【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】 - 暇つぶし2ch363:名無しさん@ピンキー
07/11/12 22:40:34 ymOTEvYa
昨日の障害長引くかと思ったら直ぐに終わった上に投下まで来たのか

>>360
おれもーは―にした方が良いと思う。おれが指摘できることはそれぐらい
続き楽しみにしてる

364:名無しさん@ピンキー
07/11/13 00:39:20 LX6N19y6
GJ! ところで妹は義理の妹かな? そうだよね? そうだと言って! そして3Pモノにして下さい!!

365:名無しさん@ピンキー
07/11/14 02:08:36 4h4muqZn
>>292-295を連載してみたりすることにしました
決して他のネタが思いつかなかったとかとかじゃないのであしからず!

……いや、あのスイマセン



366:Memories ~Second~
07/11/14 02:14:16 4h4muqZn

ガラガラッ

 自分の部屋の窓を開け、身を乗り出して屋根の上に降り立つ。いつもは裸足なんだけど、
毎回あいつにうだうだ言われるのも鬱陶しいからな。今はっつーか、今回からはサンダル
履いて行くことにした。これで文句言われても言い返せるな、ふひひひ。

「よっす!」
 窓を叩かずに、脅かし目的でいきなり声かけてみる。……なんだ、いねぇじゃねえか
つまんねー。あ、でも鍵開いてんな。入って待つか。
『勝手に部屋に入ってくんな』
 呆れた面してため息をつく兼久の声が聞こえたような気がした。の割りには、あいつこの
窓の鍵あんま閉めないんだよな。まぁ、あたしとしちゃありがたいことだけど。

 大友兼久。

 この何の特色も色気もねぇ殺風景な部屋の持ち主で、物心ついた頃からの腐れ縁。
 なんか戦国武将みてぇな名前なんだけど、顔も図体も名前負けしてないのが怖いところだ。
身長は180越えてるし体重も90近いとか言ってたな。おまけに、まだ高校生なのに不精髭
まで蓄えてやがる。おかげで初対面の奴は大抵ビビる。あたしから見ればでかいし重たいし
熊みたいに見えんだよな。それはそれで怖いか。 

 ついでに、あたしの名前は小宮山柚稀。ま、よろしく。

 しっかし、何してあいつ待とうかなぁ。漫画は全部読んだし、他の本は文字だけだし。
 哲学書とか普通に本棚に置いてあるし、埃も被ってねーんだから恐ろしい奴だ。見た目からは
まず考えらんねぇ。
 大の字で寝転んでるとするか。こいつのベッドあたしのより寝心地良いからなぁ、はふぅ。

ガチャ

「……ん? 柚稀か?」
「あー、邪魔してるよ」
 戻ってきたか幼なじみ。入り口は足元の方にあるから、起きるのも面倒なんで手の代わりに
脚を振って返事をする。あたしは余計だったり面倒なことするのが嫌いだ。
「……ないわー」
「だって面倒臭いしさー」
「お前遊びに来たんじゃないのかー」
「そうだったんだけどさー」
「帰れー」
「いやだー」
 脚で返事されたのがよっぽど不満だったらしい。図体でかいのにあちこち指摘すんだもんな。
もっとこう何ていうの? あははうふふ別にいいよそのくらいー俺とお前の仲じゃないかー的な
感じで……それも気持ち悪いな。
「で、どこ行ってたんだ?」
「買い物」
 そう言うと兼久は、手にしていた買い物袋を見せつけてくる。近所のコンビニに立ち寄って
菓子とか買ってきたみたいだ。起き上がってがさごそと中身を漁りながら覗き込んでみる。
「お、バニラだ」
「取んなよ」
「さすが兼久、この前の小テストであたしを見捨てたことは許してやろう」
「取んなっつーの、お前に買ってきたんじゃねー」
 あたしはバニラが好きだ。好きな食べ物は? と聞かれて「バニラのアイスかな」って
答えるくらい好きなんだ。理由を聞かれても好きだからとしか答えようが無い。こりゃもう
本能的なモンだなきっと。


367:Memories ~Second~
07/11/14 02:16:46 4h4muqZn

「まーまー気にすんなよ。折角でかい図体してんだから」
「アイス食うのに体型は関係ありまっすぇーん」
 んなこと言ってさー、お前が一番好きなアイスは抹茶だろ。口には出して言わんけどさ。
自惚れるよー? 自惚れとくよー?
「うまうま」
 木のヘラを勝手に袋から取り出して、勝手にパクつき始める。あぁ、なんでバニラって
いちいちこう最高なんだろう。もうこの味わいこの風味は、あたしに満足してもらうために
この世に生まれてきたとしか思えない。
「そうやって話聞かないから、補修受けまくることになんだぞ」
どうやらアイスの件はもう諦めたらしい、よかったよかった。これでもうこのアイスは
あたしのもんだな。
「まーそう言うなって。あたしだって色々お前を助けてやったりしてるだろ」
「ほほう、例えば?」
「え゛」
 う、やばい。つい売り言葉に買い言葉で言い返しちまった。
「例えばお前が俺に何してくれたっけぇ柚稀ぃ~」
 あああもう、また話の主導権持ってかれちまった。まあいつものことなんだけど。でも
こうなるとあたしに勝ち目なくなるからな、シカトしよシカト。

「……(パクパク)」
「もっしもーし」
「……(もぐもぐ)」
「あれれー? また無視ですかー?」
「あー……やっぱバニラは最高だな」
「……(ぴきっ)」
「……(ぴくっ)」
「はい! お答えなしということで柚稀さんが食べてるアイス、ボッシュート!」
「やーだー!」
 あああ取られた! 取られた! まだ半分しか食べてないのに! 太い声で「チャラッチャラッチャーン」
とか口で効果音出してんじゃねー!
「かーえーせー!」
「はっはっは、元々俺のものだ」
 このジャイアンめ、人のもの勝手に奪い取るなんて最低の人間がやることだぞ! あたしの
場合特別だからいいんだけど!
「ほーら高い高ーい」
「ふざけんな溶けるだろ!」
 兼久は奪ったアイスを持ったまま、天井に向かって腕を延ばす。当然、そんな高さに届く
はずもない。
「じゃ、いただきまーす」
「あああ、やめろっ、やめろよー!」

ぱくんっ

「あーーーーっ!!」

 半分くらい残っていた溶けかけのアイスを、兼久はヘラを使わず直接口に放り込む。
しばらく口をもごもご動かしていたが、やがてごくんと大きく喉が鳴る。
 その光景を目の当たりにして、気付くとあたしはがっくりと膝をついてしまっていた。
「ひでぇ…こんなの最悪だろ!」
「少しは自分が悪いとは思わんのか」
「すっごく楽しみにしてたのに!」
「お前は何を言っているんだ?」
「兼久のこと信じてたのに!」
「信用裏切るようなことばっかやってんのはお前の方、な!」
 食べ物の恨みは怖いんだからな、いつかきっと仕返ししてやる。


368:Memories ~Second~
07/11/14 02:19:22 4h4muqZn

コンコン

「あのさ、うるさいんだけど。せめてドア閉めてくれない」
「あ、あぁ、悪い」
 ドアが開きっぱなしだったから、あたし達の口喧嘩がかなりうるさかったみたいだ。
 そのドアを叩きながら、腹に据えかねた様子で一人の女の子が姿を現す。兼久が謝っても
眉間の皺はとれそうにない。
「あー…ごめんね憐奈ちゃん」
「別にいいですけど…」
 この娘は兼久の妹で、憐奈(れんな)ちゃんて言う。あたし達より二つ年下の中学三年生で、
当然のことながらこの冬受験を控えている。
「あんまりうるさくしないでくださいね」
「うぅ…ごめんなさい」
 そのせいか最近、妙にピリピリしてて態度がちょっと冷たい。昔はあたしに懐いてくれてて、
髪型とか真似してくれたりしてたのになぁ。今もお互いショートっていう共通点はあるけど、
彼女の髪は首元あたりまでは伸びていてあたしの髪みたいにボサついたりしてない。

「そうだ、あのさ」
「はい?」
 そういや彼女を見てて思い出した。気になってたことがあるんだった。本人にいくら
聞いても答えてくれないけど、彼女なら答えてくれるかもしれない。
「最近恭一がさ」
「…っ! 失礼します!」

バタンッ!

……

「……あれ?」
「お前マジ空気読め」
「ん? えぇ?」
 空気読めって言われても、何のことだかさっぱり分からんし。弟の恭一の様子が何か
変だから、その理由知ってるかどうか聞こうと思っただけなのに。クラスは違ってたはず
だけど、あの二人もあたし達みたいにちっちゃい頃から一緒に遊んでるし。
「……」
「なんでだー?」
「…恭一の奴、凄く頭良いだろ?」
「まぁ、そうだな」
 ため息を一つついてから、兼久が口を開く。
 うちの弟は、突然変異と言ってもおかしくないくらいに昔から出来が良かった。ぶっちゃけ
数学ならもう抜かれてるかもしんないし、背丈も兼久ほどじゃないが既に抜かれてる。
 まあそれを鼻にかけたりせずに、あたしのことちゃんと姉と思ってくれてるみたいだから、
可愛い奴なんだけどな。
「で、あいつは極端な負けず嫌いだからな」
「……そういや、そうだったか」
 確かに憐奈ちゃん、勝負ごとになると急に性格変わってたなぁ。特に恭一との勝負は、
毎回勝ててなかったような。要するにそれがきっかけですっかり仲は冷え切ってるってことか。
今の様子を見れば、彼女にとっちゃ天敵みたいなもんのかもしんない。
「年齢的な事情もあるみたいだけどな。最近めっきり口数が少なくなったよ」
「思春期かぁ……あたし達には無かったな」
「姉貴達にもな」
「あの二人は色々終わってるし」
「お前に言われるってことはいよいよ終わってんな」
 ちなみにあたし達には、もう一人兄弟がいる。兼久には姉貴、あたしには兄貴。要するに、
お互い異性の兄弟に挟まれている。これまた同い年の腐れ縁のようで、唯一の違いは兄貴は
社会人で兼久の姉ちゃんは大学生ってことくらいかな。年は三つ上だから今年で二十歳か、
いいなぁ気兼ねなく酒飲めて。あたしも早く二十歳になりたい。


369:Memories ~Second~
07/11/14 02:21:25 4h4muqZn

「なんで付き合い古い奴と付き合い辛くなんのかな、今まで通りでいいじゃんな」
「俺にもよく分からんけど、照れくさいんじゃないか。多分」
「ふーん…、まあ後でもっかい謝っといて」
「構わんけど、相手が俺でも姉貴でも態度はあんな感じだぞ」
「ま、いーからいーから」
 思春期っつっても一時的なもんだろうし、高校に入る頃には様子も元に戻ってんじゃないかな。
そうなったら、以前と同じとまではいかなくてもまた一緒に遊んだりできるかな。
「年下の奴には気遣いできるんだなぁお前」
「まーな。お前もあたしに精一杯尽くして恵んで優しくしてくれたら、三つ指立てて頭を
下げてやらんこともないぜ」
「つけあがるだけだろ、何言ってやがる」
「か! 戦国武将みたいな名前と面してんだから、ちゃんと相手に礼儀は尽くせよ」
「戦国時代の女性って、大抵は政治的取引の道具にされてたらしいぞ」
「今はそんな物騒な時代じゃないだろ」
「先に言ってきたのはそっちだよな」
 お互いにお互いを口汚く罵りながらも、こういうやりとりはあんまり嫌いじゃない。
まぁ、アイス食ったことは一生言い続けてやっけど。食い物の恨みは怖いんだからな。

「で、今日は?」
「いつも通り、どうよ?」
「稽古」
 一応、今のやり取りを意訳すると以下の通りになる。
『で、今日は何しに来たんだ?』
『暇つぶしだよ、これからどっかに遊びに行こうぜ』
『無理、柔道の稽古がある』
 繰り返され続けた会話ってのは、こうやって色々省かれてくもんであって。以前学校で
似たようなやりとりしたら、端から見てた奴に「何喋ってんのか全然分かんなかった」とか
言われたりもしたもんだ。あたしは別に悪くない気分だったけど、兼久はなんか苦虫を
噛み潰したような顔になってたっけ。
「またかよー、最近断ってばっかりじゃねーか」
「用事ある時に来るお前が悪い。毎週ほぼ同じスケジュールなんだし、少しは把握したら
どうよ」
「めんどいー」
「だろうなー」
 たまにはね、答えの分かりきった何の実りもない話とかも必要だと思うんだよね。何も
することない時間があったりするんだったら、尚更。一人は嫌だし。

「じゃあ、そろそろ準備するから」
「あーい、帰ってきたらバニラ宜しくー」
「ははは却下ー」
「えーなんで、半分食べたくせに」
「だからあれは元々俺のだと何度言えば」
「ラクトアイスでいいからさー、百円のカップのやつー」
「さっき食ってたのも百円のラクトアイスだけどなー」
「じゃあハーゲンダッツでいいから」
「なんで倍以上の値段するやつにランクアップしてんだ」
「クラスチェンジです」
「意味が分かりません」


370:Memories ~Second~
07/11/14 02:23:48 4h4muqZn


 くそう、こうなったら本当に仕返ししてやる。半端に食べちったもんだから余計に食べ
たいのにー。月三千円の小遣いじゃ全然足らん、アイスだけに割くわけにもいかねーし。
「お前もバイトしろよ。どうせ暇なんだろ?」
「高校生でやれるバイトなんかロクなのがねーよ。いいよなお前は見た目で騙せて」
「異議あり! 履歴書は内容に偽りなく提出しています!」
 机をバン、と叩きながらあたしの顔を指差し反論してくる。どこの世界の弁護士だお前は。
「その履歴書を拝見しておらぬことには何とも申し上げられませぬ、三十路に見間違えられた
こともある大友兼久殿」
「だまらっしゃい」
 反論を一喝するように怒鳴り返してくる。いつの世界の軍師だお前は。
「帰れ帰れ、俺はお前と違って色々やることあるんだ」
「学校以外に道場とバイトか。そんなに暇するのが嫌なのかよ」
 口元をつい釣り上げてしまいながら、いつものように声を殺して喉で笑う。こんなに
でかいのに忙しない奴だ。

「嫌っつーか、退屈だよな」

「んー?」
 退屈とか。急に何言ってんだこいつ。
「親父によく言われんだよ。『社会人になると働くことで頭が一杯になるから、学生の間は
色々なこと体験して密度の濃い生活をしろ』ってな」
「…だから色々やったりしてんのか」
「実益も兼ねてるけどな。道場の方も楽しいし」
 以前は、あたしも同じ町道場に通ってた。というか、中学に入って一緒に始めたんだ。
だけどこいつみたいに体格的にも恵まれてなかったし、大して強くもなれなかったから、
中学卒業するぐらいの頃には辞めてしまった。兼久は楽しいとか言ってるけど、あたしの
場合そうは思えなかったな。
「……そんなもんなのか」
「そんなもんなんだよ」
 ま、こいつ自身が満足そうならそれでいいよな。

「じゃあ、そろそろ帰るわ」
「おー、アイス食いすぎて腹壊すなよ」
「好物食べて壊れるほどあたしの腹は柔じゃねえ」
「なら、見舞いの暁にはその時こそハーゲンダッツを買っていってやろう」
「へぇ」
 よし、明日にでも仮病を使おう。
「仮病使ったら今後一切お前には恵まん」
 ちっ、見抜かれてた。

「しゃーねーな。それじゃ、また明日」
「おうおう」



371:Memories ~Second~
07/11/14 02:25:03 4h4muqZn

ガラガラッ

 扉から…ではなくやっぱり窓からお暇する。あ、そういや折角スリッパ履いてきたのに
アピールできなかった。これじゃ意味がねー。
 屋根伝いに歩いて自分の部屋に舞い戻る。兼久の部屋を殺風景だの何だの言いまくったけど、
ぶっちゃけこの部屋も大差ない。性別の差を考えりゃ、あたしの方がやばいかもな。
 机に備え付けられた椅子に座って、背もたれに思いっきりもたれ掛かる。窓の向かい側に
見える、さっきまで邪魔してた部屋の電気が消える。カーテンも閉められる。兼久は稽古に
行ったようだ。

 ……

 退屈、か。

 今のあたしはどうなんだろうか。暇してるんだろとか言われるけど実際退屈なのか? 

 実際よく分かんねぇな。これといった不満があるわけじゃねぇし、端からそう見えてても、
肝心なのは自分だし。

「あー……っ」
 ……ったく。小難しいこと考えようとするといっつもこうだ。バニラ成分が足りねえ、
ってわけでもないけど、口の中が妙に寂しくなる。っつーかなんだ、えっと、あーもう、
わけ分からん。

 吸うか。こういうごちゃごちゃした気分になる時はこれが一番だ。

 机の中に隠してあるちっさい入れ物の中から煙草をライターと一緒に取り出す。銘柄は
もちろんキャスター。マイルドだけど。窓を少しだけ開けて、部屋に転がってた空き缶を
灰皿代わりにする。それを窓辺に置いて、一本咥えて火をつける。

「……ふぁー」
 吸い始めたのは一年くらい前からだけど、最近量が増え始めた。理由はまあ、色々ある。
家族は知ってる。嫌な顔はされたけど、止めろとは言われなかった。亭主関白で男兄弟な
家庭に女の子一人じゃ、ある程度仕方ないとか思ってるのかもしれない。
兼久には言ってない。
 言えばどんな反応されるかは分かってるし。あいつとの付き合いも居心地悪いもんじゃ
ねーしな、つまんねぇことでこじれさせたくない。

 あーあ、何も考えないで毎日それなりに楽しく生きてくことができりゃあなぁ。そしたら
楽に生きていけるのに。

 余計なこととか面倒なこととか、あたしは嫌いだ。

 おもむろにくゆらせた煙が、空気に紛れて消えていく――


372:名無しさん@ピンキー
07/11/14 02:26:40 4h4muqZn
なんだか冒険しすぎな臭いがプンプンするぜ!
気長にお待ちいただければ幸いです、スレ汚しして申し訳ありません

373:名無しさん@ピンキー
07/11/14 19:10:47 rFHtcArR
おぉ良作三部作になりそな期待
( ゚∀゚)∩彡つバニラワッフル バニラワッフル

374:名無しさん@ピンキー
07/11/16 02:03:36 iuWT3lYJ
タバコ吸ってチンポも吸うわけだな。
淫売め!!

375:名無しさん@ピンキー
07/11/16 02:13:16 OjnXvrKJ
んなこといってると続きがこなくなるぞ

376:名無しさん@ピンキー
07/11/16 17:20:57 +HGISFtm
これは俺のツボの予感
ワッフルワッフル

377:名無しさん@ピンキー
07/11/17 16:31:30 yPYBpdaj
hosyu
職人さんこないな・・・


378:名無しさん@ピンキー
07/11/17 21:53:40 O8RRwkzr
まあ、このスレの投下スピードは決して速い方じゃないしな
これまで投下してくれた作者さんたちの続きを落ち着いて待つさ

379:名無しさん@ピンキー
07/11/19 01:02:35 Ao51ayJJ
集英社スーパーダッシュ文庫の紅という作品の幼馴染が結構良い感じ。

普段は主人公に対して冷たい態度を取るのだが、時折隠し切れない愛情が不器用な形で現れるのが良い。

更には幼い頃に一緒にお風呂に入った時に、胸を触りたがった主人公に触らせてやった事を持ち出して黙らせる所
とか中々良かった。

380:名無しさん@ピンキー
07/11/19 03:25:13 byUjv9RX


381:名無しさん@ピンキー
07/11/21 17:46:15 f8YQ7AfM
ちんぽ保守。

382:名無しさん@ピンキー
07/11/21 18:20:52 Rvdj0UbY
最近スクランが怒涛の幼なじみ展開だな…

383:恥じらい肛門丸
07/11/21 20:55:53 7PWY5iO1
残照の中を安井松雄は魚篭を片手に歩いていた。中には漁師をしている父親が
獲ってきた新鮮な魚が入っており、これを島で唯一の医者である飯島医院まで
届ける所だった。本土の港から西へ四キロの位置にあるこのぽこぺん島には、
平成近くになるまで医者が常駐しておらず、病人が出ると急ぎ船やヘリコプターで
本土の病院まで運んだという。

平成生まれの松雄はその事を父母や島の大人たちから教わり、またこんな辺鄙
な場所で開業してくれた医院の飯島正俊先生は、とても偉い人だといい聞かされ
てきた。実際、松雄自身も飯島医院で受診した事があり、立派な髭を生やした先生
は優しい大人物のように思っているし、看護士を兼ねている奥さんも品の良いお人
で、島の誰とも別段、隔意という訳でもなかった。

しかし、松雄はその娘である飯島尚美だけはどうも苦手でならない。その為、この
お使いが嫌で嫌で仕方が無かった。共に高校一年生、島には中学までしか学校が
無いので、毎日、知り合いの漁船に乗せてもらい、本土の高校まで通っているのだ
が、これがもう、負けん気が強くてきかない。医者の娘で育ちの良いはずの尚美は
生来の癇癪持ちで、粗野極まりなかった。対して荒くれ者の代名詞のような漁師の
倅で、貧しい家に育ったにも関わらず松雄は控え目な性格で、とにかく争いを避け
たがる。

学校へ行ってもそれは変わらず、たとえば尚美が誰かにからかわれたとする。
年頃ゆえ、悪戯好きな男子に尻のひとつも撫でられる事もあろう。そんな時、容赦
の無い鉄拳がその男子には飛ぶ。女だてらに拳を握り締め、相手の鼻っ面をぶん
殴るのである。時には馬乗りとなり、滅多矢鱈に殴るので、松雄が慌てて取り押さえ
る程だった。その際、暴れ馬を乗りこなすように松雄は尚美を羽交い絞めにし、殴ら
れている奴に逃げろと叫び、力尽きるまで尚美を押さえつけた。そうしないと大怪我
をする。相手も、また尚美も傷つくのである。松雄はそれが嫌だった。

384:恥じらい肛門丸
07/11/21 21:10:30 7PWY5iO1
医院には灯かりがついていて、呼び鈴を鳴らすと奥さんが出てきた。
「あら、松雄君じゃないの。こんばんは」
「こんばんは。あの、親父がこれを持って行けって」
「綺麗なお魚。いつもありがとう」
魚篭を受け取ると奥さんは笑ってこう言った。

「尚美、いるけど」
「と、とんでもない!」
松雄は首を振り、手で奥さんの言葉を遮った。
「お茶でも飲んでいったら?」
「結構です、じゃあ・・・」
松雄は慌てて踵を返し、医院を後にした。冗談でも心臓に良くない。松雄はそろそろ
薄暗くなった道を急いで帰っていく。

そして、島の集落の端にある我が家へ続く道に出た時の事。
「おーい」
澄んだ声が松雄の耳に届いた。草道を凄まじい勢いで誰かが駆けて来る。
「尚美・・・」
辺りは暗いが声を聞いただけで誰かは分かる。松雄は立ち止まり、追いかけてくる尚
美を待った。尚美はTシャツに短パン姿。肌はよく焼けているが、顔かたちは美人の部
類に入る。全速力で駆けて来たのだろう、肩で息をして額には汗をかいていた。

「うちに来たんなら、顔を出しなよ」
「夕飯時だと思って」
「母さんに聞いて、慌てて追っかけてきた」
尚美が近づくと、汗と体臭の入り混じった物が松雄の鼻をつく。良い香りだと松雄は
思った。母にも島の女にも無い、熟していく過程にある女の証だった。
「あ、雨だ。降るなんていってなかったのに」
尚美がふと空を見上げ、手をかざした。島の天気は変わりやすく、あまり予報などは
あてにならない。二人は適当な木のウロを探して、そこに落ち着いた。

385:恥じらい肛門丸
07/11/21 21:25:21 7PWY5iO1
「もっと、くっつきなよ」
「いや、大丈夫」
肩が濡れている松雄を見て、尚美は心配そうな顔をする。
「濡れてるよ、肩。風邪ひいちゃう」
「鍛えてあるから大丈夫。俺、漁師の倅だ」
それは、自分へ言い聞かせる言葉だった。

松雄は漁師の倅である事を、別段、卑下している訳ではない。ただ、島でも偉い医
者の娘である尚美に対し、僅かばかりでもやましい心を抱かぬように、自制してい
るだけの話だ。
「そういえば、お魚ありがとう。私、魚好きなんだ」
「そうか。いや、まあ、親父が獲って来たんだけど」
「松雄が持ってきてくれるお魚、いつも美味しいよ」
「新鮮だからな」
「新鮮だからね」
それっきり、二人の言葉は強くなった雨足に消されてしまった。通り雨かと思いきや、
本降りである。

「迂闊だったな。こんなに降るとは」
「そうだね」
そう言った尚美が、小刻みに震えているのを松雄は気が付いた。良く見ると尚美は
随分、薄着である。上着も羽織らずに慌てて家を出て、更には松雄を走って追っか
けてきたので、汗が冷えているのだろう。松雄は自分の上着を脱ぎ、尚美に着せて
やった。

「悪いよ」
「俺は暑がりだから」
「じゃあ、くっつこう。これで二人とも温かいよ」
安手の上着を二人で肩にかけ、体を密着させる。これで温め合おうと言うのだ。
「あ、尚美、お前」
「いいから、いいから」
Tシャツの袖から伸びた尚美の腕に触れると、松雄は急に恥ずかしくなった。すべす
べしていて餅のように柔らかい。尚美の肌はそんな感じである。

386:恥じらい肛門丸
07/11/21 21:39:59 7PWY5iO1
ただ、雨の方はなかなか小振りになってくれず、ウロにいるのもそろそろ限界に
近い。ここから松雄の家までは走って十分ほど、飯島医院へも同じくらいの時
間がかかる。その間、雨に打たれてはいかにも体に悪いので、松雄は思案に
暮れた末、
「尚美、あの小屋まで走るか」
と言って、木々の隙間の向こうに見える、島の皆が集会所代わりに使っている
小屋を指差したのである。

距離にして二百メートルくらいだろうか、曲がりくねった小道を走ればほんの五
分もかかるまい。小屋には囲炉裏があって、火を起こす道具が揃っているのも
松雄は知っていた。
「私、走るのは得意だよ」
「知ってる。じゃあ、行くぞ。上着はお前が被れ」
薄着の尚美をこれ以上、濡らしたくは無かった。松雄は上着を尚美の頭から
被せ、彼女の闘争心をあおるように走り出す。

「先についたもんの勝ちだ」
「負けるか」
ざんざと降る雨の中を二人は笑いながら走った。尚美が泥濘に足を取られそう
になると、松雄も走るのをやめて待つ。口ではああ言ったが競争ではない。二人
一緒でないと意味は無いのだ。
「松雄」
「早く行こう」
松雄は自然に手を出し、尚美の手を取った。手はとても柔らかく、指も細い。いつ
か尻を触った男子を殴ったような手にはとても思えなかった。

小屋にはあっという間についた。ここに鍵は無く、出入りは自由である。二人は早
速、囲炉裏に火を灯し、濡れた体を温める事にした。
「生き返ったな」
「本当」
囲炉裏を挟んで松雄、尚美は火に照らされた顔を見合わせる。小屋に灯かりは無
いが、これでも十分なくらい明るかった。

387:恥じらい肛門丸
07/11/21 21:53:35 7PWY5iO1
「松雄」
「なんだ」
「濡れた服着てると、風邪ひいちゃうよね」
「かもしれん」
「脱ごうか」
「えっ?」
松雄は目を丸くして、尚美の顔を見遣った。どこか恥ずかしげで、照れたような感じ
である。

「脱ぐって、まさか」
「・・・パンツ以外」
「俺は嫌だぞ。恥ずかしい」
「あなた、男のくせに。女はもっと恥ずかしいんだよ。私、脱ぐから」
「ちょっと、待った」
体育座りになって、膝の上に腕を乗せ、またその上に顔を乗せてじっと見つめる尚
美に抗しきれず、松雄はうなだれた。

「脱ぐよ。おあいこだぞ」
「うん、おあいこね」
小屋の中に濡れた衣擦れの音が響くと、松雄はおかしな事になったと思った。囲炉
裏で木がパチッと弾けた時、対面の尚美がびくっと身を震わせた。口では強い事を
言っているが、内心は心細いのであろう、小さな物音にも敏感になっているようだった。
下着一枚を残して裸になると、松雄はできるだけ下を向くようにしていた。対面には
同じく裸になった尚美がいて、とても直視する勇気が無い。

一方、尚美も体育座りのまま下を向いて、何も話さずにいる。結局、囲炉裏の炎以外
に相手の視界から身を遮る物も無いので、自然、そういう風にならざるを得なかった。
雨が屋根を叩く音は相変わらず強い。まさか夜通し降るとも思えないが、どちらも少し
不安である。そんな中で、尚美の方が沈黙に耐えられなくなったのか、うつむいたまま
松雄に話し掛けてきた。

388:恥じらい肛門丸
07/11/21 22:08:07 7PWY5iO1
「ねえ」
「なんだ?」
「私の事、どう思ってる?」
「どうって」
「好きとか、嫌いとか」
松雄は一瞬、間を置いて、
「好きに決まってる」
と、答えた。

「その割には、今日もお魚を届けにきてくれたのに、すぐ帰っちゃったじゃないの」
「うん」
「私、暴力女だし、松雄にいつも迷惑かけてるからさ。嫌われてるのかと思って」
「そんな事あるか」
「本当?」
「ああ」

松雄だって本心は尚美の事が好きだった。しかし、世の中には分を弁えねばならぬ
事が多々ある。万民平等を謳う今の世においても、家柄の貴賎や身分の上下は存
在する。漁師の倅が医者の娘に恋する事は、松雄にとって大罪のような気がするの
である。松雄は尚美が不意に立ち上がったのを気配で感じ取った。それにつられ、ふ
と顔を上げると、ショーツ一枚の尚美が恥ずかしそうに、松雄を見下ろしているでは
ないか。

「松雄」
「尚美・・・」
「ずっと好きだったの。そっちへ行っていいでしょう」
尚美は足音も立てず、松雄の傍らへとやってきた。ショーツの前は雨で濡れ透け、
若草が乱雑にその姿をのぞかせている。松雄にとってはちょうど、目線にそれが
ある格好だった。尚美はショーツに手をかけ、一気に脱ぎ下ろすとしゃがんでいる
松雄に差し向かうような形で片膝をつく。

389:恥じらい肛門丸
07/11/21 22:33:53 7PWY5iO1
一方、松雄のパンツからは魁偉な風貌を持った生き物が顔を出していた。尚美
を獲物と認識し、喰らいつきたがるように先端からは涎を滲ませ、物欲しそうな
表情をしている。
「松雄、じっとしててね・・・」
尚美は手を伸ばし、松雄の首に回していく。指先は揃えて、まるで蛇が木にまと
わりついているようにし、最後は松雄へ体ごと巻きついた。

尚美は口づけをねだった。さあ、早くと小声で囁くと二人は唇を重ね、訳も分か
らず歯を鳴らした。舌を絡めるなどとは考えもつかず、ただ唇と唇を舐め合うよう
に、しかし飽きる事無く口づけをするのである。次第に松雄にも欲が出たのか、
彼の手も尚美の腰から下、特に尻へと執着を見せ始めた。松雄は手を一杯に
広げ、尻を弄った。大きい割に柔らかく、その手触りはつきたての餅を捏ねてい
る時に似ていた。

「ああッ、松雄」
尚美は松雄の頭を抱え、いきりたつ怪物の上に自ら跨っていく。松雄は床に
寝て、その上に尚美が覆い被さっていくのである。若草の少し下、尚美の女園
はすでに開きかけていたが、それでも未開通の処女宮に違いは無い。そこに
蛮族が手にするような松雄の分身が、花弁を分けて入っていく。分身はまず、
温かな肉の感触を知った。それから自然と導かれるように、ぬめる洞穴の中
を手探りで進む。その先はまったくの闇同然の筈なのだが、分身全体が生肉
で包み込まれる如き様子が脳内に結ばれる。松雄は今、ついに少年ではなく
なった。

「うッ、ああッ」
尚美は目の縁から大粒の涙を流していた。彼女もまた、少女ではなくなって
いた。一生、忘れられぬ破瓜の痛みを感じ、脳裏に刻んでいた。胎内でぬめっ
ているのは血水だろうか。尚美は自分が田楽刺しにでもなったような気がした。
「あッ、俺、出そうだ。尚美」
「いいよ、全部、中へ・・・」
松雄が喘いだ次の瞬間、尚美は胎内に生ぬるい液体が放たれるのが分かっ
た。そして、腰を上げて分身を抜くと、我が花弁より滴り落ちる血と子種の混じ
った粘液を見て、ほうっとため息をつくのであった。

390:恥じらい肛門丸
07/11/21 22:44:53 7PWY5iO1
二人はただ抱き合っていた。囲炉裏の火がやけに心細くなったが、体を寄せ合う
若者たちは寒さを感じていなかった。
「尚美、大丈夫か」
「うん、平気。なんか、ズキズキするけど」
松雄は尚美を労わった。すでに乾いた尚美の柔らかな髪を、手櫛で梳いてやった。

「私、嬉しい。初めてを松雄にあげられて」
「尚美」
松雄は折れんばかりに尚美を抱きしめた。愛しくて仕方が無い。女の健気な言葉に
若くして世界中の愛を手に入れたような気さえした。
「これからずっと、一緒だよね」
「ああ、勿論だ」
「好きよ、松雄」
「俺もだ、尚美」
若い二人に愛しているという言葉はむしろ陳腐だった。好きの一言ですべてが通じ
る純真さがあった。

気を利かせたのか囲炉裏の火が落ちて、小屋の中は暗くなった。雨はまだ当分、
止む気配を見せていない。



おすまい

391:名無しさん@ピンキー
07/11/22 00:05:05 F3HuN1Qq
久しぶりに乙
いい話やで

392:名無しさん@ピンキー
07/11/23 01:13:27 +Gr942WN
GJです
心地よい文章でした

393:名無しさん@ピンキー
07/11/24 20:00:36 /hAv+XTW
>>383-390
何か天然の刺身みたいに鮮度の良いSSですね。
変に凝ったり飾ってない分、素直に好感が持てました。
GJ。

394:名無しさん@ピンキー
07/11/24 22:12:39 BWKijHVH
本当に久しぶりだ。良かったぜ


ところで、あと一ヵ月後にはクリスマスイブだな
たぶん、おれはスレに投下された作品や過去作品を見ながら
一人ちびちび酒をやって過ごすんだろうなあ。我ながらなんて清い夜だ

395:名無しさん@ピンキー
07/11/25 06:39:26 QLG5I9lw
>>394それでお前は幸せなんだぞ?
世界には戦争、飢餓、病気、虐待、いじめ、貧困、身体知能障害、etc・・・
こんな中で苦しんでる人なんて山程いる。そんな中で穏やかに暮らせる事がどれだけ幸せか分かるだろ?

一人寂しい時はこんな事を思い浮かべ、俺は幸せなんだと自己暗示かけてる。

396:名無しさん@ピンキー
07/11/25 10:52:46 mHl11KHu
独りぼっちなのと、萌えとは対極な幼馴染がいるのと、
どっちが不幸なんだろうな

397:名無しさん@ピンキー
07/11/25 16:55:47 LCPLTtIK
誰かに気に掛けてもらえる人は、幸せだと思う。
だからといって、独りぼっちだから不幸というわけでも無いと思う。

さて、クリスマス前に独身者だけの飲み会でも企画するか

398:名無しさん@ピンキー
07/11/26 03:33:41 Te3oxryB
一緒にいて楽しい人がいれば、それだけで幸せと断言できる。

クリスマスに対して復讐って事で、友達と一緒に日本中のクリスマスツリー薙ぎ倒してくる。

399:名無しさん@ピンキー
07/11/26 09:49:53 u6/jZmLM
じゃあ俺サンタ狩り。

400:名無しさん@ピンキー
07/11/26 12:16:34 UfQkj5Yt
>>398
くそっwwなんて楽しい計画をw

401:名無しさん@ピンキー
07/11/26 22:53:15 0VJEG95Z
トナカイ鍋っていうのもどうだ
サンタが街にやって来れないので一石二鳥

402:名無しさん@ピンキー
07/11/26 23:02:04 T7crUQ9Y
これはあれか、クリスマスにモミの木を切り倒そうとする男を
幼なじみの女の子が必死に止めようとするSSが見たいというネタ振りか

403:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:14:41 dufTSoqj
久しぶりでアレですが
ひっそり投下します

404:夏の約束3
07/11/27 00:15:30 dufTSoqj
 夏休みという至福の期間をただ暑いだけの平日に変えてしまう、
ありがたい補習授業。
 それもようやく半ばを過ぎた七月下旬のある日。僕はしばしの現
実逃避にと、学校の図書室に本を物色しに来ていた。
 伝統のある学校らしくそれなりに充実しているこの図書室は、や
はり進学校らしくもあって、閲覧用に設置されている幾つかの机は
夏休みにも係らずそれなりに席が埋まっている。勿論大抵の図書館
がそうであるように、その大半はノートと参考書を広げて自習に励
む受験生なのだけれど。
 建造された当時は白亜の城と見紛うばかりに輝いていたであろう
校舎も、数十年の埃が積もりに積もった今となっては苔むす屍。夏
は暑く冬は寒い、嫌がらせのような建物と化している。
 そんな訳で、生徒が気軽に入れない職員室等を除いては唯一空調
が完備している図書室はまさに天国という訳だ。

「あれ、井上じゃあないか」
 僕の名を呼ぶ声に振り向けば、そこにあったのはニヤニヤと笑う
知り合いの姿。
「なんだ中臣か。ニヤニヤ気持ち悪いぞ」
「や、仮にも受験生とあろうものが娯楽小説などを読むのかと驚い
てね」
「本返すついでに補習に来る奴に言われる筋合いはないよ」
 この少年の名は大蔵中臣。いかにもという姓に相応しく代々金融
畑の家柄で、忌々しくもお坊ちゃまであらせられる。大層な名前を
つけて万一名前負けしてはと遠慮したのかどうなのか、どうせなら
大臣にしておけばと思わなくもないところ。
 名前も変なら性格もちょっと変で、目立つ容姿と相まってこの学
校ではちょっとした有名人だ。まあつまり、先祖代々庶民にして常
識人の僕とは随分住む世界が違うのだけれど、お互い本が好きなこ
とが一年の時に分かって以来、なんだかんだでよく話をするように
なったのだ。
 これで頭が悪ければ可愛げもあるのだけど、残念なことに概ね僕
より優秀だ。得意の国語はなんとか勝てるものの、他はまるで敵わ
ない。家では僕なんかよりずっとしっかりやってるんだろうけど、
学校では不真面目な姿ばかり見るので時に世間の不条理を感じてし
まう。

405:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:16:39 dufTSoqj
「ところで、今日は一人なのか?」
「いんや、あっちにいるよ」
 カウンターの方をあごでしゃくる。司書の中本先生と喋りながら
茶をすする夏葉の姿を視界に納め、頷く中臣。
 僕が本を借りる時は、夏葉はカウンターの向こうで世間話。本は
あまり読まない癖に、夏葉と中本先生の仲は良い。と言っても僕が
借りた本を横から持っていくからそれなりには読んでいるのかな。
あ、夏葉のやつ、卵焼きもらってるぞうらやましい。
「なるほど、奥さんはあっちか。そいつは邪魔をしたね」
「そういうそっちはどうしたんだ。補習にも来てなかったろ」
 いつもの軽口を聞き流して中臣に返す。尤も中臣の方はほんとに
奥さんみたいなものだから困る。
「ん、春香なら今日は―と、そうだった。頼まれごとを思い出し
たんで帰る」
 ではまた月曜に、そう言い残して中臣はあっという間に姿を消し
た。なんだったんだ、あれは。
 ちなみに倉守さんというのは中臣の彼女だか許婚だかの同級生の
倉守春香さんのことだ。そんなに親しい訳じゃないけど、夏葉と仲
が良いので時々話はする。男女ともに人気は高いみたいだけど、や
んぬるかな、中臣と許婚と知れた今となっては粉をかける者もいな
い。

「結局どうしたんだろ?」
 補習は任意だから来なくても問題はないとはいえ、真面目な彼女
がさぼるとも思えない。
「ハルちゃん? さっきメールしたら夏風邪引いたってさ」
 と、本棚の陰から夏葉が急に出現する。
「なんだ夏葉か、おどかすなよ」
「テッちゃんちょっと選ぶの遅いんじゃないの? お腹空いたー」
 口を尖がらせてブーたれる。はいはい、それじゃあさっさと帰り
ますかね。
 適当に選んだSF小説の手続きを済ませ、図書室を出る。出るや否
や押し寄せてくる生暖かい空気に思わず顔をしかめる。
 昇降口から外に出れば更に凄まじい熱気で、これからの長い道の
りに思いを馳せて気分は早くも熱射病だ。夏葉はと言えば植木のわ
ずかな陰をひょいひょいと渡り歩き、少しでも暑さから逃れようと
奮闘している。
「明らかに無駄な努力じゃないかなそれ」
 動く分余計に暑い気がしなくもない。
「分かってないねテッちゃんは。こういう小さな努力が後で実を結
ぶんだよ多分」
 教室の壁に貼ってある標語だよそれは。そのとおりだけど、無駄
な努力と小さな努力はちょっと違うと思う。

406:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:17:28 dufTSoqj
 自転車置き場にたどり着き、日光でようく暖められた座席に手を
触れる。なんというか見事な焼き加減といわざるをえない。
「うひゃ、あつー。帰る頃にはお尻がミディアムじゃないかなこれ」
 隣では夏葉が同じことをして顔をしかめている。もう慣れっこと
は言え、なんとかならないものか。
「そのうち冷えるだろうしミディアム・レアでいけるんじゃない?」
「そうかな。テッちゃんはもうちょっと焼いたら? 最近ちょっと白
いよ」
 暑さで脳ミソが茹っているとは言え、我ながら頭の悪い会話をし
つつ校門を抜けて川沿いの道を走る。
 五分とたたずに水浸しになったカッターシャツは肌にまとわりつ
いてなんともいえず気持ち悪い。これだから夏ってやつは。
 横を走る夏葉も状況は同じで、全身汗まみれ。あの様子ではブラ
ウスから透けてる下着ごとぐしょ濡れだろう。
 これだから夏ってやつは。

「そういえば、夏風邪だって?」
 微妙に聞きそびれていた倉守さんの話を聞きなおす。あれで結構
体は丈夫だと思ってたんだけど、やはりお嬢様ってことかな。
「あー、うん。クーラーかけっぱなしで机で寝ちゃったとか言って
たよ」
「なるほど、中臣の頼まれごとってのもそれかな」
 プリン買ってきてとか大方そんな頼みごとだろう。それにしても
クーラーかけっぱなしで夏風邪とは、倉守さん意外と抜けているな。
そのあたりは夏葉と似たような物だろうか。
「いーな、ハルちゃん。大蔵君に優しく看病してもらうんだよきっと」
 中臣は別に優しくないと思う。いや、倉守さんには優しいか。ま
あ何にせよ羨ましいには違いない。僕も欲しかったよそういう優し
い幼馴染が。中臣はこれっぽっちも要らないけど。
「テッちゃん風邪引いたことないでしょ。バカだしスケベだし」
「馬鹿はともかく後者は関係ないと思う」
 大体僕だって別に見境がないお猿さんじゃないんだから。誰彼構
わず変なことしたりする訳じゃない、と一応弁護しておく。

407:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:18:33 dufTSoqj
「じゃあさ、私が風邪引いたらテッちゃん看病してくれる?」
「何がじゃあか知らないけど、そもそも去年の春休みに丸一日看病
してあげたのは誰だ」

 まだ夜は冷えるというのに寝巻き姿で僕の部屋に上がりこんで漫
画を読みふけった挙句に風邪を引いたのはどこの誰だ。
「そういえばそうだっけ。いやいやあの時はお世話になりました」
 お粥はしょっぱかったけどね、と付け加えて夏葉は笑った。
 まああの時はどちらも親が仕事で手が空いているのが僕しか居な
かったんだから、僕が看病せざるを得ない状況だったわけで。と言っ
ても精々氷枕を取り替えたりお粥を作ったりする程度だったけど。
で、ネットのレシピを信用して慣れないお粥を作ってみたらちょっ
と失敗してしまったというわけだ。
「まあでも美味しかったよ? テッちゃんにしては中々」
「いや、さすがにあの塩辛さは自分でもどうかと思ったよ」
「そう? ほんとに美味しかったんだけどな。愛情こもってて」
 いやいやいやそんな訳はない。あれだけブツブツ文句言いながら
作ったお粥のどこにそんな隠し味が。風邪引くと味が分からなくな
るというのは本当だったか。
「おっと信号青だよ夏葉」
「あ、ちょっと! またそうやって誤魔―」

 自転車のギアを重くして、立ちこぎで凸凹の田舎道を逃げる。十
分に勢いがついたところで足を止め、なにやら喚きながら追いかけ
てくる夏葉を緩やかに待ちながら今日の昼ご飯を考える。

 そういえば焼きそばがあるって言ってたかな。うん、今日は焼き
そばで決めよう。

408:名無しさん@ピンキー
07/11/27 00:23:10 dufTSoqj
とりあえず以上です。こうしてみると意外と短い(;^ω^)
もうちょっと早く書けるようにならないものか

409:名無しさん@ピンキー
07/11/27 09:10:14 3uA4rjit
GJ!
良いほのぼの日常感だ。ゆっくりでも投下してもらえると嬉しい

>>402
言いだしっぺが(ry

410:名無しさん@ピンキー
07/11/27 16:13:52 cotup2+q
GJ!なんか和みますな。

最後の文、なんか孤独のグルメ思い出したw

411:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:11:49 crxecahL
遅くなりましたが
>>353>>359の続きです



「おはよー」
まだ登校するには若干早い時間に優祐は学校に来ていた。
「あら、優祐早いじゃない」
が既に教室には一人生徒が居た。
生徒の名は、春高文奈(はるたか ふみな)
肩口で切り揃えた髪を高い所で結び、短いポニーテールにしている。
文奈は優祐と、幼稚園に小中高と同じであり、クラスもほぼ同じだった。
決して家同士が近い訳ではないが、幼馴染みのような関係だ。
「うん。朝会議の前に書類出しとかないと、予定立ててくれないから」
「納得。頑張れ生徒会長」
文奈はあははと笑いながら優祐の背中をバシバシと叩く。
「痛いって。俺よりも副会長も頑張って欲しいな」
優祐は文奈の手を退けながらニヤリと笑い返す。
そう、文奈は現生徒会の副会長である。
何故高校1年の彼等が生徒会を運営しているのか。
それは基本的に生徒会を運営すべき高2に会長立候補者が出なかった。

412:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:12:52 crxecahL
よって高一に生徒会長の座が回ってきたのだが、一年にも立候補者はいなかった。
なので教職員が指名することになった。
最初は高2の生徒が指名されたのだが断られ、それで優祐が指名されたのだ。
ちなみに理由は、目に止まったから、だそうだ。
優祐は指名を引き受けると、旧知だった文奈と学期当初隣の席だった拓海を道連れとばかりに役員に指名した。
こうして高一生徒会が形成されたのだ。
「えぇ~」
文奈は不満そうな声を漏らす。
「私サボりたいな~」
「副会長がサボろうなんて考えるなっ」
すかさず優祐がつっこむ。
ガラガラッ
談笑している二人を割るように勢い良く教室の戸が開く。
「お前ら朝から元気だな、廊下まで声聞こえたぞ」
教室に入ってくるなりそう言った少年の名は仲澤拓海。
高校からの付き合いだが優祐とはかなり親しく、現生徒会の書記でもある。
また彼の通学路は大井家の目の前を通るので、たまに一緒に登校したりする。ちなみに彼女持ち。
「テンション高くしないとやってらんないって。朝っぱらから書記さんの代わりに書類持ってきたんだぞ?」

413:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:14:11 crxecahL
「なるほど。あれ、お前家出るとき、名前何って言ったけ……妹ちゃん起こした?」
「桜な。いや起こしてないけど?」
「ああそうそう桜ちゃん。いや、お前の家の前通ったとき真っ暗だったし、人の気配がしなかったぞ。まだ寝てたりしないか?」
「ゲ……マジですか」
「えーっと、もう間に合わないんじゃない?」
文奈は時計を見ながら尋ねる。
既に時計の針は7:50分を指していた。
「いや。中学近いし、今すぐ起きればなんとかなる……と思う」
「親は?」
「もう出掛けてる」
「電話掛けまくれば起きるんじゃない?」
文奈がそう提案する。
「もう留守録にしちゃった」
「なら携帯はどうだ?」
「桜、電源切ってると思う」
「詰み、かね」
「だな。まぁ一日くらい遅刻しても問題ないか」
優祐はアハハと笑う。
しかし既に諦めかけている男性陣とは違い、文奈はまだ方策を探していた。
「ね優祐、優華ちゃんは?優華ちゃんに起こして貰えばいいじゃん」
「優華ちゃんって?」
高校からの付き合い故、拓海は優華を知らなかった。
「優祐のお隣りさん。それで桜ちゃんと同い年。たしか中学も同じはず」
文奈が拓海に説明する。
文奈自身も、優華とは十数回しか会ったことはないが説明には充分だった。

414:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:15:35 crxecahL
「なるほど。でも大井は、その子の番号知ってるのか?それに家の鍵だって」
「いや、知ってるし。開いてる」
「本当?じゃあ電話すればいいじゃん」
「早くしないと妹ちゃん遅刻しちまうぞ~」
始めて見つかった実現可能な案に、二人はその実行を急かす。
「うん……」
が優祐はあんまり乗り気ではなさそうで、携帯電話をバックから取り出した所で動きが止まっていた。
「ほら、早く」
が、それを文奈が急かす。
「あぁ、うん」
優祐は覚悟を決めたように頷くと、メモリーから神上優華を呼び出し、電話をかける。
プルルル プルルル プルルル
「はい、もしもし。神上です」
「あーおはよう優華ちゃん。優祐です」
「優祐さんっ、おはようございます」
優華は電話の向こうでお辞儀してるんじゃないかと思わせるくらい、元気良く、礼儀正しい挨拶をする。
「あーおはよう。それでさ、今家にいる?」
「はい。もうすぐ学校行きますけど……それがどうかしましたか?」
「えーとさ、すごく悪いんだけど、桜起こしてくれないかな?」
「まだ桜ちゃん寝てるんですか?」
優華も若干驚いた口調で聞き返してくる。
「うん。しっかり寝坊してるっぽい」
「しっかりですね。でも鍵は?」

415:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:16:46 crxecahL
優華は優祐の不思議な言い回しに笑っている。
「鍵は開いてるから大丈夫」
「分かりました。それじゃ行ってきますね」
「ありがとう。恩に着る」
「別にそんな、いいですよ。それじゃ行ってきますね」
優華は笑いながら電話を切る。
彼女からしてみれば桜を起こしに行くだけ。
それで優祐の役に立てるのが嬉しかった。

「で、どうなった?」
通話を終え、ポケットに携帯をしまった優祐に拓海が尋ねる。
「行ってくれるって」
「そうか、よかったじゃないか。まぁもう遅刻は確定だろうけど」
既に時計の針は8時を過ぎていた。
「まあ一限には間に合うだろ」
席に着きながら大きく息を吐く。
「結果オーライって事にしときましょ。あ、そうだ。優祐、お昼付き合ってくれる?」
「何で?今じゃダメか?」
優祐はいきなりの誘いに若干驚きながら疑問を発する。
文奈はその言葉に大きく頷いて返し、こう言った。
「それじゃ予約しといたからね」
それだけ言うと文奈は答えも聞かずに教室から走り出てしまった。
「なーんだありゃ?」
「俺に聞くなよ」
「謎……か」
「謎……だな」
「行った方が良いかな?」
優祐は内心、幾ら文奈とは言え昼休みを全て同時行動するのは避けたかった。

416:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:19:20 crxecahL
別に文奈が嫌な分けではないのだが……
「行った方が良いんじゃないか。約束しちゃったし」
が拓海は優祐の心の内を分かっていながら突き放す。
それは、文奈の行動に若干の違和感を覚えていたからでもあった。
「だな。昼休みは覚悟しとくよ」優祐はそう呟いた



以上です。
一応接続詞には気をつけてみましたがどうでしょうか。
次回はもう少し早く投下します。

417:名無しさん@ピンキー
07/11/29 21:01:35 1gfhqBoo
おお? 幼馴染が二人いるのか?
なかなか先が読めないが面白くなってきた。GJ!

418:名無しさん@ピンキー
07/12/01 06:42:01 k738A8FS
なんだか新鮮なSSだな。妹持ちの幼馴染み多数とは。
楽しみにしてる。GJ!

419:名無しさん@ピンキー
07/12/03 23:37:22 wcUlmkv/
アゲ保守
今年はクリスマスネタの投下はあるのかね?

420:名無しさん@ピンキー
07/12/04 01:40:41 cRwLkXY3
「クリスマスだぁ? なんもねぇよそんなもん。バイトだバイト」
「相変わらず投げやりだなぁ」
「そういうお前こそなんか予定あんのかよ」
「さぁ? 今のところは未定だよ。誰かの誘い待ちってところかな」
「……あのさ、それ、俺じゃダメか?」
「何が?」
「何がって……」
「だから、あんたはあたしとどうしたいのかってこと」
「いやそのつまり……ええい細かいことはいい! 俺に付き合え!」
「うん!」
そして結局今年も二人で過ごすクリスマスなのであった。

421:名無しさん@ピンキー
07/12/04 20:56:24 3Vi5lXIv
ネタ投下早すぎw

422:名無しさん@ピンキー
07/12/04 21:45:18 xIAHDFUs
【芸能】「渡鬼」愛ちゃん役の吉村涼(29)が結婚! 小学校の同級生と[12/04]
スレリンク(mnewsplus板)


423:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:32:04 AZd1n29d

「よし、行ってくるわ!」
「どこへよ?」
「大義のためかなぁ、止めんな」
「理由を聞いたつもりはないけど」

 急に何を思ったか分からんけど、思いつめた表情でそう言ってるのは、
生まれて17年、異性としてじゃなくて、人として付き合い始めて17年経って
しまってる腐れ縁の幼なじみ。
 せっかくのクリスマスイブだっていうのに、薪を拵えるための斧を携えて、
真剣な表情で何か言ってしまってる。いや、意味は分かるけど、そこに込められた
本意がどうにも分からなかったりする。
 普段のこいつなら、斧携えてこんな物騒なこと言ったりしないし。何を考えて
こんなこと言ったりしてんのか。

「モミの樹切り倒してくるわ!」
「はあ?」

 な、何な、何を言うとるんな。
 前々からあんまり頭は良くないとは思っとったけど、ここまで駄目となると
いよいよやばい。よもや都会の何か変な人たちに騙されて、変な薬とか吸っとる
わけじゃないよな。

「いや、だって……、何でそんなことするん?」
「さっき言ったやんか」
「でも…おかしくない?」

 あたし達が住んでるのは、東京から遠く離れた田舎も田舎、あたしの語り口調を
見て聞いてたら分かると思うけど、地方の地方もいいところ。大学進学のために
東京に行ったお姉ちゃんが、あたしらの地元の正確な位置を日本地図出して
聞いてみたら、ちゃんと答えれたのは10人に1人くらいしかおらんかったらしい。

「なんで?」
「聞いてくるんがおかしいよ。おばちゃんに、あの樹の植林にどれだけ金かかったか
聞いてない? あたしらの月のバイト代が100回くらい飛ぶんよ」
「なっ…そんな金かかっとるんか」
「……本当に知らんのか」

 いよいよ本当にアホなんかな。緑化計画の為の植林行為でも十分な費用が
掛かってるのに、駅前の立派な一本モミを一本だけ植林するとなると、どれだけ
その費用が掛かったか、考えなくても大体分かると思うんだけども。まあ、それが
分からんから夏も冬も補講を喰らったりしてるんかな。
 大体あそこには、モミの樹植える前から……

「ハイ質問です」
「何でしょう」
「自分が黙っておいてくれたら、全て丸く収まると思いませんか」
「……」

「……な?」
「……」
 お……終わっとる。腐っても駅前の時点で、あたし以外にも目撃者なんて仰山
できるのに。色んな意味で終わっとる。


424:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:33:32 AZd1n29d

「なんでそんなに倒したがるの?」
「……」
「別に、何か被害があったりするわけじゃなくない?」
「……」
 町おこしの一環で、せめて冬の一時でもその一瞬を盛り上がらせロマンチックな
ものにしようと、市議会が駅前にでっかいモミの樹を植えようと決めたのがちょうど
去年の今頃。
「こんなド田舎にそんなことしても無駄」「都会じゃないのにイルミネーション代もかさんで
余計な出費」たくさんの反対意見が出たけども、結局モミの樹は植林されることになった。
今頃、赤に黄色に青にちかちか光って、てっぺんにきらきら光るでっかい星を乗せた樹が、
随分な勢いで自己主張したりしてるのだろう。
 おかげで今年は、駅前のカラオケボックスや飲食店の利用客が増加傾向にあるらしい。

「だって……俺、彼女とかおらんし」
「……?」
「あいつらもおらん言ってたし。なのにあんなん立てられたら、嫌味やって思わんか?」
「……」
 えええ…そんな、それが主な理由なんか。高校生になってもまだまだお子様やな。
 てか、そんなこと言われたら。

「なあ、そう思わんか?」
「……」
 言われたら、駄目駄目や。我慢……我慢が、利かなくなる。
「分からんか? お前だって、彼氏おらんやろ?」
「……そんなん、そんなんだったら」
 こいつに彼氏って言われた瞬間、あたしの中で何かが弾けた。



「あたしが……、あんたがあたしと付き合えばええやんか」



「……」
 弾けて飛んだ。
「……」
「……」
 飛んで、混ざる。
「……」
「……え」
 混ざって直後、後悔した。
「~~~~~~」
 ああもう! ここまで言うて分かってくれんとか、おかしすぎる!
必死こいて一生懸命言ったのに、これじゃこっちの赤っ恥やんか!

「…え」
「……」
「……えっと」
「……」
「えっと、それって」
「……そんじゃ、また明日」
「え!? いや、ちょっと待ってくれって!」
「何よ! そんな態度するってことは別に何でもなかったってことやろ! 
だったら別に呼び止めてくれんでもええやんか!」
「え…いや、でも」
 あああ、おかしい。視界が急にぐにゃぐにゃしてきた。こんなのおかしい。


425:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:36:22 AZd1n29d

 別に、期待なんかしてなかった。

 去年の今頃、こいつがクラスの女の子に振られてて落ち込んでて、それを
慰めてあげようと、「来年の今頃あんたが誰とも付き合ってなかったら、あたしが
一緒におってあげるよ」って勇気出して言ったけど。そんなのどうせ向こうには
慰め言葉にしか取られてないことくらい分かってたつもりだった。

 その頃、モミの樹はまだ立ってなかった。でも、そういう計画があるのは知ってた。
だから、まだそのときには存在してないでっかい樹に、叶いそうもなかった想いを。
その時には架空でしかなかった樹に、込めざるを得なかった。

 なのに。

 なのになのに。

「いや、でも、こんなん、おかしいやんか」
「なっ……おかしいって何がおかしいんな!」
「お前が、俺ととか。そんなこと」
「……っ!」

 なのに。

 なのになのに。

 あたしの好きな人は。あたしのことを、ただの古い知り合いとしか
思ってくれてなくて。いっつもいっつも恋の相談とかされる度に、落ち込んでた
あたしの気持ちとか全然知らんで。

 こんなの……酷い。

「アホ!」
「い!?」
「お前なんか死んだらええんじゃ!」

 幼なじみだからって。付き合いが古いからって。
 そんな理由でこんなんとか。いくらなんでも理不尽すぎる。

「ち、違うって! いや待て!」
「待つか!」
「待て!」
「待たん!」
「待てや!」
「うっさい!」

 通いなれた通学路を、お互い全速力で駆け抜ける。流石に当然、
向こうは手にしていた斧を駆け出し始めた地点から手放して追いかけてきてた。
ホッとしたのも束の間、どうせあたしには芽がないことを思い起こして
また腹立たしくなってくる。
 その瞬間、あたしは立ち止まって振り返って、思いっきり手を振り上げた。

ばっちーん!

「……っ!」
「…」
 なのに。なのになのに。
 向こうはそれを、当たり前のように頬で受け止める。
 待ち構えてたから、よけれたはずなのに。


426:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:37:14 AZd1n29d

「……ってぇー…」
「なっ、なんでよけんかったんな!?」
「…ごめん」
「なんで謝るん!?」
「……」
「なんで言い訳せんの?!」

 おかしい、おかしいこんなの。
 全部が全部らしくないこいつもこいつだけど。そんなことくらいで
いちいち大声出して怒ったりするあたしもおかしい。

 ……

 …………おかしい?

 ……

 …………なんで

 ……

 …………なんでな

「お前が、そんな風に俺のこと思ってくれてるとか思わんかったから」
 うっさい。
「ずっと、男とか女とか関係ない友達やって思ってた時が、俺にもあったから」
 うっさいうっさい。

「同じこと思ってたら、同じような態度とるもんやな」

「……?」

「俺も、お前のこと、その、なんや」

「…え?」

「なんやその、えっと。その、あの、うんと」

「……」

「ああもう! 笑うなよ! 笑ったら承知せえへんぞ!」

「……」
 な、何言って…



「好きじゃ! 俺もお前が!」



 何……言っとんな…。


427:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:38:45 AZd1n29d

「悪かったの! 女に先に告白させるヘタレで!」

「なんじゃ! 悪いか! 悪かったわ! ほんま悪かったわ!」

「でも俺ら幼なじみでずっと一緒におったやんか!」

「こっ恥ずかしくて、逆に言えんわこんなこと!」

 ……

 ……………

「…ひっ」

 ・・・…

「あぁ?!」

 ……

「ひっく、ぐす……っ」

「なっ、何で泣くんや! 先に言ったんはお前やないか!」

 うっさい……うっさい……アホ…・・・

「ひっく……ひっく……ひぅ…ッ…」

 知らんくせに。あたしが、どれだけあんたのこと好きやったか知らんくせに。
どれだけ、ずっと好きやったか知らんくせに。

「あほ……あほぉ……っ!」
「なっ、何で告白し返してそんなん言われんとあかんのや…」
 そう言いながら抱きしめきて。背中にまで手を伸ばせずに、肩までしか抱けてない
ヘタレなくせして。



428:名無しさん@ピンキー
07/12/06 02:39:26 AZd1n29d


「……言うなよ。好きな娘にそんなん言われるんは、結構堪える」


 肝心なとこだけ、バッチリ決めるのがまた腹立つ。
嫌いや、本当に嫌いやこんな奴。


「……」
「ぐすっ……ひっく」
「あの…」
「ひっく……ひぅ」

「今年の駅前、カップルで大賑わいらしいんやけど」

 泣きやめない自分が情けなくて。けれども泣く意味合いが徐々に徐々に変わって
しまっていて。



「今から、一緒に、モミの樹見に行くか……?」


 そんなたどたどしい台詞に、相手から後から聞かされた話。
 泣いたまま、思いっきり頷いたと聞かされて、あたしの顔は熱い熱い顔は、そのまま
リンゴになっていたのだった―――




429:402
07/12/06 02:44:14 AZd1n29d
とりあえず酔った勢いで埋めがてらに投下してみたり

   _、_
| ,_ノ` ) ……推敲ももちろんしてないから出来栄えに期待しちゃいけない



   _、_
| ,_ノ` ) しかし>>409 ある意味俺とお前さんの「約束」…幼なじみスキーにとっては重い言葉だ



   _、_
| ,_ノ` )
ノシ そしてそれを守ってこその幼なじみスキーだよな



  サッ
|彡






430:名無しさん@ピンキー
07/12/06 07:15:53 II0Uipgv
GJ! あんた漢だぜ……! 私も頑張らねばなりませんねぇ!!

431:409
07/12/06 21:12:50 BJ0OjlF+
うおおおおおおっ マジでやりやがった……!
おまえさんのおかげで今年のクリスマスは笑って過ごせそうだぜ!!

それにしても方言の幼なじみ可愛いなっ(主人公も良い味だしてるぜ)

432:名無しさん@ピンキー
07/12/06 23:19:57 0LFnyP0W
GJ!

日本地図見せられて十人に一人しか答えられない場所というと…
K府K岡?H県T岡?W県K野?それともN県G条?

433:名無しさん@ピンキー
07/12/07 03:29:58 HHOMVKWm
GJ!やべえええ萌えたああああ
俺も地元のしゃべり方こんなんだからめちゃくちゃ感情移入できたわ
まあ俺にはこんな幼馴染はいなかったんですけどねwww

434:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:11:58 bZ9KkALW
実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました。

そんなネタです。
エロはありません。

では投下します。

435:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:12:23 bZ9KkALW
 数年ぶりに帰省する俺―佐野宏明を迎えに来てくれたのは、親父でもお袋でも、
姉貴でもなく、数年ぶりに再会する幼馴染だった。
 その事自体は、事前に親父から電話で聞いて知っていたんだが……。
 ホームを出て、改札を抜け、駅の入り口に重い荷物を担いで辿り着くと、そこに彼女はいた。
「やっほー! おっ久だね、ヒロ君っ!」
 そう言って手を振る彼女の姿に、俺は思わず見惚れていた。
 輝かんばかりの笑顔に、あどけなさの抜けた表情。
 いつも俺がからかうと頬を不満げに膨らましていた"可愛くないアイツ"は、
この数年間の間にすっかりと"綺麗な彼女"に変身を遂げていた。
 "彼女"は、本当に、"アイツ"なのか……?
「……なによぉ。久しぶりに再会した幼馴染に、挨拶の一つも無いわけですかぁ?」
 あの頃と同じように、不満そうに頬を膨らませる"彼女"。
 違えようが無い。"彼女"は、"アイツ"……歌乃(かの)だ。
「あ、すまんすまん。……歌乃があんまり綺麗になってたから、見惚れてた」
 紛れも無い本音の言葉。
「はははっ、お世辞が上手くなったねぇ。このこのー」
 口をついてからしまったと思ったが、歌乃はどうやら真に受けてはいないようで、
ホッとしつつもどこか悲しい。
「やめ……突くなよっ!」
「あははー、ごめごめ。んじゃいこっか?」
「お、おぅ」
 軽やかなターン。踵を返し、歩き始める彼女の後ろ姿に、俺はまた見惚れた。
 何というか、こう……いいスタイルになったなぁ、と。
 吐く息が白くなる寒さ。それを防ぐだけの厚着の上からでも、彼女のボディラインは
はっきりとわかった。昔は、無い胸無い尻筋肉質、だったような気がするんだが……。
「……なぁに?」
 そんな、少しばかり下心が入った視線に気づいたか、彼女は振り返る。
 俺は慌てて視線を逸らし、空を見上げた。
「いや……雪、降りそうだな、と思って」
 慌てて言い訳したが、実際空は灰色の雲に覆われていて、今にも雪が舞い降りてきそうだった。
「うーん、そだねー……今日降るよりは、あともう少ししてから降ってもらいたいけどなぁ」
「……なんで?」
「だって、もうそろそろクリスマスだし」
 そう言って、歌乃は微笑んだ。
「あー、ホワイトクリスマス」
「そ。その方が嬉しいでしょ?」

436:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:12:38 bZ9KkALW
「……俺にゃよくわからん。独りもんだしな」
「あれ? 彼女とか、向こうでいるんじゃないの?」
「いたらこんな時期に帰省するかっての」
「あはは、そりゃそうだねー」
「悲しくなるから納得するなっ!」
「そっかー……いないんだぁ……そっかぁ」
「お前の方はどうなんだよ」
「えっ、私? ……そりゃあ、まあね。ヒロ君の知らない間に、私も成長しているのでありまして……」
「いないだろ」
「い、いるよっ! そりゃもう両手で数え切れないくらいキープしててさぁ……」
「嘘だろ」
「はーい、嘘でーす。はぁ……彼氏がいたら、こんな時期にヒロ君のお迎えを
 おおせつかったりしないよー。今頃二人でデートとか? しちゃったり? えへへー」
「ま、妄想を広げるのは程ほどにな」
「妄想って……空想の翼と言って欲しいなっ!」
「似たようなもんだろ」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 俺は、昔のように歌乃と言い合える事に、酷くホッとし―そして、同時に一欠片の
物足りなさも、感じた。
「……変わったけど、変わらないな、歌乃は」
 何となく、俺の口をついて出たそんな言葉に、歌乃は眉間にしわをよせた。
「なにそれ?? むぅ……褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろう……」
「褒めてるんだが」
「何だか褒められた気がしないなー」
「む、気づかれたか」
「やっぱ貶してるんじゃないのっ!」
「冗談だよ、冗談」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 綺麗になったのに、こういう所は変わらない。本当に……変わったけど、変わらない。
「そんな事ばっかり言ってたら、乗せてってあげないんだから!」
「おっ、免許取ったんだ?」
「うん、この前合宿でね。今日は練習も兼ねて、お父さんの車借りて来たの」
「……大丈夫か?」
「まっかせなさーい!」
「……微妙に不安だ」
「ぶー」
「ま、しっかり頼むよ、運転手さん」
「まっかせなさーい! ぱーとつー! ……あ」
「お」
 俺たちは、頬に感じた冷たさに、同時に空を見上げた。
「……降ってきた、か」
「……降ってきた、ね」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の、再会を祝福するように。
 俺と、歌乃の、再開を祝福するように。
 ―雪が、降り始めた―

437:エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry
07/12/07 23:15:15 bZ9KkALW
ここまで投下です。

続くような感じで終わらせてしまいましたが、とりあえず
「実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました」
というのが書きたかっただけなので、続くかどうかはわかりません。

438:名無しさん@ピンキー
07/12/07 23:21:25 iN1k9lTy
おっと久々にリアルタイムに遭遇したぜ!! GJです!!

女性は特に変わるというか、化けるからなぁ。俺も久しぶりにあった同級生がすんごく大人っぽくなってて驚いたりちょっ
と置いていかれたようで寂しく思ったりしたこともあるなぁ。

それはともかく、是非続きを書いてみて下さい! 楽しみにまってます!!

439:名無しさん@ピンキー
07/12/09 07:19:59 OUAE9Ea5
>>429お前・・・真の漢だよ。世界で・・・最高のな・・・
こういう安らぐ話見せられると、俺が歓喜の余り暴走しちまうから困る。GJ!!

>>437こんな残い寸止めされるなんて・・・(悔しいでも感ry)
冗談はともかく、二人はどうなるか恐ろしく気になる。続きwktkしてる
GJ!!

さて、クリスマスSSが投下されていい感じにフラストレーション溜まってきたから、クリスマスツリーチェンソー薙ぎ倒しツアーIN日本に参加してくる。

ついでに元旦にも、女と初詣なんかクソ食らえ賽銭箱にメダルぶち込むぜツアーにも行かないと。

男は辛いよ

440:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:18:17 5DiKYuSc
>>439
酷い寸止めって言いたかったんだろうけど、残い寸止めってなんだ?w

>>437
おれも続きを書いて欲しいんだが思いつきでやったから自分の満足いくものが完成できなさそう
と思ったら書かないのも選択肢の一つだぜ
おれは昔思いつきで書いた愚作を完結できずにいるのでね。それでも書いてよかったと思っているけど


そして、2度目のレスだが>>429
そんな未熟なおれに対してお前さんは熱い心を見せてくれた
おれは、言いだしっぺが(ry と書いただけなのにさ
だから小話書くよ。礼には、ならんだろうけど


というわけで投下

441:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:19:42 5DiKYuSc
「ここ最近聞いた話なんだがな」
「うん」
「モミの木を切り倒そうとした奴がいるらしいぞ!」
「ええ!? どこで?」
「おれにも詳しい場所はわからない………ネット上の噂のようだからな……
 なんでも10人に1人ぐらいしかわからない場所だとか」
「それでどうなったの?」
「なんでも、そいつの幼なじみが必死に止めたらしい」
「……幼…なじみ」
「結構可愛い女の子らしいぞ。まあ、それはともかくとして………
 んで、結局その騒動の最中どさくさに紛れて二人は想いを告白し合い結ばれたらしい」
「……………!!」
「おれがなんと言ってもムカつくところは、だな!
 モミの木を切るという野望の話だったはずなのに、いつの間にかラブい話になってるところだ!」
「……ぁ、ぅ」
「なんたる腑抜け! 名前も知らんが、キサマそれでも日本男児か!!! 斬るッ!
 だが、おれはそんな軟弱者とは違うッ! そいつに代わってモミを切り倒す!
 あの忌々しいイルミネーションを消し去り、てっぺんの星を地の果てに投げ飛ばし!
 そして全国の聖夜に怨嗟する亡者どもの悲願を達成するのだ!!」
「あ、あわわ……だ、ダメだよっ」
「止めるな! 山田ァァァァァァァァァァッッ!
 おれは全てを越えてみせる!! おおおおおおおおおおーーーッ」
「ダメっ、直弘ちゃん!! だって……だって………!!」
「……ん?」

「わたしも直弘ちゃんのことが好きなんだもの……っ」

「…………ぉ」
「………………」(///)
「………ぉぁ」
「じゅ、15年前の時だって………」

―15年前。二人が幼稚園生だったとき。
「もみのきって、とってもたかいんだね」
「…………………あぁ」
子供の頃。もみの木は、とても高く見えた。黒く禍々しくも見えるそのもみの木は、
人々が楽しく集ったり願いを掛けたりするにしては不快だった。
クリスマスだけど嬉しくない。理由はもみの木だけではなかったけれど。

そんなとき、フト見上げていたもみの木のてっぺんが光った。
「お星さま………?」
ぼんやりとした明かりを持った星はひらひらと大きくなっていき……
「雪だ……!」
「うわぁ………」
「す、すげえっ! 雪だ!雪だぞひゃっほーーーい!!」
「うん……」
雪に浮かれる直弘を幼なじみはそっと見つめていた。
直弘は、この季節滅多に降らない雪に大はしゃぎ。降る雪をつかもうと辺りを走り回っていた。
「よかったね、なおひろちゃん……」
「ああ! こんなの滅多にないんだぜ!! すごい瞬間なんだぞ!お前も、もっと喜べよっ」
「う、うん……」
「……お、おい。どうしたんだ? どうして泣いてるんだ?」

442:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:21:50 5DiKYuSc
幼なじみは、そっと涙を拭くと笑いながら言った。
「なおひろちゃん、ようやくわらってくれた……」
「え………?」
「なおひろちゃん今日すごくつまらなそうだった」
「うっ」
「わたし、なんとかわらってほしくて。だから、わたしうれしくて……」
今日一日。言いたいこともあったろう。愚痴の一つも言いたかったろう。しかし―
「なおひろちゃん、あのね……?」
「な、なんだよ」
「いまは、まだむりだとおもうけど……もし、もししょうらい、わたしのこと」
「……」
「す、すきになってくれたら―」
直弘は、ただひたすら声を出せずにいた。
「もみのきの前に、わたしをつれてってほしいの……!」
ぎゅっ、と目を瞑り胸の前で祈るように手を組む女の子を前にして直弘は気の利いたことも言えず
「そ、それって」
「うん……」
幼なじみは蚊の鳴くような小さな小さな声で「……しゅき」とだけ言った。
「あ、ああ。……わかったよ!」
雪は二人を冷ますにしては温かすぎる。


そして時を戻し、現在。
「あ。あーーうん。そうだな」
「………」
「あー、つまり、その。………と、いうわけだ!」
「な、なにがっ?」
「ぐっ………つまり……!」
「……」
「好きだ!!!」
「!!」



別に直弘はクリスマスが好きになったわけではない。
無闇に"特別な日"として盛り上がる世間や、わざわざデコレーションされるモミの木も好きではない。
今も黒々と枝を伸ばすモミの木に生理的な嫌悪感を覚えるのか
モミの木を見る直弘は、やっぱり何処か厳しい表情をしている。
でも今までと違う事は、だ。
その手を幼なじみと離れぬように、ぎゅっと絡めている事だ。

443:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:23:30 5DiKYuSc
……と、こーして更にくっつく幼なじみカッポーが誕生し、うわさがうわさを呼び

「モミの木を倒しに行く筈が美談になっただと!? バカめ!ならば、おれがやってやる!!」

「ダメ、○○! 私、私……ずっと………!」

「なにぃ!?」

の連鎖がキレイに決まっていき、やがて気付けば………

全 国 の 幼 な じ み が く っ つ い た


のだった。



……そうなのか?

444:名無しさん@ピンキー
07/12/09 23:56:10 geiosX30
>>443
ちょww訊かれてもwww

私に言えるのは幼馴染みはやはりいい、ということと
GJ!というささやかな祝福の言葉だけだ。

445:名無しさん@ピンキー
07/12/10 00:37:12 Gvr8j01c
>>440 GJ!!
もみの木切り倒してくる。
問題は、俺には男の幼馴染しかいないってことだ

446:名無しさん@ピンキー
07/12/10 01:58:39 0j/Lb7LB
>>440
GJ!

>>445
アッー!!



447:名無しさん@ピンキー
07/12/10 03:43:36 kDtfmTjB
>>440まさか連鎖するとはなwwwww
GJ!!

さて、俺ももみの木を切り倒すんだが、転校して幼馴染みがいないんだよなぁ。
だから心置きなく切り倒して来る。

448:名無しさん@ピンキー
07/12/10 07:38:54 ekHssUlp
>>443
笑ったww

しかし最後はもしかしてWindネタか? そうだとしたらコアなものを……w

449:名無しさん@ピンキー
07/12/10 08:45:43 b7qQupT4
>>443
 GJ!!!

>>447
 転校した幼馴染に出会える時まで、もみの木を切り倒す旅、ガンバレ

450:402
07/12/10 23:20:55 9QV/vpgo

   _、_
| ,_ノ` ) >>440 こちらこそ、まさか連鎖が起こるとは思わなかった



   _、_
| ,_ノ` ) 素晴らしい幼なじみSS、じっくり堪能させてもらった



   _、_
| ,_ノ` )ノシ 次回作にも期待せざるを得ないな



  サッ
|彡


451:名無しさん@ピンキー
07/12/11 15:07:26 lUWaeMnH
ここらで、女の幼馴染みがモミの木を切り倒そうとするのも見てみたい

452:名無しさん@ピンキー
07/12/11 16:20:59 +SXRrdy6
女だったら放火かな
寝小便するぞ!って

453:名無しさん@ピンキー
07/12/11 20:58:19 bfRfenoo
「どうせ私には恋人なんかできないんだ!こんなもの切り倒してやる!」
「バカ野郎!危ないからやめろ!それに…恋人なら俺がなるから!」
「え!?今何て―」




こうですか?

454:名無しさん@ピンキー
07/12/12 02:25:57 NuCZcnMd


455:名無しさん@ピンキー
07/12/12 10:09:48 OI0nuSzR
与作女か
レッスルエンジェルス愛という携帯ゲームにいたな
誰か幼なじみになってやってくれ

456:名無しさん@ピンキー
07/12/12 21:21:45 Lc+1h70q
>>448
どう見てもWindネタだw

>>455
ネタ濃すぎwwってかキャラわからん
しかしリングドリームのキャラが出ているとは…濃ゆいなあ

457:名無しさん@ピンキー
07/12/13 00:31:49 Ig8plY68
クリスマスネタの投下はあるのかなぁ。俺はシロクロや絆と想いや今宵の月のようになどの作品のキャラが織り成す
クリスマス話を読んでみたいのだが。

458:名無しさん@ピンキー
07/12/13 01:20:22 bGITk9Q6


459:名無しさん@ピンキー
07/12/13 02:26:52 zV9FcA6E
今宵の~は、ラストのデートシーンがクリスマスじゃなかったっけw

460:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:09 oY0XJcy0
>>353>>359
>>411>>416
の続きです


4限が終わると同時に文奈は優祐を呼びに来た。
「えぇー、弁当食いたいんだけど」
早々と弁当を開きかけていた、優祐は不満を口にする。
「お弁当も持ってきて。外で食べるから」
「はい!?」
優祐は文奈の言葉に驚きを隠さない。
何故なら今は12月。
真冬ではないにしても最高気温は15℃を切る。
「嫌だ。寒いの嫌い」
優祐はそう言って動く意志を無くしてしまう。
「大丈夫だよ暖かいから。それに付き合うって言ったのは優祐でしょ」
文奈は左手に自分と優祐の分の弁当を持ち、右手で優祐の襟首を掴み、引っ張って行こうとする。
「わーったよ。寒かったら戻るからな」
「寒くない事は保障するわよ」
文奈は優祐が立ち、ついてくるのを見ると、先導してドンドンと行く。

461:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:01:45 oY0XJcy0
「到着」
「へぇ~」
文奈が連れてきた場所は、コの字型に建っている校舎の真ん中にある、中庭だった。
この学校は後ろに山を背負った場所に建築されている。
更に山に向かってコの字形の口が開いているため、中庭は四方を障害物に囲まれていた。
「ほら、全然風来ないし暖かいでしょ」
文奈は芝山ーー芝生が敷詰められた小さい丘ーーの頂上で両手を広げて見せる。
「なるほどね」
確かに中庭は、芝生が敷かれた地面に真上から冬の陽光が降り注ぎ、風が吹くことも無く、外とは隔絶した温かさだった。
「さぁ食べましょ」
文奈は芝山の上で自分の弁当を広げる。
「あいよ」
その前に優祐も座り弁当を食べ始める。
「それちょっと頂戴」
文奈が優祐の弁当の具を指す。
「はい」
優祐はそれに答えて文奈に取りやすいように弁当箱をずらす。
「ありがと」
文奈は弁当の具をつまむと一口で食べてしまう。
「うん、これ作ったのおばさんでしょ」
優祐から貰った具を食べ終えた文奈はそう言った。
「そうだけど……やっぱ分かる?」
「うん。何となくだけどね」
文奈は恥ずかしそうに笑う。
「そっか。やっぱ母さんには勝てないなぁ……」
どことなく落ち込んだ感じで優祐はそう呟いた。

462:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:03:21 oY0XJcy0
「味じゃないんだよ。 何て言ったら良いか分からないけど……愛情……かな?」
「愛情ってお前な。臭過ぎ」
優祐は呆れ顔でそう言って苦笑する。
「だよね~。あのね、優華ちゃんにお弁当作って貰えば分かると思うよ」
「ちょっと待て。なんでそこで優華の名前が出てくるんだ?」
優祐は突然出てきた優華の名前に驚きながらも、そう疑問を発する。
「なんでって……何か有ったでしょ」
文奈の目の光が変わる。
いつもの笑っている目では無く、本当のことを見通そうとする目だ。
「何もないよ。なんでんな事考えるんだよ」
優祐は言い返しながらも、自分が少し焦っているのを感じる。
優祐は未だ、こうなった文奈の追求を逃れ得た事はなかった。
「今日の朝さ、優華ちゃんに電話するの妙に渋ってたじゃない、何でかな~って」
「いや、別に大した事じゃないし、気にしなくても……」
優祐は文奈の視線から逃げるように視線をずらす。
優祐は文奈と目を合わせると全てを白状してしまいそうだった。
それは何と言うか……格好悪過ぎる。
「じゃあ何かがあったんだ。教えてよ」
しかし文奈はしつこく聞く。
これは文奈にとっても重要な問題だった。

463:迷い
07/12/13 23:05:16 oY0XJcy0
ここ2~3年学校関係で優祐に声を掛ける子は殆どいなかった。
そこに優華ちゃんという新たな伏兵が表れたのだ、放置しておける問題ではなかったし、文奈もそう易々と渡すつもりはなかった。
だからこそ文奈はしつこく聞き続ける。
その追求に隠し通すのを諦めたのか、優祐は渋々と昨日の出来事を話始める。
「ふーん。優華ちゃんに敬語使われたんだ」
「ああ。そしたら桜は優華は俺の事が好きなんだ、とか言い始めるしさ、接し方分かんなくなっちゃって」
結局優祐は洗いざらい吐いてしまっていた。
「優華ちゃん、優祐の事好きなんだ~」
文奈は優祐を見つめてにっこりと笑う。
「いや、ないって。有り得ないって」
優祐は慌てて否定する。
「そんなの分からないじゃん」
「いや友情から恋愛にはならないって言うしさ、普通兄貴に恋心なんて抱かないだろ?」
「兄って別に兄妹でもなんでもないじゃない。それに親しいからって恋はしない!なんてのは間違いだよ」
文奈は真っ向から優祐の反論を潰していく。
「それに優祐はどう思ってるの?優華ちゃんの事」
この問いは一種の賭けだった。
もしも優祐が優華に親愛以上の物を感じているとすれば、それは則ち文奈の敗北を意味する。

464:迷い
07/12/13 23:06:48 oY0XJcy0
その問いに優祐は大きく息を吐き、間を取ってから答える。
「嫌いではない……いや違うな、桜と同じ……かな」
この答えは、文奈に取って決して最良ではなかった。
しかし最悪でもない。
文奈と優華、二人に平等のチャンスが残された状態だった。
「多分優華ちゃんは優祐の事が好きだよ」
文奈は、そう小さく呟く。
「なんで分かるんだよ」
「女の勘だよ」
文奈はテヘッと笑い、優祐の視線をごまかす。
内実文奈には絶対の自信があった。
女の子が長い時間掛けて作られた関係を壊そうとするのは、相手の事を嫌いになったか、その逆。
優華が優祐に恋した時、関係を作り直そうとしても何等不思議ではなかった。
文奈は、数年前優祐に対する恋を意識しても動けなかった。
「優祐、優華ちゃんに言っといて。簡単には渡さないって」
「はあ?なんだよそれ」
優祐は一人呆気に取られている。
「分かんないなら、そのまま伝えること」
「はあ……」
「あ、そうだ期末テスト終わったあと暇?」
「暇っちゃあ暇だけど……」
「じゃあ空けといてね。25日の昼からね」
「わ、分かった」
「クリスマスプレゼント待ってるからねっ」
文奈は優祐の肩を両手で掴んで、満面の笑みを浮かべた。

465:名無しさん@ピンキー
07/12/13 23:08:06 oY0XJcy0
以上です。

最初の方タイトル入れ忘れましたorz

それではクリスマスイブにっ

466:名無しさん@ピンキー
07/12/14 22:41:18 jr6lMuY6
もっと  妹を!!(幼馴染のほうの)

467:名無しさん@ピンキー
07/12/15 00:18:54 kHHXH9W3
GJなのです! クリスマスイブ、期待してますよ!!

468:名無しさん@ピンキー
07/12/15 21:44:44 Tm/Xe94B
幼少のころからお互いのことを何でも知ってるというのは
利点なのかそうじゃないのか。
今さら異性だって言われてもなー、みたいな苦悩が好き。

きみはどう?


469:名無しさん@ピンキー
07/12/15 23:23:08 YKIGmh+f
きみはどう……ってオマエ誰やねん
しかし>>468は、お互いのことを何でも知ってるというのは利点じゃない
だがそれが好きということか?

しかし、利点なのかどうかというのは主に幼馴染キャラ本人の問題で
苦悩が好きってのは第3者視点で見た場合の話だ
それをごちゃまぜにして考察を進めちゃあダメだ

470:名無しさん@ピンキー
07/12/16 01:02:45 fNB1SIIW
何でも知ってると思ってて、実は一番肝心なことだけ見抜けていませんでしたってパターンが王道
幼なじみという王道ジャンルにはやはり王道なパターンがよく似合う

471:コトコのハナシ_1
07/12/16 01:06:53 XxQ10Myz

 琴子の話は長い。そして脈絡がない。結論もない。
 そんな話に嫌気が差すこともなく延々と付き合っていられるのは、琴子が「聞いてる?」などと絡んできたりしないせい。
 それは僕が素っ気のない相槌でもちゃんと聞いていると知っているからなのか、それとも聞いていなくても関係ないのか。
 どちらなのかイマイチよく判らないけれど、とにかくこの晩酌の時間が、僕は好きだった。

 久本琴子と、僕こと吉見要は、いわゆる幼馴染だ。
 家が隣で、年が同じで、幼稚園から小中高と同じ学校で。
 誰にも文句を言わせないスタンダードかつパーフェクトな幼馴染だ。
 親同士の仲もよく、家族ぐるみのお付き合いなんてことが今でも続いている。
 お互いの祖父母の家にも泊まりがけで遊びに行った仲なのだ。
 そんな幼馴染を持っている人間を、僕は僕ら以外知らない。


 今日はビールと焼酎の日、と琴子が言ったので、僕はもつ鍋の材料を用意した。
 牛もつの下ゆでが終わったころに、ビールと焼酎をもった琴子がインターホンを鳴らした。
 二人でたっぷりのきゃべつとにらを切って、もくもくと切って、豆腐やもつと一緒に味付け済みのだし汁が沸騰する鍋に放り込んだ。
 しなーとキャベツがその身の質量を減らしながらだし汁を吸収する様を、二人でじっと見つめた。
 食欲を刺激する、にんにくと醤油の香りの湯気がたっぷりと台所に立ち込めて、口のなかに唾液が溢れる。

 美味しそうだね。
 琴子が嬉しそうに言う。
 美味しそうだね。
 僕も嬉しくなる。

 スープを小皿にとって一口舐める。うん、完璧。
 もう一口分取って、琴子に手渡す。犬のようにぺろりと舐めた琴子も満足そうに微笑んだ。
 ついでに一切れ取り出した牛もつは充分に柔らかく煮えていた。
 ただし口に放り込んだら熱くて喋れない。
 ほふほふと口内の熱を逃がしてやりながら、右手の親指と人指し指で丸を作って琴子に示す。
 期待たっぷりで頷いた琴子が、冷蔵庫からグラス二つとビールを取り出してダイニングへ向かう。
 僕は火を切って換気扇を止めると、鍋つかみとダスタを駆使して土鍋の耳を持ち上げた。
 ぐっと腕に心地好い熱さと重み。
 今から琴子と二人でこいつを平らげる幸福な予感に、自然と口元が緩む。
 ダイニングテーブルの脇には、やっぱり嬉しそうに口元を緩めた琴子が鍋と僕の到着を待ち詫びていた。

 こんなにも息がぴったりなのに、残念ながら琴子と僕は恋人同士でも夫婦でも、家族でもない。
 限りなく家族に近い異性の友達。
 大抵の友人が、僕らの関係に首を捻る。
 いくら捻ってもらっても、そういう友達をもっていない彼らに理解は不可能で、結論なんて出てこないだろう。



472:コトコのハナシ_2
07/12/16 01:07:27 XxQ10Myz
 小学校の低学年までは一緒に遊んだり登校やら勉強やらもしたけど、そこはやっぱり男と女。
 気がついたら朝は別々に登校をするようになったし、学校で会っても挨拶だけになったし、ずっとクラスが違ったから「今日の課題なに」なんて電話も掛ってこなかった。
 それでも定期的に、どちらかの家で誰かの誕生日食事会なんかが開かれたし、琴子の弟の伊織―僕らはみんなイオ、と呼んでいる―はうちにゲーム目当てで入り浸っていたから、暇を持て余した琴子が格ゲー大会に参戦することもあった。
 ごく稀に一人で僕の本を借りに来たときには、最近どう、なんて話もした。
 だからお互いの成績も交友関係も、初めての恋人も、将来への不安なんかも大体把握していた。

 大学への進学と同時に、僕は実家を出た。
 年に数回帰った時には、琴子とイオがなぜかうちに夕飯を食べにきて、話すことといったら現状よりも昔話ばかりで、照れくさいながらも幸福の形を見ているような気がして。僕は帰省をしょっちゅうしていた。
 そのまま就職をして、地元への移動願いを受理されたのが2年前。
 帰るよ、と母親に報告をしたら、あらあらあら困ったわぁと予想外の返事がきた。
 何でも父親が、地方の子会社の支社長に就任するらしい。

 栄転じゃん、よかったね。何にも出来ない父さんに、単身赴任なんてさせたらだめだよ。
 家だけ僕に貸してくれない? なんたって筋金入りの一人暮らしだから、ちゃんとやるよ。お隣もいるし。

 僕は別に一人でも困るなんてことはなかったから、母さんにそう伝えた。
 母さんは、また家族がばらばらね、と少し寂しそうだった。
 でもそれも、長くて5年ぐらいの話だし。要がちゃんとしてくれるなら、他人に貸すより安心だわ。
 両親は親から夫婦へ戻っていて、僕は一人の男としての生活がすれ違いに継続された。

 だだっ広い一軒家の一人暮らしは、案外快適だった。
 掃除だけは大変だけど、一人分の食事や洗濯なんてたかが知れているし、僕を心配した隣のおばさんがしょっちゅう琴子におかずを持たせてくれるから不自由を感じることはなかった。
 住み慣れた家、歩き慣れた土地、そしてお隣さん。
 僕の生活はそれなりに充実しながら淡々と過ぎていた。

 琴子が突然、飲まない、とやってきたのは春ごろのこと。
 それ以前も、帰省のたびに酒の肴に惚気や愚痴を聞かせてもらっていたのだけど、このときはほんとうに突然だった。
 1ダースのビールを抱えた琴子が玄関先で僕の帰宅を待っていたのだ。
 飲まない? っていうか、どうしても、付き合ってほしいの。
 泣きそうな琴子の笑顔は、今思い出しても胸がずくんとする。



473:コトコのハナシ_3
07/12/16 01:08:00 XxQ10Myz
 彼氏と別れてちょっと辛くて。
 そういうときいつも頼りにしていた同僚の親友は現在年下の恋人に夢中で、とても失恋の痛手を分かち合う相手に不適切だ。

 そんなもん?
 僕は聞いた。
 そうだよ、と琴子は3本目のビールをあおりながらはっきりと答えた。
「だいたい」
 ストーンチョコレートを一粒舐めながら、琴子は続ける。
「前は隔週で飲みに行ってたんだよ。でも最近は月一なの。ハッキリ言わないからよく判んないけど、たぶん彼氏に気を使ってるんだと思う」
「うーん」
 隔週が月一になったからって、全然変わらない気がするけど。
 琴子にとっては重大なのかな。
「私が悲しいのは、彼氏を優先にすることじゃなくて、あの子が彼氏くんがどんなひとなのかとか、どこで出会ったのかとか、いつから付き合ってるのかとか、なーんにも教えてくれないこと」
「そのひと、秘密主義?」
「違うんだけど、こればっかりは聞いてもすぐに誤魔化すの。不倫でもしてないか心配だよ。
 なんでなんにも言ってくれないんだろ。私は余計なことまで聞いてもらってきたのに。
 寂しくって、勢いであんな変な男と付き合っちゃったよ」
 私ってほんとばか。寂しいってほんとだめ。
 口の中でぶつぶつと繰り返しながら頭を抱える琴子を、衝動的に抱きしめたくなって驚いた。
 いい感じに酔っている。酔うと人恋しい。一人で飲んでもつまらないのは、温もりが足りないからだ。

 抱きしめる代わりに、そっと手を伸ばして頭を撫でる。
 弾かれたように琴子が顔をあげて、きれいなアーモンド形の瞳を真ん丸く見開いて僕を見つめ返した。
「要?」
「ん?」
「なに?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「うん」
「そっか」
 くすぐったそうに琴子が笑って、もっと、というように顎を突き出した。
 そのくちびるにキスをしたくなった自分にまた驚きながら、ちょっと乱暴に琴子の前髪をぐいと弄ぶ。
 ふふ、と口の中だけで琴子が笑った。

「ね、また飲むの付き合ってくれる?」
「いいよ。暇だし」
「遠距離の彼女は?」
「あれ、言わなかったっけ。ふられたよ。好きな人が出来たんだって」
「知らないよ。いつ?」
「半年前かな。もう自然消滅っぽかったし」
「そっか。私たち、失恋コンビだね」
「コンビか。そうかもね」
 その彼女とはもう1年も会ってなかったし、そもそも地元に帰ってくるタイミングで別れたつもりだったから特に失恋の痛手を背負ってはいないけど、琴子が分かち合えると思ってくれたならそれでいいか、と僕はアルコールでくらくらする頭で考えた。



474:コトコのハナシ_4
07/12/16 01:08:58 XxQ10Myz
 酒に弱くもないけど強くもない僕らは、その日二人でぐだぐだと話しながら深夜3時までかかって10本のビールを開けた。
 琴子はそのまま居間で寝てしまい、彼女を客用の布団に運んだ僕もそのまま隣で眠ってしまって、翌朝には二人で仲良く二日酔いだった。
 それでも不思議と気分は悪くなかった。
 また飲もうね、と顔をしかめながら笑った彼女が、早く失恋の痛手から抜けられたらいいと僕は願った。


 金曜か土曜の夜ごとに琴子が酒を片手にやってくる。
 あの日以来そんな妙な習慣ができてしまった。
 たまには外に飲みに行くこともあるけれど、僕の家の匂いが好き、と琴子は内食を好んだ。


 今日の料理は完ぺきだ。
 冬に相応しいいでたちの湯気を上げる鍋を見下ろして、自己満足に浸る。
 取り分け用の小皿もちゃんと用意して。
 今日の酒盛りの準備は完了だ。
 きんと冷えたビールで乾杯。
 ぐいと同時に煽る。
 ぴりりと突き刺すような炭酸と、幸福の象徴のような苦味が乾いた喉を滑った。
 うまい。
 きっと僕は、このために、一週間働いてきたんじゃないかとすら思う。

 もつ鍋の中身を、琴子が取り分けてくれる。
 はい、と手渡されて、ありがとうと受け取る。
 琴子が自分の分をとりわけるのを待って、同時に口に入れて、同時にあつ、と眉根を寄せた。


 喉が潤い腹が満たされてきた頃に、琴子と僕は取り留めもなく話を始める。
 学校のこと、友人のこと、趣味のこと。
 今日の琴子の話題は、半年前に分かれた件の元彼について、だった。

「結局ね、先生やってる私が好きだったんだよ」
「うん」
「この仕事、好きだよ。だけど、ちょっと逃げ出したくなるときもあるじゃない?」
「あるね」
「別れて半年後に元カノと結婚って、酷いと思わない?」
「酷いね。同時進行だったんじゃない?」
「そうかもしんない。琴子なら忘れさせてくれると思ったけど、なんて、甘えすぎ」
「うん」
「友達でいてくれる、なんて聞いた私がばかだった。うん、なんて言わないでほしかった。それに囚われてる私は究極のばか。何で結婚してからの方が頻繁にメールくるの?」
「マズいね。もう拒否ったら?」
「うん、昨日そうした」
「偉いね、琴子」
「ううん、私、ほんとうにばか」

 頑張るなあ、と僕は他人事のように思う。

 琴子は決して恋愛をおろそかにしているわけじゃない。
 だけどそれ以上に、仕事に熱中をし過ぎている。
 社会人を数年もやれば、力の入れ所と抜き所が適度に判ってきていて、入社したてのころに抱いていた仕事に対する情熱とか希望とか、青臭いものを恥ずかしい、だなんて判ったように見下したりする。
 忙しいなんて言いながらご多分に漏れず僕もそうだ。



475:コトコのハナシ_5
07/12/16 01:10:10 XxQ10Myz
 だけど琴子は、社会人5年目になった今でも高校教師という仕事に情熱と誇りを持っている。
 のらりくらりと仕事をいい感じに適当に頑張っている男にとって、彼女はさぞ暑苦しいに違いない。
 その熱を、自分に向けてくれたら、だなんて考える気持も、実は、判る。

 結局温度差が大きくなりすぎて、面倒になった男が別れを切り出す、というのが聞いている限りいつものパターン。
 例の元彼氏は、とにかく短かったなあという記憶しかないらしい。
 確か、2ヶ月ぐらいだったかな。
 その付き合ってる2ヶ月の間で、会った時間はたぶん、合計10時間ぐらい。
 職業柄、年度の替わり目は忙しいからしょうがない。
 その時期は、顧問を務めるバトミントン部の卒業生のため、在校生たちと寄せ書きやら手製のアルバム作りやらに追われていたに違いない。
 「へー琴子さん先生なんだ」と言って近づいたんだったら、そこんとこ理解していないのは究極におかしい。
 想像力のない人間は、これだから困る。

 目の前の琴子は、泣いてはいないけれど、はぁぁと盛大なため息を落としながら酒を舐めている。
 恋をして、失恋して、しばらく男はいい、なんて言ってまた仕事に打ち込んで、突然思い出したように合コンやら友達の紹介やらで彼氏を見つけてくる琴子。
 彼女は人見知りをせず誰とでもすぐに親しくなってしまうし、肩のあたりでふわふわと揺れる髪型やアーモンド形の大きな瞳のせいか、一見柔和で穏やかでどこか頼りなくて、守ってあげなくちゃいけないような気になる。
 だけど実際の琴子は、実は姉御肌で面倒見がよく、なまじの男よりさばさばと割り切った付き合いを好む。
 会えないからって無駄に寂しがることはしないだろうし、メールや電話も、毎日はやってられないよ、とすぐに投げ出すし、仕事は忙しいしで、本気の度合いを疑われても致し方ないだろう。
 当の琴子は、彼氏ができたからって仕事や趣味の時間を削る気はさらさらないし、恋人を置いて女友達と海外旅行に出かけたりもする。
 そのギャップについていけない男が多いのも、納得はいく。
 付き合い始めで燃え上がっている時期にそうやって、自分の世界にのめりこんでいる彼女に置いてきぼりにされるとなぜか冷めてしまうものだ。
 このひとが自分を好きだと言ったのは嘘で、自分がこの子を好きだと思ったのも勘違いだったんじゃないかと。

 僕に言わせれば琴子はちゃんと恋人を大事にしている。琴子なりのやり方で。
 そのひとに合わせて映画が好きになったり、アウトドアにハマったり、スノボに出かけたり、日本酒にやたら詳しくなったり。
 おかげで琴子はびっくりするほど多趣味になった。
 全然無理をしていないところがまたすごい。

 頑張るよなあ。僕なんて、おかげさまで忙しい仕事と琴子の相手で手一杯。彼女を見つける暇もないし、見つけたいとも思わない。

 いつもは別れた男のことなんて、1月もすればきれいに忘れてしまう琴子なのに今回は珍しく長く引きずっている。
 そんなにも好きだった、とはちょっと違うだろうと、僕は予想している。
 たぶん、何も始まらずに終わったから惜しいんだ。
 すぐに結婚をしたと聞いて、逃した魚は大きいとか、考えているんだと思う。



476:コトコのハナシ_6
07/12/16 01:10:44 XxQ10Myz
「でさ、結局琴子は、彼氏が欲しいわけ? 結婚がしたいわけ?」
「結婚」
 琴子は即答する。
 まあ年齢的に無理もない。僕らはもう27になってしまった。
 僕は男だから、まだいいかなーなんて悠長なこと考えているけど、琴子は女だ。
 一番あせる年頃だし、周りからもさぞせっつかれているんだろうと想像はつく。
「結婚がしたいの? 結婚式がしたいの?」
「要……私、そこまで夢見る夢子ちゃんじゃないよ。あのね、人生を一緒に生きてくれる人が欲しいんだ」
 人生を一緒に? それは大概夢子ちゃん的発想じゃないかなと僕はふと思ったけど、ふぅんとだけ呟いて焼酎を舐める。

「必要条件ってある?」
「あるよ、あるある」
「どんな?」
「煙草吸わないひとのほうがいい」
「へー」
「あとスーツで仕事に行くひとがいい。出来たら眼鏡」
 形から入るタイプの琴子らしい。僕はこっそり笑った。
 しかし眼鏡でスーツの男なんてたくさんいると思うけどな。そういう僕も、そのスタイル。
「それでね、白衣着てたら最高。でもお医者さんがいいってわけじゃない」
 白衣。なぜ白衣。
 そのフェチズムは理解に苦しむ。
「僕は会社で作業着のジャンパー着るけど」
「作業着かあ。2割減だなあ」
 でも8割は残してもらえるわけか。
「琴子、見た目ばっかりだね」
「……そうだね…………えっとー、例えばね、デートで電車に乗るじゃない?」
「うん」
「で、目的の駅で、うっかり乗り過ごしちゃった時に、じゃあ予定変更して行けるとこまで行ってみようよって、言ってくれるひとがいい。
 その先に、思いもよらなかった楽しいことがあるかもしれないじゃない?」

 琴子がグラスを揺らして、焼酎に浮いた氷がかららんと涼しげな音をたてた。
 へえ、と僕は呟く。
 まあ琴子はそうだよな。明日からアメリカに転勤ですって言われても、満面の笑みで行きますと即答して、行ったらすぐにその土地に馴染んでしまうに違いない。
 人生を楽しく過ごす術を、琴子はよく知っている。
 その楽しい人生を一緒に生きる男はどんなヤツなのか。
 嫌な想像に僕は眉根を寄せて、ぐい、と残り少なくなってすっかり味の薄くなった芋焼酎を煽った。

 早く見つけないとね。
 僕のグラスに新しい氷と焼酎を注ぎいれながら、琴子が言う。
 いつまでも要に甘えていらんないもんね。
 はい、と差し出されたグラスを受けとって、僕は曖昧に微笑んだ。

 いつまでも甘えてくれていていいのに。
 琴子が望むなら、いつでも甘えさせてあげるし、そばにいてあげるし、絶対に琴子を悲しませたりなんかしない。
 僕は煙草を吸わないし、琴子の好きな眼鏡とスーツだし、電車を乗り過ごしたら乗り換えるのが面倒になると思う。
 あいにくジャンパーだけど、なかなか琴子の好みに合致してるんじゃない?
 だけど琴子が望んでいるのはそういう僕じゃないんだろう。



477:コトコのハナシ_7
07/12/16 01:11:42 XxQ10Myz
「ああ……出会いってどこにあるんだと思う?」
「どこだろうねえ。その友達の彼氏さんの友達とかは?」
「だめ。イオより年下だって。弟より年下は、ちょっと無理」
「じゃあ合コン?」
「うーん、あのね、私気がついちゃったんだ」
「うん」
「合コンって悪くないんだけど、なんか駆け足でしょ。駆け足は悪くないんだけど、なんか違うの」
「違う?」
「こう、気がついたら好きだった、みたいに、穏やかに始めたいんだなー。そしたら穏やかにゆっくり続いていきそうな気がするじゃない?」

 琴子はやっぱり夢子ちゃんだ。
 まだそんな思春期みたいな発想を持っているんだ。

「あ、いい年してって思ってるな?」
「思ってないよ。そういう恋愛だったら、職場とかじゃない?」
「今の学校、若い独身の先生がいなくて。あとは生徒?」
「それはマズいね」
「でしょ。懲戒解雇ものだよ。第一、高校生なんて図体だけ大きくて子供だもん。そこが可愛いんだけど」

 そういえばこないだ山井がね、と生徒の話を嬉しそうに琴子は始めて、出会いの話は宇宙のほうへと押しやられていった。

 だから僕は、―僕にしとかない? なんて、恥ずかしいセリフを、酔った勢いでうっかり吐いてしまわずに済んだのだった。


*

 眠い、と琴子が目を閉じそうになったので、とりあえず歯を磨きにだけ行かせて客間に布団を敷いた。
 これもすっかり琴子専用になってしまった。
 隣に帰れないぐらい酔っているとはとても思えないけど、外に出ると酔いが覚めて嫌だと琴子は我がままを言って、3回に1回はここで眠ってしまう。
 酔った勢いのまま眠るために、事前に入浴まで済ませてくる周到っぷりだ。
 戻ってきた琴子にお休みと挨拶を交わして、僕は入れ替わりに居間を出て風呂場へ向かう。

 熱いシャワーを浴びて、もどかしい思いを抱えたまま髪をトニックシャンプーで豪快に洗いながら、そして飛び散った泡を一人虚しく洗い流しながら考えるのは琴子のことばかりだった。


 琴子と僕は幼馴染だ。
 恋人じゃない。
 家族じゃない。
 友人、というのもまた違う。

 付かず離れずの微妙な関係。
 例えるならイトコが一番近いんだろうけど、それにしては距離が近すぎて繋がりが薄すぎた。

 琴子はたぶん、僕のことをイオと同列に考えているんだと思う。
 だけど生憎、僕にはとっくに結婚した兄貴が一人いるだけで、同列に並べるべき人間が一人もいない。
 姉か妹でもいたらまた違ったかもしれないけど、最近の僕は琴子の定位置を決めかねている。



478:コトコのハナシ_8
07/12/16 01:13:13 XxQ10Myz
 あの日抱きしめたくなった琴子は間違いなく女の人で、家族だったはずなのに僕にとってはどうしようもなく女性で。
 でもいきなりそんな感情を抱いては、琴子に申し訳ない気がした。

 琴子の初恋の人だって知っているし(ちなみに僕の兄貴だ)、いつまでおねしょをしていたかも、初めての彼氏も、ファーストキスの場所も、なぜか初めてのセックスの相手も知っている。
 もちろん琴子も、僕の人生のほぼ全てをなぜか把握していてくれている。
 こんなにもお互いを知りすぎている関係を変えてしまうには、今さら過ぎた。

 例えばこれが10年前だったら。
 もう少し何も考えずに、とても素直に想いを告げられたはずだ。
 だけどあの頃は、お互い違う恋人がいて、違う夢を持っていて、違う人生を歩き始めていた。
 だから琴子は琴子でしかなくって、恋人や好きな人、なんてカテゴリにはとても入れられなかった。
 今はただ、そのことが悔やまれる。

 結局、僕たちは、年をとりすぎてしまった。
 大人になって大きな間違いを起さなくなるのは、守りに徹するようになるからだ。
 喪失は絶望で、変化は恐怖だ。
 大切であるがゆえに、僕は琴子を失いたくない。
 臆病すぎると自分を罵るものの、無くすぐらいなら現状維持で、なんて後ろ向きな思いを、27年の人生の中で一番強く抱いている。
 強がりなんてひとかけらもなく、そう考えている。

 彼女が求めているのは男としての吉見要じゃなくて、家族としての僕なのだ。
 人生を頑張って生きている琴子の、安らぎでいたいから、僕は僕の感情に気が付かないフリをする。
 もうずっと、そんな平和な嘘を続けている。

 でも、琴子がもしも結婚をしてしまったら、僕はどうするのだろう。どうなるのだろう。
 兄貴が結婚を決めた時に抱いた感情とは、絶対に違うだろう。
 あの時は単純に、兄貴の幸せと家族が増える喜びが湧き上がってきた。
 だけど琴子が結婚をしたら、もう、こんな風に二人で酒を飲んだりなんて絶対に出来なくなるだろう。
 琴子が、人生を共に生きる伴侶だよ、と紹介するその男に、僕はなんて声をかけるんだろう。

 ますます後ろ向きな想像にぼんやりと浸っていたら、くしゅんと大げさなくしゃみがもれた。
 壁にシャワーを打ちつけながら動きが止まっていたらしい。
 溜息をひとつついて、風呂掃除を続行する。
 掃除はいい。
 一つ泡を流す度に、心の淀も一つ流れていくような錯覚を抱ける。




479:コトコのハナシ_9
07/12/16 01:13:52 XxQ10Myz
*

 髪を拭いながら居間へ戻ると、常夜灯の薄ぼんやりとした明かりの中にみのむしのように布団にくるまった琴子の姿が浮かび上がっていた。
 小さい頃から今でも変わらず、琴子は左を下にして海老のようにくるりと丸まって眠る。
 左手がしびれたりしないのかな、と不思議だけど、どうやら平気らしい。

 そっと枕元に跪いて、その寝顔をのぞきこんだ。
 幸せそうな眠り姫。
 人の気も知らないで、どんないい夢見てるんだろうな。

 手を伸ばして、指先でそっと前髪を撫でる。
 ぴくりと瞼を震わせた琴子が、振り向いてうっすらと眼を開けた。
「……ごめん、起こした?」
 ううん、と掠れた声で首を振った琴子が、ずる、と身体をずらして、あろうことか布団を持ち上げて僕を招く。
「………………いいよ、自分の部屋で寝るから」
「……寒いの」
 ぼんやりとした寝ぼけ眼で見上げられて、胸の奥が痺れた。
「琴子」
「だってヒャドがいないもん」
 ヒャドっていうのは琴子の家で飼ってる猫の名前だ。
 拾い主のイオが、俺がイオだからこいつはヒャドな、なんてふざけた主張をしたがために、残念な命名をされた彼を琴子は溺愛している。
「家に帰らないからだよ」
「……要のいじわる。いいじゃん、一緒に寝よ? ヒャドいないもん」
 ぐっと僕の寝間着の袖をつかんで、琴子が誘う。
 あくまでヒャドの代理ですか。

 大げさにため息をついて、そっと琴子の温もりで満たされた布団に忍び入る。
 くすぐったそうに琴子が笑って、おやすみ、と言い切る前に目を閉じた。
 すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
 相変わらず寝つきのいいやつ、と笑いそうになった。
 押し殺した吐息を察したように琴子が、のそのそと身を寄せてきて、温かくて滑らかな足が、僕のそれに密着をする。

 あのさ……琴子。まったく、僕をなんだと思ってるわけ?

 そっとあたまを撫でて、つむじにくちびるを落とす。柔らかいシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐって胸の奥がどくんとした。
 琴子って無防備だよね。
 聞こえないように囁く。
 もちろんこの無防備さは相手が僕であるが故なんだろうけど。
 5年前だったら襲ってたかもしれないけど、今の僕は余裕な大人なのだからそんなケダモノみたいな真似は出来ないのだ。
 後のことを考えると、やっぱりね。怖気づいてしまうんだ。


 寝るときに絶対琴子の布団に入ってくるらしいヒャドは、今日はどうしているんだろうとか、どうでもいいことを考えて気分を落ち着けつつ、そっと僕は眼を閉じた。





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