響されたものか、その顔は明るい。
 「そうだな」
 「昔は、家族ぐるみでクリスマスをしたね」
 優希は空を見上げて言った。
 「ああ。おまえがうちに来て、オレと母親と、時にはふたりの親父も入って、
ささやかなパーティーをしたな。いつから止めちまったんだっけな」
 「中学一年生が最後だよ」
 優希は即座に言った。
 「純一が止めるって言い張って、それで中止になったんだよ」
 「そうだったかな……?」
 「クラスの女の子にからかわれて、それで怒っちゃってね……」
 オレは頭をかいた。
 「そんなこと、あったっけ……。中学一年生だから、きっと恥ずかしい時期
だったんだろうなぁ」
 「─からかったあの子、本当は純一のことが好きだったんだよ」
 ぽつり、といった感じで優希は言った。
 「へえ?」
 オレは忘却の彼方に去ってしまった女の子の顔を思い出そうと試みたが、ど
うにも浮かび上がってくる気配はなかった。
 「後であたし、謝られたんだ。知らなかったでしょ、純一?」
 知るも何も、その女の子の存在すらオレは忘れてしまっていたが、そんなこ
とがバレたら何を言われるかわからないのでオレは黙っていた。
 「あの後すぐ転校していってしまったけど、あたしはあの子と約束したん
だ」
 「へえ、どんな?」
 ここまで言っておいて、意地の悪い幼馴染みは笑みを浮かべたまま、
 「内緒だよ」
 と言った。
 ちぇ、最後まで話しきれないなら最初から振るんじゃない。



559:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:04:41 KKgFLKaW
 「─ていうか」
 とオレは言った。
 「そんなことをいちいちよく覚えてるな、おまえは」
 「あたしは純一とのことならなんでも覚えてるよ。初めて出会った日から、
今日までのこと。一日だって忘れたりしない」
 優希は夢見るようで、そして儚げな顔つきでオレを見た。こいつ、こんな表
情できたんだな。
 「純一は初めてあたしと会った日のことなんて忘れちゃったでしょう?」
 「ふん、忘れるはずなんてないさ」
 「ウソ。絶対忘れてるよ」
 「忘れてなんかいないさ」


 優希。おまえと出会ったのは、そう、小学一年生の冬。ちょうど今頃だった
な。
 オレの家の隣に引っ越してきたのが初めての出会いだった。
 まだ内気な少女だった優希は父親の後ろに隠れて、ロクに挨拶もできなかっ
たのを覚えている。
 あんまりいつも静かで話さないものだから、その、なんだ、オレは最初の頃
少しいじめてしまった……。
 母親を早くに亡くして、いつも昼間ひとりでいたことが関係しているのかも
知れなかったが、、あの頃の優希は何を言われてもうつむいて無言でいる内向
的な少女だった。
 今思うと信じられない話だが、とにかく優希は無口で物静かだった。
 一体誰のせいでこんながさつな女に育ってしまったのだ?
 ……まぁ、それはいい。
 あれは、クリスマスイブの夜だった。
 隣の上原家からとんでもなく大きな泣き声が上がり、続いて、ドアが勢い良
く開く音がした。
 遠ざかっていく小さな足音。
 こうして、よりによってクリスマスイブの夜に優希の奴は失踪しやがったの
さ。
 ウチの両親も一緒になって探し回ったのだが、優希は見つからなかった。引
っ越して間もなかったから、優希自身も土地勘がなく、迷ってしまったものと
思われた。
 だが、子供のことは子供が一番良くわかっている。
 そう、優希を見つけだしたのは、オレだったんだ。

 …………………………。


 「─どこで、見つけたの?」
 優希に訊ねられ、オレは返答に詰まった。
 「……どこだっけ?」
 幼馴染みは肩をすくめた。
 「ほら、忘れてる」
 「こ、これはほら、度忘れってやつだ。そのうちに思い出すよ」
 オレは慌てて取り繕うように言うが、優希は呆れたような、諦めたような顔
でオレを見るだけだった。
 「あと2日のうちに思い出してくれないとダメだよ」
 「2日? なんでだ?」
 「そうしないと、手遅れになってしまうから……」
 優希は小さな声で言った。
 手遅れだって? 何を言っているんだか。そんな昔の話、そのうちに思い出
せればそれでいいはずさ。



560:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:05:12 KKgFLKaW

 「ねえ、何かクリスマスプレゼントを買ってよ」
 と優希は言った。
 「金欠高校生のオレに何をねだっているんだ。そんなもん、告発してくれた
ボーイフレンドにいくらでも買ってもらったらいいだろうが」
 「ボーイフレンドじゃないもん。それに、告発じゃなくて告白だって言って
るでしょ」
 優希は遠くを見ながら、
 「あたし、純一からの贈り物が欲しいな」
 と言った。
 「あいにくとオレはロマンティストじゃないんだ。そんな洒落た演出なんて
このオレに期待するだけ無駄だぜ。映画の見過ぎだよ」
 優希は笑った。
 「純一は今年のクリスマスイブ、きっとあたしに最高のプレゼントをくれる
よ」
 指をオレに向けてビシリと差す。
 「ドーン!!」
 おまえは喪○福造か。残念ながら、世の中はそんなに甘いものじゃないんだ
ぜ。
 オレ本人がやらないと言ってるんだから、やらないのさ。
 間違いなんかあるはずがないぜ。



561:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:05:46 KKgFLKaW

 「─それで結局、八木の奴はお断りしちゃうのか?」
 「当たり前じゃん」
 優希はこともなげに言った。
 「もったいねえな。次から次へとバイバイしてたら、男が寄り付かなくなっ
ちまうぞ?」
 「フン、別にいいよ」
 この話題になるときまって幼馴染みは面白くなさそうな顔をする。最近は特
に、情緒不安定だな。生理か?
 「男にもてて、結構なことじゃないか。オレなんて浮いた話のひとつもない
んだぜ?」
 オレが言うと、優希は何を思ったか、胸を張った。
 「あたしがいるじゃん!!」
 「ははは」
 「……な、なによ、今の乾いた笑いはっ!!」
 「オレとおまえじゃ、誰が見たって兄妹にしか見えないぜ」
 オレが言うと、むっとした顔になる優希。
 「なんであたしが純一の妹扱いなのよっ!!」
 「そんな貧乳の幼児体型じゃあ、絶対に年下に見えるさ」
 オレがからかうように言うと、優希は意地になったようだった。
 「むう。こうすれば、絶対に恋人同士に見えるよっ!!」
 「あっ、バカっ」
 何も考えていない幼馴染みは、オレの腕を取ると、それに抱きついてきた。
 「や、やめろっ」
 オレは突然の凶行に慌てふためき、腕を振り解こうとするが、確信犯である
優希はがっちりとしがみついたままだ。
 「どうだ、まいったか!」
 幼馴染みは楽しげに目を細める。
 「誰がまいるか、バカ」
 オレは一瞬考え、
 「……天保山、てところか」
 と言った。
 「なによ、それ?」
 きょとんとした顔をする優希。
 「日本で一番低い山」
 オレが答えると、彼女は無言でオレの頭をばしっとはたいた。
 「もっとちゃんと触りなさいよ、ほらほら」

     ぐりぐり

 「や、やめんかアホっ」
 胸の隆起をオレの二の腕に押し付けてくる。な、何を考えてるんだこのアホ
女。
 「ほらほら、これでもDカップは一応あるのよ。着痩せするだけなんだって
─」
 そんな情報いらん!
 まったく、こんな胸に、誰が参るというのだ。くそっ。

 い、意外に……、胸、でけぇじゃねえか。けしからんぜ。まったくけしから
ん……。



562:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:07:20 KKgFLKaW

 「あー、君達、公衆の面前であんまりやりすぎてはいかんよ」
 オレ達に声をかけてきたのは、中年の警官だった。
 そりゃあ、街中で乳さわり(?)を公然と行っていたら声もかけようというも
のだ。
 気付けば、オレ達は周囲の視線を一身に集めていた。
 「す、すみません……」
 すっかりと恐縮して頭を下げる優希。
 「けっ、ちびっちゃいものをちびっちゃいと言っただけじゃねえか」
 オレはそっぽを向いて言った。
 「こ、こらっ。純一、ちゃんと謝りなさい」
 警官を見ると条件反射で反抗したくなる困った体質のオレは、「けっ」とも
う一度吐いた。
 「す、すみません……」
 すっかり常識人サイドに立った優希はオレの代わりに頭を下げる。
 「はは、いいんだよ。仲が良いのはいいことだ」
 クリスマスシーズンという時節柄もあるのかも知れない。人の良さそうな中
年警官は笑って言う。
 「ありがとうございます」
 他人の前では意外に人当たりの良い優希はそつなく笑顔を作る。
 「これからも姉弟で仲良くしてくださいね」
 警官は言った。

 あ……っ

 、とオレは思った。

「誰が姉弟だ、この節穴っ!!」

     どすっ

 優希は条件反射的に警官の股間を景気良く蹴り上げた後、しまったという顔
をして口に手をあてた。
 オレは顔に手をあてた。
 このバカが。そんなに怒る必要なんて、どこにもないじゃねえか。

 ………………………。

 ……優希、おまえはそんなにオレと姉弟に見られるのが嫌なのかよ?




563:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:07:51 KKgFLKaW

 12月23日、日曜日。

 その日は、朝から冷たい雨が降っていた。
 オレは昼ごろにゴソゴソと起き出し、居間のテーブルに座ると、頭をぼりぼ
りと掻きながら、
 「母ちゃん、飯」
 と言った。
 「台所にあるおにぎりを食べな」
 母はアイロンをかけながら言った。
 オレは台所から皿を持ってくると、無言でおにぎりを頬張っていた。
 「─純一」
 母は言った。
 「最近の優希ちゃん、浮かない顔をしていることが多いね」
 「そうかい」
 オレは一フレーズで会話を打ち切ると、黙っておにぎりを口に運び続けた。
 「優希ちゃん、最近よく丘の上の造成工事現場に顔を出してるんだって」
 オレの母は、一度言おうとしたことは、相手がどんな反応を返そうとも言い
切る胆力の持ち主だった。

 今年に入ってから始まったこの街の再開発計画は順調に進み、長い間手つか
ずだった雑木林の茂る小高い丘にもその波が迫り始めた。
 先月くらいから、ブルドーザーが入って次々と伐採を始めたという。
 「なんだ、土方仕事にでも憧れてんのか?」
 「アホ。よくわからないけど、工事の中止を頼んでいるらしいよ」
 「何考えてんだ、あのバカ。頼んだくらいで開発計画が止まるとでも思って
るのか?」
 「優希ちゃんにバカなんて言うんじゃないの。あんた、何か心当たりでもな
いの?」
 「心当たりか……」
 昔からずっと住んでいるオレ達にすれば、街が急激な変化を遂げていくのに
は一抹の寂しさがある。
 だが、それも時の流れというやつだ。
 とは言え、優希があの丘に人一倍の思い入れを持っていたとしてもおかしく
はない。
 あいつは昔から何か悲しいことやひとりになりたいことがあると、必ずあの
丘にひとりで登っていた。
 ひとりになりたい時とはつまり、いつも相談相手になっていたオレとケンカ
した時に他ならないわけだが。



564:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:08:24 KKgFLKaW

 「優希ちゃんを守るのは仮面ライダージュンイチの役目なんでしょ」
 母は言った。
 「ちぇっ。そりゃガキの頃の話さ」
 「今だって十分ガキでしょうが」
 母の言い草はいつだって容赦がない。
 「今の優希にはいくらでも王子様の立候補者がいるんだよ。
 間抜けなヒーローの出る幕なんてありはしねえんだ」
 「このバカ息子が、女の子の気持ちがわからないような木偶の棒に育てた覚
えはないよ。
 ガタガタ言ってる暇があったら、さっさと優希ちゃんを元気づけてきなさい。
 それがあんたの唯一の存在意義でしょうが」
 「実の息子と近所の女の子のどっちが可愛いんだ、あんたは!?」
 「優希ちゃんに決まってるでしょうが。ほら、さっさと行け。今日も丘に行
ってるみたいだよ」
 「この鬼母が……」

 オレは半ば追い出されるようにして、雨の降りしきる十二月の外へと足を踏
み出した。


 ………………………。

 ああ、わかっているさ。

 優希は、オレに好意を持っている。
 だが、それは幼馴染みとしての延長線上にある感情だ。

 オレ達、変わってしまったんだ─。

 優希。おまえはいつまでもお子様のつもりなのかも知れないけれど、おまえ
がオレに言っていること、じゃれついていることは、とてもとても重い意味を
持っているんだぜ。
 みんな、おまえのことが女として好きなんだ。
 子供の頃、一緒に走り回っていた時の「大好き」とは違うんだぜ。
 オレ達、友達以上だけど、決して恋人でもないんだ。
 微妙な関係さ。
 誰よりもお互いのことをわかりあっているし、誰よりも長い時間一緒にいて、
いつでも信頼しあえる。
 けれど、肩を寄せていることはできるのに、もう一歩踏み出して肩を抱くこ
とは決してできないんだ。
 その一歩は近くて、遠い遠い距離なんだぜ。

 なのにおまえは、どうしてそれを簡単に踏み出して来れるんだ?



565:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:08:55 KKgFLKaW

 雑木林が伐採され、地肌が露出を始めている。
 あたりにはブルドーザーが入り、その強力な刃はオレ達の思い出を一瞬にし
てゼロへと還元していく。
 優希は、大人の男ひと抱え分もある大きな石に座って、その光景を黙って見
つめていた。
 「風邪ひくぞ、優希」
 オレは自宅から持ってきたコートを無鉄砲な幼馴染みの肩にかけてやった。
 彼女はこちらを見ると、少しだけ笑った。その笑顔がひどく寂しそうに見え
たのは、オレの気のせいだろうか。
 「工事を止めさせるなんて無理だから諦めろよ」
 オレは言った。
 「オレだってこの場所がなくなっちまうのは寂しいけどさ。いつまでも同じ
ものなんてないのさ」
 優希はオレの目を見た。
 「せめて明日まではここに残っていて欲しいの」
 「明日?」
 「クリスマスイブまでは……」
 「ちぇっ、またそれかよ。クリスマスイブがなんだって言うんだ?」
 フン、と鼻を鳴らすオレ。
 「……純一はあたしと話す時、いつも不機嫌そうだね」
 「そんなことはないさ」
 「そうだよ。いつも『ちぇっ』とか『ふん』って言ってるよ」
 「それは─ちぇっ。なんでもないよ」
 「ほら、また言った」
 優希は笑った。
 ふん。なんでオレが優希と話す時、いつも不機嫌そうかって?
 オレはおまえと違うのさ。
 「いい加減、大人になれよ」
 オレが言うと、優希は不思議そうな顔をした。
 「大人ってなに?」
 「何って、おまえ……、そりゃあ。オレもわからないけどさ」
 「純一、言ってることがおかしいよ」
 「う、うるせえな」


 オレだってわかんねえよ。
 わかんねえけど……、きっと、好きなものをただ好きと言えなくなることじ
ゃないだろうか。
 だってオレ達は、仮面ライダーとお姫様から、ひとりの女と男になってしま
ったのだから。
 その秘密はいつだってオレを苦しめ、無邪気な好意を寄せてくる優希の誘惑
はオレを苛立たせるんだ。



566:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:09:26 KKgFLKaW

 「あたし、八木くんと付き合っちゃおうかな。純一にも言われたし」
 優希は白い息を吐きながらそんなことを言った。
 「ふん、好きにしたらいいだろう」
 「好きにするよ」
 優希は珍しく投げやりな口調で言った。
 「明日、純一に会えなかったらそうする」
 「なんだよ、明日って。なんの約束もしてないだろう?」
 「純一が忘れているのなら、それでいいんだよ。きっと、そうなるべくして
なったんだよ」
 優希は何かを決意したような真面目な顔つきをしていた。そしてその表情は
オレの心をかき乱し、ひどく落ち着かない気持ちにさせるのだった。
 幼馴染みは大石に腰掛けたまま、上を見上げた。

 それは……、一本のもみの木だった。

 今までオレは、明るくて可愛らしくてそのくせやたらと寂しがりやな幼馴染
みに声をかけるために、何度ここを訪れただろう。
 いつも彼女はこの石に座ってもみの木を見上げていた。
 一体この木にどんな信仰を抱いているのか定かではないが、まるで神にすが
るかのように優希はこのもみの木にいつも何かを祈っているようだった。
 オレ達が出会った頃からずっと立ち続ける老木。オレ達の成長も喜怒哀楽も
すべて丘の上から見下ろしてきた祖父のような存在。
 これだって、もうすぐ切り倒されてしまうだろう。優希の気持ちもわからな
いでもないが、仕方のないことなんだぜ。


 「クシュッ」
 優希はくしゃみをした。
 「雨も降っているし、あまり濡れると風邪ひくぜ」
 「もう少し寒くなればきっと雪に変わるよ。明日は雪が降ればいいな」
 「暢気だな、おまえは。そんなこと言ってて、高熱出して寝込んでも知らな
いぞ」
 「大丈夫だよ。クリスマスイブの雪は大好きなの。なんだかとっても安心で
きるの」
 そう言って、優希はまたもみの木を見上げた。
 オレは強引に優希を立たせ、自宅に送っていった。
 なんだか優希は少しだけふらついているような気がした。



567:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:09:57 KKgFLKaW

 深夜の丘の上。
 工事を終えた作業員達が車両の点検を済ませ、帰り支度をしている。
 「……なぁ、ブルドーザーの調子、悪くないか?」
 ひとりの作業員が言った。
 「そうだな。火花が出てるじゃないか。こりゃ修理が必要だな。とりあえず、
電源だけは切っておけよ」
 「オーケー」
 作業員がひとり残る。
 彼が車両の電源を落とそうとすると、携帯電話の着メロが流れた。
 恋人からの電話だった。
 「─えっ!? 今日約束してたっけ!? い、いやっ。忘れてなんかいな
いよ。
 ちょ……っ、明日のホテルキャンセルなんてそんなのないよっ。ま、待て、
話し合おうっ!!」
 彼は冷や汗をびっしょりとかきながらいずこかへ走り去っていった。

     バチバチバチバチバチバチッッッ

 残されたブルドーザーの駆動部から、青白い火花が散った。



568:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:10:34 KKgFLKaW


 オレにはいつも肌身離さず持っている首飾りがある。

 どこで手に入れたものなのか、いつから身につけているものなのか、なぜい
つも身につけているのか、定かではない。

 その首飾りはどこかおかしな形をしている。
 そう、まるで、元々は一つの物だったのを二つに割ったような、そんな不思
議な形をしているのさ。
 周囲の人間には、そんな古くて汚い首飾り、さっさと捨てるように言われて
いるのだけれど、なぜかどうしても捨てることができない。

 何か、絶対に捨ててはならないもののような気がするんだ。理由は思い出す
ことができないのだが、とにかくこれはオレにとってとても大切なもののよう
な気がしてならないんだ。
 そういえば優希がいつも使っている髪留めも、これに良く似ていたような形
がする。

 けれどそんなこと、ほんの偶然に過ぎないんだろうな─。



569:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:11:05 KKgFLKaW

 12月24日。夜。

 「天にまします我らが父よ、アーメン」
 「アーメン」

 なにげに熱心なカトリックの信者である母親に連れられ、毎年24日の夜には
オレは教会へと連れて来られ、神父様のありがたいお話を聞かされることにな
っている。
 自分で言うのもなんだが馬耳東風とはこのことで、どんなにありがたい話も、
聞く者に教養がなければ豚に与えられた真珠も同じだ。
 オレは、まるで話を聞かずに考え事をしていた。
 それは、昼に携帯で交わした優希との会話の内容だった。


 「なぁ、オレとおまえって、今日何か約束してたか?」
 「してたよ」
 優希は即座に答えた。
 「ぜってー、してねえ」
 オレは、反射的に答えた。
 「ウソ、絶対絶対絶対した!!」
 「オレのシステム手帳をなめるなよ。約束関係はきっちり書き込んでるんだ
ぞ」
 「それでも絶対したもん!!」
 「どこで、何時に待ち合わせなんだよ?」
 「そんなこと、もう言わないもん!!」
 「じゃあ、行けねーだろーが!!」
 「だったら、来なくていいもん!!」
 「そこまで言われて誰が行くか、このわがまま女っ!! 寒い中いつまでも
ひとりで待ってやがれ!!」
 「いいよ。いつまでだって、純一が来るまでひとりで待つもん!!」
 「けっ。せいぜい風邪でもひいて正月はずっと寝込んでろ!!」
 「純一はきっと来るもん!!」
 「本人が行かねーって言ってるだろーが!!」
 「この、バカっ!!」

     ぶつっ

 こうして乱暴に携帯は切られた。
 なんて意地っぱりだ。今年から使っているこのシステム手帳にはどんな些細
なことも書き込んでいるんだ。書き漏らしなんてことは絶対にない。
 去年以上前からの約束でもない限り、さ。
 


570:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:11:44 KKgFLKaW

 昨日からの雨はいよいよ激しさを増していた。
 外は暗く、気温は急激に下がっている。

 関係を修復しようとしてかけた電話が物別れに終わった以上、残念ながら今
年のクリスマスはお互いに寂しいものになることが決定したようだ。

 ……………………………けっ。

 バカヤローが……。

 オレも一級品のバカヤローだが、優希も相当のバカだと思う。

 とにもかくにも、仲直りしておけばいいはずだ。そんなに意地を張るまでに
大切なものが今日にあるとでも言うのかよ?
 たかがクリスマスイブだろうが。
 少しだけ浮かれて楽しく過ごしたらそれでオーケーだろ?
 ただそれだけのものであって、それ以上でも以下でもないもののはずだろう
が。


 ………………………………。

 ……まさかと思うが、このクソ寒い中、約束したというどこぞの場所でひと
り待っているわけじゃないだろうな?
 いくらなんだって、そこまでバカなわけじゃないだろう?

 なぁ、 そうだろう? 優希。



571:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:12:28 KKgFLKaW

 「─クリスマスイブというのは特別な夜なのですよ」
 どんな話の流れなのか、神父様は前列の席に座っていた子供と対話する形で
話を行っていた。
 「皆を幸せにしてくれる夜なのです」
 「知ってる! プレゼントをくれるんでしょう」
 子供は、自らの経験をもとに返事した。
 「はは、違いますよ。
 イエス様は世界中の人を幸せにしてくれるけれど、それはお金をくれたり、
手を出して助けてくれることではありません。
 パンひと切れ、ぶどう酒ひと口でも幸せな気持ちになれるようにしてくれる
ということなのです」
 「つまんないの」
 「そんなことはありません。
 あなたは気付いていないかも知れないけれど、いつでもあなたのそばにいて、
笑っていてくれる人がいるでしょう?
 ─それが最高の幸せなのです。
 ほとんどの人は失ってしまってからその大切さに気付くのですよ」
 その言葉を聞いて、オレの胸に何かの違和感が生まれ始めた。
 この言葉、以前にも聞いたことがある気がする。
 すでに爺さんになっている神父様、あんた、もしかするとクリスマスの説教
は一定の周期で使いまわしているんじゃないのか?
 そうだな。
 たとえば、12年前の今日、もしかしてあんた、この話をしているんじゃない
のか。
 次に来る言葉はこれだ。
 「クリスマスイブは魔法の夜なのですよ。人を幸せにしてくれる魔法」

 ─クリスマスイブは、魔法の夜なんだって、神父さんが言ってたぜ。

 忘却の彼方から甦ってきた記憶が収束し、オレの脳裏で像を結び始める。
 この言葉は、オレが自分で言った言葉。
 バカで無鉄砲で、ひどく落ち込んでいた少女に送った初めての激励の言葉。

     がたーんっ!!

 静かな教会の中に響き渡るような大きな音を立てて、椅子を蹴倒し、オレは
立ち上がった。
 周囲の視線が一身に集まるる
 「気でも違ったの、バカ息子?」
 隣にいた母親は目を丸くした。
 「うるせーな。たった今、オレは自分が大バカ野郎だって、気付いたんだ
よ」
 「何を今さら─」
 「オレが自分で気付いたのが手遅れじゃないって、神に祈ってろ、アーメ
ン!!」
 オレは捨て台詞を残すと、教会を飛び出した。

─目指すは、あの丘!!



572:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:12:59 KKgFLKaW

 クリスマスイブの浮かれた街を疾走していく俺の視野は狭窄していく。
 見えているのは、丘の上に一本立つもみの木だけ。
 目の前など確認せずに全力で走る。

     どんっ

 女連れの男に肩をぶつける。
 「いてーな、ちゃんと前見ろっ」
 「うるせえっ。急いでんだよっ」
 走れ。
 急げ。
 一分でも、一秒でも早く着け。
 そしてこのたとえようもない不安よ、止まれ!

 そうさ。
 オレと優希が初めて心を通わせたのは十二年前のクリスマス・イブ。
しんしんと雪の降る聖夜。

 優希が家を飛び出したあの夜。
 ちょうどこんな風に、オレが全力で走った夜。

     ◇

 あの夜、6歳のオレは大人達に混じって夜の街の小さな捜索隊に加わってい
た。
 今思うと見当外れもいい所なのだが、優希の家出の原因は、自分が彼女をい
じめてしまったことだと思ったのだ。
 ひどい罪悪感に駆られ、オレは必死で無口な少女を探し回った。
 一緒に遊んだことのある公園や学校、駄菓子屋を巡回する。
 だが、優希は見当たらなかった。
 ジャンパーを着てマフラーを巻いていたものの、オレの手は冷たさにすっか
りいうことをきかなくなっていた。
 そろそろ諦めるしか選択肢がなくなった頃のことだった。
 オレはふと立ち止まり、丘の上に立つもみの木に目を止めた。
 あそこには一度も行ったことがないはずだった。
 だが今日の昼、あれを見ながら優希が、「あの木はもみの木なの?」と一言
だけ口にしたのを思い出した。
 あまり話すことのない優希だったから、その一言が妙に重いものに感じられ
た。
 オレは本能に導かれるようにして、もみの木の丘へと駆け出し始めた。



573:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:13:39 KKgFLKaW

 街を見下ろすもみの木の横に6歳の優希はいた。
 すべすべとして座り心地の良い、大きな石に腰掛けて街の灯りを見下ろして
いた。
 それはその後、何かあるたびにあいつがいつも座って考え事をしているお気
に入りの石だ。

 「こんな所で何やってるんだよ? みんな、探してるぜ」
 優希は、いつもの静かで暗く何かを背負いこんだかのような表情でオレを見
た。
 「─家に帰りたくないの」
 と、彼女は小さく言った。
 「なんでだよ?」
 「お父さんが、学校に行けっていうから」
 「なんだ、行けばいいじゃんか」
 オレは大変にデリカシーのない発言をした。
 「……」
 優希は黙ってうつむいた。
 「行きたくないのか?」
 彼女の沈黙は、肯定のように思われた。
 「なんで、行きたくないんだ?」
 しばらくの沈黙。
 「……嫌なことをあたしに言って、いじめる人がいるから」
 「ぎくっ」
 オレは胸に手を当てた。
 「あたしにお母さんがいないのをバカにしていじめる人がいるの」
 「……な、なんだって」
 オレはその頃から大バカヤローではあったけれど、そんな人でなしみたいな
ことをする子供ではなかった。
 なぜならオレは、大人になったら仮面ライダーになるのを夢見た自称正義の
味方だったからだ。
 「─そんなクソ共、気にすんなよ。今度やったらオレが退治してやるから
さ。この仮面ライダージュンイチがな」
 オレはポーズを取り、常に装着していたベルトの変身ベルトのスイッチを入
れた。
 するとそれは、くるくると頼りない回転を始めるのだった。
 「本当に、あたしを守ってくれるの?」
 優希は顔を起こして、目を大きく開いてオレを見た。
 「任しとけ。どんな悪党共が来ようとも、オレが叩きのめしてケツの穴から
手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしてやる」
 「純一くん、台詞がヤクザ映画とごちゃ混ぜになってるよ」
 優希は小さく笑った。その安心した顔から、涙の雫が落ちた。
 なんだこいつ、こんな顔で笑えるのかよ。
 知らない街に引っ越してきて、母親もいなくて、そんなに不安だったのか?
 「よし、わかったら、家に帰るぞ、優希。みんな心配してる」
 オレが言うと、優希はまだためらっているようだった。
 「帰るのが怖い」
 「大丈夫だよ。いつだって、何があってもオレがずっとそばにいるから」
 今思い返すと、ずいぶんと過激な発言をする6歳だったものだ。
 だがその時のオレは、要するに家が隣だ、ということくらいの認識でしか話
をしていなかったに違いない。



574:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:14:25 KKgFLKaW

 「うん、わかった。帰る」
 と優希は嬉しそうに言って立ち上がり、オレの手を握った。
 彼女はもみの木を見上げた。
 「─でも、純一くん」
 「なんだよ?」
 「いつでも何があってもずっとあたしのそばにいるって、約束をして欲しい
の」
 「おう、いくらでも約束してやるぜ」
 「証拠は?」
 「オレは約束なんて破らないぜ」
 「そうであっても、信じられるものが欲しいの」
 なんだこいつ、すっかり不信感の塊だな。そんなに不安で不安で仕方ないの
かよ?
 「指きりしてやるよ」
 「そんなんじゃダメ。もっと、形のあるものにしてくれなきゃ」
 「うるせえなぁ。わかったよ。今、形のあるものを用意してやる……」




575:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:15:05 KKgFLKaW

 …………………………。

 ……ああそうさ。

 バカなおまえは、誓いの証を求めた。
 その証は今もあのもみの木の丘に眠っている。
 なあ、優希。
 だからおまえは、いつもあの丘にいたのかよ?
 あの丘を守りたいのかよ?
 寒さに震えながらあの丘にいるのかよ?

 ふたりで街を見下ろしたもみの木の丘。
 ふたりで共有した初めての秘密。
 出会いの思い出。
 あれからたくさんの秘密基地を作って、たくさんの宝物を埋めて、たくさん
の悪戯を含み笑いとともにばらまいてきたな。
 もみの木にはオレ達の十二年を閉じ込めた記憶が眠っている。
 6歳、小学生で知り合った。今、18歳。


 あの遠い日の約束と誓いの証。
 オレは今はっきりと思い出せる。
 だが、あれは子供の時の話なんだ。
 ほんの少しだけれど世の中のことがわかりはじめた今、その約束はあまりに
も重い意味を持つ。

 わかるだろう? 優希。
 ただの幼馴染でいるには、おまえは眩しすぎるんだ。



576:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:15:37 KKgFLKaW

 出会ってから12年後の今夜。

 再び息せき切って駆けつけたオレの前で、優希は12年前のあの時と同じ姿勢
と同じ表情であの石の上に座り、じっともみの木を見上げていた。

 雨はいつしか雪に変わっていた。
 積もり始めた白い雪はすべての音を吸収し、この幻想的な空間に静寂をもた
らした。
 綿雪がしんしんと降り続ける。
 今日は天候不順のため、どうやら工事は中止になったようだ。
 優希だけがひとりこの丘にいて、後はブルドーザーが止まっているだけだ。

 オレは、優希の前に音もなく立った。
 こいつ、まさか朝から待ってたんじゃあるまいな?
 漆黒の髪の上には粉雪が積もっている。

 優希はオレに気付いて見上げた。
 「ね? 約束してたでしょ……」
 愚かな幼馴染みの浮かべた笑顔は太陽よりも輝いていて、オレの胸をまっす
ぐに貫くのだった。



577:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:16:13 KKgFLKaW

 「……待たせたな」
 とオレは言った。
 「遅いよ、バカ」
 口ではそう言っているものの、優希の顔からは怒りのようなものは見られな
かった。
 オレと同じように、どんな態度をとったらいいものか、わからないのかも知
れない。
 オレは時計を見た。午後11時55分。ギリギリ24日の間には到着できたようだ。
 「─どれくらい待った?」
 「そうね。ほんの十二年くらいよ」
 オレは黙って優希の肩にコートをかけてやった。
 彼女の頬に手が触れると、ひどく冷たかった。
 「オレが忘れてしまって、ここに来ないとは思わなかったのか?」
 「純一はきっと来るって思ってた。来なかったら、来るまでいつまででも待
ってるつもりだった」
 「ちぇっ、底抜けのバカだな、おまえは」
 「えへへ」
 なぜか優希は嬉しそうに笑った。
 そうさ。巷では、こういうのを真性のバカと言うんだ。
 真性というのは、手がつけられないバカという意味だぜ。
 口で言ってもわかりゃあしない。
 何度言ったってわかりゃあしないんだから、しょうがない。

 ─ずっとそばにいて、見守っているしかないんだ。

 手がかかることこの上ないぜ。

 本当に……。



578:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:16:47 KKgFLKaW

 オレは、無意識のうちに首飾りをそっと外していた。
 何かに衝き動かされるような不思議な感じがした。
 優希も髪留めを外して同様の飾りを差し出してくる。
 ふたつを噛み合わせると、一本の鍵になった。

 優希がお気に入りの石から立ち上がった。
 オレは屈み込んでその石に両手をかけると、勢い良く転がした。
 長い間大きな石の下敷きになっていた部分には草が生えず、見たこともない
ような小さな虫が大挙して逃げ去っていく。
 オレは近くに落ちていた「ゴミ捨てるな」という立て看板をスコップ代わり
にして、土を掘り起こし始めた。
 一連の動作は神聖な儀式のように、沈黙の中で粛々と進行していく。
 じっと固唾を呑んで見つめている優希。

     ガシャッ

 すぐに看板は硬い感触に突き当たる。それを掘り起こしていくと、オレ達の
目の前には古ぼけてすっかり錆び付いた金属製の箱が姿を現した。




579:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:17:23 KKgFLKaW

 ………………………………。


 「これが、誓いの証だ」

 12年前の夜。
 オレは優希に言った。
 「これが……?」
 彼女は、オレの差し出したものを見つめながら言った。
 「知ってるか? 結婚指輪って言うんだぜ、えっへん」
 得意げなオレ。
 「結婚ていうのは、要するにずっと一緒にいるってことだからな。約束の証
拠になるだろ?」
 その発想に、幼い優希は夢中になったようだった。瞳を今まで見たことがな
いほどにキラキラと輝かせ、穴が開くほどに指輪を見つめている。
 「婚約指輪は給料の三ヶ月分で買うんだって、誰かが言ってたよ」
 「……オレの小遣い3日分150円で我慢しとけよ」
 オレが買ったのは、近所の駄菓子屋で買ってきた玩具の指輪だった。
 小学一年生の個人的な買い物のフィールドは駄菓子屋に限定されていて、そ
れ以上は守備範囲を超えていた。
 「あたし達、結婚、できる?」
 優希は魅入られたように150円の指輪から目を離さないまま言った。
 「できるさ。だって、クリスマスイブは魔法の夜なんだって、神父さんが言
ってたぜ。
 誰だって幸せになれるんだ。みんな笑えるんだ。だからきっと、どんな願い
だって叶うはずさ」
 「うそ。大人にならなきゃ結婚できないもん。そんなことも知らずに約束す
るなんて本気じゃない証拠だよ」
 「……うぐっ、細かい奴だな。いいよ、わかった。何歳になったら結婚でき
るんだよ」
 「女の子は16歳。男は18歳」
 「誓ってやるともさ。18歳になったら、結婚してやる」
 優希は少し考えた後、
 「しょうがないなぁ」
 と、オレに初めて満面の笑みを見せた。
 「じゃあ、約束だよ」
 「ああ。この指輪は18歳のクリスマスイブにこの場所で、オレがおまえに渡
す。それが結婚の約束だ」
 オレは誕生日に親からもらった玩具の鍵付きケースの中に指輪を入れ、施錠
した。そして、プラスチック製の玩具のキーをふたつに折り、片方を優希に差
し出した。
 「─受け取れよ。12年後の今日、たとえ片方が約束を忘れていたって、ま
たここで出会えるための、時を越えた秘密の切符だ」
 今まで暗くて寂しげな様子ばかりが印象的だった優希は、今や魔法の道具を
手にした子供のように、頬を紅潮させているのだった。
 「ありがとう」
 「ははっ。おまえ、いかにも間抜けで忘れっぽそうな顔してるもんなぁ。
 オレひとりで寒い中待たされたらイヤだろ? はははっ」

 ……………………………。



580:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:17:54 KKgFLKaW

 「その……なんだ。
 忘れてたのはオレの方だったな。まぁ、許せよ。なはははははっ」
 笑って誤魔化そうとしたが、うまくいかなかったようだ。優希は白い目でオ
レを見ていた。

 長い年月の間にケースの鍵はすっかりと錆び付き、乱暴に割ってしまった鍵
などとうの昔に合わなくなっていた。

 がちゃがちゃがちゃがちゃ、がちゃがちゃ………………………ボキッ

 元々チャチな造作の錠前は、長い年月の腐食によって、本体ごと壊れて外れ
てしまった。
 12年間ふたりが大切に肌身離さず持っていた鍵は、役目を果たす前にめでた
く用無しになった。

 「……さすがは魔法の夜だな。うん、これは神の大いなる意思だな」
 「……うん、そうだね……」
 優希は若干同情して、話を合わせてくれるような口調で言った。

 ケースを開くと、中からやはり錆び付いて真っ黒になったおもちゃの指輪が
姿を現した。
 何の合金でできているものか、すでに変色しきっている。
 オプションで買い求めたJとYのアルファベットのブロックがくっついている
のが辛うじて結婚指輪らしさを主張していた。
 指輪は素っ気無く転がっていて、それの持つ意味の重大さを考えるといかに
も安っぽい作りだった。
 だが、とオレは思う。
 何百万円もする虚しい指輪もあれば、人生の中で最も大切で温かい意味を持
つ150円の指輪もあるんだ。

 クリスマスイブは魔法の夜。

 150円の玩具の指輪を、世界で一番貴重で美しくて涙が出るほどに優しい芸
術品に変えることだってできる。
 オレは、震える手でその指輪をつまみ上げた。
 優希は物も言わずにそっと左手を差し出してきた。
 その瞳は、潤んでいた。
 いつの間にかあたりは一面の雪化粧。
 世界はどこまでも白く、透き通っている。
 ああ。街はあれから大きく変わったけれども、この丘だけはまだ何も変わら
ない。
 あの夜と同じだ。
 あの夜と同じ空と、同じ雪だ。
 ふとオレは優希の目を見つめた。

 ああ、なんだ。
 そうかい。そうだったのかよ。
 優希、おまえも同じだ。
 あれから元気で明るくなって、少し乱暴になって。
 いつの間にか女らしくなって。
 すっかり遠くに行っちまったのかと思っていたよ。
 でも、おまえの瞳も12年前のあの夜と同じだよ。
 同じさ、みんな同じ。

 ただ少しだけ─オレが素直じゃなくなっただけだったのさ。

 オレが優希の薬指に、遅れてきた結婚指輪を通す。彼女はそれを顔の前にか
ざして見せた。
 次の瞬間、笑顔のまま優希の目から大粒の涙が流れ落ちた。

581:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:18:28 KKgFLKaW

 オレは、優希を抱きしめた。
 優希は、驚いたように俺を見た。

 身体が冷たいよ、優希。
 どれだけ待っていたんだ?
 でも、ぎゅっと抱きしめていると、その芯から温かさが伝わってくるんだ。

 オレ達は12年間、誓いの番人となっていた石の上にふたりで腰掛けた。
 有無を言わせず優希を抱きしめ、オレは顔を寄せた。
 びくり、と身を硬くする優希。
 「なんだよ、怖いのか?」
 オレがからかうように囁くと、幼馴染みは目を三角にして、
 「怖いわけないじゃない。ずっとこの時を、待っていたんだから」
 オレが唇を寄せていくと、彼女は目をぎゅうっと瞑って少しだけ顔を振るわ
せた。
 やっぱり怖がってるじゃないか。
 散々、オレを誘惑し、葛藤し、悩ませた可愛らしい子悪魔は、いざその場に
なれば震えるチキンだった。
 「純一のキスくらいで、緊張なんてしないわ」
 おまけに、口だけは悪い。
 「きっと優希は、キスの後オレに惚れるね」
 オレはニヤリと笑った。
 「純一のキスごときであたしはおかしくなったりしないわ」
 「キスした後に同じ台詞が言えるか、試してやるぜ」
 オレは、ゆっくりと唇を近づけていった。
 「……っっっっっっっ」
 もみの木から、ひとかたまりの雪が地面に落ちてどさりと音を立てた。

 ああ、魔法の夜。

 電撃のように甘い快感が走り、今オレ達はすべての鎖から解き放たれ、空に
舞い上がるよう。
 優希は目を開いた。
 「─純一のキス一回くらいで、あたしは惚れたりしないわ」
 彼女は頬をリンゴのように紅潮させ、白い息を吐きながら言った。その目は
薄い油を張ったようにとろんとしている。
 「一回くらいでは無理だから……」
 と言う。
 「もっと、いっぱいキスしてみたら」
 どこまで行っても優希は優希。
 いいさ、今日は12年越しの特別な夜。
 徹底的に、おまえをとろかしてやる。覚悟しやがれ。



582:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:19:03 KKgFLKaW

 「─優希、愛してる」
 数え切れないほどのキスをする合間に、オレは幼馴染みの耳に囁いた。
 「ずっと、その言葉を待ってた」
 優希は言った。
 冷え切っていたはずの彼女の身体は内側から熱を持ち、今では全身紅潮して
降り積もる雪を溶かし始めていた。
 「どうして、今まで言ってくれなかったの?」
 「オレ達は幼馴染みだからだよ」
 「幼馴染みだと、言ってはいけないの?」
 「幼馴染みは恋人じゃないからだ」
 「……だから、いつでもそばにいるのに近づいて来なかったの?」
 「ああそうだ」
 優希は空を見上げた。
 「純一は、あたしが男子に告白されるたびに、どんな気持ちだったと思
う?」
 「そりゃあ、嬉しかったんだろ?」
 「バカ、違うよ」
 怒ったような目で幼馴染みはオレを睨む。
 「寂しかったよ。あたしを好きだと言ってくれたのがどうして純一じゃない
んだろうって、いつも思ってた」
 ちっ。だから、いつもいちいちオレに報告してやがったのか。そんなこと、
考えもしなかったんだぜ……。
 「バカだな、おまえは。空気が読めないことこの上ないぜ。オレがどんな気
持ちでおまえを見ていたかなんて、まるでわかっていないんだろう?」
 「純一の方がバカだよ。あたしがどれだけ、純一のことが好きで好きで仕方
なかったか、まるでわかってないんでしょう?」
 優希はオレの身体に手をまわすと、渾身の力で抱きついてきた。
 それは、二度と離さないことを主張するかのようで、痛くて、熱くて、そし
て、今までどれだけ寂しかったかを表現するかのようでもあったのさ。


 結局、オレも優希も底抜けのバカだったということなのかも知れない。
 優希がオレを想って行動すればするほどに、オレは身を引いて距離を取ろう
とした。
 優希が寂しげな態度をとるほどにオレは身を引き裂かれるような痛みに胸を
焦がし、いよいよコントロールできない恋の感情は暴走し、それは天邪鬼なオ
レの口を介して悪態となって飛び出した。
 どちらかがもう少し大人だったなら、もう少し状況は変わっていたかも知れ
ない。
 だが、優希は身体ばっかり大人になって空気の読めないお子様のままだった
し、オレはオレで、アホに拍車がかかるばかりでいつまでも素直になれないガ
キンチョのままだった。
 なんて悪い組み合わせなのだ。
 絶対にまとまるはずがないぜ。

 そうさ、すべての人が幸せになれる奇跡の夜でもない限りな……。



583:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:19:37 KKgFLKaW

 「純一のバカ。大嫌いだよ……」
 と優希は言った。
 「そうかい」
 オレは言った。
 「まだ、キスが足りないみたいだな」
 唇を再び奪う。啄ばむような軽いキスから、いつしかずっと唇を合わせ、舌
と舌を絡ませる濃厚なキスへと変化している。
 どうして、優希の口はこんなに甘いんだ? 砂糖菓子よりも甘くて、優しく
て、ほっとするような温かさなんだ。
 初めてのはずなのにどこか懐かしくて、オレの琴線を切なく奮わせる。
 唇を離した。
 熱い息が白く煙った。
 「純一のバカ。世界で一番嫌いだよ。純一は、今まで、世界で一番あたしを
不幸にしてきたよ。
 あたしの悲しみの9割は純一のせいだよ」
 「そ、そんなにかよ」
 「そうだよ」
 と優希は言った。
 「だってあたしは、どんなことがあっても、そばで純一が笑っていてくれれ
ば悲しくなんてないんだから。あたしが悲しいのは、純一が離れていくことだ
けなんだから」
 「な、なんだよ、そりゃ」
 「だから、あたしを不幸にできるのは純一だけなんだから。
 ─だから、純一なんて世界で一番大嫌いだよ」
 受け取りようによっては180度逆にも取れる言葉を聞きながら、オレは優希
の頭を撫でていた。



584:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:20:08 KKgFLKaW

 「バカ、バカバカ」
 オレの胸の中で言う優希。
 うるさいので、オレはキスで彼女の口を塞いだ。
 「ん……うんっ」
 「……」
 さあ、これで黙ったな。
 「─バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」
 ますます悪態を続ける優希。
 「バカって言いすぎだろ」
 「だって、バカって言ったら、純一はキスしてくれるんでしょう? 本当に
純一はバカだね。もう一生、バカって言われ続ける運命に決まったよ」
 優希は笑った。
 「それに、まだまだキスも、愛の言葉も足りないよ」
 「もうたっぷりしただろう」
 「全然足りない。12年間分には、全然足りない。毎日1回として、365×12は
─」
 愛すべき幼馴染みは指を折って計算を始める。オレはそれをやめさせて、い
つの分かはわからないキスの清算を始めた。
 そんなオレ達を上から見つめるのはもみの木。
 いつでもオレ達を見下ろし続けたふたりの誓いの物言わぬ証人。


 出会ってから、12年。
 オレは、優希のことはたいがいのことはわかっているつもりだった。わから
ないことが増えてきてはいた。
 それでも、概ねはあいつのことはわかっているつもりでいたのさ。
 オレはとんだ節穴の目の持ち主だってわけだ。
 これからオレは、改めて幼馴染みを知ることから始めなければならない。



585:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:20:40 KKgFLKaW

 その時、少し離れた位置で工事用のブルドーザーが青白い火花を上げた。
 だがオレと優希は互いを見つめることに夢中で、背後の危険な光景にはまる
で気がつかなかった。

     バチバチバチッ

 小さな火花は音を立てていたはずだったが、それはちょうど夢中になって優
希を抱きしめたオレの背後だった。
 優希はしっかとオレの背中に両手をまわし、抱きしめ返してくる。

バチバチバチバチッ

 オレが優希にキスしようとした時、彼女が目を見開いてオレの背後を見てい
るのに気付いた。
 振り返り、はっとなる。

     バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!!

 小さな稲妻が走る。
 それはオレ達を一直線に目指し─

 「うわあああああああああああああああああっっっ」
 「きゃあああああああああああああああああっっっっ」

 灼熱感がオレの背中を突き刺した。



586:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:21:11 KKgFLKaW

 「まったく、まいったね」
 翌朝、病院で背中のガーゼを替えてもらいながら、オレはため息をついた。
 「もうちょっとキスしてもらいたかったのに、残念だったなあ」
 隣で手の包帯を替えてもらうのを待ちながら、優希はそんなことを言った。
 「あら、ふたりはそういうカンケイなの?」
 オレ達の包帯を替えてくれてくれる看護師は悪戯っぽく笑った。まだ20代ら
しい女性看護師は興味を覚えたらしい。
 「そういうカンケイなの!!」
 優希が輝くような笑顔で言う。
 「ちょっと待て。そういうカンケイがどういう関係なのかを確認してから肯
定はしろよ?」
 オレは釘を刺すが、恋愛話の始まった女性達を止める手立てなどない。
 オレの制止など聞かずに優希の話は暴走していき、すっかりと看護師を引き
込んでしまうのだった。

 オレも優希も、軽症の火傷を負っただけで無事だった。
 すぐに雪で冷やして病院に駆け込んだのが良かったのだろう。そういう意味
では不幸中の幸いだった。
 応急処置だけしてもらって、クリスマスの朝にこうしてふたりで外来通院し
て改めて処置してもらっているのだった。
 しかし、こんな所で口の軽そうで恋愛話好きな看護師を相手にするとは想定
外だったが……。



587:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:21:42 KKgFLKaW

 「─そうか」
 と、看護師は手を打った。
 「昨日の指輪は、彼氏からのプレゼントだったのね?」
 「うん、そう。とっても大切な指輪だったの」
 ブルドーザーから飛んだ小さな稲妻は正確には優希の左手にあった指輪を直
撃した。
 それは彼女の指を灼き、密着していたオレの背中を灼いた。
 元々腐食の進んで脆弱になっていた指輪は壊れてしまった。
 当然のように医者は指輪を外すように言ったが、優希は全力で抵抗したのだ
った。
 あいつは真性のアホに違いない。
 電撃を受けて熱を持っていた指輪を握り締めて、火傷を助長したというのだ
から救いようがない。
 熱を受けたとはいえ、12年の時を経て不潔極まりない状態の指輪だったから、
化膿の原因になっても困る。
 当直の看護師が総動員されて優希を押さえつけ、指輪を砕いて外したのだっ
た。
 日勤の看護師まで知っている所を見ると、すっかり病院中の噂になっている
可能性がある。
 オレは頭を抱えたくなった。
 「かけがえのない大切な指輪だったから、どうしても外したくなかったの」
 優希は少しだけさびしそうな表情で言った。すると看護師は、
 「また、もっと良いのを彼氏に買ってもらえばいいのよ。今度は雷に打たれ
ても壊れないようにダイヤモンドの入ったやつにすればいいわ」
 と、勝手なことを言い出す。自分が金を出すわけじゃないと思って言いたい
放題だ。
 しかし、優希はにこっと笑って首を横に振った。
 「もう指輪はいらないわ」
 「へえ、どうして?」
 看護師は首を傾げた。
 「んふふ。だって、あたしは神様に二度と壊れない永遠の結婚指輪をもらっ
たんだもの─」
 と優希は無邪気な笑顔を浮かべると、指の包帯をくるくるとまわして外して
いった。
 ああ、実際優希は、真性のバカに違いない。
 熱を持った指輪を握り締め、かえって火傷を助長してしまった。
 そのために、彼女の薬指には、指輪の痕が残ってしまった。
 その指には、くっきりとオレのイニシャルを示すJの文字が刻印されている。
 看護師はぽかんとしながらそれを見た後、たった今ガーゼを取り外したオレ
の背中に視線を戻す。
 そこには、優希にまわされていた手を介して刻印された、Yの火傷。
 「んふふ」
 と再び笑う優希と、ため息をつくオレ。

 ああそうさ。
 クリスマスイブは魔法の夜。
 こんな、ほんの小さな奇跡のおまけをくれたって、おかしくはないだろう。
 ちぇっ。
 でもな、神様。こいつはいくらなんでもサービス過剰なんじゃないのか?



588:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:22:28 KKgFLKaW

 優希は愛おしげに自らの薬指を眺め、うっとりとした。
 「純一、昨日の続きをして」
 オレは自分の耳を疑った。
 「はあ!?」
 「キス、して」
 オレは目の前の看護師と優希を交互に見る。
 看護師は止めるどころか興味津々といった様子で事の成り行きを見守ってい
る。職場なんだから止めろよ。
 「人前で何言ってんだよ!!」
 「人前だって、あたしは恥ずかしくないもん!! だって今はただの幼馴染
じゃなくて、恋人で婚約者なんだもん」
 優希は子供のように頬をふくらませて口を尖らせる。
 「あ、後でな!」
 オレが言うと、優希は頑なに首を横に振った。
 「少しぐらい待てるだろ!」
 「もう12年も待って、待つのは嫌になっちゃった」
 「20分くらい待てるだろ」
 「純一は昨日みたいに約束を忘れちゃうから信用できない」
 オレはうぐっ、と言葉に詰まった。
 いまや看護師はニヤニヤしながら、目でオレに何かを迫っている。

 …………………………。

 わかった、わかったよ。
 オレは疾風のように唇を優希の顔に近づけると、その唇を奪ってさっと離れ
た。
 優希は陶酔したような表情になり、オレを見た。
 「うれしい」
 ちぇっ。熱に浮かされてすっかりおかしくなってしまっている。こんなの、
普段の優希じゃない。
 普段の優希はもっとがさつで、乱暴で、女らしくなくて、空気が読めなくて
……。

 …………………………。

 ……本当は知ってるよ。

 世界で一番可愛らしくて健気な素敵な女の子だってな。

 「ありがとう」
 優希の目からまた涙がこぼれた。
 「純一、愛してる」
 どこまでもまっすぐな幼馴染の愛の言葉に、オレは気恥ずかしくなって目を
そらした。



589:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:24:04 KKgFLKaW
 さあ、これで今回のオレの話は終わりだ。
 その後どうなったのかって?
 そうだな……。


 「純一、恥ずかしがらないでちゃんと腕を組んでよっ」
 「ば、バカっ。そんな恥ずかしいことができるかっ」
 「大声出して抵抗する方がよっぽど恥ずかしいでしょっ!?」
 ふたりで遊園地を歩く12月25日。
 今までだって休日にふたりで遊びに出かけることなんて頻繁にあった。特別
なことではない。
 いつもと同じ行動なのに、同じじゃない。
 「純一、あたし達、恋人になったんでしょ? だったら、今までとは違って
腕を組んだりしないとおかしくない?」
 「そんなの、別にいいよ……」
 オレは周囲の目を気にしながら、もごもごと拒絶の言葉を口にする。
 「じゃあ、幼馴染と恋人って、どう違うのよ?」
 優希は腰に手をあてて仁王立ちになり、怒ったように言う。
 「そりゃあおまえ、恋人だったら誰も見てない所でふたりきりでキスしたり
エッチしたりするんだろ」
 「なんで純一の発想はいっつもエッチなことばっかりなんだよ!!
 『人妻ぬっぽり温泉』とかそういうのばっかり見てるからそんなになるんだ
よ!! バカバカ、この母乳マニア!!」
 「……てめえ、またオレの部屋を勝手に漁ってエロビデオ探したろ」
 「………………」
 オレの険悪な視線にまずいと思ったのか、はたと優希は黙り、そしてしばら
くしてから言い訳のように口を開いた。
 「………………好きな人のことは何でも知りたいの!!」
 「このアホーーーーーーーーーっっっっ!!!!」


 うん、なんだ。
 こんな感じだよ……はぁ。
 要するに、ファーストキスの時と同じさ。変化なんて何もない。
 幼馴染から恋人に、ただ肩書きが変わっただけだ。結局オレ達はお互いにア
ホでバカなお子様に過ぎないんだ。
 それと、丘の上は造成が進み、オレ達の約束のもみの木は切り倒された。
 優希はやはり全力で反対しようとした。
 だが、オレがそんな彼女を押しとどめたのだ。
 「優希」
 オレは言った。
 「誓いの指輪はもうあそこにはないんだから、気にするな。あの指輪は今は、
ここと……」
 と優希の薬指と、自分の背中を示す。
 「オレの背中にある。これからは、オレがおまえのもみの木の丘になる。も
しさびしかったり、悩み苦しむ時には─」
 ぎゅっと抱きしめる。
 「─いつでもオレの背中に来ればいい」
 優希は小さく、「ありがとう」と押し殺したような声で言った。


 それから数日後、もみの木はオレ達の目の前で倒れていった。それはまるで、
老兵がひとつの重責を果たして安心してへたりこんでいくような感じがした。

 今日もなんていうことのない、365日のうちのただの1日。
 オレ達は1日分大人になる。
 そしてやがて、いつか本当の大人になっていく。
 そうさ、それでいいはずなのさ。
                          了


590:名無しさん@ピンキー
07/12/24 17:24:51 KKgFLKaW

以上です。

メリー・クリスマス。


591:名無しさん@ピンキー
07/12/24 19:07:17 Uv2/WcVD
>>554-590
ベタすぎる、でもそれがいい。そうでなくちゃいけない。
メリークリスマス。

592:名無しさん@ピンキー
07/12/24 19:20:49 rPgY/6gU
とりあえずGJ

でもまだあまり感想コメントを貰ってない他の職人に重ねて投下するのはいただけない。
同じ立場なら嫌だろ、職人のやる気はコメントなのは職人のお前ならわかってるだろ。
職人を減らすだからやめろ

593:名無しさん@ピンキー
07/12/24 19:31:11 D4QI+WoM
今日はクリスマスだからしょうがないよ。
投下する方も判ってるさ、たぶん。

今日明日はラッシュだぞww 待ってるとタイミング逃す。
越境感想もアリで、がんがん行こうじゃないか。

と、書けなかった自分が言ってみる。

クリスマスばんざーい。ここで良質SS読めるから現実から逃避できるさ…

594:名無しさん@ピンキー
07/12/24 21:21:39 +ZOLNZD2
すさまじい投下ラッシュに乗らせて貰います
>>353>>359
>>411>>416
の続きです

595:迷い
07/12/24 21:22:47 +ZOLNZD2
「優華ちゃん、シチューにルー入れて」
「はい」
12/24日午前11時。
優華と優祐は大井家の台所に立ち、クリスマスパーティの料理を作っていた。
何故こんな事になっているかと言えば、それは約2週間前の話になる。


「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」
その夜、桜は優祐の部屋に入ってくると、開口一番そう切り出した。
「ん?」
「24日にクリスマスパーティー、家でやっていい?」
「別にいいよ。母さんは?」
「優祐がいいならやってもいいよ。だって」
桜は顔色を窺うように優祐を見る。
「ならいいじゃん」
「ただ、料理とか作って貰いたいんだよね。でお母さん居ないから、お兄ちゃん作ってくれる?お願い」
桜は手を顔の前で合わせ、拝むようにする。
「別にいいけど……何人分?2~3人?」
「私と優華と……女の子4人に男の子3人」
桜は指折り数え、人数を提示する。
「多いな~」
予想に反し、結構な人数だった事に優祐は苦笑いを浮かべる。
「ダメ?」
桜は不安げな表情を浮かべる。
「いや、いいよ。やるよ。けど結構お金かかるよ?」
優祐は快諾する。
が食材の調達に頭を悩ませる。

596:迷い
07/12/24 21:23:17 +ZOLNZD2
実際食い盛りの食事7人分はかなりの量になるし、クリスマスなのだからケーキも有った方が良いだろう。
少なく見積もっても5000円は必要だ。
「あ、お金はお母さんがくれたよ。予算だって」
その悩みを払拭するかのように、桜は財布から福沢諭吉の肖像が書かれた紙を取り出す。
「こんなに?豪勢だなぁ」
それを見た優祐も驚きを隠さない。
たかが子供のパーティだと言うのに、さらっとこれを出せる母には凄いものがある。
優祐は自分の母の豪勢さに驚いていた。
勿論良い親には間違いないのだが……
「桜、かなり豪華にやれるぜ」
優祐は一万円札を受け取ると、自信あり気にそう言った。
「じゃあお兄ちゃん料理は頼んだよ。あと当日の朝から優華が手伝いに来てくれるからねっ」
こうして冒頭の場面に至ったのだ。


「優祐さん、次は何作るんですか?」
完璧にさん付けが定着してしまった優華は、今日も優祐をそう呼んでいた。
「ん?ホワイトシチューと鳥の唐揚げ、ローストビーフ、南瓜のグラタン、後サラダだから、次は南瓜を薄切りにして」

597:迷い
07/12/24 21:23:51 +ZOLNZD2
豊富な予算を貰ったこともあり、優祐はかなり力を入れて料理を作っていた。
当然ケーキもあるし、子ども用のシャンパンまである。
後者は安かったから買ってしまっただけであるが。

「二人共~もうそろそろ皆来るよー」
桜はそう言ってキッチンを覗く。
「okこっちはもう殆ど出来てるよ。優華ちゃんも、もう大丈夫。自分の準備していいよ。」
「え、でも」
「優華ちゃんもパーティする側でしょ?」
「はい。ありがとうございます」
優華は大きく頷くとエプロンを取る。
今日の優華は、淡い緑色のワンピースに白のハイソックスという服装だった。
それは優祐の目にも非常に可愛らしく写っていた。

ドアのチャイムが鳴る。
ちょうどよく招待者達が来たらしい。
「失礼します」「お邪魔します」
皆口々に挨拶を述べ、玄関を上がってくる。
「いらっしゃーい」
優祐は台所から面子を見回していく。
チラホラと見知った顔も居ることに安心しつつ、料理を進めていくのだった。

598:迷い
07/12/24 21:24:42 +ZOLNZD2
宴は盛況だった。
皆料理に舌鼓を打ち、それを作ったのが優祐だと知ると驚き、桜は誇らしげに、優華は嬉しそうに笑った。


「優祐さん」
台所で一人ちびちびと残りもののシャンパンを飲みつつ、パーティを眺めていた優祐に話し掛ける。
「どうかした?」
「あの、この後プレゼント交換をするんですけど、あのピンク色のプレゼント分かります?」
そう言って指差した先には、皆の荷物の脇にピンク色のリボンで結ばれた袋があった。
「分かるよ」
「優祐さんの号令でプレゼント回すんですけど、あれを田中君の所で止めてほしいんです」
優祐はそれを聞くと不思議な気持ちになった。
わざわざそれを頼みに来ると言うことは、あの袋は優華のプレゼントだろう。

599:迷い
07/12/24 21:25:43 +ZOLNZD2
そして、そういうことを頼むと言う事は、当然優華は彼に少なからず想いを抱いてるのだろう。
それは、桜や文奈の想像が外れたという事であり、優祐としては安堵こそすれ、悲しむ事ではないはずだ。
しかし優祐は今不思議な気持ちを抱いていた。
決して心地よくない物……
「ふーん、優華ちゃんはあの子のことが好きなんだ」
そのせいか優祐の口から優華を野由する言葉が出ていた。
「え?ああ違いますよ、あのプレゼントは桜ちゃんのです。私はあれの隣の水色のやつです」
優華はそう言って笑う。
確かにピンク色のリボンが結ばれた袋の横に、水色の袋が有った。
「え、じゃあ桜が?」
「はい。あくまで私の勘ですが、多分当たってますよ」
「そうなんだ」
この時優祐には、桜にそういう相手がいたという驚きと、少なくとも2ヶ月前には絶対に抱かなかったであろう想いが去来していた。
「それに私には……そうだ、明日お暇ですか?」
「う、うん。いや、ごめん用事あるんだ」
「もう、どっちですか」
優華はそう言って頬を膨らませる。
「いや用事あるよ。午後からね」
それを聞いた優華はある提案する。

600:迷い
07/12/24 21:26:18 +ZOLNZD2
「じゃあ午前中だけでいいんで付き合ってもらえませんか?絶対に午前中だけなんで」
優華は勢いよく手を合わせて懇願する。
優祐もその勢いに押され、承諾してしまう。
「それじゃ明日の9時に駅前は」
優華は嬉しそうにそう言い残すと、皆の輪に戻って行ったのだった。

601:名無しさん@ピンキー
07/12/25 00:03:26 D4QI+WoM
おわり?
終わりとか続くって書いてくれると嬉しいです

602:名無しさん@ピンキー
07/12/25 01:27:15 dxuoMEhG
規制にでも引っ掛かったのかもね
まったりお待ちしてます

603:名無しさん@ピンキー
07/12/25 03:36:18 Msdi/l8p


604:名無しさん@ピンキー
07/12/25 21:49:22 V4cDc6NL
次スレ立ってからの方がいいかな、投下?

605:名無しさん@ピンキー
07/12/25 21:52:52 WcS9yKE5
長さによるのではなかろうか。
15KB超えるようであれば次スレを待つとか

606:名無しさん@ピンキー
07/12/25 21:53:04 hX/LQ3z/
wktk

607:名無しさん@ピンキー
07/12/25 21:57:46 V4cDc6NL
>>605
いや、このスレに投下してよしという事なら、今日中に仕上げようかな、と
思ったんだが、次スレ立ってからにした方がいいという事なら、
もうちょっと時間かけて加筆修正しようかな、と。

今の所の長さは微妙な所だなぁ・・・。

なんか誘いうけみたいになってすまんね。
ちょっくら読み返して考えてみる。

608:名無しさん@ピンキー
07/12/25 22:23:21 V4cDc6NL
「べっくしょいっ!」
 我ながらど派手なくしゃみだ。
 俺は身体を起こすと、枕元においたティッシュ箱から無造作にティッシュを取り、
思い切り鼻をかんだ。ちょっとグロい鼻水の色に顔をしかめながら、丸めてゴミ箱へ投げ入れる。
 見事にゴミ箱にゴール。ナイスシュート、俺。
 枕代わりのアイスノンの位置を直し、再びそこに寝そべる。
 ひんやりとした感触が、熱に浮かされた頭に心地いい。
 心地いいんだが……。
「……何やってんだろうなぁ、俺」
 ―昨日の晩、待ち合わせの時間になっても、歌乃は来なかった。
 連絡を取ろうにも、その時になって初めてお互いの携帯番号を教えあっていない
という事に気づく有様で―帰ってきてからこっち、ちょくちょく顔を合わせていたから、
強いて電話とかで連絡を取る必要が無かったからだ―仕方なく、時間になっても
来ない歌乃を、俺はひたすらに待った。
 今になって思えば、歌乃の家の方に電話をかけてみれば良かっただけだったのかもしれないが、
その時の俺にその考えはなかった。"アイツが俺を待たせる"という異常事態が、
俺から冷静さを奪っていたのかもしれない。
 アイツは、昔から約束だけは守る奴だった。待ち合わせの時間に遅れた事も無いし、
むしろ俺の方が遅れて謝るというのが、俺達のいつものパターンだった。
 だから、俺は待った。日付が変わっても、人通りが途絶えても、イルミネーションが消えても。
 結果、歌乃は……いつまで経っても来なかった。
「げほっ! ごほっ! ……うー、喉痛いな……」
 そして、寒空の下、待ちぼうけていた俺は……ものの見事に風邪をひいてしまったというわけだ。
 親父とお袋には「何か調子が悪くなってきたんで帰ってきた」とだけ説明しておいた。
変に詮索されたくなかったからな。
「……あー」
 熱に浮かされた頭で、ぼんやりと考えるのは歌乃の事。
 なんで昨日に限って、待ち合わせをすっぽかすなんて事をしたんだろう?
 今朝になってから何度か歌乃の家に電話してみたが、留守のようで誰も出ない。
 歌乃の家は、両親共家を空けている事が多いから、歌乃がいなければ電話はまず繋がらない。
「……何か、あったのかな」
 思い浮かぶのは、事件や事故などの不安な原因ばかり。
「うー……げほっ、げほっ!」
 悪い想像はどんどん広がっていく。
 ……自動車で事故……歩いていたら轢かれたり……いや、家に強盗……。
 もしも。
 もしも、だ。
 もしも、もう、アイツが……この世にいなかったとしたら。
 そんな想像すらも、俺の熱にやられた脳味噌は始めてしまう。
 もう、二度とアイツに会えないのだとしたら。
 

609:名無しさん@ピンキー
07/12/25 22:26:30 V4cDc6NL
ぎゃあああ!!!!

プレビューしようとしたら間違って投稿しちまった・・・orz

何事もなかったかのようにスルーしてください・・・orz

610:名無しさん@ピンキー
07/12/25 22:37:12 dxuoMEhG
続きが気になるな

611:名無しさん@ピンキー
07/12/26 00:02:04 sowj+DeE
続きが気になる・・・

612:名無しさん@ピンキー
07/12/26 00:37:39 suO3tS2a
もちつけw

そういえばすぐ正月だな
クリスマスネタを投下しなかった巨匠はきっと・・・


613:名無しさん@ピンキー
07/12/26 01:08:44 UpvB/Xl3
巨匠にだってプライベートくらいあるだろ。
事実は小説より奇なりって言うしな。

614:名無しさん@ピンキー
07/12/26 14:41:00 xxRgYChr


615:名無しさん@ピンキー
07/12/26 22:57:04 m+QSjy6h
しゅ

616:名無しさん@ピンキー
07/12/27 16:14:19 1sjqPpIe
保守がわりに・・・


可愛い幼馴染みが欲しいやつ、どのくらいいる?

617:名無しさん@ピンキー
07/12/27 16:26:01 qp1yjy0f
もちろん俺

618:名無しさん@ピンキー
07/12/27 17:34:15 qp1yjy0f
URLリンク(up.pandoravote.net)
綾乃のイメージ

619:名無しさん@ピンキー
07/12/27 18:31:47 N3vdek96
幼馴染を欲しいと思った時既に!
その機会は失われている!

620:名無しさん@ピンキー
07/12/27 21:53:17 R9wT3Oti
>>618
全力で詳細希望だ! ところで年を越してからクリスマスネタを投下するのってやっぱり変かな? 完成するのがそれぐらいに
なってしまいそうなんだけど……。

621:名無しさん@ピンキー
07/12/27 22:21:53 2pirU3Zb
>>618
もうみとのんは漫画描かないんだぜ…
大好きな絵柄だったのに

622:名無しさん@ピンキー
07/12/28 16:56:10 ZGjyR7qn
今週のヤングキングの師走の翁の読み切りが幼なじみモノだった

結末が………なんで、神に補完版を書いて貰いたい

623: ◆6Cwf9aWJsQ
07/12/28 19:32:42 BlO7XSyK
俺さ、クリスマスイブはぼっちゃまとジャ○クム○ンの喪に服して
SS書かないって決めてるんだ・・・。

嘘ですただ単に遅れただけです御免なさいというわけで今更クリスマスネタ。

624:シロクロ11,8話「我が家にサンタがやってきた(返品不可)」
07/12/28 19:36:08 BlO7XSyK
本日はクリスマスイブ。
全国の恋人達が仲むつまじくちちくりあい、
全国の恋人のいない人達が涙をのむ日だ(極論)。
ついでに今朝から雪が大量に降ってきて、ホワイトクリスマスとなっていた。
そしてその色を名に頂くこの俺、白木啓介はというと――

「うー寒・・・」
朝っぱらから自宅でコタツで暖まっていた。
「そうね・・・」
隣にいるサンタ服の少女――俺の幼なじみにして恋人、黒田綾乃が相槌を打つ。
「サンタ服着てるのにだれてるなー、お前」
「サンタにだって休息くらいあるわよー」
「よりにもよってイブに休むなよ」
「いーの。サンタは夜に仕事するから」
風俗嬢みたいだな、とツッコミをいれそうになったがなんとなくやめておく。
「つーか近い近いって、いくら寒いからってこれはないだろう」
史上最大にやる気のないサンタガールは俺に身をすり寄せて甘えてきていた。
「いーじゃない。啓介だってイヤじゃないでしょ?」
「・・・まー否定せんが」
確かに綾乃は体温高めだし今彼女が着てるサンタ服ももこもこして肌触りいいし、
何より彼女の髪の柔らかさやそこから漂ってくる香りが心地いい。
「ところでさ」
「ん?」
聞き返す俺に、なぜか頬を紅潮させた綾乃は一瞬目をそらすがすぐに視線を戻して
「今啓介が触ってる物って、私の胸なんだけど」
「なぬっ!?」
いわれて自分の手に視線を向けると、確かに俺の手指が綾乃の豊満な乳房を鷲掴みにしていた。
なるほど通りでセーター触ってたはずなのに弾力を感じたはずだ。

625:シロクロ11,8話「我が家にサンタがやってきた(返品不可)」
07/12/28 19:38:31 BlO7XSyK
「って、指摘しても手は止めないんだ」
「うん。今更言っておくが自分でもビックリだ」
「ホントに今更ねー・・・」
口調は呆れた感じだが、顔は明らかに喜びを表現している。
「啓介さ」
「ん?」
「この前私の胸揉んだよね?」
「あ、ああ・・・」
俺は当時のことを思い返し、こみ上げてくる恥ずかしさに襲われるが、
それを知ってか知らずか綾乃は自分の乳房を揉んでいる俺の手に手を触れさせ、
「あれから、胸で感じるようになっちゃったの。責任とって・・・」
男心を非常に刺激するその仕草に、不覚にもときめいてしまった。
その行為に敬意を表してたまにはこちらから攻めてみようと、
イタズラ心から俺は普段なら絶対言わない台詞を口に出す。
「結婚ならちゃんとしてやるなら安心しなさい」
そういわれた瞬間、綾乃は俺の予想を遥かに超えて体中の肌の露出した部分全てを赤くしていた。
・・・あれ?
「・・・啓介」
「・・・なんだ?」
とてつもなく嫌な予感がしつつも返事をすると、
綾乃は先ほどとは比べ物にならないほど赤くなりながら、
「私、『責任とってエッチなコトして』って、言おうとしたんだけど・・・」
・・・あれれ?
「あー、えーと、うんそれはだね・・・」
ことの重大さにようやく気付いた俺は慌てて彼女から目を全力でそらし――
「「「「あ」」」」
なぜかドアに隠れてこちらを見ている4つの人影と目があった。

626:シロクロ11,8話「我が家にサンタがやってきた(返品不可)」
07/12/28 19:39:24 BlO7XSyK
「「・・・・・・へ?」」
予測を超えた自体に俺と綾乃の頭脳はフリーズを起こし、
「なななななななんでお前らいるんだよ!?」
再起動した途端、友人という名の乱入者達にろれつの回らない声を飛ばした。
・・・復帰してもパニック状態は直ってないようだ。
「いや、ヒマだったからバカップルウォッチングしに来たんだが・・・」
そういうと一同は一糸乱れぬ動きで俺と腕の中の綾乃を順に見比べ、
「・・・期待以上だったな」
黄原の発言に頷く他3名。
「つーか、イブなんだからおとなしく恋人同士でイチャついとけよっ!」
「いやイチャつくのは他の日でも出来るし」
「今日ぐらいしかそーゆーことできないわけじゃないし」
「そーゆーのは明日すrゲフンゲフン」
「というわけで御邪魔してます」
「ホントに邪魔してるよお前らっ!とにかく座って待ってろ茶出すから!」
これ以上好き勝手されたら叶わないので不法侵入者どもに釘を刺すと俺達は逃げるように部屋を出た。
「・・・ったくもう」
「いいじゃない。賑やかだし」
「そりゃそうだけどな・・・」
溜め息混じりにそう返すと、俺は綾乃の耳に口を寄せ、
「・・・ちゃんとしたのは今度するから」
「・・・うん。楽しみにしてるね」
他の物には絶対に聞こえないように小声での会話だが、なぜかハッキリと聞こえた。

627: ◆6Cwf9aWJsQ
07/12/28 19:42:01 BlO7XSyK
以上です。
>>618さんわざわざありがとうございます。

それでは皆さん、よいお年を。

628:名無しさん@ピンキー
07/12/29 01:50:50 F2lMkK4e
相変わらずのバカップルぶりにw
とにかく乙です。

629:名無しさん@ピンキー
07/12/29 10:05:26 t2fbeu/m
>>618
啓介は黒髪であるべきだ
もっと全身からオーラが溢れ出てるような

それはそうと、乙です

630:名無しさん@ピンキー
07/12/30 09:42:05 O5QNWiyF
>>627
乙乙乙おつおつおつ(中略)おつ。
来年も期待してますよー

631:名無しさん@ピンキー
07/12/30 20:14:51 JZ4a7699
>>627
なんと義理堅い御方だ。それはともかくGJ!であります


ところで、そろそろ新スレの季節が近づいてきた頃だと思うんだけど
明日立てれば2007年最後の日付が>>1に載るけど明後日にすれば新年の日付になる
一体どっちになるんだろう

632:名無しさん@ピンキー
07/12/31 01:44:44 wnKe1REV
ここは気分良く新年一発目にスレ立てといこうじゃないかに一票

633:名無しさん@ピンキー
08/01/01 12:31:16 uFewZ5m1
誰か新スレ立てない?

634:名無しさん@ピンキー
08/01/01 13:20:09 oxjuAFGG
次スレ立てますた
以下↓

【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】
スレリンク(eroparo板)

635:名無しさん@ピンキー
08/01/05 21:01:25 0gSbO6FM
埋めネタ待ちアンケート

以下の中から選んでくれ

1.気の置けないサバサバした幼馴染み
2.優等生幼馴染み
3.天然ほんわか幼馴染み
4.年下妹っぽい幼馴染み
5.お姉さん幼馴染み
6.世話やき幼馴染み

住人のみんなはどんな子が好き?中になければ具体的に

636:名無しさん@ピンキー
08/01/05 21:01:54 ojq7bU5r
1か2

637:名無しさん@ピンキー
08/01/05 21:03:51 s8eisU4D
1+6とかはとてもすき
1単体とかもよし
5は3が入らないのが好みだな

638:名無しさん@ピンキー
08/01/05 21:17:34 n6kvfH+0
幼なじみってだけで満足できるからなあw
このスレに投下された作品のヒロインで項目を埋められるかな

639:名無しさん@ピンキー
08/01/06 01:18:44 wiVZ/Qae
何番でもいいが、淫乱というプラス要素が加わればさらに良い。

640:名無しさん@ピンキー
08/01/06 11:04:54 AYiceoio
この中なら1+3とか、2+5とか。
単独でもいいけど、4みたく年下っぽい・年下なのはあわないかも。

641:名無しさん@ピンキー
08/01/09 00:48:45 fBisj38x
>>637
1+6か。流石幼馴染みスレ住人。こういうキャラが良いとか言う奴は
ここ以外にはあまりいない気がする

642:名無しさん@ピンキー
08/01/09 00:54:55 fBisj38x
連投すまん。念のため言って置くとおれもこういうキャラが好きだ
だが、この手のタイプで最近良いキャラって商業作品であんまり出てないような、と言いたかった

643:名無しさん@ピンキー
08/01/09 01:29:27 dGNdumfK
>>642

最近は分からない

古くは

センチ…妙子
TLS…のぞみ

後は忘れた

644:名無しさん@ピンキー
08/01/09 03:35:02 umh7mv54
スクールランブルという漫画があってだな


645:名無しさん@ピンキー
08/01/10 21:50:53 WU7DRSV6
まあアレだ。気の置けないサバサバした(ry と言っても人によって想像する性格は違うだろうしな
勝気系とか悪友系とかを想像しても、それはサバサバした、というのとは微妙な違いが有るような気もする
って国語のおべんきょーみたいなことを言ってしまった
……作品投下じゃなくて雑談でスレ埋めるか?

646:名無しさん@ピンキー
08/01/10 23:35:39 mp/04xi1
じゃあ久しぶりに昔の作品について話題を振ってみる。
まゆことみいちゃんの新作ないのかなぁ。

647:名無しさん@ピンキー
08/01/10 23:53:05 l+AJErr1
ええい、絆と三人の新作はまだか!

ああ来るまで猫のアサナで待つとも!

という訳で待つしかないのだ、同志オサナナジミスキーよ。

648:名無しさん@ピンキー
08/01/11 22:21:58 SG47OH4k
>>646
保管庫で見てみたが中々おもしろいな。連休中に読むかな

649:小ネタ?
08/01/15 00:57:27 wrtj5jfW
「なぁ」
「んー?」
「今日、お前の誕生日だったよな」
「そうだけど」
「こうしてお前とこの日をだらだら過ごすのも何回目だ」
「4才のときからだから…だいたい15回くらい?」
「そうか。で、今年はプレゼントがあるんだ」
「へー、そんなのくれたことなんて、ほとんどなかったのにね」
「ほっとけ」
「はいはい。で、何くれるの?」
「……よし、ちょっとそこ座れ」
「ん?……ここでいいの?」
「大丈夫だ。そしたら目をつぶれ」
「はいはい」
「……」

ちゅっ

「!……んっ…」
「……」
「んっ…むぅ…ぷはぁっ。……今の、って」
「…オレのファーストキスだ、返品は認めない」
「……自分が、何したか、わかってる?」
「口で言うより伝わると思った。いまさら言葉にするのも、恥ずかしいし」
「……こっちのが、余計に恥ずかしいと思うけど」
「気分を害したなら謝る。代わりにいくらでも殴れ。ほら」
「……てか、これアンタ二回目だし」
「なっ!?」
「記念すべき第一回誕生日プレゼントだったでしょ」
「わ、忘れてた……」
「で、これが……」

ちゅっ

「!」
「……三回目、ね?」
「……お前も十分恥ずかしいよ」
「お互い様よ」
「…じゃ、そういうことで」
「今後ともよろしくね」

650:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 00:57:34 MDuk2wlu
お久しぶりですと書くのもおこがましい。
5ヶ月ぶりに続きを投下させて頂きます。

651:三人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 00:59:05 MDuk2wlu
 微かなときめき。それは想いにも似た。


12:Over


「――でも、やっぱり、してやられた気になりますね」
 そういいつつも、ふと紅い冷麦と白い素麺がくるくると水引の形に結ばれる絵が頭に浮かび、お似合いかもしれない、
と思うのだった。

 そこまで読み終えてからチラリと腕時計を見た忍は、待ち合わせの時間になっていることを確認する。名残り惜しいが、
これ以上はやめておこう。思いながら彼女は、読んでいた本、北村薫の『朝霧』を閉じた。
 ほぅ、と漏らすは溜息。この作者が描き出す世界は、優しい。だがそれは、現実から乖離したファンタジーではない。
綺麗ばかりでない人の心を見つめ、浮かび上がらせ、だけど――包み込む。読後に残るのは、穏やか。時に
それは、切なくもあったけれど。
「よう、早いな」
 そんなことを考えていたせいか。間近に立たれて声をかけられ、一瞬、忍は驚く。
「なんだ、どうかしたか?」
 敏感にそれを感じ取ったのだろう、怪訝そうに尋ねてくる亮太に、彼女は慌てて首を横に振った。
「別になんでも。ちょっと、ぼぅっとしてただけです」
 答えながら忍は、自分の頬が朱に染まっていくのを感じていた。何となく気恥ずかしい思いを抱きながら、立っている
彼の顔を見上げる。が、そうか、と言ったばかりで特に何の表情も浮かんでいなくて。
「で、そのコルトンってのは?」
「この近くです。そんなに遠くはないですよ」
 応えて忍は先に立ち、彼を件の店へと連れていく。コンクリートの車道にはメラメラと陽炎が立ち昇り、照り返しすら
眩しくて。
「にしても、暑いな」
 首筋の汗を拭う亮太は、ボーダーのポロシャツをラフに着こなしている。だがその色は黒。
「黒なんて、着てくるからですよ」
 からかうように言う忍が身にまとうのは、白のタンクトップの上に淡いブルーのシャツ、下は膝丈のデニム。見た目にも
涼しそうな彼女の装いをチラリと見て、亮太は軽く肩をすくめた。
「いいんだよ。好きなんだから」
「まぁ、似合ってると思いますよ」
 何のフォローにもならないと知りつつ言った彼女の言葉に、彼は小さく溜息をついたのだった。


652:三人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 00:59:49 MDuk2wlu
「ここが、そうですよ」
 カランカラン。聞き慣れたベルの音を鳴らしながら、忍はドアを開けて店内に入る。テーブルを拭いていたウェイトレス
が振り返って、
「いらっしゃいませ……って、なんだ、忍か」
「なんだ、はないでしょ。由梨さん」
 投げやりな幼馴染の姉の態度に、忍は小さく苦笑する。
「またうちで読書? 休みなんだから、一人で過ごしてないで、誰かと遊びに行ったら? うちのバカ妹なんて、朝から
飛び出して行ったってのに」
「あいにくだけど、今日は二人席で」
 彼女がいつも一人で座るカウンター席に案内しようとした由梨を、忍は呼び止めて振り向かせる。こちらを向いて
ようやく、亮太の存在に気付いたのだろう。由梨は、あら、と小さく呟いて二人を見比べた。
 そして、彼の耳には届かないよう、小さな声で投げかけられる問いかけ。
「彼氏?」
「先輩」
 聞かれるであろうと想像していた言葉に、あらかじめ用意しておいた答えを即座に返す。ふぅん、と頷く由梨はしかし、
納得したようではなかったけれど。
「知り合いなのか?」
 案内された席に向かい合って座ると同時に尋ねてきた亮太に、忍は小さく首を縦に振った。
「幼馴染のお姉さんなんです。ここでバイトしてて」
「ああ、それで」
 納得したように言った後、彼は横目でわずかに由梨を見やる。彼女は、興味津々といった態を隠そうともせずに、
遠巻きに二人を眺めていた。
「ほっときましょう。気にしたってしょうがないですよ」
「まぁ、そうだな」
 頷きあって二人は、テーブルのメニューを開いて見始めたのだった。

「確かに、ここならわかる気がするな」
 運ばれてきたアイスコーヒーに手を付ける前に、店の中を見回していた亮太が、頷きながらそう呟いた。怪訝そうに
見つめる忍の視線に気付いて、彼は椅子に座りなおす。
「なんつーか、いい場所だと思ってな」
「ここが、ですか?」
「雰囲気はいいし、値段もそこまで高くない。あんまりうるさくもなさそうだし、一人で本を読んだりするのにはむいてるな、
ってことだよ」
 亮太の言葉に、彼女は同意の頷きを返す。確かにここには、暖かい何かがある。ゆっくりとした時間が流れる中、好き
な本に没頭するのはたまらなく気持ちがいいものだ。
「よく来てんのか?」
「ええ。一応、家族料金がききますし」
「叔父さんだっけか」
 ハイ、と返して忍は、厨房の方を見やる。少し客が入ってきたせいだろうか、彼の姿は全く見えない。
「ちょっとまだ、話は聞けそうにないですね」
「忙しそうだしな。ま、気楽に待つさ」
 コーヒーも美味いしな。言ってアイスコーヒーを飲む亮太の、どこかおおらかな態度に忍は小さく微笑む。
 一歩間違えれば横柄とも取られかねないその姿は、彼女の目には好ましく思えたから。

653:三人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 01:00:44 MDuk2wlu
「はい、これ」
 突然、テーブルに置かれた二皿のサンドイッチに、本の話に夢中になっていた二人は戸惑う。持ってきた由梨はと
言えば、近くのテーブルの椅子を引いて座り、食べなさいな、と促して。
「マスターからの奢りだって」
「そういうわけには……」
 困惑して断ろうとする亮太を、しかし彼女は目で制す。
「いいから食べな。ただでさえ忍が男を連れてやってきたってんで、落ち着かないみたいなんだから」
 由梨の言葉に、忍は大きな溜息を吐く。勘違いをしたのは、由梨だけではなかったようだ。
「いいですよ、先輩。食べちゃって下さい」
「そうか? じゃあ、ま、頂くか。腹も減ってたところだし」
 後でしっかりと誤解を解かないと。そう思う彼女をよそに、亮太はサンドイッチを一つ摘む。
「うまい」
 満足そうに言う彼に、忍は思わず苦笑する。なんだか考えているのがバカらしくなって、彼女もサンドイッチに手を
伸ばした。
「それで? なんでうちに来たわけ?」
 客の波が引けたせいか、すっかりとくつろいでいた由梨がそう言ったのは、二人がサンドイッチを半分も食べてから
だった。
「え?」
「何か理由があって来たんでしょ。あぁ、彼氏を見せびらかしに来た、ってわけか」
「ちょっと、由梨さん」
 慌てる忍を見て、由梨はからからと笑った。からかわれていたのだと知って、彼女は憮然となる。亮太はと言えば、
呆れたように二人を見守るばかり。感じるその視線に、さらに気恥ずかしくなって、忍は目を伏せた。その頬は、
ほのかに熱を帯びていて。
「それで? 何があったのよ」
「別に由梨さんには関係がないし……って……」
 何かが引っかかった気がして、彼女は顔を上げた。きょとんとする二人に構わず、忍は問いかける。
「由梨さんって、確かうちの学校の卒業生だったよね。戸塚秀人、って人、知らない? それか、井上玲子って子」
「は?」
 目を丸くする彼女とは別に、驚きの表情を浮かべるのは亮太。
「考えてみたら、由梨さんと同じぐらいの年頃のはずなんです。この二人。だから、もしかしたら知ってるかもって」
「ちょ、ちょっと待って。一体、何がどういうことか、説明してくんない?」
 彼に向かって説明する忍の言葉を遮って、由梨が身を乗り出してきた。
 そこで彼女と亮太は説明する。
 図書館で見つけた本に、手紙が入っていたこと。その差出人が戸塚秀人で、送った相手が井上玲子という名前だった
こと。手紙の本文は暗号だったこと。その暗号を二人で解いたこと。そこから出てきたコルトンという言葉から、彼女達は
ここにやってきたのだということ。
「なるほど、ね」
 かわるがわる話す二人の話を黙って聞いていた由梨は、最後になってようやく、そう呟いた。その唇には、微笑。とても
愉快そうに、そして悪戯っぽく、彼女の瞳は光っている。
「何か知ってる、って顔ですね。由梨さん」
「知ってるってなら、何か教えて下さい」
 頼み込んでくる二人の姿を交互に見つめた後、由梨は小さく頷いた。
「ええ、知ってるわよ、二人とも。私の同級生だったからね」


654:三人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 01:01:44 MDuk2wlu
 やっぱり、と思うと同時に、忍は思わぬ偶然に驚きを覚える。
 期待をしていなかったわけではない。だが、もう数年近く前のことを、叔父が覚えているとは思っていなかった。
毎日のように訪れる客、その中のただ一人なのだから。
 それが、予想もしてなかった人から、情報が手に入ったのだから。
 ふと見やると、同じように感じたのだろう、亮太も口元に微笑を浮かべていた。視線がぶつかり、彼女もまた微笑む。
「やったな」
 言葉と共に宙に置かれた手、それが何を意味するかをすぐに理解して、忍は同じように手を差し出した。
 パーン。
 響く音。ハイタッチ。掌に微かに残る痛みも、何故か心地良かった。
「あんた達ね、他のお客さんに迷惑でしょうが」
 苦笑と共にかけられた言葉に、二人は驚きと非難で向けられた視線に気付く。想像以上に、ハイタッチの音は
大きかったようだ。
「ま、気持ちはわかるけどね」
 真っ赤になって小さくなる忍、同じように赤くなりながら照れ隠しの仏頂面をする亮太。そんな二人を交互に見て、
由梨は小さく肩をすくめた。
「で、あんた達はその手紙を届けたいわけだ」
「……うん。出来れば、届けたい」
 彼女の言葉に、亮太も頷く。
 最初は、そこまでを求めていたわけではなかった。心のどこかでは、見つけることは無理だろうと思っていた。
 だからこそ、こんなにも驚いたのだ。届けられると知って。

 そこまで考えて、忍は戸惑う。
 無理だと思っていたのに、どうして私は。
 彼を、吉川先輩を誘ったのだろうか。

「でもね、井上玲子って子は、もういないの」
 物思いは一瞬。由梨の言葉に、忍は彼女を見つめる。
「どういう……ことですか?」
 胸のうちに浮かんだ小さな疑問など、一瞬にして吹っ飛んでしまった。次々と脳裏に過ぎる悪い予感に、唇はすっかり
乾いてしまって。
 だが、次に彼女が見たのは、由梨の瞳が悪戯に輝く様だった。
「井上ってのは旧姓……ってのとはちょっと違うのかな。ともかく、古い姓でね。彼女、卒業前に親が離婚しちゃってね。
母親に付いていくってことで、転校していっちゃったのよ」
 だから井上玲子はもういない、ってわけ。そう続けた由梨は、楽しそうにすっかりと脱力した二人を見やる。
「塩崎。お前の知り合いは、なんというか……悪趣味だな」
「偶然ですね、先輩。私も同じこと思ってました」
「あら、失礼ね」
 心外だわ、とおどけるその様は、明らかにこの状況を楽しんでいる。
 そう言えばこういう人だった、と今さらながらに忍は思い出し、深い溜息をついたのだった。
「じゃあ、今の居場所は知らないってわけか」
 憤りのせいか、ぞんざいな口調の亮太の言葉に、しかし由梨は首を横に振った。
「知ってるわよ。あんた達のすぐ側にいるじゃない」
「は?」
 またからかわれているのか。そう身構える隙も与えず、由梨はゆっくりと続けた。

「井上ってのは古い姓でね。今の名前は佐野玲子。あんた達の学校の先生してるはずよ」

655:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
08/01/18 01:04:07 MDuk2wlu
まず一言。

投下し終えてから、次スレがあったことに気付きました。



まぁこっそりと戻ってきたということで。

656:名無しさん@ピンキー
08/01/18 21:46:28 O+7FsO87
GJ!お待ちしておりました
しかし5ヶ月ですか。なんとも早いものですな

657:名無しさん@ピンキー
08/01/19 00:37:17 y/bwZzgj
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!

久々の三人に癒されまくりですよ。忍しか出てないけど。
先生が玲子さんですか。どう展開していくのか楽しみ。
五ヶ月ぶりなのに空気感の良さは相変わらず素晴らしい。GJ!

658:名無しさん@ピンキー
08/01/20 20:03:24 d1xwMsi7
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