【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】 - 暇つぶし2ch100: ◆QiN.9c1Bvg
07/08/25 00:07:14 pl/e2VgM
以上、投下終了です。

書いてからいつも思うんですが、文を書くって難しい……
終わってみれば序盤とはいえ、今回もヤマが無い始末。
次回からは時計の針を早くまわして行きたいと思いますので、よろしくお願いします。

あと、前スレで指摘がありました、和美の長髪の件ですが、
その、書くのも下らない伏線になっております。ご指摘の分も含めまして見て頂けると幸いです。

次回もよろしくお願いします。では。

101:名無しさん@ピンキー
07/08/25 00:13:54 gjLxUkzY
早速GJ! シロクロにしろ絆と想いにしろ三人にしろ高校の話だから、初々しい感じの中学生、しかも一年生というのはいいね!

二人で仲良く弁当食っといてそれが何を意味するか分からないなんて……。

フフフ……そんな初心な勇希に萌え萌えだぜ!!

102:名無しさん@ピンキー
07/08/26 06:42:04 j32x08rA
これは百合wwwww

いやなんでもありませんwwサーセンwww

GJ!!楽しそうな学園生活だな

103:49 の前日談 1/2
07/08/28 19:08:27 mhKwCwUI

「……祥子ぉ、アンタいいかげん、その腐れ処〇膜、特別急行にでも破いてもらったらぁ~?
あ~、なんだったら、アタシの彼氏、貸すよぉ? 超鈍行だけど編成数多めで、結構デカイからぁ
アンタとぉ~、アタシとぉ~、アンタの想い人ぐらい、縦に重ねても、余裕で串刺しぃ……」

 この前の飲み会の時、隅っこで超薄っすいチューハイをちびちび舐めてた私の耳元に
酒臭い息を吹きかけながら、ちーちゃんはこっそりそう囁いてくれた。
そしていきなり咳き込んだ私を、その凶暴までに大きな胸へぎゅーーーーっと押し込めつつ
イイコイイコしてから、『んじゃ、私にもご褒美ぃ~』とか言って、私の太ももにぽすんと
顔を伏せ、そのままぐりぐりめり込ませてくる。

「ちっ、智津子ちゃん、ちょっと飲み過ぎ……。気分悪くなってない? 別室で、ちょっと休む?
 それとも、酔い覚ましのお薬買って……」
「そっかそか、祥子はそんなに『御休み所』に逝きたいのかぁ~。良ぉし良し、愛い奴じゃぁ~」

 親友がそんな事を大声で喚いても、殆どの同僚がそれ以上の乱痴気騒ぎを繰り広げていたので
幸い誰にも聞きとがめられなかったと思い込み、その時は迂闊にもホッとしてた。
しかも、ちーちゃんは『う~ん、遥か昔の懐かしき、処女の匂い~』とか言いながら、絶えず
変な刺激を与えてこようとするので、本当に始末が悪い。

 ほとんど泣きそうになりながら思わず、鉄ちゃんの姿を探すと、運良くちーちゃんの恋人の
若狭君の近くでウーロン茶を啜っていたので『お願い、こっちに気が付いて下さい』視線を
投げようとした途端、鉄ちゃんが顔を上げて、真正面から私を見た。
  
 それだけで、心臓が跳ね上がり、お腹の一番奥深い所から、熱い何かがじわっと流れ出る。
だから一瞬、鉄ちゃんの顔が、微妙に歪んだのは、自分の目の錯覚だと思った。


 べろんべろんに酔っ払っちゃったちーちゃんを、若狭君ごとタクシーに無理矢理押し込む直前
親友が私の耳元でもう一度、はっきり囁いてくれた。

「祥子~ぉ、アタシが貸してあげた『資料』で、毎日ちゃんとお勉強してま~すか~ぁ?」
「……ぅん……」
「勉強熱心で、本当にアンタは良い子だ~ぁね~」

 タクシーが街頭から少し離れた所に止っていたのが幸いして、私の顔がその瞬間、火を噴いたのは
多分ちーちゃんにしか解らなかっただろうが、声が少し震えたのは若狭君にもばれたかもしれない。
ちなみに、ちーちゃんの彼氏の若狭君は『お口とオッパイでの御奉仕』が大好きな人だそうで……。
しかも、ちーちゃんが一週間ごとに私に押し付けてくる『資料』とは、二人の隠し撮り無修正××テープ。
更に、400字詰め原稿用紙一枚以上の感想文提出まで、平気で要求してくる始末。
コレは、若狭君は絶対知らないちーちゃん個人の秘密な趣味だから、私は永遠に孤立無援だ。


104:49 の前日談 2/2
07/08/28 19:10:52 mhKwCwUI
 
 タクシーのテールランプが完全に見えなくなるまで、私はそこでしばらく深呼吸を繰り返していたら
誰かから、いきなり肩を叩かれて、本当に腰が抜けるかと思うぐらい驚いた。

「ひぃやぁぁぁ……、もがっ」
……人聞きの悪い反応はやめて貰えないかね、祥子君」

 薄い眼鏡の奥から、爬虫類みたいに何処を見ているのかよく解らない視線を光らせて『清竜鉄道一の
教育者』を自称する、菅さんが私の背後にこっそり忍び寄って来てた。

(うわ、私、この人、凄く苦手……)

 でも、鉄道会社はサービス業。
どんなに、見た目や第一印象が嫌いなタイプでも、まずはにっこり笑って、愛想良く応対しなきゃ
いけない基本精神だけは、しっかり叩き込まれてる。
特に私みたいな、ちんちくりんが持つ事の出来た武器は、満面の笑顔しかありませんでしたから。

「……えっと、何か御用でしょうか?」

 (何でこの人、私を名前で呼んだだけじゃなく、にたにた笑いながら、私の手を撫で回しているのかなぁ?)
なんて、ぼんやり思ってるあたりで、自分もかなり酔っている事に気が付かなきゃいけなかったみたいで
次の瞬間、菅さんが、私の手を強引に握り締めて、一直線に向かう先はピンク色のネオンがかなり安っぽい
ブティックホテル。

「……え? え? え?」
 
 強引に振り払おうにも、完全に力負けしてる。
しかも、菅さんは卑怯にも『鉄也くんがアソコの前で待ってるって言ってたよ』なんて口走ったので
一瞬、抵抗する力が抜けて……。
 
『げずっ!!!』

 とか、かなり痛そうな音がして、菅さんの体がぐらりと傾いた。
そのまま、誰かが自分の体を、小荷物みたいに脇に抱えて、より暗い方に即効で運搬される。
後ろで、なにか獣が大声で喚いていたけれど、目の前がぐるんぐるんして……。


  次に気が付いた時、私は鉄ちゃんの大きな背中に、ぐったりおぶさっていた。


 当然、翌日全然二日酔いなんかしてない超爽やか顔のちーちゃんが、やっと勤務が終わって
瀕死状態の私に新しいテープを押し付けるのと同時に『鉄也さんから、頼まれたんだけど~』
とか言いながら、二日酔いに苦しむ私の耳元で、延々3時間以上にわたって、惚気とお説教を
シームレスで呟き続けると言う、言葉攻めをしてくれた。

105:名無しさん@ピンキー
07/08/28 19:12:12 mhKwCwUI
>>88
 では >>78 の続き電波を受信する作業に戻ります 
 サーセンwww

106:名無しさん@ピンキー
07/08/28 22:14:53 MKiFQIh5
ぬはwwwwGJwwwww!!

祥子さんモテモテだな! 鉄ちゃん早くお仕置きしてあげないとやばいぞ!


107:名無しさん@ピンキー
07/08/29 04:11:31 Lm7s0tKI
管キメエwwwwwwwwwwwwww

こいつを拷問するSSキボンwwwwギャグ風味でもいいからさwww

>>105GJ!!

108:名無しさん@ピンキー
07/08/29 08:25:08 AVC26q/Y
>>105
アンカーのったら自分のレス表示されて吹いたwwww
俺キメエwww恥ずかしいww

わっふるわっふる

109:名無しさん@ピンキー
07/09/01 05:19:53 xGctEgS9


110:105
07/09/01 13:03:17 9t8FUvOv
10レスほどお借りします

111:祥子と鉄也 1/10
07/09/01 13:04:59 9t8FUvOv

私より2つ年上の、とても気の良い、鉄道が大好きな幼馴染は、ずっと『私のヒーロー』だった。

   田植え前、きれいに代かきされた田んぼの深い泥に足を取られて、全然動けなくなった時も
   七夕お泊り会の深夜、怖い話を聞きすぎて、一人で真っ暗なおトイレにいけなくなった時も
   ドングリ拾いの帰り道、崖の高い所に咲いている竜胆の花が、どうしても欲しくなった時も
   大雪の翌朝、融雪路の雪捨て場にうず高く積もった雪を踏み抜いて、危うく流されかけた時も

 何時でも鉄ちゃんは、莫迦な私をちゃんと助けてくれて、拙い言葉で背一杯感謝の気持ちを伝えると
『さっちゃんは、面白いからほっとけない』とか言って、私のお下げを2、3度引っ張るのが癖だった。

 本当の事を言うと、幼かった時の私にはイマイチ良く解らなかった旧国鉄車両の微妙な差異をいかにも
楽しそうに滔々と熱く語るその内容よりも、きらきらと目を光らせてる真剣な顔にずっと見とれていた。

 だけど、小学校高学年頃から、何故か前みたいに気安く『さっちゃん』ではなく、他人行儀な『祥子さん』
なんて呼ばれ始めてしまった事に少し寂しさも感じたが、鉄ちゃんは中学校で剣道部に入ったあたりから
初夏のイタドリみたいにぐんぐん背が伸びて、声が低くなり、体つきもすごくがっしりして、あっという間に
男の子から男の人になっていったので、それも仕方が無い事なのかなぁ……と思って我慢した。

 一方の私は、鉄ちゃんのお家にも『お赤飯のおすそ分け』をした頃から、背が全然伸びなくなって
胸に付いた以上に腰や太ももに重たく余計な肉がどんどん集まって、ひどくみっともない体になっていた。

 それでも、『清竜鉄道同好会』は、ずーっと鉄ちゃんと私と結局本当にいたのか最後まで良く解らない
何名かの幽霊部員とで、二人がご近所さんだった小・中・高校の12年間は、なんとか細々続けてこられて。

  だから、私が、鉄ちゃんの隣に永遠に居ても良いんだと、一人で勝手に思い込んでしまった。

 勘違いにやっと気が付いたのは、鉄ちゃんが遠くの大学から始めて帰省してきた高二の夏の暑い日。
鉄ちゃんの隣の洒落た日傘の影では、背がすらっと高くて、胸が大きくて、とても垢抜けた、綺麗な都会の
女の人が凄く楽しそうによく通る高い声で、絶えず笑ってた。


112:祥子と鉄也 2/10
07/09/01 13:06:16 9t8FUvOv

井戸でよく冷やした西瓜に麦わら帽子を被せ、鉄ちゃん家の軒先に黙って置き去りにして、一人でまとめた
『清竜鉄道同好会』のレポート抱えて西日に照らされながら、とぼとぼ自分の家へ逃げ帰り、深夜お風呂の中で
12年間以上何にも言わなかった自分の大莫迦さ加減を噛締めながら、生まれて始めて本気で泣いた。

 一年目と二年目は同じ人で、三年目と四年目はそれぞれ違う人。
夏になる度に、背が高くて、胸が大きくて、赤いバラみたいな雰囲気が共通している女の人を連れて
帰ってくる鉄ちゃんと、絶対鉢合わせしたくない一心で、私は毎年一週間決まって酷い夏風邪を患う。

 そして、枕元には毎年律儀に、都会の鉄道会社の期間限定グッズ(主に食べ物)が、届けられた。
玄関先で、お母さんが鉄ちゃんに色々と上手く謝ってくれてる声を布団の中で必死に耳をそばだてて聞き
その後必ずタヌキ寝入りをして、最後にはお母さんからも酷く怒られてしまったけれど……。

 地元の短大を卒業後、保母さんになるつもりだったのに、鉄ちゃんが『清竜鉄道』に入社するらしいと
聞いて、駄目元で試験を受けたら『清竜鉄道同好会』のレポートが功を奏したのか見事、補欠合格。
総合職として採用予定だった大学卒の女の人が、入社直前に寿辞職して、本当に同僚になってしまった。

  鉄ちゃんの邪魔にならない程度の距離から、こっそり見ているだけで、十分だったハズなのに。

 学習能力の無い莫迦な私は、又同じ過ちを犯してしまった。


113:祥子と鉄也 3/10
07/09/01 13:08:01 9t8FUvOv

「おい、祥子」

 ともすれば、後悔やら罪悪感やらで見っともなく震え出してしまう声を、極めて短い語彙の
命令口調でなんとか取り繕ろう事にして、俺は意地の悪いニヤニヤ笑いを貼り付けた顔のまま
俺の戒めから必死で逃げ出そうと無駄な努力を続けている、哀れで愛しい幼馴染を見下ろした。

「聞いてんのか、痴女」
 
 ぎゅっと固く閉じられた瞼からはとめどない煌めきが流れ落ち、泣き声を漏らぬように
強く引き結ばれた薄赤い口元は、俺からの許しの接吻を乞うかのように、わなないている。
力の入らない両手で、弱々しく俺を押し退けようとしているが、どうやら腰が抜けたようで
女の子座りの格好で力無く投げ出されている両足は、青い血管が浮き出して見えるほど白く
むっちりとした太ももが時折ひくひく痙攣するだけで、少しも動かせていない。

「……いっ……ゃ……ぁぁぁ」
「い・や?」

 ぐらぐらと頼りなく、それでもなお小刻みにいやいやと振られ続ける細い顎を掴んだままの手に
ゆっくりと力を込め、吊り下げるようにして無理矢理立たせると、彼女は小さな悲鳴を上げた。
それを態々、猫なで声で繰り返してから、そのまま小さな桜色の耳たぶを咥えて舐めしゃぶり
一気に耳の穴へ舌を突っ込んで掻き回してやると、面白いぐらいに体が跳ねて、又くたりと崩れた。

「ははっ、祥子ぉ。……イッた?」 
「……あ、あっ……、いやぁっっっ、ごめんなさい、ごめんなさい、鉄也さんっ
見ないで、私を、もう、見ないで……ぇ、下さぁぃ、おっ……、お願いーっ!!!」


114:祥子と鉄也 4/10
07/09/01 13:09:03 9t8FUvOv

一度苦しげにひゅぅっと息を呑んだ後、祥子は唯一自由になる両手で己の耳を塞ぎながら、そう喚く。

(本当ならそれは、こっちの台詞なんだけどな、祥子。
 ……あぁ、でも、今ココで辞めてしまったら『お仕置き』にはならねーんだよ)

 心を鬼にして、二人を隔てているその華奢な手を、指が砕けんばかりの勢いで握り締めて
引き剥がし、頭を垂れ身も世もなく泣き続ける彼女に向けて厳かに、魔法の言葉を告げてやる。

……コレは『お仕置き』だよ、祥子。イケナイ体と心に対する、正当な『お・仕・置・き』」
 
 ほどなくすすり泣きが止み、わずかな沈黙の後、ゆっくりと俺を見上げて来た幼馴染の顔には
最早、ある一線を踏み越えてしまい、ほとんどの意識を放棄した、白痴の笑みしか浮かんでいない。
……もっともそれを見た瞬間から、俺の根性無しな下半身様は持ち主の自制心を完全に殴り倒し
一刻も早くこの窮屈な場所から開放しろと、暴力的なまでの快感で全身を乗っ取りに来やがったが。

 出来る事ならもう少し、祥子と遊んでいたかったけど、意志薄弱なこの身では、もう無理だ。
愉悦にのみ支配され、頭のネジを完全にすっ飛ばしたまま『お仕置き』と言う言葉を何度も
嬉しそうにぶつぶつ繰り返す幼馴染の心を取り戻し、二度と俺なんかには届かない遥かに遠く
安全な所に、しっかりと据えてやらなきゃいけない。

 これで『お終い』にするための覚悟を固め、祥子をそっと抱き寄せると、彼女はこれから
自分がどんな目に合わされるのかまったく解らぬがゆえの無邪気さで、俺に擦り寄ってきた。


……俺からの最後の口付けは、わざと小鳥がついばむ様な軽いものにした……。


115:祥子と鉄也 5/10
07/09/01 13:10:09 9t8FUvOv

今時の幼稚園児でも、もうちょっとマシな技を持ってるぞ? とか、突っ込まれそうなほど
無愛想なキスを一度だけ、幼馴染と交わす。
今や、その程度の刺激では物足りなくなってた祥子は一瞬、不思議そうな表情で俺の顔を
覗き込んでくるが、あえてソレに気が付かない振りをして。
 だが、それにめげる事無い彼女は、俺を簡易寝台の上に押し倒し、自分から積極的に舌を
使って、少し前にうっかり教え込んでしまった以上の技で、俺の口内を遠慮会釈無しに犯してくる。
 しかも、今回は俺の胸にわざとらしく、下着越しでも十分柔らかい胸を、絶えず押し付ける
という、とんでもない特典付きでだ。
 
(本当、コイツって、昔っから無駄な所で、器用なんだよなぁ……)

 体中が感じている感覚とは全然関係無い事を必死で考えていないと、あっと言う間に総てを
持って行かれそうな快感を、握り締めた拳の内側に爪を立てると言う恐ろしくしょぼい方法で
なんとか押さえ込む。
……案の定、大莫迦野郎な俺の下半身様には、なんの効果が無かったが。
 まぁそれも、東海道本線の駅名をオサコヘから逆に、何回か行きつ戻りつしながらもシツヘンあたり
まで唱えた辺りで、いきなり口の中に広がった塩辛い錆味のおかげで、あっさり中断させられる。
 
「……なんで、なんにもしてくれないの、鉄ちゃん!!!」

 形良い薄赤の口元から、それ以上に赤い血をつぅっと一筋垂らしながら、祥子が叫ぶ。
この器用だか不器用だか良く判らない幼馴染が、俺の気を引くために、俺のではなく
自分の唇を態と噛み切りやがった事に、やっと気が付いたが、ぐっと我慢して無表情で言い返す。

「『机』は一々、反応しない」

 ざざぁっという派手な音が聞こえそうな勢いで、又、真っ赤な顔が一瞬で真っ青になった。

「『机』は一切、喋らない」

 つい先ほど踏み越えた一線の向こう側から、リニア並の速度で引っ返してきたようで
泣き出すよりも前にこわばった表情が、どんどん険しくなっていく。

「『机』相手に欲情なんかするな、変態」


116:祥子と鉄也 6/10
07/09/01 13:11:22 9t8FUvOv

祥子の体を押し退けながら心底嫌そうに吐き捨てて、簡易寝台と俺の体の間で皺だらけになった
彼女の制服を次々引っ張り出し、手荒く投げつける。
 
「……さっさと、着ろ。歩いて帰るつもりか?」

 絶対、祥子の方を見ないように(帰ったら、まず『配置転換願』か『退職届』だよなぁ……)
なんて事を、天井あたりを半眼で見上げながら、ぼんやり考えていたために一瞬、反応が遅れた。
 腰の辺りでカチャカチャという音がして、いきなりズボンを下ろされる。

「……ソコデ、ナニヲ、シテイラッシャルノディスカ、祥子サン?」
「『机』は喋らないっ!!!」

 どこかで見た覚えの有る表情の幼馴染が、上目使いで睨みつけながら、俺の下着に手をかけてきた。
ソレは間違いなく『スイッチ』が入ってしまった時の顔で、俺がこれまでそれに勝てた事は一度も無い。

「ちょっと待て、祥子!!!」
「私専用の、大切な『机』に、変な釘が、出っぱってるので、これから、修理、しますっ!!!」
「……なんだ、それはーっ!!!」
「『机』は一々、反応しないっ!!!」

 抵抗虚しく、一気に全部降ろされたのとほぼ同時に後退る俺の足がもつれて、二人とも床に尻餅をつく。
結果、男のO字開脚の真ん中で屹立している俺の下半身様の超至近距離で、祥子が固まってしまった。
その顔は、みるみるうちに真っ赤っ赤になって……。

「……う、動くなよ、祥子、絶っっ対動くな……、っ!!!」

 かつて『スイッチ』が入っちゃってる状態の祥子に、俺が何か提案をして、それをそのまま
すんなり聞き入れて貰った事も、決して無かったのを完全に忘れてる辺りがもぅ、てんぱり過ぎ。
そんな追い詰められた状態でも、彼女の荒く熱い吐息を感じ、おずおずと伸びてきた細い指がそっと
やさしく添えられる……、只それだけで、俺の根性無しな下半身様はよりいっそう大きく反り返った。

「……すごい……、熱くて……どきどきしてる……」

 膝を大きく開いた女の子座りのまま、にじり寄ってきた祥子は、とろんとした瞳でうっとりと
呟きながら、凶暴さを増していく俺の下半身様に、冷たくなめらかな指先で絶えず刺激を与えてくる。
 一方の俺はと言うと、そんな祥子の両膝の間のショーツのクロッチ部分が、いまやなんの役にも
立たないくらいぐちゃぐちゃに濡れて喰いこみ、布越しに透けて見える茂みの奥に有るモノの形すら
はっきり判ってしまう光景から完全に目が離せなくなった自分の浅ましさに、一層追い詰められていた。


117:祥子と鉄也 7/10
07/09/01 13:12:35 9t8FUvOv

……あれは、俺が一方的に気恥ずかしさなんて小賢しいものを覚えて、気軽に『さっちゃん』と
呼べなくなり、なんとなく祥子との間に距離を置き始めた時より、ほんの少し前。
 最後に二人っきりで、俺の家のお風呂に入った時にも何故か『スイッチ』が入ってしまった祥子は
恐ろしいまでの天真爛漫さを炸裂させて、俺の股間にあるコレを『私に無いのは、不公平!!!』とか
訳解らん屁理屈こねて散々いじくりまわし、結局コレは取り外しや付け替えが出来ないモノなのだと
十分納得してからやっと開放してくれたという微笑ましい思ひ出も……。

(……あれ? なんかその時、とんでもない『約束』を、させられたような覚えが……)

 目の前の現実から一瞬でも逃避したい俺の甘酸っぱい昔話……なんぞ全然お構いなしに、生身の祥子の
拙い指使いは、自分が空想の中で御奉仕させていた性奴隷の時とは全然違って、素人丸出しな所作のため
早く往かせるためのテクニックとか男を喜ばせるツボもへったくれもない、ぎこちなさ満開なのだが……。
 
「……あ、なにか……出てきた……」

 自分の指先を濡らす、俺の先走り汁の感触をしばらく面白そうに確かめていた祥子は、その
にちゃにちゃで汚された指を一瞬もためらう事無く、自分の口の中に突っ込んだ。

「……ん、ちょっと苦……しょっぱい?」
 
 ぺちゃぺちゃと言うイヤラシイ音を立てながら、細く白いその指をゆっくりなめまわすという
痴態を丁寧に見せ付けた後、俺の下半身に再び覆いかぶさる直前に、記憶力も良い俺の幼馴染は
にっこり笑いながら、言う。

「コレ、私が好きな時に好きなようにして良いって『約束』だったよね、鉄ちゃん!!!」

(やっぱり、覚えていやがったーっ!!!)

 薄赤い口元は、ピンク色の小さな舌をちろりと覗かせて、俺の頂上にゆっくりとキスをした。


118:祥子と鉄也 8/10
07/09/01 13:14:01 9t8FUvOv

ずいぶん小さい頃に、さんざん見せっこや触りあいした時と比べて、随分グロ……じゃなくて
凄く逞しくなってた鉄ちゃんのアレには正直、一瞬驚いた。
 だけど、ちーちゃんの『資料』のお陰でその後の私は、初めてにしては、割と上手く行動出来たと思う。
  
 しかも、ちーちゃんは『良いかぁ~、祥子~ぉ。まず、最初が肝心だぁ~。 相手の反応を確認後
速やかに、対処~っ!』とか言いつつ、自慢の『資料』をがんがん見せ付けながら、必ず最後には
涙目になってる私の口内に、ミルクアイスバーやソフトクリームを遠慮会釈無しにねじ込むという
『特訓』を何度も何度も施してくれた。
 その、美味しいんだけど結構辛かった練習を無駄にしない為にも私は、鉄ちゃんの顔をちらちら
盗み見ながら、どこをどうすれば一番気持ち良くなってくれるのか、体当たりで調べ始めた。

 溜めた唾を少しずつ少しずつ舌をつたわせて、熱い塊に注いでから、優しく丁寧に舐め上げる。
亀頭から雁首には細かく舌を這わせて、裏筋あたりはゆるゆる舐め上げ、根元の方はくすぐる様に。
時々、鈴口をちょんちょんと舌の先でつっつく事も、勿論忘れてない。
暑い日の犬みたいにハァハァ息を弾ませて、私の唾液と鉄ちゃんのお汁でどろどろになっても
熱さを失わず、そそり立つモノに頬をすりつけると、それだけで頭の中がビリビリ痺れた。
 
 ……なんだか、この辺りから無意識に、鉄ちゃんを気持ち良くさせる方法より、自分の方が
気持ち良くなれる事を、どんどん追求し始めてたような気がするけれど。
それ以上に、鉄ちゃんの切なそうにしかめられる顔や短く息を呑む声が、私を深く酔わせていった。
だから、『じゅぶじゅぼ』と、はしたなく響く水音も、『ふぁぁん、ふぅ、んふ』と鼻に抜ける嬌声も
どこか遠くの方から聞こえてきた『祥子、咥えてくれ』というお願いも、全部私の心が発したモノ。

 出来るだけ大きく口を開けゆっくりと、頂上から麓へと何処まで行けるのか、慎重に飲み込んでみる。
絶対、歯を当てないように、そして舌を全体的に絡め這わせながら、喉の一番深い底まで、誘い込む。
亀頭がこつっと当たった時、思わず咳き込みそうになったけど我慢して、今度は逆の方向へと唾液を
まぶしながらゆるゆると送り出して一転、リズム良く強めに唇でしごく。

119:祥子と鉄也 9/10
07/09/01 13:15:19 9t8FUvOv

急にブラが乱暴に引っ張り上げられ、私のあんまり大きくないオッパイが、ふるんと飛び出した。
 なんだか、少し怒ってるような顔の鉄ちゃんがつっと手を伸ばして来て、太く長い指で背一杯優しく
強く、私のはしたないくらい固く立ち上がっていた乳首を、つまんで捻り上げ、弾きながら転がす。
 すると、そこからきゅんきゅん甘い痺れが立ち起こって、お腹の一番奥深い所に絶え間なく流れ込み
私の中から、どんどんイヤラシイ滴りがあふれ出て、床にオモラシしたような水溜りを作っていく。
   
   
  鉄ちゃん、コレ、私の、モノ、だよね? 
  私、だけの、モノ、だよね?
  もうすぐ、身も、心も、蕩け堕ちる。
  だから、私を、繋ぎ留めて。
  世界中の、誰よりも、大好きな、鉄ちゃん。
  一刻も、早く、私で、気持ち、良く、なって、下さい。
  私の、魂に、鉄ちゃんを、しっかり、刻み込んで、下さい。
  どうぞ、莫迦な、私に、お仕置きを……。
   
  
 口内に収まりきらない熱い塊から直に流れ出る、総てを焼き尽くす媚薬を一滴も漏らさぬよう
私は、小さな子供みたいに良く回らない舌で、ちゅばちゅぶと一層強く吸いたてた。

 瞬間、訳の解らぬ咆哮が、私の名前を繰り返し、がっしりとごつい大きな手が、私の頭をわしづかみ
ながら引き上げて、欲望をその爆発へ向けて滅多矢鱈に突き入れてきた。
思わず、悲鳴を上げて激しく身悶えしたけれど、本当は嬉しくて堪らずに、体が勝手に動いただけ。
何度も何度も、重く粘つくご褒美を流し込まれ、全部飲んでしまいたかったのに、量が多くて間に合わない。
  
 やがて、私の喉の奥底からずるりと、白い粘液が絡みついたままの熱い塊が引きずり出されて……。

(……私の、机……、ちゃんと、綺麗に……)
 
 舌で舐め取ろうとしてみたけれど、何故か口の中からどろどろと青臭い白濁液が次々溢れ出して
更に酷く汚してしまい、私はそのまま、気を失った。


120:祥子と鉄也 10/10
07/09/01 13:17:01 9t8FUvOv

糸が切れた操り人形のようにくたくたと、床に崩れ落ちる体を抱きとめると、祥子はすごく嬉しそうに
微笑みながら、ゆっくり目を閉じた。
 途端に重みが増した体を、簡易寝台にそっと横たえて、こびり付いたままの俺の残滓を拭き取ろう
と口元に当てられた指を無意識のまま、しゃぶり始める。
 その時始めて、屋根を叩く強い雨音に気がついて、内ポケットの携帯を取りだそうとしたら上着の
裾が、強く握り締められていた。
 上着を脱ぐため、未練たらたらで祥子の口内からゆっくり指を引き抜くと『……嫌だぁ……
鉄ちゃん……、もっとぉ……』との御達。

(……流石に、意識の無いヤツを襲うのは、趣旨に反するんだよなぁ……)

 とりあえず、脱いだ上着を彼女に掛けて、そのまま枕元に座り込み、しばし規則正しい寝息を
堪能してから、送信。

  To.MAP 【件名】明日レチ、ウヤ
    本文:オマエと連結中ウテシの最新属性は『緊縛』
 
 携帯画面をぼけーっと見つめながら、左薬指のサイズ とか、祥子の父親は昔から結構腕っ節が
強かった事 とかを、つらつら考えてるだけで胸の奥底がどんどん暖かくなってきた。
 お、早速返信が……。
  
  To.金失 【件名】ヌキ&車交、セチ 
    本文:4P、スワップ、NTRに興味有?

 脊髄反射的速度で

  To.MAP 【件名】市ね!!! 
    本文:今後ともレチ教育ヨロ

 と叩き返し、祥子が次に覚めた時、必ず目の前に居るために腕枕添い寝してやって
まずは最初に『俺もさっちゃんが世界で一番大好きだ』って、しっかり教え込まねーと……
なんて思いながら、幸せな眠りに付いた。


 ……あぁ、これで翌朝、超鈍行とオッパイ性人が、人の枕元でやらかしていた手鎖プレイの嬌声で
強引に起床させられなきゃ、本当に最高だったんだけどな!!!


121:105
07/09/01 13:18:09 9t8FUvOv
以上です

最後に
健次と理菜 の中の人
>>48 の中の人
>>53 の中の人
 本当にごめんなさいorz

>>107
 管の属性は『つるぺた、言葉攻め、足こき』なんだけど
 ソレを出来る拷問役は、某ツンツンお嬢しか自分のストックに無いため、㍉

122:名無しさん@ピンキー
07/09/01 19:14:47 KhnfYv4K
うはGJ!! 祥子健気だなぁ。次は是非本番の方をよろしく!!

あ、あと、最後のメールに出て来た単語の意味も教えてもらえると有難い。レチとかウヤとセチとか。鉄道用語なんだろうけど……。



123:名無しさん@ピンキー
07/09/02 01:13:16 0lYYH+/h
GJ!

>>122
それぞれ鉄道用語で、レチは車掌、ウヤは運休、ウテシは運転士のこと。

・・・セチって何?

124:名無しさん@ピンキー
07/09/02 06:52:26 WsamF+Fa
ヌキは、当該列車を運行順序の枠組みから抜く事
セチは、承知
この2つ(+レチ、ウヤ、ウテシ)は鉄道用電報略号より

車交は、車両交換の略語

125:名無しさん@ピンキー
07/09/03 20:33:47 9D7RUt0r
最近絆こないな・・・投下きてくれ。
いそがしのかな?


126:名無しさん@ピンキー
07/09/03 22:29:38 6X6RfMl/
関連スレが 新スレになってます、よろしくお願いします o(_ _)o

いもうと大好きスレッド! Part4
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気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第8章
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127: ◆RFJeoF38Ko
07/09/04 18:35:50 TjBUT8k8
1.
私は震えていた。
布団の中で、ずっと震えていた。
泣いていたかもしれない。

夜。
私は押し寄せる後悔と恥ずかしさに、悶えるような思いで一杯だった。
なんてことしちゃったんだろう。
私は、なんてことを。

冷静に戻ってみれば、頭がおかしくなったとしか思えない。
裕輔に、あんなこと言うなんて。
あんな格好で裕輔の部屋で待っていたなんて。
誰がどう見たって、あれは私が……。

誘っていたとしか、見えない。

そんなつもりがなかったなんて言ったって、信じてくれないだろう。
それに私には、もうあのときの話を裕輔の前で蒸し返す勇気も無かった。
きっと、裕輔は軽蔑したに違いない。
もちろん、私たちはキスをしあうような仲だった。
たまにふざけて唇以外の場所にキスもした。
首筋とか、耳たぶとか。
それに抱き合ったときに、普通なら触らないような場所に触れちゃうこともあった。
私の手が裕輔のおなかを撫でたり。
裕輔が私の後ろに回した手が、私のお尻に触れたり。

でもそれは、いいわけが出来た。
多分私たち二人とも、心の中でいいわけしながらこんな関係を続けていた。
「これはいとこ同士のおふざけだ」って。
実際、私たちは決してキス以上のことをしなかったし、そんなそぶりも見せなかった。

いや。
いいわけしていたのは私だけだったんだ。
裕輔は、ずっとおふざけのつもりだった。
私だけが、「おふざけ以上」のことを望んでいた。
一人で興奮して一人で盛り上がって……一人で勝手に裕輔のことを「恋人」だと思ってた。
だけど、裕輔にとって私はやっぱりいとこに過ぎなかった。

私がスカートを捲り上げ、下着をずらし、自分の手で自分を弄りながら彼を待っていた時。
裕輔は一瞬目をそむけた。
そしてそれ以後、私の方を決してみることは無かった。
長い沈黙が流れた。
私はだんだん、心が冷えていくのを感じた。
私はとんでもないことをしてしまったって。

「なっちゃん」
裕輔の声に、私はついに我に返った。
「僕、出てるから、ちゃんと服を直しなさい。お母さんもうすぐ帰ってくる」
そう言って裕輔は部屋を出て行った。
私は一人、裕輔の部屋に残された。
下着をはきなおし、乱れたスカートを直すとき、私は知らず知らず泣いていた。
恥ずかしくて。惨めで。
涙がこぼれて仕方なかった。
自慰に使った裕輔のジャケットを壁にかけるときなんて、死んでしまいたいぐらいだった。
私はそっと部屋を出ると、入れ替わるように裕輔さんが部屋に入った。
後ろで戸が閉まる音がして、それは夕食まで開くことは無かった。
謝ろうと思った勇気は、戸が閉まる音で打ち砕かれた。


128:那智子の話・第六話 2/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:36:34 TjBUT8k8

私と裕輔は、目を合わせようともしなかった。
お母さんもお父さんも不思議がり、「喧嘩したの?」と聞いた。
喧嘩の方がよっぽどマシだったと思う。
私は勝手に暴走して、裕輔との一線を無理やり飛び越えようとした。
裕輔は戸惑い、自分の心の扉を閉めた。
もう、二度と私たちは仲のいいいとこ同士には戻れない。
キスも出来ない。手も握れない。
目を合わせて微笑みあうこともない。

いつかは二人の様子がおかしいことに両親も気づくだろう。
その時裕輔はたぶん秘密を守ってくれる。
でも。
それを機会に裕輔は私から遠ざかろうとするかもしれない。
家を出て下宿するなり、学校の寮に入るなり。
私はそれを考えると胸が痛んだ。
こんな状況を招いた自分のバカさ加減に腹が立った。
もし神様がいるなら、今朝まで時間を巻き戻して欲しい。
布団の中で体をぎゅっと丸くしながら、私はどれくらい真剣にそう願っただろう。
でも、神様はいないし、ドラえもんもタイムマシンも現れなかった。

こんな辛いときこそ、裕輔に抱きしめて欲しかった。
そして、頭を撫でて欲しかった。
対等な関係でなくたっていい。
子ども扱いでもいい。私は裕輔に甘えていたい。
「裕輔―さん」
でも、私はどう頑張っても、彼の顔をはっきりと思い出せない。
だんだん記憶がぼやけて、裕輔の顔が頭の中から消えていく。
そんな錯覚に、私は怖くなった。

「ゆう……すけ……」
でも、私の部屋の中には、答える声も、支えてくれる腕も、何も無かった。
何も。



129:那智子の話・第六話 3/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:37:00 TjBUT8k8

ギィッ。

私の部屋の静寂を破る音がした。
夢うつつの私は、それが何の音なのか分からなかった。
と、言うより、本当に音がしたのかどうかすら分からなかった。
風の音か、外の物音。
あるいは、夢の中で聞いている音なんだろう。
私はそんな風に思って、布団の中で丸くなっていた。

ゴト。

だから、二つ目の音がしたときも私は身じろぎ一つしなかった。
外のベランダにおいた植木鉢が転がったような、そんな低く硬い音だった。
私は相変わらず、ぼんやりとした頭で、後悔と羞恥の間を漂っていた。

ギシッ。

ベッドのきしむ音に、私ははっと目が覚めた。
これは、夢じゃない。
何かが私のそばに、いる。
突然私は恐怖に襲われた。
あるいはまだ夢を見ているのかもしれない。
だって私の家には夜、人の部屋に忍び込んでくるものなんていない。

不意に私は友達の青葉に教わった怖い話を思い出した。
女の子が飼い犬といっしょに留守番をしている。
両親は出かけていない。
夜ベッドの中で変な物音がして、女の子は目を覚ます。
怖くなった女の子は、ベッドのそばに寝ているはずの犬を撫でる。
犬は女の子の手をなめたので、女の子は安心して寝てしまう。
次の日の朝。
女の子が目を覚ますと、飼い犬は殺され、天井からつるされている。
犬の死骸にメッセージの紙が挟んであって
「人間だって舐めるんだぜ」……

私は犬なんて飼ってない。
でも、私の横に大きなものが横たわっている。
もうはっきりと目を覚ましていた。
これは、夢なんかじゃない!




130:那智子の話・第六話 4/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:37:22 TjBUT8k8

2.

突然、私の体が抱き寄せられた。
大きな手が肩をつかみ、隣に横たわるものに引き寄せられる。
シーツが剥ぎ取られた。
目の前に、黒い顔のような影が迫っていた。

(……ゆう……すけ…………?)
その顔は、身間違えようもない。
裕輔が、私の体の上に覆いかぶさるようにして、そこにいた。
一瞬、やっぱり私は夢を見ているのだろうか、そんな風に思った。
でも夢じゃない。
その証拠に、私の顔に裕輔の吐く息が当たる。
こんなリアルな夢、十六年生きてきて一度も見たことなかった。

裕輔の顔は、いつもの優しい微笑みを浮かべた顔じゃなかった。
引き結んだ口は少し青ざめ、目はまるで喧嘩するみたいに私を睨んでいる。
荒々しい息を収めるかのように、肩が時々震えていた。
息を小出しにしようと努力しているのか、吐息のたびに鼻がぴくぴくと動いた。
私は、やっぱり怖くて動けなかった。
まるで裕輔は見たことのない男の人のようだった。

裕輔の両手が、私の顔をつかむ。
抵抗しようにも、私の体は恐怖と緊張でぴくりとも動かなかった。
きっと私の目にはおびえが浮かんでいたに違いない。
突然裕輔は手の力を緩め、そっと私の頬を撫でた。
硬い指が、私の頬をそっとなでていき、やがて唇のところで止まる。
もう一方の手は、私の髪をやさしくかき混ぜている。
彼が、何を望んでいるのか分かった。
指にうながされるように、私はそっと口を開く。

そこに、裕輔の口が押し付けられた。
普段のキスより荒っぽく、普段のキスより熱心に。
思わず私は小さく呻いた。
唇を味わっていたのは一瞬だった。裕輔の舌が、いつもより慌ただしく私の唇を割った。
ねじ込まれた舌に、私も舌を絡める。
私は嬉しかった。
熱い彼の舌も、彼の唇もいつもより愛しい。
今日、今の今まで欲しかったのに与えられなかったもの。
私は、今、裕輔に抱きしめられてる……



131:那智子の話・第六話 5/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:37:39 TjBUT8k8

気がつけば、私の体の上にぴったりと裕輔の体が寄り添っていた。
裕輔は私の頭を手でキスしやすいようにそっと支えている。
そしてもう一方の手で、私の胸元をまさぐっていた。
もどかしげに私のパジャマを脱がし、破るように開いていく。
私は乳首の先に、冷たい夜の空気が触れるのを感じた。
露になった私の胸を、裕輔の片方の手がそっと揉みしだく。
私は小さく子犬のような声を上げた。
それは初めて彼から受けた、新鮮な愛撫だった。
最初は手全体で私の乳房を揉み、次第に搾り出すみたいに乳首へと力を込めていく。
私は息苦しさを感じて、思わず裕輔の口から逃れた。

裕輔は相変わらず真剣そのもの、といった顔で私を見つめている。
けれど、手は愛撫を止めようとしない。
それどころか、両手で私の対の乳房を激しくもみ始めた。
パジャマを半ば脱がされたまま、私は裕輔が私の胸を弄ぶさまをじっと見ていた。
胸がどきどきして、時々乳首の先からしびれるような刺激が体の中を走る。
私の顔をじっと見ていた裕輔は、やがて私の乳首を口に含んだ。
熱い唾液が私の胸をべたべたと汚していく。
はじけそうなほど硬くなった乳首を舌先で転がし、ついばむ。
片方の胸を十分味わうと、今度はもう一方へと移り、また最初に戻る。
愛撫に合わせて私が淫らな吐息を漏らすようになるまで、彼は私の乳房を吸い続けた。

不意に、体の奥で何かが始まった。
今日、裕輔の部屋で感じたのと同じ感覚。
両脚の間から、わきあがり、背骨を貫くような感覚だった。
私はもじもじと足をすり合わせ、裕輔の体の下で身悶えた。
「ゆぅ……す……け……」
私の囁きが聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。
とにかく、裕輔は不意に愛撫を中断した。

顔の火照りがはっきり分かる。
それでも裕輔は、まじめそのものの顔で私を見つめていた。

さっと彼の手が私のパジャマのズボンにかかる。
ゆるいゴムで私の腰にまとわりついているだけのそれは、何の抵抗も示さなかった。
あっという間に、それは膝のところまで脱がされていた。
既に太ももに滴っていた私の愛液が、空気に触れてひやりと感じられた。
(あ……すっごい、濡れてる……)
私はそんなことを思いながら、膝までずり下ろされたパジャマを自分から脱ぎ捨てた。
くしゃくしゃに丸まったそれを、足首のひねりでベッドの外へと追い出す。

その間に、裕輔の手は私のショーツにかかっていた。
滑り込む彼の手。
太い指が、その場所を確かめるかのように、私の叢をかき分けた。
「んっ……!」
初めて私は怖くなった。
でも、私の声なんか裕輔には聞こえてないようだった。
彼の指が、私の割れ目を撫でて、その場所はしっかりと確かめている。
敏感な先に裕輔の指が触れるたび、私は恐怖と期待の混じった声を上げた。



132:那智子の話・第六話 6/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:37:59 TjBUT8k8

それは突然やってきた。
裕輔はためらいもなく、私のショーツを太ももの半ばまでずらした。
今度は、私も自分から脱ごうとはしなかった。
最後の一線を越えようとしている、そのことが一瞬だけ頭をよぎる。
いいの?
本当に?
裕輔と?
短い単語が電気みたいにぱちっとはじけて、消えた。
だけど、私には迷う暇すら与えられなかった。

「あっ……い、いたっ――!」
突然下半身を襲った痛みに、私は叫びかけ……そして声が出せなくなった。
裕輔の手が、私の口を塞いでいた。
彼の腰は、私の腰にぴったりと押し付けられている。
両脚の間に、今まで感じたことのない、はっきりとした異物感があった。
それは私を真っ二つにするみたいに、ゴリゴリと私の体に入ってくる。
あまりの痛みに私は頭を振って、裕輔の手を振り解こうとした。
けれど、裕輔の力を余りに強く、彼の厚い手が苦痛のうめき声すら押し込めた。
体を押しのけようと腕を動かそうにも、半ば脱がされたパジャマが自由を奪っていた。
それでも私は抵抗し続けた。

裕輔の物が、私を裂いていく。
やがて、私の体が裕輔の腰の動きにあわせて、わずかに浮き上がった。
体の奥から、何かが私の骨盤に当たるような、コツッという音が聞こえた。

―最後まで、入ったんだ。

私はそれを悟った瞬間、なぜか体中から力が抜けるのを感じた。
「言い訳は出来ないところにきちゃった」。意味は分からないけど、そんな気分だった。
裕輔も、私がもう抵抗しないのが分かったのか、手を口から離してくれた。
彼はしばらく動かなかった。
きっと、私が破瓜の痛みに慣れるのを待っていたんだと思う。
その間、彼の手はまたいつもみたいに、私の髪をそっと撫で始めた。

不意に、裕輔の顔が私の耳元に近づいた。
私は涙を浮かべた目で(気づいていなかったけど、私は痛みで泣いていた)彼を睨む。
裕輔は一瞬目をそらし、私の頭を抱きすくめた。
「…………だよ」
裕輔が、口の中でもごもごと何か呟く。
抱きすくめられてから、彼が言葉を言い終わるまで、本当に一瞬の出来事だった。

「え……?」
私が聞きなおそうとした次の瞬間、また痛みが体を走った。
裕輔が腰を動かす。私の体をビリビリと痛みが走る。
動きにあわせてコツコツと体の奥から何かが打ち合う音が聞こえた。
それ以上に激しく、私と裕輔の肉が打ち合い、絡み合う音が部屋に響いた。
そして、愛液がかき混ぜられるグチュグチュという音も。
なにより、獣みたいに興奮している裕輔の息も……。
あまりの痛みに言葉を失った私は、不思議とそんな音を冷静に聞き、記憶していた。



133:那智子の話・第六話 7/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:38:19 TjBUT8k8

どれくらいの間のことだっただろう。
だんだんと裕輔の息づかいが荒くなり、腰の動きも激しくなっていった。
ベッドがぎしぎしと悲鳴をあげ、私は早く終わって欲しい、それだけを考えていた。

やがて。

「くっ」という裕輔の短い苦悶の声がして。

私の中に熱いものが一杯に打ち込まれるのを感じ。

それは終わった。


力尽きた裕輔は私の体の上でしばらく息を整えていたけれど、それは私も同じだった。
のろのろと彼の腕が半裸の私を抱きしめた。
私たちは何も言わず、暗闇の中でじっとしていた。

名残惜しそうに裕輔のものが私から引き抜かれる。
けれど、じんじんとした痛みはひくことはなく、私は体を動かせなかった。
初めてのセックスが終わって初めて、裕輔は私の顔を見た。
眉毛は下がり、目は伏せられている。
困ったような、申し訳ないような顔。
私はどんな顔をしていたんだろう。多分呆然としていたんだと思う。
とにかく自分の体の痛みより裕輔が気になって、彼の顔の隅々まで観察していた。

不意に裕輔が動いた。
彼の唇が、汗をかいた私の額にそっと触れ、離れた。
唇が離れるのと同時に、裕輔は立ち上がった。
暗闇の中で、パンツとズボンをずりあげる衣擦れの音がした。
そして裕輔は、入ってきたときと同じように気配を消して部屋から出て行った。



134:那智子の話・第六話 8/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:38:36 TjBUT8k8

二人分の汗と、淫靡な臭いが部屋中に立ち込めているのに、しばらくして私は気づいた。
(明日、消臭剤買って来なきゃ……)
初体験の後にふさわしくない、そんなことを考えながら、私は手を下半身に伸ばす。
痛みの元へと指を伸ばし、おずおずと触る。
恐る恐る触れると、私の「中」からねっとりとしたものが湧き出しているのが分かった。
私はそれを指に絡め、目の前に持ってくる。
そこからは嗅いだことのない青臭い臭いと、それに混じってかすかな鉄の臭いがした。

(血……出てるんだ……)
私はそれをそっと口に含んだ。
裕輔の味。
初めての味。
私はそれをしっかりと記憶に刻んだ。

(このまま履いたら、下着汚れちゃうなぁ……)
私は立ち上がると、引き出しから生理ナプキンを一つ取り出した。
そっと部屋を抜け、お手洗いへとむかう。
下半身は裸のままだった。
便座に腰掛け、改めて自分の下腹部に視線を落とす。
私の陰部からわずかに血の混じった精液が垂れてきていた。
まるで科学の実験結果を見るみたいに、私はその様子をしげしげと見つめる。
明々とした電灯の下でみると、それは何か滑稽な物体に思えた。
ふき取ろうかと思ったけど、そうするのは何故か裕輔に悪いような気がした。
まるで裕輔の精液を汚いものとして扱っているようだったから。
逃げ出そうとする裕輔の分身を押し留めるように、私はそっとナプキンを当てた。
そのまま私は部屋に戻ると、パジャマを着なおし、眠りについた。

もう痛みは無かった。




135:那智子の話・第六話 9/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:38:55 TjBUT8k8
3.

次の朝は、相変わらず気まずい空気が流れていた。
洗面所で会ったとき、裕輔はちょっと会釈しただけですぐ私に場所を譲った。
朝食のテーブルにも、よそよそしさが漂った。
お父さんは余り口出ししないと決めたのか、ずっと新聞を見ていた。
お母さんは私に向かって「いい加減に仲直りしなさいよ」と言っただけだった。
どうやら原因は私にあると勝手に思い込んでいるらしい。
もちろん、最初の原因を作ったのは私だ。それは両親が思いもよらない出来事だけど。
いつもなら二人同時に出て、同時に乗り込むエレベーターも、今日は一人だった。
両親を心配させないよう裕輔と同時に玄関を出たとたん、私は猛然とダッシュした。
そして、裕輔が来る前にエレベーターに駆け込む。
「閉」のスイッチを押し、さっさと一階へ降りた。裕輔も、追ってはこなかった。

―それから、何時間かが経って。
退屈で特筆することのない学校の一日が終わり、私はまた一人で下校していた。
学校は適度に慌ただしく、友人たちは青葉を筆頭に適度に騒がしかった。
だから、学校にいる間私は昨晩起こったことを考えなくてすんだ。
だけど今、私は一人で歩きながら、昨日の夜のことを思い返している。
これほど時間がたってしまうと、あれはやっぱり夢だったんじゃないか。
そんな気がしてくる。
でも気のせいじゃなかった。
その証拠に、私の下着の下には確かにナプキンのごわごわとした感触がある。
朝起きたときと、昼休みのお手洗いで、昨晩の痕跡は全部流れて行ってしまった、はず。
でも私は何故か怖くて、ナプキンをとることが出来なかった。
ふとした弾みで下着が汚れてしまい、それにお母さんが気がついて……
そんな想像をすると、私は直に下着を履く勇気すら出てこなかった。バカバカしいけど。

これから、どうしたらいいんだろう。
そんなことを思いながら一人上の空で歩く。
裕輔と私は一線を越えてしまった。
私はそれを望んでいた、はず。
私が昼間誘いをかけ、裕輔は夜になってやってきた。
(そういえばこれって夜這いになるのか……古風だなあ、と私は一瞬思った)
私は何をされるのかすぐ分かったし、拒まなかった。
だから後悔しているわけじゃない。
でも、何か心に引っかかるものがあった―裕輔の気持ちが、よく分からない。
何より、あの言葉をどう考えたらいいんだろうか、と。
最後の瞬間私の耳元で囁いた言葉。
あれは、どういう意味だったのか……。
結局私の心は、その言葉の解釈にけつまずいて、その先へと進むことが出来ない。
裕輔のところへ、飛び込んでいけない。
だから―

「帰りですか、妙高さん」

―この男の登場は、渡りに船とでもいうタイミングだった。



136:那智子の話・第六話 10/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:39:12 TjBUT8k8

「……今日は、静かですね」
隣で相変わらずの笑顔を見せている望月近衛に、私は黙って頷いた。
申し訳ないけれど、さすがに今日は元気にもなれない。
というか、望月の顔を見た瞬間、相談しようと決心して、そのことばかり考えている。
余計な口は聞いてられないの、OK?

とはいえ、どうたずねたものか。
「昨日いとことセックスしちゃったんだけどさー」
とは流石に言えない。差しさわりがあるところが多すぎる。
問題。上の文章から差しさわりのあるところを挙げよ。
答え。「昨日」以外全部。
たぶん望月は私に男性経験があると知っただけでパニックになるに違いない。
いやしくも神さまとマリアさまに守られた聖マッダレーナ女子の生徒が……
とはいえ、青葉と「アイツ」が付き合って長いことは望月だって知ってるはずだし。
最近の高校生が約一年付き合ってやることやってないとは思ってないだろうし。
あれ、案外平気なのかな。

いやいや。
望月のことだ。
かつて好きだった女の子(青葉のことね)は清いお付き合いを続けてると信じてるかも。
うむ。
やはり純真な男子の幻想は守ってあげなくては。
とはいえぶち壊してるのは女であるこっちなんだけど。
そもそも、望月と私は友達だけど、さすがに女の子から性の相談は出来ない。
男の方からされても不謹慎だけど、やっぱ男女の友人関係でする話じゃない。
それに、私の場合相手が相手だ。
いとこと関係というだけで軽蔑しないとも限らない。
うーん。
望月が私に変な幻想を抱いていて、それを木っ端微塵にするのはいいとして。
やっぱり軽蔑されるのはイヤだ。

……あれ。私何を考えてるんだ? 望月と私ってそんな深い付き合いかな―

「……やっぱり、静かすぎますね、今日」
恐る恐る声をかけてくれたおかげで、私は自分の生み出した思考の迷宮から救い出された。
ありがとうアリアドネくん、と私はテーセウスの気分。
いやむしろ彼がテーセウスで、私はラビリンスから助け出された乙女かしらん。
ラビリンスに送り込まれる生け贄は清い少年と処女だから、私には資格なしだけど。
……そんなことはどうでもよくて。
「悩み事なら聞きますよ」
そう言ってくれるのを待っていたわけ。
ずるいな、とは思うけど、望月のそういう空気を読む力に私は甘えっぱなしだ。

「……難しい問題なんだけどね」
「はい」
私が言葉を選びながら話始めると、望月はそれを重大事と受け取ったのか、深く頷いた。
「たとえば、たとえばよ? 望月に好きな女の子がいたとして、ね」
「ぼ、僕にですか……えっとそれは、あの仮定として……」
「いいから黙って聞きなさい」
「はい」
何故か急にうろたえまくる望月を黙らせると、私はまた言葉を続けた。
「お互いなんとなく好きかなー、ということは薄々さっしてる関係だとしよう。
(その瞬間、また望月がうろたえたが、私は眼力で黙らせた)
その子とある日一緒に遊びにいったとして、その帰りにね。
突然、『よっていきません?』って言われて、指差す方にラブホがあったら……
望月どうする」


137:那智子の話・第六話 11/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:39:28 TjBUT8k8

私の言葉の意味を理解するのに、この少年はかっきり三十秒をかけた。
「……えっと、多分、行くと思います」

「あー、やっぱ男ってそういう生き物かー」
私が天を仰ぐのを見て、望月が不意に真剣な顔をした。
「あの、妙高さん、もしかして変な男に言い寄られてるとか、ストーカーとか……」
あまりの真剣さに、私はちょっと吹いてしまった。
「あー違うちがう、そういう深刻な話じゃないから(と私は嘘をついた)、軽く聞いて」
望月が落ち着きを取り戻すのを待って、私は本当に聞きたいことの核心に迫っていった。
「じゃあ、まあホテルに行って、そーいうことをしたとしよう」
「はい」
望月が神妙に頷いたので、私はちょっと咳払いをした。
どうも望月が相手だと、余計なことまで喋ってしまいそうで怖い。
「その女の子を見る目、変わる?」
望月は黙った。
今度は理解するのに時間がかかったわけじゃなかった。
それが証拠に、望月はとっさに何か言おうとして、すぐに黙ったから。
そして、私を横目で見ながら、しばらくブツブツと小声で呟いていた。

「答えが決まってるなら、さっさと言ってよ」
「あー、答えをいうのにやぶさかではないのですが」
あんたはどこの古風な探偵だ、と突っ込みを入れたくなる様子で望月は答えた。
「妙高さんの性格からして、必ず理由をお聞きになるだろうと」
「聞くわね」
望月はさらに困った顔をしかめて見せた。なによ、そんなに言いにくいの?

「その場合、僕を見る目が変わるのではないかということを心配しておりましてその」
探偵から政治家に転向した望月はごにょごにょと言葉を濁した。
まあ、問いが問いだから、何を答えても微妙だけど。
私だって聞きにくいことを望月と見込んで尋ねたのだ。
そちらも誠意ある回答を聞かせてくれてもいいではないか、と私は数分間熱弁を振るった。

「……じゃあ、答えますけど、女の子に対する気持ちは、多分変わらないと思います」
「で、『何故』?」
言いにくいとあらかじめ聞いていたにもかかわらず、私はずばりそれを尋ねた。
望月は視線をさまよわせたり、横目で私をうかがったり、散々迷った挙句、答えた。
「たぶんそのころには、僕もその女の子とそういうことをしたい、と思っているからです」
「……はあ」
「つまり、ここで一般論に逃げるのは大変卑怯だとは思うのですが、えー。
男という生き物はそもそも性欲が女性に比べて旺盛である、と言えるのではないかと。
それは原始時代に男が狩りを受け持っていた名残であるとも、言われますし―
ドーキンスでしたかは、遺伝子をより広範囲に撒き散らすのが生物の役目であると……。
まあ利己的遺伝子論はともかく、その、薄々好きになった女の子に対して、ですね。
そういうことを想像したり、望んだりするのは女性より男性の方が早いわけで。
そこに女性側から提案があった場合、男としては断ることは出来ないというか……」



138:那智子の話・第六話 12/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:39:45 TjBUT8k8

「『据え膳食わぬは男の恥』ってヤツ?」
私の言葉に、望月は黙った。
「……だから言いたくなかったんです」
私の方はそんなもんだろう、というつもりで言ったのに、望月は意外なほどしょげていた。
望月に聞かなくても、半ばあきらめていた。
まあ、人並みの女の子がさそったら、裕輔ぐらい若い男なら、当然手を出すだろう、と。
そこに対して深い愛情がなくたって、仕方が……

仕方がない、そう思うととたんに情けなくなった。
裕輔に私の気持ちを伝えることは、もう出来ないのかもしれない。
私が、どれだけ裕輔のことを思っているのか、とか。
単なる肉親でもなくて、単なる好きでもなくて、すごくややこしい気持ちなんだ、とか。
そんなこと、もう伝わらないかもしれない。
だって、もう私は裕輔に抱かれてしまったから。
私は隣に望月がいるのも忘れて、涙を拭こうと、かばんのハンカチを探った。

「でも、そんなことを言ってくれた女の子を、僕なら本当に大事にしますよ」
「……?」
望月は私の方を見ずに、そう呟いた。
「女の子なら、そう言い出すまでにきっとものすごく葛藤があったと思うんです。
僕が好きになるようなタイプなら、ですが。
ああ、これは妙高さんの問題にはない勝手な前提条件ですけど。
でも、それだけ勇気を出して僕にむかって飛び込んできてくれたんだから。
僕はその子のことを心から好きになると思います。僕もそれにちゃんと応えたいです」
望月は誰にむかって言っているのか分からないくらい熱心な目で、そう言った。
言ってから、自分の演説が恥ずかしくなったのか、そっぽを向いて頬をかいてみせた。

「……そんなときに言った男の子の言葉、信じていいと思う?」
「僕が言ったのなら、信じてください」
私は笑った。
望月も笑った。
たぶんアイツのは照れ笑いだったんだろうけど。
私は泣き笑いの顔だった。
そうか。
信じていいのか。

ようし。



139:那智子の話・第六話 13/13 ◆ZdWKipF7MI
07/09/04 18:40:01 TjBUT8k8

4.

そのあと、二週間ほど私と裕輔は気まずい日々を過ごした。
言葉少なく、触れ合うこともない日々。
でも私はずっと考えていた。あの時裕輔が囁いた言葉の意味。
裕輔はこういった。

「僕も、なっちゃんで『ああいうこと』をしてた。ごめん」って。

私をずっと求めてた。
裕輔は私をそういう目で見ていた。
ショックで、嫌悪感すら感じる言葉。でもそのあとに裕輔はこう言った。

「好きだよ」

私は信じることにした。
裕輔の言葉を。裕輔に私の気持ちがまだ通じることを。


「おはようございます」
『憂鬱』な朝が明けたある日、私は洗面所で裕輔に声をかけた。
びっくりしたように振り返り、出て行こうとする裕輔。
でも、待ち構えていた私はさっと彼の袖をつかんで引き止めた。
戸惑う裕輔に、私は告げる。

「……アレ、今朝来ましたから、安心してください」
そう、月に一度の憂鬱なあれ。
初めての夜、その心配を欠片も思い浮かべなかった自分に呆れるぐらいだ。
裕輔もそれを薄々気にしていたのか、一瞬心の底からほっとしたような顔をして。
それからまた真剣に私を見つめた。
「……なっちゃん…………ごめん、あの日は……」
なによ、いまさらゴメンなんて、言わせないんだから。
私はしょげかえる裕輔の目を覗き込むようにして、きっぱりと宣言した。
「今度からは、ちゃんとゴム……してくださいね」
そういって私はさっと彼に背を向けた。

駄目だ。
顔が火照る。
こんなこと宣言するなんて、やっぱり変かぁ……?
ああでも大事なことだもん。
私バカだけどやっぱり大学は行きたいし、この年で母になるのはまだ覚悟が……。
なんて。
頭の中は大パニックになりながら、私は一番大事な言葉を告げた。
「私も、好きです」

裕輔もパニックになっていたのだろう。
私の言葉を理解するのにきっかり一分はかかった。
けれど、答えははっきりしていた。
私たちはそっと抱きしめあって、ほぼ一ヶ月ぶりのキスをした。
懐かしくて、たまらない味だった。

(つづく)


140:名無しさん@ピンキー
07/09/04 18:41:45 TjBUT8k8

二ヶ月ぶりの那智子の話の続きでした。
余りに久々で、最初トリップミスしてしまった…orz
大変スローペースではありますが、宜しくお付き合いください。未完にはしません。

141:名無しさん@ピンキー
07/09/04 18:59:54 YyShSMWn
>>140
 お帰りなさいませ
 続きを書いてくださって、本当にありがとうございます
 那智子さんと裕輔さんに幸せな結末が来るのなら、何ヶ月でも待ちます

 後、望月近衛くんも出来るなら幸せにしてやってください
 お願いします


142:名無しさん@ピンキー
07/09/04 20:00:39 bf9m9uOF
GJです!!

遂に一線を越えた二人! これから二人がどうなっていくのか、とっても楽しみです!!

143:名無しさん@ピンキー
07/09/04 23:20:37 BTPG47U8
ktkr
超待ってた。激しく待ってた。GJ

144:名無しさん@ピンキー
07/09/05 00:46:21 VBKtDBD0
GJですー! ではこちらも投下します!!

145:絆と想い 外伝2
07/09/05 00:48:13 VBKtDBD0
夏休みに入ったばかりの、とある日の夕方。学校の弓道場で、一人で練習をしている少女の姿があった。
「ふっ……!!」
弓を引き絞ると的目掛けて矢を放つ。狙い過たず、矢は的のほぼ中央に突き刺さる。
「ふぅ……。」
矢を放った少女は、ゆっくりと息を吐いた。と、ぱちぱちぱちと拍手が聞こえてきた。
「どなたですか?」
彼女が問うと、弓道場の出入り口から一人の少年が姿を現した。

「精が出るね美沙姫さん。皆が帰った後も一人で居残り練習だなんて。」
そう言う少年に、少女……神崎美沙姫は笑顔で答えた。
「そんな事はありません。それに、貴方だって同じではないですか、雄一郎君。」
その言葉に、少年……京極雄一郎(きょうごく ゆういちろう)はまぁね、と応えてにこやかに微笑んだ。

少年の名は京極雄一郎。高校二年で、美沙姫の幼馴染であり、クラスメートでもある。
身長は180を超えるほど高く、また艶やかな髪、綺麗に整った顔を持ち、性格も温厚で優しく、そのため女性からの人気は凄まじく高かった。
成績も全科目トップクラスで運動神経も抜群。更に彼は、合気道の天才でもあった。
中学の時から公式戦では未だに不敗なのである。その容姿ともあいまって、高校合気道界では常に話題の中心となっていた。

「それにしても、君がこんなに頑張るだなんて……。やっぱり副部長としての責任感? IH制覇のため? それとも……。」
持ってきたスポーツドリンクを美沙姫に渡しながら、雄一郎は悪戯っぽい笑みで言った。
「……今度のインターハイが、東京で行なわれるから、かな?」
その言葉に、美沙姫は頬を軽く染めながら頷いた。

「……インターハイ出場が決まったことと、会場が今年は東京だという事を正刻様に手紙でお伝えしたら、絶対に観に行くという返事を頂きま
 して。これはもう、頑張るしかないなぁって。もちろん久遠寺学園弓道部副部長としての責任も果たしますが、それ以上に、あの方の前で無
 様な姿だけは晒さないようにしようって。そう思ったらもっと練習しなきゃって、そう思ったんです。」

久遠寺学園。京都にある小・中・高・大一貫教育を行なっている私立の学校であり、美沙姫や雄一郎が通う学校である。
その規模はかなり大きく、また優秀な講師を多数集めているため、政治・経済・スポーツ等、各方面に多くの優秀な人材を輩出している。
ちなみにスポンサーには神崎家と、京極家も名前を連ねている。

そう、京極家もかなりの名家であった。神崎家程ではないが、主に医療方面でかなりの実績を築いている。雄一郎はその跡取りでもあった。

146:名無しさん@ピンキー
07/09/05 00:49:33 VBKtDBD0
彼は頬を染めた美沙姫を見ると、複雑そうな笑みを浮かべた。

別に彼は美沙姫に恋愛感情を抱いてはいない。
だが、幼い頃から仲良くしている女の子が、自分以外の男に好意……しかもとびきり強烈な……を向けているのを見ると、やはり寂しさと
嫉妬が入り混じったような、複雑な気持ちを抱いてしまうのである。
仲の良い友人が自分以外の者と仲良くしているのを見た時というのが、心情的には近いかもしれない。

それが、自分と因縁のある相手ならば尚更である。

そう、雄一郎と正刻には因縁……少なくとも雄一郎はそう思っている……があった。
忘れもしない、幼き日の出来事。それまで挫折を知らなかった自分に、初めてそれを味わわせた男。

自分に、楔を打ち込んだ男。

その出来事自体は美沙姫も知っている。だが、雄一郎がその事にここまでの拘りを持っていることは、彼女にも分からなかった。
笑顔で話を続ける彼女に相槌を打ちながら、雄一郎は頭の隅で考える。

彼は……正刻は、公式の大会に全く出てこない。
理由は美沙姫から聞いている。家庭の事情の所為だということだが、頭では分かっていても、長年抱いた想いは解消されない。
(いつになったら彼と闘えるのだろう……。)
知らず知らず、拳に力を込めてしまう。彼がここまでの実力を得たのは天賦の才も持ち合わせていたからであるが、それよりも、正刻と再び
闘う日に向けて鍛えに鍛えたことが大きかった。

(早く闘いたい……彼と……!)
中学からずっと、雄一郎は公式戦では無敗であった。もちろん苦戦したことはあるし、強敵も多い。
だがそれでも。幼い時の、あの闘い。正刻と闘った、あの試合の時のような気持ちになれた事は一度も無い。
初めて遭遇した、同世代で自分と互角以上に渡り合う相手。
子供離れした闘志とプレッシャー。
そんな相手を前にした時、幼いながらも自分は確かに闘う喜びに震えていた。
自分の力と技を全てぶつけられる相手。そして、それらを全て受け止め、更に自分の力を限界以上に引き出してくれる相手。
雄一郎にとって正刻とは、そのような存在……まさしく『好敵手』であったのだ。


147:絆と想い 外伝2
07/09/05 00:50:26 VBKtDBD0
「雄一郎君?」
美沙姫に名を呼ばれ、雄一郎ははっと気がついた。どうやら考え込んでしまっていたらしい。
「あ、ごめんね美沙姫さん。ちょっと考え込んじゃって……。」
「いえ、別に大丈夫ですよ? それより貴方がそんなに考え込むなんて。また正刻様と闘いたいと考えていたのでしょう? 違います?」
美沙姫にそう言われた雄一郎は、苦笑しながら頭をかいた。
「参ったね、お見通しか。……そう、彼といつになったら闘えるのかなってね、そんな事を考えてたんだ。いけないよね、本当ならIHの
 事を考えなくちゃいけないのに。」

それに、と雄一郎は続けた。
「彼が、今でも僕と互角以上に闘えるレベルでいるかは……疑問だしね。」
雄一郎は、正刻が兵馬の道場で修業を積んでいることは知っていた。
だが、それで果たして今の自分に匹敵するような腕を正刻が持っているかは、正直分からなかった。
正刻の才能は認めている。だが、十分に修行が出来るような環境だとは言いがたい。
それが唯一、雄一郎が不安に思っていることだった。

しかし。

そう言う雄一郎を見ながら、美沙姫は微笑んで言った。
「大丈夫ですよ。正刻様は貴方の期待を裏切りません。そして貴方はきっと、再び正刻様と相見えることになります。私が彼と再び出逢う
 ことになるように。必ず。」
はっきりと言い切る美沙姫を、驚いた顔で見返しながら雄一郎は言った。
「ずいぶんはっきりと言い切るんだね……。何か根拠はあるの?」
そう問う雄一郎に、美沙姫は少し胸を張りながら答えた。
「根拠なんてありません。強いていうなら、女のカンです。」

その答えを聞いて思わず脱力する雄一郎に、にこやかな笑みを浮かべながら美沙姫は言った。
「馬鹿にしたものじゃありませんよ? 結構当たるんですから。それに、そういう機会はふとした拍子に訪れることもありますから。そう
 考えていた方が、その瞬間が訪れた時に適切な行動をとることが出来ますからね。」

にこやかにそう言う美沙姫を見ていた雄一郎はぽかんとしていたが、やがて笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。
「そうだね。それに何より僕にはやるべきこともあるしね。まずはそちらを優先させないと、ね。」
「そうです。団体戦は五連覇、個人戦は貴方の二連覇がかかってますからね。頑張って下さい。」
「そっちこそ。今年こそは個人も団体もIH制覇出来るように、ね。」

そうして二人はひとしきり笑いあった後、それぞれの家路へとついた。

高村正刻と京極雄一郎、この二人が激突する時は、意外と早く訪れることになるのだが、それはもう少し先のお話。



148:名無しさん@ピンキー
07/09/05 00:53:45 VBKtDBD0
以上ですー。

温泉編はエロシーンを加えたら膨大な量になってしまったので、現在再構成中ですー。

それと、男の新キャラを出しましたが、NTRはありません。

キャラや伏線ばっかり増えてしまって反省してます。もう少し早いペースで投下出来る様頑張りますー。ではー。

149:名無しさん@ピンキー
07/09/05 01:49:02 RcOktIYv
なんだ、平日にもかかわらずこの恐るべき職人コンボは…!

>>140
遂に関係を持ってしまった二人!まだ続きますか。楽しみで仕方がない。GJ!

>>148
温泉編wktk!誰のエロシーンなんだ誰の!まさか全員と…楽しみだ。待てるかな俺w

150:名無しさん@ピンキー
07/09/05 03:10:56 fAYkHM+1
平日なのに幸せすぎる・・・
>>140ついにですな・・・・
GJです!

>>148GJ!温泉編も待ってます。

151:名無しさん@ピンキー
07/09/07 00:40:11 jAMc3nIg
投下させていただきます
関西弁が苦手な方はスルーしてください


 なぁなぁ、ひろちゃん。

 なに?

 ゆきとけっこんして。

 はぁ?なんで?

 ゆきなぁ、ひろちゃんのこと、すきやねん。

 しらんわ。そんなもん。ゆきみたいなんタイプちゃうし。

 ひろちゃん、ひどい…。

 どーしてもっていうんやったら、ほれさせてみて。そしたら、けっこんしたるわ。

 ほんま?!やくそくやで!わすれたらあかんで!

152:ひろ ゆき
07/09/07 00:40:55 jAMc3nIg
「俊之ぃ!宿題教えてー!」
 広子はノックもせずに俊之の部屋に飛び込んだ。
 俊之は勉強机の椅子に座り、顔だけをこちらに向けて広子を迎え入れる。
「お前の場合は教えてじゃなくて、代わりにやれやろ」
 俊之は椅子をくるりと回し、体をこちら側に向けた。
「たまには自分でやったら?」
「自分でできるんやったら、とっくにやってるわ。問題が難しすぎんねん」
「それはお前が勉強しぃひんからやん。お前、テストとかどうすんの?」
 広子はそれにへらりと笑って答える。
「まぁ、そん時はそん時。どうにかなると思う」
 宿題のプリントをピラピラさせながらローテーブルに置くと、広子はテレビの前へと移動し、いそいそとゲーム機を起動させる。
「おい。ちょい待て、コラ。人に宿題やらせといて自分はゲームか」
「だって、俊之が宿題やってる間、あたし暇やん」
「お前には感謝の気持ちというものがないんか」
「じゃあ、お礼にあたしの使用済みパンt…」
「いらんわ!」
 俊之は広子の発言を遮るように広子の顔面にクッションを投げつけた。
「乙女に向かって何すんねん!」
 広子はクッションを投げ返したが、俊之はそれをいとも容易く両手で受け止める。

153:ひろ ゆき
07/09/07 00:41:34 jAMc3nIg
「ほー。乙女ねぇー」
「なんか文句あるん!?」
「別にー」
 可愛くないと広子は思った。昔はあんなに可愛かったのに。
 広子と俊之は所謂お隣さんだ。物心ついた時にはもうすでにいつも一緒にいた。
 俊之の家が共働きだったため、彼は毎日のように広子の家に預けられていた。
 そこで、俊之は広子と兄弟のように遊んだり、広子の母によって、広子のために買われたが広子が着なかったフリフリの服を着せられたりしながら過ごしていた。
 あの頃の俊之は本当に可愛かった。見た目も勿論可愛かったが、何より性格も可愛かった。
 今のように広子を馬鹿にする態度は取らなかったし、それどころか、ひろちゃん、ひろちゃんといつも後ろに付いてくる従順な犬、否、刷り込みされたヒヨコのようであった。そして、ひろちゃんすきーととろけそうな笑顔で言ってくるのだ。
 しくったなぁと広子は思う。あの頃の広子はミステリアスな色気漂う紫レンジャーが好きだったのだ。まさか、自分が俊之に惚れるとは思ってもみなかったし、ましてや、俊之が自分に対してこんな態度をとるようになるとは夢にも見なかった。
 あの頃に手込めにしていればと何度後悔したことか。

154:ひろ ゆき
07/09/07 00:42:50 jAMc3nIg
 今や俊之は広子を追いかけてくるどころか、追い越してしまっている。
 身長は広子よりもかなり高いし、力も随分強くなった。勉強もよくでき、高校も公立の進学校に通っている。ちなみに広子は家から一番近い中の中の高校だ。
 成長に伴い、好みも変わったようで、今の俊之は、広子とは正反対の純情可憐な女の子がタイプらしい。俊之は隠しているつもりなのかもしれないが、純情可憐を売りにしているアイドルの写真集がこの部屋にあることを広子は知っている。
 ゲームをしながら、俊之をそっと盗み見る。
 今のところ、俊之には彼女が居ないらしいが、それも時間の問題だろう。
 中学は二人とも同じところに通っていたが、俊之はもてていた。元々、中性的で整った顔をしており、勉強もでき、性格もそんなに悪くない。バレンタインでは、毎年たくさんのチョコを貰っていた。まぁ、そのチョコは全て広子の胃袋行きへとなったのだが。
 俊之はなぜか中学では誰とも付き合わなかった。しかし、高校ではそうもいかないだろう。きっと、俊之が通っている高校には、俊之好みの純情可憐ちゃんがうじゃうじゃいるはずだ。
「うしっ!終わったぁ!」
 俊之が手を上に挙げ、ぐぐっと伸びをした。

155:ひろ ゆき
07/09/07 00:43:49 jAMc3nIg
 シャツの裾が持ち上がり、脇腹がチラリと覗く。女とは違う堅そうな肉。
 広子は一瞬目をそらしかけたが、しっかりとそれを目に焼き付けた。
「あー。疲れたー」
 俊之は首をコキコキと鳴らし、肩を叩いている。
「マッサージしたろか?」
 広子はごく普通に提案したが、俊之は顔をしかめた。
「ほんまに?お前が言うとなんか裏がありそうで怖い」
「そんなんないない。ただの感謝の気持ちやん」
 そう。何もないに決まっている。俊之に触ってみたいだなんて不埒な気持ちは全くない。
 こちらに背中を向ける俊之に近づく。後ろで膝立ちになると肩へと手を伸ばした。
「あー。堅いなぁ」
「やろ?めっちゃこってんねん。誰かさんの宿題して。もっと労って」
 その言い方が非常にムカついたので、親指に力を込め、思いっきり肩を押さえてやった。が、俊之は気持ちええわぁなどとほざいている。
 きっと、もう何をやっても広子が俊之より優位に立つことはないのだろう。広子が精一杯でも、俊之はそれを軽々と飛び越して行く。そして、広子が追いかける間もなく遠くへと一人で行ってしまうのだ。
「どしたん?」
 急に元気のなくなった広子を心配してか、俊之は声をかけてきた。
 その声が優しくて。
 広子は思わず、その広い背中へと抱き付いた。
 すると、俊之は広子が想像した以上に面白いほど反応した。
「ななななななな何してんねん!お前!」
 体は飛び上がり、硬直している。顔を見てみると耳まで赤くなっている。
 広子は思わず目を丸くして驚いた。俊之がこんなにも動揺しているところを見るなんて初めてかもしれない。
 まだ、自分にも主導権が握れることがわかり、広子はニヤニヤと笑いながら、広子を剥がそうと躍起になっている俊之の背中へとますます強くしがみついたのだった。

投下終わります

156:名無しさん@ピンキー
07/09/07 01:17:34 ztNR1jt2
GJ! 関西弁の幼馴染も良いね! 続きを待ってます!!

157:名無しさん@ピンキー
07/09/07 07:01:12 VEK8Y8Sa
Gじょ大お大尾大おおおおおおおおおおおおおおおぶ!!!!!!1
ラスト7行にやられた!

158:名無しさん@ピンキー
07/09/08 07:11:59 o9ZlKoi7
何という可愛い性格・・・
GJ!!

159: ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:10:49 vyd3BWKx
少し久しぶりになります。
前スレ>>461-463及び>>516-523

及び>>92-99の続きです。


以下投下↓

160:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:14:47 vyd3BWKx
第三章「難しい『ありがとう』」




 授業終了のチャイムが鳴り、ホームルームが終わると教室の空気が溶けた気がした。だけど、いつもと
違って授業が終わったばかりなのに教科書を開いて何やら確認しながら頷いている者もいれば、ノートを
挟んで何やら話し合ってる人もいる。
 あたしは憂鬱な気持ちでその光景を眺めていた。窓の外に見える青い空と太陽が恨めしい。季節は七月の
初旬。そしてあたしは中学生。となると、そこから導き出される結論は―
「勇希、おつかれさん……と、なんや、目死んでるで」
「静は、元気そうね……」
 下園さんと三ヶ月前には呼んでいたのにすっかり仲良くなったものね、とあたしは思った。ただ、その兵庫
生まれ宝塚育ちの神戸仕込で仕上げは大阪と自称する関西弁はちょっとアレだけど。
「そりゃ元気になるよ、明日から授業全部半ドンなんやで? 遊び倒せるやんか」
「明日から期末テストってこと解ってて言ってるの?」
「別にテストやから勉強し直すなんて面倒なことせんでいいやん、普段の実力きっちり出せれば普通にええ点
取れると思うけどなぁ」
「正論過ぎる正論どうも」

161: ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:17:03 vyd3BWKx
 静は頭が良かった。いや、要領が良いと言うべきかも。授業中寝る事は絶対にしなかったし、ノートは
きっちり書き、提出物は全て提出。言うことを信じるのであれば普段から予習復習もきっちりやってるらしい。
 ちなみにあたしは正反対。授業中は寝てるし、ノートはところどころ抜けてたり読めなかったり。提出物は
期限に遅れることも多く、予習復習などについては……まぁ、そうゆうわけで。
 テスト前なので当然部活は無い。もうじき防具を付けれるところまで来てるのに……うう。
「勇希ちゃん、終わったよ」
 掃除当番でさっきまで細かく動き回っていた和美が鞄を手に言った。
「じゃ、帰りましょうか。ん?」
 変なものに気付いて、手を伸ばす。
「和美。頭にほこりの塊が乗っかってるわよ」
「え、どこ?」
「取ってあげるわよ、ほら」
 あたしは和美に一歩近づくと頭をほこりを払い除けてやった。
「ありがと、勇希ちゃん」
「全く、どこで付けて来たんだか」
「なぁ、あんたらホントに付き合ってないんか……?」
 そんなあたしの振る舞いを見て、静がもうこの三ヶ月で数え切れない程した問答を仕掛けてきた。あたしは
腰に手を当ててやれやれと苦笑した。全く、そんなんじゃないってのに。

162: ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:19:20 vyd3BWKx
「しつこいわねぇ、あたしと和美は幼馴染よ。幼馴染。全く。クラスの皆もなんでそんなねちっこく聞いて
来るんだか」
 この受け答えはもうそれこそ飽きるほどやった。剣道部でも普通に彼氏彼女の関係に間違えられかけた。
あたしはどこを見てそんなことを言ってるのかと聞き返してやりたかった。いや、実際聞き返してみた。
すると「バカップルぽく見えるから」とか返された。もう意味が解らない。
 あたしたちの間では普通であることをちょっと違うんじゃないか、と言われても、ね。
「なんでっても言われても、うーん……なんちゅーか、その……全体的に、近い」
「近いって?」
「物理的な距離とか、心理的な距離とか?」
「言ってる意味が全然わかんない」
「そう見えるんやって。実際一週間の内に三度は島本くんの手作り弁当食べてる人が言うても説得力ないで」
 はぁ、と溜息を付いた。今日はこんなことをしてる暇は無いのだ。
「はいはい、付き合ってないから。この話はお終い。和美、行きましょ」
「なぁなぁ、島本くん。本当は付き合ってるとかじゃないん? 実は付き合ってるけど言うのが恥ずかしい
から隠してましたー、って言う展開ちゃうの?」
「え、えっと……」
 話の矛先が振られると思ってなかったのか、和美は戸惑いの声を出した後、あたしの顔をちらりと横目で見て、
「勇希ちゃんの言うとおり、なんだけど」
 結局、あたしと和美が退散するまで静は「納得いかんなぁ」と呟き続けていた。

163:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:21:24 vyd3BWKx
「全く、参ったわね」
 帰り道、あたしは肩を落としながらひとりごちた。
「テスト?」
「うん、そー」
 そこで、よくカップルと間違われること?と和美が言わないところは阿吽の呼吸だ。
「初めてのテストでああだったから自信がないわ……」
 ちなみに初めてのテストの結果は家族会議が開かれるほどの出来だった。うん、あの時の母さん……
すっごく怖かったなぁ。床に正座させられたし。
「対策とかは?」
「ヤマ貼って一夜漬けして分の悪い賭けを一点張りってとこじゃない」
「ちなみに、勝ち目は?」
 その問いにあたしは答えない。わかりきっているからだ。
 しばし無言で歩いた後、和美が言った。
「勉強……教えようか?」
「あー、うん、それは、頼もうかなー、と思ってたんだけど」迷惑でしょ?という言葉を呑み込む。個人的に
足手まといになるのは大キライだ。和美なら、なおさら。
「教えるのって、教える側にも勉強になるんだよ」
 和美があたしの言葉を遮って話した。
「教える内容のことがきちんと理解できてないと教えることなんてできないから、復習には最適!……って
下園さんが言ってた」

164:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:23:34 vyd3BWKx
「静が?」
「どーせ勇希のことやからテスト対策何もしてへんやろ、島本くん助けたりやー。愛の共同作業は千里の
道も一歩からやでー、とも言ってたけど」
「静~……」
「あはは。で、どうしようか? 一緒にするなら夕食後に行くけど」
「う、うう……」
 願ってもないこと!と飛びつくのは簡単だけど、簡単だけど……迷惑は。でも、なぁ。また真っ赤な点が
付いたら部活禁止だってありそうだし。母さんにいらない心配かけるのも嫌、だし……やっぱり……
「じゃあ、任せて……良い?」
「うん、任された」
 和美があたしの肩ぐらいにある顔を笑顔にして嬉しそうに頷いた。
「なんでそんなに嬉しそうなの? 面倒を抱え込んだー、みたいな顔してもおかしくないのに」
思った事をそのまま聞いてみる。すると、和美は後ろに短く縛った髪の毛を犬の尻尾のようにぴっこり揺らして、
「なんでだろうね」
 と笑って答えた。
 そのいつも通りの笑顔を見てあたしもなんだかおかしくなってふふ、と笑ってしまった。
 和美に迷惑をかけている、という少し後ろめたい気持ちがもう無くなっていることに気付いたのはあたしが家に
帰ってからのことだった。
 もしかして、あたし手玉に取られてる……?

165:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:25:44 vyd3BWKx
 夕飯(レトルトのカレー)を食べて、十五分くらいして、休んでいると予定通り和美が現れた。会場は
あたしの家。和美の家を使うと(とゆうか、和美の部屋にいると)和美のお母さんとお父さん―おばさん
おじさんが何やかんやと理由を付けて部屋を覗きにこようとするからだ。理由は知らない。聞いてみても
意味深に笑うだけで答えてくれないし……ま、そんなわけで最近は何かあったら邪魔が入りにくいあたしの
家を使うことが多い。
「勇希ちゃん、おばさんはまた?」
「遅くなるって。今日中には帰って来ないかも」
「最近、また忙しいみたいだね」
「しょうがないわよ……と、それじゃお願いします」
「うん」
 こうして勉強会が始まった。どこがわからないのかわからないあたしに対してもう全てを教えるのは時間的に
無理なので試験の範囲内を要点だけ踏んで教えて貰う。あ、今の歴史、あたしが思ってた範囲と全然違うとこ
やってる……マズかったー!
 そのまま休憩を挟みつつ三時間ほど。一人だったらこんな風に出来なくて今頃、後は野となれ山となれ気分で
寝てるだろうな、と思いつつ集中。気が付けば、もう時計は十時を指していた。
 この辺にしておこうか、という和美の言葉でお開き。その後、あたしがそこまでしなくても、と言ってるのに、
折角だから、と言いつつ夜食まで作ってくれた。内容は和美が持って来た夕食で余ったご飯を使った、中身が
入ってない塩だけのおにぎりが二個という素朴なものだけど、何故か驚くほど美味しかった。

166:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:28:37 vyd3BWKx
 あたしがおいしい、と言うと和美はいつものように嬉しそうに笑って、いつものように、
「ありがとう」
と言った。
 あたしはその言葉が頭から離れなかった。和美が帰って、お風呂に入りながらもずっとその事を考えていた。
 お礼、言わないと。
 ありがとうと言わなきゃいけないのはあたしの方だ。なんで言いそびれてるんだあたし。『あたしも今日は
ありがとう』って言えば済む話だったのに。
 鼻の下くらいまで湯に沈めて思う。特に、最近は。
 急いでお風呂を出て、髪を乾かすのもそこそこに自分の部屋に駆け込む。窓を開けた。目の前には和美の
部屋の窓がある。電気は点いていた。こういう時のために部屋に常備してある棒で窓を軽く叩いた。すぐに窓が
開いた。
「どうしたの?」
 和美もお風呂に入った後なのか、パジャマ姿だ。普段括っている髪も括っておらず、いつもとちょっと違った
印象に見える。
「あ、うん、ちょっと、ね」
 まずい、なんか、ちょっと言うだけなのに、改めて言おうとすると……すごい照れくさい。ええい、ガマンしろ
あたし。ここで言わないのもよっぽどどうかだ。
「和美、その……ありがとね、最近色々面倒見てくれて」
「え」
「頻繁に朝ごはんとかお弁当とか作ってくれるし、今日みたいに勉強とかもそうだし……ちょっと、いや、えーっと、
かなり、感謝、してるから。そ、それだけだから! おやすみ!」

167:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:31:22 vyd3BWKx
「ゆ、勇希ちゃん!?」
 和美が何か言おうとしたのを聞かずに窓をカーテンを閉める。心臓がやけにうるさいのはさっき階段を
急いで駆け上がったからよね。うん、きっとそのはず。
 明日朝に顔を合わせたらどんな顔をしようか、と思って激しく後悔して、どうとでもなれと開き直った後、
とっとと済ませるべきことを済ませてあたしはベッドに入った。ちょっとだけカーテンをめくって和美の部屋の
様子を伺う。もう電気は消えていた。何となく安堵の溜息を付いて、部屋の電気を消した。
 そういえば、と目を瞑りながら思った。
 そういえば、昔はあたしが和美の面倒を見てやったことが多かった……はず。いつから、こんなカタチに
なったんだっけ?
 最近じゃない。
 最近になって急に和美がこんな風にしてたらあたしは気味が悪がってたと思う。でも、そんな気持ちを
感じた記憶は無い。だとすると。
 ずっと昔……からこうだったっけ?
 昔? どのくらい昔?
 記憶を手繰る。今。一年前。二年前。三年前。四年前―あ、そうか。なんで気付かなかったんだろう。
 あんなにもくっきりとあの時から変わってたのに。ひどい時期だったからかな。それともあたしが鈍感な
だけ、か……も。
 それきり意識は闇に吸い込まれた。

 翌朝、少しばかりきまずい思いをした後でさっくりと元に戻ってテストを受けた。結果を述べるなら、赤くは
なかったと言っておこう。

168:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/11 14:34:05 vyd3BWKx
以上、投下終了です。

相も変わらず話に脈絡が無くて済みません…
何とか次も早く完成させようと思っています。できればお付き合いください。

169:名無しさん@ピンキー
07/09/11 14:36:03 L85KJm3F
リアルタイムGJ!!!!!!!!
ニヤニヤがとまらないんだぜ?

170:名無しさん@ピンキー
07/09/11 15:24:18 GfknvrLX
勇希かわいすぎだろ…それ以上に和美が(ry
GJ!この微妙に拙い関係が中学生っぽくていいですね。

171:名無しさん@ピンキー
07/09/15 09:43:36 dQdcu2HV
GJ!!

とりまもう外では読まないwwwww

172: ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:21:49 nc6El9x0
ちょっと連投気味になってしまいますが、失礼します。

前スレ>>461-463>>516-523
及び>>92-99>>160-167の続きです。

以下投下↓



173:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:23:51 nc6El9x0
第四章「夏休み、『一年目』」




「あー、やっと、終わった……」
 九月二日、日曜日。夏休み最後の日。だからこそ、あたしは朝から家に引きこもって自室で夏休みの
清算をしていた。机の脇には山積みになった完了済み夏休みの宿題。もちろん、解答を写して、ところ
どころわざと間違えを作ってあるものだ。
「あとは……これだけね」
 『夏休みの日記』と書いてある大学ノートを取り出す。なんでこんな面倒な宿題出すかなぁ、うちのクラス
だけ。まぁ、ちょっと楽しかったからいいけど。
 何とはなしに日記のページを繰る。あ、この日はわくわくしたのよね。

 七月二十四日 火曜日 天候:晴れ
 今日は剣道部の練習で初めて防具を付けた。前の日に秋水先生にその旨を言われていたので、ドキドキした。
実際付けてみてかなり動きにくいけど、ようやく剣道が始まったって言う気がする。島本くんを見ると、防具に
着られているという感じで皆の笑いを誘っていた。

174:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:25:58 nc6El9x0
 解ってはいるけど、和美のことを島本くんって言うの気持ち悪い……提出用の日記だから仕方がないん
だけど、もうちょっと……ねぇ。
 ペラペラとページを捲る。ずーっと剣道部のことが書いてある。他の事する暇なんて無かったし……八月の
初旬に四日程度、剣道部の合宿に行ったことくらいかな?

八月一日 水曜日 天候:晴れ
 今日から剣道部の合宿。……ものすごくきつい。島本くんに至ってはバテて夕食をまともに食べていなかった。
他の一年生も食欲旺盛と言う感じではなかった。明日が不安だ……

八月二日 木曜日 天候:曇りのち晴れ
 午前中、何があるのかと怯えていたら、秋水先生の提案で今日は泳ぐぞ!とのこと。合宿所から海は近い。
全員生き返ったようにはしゃいで泳いだ後、秋水先生が嬉しそうに言った。
『じゃ、練習と行こうか』
全員はしゃいで泳いだので疲労が既に溜まっていた。……ひどいめにあった。
島本くんは全てが終わった時、声も出せないくらい疲れていたが、大丈夫だろうか。

あとの二日は―ああ、似たような内容を書いてある。よく日記書く余裕があったな、あたし。
で、帰ってきて、一日休養、と。何したっけ。

175:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:28:30 nc6El9x0
八月五日 日曜日 天候:晴れのち夕立
 夕飯の買い物に行こうと、午後三時くらいに家を出たら島本くんと会った。丁度島本くんも夕飯の買い物に
行くところだったらしい。折角だから一緒に行こう、と誘うと今、島本くんに『今日は一緒に晩御飯食べない?』
と誘い返される。悪い気がして断ろうと思ったけど、やっぱりたまには良いかな?と思い直して有難く誘いを受ける。
 ところが、買い物をした帰りに運悪く夕立に降られて、二人荷物を抱えながら走って帰る羽目になった。止むまで
待った方が良かったかな。
 島本くんの家族とも一緒に食べた晩御飯(ハンバーグ)はとても美味しかった。

 そういえば、着替えてくるから、またねって言って一旦別れた時、和美の顔が赤かったのはなんでだろう。
夕焼けの光が差してたのを見間違えただけかな。
 それでまたずーっと練習。八月十五日は父さんに会いに行ったから休み、また練習。そして最後の最後、
九月一日と九月二日は休み。これは夏休みの清算―宿題とか片付けとけよ、っていう秋水先生の意思
なんだろうな、宿題忘れが後びいたせいで練習に影響を出させることは許さん、っていう意味の。
 それにしても、と日記を一通り読んであたしは思った。
 何かやり忘れてることがあるような……? ま、いいか。
 あとは今日の分の日記を書いたら宿題は完了! うん、我ながらよくやった。和美と一緒に宿題を出来たのも
大きかったし。さて、今日の夕飯どうしようか―
その時、チャイムが鳴って玄関の鍵が開く音がした。和美?
「勇希ちゃん、いる?」

176:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:31:12 nc6El9x0
「いるわよー」
 扉の隙間からひょっこり和美が顔を出した。
「どうしたの、こんな時間に」
 問いかけに和美はにっこりと笑って答えた。
「お祭り、行かない?」
「お祭り? あったっけ?」
「うん、花火大会」
 花火大会かー……そっか、なんかやり忘れてると思ったらまだ今年はそういうイベントに顔出してなかったからか。
「じゃ行こう。待ってて、すぐ準備してくる」
 家の奥にパタパタと走りながら気持ちがうきうきするのは止められなかった。祭りや花火と聞いて盛り上がるのは
人なら仕方が無い事だ。
 流石に浴衣は用意できなかった。どこかにあるはずなんだけど……時間も無いし、仕方無いか。今度母さんに
聞いておこう。ちょっとのお金を持ってすぐに玄関に戻る。お待たせ、と言いながらビーチサンダルを履いて、出て
鍵をかける。夕陽で赤く染まった道を二人で並んで歩き出す。
「いよいよ明日から学校だねー」
「そうねー。あーあ、冬休みが今から待ち遠しいわ」
 なんで秋休みって無いのかしら。他の季節は休暇が全部あるのに。不公平じゃない?
 和美は勇希ちゃんらしいな、と言うように笑った。でもね、とあたしは言葉を続けた。
「クラスの友達と会うのは結構楽しみよ。色々と変わってそうだし。例えば、身長とかね」

177:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:33:23 nc6El9x0
「勇希ちゃん、なんで僕を見ながら身長って言うのかな……」
「中々伸びないわねぇ、って言う意味だけど?」
 あたしよりひとまわり以上小さい和美の頭をぽんぽん、と叩く。
「もう、ひどいなぁ。今にぐーんと伸びて、勇希ちゃんを追い抜くかもしれないじゃない」
「和美がぁ?」
 後ろで手を組みながら、ちょっと前かがみになって和美の全身を眺める。
「へー、和美がねぇ~そうなると良いわねぇ」
「勇希ちゃん!」
「冗談よ、冗談!」
 なんてふざけながら歩く。和美があたしより大きくなるなんて想像できないなぁ、とも思いながら。
 二人で話しながら歩くと会場まであっという間だった。ところどころに浴衣を着ている人がいて、会場に近づいて
いくにつれその割合が増していく。どこか浮ついた空気も辺りに充満してくる。
 夜店があるような位置まで行くと、夕陽が遠くの山の稜線に沈んで闇が辺りに撒き散らされた。でも、花火が
上がるまだ時間がある。
「時間あるし、夜店見てこうよ」
「いいわね、じゃその辺適当に」
 そう思って歩きだそうとしたけど、
「やっぱり人多いね……わっ」

178:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:35:32 nc6El9x0
 夏休み最後の日だけあって、人の密度が凄い。人の波に押し流されそうになる。和美が言ってる傍から
流されそうになっている。
「ほら」
 あたしは昔よくしてたみたいに和美の手をしっかりと握った。ちょっと違和感。何だか昔より和美の手の皮が
固くなった気がする。何故かびっくりした表情をしている和美の手を強く引っ張った
「これで大丈夫でしょ」
「う、うん」
 昔はいつも、こうだったなぁ。泣きべそかいてる和美の手を握って、あたしが守るように引っ張ってそれで―うん、
懐かしい。いつの間に、こんなことしなくなったんだろう?
 そうして手を繋いだまま夜店を冷かしたり、食べ物を買ったり、くじを引いてみたり。途中、テキ屋のおじさんに
何回もカップルと間違えられたり。違いますってば、もう。なんて言ったりしていると重く低い音と共に夜空に大輪の
色とりどりの花。そこいらに人が座り込んで空を見上げている場所に移動して、その仲間になる。
 どどーん、ひゅー、ぱららららら……どどん、ぱぱぱぱぱぱ……
 時々周囲の人の歓声が混じる。あたしも時々「おー」とか言ってみたり。
途中、ちらりと横を見ると、和美と目が合ってしまった。慌てたように目を逸らされる。
「和美、何?」
「い、いや、なんでもないよ」
「そんな言い方されたら気になるじゃない。何か顔にでも付いてた?」
「そうじゃなくて、その……」

179:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:38:23 nc6El9x0
 途中で和美の声が聞こえなくなるくらい小さくなっていく。変わってないなぁ。なんでその事が嬉しいんだろう、あたし。
 やがて、最後に一際大きい花火が上がったと思うと、それを最後にぷっつりと上がらなくなった。
『花火大会は終了しました。お帰りの際は混雑に気を付けて……』
 近くのスピーカーから大音量でそんな声が流れてくる。
「終わったわね」
「……うん」
 二人の間に何とも言えない空気が流れた。あの祭りが終わった時の何とも言えない寂しさだ。例えば、夢から
覚めたと言ったような。
 気が付けば、手はまだ繋いだままで、無言で帰路に着いた。でも気まずいわけじゃなくて。余韻を感じていたい、
って感じ
 そのまま家の前まで着いた。今までずっと暖かかった手から温もりがするりと抜け落ちていった。
「それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
 すると、和美は一度背を向けたかと思うと、はにかむように笑って言った。
「また来年」
「うん、また―来年」
 家に入る。パタン、と扉を閉めた。ほっと息を付いた。寂しいけど、心には暖かさがあった。
 日記、書かなきゃ。最後にはこう書こう。
 ―いい夏休みでした、って。

180: ◆QiN.9c1Bvg
07/09/15 10:40:39 nc6El9x0
投下終了です。

時間が滅茶苦茶飛んでます。何とかわかりやすいように書く方法考えてます…
またしても山がありませんがご容赦ください。

181:名無しさん@ピンキー
07/09/15 10:50:48 g+HNmS/i
おお続き来ましたか。
日記いい感じ。和美に身長UPフラグがwまあフラグてか大抵の男子は伸びるものですが。
GJ!一年目ということは二年目三年目もあるということですな。wkwktktk

182:名無しさん@ピンキー
07/09/15 11:26:56 jV54Pi6a
日記が極めて島本w

183:名無しさん@ピンキー
07/09/15 11:35:21 RTCSIRf0
夏休みの自由研究の題名は、『島本の観察』w

早く、大きくなぁれーって言いながら、水やら餌やらをどんどんやるの

184:名無しさん@ピンキー
07/09/15 11:36:19 Afd044Uo
これは提出された日記を見る先生もニヤニヤを禁じえないw

185:名無しさん@ピンキー
07/09/17 10:13:59 bfJe2L2T
age

186:名無しさん@ピンキー
07/09/17 22:45:40 yd0VkY/j
誰もいない予感

187:名無しさん@ピンキー
07/09/18 00:00:33 ALiLT3sB
いるぜ


188:名無しさん@ピンキー
07/09/20 03:09:18 aPhhcrfM
ヘ主

189:名無しさん@ピンキー
07/09/23 06:03:31 dbm6zqBe
age

190:名無しさん@ピンキー
07/09/26 14:47:47 r3CSvnEW
ほす

191:名無しさん@ピンキー
07/09/28 04:08:07 o1+Fww1B
保守

192:名無しさん@ピンキー
07/09/30 20:41:35 jY+W1Rdd
山井勝利オメ保守

193: ◆6Cwf9aWJsQ
07/10/01 00:00:36 etXuYekJ
投下

194:シロクロ 15話【1】
07/10/01 00:02:36 etXuYekJ
一年前のような冬に似合わない暖かな朝の陽射しが俺の部屋に差し込んでくる。
つーか昨日の大雨が嘘のような雲一つない晴天だよコンチクショウ。
が、今の俺にはそんなことはどうでも良かった。
「・・・なんで?」
気がつけば俺は、綾乃の胸を枕にして眠っていた。
それも前のボタンをはずし、ブラすらも着けずに素肌を半ばほど露わにした彼女の乳に顔を埋めて。
あまりに急展開すぎて言葉も出ない。
違うんです違うんです身に覚えはないんですああでもふにふにしてるしあったかくてやあらかいなあ
ってそんなよこしまなこと考えてる場合か。
とりあえず空気も汚れてないしお互い特に服装が乱れもしていないので何もしていないのは分かる。
だがこのままじゃ終わらんつーか今更朝チュンで終わってたまるかって何の話だ。
幸い口元に余裕があるのである程度呼吸は出来、
漫画にありがちな『女の子の胸に顔を埋めて窒息』というマヌケな事態に陥る心配はない。
が、ちょうど彼女の胸の谷間あたりにある俺の頭から、
彼女の細い腕と髪、そしてとてもたわわな乳房の低反発枕のような―もってないので想像だが―
確かな弾力と柔らかな感触が伝わってきて心地よい。
が、俺の視界は綾乃の乳房で殆どが埋まっており、
その上シャツの下の乳の先端が見えそうで見えないけど乳輪がチラリと見えてしまって落ち着かない。
・・・この下の方の俺が元気なのは朝だからだきっとそーだそーだといって俺その2。
とはいえどうしよう。そもそも昨日風呂を上がってからの記憶がないし。
今が朝なのは分かるけど寝るまでになにやってたかはド忘れしてしまった。
この状況をどうにかしたいのは山々だが、
身体を綾乃に抱きしめられている為下手に動くことすら出来ない。
ついでにいうと今の綾乃はあどけない寝顔を浮かべて無防備極まりなく、
いい夢でも見てるのか幸せそうに笑っておりとてつもなく可愛い。
けど流石に寝てる間に襲うのはマズいので今はこの乳の感触でガマンしよう。
・・・けど何でこんな状況になったんだっけ?
寒い冬の朝と対照的に暖かい綾乃の体温を直に感じながら、
俺は寝起きで回転の鈍い頭を必死に働かせて昨日の記憶を呼び起こす。
ええと確か――

195:シロクロ 15話【2】
07/10/01 00:03:56 S9/SAdBP
――雨音をBGMにした風呂場で肌を寄せ合う俺と綾乃。
揺れる胸。細い肢体。紅潮する頬。甘い嬌声。そして柔らかな肌。
それらが一気に脳裏に蘇り――

だあああああああああ違う違う違う違ーう!
桃色の記憶を蘇らせてしまった俺は―綾乃を起こさない範囲で―身悶えした。
違うんですあの時の俺は俺であって俺じゃないというかつい暴走というかリミッター解除してしまって
欲望全開でカゲキにガンガンいってしまったっていうか実はあの直後顔を洗うの忘れてたから
また風呂場に戻ったらガマン出来なくなってもう一戦やらかしたりしてしまってさらにぐったりした
けど今はそのことは置いておいて回想再会。

「大丈夫?」
「・・・微妙」
心配そうな表情で俺を覗き込む綾乃にどうにかそう答える。
現在、風呂から上がった俺は自室のベッドに身を沈めていた。
実際、俺の体力はある程度は回復したものの、
体中にたまった疲労感が重りのように身体にのしかかって指一本動かすことすら億劫にさせる。
でも俺の視線は常に綾乃をとらえていた。
なぜなら、今の綾乃が着ているものは大きめな黒のTシャツに青のジーンズといった
過去に俺が着ていた服装だからだ。
結局、洗濯物の洗浄は終わっておらず現在着られる物が限られていた為、
俺が自分の服を綾乃に貸しだそうとしたところ、
彼女自身が選び、着用したものがこの服装だったということだ。
当然、彼女にとってはサイズが合わずブカブカで襟元から時折胸の谷間がちらりと見え、
その上彼女の持ってきた下着が全滅したらしく、つまり現在の綾乃は下着無しなワケだから、
いつも以上に彼女の身体のライン―特に大きく育った胸や尻―が目立つ。
ただし、ズボンだけはサイズに無理がありすぎたので中学生の頃のものだが。
見慣れたはずの自分の服も着る人が変われば印象が変わる物だと目の前の人物を見つめながら思う。

196:シロクロ 15話【3】
07/10/01 00:05:08 S9/SAdBP
そう考えていると、綾乃の見慣れた黒髪が俺の顔に触れた。
いつも通り艶やかな黒い―カラスの濡れ羽色というんだろうか―長髪に付けた白いリボンが、
なんとなく久しぶりで懐かしい気がして安心する。
なお、着替えシーンは間近でバッチリ見せてもらいました。もちろん合意の上で。
風呂場でも彼女の全裸は見たり触ったりしたけど、
目の前で好きな子のストリップが行われているのに見ないわけにはいかない。
・・・なんだか最近エロくなってきた気がする。俺も綾乃も。
と、綾乃は俺が先ほどから向けていたエロい視線に気付いたらしく、
「そんなにじろじろ見られたら流石に恥ずかしいんだけど・・・」
そう言いながらシャツの襟元から覗く胸の谷間を両手を重ねて隠す。
「・・・バニーとかビキニとか着て裸まで見せあったのに何を今更」
「いやー、それとこれとは別というか・・・」
よく分からないこだわりがあるらしい。
水着と下着が別物みたいなものだろうか。
そう考えていると綾乃は自分の着ている服の裾をつまみ、
「似合う?」
俺は首を縦に振って彼女の問いに答える。
そして目を合わせ直すと、綾乃は目を輝かせながら俺を見つめ返し、
「ありがと♪」
上機嫌にそういうと、俺の頭の近くに腰掛け、問いかけてきた。
「膝枕してあげよっか?」
「ああ、頼む」

――そ、そういえばそんなこともあったようななかったような気が・・・
当時の記憶を振り返った俺は目を泳がせながら赤面した。
イージャン別に膝枕ぐらいしてもらったって彼女なんだしって誰に言ってんだ俺。
んで確かその後はただ飯喰って談笑してから夜遅くになって――

197:シロクロ 15話【4】
07/10/01 00:06:25 S9/SAdBP
「一緒に寝よっか?疲れたからエッチは抜きだけど」
唐突に綾乃が出した提案に即座に俺は首を縦に振った。

ぐああああああああああああああ!!
当時の自分の行動を思い出した俺は綾乃の胸に顔を埋めて紅潮した顔を隠そうとした。
だってしょうがないだろう据え膳は食わねば男の恥って言うしいや一緒に寝ただけだ食ってねえ
確かあの時は既に何度もイかせたりイかされたりで疲れてたんで、
本番は明日ってことにして今日は寝るということで話は丸く収まったはず・・・。
いや、確かあの後―

「啓介と一緒に寝るなんて、すっごく久しぶり」
「・・・なんかその言い方いやらしいな」
「そう考える啓介の方がいやらしいと思うけど」
その日の夜。
俺達は一緒のベッドで向かい合わせになって横たわっていた。
「せまいな・・・」
「しょうがないでしょ。シングルベッドなんだし」
綾乃のいう通り、このベッドは成人2人が同時に使うようなサイズではない。
まあそれはいい。綾乃の身体がピッタリくっついて役得だし。
それよりも問題は、
「枕だって1人用のを無理矢理2人で使ってるんだし・・・」
「いいじゃない。好きな人の顔を至近距離で見つめてられるんだし♪」
「そんなに逃げなくてもいいじゃない。私たち恋人なんだし」
「・・・そりゃそうなんだけどさ」
溜め息をついた後俺は綾乃の耳元に口を寄せ、言った。
「情けないけどさ、俺、この期に及んですっごいドキドキしてるんだ」
正直に告白したら、綾乃に笑われた。

198:シロクロ 15話【5】
07/10/01 00:07:45 S9/SAdBP
「わ、笑うなよっ!?」
「ご、ごめん」
そういうと綾乃は目元を拭う(笑ってると涙が出てきたらしい)。
「・・・そこまで笑わなくてもいいだろ、俺がヘタレだからって・・・」
「違うよ。間違ってるよ啓介」
「は?」
なぜか二回も否定の言葉を出した綾乃はマントを翻すように腕を振り上げ、布団をはねのけ、
「私だって、すごくドキドキしてるよ?」
突然、パジャマの前のボタンを外し始めた。
俺はそれを止めることも忘れて、その仕草―というかそれによって露わになっていく彼女の肌―を
食い入るように見てしまう。
そして全部のボタンを外し終わると、綾乃は俺の頭を抱え込み、自分の乳房の谷間に押しつけた。
89センチのEカップという大きさに見合うやわらかい感触が俺の顔いっぱいに伝わってくる。
が、それ故に呼吸するスペースがない。
「・・・むぐっ・・・」
何とか頭を動かして口元だけ外気に触れさせる。
そこで一息つくと綾乃は俺と目線をあわせて質問してきた。
「どう?」
「すごく柔らかくて暖かくて―」
「いやそーゆー感想じゃなくて」
綾乃はなぜか呆れたような声音でツッコミを入れるがそれも一瞬のことで、
「聞こえる?私の心臓の音」
そういわれて―忘れていたのは彼女の胸の柔らかさが原因じゃないはずだ。多分―耳を澄ませる。
トクントクン、と割と速いペースで鼓動が耳に響いてくる。
それも平常時には出るはずのない速さの物が。
「ん。聞こえた」
努めて平静を装って俺はそう答える。
だが内心では愕然としていた。
本当はこんなに緊張してたなんて。
何で一番近くにいるはずにいるはずの俺が気付いてあげれなかったんだろう。

199:シロクロ 15話【6】
07/10/01 00:08:31 S9/SAdBP
と、苦笑しながら綾乃は語り始める。
「私もね、すっごく緊張してるんだ。ただ隠してるだけで」
いや、苦笑というよりは自嘲の笑みだ。
「本当はさ、啓介にだけは嘘つきたくないんだけど・・・」
そういいながら綾乃は俺から目を背け、
「ここぞという時になったら、どうしても格好付けちゃって」
「別にいいと思うぞ」
俺の言葉が予想外だったのか綾乃は目を見開かせて俺の方に視線を戻した。
それをあえて気にせずに言葉を続ける。
「格好付けたいってことはさ、その人に自分を好きになってほしいからするんだと思う。
だから、恥ずかしがるようなことでもないよ」
そこまで言うと、綾乃の顔から陰りが消え、いつもの笑みを浮かべたものに戻っていた。
そして俺の額に軽く口づけて、
「ありがとう」
「おう」
いつも通りの簡単な会話。
だが、これだけでもお互いの気持ちは伝わる。
直接口に出していない部分も含めて。
――気付いてあげれなくてごめん。
――今の今まで黙っていてごめん。
・・・もしかしたら、俺達って結構似てるとこがあるのかもしれない。
言葉にすれば『にてる』の三文字で済むこと。
その些細なことがことが今はなんとなく嬉しい。
とか考えてると、急に眠くなってきた。
と、綾乃はそれを敏感に察知したらしく、
「このまま寝る?私の胸枕にしていいから」
「・・・悪い。そうさせてもらう・・・」
「うん・・・」
少し照れたような綾乃の声を耳にしながら俺は睡魔に身を任せ、そのまま深い眠りについた。

200:シロクロ 15話【7】
07/10/01 00:10:23 etXuYekJ
「思い出した・・・!」
今までの記憶がすべて蘇った俺は1人赤面し、その顔を隠すように綾乃の胸に顔を埋めた。
って何やっとるか俺。寝てるとはいえ愛しの彼女の身体に。
今更ながらそう思うが暖かくて柔らかい乳房の感触が心地よすぎて、
寒い日のコタツのように抜け出す意志を削いでいく。
「昔はぺったんこだったはずなんだがな・・・」
ここまでおおきくすくすくと成長するとは当時の俺には予想もつかなかった。
ああそういえばすっごく寝心地よかった気がする。
「今度またこうしてもらおうかな・・・」
「よろこんで♪」
突然、俺の頭上から聞き慣れた声が聞こえた。
ゆっくりとそちらに顔を向けると、予想通りの顔が俺に笑顔を向けていた。
「おはよっ♪」
「ああ、うん、おはよう―じゃなくて!」
とっさに返事してしまったが気を取り直して彼女―綾乃に尋ねる。
「・・・いつ頃から起きてました?」
「啓介が突然身悶えしだしたところあたりから」
・・・めっちゃ最初の方じゃん。
衝撃の事実に愕然としていると、突然綾乃に唇を奪われた。
ただ触れるだけで接触も一瞬だったが、俺を動揺させるには十分だった。
「い、いきなりキスするなよ!?」
「いつもしてるんだしこれぐらいいいじゃない。
寝顔にキスとかおはようのキスとか愛情表現としてのキスとかおやすみのキスとか悪戯なキスとか
ご褒美のキスとか仲直りのキスとか舌入れちゃうキスとかムード重視のキスとか何となくキスとか」
「ただ単にお前がしたいだけだろ!」
「うん」「開き直り!?」
「それはそうとさ」「・・・今度は何だよ」
いつものように俺のツッコミを軽く流すと綾乃は満面の笑みを浮かべながら言った。
「さっきから啓介、七面相しながら私の胸に顔押しつけたりしてたけど」
俺の動揺がさらに深刻になった。


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