【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】 - 暇つぶし2ch450:402
07/12/10 23:20:55 9QV/vpgo

   _、_
| ,_ノ` ) >>440 こちらこそ、まさか連鎖が起こるとは思わなかった



   _、_
| ,_ノ` ) 素晴らしい幼なじみSS、じっくり堪能させてもらった



   _、_
| ,_ノ` )ノシ 次回作にも期待せざるを得ないな



  サッ
|彡


451:名無しさん@ピンキー
07/12/11 15:07:26 lUWaeMnH
ここらで、女の幼馴染みがモミの木を切り倒そうとするのも見てみたい

452:名無しさん@ピンキー
07/12/11 16:20:59 +SXRrdy6
女だったら放火かな
寝小便するぞ!って

453:名無しさん@ピンキー
07/12/11 20:58:19 bfRfenoo
「どうせ私には恋人なんかできないんだ!こんなもの切り倒してやる!」
「バカ野郎!危ないからやめろ!それに…恋人なら俺がなるから!」
「え!?今何て―」




こうですか?

454:名無しさん@ピンキー
07/12/12 02:25:57 NuCZcnMd


455:名無しさん@ピンキー
07/12/12 10:09:48 OI0nuSzR
与作女か
レッスルエンジェルス愛という携帯ゲームにいたな
誰か幼なじみになってやってくれ

456:名無しさん@ピンキー
07/12/12 21:21:45 Lc+1h70q
>>448
どう見てもWindネタだw

>>455
ネタ濃すぎwwってかキャラわからん
しかしリングドリームのキャラが出ているとは…濃ゆいなあ

457:名無しさん@ピンキー
07/12/13 00:31:49 Ig8plY68
クリスマスネタの投下はあるのかなぁ。俺はシロクロや絆と想いや今宵の月のようになどの作品のキャラが織り成す
クリスマス話を読んでみたいのだが。

458:名無しさん@ピンキー
07/12/13 01:20:22 bGITk9Q6


459:名無しさん@ピンキー
07/12/13 02:26:52 zV9FcA6E
今宵の~は、ラストのデートシーンがクリスマスじゃなかったっけw

460:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:09 oY0XJcy0
>>353>>359
>>411>>416
の続きです


4限が終わると同時に文奈は優祐を呼びに来た。
「えぇー、弁当食いたいんだけど」
早々と弁当を開きかけていた、優祐は不満を口にする。
「お弁当も持ってきて。外で食べるから」
「はい!?」
優祐は文奈の言葉に驚きを隠さない。
何故なら今は12月。
真冬ではないにしても最高気温は15℃を切る。
「嫌だ。寒いの嫌い」
優祐はそう言って動く意志を無くしてしまう。
「大丈夫だよ暖かいから。それに付き合うって言ったのは優祐でしょ」
文奈は左手に自分と優祐の分の弁当を持ち、右手で優祐の襟首を掴み、引っ張って行こうとする。
「わーったよ。寒かったら戻るからな」
「寒くない事は保障するわよ」
文奈は優祐が立ち、ついてくるのを見ると、先導してドンドンと行く。

461:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:45 oY0XJcy0
「到着」
「へぇ~」
文奈が連れてきた場所は、コの字型に建っている校舎の真ん中にある、中庭だった。
この学校は後ろに山を背負った場所に建築されている。
更に山に向かってコの字形の口が開いているため、中庭は四方を障害物に囲まれていた。
「ほら、全然風来ないし暖かいでしょ」
文奈は芝山ーー芝生が敷詰められた小さい丘ーーの頂上で両手を広げて見せる。
「なるほどね」
確かに中庭は、芝生が敷かれた地面に真上から冬の陽光が降り注ぎ、風が吹くことも無く、外とは隔絶した温かさだった。
「さぁ食べましょ」
文奈は芝山の上で自分の弁当を広げる。
「あいよ」
その前に優祐も座り弁当を食べ始める。
「それちょっと頂戴」
文奈が優祐の弁当の具を指す。
「はい」
優祐はそれに答えて文奈に取りやすいように弁当箱をずらす。
「ありがと」
文奈は弁当の具をつまむと一口で食べてしまう。
「うん、これ作ったのおばさんでしょ」
優祐から貰った具を食べ終えた文奈はそう言った。
「そうだけど……やっぱ分かる?」
「うん。何となくだけどね」
文奈は恥ずかしそうに笑う。
「そっか。やっぱ母さんには勝てないなぁ……」
どことなく落ち込んだ感じで優祐はそう呟いた。

462:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:03:21 oY0XJcy0
「味じゃないんだよ。 何て言ったら良いか分からないけど……愛情……かな?」
「愛情ってお前な。臭過ぎ」
優祐は呆れ顔でそう言って苦笑する。
「だよね~。あのね、優華ちゃんにお弁当作って貰えば分かると思うよ」
「ちょっと待て。なんでそこで優華の名前が出てくるんだ?」
優祐は突然出てきた優華の名前に驚きながらも、そう疑問を発する。
「なんでって……何か有ったでしょ」
文奈の目の光が変わる。
いつもの笑っている目では無く、本当のことを見通そうとする目だ。
「何もないよ。なんでんな事考えるんだよ」
優祐は言い返しながらも、自分が少し焦っているのを感じる。
優祐は未だ、こうなった文奈の追求を逃れ得た事はなかった。
「今日の朝さ、優華ちゃんに電話するの妙に渋ってたじゃない、何でかな~って」
「いや、別に大した事じゃないし、気にしなくても……」
優祐は文奈の視線から逃げるように視線をずらす。
優祐は文奈と目を合わせると全てを白状してしまいそうだった。
それは何と言うか……格好悪過ぎる。
「じゃあ何かがあったんだ。教えてよ」
しかし文奈はしつこく聞く。
これは文奈にとっても重要な問題だった。

463:迷い
07/12/13 23:05:16 oY0XJcy0
ここ2~3年学校関係で優祐に声を掛ける子は殆どいなかった。
そこに優華ちゃんという新たな伏兵が表れたのだ、放置しておける問題ではなかったし、文奈もそう易々と渡すつもりはなかった。
だからこそ文奈はしつこく聞き続ける。
その追求に隠し通すのを諦めたのか、優祐は渋々と昨日の出来事を話始める。
「ふーん。優華ちゃんに敬語使われたんだ」
「ああ。そしたら桜は優華は俺の事が好きなんだ、とか言い始めるしさ、接し方分かんなくなっちゃって」
結局優祐は洗いざらい吐いてしまっていた。
「優華ちゃん、優祐の事好きなんだ~」
文奈は優祐を見つめてにっこりと笑う。
「いや、ないって。有り得ないって」
優祐は慌てて否定する。
「そんなの分からないじゃん」
「いや友情から恋愛にはならないって言うしさ、普通兄貴に恋心なんて抱かないだろ?」
「兄って別に兄妹でもなんでもないじゃない。それに親しいからって恋はしない!なんてのは間違いだよ」
文奈は真っ向から優祐の反論を潰していく。
「それに優祐はどう思ってるの?優華ちゃんの事」
この問いは一種の賭けだった。
もしも優祐が優華に親愛以上の物を感じているとすれば、それは則ち文奈の敗北を意味する。

464:迷い
07/12/13 23:06:48 oY0XJcy0
その問いに優祐は大きく息を吐き、間を取ってから答える。
「嫌いではない……いや違うな、桜と同じ……かな」
この答えは、文奈に取って決して最良ではなかった。
しかし最悪でもない。
文奈と優華、二人に平等のチャンスが残された状態だった。
「多分優華ちゃんは優祐の事が好きだよ」
文奈は、そう小さく呟く。
「なんで分かるんだよ」
「女の勘だよ」
文奈はテヘッと笑い、優祐の視線をごまかす。
内実文奈には絶対の自信があった。
女の子が長い時間掛けて作られた関係を壊そうとするのは、相手の事を嫌いになったか、その逆。
優華が優祐に恋した時、関係を作り直そうとしても何等不思議ではなかった。
文奈は、数年前優祐に対する恋を意識しても動けなかった。
「優祐、優華ちゃんに言っといて。簡単には渡さないって」
「はあ?なんだよそれ」
優祐は一人呆気に取られている。
「分かんないなら、そのまま伝えること」
「はあ……」
「あ、そうだ期末テスト終わったあと暇?」
「暇っちゃあ暇だけど……」
「じゃあ空けといてね。25日の昼からね」
「わ、分かった」
「クリスマスプレゼント待ってるからねっ」
文奈は優祐の肩を両手で掴んで、満面の笑みを浮かべた。

465:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:08:06 oY0XJcy0
以上です。

最初の方タイトル入れ忘れましたorz

それではクリスマスイブにっ

466:名無しさん@ピンキー
07/12/14 22:41:18 jr6lMuY6
もっと  妹を!!(幼馴染のほうの)

467:名無しさん@ピンキー
07/12/15 00:18:54 kHHXH9W3
GJなのです! クリスマスイブ、期待してますよ!!

468:名無しさん@ピンキー
07/12/15 21:44:44 Tm/Xe94B
幼少のころからお互いのことを何でも知ってるというのは
利点なのかそうじゃないのか。
今さら異性だって言われてもなー、みたいな苦悩が好き。

きみはどう?


469:名無しさん@ピンキー
07/12/15 23:23:08 YKIGmh+f
きみはどう……ってオマエ誰やねん
しかし>>468は、お互いのことを何でも知ってるというのは利点じゃない
だがそれが好きということか?

しかし、利点なのかどうかというのは主に幼馴染キャラ本人の問題で
苦悩が好きってのは第3者視点で見た場合の話だ
それをごちゃまぜにして考察を進めちゃあダメだ

470:名無しさん@ピンキー
07/12/16 01:02:45 fNB1SIIW
何でも知ってると思ってて、実は一番肝心なことだけ見抜けていませんでしたってパターンが王道
幼なじみという王道ジャンルにはやはり王道なパターンがよく似合う

471:コトコのハナシ_1
07/12/16 01:06:53 XxQ10Myz

 琴子の話は長い。そして脈絡がない。結論もない。
 そんな話に嫌気が差すこともなく延々と付き合っていられるのは、琴子が「聞いてる?」などと絡んできたりしないせい。
 それは僕が素っ気のない相槌でもちゃんと聞いていると知っているからなのか、それとも聞いていなくても関係ないのか。
 どちらなのかイマイチよく判らないけれど、とにかくこの晩酌の時間が、僕は好きだった。

 久本琴子と、僕こと吉見要は、いわゆる幼馴染だ。
 家が隣で、年が同じで、幼稚園から小中高と同じ学校で。
 誰にも文句を言わせないスタンダードかつパーフェクトな幼馴染だ。
 親同士の仲もよく、家族ぐるみのお付き合いなんてことが今でも続いている。
 お互いの祖父母の家にも泊まりがけで遊びに行った仲なのだ。
 そんな幼馴染を持っている人間を、僕は僕ら以外知らない。


 今日はビールと焼酎の日、と琴子が言ったので、僕はもつ鍋の材料を用意した。
 牛もつの下ゆでが終わったころに、ビールと焼酎をもった琴子がインターホンを鳴らした。
 二人でたっぷりのきゃべつとにらを切って、もくもくと切って、豆腐やもつと一緒に味付け済みのだし汁が沸騰する鍋に放り込んだ。
 しなーとキャベツがその身の質量を減らしながらだし汁を吸収する様を、二人でじっと見つめた。
 食欲を刺激する、にんにくと醤油の香りの湯気がたっぷりと台所に立ち込めて、口のなかに唾液が溢れる。

 美味しそうだね。
 琴子が嬉しそうに言う。
 美味しそうだね。
 僕も嬉しくなる。

 スープを小皿にとって一口舐める。うん、完璧。
 もう一口分取って、琴子に手渡す。犬のようにぺろりと舐めた琴子も満足そうに微笑んだ。
 ついでに一切れ取り出した牛もつは充分に柔らかく煮えていた。
 ただし口に放り込んだら熱くて喋れない。
 ほふほふと口内の熱を逃がしてやりながら、右手の親指と人指し指で丸を作って琴子に示す。
 期待たっぷりで頷いた琴子が、冷蔵庫からグラス二つとビールを取り出してダイニングへ向かう。
 僕は火を切って換気扇を止めると、鍋つかみとダスタを駆使して土鍋の耳を持ち上げた。
 ぐっと腕に心地好い熱さと重み。
 今から琴子と二人でこいつを平らげる幸福な予感に、自然と口元が緩む。
 ダイニングテーブルの脇には、やっぱり嬉しそうに口元を緩めた琴子が鍋と僕の到着を待ち詫びていた。

 こんなにも息がぴったりなのに、残念ながら琴子と僕は恋人同士でも夫婦でも、家族でもない。
 限りなく家族に近い異性の友達。
 大抵の友人が、僕らの関係に首を捻る。
 いくら捻ってもらっても、そういう友達をもっていない彼らに理解は不可能で、結論なんて出てこないだろう。



472:コトコのハナシ_2
07/12/16 01:07:27 XxQ10Myz
 小学校の低学年までは一緒に遊んだり登校やら勉強やらもしたけど、そこはやっぱり男と女。
 気がついたら朝は別々に登校をするようになったし、学校で会っても挨拶だけになったし、ずっとクラスが違ったから「今日の課題なに」なんて電話も掛ってこなかった。
 それでも定期的に、どちらかの家で誰かの誕生日食事会なんかが開かれたし、琴子の弟の伊織―僕らはみんなイオ、と呼んでいる―はうちにゲーム目当てで入り浸っていたから、暇を持て余した琴子が格ゲー大会に参戦することもあった。
 ごく稀に一人で僕の本を借りに来たときには、最近どう、なんて話もした。
 だからお互いの成績も交友関係も、初めての恋人も、将来への不安なんかも大体把握していた。

 大学への進学と同時に、僕は実家を出た。
 年に数回帰った時には、琴子とイオがなぜかうちに夕飯を食べにきて、話すことといったら現状よりも昔話ばかりで、照れくさいながらも幸福の形を見ているような気がして。僕は帰省をしょっちゅうしていた。
 そのまま就職をして、地元への移動願いを受理されたのが2年前。
 帰るよ、と母親に報告をしたら、あらあらあら困ったわぁと予想外の返事がきた。
 何でも父親が、地方の子会社の支社長に就任するらしい。

 栄転じゃん、よかったね。何にも出来ない父さんに、単身赴任なんてさせたらだめだよ。
 家だけ僕に貸してくれない? なんたって筋金入りの一人暮らしだから、ちゃんとやるよ。お隣もいるし。

 僕は別に一人でも困るなんてことはなかったから、母さんにそう伝えた。
 母さんは、また家族がばらばらね、と少し寂しそうだった。
 でもそれも、長くて5年ぐらいの話だし。要がちゃんとしてくれるなら、他人に貸すより安心だわ。
 両親は親から夫婦へ戻っていて、僕は一人の男としての生活がすれ違いに継続された。

 だだっ広い一軒家の一人暮らしは、案外快適だった。
 掃除だけは大変だけど、一人分の食事や洗濯なんてたかが知れているし、僕を心配した隣のおばさんがしょっちゅう琴子におかずを持たせてくれるから不自由を感じることはなかった。
 住み慣れた家、歩き慣れた土地、そしてお隣さん。
 僕の生活はそれなりに充実しながら淡々と過ぎていた。

 琴子が突然、飲まない、とやってきたのは春ごろのこと。
 それ以前も、帰省のたびに酒の肴に惚気や愚痴を聞かせてもらっていたのだけど、このときはほんとうに突然だった。
 1ダースのビールを抱えた琴子が玄関先で僕の帰宅を待っていたのだ。
 飲まない? っていうか、どうしても、付き合ってほしいの。
 泣きそうな琴子の笑顔は、今思い出しても胸がずくんとする。



473:コトコのハナシ_3
07/12/16 01:08:00 XxQ10Myz
 彼氏と別れてちょっと辛くて。
 そういうときいつも頼りにしていた同僚の親友は現在年下の恋人に夢中で、とても失恋の痛手を分かち合う相手に不適切だ。

 そんなもん?
 僕は聞いた。
 そうだよ、と琴子は3本目のビールをあおりながらはっきりと答えた。
「だいたい」
 ストーンチョコレートを一粒舐めながら、琴子は続ける。
「前は隔週で飲みに行ってたんだよ。でも最近は月一なの。ハッキリ言わないからよく判んないけど、たぶん彼氏に気を使ってるんだと思う」
「うーん」
 隔週が月一になったからって、全然変わらない気がするけど。
 琴子にとっては重大なのかな。
「私が悲しいのは、彼氏を優先にすることじゃなくて、あの子が彼氏くんがどんなひとなのかとか、どこで出会ったのかとか、いつから付き合ってるのかとか、なーんにも教えてくれないこと」
「そのひと、秘密主義?」
「違うんだけど、こればっかりは聞いてもすぐに誤魔化すの。不倫でもしてないか心配だよ。
 なんでなんにも言ってくれないんだろ。私は余計なことまで聞いてもらってきたのに。
 寂しくって、勢いであんな変な男と付き合っちゃったよ」
 私ってほんとばか。寂しいってほんとだめ。
 口の中でぶつぶつと繰り返しながら頭を抱える琴子を、衝動的に抱きしめたくなって驚いた。
 いい感じに酔っている。酔うと人恋しい。一人で飲んでもつまらないのは、温もりが足りないからだ。

 抱きしめる代わりに、そっと手を伸ばして頭を撫でる。
 弾かれたように琴子が顔をあげて、きれいなアーモンド形の瞳を真ん丸く見開いて僕を見つめ返した。
「要?」
「ん?」
「なに?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「うん」
「そっか」
 くすぐったそうに琴子が笑って、もっと、というように顎を突き出した。
 そのくちびるにキスをしたくなった自分にまた驚きながら、ちょっと乱暴に琴子の前髪をぐいと弄ぶ。
 ふふ、と口の中だけで琴子が笑った。

「ね、また飲むの付き合ってくれる?」
「いいよ。暇だし」
「遠距離の彼女は?」
「あれ、言わなかったっけ。ふられたよ。好きな人が出来たんだって」
「知らないよ。いつ?」
「半年前かな。もう自然消滅っぽかったし」
「そっか。私たち、失恋コンビだね」
「コンビか。そうかもね」
 その彼女とはもう1年も会ってなかったし、そもそも地元に帰ってくるタイミングで別れたつもりだったから特に失恋の痛手を背負ってはいないけど、琴子が分かち合えると思ってくれたならそれでいいか、と僕はアルコールでくらくらする頭で考えた。



474:コトコのハナシ_4
07/12/16 01:08:58 XxQ10Myz
 酒に弱くもないけど強くもない僕らは、その日二人でぐだぐだと話しながら深夜3時までかかって10本のビールを開けた。
 琴子はそのまま居間で寝てしまい、彼女を客用の布団に運んだ僕もそのまま隣で眠ってしまって、翌朝には二人で仲良く二日酔いだった。
 それでも不思議と気分は悪くなかった。
 また飲もうね、と顔をしかめながら笑った彼女が、早く失恋の痛手から抜けられたらいいと僕は願った。


 金曜か土曜の夜ごとに琴子が酒を片手にやってくる。
 あの日以来そんな妙な習慣ができてしまった。
 たまには外に飲みに行くこともあるけれど、僕の家の匂いが好き、と琴子は内食を好んだ。


 今日の料理は完ぺきだ。
 冬に相応しいいでたちの湯気を上げる鍋を見下ろして、自己満足に浸る。
 取り分け用の小皿もちゃんと用意して。
 今日の酒盛りの準備は完了だ。
 きんと冷えたビールで乾杯。
 ぐいと同時に煽る。
 ぴりりと突き刺すような炭酸と、幸福の象徴のような苦味が乾いた喉を滑った。
 うまい。
 きっと僕は、このために、一週間働いてきたんじゃないかとすら思う。

 もつ鍋の中身を、琴子が取り分けてくれる。
 はい、と手渡されて、ありがとうと受け取る。
 琴子が自分の分をとりわけるのを待って、同時に口に入れて、同時にあつ、と眉根を寄せた。


 喉が潤い腹が満たされてきた頃に、琴子と僕は取り留めもなく話を始める。
 学校のこと、友人のこと、趣味のこと。
 今日の琴子の話題は、半年前に分かれた件の元彼について、だった。

「結局ね、先生やってる私が好きだったんだよ」
「うん」
「この仕事、好きだよ。だけど、ちょっと逃げ出したくなるときもあるじゃない?」
「あるね」
「別れて半年後に元カノと結婚って、酷いと思わない?」
「酷いね。同時進行だったんじゃない?」
「そうかもしんない。琴子なら忘れさせてくれると思ったけど、なんて、甘えすぎ」
「うん」
「友達でいてくれる、なんて聞いた私がばかだった。うん、なんて言わないでほしかった。それに囚われてる私は究極のばか。何で結婚してからの方が頻繁にメールくるの?」
「マズいね。もう拒否ったら?」
「うん、昨日そうした」
「偉いね、琴子」
「ううん、私、ほんとうにばか」

 頑張るなあ、と僕は他人事のように思う。

 琴子は決して恋愛をおろそかにしているわけじゃない。
 だけどそれ以上に、仕事に熱中をし過ぎている。
 社会人を数年もやれば、力の入れ所と抜き所が適度に判ってきていて、入社したてのころに抱いていた仕事に対する情熱とか希望とか、青臭いものを恥ずかしい、だなんて判ったように見下したりする。
 忙しいなんて言いながらご多分に漏れず僕もそうだ。



475:コトコのハナシ_5
07/12/16 01:10:10 XxQ10Myz
 だけど琴子は、社会人5年目になった今でも高校教師という仕事に情熱と誇りを持っている。
 のらりくらりと仕事をいい感じに適当に頑張っている男にとって、彼女はさぞ暑苦しいに違いない。
 その熱を、自分に向けてくれたら、だなんて考える気持も、実は、判る。

 結局温度差が大きくなりすぎて、面倒になった男が別れを切り出す、というのが聞いている限りいつものパターン。
 例の元彼氏は、とにかく短かったなあという記憶しかないらしい。
 確か、2ヶ月ぐらいだったかな。
 その付き合ってる2ヶ月の間で、会った時間はたぶん、合計10時間ぐらい。
 職業柄、年度の替わり目は忙しいからしょうがない。
 その時期は、顧問を務めるバトミントン部の卒業生のため、在校生たちと寄せ書きやら手製のアルバム作りやらに追われていたに違いない。
 「へー琴子さん先生なんだ」と言って近づいたんだったら、そこんとこ理解していないのは究極におかしい。
 想像力のない人間は、これだから困る。

 目の前の琴子は、泣いてはいないけれど、はぁぁと盛大なため息を落としながら酒を舐めている。
 恋をして、失恋して、しばらく男はいい、なんて言ってまた仕事に打ち込んで、突然思い出したように合コンやら友達の紹介やらで彼氏を見つけてくる琴子。
 彼女は人見知りをせず誰とでもすぐに親しくなってしまうし、肩のあたりでふわふわと揺れる髪型やアーモンド形の大きな瞳のせいか、一見柔和で穏やかでどこか頼りなくて、守ってあげなくちゃいけないような気になる。
 だけど実際の琴子は、実は姉御肌で面倒見がよく、なまじの男よりさばさばと割り切った付き合いを好む。
 会えないからって無駄に寂しがることはしないだろうし、メールや電話も、毎日はやってられないよ、とすぐに投げ出すし、仕事は忙しいしで、本気の度合いを疑われても致し方ないだろう。
 当の琴子は、彼氏ができたからって仕事や趣味の時間を削る気はさらさらないし、恋人を置いて女友達と海外旅行に出かけたりもする。
 そのギャップについていけない男が多いのも、納得はいく。
 付き合い始めで燃え上がっている時期にそうやって、自分の世界にのめりこんでいる彼女に置いてきぼりにされるとなぜか冷めてしまうものだ。
 このひとが自分を好きだと言ったのは嘘で、自分がこの子を好きだと思ったのも勘違いだったんじゃないかと。

 僕に言わせれば琴子はちゃんと恋人を大事にしている。琴子なりのやり方で。
 そのひとに合わせて映画が好きになったり、アウトドアにハマったり、スノボに出かけたり、日本酒にやたら詳しくなったり。
 おかげで琴子はびっくりするほど多趣味になった。
 全然無理をしていないところがまたすごい。

 頑張るよなあ。僕なんて、おかげさまで忙しい仕事と琴子の相手で手一杯。彼女を見つける暇もないし、見つけたいとも思わない。

 いつもは別れた男のことなんて、1月もすればきれいに忘れてしまう琴子なのに今回は珍しく長く引きずっている。
 そんなにも好きだった、とはちょっと違うだろうと、僕は予想している。
 たぶん、何も始まらずに終わったから惜しいんだ。
 すぐに結婚をしたと聞いて、逃した魚は大きいとか、考えているんだと思う。



476:コトコのハナシ_6
07/12/16 01:10:44 XxQ10Myz
「でさ、結局琴子は、彼氏が欲しいわけ? 結婚がしたいわけ?」
「結婚」
 琴子は即答する。
 まあ年齢的に無理もない。僕らはもう27になってしまった。
 僕は男だから、まだいいかなーなんて悠長なこと考えているけど、琴子は女だ。
 一番あせる年頃だし、周りからもさぞせっつかれているんだろうと想像はつく。
「結婚がしたいの? 結婚式がしたいの?」
「要……私、そこまで夢見る夢子ちゃんじゃないよ。あのね、人生を一緒に生きてくれる人が欲しいんだ」
 人生を一緒に? それは大概夢子ちゃん的発想じゃないかなと僕はふと思ったけど、ふぅんとだけ呟いて焼酎を舐める。

「必要条件ってある?」
「あるよ、あるある」
「どんな?」
「煙草吸わないひとのほうがいい」
「へー」
「あとスーツで仕事に行くひとがいい。出来たら眼鏡」
 形から入るタイプの琴子らしい。僕はこっそり笑った。
 しかし眼鏡でスーツの男なんてたくさんいると思うけどな。そういう僕も、そのスタイル。
「それでね、白衣着てたら最高。でもお医者さんがいいってわけじゃない」
 白衣。なぜ白衣。
 そのフェチズムは理解に苦しむ。
「僕は会社で作業着のジャンパー着るけど」
「作業着かあ。2割減だなあ」
 でも8割は残してもらえるわけか。
「琴子、見た目ばっかりだね」
「……そうだね…………えっとー、例えばね、デートで電車に乗るじゃない?」
「うん」
「で、目的の駅で、うっかり乗り過ごしちゃった時に、じゃあ予定変更して行けるとこまで行ってみようよって、言ってくれるひとがいい。
 その先に、思いもよらなかった楽しいことがあるかもしれないじゃない?」

 琴子がグラスを揺らして、焼酎に浮いた氷がかららんと涼しげな音をたてた。
 へえ、と僕は呟く。
 まあ琴子はそうだよな。明日からアメリカに転勤ですって言われても、満面の笑みで行きますと即答して、行ったらすぐにその土地に馴染んでしまうに違いない。
 人生を楽しく過ごす術を、琴子はよく知っている。
 その楽しい人生を一緒に生きる男はどんなヤツなのか。
 嫌な想像に僕は眉根を寄せて、ぐい、と残り少なくなってすっかり味の薄くなった芋焼酎を煽った。

 早く見つけないとね。
 僕のグラスに新しい氷と焼酎を注ぎいれながら、琴子が言う。
 いつまでも要に甘えていらんないもんね。
 はい、と差し出されたグラスを受けとって、僕は曖昧に微笑んだ。

 いつまでも甘えてくれていていいのに。
 琴子が望むなら、いつでも甘えさせてあげるし、そばにいてあげるし、絶対に琴子を悲しませたりなんかしない。
 僕は煙草を吸わないし、琴子の好きな眼鏡とスーツだし、電車を乗り過ごしたら乗り換えるのが面倒になると思う。
 あいにくジャンパーだけど、なかなか琴子の好みに合致してるんじゃない?
 だけど琴子が望んでいるのはそういう僕じゃないんだろう。



477:コトコのハナシ_7
07/12/16 01:11:42 XxQ10Myz
「ああ……出会いってどこにあるんだと思う?」
「どこだろうねえ。その友達の彼氏さんの友達とかは?」
「だめ。イオより年下だって。弟より年下は、ちょっと無理」
「じゃあ合コン?」
「うーん、あのね、私気がついちゃったんだ」
「うん」
「合コンって悪くないんだけど、なんか駆け足でしょ。駆け足は悪くないんだけど、なんか違うの」
「違う?」
「こう、気がついたら好きだった、みたいに、穏やかに始めたいんだなー。そしたら穏やかにゆっくり続いていきそうな気がするじゃない?」

 琴子はやっぱり夢子ちゃんだ。
 まだそんな思春期みたいな発想を持っているんだ。

「あ、いい年してって思ってるな?」
「思ってないよ。そういう恋愛だったら、職場とかじゃない?」
「今の学校、若い独身の先生がいなくて。あとは生徒?」
「それはマズいね」
「でしょ。懲戒解雇ものだよ。第一、高校生なんて図体だけ大きくて子供だもん。そこが可愛いんだけど」

 そういえばこないだ山井がね、と生徒の話を嬉しそうに琴子は始めて、出会いの話は宇宙のほうへと押しやられていった。

 だから僕は、―僕にしとかない? なんて、恥ずかしいセリフを、酔った勢いでうっかり吐いてしまわずに済んだのだった。


*

 眠い、と琴子が目を閉じそうになったので、とりあえず歯を磨きにだけ行かせて客間に布団を敷いた。
 これもすっかり琴子専用になってしまった。
 隣に帰れないぐらい酔っているとはとても思えないけど、外に出ると酔いが覚めて嫌だと琴子は我がままを言って、3回に1回はここで眠ってしまう。
 酔った勢いのまま眠るために、事前に入浴まで済ませてくる周到っぷりだ。
 戻ってきた琴子にお休みと挨拶を交わして、僕は入れ替わりに居間を出て風呂場へ向かう。

 熱いシャワーを浴びて、もどかしい思いを抱えたまま髪をトニックシャンプーで豪快に洗いながら、そして飛び散った泡を一人虚しく洗い流しながら考えるのは琴子のことばかりだった。


 琴子と僕は幼馴染だ。
 恋人じゃない。
 家族じゃない。
 友人、というのもまた違う。

 付かず離れずの微妙な関係。
 例えるならイトコが一番近いんだろうけど、それにしては距離が近すぎて繋がりが薄すぎた。

 琴子はたぶん、僕のことをイオと同列に考えているんだと思う。
 だけど生憎、僕にはとっくに結婚した兄貴が一人いるだけで、同列に並べるべき人間が一人もいない。
 姉か妹でもいたらまた違ったかもしれないけど、最近の僕は琴子の定位置を決めかねている。



478:コトコのハナシ_8
07/12/16 01:13:13 XxQ10Myz
 あの日抱きしめたくなった琴子は間違いなく女の人で、家族だったはずなのに僕にとってはどうしようもなく女性で。
 でもいきなりそんな感情を抱いては、琴子に申し訳ない気がした。

 琴子の初恋の人だって知っているし(ちなみに僕の兄貴だ)、いつまでおねしょをしていたかも、初めての彼氏も、ファーストキスの場所も、なぜか初めてのセックスの相手も知っている。
 もちろん琴子も、僕の人生のほぼ全てをなぜか把握していてくれている。
 こんなにもお互いを知りすぎている関係を変えてしまうには、今さら過ぎた。

 例えばこれが10年前だったら。
 もう少し何も考えずに、とても素直に想いを告げられたはずだ。
 だけどあの頃は、お互い違う恋人がいて、違う夢を持っていて、違う人生を歩き始めていた。
 だから琴子は琴子でしかなくって、恋人や好きな人、なんてカテゴリにはとても入れられなかった。
 今はただ、そのことが悔やまれる。

 結局、僕たちは、年をとりすぎてしまった。
 大人になって大きな間違いを起さなくなるのは、守りに徹するようになるからだ。
 喪失は絶望で、変化は恐怖だ。
 大切であるがゆえに、僕は琴子を失いたくない。
 臆病すぎると自分を罵るものの、無くすぐらいなら現状維持で、なんて後ろ向きな思いを、27年の人生の中で一番強く抱いている。
 強がりなんてひとかけらもなく、そう考えている。

 彼女が求めているのは男としての吉見要じゃなくて、家族としての僕なのだ。
 人生を頑張って生きている琴子の、安らぎでいたいから、僕は僕の感情に気が付かないフリをする。
 もうずっと、そんな平和な嘘を続けている。

 でも、琴子がもしも結婚をしてしまったら、僕はどうするのだろう。どうなるのだろう。
 兄貴が結婚を決めた時に抱いた感情とは、絶対に違うだろう。
 あの時は単純に、兄貴の幸せと家族が増える喜びが湧き上がってきた。
 だけど琴子が結婚をしたら、もう、こんな風に二人で酒を飲んだりなんて絶対に出来なくなるだろう。
 琴子が、人生を共に生きる伴侶だよ、と紹介するその男に、僕はなんて声をかけるんだろう。

 ますます後ろ向きな想像にぼんやりと浸っていたら、くしゅんと大げさなくしゃみがもれた。
 壁にシャワーを打ちつけながら動きが止まっていたらしい。
 溜息をひとつついて、風呂掃除を続行する。
 掃除はいい。
 一つ泡を流す度に、心の淀も一つ流れていくような錯覚を抱ける。




479:コトコのハナシ_9
07/12/16 01:13:52 XxQ10Myz
*

 髪を拭いながら居間へ戻ると、常夜灯の薄ぼんやりとした明かりの中にみのむしのように布団にくるまった琴子の姿が浮かび上がっていた。
 小さい頃から今でも変わらず、琴子は左を下にして海老のようにくるりと丸まって眠る。
 左手がしびれたりしないのかな、と不思議だけど、どうやら平気らしい。

 そっと枕元に跪いて、その寝顔をのぞきこんだ。
 幸せそうな眠り姫。
 人の気も知らないで、どんないい夢見てるんだろうな。

 手を伸ばして、指先でそっと前髪を撫でる。
 ぴくりと瞼を震わせた琴子が、振り向いてうっすらと眼を開けた。
「……ごめん、起こした?」
 ううん、と掠れた声で首を振った琴子が、ずる、と身体をずらして、あろうことか布団を持ち上げて僕を招く。
「………………いいよ、自分の部屋で寝るから」
「……寒いの」
 ぼんやりとした寝ぼけ眼で見上げられて、胸の奥が痺れた。
「琴子」
「だってヒャドがいないもん」
 ヒャドっていうのは琴子の家で飼ってる猫の名前だ。
 拾い主のイオが、俺がイオだからこいつはヒャドな、なんてふざけた主張をしたがために、残念な命名をされた彼を琴子は溺愛している。
「家に帰らないからだよ」
「……要のいじわる。いいじゃん、一緒に寝よ? ヒャドいないもん」
 ぐっと僕の寝間着の袖をつかんで、琴子が誘う。
 あくまでヒャドの代理ですか。

 大げさにため息をついて、そっと琴子の温もりで満たされた布団に忍び入る。
 くすぐったそうに琴子が笑って、おやすみ、と言い切る前に目を閉じた。
 すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
 相変わらず寝つきのいいやつ、と笑いそうになった。
 押し殺した吐息を察したように琴子が、のそのそと身を寄せてきて、温かくて滑らかな足が、僕のそれに密着をする。

 あのさ……琴子。まったく、僕をなんだと思ってるわけ?

 そっとあたまを撫でて、つむじにくちびるを落とす。柔らかいシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐって胸の奥がどくんとした。
 琴子って無防備だよね。
 聞こえないように囁く。
 もちろんこの無防備さは相手が僕であるが故なんだろうけど。
 5年前だったら襲ってたかもしれないけど、今の僕は余裕な大人なのだからそんなケダモノみたいな真似は出来ないのだ。
 後のことを考えると、やっぱりね。怖気づいてしまうんだ。


 寝るときに絶対琴子の布団に入ってくるらしいヒャドは、今日はどうしているんだろうとか、どうでもいいことを考えて気分を落ち着けつつ、そっと僕は眼を閉じた。




480:コトコのハナシ_10
07/12/16 01:14:47 XxQ10Myz
*

 インターホンが鳴ったような気がして、意識が浮上した。
 だけど薄らぼんやりしたあたまと身体は起きてはくれず、もう一回鳴ったら布団から出ようかと諦め悪くぬくもりにしがみついて、ふと、腕の中に琴子がいない、と気がついた。
 ぱたぱたとスリッパで小走りに駆ける音がして、彼女はもうすっかり目を覚まして、元気よく動き回っているのだと知る。
 しばらく後、押し殺したような話声が聞こえてきた。

「…………ら、静かにね」
「んー判った」
「で、あんた何しに来たわけ?」
「姉ちゃんの朝帰りを迎えに。暇だからさ」
「ばか。お隣だから朝帰りじゃないよ。ね、ちゃんぽん作るけど、イオも食べてく?」
「食う食う」

 そんな会話を片耳で聞きながら、いつまでも仲がいい姉弟だよなと改めて感じる。
 じゃあ要をそろそろ起こしてきて、と、琴子のミドルトーンが響いた。

 イオの気配が近づいてくる。
「要にいー」
 イオの起こし方は乱暴だ。
 いい年をして、ダイビング・ボディ・プレスの後に腕ひしぎ十字固めなんてしてくれたりする。
 これがまた半端なく痛いのだ。
 危険を察知した僕は、寝返りを打ってイオを仰ぎ見る。
「……起きてる」
「あそ。おはよ。昼飯はちゃんぽんだってさ」
「うん」
 答えたところであくびをひとつ。
 喉の奥を見透かされてしまうんじゃないかと思うぐらい大きなそれを終えて、上体を起こすと、あぐらをかいて枕元に座っていたイオが、いつになく真剣なまなざしで僕を見ていた。

「あのさ、要にいちゃん」
「…………何、気持ち悪いなあ」
「要にいって、姉ちゃんとヤってんの?」
 条件反射でイオを殴り倒した。
 床に額を打ち付けて、イオがいてぇと呻く。
 琴子を見やると、キッチンでざーざーと水を流してこちらの様子にはまるで頓着をしていない。
 僕はほっと息をついた。
「お前な」
「だってさ、姉ちゃんしょっちゅうここに泊ってくじゃん。とーさんもかーさんも、どうなってんだか心配してんだよ。相手が要にいならむしろ安心なんだけどさあ」
 で、どーなの、とイオが興味しんしんで、額を床にこすりつけたままこちらを見上げる。
「ご期待に添える関係じゃないよ」
「付き合ってないの?」
「…………付き合ってない」
「付き合ってないけど、ヤってるとか?」
「付き合ってないし、ヤってない。……イオ、再起不能なぐらい殴り倒していいか?」
「ヤメテ、要お兄さま」

 がば、とその身を起こしたイオが、ちょっと目を細めて睨むような視線で僕をまた見つめていた。



481:コトコのハナシ_11
07/12/16 01:15:56 XxQ10Myz
「…………二人とも、いい大人だとは思うけどさ。いい加減不自然じゃね?」
「なにが」
「そうやってさ、要にいが琴子を甘やかすからアイツ結婚できないんだよ。琴子が要にいに構うから、要にいが彼女作んないんだよ。そういうことだろ?」
 大人なんだから、ちゃんとしろよな。

 誰に言われるよりも、胸に刺さった。

 家族みたいなもんだろ、甘えて何が悪い、とか。
 そんなこと、僕が一番よく知っている、とか。
 じゃあ僕は琴子が好きだけど、あいつにその気があるように思う? とか。
 今くっついたら、お手軽に済ませたんだ感がぬぐえないよ、とか。
 琴子と僕がセックスするなんて、琴子とイオがそうするぐらい気持ち悪くはないか? とか。

 一瞬にして様々な返答が頭を廻ったけど、どれもこの場には不適切で、二日言酔いでないはずの頭が痛んだ。

「せっかく、俺が……、」

 イオは何かを言いかけたけど、押し黙った僕をみて、結局はくちびるを引き結んだ。
 ごくりと唾を飲んだ後、こんなこと言いたくなかったと呟いた。

「ごめんな」
「イオ―! 要起きた? ごはんもう食べれる?」
 僕の謝罪を掻き消すように、琴子の呑気な声が、キッチンから響いてきた。

「おー!」
 イオが張り切った声をあげて、腰を上げた。
 逃げるように客間を出て行く。

 僕も、それにゆっくりと続いた。
 ダイニングに足を踏み入れて、キッチンの中の琴子と目が合った気がして、おはよう、と出来るだけナチュラルに微笑んだ。
「おはよう、要。眼鏡、テーブルの上だよ」
「ああ、ありがとう」
 ぼんやりとした視界は、今の気分にとても相応しいけれどせっかく琴子が教えてくれたので素直に眼鏡を装着する。

 手伝うよ、と踏み入れたキッチンは整然と片付けられていた。
 昨夜二人で散らかした食器類はすっかりと洗い終えられて、水切りかごのなかにきれいに納まっている。
 まるで、なにもなくなってしまったようだ。
 昨夜の会話もはすべて夢だったんじゃないかとすら錯覚する。一緒に眠ったことも、すべて。

 ぐつぐつとつゆが煮えたぎる土鍋と、琴子の晴れやかな笑顔だけが僕をぬるま湯の現実へ繋ぎ止めていてくれる気がした。

*

以上です。
お付き合いありがとうございました。

482:名無しさん@ピンキー
07/12/16 01:29:26 IoOF1qdo
GJです! 大人になった幼馴染ですか。難しい部分はありますねぇ。

でも、この二人が幸せになるような、そんな続きを待ってます! 是非書いて下さい!!

483:名無しさん@ピンキー
07/12/16 03:16:45 UA7CAMsx
GJ。GJ。GJ。GJだ。
内容も表現も丁寧で落ち着いているのに、じんわりと沁みてくるものが
あって、個人的にとってもツボだった。
この続きでも別のでもいいから、次回作に激しく期待。

484:名無しさん@ピンキー
07/12/16 03:16:58 pKmWn2Vs
これはいい
とてもいい
とても いい!

485:名無しさん@ピンキー
07/12/16 07:07:02 crkYIJ5I
GJ!!!
某スレで以前投下されていたシリーズの外伝?ですよね?
相変わらず文章が丁寧で非常に読みやすく、気付いたら引き込まれて
いました。
続きも期待しています!




486:名無しさん@ピンキー
07/12/16 11:34:58 /+M12eW2
>>485
なんだと、それは一体どこで読めるんだ!?
差支えなければ教えてくださいだぜ!

487:名無しさん@ピンキー
07/12/16 13:00:12 crkYIJ5I
>>486
年の差カップル萌えスレの総一郎と茜シリーズ
1スレ目の作中で茜先生が一緒に海外旅行に行った友人ということで
名前だけだけど触れられている。

488:名無しさん@ピンキー
07/12/16 13:05:21 /+M12eW2
>>487
トン
ちょっと見てくる

489:名無しさん@ピンキー
07/12/16 15:46:26 S1/eDecJ
優也と友梨ってあれで終わりなん?
すんげー好きなんだが

490:名無しさん@ピンキー
07/12/16 19:22:00 tau5uflz
俺もすごい好き
続きがあるならぜひ読みたい

491:名無しさん@ピンキー
07/12/17 01:22:41 19X6MFJe
大人になってからの幼馴染が実にいいな!

492:名無しさん@ピンキー
07/12/17 01:59:32 /5ofsKVQ
結婚&新婚萌え纏めの方にも似たようなのあるよな
こっちも結構好きだ

493:名無しさん@ピンキー
07/12/17 02:07:44 +vX7x4Pe
結婚で締めか…そういうのもありだな

494:名無しさん@ピンキー
07/12/17 10:24:26 OMHE6jym
うはwww
同士テラ多スwwwwwww

もちろんあれで終わりじゃないよな?
な?

495:名無しさん@ピンキー
07/12/17 14:21:01 RiRllWX+
>>481
これ、くっつかないまま曖昧で終わるのがなんかいいなw

496:名無しさん@ピンキー
07/12/18 10:15:54 4N+RbrWZ
>>471氏の作品いいね
年の差の方も読んで来たけどかなりはまった
他にもあるのかな?知っている方いたら是非紹介を

497:名無しさん@ピンキー
07/12/19 15:21:57 lglWJp+1
携帯サイトをもってらっしゃる。URLは晒すと迷惑だと思うからメ欄にサイト名だけ。

498:名無しさん@ピンキー
07/12/19 17:59:41 2XkuCTlT
サイト多すぎワロタ

499:名無しさん@ピンキー
07/12/19 22:57:29 SQ4GY2fJ
サイト名だって晒すなよ。
URL晒しは迷惑だと思うのに、アドレスさえ載せなければいいと思う
その神経がわからん。
検索してヒットする数が多いサイト名なら晒してもいいと思ったのか?
アホだろ。
よそのスレまで行って迷惑がられたり、書き手のサイト晒したり、
しかもこれがいいことだと思ってやってるんだから最悪だな。
もうちょっと考えろ。

500:名無しさん@ピンキー
07/12/21 00:22:32 +nbhHOxw
切れすぎwwwwwwwwww

501:名無しさん@ピンキー
07/12/21 01:14:59 dArCU/92
まあ、やっちゃ駄目なことであることは確かだわな
このスレだけ見てると錯覚しそうになるが2chであることに変わりはない

502:名無しさん@ピンキー
07/12/21 06:04:09 cTCnKlJl
>>500
これを切れ過ぎって思うほうがおかしいよ
書き手のサイトを晒すなんて、普通は袋叩きだよ


そこら辺の感覚からしてズレてんのかね、ここの住人は

503:名無しさん@ピンキー
07/12/21 09:37:47 8vc3OZXC
これがモラルハザードか
郷に入りては(ry

504:名無しさん@ピンキー
07/12/21 10:47:34 QX8gcdrY
個人サイト晒すのが最低であることは確かだな
ただ、一人のレスの問題をスレの住人全員のせいにしようとして
「このスレの住人は…」とか言い出す奴は
スレの雰囲気悪くしたい便乗さんとしか思えないわけで…
まあもうちょっと落ち着こうぜ




505:名無しさん@ピンキー
07/12/21 11:19:12 LR+QE0Nb
俺はどこかを縦読みか斜め読みするのかなぁと思った。見つけられなかったけど。

506:名無しさん@ピンキー
07/12/21 14:22:51 Mh4AI6SK
今回はむしろ、サイト晒しという最低な行為に加えて
>>500とか>>505みたいなのがいるせいで
スレ住人にバカが多いと思われたんじゃないかね。

サイト晒しが最低なのは当然なんだから、
そこはもう反論も弁護もしないで
次の話題に行けばいいんだよ。
何か言うだけサイト晒しを認めてるように見えて印象悪くするだけだよ。

507:名無しさん@ピンキー
07/12/21 15:09:50 ogP52vN9
誰も彼もが一言余計

508:名無しさん@ピンキー
07/12/21 17:22:45 ASAcpQIy
>>452
遅くなってごめんよ。書いてみたよ。短いけど。


インターホンが鳴ってドアを開けると、隣に住む3つ年下の夏帆が立っていた。
短いスカートとダウンコートに、長い髪を頭の横でちょんちょんと結んで、元気一杯、何故かボトルとチャッカマンを持ってポーズを取っている。
「行くよっ、あっちゃん!」
「行くって夏帆、どこに?」
「駅前のおっきなツリーのとこ!」
「夏帆、それ、チャッカマン?」
「そう、チャッカリマン」
「・・・・・・で、その左手のペットボトルは何?」
「ごま油」
「何する気だ?」
「もやすの、ツリーを! 夏帆てっぺんまでとどかないから、あっちゃんに手伝ってほしいの!」
「何のために?」
「本で読んだの。火事が起きたら愛しいウンメイの人に会えるんだって。ツリーがノロシになって、ウンメイの人があたしを見つけてくれるんだよ!」
「あほかっ」
思わずゲンコツで殴ってしまった。もちろん手加減はしたけど。
夏帆はチャッカマンを手に握ったまま頭を撫でると、涙目でこっちを睨みつける。
「いったー、あっちゃんなにすんのよっ」
「運命の人より先に警察につかまるだろ・・・放火犯になりたいんかお前は」
っていうかあのツリーは生木だからごま油とチャッカマン程度では萌えないと思うけど。
夏帆は涙目の目をさらに潤ませて、だって、と小声で呟いた。
「ん?」
「みんなラブラブ仲良し幸せそうで、羨ましいんだもんっ。あたしもプレゼント交換とかしたい!」
「毎年俺と交換してるじゃん」
「あ、そっか。忘れてた」
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」
ラブラブでツリーね。最近の中学生はマセてるねぇ。そういうのが流行ってるのか?
「俺が一緒に行ってやるよ」
「あっちゃんほんと?」
夏帆のお守りは俺の仕事だもんな。おばさんからもこのアホな娘をくれぐれもよろしくって頼まれてるし。
「ああ。でも火はつけないからな」
「じゃあ手、つないでくれる?」
「う、うん」
「腕くんでもいい?」
「・・・いいぜ」
「ほんと?ほんとに?うそじゃない?うそじゃない?ねえねえ!」
「だーっまとわりつくなっ、うそじゃない、うそじゃない!」
「ラブラブ?ラブラブ?」
「あーラブラブブラブラだぜっ!」
「あっちゃん大好きっ!」
面倒になって叫んだら、夏帆は納得をしたようで、両手を目一杯上げてばんざーいのポーズを取った。その拍子に左手のごま油がボトルの中でぽちゃんと揺れた。
こいつ、ラブラブの意味判ってんのかね。
「はいはい。駅前のツリーの前に、うちのツリー飾るの手伝えよな。うちのかーさん待ってるんだから」
「手伝うっ。あっちゃんちのツリーも大好きっ」
「ほい、じゃあ入れ。寒いだろ」
「あーい、おっじゃましまーす!おばさーん、夏帆来たよー!」
玄関で靴をぽぽいと脱ぎ捨てる夏帆はまだまだお子様だ。
手を繋いだってきっとぶんぶん振り回すし、腕をくんだって俺にぶら下がるだけだろう。
再来年ぐらいには本物のラブラブになれますように、とサンタにお願いしたらかなえてくれるだろうかと、夏帆の靴を揃えてやりながら、ふと考えた。

509:名無しさん@ピンキー
07/12/21 17:27:07 ASAcpQIy
終わりなんだが、間違えたorz

「あ、そっか。忘れてた」
「忘れんな」 ←これが抜けた
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」

ごめん。
あと3日か・・・溜息

510:名無しさん@ピンキー
07/12/21 19:24:09 G/lPHpkE
理想の小説探しますみたいなスレあるじゃん
それとどこが違うの?
テンプレで個人サイトらしきURLが紹介されてるスレもあるよ

511:名無しさん@ピンキー
07/12/21 19:44:17 qR6BBe7q
>>508
元気一杯でかわいいなw
短くてもこれはいいものだ

512:名無しさん@ピンキー
07/12/22 00:44:13 8sBPbKWI
ほんと元気いっぱいでかわいいね
そんな娘が一緒にいたら楽しいだろうな~
グッジョブ>>508

513:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:05:37 FO/vE9kK
>>502>>506
馬鹿にしすぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

514:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:10:40 wqyrTWZo
>>513
大丈夫、お前はそれに見合うだけの馬鹿だから

515:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:50:55 8Lix7e+U
>>508
確かに短いのが残念。
でも幼馴染にチャッカリマンと言わせたり、最後の「夏帆の靴を揃えてやりながら」
の表現とか抜け目なく良い味出してるね

516:名無しさん@ピンキー
07/12/22 14:38:05 FO/vE9kK
>>514
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

517:名無しさん@ピンキー
07/12/22 17:10:53 m7f2OyA0
>>516
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

518:『その幼馴染み、驚異のメカニズム』
07/12/22 17:42:42 hL0YtIjD
安藤夏(あんどう なつ)は、自称・情熱家であるのだが、その実、他称・無愛想だった。


朝、ぼんやりと登校を始めた田川与一(たがわ よいち)少年17歳であるが、隣の家の前を通りがかったところで、そこの住人の一人である幼馴染み、夏(なつ)と遭遇する。

「おっす」

そこそこ年季のいったマンションの、新築出来立ての頃から入居の隣人であるから、これくらいの気安い挨拶もできる間柄。
与一はまぁ、隣人である同級生のことをその程度に認識していた。

彼の持つ価値観、というか、単純に女性の好みとして、儚げな雰囲気のある、上品なお嬢様が好きなのである。
しかしはたしてこの夏は、運動性能に優れ、病気に縁のない頑健な身体が取り柄の女だった。寡黙ではあるがその無口には気品が無く、平たくいえばぶっきらぼうなだけだ。
正直言って、好みの女とは懸け離れていた。
友達ではあるが、恋人にしたいと思わない、という認識。

しかし、この女、夏は違う。

ものすごく、激しく、バリバリ、めちゃくちゃ、超、スゲー、マジ、等々、いろいろとその度合いを表す言葉もあるが、飾りだすと際限が無くなるのでやめておく。
まぁとにかく、それくらい与一のことが好きだった。

そんな、与一好き好き人間の夏であるから、彼から朝の挨拶をされて、無言で返すはずがない。
普通に「おはよう」とでも返せばいいのであるが、夏は自称・情熱家であるわけだから、そんな簡単な言葉で終わらないわけで。

彼女の脳内では、

『おはよう!! 与一君!! 素敵な朝だね!
 今日も朝から、あなたに逢えて私、幸せよっ!!
 あー、もう、与一君スキスキ! もう、大好きで大好きで仕方がないの!!
 たとえるなら、私が植物で、与一君は太陽!あなたの光がないと、私はすぐに枯れてしまうのよ!!』

といったような、情熱的で少々イカレ気味な感情が渦巻いているのだが、それをアウトプットするシステムに問題があるらしい。
つまり、唇が、その言葉を上手く紡いでくれない。

おそらくは、大脳の中の、恋する男の子を想う部分から発信された信号が、同じく脳内のインタプリタであるところの身体の動きを司る部分に伝えられたとき、

(おまえ、長文ウザイよ)

と、辟易と労働を拒否されたに違いない。
ゆえにそのインタプリタは、脳内の長文を、やたら簡素に省略する。そしてようやく、唇へと信号を送るのだ。

『与一君、おはよう』

そして唇もまた、自分に与えられた仕事に対してルーズであった。
飯を食うときとあくびをするときくらいにしか大きくひらかない唇だ、目の前の男に激しい恋心を伝えたい、などという、どうでもいい仕事はしたくない。
いや、普段の会話も面倒なくらいだ。この唇が嬉々として言葉を発する仕事をするのは、定食屋で本日の日替わり定食を注文するときくらいだろう。
だから、脳内のインタプリタによって簡素に省略された文章であってもまだ長文に感じるらしい。食事に結びつかないからだ。

それでも脳からの信号がやたらとしつこく急かすので、やれやれどっこいしょ、とばかりにようやく唇が重い腰を上げる。
そして初めて、思考の一部が言葉として発せられた。

「・・・おは」

だいたいがだいたいこんなかんじで、夏の、朝の第一声が紡がれるのである。



「おめー、相変わらず無愛想だなぁ」

もちろん与一少年は、彼女の中でどのような電気信号のやりとりが行われているかなどと、知る由もない。


519:名無しさん@ピンキー
07/12/22 17:55:44 hL0YtIjD
ごめん、間違って投下しちまった。

520:名無しさん@ピンキー
07/12/22 18:02:28 6GIeyhqX
間違いは気にせず続きを

521:名無しさん@ピンキー
07/12/22 23:23:31 P8puskpp
全然間違いではないと思うぞ

まあ、挨拶するだけの展開にどんだけ行数使ってんだって気はするが、
結果的に面白いから許す

てなわけで、GJ&続きを激しく期待している

522:名無しさん@ピンキー
07/12/22 23:26:56 +UDtu5hu
>>508>>519でニヤニヤがとまんねえw

523:コトコのキス_1
07/12/23 01:51:20 BVeesct8
>>471-481の続きです。


 今日は辛口の白ワインの日、と琴子が言ったので、僕は少し悩んで今日の料理を決めた。
 生ハムのサラダと豆のポタージュスープと、ペスカトーレ。
 クラッカーとチーズを用意して、適当な野菜を乗せた数種類のカナッペ。
 よし、これで行こう。
 学生時代にちょっとした洋食屋でバイトした経験が役に立っている。

 野菜を切り終えたころに、琴子がワインを2本片手にやってきた。

 サラダとカナッペの制作を彼女に任せて―やっぱり盛り付け類は女のひとのほうが上手だ―湯を沸かしながら、砂抜きしたあさりを洗っていかをさばく。
 その手つきを、琴子が感心したように覗き込む。
 べつに魚を三枚におろしてるわけじゃないんだし、そこまで驚かなくてもいいのにな。
 はらわたは触れるけどゲソの吸盤がイヤ、と主張する琴子をからかいながら、下準備を終えた。
 沸騰した湯の中にスパゲッティを放り込んで、ぐるぐるとかき回す。
 店長が「麺類は愛を持って接しないとだめだ」と口酸っぱく言っていたなと、麺をゆでるたびに思い出す。確かに、頻繁にかき回してやると味が全然違うように思えた。
 フライパンにオリーブオイルを流し込み、強火で少々。つぶしたにんにくを浮かべると、すきっぱらに心地よい芳香が漂う。
 火を弱めて、赤唐辛子を淹れる。フライパンを耳障りな音を立てながらゆする。
 ゆで汁を少々加えて、にんにくと唐辛子を抜き出した。

 あさりと白ワインを豪快に流し込んで、蓋をする。
 この蒸している瞬間が、僕は結構好きだったりする。
「要って、パスタ上手だよね」
「まあね。女の子はパスタで落とせって言うじゃん?」
「……聞いたことない」
 琴子が落ちてくれるんだったら何でも作るよ、と恥ずかしいセリフがよぎったけど口にはせず、蓋のガラス窓からあさりの様子を伺った。
 ほんとうに伺いたかったのは、琴子の様子だったけど。

 口をぱかんと開いたあさりは、開けっぴろげで素晴らしい。僕はなぜかわくわくする。
 スプラッタなイメージの強い、つぶしたホールトマトをまぶして、水分が飛ぶまで煮詰めればソースは完成。
 スパゲッティが茹であがる直前に、いかとむき海老を加えてさっとゆがいて、キッチンタイマーとにらめっこ。
 ぴぴ、とけたたましい音を立てたらすぐにタイマーと火を止めて、ざるに上げた。
 ざっと水気を切ったそれを、ソースの煮えたフライパンに放り込んで絡める。

 あとは皿に盛ってめでたく完成。
 サラダとカナッペはすでにテーブルに並んでいたし、初めて作ったポタージュスープもいい感じにぐつぐつと音を立てていた。

 料理は二人ですると何倍も楽しい。
 それが、琴子と酒を飲むようになって知った一番の収穫だった。


524:コトコのキス_2
07/12/23 01:52:35 BVeesct8
 ワインの栓を抜くのは僕の仕事だ。
 一度琴子に任せたら、コルクをボロボロにしてしまって辟易した。
 そんな難しい仕事でもないはずなのに。
 それ以来、幾度琴子が申し出ても頑なに断らせていただいている。
 ちなみに琴子はワインを注ぐのも苦手だ。しっかりと液だれを起こす。だからそれも僕の仕事。
 申し分ない役割分担だ。
 まるで、何年もそうしてきた夫婦のよう。
 僕がこうやって甘やかすから、彼女はいつまでたってもワインの栓が抜けないまま。

 琴子が僕へのおみやげにどこかで買ってきた、ぶどう柄のワイングラスにきんと冷えた白ワインを注ぎいれた。
「じゃあ、」
 二人でグラスを持ち上げる。
「乾杯」
「乾杯」
 かちん、と涼しげな音を立ててぶつけたグラスを、ぐいとあおる。
 爽やかな渋みと酸味が舌の上で広がって、でもそれが喉を通ると不思議と甘くフルーティ。
 ワインの味なんてほんとうはよく判らないけど、これは飲みやすくて美味しいと思った。
 どう、と目で問う琴子に、美味しいと伝えると、アーモンド形の目を細めて嬉しそうによかった、と笑った。

 カナッペをほおばりながら、スープを吹き冷ましながら、スパゲッティをフォークにくるくる巻きながら、僕らは取りとめもなく話し始める。

 僕の話題は、隣の席の川上さん。
 5つ年上の川上さんは32歳独身、大人しくて控えめで、でも仕事は速くて正確だし、たまの主張は的確で重みがある。
 どんなに忙しくても、理不尽な欲求にも腹を立てたりせずに淡々と仕事をこなす。
 まさしく絵に描いたような「エンジニア」である。

「川上さんは絶対にプライベートを語らないんだ。
 昼にさ、食事しながらぐだぐだ話したりするじゃん。プラズマテレビを買ったとか、
 奥さんと喧嘩したとか、子供の誕生日でとか、そういうどうでもいい世間話。
 川上さんはね、人の話を聞いて笑ったりはするけれど、自分の話をしないひとなんだ。
 前は寮に入っていたから、一人暮らしだとは思うけど、夕飯はどうしているのかとか、
 休日は何をしているのかとか、家族や彼女はいるのかとか、誰も知らないんだ」
「えー、そんなのどうなんですか、って聞けばいいじゃない?」
「前に聞いたんだよ。そしたら『いや、別に』としか言わないんだ。会話がそこで終わっちゃってさ、妙な空気で気まずかったね。
 川上さんは言いたくないのかも知れないしさ、聞けないよね」
 そうだねえ、と琴子が神妙に頷く。
「聞けないとなると知りたくなる。
 たまに川上さんがいない昼休みは、みんなであれやこれや憶測をして楽しんでるんだ。
 上司がさりげなく尋ねたり、新人にほら聞け、と突撃させたりするんだけど、
 やっぱり応えは『いや、別に』なんだよ。
 上司まで交わせるあの手腕はすごいよ。ほんと徹底した秘密主義。
 あんなひと初めて出会ったし珍しいよね」
「そうだよねぇ。聞かれたら答えるよね、普通」
「でさ、その川上さんに彼女が出来たんだ」
「えっ、なんで要がそれ知ってるの?」
「それはね、その彼女っていうのが取引先の女性社員だから。若いよー20歳」
「12も年下? 川上さんやるね」
「やるでしょ。でね、僕もその子とちょっとやりとりがあるからさ、聞いてみたんだ。
 休みの日、川上さんは何してるの? って」
「うんうん」


525:コトコのキス_3
07/12/23 01:53:18 BVeesct8
 琴子の瞳が期待に丸くなる。
 僕の舌はますます軽快に滑り出す。
「そしたらその子『何もしてませんよ? たまにパチンコに行くだけみたいです』だって。
 実は川上さんにヒミツはありませんでした」
「なにそれ。酷いオチ」
「まだ続きがあるんだ。その子がね『あのう、私たちのことって、そちらの皆さんもうご存知なんですよね?』って聞くんだよ。
 僕が『そうですね、公然のヒミツってヤツですね』って答えたら、お願いがあるんですけどって言われて驚いた」
「お願い? 要に?」
「そう。何ですかって聞いてあげたら、『川上さんに、皆さんが知ってるって言わないでください。
 あのひと、誰にもばれてないって信じてるみたいだから……』だって。これ食べる?」
 クラッカーにチーズとサーモンマリネを載せて、琴子に差し出す。
「食べる」
 あろうことか琴子は、それを直接僕の手からかじり付いて奪っていった。
 なんて、猫みたいなやつ。
 小動物のようにくちをもぐもぐとさせながら、目線だけでそれで、と問う。
「ああ、えーと。そもそもさ、会社同士の親睦会で、隣同士楽しそうに話してたし、番号交換したのも全員知っているし、
 川上さん最近見たこともないぐらい浮かれているし、
 仕事で電話してるときはさすがに普段どおりだけど、話し始めは緊張してるしさ。バレバレなんだよね。
 だけどヒミツが露呈していたと知ったときの川上さんのダメージは想像つくじゃん?」
「ああー、うんうん」
「だからね彼女に判った、みんなに言っときますって伝えたんだ。
 彼女が『折を見て、私から話します。ご面倒おかけしますけど、宜しくお願いします』って言うからさ
 『じゃあそのときの川上さんの様子を教えてくださいね』ってお願いしといたんだ」

 ワインボトルを掴んで軽く振る。
 空になりかけたグラスの足を、琴子が細い指で握ってこちらに差し出した。
 とく、といい音が響いて、ぶどう柄のグラスに透明に近い黄金色のワインが満たされる。
 口元を軽く拭った琴子が、それを軽く含んでごくりと飲み込む。
 喉が上下をするさまに一瞬見ほれて、僕はまた口を開く。

「この前たまたま電話したら、『言いましたよ』って彼女が教えてくれた。
 川上さんは見ててかわいそうになるぐらい動揺してて、
 一日中『そうかあ、みんな知ってるのかあ』って繰り返してました、だって」
「……ちょっと可哀想だね」
「可哀想なんだけどね、職人で背中がぴんと伸びてる感じの川上さんが、肩を落として、そうかあ、そうかあって繰り返してる姿を想像したら、ちょっと笑えた」
「それは……可愛いかも。要、このペスカトーレ美味しい」
「そう? よかった。昨日川上さんと残業しててさ、『吉見くん……あのさ、いいや、何でもないです』って3回ぐらい繰り返すんだよ。
 たぶんハッキリ聞きたいんだろうけど、僕もなんて言ったらいいのか判らないからそのままになっちゃってるんだ」
「うわー、川上さんちょっとした拷問だね。でもソレなんて声かけていいか、ほんと判んない」
「うんうん、そうなんだよ。川上さんはさ、自分から話題を振ることがないから余計どうしていいか判んないんだろうね。
 こないだ珍しく声をかけてきたと思ったら大真面目な顔で
 『吉見くん、萌えってなんですか』って聞かれてさ、ちょっと返事に困ったよ。
 『好きの一種じゃないでしょうか』って返事しといたけど萌えってどう説明するの?」
「要がいま川上さんに抱いている感情は萌えに近いんじゃない?」
「そうかな? 川上さん萌え? ちょっとキモくない?」
「うん、ちょっとキモいね、だめだめ。でも私も川上さん萌えかも」
 二人で萌え、と言いながら盛大に笑った。


526:コトコのキス_4
07/12/23 01:54:01 BVeesct8
 そんな萌えさせてくれる川上さんは、とんでもなく仕事が出来る。
 彼の引いた図面は無駄がなくて美しい。
 一枚の芸術作品を見せられている気になる。
 僕が行き詰って、ちょっと川上さんに見てもらうと、川上さんはするすると正解を導き出して僕を正しい方向へと進ませてくれる。
 あまり下を育てたりするタイプじゃないけれど、川上さんは間違いなく素晴らしい職人だ。
 あと5年したら川上さんみたいになれるのか? と我が身に置き換えて問いかけてみても、そんな自信はまったくない。

 そんな川上さんが、最近丸くなった気がする。たぶん、恋人の影響なのか。
 川上さんの彼女は、人あたりも愛想もノリもよくて、声も笑顔も可愛い。癒されるタイプだ。
 正直、なぜあの子が川上さんと? と思わなくもない。
 あの川上さんが、女の子に愛を囁いている姿が想像できなくてまた笑えて来た。

「そういえば、琴子の秘密主義の友達は、何か教えてくれた?」
 指についたレーズンバターをぺろりと舐めながら、琴子がんー、と声をあげる。
 もう一口ワインを含んで、ううん、と首を振った。
「茜は秘密主義じゃないよ。聞けば教えてくれるもん。
 モトカレのことも初恋のひとも、今読んでる本も寝る時間も知ってるよ。
 ただ今の彼のことだけ教えてくれないだけ」
「今の彼だけ?」
「そう。その話題になるとすぐ話を逸らすの。
 たとえば窓を指差して、あ、って言うからさ、そっち見るじゃん? で、何もないからどうしたのって聞くと
 『UFOかと思ったけど見間違いだった。UFOといえば未確認飛行物体の略で夜間発光体の目撃が多くされているが、
 私の大学時代のゼミ仲間がホタルイカ等自発光体の研究をしていてな、光る金魚の育成に情熱を注いでいたが、在学中はお目にかかれなかった。
 あの研究は続いているのだろうか。ぜひ光る金魚を見てみたいと思わないか?』って一気にしゃべるの。
 何を聞かれたのかぜんぜん判らなくなっちゃってさ、あれ? って思ってるうちに『じゃ、忙しいから』って逃げちゃうの」

 なかなか鮮やかな手際である。
 川上さんの鉄壁の交わし文句といい勝負だ。
「冷静になって思い出してみると、全然たいしたこと言われてないんだよね。でもなんていうか、あの子は口調が無駄に重々しいの。
 無表情で淡々としてるから、すごい迫力あるの。ずるいよね、あれ」
「や、僕会ったことないし」
「そうだっけ? 今日なんて酷いんだよ。クリスマスは予定があるの? って聞いたら、なくはない、って言うからさ、
 誰とどう過ごすのか聞いてみたいじゃない?」
「うんうん」
「いい加減教えなさいよーって詰め寄ったら、突然、『あ、お疲れ様です』ってお辞儀したの。
 あれ後ろから誰か来たのかなって振り向いたら誰もいなくてね、向き直ったらまた誰もいなかったの。
 あの子走って逃げたんだよ。私思わず走って追いかけちゃったよ」


527:コトコのキス_5
07/12/23 01:55:06 BVeesct8
 走って逃げる高校教師と、それを走って追いかける同教師を想像したら、またものすごく可笑しくなってけたけたと笑った。
 箸が転がってもおかしい年頃が、アルコールのおかげでまた巡ってきているのかもしれない。
「すぐ追いついたんだけど、とっさに出てきた言葉がね『廊下は走らない!』だったの。テンパってて結構大きい声で叫んじゃった。
 茜もびっくりして『はい、申し訳ありません』なんて言うからさ、二人で笑っちゃって。
 あーまた今日も誤魔化されたなーって思ってたら、急に真剣な顔で、琴子、って呼ばれてね」
「うん」
「『落ち着いたら絶対に話すから、それまで待っててほしい』って言うの」
「落ち着いたら?」
「うん、今はどうしても話せないんだって。納得いかないから『まさか不倫じゃないでしょうね』って聞いた」
「…………琴子ってストレートだよね」
 その思い切りのよさを少しぐらい僕に分けてほしい、と思いながらボトルを傾けて、残り少なくなったワインをすべて琴子のグラスに注いでしまう。
「そのくらい普通だよ。あ、ありがと」
「で、どうだったの?」
「不倫じゃないって。そんなこと絶対にしないって言い切ってくれたから、すごく安心した。あと、心配かけてごめんって言われた。
 だからもう聞くのは止めにして、待つことにした」
「え?」
「待つの。茜は大丈夫。ばかじゃない。間違えたりしない」

 琴子はじっと僕を見据えて―まるで僕がその茜さんであるかのように見つめて、そうだよね、と問うようにくちびるを薄く開く。

「―――うん」

 沈黙に耐えかねて、僕は頷いた。
 琴子が、肯定を欲しがっていたから。
 根拠も確信もなにもない、ただの慰めで、ほんとうの優しさなんかじゃないのかもしれないけど。
 案の定琴子は、ふ、と息を抜くと嬉しそうに微笑んで目線をワイングラスに落とした。

「あーでも。クリスマスなんてなくなればいいのに。去年は海外に逃亡できたけど、今年は他人の幸せを直視しないといけないんだ。憂鬱」
「それまでに彼氏を見つけるって選択肢はないの?」
 言ってからしまった、と思った。
 うんそうする、なんて琴子が頷いたら、僕はどうしたらいいんだろう。
「んー、そっちも焦んないことにした。焦るとロクなことがない。そう思わない?」
「……そうだね」
「要は? どうするの? なんか予定ある?」
「ないよ、うち仏教だし」
「仏教は関係ないの。ん、えーと……赤とスパークリングどっちがいい?」
「両方。じゃあローストチキン作ってみようかな」
「え? 買うんじゃなくて?」
「ネットで見てさ、うちのオーブンで出来そうだから一回やってみたくって。
 問題は丸ごとの鳥をどこで買ってくるか」
「え? ほんとに作るの? ほんとに? すごい!」
「作るよ。琴子がちゃんと手伝った上にたくさん食べてくれるならね」
 食べる食べる、とは嬉しそうに何度も頷いたけれど、ついに一度も手伝うとは言わなかった琴子と、今年は一緒にクリスマスを過ごせる。
 幸せな約束に、僕のアルコールで鈍った頭の中はまるっきりピンク色だった。



528:コトコのキス_6
07/12/23 01:56:11 BVeesct8
 それから僕らはまたぐだぐだと話し始める。
 漢字検定のこと。携帯電話にかかってきた間違い電話のこと。キリンはモーと鳴く。
 クリスマスのケーキを予約したいお気に入りのあの店は名前が読めない。結局シンプルがベスト。
 陰気なアメリカ人もあたりまえだけど存在する。
 ベトナムで見つけたへんな入れ物の用途。
 アンコール遺跡で結婚式をしていたカップルは、何に誓いを立てたのか。
 即身仏について。
 演歌歌手としてデビューする同級生。
 ウォーリーの眼鏡はありかなしか(なし、らしい)。
 エクセルの機能熟知度自慢。教師は何故かワードではなく一太郎を使う。
 子供のときどちらがより多く迷子になったか。ビタミンDを「びたみんでー」と言うのはおじさん臭い。
 ヒャドは家族に気を使う。琴子のお父さんの愚痴を誰よりも辛抱強く聞いてあげるのは彼である。
 インフルエンザの予防接種は何故か痛い。僕は針を凝視できない。先端恐怖症かもしれない。


 そんなようなことを、取りとめもなく、つらつらと。

 日付を越えるころに、琴子がまた、眠い、寝てくと言い出して。
 僕ははいはいと席を立って客間に布団を敷きに行く。
 琴子にはちゃんと歯を磨きにいかせる。僕はもしかしていつの間にか琴子の保護者になったのか?

 歯磨きを終えて戻ってきた琴子に、案の定一緒に寝ようと期待通りに誘われた。
 暖かくてよかったから気に入っちゃった、と屈託なく笑う。
 琴子の中ではあくまで代理ヒャドなのか。
 はいはい、と下心を見抜かれないように出来るだけそっけなく返事をする。
 僕もとりあえず歯だけは磨いて、いそいそと客間に戻る。
 もぐりこんだ狭い布団の中でまるで恋人同士のように身を寄せ合って、ぼそぼそと交わす声音が薄闇の客間に響いた。

「今年は、年末の旅行行かないんだ?」
「うん。だって茜に断られたもん。茜以外に一緒に旅行する相手って思いつかなくて」
「……琴子ってさ、茜さんのこと、ものすごく好きだよね」
「うん、好きだよ。茜は男前でカッコイイの。ちゃんと自分の足で歩いている感じがする。
 でもすっごい可愛いとこもあって、すごく、すごく素敵なの」
 ふぅん、と頷きながら、僕は見苦しく嫉妬する。
 美人で男前でかっこよくて、琴子の同僚で親友で、年下の彼がいるらしい茜さんは見も知らない僕に呪いを飛ばされて、さぞ迷惑をしていることだろう。


529:コトコのキス_7
07/12/23 01:56:51 BVeesct8
「茜と私はね、どっちかが男だったらよかったんだよ。そう思う」
「………………どうして? 男と女だったら、話もしなかったかもしれないじゃん」
「上手く言えないんだけど、そんな予感がするの」
 女のひとは運命とか予感とか、そういうのが好きだよな。
 肘で頭を支えながら、へぇ、と呟いた。
「だからね、試しにキスしてみたんだけど、やっぱり性別の壁は大きかった」
「は? キス?」
「うん。キスしてね、あ、無理なんだって思ったの」
「待って、なんでキス? 女のひとでしょ?」
「やだ、そんなすごいキスじゃないよ。高校生の頃とかってふざけて女の子同士でキスしたりするじゃない? あんな感じ」
「女の子ってそうなの?」
「うん、みんなじゃないと思うけど。でもあの時はふざけてなかった。真剣に、確かに性的な意味を込めて触れた。私たちは知りたかったの」
「なにを?」
「えと、試してみてアリだったらそういう人生もあるんじゃないか……って。キスしたら色んなことが判る気がした」
「………………何か、判った?」
「……駄目だって、判った。無理なんだって。
 がっかりしたけど、同じぐらいほっとした。やっぱり自分が異常だって認めるのは辛いじゃない?
 で、違ったって二人で言いあって、それで、おしまい。そんだけ」

 そんだけ、と言われても。
 反応に困って押し黙る僕を置き去りにして、琴子が盛大にあくびをする。
 目じりに滲んだ涙を、子供のように目をこすって拭った。
「それ、最近の話?」
「違うよ、2年ぐらい前かな。……要、ドン引きしてる?」
「ドン引きはしてないけど、琴子って誰とでもそうやって試してみるの?」
「誰とでもなわけないでしょ。茜は特別だもん。それに、試して駄目だったのに友達を平和に続行できるのは女同士だからだよ」

 特別、なんて言葉に、胸がざわざわとした。
 なんだよ、と面白くない気分だ。まるで子供だけど。
 気がついたら僕は、息のかかる距離で琴子を覗き込んでいた。

「じゃあ僕は?」
「………………え?」
「試して、みる?」
「かな、め?」
 琴子の声が遠い。
 アーモンド形の黒くて大きな目が、さらに大きく見開かれている。

 その顔を見て、僕たちはもう、二度と元には戻れないと知った。
 それは琴子も同じだったと思う。
 これで駄目だと知ってしまったら、違ったねと言い合ってそんで終わり、というわけには絶対にいかない。

 でもいいや。もういいや。
 前に進むにも終わりにするにも、これは絶好のチャンス。
 精神的にも年齢的にも、この不毛な関係を続けるにはそろそろ限界だった。
 ―大人なんだから、ちゃんとしろよな。
 ついでに、イオのふてくされたような声音も耳の奥に蘇る。

 そうだ。ちゃんと、しないと。ちゃんと、確かめないと。
 僕の気持ちを。
 琴子の本音を。


530:コトコのキス_8
07/12/23 01:57:38 BVeesct8
 胡散臭い笑顔で琴子をじっと見つめて発言のタイミングを奪って、そっと顔を寄せて、目を閉じてキスを受け入れざるをえなくする。
 琴子が思っているよりずっと、僕はずるい人間なんだ。
 居心地を良くして、ぬるま湯の関係を作り出して、琴子が離れていかないようにずっと策を凝らしていたんだ。
 ぬるま湯はそこから出ると寒い。だからって身を沈めたままでいると、どんどん温度は下がっていく。そして余計出られなくなる。
 僕の心は、いい加減風邪をひいてしまいそうだった。
 なのに好きだという勇気はなくて。
 僕はほんとうに、ずるくてだめな男だ。

 くちびるが触れ合う。
 顔の横についた手が、みっともなく震えていた。
 乾いた僕のくちびるは、まるで心臓のようにどくどくと脈打っていて、ふわりと重ねた琴子のそれも小刻みに震えていた。
 いい年して青春真っ盛りみたいだ。胸が痛い。
 今まで触れたどんなものよりも柔らかいそのくちびるに、酔いの回った頭がくらくらする。

 キスで何が判るのか、僕は知った。
 やっぱり僕は琴子が好きだ。
 琴子は家族じゃない、友人じゃない。
 僕は、琴子が欲しい。


 長い長いキスを終えて、名残惜しみながらそっと顔を離して琴子を覗き込む。
 ゆっくりと目を開いて琴子は、先程まで触れ合っていたくちびるをそっと開いて掠れた声を絞りだす。
「……要……どうしよう…………」
「ん?」
「もう一回……」
 伏せた長いまつげ。丸い鼻、スポンジのように柔らかそうな頬。
 ケーキよりも甘そうな突き出された赤いくちびるに、僕は引き寄せられるように触れた。

 軽く触れて離れるたびに、琴子がもう一回と囁くから、僕らは数え切れないぐらいたくさんのキスをした。
 途中で眉根を寄せてもっと、なんて言うので、何がと聞いてみたら、ぷいと顔を背けられてしまった。
「いじわる」
 苦笑いを浮かべながら、拗ねたように頬を膨らます琴子の頭をそっと撫でて機嫌を取る。
 やっとこっちを向いてくすぐったそうに笑ったくちびるを啄ばんだ。
 薄く開いた隙間から舌を差し入れて、深く、深く口付ける。
 舌同士も恐る恐る触れあって、様子を伺うように絡み合って、熱くぬめる口内の温度を楽しみあう。
 琴子の口の中は、歯磨き粉のミントの味がした。その爽やかさはとても彼女に似つかわしい。
「…………ん、」
 重ねたくちびるの端から、どちらのともつかない息が漏れる。
 最後に、甘いくちびるを軽く噛んで僕らはようやくキスを終えた。


531:コトコのキス_9
07/12/23 01:58:15 BVeesct8
 アルコール交じりの吐息も絡めあって、琴子がうっすら潤んだ瞳でぼんやりと僕を見上げていた。
「…………琴子?」
 囁くように呼ぶと彼女は、ゆっくりと瞬きを繰り返して、腫れてさらに赤くなったくちびるで僕の名を呼んだ。
「要、どうしよう……」
「どうしたの?」
「……気持ちいい。もっとしたい」
 いいよと寄せた僕の頬に、琴子の手が触れて違うのと小さく聞こえた。
 僕はキスの変わりに額をごつんとぶつけて、うっとりと溶けたようなその瞳を覗き込む。
「違うの?」
「キスだけじゃなくて、もっと、したい…………どうしよう、どうしよう、わたし、」
 琴子はちょっと顔を持ち上げて僕のくちびるに軽く噛み付くと、すぐに離れてほう、と息を吐いた。
「……わたしって、要のこと好きみたい」
 その言葉に息がつまった。
 背筋を、ぞわりとした何かが駆け上がって、一瞬遅れて落ち着きを見せ始めた心臓がまたばくばくと高鳴った。
「要って、男のひとだったんだね」
「…………なんだと思ってたの?」
「判んない。要だと思ってた。ね、要はなんで試してみようと思ったの?」
「なんでだと思う?」
「…………んー……そこに顔があったから?」
「はずれ。正解はね、」

 僕も、琴子が好きみたいだからさ。

 照れくさいのではやくちに告げて、僕らはもう一度キスをする。
 今度はお試しなんかじゃなくって、楽しむためのキスを、何回も。

 物足りなくなってくびすじに舌を這わす。
 ぺろりと舐め上げると、琴子の小さな身体がびくりと震えて甘い声が漏れた。
「……あっ…かなめ……」
 耳たぶを口に含んで、軽く引っ張る。
 琴子がくすぐったそうな吐息を漏らす。

 肩を撫でて、胸をなぞって、服の裾から手を差し入れようとしてふと、現実に気がついてしまった。

 はあ、と盛大なため息をついて、琴子の肩に額をうずめる。
「……要?」
 不安げな声で呼ばれて、ああいけない、と僕は顔をあげて彼女を覗き込んだ。
「…………今日は、ここまで」
「どうして?」
「えーと……ないから」
 琴子は何が、というように眼をきょとんとさせて、だけどすぐに僕の言いたいことが判ったようで、恥ずかしそうに目を逸らしてそうだねと頷いた。
 急に、僕らがしようとしていたセックスという行為の生々しさを自覚して、僕もとたんに照れくさくなる。


532:コトコのキス_10
07/12/23 01:59:00 BVeesct8
「ごめん」
「んー……要が常備してたら、ちょっとショックかも」
「あ、そういうもの?」
「うん、なんとなく」
「ふーん。まあ、今日は、残念だけど」
「残念だけど、また今度。ちょっと、自分の気持も、整理してくる」
「その方がいいかもね。そうして」
 いい加減腕が疲れてきたので、僕は琴子の隣にごろんと寝転ぶ。
 琴子が猫のように身体を摺り寄せてきて、僕の腕に触れた。
「ね、要。ぎゅってして」
「ん?」
 お望みのままに、華奢な身体を抱きしめる。
 腕の中で琴子が嬉しそうに笑った。
 僕も嬉しくなる。
 おやすみ、と耳元で囁いて目を閉じる。
 琴子の耳慣れた声が、おやすみと今までにないくらい近くで響いて、僕はさらに嬉しくなった。


*

以上です。お付き合いありがとうございました。


533:名無しさん@ピンキー
07/12/23 02:33:01 yL7tcdHW
うにゅー、いいなぁ幼馴染、いいなぁ両想い。
最後の一線は越えなかったけど、最大の壁を
ようやく越えたような気がする。GJです。

534:名無しさん@ピンキー
07/12/23 02:42:33 SYUCSxp8
すばらしい。川上さんに萌えた。

535:名無しさん@ピンキー
07/12/23 06:06:23 kjIssm0P
いかん、いかん!!
いか~~ん!!!


>>523
> 沸騰した湯の中にスパゲッティを放り込んで、ぐるぐるとかき回す。

かきまぜちゃいかん!!

536:幸せそうな幼馴染み二人をからかって後にボコされた小ネタ
07/12/23 14:44:58 6meUY4UW
「クリスマスは最低だ、生涯独り身の俺には特にな」
「いやいや……クリスマスってのはやっぱ良いなぁ……俺もさ、あいつとしちまったぜ」
「認識こそが自分の世界を作る。なら……今この瞬間に俺が童貞だと言う記憶を、俺から消す。つまり俺は、童貞ではない」
「はぁ?」
「そして、お前は童貞だ」
「いやいやいや」
「お前は童貞だ」
「違うって言ってんだろ」
「証拠はあるのか」
「だから、昨日の夜に遠音と……」
「そうか……もしもし、トォか?」
『……なに?』
「昨日の夜、おまえ何してた」
『なっ、なっ、なにも……!』
「じゃあ、誰といたんだ?」
『一人……』
「本当だな?」
『……うん……』
「よし。ありがとう。さて……証拠、無くなったな」
「な、何を……俺はたしかに……」
「自分の供述が証拠になるなら、世界に犯罪者なんていなくなるよ」
「じゃあ……どうすれば……」
「他の証拠を出せば良い。俺はお前の真実を見付け出してやりたいだけなんだ……」
「他に証拠なんて……」
「なら、お前は童貞だ! 自分の寂しさや情欲に負けて、妄想と現実が裏返ったみっともない男だよ!
 現実を見ろよ、女も男も何を考えてるかわからない、肝心な時には助けてくれない、ぬくもりをくれない……二次元と何が違う」
「……でも、遠音は……」
「トォ、か……遠音は、おまえに童貞じゃないと、そう騙していた女だぞ? 騙されて、それでも信じて、また騙されるのか? それで良いのか……?
 もしかしたら幼馴染みだという事すらトォの騙りかもしれんのだぞ?」
「よく……ない……」
「なら、どうしたら良いかわかるな」
「……別れる」
「そうだ、それで良い。いつかきっと、おまえを騙さない奴が出てくるさ……俺はおまえの味方だからな。
 それまではほら、このスレを見ながらもみの木をどうやって切り落とすか考えようぜ?
 クリスマスだからな、多分すんげぇぞ?」
「……ああ!」

537:名無しさん@ピンキー
07/12/23 19:04:40 uL4IbU5r
>>536
良く分からん。

538:名無しさん@ピンキー
07/12/23 20:07:23 snV7iJZO
ボッコにするとこ書かないと
ただの喪男ネタだな

539:書いた
07/12/23 21:14:22 6meUY4UW
「いや……待て待て、いくらなんでもアレだ、無理があるぞ」
「何が無理だ、現実から目を背け、素晴らしく甘美なこの桃源郷を共に目指そうじゃないか」
「だいたい、遠音が嘘を吐いてたと決まった訳じゃ……」
「仮におまえの話が本当だとしたら、トォが俺に嘘を吐いている……そんな女を信じるのか!?」
「いや、まあ……うん」
「なっ、友情なんて外来記念日の前には紙クズ同然なのか!?」
「そうは言わないけど……はい?」
『あ、もしもし? 昨日の事誰かに話した?』
「ん? いや、別に」
『そう……へへ、良かった』
「なあ……あのさ」
『なぁに?』
「俺達ってさ、幼馴染みだよな?」
『はぁ? 当たり前でしょ』
「証拠とかさ、その……あるかな?」
『バカな事言って……昔写真取ったでしょ』
「え、あ、マジだ」
『保育園が同じで、卒園の時のも色々残ってるでしょ?』
「うん……あの時、おまえは将来お母さんのお嫁さんになるって言ってな」
『あはは、なつかし~。今じゃ……』
「そうだ、今から会えるか?」
『大丈夫だけど、明日も会うじゃない?』
「今、会いたいんだ」
『わかった。待ってる』
「それと……好きだよ」
『はいはい、私もよ』
「……じゃ、行ってくる」
「へいへい。……俺はちょっともみの木切ってくるよ」

 彼がもみの木を前にした時、奇跡が起きたのだが……それはまた別の話。

540:名無しさん@ピンキー
07/12/23 21:58:31 snV7iJZO
精神的ボッコか
暴力よりダメージでかそうだw

明日投下されるであろうモミの木の奇跡を待つことにする
とか言ってみる




541:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:06:56 NbQSpePr
「あははー」
 こたつはひとをだめにしますね、はい。
 テレビを見て笑いながら、俺はそんな事を思う。
「サンドウィッチマン面白いなー」
 俺はコタツの中で某漫才一番グランプリを見ながら、のんびりしていた。
 時々ミカンを食べたり、お茶を飲んだりしながら、ひたすらにのんびりしていた。
 無論、ミカンは籠に盛られ、お茶は急須とポットがこたつの上に完備されている。
「ぶー」
 視界の端に、アイツが頬を膨らませているのが見えるような気がするが、気にしない事にする。
「ヒロ、あんた歌乃ちゃん来てるのに、何ぐーたらしてんのよ。遊んであげなさーい」
 台所から聞こえるお袋の声も気にしない事にする。今日の晩飯がカレーなのは、もう知ってるしな。
「……おい、ヒロ」
 背中から聞こえた親父の声も……親父の声?
「てめえ……歌乃ちゃん無視して某漫才一番グランプリたぁ、いい度胸だな?」
「……お、親父殿、いつの間にお帰りに?」
「ついさっきだよ、さっき。それより、ヒロ」
「はいっ!?」
 思わずコタツから飛び出し、背後に仁王立ちする親父に正対する。
 アレほど俺を捕らえて離さなかったコタツの魔力は、親父の言霊に打ち消され、
最早欠片もそこには存在していなかった。
「覚悟は……できてるか?」
 親父の背後に、何か揺らめくものが見える……ような気がした。
「で、できてませんっ!」
「問答無用っ!」
「うぎゃー!?」

542:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:07:29 NbQSpePr



「あはは、おっきなタンコブだねー」
「誰のせいだよ、誰の……」
「ヒロ君の?」
「……ああそうですよ。どうせ俺のせいさ」
 親父の鉄拳制裁を喰らい、コタツから引き出された俺は、何故か歌乃と二人で
夜の街を歩いていた。
 何故かも何も、親父に家を追い出され、歌乃と一緒にどこか行って来いと言われたからなんだが。
 まあ、帰ってきてから、たまに来る友達と遊ぶくらいで、後は家でぐーたらするばっかりだった
わけだし、よく今まで親父もお袋も見逃してくれてたもんだと思うが。
「おじさん、相変わらずきついねー」
「お前には甘いからな、親父は」
「そんな事ないって」
 そう言って、歌乃は笑う。
「ったく、たまに実家に帰ってきたと思ったらこれだ……」
「たまにだから、おじさんもスキンシップ取りたいんじゃない?」
「親父の場合、スキンシップで鉄拳が飛んでくるからな……DVで訴えてやる」
「じゃあ、私、弁護側証人として出廷するね」
「ちくしょう、お前も敵か……」
 言葉を交わしながら、俺達は歩く。
 気づけば、俺は歩幅を歌乃に合わせていた。
 あの頃の俺達には必要のなかった気遣いを、しかも無意識にしている自分に気づき、
何となく俺は照れくさくなった。
「で、どこ行きたかったんだ?」
「え?」
 頬が少し赤くなっているのを悟られないようにそっぽを向きながら、俺は尋ねた。

543:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:07:49 NbQSpePr
「どっか行きたくて、俺んち来たんだろ?」
「え、いや……そういうわけでもなかったんだけどね」
 横目で見ると、何故か歌乃も明後日の方向を向いているようだった。
 何故かはわからないが。
「じゃあなんで膨れてたんだ?」
「だって、ずっとテレビ見てるから」
「……遊んで欲しかったって事か?」
「え、あ、うぅ……まぁ、そうに違いは無いけどぉ……」
 ふむ……こういう時期だから、女友達も彼氏と遊ぶ方に忙しいんだろうか。
 別にそんな事を恥ずかしがらなくてもいいのにな。俺と歌乃の仲なんだし。
 ……まあ、どっちかというと、彼女がいない上に、あわよくば幼馴染と……なんて事を
ぼんやり考えている俺の方が恥ずかしいかもしれないし、どうでもいいか。
「だったら、家でオセロでもすれば良かったな。コタツの中で」
「ホントにヒロ君コタツ好きだよねぇ」
「お前も嫌いじゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……ちょっと、今は嫌いかな」
「なんだそりゃ」
「秘密ですよー、だ」
「よくわからん奴め」
 笑いながら舌を出す歌乃に、俺は苦笑を返した。
 軽口を叩き合いながら、何となく俺の足は中心街の方へと向いていた。
「せっかくだから、イルミネーション見に行こうぜ」
「え? あのクリスマスツリーの奴?」
「そうそう。特に行く所があるわけじゃないし、何となく行くにゃ適当だろう」
「うんっ!」
 何故か嬉しそうな笑顔を浮かべ、頷く歌乃。
 なんで嬉しそうなのかはさっぱりわからんが、やっぱりコイツの笑顔は……反則だ。
普通にしてても美人なのに、笑顔になると、その破壊力が倍増しやがる。
 ふぅ……女の気持ちってのはコイツに限らずよくわからんが、やっぱり綺麗なものを見たい
と言うのは、女性全般に共通した考えなんだろうかな……などと、俺はどうでもいい事を
考えて、少しだけ動悸が弾んだ心臓を落ち着けようとする。
 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、歌乃は目的地である中心街へ向け、勢いよく歩き始めた。
 丁度、その速さは俺が普通に歩く速度。何となくその事実に苦笑しながら、俺は歌乃に歩みを合わせた。
 ―しかし―
 腕を組むでもなく、手を繋ぐでもなく、かと言って距離を置いているわけでもない
俺達の姿は、一体周囲からはどう見えてるんだろうか。
 兄妹という程には似ていないから……やっぱり、恋人とかに、見えたりするんだろうか。
 ……だとしたら……だとしたら、歌乃はその事を……
「……どう、思うんだろうな?」
「ん? 何?」
 おっと。知らず、思考が口から漏れていたらしい。あぶねぇなおい。
「なんでもねーよ。それより、もうそろそろ見えるぞ」

544:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:08:30 NbQSpePr
 とめどない思考を重ねている内に、いつの間にか俺達は目的地に辿り着いていた。
「あ、ホントだ……」
 ビルとビルの陰から、少しずつ、光り輝く一本のもみの木が姿を現していく。
「ふわぁぁ……すごいっ! すごいよっ、ヒロ君っ!」
 やがて、それは完全に俺達の前に姿を現した。
 この街のイルミネーションは、この木を軸として、中心街全体に広がっている。
 象徴となるこの木は、ちょっとした観光名所になるくらい、規模がでかく、手も込んでいる。
 大きさもさることながら、光の色も虹に比するくらいに鮮やかだ。さらにその色とりどりの
光が遷移する事で、まるで枝が風に波打っているかのような躍動感を演出している。
 その光の使い方を含めた全体のデザインも、けばけばしさを欠片も感じさせない上品なもので、
老若男女誰が見ても一様に「綺麗だ」と思うだろう。
 実際、老若男女問わず、多くの人が足を止め、その光の聖樹を見上げていた。
 かくいう俺も、例に漏れず、その美しさに見惚れていたわけだが。
「すごいよ、ヒロ君! 見て見て!」
「確かにすげえな……って、お前見た事なかったのか?」
 このイルミネーションが灯されるようになったのは、三年ほど前からと聞いていた。
だから、俺は見た事がなかったんだが……歌乃も見た事が無いというのは意外だった。
「うん。……あ、え……う、うん。えっと、その……何となく、ね。何となくだよ?」
 その言葉に応じようと、隣にたたずむ幼馴染の顔を見るまでは。
 何となくって何だよ。
 苦笑しながらそう言おうとした口は、動かなくなった。
 光の聖樹に目を輝かせている歌乃の姿が目に入った途端に。
「なんか、生きてるみたいだよね……」
「………………」
 感動に少しだけ潤んだ瞳。
 俺は、しっかりとこの光景を焼き付けようと、いつもより大きく見開かれた彼女の瞳に、
まるで自分が吸い込まれていきそうな錯覚を覚えていた。
 いや、錯覚じゃないんだろう、これは。
 俺は……俺の気持ちは、今この瞬間、間違いなく歌乃に吸い込まれた。
 脳裏を、あの頃のアイツの姿が走る。その姿が、今の歌乃の姿に重なる。
 ぼんやりとしていた想いが、実体を持って俺の中で固まった。
「すっごい綺麗だよねー……」
「……お前の方が、もっと綺麗だと思うけどな」
 ありきたりで陳腐な、ともすればくさいとすら言われる言葉が、思わず俺の口をつく。
「えっ!? ……いや、いやだなぁ、またお世辞言っちゃってさー」
「……歌乃」
「あ、あはは……ちょ、えっ、えっ、ぇえっ!?」
 俺は、歌乃の両肩に手を置き、真正面から彼女の瞳を見つめた。
「………………だ、だめだよ……こんな所で……」
 そう言って歌乃は、軽くみじろぎするが、積極的に拒否しようとする様子は無い。
 だから俺は―段々と顔を歌乃のそれに近づけて行き―

545:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:08:39 NbQSpePr
「……なんちゃって」
 ―踏みとどまった。
「………………へ?」
 歌乃は、きょとんとした顔もやっぱり可愛いな。
 そんな事を思いながら、俺は慌てて口を開く。
「ちょっと、その、だな……雰囲気にあてられたというか……冗談だよ」
「………………」
 流石に、冗談で流すには無理がある展開だったか……? 半ば本気だったしな。
 だけど……流されて、そういう事はしたくなかった。相手が、昔から一緒にいた
幼馴染(かの)だからこそ。だから、踏みとどまった。
「………………」
「ちょっと性質(たち)が悪かったか……すまん」
「そ、そうだよね……冗談、だよ、ね……」
「歌乃……怒ってるか?」
「んー? 私は全然気にしてないよ?」
「そ、そうか? なら良かったけど」
 それはそれで微妙に寂しいものがあるが、まあ怒らせてしまったりしてないなら、
ギリギリセーフ……か?
「……じゃあ、今日は私、もう帰るね」
 歌乃は、俺に背を向けながらそう言った。……やっぱり怒ってんのかな?
「ん? もういいのか?」
「うん、今日の所は。けど、一つお願いしてもいい?」
「なんだ? さっきのお詫びに何でも聞くぞ」
「明日も……明日も、ここ、一緒に来てくれる?」
「ああ、構わないけど」
「……良かった。じゃあ、明日、夜九時頃に、ここで待ち合わせって事でいいかな?」
「……ああ」
 歌乃の家に迎えに行くでもなく、俺の家に来るでもなく、ここで待ち合わせというのが
少し気になったが、俺は背を向けたままの歌乃に頷きを返した。
「……ん。じゃあ、おやすみ」
「あ、ああ……送っていかなくて、平気か?」
「大丈夫だよ。ちょっと、一人で歩きたい気分だし」
 やっぱり怒ってるんじゃないか?
「わかった。気をつけて帰れよ」
 その俺の言葉に、歌乃は背を向けたまま手をひらひらさせて応え、雑踏の中に消えていく。
「……明日、か」
 いつの間にか、日付は変わっていた。だから、明日は、今日だ。
 そして今日は―クリスマスイヴ。
「やっぱ、プレゼント用意した方がいいよな……」
 俺は、どうやら怒らせてしまったらしい幼馴染の機嫌を直す方法を考えながら、
自分も帰路へとついた。機嫌を直した上で、今度はちゃんと……いや、
それはもうちょっと間を空けた方が……いやしかし……………………。
「お」
 頬に冷たさを感じ、俺は頭上を見上げた。
 雪だ。
 聖夜は、どうやら白に彩られるらしい。
 再開した俺達は、一体、これからどうなるのか―。
 雪は、その白い明かりで道を照らしてくれるのだろうか。
 それとも、道を覆い隠して迷わせるのだろうか。
「……降って来た、か」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の行く先を照らすように。
 俺と、歌乃の行く先を隠すように。
 ―雪が、降り始めた―

546:続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/24 02:10:51 NbQSpePr
ここまで投下です。

……幼馴染ほしー。

547:名無しさん@ピンキー
07/12/24 02:38:19 v8kxP+fb
>>545
gj!

幼馴染かー 
家が同じ地区で小学校中学が同じ程度の異性幼馴染ならいた。
個人の付き合いは全然なかったが

その親父さんに「あいつと結婚して婿にこない?」と事いわれたのが数年前。
ずいぶん会ってもいなかったし有耶無耶にしてしまったが、惜しいことをしたかなぁ

というリアル話




548:名無しさん@ピンキー
07/12/24 05:16:17 TJEiScab
>>545
GJ!続きが気になるぜよ

>>547
君がフラグブレイカーということはよくわかった

549:名無しさん@ピンキー
07/12/24 10:05:11 8BLUmzFv
>>547

遅くない
私にも見えるぞ>>547
イブの奇跡とやらが

550:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:43:04 2W4pIRPE
 幼馴染のままの関係を脱出すべく私からした告白に、なんとも言えない表情をしつつも彼女は首を縦に振った。
 やや焦った面はあるものの昼に告白した後放課後に私は彼女にデートの約束を取り付けた。
 あまり感情を顔に出さない彼女は無言で首を縦に振り、私とは違う方向へと岐路に着いた。
 携帯なんて便利な物をもっているわけでもなく。彼女の電話番号にさえ掛ける勇気もない私は、
焦燥と浮かれで気付かなかった彼女の確固たる了承を得ていないことに気づき、心の底から不安になっていた。
 待ち合わせ場所と時刻を言った後に首を、軽く揺れるように振っただけなのだ。
 その首振りも見間違いだったかもしれない。もしかしたその後に何か言ったかも知れない。
 私は風呂上がりの後すぐにベッドに飛び込み布団を抱きしめながら激しく身悶えた。
 そうして寝ぐせだらけになって朝日を迎え、頭横に置いていた目ざましの時刻を見て目を見開く。
 もし過去に戻れるとしたら昨日デートに約束を取り付けようとした私をぶん殴り、袋詰めにして海へと流してやりたい。
 何故に一日も冷却時間を置かずに次の日に約束を取り付けてしまったのか、そんなその時の自分にしかわからない疑問を頭の中で延々と繰り返し私は身支度を整え家を飛び出した。
 夏の暑い日差しも焦る私にとっては毛ほどの気にもされず、拗ねた顔で流れる雲に身を隠してしまった。
 空の機嫌も悪くなって着始めた頃に私は待ち合わせ場所のバス亭へとついた。
 その時には彼女も着いていて、白いワンピースに麦わら帽子というさっきまで天気ならさぞ似合っていた格好をした井出達自分が着くのを待っていた。
 昨日の約束は自分の思いすごしでは無かったことに安著した私は、時間より遅れてきてしまったことを彼女に詫びると両手を前でブンブンと振られる。

「……早起きだから」

 ―彼女が早起きだと遅れてきた自分は謝らなくていいのか?

  などと頭に疑問符を浮かべる私を前髪がかかった目で見て彼女は酷く困惑した様子を見せた後、腕に掛けた鞄の中に弁当があることを告げてそのまま首を下に向けて黙り込んでしまった。
 かける言葉が見つからず二人して屋根つきのバス亭から容赦なく降り注ぐ雨をを見つめ、私は傘を持ってきてないことに気づく。
 彼女にそのことを告げすぐに取りに帰ろうとしたが、袖を掴まれて私は両足を落ち着かせて後ろを振り向く。
 そこには精一杯という言葉を体現したように首を大きく左右に振る彼女があり、訳を聞くと折りたたみ傘を持ってきているとのことで私は動かなくていいとうことらしい。
 遅刻に忘れ物と男の面目丸つぶれな私は自分の不甲斐無さに気分を沈めた。
 特に会話もなく日に両手で数えるほどしかないバスが着き、バスの一番後ろの横に四人が並んで座れる場所へと二人で腰かけた。
 バス内はお婆ちゃんやお爺ちゃん数人と子供が一人、自分の町は田舎だしこんなものだろうなと私は思った。
 山々を背景に変わり行く田んぼを眺め、流石にそればかりで首が疲れた私は恥ずかしながら反対側へとおずおずと首を向ける。
 ゆっくりと視界に入った彼女は落ち着かない様子で目を右下へと向けて、椅子の上で指を躍らせていた。
 彼女のそんな行動も分からないほど朴念仁でもない私は、彼女の小さな手の甲に自分の手を重ねた。
 案外ひんやりとした手を覆った途端、彼女は痙攣したようにビクリと跳ね上がりこちらを見つめてきた。
 私としてはクールで物静かな態度でかっこつけたかったが、現実では思うようにいかず彼女の潤んだ瞳に見つめられ私は口を開いた。
 
「嫌だった?」

「……そんなこと、ない。……昨日言えなかったけど、私も明人君のこと昔から好きだったから」

 一気に私の頬は熱くなり、確実に自分は今赤面したのだと確信した。
 なにもこんな所で、と思いつつも私の心は歓喜に震え、頭の中では神輿を担いだ筋骨隆々な男達が私のことを祝いに祝ってくれた。
 前方では年甲斐もなくニヤついた老人達がこちらチラチラと見つめ、お爺さんに至っては口笛を鳴らしていた。彼女もやっと状況を理解したのか、二人ともども赤面した。

551:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:43:25 2W4pIRPE
 重ねた手が絡み合い最終的に恋人繋ぎへと落ち着いたところでバスは自分達の目的地に着き、
どこで降りるかもわからない老人達の好奇な視線を浴びつつ大勢の乗り込んでくる人達と入れ替わりにバスから私達は退場した。
 流石に都会なだけあって、人通りは私達の町とは比べモノにならないほど凄いもので一度逸れたらもう二度と会えないんじゃないか
と思えるほどだった。実際自分は子供の頃に一度それを体験している。
 都会へと踏み込んだことの無い彼女は不安からか恋人繋ぎを解除して一転、腕を絡めてきた。
 彼女の控え目な胸が腕に当たるたびに何か色々と限界を突破しそうになる自分を必死で抑えて目的地へと向かった。
 
 目的地は都内の百貨店の最上階にある映画館で、女っ気の無い私を心配してか義妹がくれたチケットを有効に使うことにした。
 バスから降りたときには雨が降っており地下道を通ることで難を逃れたがそこから出て来た時には雨はすっかり晴れ上がっていた。
 少々残念な気もするが、相合傘は動きづらいだけと友人が言っていた気がする。それでも腕は絡められたままで、童貞の私にとってはそれだけで十分お釣りが返ってくるものだ。
 百貨店内に入ると彼女の服装の印象もかなり変わってくる。麦わら帽子は外して手に持ってマシになっては居るが、この都会の町中人並みだと田舎上がりのオノボリさんに見えてしまう。
 そのある意味目立つ服装に注目を感じたのか心なしか私に回された彼女の腕の力が強くなる。ある意味こちらとしては嬉しいような嬉しくないような。
 映画館内で規格外に高い飲み物とポップコーンを買い席に着く。最初は空いていたが後からワラワラと人が入り始め映画が始まる頃には空き席は一つも無くなっていた。
 映画の内容は私が読んだ本にもよくあった悲愛物で、本でさえ見るたびに涙していた私にとって映像になったそれは私を号泣させるのに十分なものだった。
 
「明人君の泣き顔見れてよかった」

 映画が終わって感想を尋ねてみると、彼女は涙目になった瞳で私に対する感想を何の恥ずかしげもなくそう言った。
 子供の頃は二人して本屋の彼女の家で本を読み漁り、見事なまで双方無言のまま門限まで本を読むと別れの挨拶だけして家に帰っていた。
 今思えば不健康な上に不思議な関係極まりない。
 一通り百貨店内を回り彼女に栞をプレゼントした後、屋上のビーチパラソルが刺さった机で彼女の弁当を広げることにした。
 屋上に上がった時には天気は晴れ晴れとしすぎパラソルで遮ってそれでも光が透過して机を淡く照らす。
 弁当の中身はサンドイッチで、このまま店に出しても大丈夫そうなほど出来だ。
 その感想を帰りのバスで言うと君しか買わないでしょ、と嬉し恥ずかしそうな顔で返してきた。表情の変化が乏しい彼女の珍しい顔だ。
 ハムスターのように少しづつ齧る彼女とは対照的に一つ三口で食べきる私にとっては物足りなさを感じさせたが、
 腹八分目が体にいいとどこかで聞いたような気がしたのでそういうことにした。
 デートコースかは微妙だが、幼い頃からの私達共通の趣味であるため帰りには本屋に寄った。
 田舎の彼女の店とは品揃えも格段に違い、無表情な彼女の顔も僅かながら興奮してるような変化が見られた。
 多分他人が見てもわからないが、そこは長い付き合いの私だからこそだろう。
 胸いっぱいに本を抱えた彼女と乗り込んだ帰りのバスは流石田舎行きのバスだけあって中はスッカラカンだった。

552:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:46:19 2W4pIRPE
幼馴染とやりたいこと書き連ねて溜まったものを物語風にしてみたらこんなになった。
お互いのことは隅々まで理解しときながらもエッチまではいかずプラトニックな関係が理想です
でわ。

553:名無しさん@ピンキー
07/12/24 15:49:46 F+RW9TBd
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!

筋骨隆々ではないが、祝わせてもらおう。

GJ !!

554: ◆U3SZPcxj.U
07/12/24 16:59:02 KKgFLKaW
クリスマスネタ投下します。

保管庫にある1/365というSSの続き。
前作を読まなくても内容はわかるようになっています。
エロ無し、長文注意。好みでない方は、スルーをお願いします。

他の投下の作者様にかぶせてしまう形で申し訳ありませんが、クリスマスイブなので許してください。

555:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:00:20 KKgFLKaW
 12月21日。

 そうだな。
 世の中には色々な幼馴染みの形があると思う。
 親友もあるだろうし、ロマンティックな恋人の関係もあるだろう。

 オレにとって上原優希は、ちょっとバカで気のおけない、小学一年生のノリそのままで付き合える親友だった。

 「ごめん」の一言で解決しないケンカなんてなかった。
 口にできない言葉なんてなかったし、言葉にならない想いなんてありはしなかった。
 つまるところ、オレはあいつのことをいつまでもTシャツと短パンで走り回っていたガキンチョのままだと認識していたのさ。

 時は過ぎ、いつの間にかオレ達はそれぞれに青い季節を迎え、互いに知らないことが増えていった。
 貧乳の出目金とこきおろすのがもっぱらだったあの男女は、いつの間にか目元のぱっちりしたスレンダー美人という定評を得た。
 オレの方はといえば小学生以来の「アホ」という称号に「スケベ」「へたれ」という不名誉なタイトルが加わわり、負の三冠王に輝くのが精一杯という有様だった。

 クラスの誰にでもかまわない。優希の評判を聞いてみるがいい。
 可愛らしくていつも明るく、スポーツもできて勉強もできる。それでいて気取ったところもない……。
 おそらくステレオタイプの「身近なアイドル」の評価を聞けるだろう。
 実際、そうに違いないぜ。天真爛漫な笑顔と気さくなキャラクターは、親しみやすいクラスのアイドルそのものだ。


 「ねえねえ、純一っ。あたし、また告白されちゃった」
 高校一年生の時に陸上部のキャプテンに告られて以来、優希は律儀にもそんな報告をオレにするようになった。
 そして、何かを期待するようなキラキラした目でオレを見てくる。
 「……告発されちゃった? それは大変だな。実刑が出ないように祈ってるぞ」
 「違うよ。告白されちゃったって言ってるんだよ」
 「独白されちゃった? そいつは面倒くさいな。聞いている振りして頷いておけばいいんじゃないか」
 「……耳が遠いの? おじいちゃん」
 「ちぇっ。聞こえてるよ。告白されたんだろ?」
 白い目で見てくる優希に向かって、オレは手を振って言った。
 「それで、オレにどうしろっていうんだ?」
 「あたし、どうすればいい?」
 優希はいつも真っ直ぐな瞳でオレを見つめてくる。
 「そんなこと、オレに聞いてどうするんだよ。オレが断れって言ったら断るのかよ?」
 「うん」
 「じゃあ、オレが付き合えって言ったら付き合うのかよ」
 「うーん……」
 幼馴染みは考え込んだ。
 「ふん、だったら断ればいいじゃねえか」
 面倒くさくなってオレが投げやりに言うと、
 「うん、そうする!!」
 クラスの身近なアイドルは顔を輝かせて頷いた。

 ……ちぇっ。この女の考えてることはまるでわからんな。

556:続・1/365 クリスマス編  ──1日を超えた1/365──
07/12/24 17:01:09 KKgFLKaW

 「─なぁ、浅野」
 オレがある日の放課後帰宅しようと席を立った時、声をかけてきたのはクラスメイトの男子生徒である八木だった。
 「おまえ、上原と仲が良いんだろう?」
 「そうだな。仲が良いという見方もできるかも知れんな」
 オレが言うと、八木は言い出しにくそうな様子を見せていた。
 「なんだ、優希がどうかしたのか?」
 「その─、上原って、彼氏いるのかな?」
 奴はもじもじしながらやっと言った。
 「オレの知る限りでは、いないな」
 「そ、そうかっ」
 八木の顔がぱっと明るくなった。
 「で、その……」
 と、再び奴はもじもじと身をくねらせる。男のくせに気持ち悪い野郎だな。
 「浅野は、上原のことをどう思ってるんだ?」
 オレは、不意をつかれて口ごもった。
 「どうって……、言われても」
 「上原のことが好きなのか?」
 八木は真摯な瞳でオレを見てくる。
 「ば、バカ。そんなわけないだろ。誰があんなバカ女……」
 「そ、そうなのか?」
 「おうよ、こっちからお断りだ。あんな貧乳女、洗濯板代わりが良い所だぜ。がさつで乱暴で口は悪いし、女らしさっていうものがまるでない。私服になったら男だか女だかわからないぜ」
 「そ、そうか」
 オレのまくし立てに若干困惑気味ではあるが、八木は安心した様子を見せた。
 「じゃあ、悪いが上原に俺を紹介してくれないか?」
 「……な、なんだって?」
 オレは絶句した。
 「俺、上原のことが好きなんだ。でも、なかなか話しかけるきっかけがないんだよな。幼馴染のおまえの方から紹介してもらえないか?」
 八木は手を合わせて頭を下げた。
 「や、やめとけよ」
 オレはやっと言った。
 「あんなアホと付き合ったら大変だぞ。デリカシーはないし思いやりもない。おまえみたいな奴はせいぜい締め上げられて尻に敷かれてたかられて、泣くのがオチだぞ」
 「そ、そうか?」
 「そうだよ! あいつと来たら屁はくせぇし、いつも大股開いて座ってやがるし、腹も出てるし足も太い。家に帰ったら百年の恋も冷めるぞ。いつもいつもオレの背中をどつきやがって─」

     どんっ!!

 「─そうだよ、こんな感じに……」
 はっとなって振り返り、オレは目の玉が飛び出した。
 「足が太くて悪かったわね……」
 そこには、大魔神のようにまなじりを吊り上げた親愛なる幼馴染みが立っているのだった。
 「げ、優希……」
 「げ、じゃないわよ。人のいない所で散々悪口を言ってくれちゃって……」
 不機嫌そうな優希。
 八木が肘でオレを小突いた。
 ちっ、アイコンタクトしなくたってわかってるよ。



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