【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】 - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
07/11/26 12:16:34 UfQkj5Yt
>>398
くそっwwなんて楽しい計画をw

401:名無しさん@ピンキー
07/11/26 22:53:15 0VJEG95Z
トナカイ鍋っていうのもどうだ
サンタが街にやって来れないので一石二鳥

402:名無しさん@ピンキー
07/11/26 23:02:04 T7crUQ9Y
これはあれか、クリスマスにモミの木を切り倒そうとする男を
幼なじみの女の子が必死に止めようとするSSが見たいというネタ振りか

403:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:14:41 dufTSoqj
久しぶりでアレですが
ひっそり投下します

404:夏の約束3
07/11/27 00:15:30 dufTSoqj
 夏休みという至福の期間をただ暑いだけの平日に変えてしまう、
ありがたい補習授業。
 それもようやく半ばを過ぎた七月下旬のある日。僕はしばしの現
実逃避にと、学校の図書室に本を物色しに来ていた。
 伝統のある学校らしくそれなりに充実しているこの図書室は、や
はり進学校らしくもあって、閲覧用に設置されている幾つかの机は
夏休みにも係らずそれなりに席が埋まっている。勿論大抵の図書館
がそうであるように、その大半はノートと参考書を広げて自習に励
む受験生なのだけれど。
 建造された当時は白亜の城と見紛うばかりに輝いていたであろう
校舎も、数十年の埃が積もりに積もった今となっては苔むす屍。夏
は暑く冬は寒い、嫌がらせのような建物と化している。
 そんな訳で、生徒が気軽に入れない職員室等を除いては唯一空調
が完備している図書室はまさに天国という訳だ。

「あれ、井上じゃあないか」
 僕の名を呼ぶ声に振り向けば、そこにあったのはニヤニヤと笑う
知り合いの姿。
「なんだ中臣か。ニヤニヤ気持ち悪いぞ」
「や、仮にも受験生とあろうものが娯楽小説などを読むのかと驚い
てね」
「本返すついでに補習に来る奴に言われる筋合いはないよ」
 この少年の名は大蔵中臣。いかにもという姓に相応しく代々金融
畑の家柄で、忌々しくもお坊ちゃまであらせられる。大層な名前を
つけて万一名前負けしてはと遠慮したのかどうなのか、どうせなら
大臣にしておけばと思わなくもないところ。
 名前も変なら性格もちょっと変で、目立つ容姿と相まってこの学
校ではちょっとした有名人だ。まあつまり、先祖代々庶民にして常
識人の僕とは随分住む世界が違うのだけれど、お互い本が好きなこ
とが一年の時に分かって以来、なんだかんだでよく話をするように
なったのだ。
 これで頭が悪ければ可愛げもあるのだけど、残念なことに概ね僕
より優秀だ。得意の国語はなんとか勝てるものの、他はまるで敵わ
ない。家では僕なんかよりずっとしっかりやってるんだろうけど、
学校では不真面目な姿ばかり見るので時に世間の不条理を感じてし
まう。

405:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:16:39 dufTSoqj
「ところで、今日は一人なのか?」
「いんや、あっちにいるよ」
 カウンターの方をあごでしゃくる。司書の中本先生と喋りながら
茶をすする夏葉の姿を視界に納め、頷く中臣。
 僕が本を借りる時は、夏葉はカウンターの向こうで世間話。本は
あまり読まない癖に、夏葉と中本先生の仲は良い。と言っても僕が
借りた本を横から持っていくからそれなりには読んでいるのかな。
あ、夏葉のやつ、卵焼きもらってるぞうらやましい。
「なるほど、奥さんはあっちか。そいつは邪魔をしたね」
「そういうそっちはどうしたんだ。補習にも来てなかったろ」
 いつもの軽口を聞き流して中臣に返す。尤も中臣の方はほんとに
奥さんみたいなものだから困る。
「ん、春香なら今日は―と、そうだった。頼まれごとを思い出し
たんで帰る」
 ではまた月曜に、そう言い残して中臣はあっという間に姿を消し
た。なんだったんだ、あれは。
 ちなみに倉守さんというのは中臣の彼女だか許婚だかの同級生の
倉守春香さんのことだ。そんなに親しい訳じゃないけど、夏葉と仲
が良いので時々話はする。男女ともに人気は高いみたいだけど、や
んぬるかな、中臣と許婚と知れた今となっては粉をかける者もいな
い。

「結局どうしたんだろ?」
 補習は任意だから来なくても問題はないとはいえ、真面目な彼女
がさぼるとも思えない。
「ハルちゃん? さっきメールしたら夏風邪引いたってさ」
 と、本棚の陰から夏葉が急に出現する。
「なんだ夏葉か、おどかすなよ」
「テッちゃんちょっと選ぶの遅いんじゃないの? お腹空いたー」
 口を尖がらせてブーたれる。はいはい、それじゃあさっさと帰り
ますかね。
 適当に選んだSF小説の手続きを済ませ、図書室を出る。出るや否
や押し寄せてくる生暖かい空気に思わず顔をしかめる。
 昇降口から外に出れば更に凄まじい熱気で、これからの長い道の
りに思いを馳せて気分は早くも熱射病だ。夏葉はと言えば植木のわ
ずかな陰をひょいひょいと渡り歩き、少しでも暑さから逃れようと
奮闘している。
「明らかに無駄な努力じゃないかなそれ」
 動く分余計に暑い気がしなくもない。
「分かってないねテッちゃんは。こういう小さな努力が後で実を結
ぶんだよ多分」
 教室の壁に貼ってある標語だよそれは。そのとおりだけど、無駄
な努力と小さな努力はちょっと違うと思う。

406:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:17:28 dufTSoqj
 自転車置き場にたどり着き、日光でようく暖められた座席に手を
触れる。なんというか見事な焼き加減といわざるをえない。
「うひゃ、あつー。帰る頃にはお尻がミディアムじゃないかなこれ」
 隣では夏葉が同じことをして顔をしかめている。もう慣れっこと
は言え、なんとかならないものか。
「そのうち冷えるだろうしミディアム・レアでいけるんじゃない?」
「そうかな。テッちゃんはもうちょっと焼いたら? 最近ちょっと白
いよ」
 暑さで脳ミソが茹っているとは言え、我ながら頭の悪い会話をし
つつ校門を抜けて川沿いの道を走る。
 五分とたたずに水浸しになったカッターシャツは肌にまとわりつ
いてなんともいえず気持ち悪い。これだから夏ってやつは。
 横を走る夏葉も状況は同じで、全身汗まみれ。あの様子ではブラ
ウスから透けてる下着ごとぐしょ濡れだろう。
 これだから夏ってやつは。

「そういえば、夏風邪だって?」
 微妙に聞きそびれていた倉守さんの話を聞きなおす。あれで結構
体は丈夫だと思ってたんだけど、やはりお嬢様ってことかな。
「あー、うん。クーラーかけっぱなしで机で寝ちゃったとか言って
たよ」
「なるほど、中臣の頼まれごとってのもそれかな」
 プリン買ってきてとか大方そんな頼みごとだろう。それにしても
クーラーかけっぱなしで夏風邪とは、倉守さん意外と抜けているな。
そのあたりは夏葉と似たような物だろうか。
「いーな、ハルちゃん。大蔵君に優しく看病してもらうんだよきっと」
 中臣は別に優しくないと思う。いや、倉守さんには優しいか。ま
あ何にせよ羨ましいには違いない。僕も欲しかったよそういう優し
い幼馴染が。中臣はこれっぽっちも要らないけど。
「テッちゃん風邪引いたことないでしょ。バカだしスケベだし」
「馬鹿はともかく後者は関係ないと思う」
 大体僕だって別に見境がないお猿さんじゃないんだから。誰彼構
わず変なことしたりする訳じゃない、と一応弁護しておく。

407:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:18:33 dufTSoqj
「じゃあさ、私が風邪引いたらテッちゃん看病してくれる?」
「何がじゃあか知らないけど、そもそも去年の春休みに丸一日看病
してあげたのは誰だ」

 まだ夜は冷えるというのに寝巻き姿で僕の部屋に上がりこんで漫
画を読みふけった挙句に風邪を引いたのはどこの誰だ。
「そういえばそうだっけ。いやいやあの時はお世話になりました」
 お粥はしょっぱかったけどね、と付け加えて夏葉は笑った。
 まああの時はどちらも親が仕事で手が空いているのが僕しか居な
かったんだから、僕が看病せざるを得ない状況だったわけで。と言っ
ても精々氷枕を取り替えたりお粥を作ったりする程度だったけど。
で、ネットのレシピを信用して慣れないお粥を作ってみたらちょっ
と失敗してしまったというわけだ。
「まあでも美味しかったよ? テッちゃんにしては中々」
「いや、さすがにあの塩辛さは自分でもどうかと思ったよ」
「そう? ほんとに美味しかったんだけどな。愛情こもってて」
 いやいやいやそんな訳はない。あれだけブツブツ文句言いながら
作ったお粥のどこにそんな隠し味が。風邪引くと味が分からなくな
るというのは本当だったか。
「おっと信号青だよ夏葉」
「あ、ちょっと! またそうやって誤魔―」

 自転車のギアを重くして、立ちこぎで凸凹の田舎道を逃げる。十
分に勢いがついたところで足を止め、なにやら喚きながら追いかけ
てくる夏葉を緩やかに待ちながら今日の昼ご飯を考える。

 そういえば焼きそばがあるって言ってたかな。うん、今日は焼き
そばで決めよう。

408:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:23:10 dufTSoqj
とりあえず以上です。こうしてみると意外と短い(;^ω^)
もうちょっと早く書けるようにならないものか

409:名無しさん@ピンキー
07/11/27 09:10:14 3uA4rjit
GJ!
良いほのぼの日常感だ。ゆっくりでも投下してもらえると嬉しい

>>402
言いだしっぺが(ry

410:名無しさん@ピンキー
07/11/27 16:13:52 cotup2+q
GJ!なんか和みますな。

最後の文、なんか孤独のグルメ思い出したw

411:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:11:49 crxecahL
遅くなりましたが
>>353>>359の続きです



「おはよー」
まだ登校するには若干早い時間に優祐は学校に来ていた。
「あら、優祐早いじゃない」
が既に教室には一人生徒が居た。
生徒の名は、春高文奈(はるたか ふみな)
肩口で切り揃えた髪を高い所で結び、短いポニーテールにしている。
文奈は優祐と、幼稚園に小中高と同じであり、クラスもほぼ同じだった。
決して家同士が近い訳ではないが、幼馴染みのような関係だ。
「うん。朝会議の前に書類出しとかないと、予定立ててくれないから」
「納得。頑張れ生徒会長」
文奈はあははと笑いながら優祐の背中をバシバシと叩く。
「痛いって。俺よりも副会長も頑張って欲しいな」
優祐は文奈の手を退けながらニヤリと笑い返す。
そう、文奈は現生徒会の副会長である。
何故高校1年の彼等が生徒会を運営しているのか。
それは基本的に生徒会を運営すべき高2に会長立候補者が出なかった。

412:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:12:52 crxecahL
よって高一に生徒会長の座が回ってきたのだが、一年にも立候補者はいなかった。
なので教職員が指名することになった。
最初は高2の生徒が指名されたのだが断られ、それで優祐が指名されたのだ。
ちなみに理由は、目に止まったから、だそうだ。
優祐は指名を引き受けると、旧知だった文奈と学期当初隣の席だった拓海を道連れとばかりに役員に指名した。
こうして高一生徒会が形成されたのだ。
「えぇ~」
文奈は不満そうな声を漏らす。
「私サボりたいな~」
「副会長がサボろうなんて考えるなっ」
すかさず優祐がつっこむ。
ガラガラッ
談笑している二人を割るように勢い良く教室の戸が開く。
「お前ら朝から元気だな、廊下まで声聞こえたぞ」
教室に入ってくるなりそう言った少年の名は仲澤拓海。
高校からの付き合いだが優祐とはかなり親しく、現生徒会の書記でもある。
また彼の通学路は大井家の目の前を通るので、たまに一緒に登校したりする。ちなみに彼女持ち。
「テンション高くしないとやってらんないって。朝っぱらから書記さんの代わりに書類持ってきたんだぞ?」

413:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:14:11 crxecahL
「なるほど。あれ、お前家出るとき、名前何って言ったけ……妹ちゃん起こした?」
「桜な。いや起こしてないけど?」
「ああそうそう桜ちゃん。いや、お前の家の前通ったとき真っ暗だったし、人の気配がしなかったぞ。まだ寝てたりしないか?」
「ゲ……マジですか」
「えーっと、もう間に合わないんじゃない?」
文奈は時計を見ながら尋ねる。
既に時計の針は7:50分を指していた。
「いや。中学近いし、今すぐ起きればなんとかなる……と思う」
「親は?」
「もう出掛けてる」
「電話掛けまくれば起きるんじゃない?」
文奈がそう提案する。
「もう留守録にしちゃった」
「なら携帯はどうだ?」
「桜、電源切ってると思う」
「詰み、かね」
「だな。まぁ一日くらい遅刻しても問題ないか」
優祐はアハハと笑う。
しかし既に諦めかけている男性陣とは違い、文奈はまだ方策を探していた。
「ね優祐、優華ちゃんは?優華ちゃんに起こして貰えばいいじゃん」
「優華ちゃんって?」
高校からの付き合い故、拓海は優華を知らなかった。
「優祐のお隣りさん。それで桜ちゃんと同い年。たしか中学も同じはず」
文奈が拓海に説明する。
文奈自身も、優華とは十数回しか会ったことはないが説明には充分だった。

414:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:15:35 crxecahL
「なるほど。でも大井は、その子の番号知ってるのか?それに家の鍵だって」
「いや、知ってるし。開いてる」
「本当?じゃあ電話すればいいじゃん」
「早くしないと妹ちゃん遅刻しちまうぞ~」
始めて見つかった実現可能な案に、二人はその実行を急かす。
「うん……」
が優祐はあんまり乗り気ではなさそうで、携帯電話をバックから取り出した所で動きが止まっていた。
「ほら、早く」
が、それを文奈が急かす。
「あぁ、うん」
優祐は覚悟を決めたように頷くと、メモリーから神上優華を呼び出し、電話をかける。
プルルル プルルル プルルル
「はい、もしもし。神上です」
「あーおはよう優華ちゃん。優祐です」
「優祐さんっ、おはようございます」
優華は電話の向こうでお辞儀してるんじゃないかと思わせるくらい、元気良く、礼儀正しい挨拶をする。
「あーおはよう。それでさ、今家にいる?」
「はい。もうすぐ学校行きますけど……それがどうかしましたか?」
「えーとさ、すごく悪いんだけど、桜起こしてくれないかな?」
「まだ桜ちゃん寝てるんですか?」
優華も若干驚いた口調で聞き返してくる。
「うん。しっかり寝坊してるっぽい」
「しっかりですね。でも鍵は?」

415:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:16:46 crxecahL
優華は優祐の不思議な言い回しに笑っている。
「鍵は開いてるから大丈夫」
「分かりました。それじゃ行ってきますね」
「ありがとう。恩に着る」
「別にそんな、いいですよ。それじゃ行ってきますね」
優華は笑いながら電話を切る。
彼女からしてみれば桜を起こしに行くだけ。
それで優祐の役に立てるのが嬉しかった。

「で、どうなった?」
通話を終え、ポケットに携帯をしまった優祐に拓海が尋ねる。
「行ってくれるって」
「そうか、よかったじゃないか。まぁもう遅刻は確定だろうけど」
既に時計の針は8時を過ぎていた。
「まあ一限には間に合うだろ」
席に着きながら大きく息を吐く。
「結果オーライって事にしときましょ。あ、そうだ。優祐、お昼付き合ってくれる?」
「何で?今じゃダメか?」
優祐はいきなりの誘いに若干驚きながら疑問を発する。
文奈はその言葉に大きく頷いて返し、こう言った。
「それじゃ予約しといたからね」
それだけ言うと文奈は答えも聞かずに教室から走り出てしまった。
「なーんだありゃ?」
「俺に聞くなよ」
「謎……か」
「謎……だな」
「行った方が良いかな?」
優祐は内心、幾ら文奈とは言え昼休みを全て同時行動するのは避けたかった。

416:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:19:20 crxecahL
別に文奈が嫌な分けではないのだが……
「行った方が良いんじゃないか。約束しちゃったし」
が拓海は優祐の心の内を分かっていながら突き放す。
それは、文奈の行動に若干の違和感を覚えていたからでもあった。
「だな。昼休みは覚悟しとくよ」優祐はそう呟いた



以上です。
一応接続詞には気をつけてみましたがどうでしょうか。
次回はもう少し早く投下します。

417:名無しさん@ピンキー
07/11/29 21:01:35 1gfhqBoo
おお? 幼馴染が二人いるのか?
なかなか先が読めないが面白くなってきた。GJ!

418:名無しさん@ピンキー
07/12/01 06:42:01 k738A8FS
なんだか新鮮なSSだな。妹持ちの幼馴染み多数とは。
楽しみにしてる。GJ!

419:名無しさん@ピンキー
07/12/03 23:37:22 wcUlmkv/
アゲ保守
今年はクリスマスネタの投下はあるのかね?

420:名無しさん@ピンキー
07/12/04 01:40:41 cRwLkXY3
「クリスマスだぁ? なんもねぇよそんなもん。バイトだバイト」
「相変わらず投げやりだなぁ」
「そういうお前こそなんか予定あんのかよ」
「さぁ? 今のところは未定だよ。誰かの誘い待ちってところかな」
「……あのさ、それ、俺じゃダメか?」
「何が?」
「何がって……」
「だから、あんたはあたしとどうしたいのかってこと」
「いやそのつまり……ええい細かいことはいい! 俺に付き合え!」
「うん!」
そして結局今年も二人で過ごすクリスマスなのであった。

421:名無しさん@ピンキー
07/12/04 20:56:24 3Vi5lXIv
ネタ投下早すぎw

422:名無しさん@ピンキー
07/12/04 21:45:18 xIAHDFUs
【芸能】「渡鬼」愛ちゃん役の吉村涼(29)が結婚! 小学校の同級生と[12/04]
スレリンク(mnewsplus板)


423:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:32:04 AZd1n29d

「よし、行ってくるわ!」
「どこへよ?」
「大義のためかなぁ、止めんな」
「理由を聞いたつもりはないけど」

 急に何を思ったか分からんけど、思いつめた表情でそう言ってるのは、
生まれて17年、異性としてじゃなくて、人として付き合い始めて17年経って
しまってる腐れ縁の幼なじみ。
 せっかくのクリスマスイブだっていうのに、薪を拵えるための斧を携えて、
真剣な表情で何か言ってしまってる。いや、意味は分かるけど、そこに込められた
本意がどうにも分からなかったりする。
 普段のこいつなら、斧携えてこんな物騒なこと言ったりしないし。何を考えて
こんなこと言ったりしてんのか。

「モミの樹切り倒してくるわ!」
「はあ?」

 な、何な、何を言うとるんな。
 前々からあんまり頭は良くないとは思っとったけど、ここまで駄目となると
いよいよやばい。よもや都会の何か変な人たちに騙されて、変な薬とか吸っとる
わけじゃないよな。

「いや、だって……、何でそんなことするん?」
「さっき言ったやんか」
「でも…おかしくない?」

 あたし達が住んでるのは、東京から遠く離れた田舎も田舎、あたしの語り口調を
見て聞いてたら分かると思うけど、地方の地方もいいところ。大学進学のために
東京に行ったお姉ちゃんが、あたしらの地元の正確な位置を日本地図出して
聞いてみたら、ちゃんと答えれたのは10人に1人くらいしかおらんかったらしい。

「なんで?」
「聞いてくるんがおかしいよ。おばちゃんに、あの樹の植林にどれだけ金かかったか
聞いてない? あたしらの月のバイト代が100回くらい飛ぶんよ」
「なっ…そんな金かかっとるんか」
「……本当に知らんのか」

 いよいよ本当にアホなんかな。緑化計画の為の植林行為でも十分な費用が
掛かってるのに、駅前の立派な一本モミを一本だけ植林するとなると、どれだけ
その費用が掛かったか、考えなくても大体分かると思うんだけども。まあ、それが
分からんから夏も冬も補講を喰らったりしてるんかな。
 大体あそこには、モミの樹植える前から……

「ハイ質問です」
「何でしょう」
「自分が黙っておいてくれたら、全て丸く収まると思いませんか」
「……」

「……な?」
「……」
 お……終わっとる。腐っても駅前の時点で、あたし以外にも目撃者なんて仰山
できるのに。色んな意味で終わっとる。


424:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:33:32 AZd1n29d

「なんでそんなに倒したがるの?」
「……」
「別に、何か被害があったりするわけじゃなくない?」
「……」
 町おこしの一環で、せめて冬の一時でもその一瞬を盛り上がらせロマンチックな
ものにしようと、市議会が駅前にでっかいモミの樹を植えようと決めたのがちょうど
去年の今頃。
「こんなド田舎にそんなことしても無駄」「都会じゃないのにイルミネーション代もかさんで
余計な出費」たくさんの反対意見が出たけども、結局モミの樹は植林されることになった。
今頃、赤に黄色に青にちかちか光って、てっぺんにきらきら光るでっかい星を乗せた樹が、
随分な勢いで自己主張したりしてるのだろう。
 おかげで今年は、駅前のカラオケボックスや飲食店の利用客が増加傾向にあるらしい。

「だって……俺、彼女とかおらんし」
「……?」
「あいつらもおらん言ってたし。なのにあんなん立てられたら、嫌味やって思わんか?」
「……」
 えええ…そんな、それが主な理由なんか。高校生になってもまだまだお子様やな。
 てか、そんなこと言われたら。

「なあ、そう思わんか?」
「……」
 言われたら、駄目駄目や。我慢……我慢が、利かなくなる。
「分からんか? お前だって、彼氏おらんやろ?」
「……そんなん、そんなんだったら」
 こいつに彼氏って言われた瞬間、あたしの中で何かが弾けた。



「あたしが……、あんたがあたしと付き合えばええやんか」



「……」
 弾けて飛んだ。
「……」
「……」
 飛んで、混ざる。
「……」
「……え」
 混ざって直後、後悔した。
「~~~~~~」
 ああもう! ここまで言うて分かってくれんとか、おかしすぎる!
必死こいて一生懸命言ったのに、これじゃこっちの赤っ恥やんか!

「…え」
「……」
「……えっと」
「……」
「えっと、それって」
「……そんじゃ、また明日」
「え!? いや、ちょっと待ってくれって!」
「何よ! そんな態度するってことは別に何でもなかったってことやろ! 
だったら別に呼び止めてくれんでもええやんか!」
「え…いや、でも」
 あああ、おかしい。視界が急にぐにゃぐにゃしてきた。こんなのおかしい。


425:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:36:22 AZd1n29d

 別に、期待なんかしてなかった。

 去年の今頃、こいつがクラスの女の子に振られてて落ち込んでて、それを
慰めてあげようと、「来年の今頃あんたが誰とも付き合ってなかったら、あたしが
一緒におってあげるよ」って勇気出して言ったけど。そんなのどうせ向こうには
慰め言葉にしか取られてないことくらい分かってたつもりだった。

 その頃、モミの樹はまだ立ってなかった。でも、そういう計画があるのは知ってた。
だから、まだそのときには存在してないでっかい樹に、叶いそうもなかった想いを。
その時には架空でしかなかった樹に、込めざるを得なかった。

 なのに。

 なのになのに。

「いや、でも、こんなん、おかしいやんか」
「なっ……おかしいって何がおかしいんな!」
「お前が、俺ととか。そんなこと」
「……っ!」

 なのに。

 なのになのに。

 あたしの好きな人は。あたしのことを、ただの古い知り合いとしか
思ってくれてなくて。いっつもいっつも恋の相談とかされる度に、落ち込んでた
あたしの気持ちとか全然知らんで。

 こんなの……酷い。

「アホ!」
「い!?」
「お前なんか死んだらええんじゃ!」

 幼なじみだからって。付き合いが古いからって。
 そんな理由でこんなんとか。いくらなんでも理不尽すぎる。

「ち、違うって! いや待て!」
「待つか!」
「待て!」
「待たん!」
「待てや!」
「うっさい!」

 通いなれた通学路を、お互い全速力で駆け抜ける。流石に当然、
向こうは手にしていた斧を駆け出し始めた地点から手放して追いかけてきてた。
ホッとしたのも束の間、どうせあたしには芽がないことを思い起こして
また腹立たしくなってくる。
 その瞬間、あたしは立ち止まって振り返って、思いっきり手を振り上げた。

ばっちーん!

「……っ!」
「…」
 なのに。なのになのに。
 向こうはそれを、当たり前のように頬で受け止める。
 待ち構えてたから、よけれたはずなのに。


426:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:37:14 AZd1n29d

「……ってぇー…」
「なっ、なんでよけんかったんな!?」
「…ごめん」
「なんで謝るん!?」
「……」
「なんで言い訳せんの?!」

 おかしい、おかしいこんなの。
 全部が全部らしくないこいつもこいつだけど。そんなことくらいで
いちいち大声出して怒ったりするあたしもおかしい。

 ……

 …………おかしい?

 ……

 …………なんで

 ……

 …………なんでな

「お前が、そんな風に俺のこと思ってくれてるとか思わんかったから」
 うっさい。
「ずっと、男とか女とか関係ない友達やって思ってた時が、俺にもあったから」
 うっさいうっさい。

「同じこと思ってたら、同じような態度とるもんやな」

「……?」

「俺も、お前のこと、その、なんや」

「…え?」

「なんやその、えっと。その、あの、うんと」

「……」

「ああもう! 笑うなよ! 笑ったら承知せえへんぞ!」

「……」
 な、何言って…



「好きじゃ! 俺もお前が!」



 何……言っとんな…。


427:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:38:45 AZd1n29d

「悪かったの! 女に先に告白させるヘタレで!」

「なんじゃ! 悪いか! 悪かったわ! ほんま悪かったわ!」

「でも俺ら幼なじみでずっと一緒におったやんか!」

「こっ恥ずかしくて、逆に言えんわこんなこと!」

 ……

 ……………

「…ひっ」

 ・・・…

「あぁ?!」

 ……

「ひっく、ぐす……っ」

「なっ、何で泣くんや! 先に言ったんはお前やないか!」

 うっさい……うっさい……アホ…・・・

「ひっく……ひっく……ひぅ…ッ…」

 知らんくせに。あたしが、どれだけあんたのこと好きやったか知らんくせに。
どれだけ、ずっと好きやったか知らんくせに。

「あほ……あほぉ……っ!」
「なっ、何で告白し返してそんなん言われんとあかんのや…」
 そう言いながら抱きしめきて。背中にまで手を伸ばせずに、肩までしか抱けてない
ヘタレなくせして。



428:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:39:26 AZd1n29d


「……言うなよ。好きな娘にそんなん言われるんは、結構堪える」


 肝心なとこだけ、バッチリ決めるのがまた腹立つ。
嫌いや、本当に嫌いやこんな奴。


「……」
「ぐすっ……ひっく」
「あの…」
「ひっく……ひぅ」

「今年の駅前、カップルで大賑わいらしいんやけど」

 泣きやめない自分が情けなくて。けれども泣く意味合いが徐々に徐々に変わって
しまっていて。



「今から、一緒に、モミの樹見に行くか……?」


 そんなたどたどしい台詞に、相手から後から聞かされた話。
 泣いたまま、思いっきり頷いたと聞かされて、あたしの顔は熱い熱い顔は、そのまま
リンゴになっていたのだった―――




429:402
07/12/06 02:44:14 AZd1n29d
とりあえず酔った勢いで埋めがてらに投下してみたり

   _、_
| ,_ノ` ) ……推敲ももちろんしてないから出来栄えに期待しちゃいけない



   _、_
| ,_ノ` ) しかし>>409 ある意味俺とお前さんの「約束」…幼なじみスキーにとっては重い言葉だ



   _、_
| ,_ノ` )
ノシ そしてそれを守ってこその幼なじみスキーだよな



  サッ
|彡






430:名無しさん@ピンキー
07/12/06 07:15:53 II0Uipgv
GJ! あんた漢だぜ……! 私も頑張らねばなりませんねぇ!!

431:409
07/12/06 21:12:50 BJ0OjlF+
うおおおおおおっ マジでやりやがった……!
おまえさんのおかげで今年のクリスマスは笑って過ごせそうだぜ!!

それにしても方言の幼なじみ可愛いなっ(主人公も良い味だしてるぜ)

432:名無しさん@ピンキー
07/12/06 23:19:57 0LFnyP0W
GJ!

日本地図見せられて十人に一人しか答えられない場所というと…
K府K岡?H県T岡?W県K野?それともN県G条?

433:名無しさん@ピンキー
07/12/07 03:29:58 HHOMVKWm
GJ!やべえええ萌えたああああ
俺も地元のしゃべり方こんなんだからめちゃくちゃ感情移入できたわ
まあ俺にはこんな幼馴染はいなかったんですけどねwww

434:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:11:58 bZ9KkALW
実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました。

そんなネタです。
エロはありません。

では投下します。

435:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:12:23 bZ9KkALW
 数年ぶりに帰省する俺―佐野宏明を迎えに来てくれたのは、親父でもお袋でも、
姉貴でもなく、数年ぶりに再会する幼馴染だった。
 その事自体は、事前に親父から電話で聞いて知っていたんだが……。
 ホームを出て、改札を抜け、駅の入り口に重い荷物を担いで辿り着くと、そこに彼女はいた。
「やっほー! おっ久だね、ヒロ君っ!」
 そう言って手を振る彼女の姿に、俺は思わず見惚れていた。
 輝かんばかりの笑顔に、あどけなさの抜けた表情。
 いつも俺がからかうと頬を不満げに膨らましていた"可愛くないアイツ"は、
この数年間の間にすっかりと"綺麗な彼女"に変身を遂げていた。
 "彼女"は、本当に、"アイツ"なのか……?
「……なによぉ。久しぶりに再会した幼馴染に、挨拶の一つも無いわけですかぁ?」
 あの頃と同じように、不満そうに頬を膨らませる"彼女"。
 違えようが無い。"彼女"は、"アイツ"……歌乃(かの)だ。
「あ、すまんすまん。……歌乃があんまり綺麗になってたから、見惚れてた」
 紛れも無い本音の言葉。
「はははっ、お世辞が上手くなったねぇ。このこのー」
 口をついてからしまったと思ったが、歌乃はどうやら真に受けてはいないようで、
ホッとしつつもどこか悲しい。
「やめ……突くなよっ!」
「あははー、ごめごめ。んじゃいこっか?」
「お、おぅ」
 軽やかなターン。踵を返し、歩き始める彼女の後ろ姿に、俺はまた見惚れた。
 何というか、こう……いいスタイルになったなぁ、と。
 吐く息が白くなる寒さ。それを防ぐだけの厚着の上からでも、彼女のボディラインは
はっきりとわかった。昔は、無い胸無い尻筋肉質、だったような気がするんだが……。
「……なぁに?」
 そんな、少しばかり下心が入った視線に気づいたか、彼女は振り返る。
 俺は慌てて視線を逸らし、空を見上げた。
「いや……雪、降りそうだな、と思って」
 慌てて言い訳したが、実際空は灰色の雲に覆われていて、今にも雪が舞い降りてきそうだった。
「うーん、そだねー……今日降るよりは、あともう少ししてから降ってもらいたいけどなぁ」
「……なんで?」
「だって、もうそろそろクリスマスだし」
 そう言って、歌乃は微笑んだ。
「あー、ホワイトクリスマス」
「そ。その方が嬉しいでしょ?」

436:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:12:38 bZ9KkALW
「……俺にゃよくわからん。独りもんだしな」
「あれ? 彼女とか、向こうでいるんじゃないの?」
「いたらこんな時期に帰省するかっての」
「あはは、そりゃそうだねー」
「悲しくなるから納得するなっ!」
「そっかー……いないんだぁ……そっかぁ」
「お前の方はどうなんだよ」
「えっ、私? ……そりゃあ、まあね。ヒロ君の知らない間に、私も成長しているのでありまして……」
「いないだろ」
「い、いるよっ! そりゃもう両手で数え切れないくらいキープしててさぁ……」
「嘘だろ」
「はーい、嘘でーす。はぁ……彼氏がいたら、こんな時期にヒロ君のお迎えを
 おおせつかったりしないよー。今頃二人でデートとか? しちゃったり? えへへー」
「ま、妄想を広げるのは程ほどにな」
「妄想って……空想の翼と言って欲しいなっ!」
「似たようなもんだろ」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 俺は、昔のように歌乃と言い合える事に、酷くホッとし―そして、同時に一欠片の
物足りなさも、感じた。
「……変わったけど、変わらないな、歌乃は」
 何となく、俺の口をついて出たそんな言葉に、歌乃は眉間にしわをよせた。
「なにそれ?? むぅ……褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろう……」
「褒めてるんだが」
「何だか褒められた気がしないなー」
「む、気づかれたか」
「やっぱ貶してるんじゃないのっ!」
「冗談だよ、冗談」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 綺麗になったのに、こういう所は変わらない。本当に……変わったけど、変わらない。
「そんな事ばっかり言ってたら、乗せてってあげないんだから!」
「おっ、免許取ったんだ?」
「うん、この前合宿でね。今日は練習も兼ねて、お父さんの車借りて来たの」
「……大丈夫か?」
「まっかせなさーい!」
「……微妙に不安だ」
「ぶー」
「ま、しっかり頼むよ、運転手さん」
「まっかせなさーい! ぱーとつー! ……あ」
「お」
 俺たちは、頬に感じた冷たさに、同時に空を見上げた。
「……降ってきた、か」
「……降ってきた、ね」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の、再会を祝福するように。
 俺と、歌乃の、再開を祝福するように。
 ―雪が、降り始めた―

437:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:15:15 bZ9KkALW
ここまで投下です。

続くような感じで終わらせてしまいましたが、とりあえず
「実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました」
というのが書きたかっただけなので、続くかどうかはわかりません。

438:名無しさん@ピンキー
07/12/07 23:21:25 iN1k9lTy
おっと久々にリアルタイムに遭遇したぜ!! GJです!!

女性は特に変わるというか、化けるからなぁ。俺も久しぶりにあった同級生がすんごく大人っぽくなってて驚いたりちょっ
と置いていかれたようで寂しく思ったりしたこともあるなぁ。

それはともかく、是非続きを書いてみて下さい! 楽しみにまってます!!

439:名無しさん@ピンキー
07/12/09 07:19:59 OUAE9Ea5
>>429お前・・・真の漢だよ。世界で・・・最高のな・・・
こういう安らぐ話見せられると、俺が歓喜の余り暴走しちまうから困る。GJ!!

>>437こんな残い寸止めされるなんて・・・(悔しいでも感ry)
冗談はともかく、二人はどうなるか恐ろしく気になる。続きwktkしてる
GJ!!

さて、クリスマスSSが投下されていい感じにフラストレーション溜まってきたから、クリスマスツリーチェンソー薙ぎ倒しツアーIN日本に参加してくる。

ついでに元旦にも、女と初詣なんかクソ食らえ賽銭箱にメダルぶち込むぜツアーにも行かないと。

男は辛いよ

440:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:18:17 5DiKYuSc
>>439
酷い寸止めって言いたかったんだろうけど、残い寸止めってなんだ?w

>>437
おれも続きを書いて欲しいんだが思いつきでやったから自分の満足いくものが完成できなさそう
と思ったら書かないのも選択肢の一つだぜ
おれは昔思いつきで書いた愚作を完結できずにいるのでね。それでも書いてよかったと思っているけど


そして、2度目のレスだが>>429
そんな未熟なおれに対してお前さんは熱い心を見せてくれた
おれは、言いだしっぺが(ry と書いただけなのにさ
だから小話書くよ。礼には、ならんだろうけど


というわけで投下

441:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:19:42 5DiKYuSc
「ここ最近聞いた話なんだがな」
「うん」
「モミの木を切り倒そうとした奴がいるらしいぞ!」
「ええ!? どこで?」
「おれにも詳しい場所はわからない………ネット上の噂のようだからな……
 なんでも10人に1人ぐらいしかわからない場所だとか」
「それでどうなったの?」
「なんでも、そいつの幼なじみが必死に止めたらしい」
「……幼…なじみ」
「結構可愛い女の子らしいぞ。まあ、それはともかくとして………
 んで、結局その騒動の最中どさくさに紛れて二人は想いを告白し合い結ばれたらしい」
「……………!!」
「おれがなんと言ってもムカつくところは、だな!
 モミの木を切るという野望の話だったはずなのに、いつの間にかラブい話になってるところだ!」
「……ぁ、ぅ」
「なんたる腑抜け! 名前も知らんが、キサマそれでも日本男児か!!! 斬るッ!
 だが、おれはそんな軟弱者とは違うッ! そいつに代わってモミを切り倒す!
 あの忌々しいイルミネーションを消し去り、てっぺんの星を地の果てに投げ飛ばし!
 そして全国の聖夜に怨嗟する亡者どもの悲願を達成するのだ!!」
「あ、あわわ……だ、ダメだよっ」
「止めるな! 山田ァァァァァァァァァァッッ!
 おれは全てを越えてみせる!! おおおおおおおおおおーーーッ」
「ダメっ、直弘ちゃん!! だって……だって………!!」
「……ん?」

「わたしも直弘ちゃんのことが好きなんだもの……っ」

「…………ぉ」
「………………」(///)
「………ぉぁ」
「じゅ、15年前の時だって………」

―15年前。二人が幼稚園生だったとき。
「もみのきって、とってもたかいんだね」
「…………………あぁ」
子供の頃。もみの木は、とても高く見えた。黒く禍々しくも見えるそのもみの木は、
人々が楽しく集ったり願いを掛けたりするにしては不快だった。
クリスマスだけど嬉しくない。理由はもみの木だけではなかったけれど。

そんなとき、フト見上げていたもみの木のてっぺんが光った。
「お星さま………?」
ぼんやりとした明かりを持った星はひらひらと大きくなっていき……
「雪だ……!」
「うわぁ………」
「す、すげえっ! 雪だ!雪だぞひゃっほーーーい!!」
「うん……」
雪に浮かれる直弘を幼なじみはそっと見つめていた。
直弘は、この季節滅多に降らない雪に大はしゃぎ。降る雪をつかもうと辺りを走り回っていた。
「よかったね、なおひろちゃん……」
「ああ! こんなの滅多にないんだぜ!! すごい瞬間なんだぞ!お前も、もっと喜べよっ」
「う、うん……」
「……お、おい。どうしたんだ? どうして泣いてるんだ?」

442:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:21:50 5DiKYuSc
幼なじみは、そっと涙を拭くと笑いながら言った。
「なおひろちゃん、ようやくわらってくれた……」
「え………?」
「なおひろちゃん今日すごくつまらなそうだった」
「うっ」
「わたし、なんとかわらってほしくて。だから、わたしうれしくて……」
今日一日。言いたいこともあったろう。愚痴の一つも言いたかったろう。しかし―
「なおひろちゃん、あのね……?」
「な、なんだよ」
「いまは、まだむりだとおもうけど……もし、もししょうらい、わたしのこと」
「……」
「す、すきになってくれたら―」
直弘は、ただひたすら声を出せずにいた。
「もみのきの前に、わたしをつれてってほしいの……!」
ぎゅっ、と目を瞑り胸の前で祈るように手を組む女の子を前にして直弘は気の利いたことも言えず
「そ、それって」
「うん……」
幼なじみは蚊の鳴くような小さな小さな声で「……しゅき」とだけ言った。
「あ、ああ。……わかったよ!」
雪は二人を冷ますにしては温かすぎる。


そして時を戻し、現在。
「あ。あーーうん。そうだな」
「………」
「あー、つまり、その。………と、いうわけだ!」
「な、なにがっ?」
「ぐっ………つまり……!」
「……」
「好きだ!!!」
「!!」



別に直弘はクリスマスが好きになったわけではない。
無闇に"特別な日"として盛り上がる世間や、わざわざデコレーションされるモミの木も好きではない。
今も黒々と枝を伸ばすモミの木に生理的な嫌悪感を覚えるのか
モミの木を見る直弘は、やっぱり何処か厳しい表情をしている。
でも今までと違う事は、だ。
その手を幼なじみと離れぬように、ぎゅっと絡めている事だ。

443:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:23:30 5DiKYuSc
……と、こーして更にくっつく幼なじみカッポーが誕生し、うわさがうわさを呼び

「モミの木を倒しに行く筈が美談になっただと!? バカめ!ならば、おれがやってやる!!」

「ダメ、○○! 私、私……ずっと………!」

「なにぃ!?」

の連鎖がキレイに決まっていき、やがて気付けば………

全 国 の 幼 な じ み が く っ つ い た


のだった。



……そうなのか?

444:名無しさん@ピンキー
07/12/09 23:56:10 geiosX30
>>443
ちょww訊かれてもwww

私に言えるのは幼馴染みはやはりいい、ということと
GJ!というささやかな祝福の言葉だけだ。

445:名無しさん@ピンキー
07/12/10 00:37:12 Gvr8j01c
>>440 GJ!!
もみの木切り倒してくる。
問題は、俺には男の幼馴染しかいないってことだ

446:名無しさん@ピンキー
07/12/10 01:58:39 0j/Lb7LB
>>440
GJ!

>>445
アッー!!



447:名無しさん@ピンキー
07/12/10 03:43:36 kDtfmTjB
>>440まさか連鎖するとはなwwwww
GJ!!

さて、俺ももみの木を切り倒すんだが、転校して幼馴染みがいないんだよなぁ。
だから心置きなく切り倒して来る。

448:名無しさん@ピンキー
07/12/10 07:38:54 ekHssUlp
>>443
笑ったww

しかし最後はもしかしてWindネタか? そうだとしたらコアなものを……w

449:名無しさん@ピンキー
07/12/10 08:45:43 b7qQupT4
>>443
 GJ!!!

>>447
 転校した幼馴染に出会える時まで、もみの木を切り倒す旅、ガンバレ

450:402
07/12/10 23:20:55 9QV/vpgo

   _、_
| ,_ノ` ) >>440 こちらこそ、まさか連鎖が起こるとは思わなかった



   _、_
| ,_ノ` ) 素晴らしい幼なじみSS、じっくり堪能させてもらった



   _、_
| ,_ノ` )ノシ 次回作にも期待せざるを得ないな



  サッ
|彡


451:名無しさん@ピンキー
07/12/11 15:07:26 lUWaeMnH
ここらで、女の幼馴染みがモミの木を切り倒そうとするのも見てみたい

452:名無しさん@ピンキー
07/12/11 16:20:59 +SXRrdy6
女だったら放火かな
寝小便するぞ!って

453:名無しさん@ピンキー
07/12/11 20:58:19 bfRfenoo
「どうせ私には恋人なんかできないんだ!こんなもの切り倒してやる!」
「バカ野郎!危ないからやめろ!それに…恋人なら俺がなるから!」
「え!?今何て―」




こうですか?

454:名無しさん@ピンキー
07/12/12 02:25:57 NuCZcnMd


455:名無しさん@ピンキー
07/12/12 10:09:48 OI0nuSzR
与作女か
レッスルエンジェルス愛という携帯ゲームにいたな
誰か幼なじみになってやってくれ

456:名無しさん@ピンキー
07/12/12 21:21:45 Lc+1h70q
>>448
どう見てもWindネタだw

>>455
ネタ濃すぎwwってかキャラわからん
しかしリングドリームのキャラが出ているとは…濃ゆいなあ

457:名無しさん@ピンキー
07/12/13 00:31:49 Ig8plY68
クリスマスネタの投下はあるのかなぁ。俺はシロクロや絆と想いや今宵の月のようになどの作品のキャラが織り成す
クリスマス話を読んでみたいのだが。

458:名無しさん@ピンキー
07/12/13 01:20:22 bGITk9Q6


459:名無しさん@ピンキー
07/12/13 02:26:52 zV9FcA6E
今宵の~は、ラストのデートシーンがクリスマスじゃなかったっけw

460:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:09 oY0XJcy0
>>353>>359
>>411>>416
の続きです


4限が終わると同時に文奈は優祐を呼びに来た。
「えぇー、弁当食いたいんだけど」
早々と弁当を開きかけていた、優祐は不満を口にする。
「お弁当も持ってきて。外で食べるから」
「はい!?」
優祐は文奈の言葉に驚きを隠さない。
何故なら今は12月。
真冬ではないにしても最高気温は15℃を切る。
「嫌だ。寒いの嫌い」
優祐はそう言って動く意志を無くしてしまう。
「大丈夫だよ暖かいから。それに付き合うって言ったのは優祐でしょ」
文奈は左手に自分と優祐の分の弁当を持ち、右手で優祐の襟首を掴み、引っ張って行こうとする。
「わーったよ。寒かったら戻るからな」
「寒くない事は保障するわよ」
文奈は優祐が立ち、ついてくるのを見ると、先導してドンドンと行く。

461:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:45 oY0XJcy0
「到着」
「へぇ~」
文奈が連れてきた場所は、コの字型に建っている校舎の真ん中にある、中庭だった。
この学校は後ろに山を背負った場所に建築されている。
更に山に向かってコの字形の口が開いているため、中庭は四方を障害物に囲まれていた。
「ほら、全然風来ないし暖かいでしょ」
文奈は芝山ーー芝生が敷詰められた小さい丘ーーの頂上で両手を広げて見せる。
「なるほどね」
確かに中庭は、芝生が敷かれた地面に真上から冬の陽光が降り注ぎ、風が吹くことも無く、外とは隔絶した温かさだった。
「さぁ食べましょ」
文奈は芝山の上で自分の弁当を広げる。
「あいよ」
その前に優祐も座り弁当を食べ始める。
「それちょっと頂戴」
文奈が優祐の弁当の具を指す。
「はい」
優祐はそれに答えて文奈に取りやすいように弁当箱をずらす。
「ありがと」
文奈は弁当の具をつまむと一口で食べてしまう。
「うん、これ作ったのおばさんでしょ」
優祐から貰った具を食べ終えた文奈はそう言った。
「そうだけど……やっぱ分かる?」
「うん。何となくだけどね」
文奈は恥ずかしそうに笑う。
「そっか。やっぱ母さんには勝てないなぁ……」
どことなく落ち込んだ感じで優祐はそう呟いた。

462:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:03:21 oY0XJcy0
「味じゃないんだよ。 何て言ったら良いか分からないけど……愛情……かな?」
「愛情ってお前な。臭過ぎ」
優祐は呆れ顔でそう言って苦笑する。
「だよね~。あのね、優華ちゃんにお弁当作って貰えば分かると思うよ」
「ちょっと待て。なんでそこで優華の名前が出てくるんだ?」
優祐は突然出てきた優華の名前に驚きながらも、そう疑問を発する。
「なんでって……何か有ったでしょ」
文奈の目の光が変わる。
いつもの笑っている目では無く、本当のことを見通そうとする目だ。
「何もないよ。なんでんな事考えるんだよ」
優祐は言い返しながらも、自分が少し焦っているのを感じる。
優祐は未だ、こうなった文奈の追求を逃れ得た事はなかった。
「今日の朝さ、優華ちゃんに電話するの妙に渋ってたじゃない、何でかな~って」
「いや、別に大した事じゃないし、気にしなくても……」
優祐は文奈の視線から逃げるように視線をずらす。
優祐は文奈と目を合わせると全てを白状してしまいそうだった。
それは何と言うか……格好悪過ぎる。
「じゃあ何かがあったんだ。教えてよ」
しかし文奈はしつこく聞く。
これは文奈にとっても重要な問題だった。

463:迷い
07/12/13 23:05:16 oY0XJcy0
ここ2~3年学校関係で優祐に声を掛ける子は殆どいなかった。
そこに優華ちゃんという新たな伏兵が表れたのだ、放置しておける問題ではなかったし、文奈もそう易々と渡すつもりはなかった。
だからこそ文奈はしつこく聞き続ける。
その追求に隠し通すのを諦めたのか、優祐は渋々と昨日の出来事を話始める。
「ふーん。優華ちゃんに敬語使われたんだ」
「ああ。そしたら桜は優華は俺の事が好きなんだ、とか言い始めるしさ、接し方分かんなくなっちゃって」
結局優祐は洗いざらい吐いてしまっていた。
「優華ちゃん、優祐の事好きなんだ~」
文奈は優祐を見つめてにっこりと笑う。
「いや、ないって。有り得ないって」
優祐は慌てて否定する。
「そんなの分からないじゃん」
「いや友情から恋愛にはならないって言うしさ、普通兄貴に恋心なんて抱かないだろ?」
「兄って別に兄妹でもなんでもないじゃない。それに親しいからって恋はしない!なんてのは間違いだよ」
文奈は真っ向から優祐の反論を潰していく。
「それに優祐はどう思ってるの?優華ちゃんの事」
この問いは一種の賭けだった。
もしも優祐が優華に親愛以上の物を感じているとすれば、それは則ち文奈の敗北を意味する。

464:迷い
07/12/13 23:06:48 oY0XJcy0
その問いに優祐は大きく息を吐き、間を取ってから答える。
「嫌いではない……いや違うな、桜と同じ……かな」
この答えは、文奈に取って決して最良ではなかった。
しかし最悪でもない。
文奈と優華、二人に平等のチャンスが残された状態だった。
「多分優華ちゃんは優祐の事が好きだよ」
文奈は、そう小さく呟く。
「なんで分かるんだよ」
「女の勘だよ」
文奈はテヘッと笑い、優祐の視線をごまかす。
内実文奈には絶対の自信があった。
女の子が長い時間掛けて作られた関係を壊そうとするのは、相手の事を嫌いになったか、その逆。
優華が優祐に恋した時、関係を作り直そうとしても何等不思議ではなかった。
文奈は、数年前優祐に対する恋を意識しても動けなかった。
「優祐、優華ちゃんに言っといて。簡単には渡さないって」
「はあ?なんだよそれ」
優祐は一人呆気に取られている。
「分かんないなら、そのまま伝えること」
「はあ……」
「あ、そうだ期末テスト終わったあと暇?」
「暇っちゃあ暇だけど……」
「じゃあ空けといてね。25日の昼からね」
「わ、分かった」
「クリスマスプレゼント待ってるからねっ」
文奈は優祐の肩を両手で掴んで、満面の笑みを浮かべた。

465:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:08:06 oY0XJcy0
以上です。

最初の方タイトル入れ忘れましたorz

それではクリスマスイブにっ

466:名無しさん@ピンキー
07/12/14 22:41:18 jr6lMuY6
もっと  妹を!!(幼馴染のほうの)

467:名無しさん@ピンキー
07/12/15 00:18:54 kHHXH9W3
GJなのです! クリスマスイブ、期待してますよ!!

468:名無しさん@ピンキー
07/12/15 21:44:44 Tm/Xe94B
幼少のころからお互いのことを何でも知ってるというのは
利点なのかそうじゃないのか。
今さら異性だって言われてもなー、みたいな苦悩が好き。

きみはどう?


469:名無しさん@ピンキー
07/12/15 23:23:08 YKIGmh+f
きみはどう……ってオマエ誰やねん
しかし>>468は、お互いのことを何でも知ってるというのは利点じゃない
だがそれが好きということか?

しかし、利点なのかどうかというのは主に幼馴染キャラ本人の問題で
苦悩が好きってのは第3者視点で見た場合の話だ
それをごちゃまぜにして考察を進めちゃあダメだ

470:名無しさん@ピンキー
07/12/16 01:02:45 fNB1SIIW
何でも知ってると思ってて、実は一番肝心なことだけ見抜けていませんでしたってパターンが王道
幼なじみという王道ジャンルにはやはり王道なパターンがよく似合う

471:コトコのハナシ_1
07/12/16 01:06:53 XxQ10Myz

 琴子の話は長い。そして脈絡がない。結論もない。
 そんな話に嫌気が差すこともなく延々と付き合っていられるのは、琴子が「聞いてる?」などと絡んできたりしないせい。
 それは僕が素っ気のない相槌でもちゃんと聞いていると知っているからなのか、それとも聞いていなくても関係ないのか。
 どちらなのかイマイチよく判らないけれど、とにかくこの晩酌の時間が、僕は好きだった。

 久本琴子と、僕こと吉見要は、いわゆる幼馴染だ。
 家が隣で、年が同じで、幼稚園から小中高と同じ学校で。
 誰にも文句を言わせないスタンダードかつパーフェクトな幼馴染だ。
 親同士の仲もよく、家族ぐるみのお付き合いなんてことが今でも続いている。
 お互いの祖父母の家にも泊まりがけで遊びに行った仲なのだ。
 そんな幼馴染を持っている人間を、僕は僕ら以外知らない。


 今日はビールと焼酎の日、と琴子が言ったので、僕はもつ鍋の材料を用意した。
 牛もつの下ゆでが終わったころに、ビールと焼酎をもった琴子がインターホンを鳴らした。
 二人でたっぷりのきゃべつとにらを切って、もくもくと切って、豆腐やもつと一緒に味付け済みのだし汁が沸騰する鍋に放り込んだ。
 しなーとキャベツがその身の質量を減らしながらだし汁を吸収する様を、二人でじっと見つめた。
 食欲を刺激する、にんにくと醤油の香りの湯気がたっぷりと台所に立ち込めて、口のなかに唾液が溢れる。

 美味しそうだね。
 琴子が嬉しそうに言う。
 美味しそうだね。
 僕も嬉しくなる。

 スープを小皿にとって一口舐める。うん、完璧。
 もう一口分取って、琴子に手渡す。犬のようにぺろりと舐めた琴子も満足そうに微笑んだ。
 ついでに一切れ取り出した牛もつは充分に柔らかく煮えていた。
 ただし口に放り込んだら熱くて喋れない。
 ほふほふと口内の熱を逃がしてやりながら、右手の親指と人指し指で丸を作って琴子に示す。
 期待たっぷりで頷いた琴子が、冷蔵庫からグラス二つとビールを取り出してダイニングへ向かう。
 僕は火を切って換気扇を止めると、鍋つかみとダスタを駆使して土鍋の耳を持ち上げた。
 ぐっと腕に心地好い熱さと重み。
 今から琴子と二人でこいつを平らげる幸福な予感に、自然と口元が緩む。
 ダイニングテーブルの脇には、やっぱり嬉しそうに口元を緩めた琴子が鍋と僕の到着を待ち詫びていた。

 こんなにも息がぴったりなのに、残念ながら琴子と僕は恋人同士でも夫婦でも、家族でもない。
 限りなく家族に近い異性の友達。
 大抵の友人が、僕らの関係に首を捻る。
 いくら捻ってもらっても、そういう友達をもっていない彼らに理解は不可能で、結論なんて出てこないだろう。



472:コトコのハナシ_2
07/12/16 01:07:27 XxQ10Myz
 小学校の低学年までは一緒に遊んだり登校やら勉強やらもしたけど、そこはやっぱり男と女。
 気がついたら朝は別々に登校をするようになったし、学校で会っても挨拶だけになったし、ずっとクラスが違ったから「今日の課題なに」なんて電話も掛ってこなかった。
 それでも定期的に、どちらかの家で誰かの誕生日食事会なんかが開かれたし、琴子の弟の伊織―僕らはみんなイオ、と呼んでいる―はうちにゲーム目当てで入り浸っていたから、暇を持て余した琴子が格ゲー大会に参戦することもあった。
 ごく稀に一人で僕の本を借りに来たときには、最近どう、なんて話もした。
 だからお互いの成績も交友関係も、初めての恋人も、将来への不安なんかも大体把握していた。

 大学への進学と同時に、僕は実家を出た。
 年に数回帰った時には、琴子とイオがなぜかうちに夕飯を食べにきて、話すことといったら現状よりも昔話ばかりで、照れくさいながらも幸福の形を見ているような気がして。僕は帰省をしょっちゅうしていた。
 そのまま就職をして、地元への移動願いを受理されたのが2年前。
 帰るよ、と母親に報告をしたら、あらあらあら困ったわぁと予想外の返事がきた。
 何でも父親が、地方の子会社の支社長に就任するらしい。

 栄転じゃん、よかったね。何にも出来ない父さんに、単身赴任なんてさせたらだめだよ。
 家だけ僕に貸してくれない? なんたって筋金入りの一人暮らしだから、ちゃんとやるよ。お隣もいるし。

 僕は別に一人でも困るなんてことはなかったから、母さんにそう伝えた。
 母さんは、また家族がばらばらね、と少し寂しそうだった。
 でもそれも、長くて5年ぐらいの話だし。要がちゃんとしてくれるなら、他人に貸すより安心だわ。
 両親は親から夫婦へ戻っていて、僕は一人の男としての生活がすれ違いに継続された。

 だだっ広い一軒家の一人暮らしは、案外快適だった。
 掃除だけは大変だけど、一人分の食事や洗濯なんてたかが知れているし、僕を心配した隣のおばさんがしょっちゅう琴子におかずを持たせてくれるから不自由を感じることはなかった。
 住み慣れた家、歩き慣れた土地、そしてお隣さん。
 僕の生活はそれなりに充実しながら淡々と過ぎていた。

 琴子が突然、飲まない、とやってきたのは春ごろのこと。
 それ以前も、帰省のたびに酒の肴に惚気や愚痴を聞かせてもらっていたのだけど、このときはほんとうに突然だった。
 1ダースのビールを抱えた琴子が玄関先で僕の帰宅を待っていたのだ。
 飲まない? っていうか、どうしても、付き合ってほしいの。
 泣きそうな琴子の笑顔は、今思い出しても胸がずくんとする。



473:コトコのハナシ_3
07/12/16 01:08:00 XxQ10Myz
 彼氏と別れてちょっと辛くて。
 そういうときいつも頼りにしていた同僚の親友は現在年下の恋人に夢中で、とても失恋の痛手を分かち合う相手に不適切だ。

 そんなもん?
 僕は聞いた。
 そうだよ、と琴子は3本目のビールをあおりながらはっきりと答えた。
「だいたい」
 ストーンチョコレートを一粒舐めながら、琴子は続ける。
「前は隔週で飲みに行ってたんだよ。でも最近は月一なの。ハッキリ言わないからよく判んないけど、たぶん彼氏に気を使ってるんだと思う」
「うーん」
 隔週が月一になったからって、全然変わらない気がするけど。
 琴子にとっては重大なのかな。
「私が悲しいのは、彼氏を優先にすることじゃなくて、あの子が彼氏くんがどんなひとなのかとか、どこで出会ったのかとか、いつから付き合ってるのかとか、なーんにも教えてくれないこと」
「そのひと、秘密主義?」
「違うんだけど、こればっかりは聞いてもすぐに誤魔化すの。不倫でもしてないか心配だよ。
 なんでなんにも言ってくれないんだろ。私は余計なことまで聞いてもらってきたのに。
 寂しくって、勢いであんな変な男と付き合っちゃったよ」
 私ってほんとばか。寂しいってほんとだめ。
 口の中でぶつぶつと繰り返しながら頭を抱える琴子を、衝動的に抱きしめたくなって驚いた。
 いい感じに酔っている。酔うと人恋しい。一人で飲んでもつまらないのは、温もりが足りないからだ。

 抱きしめる代わりに、そっと手を伸ばして頭を撫でる。
 弾かれたように琴子が顔をあげて、きれいなアーモンド形の瞳を真ん丸く見開いて僕を見つめ返した。
「要?」
「ん?」
「なに?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「うん」
「そっか」
 くすぐったそうに琴子が笑って、もっと、というように顎を突き出した。
 そのくちびるにキスをしたくなった自分にまた驚きながら、ちょっと乱暴に琴子の前髪をぐいと弄ぶ。
 ふふ、と口の中だけで琴子が笑った。

「ね、また飲むの付き合ってくれる?」
「いいよ。暇だし」
「遠距離の彼女は?」
「あれ、言わなかったっけ。ふられたよ。好きな人が出来たんだって」
「知らないよ。いつ?」
「半年前かな。もう自然消滅っぽかったし」
「そっか。私たち、失恋コンビだね」
「コンビか。そうかもね」
 その彼女とはもう1年も会ってなかったし、そもそも地元に帰ってくるタイミングで別れたつもりだったから特に失恋の痛手を背負ってはいないけど、琴子が分かち合えると思ってくれたならそれでいいか、と僕はアルコールでくらくらする頭で考えた。



474:コトコのハナシ_4
07/12/16 01:08:58 XxQ10Myz
 酒に弱くもないけど強くもない僕らは、その日二人でぐだぐだと話しながら深夜3時までかかって10本のビールを開けた。
 琴子はそのまま居間で寝てしまい、彼女を客用の布団に運んだ僕もそのまま隣で眠ってしまって、翌朝には二人で仲良く二日酔いだった。
 それでも不思議と気分は悪くなかった。
 また飲もうね、と顔をしかめながら笑った彼女が、早く失恋の痛手から抜けられたらいいと僕は願った。


 金曜か土曜の夜ごとに琴子が酒を片手にやってくる。
 あの日以来そんな妙な習慣ができてしまった。
 たまには外に飲みに行くこともあるけれど、僕の家の匂いが好き、と琴子は内食を好んだ。


 今日の料理は完ぺきだ。
 冬に相応しいいでたちの湯気を上げる鍋を見下ろして、自己満足に浸る。
 取り分け用の小皿もちゃんと用意して。
 今日の酒盛りの準備は完了だ。
 きんと冷えたビールで乾杯。
 ぐいと同時に煽る。
 ぴりりと突き刺すような炭酸と、幸福の象徴のような苦味が乾いた喉を滑った。
 うまい。
 きっと僕は、このために、一週間働いてきたんじゃないかとすら思う。

 もつ鍋の中身を、琴子が取り分けてくれる。
 はい、と手渡されて、ありがとうと受け取る。
 琴子が自分の分をとりわけるのを待って、同時に口に入れて、同時にあつ、と眉根を寄せた。


 喉が潤い腹が満たされてきた頃に、琴子と僕は取り留めもなく話を始める。
 学校のこと、友人のこと、趣味のこと。
 今日の琴子の話題は、半年前に分かれた件の元彼について、だった。

「結局ね、先生やってる私が好きだったんだよ」
「うん」
「この仕事、好きだよ。だけど、ちょっと逃げ出したくなるときもあるじゃない?」
「あるね」
「別れて半年後に元カノと結婚って、酷いと思わない?」
「酷いね。同時進行だったんじゃない?」
「そうかもしんない。琴子なら忘れさせてくれると思ったけど、なんて、甘えすぎ」
「うん」
「友達でいてくれる、なんて聞いた私がばかだった。うん、なんて言わないでほしかった。それに囚われてる私は究極のばか。何で結婚してからの方が頻繁にメールくるの?」
「マズいね。もう拒否ったら?」
「うん、昨日そうした」
「偉いね、琴子」
「ううん、私、ほんとうにばか」

 頑張るなあ、と僕は他人事のように思う。

 琴子は決して恋愛をおろそかにしているわけじゃない。
 だけどそれ以上に、仕事に熱中をし過ぎている。
 社会人を数年もやれば、力の入れ所と抜き所が適度に判ってきていて、入社したてのころに抱いていた仕事に対する情熱とか希望とか、青臭いものを恥ずかしい、だなんて判ったように見下したりする。
 忙しいなんて言いながらご多分に漏れず僕もそうだ。



475:コトコのハナシ_5
07/12/16 01:10:10 XxQ10Myz
 だけど琴子は、社会人5年目になった今でも高校教師という仕事に情熱と誇りを持っている。
 のらりくらりと仕事をいい感じに適当に頑張っている男にとって、彼女はさぞ暑苦しいに違いない。
 その熱を、自分に向けてくれたら、だなんて考える気持も、実は、判る。

 結局温度差が大きくなりすぎて、面倒になった男が別れを切り出す、というのが聞いている限りいつものパターン。
 例の元彼氏は、とにかく短かったなあという記憶しかないらしい。
 確か、2ヶ月ぐらいだったかな。
 その付き合ってる2ヶ月の間で、会った時間はたぶん、合計10時間ぐらい。
 職業柄、年度の替わり目は忙しいからしょうがない。
 その時期は、顧問を務めるバトミントン部の卒業生のため、在校生たちと寄せ書きやら手製のアルバム作りやらに追われていたに違いない。
 「へー琴子さん先生なんだ」と言って近づいたんだったら、そこんとこ理解していないのは究極におかしい。
 想像力のない人間は、これだから困る。

 目の前の琴子は、泣いてはいないけれど、はぁぁと盛大なため息を落としながら酒を舐めている。
 恋をして、失恋して、しばらく男はいい、なんて言ってまた仕事に打ち込んで、突然思い出したように合コンやら友達の紹介やらで彼氏を見つけてくる琴子。
 彼女は人見知りをせず誰とでもすぐに親しくなってしまうし、肩のあたりでふわふわと揺れる髪型やアーモンド形の大きな瞳のせいか、一見柔和で穏やかでどこか頼りなくて、守ってあげなくちゃいけないような気になる。
 だけど実際の琴子は、実は姉御肌で面倒見がよく、なまじの男よりさばさばと割り切った付き合いを好む。
 会えないからって無駄に寂しがることはしないだろうし、メールや電話も、毎日はやってられないよ、とすぐに投げ出すし、仕事は忙しいしで、本気の度合いを疑われても致し方ないだろう。
 当の琴子は、彼氏ができたからって仕事や趣味の時間を削る気はさらさらないし、恋人を置いて女友達と海外旅行に出かけたりもする。
 そのギャップについていけない男が多いのも、納得はいく。
 付き合い始めで燃え上がっている時期にそうやって、自分の世界にのめりこんでいる彼女に置いてきぼりにされるとなぜか冷めてしまうものだ。
 このひとが自分を好きだと言ったのは嘘で、自分がこの子を好きだと思ったのも勘違いだったんじゃないかと。

 僕に言わせれば琴子はちゃんと恋人を大事にしている。琴子なりのやり方で。
 そのひとに合わせて映画が好きになったり、アウトドアにハマったり、スノボに出かけたり、日本酒にやたら詳しくなったり。
 おかげで琴子はびっくりするほど多趣味になった。
 全然無理をしていないところがまたすごい。

 頑張るよなあ。僕なんて、おかげさまで忙しい仕事と琴子の相手で手一杯。彼女を見つける暇もないし、見つけたいとも思わない。

 いつもは別れた男のことなんて、1月もすればきれいに忘れてしまう琴子なのに今回は珍しく長く引きずっている。
 そんなにも好きだった、とはちょっと違うだろうと、僕は予想している。
 たぶん、何も始まらずに終わったから惜しいんだ。
 すぐに結婚をしたと聞いて、逃した魚は大きいとか、考えているんだと思う。



476:コトコのハナシ_6
07/12/16 01:10:44 XxQ10Myz
「でさ、結局琴子は、彼氏が欲しいわけ? 結婚がしたいわけ?」
「結婚」
 琴子は即答する。
 まあ年齢的に無理もない。僕らはもう27になってしまった。
 僕は男だから、まだいいかなーなんて悠長なこと考えているけど、琴子は女だ。
 一番あせる年頃だし、周りからもさぞせっつかれているんだろうと想像はつく。
「結婚がしたいの? 結婚式がしたいの?」
「要……私、そこまで夢見る夢子ちゃんじゃないよ。あのね、人生を一緒に生きてくれる人が欲しいんだ」
 人生を一緒に? それは大概夢子ちゃん的発想じゃないかなと僕はふと思ったけど、ふぅんとだけ呟いて焼酎を舐める。

「必要条件ってある?」
「あるよ、あるある」
「どんな?」
「煙草吸わないひとのほうがいい」
「へー」
「あとスーツで仕事に行くひとがいい。出来たら眼鏡」
 形から入るタイプの琴子らしい。僕はこっそり笑った。
 しかし眼鏡でスーツの男なんてたくさんいると思うけどな。そういう僕も、そのスタイル。
「それでね、白衣着てたら最高。でもお医者さんがいいってわけじゃない」
 白衣。なぜ白衣。
 そのフェチズムは理解に苦しむ。
「僕は会社で作業着のジャンパー着るけど」
「作業着かあ。2割減だなあ」
 でも8割は残してもらえるわけか。
「琴子、見た目ばっかりだね」
「……そうだね…………えっとー、例えばね、デートで電車に乗るじゃない?」
「うん」
「で、目的の駅で、うっかり乗り過ごしちゃった時に、じゃあ予定変更して行けるとこまで行ってみようよって、言ってくれるひとがいい。
 その先に、思いもよらなかった楽しいことがあるかもしれないじゃない?」

 琴子がグラスを揺らして、焼酎に浮いた氷がかららんと涼しげな音をたてた。
 へえ、と僕は呟く。
 まあ琴子はそうだよな。明日からアメリカに転勤ですって言われても、満面の笑みで行きますと即答して、行ったらすぐにその土地に馴染んでしまうに違いない。
 人生を楽しく過ごす術を、琴子はよく知っている。
 その楽しい人生を一緒に生きる男はどんなヤツなのか。
 嫌な想像に僕は眉根を寄せて、ぐい、と残り少なくなってすっかり味の薄くなった芋焼酎を煽った。

 早く見つけないとね。
 僕のグラスに新しい氷と焼酎を注ぎいれながら、琴子が言う。
 いつまでも要に甘えていらんないもんね。
 はい、と差し出されたグラスを受けとって、僕は曖昧に微笑んだ。

 いつまでも甘えてくれていていいのに。
 琴子が望むなら、いつでも甘えさせてあげるし、そばにいてあげるし、絶対に琴子を悲しませたりなんかしない。
 僕は煙草を吸わないし、琴子の好きな眼鏡とスーツだし、電車を乗り過ごしたら乗り換えるのが面倒になると思う。
 あいにくジャンパーだけど、なかなか琴子の好みに合致してるんじゃない?
 だけど琴子が望んでいるのはそういう僕じゃないんだろう。



477:コトコのハナシ_7
07/12/16 01:11:42 XxQ10Myz
「ああ……出会いってどこにあるんだと思う?」
「どこだろうねえ。その友達の彼氏さんの友達とかは?」
「だめ。イオより年下だって。弟より年下は、ちょっと無理」
「じゃあ合コン?」
「うーん、あのね、私気がついちゃったんだ」
「うん」
「合コンって悪くないんだけど、なんか駆け足でしょ。駆け足は悪くないんだけど、なんか違うの」
「違う?」
「こう、気がついたら好きだった、みたいに、穏やかに始めたいんだなー。そしたら穏やかにゆっくり続いていきそうな気がするじゃない?」

 琴子はやっぱり夢子ちゃんだ。
 まだそんな思春期みたいな発想を持っているんだ。

「あ、いい年してって思ってるな?」
「思ってないよ。そういう恋愛だったら、職場とかじゃない?」
「今の学校、若い独身の先生がいなくて。あとは生徒?」
「それはマズいね」
「でしょ。懲戒解雇ものだよ。第一、高校生なんて図体だけ大きくて子供だもん。そこが可愛いんだけど」

 そういえばこないだ山井がね、と生徒の話を嬉しそうに琴子は始めて、出会いの話は宇宙のほうへと押しやられていった。

 だから僕は、―僕にしとかない? なんて、恥ずかしいセリフを、酔った勢いでうっかり吐いてしまわずに済んだのだった。


*

 眠い、と琴子が目を閉じそうになったので、とりあえず歯を磨きにだけ行かせて客間に布団を敷いた。
 これもすっかり琴子専用になってしまった。
 隣に帰れないぐらい酔っているとはとても思えないけど、外に出ると酔いが覚めて嫌だと琴子は我がままを言って、3回に1回はここで眠ってしまう。
 酔った勢いのまま眠るために、事前に入浴まで済ませてくる周到っぷりだ。
 戻ってきた琴子にお休みと挨拶を交わして、僕は入れ替わりに居間を出て風呂場へ向かう。

 熱いシャワーを浴びて、もどかしい思いを抱えたまま髪をトニックシャンプーで豪快に洗いながら、そして飛び散った泡を一人虚しく洗い流しながら考えるのは琴子のことばかりだった。


 琴子と僕は幼馴染だ。
 恋人じゃない。
 家族じゃない。
 友人、というのもまた違う。

 付かず離れずの微妙な関係。
 例えるならイトコが一番近いんだろうけど、それにしては距離が近すぎて繋がりが薄すぎた。

 琴子はたぶん、僕のことをイオと同列に考えているんだと思う。
 だけど生憎、僕にはとっくに結婚した兄貴が一人いるだけで、同列に並べるべき人間が一人もいない。
 姉か妹でもいたらまた違ったかもしれないけど、最近の僕は琴子の定位置を決めかねている。



478:コトコのハナシ_8
07/12/16 01:13:13 XxQ10Myz
 あの日抱きしめたくなった琴子は間違いなく女の人で、家族だったはずなのに僕にとってはどうしようもなく女性で。
 でもいきなりそんな感情を抱いては、琴子に申し訳ない気がした。

 琴子の初恋の人だって知っているし(ちなみに僕の兄貴だ)、いつまでおねしょをしていたかも、初めての彼氏も、ファーストキスの場所も、なぜか初めてのセックスの相手も知っている。
 もちろん琴子も、僕の人生のほぼ全てをなぜか把握していてくれている。
 こんなにもお互いを知りすぎている関係を変えてしまうには、今さら過ぎた。

 例えばこれが10年前だったら。
 もう少し何も考えずに、とても素直に想いを告げられたはずだ。
 だけどあの頃は、お互い違う恋人がいて、違う夢を持っていて、違う人生を歩き始めていた。
 だから琴子は琴子でしかなくって、恋人や好きな人、なんてカテゴリにはとても入れられなかった。
 今はただ、そのことが悔やまれる。

 結局、僕たちは、年をとりすぎてしまった。
 大人になって大きな間違いを起さなくなるのは、守りに徹するようになるからだ。
 喪失は絶望で、変化は恐怖だ。
 大切であるがゆえに、僕は琴子を失いたくない。
 臆病すぎると自分を罵るものの、無くすぐらいなら現状維持で、なんて後ろ向きな思いを、27年の人生の中で一番強く抱いている。
 強がりなんてひとかけらもなく、そう考えている。

 彼女が求めているのは男としての吉見要じゃなくて、家族としての僕なのだ。
 人生を頑張って生きている琴子の、安らぎでいたいから、僕は僕の感情に気が付かないフリをする。
 もうずっと、そんな平和な嘘を続けている。

 でも、琴子がもしも結婚をしてしまったら、僕はどうするのだろう。どうなるのだろう。
 兄貴が結婚を決めた時に抱いた感情とは、絶対に違うだろう。
 あの時は単純に、兄貴の幸せと家族が増える喜びが湧き上がってきた。
 だけど琴子が結婚をしたら、もう、こんな風に二人で酒を飲んだりなんて絶対に出来なくなるだろう。
 琴子が、人生を共に生きる伴侶だよ、と紹介するその男に、僕はなんて声をかけるんだろう。

 ますます後ろ向きな想像にぼんやりと浸っていたら、くしゅんと大げさなくしゃみがもれた。
 壁にシャワーを打ちつけながら動きが止まっていたらしい。
 溜息をひとつついて、風呂掃除を続行する。
 掃除はいい。
 一つ泡を流す度に、心の淀も一つ流れていくような錯覚を抱ける。




479:コトコのハナシ_9
07/12/16 01:13:52 XxQ10Myz
*

 髪を拭いながら居間へ戻ると、常夜灯の薄ぼんやりとした明かりの中にみのむしのように布団にくるまった琴子の姿が浮かび上がっていた。
 小さい頃から今でも変わらず、琴子は左を下にして海老のようにくるりと丸まって眠る。
 左手がしびれたりしないのかな、と不思議だけど、どうやら平気らしい。

 そっと枕元に跪いて、その寝顔をのぞきこんだ。
 幸せそうな眠り姫。
 人の気も知らないで、どんないい夢見てるんだろうな。

 手を伸ばして、指先でそっと前髪を撫でる。
 ぴくりと瞼を震わせた琴子が、振り向いてうっすらと眼を開けた。
「……ごめん、起こした?」
 ううん、と掠れた声で首を振った琴子が、ずる、と身体をずらして、あろうことか布団を持ち上げて僕を招く。
「………………いいよ、自分の部屋で寝るから」
「……寒いの」
 ぼんやりとした寝ぼけ眼で見上げられて、胸の奥が痺れた。
「琴子」
「だってヒャドがいないもん」
 ヒャドっていうのは琴子の家で飼ってる猫の名前だ。
 拾い主のイオが、俺がイオだからこいつはヒャドな、なんてふざけた主張をしたがために、残念な命名をされた彼を琴子は溺愛している。
「家に帰らないからだよ」
「……要のいじわる。いいじゃん、一緒に寝よ? ヒャドいないもん」
 ぐっと僕の寝間着の袖をつかんで、琴子が誘う。
 あくまでヒャドの代理ですか。

 大げさにため息をついて、そっと琴子の温もりで満たされた布団に忍び入る。
 くすぐったそうに琴子が笑って、おやすみ、と言い切る前に目を閉じた。
 すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
 相変わらず寝つきのいいやつ、と笑いそうになった。
 押し殺した吐息を察したように琴子が、のそのそと身を寄せてきて、温かくて滑らかな足が、僕のそれに密着をする。

 あのさ……琴子。まったく、僕をなんだと思ってるわけ?

 そっとあたまを撫でて、つむじにくちびるを落とす。柔らかいシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐって胸の奥がどくんとした。
 琴子って無防備だよね。
 聞こえないように囁く。
 もちろんこの無防備さは相手が僕であるが故なんだろうけど。
 5年前だったら襲ってたかもしれないけど、今の僕は余裕な大人なのだからそんなケダモノみたいな真似は出来ないのだ。
 後のことを考えると、やっぱりね。怖気づいてしまうんだ。


 寝るときに絶対琴子の布団に入ってくるらしいヒャドは、今日はどうしているんだろうとか、どうでもいいことを考えて気分を落ち着けつつ、そっと僕は眼を閉じた。




480:コトコのハナシ_10
07/12/16 01:14:47 XxQ10Myz
*

 インターホンが鳴ったような気がして、意識が浮上した。
 だけど薄らぼんやりしたあたまと身体は起きてはくれず、もう一回鳴ったら布団から出ようかと諦め悪くぬくもりにしがみついて、ふと、腕の中に琴子がいない、と気がついた。
 ぱたぱたとスリッパで小走りに駆ける音がして、彼女はもうすっかり目を覚まして、元気よく動き回っているのだと知る。
 しばらく後、押し殺したような話声が聞こえてきた。

「…………ら、静かにね」
「んー判った」
「で、あんた何しに来たわけ?」
「姉ちゃんの朝帰りを迎えに。暇だからさ」
「ばか。お隣だから朝帰りじゃないよ。ね、ちゃんぽん作るけど、イオも食べてく?」
「食う食う」

 そんな会話を片耳で聞きながら、いつまでも仲がいい姉弟だよなと改めて感じる。
 じゃあ要をそろそろ起こしてきて、と、琴子のミドルトーンが響いた。

 イオの気配が近づいてくる。
「要にいー」
 イオの起こし方は乱暴だ。
 いい年をして、ダイビング・ボディ・プレスの後に腕ひしぎ十字固めなんてしてくれたりする。
 これがまた半端なく痛いのだ。
 危険を察知した僕は、寝返りを打ってイオを仰ぎ見る。
「……起きてる」
「あそ。おはよ。昼飯はちゃんぽんだってさ」
「うん」
 答えたところであくびをひとつ。
 喉の奥を見透かされてしまうんじゃないかと思うぐらい大きなそれを終えて、上体を起こすと、あぐらをかいて枕元に座っていたイオが、いつになく真剣なまなざしで僕を見ていた。

「あのさ、要にいちゃん」
「…………何、気持ち悪いなあ」
「要にいって、姉ちゃんとヤってんの?」
 条件反射でイオを殴り倒した。
 床に額を打ち付けて、イオがいてぇと呻く。
 琴子を見やると、キッチンでざーざーと水を流してこちらの様子にはまるで頓着をしていない。
 僕はほっと息をついた。
「お前な」
「だってさ、姉ちゃんしょっちゅうここに泊ってくじゃん。とーさんもかーさんも、どうなってんだか心配してんだよ。相手が要にいならむしろ安心なんだけどさあ」
 で、どーなの、とイオが興味しんしんで、額を床にこすりつけたままこちらを見上げる。
「ご期待に添える関係じゃないよ」
「付き合ってないの?」
「…………付き合ってない」
「付き合ってないけど、ヤってるとか?」
「付き合ってないし、ヤってない。……イオ、再起不能なぐらい殴り倒していいか?」
「ヤメテ、要お兄さま」

 がば、とその身を起こしたイオが、ちょっと目を細めて睨むような視線で僕をまた見つめていた。



481:コトコのハナシ_11
07/12/16 01:15:56 XxQ10Myz
「…………二人とも、いい大人だとは思うけどさ。いい加減不自然じゃね?」
「なにが」
「そうやってさ、要にいが琴子を甘やかすからアイツ結婚できないんだよ。琴子が要にいに構うから、要にいが彼女作んないんだよ。そういうことだろ?」
 大人なんだから、ちゃんとしろよな。

 誰に言われるよりも、胸に刺さった。

 家族みたいなもんだろ、甘えて何が悪い、とか。
 そんなこと、僕が一番よく知っている、とか。
 じゃあ僕は琴子が好きだけど、あいつにその気があるように思う? とか。
 今くっついたら、お手軽に済ませたんだ感がぬぐえないよ、とか。
 琴子と僕がセックスするなんて、琴子とイオがそうするぐらい気持ち悪くはないか? とか。

 一瞬にして様々な返答が頭を廻ったけど、どれもこの場には不適切で、二日言酔いでないはずの頭が痛んだ。

「せっかく、俺が……、」

 イオは何かを言いかけたけど、押し黙った僕をみて、結局はくちびるを引き結んだ。
 ごくりと唾を飲んだ後、こんなこと言いたくなかったと呟いた。

「ごめんな」
「イオ―! 要起きた? ごはんもう食べれる?」
 僕の謝罪を掻き消すように、琴子の呑気な声が、キッチンから響いてきた。

「おー!」
 イオが張り切った声をあげて、腰を上げた。
 逃げるように客間を出て行く。

 僕も、それにゆっくりと続いた。
 ダイニングに足を踏み入れて、キッチンの中の琴子と目が合った気がして、おはよう、と出来るだけナチュラルに微笑んだ。
「おはよう、要。眼鏡、テーブルの上だよ」
「ああ、ありがとう」
 ぼんやりとした視界は、今の気分にとても相応しいけれどせっかく琴子が教えてくれたので素直に眼鏡を装着する。

 手伝うよ、と踏み入れたキッチンは整然と片付けられていた。
 昨夜二人で散らかした食器類はすっかりと洗い終えられて、水切りかごのなかにきれいに納まっている。
 まるで、なにもなくなってしまったようだ。
 昨夜の会話もはすべて夢だったんじゃないかとすら錯覚する。一緒に眠ったことも、すべて。

 ぐつぐつとつゆが煮えたぎる土鍋と、琴子の晴れやかな笑顔だけが僕をぬるま湯の現実へ繋ぎ止めていてくれる気がした。

*

以上です。
お付き合いありがとうございました。

482:名無しさん@ピンキー
07/12/16 01:29:26 IoOF1qdo
GJです! 大人になった幼馴染ですか。難しい部分はありますねぇ。

でも、この二人が幸せになるような、そんな続きを待ってます! 是非書いて下さい!!

483:名無しさん@ピンキー
07/12/16 03:16:45 UA7CAMsx
GJ。GJ。GJ。GJだ。
内容も表現も丁寧で落ち着いているのに、じんわりと沁みてくるものが
あって、個人的にとってもツボだった。
この続きでも別のでもいいから、次回作に激しく期待。

484:名無しさん@ピンキー
07/12/16 03:16:58 pKmWn2Vs
これはいい
とてもいい
とても いい!

485:名無しさん@ピンキー
07/12/16 07:07:02 crkYIJ5I
GJ!!!
某スレで以前投下されていたシリーズの外伝?ですよね?
相変わらず文章が丁寧で非常に読みやすく、気付いたら引き込まれて
いました。
続きも期待しています!




486:名無しさん@ピンキー
07/12/16 11:34:58 /+M12eW2
>>485
なんだと、それは一体どこで読めるんだ!?
差支えなければ教えてくださいだぜ!

487:名無しさん@ピンキー
07/12/16 13:00:12 crkYIJ5I
>>486
年の差カップル萌えスレの総一郎と茜シリーズ
1スレ目の作中で茜先生が一緒に海外旅行に行った友人ということで
名前だけだけど触れられている。

488:名無しさん@ピンキー
07/12/16 13:05:21 /+M12eW2
>>487
トン
ちょっと見てくる

489:名無しさん@ピンキー
07/12/16 15:46:26 S1/eDecJ
優也と友梨ってあれで終わりなん?
すんげー好きなんだが

490:名無しさん@ピンキー
07/12/16 19:22:00 tau5uflz
俺もすごい好き
続きがあるならぜひ読みたい

491:名無しさん@ピンキー
07/12/17 01:22:41 19X6MFJe
大人になってからの幼馴染が実にいいな!

492:名無しさん@ピンキー
07/12/17 01:59:32 /5ofsKVQ
結婚&新婚萌え纏めの方にも似たようなのあるよな
こっちも結構好きだ

493:名無しさん@ピンキー
07/12/17 02:07:44 +vX7x4Pe
結婚で締めか…そういうのもありだな

494:名無しさん@ピンキー
07/12/17 10:24:26 OMHE6jym
うはwww
同士テラ多スwwwwwww

もちろんあれで終わりじゃないよな?
な?

495:名無しさん@ピンキー
07/12/17 14:21:01 RiRllWX+
>>481
これ、くっつかないまま曖昧で終わるのがなんかいいなw

496:名無しさん@ピンキー
07/12/18 10:15:54 4N+RbrWZ
>>471氏の作品いいね
年の差の方も読んで来たけどかなりはまった
他にもあるのかな?知っている方いたら是非紹介を

497:名無しさん@ピンキー
07/12/19 15:21:57 lglWJp+1
携帯サイトをもってらっしゃる。URLは晒すと迷惑だと思うからメ欄にサイト名だけ。

498:名無しさん@ピンキー
07/12/19 17:59:41 2XkuCTlT
サイト多すぎワロタ

499:名無しさん@ピンキー
07/12/19 22:57:29 SQ4GY2fJ
サイト名だって晒すなよ。
URL晒しは迷惑だと思うのに、アドレスさえ載せなければいいと思う
その神経がわからん。
検索してヒットする数が多いサイト名なら晒してもいいと思ったのか?
アホだろ。
よそのスレまで行って迷惑がられたり、書き手のサイト晒したり、
しかもこれがいいことだと思ってやってるんだから最悪だな。
もうちょっと考えろ。

500:名無しさん@ピンキー
07/12/21 00:22:32 +nbhHOxw
切れすぎwwwwwwwwww

501:名無しさん@ピンキー
07/12/21 01:14:59 dArCU/92
まあ、やっちゃ駄目なことであることは確かだわな
このスレだけ見てると錯覚しそうになるが2chであることに変わりはない

502:名無しさん@ピンキー
07/12/21 06:04:09 cTCnKlJl
>>500
これを切れ過ぎって思うほうがおかしいよ
書き手のサイトを晒すなんて、普通は袋叩きだよ


そこら辺の感覚からしてズレてんのかね、ここの住人は

503:名無しさん@ピンキー
07/12/21 09:37:47 8vc3OZXC
これがモラルハザードか
郷に入りては(ry

504:名無しさん@ピンキー
07/12/21 10:47:34 QX8gcdrY
個人サイト晒すのが最低であることは確かだな
ただ、一人のレスの問題をスレの住人全員のせいにしようとして
「このスレの住人は…」とか言い出す奴は
スレの雰囲気悪くしたい便乗さんとしか思えないわけで…
まあもうちょっと落ち着こうぜ




505:名無しさん@ピンキー
07/12/21 11:19:12 LR+QE0Nb
俺はどこかを縦読みか斜め読みするのかなぁと思った。見つけられなかったけど。

506:名無しさん@ピンキー
07/12/21 14:22:51 Mh4AI6SK
今回はむしろ、サイト晒しという最低な行為に加えて
>>500とか>>505みたいなのがいるせいで
スレ住人にバカが多いと思われたんじゃないかね。

サイト晒しが最低なのは当然なんだから、
そこはもう反論も弁護もしないで
次の話題に行けばいいんだよ。
何か言うだけサイト晒しを認めてるように見えて印象悪くするだけだよ。

507:名無しさん@ピンキー
07/12/21 15:09:50 ogP52vN9
誰も彼もが一言余計

508:名無しさん@ピンキー
07/12/21 17:22:45 ASAcpQIy
>>452
遅くなってごめんよ。書いてみたよ。短いけど。


インターホンが鳴ってドアを開けると、隣に住む3つ年下の夏帆が立っていた。
短いスカートとダウンコートに、長い髪を頭の横でちょんちょんと結んで、元気一杯、何故かボトルとチャッカマンを持ってポーズを取っている。
「行くよっ、あっちゃん!」
「行くって夏帆、どこに?」
「駅前のおっきなツリーのとこ!」
「夏帆、それ、チャッカマン?」
「そう、チャッカリマン」
「・・・・・・で、その左手のペットボトルは何?」
「ごま油」
「何する気だ?」
「もやすの、ツリーを! 夏帆てっぺんまでとどかないから、あっちゃんに手伝ってほしいの!」
「何のために?」
「本で読んだの。火事が起きたら愛しいウンメイの人に会えるんだって。ツリーがノロシになって、ウンメイの人があたしを見つけてくれるんだよ!」
「あほかっ」
思わずゲンコツで殴ってしまった。もちろん手加減はしたけど。
夏帆はチャッカマンを手に握ったまま頭を撫でると、涙目でこっちを睨みつける。
「いったー、あっちゃんなにすんのよっ」
「運命の人より先に警察につかまるだろ・・・放火犯になりたいんかお前は」
っていうかあのツリーは生木だからごま油とチャッカマン程度では萌えないと思うけど。
夏帆は涙目の目をさらに潤ませて、だって、と小声で呟いた。
「ん?」
「みんなラブラブ仲良し幸せそうで、羨ましいんだもんっ。あたしもプレゼント交換とかしたい!」
「毎年俺と交換してるじゃん」
「あ、そっか。忘れてた」
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」
ラブラブでツリーね。最近の中学生はマセてるねぇ。そういうのが流行ってるのか?
「俺が一緒に行ってやるよ」
「あっちゃんほんと?」
夏帆のお守りは俺の仕事だもんな。おばさんからもこのアホな娘をくれぐれもよろしくって頼まれてるし。
「ああ。でも火はつけないからな」
「じゃあ手、つないでくれる?」
「う、うん」
「腕くんでもいい?」
「・・・いいぜ」
「ほんと?ほんとに?うそじゃない?うそじゃない?ねえねえ!」
「だーっまとわりつくなっ、うそじゃない、うそじゃない!」
「ラブラブ?ラブラブ?」
「あーラブラブブラブラだぜっ!」
「あっちゃん大好きっ!」
面倒になって叫んだら、夏帆は納得をしたようで、両手を目一杯上げてばんざーいのポーズを取った。その拍子に左手のごま油がボトルの中でぽちゃんと揺れた。
こいつ、ラブラブの意味判ってんのかね。
「はいはい。駅前のツリーの前に、うちのツリー飾るの手伝えよな。うちのかーさん待ってるんだから」
「手伝うっ。あっちゃんちのツリーも大好きっ」
「ほい、じゃあ入れ。寒いだろ」
「あーい、おっじゃましまーす!おばさーん、夏帆来たよー!」
玄関で靴をぽぽいと脱ぎ捨てる夏帆はまだまだお子様だ。
手を繋いだってきっとぶんぶん振り回すし、腕をくんだって俺にぶら下がるだけだろう。
再来年ぐらいには本物のラブラブになれますように、とサンタにお願いしたらかなえてくれるだろうかと、夏帆の靴を揃えてやりながら、ふと考えた。

509:名無しさん@ピンキー
07/12/21 17:27:07 ASAcpQIy
終わりなんだが、間違えたorz

「あ、そっか。忘れてた」
「忘れんな」 ←これが抜けた
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」

ごめん。
あと3日か・・・溜息

510:名無しさん@ピンキー
07/12/21 19:24:09 G/lPHpkE
理想の小説探しますみたいなスレあるじゃん
それとどこが違うの?
テンプレで個人サイトらしきURLが紹介されてるスレもあるよ

511:名無しさん@ピンキー
07/12/21 19:44:17 qR6BBe7q
>>508
元気一杯でかわいいなw
短くてもこれはいいものだ

512:名無しさん@ピンキー
07/12/22 00:44:13 8sBPbKWI
ほんと元気いっぱいでかわいいね
そんな娘が一緒にいたら楽しいだろうな~
グッジョブ>>508

513:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:05:37 FO/vE9kK
>>502>>506
馬鹿にしすぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

514:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:10:40 wqyrTWZo
>>513
大丈夫、お前はそれに見合うだけの馬鹿だから

515:名無しさん@ピンキー
07/12/22 01:50:55 8Lix7e+U
>>508
確かに短いのが残念。
でも幼馴染にチャッカリマンと言わせたり、最後の「夏帆の靴を揃えてやりながら」
の表現とか抜け目なく良い味出してるね

516:名無しさん@ピンキー
07/12/22 14:38:05 FO/vE9kK
>>514
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

517:名無しさん@ピンキー
07/12/22 17:10:53 m7f2OyA0
>>516
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

518:『その幼馴染み、驚異のメカニズム』
07/12/22 17:42:42 hL0YtIjD
安藤夏(あんどう なつ)は、自称・情熱家であるのだが、その実、他称・無愛想だった。


朝、ぼんやりと登校を始めた田川与一(たがわ よいち)少年17歳であるが、隣の家の前を通りがかったところで、そこの住人の一人である幼馴染み、夏(なつ)と遭遇する。

「おっす」

そこそこ年季のいったマンションの、新築出来立ての頃から入居の隣人であるから、これくらいの気安い挨拶もできる間柄。
与一はまぁ、隣人である同級生のことをその程度に認識していた。

彼の持つ価値観、というか、単純に女性の好みとして、儚げな雰囲気のある、上品なお嬢様が好きなのである。
しかしはたしてこの夏は、運動性能に優れ、病気に縁のない頑健な身体が取り柄の女だった。寡黙ではあるがその無口には気品が無く、平たくいえばぶっきらぼうなだけだ。
正直言って、好みの女とは懸け離れていた。
友達ではあるが、恋人にしたいと思わない、という認識。

しかし、この女、夏は違う。

ものすごく、激しく、バリバリ、めちゃくちゃ、超、スゲー、マジ、等々、いろいろとその度合いを表す言葉もあるが、飾りだすと際限が無くなるのでやめておく。
まぁとにかく、それくらい与一のことが好きだった。

そんな、与一好き好き人間の夏であるから、彼から朝の挨拶をされて、無言で返すはずがない。
普通に「おはよう」とでも返せばいいのであるが、夏は自称・情熱家であるわけだから、そんな簡単な言葉で終わらないわけで。

彼女の脳内では、

『おはよう!! 与一君!! 素敵な朝だね!
 今日も朝から、あなたに逢えて私、幸せよっ!!
 あー、もう、与一君スキスキ! もう、大好きで大好きで仕方がないの!!
 たとえるなら、私が植物で、与一君は太陽!あなたの光がないと、私はすぐに枯れてしまうのよ!!』

といったような、情熱的で少々イカレ気味な感情が渦巻いているのだが、それをアウトプットするシステムに問題があるらしい。
つまり、唇が、その言葉を上手く紡いでくれない。

おそらくは、大脳の中の、恋する男の子を想う部分から発信された信号が、同じく脳内のインタプリタであるところの身体の動きを司る部分に伝えられたとき、

(おまえ、長文ウザイよ)

と、辟易と労働を拒否されたに違いない。
ゆえにそのインタプリタは、脳内の長文を、やたら簡素に省略する。そしてようやく、唇へと信号を送るのだ。

『与一君、おはよう』

そして唇もまた、自分に与えられた仕事に対してルーズであった。
飯を食うときとあくびをするときくらいにしか大きくひらかない唇だ、目の前の男に激しい恋心を伝えたい、などという、どうでもいい仕事はしたくない。
いや、普段の会話も面倒なくらいだ。この唇が嬉々として言葉を発する仕事をするのは、定食屋で本日の日替わり定食を注文するときくらいだろう。
だから、脳内のインタプリタによって簡素に省略された文章であってもまだ長文に感じるらしい。食事に結びつかないからだ。

それでも脳からの信号がやたらとしつこく急かすので、やれやれどっこいしょ、とばかりにようやく唇が重い腰を上げる。
そして初めて、思考の一部が言葉として発せられた。

「・・・おは」

だいたいがだいたいこんなかんじで、夏の、朝の第一声が紡がれるのである。



「おめー、相変わらず無愛想だなぁ」

もちろん与一少年は、彼女の中でどのような電気信号のやりとりが行われているかなどと、知る由もない。


519:名無しさん@ピンキー
07/12/22 17:55:44 hL0YtIjD
ごめん、間違って投下しちまった。

520:名無しさん@ピンキー
07/12/22 18:02:28 6GIeyhqX
間違いは気にせず続きを

521:名無しさん@ピンキー
07/12/22 23:23:31 P8puskpp
全然間違いではないと思うぞ

まあ、挨拶するだけの展開にどんだけ行数使ってんだって気はするが、
結果的に面白いから許す

てなわけで、GJ&続きを激しく期待している

522:名無しさん@ピンキー
07/12/22 23:26:56 +UDtu5hu
>>508>>519でニヤニヤがとまんねえw

523:コトコのキス_1
07/12/23 01:51:20 BVeesct8
>>471-481の続きです。


 今日は辛口の白ワインの日、と琴子が言ったので、僕は少し悩んで今日の料理を決めた。
 生ハムのサラダと豆のポタージュスープと、ペスカトーレ。
 クラッカーとチーズを用意して、適当な野菜を乗せた数種類のカナッペ。
 よし、これで行こう。
 学生時代にちょっとした洋食屋でバイトした経験が役に立っている。

 野菜を切り終えたころに、琴子がワインを2本片手にやってきた。

 サラダとカナッペの制作を彼女に任せて―やっぱり盛り付け類は女のひとのほうが上手だ―湯を沸かしながら、砂抜きしたあさりを洗っていかをさばく。
 その手つきを、琴子が感心したように覗き込む。
 べつに魚を三枚におろしてるわけじゃないんだし、そこまで驚かなくてもいいのにな。
 はらわたは触れるけどゲソの吸盤がイヤ、と主張する琴子をからかいながら、下準備を終えた。
 沸騰した湯の中にスパゲッティを放り込んで、ぐるぐるとかき回す。
 店長が「麺類は愛を持って接しないとだめだ」と口酸っぱく言っていたなと、麺をゆでるたびに思い出す。確かに、頻繁にかき回してやると味が全然違うように思えた。
 フライパンにオリーブオイルを流し込み、強火で少々。つぶしたにんにくを浮かべると、すきっぱらに心地よい芳香が漂う。
 火を弱めて、赤唐辛子を淹れる。フライパンを耳障りな音を立てながらゆする。
 ゆで汁を少々加えて、にんにくと唐辛子を抜き出した。

 あさりと白ワインを豪快に流し込んで、蓋をする。
 この蒸している瞬間が、僕は結構好きだったりする。
「要って、パスタ上手だよね」
「まあね。女の子はパスタで落とせって言うじゃん?」
「……聞いたことない」
 琴子が落ちてくれるんだったら何でも作るよ、と恥ずかしいセリフがよぎったけど口にはせず、蓋のガラス窓からあさりの様子を伺った。
 ほんとうに伺いたかったのは、琴子の様子だったけど。

 口をぱかんと開いたあさりは、開けっぴろげで素晴らしい。僕はなぜかわくわくする。
 スプラッタなイメージの強い、つぶしたホールトマトをまぶして、水分が飛ぶまで煮詰めればソースは完成。
 スパゲッティが茹であがる直前に、いかとむき海老を加えてさっとゆがいて、キッチンタイマーとにらめっこ。
 ぴぴ、とけたたましい音を立てたらすぐにタイマーと火を止めて、ざるに上げた。
 ざっと水気を切ったそれを、ソースの煮えたフライパンに放り込んで絡める。

 あとは皿に盛ってめでたく完成。
 サラダとカナッペはすでにテーブルに並んでいたし、初めて作ったポタージュスープもいい感じにぐつぐつと音を立てていた。

 料理は二人ですると何倍も楽しい。
 それが、琴子と酒を飲むようになって知った一番の収穫だった。


524:コトコのキス_2
07/12/23 01:52:35 BVeesct8
 ワインの栓を抜くのは僕の仕事だ。
 一度琴子に任せたら、コルクをボロボロにしてしまって辟易した。
 そんな難しい仕事でもないはずなのに。
 それ以来、幾度琴子が申し出ても頑なに断らせていただいている。
 ちなみに琴子はワインを注ぐのも苦手だ。しっかりと液だれを起こす。だからそれも僕の仕事。
 申し分ない役割分担だ。
 まるで、何年もそうしてきた夫婦のよう。
 僕がこうやって甘やかすから、彼女はいつまでたってもワインの栓が抜けないまま。

 琴子が僕へのおみやげにどこかで買ってきた、ぶどう柄のワイングラスにきんと冷えた白ワインを注ぎいれた。
「じゃあ、」
 二人でグラスを持ち上げる。
「乾杯」
「乾杯」
 かちん、と涼しげな音を立ててぶつけたグラスを、ぐいとあおる。
 爽やかな渋みと酸味が舌の上で広がって、でもそれが喉を通ると不思議と甘くフルーティ。
 ワインの味なんてほんとうはよく判らないけど、これは飲みやすくて美味しいと思った。
 どう、と目で問う琴子に、美味しいと伝えると、アーモンド形の目を細めて嬉しそうによかった、と笑った。

 カナッペをほおばりながら、スープを吹き冷ましながら、スパゲッティをフォークにくるくる巻きながら、僕らは取りとめもなく話し始める。

 僕の話題は、隣の席の川上さん。
 5つ年上の川上さんは32歳独身、大人しくて控えめで、でも仕事は速くて正確だし、たまの主張は的確で重みがある。
 どんなに忙しくても、理不尽な欲求にも腹を立てたりせずに淡々と仕事をこなす。
 まさしく絵に描いたような「エンジニア」である。

「川上さんは絶対にプライベートを語らないんだ。
 昼にさ、食事しながらぐだぐだ話したりするじゃん。プラズマテレビを買ったとか、
 奥さんと喧嘩したとか、子供の誕生日でとか、そういうどうでもいい世間話。
 川上さんはね、人の話を聞いて笑ったりはするけれど、自分の話をしないひとなんだ。
 前は寮に入っていたから、一人暮らしだとは思うけど、夕飯はどうしているのかとか、
 休日は何をしているのかとか、家族や彼女はいるのかとか、誰も知らないんだ」
「えー、そんなのどうなんですか、って聞けばいいじゃない?」
「前に聞いたんだよ。そしたら『いや、別に』としか言わないんだ。会話がそこで終わっちゃってさ、妙な空気で気まずかったね。
 川上さんは言いたくないのかも知れないしさ、聞けないよね」
 そうだねえ、と琴子が神妙に頷く。
「聞けないとなると知りたくなる。
 たまに川上さんがいない昼休みは、みんなであれやこれや憶測をして楽しんでるんだ。
 上司がさりげなく尋ねたり、新人にほら聞け、と突撃させたりするんだけど、
 やっぱり応えは『いや、別に』なんだよ。
 上司まで交わせるあの手腕はすごいよ。ほんと徹底した秘密主義。
 あんなひと初めて出会ったし珍しいよね」
「そうだよねぇ。聞かれたら答えるよね、普通」
「でさ、その川上さんに彼女が出来たんだ」
「えっ、なんで要がそれ知ってるの?」
「それはね、その彼女っていうのが取引先の女性社員だから。若いよー20歳」
「12も年下? 川上さんやるね」
「やるでしょ。でね、僕もその子とちょっとやりとりがあるからさ、聞いてみたんだ。
 休みの日、川上さんは何してるの? って」
「うんうん」


525:コトコのキス_3
07/12/23 01:53:18 BVeesct8
 琴子の瞳が期待に丸くなる。
 僕の舌はますます軽快に滑り出す。
「そしたらその子『何もしてませんよ? たまにパチンコに行くだけみたいです』だって。
 実は川上さんにヒミツはありませんでした」
「なにそれ。酷いオチ」
「まだ続きがあるんだ。その子がね『あのう、私たちのことって、そちらの皆さんもうご存知なんですよね?』って聞くんだよ。
 僕が『そうですね、公然のヒミツってヤツですね』って答えたら、お願いがあるんですけどって言われて驚いた」
「お願い? 要に?」
「そう。何ですかって聞いてあげたら、『川上さんに、皆さんが知ってるって言わないでください。
 あのひと、誰にもばれてないって信じてるみたいだから……』だって。これ食べる?」
 クラッカーにチーズとサーモンマリネを載せて、琴子に差し出す。
「食べる」
 あろうことか琴子は、それを直接僕の手からかじり付いて奪っていった。
 なんて、猫みたいなやつ。
 小動物のようにくちをもぐもぐとさせながら、目線だけでそれで、と問う。
「ああ、えーと。そもそもさ、会社同士の親睦会で、隣同士楽しそうに話してたし、番号交換したのも全員知っているし、
 川上さん最近見たこともないぐらい浮かれているし、
 仕事で電話してるときはさすがに普段どおりだけど、話し始めは緊張してるしさ。バレバレなんだよね。
 だけどヒミツが露呈していたと知ったときの川上さんのダメージは想像つくじゃん?」
「ああー、うんうん」
「だからね彼女に判った、みんなに言っときますって伝えたんだ。
 彼女が『折を見て、私から話します。ご面倒おかけしますけど、宜しくお願いします』って言うからさ
 『じゃあそのときの川上さんの様子を教えてくださいね』ってお願いしといたんだ」

 ワインボトルを掴んで軽く振る。
 空になりかけたグラスの足を、琴子が細い指で握ってこちらに差し出した。
 とく、といい音が響いて、ぶどう柄のグラスに透明に近い黄金色のワインが満たされる。
 口元を軽く拭った琴子が、それを軽く含んでごくりと飲み込む。
 喉が上下をするさまに一瞬見ほれて、僕はまた口を開く。

「この前たまたま電話したら、『言いましたよ』って彼女が教えてくれた。
 川上さんは見ててかわいそうになるぐらい動揺してて、
 一日中『そうかあ、みんな知ってるのかあ』って繰り返してました、だって」
「……ちょっと可哀想だね」
「可哀想なんだけどね、職人で背中がぴんと伸びてる感じの川上さんが、肩を落として、そうかあ、そうかあって繰り返してる姿を想像したら、ちょっと笑えた」
「それは……可愛いかも。要、このペスカトーレ美味しい」
「そう? よかった。昨日川上さんと残業しててさ、『吉見くん……あのさ、いいや、何でもないです』って3回ぐらい繰り返すんだよ。
 たぶんハッキリ聞きたいんだろうけど、僕もなんて言ったらいいのか判らないからそのままになっちゃってるんだ」
「うわー、川上さんちょっとした拷問だね。でもソレなんて声かけていいか、ほんと判んない」
「うんうん、そうなんだよ。川上さんはさ、自分から話題を振ることがないから余計どうしていいか判んないんだろうね。
 こないだ珍しく声をかけてきたと思ったら大真面目な顔で
 『吉見くん、萌えってなんですか』って聞かれてさ、ちょっと返事に困ったよ。
 『好きの一種じゃないでしょうか』って返事しといたけど萌えってどう説明するの?」
「要がいま川上さんに抱いている感情は萌えに近いんじゃない?」
「そうかな? 川上さん萌え? ちょっとキモくない?」
「うん、ちょっとキモいね、だめだめ。でも私も川上さん萌えかも」
 二人で萌え、と言いながら盛大に笑った。


526:コトコのキス_4
07/12/23 01:54:01 BVeesct8
 そんな萌えさせてくれる川上さんは、とんでもなく仕事が出来る。
 彼の引いた図面は無駄がなくて美しい。
 一枚の芸術作品を見せられている気になる。
 僕が行き詰って、ちょっと川上さんに見てもらうと、川上さんはするすると正解を導き出して僕を正しい方向へと進ませてくれる。
 あまり下を育てたりするタイプじゃないけれど、川上さんは間違いなく素晴らしい職人だ。
 あと5年したら川上さんみたいになれるのか? と我が身に置き換えて問いかけてみても、そんな自信はまったくない。

 そんな川上さんが、最近丸くなった気がする。たぶん、恋人の影響なのか。
 川上さんの彼女は、人あたりも愛想もノリもよくて、声も笑顔も可愛い。癒されるタイプだ。
 正直、なぜあの子が川上さんと? と思わなくもない。
 あの川上さんが、女の子に愛を囁いている姿が想像できなくてまた笑えて来た。

「そういえば、琴子の秘密主義の友達は、何か教えてくれた?」
 指についたレーズンバターをぺろりと舐めながら、琴子がんー、と声をあげる。
 もう一口ワインを含んで、ううん、と首を振った。
「茜は秘密主義じゃないよ。聞けば教えてくれるもん。
 モトカレのことも初恋のひとも、今読んでる本も寝る時間も知ってるよ。
 ただ今の彼のことだけ教えてくれないだけ」
「今の彼だけ?」
「そう。その話題になるとすぐ話を逸らすの。
 たとえば窓を指差して、あ、って言うからさ、そっち見るじゃん? で、何もないからどうしたのって聞くと
 『UFOかと思ったけど見間違いだった。UFOといえば未確認飛行物体の略で夜間発光体の目撃が多くされているが、
 私の大学時代のゼミ仲間がホタルイカ等自発光体の研究をしていてな、光る金魚の育成に情熱を注いでいたが、在学中はお目にかかれなかった。
 あの研究は続いているのだろうか。ぜひ光る金魚を見てみたいと思わないか?』って一気にしゃべるの。
 何を聞かれたのかぜんぜん判らなくなっちゃってさ、あれ? って思ってるうちに『じゃ、忙しいから』って逃げちゃうの」

 なかなか鮮やかな手際である。
 川上さんの鉄壁の交わし文句といい勝負だ。
「冷静になって思い出してみると、全然たいしたこと言われてないんだよね。でもなんていうか、あの子は口調が無駄に重々しいの。
 無表情で淡々としてるから、すごい迫力あるの。ずるいよね、あれ」
「や、僕会ったことないし」
「そうだっけ? 今日なんて酷いんだよ。クリスマスは予定があるの? って聞いたら、なくはない、って言うからさ、
 誰とどう過ごすのか聞いてみたいじゃない?」
「うんうん」
「いい加減教えなさいよーって詰め寄ったら、突然、『あ、お疲れ様です』ってお辞儀したの。
 あれ後ろから誰か来たのかなって振り向いたら誰もいなくてね、向き直ったらまた誰もいなかったの。
 あの子走って逃げたんだよ。私思わず走って追いかけちゃったよ」


527:コトコのキス_5
07/12/23 01:55:06 BVeesct8
 走って逃げる高校教師と、それを走って追いかける同教師を想像したら、またものすごく可笑しくなってけたけたと笑った。
 箸が転がってもおかしい年頃が、アルコールのおかげでまた巡ってきているのかもしれない。
「すぐ追いついたんだけど、とっさに出てきた言葉がね『廊下は走らない!』だったの。テンパってて結構大きい声で叫んじゃった。
 茜もびっくりして『はい、申し訳ありません』なんて言うからさ、二人で笑っちゃって。
 あーまた今日も誤魔化されたなーって思ってたら、急に真剣な顔で、琴子、って呼ばれてね」
「うん」
「『落ち着いたら絶対に話すから、それまで待っててほしい』って言うの」
「落ち着いたら?」
「うん、今はどうしても話せないんだって。納得いかないから『まさか不倫じゃないでしょうね』って聞いた」
「…………琴子ってストレートだよね」
 その思い切りのよさを少しぐらい僕に分けてほしい、と思いながらボトルを傾けて、残り少なくなったワインをすべて琴子のグラスに注いでしまう。
「そのくらい普通だよ。あ、ありがと」
「で、どうだったの?」
「不倫じゃないって。そんなこと絶対にしないって言い切ってくれたから、すごく安心した。あと、心配かけてごめんって言われた。
 だからもう聞くのは止めにして、待つことにした」
「え?」
「待つの。茜は大丈夫。ばかじゃない。間違えたりしない」

 琴子はじっと僕を見据えて―まるで僕がその茜さんであるかのように見つめて、そうだよね、と問うようにくちびるを薄く開く。

「―――うん」

 沈黙に耐えかねて、僕は頷いた。
 琴子が、肯定を欲しがっていたから。
 根拠も確信もなにもない、ただの慰めで、ほんとうの優しさなんかじゃないのかもしれないけど。
 案の定琴子は、ふ、と息を抜くと嬉しそうに微笑んで目線をワイングラスに落とした。

「あーでも。クリスマスなんてなくなればいいのに。去年は海外に逃亡できたけど、今年は他人の幸せを直視しないといけないんだ。憂鬱」
「それまでに彼氏を見つけるって選択肢はないの?」
 言ってからしまった、と思った。
 うんそうする、なんて琴子が頷いたら、僕はどうしたらいいんだろう。
「んー、そっちも焦んないことにした。焦るとロクなことがない。そう思わない?」
「……そうだね」
「要は? どうするの? なんか予定ある?」
「ないよ、うち仏教だし」
「仏教は関係ないの。ん、えーと……赤とスパークリングどっちがいい?」
「両方。じゃあローストチキン作ってみようかな」
「え? 買うんじゃなくて?」
「ネットで見てさ、うちのオーブンで出来そうだから一回やってみたくって。
 問題は丸ごとの鳥をどこで買ってくるか」
「え? ほんとに作るの? ほんとに? すごい!」
「作るよ。琴子がちゃんと手伝った上にたくさん食べてくれるならね」
 食べる食べる、とは嬉しそうに何度も頷いたけれど、ついに一度も手伝うとは言わなかった琴子と、今年は一緒にクリスマスを過ごせる。
 幸せな約束に、僕のアルコールで鈍った頭の中はまるっきりピンク色だった。




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